説明

半導体ウェーハ用の固定治具

【課題】保護テープを省略してもバックグラインド時に繰り返して使用することができ、大量の廃棄物の発生を抑制できる半導体ウェーハ用の固定治具を提供する。
【解決手段】円錐形を呈した吸着体2に着脱自在に搭載される剛性の支持基板10と、支持基板10の表面周縁部に貼着されてバックグラインドされる半導体ウェーハWを着脱自在に保持する変形可能な保持層20と、支持基板10の中央部と保持層20の間に形成される区画空間11と、区画空間11に連通してその空気を外部に排気することにより保持層20を変形させる給排孔14とを備える。区画空間11に、保持層20を支持する突起群12を配列し、突起群12の中心部から支持基板10の表面周縁部にかけて徐々に傾斜させて凸型に形成し、支持基板10の裏面の中心部から周縁部にかけて徐々に傾斜させて凹型に形成し、支持基板10の裏面が吸着体2の表面に密接するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハのバックグラインド時に使用される半導体ウェーハ用の固定治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハWはバックグラインドにより薄くされるが、この半導体ウェーハWを薄くするバックグラインド装置1は、図2や図3に示すように、バックグラインド対象の半導体ウェーハWを搭載する凸型の吸着体2と、この吸着体2に搭載された半導体ウェーハWの裏面を回転して平滑に研磨する円板形の砥石7とを備えて構成されている。
【0003】
半導体ウェーハWは、例えば口径300mmの円板に形成されてその表面には回路パターンが形成され、この表面に図3に示す同形の保護テープ30が着脱自在に粘着されており、吸着体2の搭載面である表面に沿うよう撓んだ状態で吸着される。保護テープ30は、半導体ウェーハWの表面に粘着されるアクリル系の粘着層31と、この粘着層31に積層されたポリオレフィン等のフィルム基材層32とから多層構造に形成され、半導体ウェーハWの表面に粘着されて吸着体2の表面に接触し、バックグラインド後に紫外線の照射により半導体ウェーハWの表面から剥離される。
【0004】
吸着体2は、その表面の中心部から周縁部にかけて徐々に低くなるよう傾斜する円錐形に形成され、傾斜した状態で回転して半導体ウェーハWの裏面の全領域ではなく、裏面の中心部から周縁部までの領域を砥石7に研磨させ、研磨後の半導体ウェーハWの厚さを均一にするよう機能する(特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平6‐349799号公報
【特許文献2】特開平10‐60391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の半導体ウェーハWは、以上のようにバックグラインドされ、バックグラインド後の紫外線の照射により保護テープ30が剥離されるが、紫外線により保護テープ30の粘着力が著しく低下するので、一度使用した保護テープ30を繰り返して使用することができないという大きな問題がある。また、使用済みの保護テープ30は、用途がなく、廃棄せざるを得ないので、大量の廃棄物の発生を招くという問題もある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、保護テープを省略してもバックグラインド時に繰り返して使用することができ、大量の廃棄物の発生を抑制することのできる半導体ウェーハ用の固定治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、略円錐形の吸着体に搭載される剛性の支持基板と、この支持基板の表面周縁部に貼り着けられてバックグラインドされる半導体ウェーハを着脱自在に保持する変形可能な保持層と、支持基板の表面中央部と保持層との間に形成される区画空間と、支持基板に設けられ、区画空間に連通(気体が流れるように通し連なる)してその気体を外部に排気することにより保持層を変形させる給排孔とを備えたものであって、
区画空間に、保持層を支持する突起群を配列し、この突起群の略中心部から支持基板の表面周縁部にかけて徐々に傾斜させて凸型に形成し、支持基板の裏面の略中心部から周縁部にかけて徐々に傾斜させて凹型に形成し、支持基板の裏面が吸着体の搭載面に略密接するようにしたことを特徴としている。
【0008】
なお、保持層に保持された半導体ウェーハの露出面の略中心部から周縁部までの高さを20〜200μmとすることができる。
また、支持基板の裏面の略中心部から周縁部までの高さを20〜200μmとすることができる。
また、保持層の略中心部から周縁部までの高さを20〜200μmとすることができる。
【0009】
ここで、特許請求の範囲における半導体ウェーハは、200mm、300mm、450mmタイプ、Siタイプ等を特に問うものではなく、オリフラやノッチ等が形成されていても良いし、そうでなくても良い。気体は、空気でも良いし、窒素ガス等でも良い。また、給排孔は、単数複数を特に問うものではない。突起群の突起は、円柱形、角柱形、角錐台形等の形状に形成することができる。さらに、固定治具は、半導体ウェーハ用の基板収納容器の他、カセットに収納されるものでも良い。
【0010】
本発明によれば、半導体ウェーハをバックグラインドして薄くする場合には、固定治具の突起群に屈曲支持された保持層に半導体ウェーハを屈曲保持させてその回路パターンを保護し、この固定治具の凹んだ裏面を凸型の吸着体に搭載し、この吸着体を回転させ、砥石により半導体ウェーハの露出面を部分的に研磨すれば、半導体ウェーハをバックグラインドして薄くすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例え半導体ウェーハのバックグラインド用の保護テープを省略しても、バックグラインド時に固定治具を繰り返して使用することができ、しかも、大量の廃棄物の発生を抑制することができるという効果がある。
【0012】
また、保持層に保持された半導体ウェーハの露出面の略中心部から周縁部までの高さを20〜200μmとすれば、半導体ウェーハが保持層の略中心部に接触してから周縁部に接触することとなる。これにより、半導体ウェーハと保持層との間に気体が巻き込まれ、半導体ウェーハの保持が不安定化したり、バックグラインドされた半導体ウェーハの厚さが不均一になるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における半導体ウェーハ用の固定治具は、図1に示すように、バックグラインド装置1の吸着体2に着脱自在に搭載される支持基板10と、この支持基板10の表面周縁部に貼着されてバックグラインドされる半導体ウェーハWを着脱自在に保持する変形可能な保持層20とを備え、全体の形状が凸型(凸メニスカス型とも、三日月型ともいう)に形成される。
【0014】
バックグラインド装置1の吸着体2は、図1や図2に示すように、バックグラインド時に傾斜して回転する本体3と、この本体3の表面の嵌合穴4に嵌合されて固定治具を搭載する多孔質セラミックス製の円錐体5とを備え、全体として中心部が高く、周縁部が低い円錐形に形成される。
【0015】
吸着体2は、その表面の中心部から周縁部までが20〜200μm程度の高さに形成される。また、本体3は、例えばSUS等の材料を使用して断面略皿形に形成され、中心部には、円錐体5に連通する排気路6が厚さ方向に形成されており、この排気路6を用いた排気により円錐体5に固定治具が真空吸着される(図1や図3の矢印参照)。
【0016】
支持基板10と保持層20とは、基本的には共に半導体ウェーハWと同径の平面円形に形成される。支持基板10は、基本的には所定の材料を使用して剛性の薄板に形成され、熱変形温度が130〜255℃以上、あるいは255℃以上に設定される。
【0017】
支持基板10の所定の材料としては、支持基板10の熱変形温度が130〜255℃以上に設定される場合には、PES、PAI、PET、PBT、PEN、PEI、PEEK、PPS、ポリアリレート等が使用される。また、支持基板10の熱変形温度が255℃以上に設定される場合には、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、鉄、これらを含む合金、繊維強化エポキシ樹脂、繊維強化BTレジン、ガラス、シリコンウェーハ、セラミックス等が用いられる。
【0018】
支持基板10は、表面の大部分である中央部が平面円形に浅く凹み形成され、表面の中央部が低く、残りのエンドレスの周縁部が相対的に高く形成されており、凹んだ中央部と保持層20の裏面との間に、空気の流通する区画区間11が形成される。支持基板10の表面中央部からは保持層20に被覆される突起群12が上方に突出して区画空間11に配列され、支持基板10の中央部には、区画空間11に連通する給排孔14が穿孔されており、この給排孔14が図示しないバキューム装置にチューブ等を介し着脱自在に接続される。
【0019】
突起群12の突起13は、支持基板10が樹脂製の場合には、射出成形法やプレス成形法等により並設されるとともに、支持基板10がガラス製やセラミックス製の場合には、プレス法、電鋳法、エッチング法等により並設され、突起13と突起13の間には、所定の間隔で隙間が形成される。各突起13は、例えば円錐台形に形成され、基本的には支持基板10の表面周縁部と略同じ高さに揃えられる。
【0020】
各突起13は好ましくは0.05mm以上の高さに形成される。これは、突起13の高さが0.05mm未満の場合には、十分な高さの区画空間11を形成することができず、保持層20の変形に支障を来たすおそれがあるからである。また、給排孔14は、例えばドリル、レーザ、サンドブラスト、エッチング法等により支持基板10の厚さ方向に丸く穿孔される。
【0021】
バキューム装置は、区画空間11から空気を外部に給排孔14を介して排気し、保持層20を複数の突起13に追従して凸凹に変形させることにより、保持層20と半導体ウェーハWとの間に隙間を形成し、保持層20から半導体ウェーハWを取り外し可能とする。
【0022】
保持層20は、例えば可撓性、柔軟性、耐熱性、密着性に優れる弾性変形可能な所定のエラストマーにより薄膜に形成され、支持基板10の表面周縁部と各突起13の表面とにそれぞれ接着支持されており、可塑化温度と分解温度が60〜255℃以上、255℃以上に設定される。所定のエラストマーとしては、保持層20の可塑化温度と分解温度が60〜255℃以上に設定される場合には、エチレン‐アクリル酸エステルコポリマー、アイオノマー系エラストマー、架橋アクリルゴム、架橋ニトリルゴム等が使用され、可塑化温度と分解温度が255℃以上に設定される場合には、フッ素系ゴムやシリコーンゴム等が用いられる。
【0023】
保持層20は好ましくは25〜500μmの厚さに形成される。これは、保持層20の厚さが25μm未満の場合には、保持層20の繰り返し耐久性が低下し、逆に保持層20の厚さが500μmを超える場合には、支持基板10の突起群12に追従して保持層20の変形するのが困難になるという理由に基づく。
半導体ウェーハWは、例えば口径が300mm(12インチ)の円板タイプからなり、表面に回路パターンが描画形成される。
【0024】
このような構成の固定治具は、図1に示すように、支持基板10の中心部、換言すれば、突起群12の中心部から支持基板10の低い表面周縁部にかけて徐々に低くなるよう傾斜して傘状の凸型に形成されるとともに、支持基板10の裏面の深い中心部から浅い周縁部にかけて徐々に低くなるよう(浅くなるよう)傾斜して凹型に形成され、支持基板10の凹んだ裏面が吸着体2の搭載面である表面に隙間なく密接する。
【0025】
突起群12の中心の突起13から支持基板10の表面周縁部方向に亘る領域が傾斜して高さ20〜200μmの傘状凸型を呈する関係上、保持層20は略傘状に屈曲支持され、この保持層20に粘着保持される半導体ウェーハWも対応して略傘状に屈曲する。そして、この保持層20に粘着保持された半導体ウェーハWは、その露出面である裏面の中心部から周縁部までが20〜200μm、好ましくは20〜100μmの範囲の高さHとされる。
【0026】
支持基板10の裏面の中心部から周縁部方向までの高さや形状は、吸着体2の表面の中心部から周縁部方向までの高さや形状に応じ、20〜200μmの範囲で変更される。その他の部分については、従来例と同様である。
【0027】
上記において、半導体ウェーハWをバックグラインドして薄くする場合には、先ず、固定治具の保持層表面に半導体ウェーハWの表面を押圧して隙間なく密着保持させることにより、保持層20に半導体ウェーハWの回路パターンを保護させ、この固定治具の凹んだ裏面をバックグラインド装置1の凸型を呈した吸着体表面に隙間なく嵌合吸着させ、その後、吸着体2を傾けて回転させるとともに、砥石7を回転させて半導体ウェーハWの露出した裏面に部分的に接触させれば、半導体ウェーハWをバックグラインドして薄くすることができる。
【0028】
上記作業の際、固定治具の平坦な裏面ではなく、固定治具の凹んだ裏面が凸型を呈した吸着体2の円錐体5に密接するので、固定治具が上下方向に傾斜してがたついたり、固定治具に搭載された半導体ウェーハWの姿勢が不安定化することがない。
【0029】
半導体ウェーハWのバックグラインドが終了したら、吸着体2から固定治具を取り外してバキューム装置に接続し、このバキューム装置により区画空間11の空気を外部に排気し、保持層20を凸凹に変形させれば、保持層20と半導体ウェーハWとの接触面積が減少するので、保持層20から薄化された半導体ウェーハWを取り外すことができる。
【0030】
上記構成によれば、繰り返して使用可能な固定治具、特にその保持層20が保護テープ30と同様の機能を発揮して半導体ウェーハWの表面を汚染から有効に保護するので、バックグラインド時に必要とされる保護テープ30やその剥離装置を確実に省略することができる。また、この保護テープ30の省略により、廃棄物が大量に発生するのを抑制防止することができる。
【0031】
また、固定治具の形状が吸着体2の表面形状に対応する凸メニスカス型なので、固定治具や半導体ウェーハWの姿勢を安定させることができ、半導体ウェーハWのバックグラインドの際、半導体ウェーハWの裏面の中心部から周縁部までの半径領域のみを砥石7により研磨することができる。したがって、半導体ウェーハWの反対側の半径領域に砥石7が接触して綾目模様が生じたり、不均一な厚さになるのを抑制防止することが可能になる。
【0032】
また、半導体ウェーハWが平坦な保持層20に単に接触して密着するのではなく、半導体ウェーハWが屈曲した保持層20の中心部に接触してから周縁部に接触するので、空気を逃がしながら半導体ウェーハWを保持層20に密着させることが可能になる。したがって、半導体ウェーハWと保持層20との間に空気が巻き込まれ、半導体ウェーハWの保持に支障を来たしたり、バックグラインド後の半導体ウェーハWが不均一な厚さになるのを防止することが可能になる。さらに、半導体ウェーハWを補強する固定治具を利用するので、薄い半導体ウェーハWを割ることなく搬送固定することができる。
【0033】
なお、上記実施形態の支持基板10と保持層20とを、共に半導体ウェーハWよりも拡径の平面円形に形成し、支持基板10を保持層20よりも僅かに大きく形成しても良い。また、支持基板10を半導体ウェーハWよりも4mmの範囲で拡径に形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る半導体ウェーハ用の固定治具の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図2】バックグラインド装置によりバックグラインドされる半導体ウェーハを示す説明図である。
【図3】従来のバックグラインド装置と半導体ウェーハとを模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1 バックグラインド装置
2 吸着体
3 本体
4 嵌合穴
5 円錐体
7 砥石
10 支持基板
11 区画区間
12 突起群
13 突起
14 給排孔
20 保持層
30 保護テープ
H 半導体ウェーハの裏面の中心部から周縁部までの高さ
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円錐形の吸着体に搭載される剛性の支持基板と、この支持基板の表面周縁部に貼り着けられてバックグラインドされる半導体ウェーハを着脱自在に保持する変形可能な保持層と、支持基板の表面中央部と保持層との間に形成される区画空間と、支持基板に設けられ、区画空間に連通してその気体を外部に排気することにより保持層を変形させる給排孔とを備えた半導体ウェーハ用の固定治具であって、
区画空間に、保持層を支持する突起群を配列し、この突起群の略中心部から支持基板の表面周縁部にかけて徐々に傾斜させて凸型に形成し、支持基板の裏面の略中心部から周縁部にかけて徐々に傾斜させて凹型に形成し、支持基板の裏面が吸着体の搭載面に略密接するようにしたことを特徴とする半導体ウェーハ用の固定治具。
【請求項2】
保持層に保持された半導体ウェーハの露出面の略中心部から周縁部までの高さを20〜200μmとした請求項1記載の半導体ウェーハ用の固定治具。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−123411(P2007−123411A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311321(P2005−311321)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】