説明

半導体レーザ素子

【課題】素子特性を向上させることが可能な半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】この半導体レーザ素子30は、活性層5と、活性層5上に形成される高濃度p型第1クラッド層8と、活性層5と高濃度p型第1クラッド層8との間に形成される第1アンドープ層7と、高濃度p型第1クラッド層8上に形成される第2アンドープ層9とを備えている。このため、高濃度p型第1クラッド層8にドープされたZnの拡散を第1アンドープ層7と第2アンドープ層9とに分散させることができるので、第1アンドープ層7の厚みを小さくすることができる。これにより、Zn濃度が高濃度に維持された高濃度領域を活性層5の近傍に位置するように構成することができるので、活性層5に十分にキャリアを閉じ込めることができ、その結果、素子特性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
DVD−R(Digital Versatile Disk Recordable)などの高密度光ディスクの書き込みなどにAlGaInP系の半導体レーザ素子が用いられており、従来、低閾値電流でレーザ発振が可能なAlGaInP系の半導体レーザ素子が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、GaAs基板上に形成したダブルへテロ接合構造部に電流狭窄のためのn型GaAs電流阻止層を有する半導体レーザ素子において、n型GaAs電流阻止層にn型不純物が高濃度にドープされたAlGaInP系の半導体レーザ素子が記載されている。具体的には、上記特許文献1に記載の半導体レーザ素子は、GaAs基板上に、n型GaAsバッファ層、n型AlGaInPクラッド層、GaInP活性層、p型AlGaInPクラッド層、p型GaInPエッチングストップ層、n型不純物が高濃度にドープされたn型GaAs電流阻止層、および、p型GaAsコンタクト層からなるダブルへテロ接合構造が形成されている。また、n型GaAs電流阻止層の一部には、p型GaInPエッチングストップ層が露出するストライプ状の溝が形成されており、これによって、電流通路が形成されている。また、コンタクト層の全上面にはp側電極が形成されているとともに、GaAs基板の全下面にはn側電極が形成されている。
【0004】
上記特許文献1に記載の半導体レーザ素子では、n型GaAs電流阻止層にn型不純物を高濃度にドープすることによって、n型GaAs電流阻止層と隣接するp型GaInPエッチングストップ層からn型GaAs電流阻止層にp型不純物が拡散するのを抑制することが可能となるので、n型GaAs電流阻止層にp型GaAs拡散層(反転層)が形成されるのを抑制することが可能となる。このため、n型GaAs電流阻止層にp型GaAs拡散層が形成された場合と異なり、レーザ発振に必要な注入電流の一部がp型GaAs拡散層を介して漏れ電流として流れることがないので、その分、閾値電流が上昇するのを抑制することが可能となる。
【0005】
また、近年、DVD−Rなどの高密度光ディスクの普及に伴い、半導体レーザ素子の高温環境下における高出力動作の要求がますます強くなってきている。
【0006】
高温で高出力動作を達成するためには、活性層からp型クラッド層へのキャリアオーバーフローを抑制することが重要となる。すなわち、p型クラッド層のキャリア濃度を大きくすることによって、活性層とp型クラッド層との伝導帯におけるバンド不連続を大きくし、これによって、キャリア閉じ込めを良好にすることが重要となる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載のAlGaInP系半導体レーザ素子では、p型不純物にZnを用いた場合に、AlGaInP系の結晶中ではZnが拡散されやすいため、ドーピング量を増やしていくとp型クラッド層中のZnが活性層にまで拡散されてしまい、半導体レーザ素子の劣化が生じるという問題点があった。
【0008】
このため、従来、活性層とp型クラッド層との間にアンドープ層を形成することによって、p型クラッド層から活性層にZnが拡散されるのを抑制することが可能なAlGaInP系半導体レーザ素子が提案されている。この従来提案されている半導体レーザ素子では、p型クラッド層にドープするZn量を想定して、Znが拡散しても活性層に達しない厚みを有するアンドープ層を、p型クラッド層の活性層側の表面に形成している。これにより、半導体レーザ素子の劣化を抑制することが可能となる。
【特許文献1】特開平6−314850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した従来のAlGaInP系の半導体レーザ素子では、高温での高出力化に対応した高濃度ドーピングを行う場合においてZnが拡散しても活性層に達しないようにするためには、アンドープ層の厚みを大きくしなくてはならないという不都合がある。このため、p型クラッド層からp型不純物としてのZnがアンドープ層に拡散されることによって、アンドープ層がp型化される一方、Znの拡散によるアンドープ層中のZn濃度が活性層に近づくのに伴い低下するため、活性層からZn濃度が高濃度に維持された領域である高濃度領域までの距離が長くなるという不都合がある。すなわち、高濃度領域は、アンドープ層とp型クラッド層との境界部分近傍(アンドープ層のp型クラッド層側の表面近傍領域)からp型クラッド層側の領域に形成されているので、アンドープ層の厚みが大きくなると、その分、活性層から高濃度領域までの距離が長くなるという不都合がある。これにより、活性層から離れた位置にエネルギ障壁としての高濃度領域が位置することになるので、素子温度が高くなる高温環境下では、活性層にキャリアを十分に閉じ込めておくことが困難になるという不都合がある。その結果、高温環境下において温度特性などを向上させることが困難になるという問題点がある。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、素子特性を向上させることが可能な半導体レーザ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面による半導体レーザ素子は、活性層と、活性層上に形成されるクラッド層と、活性層とクラッド層との間に形成される第1アンドープ層と、クラッド層上に形成される第2アンドープ層とを備える。
【0012】
この一の局面による半導体レーザ素子では、上記のように、活性層とクラッド層との間に第1アンドープ層を形成するとともに、クラッド層上に第2アンドープ層を形成することによって、クラッド層からの不純物の拡散を、第1アンドープ層と第2アンドープ層とに分散させることができるので、クラッド層に不純物を高濃度にドープした場合でも、活性層とクラッド層との間に形成される第1アンドープ層への不純物の拡散量を抑えることができる。このため、活性層とクラッド層との間に形成される第1アンドープ層の厚みを小さくすることができるので、第1アンドープ層のクラッド層側の表面近傍領域を活性層に近付けることができる。これにより、第1アンドープ層中の不純物濃度が活性層に近づくのに伴い低下することによって不純物濃度が高濃度に維持された高濃度領域が第1アンドープ層のクラッド層側の表面近傍領域に形成されている場合でも、活性層から高濃度領域までの距離を短くすることができるので、活性層の近傍にエネルギ障壁としての高濃度領域が位置するように構成することができる。その結果、素子温度が高くなる高温環境下においても、活性層にキャリアを十分に閉じ込めておくことができるので、閾値電流を低下させることができるとともに、温度特性などの素子特性を向上させることができる。
【0013】
また、一の局面では、活性層とクラッド層との間に第1アンドープ層を形成することによって、クラッド層に不純物を高濃度にドープした場合でも、クラッド層中の不純物が活性層に拡散するのを抑制することができるので、半導体レーザ素子の劣化を抑制することができる。その結果、これによっても、素子特性を向上させることができる。また、クラッド層上に第2アンドープ層を形成することによって、その上部に同一導電型の半導体層が形成されている場合でも、半導体層からの不純物の拡散による押し出し効果を第2アンドープ層で緩衝することができるので、押し出し効果によって不純物が活性層側に拡散されるのを抑制することができる。これにより、第1アンドープ層の厚みを容易に小さくすることができる。
【0014】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、第2アンドープ層は、クラッド層の活性層とは反対側の表面上に接触するように形成されている。このように構成すれば、クラッド層にドープされた不純物を、第2アンドープ層に容易に拡散させることができるので、クラッド層に不純物を高濃度にドープした場合でも、活性層とクラッド層との間に形成される第1アンドープ層への不純物の拡散量を容易に抑えることができる。これにより、第1アンドープ層の厚みをより容易に小さくすることができる。
【0015】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、第1アンドープ層は、クラッド層の活性層側の表面上に接触するように形成されている。このように構成すれば、クラッド層にドープされた不純物を、第1アンドープ層に容易に拡散させることができるので、第1アンドープ層に不純物濃度が高濃度に維持された高濃度領域を容易に設けることができる。
【0016】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、第1アンドープ層の厚みは、第2アンドープ層の厚み以下である。このように構成すれば、第1アンドープ層の厚みが第2アンドープ層の厚みよりも大きくなることに起因して、活性層から離れた位置にエネルギ障壁としての高濃度領域が位置することになるという不都合が生じるのを抑制することができる。
【0017】
上記一の局面による半導体レーザ素子において、クラッド層を、AlGaInP層からなるp型クラッド層とし、p型クラッド層のp型不純物を、Znとしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図2は、図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の活性層の構造を示した断面図である。まず、図1および図2を参照して、一実施形態による半導体レーザ素子の構造について説明する。
【0020】
一実施形態による半導体レーザ素子30では、図1に示すように、約100μmの厚みを有するn型のGaAs基板1上に、約0.3μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1017cm−3のSiがドープされたn型GaInPからなるバッファ層2が形成されている。
【0021】
バッファ層2上には、約2.5μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1017cm−3のSiがドープされたn型(Al0.64Ga0.360.5In0.5Pからなるn型クラッド層3が形成されている。n型クラッド層3上には、約0.02μmの厚みを有するアンドープ(Al0.45Ga0.550.5In0.5Pからなる光ガイド層4が形成されている。光ガイド層4上には、TQW(Triple Quantum Well)構造を有する活性層5が形成されている。この活性層5は、図2に示すように、約6.0nmの厚みを有するアンドープGa0.45In0.55Pからなる3つの量子井戸層5aと、約4.0nmの厚みを有するアンドープ(Al0.45Ga0.550.5In0.5Pからなる2つの量子障壁層5bとが交互に積層されて構成されている。
【0022】
また、図1に示すように、活性層5上には、約0.02μmの厚みを有するアンドープ(Al0.45Ga0.550.5In0.5Pからなる光ガイド層6が形成されている。
【0023】
ここで、本実施形態では、図1に示すように、光ガイド層6上に、約0.05μmの厚みを有する(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる第1アンドープ層7が形成されている。また、第1アンドープ層7上には、約0.2μmの厚みを有するとともに、高温での高出力化に対応するために不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる高濃度p型第1クラッド層8が形成されている。なお、高濃度p型第1クラッド層8は、本発明の「クラッド層」および「p型クラッド層」の一例である。また、高濃度p型第1クラッド層8上には、約0.05μmの厚みを有する(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる第2アンドープ層9が形成されている。なお、第1アンドープ層7の厚みは、第2アンドープ層9の厚み以下であればよく、第2アンドープ層9の厚みよりも小さくてもよい。この場合、第1アンドープ層7と第2アンドープ層9との合計厚みは、高濃度p型第1クラッド層8にドープするZn量を想定して、Znが拡散しても活性層5に達しない所定の厚みに設定されている。また、第1アンドープ層7の厚みは、約0.06μm以下に設定するのが好ましい。第1アンドープ層7の厚みを約0.06μm以上とした場合には、活性層5付近のキャリア濃度が下がりすぎるため、温度特性の向上が見込めないからである。
【0024】
また、本実施形態では、高濃度p型第1クラッド層8の下面上および上面上には、それぞれ、第1アンドープ層7および第2アンドープ層9が高濃度p型第1クラッド層8と接触(隣接)するように形成されている。これにより、高濃度p型第1クラッド層8に高温での高出力化に対応した高濃度ドーピングを行った場合でも、Znの拡散を第1アンドープ層7および第2アンドープ層9にそれぞれ分散させることが可能となる。また、第1アンドープ層7、高濃度p型第1クラッド層8および第2アンドープ層9の所定の領域には、Zn濃度が高濃度に維持された高濃度領域が設けられている。なお、高濃度領域の厚みは、0.1μm以上0.3μm以下に設定されるのが好ましい。高濃度領域の厚みが0.1μmより小さい場合には、十分な障壁効果を得ることが困難になるからであり、高濃度領域の厚みが0.3μmよりも大きい場合には、トータルのZn量が増えるため、高濃度p型第1クラッド層8の活性層5とは反対側の表面上に第2アンドープ層9を設けた効果がほとんど得られなくなるからである。
【0025】
また、第2アンドープ層9上には、約0.05μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる高濃度p型第2クラッド層10が形成されている。高濃度p型第2クラッド層10上には、約0.005μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型Ga0.5In0.5Pからなるエッチングストップ層11が形成されている。
【0026】
また、エッチングストップ層11上には、約1.0μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる高濃度p型第3クラッド層12が形成されている。高濃度p型第3クラッド層12上には、約0.1μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型GaInPからなるp型コンタクト層13が形成されている。p型コンタクト層13上には、約0.3μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1019cm−3のZnがドープされたp型GaAsからなるp型キャップ層14が形成されている。そして、高濃度p型第3クラッド層12と、p型コンタクト層13と、p型キャップ層14とによって、電流通路となるメサ状のリッジ部15が構成されている。このリッジ部15は、平面的に見て、光の出射方向に延びるストライプ状(細長状)に形成されている。また、リッジ部15は、その下端部の幅Lが約2μmとなるように構成されている。
【0027】
また、リッジ部15の側面と、エッチングストップ層11の上面上とに、約0.6μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1017cm−3のSeがドープされたn型Al0.5In0.5Pからなる第1電流阻止層16が形成されている。この第1電流阻止層16上には、約0.8μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1017cm−3のSeがドープされたn型GaAsからなる第2電流阻止層17が形成されている。また、p型コンタクト層13、第1電流阻止層16、および、第2電流阻止層17上には、下層から上層に向かって、Cr層およびAu層が順次積層されたp側電極18が形成されている。
【0028】
また、GaAs基板1の裏面上には、GaAs基板1の裏面に近い方から順に、Cr層と、Sn層と、Au層とが積層されたn側電極19が形成されている。また、半導体レーザ素子30の共振器面には、前方側の共振器面と後方側の共振器面とで非対称となる端面コーティング(図示せず)がそれぞれ施されている。
【0029】
本実施形態では、上記のように、活性層5と高濃度p型第1クラッド層8との間に第1アンドープ層7を形成するとともに、高濃度p型第1クラッド層8上に第2アンドープ層9を形成することによって、高濃度p型第1クラッド層8からのZnの拡散を、第1アンドープ層7と第2アンドープ層9とに分散させることができるので、高濃度p型第1クラッド層8にZnを高濃度にドープした場合でも、活性層5と高濃度p型第1クラッド層8との間に形成される第1アンドープ層7へのZnの拡散量を抑えることができる。このため、活性層5と高濃度p型第1クラッド層8との間に形成される第1アンドープ層7の厚みを小さくすることができるので、高濃度p型第1クラッド層8と第1アンドープ層7との境界部分を活性層5に近付けることができる。これにより、第1アンドープ層7中のZn濃度が活性層5に近づくのに伴い低下することによって、Zn濃度が高濃度に維持された高濃度領域が第1アンドープ層7と高濃度p型第1クラッド層8との境界部分近傍(第1アンドープ層7の高濃度p型第1クラッド層8側の表面近傍領域)から高濃度p型第1クラッド層8側の領域に形成されている場合でも、活性層5から高濃度領域までの距離を短くすることができるので、活性層5の近傍にエネルギ障壁としての高濃度領域が位置するように構成することができる。その結果、素子温度が高くなる高温環境下においても、活性層5にキャリアを十分に閉じ込めておくことができるので、閾値電流を低下させることができるとともに、温度特性などの素子特性を向上させることができる。
【0030】
また、本実施形態では、活性層5と高濃度p型第1クラッド層8との間に第1アンドープ層7を形成することによって、高濃度p型第1クラッド層8にZnを高濃度にドープした場合でも、高濃度p型第1クラッド層8中のZnが活性層5に拡散するのを抑制することができるので、半導体レーザ素子30の劣化を抑制することができる。その結果、これによっても、素子特性を向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態では、高濃度p型第1クラッド層8上に第2アンドープ層9を形成することによって、その上部に形成されている高濃度p型第2クラッド層10などからZnが拡散された場合でも、高濃度p型第2クラッド層10などからのZnの拡散による押し出し効果を第2アンドープ層9で緩衝することができるので、押し出し効果によってZnが活性層5側に拡散されるのを抑制することができる。これにより、第1アンドープ層7の厚みを容易に小さくすることができる。
【0032】
また、本実施形態では、第2アンドープ層9を、高濃度p型第1クラッド層8の活性層5とは反対側の表面上に接触するように形成することによって、高濃度p型第1クラッド層8にドープされたZnを、第2アンドープ層9に容易に拡散させることができるので、高濃度p型第1クラッド層8にZnを高濃度にドープした場合でも、活性層5と高濃度p型第1クラッド層8との間に形成される第1アンドープ層7へのZnの拡散量を容易に抑えることができる。これにより、第1アンドープ層7の厚みを容易に小さくすることができる。
【0033】
また、本実施形態では、第1アンドープ層7を、高濃度p型第1クラッド層8の活性層5側の表面上に接触するように形成することによって、高濃度p型第1クラッド層8にドープされたZnを、第1アンドープ層7に容易に拡散させることができるので、第1アンドープ層7にZn濃度が高濃度に維持された高濃度領域を容易に設けることができる。
【0034】
図3〜図8は、図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための図である。次に、図1〜図8を参照して、本発明の一実施形態による半導体レーザ素子30の製造プロセスについて説明する。
【0035】
まず、図3に示すように、減圧下でのMOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)により、GaAs基板1上に、バッファ層2、n型クラッド層3、光ガイド層4、活性層5、光ガイド層6、第1アンドープ層7、高濃度p型第1クラッド層8、第2アンドープ層9、高濃度p型第2クラッド層10、エッチングストップ層11、高濃度p型第3クラッド層12、p型コンタクト層13、および、p型キャップ層14を順次成長させる。
【0036】
具体的には、約400μmの厚みを有するGaAs基板1の上面上に、約0.3μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1017cm−3のSiがドープされたn型GaInPからなるバッファ層2を成長させる。次に、バッファ層2上に、約2.5μmの厚みを有するとともに、約5×1017cm−3のSiがドープされたn型(Al0.64Ga0.360.5In0.5Pからなるn型クラッド層3を成長させる。その後、n型クラッド層3上に、約0.02μmの厚みを有するアンドープ(Al0.45Ga0.550.5In0.5Pからなる光ガイド層4を成長させる。
【0037】
次に、光ガイド層4上に、図2に示すように、約6.0nmの厚みを有するアンドープGa0.45In0.55Pからなる3層の量子井戸層5aと、約4.0nmの厚みを有するアンドープ(Al0.45Ga0.550.5In0.5Pからなる2層の量子障壁層5bとを交互に成長させることによりTQW構造を有する活性層5を形成する。その後、図3に示すように、活性層5上に、約0.02μmの厚みを有するアンドープ(Al0.45Ga0.550.5In0.5Pからなる光ガイド層6を成長させる。
【0038】
続いて、光ガイド層6上に、約0.05μmの厚みを有するアンドープ(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる第1アンドープ層7と、約0.2μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる高濃度p型第1クラッド層8と、約0.05μmの厚みを有するアンドープ(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる第2アンドープ層9とを順次連続して成長させる。具体的には、光ガイド層6上に、アンドープ(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる第1アンドープ層7を成長させている最中に、第1アンドープ層7の厚みが約0.2μmとなるタイミングで、p型不純物であるZnの原料ガスを注入する。これにより、第1アンドープ層7上に、Znがドープされたp型(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる高濃度p型第1クラッド層8を成長させることが可能となる。さらに、高濃度p型第1クラッド層8の厚みが約0.05μmとなるタイミングで、p型不純物であるZnの原料ガスの注入を停止する。これにより、高濃度p型第1クラッド層8上に、アンドープ(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる第2アンドープ層9を成長させることが可能となる。
【0039】
次に、第2アンドープ層9上に、約0.05μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる高濃度p型第2クラッド層10を成長させる。次に、高濃度p型第2クラッド層10上に、約0.005μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型Ga0.5In0.5Pからなるエッチングストップ層11を成長させる。その後、エッチングストップ層11上に、約1.0μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型(Al0.66Ga0.340.5In0.5Pからなる高濃度p型第3クラッド層12を成長させる。
【0040】
次に、高濃度p型第3クラッド層12上に、約0.1μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約2×1018cm−3のZnがドープされたp型GaInPからなるp型コンタクト層13を成長させる。そして、p型コンタクト層13上に、約0.3μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1019cm−3のZnがドープされたp型GaAsからなるp型キャップ層14を成長させる。
【0041】
この後、図4に示すように、p型キャップ層14上に、SiO膜20を蒸着するとともに、蒸着したSiO膜20を、フォトリソグラフィー技術によってストライプ状に形成する。そして、SiO膜20をマスクとして、エッチングにより、高濃度p型第3クラッド層12、p型コンタクト層13、および、p型キャップ層14を、図5および図6に示されるようなメサストライプ状に形成する。これにより、高濃度p型第3クラッド層12、p型コンタクト層13、および、p型キャップ層14から構成される電流通路となるメサストライプ状のリッジ部15が形成される。
【0042】
続いて、図7に示すように、SiO膜20をマスクとして、減圧下でのMOCVD法により、約0.6μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1017cm−3のSeがドープされたn型Al0.5In0.5Pからなる第1電流阻止層16を成長させる。次に、第1電流阻止層16上に、約0.8μmの厚みを有するとともに、不純物濃度約5×1017cm−3のSeがドープされたn型GaAsからなる第2電流阻止層17を成長させる。
【0043】
そして、図8に示すように、SiO膜20を取り除くとともに、熱処理を行った後、図1に示すように、p型コンタクト層13、第1電流阻止層16、および、第2電流阻止層17上に、Cr層およびAu層からなるp側電極18を形成する。そして、GaAs基板1の裏面をエッチングすることにより、GaAs基板1の厚みを約100μmとする。その後、図1に示すように、GaAs基板1の裏面に近い側から、Cr層と、Sn層と、Au層とからなるn側電極19を形成する。最後に、半導体レーザ素子30の共振器面に、前方側の共振器面と後方側の共振器面とで非対称となる端面コーティング(図示せず)をそれぞれ施す。これにより、図1に示したような、本発明の一実施形態による半導体レーザ素子30が得られる。
【0044】
次に、上記製造プロセスにより作製した実施例としての半導体レーザ素子と、比較例として第2アンドープ層が形成されていない半導体レーザ素子とを用いて、上記実施形態の効果を確認するために行った実験について説明する。この実験では、ドーピングプロファイルの観察および高温環境(素子温度約75℃)下における閾値電流(Ith)の測定を行った。図9は、実施例による半導体レーザ素子および比較例による半導体レーザ素子のドーピングプロファイルを示した図である。図10は、実施例による半導体レーザ素子および比較例による半導体レーザ素子の素子温度約75℃における動作電流と光出力との関係を示した相関図である。また、図9の横軸は、活性層から高濃度p型第1クラッド層側への距離(μm)を示しており、縦軸は、Zn濃度(cm−3)を示している。すなわち、図9は、活性層から高濃度p型第1クラッド層側への距離の変化に伴うZn濃度の変化を示している。また、図10の相関図の横軸は、動作電流(mA)を示しており、縦軸は、光出力(mW)を示している。なお、比較例による半導体レーザ素子は、高濃度p型第1クラッド層の活性層側の表面上にのみ第1アンドープ層に対応するアンドープ層を形成し、高濃度p型第1クラッド層の活性層とは反対側の表面上には第2アンドープ層に対応するアンドープ層を形成しない構造とした。また、それ以外の構造については、実施例による半導体レーザ素子と同じとした。また、実施例と比較例とで室温(素子温度約25℃)における閾値電流の値が同じになるようにするために、比較例による半導体レーザ素子のアンドープ層の厚みは、約0.1μmとした。
【0045】
図9に示したドーピングプロファイルの観察結果より、実施例による半導体レーザ素子でも、比較例による半導体レーザ素子と同様に、高濃度p型第1クラッド層からのZnの拡散が活性層まで達していないことが確認された。すなわち、第1アンドープ層の厚み(約0.05μm)を、アンドープ層の厚み(約0.1μm)の約半分にした場合でも、第1アンドープ層によって、高濃度p型第1クラッド層から活性層にZnが拡散されるのを抑止することが可能であることが確認された。これにより、高濃度第1p型クラッド層の活性層とは反対側の表面上に第2アンドープ層を設けることによって、高濃度第1p型クラッド層の活性層側の表面上に形成された第1アンドープ層の厚みを小さくすることが可能であることが確認された。
【0046】
また、図9より、実施例による半導体レーザ素子では、比較例による半導体レーザ素子と同様に、第1アンドープ層中のZnの濃度は、活性層に近づくのに伴い低下する傾向が見られた。すなわち、活性層に近づくのに伴いZnの濃度が低下する傾斜をもったドーピングプロファイルが得られた。また、実施例による半導体レーザ素子における第1アンドープ層中のZnの濃度は、第1アンドープ層と高濃度p型第1クラッド層との境界部分近傍(第1アンドープ層の高濃度p型第1クラッド層側の表面近傍領域)で最も高く、その値は、約2×1018cm−3であった。なお、比較例による半導体レーザ素子でも同様の傾向が得られた。
【0047】
一方、Zn濃度が高濃度(約2×1018cm−3)に維持された高濃度領域は、実施例では、第1アンドープ層と高濃度p型第1クラッド層との境界部分近傍(第1アンドープ層の高濃度p型第1クラッド層側の表面近傍領域)から高濃度p型第1クラッド層側の領域に、比較例では、アンドープ層と高濃度p型第1クラッド層との境界部分近傍(アンドープ層の高濃度p型第1クラッド層側の表面近傍領域)から高濃度p型第1クラッド層側の領域に形成されているので、活性層から高濃度領域までの距離は、実施例では、約0.05μmであり、比較例では、約0.1μmであった。このように、活性層から高濃度領域までの距離は、第1アンドープ層およびアンドープ層の厚みの影響を強く受ける傾向が見られ、第1アンドープ層の厚みをアンドープ層の厚みよりも小さくすることによって、活性層から高濃度領域までの距離を短くすることが可能であることが確認された。
【0048】
次に、図10に示した測定結果より、素子温度約75℃の高温環境下において、実施例による半導体レーザ素子では、比較例による半導体レーザ素子に比べて、閾値電流の値が低下することが確認された。また、閾値電流の低下率は、約13%であった。この閾値電流の低下率の算出は、以下の式(1)により算出した。なお、図10の光出力と動作電流との関係において、光出力が急激に大きくなる時の動作電流の値を閾値電流(Ith)の値とした。また、図10より、実施例による閾値電流の値(Ith(実施例))および比較例による閾値電流の値(Ith(比較例))は、それぞれ、約87mAおよび約100mAであった。
【0049】
閾値電流の低下率
={Ith(比較例)−Ith(実施例)}/Ith(比較例)×100 (1)
=(100−87)/100×100
=13(%)
以上のように、実施例と比較例とで室温(素子温度約25℃)における閾値電流の値が同じなるように設定した場合でも、活性層から高濃度領域までの距離を短くすることによって、高温環境下(素子温度約75℃)において、閾値電流の値を約13%低下させることが可能であることが確認された。これにより、実施例による半導体レーザ素子では、比較例による半導体レーザ素子に比べて、温度特性などの素子特性を向上させることが可能であることが確認された。
【0050】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0051】
たとえば、上記実施形態では、半導体レーザ素子の一例としてAlGaInP系の半導体レーザ素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、AlGaInP系以外の半導体レーザ素子に本発明を適用してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、高濃度p型第1クラッド層などのp型半導体層にp型不純物としてZnをドープした例を示したが、本発明はこれに限らず、Zn以外のp型不純物をドープするようにしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、第1アンドープ層を、高濃度p型第1クラッド層の活性層側の表面上に接触(隣接)するように形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、第1アンドープ層が活性層と高濃度p型第1クラッド層との間に形成されていれば、第1アンドープ層と高濃度p型第1クラッド層との間に他の層が形成されていてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、第2アンドープ層を、高濃度p型第1クラッド層の活性層と反対側の表面上に接触(隣接)するように形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、第2アンドープ層と高濃度p型第1クラッド層との間に他の層が形成されていてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、第1アンドープ層および第2アンドープ層を、高濃度p型第1クラッド層と同じ(Al0.66Ga0.340.5In0.5P層から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、第1アンドープ層および第2アンドープ層をそれぞれ(Al0.66Ga0.340.5In0.5P層以外の半導体層から構成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、第1電流阻止層にAlInPを用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、SiNなどの誘電体層を用いて電流阻止層を構成してもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、SiO膜を除去した後に、p型コンタクト層、第1電流阻止層、および、第2電流阻止層上に、p側電極を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、SiO膜を除去した後に、p型コンタクト層、第1電流阻止層、および、第2電流阻止層上に平坦化のためのp型キャップ層を成長させ、その後、p型キャップ層上にp側電極を形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図2】図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の活性層の構造を示した断面図である。
【図3】図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図4】図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図5】図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図6】図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための平面図である。
【図7】図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図8】図1に示した一実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための断面図である。
【図9】実施例による半導体レーザ素子および比較例による半導体レーザ素子のドーピングプロファイルを示した図である。
【図10】実施例による半導体レーザ素子および比較例による半導体レーザ素子の素子温度約75℃における動作電流と光出力との関係を示した相関図である。
【符号の説明】
【0059】
1 GaAs基板
2 バッファ層
3 n型クラッド層
4 光ガイド層
5 活性層
5a 量子井戸層
5b 量子障壁層
6 光ガイド層
7 第1アンドープ層
8 高濃度p型第1クラッド層(クラッド層、p型クラッド層)
9 第2アンドープ層
10 高濃度p型第2クラッド層
11 エッチングストップ層
12 高濃度p型第3クラッド層
13 p型コンタクト層
14 p型キャップ層
15 リッジ部
16 第1電流阻止層
17 第2電流阻止層
18 p側電極
19 n側電極
20 SiO
30 半導体レーザ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層と、
前記活性層上に形成されるクラッド層と、
前記活性層と前記クラッド層との間に形成される第1アンドープ層と、
前記クラッド層上に形成される第2アンドープ層とを備えることを特徴とする、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第2アンドープ層は、前記クラッド層の前記活性層とは反対側の表面上に接触するように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記第1アンドープ層は、前記クラッド層の前記活性層側の表面上に接触するように形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記第1アンドープ層の厚みは、前記第2アンドープ層の厚み以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記クラッド層は、AlGaInP層からなるp型クラッド層であり、
前記p型クラッド層のp型不純物は、Znであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−27952(P2008−27952A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195335(P2006−195335)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)鳥取三洋電機株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】