説明

半導体ボンディングワイヤ用スプールケース

【課題】記録用紙や表示用紙等の識別用部品をスプールケースに確実に添付できる手段を有し、かつその手段は、スプールケースを再利用するときの妨げとならない半導体ボンディングワイヤー用スプールケースを提供する。
【解決手段】半導体ボンディングワイヤ5の容器2および蓋1のうち少なくとも一方に、識別用部品7を着脱自在にケースに係合できる1個以上の係合部品4を取り付けることにより、スプールケース内の製品を識別するための識別用部品7をスプールケースに確実に添付できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子製造におけるワイヤボンディングに用いるファインワイヤが巻かれたスプールを収納するための、半導体ボンディングワイヤ用スプールケースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子上のチップ電極と外部電極との結線(以下、ボンディングという)には直径10〜50μm、なかんずく20〜30μmの金、アルミニウムあるいは銅といった極細の(ファイン)ワイヤが用いられている。このような極細のワイヤは、スプールに多層に巻かれて透明なスプールケースに収められ、製品として出荷される。
【0003】
図6は、従来のスプールケースの例を示している。スプールケースは、相互に嵌合する透明な弾性材からなる容器12と蓋11とから構成されている。容器12の底と、蓋11の内側面とには、同径の円錐台形状の突起が形成されており、それらは容器12と蓋11とを嵌合させると軸線を一致させて対向するようになっている。また、スプール13は、円筒の両側にフランジが形成された形状を有しており、その円筒の穴は、容器12および蓋11の円錐台形状の突起に嵌まるようになっている。ボンディングワイヤ15が巻かれたスプール13の両端を容器12および蓋11の円錐大形状の突起に嵌め込み、さらに容器12と蓋11とを嵌合することにより、スプール13は容器内で位置決めされた状態で密閉される。
【0004】
ところで、スプールケースは透明であるから、スプールケースの外からケース内に収納されたボンディングワイヤを観察することはできるが、ボンディングワイヤの線径は細く、またワイヤの組成が異なっていてもワイヤの色は同じであるため、製品を識別するために、製造日、製造ロット、線径、組成あるいは特性といった製品情報を印字したスプールケースラベルをスプールケースに貼付したり、またワイヤが巻かれるスプールの色で製品を区別したりして、製品識別の強化を行っている。
【0005】
このように、製品の識別を強化する理由は、半導体素子の製造現場において、同一エリアの中で異なる組成のワイヤを用いたり、異なる線径のワイヤを用いたり、あるいは一旦使用を開始した製品を使用途中で中止し、スプールケースに戻して保管庫で保存したりする場合があり、その場合に作業者が間違って仕様の異なる製品を使用するのを防止するためである。
【0006】
さらに半導体素子の製造現場においては、生産性の追求と、品質の確実な管理とを目的として、スプールケース上に貼付したラベルの余白に受け入れ検査情報を手書きしたり、あるいは顧客が必要とする情報を記入できるフォームであらかじめ作成された様式ラベルをスプールケースの余白に貼付して、必要な情報の確認あるいは記録をすばやく、しかも製品が収納されたスプールケース上で直接に行えるようにしている。
【0007】
しかしながら、国内外に共通して使用されている現行のプラスチックスプールケースでは、形状の制約から窪みのない平坦面は1面しか取れず、手書きで記録するためのスペースは限られるため、スプールケース上に貼付したラベルの他に、無塵紙に表形式で様式を印字したものを記録用紙あるいは表示用紙として用い、それらを粘着テープやホッチキスを使用してスプールケースへ添付して、製品の管理を行う顧客もあった。
【特許文献1】特開2005−101285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、スプールケースに添付する記録用紙や表示用紙と、スプールケースおよび内容物との対応を確実にするために、スプールケースの容器あるいは蓋の余白部分に粘着テープを用いて記録用紙や表示用紙を貼付したり、あるいはホッチキスで固定するなどして、記録用紙とスプールケースとが散逸しないようにしていた。
【0009】
しかし、粘着テープを用いた場合、スプールケースの再利用時に粘着テープの糊を除去するための洗浄工数が避けられず、また洗浄を行っても糊を除去しきれずスプールケースを再利用できないという問題が発生した。
【0010】
また、ホッチキスを用いた場合には、ホッチキスの針がケースを貫通するため、スプールケースがひび割れを起こして破損しやすくなり、スプールケースを再使用できないといった問題が発生した。
【0011】
すなわち、本発明の課題は、記録用紙や表示用紙等の識別用部品をスプールケースに確実に添付できる手段を有し、かつその手段は、スプールケースを再利用するときの妨げとならない半導体ボンディングワイヤー用スプールケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明は、半導体ボンディングワイヤ(5)が巻かれたスプール(3)を収納する半導体ボンディングワイヤ用スプールケースを、相互に嵌合する弾性材からなる容器(2)と蓋(1)とから構成し、該容器(2)および蓋(1)のうち少なくとも一方に、識別用部品(7)を着脱自在にケースに係合できる1個以上の係合部品(4)を取り付けている。
【0013】
また、前記容器(2)および蓋(1)のうち少なくとも一方に、前記係合部品(4)を着脱自在に取り付けることができる係合穴(6)を設け、かつ該係合穴(6)は容器内の空間の密閉度に影響しない位置に設けている。
【0014】
前記係合部品(4)を、輪の一部を開閉可能な輪状ないしコイル状の輪状部品としている。
【0015】
前記輪状部品を、カードリング(4b)、すなわち二つの半環状の部品の一端を回転可能に連結し他端を互いに係止可能に形成した部品としている。
【0016】
前記輪状部品を、弾性材を2巻きしたコイル状の二重リング(4c)としている。
【0017】
前記係合部品(4)を、塑性変形可能な板状のファスナー(4d)としている。
【0018】
前記係合部品(4)を、2穴用のファスナー(4e)としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の半導体ボンディングワイヤ用スプールケースによれば、スプールケースの容器および蓋の少なくとも一方に、任意の形状の識別用部品を着脱自在にスプールケースに係合できる係合部品が取り付けられているため、粘着テープやホッチキスを使用することなく、スプールケース内の製品を識別するための識別用部品をスプールケースに確実に添付できる。
【0020】
前記容器および蓋のうち少なくとも一方に、前記係合部品を着脱自在に取り付けることができる係合穴を設けたから、添付させる識別用部品に設けた係合穴と、スプールケースに設けた係合穴とを、ひもや結束バンド、後述する係合部品等を使用して係合することにより、識別用部品をスプールケースに確実に添付することが出来る。これにより、スプールケースの搬送中にスプールケースから識別用部品が脱落してしまうトラブルを防止できる。また、係合部品の再利用や交換も容易である。さらに、該係合穴は容器内の空間の密閉度に影響しない位置に設けられているから、スプールケース内にゴミや水分等が侵入することがなく、ボンディングワイヤが汚染されたり、ボンディングワイヤが酸化することもない。
【0021】
前記係合部品を、輪の一部を開閉可能な輪状ないしコイル状の輪状部品、例えば、カードリングまたは弾性材を2巻きした二重リングとしたから、作業者はひもを結ぶあるいは解く手間が無く、また結束バンドを切断して廃棄する無駄もなく、単純なリングの開閉あるいはリングの回転によって、容易に識別用部品の着脱が可能になる。
【0022】
前記係合部品を、塑性変形可能な板状のファスナー、例えば2穴用のファスナーとしたから、識別用部品としての紙、パウチされた紙、薄いボード状部品等に設けた係合穴へファスナーを貫通させてファスナーを折り曲げて係合し、識別用部品をスプールケースへ簡易に添付できる。
【0023】
上記いずれの場合にも、係合部品により識別用部品をスプールケースに添付するにあたり、ホッチキスの針によりスプールケースを損傷させたり、粘着テープの糊によりスプールケースを汚染させたりする心配がなく、また係合部品により識別用部品はスプールケースから容易に除去可能であるから、スプールケースを繰り返し再使用することも容易に出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
半導体ボンディングワイヤ用スプールケースの容器2および蓋1のうち少なくとも一方に、識別用部品7を着脱自在にケースに係合できる1個以上の係合部品4を取り付けることにより、スプールケース内の製品を識別するための識別用部品7をスプールケースに確実に添付できるようにした。以下、本発明の半導体ボンディングワイヤ用スプールケースついて、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、請求項1に係る発明の1実施例を示している。半導体ボンディングワイヤ用スプールケースは、相互に嵌合する透明な弾性材、例えばプラスチックからなる容器2と蓋1とから構成されている。容器2の底と、蓋1の内側面とには、同径の円錐台形状の突起が形成されており、容器2と蓋1とを嵌合させると軸線を一致させて対向するようになっている。また、スプール3は、円筒の両側にフランジが形成された形状を有しており、その円筒の穴は、容器2および蓋1の円錐台形状の突起に嵌まるようになっている。ボンディングワイヤ5が巻かれたスプール3の両端を容器2および蓋1の円錐台形状の突起に嵌め込み、さらに容器2と蓋1とを嵌合することにより、スプール3は容器内で位置決めされた状態で密閉される。
【0026】
本実施例では、係合部品4として、バネを利用したプラスチックピンチ4aがスプールケースの容器2の鍔部に接着剤もしくは溶着で固定されている。このプラスチックピンチ4aは、識別用部品7としての紙、パウチされた紙、プラスチックカード、薄いボード状の部品を直接狭持し、スプールケースと紙等とを係合する。また、ワイヤボンディング等で使用するセラミックキャピラリー等の小型部品をチャック式ポリ袋等へ入れ、該袋をプラスチックピンチ4aで狭持して、識別部材7と併せてスプールケースに係合することもできる。
【0027】
なお、係合部品4はプラスチック製である必要はなく、粉塵の発生が少なくかつ錆の発生が少なくなるようにメッキ、樹脂被覆、あるいは塗装等で金属表面が覆われた金属製のピンチを接着剤等でスプールケースに固定してもよい。また、係合部品4をスプールケースに複数個取り付けることで添付部品をより確実に係合することも出来る。
【実施例2】
【0028】
図2は、請求項2ないし請求項4に係る発明の1実施例を示している。スプールケースの蓋1の鍔部には、係合部品4を着脱自在に取り付けることができる係合穴6が設けられている。係合穴6の直径は約6mmであり、かつ係合穴6は容器内の空間の密閉度に影響しない位置に設けられている。
【0029】
係合部品4として、市販のポリプロピレン製のひも、市販の結束用バンドなどを用いることもできるが、本実施例では、輪の一部を開閉可能な輪状部品、具体的には、二つの半環状の部品の一端を回転可能に連結し他端を互いに係止可能に形成したカードリング4bを用いている。識別用部品7、例えば紙製カードに形成された係合穴7aに開いた状態のカードリングを通し、さらにスプールケースの係合穴6へ通してカードリング4bを閉じ、スプールケースに紙製カードを添付する。製造現場において、製品の検査情報や、製造年月日等の製品情報を追加したい場合には、添付した紙製カードに手書きで製品情報を記入しても良いし、新たな紙製カードに製品情報を印字等してスプールケースに追加添付してもよい。
【実施例3】
【0030】
図3は、請求項5に係る1実施例を示しており、係合部品4として、弾性材を2巻きした二重リング4cを用いた例である。なお、図2および図3ともに、スプールケースに係合穴6を一つ形成し、一つの係合部品4により識別用部品7をスプールケースに添付した例を示しているが、スプールケースに二以上の係合穴6を形成し、二以上の係合部品4により識別用部品7をスプールケースに添付してもよい。
【実施例4】
【0031】
図4は、請求項6および請求項7に係る発明の1実施例を示している。本実施例では、スプールケースの蓋1の鍔部に係合穴6を二個設け、係合部品4として塑性変形可能な板状のファスナー4dを用い(図4(a))、ファスナー4dの両端をそれぞれ添付したい識別用部品7の係合穴7aへ通した後、さらに係合穴6へ通し、ファスナー4dを折り曲げることでスプールケースと識別用部品7とを係合し、スプールケースに識別用部品7を添付する(図4(b))。
【実施例5】
【0032】
図5は、請求項6および請求項7に係る発明の他の実施例を示している。本実施例では、係合部品4として穴間隔80mmの2穴用ファスナー4eを用い、ファスナー4eを接着剤もしくは溶着でスプールケースの蓋1へ固定している(図5(a))。
【0033】
ファスナー4eはポリオレフィン系樹脂でコーティングされた薄厚鋼板であり、複数回の折り曲げにも耐えられる材質を利用している。識別用部品7としての紙、パウチされた紙、プラスチック製カード、薄いボード状の部品などに穴間隔80mmの市販のパンチで係合穴7aを開け、係合穴7aにファスナー4eを通し、ファスナー4eを折り曲げることでスプールケースと識別用部品7とを係合し、スプールケースに識別用部品7を添付する(図5(b))。
【0034】
ファスナー4eの穴間隔を60mmとすれば、キャッシュカードやクレジットカードなどで一般的に使用されているサイズのプラスチックカードを簡単にスプールケースに係合して添付でき、例えばICを埋め込んだカード、磁気テープやバーコードが印字されたカードも利用できるので、製品管理、流通管理、在庫管理等に便利である。
【0035】
なお、ファスナーは、2穴に限らず1穴のものをスプールケースの容器2または蓋1に固着して利用可能であるが、1穴の場合にはファスナーを通す穴よりも寸法の大きなファスナーに係合する治具がさらに必要になり、また該治具はスプールケースから独立する場合には紛失等の恐れがあるほか、該治具とファスナーの係合が複雑になるため、2穴の方が簡易である。
【0036】
以上説明したように、本発明は、スプールケースに製品を識別するための識別用部品を添付する場合に発生していた、粘着テープの糊の転写、ホッチキスによるスプールケースの破損といった問題を解決し、また識別用部品の添付が確実なうえ着脱が簡単であり、添付する識別用部品の大きさも自由で、さらにスプールケースを繰り返し利用できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の半導体ボンディングワイヤ用スプールケースの構成を示す斜視図である(実施例1)。
【図2】本発明の半導体ボンディングワイヤ用スプールケースの使用状態を示す斜視図である(実施例2)。
【図3】本発明の半導体ボンディングワイヤ用スプールケースの使用状態を示す斜視図である(実施例3)。
【図4】本発明の半導体ボンディングワイヤ用スプールケースの使用状態を示す斜視図である(実施例4)。
【図5】本発明の半導体ボンディングワイヤ用スプールケースの使用状態を示す斜視図である(実施例5)。
【図6】従来の半導体ボンディングワイヤ用スプールケースの使用状態を示す一部破断斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
1 蓋
2 容器
3 スプール
4 係合部品
4a プラスチックピンチ
4b カードリング
4c 二重リング
4d ファスナー
4e 二穴用のファスナー
5 ボンディングワイヤ
6 係合穴
7 識別用部品
7a 係合穴
11 蓋
12 容器
13 スプール
15 ボンディングワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ボンディングワイヤ(5)が巻かれたスプール(3)を収納するケースであって、相互に嵌合する弾性材からなる容器(2)と蓋(1)とから構成され、該容器(2)および蓋(1)のうち少なくとも一方に、識別用部品(7)を着脱自在にケースに係合できる1個以上の係合部品(4)が取り付けられていることを特徴とする半導体ボンディングワイヤ用スプールケース。
【請求項2】
前記容器(2)および蓋(1)のうち少なくとも一方に、前記係合部品(4)を着脱自在に取り付けることができる係合穴(6)が設けてあり、かつ該係合穴(6)は容器内の空間の密閉度に影響しない位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載の半導体ボンディングワイヤ用スプールケース。
【請求項3】
前記係合部品(4)は、輪の一部を開閉可能な輪状ないしコイル状の輪状部品であることを特徴とする請求項2記載の半導体ボンディングワイヤ用スプールケース。
【請求項4】
前記輪状部品は、カードリング(4b)であることを特徴とする請求項3記載の半導体ボンディングワイヤ用スプールケース。
【請求項5】
前記輪状部品は、弾性材を2巻きした二重リング(4c)であることを特徴とする請求項3記載の半導体ボンディングワイヤ用スプールケース。
【請求項6】
前記係合部品(4)は、塑性変形可能な板状のファスナー(4d)であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の半導体ボンディングワイヤ用スプールケース。
【請求項7】
前記係合部品(4)は2穴用のファスナー(4e)であることを特徴とする請求項6記載の半導体ボンディングワイヤ用スプールケース。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate