説明

半導体層形成装置、半導体層製造方法

【課題】ドーパントの濃度を制御して半導体層を形成する技術を提供する。
【解決手段】
真空槽51内の第二主ターゲット42を、希ガスと反応性ガスとを含有するスパッタリングガスでスパッタリングし、成膜対象物28表面に到達させて半導体層26を形成する際に、真空槽51内に配置されたドーパントを蒸着材料64として加熱し、蒸着材料64の蒸気を発生させ、成膜対象物28表面に到達させ、ドーパントを含有する半導体層26を形成する。蒸着材料64の蒸気は、成膜対象物28と蒸着材料64の間に配置した放出量制限部材63の貫通孔66を通過させることで減少させるので、半導体層26に微少量含有させることができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光素子の技術分野に係り、特に、光素子中のp型のGaN層を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在では、信号機、装飾用電球等の特殊分野ばかりでなく、通常の照明器具にも発光ダイオードが用いられるようになっている。
発光ダイオード用半導体のうち窒化ガリウム(GaN)系半導体は、青色用の光デバイスとして実用化されており、太陽電池等の他の光デバイスへの応用も検討されている。
【0003】
現状、製品化されているGaN系光デバイス・電子デバイスのGaN層はMOCVDで作製されており、GaN内でpn接合を形成するための、ドナーにはSiが使用され、アクセプターにはMgが使用されている。
しかし、MOCVDプロセスは多量のNH3やH2を使用するため、生産設備にはガス除害装置が必要となり、設備全体の価格およびプロセスガスの費用が高価になってしまう。
【0004】
それを解決するために、低コストでのGaN成長技術として、スパッタプロセスが検討されており、光デバイス(ダイオード)として機能するpn接合を形成するためには、n型GaNではSi、p型GaNではMgの0.001原子%〜数原子%の範囲で制御し同時にGaNをスパッタで成長させる技術が求められている。スパッタリング法によって、SiやMgをGaNに含有させる技術は下記特許文献等に記載されている。
【0005】
しかしながら、化合物半導体の半導体層を成長させる際には、化合物半導体中の元素のうち、気体となって分離する元素の割合が半導体層中で不足しないように、その元素の原子を化学構造中に有する反応性ガスを使用しながら化合物半導体ターゲットをスパッタして、半導体層を成長させる反応性スパッタリングが行われている。
【0006】
その際に、ドーパントのターゲットを一緒にスパッタしてドーパントを添加しようとすると、ドーパントの物質が反応性ガスと反応し、反応生成物が半導体中に添加されてしまう。反応生成物は、半導体層中でドーパントとして機能せず、ドーパントの実効的な濃度制御が困難である。
【0007】
例えば半導体のGaNターゲットとn型ドーパントのSiターゲットを一緒にスパッタリングする際に、N2やNH3ガス等の反応性ガスを用いると、SiがSiNとなって成長するGaN層に添加されるため、実効的な濃度が正確なn型GaNを形成することが困難である。
【0008】
他方、ドーパントの種類によっては半導体ターゲットと同程度のスパッタリングレートの物質があり、ドーパントのターゲットと半導体ターゲットとを一緒にスパッタすると、半導体層中にドーパントが必要以上に多く含有され、やはり、ドーパントの実効的な濃度制御が困難である。
【0009】
ドーパントのうち、アクセプタのMgについては、MgのスパッタリングレートはGaNと同程度の値であり、MgターゲットをスパッタしてGaNを成長させながらMgをドーピングさせると、Mgが必要以上に多くドーピングされ、実効的な濃度が正確なp型のGaNを形成することは困難である。
【0010】
Mgの場合には、発光に有効なpn接合を形成するために、Mgを、GaN層中に0.001原子%〜1原子%の範囲で含有させながら、GaN層をエピタキシャル成長させることができる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−124100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、Mgの正確な濃度制御ができ、大きな成膜速度でp型GaN層を形成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、真空排気される真空槽と、前記真空槽に接続され、前記真空槽内にスパッタリングガスを供給するガス供給装置と、前記真空槽内に配置され、半導体層を構成する元素のうち、少なくとも一種類の元素を含む物質である薄膜材料を含有する主ターゲットとを有し、前記主ターゲットを前記スパッタリングガスによってスパッタリングし、前記真空槽内に位置する成膜対象物表面に半導体層を形成する半導体層形成装置であって、ドーパントから成る蒸着材料が配置される蒸着容器と、前記蒸着容器に配置された前記蒸着材料を昇温させる加熱装置と、を有し、前記スパッタリングガスによって前記主ターゲットをスパッタリングしながら、前記加熱装置によって前記蒸着材料を加熱して前記蒸着材料の蒸気を放出させ、前記成膜対象物の表面に前記蒸着材料が添加されて前記蒸着材料の極性の前記半導体層が形成される半導体層形成装置である。
本発明は、半導体層形成装置であって、前記蒸着容器に配置された前記蒸着材料と前記成膜対象物の間には、貫通孔を有する放出量制限部材が配置され、前記貫通孔を通過した前記蒸着材料の前記蒸気が前記成膜対象物の表面に到達するように構成された半導体層形成装置である。
本発明は、半導体層形成装置であって、前記蒸着容器が配置された分離容器と、前記分離容器に接続され、前記分離容器の内部雰囲気を真空排気する排気装置とを有し、前記スパッタリングガスは前記分離容器の外部に供給され、前記真空槽の内部のうち、前記分離容器の外部と内部とを別々に真空排気できるように構成された半導体層形成装置である。
本発明は、半導体層形成装置であって、前記スパッタリングガスを前記真空槽内に導入しながら前記排気装置を動作させると、前記真空槽内の前記分離容器の外部雰囲気の圧力よりも、前記分離容器の内部雰囲気の圧力の方を低くされるように構成された半導体層形成装置である。
本発明は、半導体層形成装置であって、前記貫通孔は、前記放出量制限部材に複数個形成された半導体層形成装置である。
本発明は、半導体層形成装置であって、前記真空槽には前記薄膜材料と反応して前記半導体層が形成される元素を含む反応性ガスを前記真空槽に供給するガス供給装置が接続された半導体層形成装置である。
本発明は、半導体層形成装置であって、前記薄膜材料はGaであり、前記ドーパントはMgであり、前記反応性ガスは、化学構造中に窒素原子を有するガスである半導体層形成装置である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽に接続され、前記真空槽内にスパッタリングガスを供給するガス供給装置と、前記真空槽内に配置され、半導体層を構成する元素のうち、少なくとも一種類の元素を含む物質である薄膜材料を含有する主ターゲットとを有する半導体層形成装置を用い、前記真空槽を真空排気しながら前記真空槽内に前記スパッタリングガスを導入し、前記主ターゲットを前記スパッタリングガスによってスパッタリングし、前記真空槽内に位置する成膜対象物表面に半導体層を形成する半導体層製造方法であって、前記スパッタリングガスによって前記主ターゲットをスパッタリングしながら、ドーパントから成る蒸着材料を加熱して前記真空槽内に前記蒸着材料の蒸気を放出させ、前記成膜対象物の表面に形成される前記半導体層に前記ドーパントを添加し、前記半導体層を前記ドーパントの極性にする半導体層製造方法である。
本発明は、半導体層製造方法であって、前記蒸着材料と前記成膜対象物の間に、貫通孔を有する放出量制限部材を配置し、前記貫通孔を通過した前記蒸着材料の前記蒸気を、前記成膜対象物の表面に到達させる半導体層製造方法である。
本発明は、半導体層製造方法であって、前記真空槽内に配置された分離容器の内部に前記蒸着材料を配置し、前記スパッタリングガスは前記分離容器の外部に供給し、前記真空槽内の、前記分離容器の外部と内部を別々に真空排気しながら、前記主ターゲットのスパッタリングと、前記蒸着材料の前記蒸気の前記分離容器外部への放出とを行う半導体層製造方法である。
本発明は、半導体層製造方法であって、前記真空槽内の前記分離容器の外部雰囲気の圧力よりも、前記分離容器の内部雰囲気の圧力の方を低くしながら前記半導体層を形成する半導体層製造方法である。
本発明は、半導体層製造方法であって、前記貫通孔は、前記放出量制限部材に複数個形成しておく半導体層製造方法である。
本発明は、半導体層製造方法であって、前記真空槽には、前記薄膜材料と反応して前記半導体層が形成される元素を含む反応性ガスを前記真空槽に供給するガス供給装置が接続された半導体層製造方法である。
本発明は、半導体層製造方法であって、前記薄膜材料はGaであり、前記ドーパントはMgであり、前記反応性ガスは、化学構造中に窒素原子を有するガスを用いる半導体層製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
スパッタリングレートが高いドーパントについて、半導体層を速い成膜レートで形成しながら、半導体層に含有されるドーパントの量を正確に少なくすることができる。
半導体層に含有されるドーパントの濃度制御は、放出量制限部材の貫通孔の面積割合や蒸発源の加熱装置の通電量によって簡単に制御することができる。
【0015】
反応性ガスの圧力について、半導体層の構成物質の少なくとも一部の元素を含む薄膜材料のターゲットの周囲の雰囲気の圧力よりも、蒸着材料の周囲の雰囲気の圧力の方を低くすることができるので、蒸着材料表面と反応性ガスの反応が防止され、半導体層の実効的なドーパント濃度を正確に制御することができる。
また、真空槽の内部に大気を導入したときに、反応性ガスとドーパントとの反応生成物と、大気の成分との反応を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の半導体層形成装置の一例
【図2】本発明の半導体層形成装置が用いられる光素子製造装置の一例
【図3】本発明の半導体層形成装置が用いられる光素子製造装置の他の例
【図4】(a)〜(f):光素子を製造する工程を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図4(a)の符号21は本発明に用いる基板であり、成膜対象物である。基板21には、ここではサファイア基板が用いられている。なお、基板21には、サファイア基板ではなく、Si基板、SiC基板、GaN基板等の半導体基板の他、サファイア上にGaNや他の半導体を成長させたテンプレート基板等を用いることもできる。
【0018】
図2の符号1は、基板21の表面に光素子を形成する光素子製造装置であり、搬入室11と、バッファ層形成室12と、アニール室13と、i−半導体層形成室14と、第一導電型半導体層形成室15と、MQW形成室16と、第二導電型半導体層形成室17と、搬出室18とを有している。
【0019】
各室11〜18の間は、真空バルブ19を介してその順序で直列に接続されている。真空バルブ19は、基板21が各室11〜18の間を移動する際に開閉されるようになっている。
各室11〜18には、それぞれ真空ポンプが接続されており、バッファ層形成室12と、アニール室13と、i−半導体層形成室14と、第一導電型半導体層形成室15と、MQW形成室16と、第二導電型半導体層形成室17とは、それぞれ真空排気されて真空雰囲気にされている。
【0020】
p型とn型のうち、一方が第一導電型、他方が第二導電型であり、この実施例では、第一導電型はn型、第二導電型はp型にされているが、第一導電型と第二導電型は互いに逆極性であればよく、第一導電型がp型、第二導電型がn型であってもよい。
なお、この実施例では、第一、第二半導体層として、第一導電型又は第二導電型のドーパントを含有するGaN層が形成される。
【0021】
光素子を形成するために、先ず、基板21を搬入室11内に搬入し、搬入室11内を真空排気した後、搬入室11とバッファ層形成室12の間の真空バルブ19を開けて搬入室11の内部とバッファ層形成室12の内部とを接続し、基板21を搬入室11からバッファ層形成室12内に移動させる。各室11〜18間の真空バルブ19は、基板21が通過すると閉じられる。
【0022】
バッファ層形成室12内には、バッファ用材料から成るバッファ用ターゲット(ここでは、バッファ用材料は、Ga又はGaNのいずれか一方又は両方である。二個以上のバッファ用ターゲットを配置する場合は、Gaから成るバッファ用ターゲットと、GaNから成るバッファ用ターゲットとの両方を配置することもできる。)が配置されており、バッファ層形成室12内にスパッタリングガスを導入し、バッファ用ターゲットに電圧を印加してスパッタリングガスをプラズマ化し、バッファ用ターゲットをスパッタリングする。
【0023】
ここでは、スパッタリングガスには、Ar等の希ガスと、化学構造中に形成するバッファ層の少なくとも一元素(ここでは窒素原子)を有する反応性ガス(ここではN2ガスが用いられているが、この反応性ガス及び他の層を形成する際の反応性ガスは、N2、NH3、NH2NH2等が含まれる。)とが含まれており、図4(b)に示すように、基板21表面には、低温で、半導体材料(ここではGaN)から成るバッファー層22が形成される。
【0024】
バッファー層22を所定膜厚に形成した後、基板21をアニール室13に移動させる。
アニール室13の内部には、赤外線ランプヒーターが設けられており、赤外線ランプヒーターに通電し、昇温させて赤外線を放射させ、基板21に赤外線を照射し、基板21を1000℃〜1100℃の温度範囲に加熱し、形成したバッファー層22をアニールする。アニールによってバッファー層22を結晶化させた後、基板21をi−半導体層形成室14に移動させる。
【0025】
i−半導体層形成室14内には、真性半導体材料(この例ではGa)を含有する真性半導体用ターゲット(ここでは、Gaターゲット又はGaNターゲットのいずれか一方。二台の真性半導体用ターゲットを配置する場合は両方を配置することもできる。)が配置されており、i−半導体層形成室14内に、上記バッファー層22のスパッタリングガスと同様に、Ar等の希ガスと、化学構造中に真性半導体を構成する物質の少なくとも一元素(ここでは窒素原子)を有する反応性ガス(ここではN2ガス)とを含有するスパッタリングガスを導入し、基板21を加熱しながら真性半導体用ターゲットに電圧を印加し、真性半導体用ターゲットをスパッタリングし、図4(c)に示すように、バッファー層22の表面に真性半導体層23を形成する。ここでは、真性半導体層23にはドーパントは含有されず、i−GaN層で構成されている。
【0026】
真性半導体層23を所定膜厚に形成した後、基板21を第一導電型半導体層形成室15に移動させる。
第一導電型半導体層形成室15内には、第一薄膜材料を含有する第一主ターゲットと、第一導電型のドーパントから成る第一副ターゲットとが配置されている。
【0027】
第一薄膜材料は、第一導電型半導体層を構成する物質の元素のうち、少なくとも一種類の元素を含む物質であり、第一導電型半導体層形成室15内に導入した反応性ガスと反応して第一導電型半導体層を構成する半導体が生成される物質である。第一薄膜材料を含有する第一主ターゲットには、第一薄膜材料だけで構成されたターゲットと、第一導電型半導体層と同じ物質で構成されたターゲットの両方が含まれる。
【0028】
一個の第一主ターゲットを用いる場合、第一導電型半導体層を構成する物質から成るターゲットと、第一薄膜材料から成るターゲットとのうち、いずれか一方のターゲットを第一導電型半導体層形成室15内に配置することができる。
二個以上の第一主ターゲットを用いる場合は、第一導電型半導体層と同じ物質のターゲットと、第一薄膜材料から成るターゲットとの両方を第一導電型半導体層形成室15内に配置することができる。
【0029】
この例では、第一導電型半導体層はGaNであり、第一主ターゲットはGaNターゲットであるが、第一主ターゲットにGaターゲットを用い、第一薄膜材料を窒化して、GaNから成る第一導電型半導体層を形成してもよい。
【0030】
第一導電型半導体層形成室15内に、Ar等の希ガスと化学構造中に窒素原子を有する反応性ガス(ここではN2ガス)とから成るスパッタリングガスを導入し、第一主ターゲットと第一副ターゲットとにそれぞれ電圧を印加し、スパッタリングガスのプラズマを形成し、第一主ターゲットと第一副ターゲットとをそれぞれスパッタリングする。
【0031】
図4(d)に示すように、真性半導体層23の表面に、第一導電型ドーパント(ここではSi)がドープされた第一導電型半導体層24(ここでは、GaN薄膜である第一導電型GaN層)を形成する。成膜対象物は回転させて、第一導電型半導体層24は均一に形成する。
【0032】
第一導電型半導体層24を所定膜厚に形成した後、基板21を、MQW形成室16に移動させる。
MQW形成室16はMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置であり、MQW形成室16の内部に原料ガスを導入し、第一導電型半導体層24の表面に、井戸層と障壁層(ここではGaN層とInGaN層)とを交互に積層し、図4(e)に示すように、第一導電型半導体層24上に、井戸層と障壁層の積層膜から成るMQW(multiple-quantum well:多重量子井戸)層25を形成する。
MQW層25を所定膜厚に形成すると、第二導電型半導体層を形成するための成膜対象物28が得られる。その成膜対象物28は、第二導電型半導体層形成室17に移動させる。
【0033】
第二導電型半導体層形成室17の内部構造を図1に示す。
第二導電型半導体層形成室17は、真空槽51を有しており、真空槽51の内部には、ターゲット装置53と、蒸着源60とが配置されている。
【0034】
真空槽51の内部の天井側には基板ホルダ55が配置されており、ターゲット装置53と蒸着源60とは、その下方に位置している。第二導電型半導体層形成室17内に移動された成膜対象物28は、MQW層25を、ターゲット装置53と蒸着源60とが配置された位置に向けて基板ホルダ55に配置される。
ターゲット装置53は、主電極41と、第二導電型半導体層の材料となる第二薄膜材料を含有する第二主ターゲット42を有している。
【0035】
第二薄膜材料は、第二導電型半導体層を構成する物質の元素のうち、少なくとも一種類の元素を含む物質であり、反応ガスは、第二導電型半導体層を構成する物質の元素のうち、少なくとも一種類の元素を含むガスであり、第二薄膜材料を含有する第二主ターゲットからスパッタリングされた物質は、第二導電型半導体層形成室17に導入した反応性ガスと反応して、第二導電型半導体層を構成する半導体が反応生成物として生成される物質である。
【0036】
第二薄膜材料を含有する第二主ターゲット42には、第二薄膜材料だけで構成されたターゲットと、第二導電型半導体層と同じ物質で構成されたターゲットの両方が含まれる。
一個の第二主ターゲットを用いる場合は、第二導電型半導体層を構成する物質から成るターゲットと、第二薄膜材料から成るターゲットとのうち、いずれか一方のターゲットを第二導電型半導体層形成室17内に配置することができる。
【0037】
二個以上の第二主ターゲットを用いる場合は、第二導電型半導体層と同じ物質のターゲットと、第二薄膜材料から成るターゲットの両方を一緒に第二導電型半導体層形成室17内に配置することができる。
【0038】
この例では、第二導電型半導体層はGaNであり、第二導電型半導体層を構成する元素は、GaとNの二種類あり、第二薄膜材料はGaであり、反応性ガスは、他の元素であるNを化学構造中に有している。
【0039】
第二主ターゲット42はGaNターゲットであるが、この反応性ガスを用いれば、第二主ターゲット42にGaターゲットを用い、第二薄膜材料を窒化して、GaNから成る第二導電型半導体層を形成してもよい。
第二主ターゲット42は、円板や四角板等の平板状であり、表面を上方に位置する基板ホルダ55に向けて主電極41上に配置されている。
【0040】
真空槽51の外部には、スパッタ電源49が配置されている。主電極41はスパッタ電源49に接続されており、スパッタ電源49を動作させると主電極41に直流電圧、交流電圧(高周波電圧を含む)、パルス状電圧が重畳された直流電圧等が印加される。
真空槽51には、主排気装置47とガス供給装置50とが接続されており、主排気装置47を動作させると真空槽51内が真空排気され、真空槽51の内部が真空雰囲気にされる。
【0041】
ガス供給装置50には、化学構造中に窒素を有する反応性ガス(この例ではN2ガス)が充填された反応性ガスボンベ58と、希ガスボンベ59とが設けられており、主排気装置47の動作によって真空槽51の内部が所定圧力の真空雰囲気にされた後、ガス供給装置50から真空雰囲気にされた真空槽51の内部に、希ガス(ここではArガス)と反応性ガス(ここではN2ガス)とを含有するスパッタリングガスを供給する。
【0042】
真空槽51の内部が所定圧力のスパッタリングガスの雰囲気になった後、スパッタ電源49によって主電極41に電圧を印加すると、第二主ターゲット42表面がスパッタリングされ、第二主ターゲット42の構成材料がスパッタリング粒子として放出され、基板ホルダ55に配置された成膜対象物28のMQW層25の表面に到達する。
【0043】
反応性ガスは、スパッタリングの際に形成されるプラズマ中で分解され、窒素が発生する。第二主ターゲット42が第二薄膜材料で構成されている場合は、導入された反応性ガスから発生した窒素が、MQW層25表面に成長する薄膜の第二薄膜材料と反応し、MQW層25の表面に第二薄膜材料の窒化物の薄膜が成長する。
【0044】
第二主ターゲット42が第二薄膜材料の窒化物で構成されている場合でも、スパッタリングの際に、窒化物の一部が分解して窒素が分離されてしまうが、反応性ガスから発生した窒素がMQW層25表面に成長する薄膜中に取り込まれ、第二薄膜材料と反応し、窒素欠陥の無い窒化物薄膜が成長する。
【0045】
蒸着源60は、分離容器62と、蒸着容器61と、放出量制限部材63とを有している。
蒸着容器61は、内部に蒸着材料を配置できるように構成されている。図1の符号64は、蒸着容器に配置された蒸着材料である第二導電型のドーパントを示している。この例では、蒸着材料は金属Mgである。
【0046】
蒸着容器61は、分離容器62の内部に配置されており、分離容器62の開口は、放出量制限部材63によって蓋をされている。従って、蒸着材料64は、放出量制限部材63によって蓋がされた分離容器62の内部空間に配置されている。
【0047】
分離容器62には排気口が設けられており、この排気口には補助排気装置65が接続されている。補助排気装置65を動作させると分離容器62の内部が真空排気されるので、蒸着材料64が置かれた雰囲気は、補助排気装置65によって真空排気されるようになっている。
【0048】
放出量制限部材63は円板や四角板等の板に複数の貫通孔66が設けられて網状にされており、貫通孔66を介して、分離容器62の内部雰囲気と外部雰囲気とが接続されている。
従って、真空槽51を主排気装置47によって真空排気しながらガス供給装置50から真空槽51の内部にスパッタリングガスが供給される状態では、分離容器62の内部が主排気装置47によって真空排気されると共に、分離容器62の内部にスパッタリングガスが侵入するが、分離容器62の内部雰囲気は、分離容器62に接続された補助排気装置65によって真空排気されている。
【0049】
従って、真空槽51の内部において、分離容器62の内部雰囲気と、分離容器62の外部雰囲気とは別々に真空排気されている。分離容器62の内部の容積は外部の容積よりも小さくされており、分離容器62の内部雰囲気は、分離容器62の外部雰囲気よりも低圧力にされている。
【0050】
この実施例では、分離容器62の内部雰囲気は、分離容器62の外部雰囲気の圧力の1/2以下の圧力になるようにされている。一例として、真空槽51の内部であって分離容器62の外部雰囲気の圧力が0.1Paのとき、分離容器62の内部雰囲気の圧力は、0.05Paよりも低圧になるようにされている。
【0051】
蒸着容器61には、加熱装置68が設けられており、不図示の加熱用電源を起動して加熱装置68に電流を流すと、加熱装置68は発熱し、蒸着容器61を加熱する。蒸着容器61の昇温によって、蒸着材料64は加熱され、蒸着材料64の蒸気が発生する。
【0052】
分離容器62と放出量制限部材63とが設けられておらず、高温に加熱された蒸着材料64がスパッタリングガス中に含まれる反応性ガスに接触すると、蒸着材料64は窒素と反応して窒化物が発生してしまう。
そして、メンテナンス等のために真空槽51の内部が大気に曝され、大気中の水分が窒化物と接触し、窒化物が分解するとアンモニアが発生する。
蒸着材料64が金属Mgの場合には窒化マグネシウム(MgNx)が発生し、窒化マグネシウムは大気中の水分と接触して分解し、水酸化マグネシウムとアンモニアが発生する。
アンモニアは有毒であるから、アンモニアが真空槽51から放出されることを防止する装置が必要となる。
また、窒化マグネシウムは安定であるためアクセプタ−にはならない。
【0053】
本発明では、真空槽51中に反応性ガスを導入しても、放出量制限部材63によって蓋がされた分離容器62の内部は補助排気装置65によって真空排気されているため、分離容器62の内部の反応性ガスの圧力は外部の圧力よりも低くなり、その状態で蒸着材料64から蒸着材料64の蒸気が発生しても、蒸着材料64の窒化物は発生しないようにされている。
【0054】
放出量制限部材63には、一個又は複数個の貫通孔66が設けられている。放出量制限部材63は、蒸着材料64と基板ホルダ55の間の位置に配置されており、蒸着材料64の蒸気は、一部が貫通孔66を通過して、分離容器62の外部に放出され、他の一部は放出量制限部材63の裏面や分離容器62の壁面等に衝突してその場に付着し、分離容器62の外部には放出されない。
【0055】
放出された蒸着材料の蒸気は分離容器62の外部雰囲気を飛行し、基板ホルダ55に配置された成膜対象物28のMQW層25表面に到達する。従って、成膜対象物28の表面には、スパッタリング粒子と蒸気とが到達する。この例では、蒸着材料64の蒸気はMgであり、スパッタリング粒子はGaN又はGaである。
【0056】
貫通孔66を通過して蒸着源60から真空槽51の内部に放出される蒸気量は、発生した蒸着材料64の蒸気の一部であり、従って、放出量制限部材63を設けないときよりも少量の蒸着材料64の蒸気が成膜対象物28に到達する。
【0057】
成膜対象物28に到達する蒸気の量は、放出量制限部材63に形成する貫通孔66の開口の面積と、貫通孔66以外の部分の面積の比によって制御することができ、また、加熱装置68への通電量を制御し、発熱量を制御することで、蒸着材料64の蒸気の発生量を制御して、成膜対象物28への蒸着材料64の蒸気の到達量を制御することができる。
【0058】
成膜対象物28には、スパッタリング粒子の到達量の方が、蒸着材料64の蒸気の到達量よりも多量になるようにされており、図4(f)に示すように、MQW層25表面には、第二導電型のドーパントを含有する第二導電型半導体層26が形成される。
【0059】
反応性ガスから分離された窒素成分が成長中の第二導電型半導体層26に取り込まれているので、第二導電型半導体層26は、第二薄膜材料の窒化物の薄膜である。第二導電型半導体層26は、第二導電型のドーパントを含有した第二導電型の半導体である。
ここでは、第二薄膜材料であるGaの窒化物(GaN)が、ドーパントであるMgを微少に含有する第二導電型のGaN薄膜が形成されている。
【0060】
第二導電型半導体層26が所定膜厚に形成され、サファイア基板21上に、バッファー層22と、真性半導体層23と、第一導電型半導体層24と、MQW層25と、第二導電型半導体層26とがこの順序で積層された光素子29が得られる。
光素子29は搬出室18に移動させ、光素子製造装置1の外部に取り出すと、一連の光素子形成工程が終了する。
なお、上記実施例では省略したが、各層22〜26の形成の際に基板21の表面上に所定パターンの開口を有するマスクを配置して、パターニングされた各層22〜26を形成することができる。
【0061】
反応性ガスを含有するスパッタリングガスを用いる場合は、含有量が多い方が成長する薄膜に窒素が多く取り込まれるから、窒化物から成る半導体層を形成する場合、スパッタリングガス中では、反応性ガスの分圧の方が、希ガスの分圧よりも高い(反応性ガス圧力>希ガス圧力)ことが望ましい。
【0062】
本発明は、半導体の導電型を決定するために、スパッタリングガスによって形成する半導体層中に、第一、又は第二の導電型のドーパントを添加するのに用いることができ、特に、Mgはスパッタリングレートが高く、Mgターゲットを用いて半導体層中にMgをドーパントとして含有させることは困難であるため、本発明がMgをドーパントにする場合に適している。
他方、Siはスパッタリングレートが低いので、上記実施例のSiで構成された第一副ターゲットをスパッタして、半導体層中に含有させて、第一導電型半導体層24を形成することができる。
【0063】
上記実施例では、板状の金属材料に、一又は二以上の貫通孔66が形成された放出量制限部材63を用いたが、例えば金属製の網やセラミックス製の網を放出量制限部材63として用いても良い。要するに、発生した蒸着材料64の蒸気を減少させて真空槽51の内部に放出するようにすればよい。
【0064】
上記実施例では、第一、第二薄膜材料と反応する反応ガスに、反応性ガスを用いたが本発明は、反応性ガスに限定されるものでは無く、薄膜材料と反応して半導体層の物質を発生させるガスであれば反応性ガスに含まれる。
【0065】
上記実施例では、真空槽51の内部のうち、分離容器62の外部を主排気装置47によって真空排気し、分離容器62の内部を、主排気装置47とは別の補助排気装置65によって真空排気したが、反応性ガスを分離容器62の内部を通過させずに真空排気して分離容器62の内部を外部よりも低圧にできれば、同じ真空排気装置によって分離容器62の内部と外部を別々に真空排気してもよい。
【0066】
また、上記の例では、各室11〜18が一列に直列接続されていたが、図3に示す光素子製造装置2のように、搬入室71と、バッファ層形成室72と、アニール室73と、i−半導体層形成室74と、第一導電型半導体層形成室75と、MQW形成室76と、第二導電型半導体層形成室77と、搬出室78とを、基板搬送ロボット70が配置された搬送室79に設け、各室71〜79の間で、基板搬送ロボット70によって、基板21を搬送するようにしてもよい。
また、上記の例では、第二半導体層形成装置によって、第二導電型の半導体層を形成したが、言うまでもなく、第一導電型のドーパントを蒸着材料として配置し、第一導電型の半導体層を形成してもよい。
【符号の説明】
【0067】
21……基板
22……バッファー層
23……真性半導体層
24……第一導電型半導体層
25……MQW層
26……第二導電型半導体層
51……真空槽
50……ガス供給装置
61……蒸着容器
62……分離容器
63……放出量制限部材
64……蒸着材料
66……貫通孔
42……第二主ターゲット(ターゲット)
68……加熱装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気される真空槽と、
前記真空槽に接続され、前記真空槽内にスパッタリングガスを供給するガス供給装置と、
前記真空槽内に配置され、半導体層を構成する元素のうち、少なくとも一種類の元素を含む物質である薄膜材料を含有する主ターゲットとを有し、
前記主ターゲットを前記スパッタリングガスによってスパッタリングし、前記真空槽内に位置する成膜対象物表面に半導体層を形成する半導体層形成装置であって、
ドーパントから成る蒸着材料が配置される蒸着容器と、
前記蒸着容器に配置された前記蒸着材料を昇温させる加熱装置と、
を有し、
前記スパッタリングガスによって前記主ターゲットをスパッタリングしながら、前記加熱装置によって前記蒸着材料を加熱して前記蒸着材料の蒸気を放出させ、
前記成膜対象物の表面に前記蒸着材料が添加されて前記蒸着材料の極性の前記半導体層が形成される半導体層形成装置。
【請求項2】
前記蒸着容器に配置された前記蒸着材料と前記成膜対象物の間には、貫通孔を有する放出量制限部材が配置され、前記貫通孔を通過した前記蒸着材料の前記蒸気が前記成膜対象物の表面に到達するように構成された請求項1記載の半導体層形成装置。
【請求項3】
前記蒸着容器が配置された分離容器と、
前記分離容器に接続され、前記分離容器の内部雰囲気を真空排気する排気装置とを有し、
前記スパッタリングガスは前記分離容器の外部に供給され、
前記真空槽の内部のうち、前記分離容器の外部と内部とを別々に真空排気できるように構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の半導体層形成装置。
【請求項4】
前記スパッタリングガスを前記真空槽内に導入しながら前記排気装置を動作させると、前記真空槽内の前記分離容器の外部雰囲気の圧力よりも、前記分離容器の内部雰囲気の圧力の方を低くされるように構成された請求項3記載の半導体層形成装置。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記放出量制限部材に複数個形成された請求項2乃至請求項4のいずれか1項記載の半導体層形成装置。
【請求項6】
前記真空槽には前記薄膜材料と反応して前記半導体層が形成される元素を含む反応性ガスを前記真空槽に供給するガス供給装置が接続された請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の半導体層形成装置。
【請求項7】
前記薄膜材料はGaであり、
前記ドーパントはMgであり、
前記反応性ガスは、化学構造中に窒素原子を有するガスである請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の半導体層形成装置。
【請求項8】
真空槽と、
前記真空槽に接続され、前記真空槽内にスパッタリングガスを供給するガス供給装置と、
前記真空槽内に配置され、半導体層を構成する元素のうち、少なくとも一種類の元素を含む物質である薄膜材料を含有する主ターゲットとを有する半導体層形成装置を用い、
前記真空槽を真空排気しながら前記真空槽内に前記スパッタリングガスを導入し、前記主ターゲットを前記スパッタリングガスによってスパッタリングし、前記真空槽内に位置する成膜対象物表面に半導体層を形成する半導体層製造方法であって、
前記スパッタリングガスによって前記主ターゲットをスパッタリングしながら、ドーパントから成る蒸着材料を加熱して前記真空槽内に前記蒸着材料の蒸気を放出させ、
前記成膜対象物の表面に形成される前記半導体層に前記ドーパントを添加し、前記半導体層を前記ドーパントの極性にする半導体層製造方法。
【請求項9】
前記蒸着材料と前記成膜対象物の間に、貫通孔を有する放出量制限部材を配置し、前記貫通孔を通過した前記蒸着材料の前記蒸気を、前記成膜対象物の表面に到達させる請求項8記載の半導体層製造方法。
【請求項10】
前記真空槽内に配置された分離容器の内部に前記蒸着材料を配置し、
前記スパッタリングガスは前記分離容器の外部に供給し、
前記真空槽内の、前記分離容器の外部と内部を別々に真空排気しながら、前記主ターゲットのスパッタリングと、前記蒸着材料の前記蒸気の前記分離容器外部への放出とを行う請求項8又は請求項9のいずれか1項記載の半導体層製造方法。
【請求項11】
前記真空槽内の前記分離容器の外部雰囲気の圧力よりも、前記分離容器の内部雰囲気の圧力の方を低くしながら前記半導体層を形成する請求項10記載の半導体層製造方法。
【請求項12】
前記貫通孔は、前記放出量制限部材に複数個形成しておく請求項9乃至請求項11のいずれか1項記載の半導体層製造方法。
【請求項13】
前記真空槽には、前記薄膜材料と反応して前記半導体層が形成される元素を含む反応性ガスを前記真空槽に供給するガス供給装置が接続された請求項8乃至請求項12のいずれか1項記載の半導体層製造方法。
【請求項14】
前記薄膜材料はGaであり、
前記ドーパントはMgであり、
前記反応性ガスは、化学構造中に窒素原子を有するガスを用いる請求項8乃至請求項13のいずれか1項記載の半導体層製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−222004(P2012−222004A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83073(P2011−83073)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】