説明

半導体光源

光源はシリコンとフッ化カルシウム(CaF)の組合せをベースとしている。シリコン及びフッ化カルシウムは純粋である必要はなく、それらの電気的特性及び/又は物理的特性を制御するためにドープされてもアロイ化されてもよい。本光源は、例えば多層構造として配置されるシリコンとフッ化カルシウムの交互配置部を使用し、近赤外スペクトル領域の光を放射するように伝導帯のサブバンド間遷移を使用して動作することが好ましい。本光源は、量子カスケードレーザ、リング共振器レーザ、導波路型光増幅器を形成するように構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光源に関し、より詳細には半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
通常の半導体光源及び半導体レーザは、ガリウムヒ素(GaAs)などの直接バンドギャップ化合物半導体を使用している。通常、直接バンドギャップ化合物半導体は、バンド間電子遷移の原理で機能し、この場合、半導体材料内の励起された電子が伝導帯端から価電子帯端まで遷移すると、光が放射される。
【0003】
対照的に、シリコン(Si)などの間接バンドギャップ半導体は、電子が伝導帯端から価電子帯端まで遷移するためには、フォノンが放出される、又は吸収されることを必要とする。この必要条件は、他の点では同じ状況下でフォノンが必要でない場合よりも、そのような遷移の可能性を低くする。その結果、光は放射されにくく、したがって、Siは、最も広く使用されている半導体であるにもかかわらず、半導体光源の製造に適した材料とは見なされない。
【0004】
別の種類の半導体光源である半導体量子カスケードレーザは、サブバンド間遷移としても知られているバンド内遷移を使用する。バンド内遷移では、伝導帯又は価電子帯のより上位の準位のエネルギー帯、すなわちより高いエネルギー・サブバンドに励起された電子は、同じバンドのより下位の準位のエネルギー帯、すなわちより低いエネルギー・サブバンドに落ちる。従来、量子カスケードレーザは、ガリウムインジウムヒ素/アルミニウムインジウムヒ素(GaInAs/AlInAs)などの化合物半導体をベースにしている。一般に、GaInAs/AlInAsの量子カスケードレーザは、例えば4〜13μmの中赤外(IR)スペクトル領域の光を生成する。
【0005】
シリコンとゲルマニウムの組合せを使用する量子カスケードレーザも研究されてきた。残念なことに、Si/Geをベースにしてレーザを実現するには相当の困難がある。この困難は、a)SiとGeの間にある、例えば4%の大きな格子不整合、b)伝導帯を使用するよりも複雑さが増すために望ましくない、価電子帯を使用しなければならないという事実、及びc)Si及びGeの伝導帯と価電子帯間の小さなバンドオフセットに起因する。若干の電界発光が観察されたにもかかわらず、レージングがSi及びGeを使用して実現されたとは考えられていない。さらに、例えSi及びGeを使用してレージングが実現されたとしても、動作波長が18μmよりも大きくなってしまうことが予想され、この波長では、現在の電気通信用途に役立たない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の原理により、シリコンとフッ化カルシウム(CaF)の組合せをベースとする光源によって、シリコンベースの基板に構築することができる半導体光源の開発に関する問題が解決される。シリコン及びフッ化カルシウムは純粋である必要はなく、それらの電気的特性及び/又は物理的特性を制御するために、ドープされてもアロイ化されてもよい。
【0007】
本光源は、例えば多層構造として配置されるシリコンとフッ化カルシウムの交互配置部を使用し、伝導帯のサブバンド間遷移を使用して動作することが好ましい。より具体的には、CaFよりも小さなバンドギャップを有するSiが量子井戸を形成し、Siよりも大きなバンドギャップを有するCaFが障壁を形成する。有利には、このような光源は、例えば0.55%ほどの小さな格子不整合、及び例えば約2.2電子ボルトの大きな伝導帯オフセットを有する。Si及びCaF光源は、例えば1μm〜4μmの間、より具体的には、それぞれが現代の通信用途に適した1.5μm及び1.3μmの近赤外スペクトル領域の光を放射するように調整することができる。さらに有利には、主にシリコンをベースとする光源は、GaAsをベースとする光源よりも安価に製造でき、そのような光源は、シリコン技術に基づく従来の電子部品と統合することがより容易である。
【0008】
例えば、SiとCaFとゲルマニウム及びフッ化カドミウム(CdF)などの他の材料をドープ及び/又はアロイ化して組み合わせると、光源の特性のさらなるカスタマイズが可能になる。例えば、シリコンと少量のGeをアロイ化することによって、完全な格子整合を達成することができる。CaFとフッ化カドミウム(CdF)をアロイ化し、それにガリウム(Ga)などの3価金属イオンをドープすることによって、その結果得られる組合せを導電性にすることができる。
本光源は、量子カスケードレーザ、リング共振器レーザ、導波路型光増幅器を形成するように構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、単に本発明の原理のみを示す。したがって、本明細書で明確に記載又は示されていなくとも、本発明の原理を実施し、本発明の趣旨及び範囲に含まれるさまざまな構成を当業者が考案できることが理解されよう。さらに、本明細書に記載したすべての例及び条件つきの表現は、主に、本発明の原理と、技術の進歩に対して本発明者が貢献する発想とを読者が理解する助けとなるための教育的な目的となることのみが明確に意図されており、具体的に記載したそれらの例及び条件に限定されることなく解釈されるべきである。また、本発明の原理、態様、及び実施形態、並びに本発明の具体例に関して述べている本明細書のすべての記載は、本発明の構造的等価物及び機能的等価物のいずれをも含むことが意図されている。それに加え、そのような等価物は、現在知られている等価物と、将来開発される等価物、すなわち構造に関係なく同じ機能を実行する、開発されるあらゆる要素のいずれをも含むことが意図されている。
【0010】
添付の特許請求の範囲では、特定の機能を実行するための手段として記載される任意の要素は、その機能を実行するいかなる方法をも含むことが意図されている。これには、例えばa)その機能を実行する電気式若しくは機械式要素の組合せ、又はb)任意の形態、したがって、ファームウェア、マイクロコード等を含むソフトウェアであって、機能を実行するためにこのソフトウェアを実行するのに適した回路と組み合わさり、場合によってはソフトウェアが制御する回路に結合した機械式要素と組み合わさったソフトウェアが含まれることがある。このような特許請求の範囲で定義されているように、本発明は、特許請求の範囲によって求められる通りに、記載されたさまざまな手段によってもたらされる機能性が結合され、1つにまとめられるという事実に帰する。したがって、出願人は、これらの機能性を提供可能なあらゆる手段を本明細書で示すものと等価であると見なしている。
【0011】
ソフトウェア・モジュール、又はソフトウェアであることを意味する単なるモジュールは、本明細書において、フローチャート要素同士、あるいは処理ステップの遂行及び/又はテキスト記述を示す他の要素同士の任意の組合せとして表現されることがある。このようなモジュールは、明示又は非明示のハードウェアによって実行され得る。
【0012】
本明細書で別段明記しない限り、図面は一定の比率では描画されていない。
さらに、本明細書で別段明記しない限り、本明細書で示しかつ/又は記載するいかなるレンズも、実際はそのレンズ独自の特定の特性を有する光学系である。そのような光学系は、単一のレンズ素子によって実施することができるが、必ずしもそれに限定されない。同様に、ミラーが示されてかつ/又は記載されている場合、実際に示されかつ/又は記載されているものは、そのようなミラーの特定の特性を有する光学系であり、そのような光学系は、単一のミラー素子によって実施することができるが、必ずしも単一のミラー素子には限定されない。これは、当技術分野で周知のように、さまざまな光学系が、単一のレンズ素子又はミラーの同じ機能性をより優れた形、例えば、より少ない歪みで提供できるからである。さらに、当技術分野で周知のように、湾曲したミラーの機能性は、レンズとミラーの組合せによって実現することができ、その逆もあり得る。また、特定の機能を実行している光学部品、例えば結像系、格子、被覆された素子、及びプリズムのいかなる配置も、同じ特定の機能を実行する光学部品の他の任意の配置に置き換えることができる。したがって、本明細書で別段明記しない限り、本明細書に開示する実施形態全体の範囲内の特定の機能を提供可能なすべての光学素子又は光学系は、本開示の目的に関して互いに同等である。
【0013】
説明中、異なる図面内で同じ番号が付けられた構成要素は、同じ構成要素を意味する。
図1は、本発明の原理によるシリコンベースの基板上に構築された例示的な半導体光源100を示している。より具体的には、光源100は、シリコン(Si)及びフッ化カルシウム(CaF)の組合せをベースとしている。シリコン及びフッ化カルシウムは、それらの電気的特性及び/又は物理的特性を制御するためにドープされてもアロイ化されてもよい。
【0014】
半導体光源100は、基本発光ユニットとして機能する。理論レベルでは、半導体光源100は単一の量子井戸構造体であり、特にCaF障壁を有する単一のシリコン量子井戸である。より具体的には、SiはCaFよりも小さなバンドギャップを有するので、Siが量子井戸を提供し、Siより大きなバンドギャップを有するCaFが障壁を提供する。量子井戸構造体の一方の側の電極が電子を供給し、この電子が障壁をトンネルして、量子井戸構造体の他方の側の電極によって運び去られることが可能である。半導体光源100は、伝導帯のサブバンド間遷移を使用して動作することが好ましい。有利には、このような光源は、例えば0.55%ほどの小さな格子不整合、及び例えば約2.2電子ボルトの大きな伝導帯オフセットを有する。
【0015】
物理的には、光源100は、a)シリコン(Si)基板101、b)二酸化シリコン層SiO 102、c)Si層103、d)導電性Si(nSi)層105、e)CaF層107、f)Si層109、g)CaF層111、h)導電性CaF層113、i)金属層115及び117、並びにj)導体125及び127を含む。
【0016】
基板101は、市販のシリコンウエハなどの、従来のシリコンウエハであってもよい。二酸化シリコン層102は、一般に埋込み酸化物(BOX)層と呼ばれる従来のSiO層である。SiO層102は、Siよりも低い屈折率を有する。したがって、この層は、上方の高い屈折率を有する領域内で生成された光を閉じ込めて、この領域の外へ洩出するのを防ぐ働きをする。言い換えると、SiO層102は、生成された光が基板101内に漏れないようにする光絶縁をもたらす。Si層103は、光源100の活性層を形成する追加の単結晶層を成長させるのに適した基部を提供するSiの単結晶層である。Si基板101、二酸化シリコン層102、及びSi層103から形成されたウエハは市販されており、シリコン・オン・インシュレータ(SOI)ウエハとして知られている。
【0017】
導電性シリコン層105は、n型にドープすることができ、その結果この層は適切な導電性となり、量子井戸構造体の一方の電極として効果的に機能できる。言い換えると、導電性シリコン層105は、平板電極の役割をするように配置される。当業者であれば、所望のレベルの導電率を達成するように導電性シリコン層105を適切にドープすることが容易に可能である。一般に、シリコン層105がより導電性になるほど、より多くの光が生成される。導電性シリコン層105は金属電極層117に電気的に接続され、金属電極層117は導体127に結合され、その結果、電気は導体127及び電極層117介してシリコン層105へ伝導される。
【0018】
CaF層107は、ドープする必要のない、例えば5〜50オングストロームのCaF薄層である。Si層109は、ドープする必要のない、例えば5〜100オングストロームのSi薄層である。CaF層111は、ドープする必要のない、例えば、典型的には5〜50オングストロームのCaF薄層である。
【0019】
導電性CaF層113は、少なくとも1つの他の材料と組み合わされるCaF層である。典型的には、導電性CaF層113は、より薄いCaF層107及び111よりも厚い。導電性のCaF層113は、例えば、ドープされるか又はアロイ化されて少なくとも1つの他の材料と組み合わされ、その結果、それによって得られる組合せは、効果的な導電性、例えばn型導電性となる。n型導電性を実現するための1つの方法は、CaF層113とCdFをアロイ化し、次いでそのアロイ全体に3価の金属イオン、例えばガリウム(Ga)をドープすることである。アロイという言葉が意味するのは、単なるドーパントであると考えられるよりもCdF濃度が高いということである点に留意されたい。例えば、導電性Si層105のドーピングは、シリコンに濃度0.005%のアンチモンを使用して実行することができる一方、CaFとCdFのアロイは、CaF中の1%のCdFから構成することができる。
【0020】
導電性CaF層113は、導電性シリコン層105と同様に電極の役割をする。導電性CaF層113は金属電極層115に電気的に接続され、金属電極層115は導体125に結合され、その結果、電気は導体125及び電極層115介して導電性CaF層113に供給される。
【0021】
図1の例示的な半導体光源100などの、Si及びCaF光源は、例えば1μm〜4μmの間、より具体的には、それぞれ現代の通信用途に適した1.3又は1.5μmの近赤外スペクトル領域の光を放射するように調整することができる。さらに有利には、主にシリコンをベースとする光源は、他の化合物半導体をベースとする光源よりも安価に製造できる。シリコンをベースとする光源は、シリコン技術に基づく従来の電子部品及び光学部品と統合することもより容易である。
【0022】
n型Si及びCaFを示してきたが、p型Si及びCaFも同様に使用可能となり得ることが、当業者には認識されるであろうということに留意されたい。
【0023】
図2は、導体125と127の間に電圧が印加されていないときの、例示的な半導体光源100(図1)などの例示的な半導体光源の伝導帯図の基本部分を模式的に表している。領域209(図2)は、CaF領域207及び211によって形成されるSi量子井戸を表している。領域209はSi層109(図1)に対応し、CaF領域207及び211(図2)がそれぞれCaF層107及び111(図1)に対応している点に留意されたい。また、領域207、209、及び211を画定する線分247、249、及び251は、それらの関連する層の材料の伝導帯の底を表している点に留意されたい。伝導帯オフセットは、領域207又は領域211内の伝導帯の底と領域209内の伝導帯の底との間の電位差であり、量子井戸の高さに相当し、約2.2電子ボルトである。
【0024】
また図2には、エネルギーEl及びE2を有するエネルギー帯221及び223も示されており、ここでは、E2はElよりも大きい。電子が領域209内にある間は、この電子は、エネルギー帯221及び223の一方にのみ存在できる。E2とElのエネルギー差は、使用される個々の材料及びそれらの各層の厚さに依存する。好ましくは、E2とElのエネルギー差を0.8eV程度にすることができ、これは1.5μm程度の光波長に相当する。あるいは、E2とElのエネルギー差を0.95eV程度にすることもでき、これは1.3μm程度の光波長に相当する。
【0025】
Si及びCaFに、ゲルマニウム及びフッ化カドミウム(CdF)などの他の材料を、例えばドープ及び/又はアロイ化して組み合わせると、本発明の原理によって構成される半導体光源の特性のさらなるカスタマイズが可能になる。例えば、例示的な半導体光源100(図1)では、シリコン層109のシリコンと少量のGeをアロイ化することによって、完全な格子整合を達成することができる。CaF層107又は111の一方又は両方のCaFとフッ化カドミウム(CdF)をアロイ化することよって、その結果得られる組合せを導電性にすることができる。このような材料を添加することによって、加えられる方の材料のバンドギャップが変化し、その材料のバンド配列も変化する。その結果、例示的な光構造体100を形成するために、このような材料は組み合わせて使用すると、その結果得られるサブバンド間のギャップは、材料が加えられない場合と比較して変化する。その結果、サブバンドのギャップを制御し、したがって、生成される光の波長を制御することができる。当業者には容易に理解されるように、本発明のこのような実施形態の実際の伝導帯図は、必ずしもまったく同じというわけではないが、図2の伝導帯図と同様である。
【0026】
図2と同様、図3は、本発明の原理によって構成された、例示的な半導体光源100(図1)などの例示的な半導体光源の伝導帯図の広範な部分を模式的に表している。しかし図2とは異なり、図3では伝導帯図は、典型的動作条件下にあるなど、導体125と導体127の間に電位差があるときのものある。領域309(図3)は、CaF領域307及び311によって形成されるSi量子井戸を表している。領域309がSi層109(図1)に対応し、CaF領域307及び311(図3)がそれぞれCaF層107(図1)及び111に対応する点に留意されたい。対応する領域209の底249(図2)と比較して、領域309(図3)の底349(図3)が傾いている点に留意されたい。これは、電圧の印加によるものである。同様に、伝導帯の底に対応する、領域307及び311それぞれの上部線分347及び351は、対応する各線分247(図2)及び251と比較して傾いている。しかし、領域307内の伝導帯の底又は領域311内の伝導帯の底と、それと最も密接に隣接する領域309の伝導帯の底との電位差である伝導帯オフセットは、図2に示す電圧が印加されていない場合と同じであり、したがって伝導帯オフセットは、依然として約2.2電子ボルトである。
【0027】
また図3には、エネルギーEl及びE2を有するエネルギー帯321及び323も示されており、ここでは、E2はElよりも大きい。電子が領域309内にある間は、この電子は、エネルギー帯321及び323の一方にのみ存在できる。E2とElのエネルギー差は、使用される個々の材料及びそれらの各層の厚さに依存する。好ましくは、E2とElのエネルギー差を0.8eV程度にすることができ、これは1.5μm程度の光波長に相当する。あるいは、E2とElのエネルギー差を0.95eV程度にすることもでき、これは1.3μm程度の光波長に相当する。
【0028】
例えば図4は、オングストロームで表す量子井戸幅と、それに対応する、電子ボルト(eV)で結果として表されるサブバンド・エネルギーとの一般的関係の近似を示すグラフを示している。量子井戸幅は、Si層109の厚さに対応する。量子井戸に少なくとも2つのサブバンドを有し、これら2つのサブバンド間のエネルギーが所望の光の波長に対応することが望ましいという点に留意されたい。例えば、2つのサブバンドに約0.8eVの間隔があると、その結果生じる光は約1.5μmであり、2つのサブバンドに約0.95eVの間隔があると、その結果生じる光は約1.3μmである。先に説明したように、基本層材料への材料の添加を使用することにより、サブバンド間のギャップ、したがって生成される光の波長を変えることができる。当業者には、所望の光の波長を生成するのに適した幅及び添加材料を選択することが容易に可能であろう。
【0029】
図3に戻ると、金属層115(図1)及び導電性シリコン層105の伝導帯それぞれに対応する伝導領域315及び305が、電子で充填されている点に留意されたい。また、領域313の伝導帯の底も電子で充填されている。導電性領域315から供給される電子は、導電性CaF層113(図1)に対応する導電性CaF領域313を通過する点に留意されたい。次いでこれらの電子は、CaF領域307を量子機構的にトンネルして、領域309に対応する量子井戸内のエネルギー準位323に到達する。電子がエネルギー準位323からエネルギー準位321に自然に遷移するときに、量子遷移325によって概略的に示すように電子が光子を放出する。次いで、エネルギーの低下した電子は、CaF領域311をトンネルして導電性シリコン領域305に到達する。電子は、そこから構造物を出ることができる。
【0030】
図5は、別の例示的な半導体光源の活性領域500を示している。活性領域500は、さまざまなレーザ構成での使用に適している。活性領域500は、CaF層507、511、541、及び561、並びにSi層509、539、及び561を含む。層の相対的な厚さは、一定の比率ではなく、教育的目的のために表されている点に留意されたい。本明細書で先に述べたように、Si及びCaFの層の代わりに、各層の基本的材料を他の材料と組み合わせて、その結果得られるバンドギャップを制御することができる点に留意されたい。また、どのドープ層又はアロイ層それぞれのドーパント濃度又はアロイ材料も、他の層のドーパント濃度又はアロイ材料とは無関係であり得る点に留意されたい。
【0031】
図6は、電圧が両端に印加されたときの例示的な半導体光源活性領域500(図5)の伝導帯図を模式的に表している。図6の伝導帯図に重ねられているのは、量子井戸内の利用可能な任意のサブバンドで電子が見つかる確率密度である。このような確率密度は、エネルギー状態に関連する波動関数の二乗係数のために算出される点に留意されたい。
【0032】
より具体的には、領域609は、それぞれが障壁の役割をするCaF領域607と611の間のSi量子井戸を表している。この量子井戸は、CaF層507と511の間に位置するSi層509(図5)によって形成され、領域609(図6)はSi層509(図5)に対応し、領域607(図6)及び611は、それぞれCaF層507(図5)及び511に対応する。同様に、領域639(図6)は、障壁の役割をするCaF領域611及び641によって形成されるSi量子井戸を表している。領域639はSi層539(図5)に対応し、CaF領域611(図6)及び641は、それぞれCaF層511(図5)及び541に対応する。同様に、領域659(図6)は、障壁の役割をする層557(図5)及び561に対応するCaF領域647(図6)及び661と共にSi層559(図5)によって形成されるSi量子井戸を表している。ドープを行わない場合、CaF領域607(図6)、611、641、及び661のうちの1つの伝導帯の底と、それに隣接するSi領域609、639、又は659のうちの1つの伝導帯の底との間の電位差である伝導帯オフセットは同じである。
【0033】
例示的な半導体光源活性領域500(図5)の多層構造及び層の幅に起因して、それにより形成される量子井戸609(図6)、639、及び659が相互作用して、量子井戸系が形成される。量子井戸系には、エネルギーEl、E2、及びE3を有するエネルギー帯619、621、及び623があり、ここではE3はE2よりも大きく、E2はElよりも大きい。例示的な半導体光源活性領域500(図5)内の電子は、エネルギー帯621(図6)、623、及び619のうちの1つにのみ存在できる。これらの準位はそれぞれ、量子井戸のうちの1つだけに存在するものとして示してあるが、そのエネルギー準位ではあるものの、異なる量子井戸で電子が見つかる可能性があることが確率密度によって示されている。そうではあるが、明確にするために、各エネルギー準位は、電子がそのエネルギー準位においてその量子井戸で見つかる確率が最も高いそれぞれの量子井戸に示されている。
【0034】
エネルギー準位間のエネルギー差は、使用される個々の材料及び使用される材料の層の厚さに依存する。E2とElのエネルギー差は0.8eV程度であるのが好ましく、これは1.5μm程度の光波長に相当する。あるいは、E2とElのエネルギー差は0.95eV程度であり、これは1.3μm程度の光波長に相当する。また、E2とE3のエネルギー差は、フォノンのエネルギー程度であるのが好ましい。
【0035】
最初の動作は、電子がCaF領域607をトンネルして、量子井戸609のエネルギー準位Elに到達するというものである。電子は、量子井戸639へとCaF領域611をトンネルすると、量子井戸639でエネルギー準位E2に降下しながら光子を放出する。その後、電子は、CaF領域641をトンネルすると、量子井戸659でエネルギー準位E3に降下しながらフォノンを放出する。従来、このフォノンの放出及びE2からE3への降下は緩和と呼ばれている。次いで電子は、CaF領域661をトンネルすることによって活性領域500を出る。
【0036】
図7は、エネルギー緩和領域として、及び注入領域として機能するように使用されるいわゆる「超格子」領域700を示している。機能的には、超格子領域700は、ある活性領域から他の活性領域に効率的に電子を輸送する。より具体的には、超格子領域700は充分な長さである必要があり、それにより、超格子領域700両端のバイアスと超格子領域700が接続する2つの活性領域は、超格子領域700が結合するその2つの活性領域のうちの電位レベルの高い方の最も低いエネルギー準位、例えば緩和エネルギー準位が、2つの活性領域のうちの電位レベルの低い方の最も高いエネルギー準位と一致するようなものとなる。
【0037】
超格子領域700は、Si層、例えばSi層709、713、717、721、725、729、及び733と、CaF層、例えばCaF層707、711、715、719、723、727、731、及び735とが交互になって形成される。典型的には、超格子領域700のSi層は、導電率を改善し、超格子領域700による電子輸送を容易にするために薄くドープされる。超格子領域700のCaF層をドープしてもよい。典型的には、CaF層の幅は一定のままであってもよいが、Si層の幅はさまざまである。使用される層の数と、場合によっては層のそれぞれに対して必要なドーピングとは、それによって得られる超格子の各エネルギー準位が、a)いわゆる「ミニ」バンド形成し、b)十分な空間的分離を提供して、印加電位差が超格子領域700から電子が供給されている活性領域の最も高いエネルギー帯を、超格子領域700が電子を受け取っている緩和エネルギー準位と同じエネルギー準位までシフトすることができるように電位電圧が印加されているときに重なるようなものである必要がある。したがって、層の数及び層の幅に関する特定の設計は、所望の特定の動作電位差及び動作時の活性領域のエネルギー準位に依存し、典型的な動作条件下でミニ・バンドが形成されるようなものであるべきである。当業者には、さまざまな用途のための超格子領域を容易に設計することが可能であろう。
【0038】
図8は、電圧が両端に印加されていないときの、例示的な超格子700(図7)の伝導帯図を模式的に表している。図示のように、超格子領域700(図7)のCaF層に対応するCaF障壁807(図8)、811、815、819、823、827、831、及び835のうちの2つに挟まれた、超格子領域700(図7)のSi層によって形成された各量子井戸809(図8)、813、817、821、825、829、及び833は、エネルギー状態861、863、865、867、869、871、及び873のうちの好ましいエネルギー状態をそれぞれ有する。
【0039】
図9は、例えば典型的な動作条件の下で、電圧が両端に印加されたときの例示的な超格子700(図7)の伝導帯図を模式的に表している。図9に示すように、電子が容易に通過できるミニ・バンド999が形成されている。また、図8のように電位差が印加されないときには、連続した層それぞれの伝導帯の底はその値からシフトされている。
【0040】
図10は、活性領域500(図5)を形成する層と超格子領域700(図7)を形成する層の多重反復を使用する例示的な量子カスケードレーザ1000の断面構造の一部を示している。より具体的には、超格子領域1031−1及び1031−2(集合的に超格子領域1031)と、活性領域1035−1及び1035−2(集合的に活性領域1035)とが図10に示されている。超格子領域1031は、注入領域の役割をし、活性領域1035に形成される多重量子井戸に電子を供給する。活性領域1035は、発光するように動作する。使用する交互になった活性領域と超格子領域の数は、実施者の裁量である。さらに、用途によっては、超格子領域1031−1を使用する必要はない。超格子領域1031−1は、電子が電極1017から活性領域1035−1まで通過するための効率的な経路を提供する働きをする。
【0041】
基板1001の反対側にある、例示的な量子カスケードレーザ1000の交互になった活性領域及び超格子領域の端部で、超格子領域1035はアロイ化されていることが好ましい。CaF/CdF超格子領域1035は、超格子領域700(図7)のものと類似した構造を有しているが、シリコン層がCdFで置き換えられている。超格子領域700(図7)に関連して先に述べたように、CaF/CdF超格子領域1035(図10)のさまざまな層の厚さは、動作電圧が印加されたときにミニ・バンドを形成するのに必要なエネルギー準位によって決まる。CaF/CdF超格子領域1035(図10)は、導体ではあるが、活性領域1035のうちの隣接する活性領域によって示される有効屈折率よりも低い有効屈折率を有しているため、量子カスケードレーザ1000内に光を閉じ込める導体の役割をする。この閉じ込めは、上記のSiO層102によって実行されるのと同じ機能である。
【0042】
また、例示的な量子カスケードレーザ1000は、a)シリコン(Si)基板101、b)二酸化シリコン層SiO 102、c)Si層103、d)導電性Si(nSi)層105、e)金属層115及び117、並びにj)導体125及び127も含む。
【0043】
分子線エピタキシが、Si及びCaF2、並びにCdFの各種層を堆積させるために使用されてもよい。シリコンを堆積する場合、eビーム源、例えば電子ビーム蒸着器を、Si原子の供給源として使用することができる。CaF、CdF、及びドーパントのために、熱蒸着器、例えばエフュージョン・セル(effusion cell)を、分子の供給源として使用することができる。
【0044】
図11は、例示的な量子カスケードレーザ1000の3次元図の一部分を示している。金属層115及び117と導体125及び127、並びに面1055及び1071が示されている。レージングが起こる光共振器を面1055間に形成するように、面1055は一部が反射性である。面1055は、劈開することによって、若しくは反射性物質で被覆することによって、又はそれらの組合せによって反射性にすることができる。面1055の各々は、面1055の他の面とはある程度独立した形で反射性にすることができる。面1071は、シリコン(Si)基板101、二酸化シリコン層SiO、Si層103、及び導電性Si(nSi)層などの例示的な量子カスケードレーザ1000の下層である。レーザ光線1075が、面1055のうちの1つから放射されている様子が示されている。
【0045】
本発明の原理によって構成される半導体光源は、単にストレート状である必要はなく、さまざまな形状に成形されて、例えばリング共振器レーザ又は導波路型光増幅器を形成できることが、当業者は容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の原理によるシリコン(Si)とフッ化カルシウム(CaF)の組合せをベースとして構築された例示的な半導体光源を示す図である。
【図2】電圧が印加されていないときの図1に示した例示的な半導体光源の伝導帯の基本部分を示す模式図である。
【図3】電位差が印加されたときの図1に示した例示的な半導体光源の伝導帯の広範な部分を示す模式図である。
【図4】オングストロームで表す量子井戸幅と、それに対応する、電子ボルト(eV)で結果として表されるサブバンド・エネルギーとの一般的関係の近似を示すグラフである。
【図5】さまざまなレーザ構成で使用するのに適切な別の例示的な半導体光源の活性領域の図である。
【図6】電圧が両端に印加されたときの図5に示した例示的な半導体光源の活性領域の伝導帯模式図である。
【図7】エネルギー緩和領域及び注入領域として機能するように使用される「超格子」領域を示す図である。
【図8】電圧が両端に印加されていないときの図7の例示的な超格子の伝導帯模式図である。
【図9】電圧が両端に印加されたときの図7の例示的な超格子の伝導帯模式図である。
【図10】図5の活性領域を形成する層と図7の超格子領域を形成する層との多重反復を使用する例示的な量子カスケードレーザの断面構造の部分図である。
【図11】図10に示した例示的な量子カスケードレーザの3次元部分図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源として動作可能なシリコン(Si)及びフッ化カルシウム(CaF)含む半導体構造体。
【請求項2】
前記半導体構造体がさらに、少なくとも2つの電極を含む請求項1記載の発明。
【請求項3】
前記シリコン及び前記フッ化カルシウムのうちの少なくとも一方がドープされる請求項1記載の発明。
【請求項4】
前記シリコンの少なくとも一部がドーパントによってn型シリコンへとドープされる請求項3記載の発明。
【請求項5】
前記フッ化カルシウムがドーパントによってn型フッ化カルシウムへとドープされる請求項3記載の発明。
【請求項6】
フッ化カルシウムがフッ化カドミウムとアロイ化される請求項5記載の発明。
【請求項7】
前記半導体構造体がストレートでない形状を有するように構成される請求項1記載の発明。
【請求項8】
前記半導体構造体が電気的に励起されるように適合された請求項1記載の発明。
【請求項9】
前記半導体構造体がサブバンド間遷移を使用して動作する請求項1記載の発明。
【請求項10】
前記サブバンド間遷移が伝導帯で生じる請求項9記載の発明。
【請求項11】
前記Siが5オングストローム〜100オングストロームの範囲の厚さを有する少なくとも1つの層へと形成される請求項9記載の発明。
【請求項12】
前記CaFが5オングストローム〜50オングストロームの範囲の厚さを有する少なくとも1つの層へと形成される請求項9記載の発明。
【請求項13】
フッ化カドミウムとアロイ化されていない前記CaFの少なくとも1つの層をさらに含み、CaFとフッ化カドミウムとの前記アロイの前記層がフッ化カドミウムとアロイ化されていない前記層のCaFよりも導電性となるように容易にドープされる請求項12記載の発明。
【請求項14】
前記シリコンがゲルマニウムとアロイ化される請求項1記載の発明。
【請求項15】
シリコンとゲルマニウムの前記アロイが前記CaFとほぼ完全に格子整合する請求項9記載の発明。
【請求項16】
前記半導体構造体の少なくとも1つの表面が前記光を少なくとも部分的に反射する請求項1記載の発明。
【請求項17】
前記シリコンと前記フッ化カルシウムが交互の層として配置される請求項1記載の発明。
【請求項18】
前記シリコンと前記フッ化カルシウムの前記交互の層が少なくとも1つの活性領域を形成する請求項17記載の発明。
【請求項19】
前記シリコンと前記フッ化カルシウムの前記交互の層が少なくとも1つの超格子領域を形成する請求項17記載の発明。
【請求項20】
前記シリコンと前記フッ化カルシウムの前記交互の層が形成される基部をさらに含む請求項17記載の発明。
【請求項21】
前記基部がさらに、シリコン基板、前記シリコン基板上の二酸化シリコン層、前記二酸化シリコン層上のシリコン層、及び前記シリコン層上で導電性となるようにドープされるシリコン層を含む請求項20記載の発明。
【請求項22】
前記導電性シリコン層の少なくとも一部分上に金属層をさらに含む請求項21記載の発明。
【請求項23】
光を生成する方法であって、量子井戸及び障壁を有する量子井戸構造体であって、実質的にシリコンからなる層が前記量子井戸を形成し、主にフッ化カルシウムからなる層が前記障壁を提供する量子井戸構造体内に1以上の電子を注入するステップからなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−507393(P2009−507393A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530077(P2008−530077)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/033003
【国際公開番号】WO2007/030330
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(596092698)ルーセント テクノロジーズ インコーポレーテッド (965)
【Fターム(参考)】