説明

半導体パターンの計測方法及び計測システム

【課題】
計測対象パターンのSEM信号波形と,シミュレーションにて算出した断面形状と信号波形を関連づけるライブラリとのマッチングにより計測対象パターン断面形状を推定する手法において、対象パターンの近傍のパターン密度/配置の影響が考慮されるようにする。
【解決手段】
入射電子線の内部拡散長に基づいて周囲パターンの有無を考慮すべき領域のサイズを決定し,設計レイアウトデータを用いて,前記領域サイズ内のパターンの三次元情報を作成,この三次元情報を用いて,SEM信号波形と断面形状とを関連づけるライブラリを作成する。従来,計測対象パターン近傍のパターン密度/配置の違いが断面形状計測の誤差要因となっていたが,この方法によれば,必要十分な領域範囲内でのパターン密度/配置の情報がライブラリに反映されるため,計測精度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体デバイスのパターン寸法を計測する方法,特に、半導体パターンの三次元形状を計測する方法及びこれを実施するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスにおいてパターン寸法管理ツールとしても最も普及しているのは,走査電子顕微鏡(以下SEMと略す)を半導体計測用に特化した測長SEMである。図2に測長SEMの原理を示す。電子銃901から放出された電子ビーム910は収束レンズ902で細く絞られ,対物レンズ904で焦点を試料900の表面に合わせた状態で制御装置906で制御された偏向器903により試料900上を2次元的に走査される。電子ビーム910の照射によって試料900から発生した二次電子920を検出器905で捕らえて制御装置906で信号処理することで,CRT907に表示されているような電子線像が得られる。二次電子はパターンエッジ部でより多く発生するため,電子線像は,CRT907で表示されているように、パターンエッジに相当する部分が明るい画像となる。測長SEMにおいては,電子線像上でのエッジ間距離l(画素)に画素サイズp(nm/画素)を乗じる(l×p)ことにより寸法が求められる。
【0003】
測長SEMにおける測長処理の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1の開示例においては,測定対象配線を撮像した画像内の局所領域から,配線の信号波形を配線の長手方向に加算平均した投影波形を作成し,この波形において検出した左右の配線エッジ間の距離として配線寸法を算出している。
【0004】
エッジ間距離lを自動計算するためのエッジ位置検出方法として種々の方法が提案されているが,ここでは,代表的な手法として、(a)しきい値法,及び,(b)モデルベース計測法、について述べる。
【0005】
しきい値法の考え方は,例えば特許文献2に開示されている。図3で示すように,試料上に形成されたパターン930に対して電子ビームを走査して検出される二次電子の検出波形940において、パターン930の左右のエッジ931・932に相当する信号量の大きいピーク部分を,それぞれ左ホワイトバンド(左WB)941,右ホワイトバンド(右WB)945と呼ぶことにする。しきい値法は,左WB941と右WB945それぞれで,Max値942・946,Min値943・947を求め,これらを所定の比率th(%)で内分するしきい値レベル944・948を算出し,しきい値944・948と信号波形940との交差位置951・952をエッジ位置として検出し、左右エッジ間(951と952の間)の距離lを求める。
【0006】
一方、モデルベース計測法は、例えば非特許文献1に開示されている方法である。図4上図のようにパターンの断面形状モデル970を規定し(この例では,パターン高さH,ボトム幅W,側壁傾斜角SWA,ボトムの丸みBR,トップの丸みTRの5個のパラメータでパターン形状を表現),種々のパターンの断面形状(パターン形状を表すパラメータを変化させる)とSE M 信号波形の関係を予めシミュレーションにより計算し,模擬SEM波形のライブラリ980を作成しておく(図4下図の例では,SWAとTRを変化させている)。モデルベース計測法は,シミュレーションにより計算し作成・記憶させたライブラリを参照して,計測対象の断面形状を推定し,その結果に基づき左右にエッジ位置を定義する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−316115号公報
【特許文献2】特開昭55−72807号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. S. Villarrubia, A. E. Vladar, J. R. Lowney, and M. T. Postek, “Scanning electron microscope analog of scatterometry,” Proc. of the SPIE, Vol. 4689, pp. 304-312 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体パターンの微細化に伴い,パターンをより正確に計測する技術,すなわち,計測バイアス(実寸法と計測値の差)を低減する技術が求められている。
しかしながら,測長SEMにおいては,図5Aに示すように、試料上のパターン930に照射された電子線550がパターン930の内部551で拡散するため,パターン930から発生する2次電子552を検出することで得られるSEM信号波形553のピーク(WB)は広がりを有す。そして、図5B及び図5Cに示すように、SEM信号波形554・555の広がり方はパターン556・557の断面形状によって異なるため、前述のしきい値法では、パターンの断面形状に依存して変化する計測バイアスが発生してしまう。例えば、しきい値50%の条件でエッジ検出を行った場合,図5Bのようなテーパが大きいパターン556で検出されるエッジ位置558は、計測対象のボトム位置560より0.5 nm内側となるのに対し,図5Cのようなテーパが小さいパターン557で検出されるエッジ位置559は、計測対象のボトム位置560より2.5 nm外側であり,両者の計測バイアス値561・562は明らかに異なる。
【0010】
一方,前述のモデルベース計測法の場合では,計算で求めておいたパターンの断面形状とSEM信号波形の関係に基づいて計測を行うため,原理上,パターンの断面形状に依存した計測バイアスのずれの影響を受けることなく、寸法計測が実現できる。
【0011】
しかしながら,SEM信号波形を変化させる要因は,パターンの断面形状だけではない。パターン密度/配置によってもSEM信号波形は変化する。図6は,その状況をシミュレーションによって再現したものであり、実線で示すSEM信号波形601は,幅22nm,高さ50nmの矩形の断面形状を有する孤立ラインパターン603の信号波形を、破線で示すSEM信号波形602は,断面形状は同じであるが,パターンピッチが44nmのライン&スペースパターン604の信号波形を示しており、両者の信号波形は相違する。なお、ここではパターンおよび基板の材料はシリコン,加速電圧800Vの条件で計算を行った。このように、孤立ラインパターン603とライン&スペースパターン604のSEM信号波形601・602に差異が生じるのは,試料から放出された,反射電子(後方散乱電子)や二次電子が近隣のパターンへ再入射することで発生する二次電子が,最終的な二次電子強度(=信号波形)に寄与する度合いが異なるからである。
【0012】
半導体パターン計測においては,一般に,様々な密度/配置を有すパターンを計測することが求められる。上記のように,パターン断面形状が同じであっても,パターン密度/配置が異なると信号波形が変化するため,モデルベース計測法を適用したとしても,計測バイアスが十分に低減されないケースがあり得る。
【0013】
本発明の目的の一つは,パターン密度/配置によらず,計測バイアスが低減可能な半導体パターンの計測方法及びそのシステムを提供することにある。
【0014】
また,半導体パターンの微細化により,側壁傾斜角や,ボトムの丸まりといった微妙な断面形状変化がデバイス性能に及ぼす影響が相対的に高くなることから,従来の寸法計測に加え,三次元形状計測のニーズが高まっている。前記モデルベース計測法は,パターンの断面形状とSEM信号波形の関係に基づいて計測対象の断面形状を推定するので,原理上は上記のニーズに応えることが可能である。しかしながら,パターンの密度/配置の違いによって,断面形状の推定結果に誤差が生じるのは上記と同様である。
【0015】
本発明の他の目的は,パターン密度/配置の影響なく,パターンの三次元形状計測が可能な半導体パターンの計測方法及びそのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記いずれかの目的を達成するために、本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば次のとおりである。
(1)半導体パターンの計測方法であって、入力された設計データに基づいて指定された複数の計測位置各々について周辺のパターン配置を考慮すべき近傍領域を算出するステップと、前記算出された複数の計測位置各々の近傍領域を含む範囲内のパターン配置に基づいて、前記複数の計測位置のパターン配置の同一性を判定し、同一と判定された計測位置ごとにグループ化して分類するステップと、前記分類された計測位置のグループごとに、前記設計データから断面形状情報を取得してライブラリを作成するステップと、前記分類された計測位置のグループごとにSEM信号波形を取得し、前記取得したSEM信号波形と前記作成されたライブラリを用いてモデルベース計測を実行し、前記複数の計測位置各々の断面形状を推定するステップと、を有することを特徴とする半導体パターンの計測方法である。
(2)計測対象パターンの電子線信号波形を予め作成しておいた試料の断面形状と電子線信号波形とを関連づけるライブラリに当てはめることによって,試料の断面形状を推定する方法(モデルベース計測法)において,計測対象パターンの位置を設計データ上で指定し,入射電子線の加速電圧等によって決まる入射電子線の内部拡散長に基づいて,パターン配置を考慮すべき近傍領域のx方向のサイズxsとy方向のサイズysを自動決定し,計測対象パターンの位置を中心とするxs×ysの領域内について,設計データを用いて,基準三次元形状,及び,予め定めた予想変動範囲で基準三次元形状を様々に変化させた三次元形状情報を数値データでモデル化し,モデル化された三次元形状情報を電子線シミュレータに入力して模擬SEM信号波形を生成し,模擬SEM信号波形と形状情報と組み合わせてライブラリとして記憶するようにしたものである。さらにまた, 設計データを用いて,測対象パターンの位置を中心とするxs×ysの領域内におけるパターン配置の同一性判定を行い,同一と判定されたものについては,共通のライブラリを使用するようにしたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,パターン密度/配置によらず,計測バイアスが低減可能な半導体パターンの計測方法及びそのシステムを提供することが可能である。
また、本発明によれば,パターン密度/配置の影響なく,パターンの三次元形状計測が可能な半導体パターンの計測方法及びそのシステムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の寸法計測フローを示す図である。
【図2】測長SEMの構成例を示す図である。
【図3】測長SEMにおけるエッジ点検出方法(しきい値法)を示す図である。
【図4】モデルベース計測法の原理を示す図である。
【図5(A)】形状依存の計測バイアスの第一の説明図である。
【図5(B)】形状依存の計測バイアスの第二の説明図である。
【図5(C)】形状依存の計測バイアスの第三の説明図である。
【図6】パターン密度によってSEM信号波形が変化することを示す図である。
【図7】計測位置の三次元形状モデル化を行うためのGUIの例を示す図である。
【図8】パターンレイアウトの同一性判定の概念の説明図である。
【図9】モデルベース計測のためのライブラリ作成のフローを示す図である。
【図10】第1の実施の形態に係るシステム構成例を示す図でる。
【図11】第1の実施の形態に係る他のシステム構成例を示す図でる。
【図12】寸法計測結果の出力例を示す図でる。
【図13】本発明に係る第2の実施形態の寸法計測フローを示す図である。
【図14】第2の実施の形態に係るシステム構成例を示す図である。
【図15】第2の実施の形態に係る寸法計測結果の出力例を示す図である。
【図16】仮想パターンを考慮する必要がある場合の説明図である。
【図17】計測対象パターンがホールである場合の説明図である。
【図18】単純ラインパターンでない場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
本発明に係る寸法計測フロー及びこれを実施するシステム構成の第一の実施形態について図1及び図10を用いて説明する。なお,図1で示す各ステップが図10のいずれの構成要素で実行されるかを,図10の吹き出し内に示した。
【0020】
まず,本発明に係るシステムの一例は、図10に記載のように、LAN300と、これに接続された測長SEM301・302・303と,測長SEMのレシピを格納するSEMレシピデータベース304と、設計データを用いて計測対象の三次元形状のモデル化を行う計算機305と,半導体パターンの設計情報が格納されたデータベース306と,SEM波形ライブラリを格納するデータベース307と,測長SEMで撮像されたSEM像が格納されるデータベース308と,電子線シミュレーションを行う計算機309と,モデルベース計測を実行する計算機310と、を適宜用いて構成される。ここで、測長SEMは3つである必要はなく、台数はこれに限られない。また、各計算機は必要に応じてまとめて1台としてもよく、複数台で構成してもよい。
【0021】
続いて、このシステムにより実行される寸法計測フローの一例について、図1を用いて説明する。
本発明に係る寸法計測フローによれば、まず、上記システムのうち、三次元形状のモデル化を行う計算機305は、ユーザが選択した計測しようとするウェーハの設計データ情報、並びに、当該選択されたウェーハの設計データ上の計測したい位置情報を受け付ける(s10、s11)。ここでは、例えば、ユーザによって選択されたウェーハの設計データをGUIに表示し、ユーザが表示された設計データを見ながら計測したい位置を画面上で指定できるようにすればよい。さらに、計算機503は、計測したい位置の積層情報、すなわちパターンや基板の材質や厚さの情報のほか、電子顕微鏡の撮像条件(入射電子線の加速電圧など)に関する情報の入力を受け付ける(s12、s13)。全ての計測したい位置についての情報入力を受け付けると、続いて、計算機305では、設計データを参照し、各計測位置のパターンレイアウトの同一性判定処理(s14)が実行される。
【0022】
ここで、各入力情報を受け付けるためのGUI(グラフィック・ユーザ・インターフェース)の一例を図7に示す。このGUIには、例えば、測定したい設計データの個数を指定する個数入力部401、個数入力部401で指定された個数の設計データを入力する設計データ入力部402、設計データに関するが表示される。また、下層パターンとの位置関係が重要なケース,あるいは,ダブルパターニング用の設計データの場合は,複数個の設計データを入力することが必要であることから、計測位置のx・y座標入力部404や、x・y座標入力部404の入力を受け付けて該当箇所のパターンレイアウトを表示するパターンレイアウト表示部405が表示される。ここで、パターンレイアウト表示部405上に表示された計測位置104を適宜調整するためにポインティングデバイス406を利用するにしても構わない。この場合、ポインティングデバイス406での移動に応じて、x・y座標入力部404は連動する。さらに、ライン、ホールといった選択肢から所望のパターン種を選択するためのパターン選択部407や、パターン部や基板部の膜情報を入力する項目として、パターン材料の積層数入力部410、パターン材料の厚さ・材質入力部411、基板材料の下地総数入力部412、基板材料の厚さ・材質入力部413を表示する。ここで、膜の材料と膜厚の情報はSEMシミュレーションを実行するのに必要な情報であり、通常の一般的な設計データにはこれらの情報が含まれていないため、GUIでの膜情報の入力は必要である。なお、TCAD(テクノロジー・CAD)のデータが利用可能な場合には,そこから必要な情報を取り込んでもよい。また、必要に応じて、加圧電圧やスキャン方向、検出モードといった撮像条件入力部414を表示し、これらの情報を受け付けるようにしても構わない。
以上、入力された入力情報、及び、設計データに基づき、GUIでは確認用として計測パターンの断面形状415を表示する。
【0023】
ここで、図1に示すステップs14で実施する計測位置のパターンレイアウトの同一性判定処理方法について、図8を用いて説明する。実線で示した計測位置101〜106は、ユーザにより入力された計測位置を示し、各計測位置の周囲に破線で示された領域は、パターン配置を考慮すべき近傍領域を示す。前述の図6に示すように、SEM信号波形は、近隣パターンの影響を受けて変化するが,影響を考慮すべき範囲は有限である。この範囲は,図5Aに示したように,入射電子の拡散長に依存する。この拡散長は,主に入射電子の加速電圧と試料の材料によって変化する。従って、本発明においては,図7のGUIにて入力された撮像条件(414)と膜材料情報(410〜413)に基づき,予め作成されたテーブルを参照して近傍領域の範囲が算出される。この算出された近傍領域の範囲内(101〜106の破線で囲まれた領域)で,パターン幅,パターン間隔といったレイアウトが同一で,かつ,撮像条件が同一であれば,ステップs14において同一と判定される。例えば、図8の101〜106は撮像条件が等しいとすると、設計上は同一線幅のラインパターンであるが,ステップs14にて互いに同一と判定されるのは,102と104,及び,103と105であり、これらは同グループとして纏められる。103と105については、その近傍領域まで含めた範囲を左右反転(180度回転)を行えば,両者同一となる。本ステップs14にて判定された後のデータ構造は,図8の下表のように,各計測位置に対してライブラリ番号(同一と判定されたものには同一の番号)と,回転角の情報が付与されたものとなる。
【0024】
上記したパターンレイアウトの同一性判定ステップs14の後、計算機305では、図1に示す寸法計測フローの通り、計測対象の三次元形状のモデル化ステップs15を実行する。前述のように,モデルベース計測法においては,種々のパターンの断面形状とSEM信号波形の関係を予め電子線シミュレーションにより計算しておく必要がある。従って、本ステップでは,同一性判定ステップs14により同一とされたグループごとに、電子線シミュレーションを行う際に用いる入力断面形状データの作成が実行される。
【0025】
ここで、入力断面形状データの作成方法について、図9を用いて説明する。同図では,図8における計測位置103の場合を例にとって示す。三次元形状は,設計データから得られる平面的なパターンレイアウト情報(パターンサイズ,配置)とユーザからの入力により得られた膜厚情報を用いて計算される。計算されるのは、基準の三次元形状(設計通りの三次元形状)を,所定の変動範囲内で様々に変化させた三次元形状である。図9には三次元形状の一断面(A−A)のうち基準断面形状201と変形断面形状202の一例を示す。変形断面形状202は基準断面形状201の線幅と側壁傾斜角を変化させたものであるが,実際には,図4に示したような,断面形状を表現する種々のパラメータを様々に変化させた三次元形状情報を複数作成する。なお,図4では,パターン高さH,ボトム幅W,側壁傾斜角SWA,ボトムの丸みBR,トップの丸みTRで断面形状を表現しているが,これらのうちの一部を固定してもよいし,複数の台形の積み重ねなど,別の表現方法でもよい。これらのパラメータは適宜追加・削除して用いてもよい。
以上のように,これまで説明した図1に示す寸法計測フローの各ステップ(s10〜s15)は,図10に示すシステムの計算機305で実施され,その結果は,データベース306に格納される。
【0026】
計測対象の三次元形状のモデル化(s15)の後,図10に示す計算機309では、電子線シミュレーション(モンテカルロシミュレーション)にて,様々な三次元形状に対するSEM信号波形を計算し,形状情報と組み合わせたライブラリの作成が実行される(s16)。本ステップs16では、ステップs14にて同一と判定されたグループごとにライブラリが作成される。シミュレーションにあたって必要な加速電圧などの撮像条件は,図7のGUIにて入力された情報が適用される。なお,三次元形状の情報としては,前記近傍領域をカバーする範囲が必要であるが,SEM信号波形を計算する範囲(シミュレーションにおいて電子を打ち込む範囲)は,計測対象パターンの範囲でよい。例えば,図9において,三次元形状の情報は103の破線内全域について必要であるが,SEM信号波形の計算は210又は211の領域の範囲について行えば良い。様々な断面形状について算出されたSEM信号波形は,計算範囲の断面形状情報(=断面形状を表現するパラメータ群)と組み合わせて記憶され,モデルベース計測を行うためのライブラリとなる。ライブラリには,図8の表に示すように,個別の番号が付与される。
【0027】
本ステップs16は,図10に示す計算機309で実施され,作成されたライブラリはライブラリ番号と共にデータベース307に格納される。なお,電子線シミュレーションには時間がかかるため(例えば,1個のSEM信号波形を計算するのに1時間を要する場合,三次元形状のバリエーション数が100個なら100時間が必要),PCクラスタなどで構成された専用のシステムを設けることが望ましい。
【0028】
以上の各ステップs10〜s16の後,測長SEM(図10の301,302,303)にて電子線像を取得する(s17)。取得されたSEM像は,データベース308に格納され,計算機310にて,計測位置のグループごとに対応するライブラリを呼び出し、モデルベース計測が実行される(s18)。
なお、モデルベース計測のステップs18は、図11に示すように、測長SEMにて実施するようにしても良い。撮像開始に先立ち,図8の表に従って,データベース307から必要なライブラリを読み出しておき,画像を撮像するつど,通常の寸法計測と合わせてモデルベース計測を実行する。
【0029】
上記した各ステップにより計測された寸法測定結果の出力例を図12に示す。本例は,断面形状を台形でモデル化した場合で,ボトム,ミドル,トップの寸法と,左右の側壁傾斜角(左SWA,右SWA)が出力される。ここで、例えば、従来の寸法計測法の結果(この例ではしきい値法)と,モデルベース計測の結果とを同一画面上で併記することで,ユーザは,計測対象パターンの断面形状と共に,従来の寸法計測法による結果との差異を把握することができる。
【0030】
上記の通り、本発明によれば,従来のモデルベース計測では考慮されていなかった,パターン密度/配置の情報がライブラリに反映されるため,より高精度な断面形状計測が可能となる。具体的には,従来のモデルベース計測では,図8の表に示したような,ライブラリの使い分けがなされていないことが計測誤差要因となっていたのに対し,本発明では,SEM信号波形に影響が及ぶ範囲のパターンレイアウト情報が考慮されたライブラリが用いられるため,より正確な断面形状の推定が可能となる。
【0031】
また,本発明によれば,SEM信号波形に影響が及ぶ範囲が自動的に決定されるため,電子線像形成に関する知識がなくとも,パターン密度/配置が異なると信号波形が変化することに起因する計測誤差を生じさせない,適切なライブラリを作成することが可能となり,ひいては,その結果として,正確な断面形状の推定が可能となる。
【0032】
また,本発明によれば,同一システム上にある複数の測長SEM間でライブラリの共通化(ライブラリの使い回し)が可能となるため,多大な時間を要する電子線シミュレーションを,必要最小限の計算コストで実施することが可能となる。
【実施例2】
【0033】
本発明に係る寸法計測フロー及びこれを実施するシステム構成の第二の実施形態について図13及び図14を用いて説明する。
図13に示す通り、計算機305が受け付ける各入力情報(s10〜s13)並びにパターンレイアウトの同一性判定処理ステップ(s14)については実施例1と同様である。本実の形態では,設計データを用いて,パターンレイアウトの同一性の判定を行った後,さらにその設計データを用いて,測長SEMの撮像レシピの自動生成処理が実行される(s19)点で実施例1と相違する。測長SEMにおいて計測対象パターンの電子線像を取得するためには,計測パターンの位置座標以外に,アライメントパターンや,自動焦点検出用パターンの情報が必要である。ステップs19では、設計データを用いて,アライメントや自動焦点検出に適したパターンの自動選択が計算機305で実施され,図14のSEMレシピデータベース304に登録する。測長SEMにて電子線像を取得するステップ(s17)では,データベース304より登録済みの撮像レシピを読み出して実行される。
【0034】
本実施形態では,s10〜s14のステップにおいて,設計データを使用しており,また,撮像レシピに必要な撮像条件もs14で入力済みであるため,併せて,撮像レシピを自動生成すれば効率的といえる。また,レシピ作成が計算機上で行われるため,撮像レシピ作成のために測長SEMを使用する必要がなく,COO(Cost of Ownership)の点でも有利である。
さらにまた,撮像後のSEM画像に設計データを重ね合わせることによって,図15に示すように、(a)SEM像,(b)設計データ,(c)それらの重ね合わせ,(d)計測対象位置1501の推定断面形状,(e)推定断面形状の寸法値、などの出力も可能である。また,SEM像から抽出した輪郭線(図示せず)と重ね合わせることも可能である。
以上、説明した実施例1、実施例2では、計測対象パターンが、単層のラインパターンである例で示したが、図16に示すように下層パターンとの位置関係を考慮することが必要な場合もある。同図において,1601は上層パターン,1602は下層パターンである。この場合、図16に示す寸法計測箇所及びその近傍領域1603・1604のうち、2層が重なる寸法計測箇所1604では、2個の設計データ(上層と下層)が読み込まれるため,ステップs14で実施する同一性判定においては,各層の膜材料も同一性判定の基準とする。
【0035】
また、図17には,計測対象パターンがホールまたはピラー(円柱)の場合のライブラリの作成方法を示す。これらのパターンは設計データ上では矩形であるが,図7に示すGUIのパターン種欄407においてホールないしピラーが選択された場合は,ステップs15において三次元形状をモデル化する際は,ホールならば円形の凹パターンと,ピラーならば円形の凸パターンとする。
【0036】
また、図18は,三次元形状が単純なラインやホールでは表現できないような場合である。図8の計測位置106がこの場合に相当する。図18の例では,近傍範囲に,計測対象であるラインパターン部1802と,非計測対象である張り出した部位1803が含まれる。こうしたケースにおいて,非計測対象部位の形状様々に変化した場合もライブラリに含めようとすると,計算すべきSEM波形の個数が二乗倍程度に増加してしまうため(例えば,計測対象部位の形状バリエーションと非計測対象部位の形状バリエーションがそれぞれN個とすると,近傍範囲内での形状バリエーションはN×N個となる)計測対象部位のみ形状を変化させるようにする。
【0037】
以上、本発明者によってなされた発明の実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々偏向可能であることはいうまでもない。
【0038】
また、上記した本願において開示した発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に纏めれば、以下の通りである。
(1)本発明によれば,必要十分な領域範囲内でのパターン密度/配置の情報がライブラリに反映されるため,従来のモデルベース計測法の問題点であった,パターン形状が同じであっても,パターン密度/配置が異なると信号波形が変化することに起因する計測誤差が改善され,パターン密度/配置によらず,計測バイアスが低減可能となる。また,より正確なパターンの三次元形状計測が可能となる。
(2)また,本発明によれば,周囲パターンの存在状況を考慮すべき領域が自動的に決定されるため,電子線像形成に関する知識がなくとも,パターン密度/配置が異なると信号波形が変化することに起因する計測誤差を生じさせない,適切なライブラリを作成することが可能となる。
(3)また,本発明によれば,ライブラリの共通化(ライブラリの使い回し)が可能となるため,多大な時間を要する電子線シミュレーションの重複がなくなることで,より短時間でライブラリを作成することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
s10〜s19・・・寸法計測の各ステップ
101〜106・・・計測位置
201、202・・・モデル化された三次元形状の断面
301〜310・・・寸法計測システムの構成要素
401〜414・・・GUIの構成要素
501〜502・・・上層パターンと下層パターン
503〜504・・・寸法計測箇所
601、602・・・SEM信号波形
603・・・孤立ラインパターン
604・・・ライン&スペースパターン
901・・・電子銃
902・・・収束レンズ
903・・・偏向器
904・・・対物レンズ
905・・・検出器
906・・・制御装置
907・・・CRT
920・・・二次電子
930・・・パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体パターンの計測方法であって、
入力された設計データに基づいて指定された複数の計測位置各々について周辺のパターン配置を考慮すべき近傍領域を算出するステップと、
前記算出された複数の計測位置各々の近傍領域を含む範囲内のパターン配置に基づいて、前記複数の計測位置のパターン配置の同一性を判定し、同一と判定された計測位置ごとにグループ化して分類するステップと、
前記分類された計測位置のグループごとに、前記設計データから断面形状情報を取得してライブラリを作成するステップと、
前記分類された計測位置のグループごとにSEM信号波形を取得し、前記取得したSEM信号波形と前記作成されたライブラリを用いてモデルベース計測を実行し、前記複数の計測位置各々の断面形状を推定するステップと、
を有することを特徴とする半導体パターンの計測方法。
【請求項2】
請求項1記載の半導体パターンの計測方法であって、
さらに、前記設計データに基づいて、前記SEM信号波形を取得するためのレシピを生成するステップを有し、
前記SEM信号波形の取得は前記生成されたレシピに基づいて実行されることを特徴とする半導体パターンの計測方法。
【請求項3】
請求項1記載の半導体パターンの計測方法であって、
前記設計データには前記計測位置のパターンの材料及び厚さの情報を含むことを特徴とする半導体パターンの計測方法。
【請求項4】
計測対象パターンの電子線信号波形を予め作成しておいた試料の断面形状と電子線信号波形とを関連づけるライブラリに当てはめることによって,試料の断面形状を推定する半導体パターンの計測方法であって,
上記計測対象パターンの位置を設計データ上で指定するステップと,
入射電子線の内部拡散長に基づいて,パターン配置を考慮すべき近傍領域のx方向のサイズxsとy方向のサイズysを自動決定するステップと,
上記計測対象パターンの位置を中心とするxs×ysの領域内について,設計データを用いて,基準三次元形状,及び,予め定めた予想変動範囲で基準三次元形状を様々に変化させた三次元形状情報を数値データでモデル化するパターン形状モデル化のステップと,
上記モデル化された三次元形状情報を電子線シミュレータに入力して模擬電子線信号波形を生成し,模擬電子線信号波形と形状情報と組み合わせてライブラリとして記憶しておくライブラリ作成のステップとを有することを特徴とする半導体パターンの計測方法。
【請求項5】
計測対象パターンの電子線信号波形を予め作成しておいた試料の断面形状と電子線信号波形とを関連づけるライブラリに当てはめることによって,試料の断面形状を推定する半導体パターンの計測方法であって,
上記計測対象パターンの位置を設計データ上で指定するステップと,
設計データを用いて計測対象パターンの電子線像取得用レシピを自動作成するステップと,
入射電子線の内部拡散長に基づいて,パターン配置を考慮すべき近傍領域のx方向のサイズxsとy方向のサイズysを自動決定するステップと,
上記計測対象パターンの位置を中心とするxs×ysの領域内について,設計データを用いて,基準三次元形状,及び,予め定めた予想変動範囲で基準三次元形状を様々に変化させた三次元形状情報を数値データでモデル化するパターン形状モデル化のステップと,
上記モデル化された三次元形状情報を電子線シミュレータに入力して模擬電子線信号波形を生成し,模擬電子線信号波形と形状情報と組み合わせてライブラリとして記憶しておくライブラリ作成のステップとを有することを特徴とする半導体パターンの計測方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の半導体パターンの計測方法であって、
前記パターン形状モデル化のステップでは,基準三次元形状と予想変動範囲で基準三次元形状を様々に変化させた三次元形状情報を数値データでモデル化するのに先立ち,設計データを用いた,計測対象パターン間の前記パターン配置を考慮すべき近傍領域内でのパターン配置の同一性判定を行い,同一と判定された計測対象パターンは共通の三次元形状情報を割り当てて,上記共通の三次元形状情報を電子線シミュレータに入力して模擬電子線信号波形を生成し,上記共通の三次元形状情報と組み合わせて,共通のライブラリとして記憶することを特徴とする半導体パターンの計測方法。
【請求項7】
請求項4又は5記載の半導体パターンの計測方法であって、
前記パターン配置を考慮すべき近傍領域のサイズを決定するステップでは,さらに,電子線像の撮像条件を指定する過程を有し,該撮像条件における入射電子線の内部拡散長に基づいてパターン配置を考慮すべき近傍領域のサイズを決定することを特徴とする半導体パターンの計測方法。
【請求項8】
請求項4又は5記載の半導体パターンの計測方法であって、
前記計測対象パターンの位置を設計データ上で指定するステップでは,さらに,パターンと基板の膜材料と膜厚の情報を入力するステップを有し,
前記パターン形状モデル化のステップでは,上記膜材料と膜厚の情報を用いてパターン形状をモデル化することを特徴とする半導体パターンの計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図5(C)】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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