説明

半導体デバイス用基板の洗浄液及び洗浄方法

【課題】半導体デバイス用基板、特に表面にCu配線を有する半導体デバイス用基板におけるCMP工程後の洗浄工程に用いられ、Cu配線に対する十分な防食性を有し、残渣の発生及び基板表面への残渣の付着を抑制することができる洗浄液を提供する。
【解決手段】以下の成分(A)〜(E)を含有してなり、かつpHが10以上である半導体デバイス用基板洗浄液。
(A)一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
(B)界面活性剤
(C)キレート剤
(D)硫黄原子を有するアミノ酸
(E)水

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的機械的研磨工程後の表面に露出した金属を有する半導体デバイス用基板表面を効果的に洗浄するための洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用基板は、まず、シリコンウェハ基板の上に、配線となる金属膜や層間絶縁膜の堆積層を形成した後に、研磨微粒子を含む水系スラリーからなる研磨剤を使用する化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、「CMP」と称す。)によって表面の平坦化処理を行い、平坦となった面の上に新たな層を積み重ねて行くことで製造される。半導体デバイス用基板の微細加工においては、各層における精度の高い平坦性が必要であり、CMPによる平坦化処理の重要性はますます高まっている。
【0003】
一方、最近の半導体デバイス製造工程では、デバイスの高速化・高集積化のために抵抗値の低い銅(Cu)膜からなる配線(Cu配線)が導入されてきている。
Cuは加工性がよいため微細加工に適するが、水中では酸化劣化しやすく、また、酸性分やアルカリ成分によって腐食しやすいことから、CMP工程において、Cu配線の酸化や腐食が問題となっている。そのため、従来、Cu配線を有する半導体デバイス用基板のCMPにおいて、研磨剤にはベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール等の防食剤が添加されており、この防食剤がCu表面に強く吸着して保護膜を形成することにより、CMPにおけるCu配線の腐食を抑制していた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、CMP工程後の半導体デバイス用基板は、CMPによって発生したCu配線や層間絶縁膜の削り粉を除去するために洗浄工程に供される。
CMP工程後の基板表面には、CMP工程で使用されたコロイダルシリカなどの砥粒が残留している。ここで、酸性水溶液中では、コロイダルシリカが正に帯電するのに対し、基板表面は負に帯電して電気的な引力が働くため、基板表面からのコロイダルシリカの除去は困難となる。一方で、アルカリ性水溶液中ではOH-が豊富に存在するため、コロイダルシリカと基板表面は共に負に帯電し、電気的な斥力が働くため、基板表面からのコロイダルシリカの除去を行いやすくなる。
アルカリ性洗浄液ではコロイダルシリカ等のパーティクルの除去が行いやすくなる一方で、Cu表面が酸化されるという欠点も存在する。この酸化劣化や腐食を防止するために、洗浄工程に用いる洗浄液に防食剤を添加する方法が提案されているが、従来CMPに使用されている防食剤は、Cu配線から溶出したCuイオンと錯体を形成して基板への付着性を有する残渣を発生させるという問題があった。一方で、これまでに知られている残渣生成の少ない防食剤を使用すると、上述の残渣は生成しないが、Cu配線の酸化劣化や腐食の抑制が不十分となるという問題があった。また、特許文献2には、システインなど分子内にチオール基を有するアミノ酸を含む金属腐食防止剤が開示されているが、残渣形成の回避という点で十分とは言えなかった。
このように従来の洗浄液において、防食性と残渣形成の回避を両立できるものは見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4406554号公報
【特許文献2】特開2003−13266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる状況下、本発明の目的は、半導体デバイス用基板、特に表面に金属配線を有する半導体デバイス用基板におけるCMP工程後の洗浄工程に用いられ、金属配線に対する十分な防食性を有し、残渣の発生及び基板表面への残渣の付着を抑制することができる洗浄液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 以下の成分(A)〜(E)を含有してなり、かつpHが10以上である半導体デバイス用基板洗浄液。
(A)一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
(B)界面活性剤
(C)キレート剤
(D)硫黄原子を有するアミノ酸
(E)水
<2> 成分(B)が、アニオン性界面活性剤である前記<1>に記載の半導体デバイス用洗浄液。
<3> 成分(B)が、アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその塩、アルキルメチルタウリン酸及びその塩、並びにスルホコハク酸ジエステル及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも1種である前記<2>に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<4> 成分(C)が、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、ピコリン酸、アスコルビン酸、没食子酸及び酢酸からなる群から選ばれた少なくとも1種である前記<1>から<3>に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<5> 成分(D)が、チオール基、チオエーテル基を有するアミノ酸である前記<1>から<4>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<6> 成分(D)が、N−アセチル−L−システイン、システイン及びメチオニンからなる群から選ばれた少なくとも1種である前記<5>に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<7> 成分(A)が、1〜25質量%、成分(B)が、0.01〜10質量%、成分(C)が、0.01〜10質量%、成分(D)が、0.1〜10質量%の濃度で含有される前記<1>から<6>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<8> 成分(A)が0.01〜2.5質量%、成分(B)が、0.0001〜1質量%、成分(C)が、0.0001〜1質量%、成分(D)が、0.001〜1質量%の濃度で含有される前記<1>から<6>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の半導体デバイス用基板洗浄液を用いて、半導体デバイス用基板を洗浄する半導体デバイス用基板の洗浄方法。
<10> 半導体デバイス用基板が基板表面にCu配線と低誘電率絶縁膜を有し、かつ、化学的機械的研磨を行った後の前記半導体デバイス用基板を洗浄する前記<9>に記載の半導体デバイス用基板の洗浄方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗浄液を用いることにより、CMP工程後の半導体デバイス用基板の洗浄工程において、金属配線に対する十分な防食性を有し、残渣の発生及び基板表面への残渣の付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【図2】実施例2の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【図3】実施例3の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【図4】実施例4の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【図5】実施例5の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【図6】比較例1の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【図7】比較例2の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【図8】比較例3の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【図9】比較例4の洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、以下の成分(A)〜(E)を含有してなり、かつpHが10以上であることを特徴とする半導体デバイス用基板洗浄液。
(A)一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
(B)界面活性剤
(C)キレート剤
(D)硫黄原子を有するアミノ酸
(E)水
【0012】
アルカリ性液中では、OHが豊富に存在するため、コロイダルシリカ等のパーティクル表面が負に帯電し、洗浄対象となる基板表面も同様に負に帯電する。液中のゼータ電位が同符号に制御されることにより、電気的な反発力が発生する。その結果、基板表面からの前記パーティクルの除去を容易にすることができ、また、一度除去したパーティクルが基板表面に再付着することを防ぐこともできる。
なお、本発明の洗浄液におけるpHは、洗浄液に含まれる各成分の添加量により調整することができる。
【0013】
通常、アルカリ性溶液中では、半導体デバイス用基板表面に配線等として存在するCu(以下、「Cu配線」と呼ぶことがある。)は、その表面が酸化され酸化銅となる。酸化銅は洗浄液中のキレート剤などにより溶解され、腐食の原因となるが、本発明においては、洗浄液中の防食剤の働きによって、Cu配線の過度な酸化を防ぐことができる。
防食剤が防食性能を発揮するためには、銅−防食剤錯体の膜が配線表面に形成され、その膜の溶解度が低いことが求められる。しかしながら、銅−防食剤錯体の溶解度が低すぎる場合には、洗浄工程で除去することができず、Cu配線上に結晶や有機残渣として残留してしまうという問題がある。酸性液中ではアミノ基、カルボキシル基の解離が少なく、銅−防食剤錯体の溶解度が低くなり、Cu配線上に結晶として残留してしまうのに対し、アルカリ性液中では、銅−防食剤錯体の溶解度が向上し、Cu配線上には残留しにくくなる。
以上より、本発明の洗浄液においては、上記成分(A)〜(D)の存在により、金属配線に対する十分な防食性を有し、残渣の発生及び基板表面への残渣の付着を抑制することができる。
【0014】
以下、本発明の洗浄液に含まれる各成分についてその作用と共に詳細に説明する。
【0015】
成分(A):有機第4級アンモニウム水酸化物
本発明の洗浄液に用いる有機第4級アンモニウム水酸化物(成分(A))は、以下の一般式(1)で表される。
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
【0016】
成分(A)は、pHを上記範囲に制御するために洗浄液に含有される。ここで、有機第4級アンモニウム水酸化物は、Cu配線に対して不活性であるため、腐食の原因とはならない。
1級アミン、2級アミン、3級アミンなど他の有機アルカリは銅と錯体を形成して溶解するため、Cu配線に対して腐食の原因となる。無機アルカリでは、含有されるカリウム、ナトリウムなどが基板表面に残留してしまうため、洗浄効果が不十分となる。
【0017】
第4級アンモニウム水酸化物としては、上記一般式(1)において、R1が水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、特に炭素数1〜3のアルキル基及び/又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基であるものが好ましい。R1のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3の低級アルキル基が、ヒドロキシアルキル基としてはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等の炭素数1〜3の低級ヒドロキシアルキル基が挙げられる。
【0018】
この第4級アンモニウム水酸化物としては具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、ビスヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(通称:コリン)、トリエチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0019】
上述の有機アルカリ成分の中でも洗浄効果、金属残留が少ないこと、経済性、洗浄液の安定性などの理由から、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ビスヒドロキシエチルジメチルアンモニウム、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドなどが特に好ましい。これらの有機アルカリ成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0020】
成分(B):界面活性剤
層間絶縁膜表面は疎水性であるため、水をベース組成とする洗浄液では洗浄が困難である。界面活性剤は、疎水性基板表面の親水性を向上させる作用を有するものである。基板表面との親和性を向上させることで、基板上に存在するパーティクルなどとの間にも洗浄液の作用を及ぼすことができ、除去に貢献することができる。界面活性剤を含まない洗浄液では、洗浄液と疎水性基板表面の親和性が低いため、洗浄効果が不十分となる。本発明ではアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができる。
【0021】
本発明の洗浄液において好適に用いることができる界面活性剤として、アニオン性界面活性剤がある。アニオン性界面活性剤の例として、アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその塩、アルキルメチルタウリン酸及びその塩、並びにスルホコハク酸ジエステル及びその塩が挙げられ、具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデカンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。この中でも、品質の安定性や入手のしやすさから、ドデシルベンゼンスルホン酸及びそのアルカリ金属塩が好適に用いられる。
別のアニオン性界面活性剤の例として、カルボン酸型アニオン性界面活性剤が挙げられる。分子内にカルボキシル基を含むアニオン性界面活性剤であり、その中でも下記一般式(1)で表される化合物が好適である。
R−O−(AO)m−(CH2n−COOH (1)

一般式(1)において、Rは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、その炭素数は8〜15、好ましくは、10〜13である。また、AOはオキシエチレン基及び/又はオキシプロピレン基であり、mは3〜30、好ましくは4〜20、より好ましくは、4.5〜10である。また、nは1〜6、好ましくは1〜3である。一般式(1)で表される化合物として、具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸などを挙げることができる。
なお、アニオン性界面活性剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
【0022】
特に好ましいスルホン酸型アニオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)、ドデカンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。
この中でも、品質の安定性や入手のしやすさから、ドデシルベンゼンスルホン酸及びそのアルカリ金属塩が好適に用いられる。
【0023】
なお、界面活性剤は、通常市販されている形態において1〜数千質量ppm程度のNa、K、Fe等の金属不純物を含有している場合があり、この場合には、界面活性剤が金属汚染源となる。そのため、成分(B)に金属不純物が含まれる場合には、各々の金属不純物の含有量が、通常10ppm以下、好ましくは1ppm以下、更に好ましくは0.3ppm以下となるように、成分(B)を精製して使用することが好ましい。この精製方法としては、例えば、成分(B)を水に溶解した後、イオン交換樹脂に通液し、樹脂に金属不純物を捕捉させる方法が好適である。このようにして精製された界面活性剤を使用することで、金属不純物含有量が極めて低減された洗浄液を得ることができる。
【0024】
成分(C):キレート剤
キレート剤(成分(C))は、基板表面の金属配線に含まれる、タングステンなどの不純物金属や、CMP工程で使用されるバリアスラリー中に存在する防食剤と銅との不溶性金属錯体、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属をキレート作用により溶解、除去する作用を有するものである。
キレート剤としては、上記作用を有する有機酸、無機酸、アミン類及びその塩若しくはその誘導体を使用することができ、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
成分(C)として、特にシュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、ピコリン酸、アスコルビン酸、没食子酸、酢酸、エチレンジアミン、アミノエタノール、エチレンジアミン四酢酸及びアンモニアからなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。また、これらの塩も好適に用いることもできる。
【0025】
成分(D):硫黄原子を有するアミノ酸
本発明の洗浄液に用いる硫黄原子を有するアミノ酸は、銅などの重金属に吸着する性質がある。そのため、洗浄液に含有させることにより、半導体デバイス用基板の金属配線の表面を被覆して、金属配線が腐食することを防止する作用を有する。
ここで、硫黄原子を有するアミノ酸としては、チオール基、チオエーテル基を有するアミノ酸であることが好ましい。
特にN−アセチル−L−システイン、システイン及びメチオニンからなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
これらの化合物は、優れた防食作用を有し且つ安全性が高く、さらには水への溶解度が高いため、本発明の洗浄液の溶媒である(E)水に容易に溶解させることができるという利点がある。
【0026】
成分(E):水
本発明の洗浄液における溶媒として(E)水が用いられ、不純物を極力低減させた脱イオン水や超純水を用いることが好ましい。
【0027】
なお、本発明の洗浄液には、その性能を損なわない範囲において、上記成分(A)〜(E)以外の成分を任意の割合で含有していてもよい。
他の成分としては、ベンゾトリアゾール、3−アミノトリアゾール、N(R23(R2は互いに同一であっても異なっていてもよい炭素数1〜4のアルキル基及び/又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基)、ウレア、チオウレア等の含窒素有機化合物、
ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、
3OH(R3は炭素数1〜4のアルキル基)等のアルキルアルコール系化合物、等の防食剤;
水素、アルゴン、窒素、二酸化炭素、アンモニア等の溶存ガス、
フッ酸、フッ化アンモニウム、BHF(バッファードフッ酸)等のドライエッチング後に強固に付着したポリマー等の除去効果が期待できるエッチング促進剤;
ヒドラジン等の還元剤;
過酸化水素、オゾン、酸素等の酸化剤;
モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;
等が挙げられる。
また、溶媒として、溶媒としてエタノールなど水以外の成分を含んでいてもよい。
【0028】
本発明の洗浄液の製造方法は、特に限定されず従来公知の方法によればよく、例えば、洗浄液の構成成分(成分(A)〜(E)、必要に応じて他の成分)を混合することで製造することができる。通常、溶媒である(E)水に、成分(A)〜(D)、他の成分を添加することにより製造される。
混合順序も反応や沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り任意であり、洗浄液の構成成分のうち、何れか2成分又は3成分以上を予め配合し、その後に残りの成分を混合してもよいし、一度に全部を混合してもよい。
【0029】
本発明の洗浄液は、洗浄に適した濃度になるように、各成分の濃度を調整して製造することもできるが、輸送、保管時のコストを抑制する観点から、それぞれの成分を高濃度で含有する洗浄液(以下、「洗浄原液」と称す場合がある。)を製造したのちに水で希釈して使用されることも多い。
この洗浄原液における各成分の濃度は、特に制限はないが、成分(A)〜(D)及び必要に応じて添加される他の成分並びにこれらの反応物が、洗浄原液中で分離したり、析出しない範囲であることが好ましい。
具体的には、洗浄原液の好適な濃度範囲は、成分(A)が、1〜25質量%、成分(B)が、0.01〜10質量%、成分(C)が、0.01〜10質量%、成分(D)が、0.1〜10質量%の濃度である。
このような濃度範囲であると、輸送、保管時において、含有成分の分離がおこりづらく、また、(E)水を添加することにより容易に洗浄に適した濃度の洗浄液として好適に使用することができる。
【0030】
半導体デバイス用基板の洗浄を行う際における洗浄液の各成分の濃度は、洗浄対象となる半導体デバイス用基板に応じて適宜決定される。
なお、洗浄に供する洗浄液は、洗浄対象となる半導体デバイス用基板に対して各成分の濃度が適切なものとなるように洗浄原液を希釈して製造してもよいし、その濃度になるように直接各成分を調整して製造してもよい。
【0031】
洗浄液として用いられる際の成分(A):有機第4級アンモニウム水酸化物の濃度は、好ましくは0.01〜2.5質量%であり、より好ましくは0.05〜1質量%である。
成分(A)の濃度が、0.01質量%未満では、半導体デバイス用基板の汚染の除去が発揮できない可能性があり、2.5質量%を超えてもそれ以上の効果は得られないことに加え、洗浄液のコストがよりかかることになる。
【0032】
洗浄液として用いられる際の成分(B):界面活性剤の濃度は、洗浄液に対して、好ましくは0.0001〜1質量%、より好ましくは0.0003〜0.1質量%、さらに好ましくは0.001〜0.1質量%である。
成分(B)の濃度が、低すぎると界面活性剤の添加効果が不十分となり、成分(B)の濃度が高すぎてもそれ以上の効果は得られず、過度の泡立ちが発生したり、廃液処理の負荷を増加する。
【0033】
洗浄液として用いられる際の成分(C):キレート剤の濃度は、洗浄液に対して、好ましくは0.0001〜1質量%、より好ましくは0.0003〜0.1質量%、さらに好ましくは0.001〜0.1質量%である。
成分(C)の濃度が、低すぎると半導体デバイス用基板の汚染の除去が不充分になるおそれがあり、1質量%を超えてもそれ以上の効果は得られないことに加え、洗浄液のコストがよりかかることになる。また、成分(C)の濃度が3質量%を超えるとCu等の金属配線の腐食といった不具合を引き起こすことがある。
【0034】
洗浄液として用いられる際の成分(D):硫黄原子を有するアミノ酸の濃度は、洗浄液に対して、好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.001〜0.5質量%である。
成分(A)の濃度が、0.001質量%未満では、半導体デバイス用基板の汚染の除去が不充分になるおそれがあり、1質量%を超えてもそれ以上の効果は得られないことに加え、洗浄液のコストがかかることになる。また、成分(A)の濃度が1質量%を超えるとCu等の金属配線の腐食といった不具合を引き起こすことがある。
【0035】
次いで、本発明の洗浄方法について説明する。
本発明の洗浄方法は、既述した本発明の洗浄液を半導体デバイス用基板に直接接触させる方法で行われる。
【0036】
洗浄対象となる半導体デバイス用基板としては、半導体、ガラス、金属、セラミックス、樹脂、磁性体、超伝導体などの各種半導体デバイス用基板が挙げられる。
この中でも、本発明の洗浄液は、かつ、短時間のリンスで除去ができるため、配線などとして表面に金属又は金属化合物を有する半導体デバイス用基板に対して好適であり、特に表面にCu配線を有する半導体デバイス用基板に対して好適である。
【0037】
ここで、半導体デバイス用基板に使用される上記金属としては、W、Cu、Ti、Cr、Co、Zr、Hf、Mo、Ru、Au、Pt、Ag等が挙げられ、金属化合物としては、これらの金属の窒化物、酸化物、シリサイド等が挙げられる。これらの中では、Cu並びにこれらを含有する化合物が好適な対象である。
【0038】
また、本発明の洗浄方法は、疎水性の強い低誘電率絶縁材料に対しても洗浄効果が高いため、低誘電率絶縁材料を有する半導体デバイス用基板に対しても好適である。
このような低誘電率材料としては、Polyimide、BCB(Benzocyclobutene)、Flare(Honeywell社)、SiLK(Dow Chemical社)等の有機ポリマー材料やFSG(Fluorinated silicate glass)などの無機ポリマー材料、BLACK DIAMOND(Applied Materials社)、Aurora(日本ASM社)等のSiOC系材料が挙げられる。
【0039】
ここで、本発明の洗浄方法は、半導体デバイス用基板が、基板表面にCu配線と低誘電率絶縁膜を有し、かつ、CMP処理後に基板を洗浄する場合に特に好適に適用される。CMP工程では、研磨剤を用いて基板をパッドに擦り付けて研磨が行われる。
【0040】
研磨剤には、コロイダルシリカ(SiO2)、フュームドシリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、セリア(CeO2)などの研磨粒子が含まれる。このような研磨粒子は、半導体デバイス用基板の微粒子汚染の主因となるが、本発明の洗浄液は、基板に付着した微粒子を洗浄液中に分散させると共に再付着を防止する作用を有しているため、微粒子汚染の高い効果を示す。
【0041】
また、研磨剤には、酸化剤、分散剤等の研磨粒子以外の添加剤が含まれることがある。
特に、その表面に金属配線としてCu配線を有する半導体デバイス用基板におけるCMP研磨では、Cu配線が腐食しやすいため、防食剤が添加されることが多い。
防食剤としては、防食効果の高いアゾール系防食剤が好ましく用いられる。より詳しくは窒素のみの複素環を含む、ジアゾール系やトリアゾール系、テトラゾール系が挙げられる。窒素と酸素の複素環を含む、オキサゾール系やイソオキサゾール系、オキサジアゾール系が挙げられ、窒素と硫黄の複素環を含む、チアゾール系やイソチアゾール系、チアジアゾール系が挙げられる。その中でも特に、防食効果に優れるベンゾトリアゾール(BTA)系の防食剤が好ましく用いられている。
【0042】
本発明の洗浄液は、このような防食剤を含んだ研磨剤で研磨した後の表面に適用すると、これら防食剤に由来した汚染を極めて効果的に除去できる点において優れている。
即ち、研磨剤中にこれらの防食剤が存在すると、Cu配線表面の腐食を抑える半面、研磨時に溶出したCuイオンと反応し、多量の不溶性析出物を生じる。本発明の洗浄液は、このような不溶性析出物を効率的に溶解除去することができ、更に、金属表面に残りやすい界面活性剤を、短時間のリンスで除去することができ、スループットの向上が可能である。
そのため、本発明の洗浄方法は、Cu配線と低誘電率絶縁膜が共存した表面をCMP処理した後の半導体デバイス用基板の洗浄に好適であり、特にアゾール系防食剤が入った研磨剤でCMP処理した上記基板の洗浄に好適である。
【0043】
上述のように本発明の洗浄方法は、本発明の洗浄液を半導体デバイス用基板に直接接触させる方法で行われる。なお、洗浄対象となる半導体デバイス用基板の種類に合わせて、好適な成分濃度の洗浄液が選択される。
【0044】
洗浄液の基板への接触方法には、洗浄槽に洗浄液を満たして基板を浸漬させるディップ式、ノズルから基板上に洗浄液を流しながら基板を高速回転させるスピン式、基板に液を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。この様な洗浄を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の基板を同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1枚の基板をホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置などがある。
【0045】
本発明の洗浄液は、上記の何れの方法にも適用できるが、短時間でより効率的な汚染除去が出来る点から、スピン式やスプレー式の洗浄に好ましく使用される。そして、洗浄時間の短縮、洗浄液使用量の削減が望まれている枚葉式洗浄装置に適用するならば、これらの問題が解決されるので好ましい。
【0046】
また、本発明の洗浄方法は、物理力による洗浄方法、特に、洗浄ブラシを使用したスクラブ洗浄や周波数0.5メガヘルツ以上の超音波洗浄を併用すると、基板に付着した微粒子による汚染の除去性が更に向上し、洗浄時間の短縮にも繋がるので好ましい。特に、CMP後の洗浄においては、樹脂製ブラシを使用してスクラブ洗浄を行うのが好ましい。樹脂製ブラシの材質は、任意に選択し得るが、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を使用するのが好ましい。
【0047】
更に、本発明の洗浄方法による洗浄の前及び/又は後に、水による洗浄を行ってもよい。
【0048】
本発明の洗浄方法において、洗浄液の温度は、通常は室温でよいが、性能を損なわない範囲で、40〜70℃程度に加温してもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例1
(洗浄液原液の調製)
成分(A):テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、成分(B):ドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)、成分(C):クエン酸、成分(D):N−アセチル−L−システインを成分(E):水と混合して、表1に示す組成の実施例1の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。
【0051】
(pH測定)
40倍に希釈した洗浄液をマグネティックスターラーを用いて攪拌しながら、pH計((株)堀場製作所 D−24)でpHの測定を行なった。測定サンプルは恒温層中で25℃に液温を保った。測定結果を表2に示した。
【0052】
(腐食性の評価)
ライン/スペース=90nm/90nmのCu配線のくし型パターンを含むパターン基板(次世代半導体材料技術研究組合製 CMP4−TEG)を1cm角にカットしたもの2枚を用意し、40倍に希釈した洗浄液中に40℃でそれぞれ10分間、30分間浸漬させた。浸漬後の基板は取り出してすぐに超純水で洗浄し、エアーブローで乾燥させた。
浸漬を終えた基板を、電解放射型走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JSM−6320F)で観察し、防食性の評価を行なった結果を表2に示す。なお、防食性は、Cu配線パターンの腐食の進行具合で判断し、表2における表記は、以下の通りである。

○:腐食が確認されなかった。
△:若干腐食が確認された。
×:腐食が確認された。

また、図1に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0053】
実施例2
(洗浄液原液の調製)
成分(A):ビスヒドロキシエチルジメチルアンモニウム(AH212、四日市合成株式会社)、成分(B):DBS、成分(C):クエン酸、成分(D):N−アセチル−L−システインを成分(E):水と混合して、表1に示す組成の実施例2の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様の方法でpH測定、腐食性の評価を行なった。結果を表2に示す。また、図2に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0054】
実施例3
(洗浄液原液の調製)
成分(A):TMAH、成分(B):DBS、成分(C):ピコリン酸、成分(D):N−アセチル−L−システインを成分(E):水と混合して、表1に示す組成の実施例3の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様の方法でpH測定、腐食性の評価を行なった。結果を表2に示す。また、図3に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0055】
実施例4
(洗浄液原液の調製)
成分(A):TMAH、成分(B):DBS、成分(C):ピコリン酸、成分(D):N−アセチル−L−システインを成分(E):水と混合して、表1に示す組成の実施例4の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様の方法でpH測定、腐食性の評価を行なった。結果を表2に示す。また、図4に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0056】
実施例5
(洗浄液原液の調製)
成分(A):TMAH、成分(B):DBS、成分(C):クエン酸、成分(D):システインを成分(E):水と混合して、表1に示す組成の実施例5の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様の方法でpH測定、腐食性の評価を行なった。結果を表2に示す。また、図5に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0057】
比較例1
(洗浄液原液の調製)
成分(A):TMAH、成分(B):DBS、成分(C):ピコリン酸を成分(E):水と混合して、表1に示す組成の比較例1の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様の方法でpH測定、腐食性の評価を行なった。結果を表3に示す。また、図6に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0058】
比較例2
(洗浄液原液の調製)
成分(A):TMAH、成分(B):DBS、成分(C):クエン酸、成分(D)の代わりに防食剤として1,2,4−トリアゾールを成分(E):水と混合して、表1に示す組成の比較例2の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様の方法でpH測定、腐食性の評価を行なった。結果を表3に示す。また、図7に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0059】
比較例3
(洗浄液原液の調製)
成分(A):TMAH、成分(B):DBS、成分(C):クエン酸、成分(D)の代わりに防食剤であるBT−250(城北化学工業株式会社)を成分(E):水と混合して、表1に示す組成の比較例3の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様の方法でpH測定、腐食性の評価を行なった。結果を表3に示す。また、図8に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0060】
比較例4
(洗浄液原液の調製)
成分(B):DBS、成分(C):クエン酸、成分(D):N−アセチル−L−システインを成分(E)水と混合して、表1に示す組成の比較例4の半導体デバイス用基板洗浄液の原液を調製した。次いで、該洗浄液原液に水を加え、40倍希釈した半導体洗浄液(希釈液)を調整した。洗浄液原液及び希釈液の組成を表1に示す。得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様の方法でpH測定、腐食性の評価を行なった。結果を表3に示す。また、図9に洗浄液(希釈液)に30分間浸漬した後のパターン基板のSEM写真を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
実施例1〜4では、洗浄液原液中に、成分(D):N−アセチル−L−システインを含み、表2に示した腐食性評価の結果が○で現され、良好な結果が得られた。成分(A)有機アルカリとしてTMAH、AH212、成分(C)キレート剤としてクエン酸、ピコリン酸の組み合わせによらず、良好な結果が得られた。
【0065】
実施例5では、成分(D):システインを含み、表2に示した腐食性評価の結果が○で現され、良好な結果が得られた。
【0066】
比較例1では、成分(D)が添加されていない。表3に示すように、浸漬30分間の結果は×で現され、図6の結果の通り、Cu配線表面状態が大きく変化している。このようなCu配線表面の変化は基板洗浄において悪影響であり、比較例1に示した組成の洗浄剤は良好な洗浄結果を与えない。
【0067】
比較例2では、成分(D)の代わりに防食剤として1,2,4−トリアゾールを含む。表3に示した浸漬30分間の結果は×で現され、図7の結果の通り、Cu配線全体で溶解が進んでおり、著しい腐食の進行が確認できる。実施例1と比較して1,2,4−トリアゾールがN−アセチル−L−システインに比べて防食性能が弱く、要求される防食性能が満たされていない。
【0068】
比較例3では、成分(D)の代わりに防食剤としてBT−250を含む。表3に示した浸漬30分間の結果は×で現され、図8の結果の通り、Cu配線全体で溶解が進んでおり、著しい腐食の進行が確認できる。実施例1と比較してBT−250がN−アセチル−L−システインに比べて防食性能が弱く、要求される防食性能が満たされていない。
【0069】
比較例4では、成分(A)を含まず、成分(C):クエン酸を15質量%含む。成分(D):N−アセチル−L−システインを含むが、表3に示した浸漬30分間の結果は×で現され、図9の結果の通り、Cu配線全体で溶解が進んでおり、著しい腐食の進行が確認できる。
すなわち、成分(D):N−アセチル−L−システインは、酸性環境下では防食性能が不十分であり、アルカリ性環境下で十分な防食性能を示すことが分かる。
【0070】
以上の結果から、本発明の洗浄液を用いることで、Cu配線に腐食を起こすことなく、洗浄できることが明らかであり、Cu配線表面を防食することによって半導体デバイス用基板の優れた清浄効果が奏されることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の半導体デバイス用基板洗浄液は、半導体デバイス用基板表面に腐食を起こすことなく、洗浄することが可能であり、水リンス性も良好であることから、半導体デバイスやディスプレイデバイスなどの製造工程における汚染半導体デバイス用基板の洗浄処理技術として、工業的に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)〜(E)を含有してなり、かつpHが10以上であることを特徴とする半導体デバイス用基板洗浄液。
(A)一般式(1)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物
(R14+OH- (1)
(但し、R1は水酸基、アルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR1は全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。)
(B)界面活性剤
(C)キレート剤
(D)硫黄原子を有するアミノ酸
(E)水
【請求項2】
成分(B)が、アニオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス用洗浄液。
【請求項3】
成分(B)が、アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその塩、アルキルメチルタウリン酸及びその塩、並びにスルホコハク酸ジエステル及びその塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項4】
成分(C)が、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、ピコリン酸、アスコルビン酸、没食子酸及び酢酸からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項5】
成分(D)が、チオール基、チオエーテル基を有するアミノ酸であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項6】
成分(D)が、N−アセチル−L−システイン、システイン及びメチオニンからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項7】
成分(A)が、1〜25質量%、成分(B)が、0.01〜10質量%、成分(C)が、0.01〜10質量%、成分(D)が、0.1〜10質量%の濃度で含有されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項8】
成分(A)が0.01〜2.5質量%、成分(B)が、0.0001〜1質量%、成分(C)が、0.0001〜1質量%、成分(D)が、0.001〜1質量%の濃度で含有されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板洗浄液を用いて、半導体デバイス用基板を洗浄することを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄方法。
【請求項10】
半導体デバイス用基板が基板表面にCu配線と低誘電率絶縁膜を有し、かつ、化学的機械的研磨を行った後の前記半導体デバイス用基板を洗浄することを特徴とする請求項9に記載の半導体デバイス用基板の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35935(P2013−35935A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172587(P2011−172587)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】