説明

半導体発光デバイス及び半導体発光デバイスの製造方法

【課題】キャップ層表面でのひび割れの発生を抑制することが可能な、半導体発光デバイス及び半導体発光デバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る半導体発光デバイスは、所定の基板上に形成されたバッファ層と、バッファ層上に形成されたn型窒化物半導体層と、n型窒化物半導体層上の一部に形成された量子井戸層と、量子井戸層上に形成された、p−GaNからなるp型窒化物半導体層と、p型窒化物半導体層上に形成された、p−InGaNからなるキャップ層と、キャップ層上、及び、量子井戸層の形成されていないn型窒化物半導体層上にそれぞれ形成されたコンタクト電極と、を備える。本発明に係る半導体発光デバイスのキャップ層では、当該キャップ層とp型窒化物半導体層との間の界面からコンタクト電極の形成された側の面に向かうにつれて、キャップ層に含まれるInの割合が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光デバイス及び半導体発光デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の半導体を用いたLED素子等の半導体発光デバイスにおいて、デバイス構造の一部として形成されたp−GaN(窒化ガリウム)層とコンタクト電極との間にInGaN(窒化インジウムガリウム)キャップ層を形成する技術が提案されている(例えば、以下の非特許文献1を参照。)。
【0003】
このようなInGaNキャップ層を形成することで、p−GaNのバンド構造が曲がることとなり(バンドベンディング)、コンタクト抵抗を低減させることができる。その結果、上記非特許文献1に記載の技術では、p−GaN層とコンタクト電極との間のオーミックコンタクトを確立することが可能となる。
【0004】
上記のようなコンタクト電極を含む半導体デバイスの製造方法について、図4を参照しながら簡単に説明する。図4は、従来の半導体デバイスの製造方法の流れを説明するための説明図である。
【0005】
従来の半導体デバイスの作製方法では、図4(a)に示したように、まず、シリコン(Si)やサファイア等の基板901上に、バッファ層903、n−GaN層905、量子井戸層907、p−GaN層909及びp−InGaN層911を、順に成長させる。各層を成長させるための方法としては、例えば、有機金属化学気相成長法(Metal−Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)や、分子線結晶成長法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)等といった各種の結晶成長法を利用する。
【0006】
次に、図4(b)に示したように、誘導結合プラズマイオンエッチング(Inductive Coupled Plasma−Reactive Ion Etching:ICP−RIE)等のようなドライエッチング法を利用して、p−InGaNコンタクト電極913を設置する位置以外のp−InGaN層を除去する。その後、残存したp−InGaN層上に、電子ビーム蒸着やスパッタ蒸着等の蒸着法により、p−InGaNコンタクト電極913を蒸着する。
【0007】
続いて、図4(c)に示したように、n−GaNコンタクト電極915を形成する部分に対応するp−GaN層907及び量子井戸層905を、ICP−RIE等のドライエッチング法により除去する。その後、図4(d)に示したように、量子井戸層905及びp−GaN層907が除去されたn−GaN層905上に、電子ビーム蒸着やスパッタ蒸着等の蒸着法により、n−GaNコンタクト電極915を蒸着する。
【0008】
以上のような方法により半導体デバイスを製造することで、p−GaN層909とコンタクト電極913との間のオーミックコンタクトを確立することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K.Kumakura,T.Makimoto,N.Kobayashi,“Ohmic Contact to p−GaN Using a Strained InGaN Contact Layer and Its Thermal Stability”,Jpn.J.Appl.Phys.,42(2003),p.2254−2256
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記非特許文献1の方法で製造した半導体発光デバイスでは、キャップ層として機能するp−InGaN層911を成長させる際に、p−InGaN層911の格子定数と、p−GaN層907の格子定数との違いに起因して、InGaN層911の表面にひび割れが発生するという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、キャップ層表面でのひび割れの発生を抑制することが可能な、半導体発光デバイス及び半導体発光デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、所定の基板上に形成されたバッファ層と、前記バッファ層上に形成された、n型窒化物半導体層と、前記n型窒化物半導体層上の一部に形成された量子井戸層と、前記量子井戸層上に形成された、p−GaNからなるp型窒化物半導体層と、前記p型窒化物半導体層上に形成された、p−InGaNからなるキャップ層と、前記キャップ層上、及び、前記量子井戸層の形成されていない前記n型窒化物半導体層上にそれぞれ形成されたコンタクト電極と、を備え、前記キャップ層では、当該キャップ層と前記p型窒化物半導体層との間の界面から前記コンタクト電極の形成された側の面に向かうにつれて、前記キャップ層に含まれるInの割合が増加する半導体発光デバイスが提供される。
【0013】
かかる構成によれば、キャップ層とp型窒化物半導体層との間の界面では、キャップ層を構成するp−InGaNの格子定数と、p型窒化物半導体層を構成するp−GaNの格子定数との差分が小さくなる。その結果、本発明に係る半導体発光デバイスでは、キャップ層の格子定数とp型窒化物半導体層の格子定数との違いに起因するキャップ層表面でのひび割れの発生を、抑制することが可能となる。
【0014】
前記キャップ層は、p−InGa1−x−yで表される化合物からなり、前記界面において、前記化合物を表す化学式におけるInの割合を示すパラメータxの値はゼロであり、前記コンタクト電極の形成された側の面に向かうにつれて、前記パラメータxの値が増加することが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、キャップ層とp型窒化物半導体層との間の界面では、キャップ層を構成するp−InGaNの格子定数と、p型窒化物半導体層を構成するp−GaNの格子定数との差分をよりゼロに近づけることができる。その結果、より効果的に、キャップ層表面でのひび割れの発生を、抑制することが可能となる。
【0016】
前記化合物を表す化学式において、前記パラメータxの値は、0〜0.2まで変化してもよい。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、所定の基板上に、バッファ層、n型窒化物半導体層、量子井戸層及びp−GaNからなるp型窒化物半導体層を順に積層するステップと、所定の結晶成長法により、前記p型窒化物半導体層上に、p−InGa1−x−yで表される化合物を、当該化合物を表す化学式におけるInの割合を示すパラメータxの値を増加させながら成長させて、キャップ層を形成するステップと、前記キャップ層上の一部に、第1のコンタクト電極を形成するステップと、前記第1のコンタクト電極の形成されていない部分に対応する前記キャップ層、前記p型窒化物半導体層及び前記量子井戸層を除去するステップと、前記キャップ層、前記p型窒化物半導体層及び前記量子井戸層が除去された部分に対応する前記n型窒化物半導体層上に、第2のコンタクト電極を形成するステップと、を含む半導体発光デバイスの製造方法が提供される。
【0018】
かかる構成によれば、キャップ層とp型窒化物半導体層との間の界面では、キャップ層を構成するp−InGaNの格子定数と、p型窒化物半導体層を構成するp−GaNの格子定数との差分が小さくなる。その結果、本発明に係る半導体発光デバイスでは、キャップ層の格子定数とp型窒化物半導体層の格子定数との違いに起因するキャップ層表面でのひび割れの発生を、抑制することが可能となる。
【0019】
前記キャップ層と前記p型窒化物半導体層との間の界面において、前記化合物を表す化学式におけるInの割合を示すパラメータxの値はゼロであることが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、キャップ層とp型窒化物半導体層との間の界面では、キャップ層を構成するp−InGaNの格子定数と、p型窒化物半導体層を構成するp−GaNの格子定数との差分をよりゼロに近づけることができる。その結果、より効果的に、キャップ層表面でのひび割れの発生を、抑制することが可能となる。
【0021】
前記キャップ層を形成するステップでは、前記パラメータxの値を0≦x≦0.2まで変化させてもよい。
【0022】
前記結晶成長法は、有機金属化学気相成長法であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、キャップ層に含まれるInの含有量を、キャップ層とp型窒化物半導体層との間の界面からコンタクト電極の形成された側の面に向かうにつれて増加させることで、p型窒化物半導体層の格子定数とキャップ層の格子定数との違いを緩和することができ、キャップ層表面でのひび割れの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る半導体発光デバイスの構造の一例を模式的に示した説明図である。
【図2】同実施形態に係る半導体発光デバイスのキャップ層について説明するための説明図である。
【図3】同実施形態に係る半導体発光デバイスの製造方法の流れを説明するための説明図である。
【図4】従来の半導体発光デバイスの製造方法の流れを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
(第1の実施形態)
<半導体発光デバイスの構造について>
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る半導体発光デバイスの構造について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る半導体発光デバイスの構造の一例を模式的に示した説明図であり、図2は、本実施形態に係る半導体発光デバイスのキャップ層について説明するための説明図である。
【0027】
本実施形態に係る半導体発光デバイス100は、図1に例示したように、基板101と、バッファ層103と、n型窒化物半導体層105と、量子井戸層107と、p型窒化物半導体層109と、キャップ層111と、第1コンタクト電極113と、第2コンタクト電極115と、を備える。
【0028】
基板101は、図1に示したように、本実施形態に係る発光ダイオードやレーザダイオード等の半導体発光デバイス100の最下層に配置される平板である。この基板101としては、例えば、シリコン(Si)基板や、サファイア基板や、炭化シリコン(SiC)基板等を使用することが可能である。また、これらの基板以外にも、当該基板101上に成長させる各種半導体の種別等に応じて、公知の基板の材質を適宜選択することが可能である。
【0029】
この基板101上に、例えば有機金属化学気相成長法(MOCVD)等によって、所定の層厚のバッファ層103が形成される。バッファ層103は、基板101と、このバッファ層103上に形成されるn型窒化物半導体層105との密着性を高めたり、基板101の平坦性を担保しつつ、不純原子の浸透を遮断したりする役割を果たすものである。
【0030】
このようなバッファ層103として、例えば、GaN(窒化ガリウム)のような単一の半導体からなる層を用いることが可能である。また、バッファ層103は、上記のような単層でなくとも良く、例えば、AlGaN/AlN中間層や、AlN/GaN多層バッファ層等の公知の層構造を適用することが可能である。ここで、AlGaN/AlN中間層とは、基板101の主表面にAlN(窒化アルミニウム)層を成長させた上で、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)層を成長させたものであり、AlN/GaN多層バッファ層は、AlN層と、GaN(窒化ガリウム)層とを交互に複数成長させた多層構造のバッファ層である。また、バッファ層103は、上記の例に限定されるわけではなく、後述するn型窒化物半導体層105に用いられるn型窒化物半導体に応じて、形成に用いる物質を公知の物質の中から適宜選択することが可能である。
【0031】
すなわち、このバッファ層103上に成長させるn型窒化物半導体層105の組成に応じて、バッファ層103を構成する結晶とn型窒化物半導体層105を構成する結晶とが良好な格子整合性をもって積層構造を構成するために、これら両者の結晶の格子定数が互いに近い値又は同一の値となるような物質が選択される。
【0032】
また、バッファ層103の層厚についても適宜決定することが可能であり、例えば20nm程度の層厚とすることが可能である。
【0033】
このバッファ層103上に、例えばMOCVD等を用いて、所定の層厚のn型窒化物半導体層105が形成される。n型窒化物半導体層105を形成するための物質としては、例えば、n型GaN(窒化ガリウム、以下n−GaNともいう。)を用いることができる。また、以下の説明では、n型窒化物半導体層105が単層である場合を例にとるが、n型窒化物半導体層は、複数の層から構成されていてもよい。また、n型窒化物半導体層105の層厚は、例えば、基板101がシリコン基板である場合には100nm〜1000nm程度とすることができ、基板101がサファイア基板である場合には2μm〜3μm程度とすることができる。本実施形態に係る半導体発光デバイス100では、以下で説明するように、n型窒化物半導体層105上に第2コンタクト電極115が形成されるが、n型窒化物半導体層105の層厚を上記のような値とすることで、第2コンタクト電極115を形成する際に行われるエッチングを、n型窒化物半導体層105で停止させることが可能となる。なお、後述する第2コンタクト電極115を基板101上に設置する場合には、n型窒化物半導体層105の層厚はこの限りではなく、〜100nm程度とすればよい。
【0034】
n型窒化物半導体層105を例えばMOCVDにより形成する場合、例えば、バッファ層103の形成された基板101をMOCVD装置内に設置し、所定の温度となるように調整したうえで、窒素と水素とを含むキャリアガスを用いて、III族原料ガス、n型ドーパントを含むドーピングガス及びアンモニアガス等を装置内に導入する。これにより、n型窒化物半導体層105を結晶成長させることができる。
【0035】
なお、n型窒化物半導体層105を形成するために用いられるIII族原料ガスとしては、例えばn−GaNを成長させる場合には、トリメチルガリウムやトリエチルガリウム等の物質をGaの先駆物質として利用することが可能である。この物質以外にも、結晶成長させたい半導体に応じて、公知の物質を適宜選択すればよい。また、n型ドーパントを含むドーピングガスについても、公知のものを適宜選択すればよい。例えば、n型ドーパントとしてSiを用いる場合には、Siを含むドーピングガスとして、例えばシランガス等を利用することが可能である。
【0036】
n型窒化物半導体層105上の一部には、例えばMOCVD等を用いて、所定の層厚の量子井戸層107が形成される。量子井戸層107は、本実施形態に係る半導体発光デバイス100の発光層として機能する層である。量子井戸層107を構成するために用いられる半導体は、所望の発光波長に応じて公知の物質の中から適宜選択することが可能である。本実施形態に係る半導体発光デバイス100では、量子井戸層107を形成するために、例えばInGaN/GaN等を利用する。
【0037】
また、量子井戸層107の層厚は、当該量子井戸層107からの発光波長に応じて適した層厚は異なるものの、寒色系(青から緑)の発光を実現する場合20nm程度であることが好ましい。また、本実施形態では、発光層として量子井戸層107が形成される場合を例に挙げているが、発光層の構造は、単一井戸構造、多重井戸構造、多重量子井戸構造等のいずれであってもよい。
【0038】
なお、量子井戸層107を例えばMOCVDにより形成する場合には、n型窒化物半導体層105を成長させる場合と同様に、所望の物質に応じて公知の原料ガスやドーピングガス等を選択すればよい。
【0039】
量子井戸層107上には、例えばMOCVD等を用いて、所定の層厚のp型窒化物半導体層109が形成される。p型窒化物半導体層109を形成するための物質としては、例えば、p型GaN(窒化ガリウム、以下p−GaNともいう。)が用いられる。また、p型窒化物半導体層109の層厚は、特に限定されるものではないが、例えば、10nm〜200nm程度とすることができ、通常は100nm程度とすればよい。
【0040】
p型窒化物半導体層109を例えばMOCVDにより形成する場合、例えば、基板温度をp型窒化物半導体を結晶成長させるために適した温度に調整したうえで、窒素と水素とを含むキャリアガスを用いて、III族原料ガス、p型ドーパントを含むドーピングガス及びアンモニアガス等を装置内に導入する。これにより、p型窒化物半導体層109を結晶成長させることができる。
【0041】
なお、p型窒化物半導体層109を形成するために用いられるIII族原料ガスとしては、例えばp−GaNを成長させる場合には、トリメチルガリウムやトリエチルガリウム等の物質をGaの先駆物質として利用することが可能である。また、p型ドーパントを含むドーピングガスについても、公知のものを適宜選択すればよい。例えば、p型ドーパントとしてMgを用いる場合には、Mgを含むドーピングガスとして、例えばシクロペンタジエニルマグネシウムやビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム等といった公知のドーピングガスを利用することが可能である。
【0042】
p型窒化物半導体層109上には、例えばMOCVD等を用いて、所定の層厚のキャップ層111が形成される。このキャップ層111は、p型窒化物半導体層109がp−GaNから形成される場合に、p型化された窒化インジウムガリウム(p−InGaN)を用いて形成される。キャップ層111を構成するp−InGaNは、より詳細には、p−InGa1−x−yと表記することができる。
【0043】
キャップ層111を例えばMOCVDにより形成する場合、例えば、基板温度をInGaNを結晶成長させるために適した温度に調整したうえで、窒素と水素とを含むキャリアガスを用いて、III族原料ガス、p型ドーパントを含むドーピングガス及びアンモニアガス等を装置内に導入する。これにより、p−InGaNからなるキャップ層111を結晶成長させることができる。
【0044】
p−InGaNからなるキャップ層111を形成するために用いられるIII族原料ガスとしては、Gaの先駆物質としてトリメチルガリウムやトリエチルガリウム等の物質を利用し、Inの先駆物質としてはトリメチルインジウムやトリエチルインジウム等の物質を利用することが可能である。また、p−InGaNを結晶成長させるために用いる原料ガスは上記の例に限定されるわけではなく、これらの物質以外の公知の物質を適宜利用することが可能である。また、p型ドーパントを含むドーピングガスについても、公知のものを適宜選択すればよい。例えば、p型ドーパントとしてMgを用いる場合には、Mgを含むドーピングガスとして、例えばシクロペンタジエニルマグネシウムやビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム等といった公知のドーピングガスを利用することが可能である。
【0045】
なお、InGaNに対するp型ドーパントのドーピング量については、特に限定されるわけではなく、適宜設定することが可能である。
【0046】
p型窒化物半導体層109上にキャップ層111を形成することで、p型窒化物半導体層109を構成するp型窒化物半導体のバンド構造に曲がりが生じる(バンドベンディング)。その結果、キャップ層111上に形成される第1コンタクト電極113に用いられる金属とp型窒化物半導体層109を構成するp型窒化物半導体との間のコンタクト抵抗を低減させることができる。これにより、p型窒化物半導体層109と第1コンタクト電極113とのオーミックコンタクトを実現することができる。
【0047】
本実施形態に係るキャップ層111の役割は、上述のようにバンドベンディングを生じさせ、トンネル電流によってコンタクト抵抗を低減することである。従って、キャップ層111の層厚は、バンドを曲げるために必要最低限の層厚とすればよい。このようなキャップ層111の層厚は、例えば、1nm〜10nm程度である。なお、キャップ層111の層厚が厚い場合であってもバンドベンディングを生じさせることは可能であるが、トンネル電流が減少することによりコンタクト抵抗が見かけ上大きくなってしまう。
【0048】
ここで、先だって説明したように、従来のp−InGaNを用いたキャップ層では、キャップ層に隣接するp−GaN層を構成するp−GaNの格子定数と、キャップ層を構成するp−InGaNの格子定数との違いに起因して、キャップ層表面にひび割れが発生してしまうという問題があった。本発明者は、この問題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下で説明したような方法によってp−InGaNからなるキャップ層を形成することで、キャップ層表面に発生するひび割れを抑制可能であることに想到した。
【0049】
すなわち、本実施形態に係る半導体発光デバイス100では、図2に模式的に示したように、キャップ層111とp型窒化物半導体層109との間の界面から、後述する第1コンタクト電極113の形成される側の面へと向かうにつれて、キャップ層111を構成するp−InGa1−x−yに含まれるInの割合xを増加させる。
【0050】
この際、図2に例示したように、キャップ層111とp型窒化物半導体層109との界面では、Inの割合を示すパラメータxをゼロとすることが好ましい。Inの割合xをゼロとすることで、当該界面にこの時点で成長する半導体の組成は、p型窒化物半導体層109を形成するp−GaNの組成とほぼ等しくなり、当該界面における双方の結晶の格子定数の差分をほぼゼロとすることができる。
【0051】
また、キャップ層111の第1コンタクト電極113が形成される面へと向かうにつれてInの割合を増加させることで、p−InGa1−x−yの格子定数も変化することとなり、p型窒化物半導体層109を形成するp−GaNの格子定数との相違に起因するひび割れの発生を抑制することが可能となる。
【0052】
ここで、キャップ層111の第1コンタクト電極113が形成される面におけるInの割合xの具体的な値は、第1コンタクト電極113の形成に用いられる金属の仕事関数の大きさ等に応じて適宜設定することが可能であるが、例えばx=0.2とすることが好ましい。すなわち、本実施形態に係るキャップ層111では、p−InGa1−x−yのIn組成xは、0〜0.2まで変化することとなる。また、Inの割合を示すパラメータxが0〜0.2まで変化する際、Gaの割合を示すパラメータyの大きさは、0.5≧y≧0.3とすることが好ましい。
【0053】
また、Inの割合を示すパラメータxの値の増加度合いは特に限定されるものではなく、例えば、0〜0.2まで段階的に増加させてもよいし、指数関数的に増加させてもよい。パラメータxの値を指数関数的に増加させることで、より高い効果を得ることが可能となる。
【0054】
なお、キャップ層111をMOCVDにより成長させる際にIn組成xを変化させる方法については、公知の方法を適宜利用すればよいが、例えばMOCVD装置に導入するInの先駆物質の導入量を所定の増加度合いで変化させることで実現可能である。
【0055】
このようにして形成されるキャップ層111上の少なくとも一部には、図1に示したように、第1コンタクト電極113が形成される。第1コンタクト電極113は、上述のようなキャップ層111が形成されることで、p−GaNからなるp型窒化物半導体層109との間で良好なオーミックコンタクトを実現することができる。
【0056】
また、n型窒化物半導体層105上における量子井戸層107が形成されていない部分の少なくとも一部には、第2コンタクト電極115が形成される。
【0057】
このような2種類のコンタクト電極113,115が形成されることで、窒化物半導体からなる半導体発光デバイスを得ることができる。第1コンタクト電極113及び第2コンタクト電極115は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタ蒸着法等の各種の蒸着法により形成することが可能である。このようなコンタクト電極113,115の形成に利用する金属としては、公知のものを利用することが可能であり、例えば、Ti,Al,Au等を利用することができる。また、第1コンタクト電極113及び第2コンタクト電極115は、単層構造に限定されるわけではなく、多層構造としてもよい。
【0058】
以上、図1及び図2を参照しながら、本実施形態に係る半導体発光デバイスの構造について、詳細に説明した。
【0059】
<半導体発光デバイスの製造方法について>
続いて、図3を参照しながら、本実施形態に係る半導体発光デバイスの製造方法について説明する。図3は、本実施形態に係る半導体発光デバイスの製造方法の流れを模式的に示した説明図である。
【0060】
まず、図3(a)に示したように、MOCVD等の結晶成長法を用いて、基板101上に、バッファ層103、n型窒化物半導体層105、量子井戸層107及びp−GaNからなるp型窒化物半導体層109を順に積層する。その後、MOCVD等の結晶成長法を用いて、p型窒化物半導体層109上に、p−InGa1−x−yで表される化合物を、当該化合物を表す化学式におけるInの割合を示すパラメータxの値を増加させながら成長させて、キャップ層111を形成する。
【0061】
この際、先だって説明したような方法により、キャップ層111とp型窒化物半導体層109との界面では、Inの割合を示すパラメータxの値がゼロとなるようにし、当該界面に対向する側の面では、Inの割合を示すパラメータxの値が例えば0.2となるようにする。また、Gaの割合を示すパラメータyの値は、0.5≧y≧0.3となるようにする。
【0062】
その後、キャップ層111上の少なくとも一部に、電子ビーム蒸着法等により第1コンタクト電極113を形成する。
【0063】
続いて、図3(b)に示したように、誘導結合プラズマイオンエッチング(ICP−RIE)等のようなドライエッチング法を利用して、第1のコンタクト電極113の形成されていない部分に対応するキャップ層111、p型窒化物半導体層109及び量子井戸層107を、エッチングにより除去する。これにより、図3(c)に示したように、n型窒化物半導体層105が露出したリセス部121を形成することができる。
【0064】
その後、図3(d)に示したように、ICP−RIE等のドライエッチングにより形成したリセス部121に露出しているn型窒化物半導体層105上の少なくとも一部に、電子ビーム蒸着法等により第2コンタクト電極115を形成する。
【0065】
以上のような流れで処理を行うことで、本実施形態に係る半導体発光デバイス100を製造することができる。
【0066】
以上のような製造方法により本実施形態に係る半導体発光デバイス100を製造したところ、キャップ層111の表面に発生するひび割れを完全に抑制することができた。
【0067】
(まとめ)
以上説明したように、本発明の実施形態に係る半導体発光デバイス及び半導体発光デバイスの製造方法では、p−InGa1−x−yからなるキャップ層111を結晶成長法により形成する際に、キャップ層111とp型窒化物半導体層109との間の界面から第1コンタクト電極113の形成された側の面に向かうにつれて、キャップ層111に含まれるInの割合を増加させるようにする。これにより、p型窒化物半導体層109を構成する窒化物半導体の格子定数と、キャップ層111を構成するp−InGa1−x−yの格子定数との相違を緩和することができ、キャップ層111の表面に発生するひび割れを抑制することができる。その結果、本発明の実施形態に係る半導体発光デバイス及び半導体発光デバイスの製造方法では、オーミック接触抵抗を低減するためのp−InGa1−x−yからなるキャップ層を、表面ひび割れを起こすことなく設置することが可能となる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0069】
100 半導体発光デバイス
101 基板
103 バッファ層
105 n型窒化物半導体層
107 量子井戸層
109 p型窒化物半導体層
111 キャップ層
113 第1コンタクト電極
115 第2コンタクト電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基板上に形成されたバッファ層と、
前記バッファ層上に形成された、n型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層上の一部に形成された量子井戸層と、
前記量子井戸層上に形成された、p−GaNからなるp型窒化物半導体層と、
前記p型窒化物半導体層上に形成された、p−InGaNからなるキャップ層と、
前記キャップ層上、及び、前記量子井戸層の形成されていない前記n型窒化物半導体層上にそれぞれ形成されたコンタクト電極と、
を備え、
前記キャップ層では、当該キャップ層と前記p型窒化物半導体層との間の界面から前記コンタクト電極の形成された側の面に向かうにつれて、前記キャップ層に含まれるInの割合が増加する
ことを特徴とする、半導体発光デバイス。
【請求項2】
前記キャップ層は、p−InGa1−x−yで表される化合物からなり、
前記界面において、前記化合物を表す化学式におけるInの割合を示すパラメータxの値はゼロであり、前記コンタクト電極の形成された側の面に向かうにつれて、前記パラメータxの値が増加する
ことを特徴とする、請求項1に記載の半導体発光デバイス。
【請求項3】
前記化合物を表す化学式において、前記パラメータxの値は、0〜0.2まで変化する
ことを特徴とする、請求項2に記載の半導体発光デバイス。
【請求項4】
所定の基板上に、バッファ層、n型窒化物半導体層、量子井戸層及びp−GaNからなるp型窒化物半導体層を順に積層するステップと、
所定の結晶成長法により、前記p型窒化物半導体層上に、p−InGa1−x−yで表される化合物を、当該化合物を表す化学式におけるInの割合を示すパラメータxの値を増加させながら成長させて、キャップ層を形成するステップと、
前記キャップ層上の一部に、第1のコンタクト電極を形成するステップと、
前記第1のコンタクト電極の形成されていない部分に対応する前記キャップ層、前記p型窒化物半導体層及び前記量子井戸層を除去するステップと、
前記キャップ層、前記p型窒化物半導体層及び前記量子井戸層が除去された部分に対応する前記n型窒化物半導体層上に、第2のコンタクト電極を形成するステップと、
を含むことを特徴とする、半導体発光デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記キャップ層と前記p型窒化物半導体層との間の界面において、前記化合物を表す化学式におけるInの割合を示すパラメータxの値はゼロである
ことを特徴とする、請求項4に記載の半導体発光デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記キャップ層を形成するステップでは、前記パラメータxの値を0≦x≦0.2まで変化させる
ことを特徴とする、請求項4又は5に記載の半導体発光デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記結晶成長法は、有機金属化学気相成長法である
ことを特徴とする、請求項4〜6の何れか1項に記載の半導体発光デバイスの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−77690(P2013−77690A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216477(P2011−216477)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】