説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物および半導体装置

【課題】成形時において封止樹脂の流動性を損なうことなく耐トラッキング性を高めることができる半導体封止用エポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂、硬化剤、および無機充填剤を必須成分として含有し半導体封止のための成形材料として用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、無機充填剤としてシリカおよび酸化マグネシウムを含有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止のための成形材料として用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、集積回路等の半導体素子の封止材料としてセラミックや熱硬化性樹脂が一般に用いられている。トランジスタ、IC等の半導体素子の封止の分野では生産性、コスト等の面から樹脂封止が主流となり、エポキシ樹脂組成物が成形材料として広く用いられている。この理由としては、エポキシ樹脂組成物は電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性等の諸特性のバランスが良く、経済性と性能とのバランスにも優れている点等が挙げられる。
【0003】
特に集積回路では、エポキシ樹脂、フェノール樹脂系硬化剤、および溶融シリカや結晶シリカ等の無機充填剤を配合した耐熱性、耐湿性に優れたエポキシ樹脂組成物が用いられている(特許文献1、2参照)。
【0004】
半導体素子は、これを外部環境から保護して各種信頼性を確保するとともに基板への実装を容易にするためパッケージが必要である。パッケージには種々の形態があるが、一般には低圧トランスファ成形法で封止したパッケージが広く用いられている。このパッケージは、金属製リードフレームに半導体素子が固着され、半導体素子表面の電極とインナーリードとが金ワイヤで電気的に接続される。そして半導体素子、金ワイヤ、およびリードフレームの一部が封止樹脂を用いて低圧トランスファ成形法で封止される。
【0005】
このような樹脂封止型の半導体装置は、半導体素子のサイズに比べてパッケージの外形がかなり大きく、高密度実装の観点からは非効率である。そのため、パッケージ形態はピン挿入型から表面実装型に移行するとともに小型、薄型化が積極的に行われてきた。
【0006】
しかしながら、近年の電子機器の小型化、軽量化、高性能化の市場動向において、半導体の高集積化も年々進み、また半導体装置の表面実装化が促進される中で、半導体封止用エポキシ樹脂組成物への要求は益々厳しいものとなってきている。そのため、従来からの半導体封止用エポキシ樹脂組成物では解決できない課題も生じている。
【0007】
例えば、近年では、半導体パッケージの小型化、薄型化により、回路ピッチ幅やリード端子間距離も小さくなってきており、これらを電気的に絶縁するための空間距離および沿面距離の確保が難しくなっている。そのため、絶縁物である封止材料の性能向上が要求されており、特に耐トラッキング性の向上が要求されている。また欧州市場ではパッケージの耐トラッキングのレベルが非常に重要視されてきている。
【0008】
エポキシ樹脂組成物等の封止材料において耐トラッキング性を高める方法としては、無機充填剤の配合量を多くすることが一般に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−143950号公報
【特許文献2】特開2010−031126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年、半導体分野における技術の進展とともに集積回路が狭く、パッケージが小型化する方向に置き換わりつつある中で、エポキシ樹脂組成物を封止材料として形成された封止樹脂(硬化物)は、耐トラッキング性に対して十分と言えるものではなく、性能的に満足のいくものではなかった。
【0011】
このように、耐トラッキング性が要求されるようになった技術的背景としては、配線間が狭くなることにより電界強度が増加したこと等が挙げられる。また、車載用等として用いられる半導体装置も多くなり、塩分や水分に直接接触する可能性が高くなったことも挙げられる。
【0012】
さらに、近年の環境対策等も背景として、封止材料として芳香族成分の多い樹脂が用いられることも多くなってきた。この芳香族成分の多い樹脂は炭化されやすく、電気の導通路を形成しやすいため硬化物の破損を招くという不具合を有している。
【0013】
一方、近年では、半導体素子の薄型化やワイヤの細線化が進んでいることから、成形時の流動性は欠くことのできない特性である。ところが、耐トラッキング性を高めるために無機充填剤の配合量を多くすることは、成形時の流動性を損なう要因ともなり得る。
【0014】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、成形時において封止樹脂の流動性を損なうことなく耐トラッキング性を高めることができる半導体封止用エポキシ樹脂組成物とそれを用いた半導体装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤、および無機充填剤を必須成分として含有し半導体封止のための成形材料として用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、無機充填剤としてシリカおよび酸化マグネシウムを含有することを特徴としている。
【0016】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物においては、無機充填剤は、シリカと酸化マグネシウムとの配合比率が100:4〜100:60であることが好ましい。
【0017】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物においては、酸化マグネシウムは、次の式(I):
【化1】

(式中、nは1〜3の整数を示し、R1、R2、R3は、それぞれ独立にメチル基、メトキシ基、またはエトキシ基を示す。)で表されるカップリング剤で表面処理したものであることが好ましい。
【0018】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物においては、シリカは、溶融シリカであることが好ましい。
【0019】
本発明の半導体装置は、上記の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物および半導体装置によれば、成形時において封止樹脂の流動性を損なうことなく耐トラッキング性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造は特に限定されず各種のものを用いることができる。
【0023】
具体的には、例えば、グリシジルエーテル型、グリシジルアミン型、グリシジルエステル型、オレフィン酸化型(脂環式)等の各種のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0024】
さらに具体的には、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のアルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂等のブロム含有エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、硫黄原子含有エポキシ樹脂等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
半導体封止用エポキシ樹脂組成物としての耐湿信頼性を考慮すると、エポキシ樹脂中に含まれるイオン性不純物であるNaイオンやClイオンが極力少ない方が好ましく、硬化性等を考慮すると、エポキシ樹脂のエポキシ当量は100〜500g/eqが好ましい。
【0026】
これらの中でも、特に融点または軟化点が室温を超えているエポキシ樹脂を含むことが好ましい。例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、エポキシ当量180〜210、軟化点60〜110℃のものが好適に用いられ、硬化性を高めることができる。また、ビフェニル型エポキシ樹脂としては、エポキシ当量180〜210、融点80〜120℃のものが好適に用いられ、流動性および耐リフロー性を高めることができる。
【0027】
なお、耐トラッキング性に関しては、エポキシ当量が大きい程、組成物の架橋密度が下がりそのため水酸基の量が減少し耐トラッキング性に対して望ましい。また、ベンゼン環の含有量が少なくなるような選択が望ましい。
【0028】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して好ましくは7〜35質量%である。このような範囲で用いると、封止樹脂の流動性や成形品の物性等を高めることができる。
【0029】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、硬化剤が配合される。硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤等を用いることができる。中でも、硬化性や硬化物の物性等を考慮すると、フェノール樹脂系硬化剤が好ましい。
【0030】
フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂、フェニレン骨格またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂、トリフェノールメタン型樹脂等の多官能型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂等のジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール型樹脂、ビスフェノールS等の硫黄原子含有型フェノール樹脂、トリアジン変性ノボラック樹脂等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
フェノール樹脂系硬化剤は、硬化性等を考慮すると、水酸基当量は70〜250g/eqが好ましく、軟化点は50〜110℃が好ましい。
【0032】
フェノール樹脂系硬化剤の配合量は、好ましくは、フェノール性水酸基とエポキシ基との当量比(OH基当量/エポキシ基当量)が0.5〜1.5となる量であり、より好ましくは当量比が0.8〜1.2となる量である。当量比がこのような範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の硬化性を高め、ガラス転移温度の低下を抑制し、耐湿信頼性を高めることができる。
【0033】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、無機充填剤としてシリカおよび酸化マグネシウムが配合される。これらの組み合わせとすることで、成形時において封止樹脂の流動性を損なうことなく耐トラッキング性を高めることができる。
【0034】
無機充填剤のシリカとしては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ等を用いることができる。シリカは、得られる硬化物の線膨張係数を低減することができる。
【0035】
シリカの中でも、溶融シリカを用いることが、高充填性および高流動性という点から特に好ましい。
【0036】
溶融シリカとしては、球状溶融シリカ、破砕溶融シリカ等を用いることができる。中でも、流動性を考慮すると、球状溶融シリカを用いることが特に好ましい。
【0037】
溶融シリカとしては、平均粒径が5〜70μmの範囲のものを用いることが好ましい。さらに、この範囲の平均粒径のものに加えて平均粒径が0.5〜2μmの範囲のものを併用すると、流動性の向上という観点からさらに好ましい。
【0038】
なお、溶融シリカの平均粒径は、例えば、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。そして、平均粒径は、母集団から任意に抽出される試料を用い、上記測定装置を利用して測定し導出される値である。
【0039】
無機充填剤の酸化マグネシウムとしては、特に限定されず、炭酸塩(マグネサイト)、硝酸塩、水酸化物等を1400℃以下で焼成して得られた軽焼マグネシア、上記温度より高い温度(例えば、1800℃以上)で焼結して得られた硬焼マグネシア(「高温焼成マグネシアクリンカー」ともいう。)、天然産マグネサイトまたは海水マグネシアを電弧炉で溶融し、インゴットとした後、破砕して得られた電融マグネシア等を用いることができる。
【0040】
酸化マグネシウムの純度は、好ましくは95.0質量%以上、より好ましくは96.0〜100質量%、さらに好ましくは98.0〜100質量%、特に好ましくは98.5〜100質量%、最も好ましくは99.0〜100質量%である。この純度が低過ぎると、耐トラッキング性が十分に得られなくなる場合がある。なお、上記純度は、JIS K6224に準じて測定することができる。
【0041】
酸化マグネシウムの平均粒径は、体積平均粒径(以下、「Dv」という。)で、好ましくは0.5〜100μmであり、より好ましくは2〜50μm、さらに好ましくは5〜25μmである。このDvがこのような範囲内のものを用いることで、流動性を損なうことなく耐トラッキング性を高めることができる。
【0042】
また、無機充填剤の酸化マグネシウムとしては、予め上記式(I)で表されるカップリング剤で表面処理したものであることが好ましい。これにより、流動性を損なうことなく耐トラッキング性を特に高めることができる。上記式(I)で表されるカップリング剤は、有機官能基としてエポキシシクロヘキシル基を有しており、有機官能基としてエポキシ基を有するエポキシシランや有機官能基としてアミノ基を有するアミノシラン等の典型的なシランカップリング剤に比べて耐トラッキングの向上に特に有効である。
【0043】
このカップリング剤で表面処理した酸化マグネシウムは、例えば、粉末の酸化マグネシウムと、式(I)で表されるカップリング剤とを含む混合物を加熱する工程により製造することができる。
【0044】
式(I)で表されるカップリング剤の配合量は、酸化マグネシウムの100質量部に対し、0.1〜10質量部であり、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.3〜1質量部である。式(I)で表されるカップリング剤の配合量をこのような範囲内とすることで、耐トラッキング性を十分に向上させることができる。
【0045】
酸化マグネシウムと、式(I)で表されるカップリング剤とを含む混合物の調製方法は、公知の容器内で、公知の投入方法、撹拌方法等を適用して行うことができる。そして混合物を調製した後、熱処理することにより、酸化マグネシウムの表面全体が式(I)で表されるカップリング剤で強固に被覆される。
【0046】
混合物の熱処理は、電気炉、ガス炉等の工業炉等を用い、好ましくは100℃以上、より好ましくは100〜200℃の範囲の温度で行う。混合物の熱処理の時間は、好ましくは10分〜5時間、より好ましくは30分〜4時間、さらに好ましくは30分〜3時間である。熱処理の温度および時間をこのような範囲内とすることで、耐トラッキング性を十分に向上させることができる。
【0047】
無機充填剤は、シリカと酸化マグネシウムとの配合比率が100:4〜100:60であることが好ましい。配合比率をこの範囲内とすることで、封止樹脂の流動性を損なうことなく耐トラッキング性を高めることができる。
【0048】
また、酸化マグネシウムの含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して10〜30質量%が好ましい。酸化マグネシウムの含有量をこの範囲内とすることで、封止樹脂の流動性を損なうことなく耐トラッキング性を高めることができる。
【0049】
無機充填剤としては、シリカおよび酸化マグネシウムの他、本発明の効果を損なわない範囲内において他の無機充填剤を配合することができる。このような他の無機充填剤としては、例えば、アルミナ、窒化珪素、タルク、炭酸カルシウム、クレー等を用いることができる。
【0050】
このような他の無機充填剤は、粗大粒子が狭くなったワイヤ間に挟まることにより生じるワイヤ流れ等の不具合の抑制等を考慮すると、最大粒径が75μm以下であることが好ましい。また、成形時の流動性や金型磨耗性の点等を考慮すると、無機充填剤の形状は球形が好ましい。
【0051】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物における無機充填剤の含有量は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物の全量に対して60質量%以上が好ましく、60〜93質量%がより好ましい。無機充填剤の含有量をこのような範囲内とすることで、成形時の流動特性を損なうことなく熱膨張等を抑制し耐半田性を高めることができる。
【0052】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、さらに他の成分を配合することができる。このような成分としては、例えば、硬化促進剤、カップリング剤、離型剤、着色剤、難燃剤、低応力化剤、イオントラップ剤等を用いることができる。
【0053】
硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、5,6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のシクロアミジン類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3級アミン類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
カップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のグリシドキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、アルミニウム/ジルコニウムカップリング剤等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
離型剤としては、例えば、カルナバワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸、モンタン酸、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩、パラフィン等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン、フタロシアニン、ペリレンブラック等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、有機リン化合物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
低応力化剤としては、例えば、アクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体等のブタジエン系ゴム、シリコーン系ゴム、シリコーンオイル等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類化合物、アルミニウム、ビスマス、チタン、およびジルコニウムから選ばれる元素の含水酸化物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、例えば、次のようにして製造することができる。例えば、上記のエポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤、および必要に応じて他の成分を配合し、ミキサー、ブレンダー等を用いて十分均一になるまで混合する。その後、熱ロールやニーダー等の混練機により加熱状態で溶融混合し、これを室温に冷却した後、公知の手段により粉砕することにより半導体封止用エポキシ樹脂組成物を製造することができる。
【0061】
なお、半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、粉末状であってもよいが、取り扱いを容易にするために、成形条件に合うような寸法と質量に打錠したタブレットとしてもよい。
【0062】
本発明の半導体装置は、上記のようにして得られた半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子を封止することにより製造することができる。
【0063】
半導体素子としては、例えば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子等を用いることができる。
【0064】
本発明の半導体装置のパッケージ形態としては、例えば、プラスチック・リード付きチップ・キャリヤ(PLCC)、クワッド・フラット・パッケージ(QFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、薄型スモール・アウトライン・パッケージ(TSOP)、薄型クワッド・フラット・パッケージ(TQFP)、テープ・キャリア・パッケージ(TCP)等の表面実装型のパッケージを挙げることができる。
【0065】
このような表面実装型のパッケージは、例えば、リードフレームのダイパッド上に、ダイボンド材硬化物を介して半導体素子が固定される。半導体素子の電極パッドとリードフレームとの間は金線等のワイヤにより電気的に接続される。そして半導体素子は、本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により封止される。
【0066】
本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、このような表面実装型パッケージに好適である。中でも、回路ピッチ幅やリード端子間距離が小さく、これらを電気的に絶縁するための空間距離および沿面距離の確保が困難で耐トラッキングが要求される表面実装型パッケージに好適である。
【0067】
この他、本発明の半導体装置のパッケージ形態としては、例えば、ボール・グリッド・アレイ(BGA)等のエリア実装型のパッケージを挙げることができる。このようなエリア実装型のパッケージは、例えば、回路基板上にダイボンド材硬化物を介して半導体素子が固定される。半導体素子の電極パッドと回路基板上の電極パッドとの間は金線等のワイヤにより電気的に接続される。そして本発明の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により、回路基板の半導体素子が搭載された片面側のみが封止される。回路基板上の電極パッドは回路基板上の非封止面側の半田ボールと内部で接合される。
【0068】
この他、本発明の半導体装置は、挿入型、例えば、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)等のパッケージ形態としても用いることができる。
【0069】
本発明の半導体装置は、例えば次のようにして製造される。例えば、半導体素子を搭載したリードフレーム、回路基板等を金型キャビティ内に設置した後、半導体封止用エポキシ樹脂組成物を低圧トランスファ成形法、コンプレッション成形法、インジェクション成形法等の方法で成形硬化することができる。
【0070】
低圧トランスファ成形法においては、半導体素子が搭載されたリードフレーム、回路基板等を金型のキャビティ内に配置した後、このキャビティ内に溶融状態のエポキシ樹脂組成物を所定の圧力で注入し、溶融した半導体封止用エポキシ樹脂組成物は、基板上の半導体素子を包み込みながらキャビティ内を流動し、キャビティ内に充満する。
【0071】
このときの注入圧力は、半導体封止用エポキシ樹脂組成物や半導体装置の種類に応じて適宜に設定することができるが、例えば4〜7MPa、金型温度は、例えば160〜190℃、成形時間は、例えば30〜300秒等に設定することができる。
【0072】
次に、金型を閉じたまま後硬化(ポストキュア)を行った後、型開きして成形物すなわち半導体装置(パッケージ)を取り出す。このときの後硬化条件は、例えば160〜190℃で2〜8時間に設定することができる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1に示す配合量は質量部を表す。
【0074】
表1に示す配合成分として、以下のものを用いた。
(エポキシ樹脂)
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DIC(株)製「N663EXP」、エポキシ当量 200g/eq
ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂、エポキシ当量 380〜420g/eq
(硬化剤)
フェノールノボラック樹脂、群栄化学工業(株)製「PSM−6200」、フェノール性水酸基当量 105g/eq、軟化点 81℃
(無機充填剤)
溶融シリカ、平均粒径 15μm
酸化マグネシウム、平均粒径 10μm
【0075】
なお、カップリング処理は次のようにして行った。100質量部の酸化マグネシウムをヘンシェルミキサーに入れ、1質量部の式(I)で表されるカップリング剤(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製「KBM303」)を徐々に添加しながら撹拌した。全量添加後、さらに15分間混合した後、ステンレス製トレーに移して熱処理を行った。熱処理は、送風乾燥機を用いて、空気雰囲気下、温度120℃で1時間加熱して行った。以上の操作により、式(I)で表されるカップリング剤で表面処理した酸化マグネシウムを得た。
【0076】
(シランカップリング剤)
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製「KBM403」
(離型剤)
天然カルナバワックス、大日化学工業株式会社製「F1−100」
(着色剤)
カーボンブラック、三菱化学株式会社製「MA600MJ」
(難燃剤)
三酸化アンチモン
【0077】
表1に示す各配合成分を、表1に示す割合で配合し、ブレンダーで30分間混合し均一化した後、80℃に加熱したニーダーで混練溶融させて押し出し、冷却後、粉砕機で所定粒度に粉砕して粒状の半導体封止用エポキシ樹脂組成物を得た。
【0078】
この半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いて次の評価を行った。
【0079】
[スパイラルフロー]
ASTM D3123に準拠したスパイラルフロー測定金型を用いて、金型温度170℃、注入圧力6.9MPa、成形時間120秒の条件で半導体封止用エポキシ樹脂組成物の成形を行い、流動距離(cm)を測定した。スパイラルフローは成形性の目安となり、この値が長いほど流動性が良い材料であることを示す。
【0080】
[ゲルタイム]
キュラストメータ(オリエンテック社製)を用いて、170℃にて半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定し、硬化トルク値が0.1kgfになるまでの時間(s)をゲルタイムとして測定した。速硬化性という観点では、この値の小さい方が良好である。
【0081】
[溶融粘度]
島津フローテスタにより175℃における溶融粘度(Pa.s)を測定した。
【0082】
[ワイヤスイープ性]
24ピンSOPのTEG(シリコンチップと回路基板のボンディングパッドとを25μm径の金線でボンディングした。)を用いて、半導体封止用エポキシ樹脂組成物を用いてトランスファ成形によりSOPパッケージを試作した(成形条件:175℃×60秒)。
【0083】
その後、パッケージを軟X線透視装置で観察し、金線の流れ率を(流れ量)/(金線長)の比率で表し、この値が最も大きくなる金線部の値を記した。判定基準は10%未満を合格(OK)、10%以上を不合格(NG)とした。この値が大きくなると、隣接する金線同士が接触する可能性が高い。
【0084】
[耐トラッキング性(CTI)]
UL規格の評価方法に基づき、φ50mm×3mmtの成形品をトランスファ成形し、175℃×6時間のポストキュアを行った。その後23℃、50%RHで40h前処理し、これをテストピースとした。
【0085】
テストピース表面に電極を接触させ、電極の中央部に30±5秒/1滴の割合で0.1%塩化アンモニウム水溶液を滴下した。50滴を滴下した後、トラッキングを生じない場合(N=5)はさらに25Vずつ電圧を上昇させていき同様の試験を繰り返した。絶縁破壊を起こさない最高電圧(CTI)を求めて耐トラッキング性を評価した。
【0086】
評価結果を表1に示す。
【表1】

【0087】
表1より、無機充填剤としてシリカおよび酸化マグネシウムを配合した実施例1〜4では、酸化マグネシウムを配合せずシリカのみを用いた従来の配合処方の比較例1に比べて、耐トラッキング性が向上し、成形時の流動性の指標となるスパイラルフロー、ゲルタイム、溶融粘度、ワイヤスイープ性も良好であった。特に、シリカおよび酸化マグネシウムの配合比率を100:4〜100:60としたときに耐トラッキング性と成形時の流動性との両立を図ることができた。また、式(I)で表されるカップリング剤で表面処理した酸化マグネシウムを用いた実施例4では、同量の酸化マグネシウムを用いた実施例1に比べて、成形時の流動性を損なうことなく耐トラッキング性が大幅に向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、硬化剤、および無機充填剤を必須成分として含有し半導体封止のための成形材料として用いられる半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、無機充填剤としてシリカおよび酸化マグネシウムを含有することを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填剤は、前記シリカと前記酸化マグネシウムとの配合比率が100:4〜100:60であることを特徴とする請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸化マグネシウムは、次の式(I):
【化1】

(式中、nは1〜3の整数を示し、R1、R2、R3は、それぞれ独立にメチル基、メトキシ基、またはエトキシ基を示す。)で表されるカップリング剤で表面処理したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリカは、溶融シリカであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物により半導体素子が封止されていることを特徴とする半導体装置。

【公開番号】特開2012−149194(P2012−149194A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10226(P2011−10226)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】