説明

半導体ナノ粒子蛍光体

【課題】本発明は、発光波長の制御性に優れ、所望の発光色を得ることのできる半導体ナノ粒子蛍光体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の半導体ナノ粒子蛍光体は、単独では異なる量子効果を呈する2以上の発光領域と障壁領域とを有する半導体ナノ粒子蛍光体であって、前記2以上の発光領域が障壁領域によって隔てられるような積層構造を有し、前記2以上の発光領域が前記障壁領域を介して同じ量子準位を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子蛍光体に関する。さらに詳細には、コアおよび複数のシェルを有するコアシェル型の半導体ナノ粒子蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境危機への懸念が高まるなか、省エネルギー・リサイクルなど環境保全技術への取り組みが必要になっている。なかでも照明分野では、従来の管球型光源から環境性能に優れた半導体素子への代替えが検討されており、特に半導体ナノ粒子を蛍光体として用いた光源に注目が集まっている。
【0003】
半導体ナノ粒子中の材料の電子は、量子力学的な閉じ込め効果と表面状態によって、バルク状態では見られない特異な光学応答を示す。たとえば、バルク状態の半導体ではバンドギャップは材料により一定であるのに対し、ナノ粒子では体積によってバンドギャップが変化する。すなわち、発光波長を連続的に変化させることができるため、従来の希土類賦活型や有機色素を用いた蛍光体に比べて発光スペクトルの設計自由度が格段に高い。また、ナノ粒子の発光寿命はおよそ1から数十ナノ秒で、現在使われている蛍光体に比べて5桁ほども短く、吸収・発光のサイクルを素早く繰り返すことが出来るため、強い励起光に対しても耐久性の高い発光デバイスが得られる。更に、量子効果により吸収率と発光遷移確率が向上する効果が期待される。このように、半導体ナノ粒子は非常に明るい蛍光体として光電変換や有機ELデバイスや太陽電池への研究が盛んであり、新型発光材料として注目されている。
【0004】
このようにナノサイズの半導体粒子がもつ量子サイズ効果によってエネルギーギャップを制御し、所望の発光色を得る種々の蛍光体が知られている。例えば、特開2006−310131号公報(特許文献1)においては、(In1-xGax)P(ここで、0<x<1)で表される組成比を満たす半導体材料からなる蛍光体超微粒子を含んだ色変換膜が開示されている。特に、蛍光体超微粒子が内核(以下「コア」と記す)と外殻(以下「シェル」と記す)からなるいわゆるコアシェル構造においては、蛍光体超微粒子の物理的化学的特性を好ましく変化させることができる旨が記されている。このような蛍光体を、以下では「半導体ナノ粒子蛍光体」と統一して呼称する。
【0005】
半導体ナノ粒子蛍光体の発光波長を変化させるには、その粒子径を厳密に制御する必要がある。近年、合成技術の進展により、製造工程において発光波長のロット間再現性については向上してきたが、所望する任意の発光波長を得るための制御性についてはまだ多くの課題を残している。これは次のような理由による。
【0006】
図8に、InP半導体ナノ粒子の粒子径と、エネルギーギャップ波長(エネルギーギャップを波長に換算した値で、損失を考慮していないため、実際の発光波長とは若干のずれがある)の関係を理論計算によって求めた結果を示すが、人が視認できる数nm程度の波長を粒子径で制御しようとすると、0.1Å(1Å=0.1nm)の単位で粒子径を制御する必要がある。しかし、原子の半径が0.5Å〜2Å程度であることを考えればこれは現実的ではない。
【0007】
また、例えば非特許文献1に示されるように、所望する発光波長よりも長波長を呈する大きさの半導体ナノ粒子を合成し、表面を徐々にエッチングすることによって所望の粒子径に制御する手法がある。しかし、半導体ナノ粒子は高々数百個の原子から構成されており、所望の波長を得るためには数個〜数十個の精度でエッチング除去する原子の数を制御しなければならない。更に、上述のコアシェル構造においては、コア粒子を形成後エッチングを行って粒子径を調整した後にシェルを形成しなければならず、工程数およびコストの増大や、シェル形成の不均一による光学特性のばらつきが生じる。
【特許文献1】特開2006−310131号公報
【非特許文献1】「J. Chem. Phys. 123,084796(2005)」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、発光波長の制御性に優れ、所望の発光色を得ることのできる半導体ナノ粒子蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体は、単独では異なる量子効果を呈する2以上の発光領域と障壁領域とを有する半導体ナノ粒子蛍光体であって、前記2以上の発光領域が障壁領域によって隔てられるような積層構造を有し、前記2以上の発光領域が前記障壁領域を介して同じ量子準位を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の半導体ナノ粒子蛍光体において、上記2以上の発光領域は組成または体積の少なくとも一方が異なることが好ましい。
【0011】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体において、障壁領域の最大層厚は10nm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体において、コアおよびシェルは、B,Al,GaおよびInから選択される1種以上のIII族元素と、N,P,AsおよびSbから選択される1種以上のV族元素とを含むIII−V族化合物半導体を含むことが好ましく、更にIII族元素がAl,GaおよびInから選択され、かつV族元素がNおよびPから選択されることが好ましい。
【0013】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体の別の態様において、コアおよびシェルは、Be,Zn,CdおよびMgから選択される1種以上のII族元素と、O,S,SeおよびTeから選択される1種以上のVI族元素とを含むII−VI族化合物半導体を含むことが好ましく、更にII族元素がZnおよびMgから選択され、かつVI族元素がO,SおよびTeから選択されることが好ましい。
【0014】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体のさらに別の態様において、コアおよびシェルは、ZnおよびCdから選択される1種以上のII族元素と、Si,GeおよびSnから選択される1種以上のIV族元素と、PおよびAsから選択される1種以上のV族元素とを含むII−IV−V2族化合物半導体を含むことが好ましく、更にII族元素がZnであり、かつV族元素がPであることが好ましい。
【0015】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体のさらに別の態様において、コアおよびシェルは、CuおよびAgから選択される1種以上のI族元素と、Al,GaおよびInから選択されるIII族元素と、S,SeおよびTeから選択される1種以上のVI族元素とを含むI−III−VI2族化合物半導体を含むことが好ましく、更にVI族元素がSおよびTeから選択されることが好ましい。
【0016】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体において、発光領域の数は2であることが好ましい。また、発光領域の一つが積層構造のコアであることが好ましい。さらに、本発明の半導体ナノ粒子蛍光体において、前記積層構造の最外層が発光領域ではないことが好ましく、特に直鎖状あるいは樹状有機分子で被覆されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体は、2以上の発光領域が前記障壁領域を介して同じ量子効果を有することにより、各発光領域の単独の量子準位の中間の量子準位を有する半導体ナノ粒子蛍光体を得ることができるため、発光波長の制御性に優れ、温度や保持時間などの製造条件を精密にしても実現することができなかった所望の発光色を発する蛍光体を得ることができ、さらに高い発光効率を有する半導体ナノ粒子蛍光体を高い歩留まりで得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の半導体ナノ粒子蛍光体の実施の形態の一例を示す模式的な断面図である。図1に示す半導体ナノ粒子蛍光体100は、コア101表面に1層目の第1シェル102が被覆され、該第1シェル表面には2層目の第2シェル102が被覆されている。コア101と第2シェル103はいずれも励起光を吸収して発光する領域(発光領域)である(以下、コア101を第1発光領域、第2シェル103を第2発光領域と呼ぶことがある。)。一方、両発光領域の界面に形成された第1シェル102は、励起光を透過すると共にコア101(第1発光領域)および第2シェル103(第2発光領域)を空間的に分離する役目を果たす障壁領域である。コアおよびシェル(発光領域および障壁領域)はいずれも半導体材料で形成されており、コア101(第1発光領域)と第2シェル102(第2発光領域)は体積ないしは組成が異なる。
【0019】
本発明の作用を説明するための比較例として、発光領域を1つだけ有する半導体ナノ粒子蛍光体を図2および図3に示す。図2に示す比較例の半導体ナノ粒子蛍光体200はコア201と第1シェル202のみからなり、図1の半導体ナノ粒子蛍光体100のように第2シェル103(第2発光領域)を設けていない。一方、図3に示す比較例の半導体ナノ粒子蛍光体300は、図1の半導体ナノ粒子蛍光体100のようにコアを第1発光領域とせずに、中心まで第1シェル102(障壁領域)と同じ構造のコア302としている。
【0020】
図1と図2に示される半導体ナノ粒子蛍光体を比較すると、コア101とコア201(発光領域)は互いに同じ体積かつ同じ組成であり、第1シェル102とシェル202も互いに同じ体積かつ同じ組成である。図1と図3に示される半導体ナノ粒子蛍光体を比較すると、第2シェル103とシェル303(発光領域)は互いに同じ体積かつ同じ組成であり、コア302は体積が異なるものの102および202と同じ組成である。
【0021】
図4は、実施例1(図1の半導体ナノ粒子蛍光体100の構造を有する)、比較例1(図2の半導体ナノ粒子蛍光体200の構造を有する)および比較例2(図3の半導体ナノ粒子蛍光体300の構造を有する)の半導体ナノ粒子蛍光体を、同じ条件で励起し発光スペクトルを比較したものである。半導体ナノ粒子蛍光体200と300(比較例1、2)は、互いに体積ないしは組成が異なる発光領域を有しているので、その量子効果は互いに異なり、その結果発光スペクトルも異なっている。量子効果とは、電子の閉じ込めによって状態密度が離散化することに伴う物理的特性変化であり、ここでは主に粒子径が小さくなるにつれてバンドギャップエネルギーが増加する効果のことである。半導体ナノ粒子蛍光体100(実施例1)は、両方の発光領域を有しているにもかかわらずそのスペクトルは比較例1、2の足し合わせにはならず、比較例と略同じスペクトル幅を保ちながら波長ピークのみが両者の中間にシフトしている。
【0022】
これは、半導体ナノ粒子蛍光体100において、第1発光領域101と第2発光領域103は独立して発光しているのではなく、励起光によって発生した電子の波動関数が障壁領域102をトンネルして両発光領域の中間の量子準位を形成することにより、スペクトル形状を保ったまま波長ピークがシフトしたものと考えられる。量子準位とは、上述の量子効果によって形成される離散化したエネルギー準位のことである。このことにより、粒子径制御が極めて難しい半導体ナノ粒子蛍光体においても、発光波長の制御が容易となって所望の発光色が得られるのである。
【0023】
上記の比較例において、半導体ナノ粒子蛍光体200と300の各々の発光領域が略同じ量子効果を有する場合には、発光スペクトルも略同じとなり、障壁領域を介して両発光領域が量子的に結合しても波長シフト効果は生じない。ナノサイズの半導体材料においては、体積ないしは組成が量子効果を決定するので、本発明の半導体ナノ粒子蛍光体100において2つの発光領域は互いに体積ないしは組成が異なっている必要があり、特に組成が略同じで体積が異なっていることが好ましい。組成が略同じであれば、合成プロセスにおける条件変更が少なくなるなどの利点があるためである。
【0024】
本発明において、2以上の発光領域の組成が略同じで体積が異なっている場合は、ある一つの発光領域の体積を1としたときの他の発光領域の体積の比率が0.3〜0.8または1.2〜3.4であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜0.7または1.4 〜2である。
【0025】
本発明の効果を確実に得るためには、障壁領域の厚さが0.2〜10nmであることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜3nmである。10nmより厚いと、両発光領域における電子の波動関数が障壁領域をトンネルしにくくなり、発光領域が量子的に結合せず両発光領域のスペクトルの足し合わせになる。このような双峰性の発光スペクトルは単色性に劣るので、ディスプレイなどに要求される高い色再現領域を実現することが難しく、混色によっても任意の発光色を得られにくい。一方、0.2nmより薄くなる(原子2〜3層分より薄くなる)と、障壁領域を均一に形成することが難しくなるので両発光領域が空間的につながってしまい、所望の波長シフト効果が得られなくなる虞がある。
【0026】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体における発光領域および障壁領域の材料としては、種々の半導体材料を用いることができる。とりわけ、直接遷移型のバンド構造や可視光領域に等しいエネルギーギャップを実現できる等の好ましい発光材料として、以下が挙げられる。
【0027】
1)III−V族化合物半導体:III族元素とV族元素との化合物を含む半導体であって、III族元素にB,Al,Ga,Inのいずれかを含み、V族元素にN,P,As,Sbのいずれかを含む半導体。たとえば、BN,AlN,GaN,GaAlN,InN,InAlN,InP,InAlP,GaP,GaAlP、GaAs,GaAlAs,InAs,InAlAs,GaSb,GaAlSb,InSbおよびこれらの混晶などが挙げられる。特に、III族元素がAl,Ga,Inから選択され、かつV族元素がN,Pから選択される材料は、環境や人体に悪影響を及ぼす元素を含まないので好ましい。
【0028】
2)II−VI族化合物半導体:II族元素とVI族元素との化合物を含む半導体であって、II族元素にBe,Zn,Cd,Mgのいずれかを含み、VI族元素にO,S,Se,Teのいずれかを含む半導体。たとえば、BeSe,BeTe,BeS,CdTe,CdSe,CdS,ZnTe,ZnTe,ZnS,ZnO,MgO,CdO,CdZnO,ZnMgOおよびこれらの混晶などが挙げられる。特に、II族元素がZn,Mgから選択され、かつVI族元素がO,S,Teから選択される材料は、環境や人体に悪影響を及ぼす元素を含まないので好ましい。
【0029】
3)II−IV−V2型化合物半導体:II族元素とIV族元素とV族元素との化合物を含む半導体であって、II族元素にZn,Cdのいずれかを含み、IV族元素にSi,Ge,Snのいずれかを含み、V族元素にP,Asのいずれかを含む半導体。たとえば、CdSnP2,CdGeAs2,CdGeP2,CdSiAs2,CdSiP2,ZnSnSb2,ZnSnAs2,ZnSnP2,ZnGeAs2,ZnGeP2,ZnSiAs2などが挙げられる。特に、II族元素がZnであり、かつV族元素がPである材料は、環境や人体に悪影響を及ぼす元素を含まないので好ましい。
【0030】
4)I−III−VI2型化合物半導体:I族元素とIII族元素とVI族元素との化合物を含む半導体であって、I族元素にCu,Agのいずれかを含み、III族元素にAl,Ga,Inのいずれかを含み、VI族元素にS,Se,Teのいずれかを含む半導体。たとえば、AgInTe2,AgInSe2,AgInS2,AgGaTe2,AgGaSe2,AgGaS2,CuInTe2,CuInSe2,CuInS2,CuGaTe2,CuGaSe2,CuGaS2,CuAlTe2,CuAlSe2などが挙げられる。特に、VI族元素がS,Teから選択される材料は、環境や人体に悪影響を及ぼす元素を含まないので好ましい。
【0031】
発光領域とは、励起光のエネルギーを吸収して蛍光を発する半導体を含む部材の領域である。このような発光領域に用いられる半導体は、量子効果を有するサイズのナノ粒子においてそのエネルギーギャップが励起光のエネルギーを吸収できるような半導体から選択される。具体的な材料としては、InN,InGaN,InAlN,InP,InAlP,GaAs,InAs,InAlAs,GaSb,GaAlSb,InSb,BeSe,BeTe,CdTe,CdSe,ZnSe,ZnTe,CdO,CdZnO,CdSnP2,CdSnAs2,CdGeAs2,CdGeP2,CdSiAs2,ZnSnSb2,ZnSnAs2,ZnSnP2,ZnGeAs2,AgInTe2,AgInSe2,AgInS2,AgGaTe2,AgGaSe2,CuInTe2,CuInSe2,CuInS2,CuGaTe2,CuGaSe2,CuGaS2が挙げられ、これらのなかでも、InP、InAs、InN、InGaN、CdSe、CdTe、CuInS2、CuGaS2、ZnSnP2、InGaN、GaSb、InSb、ZnSe、ZnTeが好ましい。
【0032】
一方、障壁領域は、2以上の発光領域の間に介在して障壁の役割をなす部材の領域であり、励起光のエネルギーを透過する半導体からなるものである。このような障壁領域に用いられる半導体は、量子効果を有するサイズのナノ粒子において発光領域より大きなエネルギーギャップの半導体が選択される。具体的な材料としては、BN,GaN,AlN,GaAlN,GaP,GaAlP,AlAs,GaAlAs,BeS,CdS,ZnS,ZnO,MgO,ZnMgO,CdSiP2,ZnGeP2,ZnSiAs2,ZnSiP2,AgGaS2,AgAlTe2,AgAlSe2,AgAlS2,CuGaTe2,CuGaSe2,CuAlTe2,CuAlSe2,CuAlS2が挙げられ、これらのなかでも、InGaP、ZnS、AlN、GaN、GaP、AlAs、GaAlAs、ZnO、MgO、ZnMgO、CuAlS2、AgAlS2、AgGaS2、ZnSiP2が好ましい。
【0033】
また、発光領域と障壁領域は積層構造を形成するため、格子定数や結晶構造が近い同族の材料(上記1)〜4)の4種の半導体で同じ種類の材料)を選択することが好ましい。
【0034】
本発明において、発光領域は2つである必要はなく、障壁領域を介して多数積層することが出来る。障壁領域は多層構造であってもよい。また、必ずコアが発光領域である必要はなく、障壁領域と発光領域を交互に形成するのであれば、コアが障壁領域であってもよい。しかし、可視光領域において視認できる発光波長の精度は、2つの発光領域の中間の量子状態によってほぼ実現可能である。一方、積層数が多くなると工程数やコストが増大する。よって、発光領域の数は2であることが好ましい。
【0035】
更に、コアを第1発光領域とし、2層目のシェルを第2発光領域とすることが好ましい。発光領域は界面面積が小さいほど欠陥による失活が少なく、発光領域の体積制御はシェルよりもコアの方が容易であることなどから、多層構造では外殻側ほど発光効率が低下し、特性ばらつきも大きくなる虞があるためである。
【0036】
2以上の発光領域は、単独での量子効果が外殻側ほど大きいことが好ましい。すなわち、外殻側ほど体積が小さいかあるいはエネルギーギャップが大きくなるような組成を有することが好ましい。本発明の発光領域の体積は非常に小さく且つ半導体材料で構成されているため、高い効率で発光している状態では、余剰な励起光は透過されてコア方向へ到達しやすくなり、コア側と外殻側で励起効率に差異は生じにくい。しかし、極く弱い励起においては主に外殻側のみで吸収発光が生じ、所望の波長シフト効果が得られにくくなる虞がある。
【0037】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体は、その最表面が発光領域以外で終端されていることが好ましく、障壁領域と同じ組成の半導体あるいはSiO2などの酸化物絶縁体やSi34などの窒化物絶縁体で終端されていてもよい。最表面は最も欠陥密度が大きいため、発光領域以外で終端する方が発光効率が向上する。
【0038】
更に最表面が有機分子で覆われていてもよい。有機分子は直鎖状あるいは樹状であることが好ましい。有機分子は、半導体ナノ粒子蛍光体を樹脂やガラス、溶液などの母材中に混合する場合に凝集を防止する役割を有するが、直鎖状あるいは樹状であれば、半導体ナノ粒子蛍光体表面を均一に覆うと共に嵩密度を上げることができる。また、有機分子の終端に好ましい官能基を用いることにより、半導体ナノ粒子蛍光体表面に強固に固着することができる。このことにより、母材中での安定性と分散性を向上させ、半導体ナノ粒子蛍光体間の距離を均一に保つことが出来るので、耐久性や発光のムラおよび自己吸収による発光効率の低下を防止することができる。
【0039】
このような有機分子としては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、トリアルキルフォスフィン、トリアルキルフォスフィンオキシド、ポリフォスフェート、チオール化合物、アルキルアミン、イミダゾール、二トリル、イソシアネート、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸、エステル類、有機珪素化合物、有機チタン化合物、nビニル高分子、ポリアルキレングリコールなどを用いることが出来る。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
実施例1では、InP/InGaP/InPのコアシェル構造による半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。
【0042】
(1)InPコア(第1発光領域)の形成
市販の溶媒蒸留装置(ビードレックス製)を用い、加熱槽でトリオクチルフォスフィン(TOP)溶媒に溶かした塩化インジウム(InCl3)およびトリオクチルフォスフィンオキシド(TOPO)を反応させた第1溶液を合成した後、第1溶液の温度を285℃に上昇させた。
【0043】
次に、TOP溶媒にトリメチルシリルフォスフィン(P(SiMe33)を溶解させてなる第2溶液を作製し、第2溶液を加熱槽中の第1溶液にシリンジで注入し、温度を285℃に保持した。30分後に冷却、精製および単離の操作を行ない、InPコア粒子を含むコロイド溶液を回収した。回収したコロイド溶液はフッ化水素酸(HF)エッチング溶液(重量比でHF:純水:n−ブタノール=1:2:17)中で6時間攪拌し、失活要因となるInPコア粒子表面の欠陥や異物を取り除いた後に有機溶媒で洗浄した。
【0044】
(2)InGaP第1シェル(障壁領域)の形成
InPコア粒子を含むコロイド溶液を再び加熱槽に入れ、塩化インジウムと塩化ガリウムの混合溶液(物質量比1:1)を加えて温度を285℃に上昇させた。前述の第2溶液を加熱槽にシリンジで注入して285℃に保持し、30分後に冷却、精製および単離の操作を行なって、InPコア表面にGaInPシェルを形成したコロイド溶液を回収した。回収したコロイド溶液は前述のエッチング処理を行った後に有機溶媒で洗浄した。
【0045】
(3)InP第2シェル(第2発光領域)の形成
InPコア/GaInPシェル粒子を含むコロイド溶液を三たび加熱槽に入れ、保持温度を300℃とした他はInPコア形成と同じ操作を行って、GaInPシェル表面にInPシェルを形成したコロイド溶液を回収した。回収したコロイド溶液は前述のエッチング処理を行った後に有機溶媒で洗浄した。
【0046】
以上の操作により、図1の構造を有する本発明の半導体ナノ粒子蛍光体100が得られた。
【0047】
透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を用いて構造および組成を確認した結果は次の通りであった。
【0048】
【表1】

【0049】
また、TEM観察では、チャージアップ現象により最表面に有機分子が固着している可能性が示唆され、質量分析の結果TOPOと確認された。
【0050】
<比較例1>
比較例1として、InP第2シェルの形成を行わなかった他は実施例1と同様にして半導体ナノ粒子蛍光体を形成した。TEM観察およびEDX分析の結果、この半導体ナノ粒子蛍光体は図2の構造を有し、組成および体積は表1のコアおよび第1シェルと同じであった。また、比較例1においても最表面にTOPOの修飾が認められた。
【0051】
<比較例2>
比較例2として、コア粒子をInPではなくInGaPで形成し、その粒子径を3.5nmとした後にInPシェルを形成した他は実施例1と同様にして半導体ナノ粒子蛍光体を形成した。TEM観察およびEDX分析の結果、この半導体ナノ粒子蛍光体は図3の構造を有し、InPシェルの組成および体積は表1の第2シェルと同じであった。また、比較例2においても最表面にTOPOの修飾が認められた。
【0052】
<実施例1、比較例1、2の発光スペクトル>
実施例1、比較例1および2を波長ピーク450nmのInGaN青色発光ダイオード素子で照射し、半導体ナノ粒子蛍光体からの発光スペクトルのみを蛍光分光光度計で測定したところ、図4の結果が得られた。図4に示されるように、実施例1の半導体ナノ粒子蛍光体の発光スペクトルは単峰性を示し、比較例1と比較例2の間の波長ピークであることが確認された。この波長ピークを有する半導体ナノ粒子蛍光体は、比較例1および比較例2の構造では、温度や保持時間などの合成条件を精密に制御しても実現することが出来なかった。
【0053】
<比較例3>
比較例3として、第1シェル(障壁領域102)の層厚を20nmとした他は実施例1と同様にして半導体ナノ粒子蛍光体を形成した。
【0054】
波長ピーク450nmのInGaN青色発光ダイオード素子で照射し、半導体ナノ粒子蛍光体からの発光スペクトルのみを測定したところ、図5のような双峰性の発光スペクトルになった。
【0055】
<実施例2>
実施例2では、InP/ZnS/InAsのコアシェル構造による半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。
【0056】
(1)InPコア(第1発光領域)の形成
実施例1と同様にして、InPコア粒子を合成した。
【0057】
(2)ZnS第1シェル(障壁領域)の形成
InPコア粒子を含むコロイド溶液を再び加熱槽に入れて180℃に保持し、硫黄(S)とアセチルアセトナート亜鉛(ZnAcac)の混合溶液(物質量比1:1)をゆっくりと滴下しながら攪拌した。3時間後に冷却、精製および単離の操作を行なって、InPコア表面にZnSシェルを形成したコロイド溶液を回収した。回収したコロイド溶液は前述のエッチング処理を行った後に有機溶媒で洗浄した。
【0058】
(3)InAs第2シェル(第2発光領域)の形成
InPコア/ZnSシェル粒子のコロイド溶液を、実施例1における第1溶液と共に加熱槽に入れて加熱し、TOP溶媒中にトリメチルシリルアルシン(As(SiMe33)を溶解させてなる第2溶液を作製して、第2溶液を加熱槽にシリンジで注入し、温度を285℃に保持した。30分後、冷却、精製および単離の操作を行ない、ZnSシェル表面にInAsシェルを形成したコロイド溶液を回収した。その他の作製工程は実施例1と同様である。
【0059】
TEMおよびEDXを用いて構造および組成を確認した結果は次の通りであった。
【0060】
【表2】

【0061】
<比較例4>
比較例4として、InAs第2シェルの形成を行わなかった他は実施例2と同様にして半導体ナノ粒子蛍光体を形成した。TEM観察およびEDX分析の結果、この半導体ナノ粒子蛍光体は図2の構造を有し、組成およおび体積は表2のコアおよび第1シェルと同じであった。
【0062】
<比較例5>
比較例5として、コア粒子をInPではなくZnSで形成し、その粒子径を2.6nmとした後にInAsシェルを形成した他は実施例2と同様にして半導体ナノ粒子蛍光体を形成した。TEM観察およびEDX分析の結果、この半導体ナノ粒子蛍光体は図3の構造を有し、InAsシェルの組成および体積は表2の第2シェルと同じであった。
【0063】
<実施例2、比較例4、5の発光スペクトル>
実施例2、比較例4および5を波長ピーク450nmのInGaN青色発光ダイオード素子で照射し、半導体ナノ粒子蛍光体からの発光スペクトルのみを蛍光分光光度計で測定したところ、図6の結果が得られた。図6に示されるように、実施例2の半導体ナノ粒子蛍光体の発光スペクトルは単峰性を示し、比較例4と比較例5の間の波長ピークであることが確認された。この波長ピークを有する半導体ナノ粒子蛍光体は、比較例4および比較例5の構造では、温度や保持時間などの合成条件を精密に制御しても実現することが出来なかった。
【0064】
<実施例3〜6>
実施例3〜6では、実施例1の半導体ナノ粒子蛍光体の最表面を、表3に記載の金属アルコキシドを原料とする酸化物絶縁体で被覆した。
【0065】
まず、表3の原料欄に示す金属アルコキシド、エタノール、イオン交換水、12規定塩酸を重量比50:75:40:1.5で混合し、48時間、50℃で重合させた。重合してできたゲルをイオン交換水で5倍に希釈し5時間撹拌した。
【0066】
実施例1の半導体ナノ粒子蛍光体コロイド溶液に3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを添加して攪拌し、半導体ナノ粒子蛍光体表面を修飾している有機分子をシロキサンモノマーで置換し水溶性とした。これを上記ゲル水溶液に添加し、攪拌しながら温度を80℃に上昇させて20分間保持した後冷却し、イオン交換水で希釈して遠心分離器で沈殿物を分離し乾燥した。
【0067】
得られた沈殿物は、半導体ナノ粒子蛍光体表面が酸化物絶縁体で被覆されていることがTEM観察により確認された。
【0068】
実施例1、3〜6の半導体ナノ粒子蛍光体の量子収率を積分球で測定したところ、表3の結果が得られた。
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示されるように、最表面を発光領域以外の絶縁体で終端することにより、発光効率が向上することが確認された。
【0071】
<実施例7>
実施例7では、実施例1の半導体ナノ粒子蛍光体において、表面を修飾する有機分子として次式に示す樹状分子(デンドリマー)を用いた。式中、nは1〜5の整数を示す。
【0072】
【化1】

【0073】
上記デンドリマーをベンゼンに溶解させ、実施例1の半導体ナノ粒子蛍光体のコロイド溶液を作成後、コロイド溶液中にベンゼン溶液を滴下して24時間攪拌し、TOPOと置換した。
【0074】
実施例1と実施例7の半導体ナノ粒子蛍光体のコロイド溶液濃度(吸収率で規定)を変化させて量子収率を測定したところ、表4の結果が得られた。
【0075】
【表4】

【0076】
表4の結果より、デンドリマーで表面修飾した半導体ナノ粒子蛍光体は、溶液濃度が高くなっても量子収率が低下しないことがわかった。この理由は、デンドリマーが半導体ナノ粒子蛍光体表面を均一に覆うことで嵩密度が上がり、粒子同士の距離が長くなって自己吸収を防止することが出来るためであると考えられる。
【0077】
<実施例8>
実施例8では、InN/AlN/InGaNのコアシェル構造による半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。
【0078】
(1)InN(第1発光領域)の形成
酸素濃度1ppm未満の高気密グローブボックス内で、InCl3および窒化リチウム(Li3N)を質量比1:1の割合でトリオクチルアミン(TOA)溶媒に溶解した。この溶液を空気に触れないようにオートクレーブ合成装置のハステロイ製リアクタに注入し、350℃、2MPaの条件で3時間保持した。その後冷却、精製および単離の操作を行ない、InNコア粒子を含むコロイド溶液を回収した。回収したコロイド溶液は実施例1と同様のエッチング処理を施し、失活要因となるInNコア粒子表面の欠陥や異物を取り除いた後に有機溶媒で洗浄した。
【0079】
(2)AlN第1シェル(障壁領域)の形成
前記グローブボックス内で、三塩化アルミニウム(AlCl3)およびLi3Nを質量比1:1の割合でTOA溶媒に溶解した。この溶液をInNコア粒子を含むコロイド溶液に加え、再び前記オートクレーブ合成装置を用いて420℃、5MPaの条件で1時間保持した。その後冷却、精製および単離の操作を行ない、InNコア表面にAlNシェルを形成したコロイド溶液を回収した。回収したコロイド溶液は前述のエッチング処理を行った後に有機溶媒で洗浄した。
【0080】
(3)InGaN第2シェル(第2発光領域)の形成
前記高気密グローブボックス内で、GaCl3、InCl3およびLi3Nを質量比3:7:10の割合でTOA溶媒に溶解した。この溶液をInNコア/AlNシェル粒子を含むコロイド溶液に加え、三たび前記オートクレーブ合成装置を用いて320℃、1.6MPaの条件で5時間保持した。その後冷却、精製および単離の操作を行ない、AlNシェル表面にInGaNシェルを形成したコロイド溶液を回収した。回収したコロイド溶液は前述のエッチング処理を行った後に有機溶媒で洗浄した。
【0081】
以上の操作により、図1と同様の構造を有する本発明の半導体ナノ粒子蛍光体100が得られた。
【0082】
TEMおよびEDXを用いて構造および組成を確認した結果は次の通りであった。
【0083】
【表5】

【0084】
また、TEM観察では、チャージアップ現象により最表面に有機分子が固着している可能性が示唆され、質量分析の結果TOAと確認された。
【0085】
<比較例6>
比較例6として、InGaN第2シェルの形成を行わなかった他は実施例8と同様にして半導体ナノ粒子蛍光体を形成した。TEM観察およびEDX分析の結果、この半導体ナノ粒子蛍光体は図2の構造を有し、組成および体積は表5のコアおよび第1シェルと同じであった。また、比較例6においても最表面にTOAの修飾が認められた。
【0086】
<比較例7>
比較例7として、コア粒子をInNではなくAlNで形成し、その粒子径を3.5nmとした後にInGaNシェルを形成した他は実施例8と同様にして半導体ナノ粒子蛍光体を形成した。TEM観察およびEDX分析の結果、この半導体ナノ粒子蛍光体は図3の構造を有し、In0.7Ga0.3Nシェルの組成および体積は表5の第2シェルと同じであった。また、比較例7においても最表面にTOPOの修飾が認められた。
【0087】
<実施例8、比較例6、7の発光スペクトル>
実施例8、比較例6および7を波長ピーク450nmのInGaN青色発光ダイオード素子で照射し、半導体ナノ粒子蛍光体からの発光スペクトルのみを蛍光分光光度計で測定したところ、図7の結果が得られた。図7に示されるように、実施例8の半導体ナノ粒子蛍光体の発光スペクトルは単峰性を示し、比較例6と比較例7の間の波長ピークであることが確認された。この波長ピークを有する半導体ナノ粒子蛍光体は、比較例6および比較例7の構造では、温度や保持時間などの合成条件を精密に制御しても実現することが出来なかった。
【0088】
<実施例9>
実施例9では、CdSe/ZnS/CdTeのコアシェル構造による半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。
【0089】
(1)CdSe(第1発光領域)の形成
実施例1の有機溶媒蒸留装置を用い、300℃のTOP溶媒中にジメチルカドミウム(Cd(Me)2)、トリオクチルフォスフィンセレナイド(TOP−Se)およびヘキサデシルアミン(HDA)をシリンジで注入した後、温度を200℃に急冷した。Cd(Me)2とTOP−Seは物質量比で4:3となるようにした。その後30分で250℃まで温度を上昇させ、10分間保持した後に冷却、精製および単離の操作を行ない、CdSeコア粒子を含むコロイド溶液を回収した。
【0090】
(2)ZnS第1シェル(障壁領域)の形成
実施例2と同様にして、CdSeコアの表面にZnS第1シェルを形成した。
【0091】
(3)CdTe第2シェル(第2発光領域)の形成
ZnSeコア/ZnSシェル粒子を含むコロイド溶液を三たび加熱槽に入れて180℃に保持し、Cd(Me)2、テルル酸ナトリウム(NaHTe)およびHDAをシリンジで注入した(物質量比1:1)後、温度を150℃に急冷した。Cd(Me)2とNaHTeは物質量比で2:1となるようにした。その後30分で200℃まで温度を上昇させ、10分間保持した後に、冷却、精製および単離の操作を行ない、ZnSシェル表面にCdTeシェルを形成したコロイド溶液を回収した。
【0092】
以上の操作により、図1と同様の構造を有する本発明の半導体ナノ粒子蛍光体100が得られた。なお、本実施例ではエッチング処理は施さなかった。
【0093】
TEMおよびEDXを用いて構造および組成を確認した結果は次の通りであった。
【0094】
【表6】

【0095】
また、TEM観察では、チャージアップ現象により最表面に有機分子が固着している可能性が示唆され、質量分析の結果HDAと確認された。
【0096】
実施例9の半導体ナノ粒子蛍光体を波長ピーク450nmのInGaN青色発光ダイオード素子で照射し、半導体ナノ粒子蛍光体からの発光スペクトルのみを測定したところ、波長ピーク490nm、半値幅80nmの単峰性の発光スペクトルを示した。
【0097】
<実施例10>
実施例10では、CuInS2/ZnS/CuGaS2のコアシェル構造による半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。
【0098】
(1)CuInS2コア(第1発光領域)の形成
実施例1の有機溶媒蒸留装置を用い、加熱槽でオレイルアミン(C1837N)溶媒にヨウ化インジウム(InI)とヨウ化銅(CuI)(物質量比1:1)およびTOPOを溶かした第1溶液を合成した後、第1溶液の温度を200℃に上昇させた。
【0099】
次に、TOP溶媒にエタンチオアミド(C25NS)を溶解させてなる第2溶液を作製し、第2溶液を加熱槽中の第1溶液にシリンジで注入し、温度を200℃に保持した。30分後に冷却、精製および単離の操作を行ない、CuInS2コア粒子を含むコロイド溶液を回収した。
【0100】
(2)ZnS第1シェル(障壁領域)の形成
実施例2と同様にして、CdSeコアの表面にZnS第1シェルを形成した。
【0101】
(3)CuGaS2第2シェル(第2発光領域)の形成
1837N溶媒にCuIおよびヨウ化ガリウム(GaI3)を溶かした第3溶液(物質量比1:1)を合成した後、CuInS2コア/ZnSシェル粒子を含むコロイド溶液と共に三たび加熱槽に入れて180℃に保持し、上述の第2溶液を作製して加熱槽にシリンジで注入し、温度を200℃に保持した。30分後、冷却、精製および単離の操作を行ない、ZnSシェル表面にCuGaS2シェルを形成したコロイド溶液を回収した。その他の作製工程は実施例1と同様である。
【0102】
以上の操作により、図1と同様の構造を有する本発明の半導体ナノ粒子蛍光体100が得られた。
【0103】
TEMおよびEDXを用いて構造および組成を確認した結果は次の通りであった。
【0104】
【表7】

【0105】
また、TEM観察では、チャージアップ現象により最表面に有機分子が固着している可能性が示唆され、質量分析の結果TOPOと確認された。
【0106】
実施例10の半導体ナノ粒子蛍光体を波長ピーク450nmのInGaN青色発光ダイオード素子で照射し、半導体ナノ粒子蛍光体からの発光スペクトルのみを測定したところ、波長ピーク520nm、半値幅100nmの単峰性の発光スペクトルを示した。
【0107】
<実施例11>
実施例11では、実施例10のコアシェル構造において、コア(第1発光領域101)をZnSnP2で構成した。
【0108】
実施例1の有機溶媒蒸留装置を用い、加熱槽でC1837N溶媒にヨウ化亜鉛(ZnI2)とヨウ化スズ(IV)(SnI4)(物質量比1:1)およびTOPOを溶かした第1溶液を合成した後、第1溶液の温度を200℃に上昇させた。
【0109】
次に、TOP溶媒にP(SiMe33を溶解させてなる第2溶液を作製し、第2溶液を加熱槽中の第1溶液にシリンジで注入し、温度を200℃に保持した。30分後に冷却、精製および単離の操作を行ない、ZnSnP2コア粒子を含むコロイド溶液を回収した。
【0110】
その後のZnS第1シェルおよびCuGaS2第2シェルの形成は、実施例10と同様である。
【0111】
以上の操作により、図1と同様の構造を有する本発明の半導体ナノ粒子蛍光体100が得られた。
【0112】
実施例11の半導体ナノ粒子蛍光体を波長ピーク450nmのInGaN青色発光ダイオード素子で照射し、半導体ナノ粒子蛍光体からの発光スペクトルのみを測定したところ、波長ピーク500nm、半値幅90nmの単峰性の発光スペクトルを示した。
【0113】
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の好ましい一実施形態の半導体ナノ粒子蛍光体を模式的に示す断面図である。
【図2】比較例の半導体ナノ粒子蛍光体を模式的に示す断面図である。
【図3】別の比較例の半導体ナノ粒子蛍光体を模式的に示す断面図である。
【図4】実施例1、比較例1および2の半導体ナノ粒子蛍光体の発光スペクトルである。
【図5】比較例3の半導体ナノ粒子蛍光体の発光スペクトルである。
【図6】実施例2、比較例4および5の半導体ナノ粒子蛍光体の発光スペクトルである。
【図7】実施例8、比較例6および7の半導体ナノ粒子蛍光体の発光スペクトルである。
【図8】InP半導体ナノ粒子の粒子径と、エネルギーギャップ波長の関係を表すグラフである。
【符号の説明】
【0115】
100,200,300 半導体ナノ粒子蛍光体、101,201,302 コア、102 第1シェル、103 第2シェル、202,303 シェル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単独では異なる量子効果を呈する2以上の発光領域と障壁領域とを有する半導体ナノ粒子蛍光体であって、
前記2以上の発光領域が障壁領域によって隔てられるような積層構造を有し、前記2以上の発光領域が前記障壁領域を介して同じ量子準位を有することを特徴とする半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項2】
前記2以上の発光領域は組成または体積の少なくとも一方が異なる、請求項1に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項3】
前記障壁領域の層厚が0.2〜10nmである請求項1または2に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項4】
前記発光領域および障壁領域は、B,Al,GaおよびInから選択される1種以上のIII族元素と、N,P,AsおよびSbから選択される1種以上のV族元素とを含むIII−V族化合物半導体を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項5】
前記III族元素がAl,GaおよびInから選択され、かつ前記V族元素がNおよびPから選択される、請求項4に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項6】
前記発光領域および障壁領域は、Be,Zn,CdおよびMgから選択される1種以上のII族元素と、O,S,SeおよびTeから選択される1種以上のVI族元素とを含むII−VI族化合物半導体を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項7】
前記II族元素がZnおよびMgから選択され、かつ前記VI族元素がO,SおよびTeから選択される、請求項6に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項8】
前記発光領域および障壁領域は、ZnおよびCdから選択される1種以上のII族元素と、Si,GeおよびSnから選択される1種以上のIV族元素と、PおよびAsから選択される1種以上のV族元素とを含むII−IV−V2族化合物半導体を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項9】
前記II族元素がZnであり、かつ前記V族元素がPである請求項8に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項10】
前記発光領域および障壁領域は、CuおよびAgから選択される1種以上のI族元素と、Al,GaおよびInから選択されるIII族元素と、S,SeおよびTeから選択される1種以上のVI族元素とを含むI−III−VI2族化合物半導体を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項11】
前記VI族元素がSおよびTeから選択される、請求項10に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項12】
前記発光領域の数が2である、請求項1〜11のいずれかに記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項13】
前記発光領域の一つが前記積層構造のコアである、請求項1〜12のいずれかに記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項14】
前記積層構造の最外層が発光領域ではない、請求項1〜13のいずれかに記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項15】
さらに、最表面が直鎖状あるいは樹状有機分子で被覆されている、請求項14に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−106119(P2010−106119A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278316(P2008−278316)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】