説明

半導体レーザ素子

【課題】出射光の遠視野像の水平広がり角を広げ、遠視野像におけるアスペクト比を小さくし、レーザ光を集光しやすい半導体レーザ素子を提供することである。
【解決手段】半導体レーザ素子は、活性層14上に順にp型クラッド層15とエッチングストッパ層16とリッジ1とを有し、更にリッジ1の両側に順に電流ブロック層17と電流ブロック層18とを有し、少なくともリッジ1の両側面の電流ブロック層17が除去されて空洞部22となっている構成とする。この空洞部22は、電流ブロック層18形成後に電流ブロック層17の不要部分がエッチングにより除去されることにより形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストライプ状のリッジを有する、いわゆるリッジストライプ型の半導体レーザ素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、リッジストライプ型の半導体レーザ素子が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。例えば、図5(a)は、従来の1波長半導体レーザ素子の平面図であり、図5(b)は、図5(a)のC−C線断面図である。この1波長半導体レーザ素子は、基板上に、n型クラッド層、活性層、p型クラッド層、エッチングストッパ層、p型クラッド層、p型コンタクト層が順に形成されている。そして、p型クラッド層およびp型コンタクト層をエッチングすることにより、素子表面にリッジ101が形成されているとともに、リッジ101の両側に所定間隔おいてサポート部102が形成されている。なお、説明を簡略化するため、図中では、n型ブロック層、p型電極およびn型電極の図示を省略している。
【0003】
また例えば、図6(a)は、従来の2波長半導体レーザ素子の平面図であり、図6(b)は、図6(a)のD−D線断面図である。この2波長半導体レーザ素子の層構成は、図5に示した1波長半導体レーザ素子の層構成と同じである。素子中央に形成された素子分割溝104を挟んで、両側の素子で異なった波長の光が発せられる。
【0004】
このような構成の1又は2波長半導体レーザ素子は、図5(c)又は図6(c)に示すように、基板におけるリッジ101およびサポート部102側をサブマウント103に取り付け、このサブマウント103を介して保持体(図示せず)に保持される(ジャンクションダウン方式)。
【0005】
ところで、半導体レーザ素子の構造によって出射光の遠視野像の広がり角度が異なる。この広がり角度は、素子水平方向の遠視野像の広がり角度(以下、水平広がり角と記す)と素子垂直方向の遠視野像の広がり角度(以下、垂直広がり角と記す)とからなり、遠視野像のアスペクト比に影響する。ここで、アスペクト比が小さい程、レーザ光が真円に近づくので集光しやすくなる。そこで、特許文献2には、垂直広がり角を小さくしてほぼ真円に近いパターンモードのレーザ光とする半導体レーザ素子が開示されている。
【特許文献1】特許第3348024号公報
【特許文献2】特開2003−158341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記のような2波長半導体レーザ素子を光ディスクの読み取りや書き込み等を行う光ピックアップに利用する場合、特許文献2の半導体レーザ素子を用いると問題が生じる。一般に光ピックアップは、2波長半導体レーザ素子の中間に1つのレンズを備えた構成となっている。そして2つの発光部から出射したレーザ光は同じレンズで集光される。このように、レンズが発光部の中心に位置しないため、レーザ光にはある程度の水平広がり角(一般に12°以上)が必要となる。水平広がり角が小さいと、レンズと半導体レーザ素子との距離を長くしなければ、2つの発光部から出射されるレーザ光をレンズに導くことができない。しかし、レンズと半導体レーザ素子との距離を長くすると、半導体レーザ素子には高い光出力が必要となるため実用的ではない。
【0007】
そして、上記の特許文献2の半導体レーザ素子では、垂直広がり角を小さくすることでアスペクト比を小さくしているので水平広がり角は制御されておらず、層構成によっては2波長半導体レーザ素子で必要とされる12°以上の水平広がり角を再現良く製造できない場合がある。
【0008】
従って、水平広がり角を広げるように制御する必要がある。これにより、遠視野像におけるアスペクト比が小さくなり、レーザ光を集光しやすくなるので、2波長半導体レーザ素子の出射光を1系統の光学系で集光する場合に、発光部とレンズとの距離を短くでき、光出力の低減に繋がる。
【0009】
本発明は、出射光の遠視野像の水平広がり角を広げ、遠視野像におけるアスペクト比を小さくし、レーザ光を集光しやすい半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、活性層上に順にクラッド層とエッチングストッパ層とリッジとを有し、更に該リッジの両側に順に第1の電流ブロック層と第2の電流ブロック層とを有する半導体レーザ素子において、少なくとも前記リッジの両側面の第1の電流ブロック層が除去されて空洞部となっていることを特徴とする。
【0011】
上記半導体レーザ素子において、前記第2の電流ブロック層形成後に前記第1の電流ブロック層の不要部分がエッチングにより除去されることにより前記空洞部が形成され得る。
【0012】
また上記半導体レーザ素子において、前記空洞部は、前記リッジの側面から3μmの距離まで形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リッジの両側面に空洞部を設けることにより、リッジと空洞部との間に高い屈折率差が生じ、光閉じ込め効果が強くなる。これにより、出射光の水平広がり角が大きくなる。水平広がり角を大きくすることができるので、遠視野像におけるアスペクト比が小さくなり、レーザ光を集光しやすくなるので、2波長半導体レーザ素子の出射光を1系統の光学系で集光する場合に、発光部とレンズとの距離を短くでき、光出力の低減に繋がる。
【0014】
また本発明によれば、空洞部は第1の電流ブロック層の不要部分がエッチングにより除去されることで形成されるので、エッチングの時間を制御することにより空洞部の大きさが精度良く制御される。
【0015】
また本発明によれば、空洞部は少なくともリッジの側面から3μmの距離まで形成されることにより、2波長半導体レーザ素子の中間に1つのレンズを備えた構成の光ピックアップに利用する場合に最適な出射光である12°以上の水平広がり角を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1(a)は、1波長半導体レーザ素子(以下、単に素子と称する)の概略の構成を示す平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A線断面図、図1(c)は、図1(a)の素子をサブマウントにジャンクションダウン方式で接続した状態を示す断面図である。なお、説明を簡略化するため、これらの図中、素子表面の電極層(p型電極、n型電極)の図示は省略している。
【0017】
この素子は、ストライプ状のリッジ1と、その側方(本実施形態では両側)に所定間隔をおいて形成されるサポート部2とを有している。サポート部2は、サブマウント3に素子を安定して取り付けるための支持部であり、このサポート部2の存在により、リッジ1が保護される。
【0018】
本素子は、図1(c)に示すように、サポート部2側をサブマウント3に取り付け、このサブマウント3を介して保持体(不図示)に保持される(ジャンクションダウン方式)。以下、素子の詳細な構成について説明する。
【0019】
図2は、図1の素子の詳細な構成を示す断面図である。この素子において、n型(第1導電型)GaAsからなる基板11上には、n型GaInPからなるバッファ層12、n型AlGaInPからなるn型クラッド層13、GaInPからなり、レーザ光(例えば赤色)を出射する活性層14、p型(第2導電型)AlGaInPからなるp型クラッド層15およびp型GaInPからなるエッチングストッパ層16がこの順で積層されている。
【0020】
エッチングストッパ層16上には、上記したストライプ状のリッジ1が形成されているとともに、そのリッジ1の両側に所定間隔をおいてサポート部2が形成されている。そして、リッジ1の上面を除く表面には、n型AlInPからなる電流ブロック層(第1の電流ブロック層)17およびn型GaAsからなる電流ブロック層(第2の電流ブロック層)18がこの順で積層されている。電流ブロック層17としては、他にAlGaAsやGaInP等を用いることができる。電流ブロック層17、18はリッジ1直下の発光部に電流を狭窄するとともに、リッジ1とリッジサイドに実効的に光屈折率差を形成し、光をリッジに閉じ込める働きをしている。
【0021】
そして、リッジ1の両側面の電流ブロック層17は所定部分だけ除去されて空洞部22となっている。空洞部22は即ち空気であり、空気の光屈折率は1.00だからリッジ1内部の光屈折率と比べて非常に低い。従って、リッジ1と空洞部22との間に高い屈折率差が生じ、光閉じ込め効果が強くなる。これにより、出射光の水平広がり角が大きくなる。
【0022】
上記のリッジ1およびサポート部2は、p型AlGaInPからなるp型クラッド層19、p型GaInPからなるコンタクト層20およびp型GaAsからなるコンタクト層21がこの順で積層されて構成されており、これらをエッチングストッパ層16までエッチング(ドライエッチング又はウェットエッチング)することにより形成されている。
【0023】
また、図示しないが、コンタクト層21上にはp型電極が形成され、一方、基板11の裏面側にはn型電極が形成されている。p型電極とn型電極とを流れる電流が、素子の動作電流である。
【0024】
各層の厚みは、例えば、基板11が100μm、バッファ層12が0.5μm、n型クラッド層13が1.5μm、活性層14が0.05μm、p型クラッド層15が0.17、エッチングストッパ層16が0.05μm、電流ブロック層17が0.5μm、電流ブロック層18が0.5μm、p型クラッド層19が0.17μm、コンタクト層20が0.1μm、コンタクト層21が0.5μmとすることができる。
【0025】
また素子の各寸法は、例えば、素子の長さ(リッジ1が延在する方向)が600〜1500μm、素子の幅が150〜300μm、素子の高さが50〜200μm、リッジ1の幅が1.5〜4.0μmとすることができる。
【0026】
上記の構成の素子を作製するには、まず、1回目の結晶成長(1stエピ)において、基板11上にバッファ層12、n型クラッド層13、活性層14、p型クラッド層15、エッチングストッパ層16、p型クラッド層19、コンタクト層20およびコンタクト層21を成長させる。
【0027】
次に、コンタクト層21の表面にSiOマスク(不図示)を形成し、酸処理によりリッジ1およびサポート部2を形成する。次に、サポート部2上のSiOを除去し、2回目の結晶成長(2ndエピ)において、2層の電流ブロック層17、18を連続的に成長させる(図3の状態)。このときリッジ1の上にはSiOが存在するため結晶は成長しない。
【0028】
次に、酸処理により電流ブロック層17を選択的にエッチングし、空洞部22を形成する。AlInPやGaInPは塩酸でエッチングでき、AlGaAsは塩酸やフッ酸でエッチングできる。このとき、リッジ1の側面に接する電流ブロック層17の上端部17aが剥き出しになっているので、ウェハ全体を酸処理することで上端部17aから電流ブロック層17のみがエッチングされる。なお、エッチングの量、つまり空洞部22の大きさは、酸処理する時間で制御できる。
【0029】
次にリッジ上のSiOを除去し、p型電極とn型電極を形成して半導体レーザ素子が完成する。
【0030】
また本発明は2波長半導体レーザ素子にも応用できる。図4(a)は、2波長半導体レーザ素子の概略の構成を示す平面図であり、図4(b)は、図4(a)のB−B線断面図、図4(c)は、図4(a)の素子をサブマウントにジャンクションダウン方式で接続した状態を示す断面図である。なお、説明を簡略化するため、これらの図中、素子表面の電極層(p型電極、n型電極)の図示は省略している。
【0031】
この2波長半導体レーザ素子の層構成は、図1に示した1波長半導体レーザ素子の層構成と同じである。素子中央に形成された素子分割溝4を挟んで、両側の素子で異なった波長の光が発せられる。
【0032】
本素子は、図4(c)に示すように、リッジ1およびサポート部2側をサブマウント3に取り付け、このサブマウント3を介して保持体(図示せず)に保持される。この2波長半導体レーザ素子は上記の1波長半導体レーザ素子を2つ繋げたものであるので、各部の長さは、上記の1波長半導体レーザ素子の長さと同様である。
【0033】
ここで、2波長半導体レーザ素子の中間に1つのレンズを備えた構成の光ピックアップに利用する場合、レンズが発光部の中心に位置しないため、レーザ光にはある程度の水平広がり角(一般に12°以上)が必要となる。なぜなら、水平広がり角が小さいと、レンズと半導体レーザ素子との距離を長くしなければ、2つの発光部から出射されるレーザ光をレンズに導くことができないからである。しかし、レンズと半導体レーザ素子との距離を長くすると、半導体レーザ素子には高い光出力が必要となるため実用的ではない。
【0034】
そこで、空洞部22の大きさを変えた種々の素子を作製して出射光を測定したところ、12°以上の水平広がり角を得るためには、空洞部22は少なくともリッジ1の側面から3μmの距離まで形成されていればよいことがわかった。この空洞部22の大きさは、上述したように、エッチングの時間で精度良く制御することができる。
【0035】
このように、本発明によれば空洞部22を設けることにより水平広がり角を大きくすることができるので、遠視野像におけるアスペクト比が小さくなる。それによってレーザ光を集光しやすくなるので、2波長半導体レーザ素子の出射光を1系統の光学系で集光する場合に、発光部とレンズとの距離を短くでき、光出力の低減に繋がる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の半導体レーザ素子は、1波長半導体レーザ素子又は2波長以上の半導体レーザ素子とすることができ、光ディスクの読み取りや書き込み等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)は、本発明の1波長半導体レーザ素子の概略の構成を示す平面図、(b)は、図1(a)のA−A線断面図、(c)は、図1(a)の素子をサブマウントにジャンクションダウン方式で接続した状態を示す断面図である。
【図2】本発明の1波長半導体レーザ素子の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の製造工程中の素子を示す断面図である。
【図4】(a)は、本発明の2波長半導体レーザ素子の概略の構成を示す平面図、(b)は、図4(a)のB−B線断面図、(c)は、図4(a)の素子をサブマウントにジャンクションダウン方式で接続した状態を示す断面図である。
【図5】(a)は、従来の1波長半導体レーザ素子の概略の構成を示す平面図、(b)は、図5(a)のC−C線断面図、(c)は、図5(a)の素子をサブマウントにジャンクションダウン方式で接続した状態を示す断面図である。
【図6】(a)は、従来の2波長半導体レーザ素子の概略の構成を示す平面図、(b)は、図6(a)のD−D線断面図、(c)は、図6(a)の素子をサブマウントにジャンクションダウン方式で接続した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 リッジ
14 活性層
15 p型クラッド層
16 エッチングストッパ層
17 第1の電流ブロック層
18 第2の電流ブロック層
22 空洞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層上に順にクラッド層とエッチングストッパ層とリッジとを有し、更に該リッジの両側に順に第1の電流ブロック層と第2の電流ブロック層とを有する半導体レーザ素子において、
少なくとも前記リッジの両側面の第1の電流ブロック層が除去されて空洞部となっていることを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第2の電流ブロック層形成後に前記第1の電流ブロック層の不要部分がエッチングにより除去されることにより前記空洞部が形成されることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記空洞部は、前記リッジの側面から3μmの距離まで形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−103403(P2007−103403A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287310(P2005−287310)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)鳥取三洋電機株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】