説明

半導体発光素子及び半導体発光素子の製造方法

【課題】反射層に混入する酸素濃度を低減し、半導体発光素子の信頼性を向上させる。
【解決手段】基板と、基板上に設けられるバッファ層20と、バッファ層20上に低屈折率層と高屈折率層とを複数ペア積層して設けられる反射層30と、反射層30上に第1クラッド層、活性層、第2クラッド層を積層して設けられる発光層40と、を有する半導体発光素子1において、バッファ層20は、酸素吸着層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子及び半導体発光素子の製造方法に関し、更に詳しくは、低屈折率層と高屈折率層とを複数ペア積層した反射層を有する半導体発光素子及び半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子の製造工程においては、AlGaInP系やGaN系等の高品質結晶を有機金属気相成長(MOVPE:Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)法で成長させる技術の発達によって、青色、緑色、橙色、黄色、赤
色等の高輝度LEDが製作できるようになってきた。
【0003】
上記のような高品質の結晶が成長可能となってから、半導体発光素子の内部効率は理論限界値に近づきつつある。しかし半導体発光素子からの光取り出し効率はまだまだ低く、光取り出し効率を向上させることが重要となっている。そこで、複数のエピタキシャル層を積層して発光機能を持たせた発光層の下層に、例えば低屈折率層と高屈折率層とを複数ペア積層した反射層を設け、半導体基板側へと向かう光を半導体発光素子上面の光取り出し面側へと光干渉によって反射させる手法が採られている。例えば特許文献1には、一部或いは全ての材料にAlGa1−xAs層(0≦X≦1)を用いるn型光反射層が開示されている。また、n型光反射層の下層には、n型バッファ層としてGaAs層が用いられている。
【0004】
バッファ層は、半導体基板の表面に付着したSiなどの不純物や、エピタキシャル成長させる炉内に残留した不純物を取り込み、押さえ込むことで、バッファ層上に所望の半導体エピタキシャル層を形成するための下地として設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4123235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような構造を含む半導体発光素子では、素子の使用時間が長くなるとともに発光強度が低下し続ける等の現象がみられることがあり、充分な信頼性が得られない場合があった。本発明者等は、このような現象がみられた半導体発光素子において、素子が備える反射層に高濃度の酸素が混入していることを突き止めた。
【0007】
本発明の目的は、反射層に混入する酸素濃度を低減し、信頼性を向上させることが可能な半導体発光素子及び半導体発光素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、前記基板上に設けられるバッファ層と、前記バッファ層上に低屈折率層と高屈折率層とを複数ペア積層して設けられる反射層と、前記反射層上に第1クラッド層、活性層、第2クラッド層を積層して設けられる発光層と、を有する半導体発光素子において、前記バッファ層は、酸素吸着層を含む半導体発光素子が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、前記酸素吸着層は、層厚が75nm以上200nm以下
のAlGa1−XAs層(但し、0.6≦X≦1)を含む第1の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、前記酸素吸着層は、層厚が75nm以上200nm以下の、前記基板側から前記反射層側に向かってAl組成比Xが徐々に小さくなるグレーデッドAlGa1−XAs層(但し、0.6≦X≦1)を含む第1の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、前記反射層中の酸素濃度が4.0×1018cm−3以下である第1から第3の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【0012】
本発明の第5の態様によれば、気相成長法を用いて基板上にバッファ層、低屈折率層と高屈折率層とからなる反射層、第1クラッド層と活性層と第2クラッド層とからなる発光層を成長させる半導体発光素子の製造方法において、前記バッファ層は、酸素吸着層を含み、前記酸素吸着層を、V族原料ガスとIII族原料ガスとのモル比率であるV/III比を30以上150以下とし、成長温度を580℃以上650℃以下として、AlGa1−XAs(但し、0<X<1)、AlAs、AlGaInP、AlInP、AlGaP、AlAsPのいずれかの組成を含むよう成長させ、或いは、前記V/III比を低減し、成長温
度を低温にして、GaAs、InGaP、InP、GaP、InGaAs、InGaAsP、GaAsP、InAsPのいずれかの組成を含むよう成長させる半導体発光素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反射層に混入する酸素濃度を低減し、半導体発光素子の信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体発光素子を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る半導体発光素子の製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の変形例に係る半導体発光素子を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例に係る半導体発光素子が有する反射層中の酸素濃度を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例に係る半導体発光素子の信頼性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<本発明の一実施形態>
以下に、本発明の一実施形態に係る半導体発光素子及び半導体発光素子の製造方法について説明する。
【0016】
(1)半導体発光素子の構造
本発明の一実施形態に係る半導体発光素子は、例えばアルミニウム(Al)等を含む半導体を複数積層した反射層を有している。上述したように、このような半導体発光素子においては、素子への通電を継続して使用時間が長くなるにしたがい、発光強度が低下していく経時変化が生じることがあり、このような素子の反射層には高濃度の酸素の混入がみられた。本発明者等によれば、反射層への酸素の混入は、例えばMOVPE法により、反射層をエピタキシャル成長させる際に起きることが明らかになった。
【0017】
本発明者等は、バッファ層に酸素吸着層を設けることにより、反射層に混入する酸素濃度を低減させ、半導体発光素子の信頼性を向上させることができることを見いだした。以下に、バッファ層に酸素吸着層を含む本実施形態の半導体発光素子の構造について、図1
を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る半導体発光素子1を示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、半導体発光素子1は、例えばn型GaAs基板10と、n型GaAs基板10上に設けられるn型AlGaAsバッファ層20と、を有する。バッファ層20は、下地としてのn型GaAs層20bと、酸素吸着層としてのn型AlGa1−XAs層20aとを含んでいる。すなわち、バッファ層20は、基板側にAl組成比X=0のn型GaAs層20bが設けられ、上層部に所定のAl組成比Xを有するn型AlGa1−XAs層20aが設けられた2層構造となっている。n型AlGa1−XAs層20aのAl組成比Xは、0<X<1、より好ましくは0.6≦X≦0.8である。また、n型AlGa1−XAs層20aの層厚は、75nm以上200nm以下である。
このように、バッファ層20に所定のAl組成比Xを有するn型AlGa1−XAs層20aを設けておくことで、後述する反射層30をMOVPE法によりエピタキシャル成長させる際、予め、MOVPE装置内の雰囲気中の酸素を低減しておくことができる。
【0019】
また、半導体発光素子1は、例えばバッファ層20上に、一部或いは全てにn型AlGa1−YAs層(0≦Y≦1)を用いる反射層30が設けられる。より具体的には、反射層30は、Y<1である低屈折率層としてのn型AlGa1−YAs層と、Y=1である高屈折率層としてのn型AlAs層と、を複数ペア積層して設けられる。反射層30上には、第1クラッド層としてのn型AlGaInPクラッド層41、活性層としてのアンドープAlGaInP活性層42、第2クラッド層としてのp型AlGaInPクラッド層43を積層して設けられる発光層40を有する。
【0020】
このように、反射層30が低屈折率層と高屈折率層とを備えることで、アンドープAlGaInP活性層42で発生した所定波長の光の一部が反射層30へと入射してきた際、上記低屈折率層と高屈折率層との間で光干渉を起こさせ、入射してきた光を反射させることができる。つまり、反射層30は、所定波長の光に対する分布ブラッグ反射層(DBR:Distributed Bragg Reflector)として機能する。反射させる光の波長は、低屈折率層
及び高屈折率層のそれぞれの屈折率及び厚さを設定することで選択できる。低屈折率層及び高屈折率層の屈折率は、例えばn型AlGa1−YAs層の組成比Yを変えることで変化させることができる。
【0021】
また、基板上に形成されるバッファ層は、基板に対してホモエピタキシャル成長となるよう、組成比を決定するとよい。例えば、n型GaAs基板10上であれば、n型GaAs層から形成する。また、反射層30中の酸素濃度が、4.0×1018cm−3以下となるよう、酸素吸着層を形成するとよい。
【0022】
また、半導体発光素子1は、例えば発光層40上に設けられる接続層としてのp型AlGaInP層50と、p型AlGaInP層50上に設けられる電流分散層としてのp型GaP層60と、を有する。さらに、半導体発光素子1は、p型GaP層60上に、例えば金・ベリリウム(AuBe)合金、ニッケル(Ni)、金(Au)を積層して設けられる表面電極71と、n型GaAs基板10の上記各層の形成面とは反対側の面の全面に、例えば金・ゲルマニウム(AuGe)合金、Ni、Auを積層して設けられる裏面電極72と、を有する。
【0023】
(2)半導体発光素子の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る半導体発光素子1の製造方法について説明する。
【0024】
(エピタキシャルウエハの製造)
まずは、MOVPE法により、n型GaAs基板10上に、図1に示すバッファ層20からp型GaP層60までの複数のエピタキシャル層を積層して、所定の発光波長を有す
るエピタキシャルウエハを製造する。
【0025】
具体的には、MOVPE装置内にn型GaAs基板10を搬入して設置し、成長圧力、成長温度を所定値に保った状態で、所定の原料ガスを所定流量供給して行う。原料ガスには、例えばガリウム(Ga)源としてトリメチルガリウム(TMGa)やトリエチルガリウム(TEGa)等の有機金属ガスを使用する。また、例えばアルミニウム(Al)源にはトリメチルアルミニウム(TMAl)等、インジウム(In)源にはトリメチルインジウム(TMIn)等の有機金属ガスをそれぞれ使用する。また、ヒ素(As)源としてアルシン(AsH)等、リン(P)源としてホスフィン(PH)等の水素化物ガスをそれぞれ使用する。このとき、TMGaやTMAl等のIII族原料ガスのモル数を分母とし
、AsHやPH等のV族原料ガスのモル数を分子とする比率(商)、すなわち、V/III比を、所定値とする。
【0026】
また、各層の導電型を決定する導電型決定不純物の添加は、例えば所定の添加物原料ガスを原料ガスに添加することにより行う。n型の導電型決定不純物としては、例えばセレン(Se)を用いる。Seを添加するには、例えばセレン化水素(HSe)等の添加物原料ガスを用いる。また、p型の導電型決定不純物としては、例えば亜鉛(Zn)を用いる。Znを添加するには、例えばジエチルジンク(DEZn)等の添加物原料ガスを用いる。
【0027】
以下、図2を参照しながら、各層の成長方法について説明する。図2は、半導体発光素子1の製造工程を示す断面図である。
【0028】
まず、図2(a)に示すように、例えばn型GaAs基板10上に、n型AlGaAsバッファ層20を成長させる。つまり、バッファ層20内に、下地としてn型GaAs層20bを成長させ、上層部にn型AlGa1−XAs層20aを成長させる。このとき、それぞれの原料ガスの流量比等を調整して、0<X<1、より好ましくは0.6≦X≦0.8に制御する。また、V/III比は、例えば30以上150以下とし、成長温度は、
例えば580℃以上650℃以下とする。
【0029】
MOVPE装置内には、装置内にパーツを装着したり、基板を搬入したりする際に、水分等が持ち込まれることがあり、装置内の雰囲気中には酸素(O)が存在する。例えばバッファ層としてn型GaAs層のみを設けた従来の半導体発光素子において、装置内雰囲気中の酸素は、反射層を成長させる際、例えば酸素と結合し易い成分であるAlを含むn型AlGa1−YAs層やn型AlAs層等からなる反射層中に取り込まれ易かった。反射層等のエピタキシャル層に高濃度の酸素が混入すると、エピタキシャル層の結晶性が損なわれてしまう。これにより、反射層等の品質が低下して所定の反射率が得られなくなる。また、酸素は非発光の再結合中心となり、発光効率を低下させる。このため、半導体発光素子の発光強度が経時的に低下し、半導体発光素子の信頼性が得られない場合があった。
【0030】
しかしながら、本実施形態では、反射層30を成長させる前のバッファ層20の成長時に、酸素吸着層としてのn型AlGa1−XAs層20aを成長させることとしたので、MOVPE装置内の雰囲気中の酸素は、n型AlGa1−XAs層20a中に取り込まれることとなる。よって、反射層30を成長させる前に、雰囲気中の酸素濃度を低減させることができる。このとき、酸素吸着効果を向上させるため、酸素吸着層としてのn型AlGa1−XAs層20aは、高Al組成比とすることが好ましい。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、バッファ層20上に、反射層30を成長させる。反射層30は、例えば低屈折率層としてのn型AlGa1−YAs層(Y<1)と高屈折率
層としてのn型AlAs層(Y=1)とを複数ペア積層して設けられる。n型AlGa1−YAs層の組成比は、それぞれの原料ガスの流量比等を調整して制御する。
【0032】
本実施形態では、n型AlGa1−XAs層20aを成長させることで、反射層30の成長前に、予めMOVPE装置内の雰囲気中の酸素濃度が低減されている。これにより、反射層30への酸素の混入が抑制され、反射層30中の酸素濃度を例えば4.0×1018cm−3以下とすることができる。
【0033】
続いて、図2(c)に示すように、反射層30上に、発光層40を成長させる。発光層40は、第1クラッド層としてのn型AlGaInPクラッド層41、活性層としてのアンドープAlGaInP活性層42、第2クラッド層としてのp型AlGaInPクラッド層43、を積層して設けられる。
【0034】
次に、発光層40上に、接続層としてのp型AlGaInP層50を成長させ、p型AlGaInP層50上に、電流分散層としてのp型GaP層60を成長させる。
【0035】
以上により、所定の発光波長を有するエピタキシャルウエハが製造される。
【0036】
(電極の形成)
以上のように各層が形成されたエピタキシャルウエハを、MOVPE装置から搬出した後、図2(d)に示すように、エピタキシャルウエハの上下面(表裏面)に電極形成を行う。すなわち、例えばマスクアライナ等を用いたフォトリソグラフィプロセスにて、p型GaP層60上に、フォトレジストパターンを形成する。続いて、真空蒸着法により、例えばAuBe合金、Ni、Auをこの順に蒸着する。蒸着後、リフトオフ法によりフォトレジストパターンを除去することで、例えば略円形の表面電極71を素子ごとに形成する。それぞれの表面電極71は、p型GaP層60上に例えばマトリクス状に配置される。なお、図2(d)に示す図においては、マトリクス状に配置された複数の表面電極71のうち1つを示す。
【0037】
次に、エピタキシャルウエハの裏面、すなわち、n型GaAs基板10のエピタキシャル層形成面とは反対側の面の全面に、真空蒸着法により、AuGe合金、Ni、Auをこの順に蒸着し、裏面電極72を形成する。その後、アロイ工程にて、上記電極71,72が形成されたエピタキシャルウエハを、例えば窒素(N)ガス雰囲気中で5分間、400℃に加熱し、電極71,72を合金化する。
【0038】
続いて、電極71,72が形成された上記ウエハに対し、複数形成した表面電極71のそれぞれが中央部に位置するよう、例えば略矩形にダイシングを行ってチップ化し、図1に示す半導体発光素子1を複数個得る。以上により、本実施形態に係る半導体発光素子1が製造される。
【0039】
(半導体発光素子の実装)
その後、切り出された半導体発光素子1の実装を行う。すなわち、ダイシングにより複数切り出された個々の半導体発光素子1を、例えばTO−18ステム上にマウントしてダイボンディングを行い、さらにワイヤボンディングを施す。
【0040】
(3)本発明の一実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0041】
(a)本実施形態によれば、バッファ層20上に、低屈折率層としてのn型AlGa1−YAs層と、高屈折率層としてのn型AlAs層と、を複数ペア積層して設けられる反
射層30を有し、バッファ層20は、n型AlGa1−XAs層20aを含んでいる。これにより、MOVPE装置内の雰囲気中の酸素をn型AlGa1−XAs層20aに取り込むことができ、反射層30をエピタキシャル成長させる前に、雰囲気中の酸素濃度を低減させることができる。よって、反射層30に混入する酸素濃度を低減することができ、半導体発光素子1の信頼性を向上させることができる。
【0042】
(b)また、本実施形態によれば、酸素吸着層をn型AlGa1−XAs層20aとしている。酸素を吸着し易い材料であるAlを酸素吸着層中に含むことで、酸素を吸着する効果が得られ、雰囲気中の酸素濃度を低減できる。
【0043】
ここで、より酸素の吸着効果の高いAl組成比X=1のn型AlGa1−XAs層、つまりn型AlAs層等を酸素吸着層として用いることも可能であるが、膜剥がれの懸念があるn型AlAsよりも、より安定した材料であるAlGa1−XAsを酸素吸着層に用いることが好ましく、これにより、いっそう安定した半導体発光素子1が得られる。
【0044】
(c)また、本実施形態によれば、反射層30の成長前に、雰囲気中の酸素濃度を低減させることで、反射層30中の酸素濃度を4.0×1018cm−3以下とすることができる。これによって、半導体発光素子1の長期安定性、信頼性を向上させることができる。
【0045】
(4)本発明の一実施形態の変形例に係る半導体発光素子
次に、上述の実施形態の変形例に係る半導体発光素子について、図3を用いて説明する。図3は、本変形例に係る半導体発光素子2を示す断面図である。半導体発光素子2においても、n型AlGaAsバッファ層21は酸素吸着層を含むが、本変形例に係る酸素吸着層は、層厚が75nm以上200nm以下、例えば100nmであり、n型GaAs基板10から反射層30側に向かってAl組成比Xが徐々に小さくなるn型のグレーデッド(Graded)AlGa1−XAs層21aとして構成されている。但し、Al組成比Xを変化させる範囲は、0≦X≦1、より好ましくは0.6≦X≦1、さらに好ましくは0.6≦X≦0.8である。
【0046】
すなわち、Al組成比Xの変化の範囲を例えば1→0とした場合、酸素吸着層を、n型GaAs基板10側のn型AlAs(X=1)から、反射層30側のn型GaAs(X=0)へと変化させ、また、Al組成比Xの変化の範囲を0.8→0.6とした場合、n型GaAs基板10側のn型Al0.8Ga0.2Asから、反射層30側のn型Al0.6Ga0.4Asへと変化させる。
【0047】
上記のようなn型のグレーデッドAlGa1−XAs層21aは、MOVPE法により、それぞれの原料ガスの流量比等を変化させながら成長させていくことで、形成することができる。このとき、Al組成比Xが、0≦X≦1、より好ましくは0.6≦X≦1、さらに好ましくは0.6≦X≦0.8となるよう、原料ガスの流量比等を調整する。また、V/III比は、例えば30以上150以下とし、成長温度は、例えば580℃以上65
0℃以下とする。
【0048】
本変形例においても、上述の実施形態と同様の良好な効果を奏する。
【0049】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0050】
例えば、上述の実施形態においては、酸素吸着層としてのn型AlGa1−XAs層20aは、バッファ層20の上層部に含まれることとしたが、それ以外の位置に含まれて
いてもよい。例えば、酸素吸着層がバッファ層の中間部分に含まれるよう、n型GaAs層/n型AlGa1−XAs層(酸素吸着層)/n型GaAs層などと構成されていてもよい。
【0051】
また、上述の実施形態においては、n型AlGa1−XAs層20aにおいて、Al組成比Xの範囲を0<X<1としたが、X=1、すなわち、酸素吸着層は、AlAs層を含んでいてもよい。また、酸素吸着層は、この他のAl系のエピタキシャル層とすることができ、例えばAlGaInP、AlInP、AlGaP、AlAsP等のいずれかの組成を含んでいてもよい。
【0052】
また、上述の実施形態においては、n型AlGa1−XAs層20aにおいて、Al組成比Xの範囲を0<X<1としたが、X=0、すなわち、酸素吸着層は、GaAs層を含んでいてもよい。このように、Alを含まない組成の酸素吸着層とするときは、酸素吸着層の成長条件を、例えば低V/III比、低温の成長温度等の酸素を吸着し易い成長条件
とする。Alを含まない酸素吸着層としては、この他、InGaP、InP、GaP、InGaAs、InGaAsP、GaAsP、InAsP等のいずれかの組成を含んでいてもよい。
【0053】
また、上下の各クラッド層の導電型(n型、p型)を逆にして、光取り出し面側をn型としてもよい。
【0054】
また、上述の実施形態においては、MOVPE法による各層の形成にあたり、n型の添加物原料ガスとしてHSeを用いることとしたが、n型添加物原料ガスとしては、ジシラン(Si)や、モノシラン(SiH)、ジエチルテルル(DETe)、ジメチルテルル(DMTe)等を用いることもできる。また、p型の添加物原料ガスとしてジエチルジンク(DEZn)を用いることとしたが、p型添加物原料ガスとしては、ジメチルジンク(DMZn)やビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)等を用いることもできる。
【0055】
また、上述の実施形態においては、略円形の表面電極71を形成することとしたが、この他、四角形、菱形、多角形等、或いは枝状の電極部を有するものなど、表面電極は種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0056】
(1)実施例1
次に、本発明に係る実施例1について説明する。
(エピタキシャルウエハの製作)
まずは、上述の実施形態と同様の手法で、0nm〜200nmまでの異なる層厚の酸素吸着層(但し、0mmでは酸素吸着層なし)を有するエピタキシャルウエハをそれぞれ作成した。各層を形成する際の、各層の組成比、層厚、MOVPE法の成長条件等を以下に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
酸素吸着層はAl組成比X=0.8の層、すなわち、n型Al0.8Ga0.2As層とした。また、反射層は、屈折率差を大きく取ることができる組み合わせとして、n型Al0.4Ga0.6As層とn型AlAs層とを20ペア積層して設けた。
【0059】
以上により、本実施例に係るエピタキシャルウエハは、630nm帯の発光波長を有するアンドープ(Al0.1Ga0.90.5In0.5P活性層を備える赤色LED用エピタキシャルウエハとして構成される。
【0060】
(電極の形成)
次に、上述の実施形態と同様の手法で、表面電極および裏面電極を形成した。このとき、略円形の表面電極のサイズを直径100μmとした。
【0061】
続いて、上述の実施形態と同様の手法で、上記のそれぞれのウエハに対し、チップサイズが9mil角(1mil≒25.4μm)となるようダイシングを行い、異なる層厚の
酸素吸着層を有する半導体発光素子をそれぞれ複数個製作した。それぞれの半導体発光素子は、630nm帯の発光波長を有する赤色LEDとして構成されている。
【0062】
(半導体発光素子の実装)
その後、上述の実施形態と同様の手法で、上記それぞれの半導体発光素子の実装を行った。
【0063】
(反射層の酸素濃度測定)
上記のように製作された、層厚が0nm、50nm、75nm、100nm、150nm、200nmの、n型Al0.8Ga0.2As層からなる酸素吸着層(但し、0mmでは酸素吸着層なし)を有する半導体発光素子それぞれについて、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により、反射層に混入される酸素濃度
を測定した。結果を、図4に示す。
【0064】
図4は、それぞれの半導体発光素子が有する反射層中の酸素濃度を示すグラフである。図4の横軸は、酸素吸着層としてのn型Al0.8Ga0.2As層の厚さ(nm)であり、図4の縦軸は、反射層中の酸素濃度(cm−3)の最大値である。
【0065】
図4に示すように、n型Al0.8Ga0.2As層の厚さが0nm及び50nmのと
きの反射層中の酸素濃度は、5×1018cm−3〜6×1018cm−3程度であった。これに対して、n型Al0.8Ga0.2As層の厚さが75nm以上のときの反射層中の酸素濃度は、3×1018cm−3〜3.3×1018cm−3程度まで低減し、また、0nm〜200nmまでの層厚において、酸素濃度の値が略安定していた。
【0066】
以上の結果から、酸素吸着層を設けることで、反射層中の酸素濃度を低減することができ、また、酸素吸着層の厚さが75nm以上の領域において、反射層中の酸素濃度が低濃度に略安定していることがわかった。
【0067】
(半導体発光素子の信頼性試験)
次に、試験電流Ifを50mA、試験温度を室温、測定電流を20mAとして、上記酸素吸着層の層厚が異なる半導体発光素子それぞれに通電し、通電時間が0時間(hr)、100hr、500hr、1000hrのときの発光強度Poを測定した。結果を、図5に示す。
図5は、それぞれの半導体発光素子の信頼性を示すグラフである。図5の横軸は、通電時間(hr)である。図5の縦軸は、半導体発光素子の発光強度ΔPo(%)である。発光強度(相対発光強度)ΔPo(%)は、通電時間が0hrのときの発光強度Poを100%とし、それに対する100hr後、500hr後、1000hr後の発光強度をパーセンテージで表したものである。本実施例では、ΔPo(%)を半導体発光素子の信頼性を表す指標とした。
【0068】
図5に示すように、n型Al0.8Ga0.2As層の厚さが0nm及び50nmの半導体発光素子(図中、■印及び◇印)では、通電時間が長くなるとともに発光強度ΔPoが低下し続けてしまう。これに対して、n型Al0.8Ga0.2As層の厚さが75nm以上の半導体発光素子(図中、75nmが◆印、100nmが○印、150nmが□印、200nmが●印)では、通電時間が100hrまでは低下傾向にあった発光強度ΔPoが、500hrでは低下が略止まり、500hr以降は安定した数値を保っている。
【0069】
以上の結果から、n型Al0.8Ga0.2As層からなる酸素吸着層を75nm以上とすることで、安定した発光強度ΔPoが得られ、半導体発光素子の信頼性が向上することがわかった。
【0070】
(2)実施例2
上述の実施例1と同様の測定・試験を、酸素吸着層のAl組成比X=0.6、すなわち、n型Al0.6Ga0.4As層である酸素吸着層を有する半導体発光素子に対して行った。その結果、反射層中の酸素濃度は、実施例1よりも若干高めであるものの、上述の実施例1と同様、酸素吸着層の層厚が50nmまでは不安定な発光強度ΔPoであったが、75nm以上では安定した発光強度ΔPoが得られた。
【符号の説明】
【0071】
1,2 半導体発光素子
10 n型GaAs基板(基板)
20,21 バッファ層
20a,21a n型AlGa1−XAs層(酸素吸着層)
20b n型GaAs層
30 反射層
40 発光層
41 n型AlGaInPクラッド層(第1クラッド層)
42 アンドープAlGaInP活性層(活性層)
43 p型AlGaInPクラッド層(第2クラッド層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられるバッファ層と、
前記バッファ層上に低屈折率層と高屈折率層とを複数ペア積層して設けられる反射層と、
前記反射層上に第1クラッド層、活性層、第2クラッド層を積層して設けられる発光層と、を有する半導体発光素子において、
前記バッファ層は、酸素吸着層を含む
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記酸素吸着層は、層厚が75nm以上200nm以下のAlGa1−XAs層(但し、0.6≦X≦1)を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記酸素吸着層は、層厚が75nm以上200nm以下の、前記基板側から前記反射層側に向かってAl組成比Xが徐々に小さくなるグレーデッドAlGa1−XAs層(但し、0.6≦X≦1)を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記反射層中の酸素濃度が4.0×1018cm−3以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項5】
気相成長法を用いて基板上にバッファ層、低屈折率層と高屈折率層とからなる反射層、第1クラッド層と活性層と第2クラッド層とからなる発光層を成長させる半導体発光素子の製造方法において、
前記バッファ層は、酸素吸着層を含み、
前記酸素吸着層を、
V族原料ガスとIII族原料ガスとのモル比率であるV/III比を30以上150以下とし、成長温度を580℃以上650℃以下として、AlGa1−XAs(但し、0<X<1)、AlAs、AlGaInP、AlInP、AlGaP、AlAsPのいずれかの組成を含むよう成長させ、或いは、
前記V/III比を低減し、成長温度を低温にして、GaAs、InGaP、InP、G
aP、InGaAs、InGaAsP、GaAsP、InAsPのいずれかの組成を含むよう成長させる
ことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−174876(P2012−174876A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35118(P2011−35118)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】