説明

半導体ナノ粒子蛍光体

【課題】コアとシェル層との格子不整合性を緩和することにより、ナノ粒子コアの結晶性を改善し、発光効率を高める。
【解決手段】本発明の半導体ナノ粒子蛍光体は、In1-xGaxA(x≧0、AはNもしくはP)からなるナノ粒子コアと、該ナノ粒子コアを被覆する積層構造シェルとを備え、該積層構造シェルは、2以上のシェル層を積層した構造であり、ナノ粒子コアからn層目のシェル層の組成はIn1-xnGaxnA(xn≧0、AはNもしくはP)であり、ナノ粒子コアからn層目のシェル層のガリウムの原子比をxnとし、ナノ粒子コアから(n+1)層目のシェル層のガリウムの原子比をxn+1とすると、x<xn<xn+1を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ナノ粒子蛍光体に関し、特に、積層構造シェルを備える半導体ナノ粒子蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子コア(以下、「結晶粒子」とも記する)を励起子ボーア半径と同程度に小さくすると、量子サイズ効果を示すことが知られている。量子サイズ効果とは、物質の大きさがボーア半径と同程度に小さくなると、その中の電子が自由に運動できなくなり、電子のエネルギーが特定の値しか取り得なくなることである。
【0003】
たとえば、励起子ボーア半径と同程度の結晶粒子から発生する光の波長は、その寸法が小さくなるほど短波長になる(非特許文献1参照)。非特許文献1に開示されているII−VI族化合物半導体からなる蛍光体は、信頼性および耐久性に問題があり、しかも、カドミウムやセレンといった環境汚染物質を使用しているため、これに代わる材料が必要とされてきた。
【0004】
このようなII−VI族化合物半導体に代わる材料として、窒化物系半導体の微結晶合成の試みがなされている(特許文献1参照)。特許文献1には、コアシェル構造の半導体ナノ粒子が開示されている。かかる半導体ナノ粒子は、それを構成する材料のバンドギャップエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーからなる被覆層で被覆することにより、その表面のエネルギー状態を安定化させて、発光効率を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−307679号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C.B.Murrayら(Journal of the American Chemical Society)1993年,115,p.8706-8715
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、引用文献1の半導体ナノ粒子は、コアとシェルとの間の格子不整合に起因して、多数の結晶欠陥が発生したり、コアやシェルの表面に凹凸が発生したりして、コアとシェルとの結晶性が著しく低下し、発光効率が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コアとシェルとの格子不整合性を緩和することにより、ナノ粒子コアの結晶性を改善し、もって発光効率を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体は、In1-xGaA(x≧0、AはNもしくはP)からなるナノ粒子コアと、該ナノ粒子コアを被覆する積層構造シェルとを備え、該積層構造シェルは、2以上のシェル層を積層した構造であり、ナノ粒子コアからn層目のシェル層の組成はIn1-xnGaxnA(xn≧0、AはNもしくはP)であり、ナノ粒子コアからn層目のシェル層のガリウムの原子比をxnとし、ナノ粒子コアから(n+1)層目のシェル層のガリウムの原子比をxn+1とすると、x<xn<xn+1を満たすことを特徴とする。
【0010】
ナノ粒子コアは、13族窒化物半導体からなることが好ましく、InNまたはInGaNからなることがより好ましい。
【0011】
上記の積層構造シェルは、その外表面に修飾有機分子が結合されてなるか、または修飾有機分子に被覆されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体は、上記のような構成を有することにより、ナノ粒子コアと積層構造シェルとの格子不整合性を緩和することができ、ナノ粒子コアの結晶性を改善し、もって発光効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の半導体ナノ粒子蛍光体の基本構造の一例を示す模式的な断面図である。
【図2】比較例1の半導体ナノ粒子蛍光体の構造を示す模式的な断面図である。
【図3】実施例1および比較例1の半導体ナノ粒子蛍光体の発光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。また、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0015】
<半導体ナノ粒子蛍光体>
図1は、本発明の半導体ナノ粒子蛍光体の基本構造を示す模式的な断面図である。本発明の半導体ナノ粒子蛍光体10は、図1に示されるように、In1-xGaxA(x≧0、AはNもしくはP)からなるナノ粒子コア11と、該ナノ粒子コア11を被覆する積層構造シェル12とを備え、該積層構造シェル12は、2以上のシェル層を積層した構造であり、ナノ粒子コア11からn層目のシェル層の組成はIn1-xnGaxnA(xn≧0、AはNもしくはP)であり、ナノ粒子コア11からn層目のシェル層のガリウムの原子比をxnとし、ナノ粒子コア11から(n+1)層目のシェル層のガリウムの原子比をxn+1とすると、x<xn<xn+1を満たすことを特徴とする。
【0016】
従来の半導体ナノ粒子蛍光体は、シェル層の格子定数と、ナノ粒子コアの格子定数との差が大きかったため、ナノ粒子コアとシェル層との間に結晶格子の歪みが生じていた。この歪みによって、ナノ粒子コアの結晶中に欠陥が発生し、発光効率が低下するという問題があった。
【0017】
本発明においては、上記のようにガリウムの原子比を調整した積層構造シェル12を形成することによって、ナノ粒子コア11から積層構造シェル12の表面に進むにつれて徐々に格子定数が小さくなる。このため、ナノ粒子コア11と積層構造シェル12との界面での格子不整合が緩和され、ナノ粒子コア11と積層構造シェル12との間に発生する格子定数の違いによる欠陥を減少させることができる。したがって、ナノ粒子コア11の結晶性が高められて、発光効率を向上させることができる。
【0018】
さらに、本発明の半導体ナノ粒子蛍光体10は、図1に示すように、積層構造シェル12の外表面を修飾有機分子13で被覆されてなることが好ましい。このように積層構造シェル12を修飾有機分子13が被覆することにより、積層構造シェル12の表面での励起エネルギーの失活を抑えることができ、発光効率を向上させることができる。
【0019】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体10は、0.1nm以上100nm以下の平均粒子径であることが好ましく、0.5nm以上50nm以下の平均粒子径であることがより好ましく、さらに好ましくは1nm以上20nm以下の平均粒子径である。このような平均粒子径の半導体ナノ粒子蛍光体10を用いることにより、ナノ粒子コア11の表層で励起光の散乱を抑制することができ、ナノ粒子コア11に励起光を吸収させることができる。本発明の半導体ナノ粒子蛍光体10は、X線回析測定のスペクトル半値幅から通常2〜6nm程度の平均粒子径と見積もられる。
【0020】
半導体ナノ粒子蛍光体10の平均粒子径が0.1nm未満であると、粒子径が小さすぎることにより、凝集が生じやすく、100nmを超えると、励起光が散乱することにより、発光効率が低下するため好ましくない。
【0021】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体10に対し、励起光を照射すると、ナノ粒子コア11および/または積層構造シェル12が励起光のエネルギーを吸収する。ここで、ナノ粒子コア11の平均粒子径は、量子サイズ効果を有する程度に小さいので、ナノ粒子コア11は離散化した複数のエネルギー準位をとり得るが、一つの準位になる場合もある。
【0022】
かかるナノ粒子コア11および/または積層構造シェル12で吸収して励起された光エネルギーは、ナノ粒子コア11の伝導帯の基底準位と価電子帯の基底準位との間で遷移し、そのエネルギーに相当する波長の光を発光する。このとき積層構造シェル12は、ナノ粒子コア11における励起キャリアの閉じ込め効果に寄与し、発光効率を向上させる。以下、本発明の半導体ナノ粒子蛍光体10の各構成を説明する。
【0023】
<ナノ粒子コア>
本発明において、ナノ粒子コア11は、積層構造シェル12を結晶成長させる時に成長の核となる。すなわち、ナノ粒子コア11の表面には、未結合手を有する13族元素および15族元素が配列しており、その未結合手に積層構造シェル12の第1層目の第1シェル層1の原料となる元素が結合する。
【0024】
かかるナノ粒子コア11は、可視光を発光するバンドギャップ・エネルギを有する半導体であり、具体的にはIn1-xGaxA(x≧0、AはNもしくはP)からなるナノ粒子である。ここで、「ナノ粒子」とは、粒子の直径が数nm以上数千nm以下のものをいう。上記のナノ粒子コア11は、13族窒化物半導体からなることが好ましく、より好ましくはInNからなることである。かかるナノ粒子コア11の平均粒子径およびその混晶比を制御することにより、半導体ナノ粒子蛍光体10の発光波長を任意の可視光領域の波長に調整することができる。
【0025】
このようなナノ粒子コア11に用いられる材料は、InGaNまたはInGaP以外に意図しない不純物を含んでいてもよいし、1×1016cm-3以上1×1021cm-3以下の濃度であれば意図的に不純物を添加してもよい。ナノ粒子コア11に対し、意図的に不純物を添加する場合、2族元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、Zn、またはSiのいずれかをドーパントとして用いることが好ましく、これらの中でもMg、Zn、またはSiのいずれかをドーパントに用いることがより好ましい。
【0026】
上記のナノ粒子コア11に用いる材料のバンドギャップは、所望する半導体ナノ粒子蛍光体10の発光波長によっても異なるが、1.8eV以上2.8eV以下であることが好ましい。より具体的に説明すると、半導体ナノ粒子蛍光体10を赤色蛍光体として用いる場合、ナノ粒子コア11に用いられる半導体のバンドギャップは1.85eV以上2.5eV以下であることが好ましい。半導体ナノ粒子蛍光体10を緑色蛍光体として用いる場合、ナノ粒子コア11に用いられる半導体のバンドギャップは、2.3eV以上2.5eV以下であることが好ましい。半導体ナノ粒子蛍光体10を青色蛍光体として用いる場合、ナノ粒子コア11に用いられる半導体のバンドギャップは、2.65eV以上2.8eV以下であることが好ましい。
【0027】
本発明において、ナノ粒子コア11は、ボーア半径の2倍以下の平均粒子径であることが好ましい。これにより半導体ナノ粒子蛍光体10の発光強度を極端に向上させることができる。ここで、「ボーア半径」とは、励起子の存在確率の広がりを示すもので、下記の数式(1)で表される。
【0028】
y=4πεh2・me2・・・式(1)
ここで、式(1)中の各記号はそれぞれ、y:ボーア半径、ε:誘電率、h:プランク定数、m:有効質量、e:電荷素量である。この数式に基づいてボーア半径を算出すると、GaNのボーア半径は、3nm程度であり、InNのボーア半径は7nm程度である。
【0029】
ナノ粒子コア11の平均粒子径が励起子ボーア半径の2倍以下になると、量子サイズ効果により光学的バンドギャップが広がる傾向がある。この場合でも、ナノ粒子コア11を構成する材料のバンドギャップは、上述の範囲内であることが好ましい。
【0030】
上記のナノ粒子コア11の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて、高倍率の観察像でナノ粒子コア11の格子像を直接観察することによって算出することができる。
【0031】
<積層構造シェル>
本発明において、積層構造シェル12は、2以上のシェル層を積層した構造のものである。かかる積層構造シェル12は、ナノ粒子コア11の結晶構造を引き継いで、ナノ粒子コア11の表面に形成されるものであるため、それぞれのシェル層が互いに化学結合している。このような積層構造シェル12において、ナノ粒子コアからn層目のシェル層の組成はIn1-xnGaxnA(xn≧0、AはNもしくはP)と表される。そして、ナノ粒子コア11からn層目のシェル層のガリウムの原子比をxnとし、ナノ粒子コア11から(n+1)層目のシェル層のガリウムの原子比をxn+1とすると、x<xn<xn+1を満たすことを特徴とする。
【0032】
上記式を満たすように、積層構造シェル12のガリウム原子比を調整することにより、上記の積層構造シェル12の最内のシェル層のガリウムの原子比が、ナノ粒子コア11のガリウムの原子比に近くなる。このため、ナノ粒子コア11と積層構造シェル12との結晶格子の歪みが少なくなる。これにより、ナノ粒子コアの結晶性が改善されて、発光効率を高めることができる。
【0033】
このような積層構造シェル12は、0.1〜10nmの厚みであることが好ましい。0.1nm未満であると、ナノ粒子コア11の表面を十分に被覆できず均一な保護層を形成しにくい。一方、10nmを超えると、積層構造シェル12を均一に作ることが難しくなり欠陥が増え、原材料コストの面においても望ましくない。なお、積層構造シェル12は、ナノ粒子コア11を一部もしくは全部を被覆するものであるが、その厚みは必ずしも均一である必要はなく、厚みに分布があってもよい。かかる積層構造シェル12の厚みは、X線回析によって測定することができる他、TEMを用いて、高倍率の観察像で格子像を観察することによっても見積もることができる。
【0034】
本発明において、積層構造シェル12は、InGaNまたはInGaPのいずれかからなることが好ましい。このような積層構造シェル12は、意図しない不純物を含んでいてもよいし、1×1016cm-3以上1×1021cm-3以下の低濃度であれば意図的に不純物を添加してもよい。意図的に不純物を添加する場合、2族元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、Zn、またはSiのいずれかをドーパントとして用いることが好ましく、これらの中でもMg、Zn、またはSiのいずれかをドーパントに用いることがより好ましい。
【0035】
<修飾有機分子>
本発明において、積層構造シェル12の外表面に修飾有機分子13が結合されてなるか、または積層構造シェル12が修飾有機分子13に被覆されてなることが好ましい。このように修飾有機分子13が半導体ナノ粒子蛍光体10の表面を被覆することにより、半導体ナノ粒子蛍光体10同士が隔離されやすくなり、分散性がよく、半導体ナノ粒子蛍光体10を応用する際に取り扱いが容易である。
【0036】
このような修飾有機分子13は、分子中に親水基および疎水基を持つ化合物を用いることが好ましい。これによりヘテロ原子が配位結合するような化学結合と、物理吸着による結合との双方で、積層構造シェル12を被覆する。
【0037】
修飾有機分子13は、積層構造シェル12の表面に配列する未結合手を有する金属元素と結合する。この構成により、積層構造シェル12の表面のダングリングボンドが効率的にキャッピングされる。このように修飾有機分子13が積層構造シェル12の表面をキャッピングすることにより、積層構造シェル12の表面欠陥が抑制されるため、半導体ナノ粒子蛍光体10の発光効率をさらに向上させることができる。
【0038】
ここで、本発明における修飾有機分子13は、窒素含有官能基、硫黄含有官能基、酸性基、アミド基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、水酸基、直鎖アルキル基等を有する構造のものを用いることができる。このような修飾有機分子13としては、たとえばヘキサメタリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、トリオクチルホスフィン、トリオクチルホスフィンオキシドなどを挙げることができる。
【0039】
このような修飾有機分子13は、疎水基としての非極性炭化水素末端と、親水基としてのアミノ基とを持つ化合物であるアミンであることが好ましい。修飾有機分子13の親水基がアミンである場合、該アミンが積層構造シェル12の表面の金属元素と強固に結合することができる。
【0040】
修飾有機分子13として有効なアミンは、たとえばブチルアミン、t−ブチルアミン、イソブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ラウリルアミン、オクチルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン等を挙げることができる。
【0041】
かかる修飾有機分子13は、ヘテロ原子を有することが好ましい。修飾有機分子13がヘテロ原子を有することにより、ヘテロ原子−炭素原子間での電気的極性が生じ、積層構造シェル12の外表面に修飾有機分子13を表面に強固に結合させることができる。ここで、「ヘテロ原子」とは、水素原子と炭素原子を除く全ての原子のことを意味する。上記の修飾有機分子13の厚さは、TEMを用いて高倍率の観察像を観察することにより見積もることができる。
【0042】
<半導体ナノ粒子蛍光体の製造方法>
本実施の形態の半導体ナノ粒子蛍光体の製造方法は、特に制限なくいかなる製造方法をも用いることができるが、簡便な手法であり、かつ低コストであるという観点から、化学合成法を用いることが好ましい。化学合成法は、生成物質の構成元素を含む複数の出発物質を媒体に分散させた上で、これらを反応させることにより目的の生成物質を得ることができる。このような化学合成法の具体例としては、ゾルゲル法(コロイド法)、ホットソープ法、逆ミセル法、ソルボサーマル法、分子プレカーサ法、水熱合成法、フラックス法等を挙げることができる。
【0043】
以下においては、液相での化学的な合成を利用するホットソープ法によって半導体ナノ粒子蛍光体を製造する方法を説明する。ホットソープ法は、化合物半導体材料からなるナノ粒子コアを製造するのに好適である。
【0044】
(ナノ粒子コアを合成するステップ)
まず、ナノ粒子コア11を液相合成する。たとえばInNからなるナノ粒子コア11を製造する場合、フラスコなどに合成溶媒として1−オクタデセンを満たし、トリス(ジメチルアミノ)インジウムと、ヘキサデシルアミン(HDA)とを混合する。この混合液を十分に攪拌した後、合成温度180〜500℃で反応を行なうことにより、InNからなるナノ粒子コア11にHDAからなる修飾有機分子が結合する。なお、修飾有機分子は、後述する積層構造シェルを成長させた後に溶液中に添加してもよい。
【0045】
ここで、ホットソープ法に用いられる合成溶媒は、炭素原子および水素原子からなる化合物溶液(以下、「炭化水素系溶媒」という。)を用いることが好ましい。炭化水素系溶媒以外の溶媒を合成溶媒として用いると、合成溶媒中に水や酸素が混入してしまうこととなり、ナノ粒子コア11が酸化するため好ましくない。ここで、炭化水素系溶媒としては、たとえばn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等を挙げることができる。
【0046】
ホットソープ法では、原理的に反応時間が長いほどナノ粒子コア11の粒子径は大きく成長する。よって、フォトルミネッセンス、光吸収、動的光散乱等で粒子径をモニタしながら、液相合成することにより、InNからなるナノ粒子コア11を所望のサイズに制御することができる。
【0047】
(積層構造シェルを合成するステップ)
上述のナノ粒子コア11を含む溶液に、積層構造シェル12の最内層である第1シェル層1の原材料である反応試薬を加え、加熱反応させることによってナノ粒子コア11表面に第1シェル層1を化学的に結合させる。これによりナノ粒子コア11の表面を第1シェル層1が覆い、該第1シェル層1の表面を修飾有機分子13が被覆した構造の半導体ナノ粒子蛍光体が分散された溶液が製造される。第1シェル層1は、ナノ粒子コア11の結晶構造を引き継いで成長されるため、ナノ粒子コア11は第1シェル層1からの応力を受ける。
【0048】
上記の第1シェル層を合成する工程に対し、ガリウムの組成比を大きくすることが異なる他は同様にして、シェル層を合成する工程を繰り返す。このようにしてナノ粒子コア11の表面に2層以上のシェル層が被覆した積層構造シェル12を形成する。このようにして形成された積層構造シェル12は、ナノ粒子コア11側から最表面に向けて徐々にガリウムの原子比が大きくなるため、格子定数は外殻にむけて徐々に小さくなっている。このため、ナノ粒子コア11が積層構造シェル12によって受ける応力は緩和され、積層構造シェル12の保護効果によって結晶欠陥が少ない半導体ナノ粒子蛍光体10を得ることができる。以上のステップによって本発明の半導体ナノ粒子蛍光体を得ることができる。
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
本実施例では、図1に示す構造の半導体ナノ粒子蛍光体をホットソープ法により作製した。具体的には、平均粒子径5nmのナノ粒子コア11に対し、表1に示す構成の積層構造シェル12を備える半導体ナノ粒子蛍光体10を作製した。なお、表1中の「格子定数」は、TEMによる格子像観察を行なうことにより確認(測定)することができる。以下において、その製造方法を具体的に説明する。
【0051】
まず、1mmolのヘキサデカンチオール(HDT)を含む30mlの1−オクタデセン溶液中で、1mmolのヨウ化インジウムと、10mmolのナトリウムアミドとを熱分解反応させることにより、InNからなるナノ粒子コア11を合成した。
【0052】
次に、上記のナノ粒子コア11を含む溶液に、第1シェル層1の原料として、0.4mmolのヨウ化インジウムおよび0.1mmolのヨウ化ガリウムと、5mmolのナトリウムアミドとを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、ナノ粒子コア11の表面に第1シェル層1を形成した。
【0053】
次に、第2シェル層2の原料として、0.3mmolのヨウ化インジウムおよび0.2mmolのヨウ化ガリウムと、5mmolのナトリウムアミドとを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第1シェル層1の表面に第2シェル層2を形成した。
【0054】
そして、第3シェル層3の原料として、0.2mmolのヨウ化インジウムおよび0.3mmolのヨウ化ガリウムと、5mmolのナトリウムアミドとを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第2シェル層2の表面に第3シェル層3を形成した。
【0055】
さらに、第4シェル層4の原料として、0.1mmolのヨウ化インジウムおよび0.4mmolのヨウ化ガリウムと、5mmolのナトリウムアミドとを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第3シェル層3の表面に第4シェル層4を形成した。
【0056】
最後に、第5シェル層5の原料として、0.5mmolのヨウ化ガリウムと、5mmolのナトリウムアミドとを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第4シェル層4の表面に第5シェル層5を形成した。かかる第5シェル層5の表面には、HDTからなる修飾有機分子13が被覆した構造となった。このように表面を修飾有機分子13が均一に被覆することにより、半導体ナノ粒子蛍光体同士は凝集されず、均一な大きさで分散性が高かった。
【0057】
このようにしてInN(ナノ粒子コア11)/In0.8Ga0.2N/In0.6Ga0.4N/In0.4Ga0.6N/In0.2Ga0.8N/GaN/HDT(修飾有機分子13)という構成の半導体ナノ粒子蛍光体10を作製した。なお、「A/B」と表記した場合、Bで被覆されたAを意味する。
【0058】
このようにして作製した半導体ナノ粒子蛍光体は、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収することがわかった。また、620nmの波長の光を発光するように半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒子径が調整されているため、赤色蛍光体として用いることができる。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例2)
本実施例では、ナノ粒子コアの粒子径および修飾有機分子が異なる他は、実施例1と同一の構造の半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。具体的には、平均粒子径4nmのナノ粒子コア11に対し、表1に示す構成の積層構造シェル12を備える半導体ナノ粒子蛍光体10を作製した。以下において、その製造方法を具体的に説明する。
【0061】
まず、1mmolのヘキサデシルアミン(HDA)を含む30mlの1−オクタデセン溶液中で、1mmolのヨウ化インジウムと、10mmolのナトリウムアミドとを熱分解反応させることにより、InNからなるナノ粒子コア11を合成した。続く、積層構造シェル12は、実施例1と同様の方法によって作製した。
【0062】
このようにして作製した積層構造シェル12の表面には、HDAからなる修飾有機分子13が被覆した構造となった。このようにしてInN(ナノ粒子コア)/In0.8Ga0.2N/In0.6Ga0.4N/In0.4Ga0.6N/In0.2Ga0.8N/GaN/HDAという構成の半導体ナノ粒子蛍光体10を作製した。このように表面を修飾有機分子13が均一に被覆することにより、半導体ナノ粒子蛍光体同士は凝集されず、均一な大きさで分散性が高かった。
【0063】
本実施例の半導体ナノ粒子蛍光体は、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収することがわかった。また、520nmの波長の光を発光するように半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒子径が調整されているため、緑色蛍光体として用いることができる。
【0064】
(実施例3)
本実施例では、ナノ粒子コアの組成および積層構造シェルの構造ならびに組成が異なる他は、実施例1と同一の方法によって半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。具体的には、平均粒子径5nmのナノ粒子コアに対し、表1に示す構成の積層構造シェルを備える半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。以下において、その製造方法を具体的に説明する。
【0065】
まず、1mmolのヘキサデカンチオール(HDT)を含む30mlの1−オクタデセン溶液中で、0.3mmolのヨウ化インジウムおよび0.7mmolのヨウ化ガリウムと、10mmolのナトリウムアミドとを熱分解反応させることにより、In0.3Ga0.7Nからなるナノ粒子コア11を合成した。
【0066】
次に、上記のナノ粒子コアを含む溶液に、第1シェル層の原料として、0.1mmolのヨウ化インジウムおよび0.4mmolのヨウ化ガリウムと、5mmolのナトリウムアミドとを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、ナノ粒子コアの表面に第1シェル層を形成した。
【0067】
次に、第2シェル層2の原料として、0.05mmolのヨウ化インジウムおよび0.45mmolのヨウ化ガリウムと、5mmolのナトリウムアミドとを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第1シェル層の表面に第2シェル層を形成した。
【0068】
最後に、第3シェル層の原料として、0.5mmolのヨウ化ガリウムと、5mmolのナトリウムアミドとを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第2シェル層の表面に第3シェル層を形成した。かかる第3シェル層の表面には、HDTからなる修飾有機分子が被覆した構造となった。このようにしてIn0.3Ga0.7N(ナノ粒子コア)/In0.2Ga0.8N/In0.1Ga0.9N/GaN/HDT(修飾有機分子)という構成の半導体ナノ粒子蛍光体10を作製した。このように表面を修飾有機分子が均一に被覆することにより、半導体ナノ粒子蛍光体同士が凝集せず、均一な大きさで分散性が高かった。
【0069】
本実施例の半導体ナノ粒子蛍光体は、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収することがわかった。また、480nmの波長の光を発光するように半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒子径が調整されているため、青色蛍光体として用いることができる。
【0070】
(実施例4)
本実施例では、ナノ粒子コアの組成および積層構造シェルの構造および組成が異なる他は、実施例1と同一の方法によって半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。具体的には、平均粒子径3nmのナノ粒子コアに対し、表1に示す構成の積層構造シェルを備える半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。以下において、その製造方法を具体的に説明する。
【0071】
まず、1mmolのヘキサデシルアミン(HDA)を含む30mlの1−オクタデセン溶液中で、1mmolの塩化インジウムと、1mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを熱分解反応させることにより、InPからなるナノ粒子コアを合成した。
【0072】
次に、上記のナノ粒子コアを含む溶液に、第1シェル層の原料として、0.4mmolの塩化インジウムおよび0.1mmolの塩化ガリウムと、0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、ナノ粒子コアの表面に第1シェル層を形成した。
【0073】
次に、第2シェル層の原料として、0.3mmolの塩化インジウムおよび0.2mmolの塩化ガリウムと、0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第1シェル層の表面に第2シェル層を形成した。
【0074】
そして、第3シェル層の原料として、0.2mmolの塩化インジウムおよび0.3mmolの塩化ガリウムと、0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第2シェル層の表面に第3シェル層を形成した。
【0075】
さらに、第4シェル層の原料として、0.1mmolの塩化インジウムおよび0.4mmolの塩化ガリウムと、0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第3シェル層の表面に第4シェル層を形成した。
【0076】
最後に、第5シェル層の原料として、0.5mmolの塩化ガリウムおよび0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第4シェル層の表面に第5シェル層を形成した。かかる第5シェル層の表面には、HDAからなる修飾有機分子が被覆した構造となった。このように表面を修飾有機分子が均一に被覆することにより、半導体ナノ粒子蛍光体同士は凝集されず、均一な大きさで分散性が高かった。このようにしてInP(ナノ粒子コア)/In0.8Ga0.2P/In0.6Ga0.4P/In0.4Ga0.6P/In0.2Ga0.8P/GaP(積層構造シェル)/HDA(修飾有機分子)という構成の半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。
【0077】
このようにして作製した半導体ナノ粒子蛍光体は、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収することがわかった。また、650nmの波長の光を発光するように半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒子径が調整されているため、赤色蛍光体として用いることができる。
【0078】
(実施例5)
本実施例では、ナノ粒子コアの組成および積層構造シェルの構造および組成が異なる他は、実施例1と同一の方法によって半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。具体的には、平均粒子径3nmのナノ粒子コアに対し、表1に示す構成の積層構造シェルを備える半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。以下において、その製造方法を具体的に説明する。
【0079】
まず、1mmolのヘキサデシルアミン(HDA)を含む30mlの1−オクタデセン溶液中で、0.7mmolの塩化インジウムおよび0.3mmolの塩化ガリウムと、1mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを熱分解反応させることにより、In0.7Ga0.3Pからなるナノ粒子コアを合成した。
【0080】
次に、上記のナノ粒子コアを含む溶液に、第1シェル層の原料として、0.3mmolの塩化インジウムおよび0.2mmolの塩化ガリウムと、0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、ナノ粒子コアの表面に第1シェル層を形成した。
【0081】
次に、第2シェル層の原料として、0.2mmolの塩化インジウムおよび0.3mmolの塩化ガリウムと、0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第1シェル層の表面に第2シェル層を形成した。
【0082】
そして、第3シェル層の原料として、0.1mmolの塩化インジウムおよび0.4mmolの塩化ガリウムと、0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第2シェル層の表面に第3シェル層を形成した。
【0083】
最後に、第4シェル層の原料として、0.5mmolの塩化ガリウムと、0.5mmolのトリス(トリメチルシリルホスフィン)とを含む3mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、第3シェル層の表面に第4シェル層を形成した。かかる第4シェル層の表面には、HDAからなる修飾有機分子が被覆した構造となった。このように表面を修飾有機分子が均一に被覆することにより、半導体ナノ粒子蛍光体同士は凝集されず、均一な大きさで分散性が高かった。このようにしてIn0.7Ga0.3P(ナノ粒子コア)/In0.6Ga0.4P/In0.4Ga0.6P/In0.2Ga0.8P/GaP/HDA(修飾有機分子)という構成の半導体ナノ粒子蛍光体を作製した。
【0084】
このようにして作製した半導体ナノ粒子蛍光体は、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として用いることができ、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収することがわかった。また、600nmの波長の光を発光するように半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒子径が調整されているため、赤色蛍光体として用いることができる。
【0085】
(比較例1)
比較例1では、平均粒子径5nmのInNからなるナノ粒子コア21の表面に積層構造シェルを被覆せずに、図2に示されるようにGaNからなるシェル層22を1層被覆したことが異なる他は、実施例1と同一の方法によって半導体ナノ粒子蛍光体20を作製した。図2は、比較例1の半導体ナノ粒子蛍光体の構造を模式的に示す断面図である。以下において、その製造方法を具体的に説明する。
【0086】
まず、1mmolのヘキサデシルアミン(HDA)を含む30mlの1−オクタデセン溶液中で、1mmolのトリス(ジメチルアミノ)インジウムを熱分解反応させることにより、InNからなるナノ粒子コア21を合成した。
【0087】
次に、上記のナノ粒子コア21を含む溶液に、シェル層22の原料として、1mmolのトリス(ジメチルアミノ)ガリウムと、1mmolのヘキサデシルアミンとを含む30mlの1−オクタデセン溶液を加えて反応させることにより、ナノ粒子コア21の表面にシェル層22を形成した。かかるシェル層22の表面には、HDAからなる修飾有機分子23が被覆した構造となった。このようにしてInN(ナノ粒子コア21)/GaN(シェル層22)/HDA(修飾有機分子23)という構成の半導体ナノ粒子蛍光体20を作製した。
【0088】
このようにして作製した半導体ナノ粒子蛍光体は、特に外部量子効率の高い405nmの発光を効率よく吸収し、620nmの波長の光を発光し、赤色発光を示した。
【0089】
<評価結果および考察>
実施例1〜5および比較例1で作製した半導体ナノ粒子蛍光体に対し、X線回折測定を行なった結果、このスペクトル半値幅によって見積もられた半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒子径は、表1の「粒子径」の欄に示す結果となった。このため、実施例1〜5の半導体ナノ粒子蛍光体は、量子サイズ効果を示し、高い発光効率を有することがわかった。なお、半導体ナノ粒子蛍光体の平均粒子径の算出には、以下のScherrerの式(2)を用いた。
B=λ/cosθ・R ・・・式(2)
【0090】
ここで、式(2)の各記号はそれぞれ、B:X線半値幅[deg]、λ:X線の波長[nm]、θ:Bragg角[deg]、R:粒子径[nm]を示す。
【0091】
実施例1〜5で得られた半導体ナノ粒子蛍光体は、ナノ粒子コア/積層構造シェル/修飾有機分子という構造であり、ナノ粒子コアから積層構造シェルの外殻に向けて徐々にガリウム組成が大きくなっている。このため、ナノ粒子コアから積層構造シェルの外殻に向けて格子定数が徐々に小さくなっており、ナノ粒子コア11の結晶性が高く、発光効率が高かった。
【0092】
これに対し、比較例1で得られた半導体ナノ粒子蛍光体は、ナノ粒子コアの格子定数とシェル層の格子定数との差が大きいため、ナノ粒子コアとシェル層との格子不整合によって応力を受け、ナノ粒子コアの結晶性が低く、発光効率も低かった。
【0093】
図3は、実施例1および比較例1の半導体ナノ粒子蛍光体の発光特性を示すグラフである。図3のグラフの縦軸は、半導体ナノ粒子蛍光体の赤色発光(波長620nm)の強度(単位はarbitrary unit)である。図3に示される結果から、実施例1の半導体ナノ粒子蛍光体は、比較例1のそれよりも、顕著に発光特性が優れていることが明らかである。
【0094】
本発明において上記で好適な実施形態を説明した半導体ナノ粒子蛍光体は、上記に限定されるものではなく、上記以外の構成とすることもできる。
【0095】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0096】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の半導体ナノ粒子蛍光体は、発光効率および分散性に優れるため、たとえば青色LED等に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0098】
1 第1シェル層、2 第2シェル層、3 第3シェル層、4 第4シェル層、5 第5シェル層、10,20 半導体ナノ粒子蛍光体、11,21 ナノ粒子コア、12 積層構造シェル、13,23 修飾有機分子、22 シェル層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In1-xGaxA(x≧0、AはNもしくはP)からなるナノ粒子コアと、
前記ナノ粒子コアを被覆する積層構造シェルとを備え、
前記積層構造シェルは、2以上のシェル層を積層した構造であり、
前記ナノ粒子コアからn層目の前記シェル層の組成はIn1-xnGaxnA(xn≧0、AはNもしくはP)であり、
前記ナノ粒子コアからn層目の前記シェル層のガリウムの原子比をxnとし、前記ナノ粒子コアから(n+1)層目の前記シェル層のガリウムの原子比をxn+1とすると、x<xn<xn+1を満たす、半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項2】
前記ナノ粒子コアは、13族窒化物半導体からなる、請求項1に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項3】
前記ナノ粒子コアは、InNからなる、請求項2に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項4】
前記ナノ粒子コアは、InGaNからなる、請求項2に記載の半導体ナノ粒子蛍光体。
【請求項5】
前記積層構造シェルは、その外表面に修飾有機分子が結合されてなるか、または修飾有機分子に被覆されてなる、請求項1〜4のいずれかに記載の半導体ナノ粒子蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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