説明

半導体ナノ粒子標識剤

【課題】生体への取り込み率が優れ、生体分子結合物質の結合量が制御された、半導体ナノ粒子標識剤を提供する。
【解決手段】有機表面修飾層を有するコア/シェル型半導体ナノ粒子を含有する半導体ナノ粒子標識剤であって、有機表面修飾層が重量平均分子量の異なる2種類以上5種類以下のポリエチレングリコール鎖から構成されることを特徴とする半導体ナノ粒子標識剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質を対象とした蛍光標識剤に用いられる、半導体ナノ粒子標識剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生理活性物質を表面に有する粒子として、粒子表面に生体適合性ポリマーを持ち、それを介して生理活性物質である蛍光染料や特異的標的剤が結合している蛍光磁気ナノ粒子が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、これらの表面処理は水中での分散性を向上させる一方で、ナノ粒子蛍光体に結合する生体分子結合物質の結合量の制御できていない点や、ナノ粒子の生体の細胞への取り込み率が低下してしまう点において問題があった。
【0004】
近年、バイオイメージングの分野において、生体分子の動向についてより詳細な情報を得るために一分子イメージングが行われている。しかし、この一分子イメージングを行う場合、生体分子とそれに結合する生体分子結合物質は1対1の反応が望まれ、標識剤に結合している生体分子結合物質は、標識剤に対しなるべく少ない量が望まれてきた。
【特許文献1】特開2007−169261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、生体への取り込み率が優れ、生体分子結合物質の結合量が制御された、半導体ナノ粒子標識剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記課題は以下の手段により解決される。
1.
有機表面修飾層を有するコア/シェル型半導体ナノ粒子を含有する半導体ナノ粒子標識剤であって、有機表面修飾層が重量平均分子量の異なる2種類以上5種類以下のポリエチレングリコール鎖から構成されることを特徴とする半導体ナノ粒子標識剤。
2.
前記半導体ナノ粒子標識剤は、ポリエチレングリコール鎖の末端に生体分子結合物質を持つことを特徴とする前記1に記載の半導体ナノ粒子標識剤。
3.
前記半導体ナノ粒子標識剤は、該半導体ナノ粒子が粒径の違いにより異なる励起波長及び蛍光を持つことを特徴とする前記1及び2のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子標識剤。
4.
前記重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール鎖の重量平均分子量の差が、1000以上50000以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子標識剤。
5.
前記重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール鎖にあって、大きい重量平均分子量を有するポリエチレングリコール鎖が、ポリエチレングリコール鎖全体の20mol%以下10mol%以上含有していることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子標識剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記手段により、生体への取り込み率が優れ、生体分子結合物質の結合量が制御された生体物質用蛍光標識剤を与える、半導体ナノ粒子標識剤が提供できる。重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール鎖を表面に持つ半導体ナノ粒子標識剤は低重量平均分子量のポリエチレングリコール鎖に被覆されることにより、細胞への取り込み効率が上がり、さらに高重量平均分子量のポリエチレングリコール鎖と混ぜることにより、ポリエチレングリコール鎖の重量平均分子量の違いから生体分子結合物質との反応性が変化し、結合率が制御できるという考えに基づいている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、半導体ナノ粒子を含有する半導体ナノ粒子標識剤であって、該半導体ナノ粒子の表面が重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール鎖から構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、特に半導体ナノ粒子の表面を重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール鎖で覆うことにより、細胞への取り込み率に優れる生体物質用蛍光標識剤を与える半導体ナノ粒子標識剤が提供できる。
【0010】
(半導体ナノ粒子標識剤)
本発明に係る半導体ナノ粒子標識剤は、半導体ナノ粒子の集合体である。半導体ナノ粒子標識剤とは、平均粒径が100nm以下である集合体をいう。
【0011】
平均粒径は、TEMを用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めて、その算術平均を平均粒径とする。TEMで撮影する粒子数は、本願においては、1000個の粒子の算術平均を平均粒径とする。
【0012】
(半導体ナノ粒子)
本発明に係る半導体ナノ粒子は種々の半導体材料を用いて形成することができる。例えば、元素の周期表のIV族、II−VI族、およびIII−V族の半導体化合物を用いることができる。
【0013】
II−VI族の半導体の中では、特に、MgS、MgSe、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、HgS、HgSeおよびHgTeを挙げることができる。
【0014】
III−V族の半導体の中では、GaAs、GaN、GaPGaSb、InGaAs、InP、InN、InSb、InAs、AlAs、AlP、AlSbおよびAlSが好ましい。
【0015】
IV族の半導体の中では、Ge、PbおよびSiは特に適しており、本発明において、特に好ましいのは、Siである。
【0016】
本発明においては、半導体ナノ粒子をコア/シェル構造を有する粒子とすることが好ましい。この場合、半導体ナノ粒子は半導体粒子からなるコア粒子と当該コア粒子を被覆するシェル層とで構成されるコア/シェル構造を有する半導体ナノ粒子であって、当該コア粒子とシェル層の化学組成が相異するものであることが好ましい。
【0017】
コア粒子に用いられる半導体材料としては、種々の半導体材料を用いることができる。具体例としては、例えば、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、GaAs、GaP、GaSb、InGaAs、InP、InN、InSb、InAs、AlAs、AlP、AlSb、AlS、PbS、PbSe、Ge、Si、またはこれらの混合物等が挙げられる。本発明において、特に好ましい半導体材料は、SiまたはGeである。なお、必要があればGaなどのドープ材料を極微量含んでもよい。
【0018】
シェルに用いられる半導体材料としては、種々の半導体材料を用いることができる。具体例としては、例えば、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、MgS、MgSe、GaS、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InAs、InN、InP、InSb、AlAs、AlN、AlP、AlSb、またはこれらの混合物等が挙げられる。本発明において、特に好ましい半導体材料は、SiO、ZnSである。
【0019】
なお、シェル層は、コア粒子が部分的に露出して弊害を生じない限り、コア粒子の全表面を完全に被覆するものでなくてもよい。
【0020】
本発明に係る半導体ナノ粒子標識剤の平均粒径は1nm以上100nm以下が好ましい。より好ましくは10nm以上50nm以下、特に好ましくは10nm以上30nm以下である。
【0021】
なお、本発明に係る半導体ナノ粒子のうち、電子の波長(10nm程度)より小さい粒子径を有するナノサイズの粒子は、量子サイズ効果として電子の運動に対するサイズ有限性の影響が大きくなってくるために、バルク体とは異なる特異な物性を示すことが知られている。一般に、ナノ・メートルサイズの半導体物質で量子閉じ込め(quantum confinement)効果を示す半導体ナノ粒子は、「量子ドット」とも称されている。このような量子ドットは、半導体原子が数百個から数千個集まった10数nm程度以内の小さな塊であるが、励起源から光を吸収してエネルギー励起状態に達すると、量子ドットのエネルギーバンドギャップに相当するエネルギーを放出する。したがって、量子ドットの大きさまたは物質組成を調節すると、エネルギーバンドギャップを調節することができて様々な水準の波長帯のエネルギーを利用することができる。また、量子ドット、すなわち半導体ナノ粒子は、同一組成で、粒径を変化させることで、発光波長をコントロールできるという特徴をもつ。
【0022】
本発明に係る半導体ナノ粒子は、350〜1100nmの範囲の蛍光を発光するように調整することができるが、本発明においては、生体細胞自らがもつ発光の影響をなくしSN比を向上するため、近赤外領域の波長の発光も好ましく用いられる。
【0023】
(半導体ナノ粒子の製造方法)
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法としては、従来公知の液相法又は気相法による製造方法を用いることができる。
【0024】
液相法の製造方法としては、沈殿法、共沈法、ゾル−ゲル法、均一沈殿法、還元法などがある。そのほかに、逆ミセル法、超臨界水熱合成法、などもナノ粒子を作製する上で優れた方法である(例えば、特開2002−322468号、特開2005−239775号、特開平10−310770号、特開2000−104058号公報等を参照)。
【0025】
なお、液相法により、半導体ナノ粒子を製造する場合においては、当該半導体の前駆体を還元反応により還元する工程を有する製造方法であることが好ましい。また、当該半導体前駆体の反応を界面活性剤の存在下で行う工程を有する態様が好ましい。なお、本発明に係る半導体前駆体は、上記の半導体材料として用いられる元素を含む化合物であり、たとえば半導体がシリコン(Si)の場合、半導体前駆体としてはSiClなどが挙げられる。その他半導体前駆体としては、InCl、P(SiMe、ZnMe、CdMe、GeCl、トリブチルホスフィンセレンなどが挙げられる。
【0026】
気相法の製造方法としては、(1)対向する原料半導体を電極間で発生させた第一の高温プラズマによって蒸発させ、減圧雰囲気中において無電極放電で発生させた第二の高温プラズマ中に通過させる方法(例えば特開平6−279015号公報参照。)、(2)電気化学的エッチングによって、原料半導体からなる陽極からナノ粒子を分離・除去する方法(例えば特表2003−515459号公報参照。)、(3)レーザーアブレーション法(例えば特開2004−356163号参照。)、(4)高速スパッタリング法(例えば特開2004−296781号参照)などが用いられる。また、原料ガスを低圧状態で気相反応させて、粒子を含む粉末を合成する方法も、好ましく用いられる。
【0027】
(ポリエチレングリコール)
本発明の、重量平均分子量の異なる2種類以上5種類以下のポリエチレングリコール鎖の重量平均分子量の差は1000以上50000以下であり、重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール鎖のうち、大きい重量平均分子量を有するポリエチレングリコール鎖が、ポリエチレングリコール鎖全体の20mol%以下10mol%以上含有しているものである。
【0028】
本発明において用いることができるポリエチレングリコール鎖を形成する事のできるポリエチレングリコール類としては、ポリエチレングリコール鎖を有する化合物であれば特に限定されないが、具体例としては、HS−C(OCHCH−OCH、NH−C−(OCHCH−OCH、C(=O)H−C−(OCHCH−OCH、NH−C−(CHCHO)−OC(=O)O−スクシンイミド、マレイミド−(CHC(=O)NHC−(CHCHO)−OC(=O)O−スクシンイミド、HO−(CHCHO)−CHCHC(=O)H、HO−(CHCHO)−CNH、HN(CH30(CHCHO)(CHC(=O)OH、ビオチン−(CHC(=O)NHC(CHCHO)−OC(=O)O−スクシンイミド等のポリエチレングリコール類を挙げることができる。
【0029】
本発明の半導体ナノ粒子標識剤は、半導体ナノ粒子の粒子表面にポリエチレングリコール鎖が結合し、さらに生体分子結合物質により修飾されることで、半導体ナノ粒子標識剤として機能する。
【0030】
ポリエチレングリコール鎖と半導体ナノ粒子との結合は、半導体ナノ粒子にポリエチレングリコール類を直接結合させてもよいが、シランカップリング剤なの有機分子を介して結合させてもよい。有機物質としては、ポリエチレングリコール鎖末端にカルボキシ基を持つ場合、結合可能な官能基を有する化合物であり、この官能基としては、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基などが挙げられる。また、ポリエチレングリコール鎖末端にアミノ基を持つ場合、有機物質の官能基はカルボキシル基などが挙げられる。好ましいカップリング剤は、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)のようなアミノトリアルコキシシランである。
【0031】
本発明の半導体ナノ粒子を修飾するポリエチレングリコール類は、重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール類が使用され、この重量平均分子量の差は、細胞取り込み率の向上の観点や生体分子結合物質の結合量制御の観点から500以上であることが好ましい。
【0032】
(標識剤とバイオイメージング)
(蛍光標識剤)
本発明の蛍光標識剤は、半導体ナノ粒子の表面に適当な表面修飾化合物を配置することにより標的(ターゲット)物質を蛍光標識するための蛍光標識剤として適用できる。特に、当該粒子表面にその表面に生体に親和性を有する、もしくは、接合できる表面修飾化合物を配置し、タンパク質やペプチドなどの標的物質を蛍光標識するための生体分子蛍光標識剤(生体物質蛍光標識剤)とすることに適している。
【0033】
なお、生体分子蛍光標識剤(生体物質蛍光標識剤)とする場合、近赤外〜赤外励起で赤外発光する特性を有するように半導体ナノ粒子の発光特性を粒径等により調整することが生体分子に対する非侵襲性、生体組織の透過性等の観点から好ましい。
【0034】
本発明においては、表面修飾化合物としては、少なくとも1つの官能基と少なくとも1つの半導体ナノ粒子に結合する基を有する化合物であることが好ましい。後者は疎水性の半導体ナノ粒子に吸着できる基であり、他方は生体物質に親和性があり生体分子に結合する官能基である。互いの表面修飾化合物は互いをつなぐ各種のリンカーを使用してもよい。
【0035】
例えば、半導体ナノ粒子に結合する基としては、当該半導体ナノ粒子を形成するための半導体材料に結合する官能基であれば良い。本発明においては、当該官能基として、特にメルカプト基(チオール基)が好ましい。
【0036】
生体物質に親和的に結合する官能基としては、カルボキシル基、アミノ基、フォスフォン酸基、スルフォン酸基などが挙げられる。
【0037】
なお、ここで、「生体物質」とは、細胞、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、蛋白質、抗体、抗原、小胞体、核、ゴルジ体等を指す。
【0038】
また、半導体ナノ粒子に結合させる方法としては、表面修飾に適するpHに調整することによりメルカプト基を粒子に結合させることができる。それぞれ他端にはアルデヒド基、アミノ基、カルボキシル基が導入され、生体のアミノ基、カルボキシル基とペプチド結合することができる。また、DNA、オリゴヌクレオチドなどにアミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基を導入しても同様に結合させることができる。
【0039】
本発明に係る半導体ナノ粒子を用いて生体分子蛍光標識剤(生体物質蛍光標識剤)を作製する具体的方法としては、例えば、親水化処理された半導体ナノ粒子を有機分子を介して分子標識物質と結合させる方法を挙げることができる。この方法により作製された生体分子蛍光標識剤(生体物質蛍光標識剤)において、分子標識物質は、標的とする生体物質と特異的に結合及び/又は反応することにより、生体物質の蛍光標識が可能となる。
【0040】
当該分子標識物質としては例えば、ヌクレオチド鎖、抗体、抗原およびシクロデキストリン等が挙げられる。
【0041】
また、有機分子としては半導体ナノ粒子と分子標識物質とを結合できる有機分子であれば特に制限はないが、例えば、タンパク質中でも、アルブミン、ミオグロビンおよびカゼイン等、またタンパク質の一種であるアビジンをビオチンと共に用いることも好適に用いられる。上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着および化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0042】
具体的には、半導体ナノ粒子をメルカプトウンデカン酸で親水化処理した場合は、有機分子としてアビジンおよびビオチンを用いることができる。この場合親水化処理された当該ナノ粒子のカルボキシル基はアビジンと好適に共有結合し、アビジンがさらにビオチンと選択的に結合し、ビオチンがさらに分子標識物質と結合することにより生体分子蛍光標識剤(生体物質蛍光標識剤)となる。
【0043】
(蛍光標識剤とそれを用いた生体分子検出システム)
本発明の蛍光標識剤は、上記特徴を有することにより、当該蛍光標識剤を標的となる生細胞又は生組織に供給し、半導体ナノ粒子の放射線励起により放出される蛍光を検出することにより当該標的となる生細胞又は生体組織における生体分子を検出することを特徴とする生体分子検出システムに好ましく適応できる。
【0044】
標的(追跡)生体分子を有する生細胞もしくは生体組織に本発明に係る蛍光標識剤を添加することで、標的分子と結合もしくは吸着し、当該結合体もしくは吸着体に所定の波長の励起光(放射線)を照射し、当該励起光に応じて半導体ナノ粒子(蛍光半導体微粒子)から発生する所定の波長の蛍光を検出することにより、上記標的(追跡)生体分子の蛍光動態イメージングを行うことができる。すなわち、本発明に係る蛍光標識剤は、バイオイメージング法(生体物質を構成する生体分子やその動的現象を可視化する技術手段)に利用することができる。
【0045】
なお、励起のための放射線としては、ハロゲンランプ、タングステンランプなどの可視光からLED、近赤外レーザ光、赤外レーザ光、X線、γ線などが含まれる。
【0046】
〈分子・細胞イメージング法〉
本発明に係る半導体ナノ粒子は、標的(ターゲット)とする細胞組織の内部若しくは表面に存在する分子に特異的に反応するプローブ分子(探索用分子)を結合させて蛍光標識剤として使用することができる。
【0047】
本願において、「標的(ターゲット)」とは、半導体ナノ粒子の標的とする生体分子等をいい、例えば、組織および細胞で優先的に発現したりするタンパクであったり、細胞内のゴルジ体、核、膜タンパクなどである。なお、適当なターゲット物質としては、例えば、酵素および蛋白質、細胞表面受容体;核酸;脂質およびリン脂質を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明において、プローブ分子としては、生体内部の画像化、細胞内の物質動態計測等を目的として、標的(測定)物質に対応する適切なプローブ分子を採用することが好ましい。
【0049】
本発明に係る半導体ナノ粒子を利用した蛍光標識剤(生体分子蛍光標識剤)は、従来公知の種々の分子・細胞イメージング法に適用することができる。例えば、レーザインジェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法などによる分子・細胞イメージング法が挙げられる。これらの方法うち、レーザインジェクション法による分子・細胞イメージング法に適用することが好ましい。
【0050】
ここで、「レーザインジェクション法」とは、レーザ光を細胞に直接照射し、細胞に微細な穴を開けて遺伝子などの外来物質を導入する光学的方法をいう。
【0051】
「マイクロインジェクション法」とは、微細な針(マイクロピペット、マイクロシリンジ)を用いて空気圧で機械的に、細胞内に遺伝子などの外来物質を直接注入して導入する方法をいう。
【0052】
また、「エレクトロポレーション法」(「電気穿孔法」ともいう。)とは、細胞に電気的刺激を印加し、細胞の変形を誘起して細胞内に遺伝子などの外来物質を導入する物理的方法をいう。例えば、細胞懸濁液に数千V/cmの高電圧を数十マイクロ秒のパルスで与えた時に細胞膜に短時間生じる小孔を通して外液が取り込まれることを利用して、細胞外液にDNA等の注入したい試料を加えておき、これを細胞内に導入する方法である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0054】
(液相法によるSiナノ粒子蛍光体の調製)
トルエン200mlにテトラオクチルアンモニウムブロマイド(TOAB)3質量を溶解する。室温で攪拌しながらSiClを5ml滴下し、1時間後に、水素化リチウムアルミニウムをSiClの2倍モル滴下して還元反応させる。3時間後にメタノール40mlを添加して、余分な還元剤を失活させたのちに、アリルアミンを白金触媒とともに添加してから、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去する。メチルホルムアミドと純水で数回洗浄し、水100mlに分散しアミノ基により終端化されたSiナノ粒子蛍光体を得た。
【0055】
(Siナノ粒子蛍光体とポリエチレングリコール鎖との反応)
得られたアミノ基に終端化されたSiナノ粒子蛍光体に、表1及び表2に示す重量平均分子量の異なる2種類のエチレングリコール(NHS−PEG−maleimido(ピアス(株)、日油(株)))を添加し、12時間反応させた。重量平均分子量の異なる2種類のポリエチレングリコールは、合計の濃度が0.1mol/lとなるように添加した。その後、ゲルろ過クロマトグラフィーにより精製を行い、ポリエチレングリコール鎖を持つ本発明の試料No.2、4、5、及び6のSiナノ粒子蛍光体を得た。
【0056】
重量平均分子量が一種類のエチレングリコールのみを使用した以外は、上記同様にして比較資料1、3及び7を得た。
【0057】
(ポリエチレングリコールと生体結合物質の結合)
ポリエチレングリコールで修飾されたSiナノ粒子蛍光体に、終濃度1mmolとなるように葉酸を加え、さらに終濃度4mmolのとなるように1−エチル−3−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミドを添加し、24時間室温にて反応させ、その後、ゲルろ過クロマトグラフィーにより、未反応の葉酸を除去し、葉酸が結合したポリエチレングリコール鎖を持つSiナノ粒子蛍光体を得た。
【0058】
(葉酸結合率試験)
葉酸の結合率は、粒子濃度の揃った溶液のタンパク質濃度をBradford法により測定することにより求めた。また、表1及び表2には重量平均分子量5000のポリエチレングリコールを用いた場合を100%とした。
【0059】
(細胞取り込み試験)
葉酸受容体をもつHeLa(ヒト上皮癌)細胞株を播種し、次いで上記で得た標的剤を結合したナノ粒子蛍光体(標的剤試料)を200μg添加し、各細胞株をそれぞれ洗浄して回収した。
【0060】
蛍光顕微鏡を用いて、細胞へ取り込まれたナノ粒子蛍光体の発光を観察した。いずれも、細胞が発光し、ナノ粒子蛍光体が細胞に内在化したことが確認できた。
【0061】
さらに、フローサイトメトリーを使い、各細胞内に取り込まれたSiナノ粒子蛍光体の量を測定し、取り込み率を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1の結果から、本発明の試料重量平均分子量の異なる2つのポリエチレングリコール鎖を用いることにより、ナノ粒子の取り込み効率が高く、葉酸の修飾率の低いポリエチレングリコール鎖を持つSiナノ粒子蛍光体を得られたことがわかる。
【0065】
また、表2の結果から、重量平均分子量の異なる2つのポリエチレングリコール鎖のうち重量平均分子量の大きい化合物が、全体の中の20mol%以下10mol%以上の試料3、4、5、及び6であるとき、より細胞取り込み率の優れ、修飾率の低い半導体ナノ粒子標識剤を得られたことがわかる。
【0066】
以上の作成した試料の内、試料No.2、4、5、6を葉酸受容体のイメージングに用いた場合、比較例の試料No.1、3、7よりも、より一分子イメージングに近い葉酸受容体の動態観察が可能となった。また、試料No.5は細胞取り込み率に優れ、修飾率の最も低いため、最も一分子イメージングに近い動態を観察することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機表面修飾層を有するコア/シェル型半導体ナノ粒子を含有する半導体ナノ粒子標識剤であって、有機表面修飾層が重量平均分子量の異なる2種類以上5種類以下のポリエチレングリコール鎖から構成されることを特徴とする半導体ナノ粒子標識剤。
【請求項2】
前記半導体ナノ粒子標識剤は、ポリエチレングリコール鎖の末端に生体分子結合物質を持つことを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子標識剤。
【請求項3】
前記半導体ナノ粒子標識剤は、該半導体ナノ粒子が粒径の違いにより異なる励起波長及び蛍光を持つことを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子標識剤。
【請求項4】
前記重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール鎖の重量平均分子量の差が、1000以上50000以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子標識剤。
【請求項5】
前記重量平均分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコール鎖にあって、大きい重量平均分子量を有するポリエチレングリコール鎖が、ポリエチレングリコール鎖全体の20mol%以下10mol%以上含有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体ナノ粒子標識剤。

【公開番号】特開2010−112913(P2010−112913A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287443(P2008−287443)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】