説明

半導体ウェーハ用の吸着パッド

【課題】カーボンファイバーの端部が露出して半導体ウェーハを削ったり、短いカーボンファイバーが脱落してパーティクル化するのを抑制できる半導体ウェーハ用の吸着パッドを提供する。
【解決手段】円板1と、円板1の裏面に形成されたリング形の装着リブ2と、円板1の表面に形成された複数の突起と、円板1の中心部に穿孔された吸気孔4と、装着リブ2に対応するよう円板1の表面に凹み形成され、円板1の表面を内側領域6と外側領域7に区画するリング形の歪み抑制溝5と、内側領域6に穿孔された複数の取付孔9と、歪み抑制溝5を複数の溝に分割して補強する複数の分割補強リブ10とを備える半導体ウェーハ用の吸着パッドを体積抵抗率が1.0×10〜1.0×1013(Ω・cm)の熱可塑性樹脂コンパウンドにより射出成形してロボットのアームに装着する。そして、ロボットのバキューム装置の駆動に基づき、半導体ウェーハWを吸着保持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスの前工程で専用のロボットやアライナー等に取り付けられて半導体ウェーハを吸着保持する半導体ウェーハ用の吸着パッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス(ウェーハプロセスともいう)は、イオン注入等からなるドーピング、絶縁膜の形成、リソグラフィ、エッチング等からなる前工程と、バックグラインドやダイシング、ボンディング等からなる後工程とに分類され、前工程においては、半導体ウェーハの向きを調整するため、専用のロボットに高価な半導体ウェーハ用の吸着パッドが装着されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
この種の吸着パッドは、図示しないが、例えばポリエーテルエーテルケトン製の板体が切削加工されることにより平面円形を呈する断面略皿形に形成され、ロボットのバキューム装置に接続されており、このバキューム装置の駆動に基づき、半導体ウェーハの裏面に接触して着脱自在に吸着保持する(特許文献3、4参照)。
【0004】
ところで、半導体製造プロセスの前工程においては、数十〜数百nm程度のパーティクルの有無が製品の歩留まりを左右する大きな問題となる。この点に鑑み、従来の吸着パッドは、帯電防止機能を発揮する導電性のカーボンファイバーがランダムに練りこまれており、微粒子であるパーティクルを吸い寄せて半導体ウェーハに転写するのを抑制防止する。
【特許文献1】特開2004‐174686号公報
【特許文献2】特開2004‐153157号公報
【特許文献3】特開2003‐257909号公報
【特許文献4】特開2003‐145473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における半導体ウェーハ用の吸着パッドは、以上のようにカーボンファイバーが練りこまれているので、板体の切削加工の際、カーボンファイバーの端部が吸着パッドから露出して半導体ウェーハを削ったり、短いカーボンファイバーが脱落してパーティクルになるという問題がある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、カーボンファイバーの端部が露出して半導体ウェーハを削ったり、短いカーボンファイバーが脱落してパーティクルを発生させるのを抑制することのできる半導体ウェーハ用の吸着パッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、体積抵抗率が1.0×10〜1.0×1013(Ω・cm)の熱可塑性樹脂コンパウンドにより成形されて半導体ウェーハに着脱自在に接触するものであって、
板体と、この板体の表面に形成される複数の突起と、板体に穿孔される吸気孔とを含んでなることを特徴としている。
【0008】
なお、熱可塑性樹脂コンパウンドは帯電防止付与材を含み、この帯電防止付与材は、繊維径0.5〜150nm、繊維長0.01〜2000μmのカーボンナノチューブを含むものであることが好ましい。
また、熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂を、脂環式構造含有重合体とすることができる。
また、熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂を、ポリエーテルエーテルケトンあるいはポリブチレンテレフタレートとすることができる。
【0009】
また、板体の裏面周方向に形成されるエンドレスの装着リブと、板体の表面に形成される複数の突起と、板体の略中心部に穿孔される吸気孔と、装着リブに対応するよう板体の表面周方向に形成され、板体の表面を内側領域と外側領域とに区画するエンドレスの歪み抑制溝と、この歪み抑制溝に包囲された内側領域に穿孔される複数の取付孔とを含むことを特徴としても良い。
さらに、歪み抑制溝を複数の溝に分割して補強する複数の分割補強リブを備えても良い。
【0010】
ここで、特許請求の範囲における半導体ウェーハは、200mm、300mm、450mmタイプ、Siタイプ等を特に問うものではない。板体は、円形、楕円形、矩形、多角形を特に問うものではない。また、吸気孔は、単数でも良いが、複数を特に排除するものではない。
【0011】
本発明によれば、1.0×10〜1.0×1013(Ω・cm)(1E+0〜1E+13(Ω・cm))の体積抵抗率を有する熱可塑性樹脂コンパウンドにより半導体ウェーハ用の吸着パッドを成形するので、成形用の金型に熱可塑性樹脂コンパウンドの熱を奪わせ、吸着パッドの露出面にスキン層を形成することができる。したがって、スキン層の被覆保護作用により、カーボンファイバー等の端部が吸着パッドから露出して半導体ウェーハを削ったり、短いカーボンファイバー等が脱落してパーティクルになるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カーボンファイバーの端部が露出して半導体ウェーハに干渉したり、短いカーボンファイバーが脱落してパーティクル化するのを抑制することができるという効果がある。
また、熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂を、脂環式構造含有重合体、ポリエーテルエーテルケトン、あるいはポリブチレンテレフタレートとすれば、半導体ウェーハの接触部分との耐磨耗性を向上させ、アウトガスを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における半導体ウェーハ用の吸着パッドは、図1ないし図4に示すように、剛性を有する丸い円板1の裏面側に装着リブ2を、円板1の表面側に、複数の突起3、吸気孔4、歪み抑制溝5、複数の取付孔9、複数の分割補強リブ10をそれぞれ備え、熱可塑性樹脂コンパウンドにより射出成形されて図示しないロボットのアームに装着され、このロボットのバキューム装置の駆動に基づき、300mmタイプの半導体ウェーハWの裏面に接触して着脱自在に吸着保持するよう機能する。
【0014】
円板1は、体積抵抗率が1.0×10〜1.0×1013(Ω・cm)(=1E+0〜1E+13(Ω・cm))の熱可塑性樹脂コンパウンドにより半導体ウェーハWよりも小さく(例えば、直径6cm弱の大きさ)平坦な白色あるいは黒色に射出成形される。この円板1の熱可塑性樹脂コンパウンドは、所定の熱可塑性樹脂に帯電防止付与材が配合され、この帯電防止付与材には、繊維径0.5〜150nm、繊維長0.01〜2000μmのカーボンナノチューブが含有される。
【0015】
熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂は、脂環式構造含有重合体、難燃性のポリエーテルエーテルケトン、ガラス繊維強化プラスチックとして優れるポリブチレンテレフタレートのいずれかが成形材料として選択される。
【0016】
装着リブ2は、図2や図4に示すように、円板1の中心部である吸気孔4を中心として裏面外周部に平面リング形に突出形成されて下方に伸び、ロボットのアームに対する吸着パッドの装着を容易化するよう機能する。また、複数の突起3は、図1や図3に示すように、円板1の表面に間隔をおき配設されて上方に突出し、各突起3が小さく低い略半球形に形成されて半導体ウェーハWの裏面に接触する。また、吸気孔4は、円板1の中心部厚さ方向に丸く貫通して穿孔され、ロボットのバキューム装置にチューブ等を介して接続される。
【0017】
歪み抑制溝5は、図1ないし図3に示すように、装着リブ2の形成箇所に対応するよう円板1の中心部である吸気孔4を中心として表面周方向に平面リング形、断面略すり鉢形に形成され、円板1の表面内外方向を円形の内側領域6とリング形の外側領域7とに区画しており、外側領域7の周縁部が平面リング形の外側リブ8に周設される。
【0018】
複数の取付孔9は、円板1の吸気孔4を中心として歪み抑制溝5に包囲された内側領域6の周方向に配列され、各取付孔9が吸気孔4よりも拡径の断面略U字形に形成されるとともに、各取付孔9の底部には吸気孔4よりも拡径の貫通孔が穿孔されており、各取付孔9の底部を貫通した図示しない締結具がロボットのアームに螺着される。
【0019】
複数の分割補強リブ10は、図1や図3に示すように、歪み抑制溝5の内部に間隔をおいて一体形成され、歪み抑制溝5を複数の円弧状の溝11に分割して補強するよう機能する。各分割補強リブ10は、例えば台形の板に形成される。
【0020】
半導体ウェーハWは、例えば口径300mm(12インチ)の円板にスライスされ、表面に酸化膜が積層されており、前工程でイオン注入等からなるドーピング、絶縁膜の形成、リソグラフィ、エッチング等の加工が施される。
【0021】
上記において、半導体ウェーハWの裏面中央部に吸着パッドの円板表面における複数の突起3を接触させ、ロボットのバキューム装置を駆動すれば、半導体ウェーハWと吸着パッドとの間の空気が外部に排気され、この排気により半導体ウェーハWが吸着パッドに適切に吸着保持される(図2参照)。
【0022】
上記構成によれば、樹脂板を切削加工するのではなく、1.0×10〜1.0×1013(Ω・cm)の体積抵抗率を有する帯電防止性の熱可塑性樹脂コンパウンドにより半導体ウェーハW用の吸着パッドを射出成形するので、金型に熱可塑性樹脂コンパウンドの熱を奪わせ、吸着パッドの表面(露出面)に保護機能を発揮する薄いスキン層を形成することができる。したがって、このスキン層の被覆保護により、カーボンファイバーの端部が吸着パッドの円板1から露出して半導体ウェーハWを削ったり、短いカーボンファイバーが脱落してパーティクルになるのを有効に抑制防止することができる。
【0023】
また、半導体ウェーハW用の吸着パッドを射出成形により製造するので、吸着パッドの表面の粗れることがなく、安価かつ大量に製造することができる。また、熱可塑性樹脂コンパウンドが帯電防止機能を発揮するので、微粒子であるパーティクルを吸い寄せて半導体ウェーハWに転写するのを抑制防止することが可能になる。また、帯電防止付与材に、繊維径0.5〜150nm、繊維長0.01〜2000μmのカーボンナノチューブを含有すれば、パーティクルの発生を抑制防止することが可能になる。
【0024】
また、熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂を、脂環式構造含有重合体、耐摩耗性耐疲労性、耐薬品性に優れるポリエーテルエーテルケトン、あるいはポリブチレンテレフタレートのいずれかとするので、半導体ウェーハWの接触部分との耐磨耗性を著しく向上させ、アウトガスの発生を大幅に低減させることが可能になる。また、半導体ウェーハWに吸着パッドの円板表面を直接接触させるのではなく、半導体ウェーハWに円板表面における複数の突起3を点接触させるので、接触面積の減少を通じて半導体ウェーハWの損傷防止が大いに期待できる。
【0025】
さらに、装着リブ2と歪み抑制溝5との位置を対応させるので、射出成形の際の歪み抑制が大いに期待できる。さらにまた、歪み抑制溝5に複数の分割補強リブ10を内蔵して一体化するので、歪み抑制溝5の成形に伴う円板1の剛性低下を招くことが全くない。
【0026】
次に、図5は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、円板1の外側領域7における複数の突起3を規則的に配列し、この規則的に並んだ複数の突起3により歪み抑制溝5、複数の分割補強リブ10、及び複数の溝11を外側から囲むようにしている。
【0027】
複数の突起3は、吸気孔4を中心に大きさの異なる大小一対の円を描くよう外側領域7の内外方向に二重に配列される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、吸着パッドの形状の多様化を図ることができるのは明らかである。
【0028】
次に、図6は本発明の第3の実施形態を示すもので、この場合には、円板1の複数の突起3を、吸気孔4を中心とした大きさの異なる複数の円を描くよう配列するようにしている。
【0029】
複数の突起3は、吸気孔4を囲む小円、複数の取付孔9を囲む中円、歪み抑制溝5、複数の分割補強リブ10、及び複数の溝11を囲む大円を描くよう配列される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、吸着パッドの形状の多様化の他、突起3の形成数を削減することができるのは明らかである。
【0030】
次に、図7は本発明の第4の実施形態を示すもので、この場合には、円板1の内側領域6における複数の突起3を規則的に配列し、この規則的に並んだ複数の突起3により吸気孔4や複数の取付孔9を囲むようにし、外側領域7における複数の突起3を省略するようにしている。
【0031】
複数の突起3は、吸気孔4を囲む小円、歪み抑制溝5や複数の分割補強リブ10の内側に隣接しながら複数の取付孔9を囲む中円を描くよう配列される。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、吸着パッドの形状の多様化の他、突起3の形成数をさらに削減することができるのは明白である。
【0032】
次に、図8は本発明の第5の実施形態を示すもので、この場合には、円板1の内側領域6における複数の突起3を吸気孔4を中心に配列するとともに、この複数の突起3に、吸気孔4を囲む小円のみを描かせ、外側領域7における複数の突起3を省略するようにしている。その他の部分については、上記実施形態と同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、突起3の形成数を大幅に削減することができるのは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る半導体ウェーハ用の吸着パッドの実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【図2】本発明に係る半導体ウェーハ用の吸着パッドの実施形態における使用状態を模式的に示す断面説明図である。
【図3】本発明に係る半導体ウェーハ用の吸着パッドの実施形態を模式的に示す表面側の斜視説明図である。
【図4】本発明に係る半導体ウェーハ用の吸着パッドの実施形態を模式的に示す裏面側の斜視説明図である。
【図5】本発明に係る半導体ウェーハ用の吸着パッドの第2の実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【図6】本発明に係る半導体ウェーハ用の吸着パッドの第3の実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【図7】本発明に係る半導体ウェーハ用の吸着パッドの第4の実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【図8】本発明に係る半導体ウェーハ用の吸着パッドの第5の実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 円板(板体)
2 装着リブ
3 突起
4 吸気孔
5 歪み抑制溝
6 内側領域
7 外側領域
9 取付孔
10 分割補強リブ
11 溝
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗率が1.0×10〜1.0×1013(Ω・cm)の熱可塑性樹脂コンパウンドにより成形されて半導体ウェーハに着脱自在に接触する半導体ウェーハ用の吸着パッドであって、
板体と、この板体の表面に形成される複数の突起と、板体に穿孔される吸気孔とを含んでなることを特徴とする半導体ウェーハ用の吸着パッド。
【請求項2】
熱可塑性樹脂コンパウンドは帯電防止付与材を含み、この帯電防止付与材は、繊維径0.5〜150nm、繊維長0.01〜2000μmのカーボンナノチューブを含むものである請求項1記載の半導体ウェーハ用の吸着パッド。
【請求項3】
熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂を、脂環式構造含有重合体とした請求項1又は2記載の半導体ウェーハ用の吸着パッド。
【請求項4】
熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂を、ポリエーテルエーテルケトンあるいはポリブチレンテレフタレートとした請求項1、2、又は3記載の半導体ウェーハ用の吸着パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−324449(P2007−324449A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154475(P2006−154475)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】