説明

半導体放射線測定器

【課題】高性能でありながら比較的安価な、特に簡易型の放射線測定器においてはさらに乾電池等のバッテリーでも長時間連続使用が可能な、半導体放射線測定器を提供すること。
【解決手段】放射線センサー、増幅器、波高弁別器、及び波高弁別器からの出力パルス信号を計数する第一のカウンタを有し、第一のカウンタの計数値に所望の処理を行う演算処理装置を備えた半導体放射線測定器において、演算処理装置がさらに第二のカウンタを有し、第二のカウンタと増幅器の間に、その抵抗値が、波高弁別器の第一の弁別レベルよりも大きな第二の弁別レベルに設定されている弁別レベル調整用可変抵抗が接続されており、第一のカウンタ出力と第二のカウンタ出力の論理演算関係からγ線を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾電池等のバッテリーを用いて、長時間連続使用することを目的とする半導体放射線測定器に係り、特に、部品点数や消費電力の少ない簡易型の波高弁別器を備えた半導体放射線測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線測定器は、放射線センサーからの信号を増幅して、波高弁別器を用いて規定の電圧を超える信号を計数する。そして、その計数に基づいて次段の演算処理装置において放射線量を計算し、その計算結果に基づいて警報の発生や線量の画面表示を行う。一般的な放射線センサーとしては、シリコン光ダイオード、テルル化カドミウムなどの半導体(シリコン光ダイオードとシンチレータを組み合わせたものを含む)を用いたγ線用放射線測定器が良く知られている(特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
さらに、中性子と核反応を起こし荷電粒子を発生するコンバータ物質(6LiFなど)をセンサー表面に塗布することにより、ガンマ線よりも大きな信号を発生させ、一つのセンサーでγ線と中性子を測定する技術も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-151615号公報
【特許文献2】特開2005-062004号公報
【特許文献3】特許第2871523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のγ線用放射線測定器では、電荷有感型の前置増幅器を用いるため、振動により大きなノイズが発生する。また、例えば携帯電話の電磁波のような外来ノイズあるいは宇宙線により大きな信号が発生することがある。これらの信号は、環境中のγ線を測定する上で障害となるため、除去する必要がある。しかし、このためには波高弁別器を二つ以上に増設する必要があり、部品点数の増加、消費電力の増大を招く。このため、従来の乾電池などのバッテリーで長時間連続使用する半導体放射線測定器では、消費電力を低く抑えることが必須であるため、波高弁別器の増設が困難であり、宇宙線や前置増幅器の振動によるノイズあるいは上述の外来ノイズの影響を除去できず計数していた。このようなノイズを除去するには、波高弁別器が二系統以上必要となるため、高性能の放射線測定器は高価格となるという課題があり、特に、バッテリーで長時間駆動する放射線測定器では、消費電力の観点からも課題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、二系統以上必要であった波高弁別器の構成を簡略化することで部品点数を削減し、高性能でありながら比較的安価な半導体放射線測定を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、半導体放射線測定器の消費電力を減らすことにより、乾電池等のバッテリーでも長時間連続使用が可能な半導体放射線測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明の第一の観点に係る半導体放射線測定器では、放射線を受けて微小信号を出力する放射線センサー素子と、該放射線センサー素子からの出力信号を増幅する増幅器と、該増幅器によって増幅された前記出力信号の波高を、第一の弁別レベルを基準として弁別する波高弁別器と、該波高弁別器からの出力パルス信号を計数する第一のカウンタを有し、該第一のカウンタの計数値を用いて所望の処理を行う演算処理装置を備えた、従来型の半導体放射線測定器に対して、前記演算処理装置内に、さらに第二のカウンタを設け、該第二のカウンタと前記増幅器の間に弁別レベル調整用可変抵抗を設けた構成を有する。ここで、該弁別レベル調整用可変抵抗の抵抗値は、前記波高弁別器の第一の弁別レベルよりも大きな第二の弁別レベルに設定される。その上で、前記演算処理装置に記憶されたソフトウェアを用いて、前記2個のカウンタ出力信号の関係からノイズを除去し、γ線の線量を精度良く測定するようにしている。
【0008】
また、本発明の第二の観点に係る半導体放射線測定器では、上述の第一の観点にかかる半導体放射線測定器の放射線センサーとして、中性子有感物質を塗布したセンサーを用い、同時に、上述のソフトウェアの処理を一部変更することで、すなわち、上述のノイズ検出の判定に使用した第二のカウンタの出力を中性子検出の判定に用いることにより、第一のカウンタの計数から中性子線の線量を測定するようにしている。
【発明の効果】
【0009】
可変抵抗と演算処理装置のカウンタ入力を用いて、宇宙線や前置増幅器の振動によるノイズあるいは例えば携帯電話の電磁波のような外来ノイズなどの大きな雑音信号の除去及び中性子検出信号の弁別に必要な波高弁別機能を、電子部品数及び消費電力を増加させることなく実現できるので、雑音信号の除去による高性能化(信頼性向上)又は中性子検出機能の追加による高性能化が図られるという効果がある。また、乾電池などのバッテリーで駆動される簡易型の半導体放射線測定器においては、上述の効果に加えて、長時間連続使用が可能な半導体放射線測定器が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る半導体放射線測定器の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示された半導体放射線測定器の放射線センサーにγ線が入射したときの出力信号の波高分布例を示す図である。
【図3】γ線検出動作、ノイズ除去動作及び中性子検出動作を説明するための図である。
【図4】中性子有感物質を塗布した放射線センサーに中性子が入射したときの出力波高分布例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに図1を参照し、本発明に係る半導体放射線測定器の構成及び動作について説明する。図1は本発明に係る半導体放射線測定器の全体構成を示している。図1において、符号1は放射線センサーである。図では、この放射線センサーとして、シリコン光ダイオードを用いているが、テルル化カドミウムなどの化合物半導体、光ダイオードとシンチレータを組み合わせたセンサーなどであっても良い。10は、放射線センサー1からの微小信号のみを後段の回路に与えるためのカップリングコンデンサで、2は前置増幅器、3は主増幅器、そして4は特定の波高値を持つ信号のみを弁別するための波高弁別器である。これらの回路は従来の放射線測定器と同様である。
【0012】
従来の放射線測定器では、放射線センサー1からの信号が前置増幅器2及び主増幅器3で増幅される。増幅された信号は波高弁別器4の一方の入力に与えられる。この入力信号の大きさが、波高弁別器4の他方の入力に与えられる参照電圧5を超えた時、波高弁別器4でロジック信号すなわち二値信号の「1」に相当するパルス電圧信号が生成され、演算処理装置7のカウンタ1(8)で計数される。そして、演算処理装置7でカウンタ1(8)の計数を基に放射線量に換算して表示する。
【0013】
本発明では、これに、宇宙線や前置増幅器の振動によるノイズあるいは波高が大きな信号の除去及び中性子検出信号の弁別に必要な波高弁別機能を、極めて簡単な回路素子を付加するだけで得るようにしている。具体的には、図1に示すように、主増幅器3の出力信号を分岐して、一方を従来通り演算処理装置7のカウンタ1(8)に入力し、他方を主増幅器3に直列接続された弁別レベル調整用可変抵抗6を介して、演算処理装置7のカウンタ2(9)に直接入力する回路構成としている。ここでは、カウンタ2(9)の入力部がロジック信号の入力を判定するための閾電圧を有しており、入力部に直列接続した可変抵抗6とカウンタ2(9)の入力部の内部抵抗とをうまく組み合わせることにより、簡易的な波高弁別器として機能させることができる。
【0014】
すなわち、カウンタ2(9)の入力部がロジック信号の入力を判定するための閾電圧を有しており、入力部に直列接続した可変抵抗6とカウンタ2(9)の入力部の内部抵抗との比で主増幅器3の信号を減衰させてカウンタ2(9)に入力することにより、ロジック信号判定用閾電圧を第二の波高弁別レベルとして利用することができる。これにより、可変抵抗6以外に電子部品を追加することなく、また、消費電力を一切増加させることなく波高弁別機能を追加できる。
【0015】
図1に示された演算処理装置7の基本構成は、カウンタの他に、いわゆる入出力部、メモリ部、演算処理部及び表示部を備えたマイクロコンピュータである。γ線弁別測定におけるノイズ除去に用いる場合は、後述されるようにカウンタ1(8)とカウンタ2(9)が同時計数された場合に、宇宙線または振動ノイズの影響としてカウンタ1(8)の計数を除去することを演算処理装置7のソフトウェア上で実現する。中性子弁別測定に用いる場合は、カウンタ1(8)とカウンタ2(9)が同時計数された場合に、カウンタ1(8)の計数を中性子検出信号として別途計数することを演算処理装置7のソフトウェア上で実現する。
【0016】
ここで、ソフトウェア上での実現とは、詳細は後述するが、演算処理装置7内のメモリに予め記憶されているプログラムに従って、カウンタ1(8)とカウンタ2(9)の同時出力をモニターし、γ線弁別測定においては、カウンタ2(9)の出力によってカウンタ1(8)の計数を除去する論理である。また、中性子弁別測定においては、同様に両者の同時出力をモニターし、同時出力があった場合に、カウンタ1(8)の出力を中性子検出信号として計数する論理である。
【0017】
演算処理装置7においてソフトウェア的に処理された測定結果は、表示部(図示せず)に、数値、文字、及び/又は図形等で表示される。なお、結果を示す表示部としては、液晶表示パネルや、同一出願人の特許第4,448,944号に示されているように放射線測定器のハウジングに予め印刷した数値、文字、及び/または図形等を使用することもできる。
【0018】
なお、上述の実施形態においては、様々な処理をソフトウェアで行う例を説明したが、線量が或るレベルを超えた場合に警報を発するだけの放射線測定器であれば、ハードウェアとしてカウンタ回路、アンド回路、ナンド回路等で論理回路を構成しても良い。
【0019】
次に、本発明で使用する弁別レベル調整用可変抵抗6の構成と動作について、図2及び図3を参照して詳細に説明する。
【0020】
γ線を入射したときに放射線センサーから出力される信号の波高分布例を図2に示す。図2において、符号101のグラフは、γ線エネルギーが1 MeV以上の計数と波高の関係を示し、符号102のグラフは、300 keVのそれを示し、そして符号103のグラフは、100 keVのそれを示している。放射線測定器では、例えば、図1の参照電圧入力5に0.05MeVに対応する電圧を入力することにより、図2の0.05MeV以上の波高の信号数を計測する。この、0.05MeVの波高弁別レベル(参照電圧)付近では多くの信号が分布するため、このレベルが変動すると、計数される数も大きく変化する。このため、この波高弁別には、高い精度を持つ波高弁別器が要求される。
【0021】
図2によると、γ線のエネルギーとともに出力信号の波高は増加するが、半導体センサーの場合、放射線に有感な部分すなわち空乏層が薄いため、一定以上γ線のエネルギーが増加しても、信号波高は0.9MeV程度までしか発生しない。そこで、この波高よりも上に第二の波高弁別レベルを設けて、カウンタ2(9)で計数させる。そして、カウンタ1(8)とカウンタ2(9)が同時に計数したときには、宇宙線や前置増幅器の振動によるノイズあるいは例えば携帯電話の電磁波のような外来ノイズと判定し、演算処理装置7のプログラム上でこれを除去することにより、γ線の放射線量を精度よく計測することができる。第二の弁別レベル付近に分布する信号密度は低く、弁別レベルの変動による影響が小さい。このため、第二の弁別レベルには高い精度が要求されない。そこで、この第二の弁別レベルとして、本発明の簡易的な波高弁別機能を適用できる。
【0022】
次に、図3を参照し、第二の波高弁別レベルを1MeVに設定すると仮定して、それを可変抵抗6でどのように設定するのかについて具体的に説明する。図3は、γ線検出動作、ノイズ除去動作及び中性子検出動作を説明するための図であって、図1に示された各部の波形と、演算処理装置内でのソフトウェア処理の関係を説明している。図3では、横軸方向に3つの領域に分かれており、紙面左側の領域はγ線検出動作の説明図、中央の領域はノイズ除去動作の説明図、そして紙面右側の領域は中性子検出動作の説明図である。なお、中央の領域に示された動作説明図は、中性子有感物質が塗布されていない放射線センサーを用いた場合の動作を示しているが、右側の領域に示された動作説明図は、中性子有感物質が塗布された放射線センサーを用いた場合の動作を示している。一方、左側の領域に示された動作説明図は、中性子有感物質が塗布された放射線センサーを用いた場合及び中性子有感物質が塗布されていない放射線センサーを用いた場合のいずれにも対応する動作を示している。
【0023】
まず、可変抵抗の抵抗値の設定は、放射線測定器の製造時か補修時に行う。製造時には部品のばらつきを考慮して、補修時にはさらに抵抗値の経年変化も考慮して、主増幅器3の出力信号波高について、V単位とMeV単位の校正を放射線源を用いて適切に行う。例として、2.8Vで1MeVの波高に相当するとして説明する。カウンタ2(9)に入力される信号波高は、可変抵抗6とカウンタ2(9)の内部抵抗の比で減衰される。図3の例では、カウンタ2(9)の内部抵抗は100kΩ、閾電圧が2.1Vとしている。そこで、可変抵抗6の抵抗を33kΩに設定することにより、カウンタ2(9)に入力される信号波高は主増幅器3の出力波高の3/4となり、1MeVに相当する2.8Vの信号が入った場合、カウンタ2(9)の入力は2.8V×3/4=2.1Vとなる。この波高は閾電圧とほぼ等しく、この電圧レベルが第二の波高弁別レベルとなる。これにより、1MeVで第二の波高弁別レベルとすることができる。
【0024】
図4は、中性子有感物質を塗布した放射線センサーに中性子とγ線を入射させたときの波高分布例を示す。また、図2で説明したように、1MeVのエネルギーを持つγ線でも最大波高は、0.9 MeV程度であるため、中性子線を弁別するための第二の弁別レベルは1MeVに設定されている。この場合も、宇宙線等によるノイズと同様に、弁別レベル付近の信号密度は低く、第二の弁別レベルには高い精度が要求されないため、本発明の簡易的な波高弁別機能を適用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 放射線センサー
2 前置増幅器
3 主増幅器
4 波高弁別器
5 参照電圧入力
6 弁別レベル調整用可変抵抗
7 演算処理装置
8 カウンタ1(第一のカウンタ)
9 カウンタ2(第二のカウンタ)
10 カップリングコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を受けて微小信号を出力する放射線センサー素子と、該放射線センサー素子からの出力信号を増幅する増幅器と、該増幅器によって増幅された前記出力信号の波高を、第一の弁別レベルを基準として弁別する波高弁別器と、該波高弁別器からの出力パルス信号を計数する第一のカウンタを有し、該第一のカウンタの計数値を用いて所望の処理を行う演算処理装置を備えた半導体放射線測定器において、
前記演算処理装置がさらに第二のカウンタを有し、該第二のカウンタと前記増幅器の間に、その抵抗値が前記波高弁別器の第一の弁別レベルよりも大きな第二の弁別レベルに設定されている弁別レベル調整用可変抵抗が接続されており、前記第一のカウンタ出力と前記第二のカウンタ出力の論理演算関係を用いてγ線の線量を測定することを特徴とする半導体放射線測定器。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体放射線測定器において、前記演算処理装置は、前記第一のカウンタの計数値からγ線の線量を測定し、前記第一のカウンタの計数と同時に前記第二のカウンタの計数が行われた場合には、その時の前記第一のカウンタの計数を除去することを特徴とする半導体放射線測定器。
【請求項3】
放射線を受けて微小信号を出力する、中性子有感物質が塗布された放射線センサー素子と、該放射線センサー素子からの出力信号を増幅する増幅器と、該増幅器によって増幅された前記出力信号の波高を、第一の弁別レベルを基準として弁別する波高弁別器と、該波高弁別器からの出力パルス信号を計数する第一のカウンタを有し、該第一のカウンタの計数値を用いて所望の処理を行う演算処理装置を備えた半導体放射線測定器において、
前記演算処理装置がさらに第二のカウンタを有し、該第二のカウンタと前記増幅器の間に、その抵抗値が前記波高弁別器の第一の弁別レベルよりも大きな第二の弁別レベルに設定されている弁別レベル調整用可変抵抗が接続されており、前記第一のカウンタ出力と前記第二のカウンタ出力の論理演算関係を用いて中性子線の線量を測定することを特徴とする半導体放射線測定器。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体放射線測定器において、前記演算処理装置は、前記第一のカウンタの計数と同時に前記第二のカウンタの計数が行われた場合には、その時の前記第一のカウンタの計数を有効なものとして取扱い、その他の場合には前記第一のカウンタの計数を無効なものとして取扱うことを特徴とする半導体放射線測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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