説明

半導体ウェーハ用吸着パッド

【課題】半導体ウェーハの損傷を抑制し、パーティクルの発生を防ぐことのできる半導体ウェーハ用吸着パッドを提供する。
【解決手段】体積抵抗値が1E+0〜1E+13(Ω・cm)の熱可塑性樹脂コンパウンドを用いて半導体ウェーハ用吸着パッドを射出成形する。半導体ウェーハ用吸着パッドを、板体1と、板体1上に突出形成される内側リブ10と、板体1の周縁部に形成されて内側リブ10を包囲する外側リブ20と、板体1に穿孔され、内側リブ10と外側リブ20との間に連通する吸気孔2とから構成し、ロボットのバキューム装置に接続して半導体ウェーハWの裏面を吸着保持させる。熱可塑性樹脂コンパウンドの射出により、半導体ウェーハ用吸着パッドにスキン層30を形成し、このスキン層30の被覆保護作用により、半導体ウェーハWの損傷等を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスの前工程でロボットやアライナー等に取り付けられて半導体ウェーハを吸着保持する半導体ウェーハ用吸着パッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス(ウェーハプロセスともいう)は、イオン注入等のドーピング、絶縁膜の形成、リソグラフィ、エッチング等からなる前工程と、バックグラインドやダイシング等からなる後工程とに分類され、前工程においては、半導体ウェーハの搬送や向きの調整のため、専用のロボットに高価な吸着パッドが装着されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
吸着パッドは、図示しないが、PEEK樹脂製の板体が切削加工されることにより、平面円形を呈する断面略皿形に形成され、ロボットのバキューム装置に接続されており、このバキューム装置の駆動に基づき、半導体ウェーハの裏面を吸着保持する。
【0004】
ところで、半導体製造プロセスの前工程においては、数十〜数百nm程度のパーティクルの有無が製品の歩留まりを左右する大きな問題となる。この点に鑑み、従来の吸着パッドは、帯電防止機能を発揮するカーボンファイバーが練り込まれ、パーティクルを吸い寄せて半導体ウェーハに転写することがないよう形成されている。
【特許文献1】特開2004‐174686号公報
【特許文献2】特開2004‐153157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における半導体ウェーハ用吸着パッドは、以上のようにPEEK樹脂に導電性のカーボンファイバーがランダムに練り込まれているので、切削の際、カーボンファイバーの端部が露出して半導体ウェーハを削ったり、短いカーボンファイバーが脱落してパーティクルを発生させるという問題がある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、半導体ウェーハの損傷を抑制し、パーティクルの発生を防ぐことのできる半導体ウェーハ用吸着パッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、体積抵抗値が1E+0〜1E+13(Ω・cm)の熱可塑性樹脂コンパウンドを用いて射出成形され、半導体ウェーハを支持するものであって、
板体と、この板体上に形成される内側リブと、板体の周縁部に形成されて内側リブを包囲する外側リブと、板体に設けられ、内側リブと外側リブとの間に連通する吸気孔とを含むことを特徴としている。
【0008】
なお、熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂をポリブチレンテレフタレートとすることが好ましい。
また、熱可塑性樹脂コンパウンドの帯電防止性付与材を有機導電体とすることが好ましい。
【0009】
また、板体に、単数複数の補強リブを形成して強度を高めることもできる。
また、内側リブを、板体に突出形成されて吸気孔を包囲する複数の扇リブと、板体に突出形成されて複数の扇リブを包囲する複数の円弧リブとから構成し、これら複数の扇リブと円弧リブとの間には、気体を流通させる隙間を形成することができる。
【0010】
また、複数の扇リブを吸気孔を中心に配列し、扇リブと扇リブとの間に、吸気孔に連通して気体を流通させる溝を形成することができる。
さらに、複数の円弧リブを、吸気孔を中心に配列し、円弧リブと円弧リブとの間に、扇リブ間の溝に連通して気体を流通させる溝を形成しても良い。
【0011】
ここで、特許請求の範囲における半導体ウェーハは、200mm、300mm、450mmタイプ、Siタイプ等を特に問うものではない。板体は、平面視で円形、楕円形、矩形、三角形、多角形等に形成することができる。また、平坦でも良いが、横長の断面略H字形に形成したり、凹凸に形成することもできる。内側リブと吸気孔の位置や数は、適宜増減変更することができる。内側リブは、扇形や柱形等の各種形状に形成することができる。さらに、外側リブは、リング形でも良いし、枠形等でも良い。
【0012】
本発明によれば、熱可塑性樹脂コンパウンドを使用して半導体ウェーハ用吸着パッドを射出成形すれば、半導体ウェーハ用吸着パッドの表面にスキン層を形成することができ、このスキン層により、カーボンファイバー等が露出して半導体ウェーハを削ったり、カーボンファイバー等が脱落してパーティクルを発生させるという問題を防ぐことが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半導体ウェーハの損傷を抑制し、パーティクルの発生を防ぐことができるという効果がある。
また、熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂をポリブチレンテレフタレートとすれば、半導体ウェーハ用吸着パッドの耐磨耗性や低発塵性を向上させることができる。
また、熱可塑性樹脂コンパウンドの帯電防止性付与材を有機導電体とすれば、パーティクルの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における半導体ウェーハ用吸着パッドは、図1や図2に示すように、体積抵抗値が1E+0〜1E+13(Ω・cm)の熱可塑性樹脂コンパウンドを用いて射出成形され、剛性を有する板体1と、この板体1上に形成される内側リブ10と、板体1に周設されて内側リブ10を包囲する外側リブ20と、内側リブ10と外側リブ20との間に連通する吸気孔2とを一体に備えており、図示しないアライナー(シータ)ロボットにセットされて半導体ウェーハWの裏面を吸着保持する。
【0015】
熱可塑性樹脂コンパウンドは、熱可塑性樹脂に帯電防止性付与材等の配合剤が混合されることにより調製される。この熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂としては、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)、PEEK、PEI、AAS、PC、ABS、PPE、LCP、PP、PE、PAI、熱可塑性PI、変性品、アロイ等があげられる。これらの中でも、耐磨耗性、低発塵性、寸法安定性に優れるPBTの使用が好ましい。
【0016】
熱可塑性樹脂に添加される帯電防止性付与材としては、導電性のカーボンファイバー、カーボンウィスカー、金属ファイバー、金属ウィスカー、カーボン粉末、黒鉛粉末、有機導電体(ポリアニリン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系、イオン導電体系)があげられる。これらの中でも、パーティクル防止の観点から有機導電体の採用が好ましい。
【0017】
板体1は、平面円形に形成され、その中心部に丸い吸気孔2が厚さ方向に貫通して穿孔されており、この吸気孔2が半導体製造プロセスの前工程で使用されるロボットのバキューム装置にチューブ等を介し接続される。この板体1は、その裏面に吸着パッドの剛性を向上させるリング形の補強リブ3が吸気孔2を中心として突出形成され、この補強リブ3の下端部が外側リブ20の下端部と同じ高さに揃えられる。また、板体1の表面には、内側リブ10と外側リブ20とが同じ高さに揃えて形成され、これら内側リブ10と外側リブ20とが半導体ウェーハWの裏面に隙間なく接触する。
【0018】
内側リブ10は、板体1の表面に突出形成されて吸気孔2を包囲する複数の扇リブ11と、板体1の表面に突出形成されて複数の扇リブ11を外側から包囲する複数の円弧リブ12とを備え、これら複数の扇リブ11と円弧リブ12との間には、空気を流通させる隙間13が区画形成される。複数の扇リブ11は、吸気孔2を中心にして配列され、隣接する扇リブ11と扇リブ11との間には、吸気孔2に連通して空気を流通させる溝14が区画形成されており、平坦な各扇リブ11には、対ロボット用の取付孔15が厚さ方向に穿孔される。
【0019】
複数の円弧リブ12は、吸気孔2を中心に円を描くよう配列され、隣接する平坦な円弧リブ12と円弧リブ12との間には、扇リブ11間の溝14に連通して空気を流通させる溝14が区画形成される。
【0020】
外側リブ20は、板体1の周縁部にエンドレスに突出形成されて上下厚さ方向に伸び、平面リング形を呈して補強リブ3や内側リブ10、換言すれば、複数の円弧リブ12を外側から包囲する。この外側リブ20は、その上下端部がそれぞれ平坦に形成され、複数の円弧リブ12との間には、空気を流通させる隙間13がリング形に区画形成される。
【0021】
半導体ウェーハWは、例えば口径300mm(12インチ)の円板にスライスされ、表面に酸化膜が積層されており、前工程で基板収納容器と加工装置との間をロボットで移送されることにより、イオン注入等のドーピング、絶縁膜の形成、リソグラフィ、エッチング等の加工が施される。この半導体ウェーハWの周縁部には、位置決め用のオリフラやノッチが選択的に形成される。
【0022】
上記において、半導体ウェーハ用吸着パッドに半導体ウェーハWの裏面を搭載支持させた後、ロボットのバキューム装置を駆動すれば、半導体ウェーハ用吸着パッドと半導体ウェーハWとの間の空気が複数の隙間13や溝14から吸気孔2を経由して外部に排気され、この排気により半導体ウェーハ用吸着パッドが半導体ウェーハWを隙間13なく吸着保持する。
この際、内側リブ10と外側リブ20とが略同じ高さなので、半導体ウェーハ用吸着パッドから空気が漏れて半導体ウェーハWの吸着に支障を来たすことがない。
【0023】
上記によれば、金型に溶融した熱可塑性樹脂コンパウンドを射出すれば、金型に熱可塑性樹脂コンパウンドの熱が奪われ、半導体ウェーハ用吸着パッドの露出面に薄いスキン層30が容易に形成されることとなる。したがって、このスキン層30を被覆保護に利用すれば、カーボンファイバーの端部が露出して半導体ウェーハWを削ったり、短いカーボンファイバーが脱落してパーティクルを発生させるという問題を確実に解消することができる。
【0024】
また、半導体ウェーハ用吸着パッドを切削加工ではなく、射出成形により製造するので、半導体ウェーハ用吸着パッドの表面が粗れることがなく、しかも、安価かつ大量に製造することができる。具体的には、半導体ウェーハ用吸着パッドを射出成形することにより、従来数十万円だった価格を数万円以下の価格に低減することができる。また、熱可塑性樹脂コンパウンドの体積抵抗値を1E+0〜1E+13(Ω・cm)の範囲とするので、帯電を防止してパーティクルの発生を抑制したり、転写を防止することができる。
【0025】
また、板体1の裏面に補強リブ3を突出形成するので、剛性を付与したり、成形時のひけ(シンクマークともいう)を防いで凹みを防止することが可能になる。また、各扇リブ11の接触面積が各円弧リブ12の接触面積よりも広いので、半導体ウェーハWの姿勢の安定化が大いに期待できる。さらに、板体1の周縁部に外側リブ20を形成する他、板体1の表裏に補強リブ3、扇リブ11、及び円弧リブ12を一体化して強度を高めるので、半導体ウェーハ用吸着パッドの変形防止が大いに期待できる。
【0026】
なお、上記実施形態では板体1の裏面側に補強リブ3や外側リブ20を形成したが、特に支障を来たさなければ、補強リブ3を外側リブ20よりも短く低くしたり、補強リブ3を複数にして外側リブ20よりも短く低くしたり、あるいはこれら3・20を省略しても良い。また、半導体ウェーハ用吸着パッドを、アライナーではなく、ロボットのアーム等にセットしても良い。
【0027】
また、上記実施形態では内側リブ10を、板体1の表面に突出形成されて吸気孔2を包囲する複数の扇リブ11と、板体1の表面に突出形成されて複数の扇リブ11を外側から包囲する複数の円弧リブ12とから形成したが、板体1の表面に突出形成されて吸気孔2を包囲する複数の円弧リブ12と、板体1の表面に突出形成されて複数の円弧リブ12を外側から包囲する複数の扇リブ11とから形成しても良い。さらに、内側リブ10を、板体1の表面に複数突出形成されて外側リブ20に包囲される円柱形のリブとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る半導体ウェーハ用吸着パッドの実施形態を示す平面説明図である。
【図2】本発明に係る半導体ウェーハ用吸着パッドの実施形態を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 板体
2 吸気孔
3 補強リブ
10 内側リブ
11 扇リブ
12 円弧リブ
13 隙間
14 溝
20 外側リブ
30 スキン層
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗値が1E+0〜1E+13(Ω・cm)の熱可塑性樹脂コンパウンドを用いて射出成形され、半導体ウェーハを支持する半導体ウェーハ用吸着パッドであって、
板体と、この板体上に形成される内側リブと、板体の周縁部に形成されて内側リブを包囲する外側リブと、板体に設けられ、内側リブと外側リブとの間に連通する吸気孔とを含むことを特徴とする半導体ウェーハ用吸着パッド。
【請求項2】
熱可塑性樹脂コンパウンドの熱可塑性樹脂をポリブチレンテレフタレートとした請求項1記載の半導体ウェーハ用吸着パッド。
【請求項3】
熱可塑性樹脂コンパウンドの帯電防止性付与材を有機導電体とした請求項1記載の半導体ウェーハ用吸着パッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−128967(P2007−128967A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318476(P2005−318476)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】