説明

半導体基板用洗浄剤、これを利用した洗浄方法及び半導体素子の製造方法

【課題】SPM洗浄剤に匹敵する洗浄力を発揮し、かつ、SPM洗浄剤による半導体基板の損傷を大幅に改善し、半導体基板表面に付着した不純物、特にイオン注入されたレジストなどの付着物を効率よく剥離除去しうる半導体基板用洗浄剤、これを利用した洗浄方法及び半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】硫酸と、過酸化水素と、炭酸アルキレンとを組み合わせて用いることを特徴とする半導体基板用洗浄剤、並びに、硫酸と過酸化水素と炭酸アルキレンとを組み合わせて、半導体基板に適用して洗浄する半導体基板の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板用洗浄剤、これを利用した洗浄方法及び半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子(半導体デバイス)の製造工程には、リソグラフィ工程、エッチング工程、イオン注入工程などの様々な工程が含まれている。各工程の終了後、次の工程に移る前に、基板表面に残存したレジスト残渣やその他の不純物などの付着物を剥離・除去して、基板表面を清浄にするための洗浄処理が実施されている。
【0003】
従来の洗浄処理方法として、硫酸と過酸化水素の混合溶液(以後、適宜SPMと称する)を用いて、レジスト残渣、微粒子、金属および自然酸化膜などを剥離洗浄するプロセスが多用されていた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−321080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のSPM法では付着物の剥離性には優れるものの、処理液の酸化力が強すぎるために処理時に高誘電率(high−k)材料などによって構成されるゲート絶縁膜や基板自体に損傷を与えることがあった。半導体デバイスの小型化が進んでいる昨今の実情を考慮すれば、このような破損が一部に生じたとしても、電気特性劣化を引き起こす原因となる。その強力な洗浄力を極力維持して、上記基板破損の点は改善を図りたい。
一方で、近年、半導体素子の製造プロセスの一つであるイオン注入工程(イオンインプランテーション)において、イオン注入量が増加の傾向にある。その際、イオン注入されたレジストは炭化・架橋し最表面が変質してしまうため、薬品などによってはその完全な剥離が一層困難となってきている。このように高度にイオン注入された変性レジストとなるとその除去と、素子基板のダメージの低減との両立は、ますます困難になる。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて、SPM洗浄剤に匹敵する洗浄力を発揮し、かつ、SPM洗浄剤による半導体基板の損傷を大幅に改善し、半導体基板表面に付着した不純物、特にイオン注入されたレジストなどの付着物を効率よく剥離除去しうる半導体基板用洗浄剤、これを利用した洗浄方法及び半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の手段により解決された。
(1)硫酸と、過酸化水素と、炭酸アルキレンとを組み合わせて用いることを特徴とする半導体基板用洗浄剤。
(2)前記炭酸アルキレンが炭酸エチレン又は炭酸プロピレンであることを特徴とする(1)に記載の半導体基板用洗浄剤。
(3)前記炭酸アルキレンを洗浄剤全量に対して10〜95質量%の範囲で使用することを特徴とする(1)又は(2)に記載の半導体基板用洗浄剤。
(4)硫酸を含有する剤と、過酸化水素を含有する剤と、炭酸アルキレンを含有する剤とを組み合わせて洗浄を行う多剤型キットとしたことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(5)硫酸を含有する剤と、過酸化水素及び炭酸アルキレンを含有する剤とを組み合わせて洗浄を行う多剤型キットとしたことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(6)さらにスルホン酸基を含有する化合物を組み合わせて用いる(1)〜(5)のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
(7)硫酸と過酸化水素と炭酸アルキレンとを組み合わせて、半導体基板に適用して洗浄することを特徴とする半導体基板の洗浄方法。
(8)炭酸アルキレン、又は過酸化水素及び炭酸アルキレンを含み硫酸を含まない液で洗浄を行う第一工程と、硫酸、過酸化水素及び炭酸アルキレンを含む液で洗浄を行う第二工程との組み合わせで行われることを特徴とする(7)に記載の半導体基板用洗浄方法。
(9)前記(7)又は(8)に記載の洗浄方法により半導体基板を洗浄する工程を介して製造することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の半導体基板用洗浄剤は、SPM洗浄剤に匹敵するあるいはそれを凌駕する洗浄力を発揮し、かつ、SPM洗浄剤による半導体基板の損傷を大幅に改善し、半導体基板表面に付着した不純物、特にイオン注入されたレジストなどの付着物を効率よく剥離除去することができる。
上記半導体基板用洗浄剤を利用した洗浄方法及び半導体素子の製造方法により、半導体素子製造における製造品質及び製造効率を大幅に改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の半導体基板用洗浄剤は、硫酸と、過酸化水素と、炭酸アルキレンとを組み合わせて用いる。これにより、SPMに特有の強力な洗浄力は維持しつつ、それによる素子基板に対するダメージを大幅に低減することができる。この理由については一部推定を含むが、SPM洗浄系に炭酸アルキレンを導入することにより、例えば水のみの媒体を用いたときに比し、半導体基板の表面保護性を発現することが挙げられる。また、同時に、洗浄剤系内に酸が共存しあるいは洗浄時に熱が付与されることで、炭酸アルキレンが分解して炭酸発泡し、それが付着物の構造を物理的に破壊しながら洗浄を促進させうる。その結果、化学的洗浄作用を抑えつつ高い物理力という更なる剥離洗浄力を発揮し、洗浄力の向上と基板損傷性の改善とを両立して実現しえたものと考えられる。
【0010】
本発明の洗浄剤は、(a)硫酸を含有する剤と、(b)過酸化水素を含有する剤と、(c)炭酸アルキレンを組み合わせた剤などとを混合して洗浄剤系を構成する、多剤型の洗浄剤であることが好ましい。例えば、上記(b)剤と(c)剤とはまとめて1剤としてもよく、(a)剤と(b)剤と(c)剤とをまとめた1剤としてもよい。これを所定の温度(例えば40〜150℃)に加熱し、順次あるいは1度に、その洗浄剤浴中にシリコンウェハの上に所定の加工を施した半導体基板を浸漬し洗浄を行うことが好ましい。もしくは所望のウエハに対して洗浄ラインを通してウエハ表面に洗浄液が供給される形での洗浄を行ってもよい。洗浄時間は特に限定されないが、十分な洗浄を行うことを考慮し、1〜30分間行うことが好ましい。以下、本発明の好ましい実施形態として、上記多剤型洗浄剤を調製する実施形態を前提にその詳細を説明する。なお、本明細書において半導体基板とは半導体素子を製造する中間体(前駆体)の総称として用い、シリコンウェハのみならず、そこに絶縁膜や電極等が付された実装前の中間製品を含む意味である。
【0011】
[硫酸]
本実施形態において用いられる硫酸(水溶液)の量は特に限定されないが、高い洗浄力を確保する目的で、洗浄剤(混合後)の全量に対し、5〜50質量%で組み合わせることが好ましく、5〜40質量%で組み合わせることがより好ましい。過酸化水素水との比率でいうと、それらの濃度にもよるが、一般的な設定を考慮すると、過酸化水素水100質量部に対して30〜300質量部で組み合わせることが好ましい。組み合わせて用いられる硫酸(水溶液)の濃度は特に限定されないが、高い洗浄力を発揮させる観点で、30〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることがより好ましい。
【0012】
[過酸化水素]
本実施形態において用いられる過酸化水素水の量は特に限定されないが、高い洗浄力の発揮の観点から、洗浄剤(混合後)の全量に対し、5〜50質量%で組み合わせることが好ましく、5〜40質量%で組み合わせることがより好ましい。硫酸との比率の関係は上述のとおりである。過酸化水素水の過酸化水素濃度は特に限定されないが、高い洗浄力を発揮させる観点で、10〜50質量%であることが好ましく、15〜50質量%であることがより好ましい。
【0013】
[炭酸アルキレン]
本実施形態においては、炭酸アルキレンの剤形は特に限定されず、融解させた液状のものであっても、炭酸アルキレンを所定の溶媒に溶解した溶液であっても、粉末として用いてもよい。用いられる炭酸アルキレンの量は特に限定されないが、高い洗浄力と基板の保護力との両立を図る目的で、洗浄剤(混合後)の全量に対し、10〜95質量%で組み合わせることが好ましく、30〜90質量%で組み合わせることがより好ましい。硫酸との比率でいうと、その濃度にもよるが、一般的なSPMの条件設定を考慮すると、硫酸100質量部に対して50〜2000質量部で組み合わせることが好ましく、100〜1000質量部で組み合わせることがより好ましい。
【0014】
上記の範囲で炭酸アルキレンを増量すると、SPMとしての割合が相対的に低くなるため、対象とする各基板へのダメージの観点ではよりそれを抑制できる方向となる。上記の範囲で炭酸アルキレンを減量すると、インプランテーションによって変質したレジストを効果的に除去しうる方向になる。
炭酸アルキレンとしては、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンが挙げられる。炭酸アルキレンは、発明の効果を妨げない範囲で置換基を有していてもよい。炭酸アルキレンは1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、炭酸エチレンは室温で固体であるので、40度以上に温度上昇させ、溶融させた液体を使用してもよい。
炭酸アルキレンを所定の溶媒に溶解して用いるとき、その溶媒は十分な溶解性があれば特に限定されないが、例えば、水、エタノール、メタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の極性溶媒が好ましい。
【0015】
[その他の成分]
(炭酸塩)
本実施形態の洗浄剤には、上記の他に適宜任意の剤を組み合わせて用いてもよく、例えば炭酸塩を組み合わせて用いることができる。炭酸塩は、酸性化合物の作用により、炭酸ガスを生じる化合物であって、いわゆる分解性発泡剤として作用する。
【0016】
使用される炭酸塩は、炭酸を生じる塩化合物であれば特に限定されないが、主に、正塩、酸性塩(炭酸水素塩)、塩基性塩(炭酸水酸化物塩)などが挙げられる。例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩や炭酸水素塩、または炭酸アンモニウム塩などが挙げられる。より具体的に、炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸セシウム、炭酸ランタン、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、炭酸ストロンチウム、アミノグアニジン炭酸塩、または、グアニジン炭酸塩などが挙げられる。また、無水塩、水和塩、またはこれらの混合物などを用いることもできる。なかでも、付着物の剥離性に優れ、かつ、取扱い性が容易である点から、炭酸水素アンモニウムまたは炭酸アンモニウムが好ましく、炭酸アンモニウムがより好ましい。なお、炭酸塩は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
炭酸塩は、洗浄剤(混合後の全量)に対して、0.1〜30質量%が好ましく、0.5
〜30質量%がより好ましい。
【0018】
炭酸塩を溶解する溶媒は特に制限されないが、本発明の効果を損なわない範囲で、水、有機溶媒(例えば、極性溶媒であるDMSO、DMF、NMP等)を含有していてもよい。該溶媒の含有量は特に限定されないが、通常、炭酸塩1質量部に対して、1〜100質量部が好ましく、10〜99質量部がより好ましい。炭酸塩溶液のpHは特に制限されないが、発泡剤成分の安定性がより優れ、付着物の剥離性がより優れる点で、7.5〜12.0が好ましく、8.0〜11.0がより好ましい。
【0019】
(酸性化合物)
本実施形態においては、さらに任意の酸性化合物を組み合わせて用いてもよい。使用される酸性化合物は特に制限はされないが、例えば、硝酸、ホウ酸、リン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アミノメタンスルホン酸、タウリン、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、またはスルファミン酸などが挙げられる。なお、酸性化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルホン酸基を含有する化合物を組み合わせて用いることが好ましい。
上記酸性化合物の含有量は特に限定されないが、洗浄剤(混合後の全量)に対して、0.01〜30質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。上記酸性化合物を溶解して用いる場合その溶媒は適宜選定することができ、例えば上記炭酸塩に適用された溶媒ないし条件を採用することができる。
【0020】
(界面活性剤)
本実施形態においては、界面活性剤を組み合わせて用いてもよい。使用される界面活性剤は特に限定されないが、例えば、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが例示される。特に、付着物の剥離性能がより優れ、かつ、基板表面から剥離した不純物の基板表面への再付着などが抑制される点で、ノニオン性界面活性剤またはアニオン性界面活性剤がより好ましく、効果がより優れる点でノニオン性界面活性剤が特に好ましい。なお、界面活性剤は、直鎖状、分岐状のいずれも使用できる。なお、界面活性剤は、洗浄剤(混合後の全量)に対して、0.00005
〜5質量%が好ましく、0.0005〜0.5質量%がより好ましい。
【0021】
(酸化剤)
本実施形態においては、酸化剤を組み合わせて用いてもよい。使用される酸化剤は特に制限されないが、例えば、過酸化物(例えば、過酸化水素)、硝酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩などが挙げられる。なかでも、付着物の剥離性に優れ、かつ、取扱いが容易である点から、過酸化水素が好ましい。酸化剤の量は、洗浄剤(混合後の全量)に対して、0.005〜10質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましい。
【0022】
(アルカリ性化合物)
本実施形態においては、アルカリ性化合物を組み合わせて用いてもよい。使用されるアルカリ性化合物は特に限定されないが、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどが挙げられる。発泡剤成分中におけるアルカリ性化合物の含有量は特に制限されず、アルカリ性化合物は、洗浄剤(混合後の全量)に対して、0.0001〜10質量%が好ましく、0.0001〜5質量%がより好ましい。
【0023】
[半導体素子の製造方法]
一般的な半導体素子の製造方法としては、まず、シリコン基板(例えば、イオン注入されたn型またはp型のシリコン基板)上にスパッタリング等の技術を用いて、高誘電率材料(例えば、HfSiO、ZiO、ZiSiO、Al、HfO、La)などで構成されるゲート絶縁膜や、ポリシリコンなどで構成されるゲート電極層などを形成する(被エッチング層形成工程)。次に、形成されたゲート絶縁膜や、ゲート電極層上にレジストを塗布し、フォトリソグラフィーにより、所定のパターンを形成する。パターン形成後に不要な部分のレジストを現像除去して(レジスト現像工程)、このレジストパターンをマスクとして非マスク領域をドライエッチングまたはウェットエッチングすることにより(エッチング工程)、ゲート絶縁膜やゲート電極層などを除去する。その後、イオン注入処理(イオン注入工程)において、イオン化したp型またはn型の不純物元素をシリコン基板に注入して、シリコン基板上にp型またはn型不純物注入領域(いわゆるソース/ドレイン領域)を形成する。その後、必要に応じて、アッシング処理(アッシング工程)が実施された後、基板上に残存したレジスト膜を剥離する処理が実施される。
【0024】
本発明の半導体基板用洗浄剤を用いた洗浄方法は、半導体素子の製造時に実施される方法であり、いずれの工程の後で実施してもよい。具体的には、例えば、レジスト現像後、ドライエッチング後、ウェットエッチング後、アッシング後、イオン注入後などに実施することができる。特に、イオン注入によって炭化したレジストの剥離性が良好である点から、イオン注入工程(イオンインプランテーション)後に実施されることが好ましい。より具体的には、表面上に被エッチング層(ゲート絶縁膜および/またはゲート電極層)が形成された半導体基板(例えば、p型またはn型シリコン基板)を準備する工程(被エッチング層形成工程)と、該被エッチング層の上部にフォトレジストパターンを形成する工程(レジスト形成工程)と、フォトレジストパターンをエッチングマスクに用いて被エッチング層を選択的にエッチングする工程(エッチング工程)と、イオン注入を行う工程(イオン注入工程)を経て得られる半導体基板に、本発明の洗浄剤を適用することが好ましい。なお、イオン注入工程は公知の方法で実施することができ、アルゴン、炭素、ネオン、砒素などのイオンを利用して、1015〜1018atoms/cmのドーズ量で行うことができる。
【0025】
本発明の半導体基板用洗浄剤を用いた洗浄方法の他の好適な態様として、上記のようにイオン注入工程を実施した後、さらに、基板に対してアッシング処理、または、汎用の洗浄液によって基板上の大きなゴミの除去やバルク層の除去を行った後、除去され難いゴミや各種層に対して本発明の半導体基板用洗浄剤を用いた洗浄方法を実施する方法が挙げられる。アッシング処理は周知の手法で行うことができ、例えば、プラズマガスを用いる手法などが挙げられる。また、上記の洗浄方法は、同一基板に対して繰り返し実施してもよい。例えば、洗浄回数を2回以上行う(例えば、2回、3回)などの処理によって、1度での洗浄以上の効果が得られる。
【0026】
[半導体基板]
上記洗浄処理の洗浄対象物である半導体基板(半導体素子用基板)としては、上記製造工程におけるいずれの段階の半導体基板も用いることができる。洗浄対象物として好適には、その表面上にレジスト(特に、イオンインプランテーション(イオン注入)が施されたレジスト)を備える半導体基板が挙げられる。なお、本発明の洗浄剤を使用することにより、上記レジスト(またはパターンレジスト)以外にも、アッシング時に生じる残渣(アッシング残渣)や、エッチング時に生じる残渣(エッチング残渣)、その他不純物を表面に有する基板から、これらを剥離・除去することができる。
本発明で使用される半導体基板は、レジスト以外にも、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜等の絶縁膜や、窒化タンタル層(TaN)、窒化チタン層(TiN)、酸化ハフニウム層(HfO)、酸化ランタン層(La)、酸化アルミニウム層(Al)、ポリシリコン、ドープ(アルゴン、炭素、ネオン、砒素等)シリコンなどをその表面の一部または全面に有していてもよい。なお、半導体基板は、半導体物質から成る部材(例えば、シリコン基板)をいうが、板形状の基板に限らず、どのような形状であっても半導体物質であれば「半導体基板」に含まれる。
【0027】
使用される半導体基板上に堆積されるレジストとしては、公知のレジスト材料が使用され、ポジ型、ネガ型、およびポジ−ネガ兼用型のフォトレジストが挙げられる。ポジ型レジストの具体例は、ケイ皮酸ビニール系、環化ポリイソブチレン系、アゾ−ノボラック樹脂系、ジアゾケトン−ノボラック樹脂系などが挙げられる。また、ネガ型レジストの具体例は、アジド−環化ポリイソプレン系、アジド−フェノール樹脂系、クロロメチルポリスチレン系などが挙げられる。更に、ポジ−ネガ兼用型レジストの具体例は、ポリ(p−ブトキシカルボニルオキシスチレン)系などが挙げられる。
【0028】
上述した本発明の半導体基板用洗浄剤を用いた洗浄方法で実施された洗浄工程は、半導体素子の製造方法に含まれることが好ましい。この洗浄方法は、従来の洗浄剤では適用できなかった配線幅が非常に微細な半導体基板の洗浄にも使用でき、かつHigh−k膜などへのダメージも小さいため、より小型で高性能なLCD、メモリ、CPU等の電子部品の製造に好適に使用できる。さらには、次世代の絶縁膜として開発が進められているUltra―low−k等のダメージを受けやすいポーラス材料を用いた半導体基板の製造にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、これらの実施例に本発明が限定されるものではない。
【0030】
(半導体基板試料の作製)
Al層、TiN層、HfO層、SiGe40%を、シリコンウェハ上に厚さ50Åになるように成膜して、4種類のウエハを用意した。
【0031】
(実施例・比較例)
下記表1に示す洗浄剤成分を用いて、レジスト剥離性、基板への影響について評価した。まず、上記で用意した半導体基板試料または未処理のシリコンウェハを、洗浄剤中に所定時間(5分間)浸漬させた。その後、基板を取り出し、下記の評価を実施した。なお、表1中の処理温度は、洗浄剤(混合液)中の温度を意味する。
【0032】
<レジストの剥離性>
以下の基準に沿って評価した。実用上Cを超えることが必要である。
顕微鏡で観察した基板表面上(面積:3.0×3.0μm)中での:
AAA:レジストが残存している部分が5%未満である場合
AA: レジストが残存している部分が5%以上10%未満である場合
A: レジストが残存している部分が10%以上30%未満である場合
B: レジストが残存している部分が30%以上50%未満である場合
B’: レジストが残存している部分が50%以上80%未満である場合
C: レジストが残存している部分が80%以上である場合
【0033】
「バルク層除去」はKrFレジストにAsを
5keV 1e15の条件下で0度のインプラ処理をしたレジスト(硬化層や変質層がほとんど生成していないレジスト)を意味する。
「硬化層除去」はKrFレジストにAsを
5keV 1e15の条件下で45度のインプラ処理をしたレジスト(硬化層や変質層が大量に生成しているレジスト)を意味する。
【0034】
[エッチング速度(ER)]
各洗浄液を用いて、処理前後の膜厚差から各膜へのエッチング速度(EtchingRate:ER)を算出した。実用上、上記エッチング速度が、50Å/min未満であることが好ましく、10Å/min未満であることが更に好ましい。
【0035】
[Doped Si−loss]
実施例で未処理のシリコンウェハを使用した場合のウエハ表面上の損失厚み(洗浄によって削れた厚み)を、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置、SHIMADZU社製)にて測定した後、膜厚に換算した値(Å)である。実用上、該値が10Å未満であることが好ましい。
【0036】
[Ox growth]
実施例で未処理のシリコンウェハを使用した場合のウエハ表面上に形成される酸化ケイ素層の厚みを、エリプソメトリー(J.A.Woollam社製、VASE)にて測定した値(nm)である。実用上、該値が10Å未満であることが好ましい。
【0037】
下記表中に示された水溶液の濃度は下記のとおりである。
硫酸の濃度 98質量%
過酸化水素水の濃度 30質量%
クエン酸水溶液の濃度 20質量%
また、各剤の混合形態は、表中の成分1と成分2とに分けて準備しておき、成分1剤と成分2剤とを混合して洗浄剤(2剤型)を調製した。具体的に実施例10でいうと、30質量%濃度の過酸化水素水に炭酸エチレンを溶解しておき、それを98質量%濃度の硫酸と混合して多剤型洗浄液を調製したことを意味する。
【0038】
【表1】

【表1A】

【表1B】

【0039】
表1より分かるとおり、従来のSPM洗浄では硬化層除去では良い結果を示しているが、バルク層除去ではレジストの洗浄性自体が劣っていた。基板へのダメージも極めて大きく、近時の高い要求レベルを考慮すると実用性にも問題がありうる程度であった。これに対し本発明の半導体基板用洗浄剤(実施例)は、SPM洗浄剤に匹敵あるいはこれを凌駕する洗浄力を発揮し、かつ、SPM洗浄剤による半導体基板の損傷を様々な構成材料において大幅に改善していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸と、過酸化水素と、炭酸アルキレンとを組み合わせて用いることを特徴とする半導体基板用洗浄剤。
【請求項2】
前記炭酸アルキレンが炭酸エチレン又は炭酸プロピレンであることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項3】
前記炭酸アルキレンを洗浄剤全量に対して10〜95質量%の範囲で使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項4】
硫酸を含有する剤と、過酸化水素を含有する剤と、炭酸アルキレンを含有する剤とを組み合わせて洗浄を行う多剤型キットとしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項5】
硫酸を含有する剤と、過酸化水素及び炭酸アルキレンを含有する剤とを組み合わせて洗浄を行う多剤型キットとしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項6】
さらにスルホン酸基を含有する化合物を組み合わせて用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体基板用洗浄剤。
【請求項7】
硫酸と過酸化水素と炭酸アルキレンとを組み合わせて、半導体基板に適用して洗浄することを特徴とする半導体基板の洗浄方法。
【請求項8】
炭酸アルキレン、又は過酸化水素及び炭酸アルキレンを含み硫酸を含まない液で洗浄を行う第一工程と、硫酸、過酸化水素及び炭酸アルキレンを含む液で洗浄を行う第二工程との組み合わせで行われることを特徴とする請求項7に記載の半導体基板用洗浄方法。
【請求項9】
前記請求項7又は8に記載の洗浄方法により半導体基板を洗浄する工程を介して製造することを特徴とする半導体素子の製造方法。

【公開番号】特開2012−67254(P2012−67254A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215454(P2010−215454)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】