説明

半導体ナノ粒子、生体標識剤、生体標識剤のセットおよび生体分子検出方法

【課題】本発明の目的は、複数の生体分子を同時に効率よく検出可能であり、かつ生体に悪影響を与えることなく安全性に優れた生体物質標識剤、を与える半導体ナノ粒子、それを用いた生体物質標識剤、生体物質標識剤のセットおよび生体分子検出方法を提供することにある。
【解決手段】半導体母材中にドープ剤を含有する半導体ナノ粒子であって、粒子の平均粒径が0.1〜20.0nmであり、波長285nmの励起光により該ドープ剤が発光し、かつ波長365nmの励起光により該半導体母材が量子サイズ効果により発光することを特徴とする半導体ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子を検出するために用いられる生体標識剤、それを作製するための半導体ナノ粒子およびそれを用いた生体分子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、1nm〜100nm程度の粒径の結晶粒はナノ粒子またはナノクリスタルと呼ばれているが、その粒径がナノメートルサイズであるため、半導体無機ナノ粒子の場合は、バンドギャップエネルギーの増大など量子サイズ効果を発現し、例えば、良好な光吸収特性および発光特性などの光学特性を示すことが知られている。
【0003】
そのため近年では、半導体ナノ粒子に関する研究報告が活発になされるだけでなく、CdSe/ZnS型半導体ナノ粒子、Si/SiO型半導体ナノ粒子などの半導体ナノ粒子は、ディスプレー用、LED用等様々な用途での検討が進められている。
【0004】
一方、生体物質を標識する手段として、分子標識物質をマーカー物質に結合した生体物質標識剤を用いる方法が検討されている。しかし、上記方法で従来使用されてきた有機蛍光色素などのマーカー物質は、紫外線照射時の劣化が激しく寿命が短いことが欠点であり、発光効率が低く、感度も十分ではなかった。
【0005】
そのため、近年、上記マーカー物質として半導体ナノ粒子を用いる方法が注目されている。例えば、極性官能基を有する高分子を半導体ナノ粒子の表面に物理的および/または化学的に吸接合した生体物質標識剤が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。また、有機分子をSi/SiO型半導体ナノ粒子の表面に結合した生体物質標識剤が検討されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また、ナノ粒子の発光効率を向上させるために、例えば、粒子母体であるZnS中に、Mnをドープしたナノ粒子などのドープ剤を含有するナノ粒子が知られている(例えば、特許文献3参照。)
さらに、粒径の異なる半導体ナノ粒子を複数種類用いることにより、蛍光波長の異なる複数種類の蛍光標識物質を製造し、同一波長の励起光を用い、複数種類の生体高分子を同時に検出すること方法が知られている(特許文献4参照)。
【0007】
しかしながら、これらのナノ粒子をマーカー物質とした生体標識剤を用いる生体分子検出方法においては、ナノ粒子の粒径の変動により発光波長の変動を生じ、正確な検出を行うには不充分である、検出効率が低いなどの問題があった。
【特許文献1】特開2003−329686号公報
【特許文献2】特開2005−172429号公報
【特許文献3】特開2002−322468号公報
【特許文献4】特開2003−322654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、複数の生体分子を同時に効率よく検出可能であり、かつ生体に悪影響を与えることなく安全性に優れた生体物質標識剤、を与える半導体ナノ粒子、それを用いた生体物質標識剤、生体物質標識剤のセットおよび生体分子検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記課題は、下記の手段により解決される。
1.半導体母材中にドープ剤を含有する半導体ナノ粒子であって、粒子の平均粒径が0.1〜20.0nmであり、波長285nmの励起光により該ドープ剤が発光し、かつ波長285nmnmの励起光により該半導体母材が量子サイズ効果により発光することを特徴とする半導体ナノ粒子。
2.前記半導体母材中に2種以上のドープ剤を含有することを特徴とする1に記載の半導体ナノ粒子。
3.前記半導体ナノ粒子がシェル層を有することを特徴とする1または2に記載の半導体ナノ粒子。
4.前記半導体ナノ粒子の平均粒径が0.1〜10.0nmであることを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子。
5.前記半導体ナノ粒子の平均粒径が0.1〜5.0nmであることを特徴とする4に記載の半導体ナノ粒子。
6.前記半導体ナノ粒子の平均粒径が0.1〜3.0nmであることを特徴とする5に記載の半導体ナノ粒子。
7.前記半導体母材がSiであることを特徴とする1〜6のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子。
8.1〜7のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子に分子標識物質が結合していることを特徴とする生体標識剤。
9.8に記載の生体標識剤を複数種有する生体標識剤のセットであって、該複数種の生体標識剤の、各々の半導体ナノ粒子が各々異なり、かつ各々の分子標識物質が各々異なることを特徴とする生体標識剤のセット。
10.8に記載の生体標識剤を用いることを特徴とする生体分子検出方法。
11.9に記載の生体標識剤のセットを用いることを特徴とすると生体分子検出方法。
12.複数の励起光を用いることを特徴とする10または11に記載の生体分子検出方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記手段により、複数の生体分子を同時に効率よく検出可能であり、かつ生体に悪影響を与えることなく安全性に優れた生体物質標識剤、を与える半導体ナノ粒子、それを用いた生体物質標識剤のセット、生体分子検出方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、半導体母材中にドープ剤を含有する半導体ナノ粒子であって、粒子の平均粒径が0.1〜20.0nmであり、波長285nmの励起光により該ドープ剤が発光し、かつ波長285nmnmの励起光により該半導体母材が量子サイズ効果により発光することを特徴とする。
【0012】
本発明においては、特に、波長285nmの励起光により、量子サイズ効果により発光するナノ粒子にドープ剤を含有させることで、複数の生体分子を同時に効率よく検出可能である生体物質標識剤を与える半導体ナノ粒子を得ることができる。
【0013】
本発明に係る半導体ナノ粒子は、粒子の平均粒径が0.1〜20.0nmであり、半導体母材の励起子ボーア半径の4倍以下の粒子径を有する結晶である。
【0014】
本発明に係る半導体母材は、半導体であり、半導体母材としては、例えば、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、GaAs、GaP、GaSb、InGaAs、InP、InN、InSb、InAs、AlAs、AlP、AlSb、AlS、PbS、PbSe、Ge、Si、またはこれらの混合物等が挙げられる。半導体母材としては、量子サイズ効果が大きく生体に与える影響の少ないものが好ましく、SiまたはGeが好ましく用いられる。
【0015】
本発明に係るドープ剤は、半導体母材中で発光中心となる材料であり、例えば、ドープ剤としては、希土類、遷移金属が挙げられ、さらに具体的にはTi、V、Fe、Co、Cr、Niなどが挙げられる。
【0016】
波長285nmの励起光によりドープ剤が発光し、かつ半導体母材が、量子サイズ効果により発光する粒子は、上記のように半導体母材の粒子径を励起子ボーア半径の4倍以下の粒子径として、量子サイズ効果により変動する半導体母材のバンドギャップよりも小さいバンドギャップを有するドープ剤を用いることにより得られる。
【0017】
ドープ剤を含有させるには、イオン注入法を用いることができる。例えば、数keVから数MeVに加速したドープ剤のイオンを半導体母材に照射する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の半導体ナノ粒子平均粒径としては、量子サイズ効果の面から、0.1〜20.0nmであり、0.1〜10.0nmがより好ましく、0.1〜5.0nmがさらに好ましく、特に0.1〜3.0nmが好ましい。
【0019】
なお、本発明において、上記平均粒径は本来3次元で求める必要があるが、微粒子過ぎるため難しく、現実には二次元画像で評価せざるを得ないため、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子顕微鏡写真の撮影シーンを変えて数多く撮影し平均化することで求めることが好ましい。従って、本発明において、当該平均粒径は、TEMを用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めて、その算術平均を平均粒径とした。TEMで撮影する粒子数としては100個以上が好ましく、1000個の粒子を撮影するのが更に好ましい。本願においては、1000個の粒子の算術平均を平均粒径とした。
【0020】
半導体母材中にドープ剤を含有した半導体ナノ粒子を作製する方法としては、固相法、液相法、気相法のいずれも用いることができる。
【0021】
これらの中でも、液相法、気相法が好ましく用いられる。
【0022】
液相法としては、共沈法、沈殿法、グリコサーマル法、超臨界法、エマルジョン法、逆ミセル法、噴霧乾燥法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、ホットソープ法等が挙げられ、気相法では、CVD法の各種、還元・酸化・窒化・炭化法、液中還元法、ガス中蒸発法、レーザアブレーション法、スパッタリング法などを用いることができる。
【0023】
本発明に用いることができる液相法の例を、半導体前駆体を分散用溶媒に分散させ、還元により半導体ナノ粒子製造する方法を挙げて説明する。
【0024】
半導体前駆体は、上記の半導体ナノ粒子として用いられる元素を含む化合物であり、例えば半導体がSiの場合、半導体前駆体としてはSiClなどが挙げられる。その他半導体前駆体としては、InCl、P(SiMe、ZnMe、CdMe、GeCl、トリブチルホスフィンセレンなどが挙げられる。
【0025】
反応前駆体の反応温度としては、半導体前駆体の沸点以上かつ溶媒の沸点以下であれば、特に制限はないが、70〜110℃の範囲が好ましい。
【0026】
半導体前駆体を還元する還元剤としては、従来周知の種々の還元剤を反応条件に応じて選択し用いることができる。還元剤としては、還元力の強さの観点から、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム(LiBH(sec−C)及び水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウムなどの還元剤が好ましい。特に、還元力の強さから水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)が好ましい。
【0027】
半導体前駆体の分散用溶媒としては、従来周知の種々の溶媒を使用できるが、エチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、トルエン、デカン、ヘキサンなどの炭化水素類溶媒を使用することが好ましい。特に、トルエン等の疎水性の溶媒が分散用溶媒として好ましく用いられる。
【0028】
分散用溶媒は、半導体前駆体を分散させるために、界面活性剤を含むことが好ましく、界面活性剤としては、従来周知の種々の界面活性剤を使用でき、陰イオン、非イオン、陽イオン、両性界面活性剤が含まれる。
【0029】
なかでも第四級アンモニウム塩系である、テトラブチルアンモニウムクロリド、ブロミドまたはヘキサフルオロホスフェート、テトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB)、またはトリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミドが好ましい。特に、テトラオクチルアンモニウムブロミドが好ましい。
【0030】
ドープ剤をドープさせる方法としては、半導体ナノ粒子の形成時に同時に添加するか、半導体ナノ粒子の形成後、イオン注入法などによりドープ剤を添加する方法が挙げられる。
【0031】
半導体母材中のドープ剤の含有量としては、0.1原子%〜5.0原子%が好ましく、さらに0.2原子%〜3.0原子%が好ましく、特に0.5原子%〜1.5原子%が好ましい。
【0032】
本発明の半導体ナノ粒子は、少なくとも1種のドープ剤を含有する。本発明においては、半導体母材の発光、およびドープ剤の発光により同一の励起光で、波長の異なる複数の発光を生ずる。ドープ剤が1種の場合には、2種の、波長の異なる発光を生ずる。
【0033】
本発明においては、ドープ剤を2種以上とすることにより、2種以上の、波長の異なる発光を生じさせることができ、好ましい態様である。
【0034】
例えば、半導体母材としてSiを用い、ドープ剤として、TbおよびCrを用いた場合、同一の半導体ナノ粒子を用い、Siの青色、Tbの緑色、Crの赤色の発光が得られる。
【0035】
本発明の半導体ナノ粒子は、その表面にシェルを有することが、発光効率の面から、好ましい。
【0036】
表面にシェル層を有するとは、所謂コアシェル構造を有することであり、本発明の半導体ナノ粒子がコアとなる。
【0037】
シェル層に用いられる半導体材料としては、コアとして用いられる半導体母材より、バンドギャップが大きく、格子定数のずれが大きくない種々の半導体材料を用いることができる。
【0038】
具体例としては、例えば、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、MgS、MgSe、GaS、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InAs、InN、InP、InSb、AlAs、AlN、AlP、AlSb、またはこれらの混合物等が挙げられる。本発明において、シェル層に用いられる特に好ましい半導体材料は、SiO、ZnSである。
【0039】
なお、シェル層は、コア粒子が部分的に露出して弊害を生じない限り、コア粒子の全表面を完全に被覆するものでなくてもよい。
【0040】
本発明の半導体ナノ粒子の特に、好ましい態様としては、半導体母材はSiでありシェル層を有し、該シェル層がSiOである態様であり、さらに、半導体母材はSiでありシェル層を有し、該シェル層がSiOであり、かつ半導体ナノ粒子の平均粒径が0.1〜10.0nmである態様である。
【0041】
シェル層の形成方法は、半導体ナノ粒子の形成時に同時に形成させるか、もしくは、半導体ナノ粒子の形成後、液相法、気相法などにより形成する方法が好ましく用いられる。
【0042】
コアとシェルの格子不整合率は、15.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましく、特に2.0%以下であることがより好ましい。
【0043】
(生体標識剤)
本発明に係る生体標識剤は、上記本発明の半導体ナノ粒子に分子標識物質を、直接に、あるいは有機分子を介して結合させたものである。
【0044】
生体標識剤は、分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合および/または反応することにより、生体物質の標識が可能となる。
【0045】
分子標識物質としては例えば、ヌクレオチド鎖、抗体、抗原およびシクロデキストリン等が挙げられる。
【0046】
半導体ナノ粒子に分子標識物質を結合させるには、半導体ナノ粒子の表面を親水化処理することが好ましい。
【0047】
親水化処理の方法としては例えば、表面の親油性基をピリジン等で除去した後に粒子表面に表面修飾剤を化学的および/または物理的に結合させる方法がある。表面修飾剤としては、親水基として、カルボキシル基・アミノ基を持つものが好ましく用いられ、具体的にはメルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、アミノプロパンチオールなどがあげられる。例えば、半導体ナノ粒子10−5gをメルカプトウンデカン酸0.2gが溶解した純水10ml中に分散させて、40℃、10分間攪拌し、シェルの表面を処理することで無機ナノ粒子のシェルの表面をカルボキシル基で修飾することができる。
【0048】
上記半導体ナノ粒子と分子標識物質との結合に用いられる有機分子としては半導体ナノ粒子と分子標識物質とを結合できる有機分子であれば特に制限はないが、例えば、アルブミン、ミオグロビン、カゼイン、アビジンおよびビオチンなどが好適に用いられる。
【0049】
上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着および化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0050】
具体的には、例えば、半導体ナノ粒子をメルカプトウンデカン酸で親水化処理した場合は、有機分子としてアビジンおよびビオチンを用いることができる。この場合親水化処理された半導体ナノ粒子のカルボキシル基はアビジンと好適に結合し、アビジンがさらにビオチンと選択的に結合し、ビオチンがさら分子標識物質と結合することにより生体標識剤となる。
【0051】
本発明の半導体ナノ粒子は、一つの励起光により、発光波長の異なる複数の発光を生ずるため、この半導体ナノ粒子を用いることで、生体物質を同時に効率よく検出可能である生体標識剤が得られる。
【0052】
即ち、同じ半導体母材を用いた半導体ナノ粒子であって、発光波長の異なる半導体ナノ粒子が得られるため、発光波長の異なる半導体粒子を複数用いることにより、発光波長の異なる半導体ナノ粒子を標識剤とした複数の生体標識剤を有するセットを得ることができる。
【0053】
本発明の生体標識剤のセットは、生体標識剤を複数種有する生体標識剤のセットであって、この複数種の生体標識剤の、各々の半導体ナノ粒子が各々異なり、かつ各々の分子標識物質が各々異なる。
【0054】
半導体ナノ粒子が異なるとは、励起光による発光波長が異なることであり、分子標識物質が異なるとは、分子標識物質の分子構造が異なることをいう。
【0055】
本発明のセットの中でも、励起光による発光波長は異なるが、粒径は同じである半導体ナノ粒子を用いる場合が好ましい。特に半導体ナノ粒子の半導体母材がSiであり、粒径が同じで、励起光による発光波長が異なる半導体ナノ粒子を用いたセットが、生体に対する悪影響が少なく、また生体内での各生体標識剤の挙動に対する半導体ナノ粒子の影響が少なく好ましい。
【0056】
生体分子の検出方法は、例えば下記のように行うことができる。
【0057】
細胞内には様々な分子が存在している。その分子を仮に分子A、分子B、分子Cとした際に、それら各分子に特異的に吸着する抗体α、β、γがあり、その抗体に本発明の半導体ナノ粒子を付加する。半導体ナノ粒子をa、b、cとする際、aとαを組み合わせることでaは分子Aと吸着する。蛍光検出時の分子Aの存在を確認する手法は、aの蛍光特性(励起光の波長および、発光波長)を判別することで可能となる。例えば、上記a、b、cとして発光波長の異なる本発明の半導体ナノ粒子を用いることができる。
【0058】
励起光の光源は、所望の波長と強度の条件を満たすものであれば限定されず、例えば、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、ハロゲン、窒素、キセノン等の各ランプ、Arレーザー、Krレーザー、He−Neレーザー等の各レーザー及び、各種LEDを用いることができる。
【0059】
光源の選出法は、励起波長と強度で決まり、半導体母体の材料、ドープ剤の材料のエネルギーバンドギャップに適したエネルギーが放出できれば良く、また、強度の制御が可能であるものがより好ましい。
【0060】
励起光を発生する装置として、上記から選出された光源を、光学台上に配置し、レンズを用いて任意の波長を有した励起光を試料に照射させ、蛍光を得ることができるように構成した装置を用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
実施例1
(比較粒子1の作製)(半導体ナノ粒子の粒径がバルクでの大きさの場合)
下記のようにして、半導体母材としてSiを用い、ドープ剤として電子遷移機構のd−dを有するCr3+を用い、Cr3+をイオン化させて母材であるSiへ加速させて注入させるイオン注入法を用いることでSi:Cr3+の半導体ナノ粒子である、比較粒子1を作製した。
【0063】
半導体母材であるSiナノ粒子の粒子径は500nmであり、量子サイズ効果により拡大されたバンドギャップは約1.13eVである。
【0064】
この形成粒子(比較粒子1)の発光強度を日立社製の「日立分光蛍光光度計F−7000」により測定した結果、Si粒子からとドープ剤発光中心であるCr3+からの発光は確認ができなかった。
【0065】
(半導体ナノ粒子1の作製)
下記のようにして、半導体母材としてSiを用い、ドープ剤として電子遷移機構のd−dを有するCr3+を起用し、Cr3+をイオン化させて母材であるSiへ加速させて注入させるイオン注入法を用いることでSi:Cr3+の半導体ナノ粒子である、半導体ナノ粒子1を作製した。
【0066】
半導体母材であるSiナノ粒子の粒子径は1.8nmであり、量子サイズ効果により拡大されたバンドギャップは約4.21eVである。この形成粒子(半導体ナノ粒子1)の発光強度を日立社製の「日立分光蛍光光度計F−7000」により測定した結果、Siナノ粒子からの発光は青色が、ドープ剤発光中心であるCr3+からの発光は赤色が確認できた。
【0067】
(半導体ナノ粒子2の作製)
下記のようにして、半導体母材としてSiを用い、ドープ剤として電子遷移機構のf−fを有するTb3+と、d−dを有するCr3+を起用し、Cr3+をイオン化させて母材であるSiへ加速させて注入させるイオン注入法を用いることでSi:Tb3+,Cr3+の半導体ナノ粒子である半導体ナノ粒子2、を作製した。
【0068】
半導体母材であるSiナノ粒子の粒子径は1.8nmであり、量子サイズ効果により拡大されたバンドギャップは約4.21eVである。この粒子の発光強度を日立社製の「日立分光蛍光光度計F−7000」により測定した結果、Siナノ粒子からの発光は青色が、ドープ剤発光中心であるTb3+からの発光は緑色、Cr3+からの発光は赤色が確認できた。
【0069】
(半導体ナノ粒子3の作製)(コアシェル構造を有する場合)
下記のようにして、半導体母材としてSiを用い、ドープ剤として電子遷移機構のd−dを有するCr3+を起用し、Cr3+をイオン化させて母材であるSiへ加速させて注入させるイオン注入法を用いることでSi:Cr3+の半導体ナノ粒子である半導体ナノ粒子3′を作製した。
【0070】
半導体母材であるSiナノ粒子の粒子径は1.8nmであり、量子サイズ効果により拡大されたバンドギャップは約4.21eVである。さらに、半導体ナノ粒子3′にシェル層としてSiOからなる層を設けた半導体ナノ粒子3を形成した。半導体ナノ粒子3の発光強度を日立社製の「日立分光蛍光光度計F−7000」により測定した結果、Siナノ粒子からの発光は青色が、ドープ剤発光中心であるCr3+からの発光は赤色が確認できた。さらに、各発光機構からの発光強度は、実施例粒子1の発光と比べより大であった。
【0071】
(半導体ナノ粒子4の作製)
下記のようにして、半導体母材としてSiを用い、ドープ剤として電子遷移機構のd−dを有するCr3+を用い、Cr3+をイオン化させて母材であるSiへ加速させて注入させるイオン注入法を用いることでSi:Cr3+の半導体ナノ粒子である半導体ナノ粒子4を作製した。半導体母材であるSiナノ粒子の粒子径は2.8nmであり、量子サイズ効果により拡大されたバンドギャップは約2.52eVである。この粒子の発光強度を日立社製の「日立分光蛍光光度計F−7000」により測定した結果、Siナノ粒子からの発光は青緑色が、ドープ剤発光中心であるCr3+からの発光は赤色〜近赤外光が確認できた。
【0072】
上記の半導体ナノ粒子1〜4、比較粒子1について、その条件および発光色について表1に示す。励起光としては、いずれも波長285nmを用いた。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から、半導体ナノ粒子1〜4はいずれも複数の発光波長を有するため、マルチ検出が可能であることが分かる。
【0075】
実施例2
上記の半導体ナノ粒子1〜4、比較粒子1の各1×10−5gを、ポリアクリル酸0.2gを溶解した10ml純水中に再分散させ、40℃、10分間攪拌することで表面が親水化処理された半導体ナノ粒子1〜4、比較粒子1を得た。
【0076】
その後、表面が親水化処理された各種ナノ粒子の水溶液それぞれにアビジン25mgを添加し、60℃で1昼夜攪拌を行い、アビジンコンジュゲートナノ粒子を作製した。得られたアビジンコンジュゲートナノ粒子溶液にビオチン化された塩基配列が既知であるオリゴヌクレオチドを混合攪拌し、ナノ粒子で標識(ラベリング)されたオリゴヌクレオチド(生体標識剤)を作製した。
【0077】
様々な塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを固定化したDNAチップ上に上記の標識(ラベリング)したオリゴヌクレオチドを各々滴下、洗浄したところ、標識(ラベリング)されたオリゴヌクレオチドと相補的な塩基配列をもつオリゴヌクレオチドのスポットのみが、285nmより長波側の励起光照射により、実施例1に示した発光が確認された。
【0078】
また、上記半導体ナノ粒子2でラベリングした生体標識剤と、上記とは異なるヌクレオチド鎖を有するオリゴヌクレオチドに半導体ナノ粒子4でラベリングした生体標識剤とを組み合わせ生体標識剤のセット1とした。このセット1を用い生体分子検出を行ったところ、それぞれの分子標識物質に対応した分子について同時に検出をすることができ、マルチ検出が可能であった。上記セット1において、半導体ナノ粒子4に換えて半導体ナノ粒子3を用いた他は同様にしてセット2を得た。セット2を用い生体分子検出を行ったところ、それぞれの分子標識物質に対応した分子について同時に検出をすることができ、マルチ検出が可能であった。励起光の波長としては、285nmを用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体母材中にドープ剤を含有する半導体ナノ粒子であって、粒子の平均粒径が0.1〜20.0nmであり、波長285nmの励起光により該ドープ剤が発光し、かつ波長285nmnmの励起光により該半導体母材が量子サイズ効果により発光することを特徴とする半導体ナノ粒子。
【請求項2】
前記半導体母材中に2種以上のドープ剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項3】
前記半導体ナノ粒子がシェル層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項4】
前記半導体ナノ粒子の平均粒径が0.1〜10.0nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項5】
前記半導体ナノ粒子の平均粒径が0.1〜5.0nmであることを特徴とする請求項4に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項6】
前記半導体ナノ粒子の平均粒径が0.1〜3.0nmであることを特徴とする請求項5に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項7】
前記半導体母材がSiであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子に分子標識物質が結合していることを特徴とする生体標識剤。
【請求項9】
請求項8に記載の生体標識剤を複数種有する生体標識剤のセットであって、該複数種の生体標識剤の、各々の半導体ナノ粒子が各々異なり、かつ各々の分子標識物質が各々異なることを特徴とする生体標識剤のセット。
【請求項10】
請求項8に記載の生体標識剤を用いることを特徴とする生体分子検出方法。
【請求項11】
請求項9に記載の生体標識剤のセットを用いることを特徴とすると生体分子検出方法。
【請求項12】
複数の励起光を用いることを特徴とする請求項10または11に記載の生体分子検出方法。

【公開番号】特開2010−32276(P2010−32276A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192911(P2008−192911)
【出願日】平成20年7月26日(2008.7.26)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】