説明

半導体基板用研磨液及び半導体基板の研磨方法

【課題】 半導体基板のファイナルポリッシングにおいて平滑性の低下や異物の増加を生じることなく、ウエハ自体の欠陥を低減し、優れた研磨表面が形成可能な半導体基板研磨液及び当該半導体基板研磨液を用いた半導体基板の研磨方法を提供する。
【解決手段】 コロイダルシリカと水溶性高分子と水を含み、研磨液のpHが4.0以上8.0以下である半導体基板用研磨液、及び当該半導体基板研磨液を用いて半導体基板の表面を研磨する半導体基板の研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の表面加工に好適な半導体基板用研磨液、及び半導体基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板(以下、場合により「シリコンウエハ」と表記する。)に代表される半導体基板の研磨工程には、一般的に、スライシングで発生する表面の凹凸の解消及び基板面内の厚みの均一化のためのラッピング工程と、目的とする表面精度に仕上げるためのポリッシング工程(研磨工程)がある。ポリッシング工程は、更に、粗研磨と称される1次ポリッシング工程と、仕上げ研磨と称されるファイナルポリッシング工程に区分けされる。粗研磨や仕上げ研磨では、場合によって、更に研磨パッドの硬さや研磨荷重が異なる複数のポリッシング工程に更に分けられる。
【0003】
ポリッシング工程を複数のレベルに分けることで、加工時間の短縮化、効率化及び高品質化を達成しており、それぞれのポリッシング工程で目的が異なる。
【0004】
粗研磨の段階では、ラッピング工程等で発生した比較的大きめな凹凸の解消や、ダメージを受けた半導体基板部分の除去を目的としている。一方、ファイナルポリッシング工程では、半導体基板の欠陥の低減と表面の高度な平滑化が大きな目的である。
【0005】
ファイナルポリッシング工程で用いられる半導体基板用研磨液には、半導体基板に対する研磨速度よりも、結晶欠陥を発生させないこと、基板上に残存する異物(研磨粒子、研磨パッドの摩耗による発生するカス等)を残りづらくすること、基板上に存在する凹凸を解消して平滑な鏡面を形成できることが強く求められる。
【0006】
結晶欠陥の代表例として、COP(Crystal Originated Particle)が挙げられる。COPは結晶成長時に導入される結晶欠陥のひとつであり、研磨時やその後の洗浄時に、COPを核として基板表面にピットが形成される。
【0007】
半導体基板表面の平滑度(粗さ)は、HAZE(ヘイズ(曇り))で判断される場合が多い。HAZEは、通常、ウエハ表面欠陥検査装置等を用いて測定が行われる。
【0008】
ところで、従来、半導体基板を形成する代表的な物質であるシリコン(Si)を研磨する為の研磨液として、種々の研磨液が提案されている。例えば、下記特許文献1には、コロイダルシリカ及びシリカゲルが、半導体デバイスの製造に最も頻繁に使用される半導体結晶表面の研磨剤として有用であることが示されている。そして、下記特許文献1には、使用されたゾルのコロイダルシリカ及びシリカゲルの一次粒子の粒径は5〜200nmであると記載されている。
【0009】
下記特許文献2には、一次粒子の粒径が4〜200nm、好ましくは4〜100nmのコロイダルシリカ又はシリカゲルのいずれかを水溶性アミンと組合せたものを研磨剤として使用することで、半導体基板、特にシリコンの半導体基板表面を効果的に研磨できることが開示されている。シリカゾル又はゲル中に存在するシリカに関するアミンの量は、0.5〜5.0質量%、好ましくは1.0〜5.0質量%、最も好ましくは2.0〜4.0質量%とされている。
【0010】
下記特許文献3には、0.1〜5.0質量%(最も好ましくは2.0〜4.0質量%)の水溶性第四アンモニウム塩又は第四アンモニウム塩基を添加した水性シリカ組成物を使用することで、シリコン基板の研磨速度が改良できることが示されている。
【0011】
下記特許文献4には、シリコン又はゲルマニウム半導体材料を高度の表面仕上がり状態に研磨する方法が開示されている。下記特許文献4に記載の技術では、研磨液として、変性処理されたコロイダルシリカゾルを有し、シリカ濃度が約2〜約50質量%であり、pHが11〜12.5である研磨液を使用する。そして、コロイド状シリカゾルの変成処理では、比表面積が約25〜約600m/gであるシリカ粒子の表面を、化学的に結合したアルミニウム原子で、未被覆粒子表面上のシリコン原子100個当たりアルミニウム原子約1〜約50個の表面被覆となるように被覆せしめたものである。一般的に、pHが11以上の領域では、研磨粒子であるシリカが解重合してアルカリ珪酸塩となりpHを低下させるのに対して、特許文献4には、解重合を生じることなしに、pHが11以上の領域において、迅速に研磨できることが示されている。
【0012】
下記特許文献5には、ピペラジン、又は窒素に低級アルキル置換基がついたピペラジンと、水性コロイダルシリカゾル又はゲルを含み、かつピペラジンはゾルのシリカ(SiO)含有量に対して0.1〜5質量%含まれる研磨液が開示されている。また下記特許文献5には、シリコンウエハ及びこれと同様の材料の研磨方法が開示されている。この特許文献5によれば、研磨液にピペラジンを含有させた場合、アミノエチルエタノールアミンを使用する場合と比べて、少量のコロイダルシリカで同等の研磨速度が得られるとされている。また、下記特許文献5には、強塩基性のピペラジンの系統は、pHの調整に必要とされる苛性アルカリの添加量を少量にできる、と記載されている。
【0013】
下記特許文献6には、研磨材と、アゾール類及びその誘導体の少なくともいずれか一種と、水とを含有することを特徴とする研磨用組成物が開示されている。そして、下記特許文献6には、アゾール類及びその誘導体が研磨用組成物に添加されることによって研磨用組成物の研磨能力が向上する、と記載されている。この理由として、複素五員環の窒素原子の非共有電子対が研磨対象物に直接作用することが指摘され、具体的にはイミダゾールを適用した実施例が開示されている。
【0014】
また、特許文献7には、シリコンウエハの鏡面研磨において、HAZEレベルを低下させることなく、ウエハ表面に付着するパーティクルを低減させることができる、シリコンウエハ用の研磨用組成物が開示されている。特許文献7に開示されている研磨用組成物は、二酸化ケイ素、水、水溶性高分子化合物、塩基性化合物、及びアルコール性水酸基を1〜10個有する化合物を含有していることを特徴としている。
【0015】
また、特許文献8には、HAZEレベルを更に改善することができる研磨用組成物及びそれを用いたシリコンウエハの研磨方法、並びにリンス用組成物及びそれを用いたシリコンウエハのリンス方法が開示されている。特許文献8に開示されている研磨用組成物には、ヒドロキシエチルセルロース、0.005質量%を超えるとともに0.5質量%未満のポリエチレンオキサイド、アルカリ化合物、水及び二酸化ケイ素が含有される。そして、研磨用組成物は、シリコンウエハ表面に複数段階に分けて研磨を施すときに、シリコンウエハ表面のHAZEレベルを改善する目的で行われる研磨工程に用いられるように構成されている。リンス用組成物には、ヒドロキシエチルセルロース、0.005質量%を超えるとともに0.5質量%未満のポリエチレンオキサイド、アルカリ化合物、水が含有され、前記研磨工程後のシリコンウエハ表面に施されるリンスに用いられるように構成されている。
【0016】
また、特許文献9では、シリコンウエハに対する研磨速度を向上させるとともにCOP及びHAZEレベルを改善することができる研磨用組成物が開示されている。特許文献9に開示されている研磨用組成物は、ブロック型ポリエーテル、二酸化ケイ素、塩基性化合物、ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも一種並びに水の各成分を含有していることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第3170273号明細書
【特許文献2】米国特許第4169337号明細書
【特許文献3】米国特許第4462188号明細書
【特許文献4】特公昭57−58775号公報
【特許文献5】特開昭62−30333号公報
【特許文献6】特開2006−80302号公報
【特許文献7】特開平11−116942号公報
【特許文献8】特開2004−128089号公報
【特許文献9】特開2005−85858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述のように、半導体基板のポリッシング工程で使用される研磨液は、研磨粒子とアルカリ剤を基として、更に、研磨速度を高めたり、研磨粒子残りを低減したり、結晶欠陥を低減するために塩や水溶性高分子等が添加されるが、いずれもアルカリ領域にて使用される。これはアルカリのケミカルな作用で研磨が行われるためである。
【0019】
一方で、上記のような研磨液は、アルカリ領域であることからアルカリ剤のエッチング作用によりCOPを拡大させたり、増加させたりする問題点があった。
【0020】
本発明の目的は、半導体基板のファイナルポリッシングにおいて、平滑性の低下や異物の増加を生じることなく、ウエハ自体の欠陥を低減し、優れた研磨表面が形成可能な半導体基板研磨液及び当該半導体基板研磨液を用いた半導体基板の研磨方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、研磨粒子にコロイダルシリカと水溶性高分子と水を含む研磨液をpHが4.0以上8.0以下の領域で使用することで、アルカリ剤のエッチングに起因して発生する基板表面の欠陥を低減できるとともに、平滑性の低下や異物の増加を生じることなく優れた研磨表面が形成可能であることを見いだし、本発明に至った。
【0022】
すなわち、本発明に係る半導体基板用研磨液は、コロイダルシリカと、水溶性高分子と、水とを含有し、pHが4.0以上8.0以下である。
【0023】
本発明において、研磨液のゼータ電位は−30.0mV以上−5.0mV以下であることが好ましい。
【0024】
本発明において、研磨粒子として用いられるコロイダルシリカは、主研磨材として作用する。コロイダルシリカの含有量は、半導体基板用研磨液全質量に対して0.01質量%以上1.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。0.1質量%以上0.5質量%以下が更に好ましい。添加量が0.01質量%より少ない場合には、充分な研磨速度を得ることが困難となり、HAZEを改善する効果は得られない。また、1.5質量%よりも添加量を多くしても添加量に見合う欠陥やHAZEの改善が得られないだけではなく、分散性の低下といった不具合が発生する場合がある。
【0025】
本発明の半導体基板用研磨液は、水溶性高分子を含有する。水溶性高分子は研磨粒子や研磨パッド屑等の異物がウエハ表面に固着するのを防止する働きがあると考えられる。
【0026】
水溶性高分子は、ポリビニルピロリドン及びその共重合体から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0027】
水溶性高分子の含有量は、半導体基板用研磨液全質量に対して0.001質量%以上1.0質量%以下の範囲が好ましく、0.005質量%以上0.1質量%以下の範囲がより好ましく、0.01質量%以上0.05質量%以下の範囲が更に好ましい。添加量が少なすぎると異物がウエハ表面に固着するのを防止する効果が充分得られず、多すぎると高粘度化のため流動性の低下や、研磨粒子の凝集といった不具合が発生する場合がある。
【0028】
本発明の半導体基板用研磨液は、研磨対象である半導体基板が、基板構成にシリコンを含む基板である場合に好適に使用することができる。すなわち、本発明によれば、基板構成にシリコンを含む基板に優れた研磨表面を形成することができる。
【0029】
本発明に係る半導体基板の研磨方法では、上記本願発明に係る半導体基板用研磨液を用いて半導体基板の表面を研磨する。このような研磨方法によれば、半導体基板に、欠陥が少なく、HAZEが良好な研磨表面を形成することができる。
【0030】
本発明の半導体基板の研磨方法は、シリコン単結晶をスライスして得られたシリコンウエハをラッピング又はグラインディングした後に、当該シリコンウエハをエッチングして粗ウエハを準備する準備工程と、粗ウエハを研磨する粗研磨工程と、上記半導体基板用研磨液を用いて、粗研磨工程後のウエハを更に研磨する仕上げ研磨工程と、を備えることが好ましい。
【0031】
本発明の半導体基板の研磨方法は、付着物が付着したシリコンウエハをウエットエッチングして粗ウエハを準備する準備工程と、粗ウエハを研磨する粗研磨工程と、上記半導体基板用研磨液を用いて、粗研磨工程後のウエハを更に研磨する仕上げ研磨工程と、を備える研磨方法であってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、半導体基板のファイナルポリッシングにおいて平滑性の低下や異物の増加を生じることなく、ウエハ自体の欠陥を低減し、優れた研磨表面が形成可能な半導体基板研磨液及び当該半導体基板研磨液を用いた半導体基板の研磨方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態に係る半導体基板用研磨液及び当該研磨液を用いた半導体基板の研磨方法について詳細に説明する。
【0034】
<半導体基板用研磨液>
本実施形態の半導体基板用研磨液は、研磨粒子にコロイダルシリカと水溶性高分子と水を含み、pHが4.0以上8.0以下である。
【0035】
本実施形態では、研磨液のpHが4.0以上8.0以下であることから、アルカリ剤によるエッチング起因の欠陥の発生を抑制できる。また、研磨粒子にコロイダルシリカを用い、添加剤として水溶性高分子を加えることにより、HAZEの向上と異物の付着が低減可能であり、優れた研磨表面が形成できる。
【0036】
(pH)
本実施形態では、アルカリ剤によるエッチングに起因する欠陥を低減するために、半導体基板用研磨液のpHの上限を8.0以下とする。より欠陥を低減できる点では、pHは7.5以下であることが好ましい。一方、異物の付着、特に研磨粒子の付着に関してはpHが低くなるほど半導体基板の電位が小さくなることから、静電反発による付着低減効果を得ることが困難となる。pHの下限は4.0以上が好ましく、4.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることが更に好ましい。
【0037】
半導体基板用研磨液のpHは、例えば、酸性化合物及び/又は塩基性化合物の添加量で調整することができる。なお、半導体基板用研磨液のpHは、pHメータ(例えば、東亜ディーケーケー株式会社製の型番:HM−21P)で測定することができる。
【0038】
上記酸性化合物としては、例えば、リンゴ酸等の有機酸、グリシン等のアミノ酸、硝酸等の無機酸等が挙げられる。上記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム及び水酸化テトラメチルアンモニウムから選ばれる1種類以上の含窒素塩基性化合物、又は、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムから選ばれる1種類以上の無機塩基性化合物が好ましい。これらは単独で、もしくは複数で用いることができる。
【0039】
水溶性高分子を含まないpH調整剤と研磨粒子のみで構成された研磨液では、実用的なHAZEを得ることはできない。研磨粒子に、研磨粒子の表面がアルミネートにより改質された変性シリカを使用した場合でも同様である。HAZEの向上のためには、研磨粒子のコロイダルシリカとpH調整剤と水溶性高分子とを併用することが重要である。
【0040】
(研磨粒子)
本実施形態では、半導体基板用研磨液に含まれる研磨粒子としては、コロイダルシリカが好ましい。また、コロイダルシリカは、必要に応じて他の研磨粒子と併用してもよい。シリカと併用できる他の研磨粒子としては、具体的には例えば、アルミナ、セリア、チタニア、ジルコニア、有機ポリマ等を挙げることができる。
【0041】
コロイダルシリカの一次粒子径は、実用的な研磨速度を得ることができる点で、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることが特に好ましい。また、コロイダルシリカの一次粒子径は、傷等の研磨欠陥の発生を抑制しやすい点で、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることが特に好ましく、100nm以下であることが極めて好ましい。コロイダルシリカの一次粒子径を上記の範囲内とした場合、研磨の進行によりHAZEが向上するとともに、粒子起因の欠陥の増加を抑制することができる。
【0042】
本実施形態において、コロイダルシリカの一次粒子径とは、BET比表面積Vから算出できる直径をいう。コロイダルシリカの一次粒子径の算出では、まずシリカの砥粒を真空凍結乾燥機で乾燥し、この残分を乳鉢(磁製、100ml)で細かく砕いて測定用試料を得る。ユアサアイオニクス株式会社製BET比表面積測定装置(製品名:オートソーブ6)を用いて、測定用試料のBET比表面積Vを測定し、D=2727/Vとして求められる値D(nm)をコロイダルシリカの一次粒子径とする。
【0043】
(水溶性高分子)
本発明の半導体基板用研磨液における水溶性高分子は、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、キサンタンガム、キトサン、メチルグリコールキトサン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カードラン及びプルラン等の多糖類;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アンモニウム塩、ポリメタクリル酸ナトリウム塩、ポリアミド酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリビニル硫酸、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、アミノポリアクリルアミド、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアミド酸、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩及びポリグリオキシル酸等のポリカルボン酸及びその塩;ポリエチレンイミン、及びその塩;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクロレイン等のビニル系高分子、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体等が挙げられる。その中でも、カルボキシメチルセルロース、寒天、キサンタンガム、キトサン、メチルグリコールキトサン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カードラン及びプルラン等の多糖類、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリアクロレイン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレングリコール−プロピレングリコールブロック共重合体等のノニオン性高分子が好ましく、ポリビニルピロリドン及びその共重合体がより好ましい。なお、水溶性高分子は単独でも、混合でも使用することができる。
【0044】
水溶性高分子には、研磨粒子や研磨パッド屑等の異物がウエハ表面に固着するのを防止する働きや、付着してしまった研磨粒子や研磨パッド屑等の異物が、洗浄時に取れやすくする働きがあると考えられる。これらの働きは、水溶性高分子が半導体基板の表面に付着することで得られると考えている。すなわち、基板上に水溶性高分子が付着することで、水溶性高分子の上に付着した異物は洗浄時に水溶性高分子とともに基板から除去される。また、半導体基板表面に直接付着してしまった異物は、水溶性高分子で被覆されることで乾燥固着が防止され、同様に洗浄によって水溶性高分子とともに半導体基板から除去されると考えられる。
【0045】
本実施形態のpHが4.0以上8.0以下の環境において、半導体基板の表面電位は負の値となる。また、自然酸化膜等が生じていない半導体基板の表面は強い疎水性を示す。このような半導体基板と水溶性高分子の相互作用としては、主に静電及び疎水相互作用が働くと考えられる。相互作用が強すぎる場合、水溶性高分子が研磨を阻害するとともに、洗浄による水溶性高分子の除去が困難となる。一方で、相互作用が弱すぎる場合は、半導体基板表面を充分に被覆することができず、洗浄効果を得ることが困難となる。本発明における半導体基板と水溶性高分子の相互作用は、上記の効果を得るために疎水性相互作用が最も好ましく、アニオン性官能基によるイオン相互作用が好ましい。これらの相互作用は単独もしくは複数でもかまわない。
【0046】
(その他の成分)
本実施形態では、上述した成分の他に、水以外の溶媒、防食剤、酸化剤等、一般に研磨液に添加される成分を、上述した研磨液の作用効果を損なわない範囲で半導体基板用研磨液に添加することができる。
【0047】
(保存形態)
本実施形態の半導体基板用研磨液は、その成分濃度を予め高くした濃縮形態として保存できる。研磨液の使用時には、濃縮形態にある研磨液を、水等で本来の成分濃度まで希釈して使用すればよい。更に、半導体基板用研磨液の成分を幾つかに分けた分液形態として保存し、それらを使用時に混合して使用することもできる。
【0048】
本実施形態の半導体基板用研磨液は、上記のような研磨方法を用いて、基板構成にシリコンを含む基板を研磨した場合に、優れた研磨特性を有する。
【0049】
<研磨方法>
本実施形態の半導体基板の研磨方法では、本実施形態の半導体基板用研磨液を用いて半
導体基板の表面を研磨する。本実施形態の半導体基板用研磨液は、基板構成にシリコンを含む基板を研磨した場合に、特に優れた研磨特性を示す。
【0050】
これまでに説明したように、本実施形態の半導体基板用研磨液は、コロイダルシリカと、水溶性高分子を含有し、pHが4.0以上8.0以下である、半導体基板用研磨液である。
【0051】
本実施形態の半導体基板用研磨液は、シリコンに対する研磨速度よりも、シリコン基板上の欠陥を発生しづらくすること、シリコン基板上に残存する異物(研磨粒子、研磨パッドの摩耗による発生するカス等)を残りづらくすること、シリコン基板上を平滑にすることに重点を置いた研磨液であり、半導体ウエハの製造工程における仕上げ研磨用途に特に適している。すなわち、
(1)シリコンの単結晶をスライスする工程、ラッピング工程又はグラインディング工程、エッチング工程を経て粗ウエハを準備するステップ、
(2)前記粗ウエハを粗研磨するステップ、
(3)前記本実施形態の半導体基板用研磨液を用いて、粗研磨されたウエハを仕上げ研磨するステップ、
を含むことを特徴とする半導体基板の研磨方法が提供される。
【0052】
また、本実施形態の半導体基板用研磨液は、再生ウエハを得る工程における仕上げ研磨にも適用することができる。以下、再生ウエハを研磨する方法について説明する。
【0053】
一般に、シリコンウエハから、半導体デバイスを製造する各要素工程において、プロセステストのため、多数のウエハがテストウエハとして使用される。このようなテストウエハとしては、平坦なシリコン基板上に絶縁膜や金属膜等の各種膜を成膜したものが挙げられる。これらのテストウエハを製造する目的は、シリコン基板上に各種の膜を成膜するための最適条件を調べる場合、シリコン基板上にレジスト膜を塗布・露光する際の最適条件を調べる場合、定期的に前記各最適条件についてモニタリングする場合、シリコン基板上に成膜された各種の膜に対する研磨液の研磨特性を評価する場合等、多岐にわたって用いられている。
【0054】
これらのテストウエハは、再度テストウエハとして利用するために、再生処理が行われる。再生処理としては、一般的に、前記各種膜等の付着物をウエットエッチングにより除去し、粗研磨及び仕上げ研磨工程を経て、再度平坦なウエハを得る。また、前記テストウエハは、再生工程にまわされるまでに大きなキズがついてしまったり、評価の際に凹凸を形成したりする場合がある。この場合には、キズや凹凸を研削加工により除去し、これを粗研磨及び仕上げ研磨することによって、再度平坦なウエハが得られるのが一般的である。
【0055】
また、前記本実施形態の半導体基板用研磨液は、前記再生ウエハを得る工程における仕上げ研磨に適用することができる。すなわち、
(1)膜が形成されたシリコン基板の、前記膜をウエットエッチングにより除去して粗ウエハを得るステップ、
(2)前記粗ウエハを粗研磨するステップ、
(3)前記本実施形態の半導体基板用研磨液を用いて、粗研磨されたウエハを仕上げ研磨するステップ、
を含むことを特徴とする半導体基板の研磨方法が提供される。
【0056】
前記膜が形成されたシリコン基板の、シリコン基板表面に凹凸やキズがある場合は、前記粗ウエハを研磨するステップの前に機械的な研削工程を有することが好ましい。
【0057】
また、シリコン貫通ビア(TSV)裏面研磨方法において、最終段階に仕上げ研磨を適用する場合にも、本発明の半導体基板用研磨液を適用することができる。TSVと呼ばれる構造は、半導体基板の表層に形成されたデバイスと半導体基板の裏面とを接続する電極が、半導体基板内部を貫通するように形成されている構造である。TSVを形成する工程としては、半導体基板にビアを形成し、ビアを形成した面の裏面を研削(バックグラインド)して、ビアを貫通させる工程が一般的になると考えられている。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[半導体用研磨液の調製(実施例1〜5)]
コロイダルシリカ、水溶性高分子(水溶性ポリマ)、pH調整剤を以下の手順に従って、表1に示す添加量で配合して、実施例1〜5の各半導体用研磨液を調製した。各研磨液の調製には、水溶性ポリマとして、ポリビニルピロリドン(PVP_K30)を用いた。K値は、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される25℃での相対粘度値である。
【0060】
各研磨液の調製では、まず、研磨液全体の50質量%に相当する純水に、表1に示す含有量のポリビニルピロリドン(PVP)を溶解させた。所望のpH以外の場合には、酸性もしくは塩基性化合物の添加によりpHを調整した。次いで、一次粒径が35nmのコロイダルシリカを0.2質量%分散させた後、純水で計95質量%になるように配合した。そして、所望のpHとなるまで塩基性化合物を添加し、残部を純水で計100質量%になるように配合した。なお、アルカリ側へpHを調整する場合にはアンモニア水を用い、酸性側へpHを調整する場合には酢酸、酢酸アンモニウムを用いた。
【0061】
[半導体用研磨液の調製(比較例1〜3)]
コロイダルシリカ、水溶性高分子(水溶性ポリマ)、添加剤を、以下の手順に従って、表2に示す添加量で配合して、比較例1〜3の各半導体用研磨液を調製した。各研磨液の調製には、水溶性ポリマとして、ポリビニルピロリドン(PVP_K30)を用いた。なお、アルカリ側へpHを調整する場合にはアンモニア水を用い、酸性側へpHを調整する場合には酢酸を用いた。
【0062】
各研磨液の調製では、まず、研磨液全体の50質量%に相当する純水にポリビニルピロリドン(PVP)、グリシンを表2に示す添加量を溶解させた。所望のpH以外の場合には酸性もしくは塩基性化合物の添加によりpHを調整した。次いで、一次粒径が35nmの表面がアルミネートにより改質された変性シリカもしくはコロイダルシリカを0.2質量%分散させた後、純水で計95質量%になるように配合した。そして、所望のpHとなるまで酸性もしくは塩基性化合物を添加し、残部を純水で計100質量%になるように配合した。
【0063】
[粗研磨半導体基板の調整]
直径300mmのシリコンウエハを下記条件で研磨し、表面をあらした(粗研磨状態の)シリコンウエハを調整した。
(粗研磨条件)
研磨ウエハ:300mmシリコンウエハ
研磨機:Reflexion(アプライドマテリアルズ社製、商品名、「Reflexion」は登録商標)
研磨定盤回転数:123min−1
ホルダー回転数:117min−1
研磨圧力:13.7kPa
研磨液供給量:250ml/分
研磨パッド:SUBA600(ニッタ・ハース株式会社製、商品名、「SUBA」は登録商標)
研磨液:シリカ砥粒(一次粒径17nm)0.5質量%、水酸化カリウム1.0質量%、1,2,4−トリアゾール1.0質量%、pH10.5
研磨時間:90秒
【0064】
[半導体基板の研磨]
研磨定盤の研磨布上に、配合直後の実施例1の半導体基板用研磨液を供給しながら、半導体基板を研磨布に押圧した状態で、半導体基板に対して研磨定盤を相対的に回転させることにより、半導体基板の表面を研磨した。また、実施例1と同様の方法で、配合直後の実施例2〜5及び比較例1〜5の各研磨液を用いて半導体基板を研磨した。研磨条件の詳細は以下の通りである。
(研磨条件)
研磨ウエハ:前記で作成した粗研磨後の300mmシリコンウエハ
研磨機:Reflexion(アプライドマテリアルズ社製、商品名)
研磨定盤回転数:63min−1
ホルダー回転数:57min−1
研磨圧力:9.7kPa
研磨液供給量:250ml/分
研磨パッド:Supreme RN−H Pad 30.5″D PJ;CX01(ニッタ・ハース製、商品名、「Supreme」は登録商標)
研磨時間:5分
【0065】
[洗浄]
前記研磨後のウエハを、下記条件で洗浄した。
洗浄機:MESA(アプライドマテリアルズ社製、商品名)
洗浄液:水酸化アンモニウム0.06体積%+過酸化水素0.12体積%
ブラシ洗浄時間:60秒
【0066】
前記洗浄後のウエハについて、下記の装置を用いて、欠陥数及びHAZE値として表示される値を測定した。なお、「欠陥数」は、基板表面の結晶欠陥、及び、付着した異物の総数の指標であり、「HAZE値」は、基板表面の平滑性の指標である。
欠陥検査装置:LS6700(日立電子エンジニアリング株式会社製、商品名)
工程条件ファイル(測定レシピ):垂直(VEM10L)、斜方(OBL10L)
欠陥測定範囲:0.1μm〜3.0μm
投光条件:垂直、斜方
【0067】
実施例1〜5の評価結果を表1に示し、比較例1〜3の評価結果を表2に示す。なお、表1、2中に示す「CS」は、コロイダルシリカを指す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
実施例1〜5から、コロイダルシリカとPVPを含有し、pHが4.0以上8.0の半導体基板用研磨液は、欠陥数が少なく、HAZEが小さくなることが分かる。
【0071】
一方、比較例1は、コロイダルシリカとPVPを含有し、pHが3.0である。酸性領域であることからエッチングで発生する結晶欠陥は減少すると考えられるが、研磨粒子や異物が静電的に付着しやすくなり、結果として欠陥が増加したと考えている。
比較例2は、コロイダルシリカとPVPを含有し、pHが10.0である。研磨粒子や異物はアルカリ領域であることからシリコン基板との静電的な反発が強くなることが予想されて減少すると推定されるのに対して、欠陥数は22179個となり、実施例と比較して増加している。これは、pHがアルカリ領域となったことで異物数は減少したが、アルカリによるエッチングで発生した結晶欠陥が増加し、欠陥全体としては増加したものと考えている。
【0072】
比較例3は、コロイダルシリカのみで研磨した結果である。この場合、水溶性高分子が含有されていないため、欠陥数及びHAZEが測定限界以上となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと水溶性高分子と水を含み、研磨液のpHが4.0以上8.0以下である半導体基板用研磨液。
【請求項2】
研磨液のゼータ電位が−30.0mV以上−5.0mV以下である請求項1に記載の半導体基板用研磨液。
【請求項3】
コロイダルシリカの添加量は、半導体基板用研磨液に対して、0.01質量%以上1.5質量%以下である請求項1又は2に記載の半導体基板用研磨液。
【請求項4】
水溶性高分子の添加量が、半導体基板用研磨液に対して、0.001質量%以上1.0質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の半導体基板用研磨液。
【請求項5】
水溶性高分子が、ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドンの共重合体から選ばれる少なくとも一種を含む混合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の半導体基板用研磨液。
【請求項6】
研磨対象である半導体基板が、基板構成にシリコンを含む基板である、請求項1〜5のいずれかに記載の半導体基板用研磨液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の半導体基板用研磨液を用いて半導体基板の表面を研磨する、半導体基板の研磨方法。
【請求項8】
(1)シリコンの単結晶をスライスする工程、ラッピング工程又はグラインディング工程、エッチング工程を経て粗ウエハを準備するステップ、
(2)前記粗ウエハを粗研磨するステップ、
(3)請求項1〜7のいずれかに記載の半導体基板用研磨液を用いて、粗研磨されたウエハを仕上げ研磨するステップ、を含む半導体基板の研磨方法。
【請求項9】
(1)膜が形成されたシリコン基板の、前記膜をウエットエッチングにより除去して粗ウエハを得るステップ、
(2)前記粗ウエハを粗研磨するステップ、
(3)請求項1〜7のいずれかに記載の半導体基板用研磨液を用いて、粗研磨されたウエハを仕上げ研磨するステップ、を含む半導体基板の研磨方法。

【公開番号】特開2013−110253(P2013−110253A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253770(P2011−253770)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】