説明

半導体用フィルムおよび半導体装置

【課題】基板の凹凸やワイヤの埋め込み性が高く、かつ、安定してワイヤボンディングすることが可能な半導体用フィルム、および信頼性の高い半導体装置を提供すること。
【解決手段】半導体用フィルム10は、接着層3と、第1粘着層1と、第2粘着層2と、支持フィルム4とがこの順で積層されてなり、接着層3の第1粘着層1と反対側の面に半導体ウエハー7を積層させ、この状態で該半導体ウエハー7および接着層3を切断してそれぞれ個片化し、得られた個片を支持フィルム4からピックアップする際に用いる半導体用フィルムであって、接着層3を130℃で加熱した際の、接着層3の初期の溶融粘度が100Pa・s以下であり、接着層3を130℃で30分間加熱した際の、接着層3の溶融粘度が1,000Pa以上であり、接着層3を130℃で30分間加熱した後の、接着層3の175℃における弾性率が1MPa以上であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用フィルムおよび半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の高機能化とモバイル用途への拡大に対応して半導体装置の高密度化、高集積化の要求が強まり、ICパッケージの大容量高密度化が進んでいる。
【0003】
これらの半導体装置の製造方法においては、まず、ケイ素、ガリウム、ヒ素などからなる半導体ウエハーに接着シートを貼付し、半導体ウエハーの周囲をウエハーリングで固定しながらダイシング工程で前記半導体ウエハーを個々の半導体素子に切断分離(個片化)する。次いで、個片化した個々の半導体素子同士を引き離すエキスパンディング工程と、個片化した半導体素子をピックアップするピックアップ工程とを行う。その後、ピックアップした半導体素子を金属リードフレームまたは基板(例えばテープ基板、有機硬質基板等)に搭載するためのダイボンディング工程へ移送する。これにより、半導体装置が得られる。
【0004】
また、ダイボンディング工程では、ピックアップした半導体素子を、他の半導体素子上に積層することにより、1つのパッケージ内に複数の半導体素子を搭載したチップスタック型の半導体装置を得ることもできる。このような半導体素子の積層は、通常、ワイヤボンディングを施した半導体素子上に積層される。
【0005】
このような半導体装置の製造方法において用いられる接着シートとしては、基材フィルム上に粘着層と接着層とをこの順で積層してなるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、従来の接着シート(半導体用フィルム)では、半導体素子を搭載する基板の凹凸(段差)や、ワイヤボンディングを施した半導体素子のワイヤを十分に接着シートで埋め込むことができず、これによって、形成される半導体装置の信頼性が低下するといった問題があった。また、従来の接着シート(半導体用フィルム)を用いて半導体素子上に積層した半導体素子にワイヤボンディングを施す際に、接着シートの硬化に時間がかかり、硬化が不十分であるため、安定してワイヤボンディングするのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−211224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、基板の凹凸やワイヤの埋め込み性が高く、かつ、安定してワイヤボンディングすることが可能な半導体用フィルム、および信頼性の高い半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(7)の本発明により達成される。
(1) 接着層と少なくとも1層の粘着層と支持フィルムとがこの順で積層されてなり、前記接着層の前記粘着層と反対側の面に半導体ウエハーを積層させ、この状態で該半導体ウエハーおよび前記接着層を切断してそれぞれ個片化し、得られた個片をピックアップする際に用いる半導体用フィルムであって、
前記接着層を130℃で加熱した際の、前記接着層の初期の溶融粘度が100Pa・s以下であり、
前記接着層を130℃で30分間加熱した際の、前記接着層の溶融粘度が1,000Pa・s以上であり、
前記接着層を130℃で30分間加熱した後の、前記接着層の175℃における弾性率が1MPa以上であることを特徴とする半導体用フィルム。
【0010】
(2) 前記接着層は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂と硬化触媒とを含む樹脂組成物で構成される上記(1)に記載の半導体用フィルム。
【0011】
(3) 前記硬化触媒の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜30質量部である上記(2)に記載の半導体用フィルム。
【0012】
(4) 前記硬化触媒は、イミダゾール化合物を含むものである上記(2)または(3)に記載の半導体用フィルム。
【0013】
(5) 前記熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂である上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0014】
(6) 前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂である上記(2)ないし(5)のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【0015】
(7) 上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の半導体用フィルムを用いて半導体素子と基板または半導体素子と半導体素子とが接合されていることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基板の凹凸やワイヤの埋め込み性が高く、かつ、安定してワイヤボンディングすることが可能な半導体用フィルム、および信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の半導体用フィルムおよび当該半導体用フィルムを用いた半導体装置の製造方法の好適な実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の半導体用フィルムを用いた半導体装置の製造方法の好適な実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の半導体用フィルムを用いた半導体装置の製造方法の好適な実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】本発明の半導体用フィルムを製造する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1〜図3は、本発明の半導体用フィルムおよび当該半導体用フィルムを用いた半導体装置の製造方法の好適な実施形態を説明するための図(縦断面図)、図4は、本発明の半導体用フィルムを製造する方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、図1ないし図4中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0020】
[半導体用フィルム]
図1に示す半導体用フィルム10は、支持フィルム4と、第1粘着層1と、第2粘着層2と、接着層3とを有している。より詳しくは、半導体用フィルム10は、支持フィルム4上に、第2粘着層2と、第1粘着層1と、接着層3とをこの順で積層してなるものである。
【0021】
このような半導体用フィルム10は、図1(a)に示すように、接着層3の上面に半導体ウエハー7を積層させ、半導体ウエハー7をダイシングにより個片化する際に半導体ウエハー7を支持するとともに、個片化された半導体ウエハー7(半導体素子71)をピックアップする際に、第1粘着層1と接着層3との間が選択的に剥離することにより、ピックアップした半導体素子71を絶縁基板5や他の半導体素子71上に接着するための接着層31を提供する機能を有するものである。
【0022】
また、支持フィルム4の外周部41および第2粘着層2の外周部21は、それぞれ第1粘着層1の外周縁11を越えて外側に存在している。
【0023】
このうち、外周部21には、ウエハーリング9が貼り付けられる。これにより、半導体ウエハー7が確実に支持されることとなる。
【0024】
以下、まず、半導体用フィルム10の各部の構成について順次詳述する。
(第1粘着層)
第1粘着層1は、一般的な粘着剤で構成されている。具体的には、第1粘着層1は、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等を含む第1樹脂組成物で構成されている。
【0025】
アクリル系粘着剤としては、例えば(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルで構成される樹脂、(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルと、それらと共重合可能な不飽和単量体(例えば酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル等)との共重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂を2種類以上混合してもよい。
【0026】
また、これらの中でも(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシルおよび(メタ)アクリル酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルおよび酢酸ビニルの中から選ばれる1種以上との共重合体が好ましい。これにより、第1粘着層1が粘着する相手(被着体)との密着性や粘着性の制御が容易になる。
【0027】
また、第1樹脂組成物には、粘着性(接着性)を制御するためにウレタンアクリレート、アクリレートモノマー、多価イソシアネート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート)等のイソシアネート化合物等のモノマーおよびオリゴマーを添加してもよい。
【0028】
さらに、第1樹脂組成物には、第1粘着層1を紫外線等により硬化させる場合、光重合開始剤としてメトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフエノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等のアセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾインイソブチルエーテル系化合物、ベンゾイン安息香酸メチル系化合物、ベンゾイン安息香酸系化合物、ベンゾインメチルエーテル系化合物、ベンジルフィニルサルファイド系化合物、ベンジル系化合物、ジベンジル系化合物、ジアセチル系化合物等を添加してもよい。
【0029】
また、接着強度およびシェア強度を高める目的で、ロジン樹脂、テルペン樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族系石油樹脂等の粘着付与材等を添加してもよい。
【0030】
このような第1粘着層1の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、特に3〜50μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記下限値未満であると十分な粘着力を確保するのが難しくなる場合があり、前記上限値を超えてもあまり特性に影響が無く、利点も得られない。厚さが前記範囲内であると、特に、ダイシング時に剥離せず、ピックアップ時には引っ張り荷重に伴って比較的容易に剥離可能になることから、ダイシング性、ピックアップ性に優れた第1粘着層1が得られる。
【0031】
(第2粘着層)
第2粘着層2は、前述した第1粘着層1よりも粘着性が高いものである。これにより、第1粘着層1と接着層3との間よりも、第2粘着層2とウエハーリング9との間が強固に粘着することとなり、第2の工程においては、半導体ウエハー7をダイシングして個片化する際に、第2粘着層2とウエハーリング9との間が確実に固定されることとなる。その結果、半導体ウエハー7の位置ずれが確実に防止され、半導体素子71の寸法精度の低下を防止することができる。
【0032】
第2粘着層2には、前述した第1粘着層1と同様のものを用いることができる。具体的には、第2粘着層2は、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等を含む第2樹脂組成物で構成されている。
【0033】
アクリル系粘着剤としては、例えば(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルで構成される樹脂、(メタ)アクリル酸およびそれらのエステルと、それらと共重合可能な不飽和単量体(例えば酢酸ビニル、スチレン、アクリルニトリル等)との共重合体等が用いられる。また、これらの共重合体を2種類以上混合してもよい。
【0034】
また、これらの中でも(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシルおよび(メタ)アクリル酸ブチルからなる群から選ばれる1種以上と、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルおよび酢酸ビニルの中から選ばれる1種以上との共重合体が好ましい。これにより、第2粘着層2が粘着する相手(被着体)との密着性や粘着性の制御が容易になる。
【0035】
また、第2樹脂組成物には、粘着性(接着性)を制御するためにウレタンアクリレート、アクリレートモノマー、多価イソシアネート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート)等のイソシアネート化合物等のモノマーおよびオリゴマーを添加してもよい。
【0036】
さらに、第2樹脂組成物には、第1樹脂組成物と同様の光重合開始剤を添加してもよい。
【0037】
また、接着強度およびシェア強度を高める目的で、ロジン樹脂、テルペン樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族芳香族系石油樹脂等の粘着付与材等を添加してもよい。
【0038】
このような第2粘着層2の平均厚さは、特に限定されないが、1〜100μm程度であるのが好ましく、特に3〜20μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記下限値未満であると十分な粘着力を確保するのが困難となる場合があり、前記上限値を超えても特に優れた効果が得られない。また、第2粘着層2は、第1粘着層1によりも柔軟性が高いため、第2粘着層2の平均厚さが前記範囲内であれば、第2粘着層2の形状追従性が確保され、半導体用フィルム10の半導体ウエハー7に対する密着性をより高めることができる。
【0039】
(接着層)
接着層3は、ピックアップした半導体素子71を絶縁基板5や他の半導体素子71上に接着する機能を有する層である。
【0040】
ところで、従来の接着シート(半導体用フィルム)では、半導体素子を搭載する基板の凹凸(段差)や、ワイヤボンディングを施した半導体素子のワイヤを十分に接着シートで埋め込むことができず、これによって、形成される半導体装置の信頼性が低下するといった問題があった。また、従来の接着シート(半導体用フィルム)を用いて半導体素子上に積層した半導体素子にワイヤボンディングを施す際に、接着シートの硬化に時間がかかり、硬化が不十分であるため、安定してワイヤボンディングするのが困難であった。
【0041】
これに対して、本発明では、接着層を130℃で加熱した際の、接着層の初期の溶融粘度が100Pa・s以下であり、130℃で30分間加熱した際の、接着層の溶融粘度が1,000Pa・s以上であり、接着層を130℃で30分間加熱した後の、接着層の175℃における弾性率が1MPa以上であることを特徴とする。このような特徴を有することにより、例えば、後述するようにワイヤボンディングを施した半導体素子上に半導体素子を接着する際に、接着層内にワイヤを確実に埋め込むことができる。これは、接着層を硬化させるために130℃で加熱した場合、接着層の加熱初期の溶融粘度が比較的低い状態であるため、接着層が硬化する前に、接着層中にワイヤを確実に埋め込むことができる。さらに、130℃で30分間加熱した際の、接着層の溶融粘度が1,000Pa・s以上であり、接着層を130℃で30分間加熱した後の、接着層の175℃における弾性率が1MPa以上であることにより、搭載した半導体素子に対してワイヤボンディングを施す際には、接着層が確実に硬化した状態となっている。このため、安定してワイヤボンディングを施すことができる。その結果、信頼性の高い半導体装置を提供することができる。
【0042】
上述したように、接着層を130℃で加熱した際の、接着層の初期の溶融粘度は100Pa・s以下であるが、1〜90Pa・sであるのがより好ましく、10〜70Pa・sであるのがさらに好ましい。これにより、本発明の効果をより顕著なものとすることができる。
【0043】
また、上述したように、130℃で30分間加熱した際の、接着層の溶融粘度は1,000Pa・s以上であるが、2,000〜50,000Pa・sであるのがより好ましく、5,000〜20,000Pa・sであるのがさらに好ましい。これにより、本発明の効果をより顕著なものとすることができる。
【0044】
また、上述したように、接着層を130℃で30分間加熱した後の、接着層の175℃における弾性率は1MPa以上であるが、2〜100MPaであるのがより好ましく、5〜50MPaであるのがさらに好ましい。これにより、本発明の効果をより顕著なものとすることができる。
【0045】
接着層3は、例えば、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂と硬化触媒とを含む第3樹脂組成物で構成されている。このような樹脂組成物は、フィルム形成能、接着性および硬化後の耐熱性に優れる。また、ワイヤや基板の凹凸の埋め込み性に特に優れている。
【0046】
このうち、熱可塑性樹脂としては、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のポリイミド系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等のポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でもアクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が低いため接着層3の初期密着性をより向上することができるとともに、ワイヤや基板の凹凸の埋め込み性をさらに向上させることができる。
【0047】
なお、アクリル系樹脂とは、アクリル酸およびその誘導体の重合体および他の単量体との共重合体を意味し、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、アクリルアミド等の重合体および他の単量体との共重合体等が挙げられる。
【0048】
また、アクリル系樹脂の中でもエポキシ基、水酸基、カルボキシル基、ニトリル基等の官能基を持つ化合物(共重合モノマー成分)を有するアクリル系樹脂(特に、アクリル酸エステル共重合体)が好ましい。これにより、半導体素子71等の被着体への密着性をより向上することができる。前記官能基を持つ化合物としては、具体的にはグリシジルエーテル基を持つグリシジルメタクリレート、水酸基を持つヒドロキシメタクリレート、カルボキシル基を持つカルボキシメタクリレート、ニトリル基を持つアクリロニトリル等が挙げられる。
【0049】
また、前記官能基を持つ化合物の配合量は、特に限定されないが、アクリル系樹脂全体の0.5〜40質量%程度であるのが好ましく、特に5〜30質量%程度であるのがより好ましい。配合量が前記下限値未満であると密着性を向上する効果が低下する場合があり、前記上限値を超えると粘着力が強すぎて作業性を向上する効果が低下する場合がある。
【0050】
また、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、特に限定されないが、−25〜120℃であることが好ましく、特に−20〜60℃であることがより好ましく、−10〜50℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が前記下限値未満であると接着層3の粘着力が強くなり作業性が低下する場合があり、前記上限値を超えると低温接着性を向上する効果が低下する場合がある。
【0051】
また、熱可塑性樹脂(特にアクリル系樹脂)の重量平均分子量は、特に限定されないが、10万以上が好ましく、特に15万〜100万が好ましい。重量平均分子量が前記範囲内であると、接着層3の成膜性を向上することができるとともに、ワイヤや基板の凹凸の埋め込み性をさらに向上させることができる。
【0052】
一方、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物を用いるようにしてもよい。また、これらの中でもエポキシ樹脂またはフェノール樹脂が好ましい。これらの樹脂によれば、接着層3の耐熱性および密着性をより向上することができるとともに、より安定して半導体素子71にワイヤボンディングを施すことができる。
【0053】
また、熱硬化性樹脂の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して100〜500質量部程度であるのが好ましく、特に250〜400質量部程度であるのがより好ましい。含有量が前記上限値を上回ると、チッピングやクラックが起こる場合や、密着性を向上する効果が低下するとともに、接着層の保存安定性が低下する場合があり、含有量が前記下限値を下回ると、粘着力が強すぎ、ピックアップ不良が起こる場合や、作業性を向上する効果が低下するとともに、短時間の熱処理で安定して半導体素子71にワイヤボンディングを施すことが困難となる場合がある。
【0054】
また、第3樹脂組成物は、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。これにより、接着層3の埋め込み性を損なうことなく、接着層3の硬化性を向上することができる。
【0055】
硬化触媒としては、例えばイミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン等アミン系触媒、トリフェニルホスフィン等リン系触媒等が挙げられる。これらの中でもイミダゾール類が好ましい。これにより、接着層3の埋め込み性を損なうことなく、速硬化性と保存性の双方に優れたものとなる。
【0056】
イミダゾール類としては、例えば1−ベンジル−2メチルイミダゾール、1−ベンジル−2フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらの中でも2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールまたは2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。これにより、保存性を特に向上することができる。
【0057】
また、硬化触媒の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜30質量部であるのが好ましく、5〜10質量部であるのがより好ましい。これにより、接着層3の埋め込み性を損なうことなく、比較的早くかつ効率よく接着層を硬化させることができ、さらに安定して半導体素子71にワイヤボンディングを施すことができる。
【0058】
また、硬化触媒の平均粒子径は、特に限定されないが、10μm以下であることが好ましく、特に1〜5μmであることがより好ましい。平均粒子径が前記範囲内であると、特に硬化触媒の反応性に優れる。
【0059】
また、第3樹脂組成物は、さらに硬化剤(熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、特に、フェノール系硬化剤)を含有することが好ましい。これにより、接着層3の埋め込み性を損なうことなく、比較的早く接着層を硬化させることができ、より安定して半導体素子71にワイヤボンディングを施すことができる。
【0060】
硬化剤としては、例えばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等の芳香族ポリアミン、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジド等を含むポリアミン化合物等のアミン系硬化剤、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物(液状酸無水物)、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物等の酸無水物系硬化剤、フェノール樹脂等のフェノール系硬化剤が挙げられる。これらの中でもフェノール系硬化剤が好ましく、具体的にはビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン(通称テトラメチルビスフェノールF)、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール(通称ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、およびこれらの内ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタンの3種の混合物(例えば、本州化学工業(株)製、ビスフェノールF−D)等のビスフェノール類、1,2−ベンゼンジオール、1,3−ベンゼンジオール、1,4−ベンゼンジオール等のジヒドロキシベンゼン類、1,2,4−ベンゼントリオール等のトリヒドロキシベンゼン類、1,6−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類の各種異性体、2,2’−ビフェノール、4,4’−ビフェノール等のビフェノール類の各種異性体等の化合物が挙げられる。
【0061】
また、硬化剤(特にフェノール系硬化剤)の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して50〜300質量部であるのが好ましく、特に150〜250質量部であるのがより好ましい。これにより、接着層3の埋め込み性を損なうことなく、比較的早くかつ効率よく接着層を硬化させることができ、さらに安定して半導体素子71にワイヤボンディングを施すことができる。含有量が前記下限値を下回ると、接着層3の耐熱性を向上する効果が低下する場合や接着層3の埋め込み性を損なうとともに、安定して半導体素子71にワイヤボンディングを施すことが困難となる場合があり、含有量が前記上限値を上回ると、接着層3の保存安定性が低下する場合がある。
【0062】
前記硬化剤(特にフェノール系硬化剤)を用いる場合、25℃において固形である硬化剤に加え、25℃において粘度が30Pa・s(30,000cps)以下の液状の硬化剤を併用して用いることが好ましい。さらに25℃において粘度が10Pa・s(10,000cps)以下の液状の硬化剤を含むのが好ましい。前記硬化剤の25℃における粘度が前記規定値以下ものを含有することで、接着層3の埋め込み性を向上させることができる。
【0063】
前記25℃において粘度が30Pa・s(30,000cps)以下の液状の硬化剤の含有量は、特に限定されないが、前記硬化剤全体に対して30〜80質量%であるのが好ましく、40〜70質量%であるのがより好ましい。上記範囲とすることで、接着層3の熱圧着時の濡れ性低下を抑制することができるため、接着層3の埋め込み性を向上することができる。さらに、接着層3のタック性を低減することができるため、作業性を向上することができる。
【0064】
前記25℃において粘度が30Pa・s(30,000cps)以下の液状の硬化剤としては、液状フェノール化合物が挙げられる。具体的には、ビス(モノまたはジt−ブチルフェノール)プロパン、メチレンビス(2−プロペニル)フェノール、プロピレンビス(2−プロペニル)フェノール、ビス[(2−プロペニルオキシ)フェニル]メタン、ビス[(2−プロペニルオキシ)フェニル]プロパン、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−−(2−プロペニル)フェノール]、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−(1−フェニルエチル)フェノール]、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−メチル−6−ヒドロキシメチルフェノール]、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−メチル−6−(2−プロペニル)フェノール]、4,4'−(1−メチルテトラデシリデン)ビスフェノールが挙げられる。これらの液状フェノール化合物粘度は核体数nやベンゼン環置換基の種類により制御することができる。
【0065】
前記液状フェノール化合物としては、アリルフェノールとホルムアルデヒドを重合したものが好ましく、式(2)で表される2−(2-プロぺニル)フェノールとホルムアルデヒドの重縮合物が特に好ましい。
【0066】
【化1】

(式中、p、q、rは1〜3の整数を表す。R1、R2、R3はアリル基を表す。)
【0067】
また、前述した熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合は、エポキシ樹脂と硬化剤の当量比を計算して決めることができ、エポキシ樹脂のエポキシ基数と硬化剤の官能基数(例えばフェノール樹脂であればフェノール性水酸基数)との比が0.5〜1.5であることが好ましく、特に0.7〜1.3であることが好ましい。含有量が前記下限値未満であると保存安定性が低下する場合があり、前記上限値を超えると耐熱性を向上する効果が低下する場合がある。
【0068】
また、第3樹脂組成物は、特に限定されないが、さらにカップリング剤を含むことが好ましい。これにより、樹脂と被着体および樹脂界面の密着性をより向上させることができる。
【0069】
前記カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらの中でもシラン系カップリング剤が好ましい。これにより、耐熱性をより向上することができる。
【0070】
このうち、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンなどが挙げられる。
【0071】
カップリング剤の含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜10質量部程度であるのがより好ましい。含有量が前記下限値未満であると密着性の効果が不十分である場合があり、前記上限値を超えるとアウトガスやボイドの原因になる場合がある。
【0072】
接着層3を成膜するにあたっては、このような第3樹脂組成物を、例えばメチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアルデヒド等の溶剤に溶解して、ワニスの状態にした後、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いてキャリアフィルムに塗工し、乾燥することで接着層3を得ることができる。
【0073】
接着層3の平均厚さは、特に限定されないが、3〜100μm程度であるのが好ましく、特に5〜70μm程度であるのがより好ましい。厚さが前記範囲内であると、特に厚さ精度の制御を容易にできる。
【0074】
また、第3樹脂組成物は、必要に応じてフィラーを含有していてもよい。フィラーを含むことにより、接着層3の機械的特性および接着力の向上を図ることができる。
【0075】
このフィラーとしては、例えば銀、酸化チタン、シリカ、マイカ等の粒子が挙げられる。
【0076】
また、フィラーの平均粒径は、0.1〜25μm程度であることが好ましい。平均粒径が前記下限値未満であるとフィラー添加の効果が少なくなり、前記上限値を超えるとフィルムとしての接着力の低下をもたらす可能性がある。
【0077】
フィラーの含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1〜100質量部程度であるのが好ましく、特に5〜90質量部程度であるのがより好ましい。これにより、接着層3の機械的特性を高めつつ、接着力をより高めることができる。
【0078】
(支持フィルム)
支持フィルム4は、以上のような第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3を支持する支持体である。
【0079】
このような支持フィルム4の構成材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、エチレン酢ビ共重合体、アイオノマー、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ビニルポリイソプレン、ポリカーボネート等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が挙げられる。
【0080】
支持フィルム4の平均厚さは、特に限定されないが、5〜200μm程度であるのが好ましく、30〜150μm程度であるのがより好ましい。これにより、支持フィルム4は、適度な剛性を有するものとなるため、第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3を確実に支持して、半導体用フィルム10の取扱いを容易にするとともに、半導体用フィルム10が適度に湾曲することで、半導体ウエハー7との密着性を高めることができる。
【0081】
(半導体用フィルムの特性)
第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3は、それぞれ異なる密着力(粘着力)を有しているが、それらは以下のような特性を有していることが好ましい。
【0082】
まず、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、第2粘着層2の支持フィルム4に対する密着力よりも小さいことが好ましい。これにより、後述する第3の工程において、個片83をピックアップした際に、第2粘着層2との支持フィルム4との間は剥離することなく、接着層3と第1粘着層1との間が選択的に剥離する。そして、ダイシングの際には、ウエハーリング9により積層体8を確実に支持し続けることができる。
【0083】
すなわち、本実施形態では、第1粘着層1および第2粘着層2の2層の粘着層を用いているため、それぞれの密着力(粘着力)を異ならせることで、上記のように、積層体8の確実な固定と個片83の容易なピックアップとを両立させることが可能になる。換言すれば、ダイシング性とピックアップ性の両立を図ることができる。
【0084】
なお、第1粘着層1の接着層3に対する密着力や第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力は、それぞれ、前述したアクリル系樹脂等の種類(組成)、モノマー等の種類、含有量、硬度等を変化させることで調整することができる。
【0085】
また、ダイシング前における第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、特に限定されないが、密着界面の平均で4〜32N/m程度であるのが好ましく、特に12〜24N/m程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、後述するように積層体8を引き伸ばしたり(エキスパンド)、積層体8をダイシングした際に、半導体素子71が第1粘着層1から脱落する等の不具合が防止されるとともに、優れたピックアップ性が確保される。
【0086】
なお、上記密着力の単位である「N/m」は、第1粘着層1の表面に接着層3を貼り付けたサンプルを25mm幅の短冊状にし、その後、23℃(室温)において、この積層フィルムにおいて接着層部分を剥離角180°でかつ引っ張り速度1,000mm/minで引き剥がしたときの荷重(単位N)を1m幅当たりに換算した(1,000mm/25mm=40倍した)値である。すなわち、ここでは、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、180°ピール強度として説明する。
【0087】
上記のような特性を有する第1粘着層1の組成としては、例えば、アクリル系樹脂100質量部に対して、アクリレートモノマー1〜50質量部と、イソシアネート化合物0.1〜10質量部とを配合したものが挙げられる。
【0088】
一方、第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力は、特に限定されないが、密着界面の平均で40〜800N/m程度であるのが好ましく、特に160〜480N/m程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、後述するように積層体8を引き伸ばしたり(エキスパンド)、積層体8をダイシングした際に、第1粘着層1と第2粘着層2との界面の剥離が防止され、結果として半導体素子71の脱落等が確実に防止される。また、ウエハーリング9により積層体8を確実に支持することができる。
【0089】
なお、上記密着力の単位である「N/m」は、ウエハーリング9の上面に第2粘着層2が接するように、25mm幅の短冊状の第2粘着層2を積層した支持フィルム4を23℃(室温)で貼り付け、その後、23℃(室温)において、この粘着フィルムを、剥離角180°でかつ引っ張り速度1,000mm/minで引き剥がしたときの荷重(単位N)を1m幅当たりに換算した(1,000mm/25mm=40倍した)値である。すなわち、ここでは、第2粘着層2のウエハーリング9に対する密着力は、180°ピール強度として説明する。
【0090】
上記のような特性を有する第2粘着層2の組成としては、例えば、アクリル系樹脂100質量部に対して、ウレタンアクリレート1〜50質量部と、イソシアネート化合物0.5〜10質量部とを配合したものが挙げられる。
【0091】
なお、第1粘着層1の接着層3に対する密着力をAとし、第2粘着層2の第1粘着層1に対する密着力をAとしたとき、A/Aは、特に限定されないが、5〜200程度であるのが好ましく、10〜50程度であるのがより好ましい。これにより、第1粘着層1、第2粘着層2および接着層3は、ダイシング性およびピックアップ性において特に優れたものとなる。
【0092】
また、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、接着層3の半導体ウエハー7に対する密着力よりも小さいことが好ましい。これにより、個片83をピックアップした際に、半導体ウエハー7と接着層3との界面が不本意にも剥離してしまうのを防止することができる。すなわち、第1粘着層1と接着層3との界面で選択的に剥離を生じさせることができる。
【0093】
なお、接着層3の半導体ウエハー7に対する密着力は、特に限定されないが、20〜200N/m程度であるのが好ましく、特に32〜100N/m程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、特にダイシング時に振動や衝撃で半導体素子71が飛んで脱落する、いわゆる「チップ飛び」の発生を十分に防止することができる。
【0094】
また、第1粘着層1の接着層3に対する密着力は、第1粘着層1の第2粘着層2に対する密着力よりも小さいことが好ましい。これにより、個片83をピックアップした際に、第1粘着層1と第2粘着層2との界面が不本意にも剥離してしまうのを防止することができる。すなわち、第1粘着層1と接着層3との界面で選択的に剥離を生じさせることができる。
【0095】
なお、第1粘着層1の第2粘着層2に対する密着力は、特に限定されないが、40〜400N/m程度であるのが好ましく、特に120〜240N/m程度であるのがより好ましい。密着力が前記範囲内であると、特にダイシング性やピックアップ性に優れる。
【0096】
(半導体用フィルムの製造方法)
以上説明したような半導体用フィルム10は、例えば以下のような方法で製造される。
【0097】
まず、図4(a)に示す基材4aを用意し、この基材4aの一方の面上に第1粘着層1を成膜する。これにより、基材4aと第1粘着層1との積層体61を得る。第1粘着層1の成膜は、前述した第1樹脂組成物を含む樹脂ワニスを各種塗布法等により塗布し、その後塗布膜を乾燥させる方法や、第1樹脂組成物からなるフィルムをラミネートする方法等により行うことができる。また、紫外線等の放射線を照射することにより、塗布膜を硬化させるようにしてもよい。
【0098】
上記塗布法としては、例えば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0099】
また、積層体61と同様にして、図4(a)に示すように、用意した基材4bの一方の面上に接着層3を成膜し、これにより、基材4bと接着層3との積層体62を得る。
【0100】
さらに、各積層体61、62と同様にして、図4(a)に示すように、用意した支持フィルム4の一方の面上に第2粘着層2を成膜し、これにより、支持フィルム4と第2粘着層2との積層体63を得る。
【0101】
次いで、図4(b)に示すように、第1粘着層1と接着層3とが接するように積層体61と積層体62とを積層し、積層体64を得る。この積層は、例えばロールラミネート法等により行うことができる。
【0102】
次いで、図4(c)に示すように、積層体64から基材4aを剥離する。そして、図4(d)に示すように、前記基材4aを剥離した積層体64に対して、基材4bを残して、前記接着層3および前記第1粘着層1の有効領域の外側部分をリング状に除去する。ここで、有効領域とは、その外周が、半導体ウエハー7の外径よりも大きく、かつ、ウエハーリング9の内径よりも小さい領域を指す。
【0103】
次いで、図4(e)に示すように、第1粘着層1の露出面に第2粘着層2が接するように、基材4aを剥離し有効領域の外側部分をリング状に除去した積層体64と積層体63を積層する。その後、基材4bを剥離することにより、図4(f)に示す半導体用フィルム10が得られる。
【0104】
[半導体装置の製造方法]
次に、上述したような半導体用フィルム10を用いて半導体装置100を製造する方法について説明する。
【0105】
図1〜図3に示す半導体装置の製造方法は、半導体ウエハー7と半導体用フィルム10とを積層し、積層体8を得る第1の工程と、半導体用フィルム10の外周部21をウエハーリング9に貼り付けた状態で、半導体ウエハー7側から積層体8に切り込み81を設ける(ダイシングする)ことにより、半導体ウエハー7および接着層3を個片化し、半導体素子71および接着層31からなる複数の個片83を得る第2の工程と、個片83の少なくとも1つをピックアップする第3の工程と、ピックアップされた個片83を絶縁基板5上に載置する第4の工程と、絶縁基板5上に載置した個片83(半導体素子71)上にさらに個片83を載置する第5の工程と、を有する。以下、各工程について順次詳述する。
【0106】
[1]
[1−1]まず、半導体ウエハー7および半導体用フィルム10を用意する。
【0107】
半導体ウエハー7は、あらかじめ、その表面に複数個分の回路が形成されたものである。かかる半導体ウエハー7としては、シリコンウエハーの他、ガリウムヒ素、窒化ガリウムのような化合物半導体ウエハー等が挙げられる。
【0108】
このような半導体ウエハー7の平均厚さは、特に限定されず、好ましくは0.01〜1mm程度、より好ましくは0.03〜0.5mm程度とされる。当該半導体装置の製造方法によれば、このような厚さの半導体ウエハー7に対して欠けや割れ等の不具合を生じさせることなく、簡単かつ確実に切断して個片化することができる。
【0109】
[1−2]次に、図1(a)に示すように、上述したような半導体用フィルム10の接着層3と、半導体ウエハー7とを密着させつつ、半導体用フィルム10と半導体ウエハー7とを積層する(第1の工程)。なお、図1に示す半導体用フィルム10では、接着層3の平面視における大きさおよび形状が、半導体ウエハー7の外径よりも大きく、かつ、ウエハーリング9の内径よりも小さい形状に、あらかじめ設定されている。このため、半導体ウエハー7の下面全体が接着層3の上面全体と密着し、これにより半導体ウエハー7が半導体用フィルム10で支持されることとなる。
【0110】
上記積層の結果、図1(b)に示すように、半導体用フィルム10と半導体ウエハー7とが積層されてなる積層体8が得られる。
【0111】
[2]
[2−1]次に、ウエハーリング9を用意する。続いて、第2粘着層2の外周部21の上面とウエハーリング9の下面とが密着するように、積層体8とウエハーリング9とを積層する。これにより、積層体8の外周部がウエハーリング9により支持される。
【0112】
ウエハーリング9は、一般にステンレス鋼、アルミニウム等の各種金属材料等で構成されるため、剛性が高く、積層体8の変形を確実に防止することができる。
【0113】
半導体用フィルム10が上述したように粘着性の異なる2層の粘着層(第1粘着層1および第2粘着層2)を有していることにより、これらの粘着性の違いを利用して、ダイシング性とピックアップ性の両立を図ることができる。
【0114】
[2−2]次に、図示しないダイサーテーブルを用意し、ダイサーテーブルと支持フィルム4とが接触するように、ダイサーテーブル上に積層体8を載置する。
【0115】
続いて、図1(c)に示すように、ダイシングブレード82を用いて積層体8に複数の切り込み81を形成する(ダイシング)。ダイシングブレード82は、円盤状のダイヤモンドブレード等で構成されており、これを回転させつつ積層体8の半導体ウエハー7側の面に押し当てることで切り込み81が形成される。そして、半導体ウエハー7に形成された回路パターン同士の間隙に沿って、ダイシングブレード82を相対的に移動させることにより、半導体ウエハー7が複数の半導体素子71に個片化される(第2の工程)。また、接着層3も同様に、複数の接着層31に個片化される。このようなダイシングの際には、半導体ウエハー7に振動や衝撃が加わるが、半導体ウエハー7の下面が半導体用フィルム10で支持されているため、上記の振動や衝撃が緩和されることとなる。その結果、半導体ウエハー7における割れや欠け等の不具合の発生を確実に防止することができる。
【0116】
切り込み81の深さは、半導体ウエハー7と接着層3とを貫通し得る深さであれば特に限定されない。すなわち、切り込み81の先端は、第1粘着層1、第2粘着層2および支持フィルム4のいずれかに達していればよい。これにより、半導体ウエハー7と接着層3とが確実に個片化され、それぞれ半導体素子71と接着層31とが形成されることとなる。
【0117】
なお、本実施形態では、図1(c)に示すように、切り込み81の先端が支持フィルム4にまで達している場合を例に説明する。このように先端が支持フィルム4に達するように切り込み81を設けるようにした場合、支持フィルム4の厚さは第1粘着層1や第2粘着層2の厚さに比べて十分に厚いため、ダイシングブレード82の上下方向の位置精度と、切り込み81の深さのバラつきとを考慮した場合、製造容易性を高めることができる。換言すれば、先端を第1粘着層1内または第2粘着層2内に留めるように切り込み81を形成するには、ダイシングブレード82の上下方向の位置を厳密に制御する必要があり、製造効率が低下するおそれがある。
【0118】
[3]
[3−1]次に、複数の切り込み81が形成された積層体8を、図示しないエキスパンド装置により、放射状に引き伸ばす(エキスパンド)。これにより、図1(d)に示すように、積層体8に形成された切り込み81の幅が広がり、それに伴って個片化された半導体素子71同士の間隔も拡大する。その結果、半導体素子71同士が干渉し合うおそれがなくなり、個々の半導体素子71をピックアップし易くなる。なお、エキスパンド装置は、このようなエキスパンド状態を後述する工程においても維持し得るよう構成されている。
【0119】
[3−2]次に、図示しないダイボンダにより、個片化された半導体素子71のうちの1つを、ダイボンダのコレット(チップ吸着部)で吸着するとともに上方に引き上げる。その結果、図2(e)に示すように、接着層31と第1粘着層1との界面が選択的に剥離し、半導体素子71と接着層31とが積層されてなる個片83がピックアップされる(第3の工程)。
【0120】
なお、接着層31と第1粘着層1との界面が選択的に剥離する理由は、前述したように、第2粘着層2の粘着性が第1粘着層1の粘着性より高いため、支持フィルム4と第2粘着層2との界面の密着力、および、第2粘着層2の第1粘着層1との界面の密着力は、第1粘着層1と接着層3との密着力より大きいからである。すなわち、半導体素子71を上方にピックアップした場合、これらの3箇所のうち、最も密着力の小さい第1粘着層1と接着層3との界面が選択的に剥離することとなる。
【0121】
また、個片83をピックアップする際には、半導体用フィルム10の下方から、ピックアップすべき個片83を選択的に突き上げるようにしてもよい。これにより、積層体8から個片83が突き上げられるため、前述した個片83のピックアップをより容易に行うことができるようになる。なお、個片83の突き上げには、半導体用フィルム10を下方から突き上げる針状体(ニードル)等が用いられる。
【0122】
[4]
[4−1]次に、半導体素子71(チップ)を搭載(マウント)するための絶縁基板5を用意する。
【0123】
この絶縁基板5としては、半導体素子71を搭載し、半導体素子71と外部とを電気的に接続するための配線や端子等を備えた絶縁性を有する基板が挙げられる。
【0124】
具体的には、ポリエステル銅張フィルム基板、ポリイミド銅張フィルム基板、アラミド銅張フィルム基板等の可撓性基板や、ガラス布・エポキシ銅張積層板等のガラス基材銅張積層板、ガラス不織布・エポキシ銅張積層板等のコンポジット銅張積層板、ポリエーテルイミド樹脂基板、ポリエーテルケトン樹脂基板、ポリサルフォン系樹脂基板等の耐熱・熱可塑性基板といった硬質性基板の他、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、炭化ケイ素基板等のセラミックス基板、ビスマレイミド−トリアジン(BT)基板などが挙げられる。
なお、絶縁基板5に代えて、リードフレーム等を用いるようにしてもよい。
【0125】
次いで、図2(f)に示すように、ピックアップされた個片83を、絶縁基板5上に載置する。
【0126】
[4−2]次に、図2(g)に示すように、絶縁基板5上に載置された個片83を加熱・圧着する。これにより、接着層31を介して半導体素子71と絶縁基板5とが接着(ダイボンディング)される(第4の工程)。
【0127】
加熱・圧着の条件としては、例えば加熱温度は100〜300℃程度であるのが好ましく、100〜200℃程度であるのがより好ましい。また、圧着時間は1〜10秒程度であるのが好ましく、1〜5秒程度であるのがより好ましい。
【0128】
また、その後に加熱処理を施してもよい。この場合の加熱条件は、加熱温度が好ましくは100〜300℃程度、より好ましくは150〜250℃程度とされ、加熱時間が好ましくは1〜240分程度、より好ましくは10〜60分程度とされる。
【0129】
その後、図2(h)に示すように、半導体素子71の端子(図示せず)と絶縁基板5上の端子(図示せず)とをワイヤ84により電気的に接続する。なお、この接続には、ワイヤ84に代えて、導電性ペースト、導電性フィルム等を用いるようにしてもよい。
【0130】
[4−3]次に、上記[3−2]と同様にして個片83をピックアップし、図3(i)に示すように、個片83を絶縁基板5上に接着された個片83(半導体素子71)上に載置した後、上記[4−2]と同様にして半導体素子71上に載置された個片83を加熱・圧着する。これにより、接着層31を介して半導体素子71と半導体素子71とが接着(ダイボンディング)される(第4の工程)。
【0131】
その後、上記[4−2]と同様にして、図3(i)に示すように、積層した半導体素子71の端子(図示せず)と絶縁基板5上の端子(図示せず)とをワイヤ84により電気的に接続する。
【0132】
そして、絶縁基板5上に載置された各個片83および各ワイヤ84を樹脂材料で被覆し、モールド層85を形成する。このモールド層85を構成する樹脂材料としては、エポキシ系樹脂等の各種モールド樹脂が挙げられる。
【0133】
さらに、絶縁基板5の下面に設けられた端子(図示せず)にボール状電極86を接合することにより、半導体素子71をパッケージ内に収納してなる図3(j)に示すような半導体装置100(本発明の半導体装置)が得られる。
【0134】
以上のような方法によれば、第3の工程において、半導体素子71に接着層31が付着した状態、すなわち個片83の状態でピックアップされることから、第4、第5の工程において、この接着層31をそのまま絶縁基板5との接着に利用することができる。このため、別途接着剤等を用意する必要がなく、半導体装置100の製造効率をより高めることができる。
【0135】
また、接着層31は埋め込み性が高いため、ワイヤ84を確実に接着層31内に埋め込むことができ、さらに、硬化性が硬いため、さらなるワイヤボンディングを安定して施すことができる。
【0136】
また、絶縁基板5と半導体素子71との間の接着層31は、半導体素子71と半導体素子71との間の接着層31と同じ組成であってもよいが、半導体素子71と半導体素子71との間の接着層31と違う組成であってもよい。これにより絶縁基板5に対してより安定的に接着させることができる。また厚みについても半導体素子71と半導体素子71との間の接着層31よりさらに薄いものが好ましい。これにより、半導体装置100の厚みを薄くすることができる。
【0137】
以上、本発明の半導体用フィルムおよび半導体装置の製造方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0138】
例えば、パッケージの形態は、BGA(Ball Grid Array)、LGA(Land Grid Array)等のCSP(Chip Size Package)、TCP(Tape Carrier Package)のような表面実装型のパッケージ、DIP(Dual Inline Package)、PGA(Pin Grid Array)のような挿入型のパッケージ等であってもよく、特に限定されない。
【0139】
また、前記各実施形態では、絶縁基板5上に個片83をマウントする場合について説明したが、この個片83は、別の半導体素子上にマウントするようにしてもよい。すなわち、当該半導体装置の製造方法は、複数の半導体素子を積層してなるチップスタック型の半導体装置を製造する場合にも適用することができる。これにより、半導体素子間に削り屑等が侵入するおそれがなくなり、信頼性の高いチップスタック型の半導体装置を高い製造歩留まりで製造することができる。
【0140】
なお、本発明の半導体用フィルムをダイシングに供するにあたっては、半導体ウエハー7および接着層3を個片化し得る切り込み81が形成されていれば、切り込み81の深さは特に限定されない。
【0141】
また、上述した実施形態では、粘着層が第1粘着層および第2粘着層の2層で構成されたものとして説明したが、これに限定されず、1層のみで構成されていてもよいし、3層以上で構成されたものであってもよい。
【0142】
また、上記半導体装置の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
【実施例】
【0143】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
1.半導体用フィルムの製造
(実施例1)
<1>第1粘着層の形成
アクリル酸2−エチルヘキシル30質量%と酢酸ビニル70質量%とを共重合して得られた重量平均分子量300,000のベース樹脂としての共重合体100質量部と、エネルギー線硬化性樹脂としての、分子量が700の5官能アクリレートモノマー45質量部と、エネルギー線硬化開始剤としての2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン5質量部と、トリレンジイソシアネート(コロネートT−100、日本ポリウレタン工業(株)製)3質量部と、を剥離処理した厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに対して、乾燥後の厚さが10μmになるように塗布し、その後、80℃で5分間乾燥した。そして、得られた塗布膜に対して紫外線500mJ/cmを照射し、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に第1粘着層を成膜した。
【0144】
<2>第2粘着層の形成
アクリル酸ブチル70質量%とアクリル酸2−エチルヘキシル30質量%とを共重合して得られた重量平均分子量500,000の共重合体100質量部と、トリレンジイソシアネート(コロネートT−100、日本ポリウレタン工業(株)製)3質量部と、を剥離処理した厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに対して、乾燥後の厚さが10μmになるように塗布し、その後、80℃で5分間乾燥した。そして、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に第2粘着層を成膜した。その後、支持フィルムとして厚さ100μmのポリエチレンシートをラミネートした。
【0145】
<3>接着層の形成
アクリル酸エステル共重合体(エチルアクリレート−ブチルアクリレート−アクリロニトリル−アクリル酸−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体のメチルエチルケトン(MEK)溶解品、ナガセケムテックス(株)製、SG−708−6、Tg:6℃、重量平均分子量:500,000)の固形成分で100質量部と、エポキシ樹脂(EPICLON−N−685−EXP−S、エポキシ基当量205g/eq、軟化点85℃、DIC(株)社製)346質量部と、カップリング剤として添加されるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403E、信越化学工業(株)製)1.0質量部と、フェノール樹脂(PR−HF−3、水酸基当量104g/OH基、軟化点80℃、住友ベークライト(株)製)86質量部と、液状のフェノール樹脂(MEH8000H、水酸基当量141g/OH基、明和化成工業(株)製)129質量部と、硬化触媒としてイミダゾール化合物(2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(商品名:2PHZ−PW、四国化成工業(株)製))5.7質量部とを、メチルエチルケトンに溶解して、樹脂固形分49質量%の樹脂ワニスを得た。
【0146】
次に、得られた樹脂ワニスを、コンマコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製、品番ピューレックスA43、厚さ38μm)に塗布した後、温度140℃で3分間乾燥して、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚さ60μmの接着層を成膜した。
【0147】
<4>半導体用フィルムの製造
第1粘着層を成膜したフィルムと、接着層を成膜したフィルムとを、第1粘着層と接着層とが接するようにラミネート(積層)し、第1粘着層側のポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離して、積層体を得た。
【0148】
次にロール状の金型を用いて、第1粘着層と接着層を半導体ウエハーの外径よりも大きく、かつウエハーリングの内径よりも小さく打ち抜き、その後不要部分を除去して、第2積層体を得た。
【0149】
さらに第2粘着層の一方の面側にあるポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離する。そして前記第2積層体の第1粘着層と第2粘着層とが接するように、これらを積層した。これにより、ポリエチレンシート(支持フィルム)、第2粘着層、第1粘着層、接着層およびポリエチレンテレフタレートフィルムの5層がこの順で積層してなる半導体用フィルムを得た。
【0150】
(実施例2〜5)
接着層を構成する第3樹脂組成物として表1に示す構成のものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして半導体用フィルムを作製した。
【0151】
なお実施例5はイミダゾール化合物として、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(商品名:2P4MHZ−PW、四国化成工業(株)製)を使用した。
【0152】
(比較例1〜6)
接着層を構成する第3樹脂組成物として表1に示す構成のものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして半導体用フィルムを作製した。
【0153】
なお比較例5はイミダゾール化合物として、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール(商品名:2PZ−CN、四国化成工業(株)製)を使用した。
【0154】
以上の各実施例および各比較例における、接着層を構成する第3樹脂組成物の組成、接着層を130℃で加熱した際の接着層の初期の溶融粘度、接着層を130℃で30分間加熱した際の接着層の溶融粘度、接着層を130℃で30分間加熱した後の、前記接着層の175℃における弾性率、初期硬化発熱量(mJ/mg)に対する、50℃で1日加熱した後の硬化発熱量の比、プローブタック法によって測定されるタック値を表1に示した。
なお、各溶融粘度および弾性率は、以下のようにして測定した。
【0155】
(溶融粘度)
接着層を100μmの厚みになるように数枚重ねたものをサンプルとし、(株)HAAKE社製、レオストレスRS−150を用い、30〜250℃の温度範囲にて、昇温速度10℃/分で、周波数1Hz、ひずみ0.05のずりせん断を与えて測定し、得られた複素粘性率|η*|の値を溶融粘度とした。
【0156】
(弾性率)
接着層を幅4mmの短冊状にカッターナイフで切り出し、粘弾性測定装置(RSA−III、TAインスツルメンツ社製)にて30〜300℃温度範囲にて、周波数10Hz、昇温速度5℃/minにて測定し、得られた175℃での引張貯蔵弾性率E’の値を175℃における弾性率とした。
【0157】
【表1】

【0158】
2.保存安定性および作業性の評価
(保存安定性)
得られた接着層の保存安定性は、加速試験として接着フィルムを50℃で1日間処理した後の硬化発熱量を測定し、初期硬化発熱量(mJ/mg)に対する保存処理後の硬化発熱量(mJ/mg)の百分率を求め、以下の4段階の基準に従い評価した。単位は%。この値が100%に近いほど保存安定性が高いことを示す。
【0159】
硬化発熱量の測定は、示差走査熱量計(DSC)(セイコーインスツル(株)製、DSC6200)を用い、測定範囲30〜300℃、昇温速度10℃/minにて行った。
【0160】
◎:硬化発熱量の比の百分率が、90%以上であった。
○:硬化発熱量の比の百分率が、70%以上〜90%未満であった。
△:硬化発熱量の比の百分率が、50%以上〜70%未満であった。
×:硬化発熱量の比の百分率が、50%未満であった。
【0161】
(作業性(タックの有無))
得られた接着層の作業性は、プローブタック法にてタックの有無を以下の4段階の基準に従い評価した。各符号は、以下の通りである。
【0162】
◎:タック無し(0gf/5mmφ以上20gf/5mmφよりも小さい)
○:タック若干有るが、実用上問題なし(20gf/5mmφ以上50gf/5mmφよりも小さい)
△:タック若干有り、実用上使用不可(50gf/5mmφ以上100gf/5mmφよりも小さい)
×:タック有り(100gf/5mmφ以上)
これらの結果を表2に示した。
【0163】
3.半導体装置の製造
まず、厚さ100μm、8インチのシリコンウエハーを用意した。
【0164】
そして、各実施例および各比較例の半導体用フィルムからポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、その剥離面にシリコンウエハーを60℃で積層した。これにより、半導体用フィルムおよびシリコンウエハーの5層がこの順で積層してなる積層体を得た。
【0165】
次いで、この積層体をシリコンウエハー側から、ダイシングソー(DFD6360、(株)ディスコ製)を用いて以下の条件でダイシング(切断)した。これにより、シリコンウエハーが個片化され、以下のダイシングサイズの半導体素子を得た。
【0166】
<ダイシング条件>
・ダイシングサイズ :10mm×10mm角
・ダイシング速度 :50mm/sec
・スピンドル回転数 :40,000rpm
・ダイシング最大深さ :0.175mm(シリコンウエハーの表面からの切り込み量)
・ダイシングブレードの厚さ:15μm
・切り込みの横断面積 :22.5×10−5mm(接着層と第1粘着層との界面より先端側の部分の横断面積)
なお、このダイシングにより形成された切り込みは、その先端が第1粘着層内に達していた。
【0167】
次いで、半導体素子の1つを半導体用フィルムの裏面からニードルで突き上げ、突き上げた半導体素子の表面をダイボンダのコレットで吸着しつつ上方に引き上げた。これにより、半導体素子と接着層の個片をピックアップした。
【0168】
次に、ピックアップした個片を、ソルダーレジスト(太陽インキ製造(株)製、商品名:AUS308)をコーティングしたビスマレイミド−トリアジン樹脂基板(回路段差5〜10μm)に、温度130℃、荷重5Nで、1.0秒間圧着して、ダイボンディングした。
【0169】
次いで、半導体素子と樹脂基板とを0.025mmφの金線にてワイヤボンディングにより電気的に接続した。
【0170】
次いで、さらに、半導体素子と接着層の個片をピックアップし、ピックアップした個片を、ワイヤボンディングを施した半導体素子上に温度130℃、荷重5Nで、1.0秒間圧着して、ダイボンディングした。
【0171】
次いで、積層した半導体素子と樹脂基板とを0.025mmφの金線にてワイヤボンディングにより電気的に接続した。
【0172】
そして、樹脂基板上の半導体素子およびボンディングワイヤを、封止樹脂EME−G760で封止し、温度175℃で2時間の熱処理に供した。これにより、封止樹脂を硬化させて半導体装置を得た。
【0173】
4.埋め込み性の評価
各実施例および各比較例で製造した半導体装置において、第2半導体素子をマウント後の半導体装置の側面よりワイヤが接着フィルム内を貫通しているか、SEMにより観察し、以下の基準に従い評価した。
【0174】
◎:接着フィルム中へワイヤが貫通している。
×:接着フィルムがワイヤを変形させている。またはワイヤが接着フィルム内を貫通していない。
【0175】
5.ワイヤボンディングの安定接続性
各実施例および各比較例で製造した半導体装置において、第2半導体素子上にワイヤが接続されているか第2半導体素子とワイヤ間のボール接合部の接合強度にて評価した。ボール接合部の接合強度については、アルミ電極の2μm上方で冶具を平行移動させてせん断破断強度を読み取るシェアテスト法で、10本の破断荷重(シェア強度)を測定し、その平均値にて以下の4段階の基準に従い評価した。
【0176】
◎:シェア強度20gf以上
○:シェア強度15gf以上20gf未満
△:シェア強度10gf以上15gf未満
×:シェア強度10gf未満、もしくはワイヤボンディングの衝撃で第2半導体素子が移動してしまったもの。
これらの結果を表2に合わせて示した。
【0177】
【表2】

【0178】
表2からもわかるように、本発明の半導体用フィルムでは、基板の凹凸やワイヤの埋め込み性が高かった。また、本発明の半導体用フィルムでは、安定してワイヤボンディングすることが可能であった。
これに対して、比較例の半導体用フィルムでは、満足行く結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0179】
1 第1粘着層
11 外周縁
2 第2粘着層
21 外周部
3、31 接着層
4 支持フィルム
41 外周部
4a、4b 基材
5 絶縁基板
61〜64 積層体
7 半導体ウエハー
71 半導体素子
8 積層体
81 切り込み
82 ダイシングブレード
83 個片
84 ワイヤ
85 モールド層
86 ボール状電極
9 ウエハーリング
10 半導体用フィルム
100 半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層と少なくとも1層の粘着層と支持フィルムとがこの順で積層されてなり、前記接着層の前記粘着層と反対側の面に半導体ウエハーを積層させ、この状態で該半導体ウエハーおよび前記接着層を切断してそれぞれ個片化し、得られた個片をピックアップする際に用いる半導体用フィルムであって、
前記接着層を130℃で加熱した際の、前記接着層の初期の溶融粘度が100Pa・s以下であり、
前記接着層を130℃で30分間加熱した際の、前記接着層の溶融粘度が1,000Pa・s以上であり、
前記接着層を130℃で30分間加熱した後の、前記接着層の175℃における弾性率が1MPa以上であることを特徴とする半導体用フィルム。
【請求項2】
前記接着層は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂と硬化触媒とを含む樹脂組成物で構成される請求項1に記載の半導体用フィルム。
【請求項3】
前記硬化触媒の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜30質量部である請求項2に記載の半導体用フィルム。
【請求項4】
前記硬化触媒は、イミダゾール化合物を含むものである請求項2または3に記載の半導体用フィルム。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂である請求項2ないし4のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂および/またはフェノール樹脂である請求項2ないし5のいずれかに記載の半導体用フィルム。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の半導体用フィルムを用いて半導体素子と基板または半導体素子と半導体素子とが接合されていることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−89630(P2012−89630A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233966(P2010−233966)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】