説明

半導体発光素子

【課題】放熱性に優れているとともに適切に製造することが可能である半導体発光素子を提供する。
【解決手段】支持基板1と、支持基板1に支持されたp−GaN層2と、支持基板1に対してp−GaN層2よりも離間した位置に配置されたn−GaN層4と、p−GaN層2とn−GaN層4との間に配置された活性層3と、を備える半導体発光素子Aであって、支持基板1は、その厚さt1が200μm以上、1000μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体層を有する半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体発光素子の製造方法の一つとして、サファイア基板に半導体層を成膜した後に、上記半導体層のうち上記サファイア基板とは反対側部分に支持基板を接合し、レーザ光による加熱を利用して上記サファイア基板を剥離するという手法が用いられている(たとえば特許文献1参照。)。図7は、このような製造方法によって製造された半導体発光素子の一例を示している。同図に示された半導体発光素子Xは、p側電極91aが形成された支持基板91上に、半導体層としてのp−GaN層92、活性層93、およびn−GaN層94が積層された構造とされている。n−GaN層94の上面にはn側電極94aが形成されている。p−GaN層92からの正孔とn−GaN層94からの電子が活性層93において再結合することにより、半導体発光素子Xの発光がなされる。
【0003】
しかしながら、半導体発光素子Xを製造する際には、主に支持基板91の厚さに起因すると考えられる不具合が発生することが、発明者の研究によって明らかになってきた。まず、支持基板91の厚さが薄すぎると、半導体発光素子Xの製造中に支持基板91が割れてしまうことがある。これは、半導体発光素子Xの歩留まりを下げる要因となる。また、半導体発光素子Xを複数個取りすることが可能であるサイズの支持基板91を用いて半導体発光素子Xを製造する場合、支持基板91はダイシングテープに貼付された状態でダイシングされる。この際、支持基板91が厚すぎると、上記ダイシングテープから支持基板91が剥がれてしまうことがある。これらに加えて、支持基板91は、半導体発光素子Xが使用されたときに発する熱を適切に放散させる機能を発揮することも望まれる。従来の半導体発光素子Xにおいては、支持基板91の厚さを設定する際に、これらの問題点はほとんど考慮されていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−168820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、放熱性に優れているとともに適切に製造することが可能である半導体発光素子を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供される半導体発光素子は、基板と、上記基板に支持されたp型半導体層と、上記基板に対して上記p型半導体層よりも離間した位置に配置されたn型半導体層と、上記p型半導体層と上記n型半導体層との間に配置された活性層と、を備える半導体発光素子であって、上記基板は、その厚さが200μm以上、1000μm以下であることを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、上記基板の厚さを200μm以上とすることにより、上記半導体発光素子の製造工程において上記基板が不意に割れてしまうことを防止することができる。また、上記基板の厚さを1000μm以下とすることにより、上記半導体発光素子を複数個取りできるサイズの上記基板にダイシングテープを貼付した状態で、上記基板にダイシングを施す際に、上記基板が上記ダイシングテープから剥がれてしまうことを回避することができる。以上より、上記半導体発光素子の製造工程における歩留まりを向上させつつ、上記半導体発光素子をスムーズに製造することができる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記基板は、CuまたはAlNからなる。このような構成によれば、上記半導体発光素子が使用されるときに発生する熱を上記基板を介して適切に放散することが可能である。したがって、上記半導体発光素子が過度に高温となることを防止することができる。
【0009】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る半導体発光素子の一実施形態を示している。本実施形態の半導体発光素子Aは、支持基板1、p側電極21、反射層22、マスク層23、ZnO電極24、p−GaN層2、活性層3、n−GaN層4、およびn側電極41を備えており、たとえば青色光または緑色光などを発光可能に構成されている。
【0012】
支持基板1は、p側電極21、反射層22、マスク層23、ZnO電極24、p−GaN層2、活性層3、n−GaN層4、およびn側電極41を支持している。支持基板1は、たとえばCuまたはAlNなどの熱伝導率が高い材質によって形成されている。支持基板1の厚さt1は、200〜1000μmとされている。
【0013】
p側電極21は、支持基板1の図中上面の全面にわたって形成されている。p側電極21は、たとえばAu−SnまたはAuからなる。
【0014】
反射層22は、図中上方から順にたとえばAl、Ti、Pt、Auが積層された構造とされている。比較的反射率が高いAlからなる層を有することにより、反射層22は、活性層3から発せられた光を図中上方に向けて反射可能とされている。また、反射層22は、p側電極21とZnO電極24とを導通させている。上記Alに代えてAgを用いてもよい。
【0015】
マスク層23は、後述する半導体発光素子Aの製造工程において、ZnO電極24、p−GaN層2、活性層3、およびn−GaN層4をエッチングする際にエッチングマスクとして用いられるものである。マスク層23は、たとえばSiO2などの誘電体からなる。マスク層23には、スルーホール23aが形成されている。スルーホール23aは、反射層22とZnO電極24とを接触させることにより互いに導通させるためのものである。
【0016】
ZnO電極24は、透明導電酸化物のひとつであるZnOからなり、活性層3からの光を透過させつつ、p−GaN層2と反射層22とを導通させている。ZnO電極24は、その抵抗率が約2×10-4Ωcmと比較的低抵抗とされており、その厚さが1000〜20000Å程度とされている。
【0017】
p−GaN層2は、p型のドーパントであるMgがドープされたGaNからなる層であり、本発明で言うp型半導体層の一例である。p−GaN層2と活性層3との間には、アンドープのGaN層(図示略)または1%程度のInを含むInGaN層(図示略)が形成されている。
【0018】
活性層3は、InGaNを含むMQW構造とされた層であり、電子と正孔とが再結合することにより発せられる光を増幅させるための層である。活性層3は、複数のInGaN層が積層された構造とされている。これらのInGaN層は、その組成がInXGa1-XN(0≦X≦0.3)であるものとInYGa1-YN(0≦Y≦0.1、かつY≦X)であるものとの2種類とされている。InXGa1-XNからなる層が井戸層であり、InYGa1-YNからなる層がバリア層である。これらの井戸層とバリア層とは、交互に積層されている。活性層3とn−GaN層4との間には、SiがドープされたInGaNとGaNとからなる超格子層(図示略)が形成されている。
【0019】
n−GaN層4は、n型のドーパントであるSiがドープされたGaNからなる層であり、本発明で言うn型半導体層の一例である。n−GaN層4の図中上面には、複数の凸部4aが形成されている。凸部4aは、コーン状とされている。本実施形態においては、凸部4aの底部の幅Wcは、活性層3から発せられる光のピーク波長をλ、n−GaN層4の屈折率をnとした場合に、幅Wcの平均値Wc’がWc’=λ/nの関係を満たすものとされている。たとえば、活性層3からの光のピーク波長λが460nm、n−GaN層4の屈折率nが約2.5である場合、Wc’は約184nm以上となる。また、本実施形態においては、凸部4aの高さは、2μm程度とされている。n−GaN層4には、n側電極41が形成されている。n側電極41は、たとえばn−GaN層4側から順にAl、Ti、AuまたはAl、Mo、Auが積層された構造となっている。
【0020】
本実施形態においては、n−GaN層4の厚さt2は、数式1によって決定されている。数式1の右辺第1項は、円筒座標系における電気抵抗とpn接合された半導体の順方向電流電圧特性との関係からn側電極41を中心としたn−GaN層4における電流の広がりを考慮した場合の厚さt2を規定する項であり、右辺第2項に置かれたxは、上述した凸部4aの高さに相当する補正項である。
【0021】
【数1】

ただし、0.1μm≦x≦3.0μm
L:半導体発光素子Aの代表長さ
W:n側電極41の代表長さ
T:絶対温度
0:n側電極41とn−GaN層4との接触部分における電流密度
e:素電荷
γ:ダイオードの理想係数
κB:ボルツマン定数
ρ:n−GaN層4の比抵抗
【0022】
本実施形態においては、円形状とされたn側電極41の直径Wが100μm程度、矩形状とされたn−GaN層4の一辺の長さLが250μm程度であることにより、n−GaN層4の厚さtが1.1μm程度とされている。なお、n側電極41および半導体発光素子Aの代表長さとは、これらが円形状である場合にはその直径を指し、これらが矩形状である場合には、その一辺の長さを指す。
【0023】
次に、半導体発光素子Aの製造方法について、図2〜図6を参照しつつ、以下に説明する。
【0024】
まず、サファイア基板50をMOCVD法用の成長室内に載置する。この成長室内にH2ガスを供給しながら、この成長室内の温度を約1,050℃とすることにより、サファイア基板50を洗浄する。
【0025】
次に、図2に示すように、MOCVD法を用いて、上記成長室内の温度である成膜温度を約600℃とした状態で、サファイア基板50上にGaNバッファ層(図示略)を形成し、この後に成膜温度を約1000℃とした状態でSiをドーパントとするn−GaN層4、SiをドーパントとするInGaN−GaNの超格子層(図示略)、MQW活性層3、およびアンドープのGaN層または約1%のInを含むInGaN層(図示略)を順次積層する。次いで、成長温度を若干上昇させた状態で、Mgをドーパントとするp−GaN層2を形成する。p−GaN層2には、Mgを活性化させるためのアニールを施す。そして、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシー)法を用いて、ZnO電極24を形成する。この後に、SiO2からなるマスク層23を形成する。
【0026】
次に、図3に示すように、フォトリソグラフィー技術によりレジスト膜51を形成する。この後に、レジスト膜51をマスクとして、エッチングによりマスク層23にパターニングを施す。そして、レジスト膜51を除去する。マスク層23を用いたICP(誘導結合型プラズマ)エッチングによりZnO電極24からn−GaN層4までをメサエッチングする。
【0027】
次に、図4に示すように、CF4ガスを用いたドライエッチングにより、マスク層23に対してパターニングを施す。これにより、反射層22とZnO電極24とを接触させるためのスルーホール23aをマスク層23に形成する。この際、ZnO電極24はエッチングストッパーとして機能する。スルーホール23aを形成した後は、レジスト膜52を形成する。また、AlあるいはAgを蒸着させ、さらにTi、Pt、Auを順次積層することにより金属層22Aを形成する。そして、レジスト膜52と金属層22Aの一部とを除去することにより、反射層22を形成する。
【0028】
次に、図5に示すように、厚さt1が200〜1000μmである支持基板1を用意し、この支持基板1上にAu−SnまたはAuからなるp側電極21を形成する。このp側電極21と反射層22とを熱圧着によって接合する。この後に、約248nmで発振するKrFレーザをサファイア基板50を透してn−GaN層4に向けて照射する。これにより、サファイア基板50とn−GaN層4との界面(上述したGaNバッファ層(図示略))が急激に昇温される。そして、この界面付近のn−GaN層4と上記GaNバッファ層とが溶解することとなり、サファイア基板50を剥離することができる。この工程は、一般にLLO(Laser Lift Off)工程と呼ばれる。
【0029】
次に、n−GaN層4上にAl、Ti、AuまたはAl、Mo、Auからなる金属層(図示略)を形成する。この金属層に対してパターニングを施すことにより、図6に示すようにn側電極41を形成する。サファイア基板50が剥離された後のn−GaN層4の表面は、Ga極性面ではなく、エッチングによって異方性が発生しやすいN極性面となっている。この状態で、n−GaN層4を約62℃の約4mol/lのKOH溶液に浸漬させながら、約3.5W/cm2の紫外線(UV)光を約10分間照射する。これにより、n−GaN層4の表面に、底面の幅Wcの平均値Wc’が上述した関係を満たす複数の凸部4aを形成することができる。また、この結果、n−GaN層4の厚さt2を、数式1の関係を満たすものとすることができる。
【0030】
次に、半導体発光素子Aの作用について説明する。
【0031】
支持基板1の厚さt1を200μm以上とすることにより、半導体発光素子Aの製造工程において支持基板1が不意に割れてしまうことを防止することが可能である。これにより、半導体発光素子Aの歩留まりを向上させることができる。また、半導体発光素子Aの製造工程においては、複数個取りが可能であるサイズの支持基板1にダイシングテープを貼付した状態で、支持基板1にダイシングが施される。支持基板1の厚さt1を1000μm以下とすることにより、上記ダイシングにおいて支持基板1を適度に撓ませることが可能であり、支持基板1が上記ダイシングテープから剥がれてしまうことを防止することができる。以上より、本実施形態の半導体発光素子Aによれば、製造工程における歩留まりを向上させつつ、スムーズに製造することができる。
【0032】
また、支持基板1は、CuまたはAlNによって形成されていることにより、比較的熱伝導率が高いものとされている。これにより、支持基板1は、半導体発光素子Aが通電されることにより発生する熱を外部へと放散する機能を発揮する。したがって、半導体発光素子Aが使用される際にその温度が過度に上昇することを回避することができる。
【0033】
n−GaN層4の厚さt2が数式1の関係を満たすものとされていることにより、n側電極41からの電流がn−GaN層4をその厚さ方向に通過する前に、この電流をn−GaN層4の面内方向に十分に広げることが可能である。これにより、n−GaN層4、活性層3、およびp−GaN層2それぞれの全域に電流を流すことができる。したがって、活性層3の全体を利用して合理的に発光させることが可能であり、半導体発光素子Aの光量増加を図ることができる。
【0034】
さらに、n−GaN層4に複数の凸部4aを設けることにより、活性層3からの光がn−GaN層4の表面によって全反射されることを抑制することができる。これにより、n−GaN層4からの出射光量を増大させることが可能であり、半導体発光素子Aの高輝度化を図ることができる。
【0035】
本発明に係る半導体発光素子は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る半導体発光素子の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0036】
本発明で言うn型半導体層およびp型半導体層は、n−GaN層およびp−GaN層に限定されず、活性層に電子および正孔を注入可能な半導体層であればよい。また、本発明で言う活性層は、MQW構造に限定されない。本発明に係る半導体発光素子は、青色および緑色光のほかに白色光など、様々な波長の光を発する構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る半導体発光素子の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に示す半導体発光素子の製造工程において、サファイア基板に半導体層を積層する工程を示す断面図である。
【図3】図1に示す半導体発光素子の製造工程において、半導体層のエッチング工程を示す断面図である。
【図4】図1に示す半導体発光素子の製造工程において、反射層を形成する工程を示す断面図である。
【図5】図1に示す半導体発光素子の製造工程において、サファイア基板を剥離する工程を示す断面図である。
【図6】図1に示す半導体発光素子の製造工程において、複数の凸部を形成する工程を示す断面図である。
【図7】従来の半導体発光素子の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
A 半導体発光素子
1 支持基板の厚さ
1 支持基板(基板)
2 p−GaN層(p型半導体層)
3 活性層
4 n−GaN層(n型半導体層)
21 p側電極
41 n側電極
22 反射層
23 マスク層
24 ZnO電極
50 サファイア基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板に支持されたp型半導体層と、
上記基板に対して上記p型半導体層よりも離間した位置に配置されたn型半導体層と、
上記p型半導体層と上記n型半導体層との間に配置された活性層と、を備える半導体発光素子であって、
上記基板は、その厚さが200μm以上、1000μm以下であることを特徴とする、半導体発光素子。
【請求項2】
上記基板は、CuまたはAlNからなる、請求項1に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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