説明

半導体光反射器及び半導体レーザ、並びにそれらの駆動方法及び装置

【課題】導波路層に形成される屈折率分布のコントラストを従来よりも向上させた半導体光反射器及び半導体レーザ、並びにそれらの駆動方法及び装置を提供する。
【解決手段】n型基板11と、n型基板11自体の一部またはn型基板11の上方に形成されたn型クラッド層12と、n型クラッド層12の上方に形成されたp型クラッド層13と、p型クラッド層13とn型クラッド層12との間に形成された、光を導波するための導波路層14と、n型基板11の底面及びp型クラッド層13の上面にそれぞれ形成されたn型電極15及びp型電極16と、導波路層14の近傍に光導波方向に沿って規則的に配置された複数の電圧制御部材17と、を備え、複数の電圧制御部材17は、n型電極15及びp型電極16の間に逆バイアス電圧が印加された状態で、導波路層14内に光導波方向に沿った規則的な屈折率の分布を生じせしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光反射器及び半導体レーザ、並びにそれらの駆動方法及び装置に係り、特に、無反射状態から高い波長選択性をもって目的波長の光のみを反射する状態に移行できる半導体光反射器及び半導体レーザ、並びにそれらの駆動方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信の伝送容量は急速に増加しており、伝送容量の大容量化を実現する方法として波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)化によるチャネル数の拡大が進んでいる。WDM通信は、波長の相違する複数の光により情報を伝達することにより、光ファイバの設置本数を増すことなく伝送容量を飛躍的に増加することが可能である。
【0003】
WDM通信用の光源としては、例えば、波長選択性を有する分布ブラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)を備え、発振波長を可変できる可変波長型の半導体レーザが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような半導体レーザは、pn接合半導体に電流を注入したときの接合部に誘導放出された光を導波路構造によって導波し、その導波路端に形成された分布ブラッグ反射器により反射させて往復させ、反射器間の導波路の長さと内部の屈折率によって決まる定在波長の光を選択的に発振する構造を有している。
【0005】
図14は、特許文献1に開示された分布ブラッグ反射器を光導波方向に沿って切断して示す断面図である。特許文献1に開示された分布ブラッグ反射器は、p型クラッド層52と、n型基板53と、p型クラッド層52とn型基板53との間に挟まれた所定幅W及び厚さtのガイド層54とを有するエピタキシャルウエハ51に形成されている。なお、n型基板53の上層部は、p型クラッド層52と共に光の外部への漏れを防止するためのn型クラッド層53aとして機能する。
【0006】
そして、n型基板53の底面には第1の電極70がほぼ全面に亘って形成されている。また、p型クラッド層52の上面には第2の電極71が形成されている。
【0007】
そして、p型クラッド層52の内部でガイド層54の近傍には、平面矩形状でなる複数の電流規制部材61がガイド層54と交差する向きでガイド層54の光導波方向に沿って規則的に配置されている。
【0008】
複数の電流規制部材61は、第1及び第2の電極70、71に対する電流非注入状態でp型クラッド層52とほぼ等しい屈折率を示すと共に、順バイアス電圧印加による電流注入状態でp型クラッド層52より電流が流れにくい電流規制作用を有するように形成されている。
【0009】
ここで、複数の電流規制部材61は、所定の間隔Λ1で並ぶ第1の電流ブロック群60A、所定の間隔Λ2で並ぶ第2の電流ブロック群60B、所定の間隔Λ3で並ぶ第3の電流ブロック群60Cに分類される。なお、第2の電極71は、各電流ブロック群に対応した第1〜第3の個別電極71A、71B、71Cに分離して形成されている。
【0010】
ここで、図15に示すように、第1の電極70と第1の個別電極71Aとの間に所定電流I1が注入されると、複数の電流規制部材61における第1の電流ブロック群60Aの隙間に集中して電流が流れることになる。
【0011】
従って、ガイド層54のうち、第1の電流ブロック群60Aと対向する部分では、図16に示すように、複数の電流規制部材61の所定の間隔Λ1に対応した間隔で電流密度が粗となる部分と電流密度が密となる部分とが交互に発生し、プラズマ効果によって電流密度が密の領域の屈折率が電流密度が粗の領域の屈折率より小さくなる。
【0012】
つまり、ガイド層54内に屈折率が異なる領域が複数の電流規制部材61の所定の間隔Λ1で規則的に生じることになり、実効的にピッチがΛ1の回折格子が形成される。これにより、ブラッグ反射の条件[数1]を満たす波長λB1で光が選択的に反射される状態になる。即ち、端面50a側から波長λB1を含む光が入射されたとき、波長λB1の光だけが反射されて端面50aに戻り、他の波長成分は透過して端面50bから出射される。
【数1】

但し、n1はガイド層54の等価屈折率である。
【0013】
なお、電流が注入されていない部分のガイド層54は波長選択性を有していないので、電流が注入されている部分の反射特性に影響を与えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2008/053672号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に開示されたような従来の分布ブラッグ反射器においては、周期的に形成された複数の電流規制部材の間を通してガイド層(導波路層)にキャリアが注入されると、注入キャリアがガイド層(導波路層)の光導波方向に沿って拡散してしまい、屈折率分布のコントラストが形成されにくいという問題があった。このため、分布ブラッグ反射器と光学利得領域とを一体化させてDBR型半導体レーザを構成する場合においては、所望の縦モード発振を実現するための設計が難しくなる傾向があった。
【0016】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、導波路層に形成される屈折率分布のコントラストを従来よりも向上させた半導体光反射器及び半導体レーザ、並びにそれらの駆動方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の半導体光反射器は、n型基板と、前記n型基板自体の一部または前記n型基板の上方に形成されたn型クラッド層と、前記n型クラッド層の上方に形成されたp型クラッド層と、前記p型クラッド層と前記n型クラッド層との間に形成された、光を導波するための導波路層と、前記n型基板の底面及び前記p型クラッド層の上面にそれぞれ形成されたn型電極及びp型電極と、前記導波路層の近傍に該導波路層の光導波方向に沿って規則的に配置された複数の電圧制御部材と、を備え、前記n型電極及び前記p型電極は、該n型電極及び該p型電極の間に逆バイアス電圧を外部から印加するための端子を有しており、前記複数の電圧制御部材は、前記n型クラッド層または前記p型クラッド層とほぼ等しい屈折率を示すと共に、前記端子を介して前記n型電極及び前記p型電極の間に逆バイアス電圧が印加された状態で前記導波路層内に前記光導波方向に沿った規則的な電圧分布をもたらすと共に、該規則的な電圧分布に基づいて前記導波路層内に前記光導波方向に沿った規則的な屈折率の分布を生じせしめるようになっており、それによって、前記導波路層は入射される光のうち、前記規則的な屈折率の分布によって決定される波長の光を反射する構成を有している。
【0018】
この構成により、導波路層へキャリアを注入せずに導波路層内に屈折率分布を形成できるため、順バイアス電圧動作において生じた導波路層内の光導波方向に沿ったキャリアの拡散による屈折率コントラストの低減現象を回避することができる。
さらに、導波路層へのキャリア注入が行われないため、逆バイアス電圧のスイッチングによる導波路構造の屈折率変化速度に、キャリア寿命に起因する遅れが生じない。このため、逆バイアス電圧のオン/オフに応じて、規則的な屈折率分布からなる回折格子のオン/オフを高速に切り換えることができる。
【0019】
また、本発明の請求項2の半導体光反射器は、前記複数の電圧制御部材が、前記p型クラッド層と前記n型クラッド層の少なくとも一方の内部に形成された構成を有していてもよい。
【0020】
また、本発明の請求項3の半導体光反射器は、前記複数の電圧制御部材が、周囲のクラッド層の導電型と反対の導電型を有する構成を有している。
【0021】
この構成により、電圧制御部材と周囲のクラッド層とでpn及びnp接合部が形成されることにより、電圧制御部材近傍の導波路層の部分に印加される電圧を抑制する電圧制御作用を実現することができる。
【0022】
また、本発明の請求項4の半導体光反射器は、前記複数の電圧制御部材が、高抵抗材料からなる構成を有していてもよい。
【0023】
また、本発明の請求項5の半導体光反射器は、前記n型電極が共通電極として形成され、前記p型電極が1以上の個別電極として形成された構成を有していてもよい。
【0024】
また、本発明の請求項6の半導体光反射器は、前記複数の電圧制御部材が、1以上の前記個別電極毎に対応付けられたそれぞれ所定の間隔を有する1以上の電圧制御部材群として形成されており、前記複数の電圧制御部材のうち前記所定の間隔としてΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)を有する第mの電圧制御部材群に対応する第mの個別電極と前記共通電極との間に逆バイアス電圧が印加された状態でブラッグ反射の条件λBm=2nmΛm(但し、nmは前記導波路層の等価屈折率である)を満たす波長λBmで反射率がピークとなる第mの反射特性を示し、前記反射特性を選択的に切り換え可能とした構成を有している。
【0025】
この構成により、個別電極毎の逆バイアス電圧のオン/オフに応じて、反射特性を選択的に切り換えることができる。
【0026】
また、本発明の請求項7の半導体光反射器は、前記複数の電圧制御部材が、2以上の前記個別電極毎に対応付けられたそれぞれ所定の間隔を有する2以上の電圧制御部材群として形成されており、前記複数の電圧制御部材のうち前記所定の間隔としてΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)を有する第mの電圧制御部材群に対応する第mの個別電極と前記共通電極との間に逆バイアス電圧が印加された状態でブラッグ反射の条件λBm=2nmΛm(但し、nmは前記導波路層の等価屈折率である)を満たす波長λBmで反射率がピークとなる第mの反射特性を示し、前記反射特性のうち少なくとも2つの反射特性を任意の組み合わせで切り換え可能とした構成を有している。
【0027】
この構成により、2以上の任意の組み合わせの個別電極に対する逆バイアス電圧のオン/オフに応じて、反射特性を対応する組み合わせで切り換えることができる。
【0028】
また、本発明の請求項8の半導体光反射器の駆動方法は、請求項6に記載の半導体光反射器の駆動方法であって、前記第mの個別電極(m=1,・・・,M:Mは自然数)のうちの1つと前記共通電極との間に前記端子を介して選択的に逆バイアス電圧を印加し、前記反射特性を選択的に切り換え可能とするものである。
【0029】
また、本発明の請求項9の半導体光反射器の駆動方法は、請求項7に記載の半導体光反射器の駆動方法であって、前記第mの個別電極(m=1,・・・,M:Mは自然数)のうちの少なくとも2つと前記共通電極との間に前記端子を介して逆バイアス電圧を印加し、前記反射特性のうち少なくとも2つの反射特性を任意の組み合わせで切り換え可能とするものである。
【0030】
また、本発明の請求項10の半導体光反射装置は、上記のいずれかの半導体光反射器と、前記半導体光反射器の前記n型電極及び前記p型電極の間に前記端子を介して逆バイアス電圧を印加する直流電圧源と、を備える構成を有していてもよい。
【0031】
また、本発明の請求項11の半導体レーザは、光を誘導放出するための活性層を有する光学利得領域と、前記活性層の少なくとも一端側に波長選択性を有して光を反射する光反射領域と、を備え、前記活性層で誘導放出された光のうち、前記光反射領域によって反射された波長の光を選択的に発振する半導体レーザにおいて、前記光反射領域は、n型基板と、前記n型基板自体の一部または前記n型基板の上方に形成されたn型クラッド層と、前記n型クラッド層の上方に形成されたp型クラッド層と、前記p型クラッド層と前記n型クラッド層との間に形成された、光を導波するための導波路層と、前記n型基板の底面及び前記p型クラッド層の上面にそれぞれ形成されたn型電極及びp型電極と、前記導波路層の近傍に該導波路層の光導波方向に沿って規則的に配置された複数の電圧制御部材と、を備え、前記n型電極及び前記p型電極は、該n型電極及び該p型電極の間に逆バイアス電圧を外部から印加するための端子を有しており、前記複数の電圧制御部材は、前記n型クラッド層または前記p型クラッド層とほぼ等しい屈折率を示すと共に、前記端子を介して前記n型電極及び前記p型電極の間に逆バイアス電圧が印加された状態で前記導波路層内に前記光導波方向に沿った規則的な電圧分布をもたらすと共に、該規則的な電圧分布に基づいて前記導波路層内に前記光導波方向に沿った規則的な屈折率の分布を生じせしめるようになっており、それによって、前記導波路層は入射される光のうち、前記規則的な屈折率の分布によって決定される波長の光を反射する構成を有している。
【0032】
また、本発明の請求項12の半導体レーザは、前記複数の電圧制御部材が、前記p型クラッド層と前記n型クラッド層の少なくとも一方の内部に形成された構成を有している。
【0033】
また、本発明の請求項13の半導体レーザは、前記複数の電圧制御部材が、周囲のクラッド層の導電型と反対の導電型を有する構成を有している。
【0034】
また、本発明の請求項14の半導体レーザは、前記複数の電圧制御部材が、高抵抗材料からなる構成を有している。
【0035】
また、本発明の請求項15の半導体レーザは、前記n型電極が共通電極として形成され、前記p型電極が1以上の個別電極として形成された構成を有している。
【0036】
また、本発明の請求項16の半導体レーザは、前記複数の電圧制御部材が、1以上の前記個別電極毎に対応付けられたそれぞれ所定の間隔を有する1以上の電圧制御部材群として形成されており、前記複数の電圧制御部材のうち前記所定の間隔としてΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)を有する第mの電圧制御部材群に対応する第mの個別電極と前記共通電極との間に逆バイアス電圧が印加された状態でブラッグ反射の条件λBm=2nmΛm(但し、nmは前記導波路層の等価屈折率である)を満たす波長λBmで反射率がピークとなる第mの反射特性を示し、前記反射特性を選択的に切り換え可能とした構成を有している。
【0037】
また、本発明の請求項17の半導体レーザは、前記複数の電圧制御部材が、2以上の前記個別電極毎に対応付けられたそれぞれ所定の間隔を有する2以上の電圧制御部材群として形成されており、前記複数の電圧制御部材のうち前記所定の間隔としてΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)を有する第mの電圧制御部材群に対応する第mの個別電極と前記共通電極との間に逆バイアス電圧が印加された状態でブラッグ反射の条件λBm=2nmΛm(但し、nmは前記導波路層の等価屈折率である)を満たす波長λBmで反射率がピークとなる第mの反射特性を示し、前記反射特性のうち少なくとも2つの反射特性を任意の組み合わせで切り換え可能とした構成を有している。
【0038】
また、本発明の請求項18の半導体レーザの駆動方法は、請求項16に記載の半導体レーザの駆動方法であって、前記第mの個別電極(m=1,・・・,M:Mは自然数)のうちの1つと前記共通電極との間に前記端子を介して選択的に逆バイアス電圧を印加し、前記反射特性を選択的に切り換え可能とするものである。
【0039】
また、本発明の請求項19の半導体レーザの駆動方法は、請求項17に記載の半導体レーザの駆動方法であって、前記第mの個別電極(m=1,・・・,M:Mは自然数)のうちの少なくとも2つと前記共通電極との間に前記端子を介して逆バイアス電圧を印加し、前記反射特性のうち少なくとも2つの反射特性を任意の組み合わせで切り換え可能とするものである。
【0040】
また、本発明の請求項20の半導体レーザ装置は、上記のいずれかの半導体レーザと、前記光反射領域の前記n型電極及び前記p型電極の間に前記端子を介して逆バイアス電圧を印加する直流電圧源と、を備える構成を有している。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、導波路層へキャリアを注入せずに導波路層内に屈折率分布を形成できることにより、導波路層に形成される屈折率分布のコントラストを従来よりも向上させた半導体光反射器及び半導体レーザ、並びにそれらの駆動方法及び装置を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】第1の実施形態に係る半導体光反射器の概略構成を示す光導波方向に沿った断面図
【図2】第1の実施形態に係る半導体光反射器の概略構成を示す上面図
【図3】第1の実施形態に係る半導体光反射器の概略構成を示す正面図
【図4】第1の実施形態に係る半導体光反射器の他の概略構成を示す光導波方向に沿った断面図
【図5】導波路層内に形成される電圧分布及び屈折率分布を示す模式図
【図6】電圧制御部材を含む領域に逆バイアス電圧が印加された場合における、全印加電圧と各接合にかかる電圧の関係を示すグラフ
【図7】第1の実施形態に係る半導体光反射器の反射特性図
【図8】第2の実施形態に係る半導体レーザの概略構成を示す光導波方向に沿った断面図
【図9】第2の実施形態に係る半導体レーザの製造方法を示す工程図
【図10】第2の実施形態に係る半導体レーザの製造方法を示す工程図
【図11】第2の実施形態に係る半導体レーザの製造方法を示す工程図
【図12】第3の実施形態に係る半導体レーザの概略構成を示す上面図
【図13】第3の実施形態に係る半導体レーザのA−A'線断面図
【図14】従来の分布ブラッグ反射器の概略構成を示す光導波方向に沿った断面図
【図15】従来の分布ブラッグ反射器の要部の断面図
【図16】従来の分布ブラッグ反射器のガイド層内に形成される電流密度分布及び屈折率分布を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明に係る半導体光反射器及び半導体レーザ、並びにそれらの駆動方法及び装置の実施形態について図面を用いて説明する。
【0044】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る半導体光反射器10の光導波方向に沿った断面図であり、図2は上面図、図3は正面図である。なお、各図面上の各構成の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
【0045】
即ち、半導体光反射器10は、n型インジウム・リン(n−InP)からなるn型基板11と、n型基板11自体の一部に形成されたn型クラッド層12と、n型クラッド層12の上方に形成されたp型インジウム・リン(p−InP)からなるp型クラッド層13と、p型クラッド層13とn型クラッド層12との間に形成された、光を導波するための導波路層14と、n型基板11の底面及びp型クラッド層13の上面にそれぞれ形成されたn型電極15及びp型電極16と、導波路層14の近傍のp型クラッド層13内部に、導波路層14の光導波方向に沿って規則的に配置された複数の電圧制御部材17と、を有するエピタキシャルウエハ18に形成されている。
【0046】
エピタキシャルウエハ18の両端面18a、18bは、劈開によって形成されており、反射率はいずれも低いものとする。さらに、両端面18a、18bには、無反射(AR)コート(図示せず)がそれぞれ施されていてもよい。例えば、ARコートが施された両端面18a、18bの反射率は1%以下となる。
【0047】
導波路層14は、例えば、バルクのインジウムガリウム砒素リン(InGaAsP)により所定幅W及び厚さtで連続するように形成され、光を導波する導波路をなすようにバンドギャップがn型クラッド層12とp型クラッド層13のいずれよりも小さく(屈折率が大きく)設定されている。あるいは、導波路層14は、多重量子井戸(MQW)構造のInGaAsPからなっていてもよい。
【0048】
そして、導波路層14の近傍のp型クラッド層13の内部には、図2に示すように、所定長さLの平面矩形状でなる複数の電圧制御部材17が導波路層14と交差する向きで導波路層14の光導波方向に沿って所定の間隔で離散的に配置されている。
【0049】
さらに、複数の電圧制御部材17は、1以上の電圧制御部材群に分類される。上記所定の間隔は電圧制御部材群毎に異なっている。以降では、第mの電圧制御部材群における所定の間隔をΛmと記す(m=1,・・・,M:Mは自然数)。所定の間隔Λmは、いずれも200〜300nm程度の値である。例えば、図1、図2に示すように、第1の電圧制御部材群17Aは所定の間隔Λ1で、第2の電圧制御部材群17Bは所定の間隔Λ2で、第3の電圧制御部材群17Cは所定の間隔Λ3で配置される。なお、図1、図2はMが3の場合を示しているが、Mの値は3に限らず、1、2、あるいは4以上であってもよい。
【0050】
ここで、n型電極(以下、共通電極とも呼ぶ)15は、n型基板11の底面のほぼ全面に亘って形成されている。p型クラッド層13の上面側に形成されたp型電極16は、共通電極15との間で1以上の電圧制御部材群17A、17B、17Cに対して独立に電圧を印加できるよう分離して形成された個別電極16A、16B、16Cからなる。即ち、これらの個別電極16A、16B、16Cと電圧制御部材群17A、17B、17Cとは一対一に対応している。例えば、共通電極15は接地され、個別電極16A、16B、16Cは、共通電極15との間に逆バイアス電圧を外部から印加するための端子20A、20B、20Cをそれぞれ有している。
【0051】
各電圧制御部材群17A、17B、17Cに分類される複数の電圧制御部材17は、個別電極16A、16B、16Cと共通電極15とに対して逆バイアス電圧が印加されていない状態でp型クラッド層13とほぼ等しい屈折率を示すと共に、端子20A、20B、20Cを介して共通電極15と個別電極16A、16B、16Cのうちの少なくとも1つとの間に逆バイアス電圧が印加された状態で、導波路層14内に光導波方向に沿った規則的な電圧分布をもたらすように形成されている。
【0052】
即ち、複数の電圧制御部材17は、例えば、p型クラッド層13との間にpn及びnp接合を形成するn−InPの材料、あるいはFeドープのi−InPでp型クラッド層13より高い電気抵抗を示す材料により形成されている。
【0053】
なお、図1〜図3に示した構成に代えて、図4に示すように、複数の電圧制御部材17が、導波路層14の近傍のn型クラッド層12内に、導波路層14の光導波方向に沿って所定の間隔で離散的に配置される構成としてもよい。
【0054】
図4に示した構成においては、電圧制御部材群17A、17B、17Cに分類される複数の電圧制御部材17は、n型電極15及びp型電極16に対する逆バイアス電圧非印加状態でn型クラッド層12とほぼ等しい屈折率を示すと共に、逆バイアス電圧印加状態で導波路層14内に光導波方向に沿った規則的な電圧分布をもたらすように形成されている。
【0055】
即ち、図4に示した構成においては、複数の電圧制御部材17は、例えば、n型クラッド層12との間にpn及びnp接合を形成するp−InPの材料、あるいはFeドープのi−InPでn型クラッド層12より高い電気抵抗を示す材料により形成されている。
【0056】
さらに、図4に示した構成に加えて、複数の電圧制御部材17が、導波路層14の近傍のp型クラッド層13内に、導波路層14の光導波方向に沿って所定の間隔で離散的に配置される構成としてもよい。即ち、複数の電圧制御部材17は、周囲のクラッド層の導電型と反対の導電型を有していればよい。
【0057】
また、図1〜図4に示した構成に代えて、例えば、n型インジウム・ガリウム・砒素・リン(n−InGaAsP)からなるn型クラッド層12をn型基板11の上方に形成した構成としてもよい。
【0058】
図5は、共通電極15と個別電極16Aとの間に逆バイアス電圧V1が印加された場合に導波路層14内に形成される電圧分布及び屈折率分布を示す模式図である。なお、図5中に符号19で示した、複数の電圧制御部材17と導波路層14との間のp型クラッド層13の領域を、以降ではp型スペーサ層と呼ぶ。
【0059】
導波路層14のうち、第1の電圧制御部材群17Aの電圧制御部材17と対向する部分では、図5に示すように、複数の電圧制御部材17の所定の間隔Λ1に対応した間隔で電圧が小となる部分と電圧が大となる部分とが交互に発生する。以下、この現象について説明する。
【0060】
導波路層14がバルクの半導体材料からなる場合には、導波路層14に直流電圧(逆バイアス電圧)が印加されると、伝導帯と価電子帯のバンドが傾き、実効的なバンドギャップが逆バイアス電圧非印加時のバンドギャップEgよりも小さくなる。このため、Egより僅かに小さいエネルギーEphotの光が導波路層14に入射した場合には、その光が導波路層14で吸収されることになる。
【0061】
即ち、導波路層14に逆バイアス電圧が印加されている時にはエネルギーEphot(<Eg)の光に対する吸収係数が増加する。このことは、逆バイアス電圧非印加時の導波路層14の吸収特性と比較して、逆バイアス電圧印加時の導波路層14の吸収特性が、全体的に長波長側にシフトすることを意味する。この現象はフランツ−ケルディッシュ効果と呼ばれている。
【0062】
一方、導波路層14が多重量子井戸(MQW)構造からなる場合には、量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE:Quantum Confined Stark Effect)により、同様の吸収係数の増加が見られる。
【0063】
さらに、クラマース−クローニッヒの関係式から、上記の吸収係数の増加は、エネルギーEphot(<Eg)の光に対する屈折率の増加を意味することが分かる。即ち、フランツ−ケルディッシュ効果あるいはQCSEによって印加電圧(逆バイアス電圧)が大の領域の屈折率が、印加電圧が小の領域の屈折率より大きくなることが分かる。
【0064】
本発明者は、1つの電圧制御部材17を含むn型電極15とp型電極16とに挟まれた領域I(図5中の破線で囲んだ部分)に逆バイアス電圧VR totが印加された場合における、全印加電圧(全逆バイアス電圧)と各接合にかかる電圧の関係を計算により求めた。図6は、その結果を示すグラフの一例である。
【0065】
ここで、図5、図6において、VR Gr-Clはn型の電圧制御部材17とp型クラッド層13に印加される電圧、VR Sp-Grはp型スペーサ層19と電圧制御部材17に印加される電圧、VR Su-Spはn型基板11とp型スペーサ層19に印加される電圧、VR totは全逆バイアス電圧(=VR Gr-Cl+VR Sp-Gr+VR Su-Sp)を示している。
【0066】
図6から、全逆バイアス電圧VR totが0.1Vを超えると、ほぼ全ての電圧が電圧制御部材17とp型クラッド層13の間の接合にかかり、その他の接合にかかる電圧は0.05V程度で飽和することが分かる。即ち、図5に示した領域Iにおいては、導波路層14にかかる電圧は最大で0.05V程度と小さく、屈折率の増大も充分抑圧されると考えられる。
【0067】
一方、n型電極15とp型電極16とに挟まれた領域のうち電圧制御部材17が含まれない領域IIにおいては、導波路層14に印加される電圧はほぼ全逆バイアス電圧VR totに等しくなる。このため、フランツ−ケルディシュ効果もしくはQCSEにより、領域IIの導波路層14の屈折率は、領域Iの導波路層14の屈折率よりも大きくなる。
【0068】
即ち、図6に示した計算結果から、複数のn型の電圧制御部材17が周期的にp型クラッド層13内に配置された構造に逆バイアス電圧を印加することにより、導波路層14内に屈折率の周期構造が現れ、この屈折率の周期構造が実効的な回折格子となることが分かる。
【0069】
つまり、導波路層14内に実効的にピッチがΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)の回折格子が形成されることとなり、ブラッグ反射の条件[数2]を満たす波長λBmで光が選択的に反射される状態になる。
【数2】

但し、nmは導波路層14の等価屈折率である。
【0070】
以下、上記のように構成された本実施形態の半導体光反射器10の動作を、図1を参照しながら説明する。
共通電極15と個別電極16A、16B、16Cのいずれの間にも逆バイアス電圧V1、V2、V3が印加されない場合、導波路層14は、端面18a側から端面18b側までp型クラッド層13の屈折率とほぼ等しい一定の屈折率の光導波路として機能し、端面18a、18bの一方側から入射した光を他方側へ導波して出射する。
【0071】
一方、不図示の直流電圧源から端子20A、20B、20Cを介して、共通電極15と個別電極16A、16B、16Cのいずれかとの間に選択的に逆バイアス電圧V1、V2、V3が印加された場合には、導波路層14内に光導波方向に沿った規則的な電圧分布が生じる。この規則的な電圧分布により、導波路層14内に光導波方向に沿った規則的な屈折率の分布が生じる。これにより、導波路層14は、端面18a、18bの一方側から入射された光のうち、[数2]で決定される波長の光を反射し、それ以外の波長の光を透過させる。
【0072】
なお、個別電極16A、16B、16Cのうちの2つ以上と共通電極15との間に同時に逆バイアス電圧が印加されてもよい。例えば、個別電極16A、16Cと共通電極15との間に逆バイアス電圧V1、V3が印加される場合には、導波路層14は、端面18a、18bの一方側から入射された光のうち、電圧制御部材群17A、17Cの間隔Λ1、Λ3に基づいて[数2]で決定される波長の光を反射し、それ以外の波長の光を透過させる。
【0073】
図7は、半導体光反射器10の反射特性図である。即ち、半導体光反射器10は、共通電極15と個別電極16Aとの間に逆バイアス電圧V1が印加された場合には、波長λB1で反射率がピークとなる第1の反射特性F1を持つ。同様に、共通電極15と個別電極16B(または16C)との間に逆バイアス電圧V2(またはV3)が印加された場合には、半導体光反射器10は、波長λB2(またはλB3)で反射率がピークとなる第2(または第3)の反射特性F2(またはF3)を持つことになる。
【0074】
従って、個別電極16A、16B、16Cのいずれかと共通電極15との間に選択的に逆バイアス電圧V1、V2、V3を印加することにより、半導体光反射器10の反射特性を上記のような3つの反射特性F1、F2、F3のいずれかに切り換えることができる。
【0075】
また、個別電極16A、16B、16Cのうちの2つ以上と共通電極15との間に同時に逆バイアス電圧を印加し、複数の電圧制御部材群17A、17B、17Cのうちの対応する2つ以上に同時に電圧制御作用を持たせることにより、複数の反射特性F1、F2、F3のうちの任意の組み合わせの複数の反射特性を同時に持たせることもできる。
【0076】
なお、逆バイアス電圧が印加されていない部分の導波路層14は波長選択性を有していないので、逆バイアス電圧が印加されている部分の反射特性に影響を与えない。
【0077】
また、反射波長は、各個別電極16A、16B、16Cと共通電極15との間に印加される逆バイアス電圧を変化させることにより、連続的に可変することもできる。
【0078】
以上説明したように、本実施形態の半導体光反射器においては、n型電極とp型電極との間に逆バイアス電圧が印加されることにより、電圧制御部材が直上(あるいは直下)に存在する導波路層の部分にはほぼ電圧がかからず、一方、電圧制御部材が直上(あるいは直下)に存在しない導波路層の部分には逆バイアス電圧がほぼそのままかかる。このため、電圧制御部材が直上(あるいは直下)に存在しない導波路層の部分にフランツ−ケルディッシュ効果(バルク導波路)もしくはQCSE(MQW導波路)が働き、この部分の屈折率のみが増大する。
【0079】
従って、上記電圧制御部材の間隔を周期的に配置することにより、本実施形態の半導体光反射器は、逆バイアス電圧が印加された場合のみ電圧制御部材の間隔で規定される屈折率周期を有する分布ブラッグ反射器として機能する。
【0080】
また、本実施形態の半導体光反射器の動作は逆バイアス電圧の印加によるため、原理的に導波路層へのキャリア注入はない。このため従来の分布ブラッグ反射器で見られたような導波路層の光導波方向に沿ったキャリアの拡散による屈折率コントラストの低減現象を回避できる。
【0081】
さらに、本実施形態の半導体光反射器では、導波路層へのキャリア注入がないことから、導波路構造の屈折率変化速度にキャリア寿命(1〜5ns)程度の遅れが生じることはない。このため、逆バイアス電圧のオン/オフに応じて、規則的な屈折率分布からなる回折格子のオン/オフをサブnsレベルで高速に切り換えることができる。
【0082】
なお、不図示の筺体の内部に、本実施形態の半導体光反射器と、n型電極及びp型電極の間に逆バイアス電圧を印加する不図示の直流電圧源と、を配置した半導体光反射装置を構成してもよい。
【0083】
(第2の実施形態)
本発明に係る半導体レーザの実施形態を図面を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成及び動作については適宜説明を省略する。
【0084】
図8は、第2の実施形態に係る半導体レーザ30の光導波方向に沿った断面図である。本実施形態の半導体レーザ30は、第1の実施形態の半導体光反射器10からなる光反射領域と光学利得領域を構造的に一体化したものである。
【0085】
図8に示すように、半導体レーザ30は、光を誘導放出するための活性層31を有する光学利得領域と、活性層31の少なくとも一端側に波長選択性を有して光を反射する光反射領域(第1の実施形態の半導体光反射器10に相当)と、を備える。
【0086】
即ち、半導体レーザ30は、光反射領域のn型基板11、n型クラッド層12、p型クラッド層13、及び共通電極15が一端側に延長された構成を有している。
【0087】
そして、延長されたn型クラッド層12とp型クラッド層13との間に、光反射領域の導波路層14と連続する活性層31が形成されていると共に、活性層31の上面側に励起用電極32が設けられている。
【0088】
なお、光学利得領域と光反射領域の間に、半導体レーザ30の発振波長を調整するための位相調整領域が形成されていてもよい。
【0089】
以下、上記のように構成された本実施形態の半導体レーザ30の動作を、図8を参照しながら説明する。
【0090】
端子20Dを介して励起用電極32と共通電極15との間に、順バイアス電圧印加により駆動電流Idが注入されると、活性層31で光が放出され、その一部の光が導波路層14に入射する。
【0091】
第1の実施形態で述べた複数の電圧制御部材17からなる第1〜第3の電圧制御部材群17A、17B、17Cと対応する部分の導波路層14の反射波長は、活性層31からの放出光の帯域内にあるものとする。
【0092】
ここで、例えば、第1の電圧制御部材群17Aと対応して形成されている第1の個別電極16Aと共通電極15との間に、不図示の直流電圧源から端子20Aを介して逆バイアス電圧V1が印加されると、活性層31から導波路層14に入射された光のうち、波長λB1の光が電圧制御部材群17Aの電圧制御作用により選択的に反射されることになる。
【0093】
これにより、その波長λB1の光が端面30bと第1の電圧制御部材群17Aの近傍の導波路層14との間で繰り返し反射、増幅され、その一部が、例えば、端面30bから出射される。
【0094】
また、同様に、第2の電圧制御部材群17Bと対応して形成されている第2の個別電極16Bと共通電極15との間に逆バイアス電圧V2が印加された場合には、第2の電圧制御部材群17Bの電圧制御作用により波長λB2の光が出射される。
【0095】
同様に、第3の電圧制御部材群17Cと対応して形成されている第3の個別電極16Cと共通電極15との間に逆バイアス電圧V3が印加された場合には、第3の電圧制御部材群17Cの電圧制御作用により波長λB3の光が出射されることになる。
【0096】
従って、本実施形態に係る半導体レーザ30は、活性層31で誘導放出された光のうち、光反射領域によって反射された波長の光を選択的に発振することができる。
【0097】
以下、本実施形態に係る半導体レーザ30の製造方法の一例を図9〜図11を用いて説明する。
【0098】
まず、図9(a)に示すように、n型InP基板100上に、InGaAsPからなる下部光閉じ込め(SCH:Separated Confinement Heterostructure)層101、InGaAsPからなる活性層102、InGaAsPからなる上部SCH層103を有機金属気相成長法により形成する。
【0099】
なお、SCH層101、103及び活性層102は、さらに多層の内部構造を有することが一般的である。即ち、多層の内部構造としてグレーデッドインデックスSCH構造やMQW構造など、広く知られている構造を採用することが可能であり、SCH層は必須ではない。
【0100】
活性層102がMQW構造からなる場合には、活性層102の材料としてInGaAsPだけでなく、InGaAsを用いてもよいし、Alを含む層が含まれていてもよい。この場合、各層の組成は、目的とする発振波長帯に合わせて、適宜設計可能である。
【0101】
次に、上部SCH層103の表面にSiO2膜104を形成した後、全面にレジスト(不図示)を塗布し、フォトリソグラフィによって最終的に光学利得領域となる部分にのみにレジストを残す。なお、上部SCH層103とSiO2膜104の間に保護層を形成することも可能である。
【0102】
そして、反応性イオンエッチングなどのドライエッチング法あるいはフッ酸等によるウェットエッチング法を用いて露出したSiO2を除去する。引き続き、残ったSiO2膜104をエッチングマスクとしてドライエッチング法あるいは硫酸などによるウェットエッチング法を用いて、下部SCH層101、活性層102、上部SCH層103を部分的に除去する。図9(b)は、残留レジストまで除去した状態を示している。
【0103】
この後、SiO2膜104を成長阻害マスクとして、露出したInP基板100上にInGaAsPからなる導波路層105を積層し、既に形成されているSCH層101、103及び活性層102とのバットジョイント接合を形成する。なお、この工程においては、活性層102の積層中心と導波路層105の積層中心を一致させるように成長を行うことが重要である。図9(c)は、SiO2膜104をフッ酸により除去した状態を示している。
【0104】
ここで、導波路層105のInGaAsPの組成は、活性層102の組成よりバンドギャップが大きいものとなっている。例えば、発振波長1.55μmの半導体レーザを製造する場合であれば、導波路層105のInGaAsPの組成は、1.2〜1.45μmの範囲に設定するとよい。
【0105】
続いて、図9(d)に示すように、全面にp型InPスペーサ層106と、n型InPの電圧制御部材107とを形成する。なお、スペーサ層106は、後にクラッド層を成長する際にクラッド層と一体化してその一部となる。
【0106】
次に、全面にレジストを塗布した後、電子ビーム描画法あるいは干渉露光法によってDBR領域(電圧制御部材群)となる部分に回折格子状レジスト108を形成する。図10(e)は、この状態を示している。
【0107】
そして、飽和臭素水等を用いたエッチャントによってウェットエッチングを行い、複数の電圧制御部材群からなる電圧制御部材17を回折格子状にエッチングする。
【0108】
この場合、n型InPとp型InPのエッチングレートの差は僅かなので、図10(f)に示すようにスペーサ層106の途中まで進んだところでエッチングを停止できるように時間調整を行う。なお、図10(f)は、エッチング後にレジストを除去した状態を描いている。
【0109】
次に、これらの全面を覆うようにp型InPクラッド層106'を成長する。スぺーサ層106とクラッド層106'は同一組成のため、図10(g)ではこれらを一体化して描いている。
【0110】
次に、フォトリソグラフィとエッチングによって全体をストライプ状のメサに成形し、メサの両側をp型InP及びn型InPによるBH(Buried Heterostructure)層110、111で埋め込み、全体の上面にp型InP上部クラッド層112、p型InGaAsコンタクト層113を形成して、結晶成長工程を完了する。
【0111】
引き続き、p型InGaAsコンタクト層113上にp型電極114を形成する際、p型電極114を複数に分離して形成する。この場合、p型電極114の分離部分の分離抵抗をより高めるために、分離部分のコンタクト層113をエッチングによって除去することが望ましい。
【0112】
引き続き、n型InP基板100の底面を研磨することによって、上記の結晶成長工程を完了した多層構造体を100μm程度の厚さに削った後、その研磨面にn型電極115を形成し、本実施形態の半導体レーザ30が完成する。図11(h)、図11(i)は、上記の工程により形成された半導体レーザ構造の正面図と、光導波方向に沿った断面図とを示している。
【0113】
なお、半導体レーザの端面は劈開によって形成し、必要に応じて劈開によって形成された端面に誘電体薄膜によるコーティングを施す。例えば、光学利得領域側の端面に劈開面の反射率以下になるLRコート(不図示)を形成し、光反射領域側の端面に反射率1%程度のARコート(不図示)を形成してもよい。また、光学利得領域側の端面にARコートを形成し、この端面からの出射光を外部の波長連続可変光反射器との間で往復させ、レーザ発振させる構成としてもよい。
【0114】
なお、上記説明では、複数の電圧制御部材17をn型InPとしたが、Feドープ等による絶縁性InP(高抵抗材料)であってもよい。
【0115】
本実施形態の半導体レーザにおいては、第1の実施形態の半導体光反射器からなる光反射領域が光学利得領域と一体化されていることにより、異なる波長の縦モード発振を高速に切り換えることができる。
【0116】
なお、不図示の筺体の内部に、本実施形態の半導体レーザと、n型電極及びp型電極の間に逆バイアス電圧を印加する不図示の直流電圧源と、励起用電極及びn型電極の間に順バイアス電圧印加により駆動電流を注入する不図示の直流電流源と、を配置した半導体レーザ装置を構成してもよい。
【0117】
(第3の実施形態)
本発明に係る半導体レーザの実施形態を図面を参照しながら説明する。なお、第1及び第2の実施形態と同様の構成及び動作については適宜説明を省略する。
【0118】
図12は、第3の実施形態に係る半導体レーザ40の概略構成を示す上面図であり、図13は図12のA−A'断面図である。本実施形態の半導体レーザ40は、第1の実施形態の半導体光反射器10からなる光反射領域と、第2の実施形態に係る半導体レーザ30の光学利得領域を構造的に一体化したものである。
【0119】
図12、図13に示すように、半導体レーザ40は、光を誘導放出するための活性層31を有する光学利得部41と、波長選択性を有して活性層31から誘導放出された光を反射する複数の光反射部10A、10B、10C(第1の実施形態の半導体光反射器10に相当)と、活性層31と各光反射部10A、10B、10Cが有する導波路層14A、14B、14Cとを結合する結合導波路42を有する光結合部43と、を備える。また、光反射領域側の端面にはARコート(不図示)を形成する。
【0120】
即ち、半導体レーザ40は、光反射部10A、10B、10Cのn型基板11、n型クラッド層12、p型クラッド層13、及び共通電極15が一端側に延長された構成を有している。光反射部10A、10B、10Cの各導波路層14A、14B、14Cと、結合導波路42とは、同じ材料で形成されている。
【0121】
光学利得部41の上面側には励起用電極32、各光反射部10A、10B、10Cの上面側には個別電極16A、16B、16Cが設けられている。
【0122】
以下、上記のように構成された本実施形態の半導体レーザ40の動作を、図12、図13を参照しながら説明する。
【0123】
励起用電極32と共通電極15との間に、順バイアス電圧印加により駆動電流Idが注入されると、活性層31で光が放出され、その一部の光が結合導波路42を介して、各導波路層14A、14B、14Cに入射する。
【0124】
ここで、例えば、端子20Bを介して第2の個別電極16Bに、逆バイアス電圧V2が印加されると、活性層31から導波路層14Bに入射された光のうち、波長λB2の光が選択的に反射されることになる。
【0125】
これにより、その波長λB2の光が端面40bと導波路層14Bとの間で繰り返し反射、増幅され、その一部が端面40bから出射される。
【0126】
本実施形態の半導体レーザ40は、第1及び第2の実施形態の効果に加えて、素子全体の設計の自由度を向上させることができるという効果を有する。
【符号の説明】
【0127】
10 半導体光反射器
10A、10B、10C 光反射部
11 n型基板
12 n型クラッド層
13 p型クラッド層
14、14A、14B、14C 導波路層
15 共通電極(n型電極)
16 p型電極
16A 第1の個別電極
16B 第2の個別電極
16C 第3の個別電極
17 電圧制御部材
17A 第1の電圧制御部材群
17B 第2の電圧制御部材群
17C 第3の電圧制御部材群
18 エピタキシャルウエハ
18a、18b 端面
19 p型スペーサ層
20A、20B、20C、20D 端子
30 半導体レーザ
30a、30b 端面
31 活性層
32 励起用電極
40 半導体レーザ
40a、40b 端面
41 光学利得部
42 結合導波路
43 光結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型基板(11)と、
前記n型基板自体の一部または前記n型基板の上方に形成されたn型クラッド層(12)と、
前記n型クラッド層の上方に形成されたp型クラッド層(13)と、
前記p型クラッド層と前記n型クラッド層との間に形成された、光を導波するための導波路層(14)と、
前記n型基板の底面及び前記p型クラッド層の上面にそれぞれ形成されたn型電極(15)及びp型電極(16)と、
前記導波路層の近傍に該導波路層の光導波方向に沿って規則的に配置された複数の電圧制御部材(17)と、を備え、
前記n型電極及び前記p型電極は、該n型電極及び該p型電極の間に逆バイアス電圧を外部から印加するための端子を有しており、
前記複数の電圧制御部材は、前記n型クラッド層または前記p型クラッド層とほぼ等しい屈折率を示すと共に、前記端子を介して前記n型電極及び前記p型電極の間に逆バイアス電圧が印加された状態で前記導波路層内に前記光導波方向に沿った規則的な電圧分布をもたらすと共に、該規則的な電圧分布に基づいて前記導波路層内に前記光導波方向に沿った規則的な屈折率の分布を生じせしめるようになっており、
それによって、前記導波路層は入射される光のうち、前記規則的な屈折率の分布によって決定される波長の光を反射することを特徴とする半導体光反射器。
【請求項2】
前記複数の電圧制御部材は、前記p型クラッド層と前記n型クラッド層の少なくとも一方の内部に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の半導体光反射器。
【請求項3】
前記複数の電圧制御部材は、周囲のクラッド層の導電型と反対の導電型を有することを特徴とする請求項2に記載の半導体光反射器。
【請求項4】
前記複数の電圧制御部材は、高抵抗材料からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体光反射器。
【請求項5】
前記n型電極が共通電極として形成され、前記p型電極が1以上の個別電極(16A、16B、16C)として形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体光反射器。
【請求項6】
前記複数の電圧制御部材は、1以上の前記個別電極毎に対応付けられたそれぞれ所定の間隔を有する1以上の電圧制御部材群(17A、17B、17C)として形成されており、
前記複数の電圧制御部材のうち前記所定の間隔としてΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)を有する第mの電圧制御部材群に対応する第mの個別電極と前記共通電極との間に逆バイアス電圧が印加された状態でブラッグ反射の条件λBm=2nmΛm(但し、nmは前記導波路層の等価屈折率である)を満たす波長λBmで反射率がピークとなる第mの反射特性を示し、
前記反射特性を選択的に切り換え可能としたことを特徴とする請求項5に記載の半導体光反射器。
【請求項7】
前記複数の電圧制御部材は、2以上の前記個別電極毎に対応付けられたそれぞれ所定の間隔を有する2以上の電圧制御部材群(17A、17B、17C)として形成されており、
前記複数の電圧制御部材のうち前記所定の間隔としてΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)を有する第mの電圧制御部材群に対応する第mの個別電極と前記共通電極との間に逆バイアス電圧が印加された状態でブラッグ反射の条件λBm=2nmΛm(但し、nmは前記導波路層の等価屈折率である)を満たす波長λBmで反射率がピークとなる第mの反射特性を示し、
前記反射特性のうち少なくとも2つの反射特性を任意の組み合わせで切り換え可能としたことを特徴とする請求項5に記載の半導体光反射器。
【請求項8】
請求項6に記載の半導体光反射器の駆動方法であって、
前記第mの個別電極(m=1,・・・,M:Mは自然数)のうちの1つと前記共通電極との間に前記端子を介して選択的に逆バイアス電圧を印加し、
前記反射特性を選択的に切り換え可能とする半導体光反射器の駆動方法。
【請求項9】
請求項7に記載の半導体光反射器の駆動方法であって、
前記第mの個別電極(m=1,・・・,M:Mは自然数)のうちの少なくとも2つと前記共通電極との間に前記端子を介して逆バイアス電圧を印加し、
前記反射特性のうち少なくとも2つの反射特性を任意の組み合わせで切り換え可能とする半導体光反射器の駆動方法。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の半導体光反射器と、
前記半導体光反射器の前記n型電極及び前記p型電極の間に前記端子を介して逆バイアス電圧を印加する直流電圧源と、を備える半導体光反射装置。
【請求項11】
光を誘導放出するための活性層(31)を有する光学利得領域と、前記活性層の少なくとも一端側に波長選択性を有して光を反射する光反射領域と、を備え、前記活性層で誘導放出された光のうち、前記光反射領域によって反射された波長の光を選択的に発振する半導体レーザにおいて、
前記光反射領域は、
n型基板(11)と、
前記n型基板自体の一部または前記n型基板の上方に形成されたn型クラッド層(12)と、
前記n型クラッド層の上方に形成されたp型クラッド層(13)と、
前記p型クラッド層と前記n型クラッド層との間に形成された、光を導波するための導波路層(14)と、
前記n型基板の底面及び前記p型クラッド層の上面にそれぞれ形成されたn型電極(15)及びp型電極(16)と、
前記導波路層の近傍に該導波路層の光導波方向に沿って規則的に配置された複数の電圧制御部材(17)と、を備え、
前記n型電極及び前記p型電極は、該n型電極及び該p型電極の間に逆バイアス電圧を外部から印加するための端子を有しており、
前記複数の電圧制御部材は、前記n型クラッド層または前記p型クラッド層とほぼ等しい屈折率を示すと共に、前記端子を介して前記n型電極及び前記p型電極の間に逆バイアス電圧が印加された状態で前記導波路層内に前記光導波方向に沿った規則的な電圧分布をもたらすと共に、該規則的な電圧分布に基づいて前記導波路層内に前記光導波方向に沿った規則的な屈折率の分布を生じせしめるようになっており、
それによって、前記導波路層は入射される光のうち、前記規則的な屈折率の分布によって決定される波長の光を反射することを特徴とする半導体レーザ。
【請求項12】
前記複数の電圧制御部材は、前記p型クラッド層と前記n型クラッド層の少なくとも一方の内部に形成されたことを特徴とする請求項11に記載の半導体レーザ。
【請求項13】
前記複数の電圧制御部材は、周囲のクラッド層の導電型と反対の導電型を有することを特徴とする請求項12に記載の半導体レーザ。
【請求項14】
前記複数の電圧制御部材は、高抵抗材料からなることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の半導体レーザ。
【請求項15】
前記n型電極が共通電極として形成され、前記p型電極が1以上の個別電極(16A、16B、16C)として形成されたことを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の半導体レーザ。
【請求項16】
前記複数の電圧制御部材は、1以上の前記個別電極毎に対応付けられたそれぞれ所定の間隔を有する1以上の電圧制御部材群(17A、17B、17C)として形成されており、
前記複数の電圧制御部材のうち前記所定の間隔としてΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)を有する第mの電圧制御部材群に対応する第mの個別電極と前記共通電極との間に逆バイアス電圧が印加された状態でブラッグ反射の条件λBm=2nmΛm(但し、nmは前記導波路層の等価屈折率である)を満たす波長λBmで反射率がピークとなる第mの反射特性を示し、
前記反射特性を選択的に切り換え可能としたことを特徴とする請求項15に記載の半導体レーザ。
【請求項17】
前記複数の電圧制御部材は、2以上の前記個別電極毎に対応付けられたそれぞれ所定の間隔を有する2以上の電圧制御部材群(17A、17B、17C)として形成されており、
前記複数の電圧制御部材のうち前記所定の間隔としてΛm(m=1,・・・,M:Mは自然数)を有する第mの電圧制御部材群に対応する第mの個別電極と前記共通電極との間に逆バイアス電圧が印加された状態でブラッグ反射の条件λBm=2nmΛm(但し、nmは前記導波路層の等価屈折率である)を満たす波長λBmで反射率がピークとなる第mの反射特性を示し、
前記反射特性のうち少なくとも2つの反射特性を任意の組み合わせで切り換え可能としたことを特徴とする請求項15に記載の半導体レーザ。
【請求項18】
請求項16に記載の半導体レーザの駆動方法であって、
前記第mの個別電極(m=1,・・・,M:Mは自然数)のうちの1つと前記共通電極との間に前記端子を介して選択的に逆バイアス電圧を印加し、
前記反射特性を選択的に切り換え可能とする半導体レーザの駆動方法。
【請求項19】
請求項17に記載の半導体レーザの駆動方法であって、
前記第mの個別電極(m=1,・・・,M:Mは自然数)のうちの少なくとも2つと前記共通電極との間に前記端子を介して逆バイアス電圧を印加し、
前記反射特性のうち少なくとも2つの反射特性を任意の組み合わせで切り換え可能とする半導体レーザの駆動方法。
【請求項20】
請求項11から請求項17のいずれか一項に記載の半導体レーザと、
前記光反射領域の前記n型電極及び前記p型電極の間に前記端子を介して逆バイアス電圧を印加する直流電圧源と、を備える半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−21120(P2013−21120A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153040(P2011−153040)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】