説明

半導体封止用エポキシ樹脂組成物

【課題】 本発明は、耐トラッキング特性に優れた硬化物を与え、流動性が良好で、尚且つ耐湿特性に優れる硬化物を与える半導体封止用のエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)平均粒子径が0.3〜50μmで、かつ球形度が0.7以上である球状クリストバライト、及び(D)前記(C)成分以外の無機充填剤を含有し、前記(C)成分が該(C)成分及び前記(D)成分全体の10〜50質量%であり、かつ、金属水酸化物を含有しないものであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体デバイスは樹脂封止型のダイオード、トランジスター、IC、LSI、超LSIが主流であるが、エポキシ樹脂が他の熱硬化性樹脂に比べ成形性、接着性、電気特性、機械特性、耐湿特性等に優れているため、エポキシ樹脂組成物で半導体デバイスを封止することが一般的である。近年、半導体デバイスは車載、電車、風力発電、太陽光発電等の高電圧で使用される環境で使用される頻度が高くなり、それに伴って耐トラッキング特性が重要となっている。特に一般にパワ−半導体デバイスと呼ばれる半導体の封止剤にはトラッキング特性が優れた材料が要求されている。
【0003】
さらに車載用途ではモジュ−ル化が進み、大型パッケ−ジを封止する必要性があるので、成型性に優れ、尚且つ、塩分や水、さたにトランスミッションオイル等の鉱油、ガソリン、各種グリ−スに直接接触する可能性が高いので、耐久性に優れる必要性がある。
【0004】
このような要求に対して、耐トラッキング特性を改良する手法としてトリアジンチオ−ル化合物(トリチオイソシアヌル酸など)を添加する方法、ジシアンジアミドまたはビスフェノ−ルAとホルムアルデヒドの重縮合物を添加する手法が用いられるが、これら有機系化合物は長期耐熱試験において熱劣化するものである。無機添加材としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物が添加されるが、金属水酸化物は吸水特性があり、耐湿、耐水試験において電気的ショ−トの可能性が高く、さらにイオン性不純物による電気不良が懸念される。さらにシリカを高充填させることによって良好な耐トラッキング特性を得ることができるが、シリカを高充填されたエポキシ樹脂の線膨張係数は放熱用途に使用される銅よりも小さくなり、パッケ−ジに大きな歪を発生させ、反り、剥離の原因となり、流動性が低下し、大型パッケ−ジの成型には不向きであった。
【0005】
また、エポキシ樹脂そのもので耐トラッキング特性を高める目的でシクロペンタジエン系エポキシ樹脂を必須とする手法が用いられるが、近年要求が高まっている高CTI(Comparative Tracking Index)に対応するためには単独使用では対応が困難であった。なお、半導体封止用の樹脂組成物に関連する公知文献としては、特許文献1〜6のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−65466号公報
【特許文献2】特開平7−22718号公報
【特許文献3】特開平6−112611号公報
【特許文献4】特開2008−143950号公報
【特許文献5】特開2005−213299号公報
【特許文献6】特開2006−36936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐トラッキング特性に優れた硬化物を与え、流動性が良好で、尚且つ耐湿特性に優れる硬化物を与える半導体封止用のエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、
(C)平均粒子径が0.3〜50μmで、かつ球形度が0.7以上である球状クリストバライト、及び
(D)前記(C)成分以外の無機充填剤を含有し、
前記(C)成分が該(C)成分及び前記(D)成分全体の10〜50質量%であり、かつ、
金属水酸化物を含有しないものであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0009】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、耐トラッキング特性に優れた硬化物を与え、特定の球状クリストバライトを含有するため流動性が良好で、尚且つ金属水酸化物を含有しないことから耐湿特性に優れる硬化物を与えるものとなる。
【0010】
また、前記(C)成分の球状クリストバライトが球状溶融シリカをクリストバライト化したものであり、前記半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物のCTI(IEC60112法)が400V以上となるものであることが好ましい。
【0011】
球状溶融シリカをクリストバライト化した(C)成分であれば簡便かつ高純度で得ることができ、エポキシ樹脂組成物全体の不純物濃度を低減することができる。また、CTIが400V以上であれば、より耐トラッキング特性に優れた硬化物を与えるものとなる。
【0012】
さらに、前記半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物の50〜100℃における線膨張係数が16ppm以上となるものであることが好ましい。
【0013】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、線膨張係数が比較的高く、銅等との線膨張係数と近くなるために用いたパッケージに反りが発生することを抑制できる硬化物を与えるものとなる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明のエポキシ樹脂組成物であれば、耐トラッキング特性に優れた硬化物を与え、特定の球状クリストバライトを含有するため流動性が良好で、尚且つ金属水酸化物を含有しないことから耐湿特性に優れる硬化物を与えるものとなる。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は線膨張係数が比較的高い硬化物を与えるので高温下でも封止剤として用いたパッケージの反りの発生を防止することができ、耐熱性、及び信頼性にも優れる。そのため、このエポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置は、信頼性に優れるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。前述のように、耐トラッキング特性に優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物が望まれていた。
【0016】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記のエポキシ樹脂組成物が上記問題点を解決し得ることを見出して、本発明を完成させた。以下、本発明について更に詳しく説明する。
【0017】
[(A)エポキシ樹脂]
本発明に用いる(A)エポキシ樹脂は特に限定されない。(A)エポキシ樹脂としては、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を併用することができる。
【0018】
特に、高い耐トラッキング特性が必要される用途では高温耐熱特性があることが好ましいので、硬化物のガラス転移温度が高い多官能型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の使用が好ましい。
【0019】
[(B)硬化剤]
本発明に用いる(B)硬化剤は特に限定されるものではない。(B)硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、ビフェニル骨格含有アラルキル型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、複素環型フェノール樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール樹脂、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミックス酸等の酸無水物等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を併用することができる。
【0020】
本発明において、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤との配合割合については特に制限されないが、(A)エポキシ樹脂中に含まれるエポキシ基1モルに対して、(B)硬化剤中に含まれるフェノール性水酸基または酸無水物基のモル比が0.5〜1.5、特に0.8〜1.2の範囲となる量であることが好ましい。
【0021】
[(C)球状クリストバライト]
本発明に用いる(C)成分は、平均粒子径が0.3〜50μmで、かつ球形度が0.7以上であり、好ましくは最大粒子径が150μm以下、特に75μm以下である球状クリストバライトである。この球状クリストバライトは従来公知の製法で製造された球状溶融シリカをクリストバライト化することで得ることができる。例えば、球状溶融シリカを1200〜1600℃、特に1300〜1500℃の高温で5〜24時間加熱し、結晶を確実に成長させた後、20〜50時間かけてゆっくりと室温まで冷却することによってクリストバライト化させることができる。原料としての球状溶融シリカとしては、平均粒子径0.3〜50μm、特に0.3〜30μmであるものが好ましく、また好適には、最大粒子径が150μm以下、特に75μm以下であるものが望ましい。
【0022】
(C)球状クリストバライトの平均粒子径が50μmを超えると粒子径が粗くなりすぎてゲ−ト詰まりや金型磨耗を引き起こしやすくなり、0.3μm未満では粒子が細かくなりすぎて多量に添加できなくなる場合がある。また、最大粒子径が150μmを超えるとゲ−ト詰まりや金型磨耗を引き起こす可能性がある。
【0023】
さらに球状クリストバライトの球形度(例えば、投影法等による)は0.7以上であり、好ましくは0.8以上である。球形度が0.7未満の場合は流動性が悪くなったり、ワイヤ−流れやパットシフト等の成型不良を起こしやすくなる。
【0024】
平均粒子径、最大粒子径は、例えば、レーザー光回折法における粒度分布測定により求めることができ、また平均粒子径としては、累積質量平均径(d50)又はメジアン径等として求めることができる。なお、加熱処理によるクリストバライト化によって、原料の球状溶融シリカの粒度分布(平均粒子径、最大粒子径等)や球形度は実質的に変化しない。従って、球状クリストバライトの粒度分布(平均粒子径、最大粒子径等)や球形度は、原料の球状溶融シリカと同一となる。
【0025】
(C)成分の球状クリストバライトの添加量は、(C)成分と後述する(D)成分の無機充填剤全体の10〜50質量%であり、好ましくは20〜40質量%である。(C)成分の添加量が10質量%未満では、エポキシ樹脂組成物の硬化物の線膨張係数が16ppm以上となることができず、また、耐トラッキング特性の指標であるCTI(IEC60112法、すなわちJIS C2134法)が400Vを超えることができない。また、(C)成分の添加量が50質量%を越えると半導体封止時のリフロ−工程において基板と本発明の組成物の封止用樹脂硬化物との界面で剥離が生じやすい。
【0026】
[(D)球状クリストバライト以外の無機充填材]
本発明のエポキシ樹脂組成物中に配合される(D)成分の無機充填剤としては、上記(C)成分の特定の球状クリストバライト以外の無機充填剤であれば特に制限されるものではなく、通常エポキシ樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維等が挙げられる。これら無機充填剤の平均粒子径や形状は特に限定されないが、成形性及び流動性の面から平均粒子径が5〜40μmの球状の溶融シリカが特に好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折法による粒度分布測定における累積質量平均値(又はメジアン径)等として測定することができる。
【0027】
なお、(C)球状クリストバライト及び/又は(D)無機充填剤は、樹脂と無機充填剤との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤で予め表面処理したものを配合することが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトシラン等のメルカプトシランなどのシランカップリング剤を用いることが好ましい。ここで表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。
【0028】
(C)球状クリストバライト以外の(D)無機充填剤の充填量は特に制限されないが、上記(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤(例えば、フェノール樹脂)の総量100質量部に対して200〜400質量部、特に300〜400質量部が好適である。(D)成分の充填量が200質量部以上であれば線膨張係数が大きくなり過ぎずパッケージの反りが抑制される。そのため、半導体素子に加わる応力が少なく素子特性の劣化を回避できる。さらに、充填量が200質量部以上であればエポキシ樹脂組成物全体に対する樹脂量が少なくなるため、吸湿性が向上し耐クラック性も向上する。一方、(D)成分の充填量が400質量部以下であれば線膨張係数が16ppmより大きくなり、銅との線膨張係数と近くなるためにパッケージの反りを抑制できる。
【0029】
[金属水酸化物を含有しないエポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は金属水酸化物を含有しないものである。このようなエポキシ樹脂組成物であれば、耐湿特性に優れ、一層耐トラッキング特性に優れた硬化物を与えるものとなる。
【0030】
[硬化物のCTI]
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化物のCTI(IEC60112法)が400V以上となるものであることが好ましい。このようなエポキシ樹脂組成物であれば、より耐トラッキング特性に優れた硬化物を与えるものとなる。より具体的には、前述のように(C)成分の球状クリストバライトの添加量を、(C)成分と(D)成分全体の10質量%以上とすることで硬化物のCTI(IEC60112法)が400V以上となるエポキシ樹脂組成物とすることができる。
【0031】
[硬化物の線膨張係数]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、50〜100℃における硬化物の線膨張係数が16ppm以上となるものであることが好ましい。線膨張係数が16ppm以上であれば、線膨張係数が比較的高く、銅等との線膨張係数と近くなるために封止剤として用いられたパッケージの反りを抑制できる硬化物を与えるものとなる。より具体的には、前述のように(C)成分の球状クリストバライトの添加量を、(C)成分と(D)成分全体の10質量%以上としたり、(D)成分の充填量が(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤(例えば、フェノール樹脂)の総量100質量部に対して400質量部以下とすることで線膨張係数が16ppm以上となるエポキシ樹脂組成物とすることができる。
【0032】
[その他の成分]
本発明のエポキシ樹脂組成物には、その特性を阻害しない範囲で、目的に応じて添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、光安定剤、相溶化剤、接着助剤、流動性改質剤、滑剤等を挙げることができる。
【0033】
本発明において使用可能な酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4−チオビス−(2−t−ブチル−5−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(6−t−ブチルメチルフェノール)、4,4−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルデシル)クロマン−2−オール、5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、テトラキス(メチレン)−3−(ドデシルチオプロピオネート)メタン等が挙げられる。
【0034】
本発明において使用可能な安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛等の各種金属せっけん系安定剤、ラウレート系、マレート系及びメルカプト系の各種有機錫系安定剤、ステアリン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の各種鉛系安定剤、エポキシ化植物油等のエポキシ化合物、アルキルアリルホスファイト、トリアルキルホスファイト等のホスファイト化合物、ジベンゾイルメタン、デヒドロ酢酸等のβ−ジケトン化合物、ソルビトール、マンニトール、ペンタエリスリトール等のポリオール、ハイドロタルサイト類やゼオライト類を挙げることができる。
【0035】
また、本発明において使用可能な接着助剤としては、各種アルコキシシラン、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等を挙げることができ、流動性改質剤としては、ケイ酸、炭酸カルシウム、酸化チタン、カーボンブラック、カオリンクレー、焼成クレー、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム等を挙げることができる。
【0036】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進させるため、硬化促進剤を用いることが好ましい。この硬化促進剤は、硬化反応を促進させるものであれば特に制限はなく、例えばトリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレートなどのリン系化合物、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などの第3級アミン化合物、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物等を使用することができる。
【0037】
硬化促進剤の配合量は有効量であるが、上記リン系化合物、第3級アミン化合物、イミダゾール化合物等のエポキシ樹脂と硬化剤(例えば、フェノール樹脂、酸無水物等)との硬化反応促進用の硬化促進剤は、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤との総量100質量部に対し、0.1〜5質量部、特に0.3〜4質量部とすることが好ましい。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、シリコーン系等の低応力剤、カーボンブラック等の着色剤、ハロゲントラップ剤等の添加剤を添加配合することができる。
【0039】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、離型剤成分を添加することができる。離型剤成分としては、特に制限されず公知のものを全て使用することができる。例えばカルナバワックス、ライスワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物であるモンタンワックス;ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられこれら1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0040】
離型剤の配合比率としては(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して、0.1〜5質量部、更に好ましくは0.3〜4質量部であることが好ましい。
【0041】
[エポキシ樹脂組成物の調製等]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)球状クリストバライト、及び(D)無機充填剤、及び必要に応じて難燃剤、その他の添加物を所定の組成比で配合し、これをミキサー等によって十分均一に混合した後、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して成形材料として得ることができる。なお、エポキシ樹脂組成物をミキサー等によって十分均一に混合するに際して、保存安定性をよくするため、或いはウエッターとして(C)成分及び/又は(D)成分をシランカップリング剤等で予め表面処理等を行うことが好ましい。
【0042】
ここで、シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。ここで、表面処理に用いるシランカップリング剤量及び表面処理方法については、特に制限されるものではない。
【0043】
このようにして得られる本発明のエポキシ樹脂組成物は、各種の半導体装置の封止用として有効に利用できる。この場合、封止の最も一般的な方法としては、低圧トランスファー成形法が挙げられる。なお、本発明のエポキシ樹脂組成物の成形温度は150〜180℃で30〜180秒、後硬化は150〜180℃で2〜16時間行うことが望ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
[実施例1〜6、比較例1〜7]
表1に示す割合で下記成分を熱2本ロールで均一に溶融混合し、冷却、粉砕して実施例1〜6、比較例1〜7のエポキシ樹脂組成物を得た。各エポキシ樹脂組成物のスパイラルフロー、175℃でのゲル化時間を測定した。更に、得られたエポキシ樹脂組成物をタブレット化し、低圧トランスファー成形機にて175℃、70kgf/cm、120秒の条件で各試験片硬化物を成形し、各試験片硬化物に対し、線膨張係数を測定した。また、以下に示す耐トラッキング特性試験、耐リフロー性試験、信頼性試験により高温放置特性を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
(A)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂a:下記式で表されるビフェニル含有アラルキル型エポキシ樹脂(商品名:NC−3000、日本化薬(株)製、エポキシ当量=272)
【化1】

(式中、nは重量平均分子量(Mw)=1300となる数である。)
エポキシ樹脂b:多官能型エポキシ樹脂:EPPN−501H(日本化薬(株)製、エポキシ当量165)
【化2】

(式中、nは重量平均分子量(Mw)=680となる数である。)
【0047】
(B)硬化剤
硬化剤a:下記式で表されるフェノールノボラック樹脂:DL−92(明和化成(株)製、フェノール性水酸基当量110)
【化3】

(式中、nはn=2の成分を38〜40質量%含み、フェノール性水酸基当量を110(g/eq)とする数である。)
【0048】
(C)球状クリストバライト
球状クリストバライト1:(株)龍森製 平均粒子径=26μm、最大粒子径=50μm、球形度=0.82
球状クリストバライト2:(株)龍森製 平均粒子径=0.4μm、最大粒子径=150μm、球形度=0.7
球状クリストバライト3:(株)龍森製 平均粒子径=45μm、最大粒子径=150μm、球形度=0.7
球状クリストバライト4:(株)龍森製 平均粒子径=23μm、最大粒子径=50μm、球形度=0.64
球状クリストバライト5:(株)龍森製 平均粒子径=0.1μm、最大粒子径=150μm、球形度=0.7
球状クリストバライト6:(株)龍森製 平均粒子径=65μm、最大粒子径=150μm、球形度=0.7
球状クリストバライト1〜7はいずれも、球状溶融シリカを原料とし加熱処理にてクリストバライト化したもの。
【0049】
(D)無機質充填剤
球状溶融シリカ((株)龍森製、平均粒子径=15μm)
【0050】
その他
硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製)
カップリング剤A:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
カーボンブラック:デンカブラック(電気化学工業(株)製)
離型剤:カルナバワックス(日興ファインプロダクツ(株)製)
金属水酸化物:平均粒子径1.5μmの未処理水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製)
【0051】
(a)耐トラッキング特性(CTI)試験
上記エポキシ樹脂組成物を用い、プレス成型機にて厚み3mm、直径50mmの円板を成型し、その成型物を175℃にて4時間加熱処理により試験体硬化物を得た。その試験体硬化物を用いてJIS C2134法(IEC60112法)に基づいて耐トラッキング特性試験を実施した。耐トラッキング特性の電圧としては、測定個数n=5の評価において50滴以上がクリヤ−となったものを採用した。
【0052】
(b)耐リフロ−性試験
2連QFPマトリックスフレ−ム(サンプル数10)を用い、成型温度175℃、成型圧力6.9N/mmでマルチプランジャ−装置を使用し、トランスファ−成型した。成型したQFPパッケ−ジを85℃/60%RHの恒温恒湿機に168時間放置した後、IRリフロ−(最高温度260℃)を3回通した後に超音波探査装置を用いて内部クラックおよび剥離の発生したサンプル数を数えた。
【0053】
(c)信頼性試験
上記成型したQFPパッケ−ジ(サンプル数10)を−40℃/150℃の熱衝撃試験機に1000サイクルになるまで放置した後、超音波探査装置を用いて内部クラックおよび剥離の発生したサンプル数を数えた。
【0054】
(d)連続成型性試験
各組成物を用いて温度180℃、成型圧力70MPa、及び成型時間60秒の条件でQFP(Quad Flat Package)(14mm×20mm×2.7mm、5キャビティー)を連続成型機により成型した。パッケージが金型に貼り付く、もしくはカルが金型に貼り付く、未充填が発生するなどの不良が発生するまでのショット数を最大500ショットまで数えた。
【0055】
【表1】

【0056】
以上より、本発明のエポキシ樹脂組成物は流動性が良好で、耐トラッキング特性、耐リフロー性、信頼性、耐湿特性などの高温放置特性に優れた硬化物を与えることが分かった。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体封止用エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、
(C)平均粒子径が0.3〜50μmで、かつ球形度が0.7以上である球状クリストバライト、及び
(D)前記(C)成分以外の無機充填剤を含有し、
前記(C)成分が該(C)成分及び前記(D)成分全体の10〜50質量%であり、かつ、
金属水酸化物を含有しないものであることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)成分の球状クリストバライトの最大粒子径が150μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)成分の球状クリストバライトが球状溶融シリカをクリストバライト化したものであり、
前記半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物のCTI(IEC60112法)が400V以上となるものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記半導体封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物の50〜100℃における線膨張係数が16ppm以上となるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の半導体封止用エポキシ樹脂組成物。



【公開番号】特開2013−112710(P2013−112710A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258225(P2011−258225)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】