半導体発光素子
【課題】 ZnO系化合物半導体層のn型層とn側電極とのオーミックコンタクトを改良し、動作電圧を下げる半導体発光素子を提供する。
【解決手段】 基板1上に設けられ、少なくともn型層4を有するZnO系化合物半導体の積層により発光層を形成する発光層形成部11を有するZnO系化合物半導体素子であって、ZnO系化合物半導体のn型層4に接触して設けられるn側電極9は、n型層4に接する部分がAlを含まないTiまたはCrにより形成されている。
【解決手段】 基板1上に設けられ、少なくともn型層4を有するZnO系化合物半導体の積層により発光層を形成する発光層形成部11を有するZnO系化合物半導体素子であって、ZnO系化合物半導体のn型層4に接触して設けられるn側電極9は、n型層4に接する部分がAlを含まないTiまたはCrにより形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外から黄色程度の青色系の短波長で発光する発光ダイオードやレーザダイオードなどの化合物半導体発光素子およびその製法に関する。さらに詳しくは、ZnO系化合物半導体をメインとして、結晶性に優れ、取扱が容易な半導体発光素子およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルカラーディスプレーや、信号灯などの光源に用いられる青色系の発光ダイオード(以下、LEDという)や、室温で連続発振する次世代の高精細DVD光源用などに用いる青色系のレーザダイオード(以下、LDという)は、最近サファイア基板上にGaN系化合物半導体を積層することにより得られるようになり脚光を浴びている。従来のこの種の青色系(紫外線から黄色近傍の色を意味する、以下同じ)の半導体発光素子は、たとえば図47にLDの一例の構造図が示されるように、サファイア基板71上にIII 族チッ化物化合物半導体(GaN系化合物半導体)が有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition 以下、MOCVDという)により順次積層されるもので、GaN緩衝層72、n型GaN層73、In0.1 Ga0.9 Nからなるn型応力緩和層74、Al0.12Ga0.88Nからなるn型クラッド層75、GaNからなるn型光ガイド層76、InGaN系化合物半導体の多重量子井戸構造からなる活性層77、p型GaNからなるp型光ガイド層78、p型Al0.2 Ga0.8 Nからなるp型第1クラッド層79、Al0.12Ga0.88Nからなるp型第2クラッド層80、p型GaNからなるコンタクト層81が順次積層され、積層された半導体層の一部が図47に示されるようにドライエッチングなどによりエッチングされてn型GaN層73を露出させ、その表面にn側電極83、前述のコンタクト層81上にp側電極82がそれぞれ形成されることにより構成されている。
【0003】
また、1997年に徳島で開かれた第2回ICNS(International Conference on Nitride Semiconductors)において、基板に6H−SiCを用いてGaN系化合物半導体を積層する構造の半導体発光素子が発表されているが、基板が変っているだけでチッ化ガリウム系(GaN系)化合物半導体の積層構造については、前述の構造と同様である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような青色系の波長の短い半導体発光素子用のIII 族チッ化物化合物半導体は、熱的、化学的に非常に安定であり、信頼性が高く、長寿命化という点においては、非常に優れた性質を有している。しかし、安定であるがゆえに、良好な結晶性を有する半導体層を得るためには、たとえば特許公報第2713094号に示されるように、1000℃程度の非常に高温で成長をしなければならない。一方、活性層のようにInを含有する半導体層は、元素InとGaNとが混晶しにくく、かつ、Inの蒸気圧が高いため、十分なInを入れようとすると700℃程度またはそれ以下の温度でしか結晶を積むことができない。そのため、結晶性の優れた半導体層に必要な高温にできないため、結晶性のよい半導体層を得ることができず、発光効率が低下したり、寿命特性が低下するという問題がある。
【0005】
また、AlGaN/InGaN/GaN系により構成される半導体レーザは、重要な物性としての欠点を有している。すなわち、InGaN/GaN系は格子不整合系であり、InGaN活性層には常にストレスによる内部電界(ピエゾ電界)が発生している。とくにInGaN材料はピエゾ電界が強く発生する材料固有の物性を有している。この内部電界が大きいと、電子とホールが空間的に分離されてしまうことにより、再結合確率が小さくなり、半導体レーザの閾値が上昇する。そのため、InGaN活性層にSiなどをドーピングしてクーロンポテンシャル遮蔽効果を発生させ、内部電界を小さくすることにより、閾値の低減を実現している。一方、不純物をドーピングすると、非発光再結合中心の発生を避けることができず、発光以外の過程にキャリアが消費され、逆に閾値の上昇、発光中の素子の温度上昇を招き、素子の寿命向上、とくに高出力化時の寿命向上の妨げになるため、半導体レーザでは活性層へのドーピングを避けなければならない。そのため、ドーピングにより閾値を下げることはできない。
【0006】
このように、従来の青色系半導体発光素子の活性層に用いられるInGaN系材料は、格子不整合に伴うストレスにより、閾値が上昇しやすいという問題がある。一方、GaNに対して、Inを混晶させると格子定数が小さくなり、Alを混晶させると格子定数が大きくなるため、AlGaNからなるクラッド層によりInGaNからなる活性層を挟持する構造の青色の半導体発光素子ではこのストレスを解消することができない。
【0007】
さらに、Inを含有しないIII 族チッ化物化合物半導体層も、その成長装置の大半は、真空装置であり、1000℃近辺の温度を保って結晶成長を続けることは装置の負担が重いと共に、リークなどの故障が多発しやすく、装置を安定に稼働させることが非常に困難であるという問題がある。
【0008】
また、III 族チッ化物化合物半導体は安定であるため、化学薬品によるウェットエッチングが非常に困難で、とくにレーザ素子を構成するときに必要な、内部電流狭窄層の作り込みが不可能であると共に、メサ型形状にするためのエッチングも、たとえばリアクティブイオンエッチング(RIE)などの物理的エッチングをしなければならず、半導体レーザの構造に形成することが非常にプロセス的に困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、酸化物化合物半導体を用いて青色系の半導体発光素子を得ることを試みた。酸化物化合物半導体の1つのZnOは、たとえばPhys.Stat.Sol.202巻(1997年)、669〜672頁に示されるように、レーザMBE法などを用いれば、600℃程度以下の温度でエピタキシャル成長をすることができ、アルカリ溶液に可溶のため、ウェットエッチングが可能であることが知られている。しかし、このZnOは、バンドギャップが3.2eVで、この材料をそのまま活性層に用いても紫外領域の370nm付近での発光にしかならない。たとえば高精細DVDの光源として用いるためには、光ディスク基板の透過率とディスクへの記録密度の両方を満たす必要があり、たとえば機能材料第17巻(1997年)、第8号、18〜25頁に示されているように、その光源の波長領域は400〜430nmの範囲に入ることが要求されている。すなわち、図46に示されるように、波長が短くなると光ディスク基板の透過率が極端に低下し、透過率が75%以上は必要であることから光の波長は400nm以上であることが要求される。また、波長が長くなると記録密度が低下し、高精細なDVDではディスク片面で15GB以上が要求され、この記録密度の要請からは430nm以下であることが要求される。
【0010】
一方、ZnO材料のワイドバンドギャップ化は、たとえばアプライド フィジックス レター(Appl.Phys.Lett. )第72巻(1998年)、第19号、2466〜2468頁、またはマテリアル ソサイアティ フォーラム(Mat.Sci.Forum )264〜268巻、1463〜1466頁、1998年などに示されているように、ZnOとMgOとを混晶化させることにより得られているが、ZnOのナローバンドギャップ化についてはその具体的な方法が知られていない。
【0011】
本発明はこのよな状況に鑑みなされたもので、ZnO材料のナローバンドギャップ化を図ると共に、活性層をクラッド層により挟持する青色系の発光ダイオードやレーザダイオードなどの半導体発光素子の活性層の材料に結晶欠陥の少ない結晶性の優れた酸化物半導体を用いて発光特性を向上させることができる半導体発光素子を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の他の目的は、高精細DVD光源にも用いられるような青色系の半導体レーザを提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、積層された半導体層を、ウェットエッチングをすることができる酸化物半導体により構成し、メサ型形状や内部電流狭窄層(電流制限層)の形成を容易にすることができる半導体レーザなどの発光素子を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、基板に導電性材料を用い、上下両面から電極を取り出すことができる半導体発光素子を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、ZnO化合物半導体のナローバンドギャップ化を図ると共に、ZnO系化合物半導体を用いた半導体発光素子を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、活性層にInGaN系化合物半導体を用いないで青色系の発光をすると共に、活性層に、格子不整合に伴うストレスが加わらない構造の半導体発光素子を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、ZnO系酸化物半導体を用いて発光素子を形成した場合に、各層を結晶性よく成長したり、積層構造、電極構造などを改良することにより、酸化物半導体層の結晶性や導電性などを向上させると共に、外部への光の取出し効率(外部微分量子効率)を向上させ、その発光特性を向上させることにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、ZnO系酸化物半導体のウェットエッチング性を利用して、電流狭窄層を効果的に内部に埋め込んだ高特性の半導体レーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1記載の発明による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられ、電流注入により発光する活性層を該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなるn型およびp型のクラッド層とにより挟持する発光層形成部とを有する半導体発光素子であって、前記活性層がCdおよびZnの少なくとも一方を含むZnO系酸化物化合物半導体からなっている。具体的には、前記活性層はたとえばCdx Zn1-x O(0≦x<1)により形成される。
【0020】
なお、ただ単に発光層形成部という場合は、活性層をn型およびp型のクラッド層により挟持されるダブルヘテロ接合構造の他に、pn接合構造、MIS(メタル−絶縁層−半導体層)構造などの発光し得る構造になるように半導体層が積層される部分を含む意味で使用する。
【0021】
この構造にすることにより、所望の波長の光を発光させるバンドギャップの活性層が結晶性のよい半導体層として得られ、高い発光効率の半導体発光素子が得られる。
【0022】
前記クラッド層はZnO系酸化物化合物半導体またはIII 族チッ化物化合物半導体により形成され得る。
【0023】
ここにZnO系化合物半導体とは、Znを含む酸化物、具体例としてはZnOの他IIA族とZnまたはIIB族とZnまたはIIA族およびIIB族とZnのそれぞれの酸化物であることを意味する。また、III 族チッ化物化合物半導体とは、III 族元素のGaとV族元素のNとの化合物またはIII 族元素のGaの一部または全部がAl、Inなどの他のIII 族元素と置換したものおよび/またはV族元素のNの一部がP、Asなどの他のV族元素と置換した化合物からなる半導体を意味し、チッ化ガリウム系(GaN系)化合物半導体ともいう。
【0024】
請求項5記載の発明による半導体発光素子は、電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面から挟持するクラッド層とを有する半導体発光素子であって、前記クラッド層がZnまたはMgとZnを含むZnO系酸化物化合物半導体からなっている。具体的には、前記クラッド層が、たとえばMgy Zn1-y O(0≦y<1)により形成される。
【0025】
前記クラッド層および活性層が積層される基板が、GaN、SiCを表面に形成したSi、単結晶SiC、サファイアの群から選ばれる1種であることが、格子整合の点から好ましい。
【0026】
前記活性層が、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造であれば、発光効率が向上し、高出力の半導体レーザが得られるため好ましい。
【0027】
電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面から挟持するn型およびp型のクラッド層とを有し、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)からなり、前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなり、内部電流狭窄層が作り込まれることにより、電流注入領域を厳密に規定できる半導体レーザが得られる。
【0028】
請求項10記載の発明によるZnO化合物半導体のナローバンドギャップ化方法は、CdOとZnOとを固溶化して、一般式がCdx Zn1-x O(0≦x<1)で表される混晶とすることにより、ZnOのバンドギャップを小さくするものである。
【0029】
請求項1記載の発明において、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)のバルク層またはCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、前記活性層のn型クラッド層側およびp型クラッド層側の少なくとも一方側に、前記活性層よりバンドキャップが大きく、かつ、前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する組成の材料の格子定数とほぼ等しくなるような組成の材料からなるストレス緩和層が前記活性層と接して設けられている。この構造にすることにより、活性層と直接接触し、ダブルヘテロ接合を構成するバンドギャップの大きい半導体層を活性層とほぼ同じ格子定数の層で構成することができるため、活性層へのストレスは殆どかからず、クラッド層などからの格子不整合に伴うストレスはストレス緩和層により吸収される。
【0030】
ここに「バルク層」とは、xが一定の1層で活性層が構成される層を意味し、「Cdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造」とは、xがある値のウェル層と、xの異なる値のバリア層とが1組または複数組み交互に積層される構造を意味する。また、「前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する」とは、ストレス緩和層が設けられる側の活性層の該ストレス緩和層と接触する部分を意味し、n側およびp側の両側にストレス緩和層が設けられる場合には、それぞれの両側の接触する部分を意味する。さらに、「格子定数がほぼ等しい」とは、格子不整合に伴うストレスによる内部電界が殆ど発生しない程度に小さくなる関係を意味する。
【0031】
前記ストレス緩和層がMgw Zn1-w O(0≦w<1)からなり、前記クラッド層がMgおよびZnを含む酸化物化合物半導体からなることにより、ウェットエッチングをすることができる材料により青色系の半導体発光素子を実現できる。
【0032】
請求項13記載の発明による半導体レーザは、電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面側から挟持するn型およびp型のクラッド層とを有し、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、前記活性層のn型クラッド層側およびp型クラッド層側の少なくとも一方側に、Mgw Zn1-w O(0≦w<1)からなり、前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する組成の格子定数とほぼ等しくなるような組成からなるストレス緩和層が前記活性層と接して設けられている。
【0033】
前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなり、前記ストレス緩和層と前記n型またはp型クラッド層との間に光ガイド層が設けられる構造でもよい。
【0034】
請求項4記載の発明において、前記活性層と上部クラッド層との間の少なくとも前記活性層側に低温ZnO層が設けられてもよい。この構造にすることにより、活性層の上に低温のZnO層が成膜されているため、その上にZnOやMgZnOなどが高温で成長されても、活性層の蒸気圧の高いCdは、低温ZnO層によりその蒸発が抑制される。一方、低温ZnO層が設けられる際は、活性層の成長温度と同程度の低温で成長されるため、Cdの蒸発は抑制される。その結果、活性層のCdを蒸発させることなく各半導体層を成長することができ、青色系の中でも波長の長い発光をさせることができると共に、活性層の結晶性が向上して発光特性を向上させることができる。なお、この低温のZnO層は、低温で成長されるため結晶性が劣るが、すでに活性層は積まれているため、活性層の結晶性には影響がないと共に、非常に薄くてもCdの蒸発を防止することができ、たとえば100〜1000Å程度に薄く設けられているため、その影響は小さい。しかも、その後の高温でのZnOの成長時の温度で結晶性が修復され、発光特性への影響を殆んどなくすることができる。
【0035】
請求項17記載によるZnO系化合物半導体発光素子の製法は、Cdを含むZnO系化合物半導体からなる活性層をZnO系化合物半導体からなるクラッド層により挟持するZnO系化合物半導体発光素子の製法であって、Cdを含むZnO系化合物半導体からなる活性層を成長した後、該活性層の成長温度と同程度の低温でZnOからなるCdの蒸発防止層を成長し、ついでZnO系化合物半導体層を高温で成長することを特徴とする。
【0036】
請求項18記載による半導体発光素子は、サファイア基板と、該サファイア基板上に設けられるAl2 O3 膜からなるバッファ層と、該バッファ層上に設けられるZnO系化合物半導体からなり、少なくともn型層とp型層とを含み発光層を形成する発光層形成部とを有している。
【0037】
この構造にすることにより、サファイア基板の表面の鏡面にAl2 O3 膜が設けられているので、ZnO系化合物半導体を成長する際に、その表面全面に結晶を成長させる初期の結晶核が生成される。すなわち、サファイア基板の鏡面では、研磨されている関係から初期の結晶核が形成されない部分が生じ、結晶核のない部分では横方向からの成長もないため、前述のように部分的に縦方向の成長が進みにくい結晶粒界が生じることがある。しかし、Al2 O3 膜を予め成膜することにより、サファイア基板とAl2 O3 膜とは、同質の材料であるためしっかりと成膜し、その表面は分子が堆積した状態であるため、ZnO系化合物半導体を成長させる際に、その表面の全面に満遍なく初期の結晶核が生成され、その初期の結晶核をシードとしてZnO系化合物の結晶が成長する。その結果、結晶粒界が生成することなく、均質なZnO系化合物半導体の結晶層を成長することができる。
【0038】
前記発光層形成部が、Cdx Zn1-x O(0≦x<1)からなる活性層をMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなるn型とp型のクラッド層で挟持したダブルヘテロ接合構造を有することにより、青色系の波長に適したバンドギャップエネルギーの活性層をそれよりバンドギャップエネルギーの大きい材料により挟持されるZnO系化合物半導体を用いたダブルヘテロ接合構造を有する高輝度のLEDやLDが得られる。前記活性層がxの異なる値の層が交互に積層されて多重量子井戸構造とされて半導体レーザが形成されることにより、より一層高出力のLDとなる。
【0039】
請求項20記載の半導体発光素子の製法は、サファイア基板上に低温でAl2 O3 膜を堆積し、ついで該サファイア基板を結晶成長し得る温度に上昇してからZnO系化合物半導体からなり、第1導電形層および第2導電形層を含み発光層を形成する発光層形成部を成長することを特徴とする。
【0040】
このように、まず低温でAl2 O3 膜を成膜し、その後結晶成長の高温にすることにより、Al2 O3 膜を成膜する低温では結晶成長をしないため、サファイア基板の表面状態に拘らず全面に均一に成膜され、その後のZnO系化合物半導体を成長するため温度を結晶成長の温度に上昇させることにより、Al2 O3 膜の少なくとも表面側が結晶化し、表面に満遍なく初期の結晶核を生成させやすいため好ましい。
【0041】
請求項21記載による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられ、酸化物化合物半導体層からなり発光層形成部を含む半導体積層部とを有し、前記基板の表面に前記半導体積層部の半導体層を成長する温度より低温でZnを含む酸化物薄膜が緩衝層として設けられ、前記半導体積層部との間に介在されている。
【0042】
この構造にすることにより、基板上に低温でZnを含む酸化物半導体層が設けられるため、基板の状態に拘らず、満遍なく成膜される。その結果、その上にZnOなどの酸化物化合物半導体を成長する際に高温になると、表面に均一に初期の結晶核が生成され、その結晶核をシードとして均質な結晶層が成長する。そのため、基板の拘束を緩和でき、換言すれば基板をある程度任意に選択しながら酸化物化合物半導体層をエピタキシャル成長することができる。しかもその上に成長させるZnO系などの同質の半導体層を成長するため、緩衝層とホモ接合となり、良好な結晶の半導体層を成長しやすい。
【0043】
前記緩衝層が、100〜300℃の間で、MBE(分子線エピタキシー)法、MOCVD(有機金属化学気相成長)法、またはプラズマCVD法により、20〜200nmの厚さに形成されることにより、緩衝層を成膜した後、同じ装置でそのまま酸化物化合物半導体層を成長することができるため、非常に清浄な状態で成長させることができ、一層結晶欠陥の少ない酸化物化合物半導体層を成長することができて好ましい。
【0044】
請求項23記載の半導体発光素子の製法は、基板上に、スパッタ法、真空蒸着法、またはレーザアブレーション法によりZnを含む酸化物薄膜を非晶質または多結晶で成膜し、ついで、前記基板を半導体層のエピタキシャル成長装置に入れて成長温度に基板温度を上昇させ、その後酸化物化合物半導体層を積層して発光層形成部を形成することを特徴とする。
【0045】
この方法によれば、普通の半導体層を成長するのとは、全く別のスパッタ法などによる、薄膜結晶成長とは異なる方式により成膜するため、緻密な膜を成膜することができ、その結晶成長ではない緻密性により、基板の性質がその上に積層される半導体層への影響を阻止することができるため、より一層基板の結晶構造に関係なくどのような基板にも成膜することができる。この場合も前述の場合と同様に、酸化膜化合物半導体層の成長装置で昇温することにより、緩衝層の表面に初期の結晶核が満遍なく生成し、その初期の結晶核をシードとして酸化物化合物半導体層を全面に均一に成長することができる。しかも、たとえばZnOなどはその成長温度も500℃程度と比較的低温であり、GaN系化合物半導体のように1000℃程度以上の高温で成長させる必要がなく、高温に耐え得る基板を選定する必要もなくなる。その結果、基板を自由に選択することができる。
【0046】
請求項24記載の発明による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられる化合物半導体層からなりn型層とp型層とを有し発光層を形成する発光層形成部を含む半導体積層部とからなり、前記半導体積層部における最下層のエピタキシャル成長層の熱膨張係数より大きく、かつ、前記基板の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する材料からなる緩衝層が前記基板と前記半導体積層部との間に設けられている。
【0047】
ここに最下層のエピタキシャル成長層とは、半導体積層部を成長する際の最初にエピタキシャル成長する半導体層を意味する。
【0048】
この構造にすることにより、半導体積層部を成長した後の成長炉の温度を下げる際に、基板の収縮度と、半導体積層部の最下層におけるエピタキシャル成長層の収縮度との、中間の収縮度を有する緩衝層が介在しているため、収縮度の差に基づくクラックが入りにくい。降温の際にクラックが入らなければ、そのクラックに基づきさらにクラックが入るという現象がなくなり、全体としてクラックなどの結晶欠陥の少ない半導体成長層を得ることができる。
【0049】
前記基板がサファイア基板からなり、前記最下層のエピタキシャル成長層がZnO系化合物半導体からなり、前記緩衝層がウルツアイト構造の化合物半導体であれば、ZnO系化合物半導体がウルツアイト構造であるため、緩衝層上にZnO系化合物半導体層を結晶構造よく成長しやすい。
【0050】
前記緩衝層がAlp Ga1-p N(0≦p≦1)であれば、Alp Ga1-p Nは、サファイア基板とZnO系化合物半導体との中間に熱膨張係数があり、結晶構造もZnOと同じウルツアイト構造であるため、とくに好ましい。前記半導体積層部の発光層形成部が、Cdx Zn1-x O(0≦x<1)からなる活性層をMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなるn型とp型のクラッド層で挟持したダブルヘテロ接合構造を有することにより、青色系の波長に適したバンドギャップエネルギーの活性層をそれよりバンドギャップエネルギーの大きい材料により挟持されるZnO系化合物半導体を用いたダブルヘテロ接合構造を有する高輝度のLEDやLDが得られる。また、前記活性層がxの異なる値の層が交互に積層されて多重量子井戸構造とされて半導体レーザが形成されることにより、より一層高出力のLDとなる。
【0051】
請求項27記載によるZnO系化合物半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられ、少なくともn型層を有するZnO系化合物半導体の積層により発光層を形成する発光層形成部を有するZnO系化合物半導体素子であって、前記ZnO系化合物半導体のn型層に接触して設けられるn側電極は、該n型層に接する部分がAlを含まないTiまたはCrにより形成されている。
【0052】
この構造にすることにより、電極材料とn型ZnO系化合物半導体層との間の良好なオーミック接触が得られることが確認され、接触抵抗が小さく、順方向特性の優れたLEDやLDの半導体発光素子が得られる。
【0053】
前記Alを含まないTiまたはCrの層上に、TiとAlが含まれた層が設けられていることにより、ワイヤボンディングなどの他のリードとの接続が非常に良好になるため好ましい。
【0054】
前記TiとAlが含まれた層が設けられた後にアニール処理により該TiとAlとが合金化されると、さらに一層オーミックコンタクト特性が向上する。
【0055】
請求項30記載の発明によるp型ZnO系化合物半導体の成長方法は、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際に、VIIB族の元素を緩衝剤として導入しながらIA族の元素をp型ドーパントとして導入し、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長することを特徴とする。
【0056】
この方法を用いることにより、前述の六方晶系構造に基づきクーロン引力が働くZnとOとの間にVIIB族の元素がクーロン引力を遮蔽するように働き、IA族の元素がZnと置換されp型を呈するようになる。また、クーロンポテンシャルの遮蔽効果によりホールがp型ドーパントの位置に局在しないようになる。このことにより、ホールはお互いの波動関数を重ね合すことが可能となり、結晶全体に広がるようになって、p型が実現する。
【0057】
前記IA族の元素として、Li、Na、KおよびRbの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられ、前記VIIB族の元素として、F、Cl、BrおよびIの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられる。また、前記導入されるIA族の元素のモル数が、前記VIIB族の元素のモル数より大きければ、余分な緩衝剤を相殺することができる。
【0058】
請求項33記載の発明によるp型ZnO系化合物半導体を成長する方法は、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際に、IIIB族の元素を緩衝剤として導入しながらVB族の元素をp型ドーパントとして導入し、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長するものである。
【0059】
この方法によっても、前述の場合と同様に、IIIB族の元素がクーロン引力を遮蔽するように働き、VB族の元素がZnと置換されてp型を呈するようになる。
【0060】
前記VB族の元素として、N、P、AsおよびSbの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられ、前記IIIB族の元素として、B、Al、Ga、InおよびTlの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられる。また、前記導入されるVB族の元素のモル数が、前記IIIB族の元素のモル数より大きいことが、余分な緩衝剤を相殺することができるため好ましい。
【0061】
請求項36記載の発明による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられるZnO系化合物半導体層からなりn型層とp型層とにより発光層を形成する発光層形成部とを有する半導体発光素子であって、前記p型層にn型ドーパントとなり得る元素が緩衝剤として含まれている。
【0062】
請求項37記載の発明による半導体発光素子の製法は、ZnO系酸化物化合物半導体からなる活性層をZnO系酸化物化合物半導体からなるn型層およびp型層により挟持する発光層形成部をMOCVD法によりエピタキシャル成長する半導体発光素子の製法であって、前記p型層の成長を、該半導体層の薄膜を成長する工程、およびp型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、の交互の繰返しにより行うことを特徴とする。
【0063】
この方法を用いることにより、ドーパントガスが分解して半導体層内に入り込むときに、材料ガスの未反応などによる活性な水素原子が周囲にないため、水素と化合することなく半導体層に入り込む。その結果、半導体層に入り込んだドーパントが充分に機能し、キャリア濃度の高いp型半導体層が得られる。
【0064】
請求項38記載の発明による化合物半導体の気相成長方法は、p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する方法であって、化合物半導体層を成長する反応ガスを成長装置内に導入して該半導体層の薄膜を成長する工程、および該工程の後に前記半導体層を成長する反応ガスをパージし、その後p型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、を交互に繰り返すことによりp型半導体層を成長することを特徴とする。こうすることにより、反応ガスから分解して発生しやすい水素原子を完全に追い出すことができるため一層好ましい。
【0065】
前記半導体層を成長する反応ガスとして、H2 SeやH2 Sのように材料と直接水素が化合する構造ではない有機金属材料のみを使用することが、反応ガスから水素原子が離脱しやすいため、少々反応ガスが残存していてもその影響がなくなるため好ましい。
【0066】
前記反応ガスをパージするのに、チッ素または0族の希ガスを前記成長装置内に導入することにより反応ガスを完全に追い出すことができ、その影響をなくすることができるため好ましい。なお、キャリアガスとして使用する水素ガスは、水素分子となっているため、半導体の成長温度程度では分解しにくく殆ど影響がないが、キャリアガスも不活性ガスを用いればなお一層好ましい。
【0067】
p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する場合に、p型ドーパントガスとして、該ドーパントの元素が水素原子と直接結合しない構造の材料を用いることにより、ドーパントガスからの水素原子の発生も防止することができ、より一層確実にドーパントと水素との化合を防止することができるため好ましい。なお、このp型ドーパントガスの使用は、前述の成長とドーピングの繰返し工程を行う方法と関係なく効果がある。
【0068】
請求項42記載の発明によるZnO系化合物半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられるZnO系化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部を有するZnO系化合物半導体素子であって、前記ZnO系化合物半導体層にC元素が含まれている。すなわち、Znの材料として、有機金属化合物を用いているため、有機金属の炭素と水素との結合は弱くて切れやすく、水素は抜けやすいが、ZnとCとは結合エネルギーが大きく結合した状態のものも存在した状態でOと化合する。その結果、ZnとCとが結合した状態のものが存在し、結晶成長中のZnの蒸発を防止することができる。
【0069】
前記C元素はZnO系化合物半導体層を成長する際のZn材料として用いられる有機金属材料のCが存在し得る。
【0070】
請求項44記載の発明によるZnO系化合物半導体発光素子の製法は、基板上にZnO系化合物半導体層を積層して発光層を形成するZnO系化合物半導体発光素子を製造する場合に、前記ZnO系化合物のZn材料としてZnの有機金属化合物を前記基板の表面に照射しながら該基板表面で反応させて前記ZnO系化合物半導体を前記基板上にエピタキシャル成長することを特徴とする。
【0071】
ここに「基板の表面に照射しながら該基板表面で反応させて」とは、MOCVD(有機金属化学気相成長)法のようにチャンバー内の全体で反応させるのではなく、MBE(分子線エピタキシー)法などのように基板上または基板の表面で相互の材料が初めて出会って反応する状態を意味する。
【0072】
請求項45記載の発明による半導体レーザは、基板と、該基板上に設けられる第1導電形半導体からなる第1クラッド層と、該第1クラッド層上に設けられる活性層と、該活性層上に設けられる第2導電形半導体からなる第2クラッド層と、該第2クラッド層の内部またはその近傍に設けられる電流狭窄層とを有し、前記電流狭窄層がIA族またはVB族の元素がドーピングされたZnO系化合物半導体からなっている。
【0073】
前記第1クラッド層、活性層、および第2クラッド層が、たとえばZnO系またはGaN系化合物半導体(III 族チッ化物化合物半導体)により形成されることにより、電流注入領域を効率よく狭窄し、発振効率の向上したた青色系の半導体レーザが得られる。
【0074】
この構造にすることにより、ZnO系またはGaN系の化合物半導体を用いた青色系の半導体レーザにおいて、同様の半導体層の結晶成長により、絶縁化した電流狭窄層を連続的に半導体層の成長により形成することができ、活性層の近くに作り込むことができる。しかも、ZnO系化合物半導体により電流狭窄層が形成されているため、ウェットエッチングにより電流注入部が簡単に形成される。そのため、正確に電流を必要な領域のみに注入することができると共に、半導体層へのダメージが小さく、再度その上に半導体層をエピタキシャル成長する場合も結晶性のよい半導体層を成長することができ、閾値が下がり発振効率の優れた高特性の半導体レーザが得られる。
【0075】
前記電流狭窄層が、Mgz Zn1-z O(0≦z<1)からなることにより、屈折率が小さくなり、活性層に近付けて配置されても活性層で発光する光を吸収しないため、活性層へ近付けて設けることができると共に、実屈折率導波型の半導体レーザが得られる。
【0076】
請求項48記載の発明による半導体レーザは、基板と、該基板上に設けられる第1導電形半導体からなる第1クラッド層と、該第1クラッド層上に設けられる活性層と、該活性層上に設けられる第2導電形半導体からなる第2クラッド層と、該第2クラッド層の内部またはその近傍に設けられるMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる電流狭窄層とを有し、前記電流狭窄層の前記基板側にCds Zn1-s O(0<s<1)またはBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層が設けられている。
【0077】
この構造にすることにより、Cds Zn1-s Oは酸性のエッチング液にはエッチングレートが大きいが、アルカリ性のエッチング液にはエッチングレートが小さいため、アルカリ性のエッチング液によりエッチングすることにより、選択性よくMgz Zn1-z Oからなる電流狭窄層をエッチングすることができる。また、Cds Zn1-s Oはsの値が小さくなるに連れてバンドギャップエネルギーが大きくなり、活性層のCdZnOのバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーのCdZnOを用いることにより、光の吸収をなくすることができる。さらに、Bet Zn1-t Oは酸性およびアルカリ性のいずれのエッチング液にもエッチングレートが小さいため、いずれのエッチング液を用いても、選択性よく電流狭窄層をエッチングすることができる。
【0078】
請求項49または50記載の発明による半導体レーザの製法は、基板上にZnO系化合物半導体からなる第1導電形クラッド層、活性層および第2導電形下部クラッド層を成長し、該第2導電形下部クラッド層上にCds Zn1-s O(0<s<1)からなるエッチングストップ層およびMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる絶縁性または第1導電形の電流狭窄層を成長し、アルカリ溶液により前記電流狭窄層をエッチングして電流注入領域を形成し、さらにZnO系化合物半導体からなる第2導電形の上部クラッド層を成長することを特徴とする。エッチングストップ層として、Bet Zn1-t O(0<t<1)を用いて、同様に電流狭窄層を成長し、酸性またはアルカリ性のエッチング液により前記電流狭窄層をエッチングしてもよい。
【0079】
請求項51記載のMIS型酸化物化合物半導体LEDは、n型のZnO系化合物半導体からなるn型層と、IA族、IB族、およびVB族の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素がZnO系化合物半導体層にドープされたドープ層と、該ドープ層の表面に設けられる導電層とから構成され得る。この場合もドープ層は殆ど絶縁層として前述のMIS構造と同様の動作をする。
【0080】
前記n型層にIII B族の元素がドープされることにより、ドープ後の結晶が安定する効果がある(たとえばIV族のカーボンなどは結晶を不安定にする)。
【0081】
請求項53記載の発明による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられ、n型層およびp型層を少なくとも有し化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部とを具備し、前記n型層がZnO系化合物半導体からなり、前記p型層がGaN系化合物半導体からなっている。
【0082】
この構造にすることにより、p型を作りにくいZnO系化合物半導体の代りに、p型GaN系化合物半導体を用いることができ、また、発光層部分にZnO系化合物半導体を用いることにより、エキシトンによる発光を利用してpnジャンクション型の高効率の電流注入発光をさせることができる。さらに、たとえばZnO系化合物半導体からなるn型層を上部に形成することにより、ZnO系化合物半導体の下側がGaN系化合物半導体あるため、ZnO系化合物半導体のみをウェットエッチングによりエッチングすることができる。
【0083】
前記n型層とp型層との間にCdx Zn1-x O(0≦x≦0.5)からなる活性層が設けられることにより、発光特性に優れるZnO系化合物半導体層を発光層とすることができて、発光効率が向上する。
【0084】
前記活性層と前記p型層との間に該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きい材料からなるn型のZnO系化合物半導体層が設けられることにより、直接発光層とならないZnO系化合物半導体層を緩衝層として、GaN系化合物半導体層上に発光層となるZnO系化合物半導体という異種の半導体層を接合することに伴う界面準位の影響を抑制することができる。
【0085】
具体的には、絶縁基板と、該絶縁基板上に設けられるGaN系化合物半導体からなるp型層および該p型層の上に設けられるZnO系化合物半導体からなるn型層とにより形成される発光層形成部と、該n型層上に設けられるn側電極と、前記ZnO系化合物半導体層の一部がエッチングにより除去されて露出するp型層上に設けられるp側電極とにより構成される。
【0086】
前記発光層形成部がGaN系化合物半導体からなるp型層、該p型層よりバンドギャップエネルギーが小さいZnO系化合物半導体からなる活性層、および該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいZnO系化合物半導体からなるn型層を有する半導体レーザ構造であり、前記活性層へ電流を注入する領域を除いて前記積層されたZnO系化合物半導体層がエッチング除去されていることにより、電流注入領域を確実に画定することができ、無駄な電流がなくなって高効率の発振をすることができる。
【0087】
前記p型層と前記活性層との間に、該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいn型のZnO系化合物半導体からなる緩衝層が設けられることにより、活性層の結晶性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0088】
つぎに、図面を参照しながら本発明の半導体発光素子について説明をする。
【0089】
本発明の半導体発光素子は、図1にその一実施形態であるLEDチップの斜視図が示されるように、電流注入により発光する活性層5が、その活性層5よりバンドギャップが大きい材料からなるn型クラッド層4およびp型クラッド層6により挟持される構造で、前記活性層5がCdおよびZnの少なくとも一方を含む酸化物化合物半導体からなっている。
【0090】
活性層5は、キャリアの再結合により発光させる層で、そのバンドギャップにより発光する光の波長が定まり、発光させる光の波長に応じたバンドギャップの材料が使用され、たとえば単一活性層で0.3μm程度の厚さに形成されている。本発明では、この活性層5が、たとえばCdx Zn1-x O(0≦x<1、たとえばx=0.2)のように、CdおよびZnの少なくとも一方を含む酸化物化合物半導体からなっていることに特徴がある。
【0091】
すなわち、前述のように、活性層をそれよりバンドギャップの大きいクラッド層により挟持して発光させる従来の青色系の半導体発光素子としては、チッ化ガリウム系化合物半導体が用いられ、その活性層としてInGaN系(Inの混晶比が所望のバンドギャップになるように変化させ得ることを意味する)化合物半導体が使用されてきたが、前述のように、InGaN系化合物半導体はその結晶性がよくないと共に、Inの混晶比を一定以上に大きくすることができず、ある程度以上の長波長の発光をさせることができない。そのため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ZnOとCdOとを固溶化して、一般式がCdx Zn1-x O(0≦x<1)で表される混晶とすることにより、ZnOが本来有しているバンドギャップよりもバンドギャップを小さくすることができ、ナローバンドギャップ化を達成することができることを見出した。
【0092】
このCdx Zn1-x Oは、そのxの値が大きくなるほどバンドギャップが小さくなる。前述した400〜430nm程度の波長の光を発光させるためには、0.02〜0.4程度が好ましく、さらに好ましくは0.06〜0.3程度である。しかし、紫外線領域で発光させる場合には、x=0でもクラッド層にバンドギャップエネルギーがそれより大きい材料(Mgの混晶比の大きいMgZnO)を使用することにより発光させることができる。なお、活性層5は、非発光再結合中心の形成を避けるため、ノンドープであることが好ましいが、CdとZnのみの固溶体ではなく、他の元素をさらに固溶させることもできる。なお、このような固溶体を得るには、たとえば後述するようにMOCVD法によりCdとZnとOの反応ガスをキャリアガスと共に導入してその流量を調整することにより、所望の混晶比の固溶体を得ることができる。
【0093】
活性層5と共に発光層形成部11を構成するn型およびp型クラッド層4、6は、図1に示される例では、Mgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)が用いられている。クラッド層4、6は、活性層5よりバンドギャップが大きく、キャリアを活性層5内に有効に閉じ込める効果を有すればよく、他のIII 族元素チッ化物(チッ化ガリウム系化合物半導体)などでもよい。しかし、Mgy Zn1-y Oを用いることにより、チッ化ガリウム系化合物半導体とは異なり、ウェットエッチングが可能であり、後述するLDなどの場合には、メサ型形状にしたり、内部電流狭窄層を作り込みやすいため好ましい。このn型クラッド層4は、たとえば2μm程度の厚さに、p型クラッド層6は、たとえば0.5μm程度の厚さに設けられる。
【0094】
基板1は、たとえばサファイア基板が用いられるが、クラッド層などにチッ化ガリウム系化合物半導体が用いられる場合を含めて、GaN基板、SiCを表面に形成したシリコン基板、単結晶のSiC基板などを用いることができる。基板1の表面には、化合物半導体の格子不整合を緩和するための緩衝層2が、たとえばZnOにより0.1μm程度形成される。この緩衝層2は、基板1がサファイアのような絶縁性基板であればノンドープでも、他の導電形でもよい。しかし、基板1が導電性の基板で、基板1の裏面から一方の電極を取り出す場合には、その基板と同一の導電形で形成される。そして、その上にZnOからなるn型コンタクト層3が1〜2μm程度の厚さ形成されている。p型クラッド層6上には、ZnOからなるp型コンタクト層7が0.3μm程度設けられ、その表面にたとえばITOなどからなる透明電極8が形成されると共に、積層された半導体層3〜7の一部がエッチングにより除去されて露出するn型コンタクト層3にn側電極パッド9がTiおよびAuなどの真空蒸着とパターニングまたはリフトオフ法により、また、透明電極8上の一部にNi/Al/Auなどからなるp側電極10がたとえばリフトオフ法などにより形成されている。
【0095】
このLEDを製造するには、たとえばMOCVD装置内に基板1をセッティングし、基板温度を300〜600℃程度にして、反応ガス、必要なドーパントガスをキャリアガスのH2 と共に導入し、気相反応させることにより、半導体層を成長させることができ、反応ガスを順次変化させたり、その流量を変化させることにより所望の混晶比の半導体層を積層することができる。なお、反応ガスとしては、Znとしてジエチル亜鉛(Zn(C2 H5 )2 )、Oとしてテトラヒドロフラン(C4 H8 O)、Mgとしてシクロペンタジエチルマグネシウム(Cp2 Mg)、Cdとしてジエチルカドミウム(Cd(C2 H5 )2 )がそれぞれ用いられ、ドーパントガスとしては、Clのn型ドーパントガスとしてエチルクロライド(C2 H5 Cl)、p型ドーパントガスとしてプラズマN2 などを供給する。そして、反応時間を制御することにより、前述のような各半導体層の厚さを制御することができる。
【0096】
そして、積層した半導体層の一部をRIE法などによりエッチングしてn型コンタクト層3を露出させる。その後、基板1の裏面を研磨し、100μm程度の厚さとし、露出したn型コンタクト層3の表面に、たとえばリフトオフ法などによりTi/Auなどを真空蒸着などにより成膜してn側電極パッド9を形成し、p型コンタクト層7の表面に真空蒸着などによりITOを成膜して透明電極8を形成すると共に、さらにたとえばリフトオフ法によりNi/Al/Auを真空蒸着してp側電極10を形成する。その後ウェハからチップ化することにより、図1に示されるLEDチップが得られる。
【0097】
図2は、本発明による半導体発光素子の他の実施形態である電極ストライプ型のLDチップの斜視説明図である。このLDチップも基本的には図1のLEDチップと同様の構造になっているが、LDにするため、発光層形成部11において、活性層15とクラッド層との間に光ガイド層14、16が設けられていることと、活性層15が多重量子井戸構造で形成されていることが主な相違である。すなわち、活性層15の屈折率がクラッド層4、6より大きい材料により形成されることにより、活性層15に光を閉じ込めることができるが、活性層15が薄く充分に光を閉じ込めることができないときは、活性層15から光が漏れるため、光導波路の一部を構成するように、クラッド層4、6と活性層15との間の屈折率を有する光ガイド層14、16が設けられる。しかし、活性層で充分に光を閉じ込められれば光ガイド層14、16を設ける必要はない。
【0098】
詳述すると、サファイア基板1上にZnOからなるバッファ層2が0.1μm程度設けられ、その上にZnOからなるn型コンタクト層3が1μm程度の厚さ設けられている。そして、その上にMgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなるn型クラッド層4が2μm程度の厚さに設けられ、ついでn型ZnOからなり光導波路の一部をなすn型光ガイド層14が0.05μm程度設けられている。活性層15は、たとえばノンドープのCd0.06Zn0.94O/Cd0.3 Zn0.7 Oからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ50Åおよび40Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成されている。その活性層15の上に、ZnOからなり光導波路の一部をなすp型光ガイド層16が0.05μm程度、Mgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなるp型クラッド層6が2μm程度の厚さに設けられ、さらにZnOからなるp型コンタクト層7が1μm程度の厚さに設けられている。そして、LEDチップの場合と同様に、積層された半導体層の一部がエッチングにより除去されて露出したn型コンタクト層3にTi/Auなどからなるn側電極9が設けられ、p型コンタクト層7の表面にp側電極10がたとえばNi/Al/Auなどにより形成されている。半導体レーザの場合、光は上面から放射されないで、活性層15の端面から放射されるため、上面に透明電極は不要で、電流通路を形成するために、たとえば10μm程度の幅のストライプ状に形成したp側電極10が直接p型コンタクト層7上に形成されている。
【0099】
このようなLDチップを形成する場合でも、積層される半導体層が酸化物半導体層であるため、活性層の結晶性が良好になると共に、そのエッチングが容易で、ウェットエッチングをすることができ、基板がサファイアなどで劈開しにくい場合でも、活性層の端面である光の放射面を平坦な面で形成しやすく、良好な共振器を形成しやすい。
【0100】
図3は、本発明による半導体発光素子の他の実施形態であるLDチップの斜視説明図である。この例は、p側電極10のみのストライプではなく、p型クラッド層6の一部までをメサ型にエッチングしたメサストライプ型の構造としたもので、このメサ型エッチングは、n型コンタクト層3を露出させるためのエッチングと同時にマスクを形成し直すだけで形成される。他の半導体層の積層構造は、図2に示される構造と同じで製造方法も同様である。
【0101】
図4は、本発明による半導体発光素子のさらに他の実施形態であるLDチップの同様の説明図である。この例は、p型クラッド層6側にn型電流制限層(内部電流狭窄層)17が設けられたSAS型構造の例である。この構造のLDチップを製造するには、前述と同様に基板1上にバッファ層2、n型コンタクト層3、n型光ガイド層14、活性層15、p型光ガイド層16、p型クラッド層6を順次積層した後に、たとえばn型Mg0.2 Zn0.8 Oからなる電流制限層17を0.4μm程度成長させる。そして、一旦結晶成長装置からウェハを取り出し、表面にレジスト膜を設けてストライプ状にパターニングをし、NaOHなどのアルカリ溶液により電流制限層17をストライプ状にエッチングして、ストライプ溝18を形成する。その後、再度MOCVD装置にウェハを戻し、p型ZnOからなるp型コンタクト層7を前述の例と同様に成長する。その後は、前述の各例と同様にn側電極9およびp側電極10を形成し、チップ化することにより図4に示される構造のLDチップが得られる。なお、p型クラッド層6を2段構造とし、その間に電流制限層17を作り込むこともできる。
【0102】
従来のチッ化ガリウム系化合物半導体を用いた青色系の積層構造では、前述のように化学薬品に対して安定であるため、この例のように積層した半導体層をエッチングしてストライプ溝を形成することができなかったため、活性層の近くまで電流経路を充分に集中させることができなかったが、本発明によれば、このようなストライプ溝を形成した電流制限層(内部電流狭窄層)17を半導体層の中に作り込むことができる。
【0103】
図5は、本発明による半導体発光素子のさらに他の実施形態であるLDチップの同様の説明図である。この例は、基板1にサファイアではなく、導電性の基板を用いた例で、その結果n側電極9が基板1の裏面に設けられている。この例では基板としてシリコン(Si)基板1が用いられ、Si基板1の表面に立方晶のSiC層2が形成され、その表面に直接または図示しない緩衝層を介して前述の各半導体層が積層されている。このSiC層2の形成は、たとえばSi基板1をアセチレン(C2 H2 )と水素の雰囲気中で、1020℃程度で60分程度保持することによる炭化処理により100Å程度の図示しないSiC膜を形成した後に同一炉内でSiの原料ガスであるジクロルシラン(SiH2 Cl2 )と、炭素の原料ガスであるC2 H2 を導入して熱CVD法によりたとえば2μm程度成長することにより形成する。その後の各半導体層の積層は、前述の各例と同様に行う。この例によれば、半導体層のエッチングは行われない構造であるが、各半導体層の積層がチッ化ガリウム系化合物半導体のように高温で成長させなくても、600℃程度以下の低温で成長させることができ、成長装置の負担が非常に軽く、装置の保守が容易であると共に、半導体層の成長も簡単に行うことができる。さらに、活性層の結晶性も優れているため、発光効率の高いLDおよびLEDが得られる。
【0104】
図5に示される例では、簡単化のため、電極ストライプ型の構造にしたが、電流制限層の埋込み型など、前述の各例の構造にすることもでき、このような導電性の基板を用いることにより、p側およびn側の両電極をチップの上下両面から取り出すことができ、チップのボンディングなどに非常に取り扱いやすい素子となる。このような導電性の基板としては、他にSiCの結晶基板や、GaN基板などでも、前述と同様に酸化物半導体を積層することができる。
【0105】
前述の各例では、LDの活性層として、多重量子井戸構造の例を示したが、その例に限られず、単一量子井戸構造またはバルク構造で形成することもできる。さらに、活性層で充分に光導波路を形成することができれば、光ガイド層を別途設ける必要がないこともいうまでもない。このことは、以下の各例においても同様である。
【0106】
本発明によれば、ZnOをナローバンドギャップ化する方法が得られたため、バンドギャップが紫外線(紫外線領域ではZnOを活性層に使用できる)から高精細なDVDの光源に必要とされる400〜430nmの波長の光を発光させるバンドギャップをZnO系の酸化物半導体を用いて得ることができ、短波長の半導体発光素子に有利に用いることができる。
【0107】
また、以上の例における半導体発光素子によれば、活性層をクラッド層で挟持する構造で、青色系の色を発光させる場合に、活性層にCdとZnを含む酸化物化合物半導体が用いられているため、InGaN系化合物半導体のように結晶性の低下を招くことなく、400〜430nm近傍の光を発光しながら非常に結晶性のよい活性層が得られる。その結果、発光効率も向上し、高輝度の青色系の半導体発光素子が得られる。
【0108】
さらに、クラッド層にZnまたはMgとZnを含む酸化物化合物半導体が用いられることにより、活性層より大きいバンドギャップのクラッド層となり、発光素子を構成することができると共に、チッ化ガリウム系化合物半導体では行いにくいウェットエッチングをすることができること、600℃程度以下の低温で半導体層を成長することができること、など取扱が非常に容易となり、青色系の半導体発光素子を容易に得ることができる。半導体レーザでは、電流注入領域を画定する必要があるが、電流制限層の埋込みやメサエッチングなどを容易に行うことができるため、とくにメリットが大きい。
【0109】
さらに、前述の酸化物半導体層は、Si基板上に設けたSiCやSiC基板などの上に成長することができるため、電極をチップの上下両面から取り出す垂直型のチップとすることができる。その結果、ワイヤボンディングなども一方の電極のみを行えばよく、非常に取扱性が向上する。
【0110】
本発明によれば、従来のチッ化ガリウム系化合物半導体とは異なるZnO系の酸化物半導体層を用いて青色系の発光をさせることができ、結晶性のよい半導体層により高い発光効率の半導体発光素子が得られる。
【0111】
さらに、ZnO系の酸化物半導体を用いることにより、チッ化ガリウム系化合物半導体に比べて非常に低い温度で半導体層を積層することができるため、成長装置の負担を軽くすることができると共に、ウェットエッチングをすることができて取扱いやすく安定した半導体層を積層することができる。
【0112】
図6は、さらに他の実施形態であるLDチップの斜視図が示されている。この例では活性層15がCdx Zn1-x O(0≦x<1)のバルク層またはCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、その活性層15のn型クラッド層4側およびp型クラッド層6側に、たとえばMgw Zn1-w O(0≦w<1)からなり、かつ、その接触部分における活性層の材料の格子定数とほぼ等しくなるような組成の材料からなるストレス緩和層24、26が活性層15と接して設けられている。
【0113】
活性層15は、前述のように、キャリアの再結合により発光させる層で、そのバンドギャップにより発光する光の波長が定まり、発光させる光の波長に応じたバンドギャップの材料が使用され、この例では、ZnOをCdによりナローバンドギャップ化したCdx Zn1-x O(0≦x<1)が用いられ、たとえばノンドープのCd0.06Zn0.94O/Cd0.3 Zn0.7 Oからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ50Åおよび40Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成されている。この構造は、たとえば図7にその一例の活性層15近傍の拡大断面図、およびそのバンドギャップの変化状態を示す図が示されるように、Cd0.3 Zn0.7 Oからなるウェル層15aとCd0.06Zn0.94Oからなるバリア層15bとが交互に積層され、最後の層がウェル層15aで終っている。この例では、この活性層15の両面側に、Cd0.3 Zn0.7 Oとほぼ同じ格子定数を有するMg0.35Zn0.65Oからなるストレス緩和層24、26が設けられている。
【0114】
n型およびp型のストレス緩和層24、26は、活性層15の一番外側の組成とほぼ同じ格子定数を有し、かつ、活性層よりバンドギャップの大きい材料であるMgwZn1-wO(0≦w<1)またはIII 族チッ化物化合物半導体からなっており、それぞれ0.02μm程度の厚さで設けられている。すなわち、前述のように、ZnOにCdまたはMgが混晶されると、図8に示されるように、格子定数が共にZnOより大きくなり、CdZnO系およびMgZnO系共に同じ傾向になる。そのため、発光させる波長により活性層のCdxZn1-xOにおけるxの値が定まり、その格子定数に合うMgwZn1-wOのwの値が定まり、ストレス緩和層24、26の組成が定まる。しかし、III 族チッ化物化合物半導体で格子定数がほぼ等しい組成のものを使用することもできる。
【0115】
このストレス緩和層24、26は、活性層15と格子定数の異なるクラッド層などからのストレスが、活性層15に及ばないようにするためのもので、そのストレスを吸収できる厚さあればよく、0.005〜0.1μm程度、さらに好ましくは0.01〜0.05μm程度の厚さに設けられる。あまり厚くなるとクラッド層中にストレス発生の問題が生じ、薄すぎるとストレスを充分に吸収できず、活性層15にストレスが加わることになる。
【0116】
前述の例では、活性層15が多重量子井戸構造からなり、その最外層がウェル層からなる例であったが、活性層がバリア層で終る場合もある。この場合は、そのバリア層の格子定数に合せた組成でストレス緩和層24、26が形成される。なお、バリア層がそのまま光ガイド層となる場合は、ウェル層の格子定数に合せられる。また、活性層が同じ組成の1層で形成されるバルク層からなる場合は、その活性層15の組成に応じた格子定数に合うようにストレス緩和層24、26が形成される。さらに、図6に示される例では、活性層15の両面にn型およびp型のストレス緩和層24、26が設けられていたが、両側に設けられなくても、いずれか一方だけに設けられてもその効果が大きい。
【0117】
他の基板、クラッド層、光ガイド層およびその製法などは前述の図2に示される例と同じで、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0118】
このストレス緩和層が設けられることにより、ZnOにCdを混晶させて、ナローバンドギャップ化し、青色系の発光をさせながら、その活性層の格子定数と合せてバンドギャップを大きくした半導体層がZnOにMgを混晶させることにより得られ、活性層と格子定数が同じでバンドギャップの大きい半導体層(ストレス緩和層)を直接活性層に接して積層することができる。そのため、クラッド層などの格子不整合に伴うストレスはストレス緩和層により吸収され、活性層には直接格子不整合に伴うストレスがかからず、ピエゾ電界が発生しない。その結果、閾値を低減させることができ、不純物をドーピングしなくても低い閾値で動作させることができる。不純物をドーピングしないで発光素子を形成することができれば、非発光再結合中心の発生を避けることができる。これによって、素子の発熱を抑制することができ、半導体レーザにおいて一番問題となる寿命の向上、とくに高出力時の寿命向上に絶大な効果を発揮する。
【0119】
前述の例では、LDの例であったが、LEDでも活性層をクラッド層により挟持する高出力LEDの場合、同様にストレス緩和層を介在させることにより、閾値を下げることができ、低電圧駆動で高出力のLEDが得られる。
【0120】
ストレス緩和層を設ける発明によれば、活性層をクラッド層により挟持するダブルヘテロ接合構造の半導体発光素子において、格子不整合に伴うストレスが活性層に加わらないため、活性層にドーピングをしなくても閾値を下げることができる。その結果、とくに高出力の半導体レーザを構成する場合でも、発熱を抑えて高寿命化を達成することができ、青色系の化合物半導体発光素子の信頼性を非常に向上させることができる。
【0121】
図9は、さらに他の実施形態であるLEDチップの断面図が示されている。この例では活性層を成長した後に、高温でZnOまたはMgを含むクラッド層などを成長しようとすると、その温度上昇によりZnOなどの半導体層が成長する前に活性層のCdが蒸発して抜けてしまうという問題を解決するものである。
【0122】
すなわち、図11にCd、Zn、Mgの蒸気圧曲線が示されるように、これらの金属の同一温度における蒸気圧は、Cd>Zn>Mgの関係がある。これは、同一の蒸気圧を得るための温度がMg>Zn>Cdであることを意味する。たとえば通常のMBE法により成長する場合、材料である金属の蒸気圧が10-3〜10-4Torr程度になるようにその蒸発温度が調整されるのが一般的である。その場合、Cd、Zn、Mgの蒸発温度は、それぞれ200〜250℃、250〜300℃、400〜450℃程度になるように調整される。この場合、蒸発原子が基板に到達した後のマイグレーション(基板表面上で接している異種原子同士が互いの結晶欠陥を埋めるように移動する動き)の効果を考えると、基板の温度も蒸発温度に比例して調整するのが一般的である。すなわち、MBE法などにより、たとえばCdx Zn1-x Oからなる活性層を成長し、ついでZnOまたはMgy Zn1-y Oの光ガイド層やクラッド層を成長しようとすると、その成長温度を、活性層を成長する温度より高くしなければならない。
【0123】
そのため、バンドギャップエネルギーが下がらず発光波長を長くすることができず、活性層の成長の際にCdの混晶比を多くして成長しようとすると、後の工程でCdの蒸発量が多くなるだけで、発光波長を長くできないと共に、かえってCdの抜けた後が格子欠陥となり、発光特性も低下する。図9に示される例は、Cdの蒸発を抑制して、青色から緑色の発光をすることができると共に、結晶性が向上し、発光特性の優れたZnO系化合物半導体発光素子およびその製法を得るものである。
【0124】
本発明者らは、Cdx Zn1-x Oを活性層とするZnO系化合物半導体発光素子において、バンドギャップエネルギーのナロー化を達成し、青色から緑色の発光をさせるため、鋭意検討を重ねた結果、混晶化したCdx Zn1-x Oからなる活性層を、つぎのZnOやMgZnOなどの成長時にCdが蒸発しないように、活性層の表面に活性層の成長温度と同程度の低温でZnOからなる蒸発防止層を設けておくことにより、Cdの混晶比を充分に大きくすることができ、Cdが30%(x=0.3)程度で波長が410nm程度の青色の発光をさせることができると共に、Cdの蒸発防止により活性層の結晶性も向上し、優れた発光特性のZnO系化合物半導体発光素子が得られることを見出した。
【0125】
この例によるZnO系化合物半導体発光素子は、図9にLEDチップの断面説明図が示されるように、Cdx Zn1-x O(0≦x<1)からなる活性層5がZnO系化合物半導体からなる下部クラッド層4および上部クラッド層6により挟持される発光層形成部11が形成されている。そして、活性層5と上部クラッド層6との間の少なくとも活性層5側に低温ZnO層(Cdの蒸発防止層)20が設けられていることに特徴がある。
【0126】
低温ZnO層20は、Cdを含む活性層5が成長された後、そのまま温度を上昇させないで、Cdのソース源を閉じてZnOを成長することにより得られるものである。すなわち、Cdの蒸気圧は高いため、Cdを含む活性層5を成長する場合、前述のように200〜250℃程度の低温で成長し、その上に成長するクラッド層6としてのMgy Zn1-y OはMgの蒸気圧が低いため、通常400〜450℃程度の高温で成長する。しかし、前述のように、本発明者らは活性層5を成長した後に、つぎの半導体層を成長するため基板の温度を上昇させると、活性層5のCdが蒸発して結晶欠陥が生じると共にCdの混晶比が低下するということを見出した。このCdの蒸発を防止するため、低温ZnO層20が設けられている。
【0127】
低温ZnO層20は、このようにCdの蒸発を防止するためのものであるため、活性層5の表面を覆う程度に設けられておればよく、その厚さは100〜1000Å程度設けられておれば、Cdの蒸発を充分に防止することができることが、本発明者らにより確認された。また、成長温度は、できるだけ低い方がCdの蒸発を防止することができるため好ましいが、余り低くなるとZnOの成長自身が進まないため、かえってCdの蒸発が生じやすく、200〜300℃程度、さらに好ましくは、活性層5の成長温度程度が一番効果的であった。
【0128】
発光層形成部11は、図9に示される例では、Cdx Zn1-x O(0≦x<1、たとえばx=0.3)からなる活性層5をMgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなる下部(n型)と上部(p型)のクラッド層4、6で挟持する構造であるが、この例では、前述のように活性層5の上部表面に低温ZnO層(蒸発防止層)20が設けられている。この低温ZnO層20も活性層5よりバンドギャップエネルギーは大きく、キャリア閉込め効果もある。しかし、この低温ZnO層20は、前述のように100〜1000Åと非常に薄く、殆ど影響を受けることなく上部クラッド層6がキャリア閉込め効果を有している。
【0129】
活性層5は、キャリアの再結合により発光させる層で、そのバンドギャップエネルギーにより発光する光の波長が定まり、発光させる光の波長に応じたバンドギャップエネルギーの材料が使用され、たとえば単一活性層で0.1μm程度の厚さに形成されている。このCdx Zn1-x Oは、そのxの値が大きくなるほどバンドギャップエネルギーが小さくなる。たとえば430nm程度の波長の光を発光させるためには、0.32程度が好ましく、従来はこのようなCdの混晶比の大きいCdx Zn1-x Oを得られなかったが、本発明によりCdの蒸発を防止することができ、Cdの混晶比が32%程度のものを得ることができた。なお、活性層5は、非発光再結合中心の形成を避けるため、ノンドープであることが好ましい。
【0130】
基板1としては、この例ではn型のZnO基板が用いられているが、この例に限定されるものではなく、サファイア、GaN、GaP、SiCなど前述の種々の基板を用いることができ、他のn型およびp型クラッド層4、6なども、前述の例と同様で、同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0131】
前述のように、この例ではCdx Zn1-x O活性層上に、低温ZnO層が設けられているため、つぎのMgy Zn1-y Oからなるクラッド層を400℃程度以上の高温で成長しても、活性層のCdの蒸発は阻止される。また、低温ZnO層を成長する間も、その温度が活性層の成長時と同程度の低温であるため、それ程Cdは蒸発しない。そのため、活性層を成長する際に混晶したCdをほぼそのまま維持することができる。その結果、活性層からのCdの蒸発による結晶欠陥や、Cdの蒸発による混晶比の低下などは生ぜず、所望のバンドギャップエネルギーを有し、結晶性の優れた活性層が得られ、青色から緑がかった半導体発光素子が優れた発光効率で得られる。
【0132】
つぎに、このLEDの製法について説明をする。たとえばMBE(分子線エピタキシー)装置内にZnOなどからなる基板1をセッティングし、基板1の温度を300〜350℃程度にし、プラズマ酸素の照射条件下において、Znのソース源(セル)のシャッターを開け、Znを照射すると共に、n型ドーパントのAlのシャッターも開けてn型のZnOからなるn型コンタクト層3を0.5μm程度成長させる。ついで、さらにMgのソース源(セル)のシャッターも開け、基板1の温度を400〜450℃程度にしてMg0.15Zn0.85Oからなるn型の下部クラッド層4を1μm程度成長する。
【0133】
つぎに、活性層5を成長するため、基板温度を200〜250℃程度に下げると共に、Mgのセル、およびドーパントのAlのセルを閉め、Cdのソースメタルであるセルのシャッターを開いてCdを照射し、Cd0.32Zn0.68Oを0.1μm程度成長する。ついで、Cdのセルのシャッターを閉め、同じ温度でZnOからなる蒸発防止層20を0.05μm程度成長する。
【0134】
さらに、基板温度を400〜450℃程度にして、同様にp型クラッド層6を1μm程度、p型コンタクト層7を0.5μm程度成長することにより半導体積層部12を成長する。なお、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、Alの同時ドーピングにより形成した。
【0135】
その後、MBE装置よりエピタキシャル成長がされたウェハを取り出し、スパッタ装置に入れて透明性導電膜ITOを0.2μm程度の厚さに設け透明電極8とする。その後、前述の例と同様に、基板1の裏面を研磨し、100μm程度の厚さとし、基板1の裏面にTi/Alなどからなるn側電極9を全面に、透明電極8上にNi/Alなどからなるp側電極10をたとえばリフトオフ法により、それぞれ真空蒸着などにより0.2μm程度づつ形成する。その後ウェハからチップ化することにより、図9に示されるLEDチップが得られる。
【0136】
このような方法でZnO系化合物半導体層を成長すると、蒸気圧の大きいCdの蒸発を防止することができ、活性層のバンドギャップエネルギーを充分に下げて長い波長の発光をさせることができると共に、活性層の結晶性を向上させることができて、青色から緑がかった色で発光特性の優れたZnO系化合物半導体発光素子が得られる。
【0137】
前述の例は、LEDの例であったが、LDであっても同様である。この場合、発光層形成部11が若干異なり、たとえば活性層15はノンドープのCd0.03Zn0.97O/Cd0.2 Zn0.8 Oからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ50Åおよび40Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成することが好ましい。また、活性層15が薄く充分に光を活性層15内に閉じ込められない場合には、たとえばZnOからなる光ガイド層14、16が活性層15の両側に設けられる。しかし、この場合も活性層15と光ガイド層14、16との間に低温ZnO層からなるCdの蒸発防止層20が設けられる。また、ITOからなる透明電極は不要で、直接p側電極10をストライプ状にパターニングして形成したり、半導体層の上部をメサ型形状にエッチングしたり、電流狭窄層を埋め込むことにより、電流注入領域を画定する構造に形成される。電流狭窄層を形成する構造の例を図10に示す。
【0138】
図10に示されるSAS型構造のLDチップを製造するには、前述と同様に基板1上にn型コンタクト層3、n型クラッド層4、n型ZnOからなる0.05μm程度のn型光ガイド層14を順次前述の高温で成長する。ついで、前述の多重量子井戸構造の活性層15を200〜250℃程度で成長し、続いて同温度で低温ZnO層である蒸発防止層20を0.05μm程度成長する。その上に前述の高温でp型ZnOからなる0.05μm程度のp型光ガイド層16、p型クラッド層6を順次積層した後に、たとえばn型Mg0.2 Zn0.8 Oからなる電流狭窄層17を0.4μm程度成長させる。そして、一旦結晶成長装置からウェハを取り出し、表面にレジスト膜を設けてストライプ状にパターニングをし、NaOHなどのアルカリ溶液により電流狭窄層17をストライプ状にエッチングして、ストライプ溝18を形成する。その後、再度MBE装置にウェハを戻し、p型ZnOからなるp型コンタクト層7を前述の例と同様に成長する。その後は、前述の各例と同様にp側電極10およびn側電極9を形成し、チップ化することにより図10に示される構造のLDチップが得られる。なお、両クラッド層4、6、光ガイド層14、16および活性層15により発光層形成部11が構成されている。
【0139】
この例によれば、とくに青色系の半導体発光素子に用いられるZnO系化合物半導体層のバンドギャップエネルギーを小さくするCdの蒸発を抑えて充分に混晶比を上げると共に、結晶性の優れたCdZnO系の活性層を成長することができるため、青色から緑色の発光をするZnO系化合物半導体発光素子が高い発光効率で得られる。その結果、とくに現在要望されている青色系のLEDやLDなどの半導体発光素子を、新たな材料でその発光効率などの発光特性を向上することができる。
【0140】
図12に示される例は、ZnO系酸化物半導体層を結晶性よく成長し、発光特性を向上させるための例を示す。すなわち、ZnO系化合物半導体は、GaN系化合物半導体と異なり、縦方向の成長はスムーズに行われるが、横方向の成長は殆ど成長しない。すなわち、c軸方向の成長は早いが、これに比べてa軸方向の成長は遅い。そのため、図13(a)に結晶成長の状態が模式的に示されるように、基板63上に最初の結晶成長を始める核が存在するところは、ドンドン成長して結晶層64が形成され、結晶性が非常に良好な層Aが形成されるが、基板63の表面に核が存在しないところBでは、成長が遅れ、結晶粒界が形成されて結晶性が非常に悪くなる。この状態をX線回折により調べると、図13(b)に示されるように、基板63の回転角ωに対して、結晶粒界の存在する部分Bは裾の広がったスペクトラムになる。このように、ZnO系化合物半導体は、格子整合のみならず結晶粒界が生じやすいという点で、GaN系化合物半導体にもまして、良好な結晶性を得にくい。
【0141】
本発明者らは、ZnO系化合物半導体を結晶性よく成長させるため、鋭意検討を重ねた結果、前述のように結晶粒界の生じる部分は、基板上に初期核が存在せず、基板表面での結晶成長が遅れ、横からの成長もなくその上の結晶成長がスムーズに進まないことに原因があることを見出した。そして、さらに検討を重ねた結果、サファイア基板上にAl2 O3 膜を介在させることにより、その上に成長するZnO系化合物半導体が結晶性よく成長することを見出した。
【0142】
この例による半導体発光素子は、図12にLEDチップの断面説明図が示されるように、サファイア基板1上にAl2 O3 膜からなるバッファ層2が設けられている。そして、そのバッファ層2上にZnO系化合物半導体からなり、少なくともn型層(n型クラッド層4)とp型層(p型クラッド層6)とを含み発光層(活性層5)を形成する発光層形成部11が設けられている。
【0143】
緩衝層2は、Al2 O3 膜をスパッタ装置、真空蒸着、またはMBEの方法により500〜2000Å程度、好ましくは1000Å程度の厚さに形成されている。MBE装置で行うことが、つぎのZnO系化合物半導体層を結晶成長させる装置と連続して同じ成長装置で成長を行うことができるため、とくに好ましい。このAl2 O3 膜の成膜は、後述するように、100〜200℃程度の低温で成膜し、その後に、たとえばMBE装置により800℃程度の高温で20〜40分程度のアニール処理を行うことにより結晶化をすることが、サファイア基板1の表面状態に拘らず、均一なAl2 O3 膜を成膜することができ、初期の結晶核を生成しやすいため好ましい。この緩衝層2は、基板1がサファイアのような絶縁性基板であればノンドープでも、他の導電形でもよい。
【0144】
発光層形成部11や電極などの構成は前述の各例のLEDチップと同様で、図示されていないが、前述のように表面にITOなどからなる透明電極が設けられてもよい。前述の例と同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0145】
このLEDを製造するには、たとえばスパッタ装置内にサファイア基板1をセッティングし、基板温度を100〜200℃程度にして、スパッタさせることにより、1000Å程度Al2 O3 膜を成膜する。MBE装置を用いてAlセルからAlを飛ばしながら、プラズマ励起酸素ガスを導入することによりAl2 O3 膜を成膜してもよい。その後、たとえばMBE装置内にサファイア基板1を入れて、800℃程度に基板温度を上昇させて、20〜40分程度アニール処理をする。その後、引き続きMBE装置により、前述と同様に各半導体層を積層し、電極形成などを行うことにより、図12に示されるLEDチップが得られる。
【0146】
前述の例は、LEDの例であったが、LDであっても同様で、サファイア基板上にAl2 O3 膜からなる緩衝層を設けることにより、前述の各構造のLDチップが得られる。
【0147】
サファイア基板を用いてAl2 O3 膜からなる緩衝層を成膜してから、ZnO系化合物半導体を成長することにより、機械研磨されたサファイア基板の表面と異なり、Al2 O3 膜の表面全面に初期の結晶核が満遍なく形成され、その上に成長する半導体層は、初期の結晶核をシードとして成長するため、結晶粒界が形成されることなく、全面に均一なZnO系化合物半導体層が成長する。その結果、結晶性の非常に優れたZnO系化合物半導体層を成長させることができ、発光特性の優れたLEDやLDが得られる。
【0148】
なお、Al2 O3 膜の成膜を単結晶にならない低温で成膜し、その後に結晶生長の温度に上昇させる(アニール処理する)ことにより、Al2 O3 膜が単結晶化することが、最初から高温でAl2 O3 膜の単結晶層を成長するよりも、優れた結晶層を成長することができる。すなわち、低温で成膜すると、単結晶ではなくアモルファスの状態で成膜するため、サファイア基板の表面が機械研磨および化学エッチングにより完全な結晶面になっていなくても、成膜しやすい。その後アモルファスのAl2 O3 膜の少なくとも表面側は、高温処理により単結晶化するため、表面の全面に初期核が形成され、全面に均一な結晶層が成長しやすい。しかし、単結晶のAl2 O3 膜を緩衝層として成長しても、サファイア基板と同じ結晶構造であるため、ZnOなどの異なる半導体層を直接成長させるより遥かに結晶欠陥のない緩衝層が得られる。
【0149】
この例によれば、とくに横方向の成長をしにくいZnO系化合物半導体層をサファイア基板上に成長する場合に、Al2 O3 膜を緩衝層として成膜し、成長初期の結晶核を形成しているため、結晶核が緩衝層の全面に満遍なく形成され、結晶性の優れたZnO系の化合物半導体層を成長することができる。その結果、結晶性の優れた半導体層が得られ、発光効率などの発光特性の優れたLEDやLDなどの半導体発光素子が得られる。
【0150】
本発明者らは、結晶性のよい酸化物半導体層を成長するため、さらに鋭意検討を重ねた。前述のように、従来の青色系の半導体発光素子は、いずれも基板としてサファイア基板が用いられ、LDを製造する場合の劈開性を考えると非常に取り扱いにくい。現実に一番実用化されているGaN系化合物半導体においても、劈開性を有する6H−SiCやELOG(Epitaxially Lateral Over Growth )を用いたGaN基板を作る研究が盛んに行われている。そのため、ZnO系の化合物半導体などの酸化物化合物半導体を結晶性の良い半導体層として成長すると共に、基板の特性に左右されないで、酸化物化合物半導体層をエピタキシャル成長することができることが望まれる。
【0151】
本発明者らは、鋭意検討の結果、前述のように結晶中に粒界が生じる部分は、基板上に初期の結晶核が存在せず、基板表面での結晶成長が遅れ、a軸方向へのラテラル成長もなくその上の結晶成長がスムーズに進まないことに原因があることを見出した。そして、さらに検討を重ねた結果、基板上にZnを含む酸化物を100〜300℃程度の低温で非晶質または多結晶の状態で成膜し、その後基板温度をエピタキシャル成長温度に上昇させると、ZnO系酸化物膜の表面に満遍なく結晶核が生成し、基板の拘束をある程度緩和しその結晶核をシードとして結晶性の優れたZnO系酸化物化合物半導体層をエピタキシャル成長することができることを見出した。
【0152】
すなわち構造的には図1に示される構造と同じであるが、基板1上にZnO系などの酸化物化合物半導体層からなり発光層形成部11を含む半導体積層部12が設けられ、基板1の表面に半導体積層部12の半導体層を成長する温度より低温でZnを含む酸化物薄膜が緩衝層2として設けられ、半導体積層部12との間に介在されている。
【0153】
図1に示される例は、サファイア基板1上にZnO系化合物半導体が積層された青色系のLEDチップの例である。しかし、この例では基板1としては、サファイア基板に限定されることなく、GaN、GaP、SiCなどを使用することができる。
【0154】
緩衝層2は、たとえばZnOなどのZnを含む酸化物が用いられる。その上に成長される半導体積層部の最初のエピタキシャル成長される半導体層と同じ組成の酸化物半導体層であることが、ホモ接合となり、良好な格子整合が得られるため好ましい。この緩衝層2は、半導体積層部12を成長する装置で低温で成膜され、たとえばサファイア基板1を、MBE装置に入れて、基板温度を300℃程度にして0.05μm程度の厚さ成膜することにより形成される。この成長温度では、緩衝層2は単結晶にはならない。しかし、引き続きつぎのZnOを成長する際に、酸素プラズマの照射を行いながら、650℃程度まで昇温することにより、その表面にZnO系酸化物の各結晶に対応して微小な結晶核が満遍なく生成され、その上に成長するZnO層は、その結晶核をシードとして成長を始めるため、緩衝層2上に満遍なく成長を始める。すなわち、低温で設けられたZnを含む酸化膜の緩衝層2が設けられることにより、基板の結晶構造に余り拘束されないで、緩衝層の表面に形成される結晶核をシードとして結晶欠陥の少ない酸化物化合物半導体結晶層を成長することができる。
【0155】
緩衝層2は、このように初期核が基板表面に満遍なく生成されるように設けられることが必要である。そのためには、100〜300℃程度の低温でMBE法、MOCVD法、またはプラズマCVD法により、20〜200nm、さらに好ましくは50〜100nm程度の厚さに成膜されることが必要である。厚すぎると緩衝層の結晶化が起りにくいため表面に初期核が生成しにくく、薄すぎると初期核が満遍なく生成されないからである。MBE法で成膜する場合は、ZnとOプラズマをソース源として、MOCVD法で成膜する場合は、ジメチル亜鉛(DMZn)とテトラヒドロフランを反応ガスとして、プラズマCVD法で成膜する場合は、DMZnとOプラズマとを反応ガスとしてそれぞれ使用することによりZnOの緩衝層を成膜することができる。
【0156】
その他の発光層形成部11や、電極などの他の構造は前述の各例における種々の構成を採用することができる。
【0157】
このLEDを製造するには、たとえばMBE装置内にサファイア基板1をセッティングし、300℃程度にし、Znおよび酸素を照射し、非晶質のZnO層2を0.05μm程度成膜する。ついで、酸素照射を続けながら、基板温度が650℃程度になるように昇温する。この昇温により、緩衝層2の表面は結晶化し、満遍なく結晶核が生成する。基板温度が650℃に達したところで、Znのソース源(セル)のシャッターを開け、再度Znを照射すると共に、n型ドーパントのAlのシャッターも開けてn型のZnOからなるn型コンタクト層3を1.5μm程度成長させる。ついで、発光層形成部11などの半導体積層部12の各半導体層の構成元素、たとえばZn、Mg、Cdなどをセルから飛ばしながら、それぞれ前述の組成で前述の厚さになるように順次成長させる。なお、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、緩衝剤としてのAlの同時ドーピングにより形成した。
【0158】
その後、MBE装置よりエピタキシャル成長がされたウェハを取り出し、前述と同様に各電極9、10を形成した。
【0159】
低温ZnO系化合物の緩衝層を設ける本発明によれば、基板上にZnを含む酸化物化合物を低温で非晶質または多結晶の構造で成膜して、その上に650℃程度の高温で酸化物化合物半導体層を成長しているため、基板の表面に満遍なく成膜した緩衝層の表面に、酸化物半導体層の成長のための昇温により、その酸化物半導体層の小さい単結晶の部分である結晶核が満遍なく生成される。そして、その上に酸化物半導体層を成長するため、結晶核をシードとして結晶成長を始め、緩衝層と成長する半導体層とが同種の材料であるためホモエピタキシーとなり、基板の拘束が緩和され、ある程度基板を自由に選択しながら結晶欠陥の少ない結晶層が成長する。とくに、成長する半導体層が、ZnO系のような酸化物化合物半導体では、前述のように、a軸方向への成長が遅く、初期の結晶成長の核が存在しないところでは、結晶が進まず、結晶中に粒界が発生しやすいが、本発明では表面に満遍なく初期の結晶核が生成するため、非常に結晶性の良好な半導体層が得られる。
【0160】
前述の例は、緩衝層2として、化合物半導体層を成長する成長装置で、低温で非晶質または多結晶になるように形成したが、たとえばスパッタリング、真空蒸着、レーザアブレーションなどのエピタキシャル成長とは異なる装置による成膜法で非晶質または多結晶層の緩衝層を形成すれば、その膜質が非常に緻密となり、より一層基板の結晶構造には全然制約されない。すなわち、緩衝層が緻密であるため、基板の結晶構造の性質が緩衝層により遮断される。そのため、その後に成長する半導体層の成長温度などに耐え得る材料であれば、自由に選定することができる。この場合、真空蒸着による方法では、酸素(O)欠損を生じやすいので、雰囲気中に酸素(O)を含ませたスパッタレーザアブレーションが好ましい。この方法で緩衝層2を形成し、電流狭窄層を有する構造(図4の構造と同じ)の半導体レーザを製造する例について、図4を参照しながら説明をする。
【0161】
図4に示されるSAS型構造のLDチップを製造するには、まず、たとえばGaPからなる基板1をECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ装置に入れ、ZnOまたはZnをターゲットとして、(Ar+O2 )プラズマの雰囲気でZnOを20〜200nm程度成膜する。その後、基板1をMBE装置内に入れ、酸素照射条件下で650℃程度まで昇温し、前述の例と同様に、各半導体層の構成元素、たとえばZn、Mg、Cdなどをセルから飛ばしながら、つぎの各層を順次成長させる。その後は、前述の例と同様に行うことにより、図4に示される構造のLDチップが得られる。
【0162】
この方法によれば、スパッタリングなどにより緩衝層を成膜することができるため、通常のMOCVD法などと異なり、非常に緻密な膜を成膜することができる。しかも非晶質または多結晶で形成されるため、全面に欠損などが生じることなく成膜することができる。その結果、酸化物化合物半導体層を成長する際の高温により表面に初期の結晶核が満遍なく生成し、その結晶核をシードとして良好な結晶層が得られる。そのため、緩衝層の緻密さに基づき、基板の結晶構造に影響を受けることなく半導体層を成長することができ、基板の材料に制約されないで、前述の例のようにGaP基板、GaAs基板、Si基板など劈開しやすい材料や取り扱いやすい材料を用いながら、非常に良好な結晶構造の酸化物半導体層を成長することができる。その結果、結晶性の非常に優れたZnO系化合物半導体層を成長させることができ、劈開性のある発光特性の優れたLEDやLDが得られる。
【0163】
このZnを含む緩衝層を低温で形成する発明によれば、基板の結晶構造に余り拘束されることなく酸化物化合物半導体層を非常に結晶性よく成長することができる。そのため、青色系のLEDやLDを製造するのに高価で取り扱いにくいサファイア基板などを使用しなくても、非常に高特性で、安価に青色系の半導体発光素子を得ることができる。
【0164】
さらに、基板に劈開性の優れたものを選定することにより、とくにLDなどに効果が大きい共に、製造工程が簡略化され、安価に製造することができる。
【0165】
本発明者らは、さらに基板上に積層する発光層を形成する化合物半導体からなる半導体積層部の結晶性をよくするため、鋭意検討を重ねた。すなわち、前述のZnO系化合物は横方向の成長が遅いという点もさることながら、GaN系化合物半導体や、ZnO系化合物半導体などのウルツアイト構造の半導体は、これらの半導体層と結晶構造が一致する基板が存在せず、サファイア基板などの格子定数の異なる基板上に半導体層を成長することにより形成されている。しかし、たとえばZnOとサファイアとの格子不整合度は18.3%ある。そのため、格子不整合によるクラックなどが半導体成長層に入りやすく、結晶構造の不具合に基づく発光効率の低下や、閾値電圧が上昇しやすい。そのため、基板との格子不整合の生じやすい半導体層をできるだけ格子欠陥が生じないで良好な半導体層を成長することが要求される。
【0166】
本発明者らは、ZnO系化合物半導体やGaN系化合物半導体を結晶性よく成長させるため、鋭意検討を重ねた結果、半導体層の結晶にクラックが入る原因が、高温で半導体層をエピタキシャル成長した後の、降温する際に結晶粒界の部分にクラックが入り、そのクラックを起因としてさらにクラックが進むことにあることを見出した。そして、さらに鋭意検討を重ねた結果、降温の際におけるクラックの発生は、基板と積層する化合物半導体層との熱膨張率の差に基づき、降温時の収縮スピードの差に起因していることを見出した。そして、基板と成長する半導体層の間に熱膨張係数の中間の材料を緩衝層として介在させることにより、クラックなどの結晶欠陥を大幅に縮減することができることを見出した。
【0167】
この例においても、構造的には図1に示される構造と同じで、基板1上に化合物半導体層からなりn型層(n型クラッド層4)とp型層(p型クラッド層6)とを有し、発光層(活性層5)を形成する発光層形成部11を含む半導体積層部12が設けられている。そして、半導体積層部12における最下層のエピタキシャル成長層(n型コンタクト層3)の熱膨張係数より大きく、かつ、基板1の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する材料からなる緩衝層2が基板1と半導体積層部12との間に設けられている。なお、発光層を形成する構造には、活性層をn型とp型のクラッド層により挟持する構造に限らず、pn接合など他の構造も含む。
【0168】
図1に示される例は、サファイア基板1上にZnO系化合物半導体が積層された青色系のLEDチップの例である。基板としては、サファイア基板に限定されることなく、GaAs(熱膨張係数;6.63×10-6/K)などを使用することができる。ただし、GaAsを基板として用いる場合、GaN(熱膨張係数;7.7×10-6/K)とAlN(熱膨張係数;5.3×10-6/K)の中間にあるため、緩衝層としてはGaAsの熱膨張係数より小さくなるAlGaNからAlNを使用することになる。また、GaAsは立方晶構造になる。
【0169】
緩衝層2は、たとえばGaN層を0.1μm程度成膜する。この緩衝層2は、たとえば600℃程度の低温で、アモルファス層または多結晶層として形成される。この緩衝層2は、前述のように、基板1と、つぎに成長する最初のエピタキシャル成長層とが有する熱膨張係数の、中間の熱膨張係数を有する材料で、かつ、最初のエピタキシャル成長層と同じ結晶構造を有する材料を用いることにより、その上に成長される半導体積層部にクラックなどの入らない良好な結晶構造が得られることを本発明者らは見出した。すなわち、サファイアの熱膨張係数(a軸方向、以下同じ)は、7.5×10-6/Kであり、最初のエピタキシャル成長層3が図1に示される例では、ZnOで、その熱膨張係数が2.9×10-6/Kであるため、GaNの熱膨張係数5.59×10-6/Kはその中間の値になり、しかもGaNもZnOと同様にウルツアイト構造であるため、上記条件を満足している。AlNも同様にウルツアイト構造であり、熱膨張係数は5.3×10-6/Kであり、同様に条件を満たし、GaNとAlNとの混晶のAlp Ga1-p N(0≦p≦1)でも良いことはいうまでもない。この緩衝層2は、基板1がサファイアのような絶縁性基板であればノンドープでも、他の導電形でもよい。緩衝層2としては、この他にSiC(熱膨張係数;4.9×10-6/K)などを使用することができる。
【0170】
その他の発光層形成部11や、電極などの他の構造は前述の各例における種々の構成を採用することができる。また、この例は、LEDであるが、LDでも同様に前述の各構成例に形成することができる。なお、この例においても、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、緩衝剤としてのAlの同時ドーピングにより形成した。
【0171】
この緩衝層2を形成するには、たとえばMOCVD(有機金属化学気相成長)装置内にサファイア基板1をセッティングし、1050℃程度で20分間程度H2 雰囲気下で表面の熱処理を行う。ついで、基板温度を600℃程度にして、MOCVD法によりGaN層を0.1μm程度成長し、緩衝層2を成膜する。その後、基板1を取り出してMBE(分子線エピタキシー)装置に入れ、基板1の温度を600℃程度にし、酸素照射条件下において、成長させる半導体層の構成元素、たとえばZn、Mg、Cdなどをセルから飛ばしながら、半導体積層部12を構成する各半導体層を、それぞれ前述の組成で前述のように順次成長させる。その後の工程も前述の各例と同様である。
【0172】
この中間の熱膨張係数を有する緩衝層を設ける発明によれば、サファイア基板上にサファイアと半導体積層部の最初のエピタキシャル成長層であるZnOとが有する熱膨張係数の、中間の熱膨張係数を有する層が緩衝層として設けられているため、半導体層をエピタキシャル成長した後にウェハを取り出すために冷却しても、温度降下による収縮が基板と積層半導体層との間で極端に変化するのではなく、緩衝層がその間の収縮度で、両者間の急激な変化を吸収する。その結果、冷却時の温度変化により結晶間にクラックが入りにくく、一旦クラックが入ると、そのクラックが起因となってさらにクラックが成長するが、その起因となるクラックが発生しないため、非常に良好な結晶構造が得られる。その結果、結晶性の非常に優れたZnO系化合物半導体層を成長させることができ、発光特性の優れたLEDやLDが得られる。
【0173】
なお、前述の例では、サファイア基板にZnO系化合物半導体からなる半導体積層部を形成する例であったが、他の材料系でも基板の熱膨張係数と半導体積層部における最初のエピタキシャル層とが有する熱膨張係数の、中間の熱膨張係数を有する材料からなる緩衝層を成膜してから、半導体積層部をエピタキシャル成長することにより、同様に結晶性の優れた半導体層を成長することができ、発光特性の優れた半導体発光素子が得られる。
【0174】
この例によれば、青色系の半導体発光素子に用いられるZnO系化合物半導体層などの格子不整合に伴う結晶欠陥の生じやすい化合物半導体層を結晶欠陥の少ない半導体結晶層として得ることができるため、とくに現在要望されている青色系のLEDやLDなどの半導体発光素子の発光効率の向上や閾値電圧の低下などの発光特性を向上することができる。
【0175】
図14に示される例は、緩衝層としても利用できると共に、基板が光吸収性材料からなる場合でも、外部に有効に光を取り出すことができる構造の半導体発光素子を得る例である。すなわち、発光層で発光した光は上下左右あらゆる方向にほぼ均等に放射されるが、通常はLEDチップの表面側の一方向からのみに放射される光が利用されるように、リードの先端や、基板上にLEDチップをボンディングして発光素子が形成されている。
【0176】
また、基板にGaAsが用いられる赤色LEDチップなどでは、基板のGaAsが発光する赤色を吸収する材料になるため、基板側に放射される光は殆ど吸収されて表面側に発光した光の半分程度しか取り出せない。さらに、基板にサファイア基板などの透明な材料が用いられるGaN系化合物半導体が用いられる青色系のLEDチップでは、基板による吸収はないものの、基板の裏面をボンディング剤などにより接着するため、その接着剤などにより吸収されたり、乱反射して裏面側に放射された光を充分に利用することができない。そのため、サファイア基板などの裏面側に反射膜を設ける構造のものも、たとえば特開平2−39578号公報に開示されている。
【0177】
このように、たとえばLEDチップの表面側の一方向からのみ取り出すLEDでは、LEDチップの基板側に進む光を充分に利用することができず、外部微分量子効率を向上させることができない。また、前述のようにサファイア基板などの透明基板の裏面に反射膜を設ける構造にしても、基板の厚さがあるため、基板のサイドから放射される光は有効に利用されない。
【0178】
さらに、LDは、活性層を活性層より屈折率の小さい材料で挟持することにより活性層に光を閉じ込めて発振させる構造になっているが、その閉込め効果が充分でない場合には光を完全に閉じ込めることができず、発振効率が低下する。図14に示される例は、このような無駄を少なくして、発光した光をできるだけ有効に外部に取り出すことができ、外部微分量子効率を向上させることができる構造である。
【0179】
すなわち、本発明者らは、たとえばZnO系などの酸化物化合物半導体を結晶性よく成長させるため、鋭意検討を重ねた結果、前述のように、ZnO系酸化物を100〜300℃程度の低温で非晶質または多結晶の状態で成膜し、その後基板温度をエピタキシャル成長温度に上昇させると、ZnO系酸化物膜の表面に満遍なく結晶核が生成し、基板の結晶構造に拘らずその結晶核をシードとして結晶性の優れたZnO系酸化物化合物半導体層を成長することができることを見出した。この知見に基づきZnO系酸化物の緩衝層を成膜する前に誘電体膜を成膜して反射膜を形成してからZnO系酸化物の低温緩衝層を成膜することにより、発光層を形成する半導体積層部の基板側に反射膜を有し、外部に取り出す光の効率を向上した半導体発光素子が得られることを見出した。
【0180】
図14において、基板1と、屈折率の異なる誘電体膜13a、13bもしくは半導体膜がλ/(4n)(nは誘電体膜もしくは半導体膜の屈折率、λは発光波長)の厚さで、かつ、屈折率の小さい層と屈折率の大きい層とがこの順番で交互に基板1上に偶数層(屈折率が小さい層と大きい層とが組になって)積層されることにより、基板1の表面側からの光を反射させる反射膜13が形成され、その反射膜13上に発光層(活性層5)を形成するように半導体層3〜7が積層される半導体積層部12とを有している。
【0181】
基板1は、図14に示される例では、シリコン基板が用いられているが、Siに限らず、GaAs、GaP、サファイアなど種々の基板を用いることができる。反射膜13は、屈折率の異なる誘電体膜または半導体膜が屈折率の小さい膜が下側になるような積層構造によりに形成されており、図14に示される例では、たとえばマグネトロンスパッタ法により、屈折率の小さいSiO2 膜13aと、屈折率の大きいTiO2 膜13bとが交互に積層されて5ペア積層されている。それぞれの膜厚は、発光波長をλ、誘電体膜もしくは半導体膜の屈折率をnとしてλ/(4n)になるように、すなわち450nmの波長の光を発光させる場合、SiO2 膜13aの屈折率は1.4であるため0.28μm、TiO2 膜13bの屈折率は2.6であるため0.04μmの厚さにそれぞれ形成されている。この積層構造は、たとえば1ペアでも75%程度の反射率が得られ、目的によっては充分に満足する反射率が得られる。この組の積層数を増やすほど反射率を高くすることができ、目的に応じて積層数を調整したり、誘電体膜を変更することにより、所望の反射率に形成することができる。前述の例では85〜95%の反射率が得られた。なお、誘電体膜または半導体膜の他の例としては、誘電率の小さい膜として、Al2 O3 、Si3 N4 、AlNなどを、誘電率の大きい層としてa(アモルファス)-Siなどを使用することができる。
【0182】
反射膜の成膜方法としては、前述の例のように、マグネトロンスパッタ法を用いる場合、SiO2 およびTiO2 をターゲットとして、またはSiおよびTiをターゲットとして(Ar+O2 )プラズマの雰囲気で、SiO2 膜13aとTiO2 膜13bとをそれぞれ順次積層して5組設けることにより、反射膜13を形成することができる。引き続き、同じ装置内で、ZnOまたはZnをターゲットとして、(Ar+O2 )プラズマの雰囲気でZnOを20〜200nm程度成膜することにより緩衝層2を形成することができる。しかし、その例に限らず、ECRスパッタ法、蒸着法、レーザアブレーション法などを使用することができる。
【0183】
緩衝層2は、前述のように、たとえばZnOなどのZnを含む酸化物が用いられる。その上に成長される半導体積層部の最初のエピタキシャル成長される半導体層と同じ組成の酸化物半導体層であることが、ホモ接合となり、良好な格子整合が得られるため好ましい。この緩衝層2は、低温で非晶質または多結晶の構造になるように成膜される。そうすることにより、前述のように後の成長温度に上昇したときに表面に結晶核が生成し、その結晶核をシードとして半導体層を成長するためのものである。その後の半導体積層部12の成長や電極なども前述の例と同様に種々の構造で形成することができる。前述の例と同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。なお、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、緩衝剤としてのAlの同時ドーピングにより形成した。
【0184】
この反射膜13を設ける構造と従来の反射膜を設けない構造のLEDを同一のウェハ内に形成し、2種類のロットで両者の輝度を比較して調べた結果、表1に示されるように遥かに向上した。また、外部微分量子効率の変化を調べた結果、従来の構造では、2.8%であったものが、本発明の構造では4.6%と向上した。
【0185】
【表1】
この例によれば、基板上に誘電体膜の積層構造による反射膜が設けられているため、LEDチップの発光層で発光して四方に放射される光のうち、LEDチップの表面側である光の取出し面と反対側のチップの基板側に進む光も反射膜により反射されて取出し面側から取り出される。その結果、同じ発光効率でも、必要な光として一表面側に取り出される光の割合である外部微分量子効率が非常に向上し、輝度の大きなLEDが得られる。一方、基板上に反射膜とする誘電体膜が成膜されているため、基板に結晶基板が用いられてもその結晶と格子整合して半導体層を結晶成長させることができない。しかし、ZnO系酸化物化合物からなる低温の緩衝層が形成されることにより、結晶成長の温度に上昇することにより、その表面に結晶核が満遍なく生成し、その結晶核をシードとしてZnO系酸化物化合物半導体層がエピタキシャル成長するため、基板の結晶構造に余り拘束されないで発光層を形成する半導体層を成長することができる。
【0186】
この例では、緩衝層上にZnO系化合物半導体層を成長する例であったが、ZnO系化合物半導体に限られず、緩衝層のZnO系化合物と結晶構造が整合する化合物半導体層であれば、ZnO系化合物からなる緩衝層上に他の半導体層を成長することができる。また、LEDでなくてもLDであっても同様に、前述の各例の構造に形成できる。
【0187】
図2の構造のLDチップに、前述の反射膜13を形成して製造した結果、この反射膜を設けた構造のLDと、反射膜がなく他は同じ条件で製造した従来構造のLDの電流と出力の関係を調べた結果、図15にその特性がC、従来構造の特性がDでそれぞれ示されるように、閾値電流が72mAから67mAに改善され、発振効率ηが21%から28%に向上した。
【0188】
この構造にすることにより、反射膜13が活性層5で発光する発光波長に対して高い反射率になっているため、活性層5から染み出た光が反射膜13によって反射し、活性層5へ再び戻る。つまり、光が活性層から染み出しにくくなり、光の閉込め効率が向上する。その結果、閾値電流の低減、量子効率の向上を達成することができ、非常に低電力で高出力のLDが得られる。
【0189】
この例によれば、発光層のすぐ近傍の基板側に反射膜が設けられているため、発光して基板側に進む光も無駄なく有効に利用することができ、LEDの微分量子効率が非常に向上し、同じ入力に対して非常に大きな輝度の発光素子を得ることができる。また、LDにおいても、漏れる光が遮断され、閾値電流を非常に低下させることができると共に、その発振効率を向上させることができ、非常に高効率の半導体発光素子を得ることができる。
【0190】
図16〜20は、さらに他の実施形態を説明する図で、ZnO系化合物半導体層のn型層とn側電極とのオーミックコンタクトを改良し、動作電圧を下げる例である。すなわち、ZnOもGaNと同程度のバンドギャップエネルギーを有するためZnO系化合物半導体を用いてもGaNと同様の電極材料で形成できると考えられている。そして、n型のGaN系化合物半導体では、一般にAl-Ti合金が良好なオーミック接触が得られると考えられ、Al/TiまたはAl/Ti/Niの積層体またはこれらの合金が用いられている。
【0191】
しかし、n型ZnOにAl/Ti/Niの積層によりn側電極を形成して電圧−電流特性を測定すると、図20(a)に示されるようにリニアの関係が得られなかった。この積層状態で450℃程度のアニール処理を10分程度行ったものの同様の特性図は、図20(b)に示されるように若干改善されるが、完全なリニアにはならなかった。なお、図20において横軸は電圧で一目盛りが2V、縦軸は電流で一目盛りが10mAである。このように、ZnO系化合物半導体を用いた場合、バンドギャップエネルギーがほぼ同じであるGaN系化合物半導体を類推して同様の材料を電極材料として用いようとしても、完全なオーミックコンタクトが得られない。
【0192】
本発明者らは、n型のZnO系化合物半導体とオーミックコンタクトが得られ、低い動作電圧で動作する半導体発光素子を得るため、鋭意検討を重ねた結果、n型ZnO系化合物半導体とAlを接触しないように、TiまたはCrを第1層としてZnO系化合物半導体と接するように設けることにより、n側電極とn型ZnO系化合物半導体との間で、オーミックコンタクトが得られ、低い動作電圧で高出力の発光をする半導体発光素子が得られることを見出した。
【0193】
この例によるZnO系化合物半導体発光素子は、図16にそのLEDチップの断面説明図が示されるように、基板1上に、少なくともn型層4、3を有するZnO系化合物半導体の積層により発光層を形成する発光層形成部11が形成されている。そして、ZnO系化合物半導体のn型層3に接触して設けられるn側電極9は、n型層3に接する部分がAlを含まないTiまたはCrによる第1層9aにより形成されていることに特徴がある。
【0194】
n側電極9は、積層された半導体層3〜7の一部がエッチングにより除去されて露出するn型コンタクト層3に真空蒸着とパターニングまたはリフトオフ法などにより形成されている。この例では第1層9aと第2層9bとからなっており、第1層9aは、前述のようにAlを含まないような層、たとえばTiにより0.05μm程度の厚さ設けられており、その上に連続してTi1-r Alr (0<r≦0.99)からなる第2層9bが設けられている。
【0195】
n側電極9の第1層9aは、第2層9bを設けた後のアニール処理により、第2層9bのAlがZnOからなるn型層3に拡散しないように設けられているもので、そのアニール処理の温度と時間にもよるが、通常の450℃程度で10分程度のアニール処理に対しては、前述の程度の厚さ設けられればAlの拡散を防止することができる。Ti膜は、たとえば電子ビーム銃による照射のような真空蒸着またはスパッタリング法などにより成膜することができる。この第1層9aは厚すぎても問題はないが、Alよりも遥かに高価であるため、コスト面から余り厚いのは好ましくない。この第1層9aに、Alが含まれていると、前述のようにZnO系化合物半導体層に拡散しオーミック特性が極端に低下することを本発明者らは見出した。そして、Alを含まないTi層または後述するCr層をZnO系化合物半導体層上に成膜することによりAlの拡散を防止することができ、良好なオーミックコンタクトが得られた。
【0196】
n側電極9の第2層9bは、外部リードとの接続のための、ワイヤボンディングや、リードなどとのハンダ付けなどを容易にするため、その接続の容易さおよびコスト面からAlが一般に用いられているが、本発明者らの検討の結果、第2層9bをAlだけで構成すると、第1層9aと第2層9bとの間で接触抵抗が上昇することを見出し、Ti1-r Alr と、Tiが1%以上含まれることにより、良好なオーミックコンタクトが得られた。このTiの含まれる割合は、多すぎても特性的には問題ないが、コストが上昇するため、1%以上10%以下が好ましい。このTi1-r Alr を得るためには、たとえばエレクトロンビーム銃のような蒸着装置で、TiとAlを同時に照射する(混合比に応じてその照射量を制御する)ことにより、合金として成膜される。この状態でもオーミック接触特性は向上するが、AlとTiを同時に照射するだけでは完全な合金化には至らないため、さらに400〜1200℃程度、好ましくは400〜800℃程度、さらに好ましくは450℃程度で10分程度のアニール処理を行うことにより、非常に良好なオーミックコンタクトが得られた。アニール処理の温度が1200℃を超えるとZnO自体が熱分解を始めるため好ましくなく、400℃より低いとアニール処理の効果が現れない。図16に示されるLEDでのn側電極の電圧電流特性を図17に横軸を電圧(V)、縦軸を電流(mA)として示す。図17から明らかなように、電圧−電流特性は完全なリニアの関係が得られた。
【0197】
発光層形成部11、基板1、p側電極10などは、図1に示される例と同じで、これらの構造についても、LD構造を含め前述の各例の構造を採用することができる。同じ部分に同じ符号を付してその説明を省略する。また、製造方法も前述の各例と同様である。なお、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、緩衝剤としてのAlの同時ドーピングにより形成した。
【0198】
この例では、n側電極9の第2層9bをTi-Alの合金で形成したが、第1層のTiまたはCrとなじめばよく、Ti/Auの積層構造を設けたり、他の材料で構成することもできる。しかし、コスト的に99%程度がAlの前述の合金が一番安価で、かつ、電気的接触もよく好ましい。
【0199】
図18に示される例は、MIS構造のLEDの例で、この例ではn型ZnOからなるn型コンタクト層3に接するn側電極9の第1層9aをCrにより形成した例である。すなわち、積層された半導体積層部の一部がエッチングされて露出したn型コンタクト層3の表面に前述と同様に真空蒸着によりCrが0.05μm程度成膜され、その上にTi1-r Alr からなる第2層9bが0.15μm程度設けられている。なお、この例では第2層9bのTiの割合rを5%(0.05)で行った。
【0200】
発光層形成部11は、n型ZnO系化合物半導体からなるn型層3と、半絶縁性のZnO系化合物半導体からなるi層25と導電層であるITO膜8とからなっている。その上に設けられるi側電極10は前述のp側電極と同じで、リフトオフ法によるNi/Auの真空蒸着により形成されている。
【0201】
この構造のn側電極9の電圧電流特性が図19に示されている。この構造にしても、前述の例と同様に電圧と電流の関係はリニアの関係が得られ、完全なオーミックコンタクトが得られている。
【0202】
この例によれば、ZnO系化合物半導体のn型層に設ける電極材料にAlを含まないで、TiまたはCrの第1層を設け、その上にTi-Auの合金からなる第2層が設けられることにより、非常にオーミックコンタクト特性が改善され、直列抵抗が下がり、低い動作電圧で動作させることができる。
【0203】
n側電極をこのように構成することにより、とくに青色系の半導体発光素子に用いられるn型ZnO系化合物半導体層とオーミックコンタクト特性の優れたn側電極が得られるため、ZnO系化合物半導体を用いても低電圧で駆動することができる半導体発光素子が得られる。その結果、とくに現在要望されている青色系のLEDやLDなどの半導体発光素子を、新たな材料でその発光効率などの発光特性を向上することができる。
【0204】
図21〜24は、ZnO系化合物半導体のp型層のキャリア濃度が高くなるようにp型層を成長する例の説明図である。すなわち、ZnO系化合物半導体のp型化については、GaN系化合物と同様にチッ素をドーパントとして研究されているが、抵抗の小さいp型層を得ることができず、低電圧で駆動できる半導体発光素子が得られていない。すなわち、ZnOにチッ素をドーピングする場合、Oを置換してアクセプタとなるはずであるが、現実はチッ素が1019cm-3という高い値でドーピングされても、絶縁化するばかりでp型にはならない。その理由はつぎのように考えられている。
【0205】
ZnSe化合物半導体は、図23(a)にその結晶構造の説明図が示されるように、Zn(黒点丸)とSe(白丸)のイオン度が小さいため、ZnとSeの結合電子は、結合の中央部で存在確率が大きくなり、SeがZnの真上の位置ではなく、捩れた形で安定し、立方晶系となる。しかし、ZnOは、イオン度が大きいため、Zn+ 、O- に近くなり、相互間でクーロン引力が働き、図23(b)に示されるように、O(白丸)がZn(黒点丸)の真上の位置でクーロン引力が働いて安定し、結晶構造も六方晶系となっている(たとえば先端デバイス材料ハンドブック(電子情報通信学会編、オーム社発行、1993年)、第2章デバイス材料の基礎、29〜30頁参照)。このような結晶構造になっているため、たとえばp型ドーパントが黒点丸の位置に入ったとき、図23(a)に示される構造であれば、捩れの関係により、ドーパント間の原子間距離が遠いため、ドーパントが入りやすいが、図23(b)に示される構造では、原子間距離が近いため、クーロン引力が強く、ホールがNの位置に局在してしまい、結晶の全体に広がらない。そのため、p型ドーパントを入れても、ドーパントとして機能しないことにあると考えられる。このような機構は、イオン性の強い結晶であるZnO系化合物半導体では、Nに限らず起こる。
【0206】
実際にMBE装置によりZnOを成長しながら、チッ素フラックスを増加させることにより、プラズマ励起チッ素のチッ素分圧を大きくしてドーピングしたときのキャリア濃度を調べた結果を図24に示す。図24に示されるように、チッ素分圧が大きくなるにしたがって、n型のキャリア濃度が下がり、絶縁化するのみで、ホールの測定はできなかった。なお、成長した半導体層をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy )測定により調べた結果、Nは分圧に相当した量だけ半導体層に入っていることが確かめられた。
【0207】
前述のように、同じII−VI族化合物半導体でも、ZnO系化合物半導体はZnSeと異なり、その結晶構造に基づく原子間引力に起因してp型化が非常に難しく、ドーパントを入れてもキャリアとして機能せず、p型層とすることができないという問題がある。そのため、GaNなどに比べて扱いやすいZnO系化合物半導体を用いた半導体発光素子を得にくい。
【0208】
この例によるp型ZnO系化合物半導体の成長方法は、図21に本発明の成長法に用いる結晶成長装置の一例によるMBE装置の概略図が示されるように、たとえばZnのソース源41と励起酸素のプラズマ源43とをサファイアなどからなる基板38に向けて照射してZnOをエピタキシャル成長する際に、IIIB族の元素であるAlを緩衝剤としてAlのソース源42から照射しながらVB族の元素であるチッ素をp型ドーパントとして励起チッ素のプラズマ源44から照射し、ZnOをエピタキシャル成長することを特徴とする。
【0209】
図21に示される装置で、メインチャンバー31は、通常のMBE装置のチャンバーで、超高真空を維持できる円筒状の容器であり、図示しない排気装置に接続されている。そして、その内部に半導体層を成長させる基板38を保持する基板ホルダー34が設けられ、ヒータ35により基板38を加熱できるようになっている。そして、基板ホルダー34に保持される基板38と対向するように成長する化合物半導体を構成する元素の材料(ソース源)や、酸素などの気体の供給源とするプラズマ源からなるセル群41〜44がそれぞれ設けられている。メインチャンバー31には、基板38の出し入れをするロードロック室36および予備室37が設けられている。ソース源41、42は従来と同様の材料を供給するルツボなどからなり、ルツボの周囲に図示しないヒータが設けられることにより材料源を蒸発できるようにすると共に、その正面に図示しないシャッターが設けられ、その開閉により所望の材料が基板38側に供給されるようになっている。また、プラズマ源43、44は、たとえばマイクロ波によりプラズマを発生させるECR(Electron Cyclotron Resonance)が構成され、プラズマ励起された酸素やチッ素が照射されるようになっている。
【0210】
この装置で、サファイアからなる基板38を基板ホルダー34に保持して、基板38上にZnのソース源41と励起酸素のプラズマ源43を用いてZnO層39(図21(b)参照)を成長する。このとき、同時にp型ドーパントとしてのプラズマ励起チッ素源44からプラズマ励起チッ素を照射すると共に、p型ドーパントがZnOの酸素と置換しやすいように、またp型ドーパントが置換した後にホールがドーパントの周囲に局在しないで自由に動けるようにZnとOまたはドーパントのNとの間のクーロン引力を遮蔽する緩衝剤としてのAlのソース源42からAlを照射する。この成長した状態が図21(b)に示されている。
【0211】
この方法で、チッ素のフラックスを種々変化させたときのキャリア濃度を調べた結果を図22に示す。なお、チッ素のフラックスを増加させるとき、Alの蒸発量は一定の分圧5×10-7Torrとして行った。図22から明らかなように、この方法によれば、チッ素の分圧が3×10-6Torrでp型化し、5×10-5Torrの分圧で1017cm-3近くのキャリア濃度のp型が得られた。
【0212】
このようにp型ZnOが得られる理由は、六方晶系構造に基づきクーロン引力が働くZnとOとの間にAlがクーロン引力を遮蔽するように働き、NがOと置換し、クーロンポテンシャルの遮蔽効果によりホールがp型ドーパントであるNの位置に局在しないようになる。このことにより、ホールはお互いの波動関数を重ね合すことが可能となり、結晶全体に広がるようになるためと考えられる。
【0213】
前述の例では、p型ドーパントとして、Nを用いたが、Nの代りにP、As、SbなどのVB族の元素を使用することができる。また、緩衝剤としてAlを用いたが、Alの代りにB、Ga、In、TlなどのIIIB族の元素を用いても同様にp型化することができる。
【0214】
さらに、本発明者らはp型ドーパントとして、NaおよびKを用い、同様に緩衝剤として、Clを導入しながらZnOの成長を行ったところ、2×1017cm-3のキャリア濃度のp型ZnOが得られた。なお、このときのNaおよびKの分圧はそれぞれ3×10-5Torrで、Clの分圧は4×10-6Torrであった。p型ドーパントとしては、この他にLi、RbなどのIA族の元素を同様に使用することができ、緩衝剤としてはClの代りにF、BrやIなどのVIIB族の元素を使用することができる。このようなIA族の元素をp型ドーパントとして使用すると、固体ソースとして供給でき、Nのようにプラズマ源を不要とするメリットがある。
【0215】
図1に示される構造のZnO系化合物半導体を用いた青色系(紫外から黄色の波長領域)のLEDチップのp型層をこの方法で行い、他の部分は前述の例と同様に行った結果、駆動電圧の低いLEDが得られた。LEDに限らず、LDでも同様に製造でき、前述の各構造例のp型層に適用できる。
【0216】
このp型成長法によれば、p型半導体層の直列抵抗を下げることができるため、駆動電圧を低くすることができると共に、発光効率の高いLEDが得られる。また、LDにしても、閾値を下げることができ、発光特性の向上した半導体発光素子を得ることができる。
【0217】
この例によれば、ZnO系化合物半導体のp型化を達成できるため、化学処理ができるなどの取り扱いやすい材料により青色系の波長の短いLEDやLDなどの半導体発光素子を得ることができる。
【0218】
図25〜27は、ZnO系化合物半導体のp型層のキャリア濃度が高くなるようにp型層を成長する他の例の説明図である。すなわち、半導体層の気相成長方法としては、MOCVD法が、MBE法に比べて大面積に成長できて均一性に優れること、メンテナンス後の立上りが早いこと、などの理由により、CD用、DVD用、通信用などの大量生産を必要とする半導体発光素子の製造に用いられている。しかし、前述のような化合物半導体をMOCVD法によりエピタキシャル成長しようとすると、p型半導体層を高いキャリア濃度で成長することができない。キャリア濃度を高くできないと、直列抵抗が大きくなり、駆動電圧が上昇すると共に、発光効率の低下、抵抗による発熱、などの問題があり、信頼性の点からもp型層のキャリア濃度を高くすることが課題となっている。
【0219】
前述のGaN系化合物半導体であるGaN/AlGaN系の材料では、p型層のキャリア濃度を上昇させることができない理由の一つとして、原料ガスに含まれる水素がp型ドーパントと化合して半導体層に入り込み、ドーパントとして充分に機能しないからと考えられている。そのため、半導体層の成長後にアニール処理を行いドーパントと化合した水素を追い出してドーパントが機能するような製造方法が採られている。
【0220】
しかし、ZnSe/ZnMgSSe系やZnO系などのII−VI族化合物半導体では、GaN系のような熱的安定性がないため、水素離脱に必要な700℃以上のアニール処理を行うと、結晶構造が破壊するという問題があり、後から水素を離脱させることもできない。一方、MBE法では、リアクタチャンバーが高真空であるため、水素の影響を殆ど受けることなくp型半導体層を得ることができるが、前述のようにMBE法は大量生産には適さないという問題がある。
【0221】
この例によるp型化合物半導体の気相成長方法は、p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する場合に、図25(a)、(c)に示されるように、化合物半導体層を成長する反応ガスを成長装置内に導入して該半導体層の薄膜を成長する工程、および図25(b)、(d)に示されるようにp型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、を交互に繰り返すことによりp型半導体層を成長することを特徴とする。具体例として、GaAs基板上にp型ZnSeを成長する例について説明をする。
【0222】
まず、MOCVD装置内に基板61をセッティングし、キャリアガスのH2 を流量が1500〜2500ml/min程度で流しながら装置内の温度を上昇させる。そして、基板の温度が300〜500℃程度になったら、GaAsの緩衝層を成長させる。その後、温度を250〜450℃に下げて、図26のタイムテーブルに示されるように、II族元素Znの反応ガスとして、ジメチル亜鉛(DMZn)を流量2〜10μmol/minで、またVI族の元素の反応ガスとして、ジターシャルブチルセレン(DTBSe)を流量30〜120μmol/minでそれぞれ約4秒間導入し、反応させてZnSeの第1の結晶層62aを成長させる(図25(a)参照)。4秒間で成長する第1の結晶層62aの厚さは5〜20nm程度である。その後、図26のBに示されるように、反応ガスを止めてキャリアガスのH2 のみを流し続けて5秒間放置し、反応ガスをパージする。この間キャリアガスのH2 はそのまま流し続ける。
【0223】
それから図26のCに示されるように、p型ドーパントとしてのトリジメチルラミノアンチモンSb[N(CH3 )2 ]3 を流量5〜100/μmol/minで導入し、約3秒間流し続けてドーパントのSbを第1の結晶層62aにドーピングする(図25(b)参照)。このときのドーピングによるキャリア濃度は、図27にその流量とキャリア濃度の関係が示されるように、流量が多いほどキャリア濃度が高くなる。その結果、ドーパントガスの流量を調整することによりp型のキャリア濃度を調整することができる。この間キャリアガスはずっと同じ流量で流しっ放しとする。
【0224】
つぎに、ドーパントガスを止めて5秒ほど経過したら、図26のDに示されるように、再度反応ガスのDMZnとDTBSeを前述と同様の流量で成長装置内に流し、図25(c)に示されるように、第2の結晶層62bを5〜20nm程度成長する。反応ガスを4秒程度流して第2の結晶層62bを成長したら反応ガスを停止させ、前述と同様に5秒ほど反応ガスをパージする。その後、ドーパントガスSb[N(CH3 )2 ]3 を約5秒導入して、図25(d)に示されるように、同様に第2の結晶層52b内にp型ドーパントSbをドーピングする。
【0225】
この結晶層の成長と、p型ドーパントのドーピングとを繰り返すことにより、p型ZnSeを所望の厚さだけ成長する。その結果、p型の半導体層を成長することができる。
【0226】
この方法によれば、p型ドーパントを反応ガスと同時に導入していないため、反応ガスが分解して遊離し浮遊する水素原子が少なく、ドーパントの原子と水素原子とが化合しにくく、ドーパントの原子のままで半導体層内にドーピングされる。その結果、半導体層の成長後に、水素原子を追い出すためのアニール処理を行わなくても、半導体層内にドーピングされた元素はドーパントとして充分に機能する。その結果、電気伝導が良くなり、直列抵抗が小さくなる。
【0227】
この例によるp型層の成長法は、このようにドーパントが水素原子と化合しない状態で半導体層内にドーピングすることに特徴がある。そのため、前述のようにドーパントガスを導入するときは反応ガスを止めて反応ガスが存在しない状態でドーパントガスを導入するが、反応ガスを止めただけでは、短い時間では完全に反応ガスを排除できない場合も存在する。このような場合、反応ガスを止めると同時に不活性ガスを導入することにより積極的に反応ガスを排斥することができ、短時間で反応ガスをパージすることができる。不活性ガスとしては、チッ素ガスを用いるのが安価で便利であるが、Arなどの0族の希ガスを用いてもよい。できるだけ分子量の大きいガスを導入することにより、反応ガスをより確実に排斥することができる。
【0228】
不活性ガスを導入してパージする場合、キャリアガスも同時に不活性ガスとすることもできる。そうすればより確実に反応装置内から完全に水素原子をパージすることができるため好ましい。しかし、キャリアガスとしての水素はH2 の分子であるため、ドーパントの元素とは化合しにくく、そのままにしておいてもそれ程問題は生じない。
【0229】
反応装置内に遊離する水素原子は、たとえば反応ガスの元素と直接化合している場合に分離して発生しやすい。そのため、反応ガスは、水素原子と直接化合しない構造の有機金属材料を用いることが好ましい。すなわち、有機金族化合物は、水素原子は炭化水素基としての結合が安定であり、反応ガスが分解して金属元素が分離しても、他の元素は炭化水素基として存在し、水素原子単独では遊離しにくい。そのため、炭化水素基が遊離しても、ドーパントの元素とは直接化合しにくく、水素原子を取り込む可能性が少ない。このような反応ガスを用いれば、反応ガスのパージが完全に行われていなくても充分にキャリア濃度の高いp型半導体層が得られる。一方、水素原子と直接化合するH2 Sなどは、分離するとただちにH+ となり、ドーパントの元素と化合しやすい。このような水素原子と直接化合していないII族やVI族の元素の反応ガスとしては、ジエチルサルファイド(DES)、ジメチルサルファイド(DMS)、ジエチルダイサルファイド(DES2 )、ジメチルダイサルファイド(DMS2 )、ジイソプロピルサルファイド((i-C3 H7 )2 S)などを使用することができる。なお、Seの場合でも、上述のSをSeに置換したものを使用することができる。
【0230】
また、同様の観点から、p型ドーパントガスとしても、水素と直接結合していない材料を用いることが好ましい。化合物半導体のp型材料としては、Vb族の元素が用いられ、Vb族の元素と水素が直接結合する構造でない材料としては、前述のSb[N(CH3 )2 ]3 の他に、トリジメチルラミノフォスファイドP[(CH3 )2 N]3 、トリジメチルラミノアルシンAs[(CH3 )2 N]3 、ジエチルラミノ−ジエチルアルシン(C2 H5 )2 As[N(C2 H5 )2 ]、ビスジエチルラミノフォスファインクロライド[(CH3 )2 N]2 PCl、プラズマN2 などを用いることができる。
【0231】
前述の例では、II−VI族化合物半導体のp型化であったが、II−VI族化合物では、高温に耐えられなくて水素を追い出すためのアニール処理を行えないためとくに効果が大きい。しかし、GaN系化合物半導体などの他の水素原子と化合してp型化しにくい化合物半導体においても、アニール処理をすることなく、しかもアニール処理をする以上にキャリア濃度が大きいp型半導体層が得られる。
【0232】
この成長方法の発明により、GaN系やII−VI族の化合物半導体を用いて、発光ダイオードやレーザダイオードなどの半導体発光素子を製造する場合、通常と同様の工程で各半導体層を積層し、p型半導体層を成長するときに、前述の方法を用いることにより、p型半導体層のキャリア濃度を大きくすることができるため、動作電圧(閾値電圧)を下げることができると共に、発光効率が向上する。
【0233】
この成長法によれば、MOCVD法により成長すると、ドーパントが水素原子と化合して充分にp型ドーパントとして機能しにくい化合物半導体でも、充分に活性化したp型半導体層を得ることができる。その結果、キャリア濃度が大きく直列抵抗の小さいp型半導体層をMOCVD法により大量に得ることができ、青色などの波長の短い半導体発光素子を高い発光効率で、しかも低い動作電圧で発光させることができる。
【0234】
図28〜31は、酸化物化合物半導体の他の結晶成長法を説明する図である。すなわち、ZnOの成長方法としては、MOCVD法、MBE法、LA(Laser Ablation;レーザアブレーション)法などが用いられ得る。しかし、MOCVD法は、太陽電池用の透明導電膜としては用いられているが、表面状態が非常に悪いため、発光素子材料の成膜としては好ましくない。また、LA法は、焼結体ターゲットを高出力のパルスレーザ(He−Kdレーザなど)の断続的照射によってターゲット材料を昇華(アブレーション)させ、基板上に成膜する方法で、酸化物超伝導体には用いられているが、発光素子を形成するためのZnOをこの方法で成膜しようとすると、ZnOパウダー焼結のターゲットを使用するため、材料の純度が悪いこと、クラッド層、活性層などの発光素子に必要な各層の組成に応じた多種類のターゲットを用意する必要があること、アブレーション中に金属成分が析出してくるため組成制御を行いにくいこと、などから発光素子用の成長には好ましくない。
【0235】
さらに、MBE法は、ガス源を材料ソースとして用いる場合、原子状に分解して供給する必要がある。そのため、プラズマソースを付加する必要があるが、酸素をプラズマにより酸素原子の形に分解すると、プラズマ励起のエネルギーが高いため、O2 イオン、Oイオンなどのイオンや、大量の電子線などの荷電粒子が発生する。これらの荷電粒子が基板に照射されると、基板の表面が帯電して結晶の成長を妨げたり、成膜したZnOをエッチングするという悪影響を及ぼし、結晶欠陥の生成の原因となり、結晶性の良好な半導体層を得ることができない。したがって、ZnO系などの酸化物化合物半導体により半導体発光素子を製造しようとすると、いずれの方法を用いてもZnO系化合物半導体を結晶性よく成長することができないという問題がある。図28〜31は、このような問題を解決してZnO系化合物などの酸化物化合物半導体を成長するものである。
【0236】
この例による酸化物化合物半導体の結晶成長装置は、図28にZnOを成長する成長装置の一実施形態の概略説明図が示されるように、メインチャンバー31内に基板ホルダー34が設けられており、その基板ホルダー34に保持される基板38に向けて化合物半導体を構成する元素を照射し得るように設けられるセル群40およびプラズマを照射するプラズマ源50が設けられている。そして、少なくともプラズマ源50のプラズマを照射する開口部55(図29参照)の近傍に電界および/または磁界を印加する電磁界印加装置が設けられている。
【0237】
メインチャンバー31は、前述の図21の構造と同じである、通常のMBE装置のチャンバーで、超高真空を維持できる円筒状の容器で、図示しない排気装置に接続されている。そして、その内部に半導体層を成長させる基板38を保持する基板ホルダー34が設けられ、ヒータ35により基板38を加熱できるようになっている。そして、基板ホルダー34に保持される基板38と対向するように成長する化合物半導体を構成する元素の材料(ソース源)を入れたセル群40および酸素などの気体の供給源とするプラズマ源50がそれぞれ設けられている。メインチャンバー31には、基板38の出し入れをするロードロック室36および予備室37が設けられている。
【0238】
セル群40は従来と同様の材料を供給するルツボなどからなるソース源で、ルツボの周囲に図示しないヒータが設けられることにより材料源を蒸発できるようにすると共に、その正面に図示しないシャッターが設けられ、その開閉により所望の材料が基板38側に供給されるようになっている。
【0239】
プラズマ源50は、図29にその酸素プラズマ源の一例であるECR(Electron Cyclotron Resonance)の拡大図が示されるように、マイクロ波を伝送し得る直方体型の管の前方が、マイクロ波を透過する石英窓52などにより仕切られて、酸素導入管53により管51の先端部に酸素が導入されるようになっている。そして、酸素が導入される管51の先端部の側壁に磁場発生用の磁石54が対向して設けられ、荷電粒子は磁場のまわりで回転運動をし、それをマイクロ波が増幅することにより、酸素プラズマを発生させるように構成されている。管51の先端部の先には小さい開口部55が設けられ、発生した酸素プラズマがこの開口部55から放出されるようになっている。チッ素の供給をするプラズマ源なども同様の構成になっている。
【0240】
このプラズマ源50の構成は従来のプラズマ源と同様の構成になっているが、本発明では、図29に示されるように、プラズマ酸素の放出する開口部55の出口側に、一対の平行平板電極56aおよび56bが設けられ、その電極56a、56bにたとえば0.5V程度の電圧が印加され、荷電粒子Aがあると、その荷電粒子を偏向させて基板38に到着しないように反らせるか、電極56により捕獲するように構成されていることに特徴がある。この平行平板電極56の長さLおよび間隔dが定まると、印加電圧はつぎのように決定される。
【0241】
図29に示されるように、電極56の先端と基板38の表面との距離をM、基板38の直径をD、電極56に印加された電圧により荷電粒子Aが曲げられる角度をθとする。
【0242】
荷電粒子Aが、基板38内に到達しないようにするためには、開口部55が基板38の直径に比べて非常に小さいとして、
M・tanθ>D/2 (1)
平行平板電極56中での荷電粒子Aが受ける力は、荷電粒子Aの荷電量をq(クーロン)、印加電圧をV(ボルト)とすると、q・V/d(ニュートン)であるから、平行平板電極56の出口で垂直方向の速度ξv および水平方向の速度ξh との間には、荷電粒子Aの質量をmとすると、つぎの関係が成り立つ。
【0243】
ξv =q・V・L/(m・ξh ・d) (2)
tanθ=ξv /ξh =q・V・L/(m・ξh2 ・d) (3)
式(3)を式(1)に代入することにより、
V>D・m・ξh2 ・d/(2q・M・L) (4)
荷電粒子Aの速度分布がボルツマン分布をしているとすると、平均速度ξave は、ボルツマン定数をk、絶対温度をTとすると、
ξave =(2k・T)1/2 /(π・m) (5)
ξh が、ほぼξave に等しいとすると、
V>D・d・k・T/(π・q・M・L)
一般にグロー放電などでは、荷電粒子のエネルギーは数eVのオーダーといわれているため、この場合もほぼ同様とすると、プラズマ温度は約1万Kになる。仮にイオン種がOとして、M=20cm、L=1cm、D=5cm、q=1.6×1019クーロンと仮定すると、式(4)から、
V>0.206(ボルト)
となる。
【0244】
このようにして、おおよその印加電圧を求めることができる。真に適当な値は、平行平板電極に流れ込むイオンによる電流値を測定することによって決定することができる。しかし、過度に大きい電圧を印加すると、電極56間で放電を起こす可能性があるため、装置にもよるが、おおよそ900〜1000V/cm以上は好ましくない。
【0245】
図30に電圧を印加したときと印加しないときのX線ロッキングカーブの測定結果を示す。図30から明らかなように、本発明の電圧を印加する方法Pによれば、従来の方法Qのものに比べて、半値幅が0.21゜から0.13゜と狭くなり、結晶性が向上していることが分る。
【0246】
また、ノンドープのZnOのホール測定を行った結果を表2に示す。表2から明らかなように、電圧を印加しないで従来の成長を行ったときは、1018cm-3後半程度のキャリア濃度であったものが、本発明の電圧を印加することにより、1017cm-3台に減っている。すなわち、ZnOのノンドープのキャリア濃度はO欠損によるといわれており、本発明の方法により、Oの欠損が減り、結晶性が向上したことを示している。
【0247】
【表2】
図31にこの成長方法の他の構造例が示されている。この例は、プラズマ酸素が放出される開口部の近傍に一対の磁石57が設けられ、前述の電圧の印加に代えて磁界を印加する構成にされている。荷電粒子Aに磁界が印加されると、その磁界により進行方向に対して垂直方向のローレンツ力を受け、磁界を中心に回転する方向に曲げられる。この曲げによって、荷電粒子の進行方向は偏向し、基板に荷電粒子が直接当たるのを防止することができる。この方法によっても、X線ロッキングカーブおよびノンドープのキャリア濃度を測定した結果、両方とも前述と同様の改善が見られ、結晶性の向上が図られていることが確認された。
【0248】
このように、本発明の酸化物化合物半導体の成長方法は、その構成元素およびプラズマ状態の酸素を導入する場合に、以上のような装置を使用し、プラズマ中で発生する荷電粒子を電界または磁界の印加により除去または偏向させることにより、前記基板上に直接前記荷電粒子が照射されないようにしながら酸化物化合物半導体を結晶成長させるものである。そうすることにより、前述のように、荷電粒子が発生しても、その荷電粒子は半導体結晶を成長する基板のない部分に曲げられて除去される。その結果、基板には荷電していないラジカル酸素のみが達し、その酸素はラジカルであるため反応しやすく、基板上で他の元素と化合し基板上に酸化物として成長する。そして、荷電粒子が基板上に直接入り込まないため、基板表面に成長する半導体層の表面が帯電したり、荷電粒子による欠陥が生じたりしないため、非常に結晶性の優れた半導体結晶を成長することができる。
【0249】
この例によれば、従来結晶性の優れた半導体層を得にくいZnOなどの酸化物化合物半導体の結晶成長を非常に結晶性よく成長することができる。その結果、ZnOなどの酸化物化合物半導体を使用した青色系の波長の短い半導体発光素子を新しい材料により実現することができ、一層青色系の半導体発光素子の開発に寄与する。
【0250】
図32〜33は、結晶性のよいZnO系化合物半導体層を成長する他の例の説明図である。本来、この化合物半導体の結晶成長は、2種類以上の原子または分子がある温度領域にて物理的もしくは化学的に反応することにより進行する。このとき、基板表面上で接している異種原子同士が互いの結晶欠陥を埋めるように移動する動き(マイグレーション)が必要となる。この動きがないと結晶は本来最も成長しやすい方向に早く成長してしまうため、結晶欠陥が保持されたまま結晶成長が進行する。このような結晶欠陥を有する半導体層で発光素子を構成すると、発光効率が低下したり、素子の信頼性が低下する要因になる。
【0251】
マイグレーションというのは、化合物が溶融しているでもなく、固化しているでもないという状態で促進されるため、マイグレーションに適した温度と結晶の成長温度には密接な関係がある。たとえば従来の半導体発光素子として用いられている化合物半導体の溶融温度と一般に行われている成長温度との関係を表3にまとめる。
【0252】
【表3】
表3からも明らかなように、従来の化合物半導体の成長は、経験的にエピタキシャル成長温度/溶融温度との関係は3/4〜4/5程度が標準とされている。ZnOの融点は、1980℃程度以上といわれており、ZnOをエピタキシャル成長するには、理想的には1500℃程度で行うことが必要となり、少しでも高い温度で成長をすることが望ましい。
【0253】
しかし、前述のように、ZnO系化合物半導体をMBE装置でエピタキシャル成長しようとすると、Zn原子の蒸気圧が高いため、結晶成長温度を上げることができない。そのため、300〜350℃程度で成長することになり、前述のマイグレーションが生じなくて、縦方向のみに結晶成長が進み、結晶中に粒界が生じやすい。この例は、この点を改良するものである。
【0254】
本発明者らは、ZnO系化合物半導体を結晶性よく成長させるため、鋭意検討を重ねた結果、Znと炭化水素との結合エネルギーが大きいため、結晶成長の温度を高くしてもZnの蒸発を防止することができることを見出し、600〜700℃程度の高温で成長して結晶性の優れたZnO系化合物半導体層が得られることを見出した。
【0255】
この例によるZnO系化合物半導体発光素子は、図32にその一例であるLEDチップの断面説明図が示されるように、基板1上にZnO系化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部11が形成されている。そして、このZnO系化合物半導体層にC元素が含まれていることに特徴がある。
【0256】
発光層形成部11の各半導体層は、前述の各例と同様の組成で形成されており、同じ部分に同じ符号を付してその説明を省略する。しかし、この例では、これらの半導体層が、その成長時にZnの有機金属化合物が用いられているため、ZnとCとの結合が強く、半導体層にもCが残存する一方、高温での半導体層のエピタキシャル成長中にもCとZnとの結合によりZnの蒸発を防止することができ、高温で結晶性の良好な半導体層を成長することができる。また、図32に示される例では、基板1としては、たとえばn型のZnO基板が用いられているが、ZnOに限らず、サファイア、GaN、GaP、SiCなどの基板を用いることができる。他の構造も前述の各例と同様であるが、n型およびp型コンタクト層3、7も前述のZnO系化合物半導体層と同様に、その成長時にZnの有機金属化合物が用いられているため、ZnとCとの結合が強く、半導体層にもCが残存する一方、高温での半導体層のエピタキシャル成長中にもZnの蒸発を防止することができ、高温で結晶性の良好な半導体層を成長することができる。
【0257】
このように、この例ではZnO系化合物半導体層が、Znの材料として、Znの有機金属化合物を用いて成長されていることに特徴がある。すなわち、従来MBE装置でZnO化合物半導体を成長する場合、ソースメタルとしてのZnを1×10-6〜5×10-8Torr程度の蒸気圧(分圧)になるように基板上に照射させながら、プラズマ酸素を1×10-6〜1×10-5Torr程度の分圧になるように基板に供給することにより、基板上に成長させている。しかし、Znの蒸気圧が高いため、基板の成長温度を余り上昇させると、蒸気圧が高くなり過ぎて両者の比率がアンバランスになり、ZnOが成長しない。そのため、従来はZnOの成長を300〜350℃程度の低温で成長しなければならなかった。ところが、本発明では、Znの材料として、たとえばジメチル亜鉛などの有機金属化合物を用いているため、亜鉛と炭化水素気との分離温度は450℃程度以上と高くなり、高い温度で成長をすることができる。しかも、有機金属化合物が分解しても、炭化水素の炭素と水素とは分離しやすいため水素は分離するが、ZnとCとの結合は分離しにくく、結合したままOと化合してZnO化合物半導体を成長する。その結果、Cを含有するZnOが成長し、CとZnとの結合に基づき高温での成長に対してもZnの蒸発を防止することができる。
【0258】
つぎに、このLEDの製法について説明をする。たとえばMBE装置内にZnOなどからなる基板1をセッティングし、基板1の温度を600〜700℃程度にし、プラズマ酸素の照射条件下において、ジメチル亜鉛(Zn(CH3 )2 )を蒸気圧が1×10-6〜5×10-8Torr程度になるようにセルから照射する。そうすると、温度によりジメチル亜鉛が分解してHが分離し、Zn(CH2 )2 2+となり、O2-と化合する。そして、さらにHが分離することにより、またはさらにCが分離することにより、Cを含有するZnOを成長する。なお、成長厚さは成長時間を制御することにより所望の厚さに成長することができる。また、n型ドーパントとしては、トリメチルアルミニウム(TMA)を蒸気圧が1×10-9Torr程度になるように照射することによりドーピングすることができる。
【0259】
ついで、n型クラッド層4を成長させるため、さらにMgのソース源として、シクロペンタジメチルマグネシウムCp2 Mgのセルのシャッターを開きMgの有機金属化合物を照射する。このCp2 Mgの蒸気圧を制御することにより、MgとZnとの混晶比を制御することができ、たとえば蒸気圧を5×10-6〜5×10-8Torr程度にすることにより、Mg0.15Zn0.85Oを成長することができる。
【0260】
つぎに、活性層5を成長するため、Cp2 MgのセルおよびドーパントであるTMAのセルを閉め、Cdのソース源としてのジメチルカドミウム(DMCd)のセルのシャッターを開いてDMCdを照射し、同様に成長を続ける。さらに、同様にp型クラッド層6、p型コンタクト層7を成長することにより半導体積層部12を成長する。なお、p型にする場合は、プラズマ励起N2 と、TMAの同時ドーピングにより形成した。
【0261】
その後、MBE装置よりエピタキシャル成長がされたウェハを取り出し、スパッタ装置に入れて透明性導電膜ITOを0.15μm程度の厚さに設け、透明電極8を形成する。その後、基板1の裏面を研磨し、100μm程度の厚さとし、基板1の裏面にTi/Auなどからなるn側電極9を全面に、透明電極8上にNi/Alなどからなるp側電極10をたとえばリフトオフ法により、それぞれ真空蒸着などにより形成する。その後ウェハからチップ化することにより、図32に示されるLEDチップが得られる。
【0262】
このような方法でZnOを成長すると、ノンドーピングで成長したときの不純物濃度(ZnOでは結晶成長の際にO欠陥が生じやすく、結晶性が悪いとノンドーピングでもn型になる)が従来の方法で成長すると5×1018cm-3であったものが、8×1016cm-3とO欠陥の程度が減少した。また、成長した半導体結晶の状態をX線回折により、図33に示されるような基板の回転角ωに対するロッキングカーブで調べた結果、FWHM(Full Width at Half Maximum;半値全角、図33参照)が従来の低温での成長では0.015゜あったものが、前記方法により高温で成長したものでは、0.003゜と非常に小さくなり、結晶性が向上したことが分る。
【0263】
前述の例では、Zn以外の材料も全て有機金属化合物材料を用いたが、蒸気圧の低いMgなどは従来と同様のメタルソースを用いて行ってもよい。また、前述の例では、Znの有機金属化合物として、ジメチル亜鉛を用いたが、それ以外にも、ジエチル亜鉛などを用いることができる。また、発光層形成部11が、活性層を活性層よりバンドギャップエネルギーの大きい材料からなるクラッド層により挟持したダブルヘテロ接合構造であったが、pn接合やMIS構造(メタル−絶縁層−半導体層)などにより構成することもできる。さらに、前述の例は、LEDの例であったが、LDで、前述の各構造例のLDを製造することができる。
【0264】
この例によれば、融点の低いZnを、有機金属化合物を原材料として用いているため、成長温度を600℃以上に高くしても、蒸発することなく結晶性の良好なZnO系化合物半導体を成長することができる。その結果、結晶性の非常に優れたZnO系化合物半導体層を成長させることができ、信頼性が向上すると共に、発光特性の優れたLEDやLDが得られる。
【0265】
その結果、とくに青色系の半導体発光素子に用いられるZnO系化合物半導体層などの結晶性を改良することができるため、とくに現在要望されている青色系のLEDやLDなどの半導体発光素子を、新たな材料でその発光効率などの発光特性を向上することができる。
【0266】
図34〜35は、半導体レーザを形成する場合に、ZnO系化合物のウェットエッチングが可能な点を利用し、さらに電流狭窄を確実に行いうる構造例である。すなわち、従来のGaN系化合物半導体は物理的なドライエッチングによってしかエッチングをすることができず、電流狭窄層を活性層の近くに作り込むことができない。また、ドライエッチングによりエッチングをすると、半導体層に与えるダメージが大きいと共に、コンタミネーションの付着などにより、半導体層の再成長を結晶性よく行うことができず、活性層の近くに埋め込む内部電流狭窄層を形成することができない。
【0267】
さらに、電流狭窄層をその周囲のクラッド層と異なる導電形で形成するより、絶縁体で形成した方が、電流を阻止する効果が大きく効果的であることが一般に知られている。しかし、絶縁体で電流狭窄層を形成するためには、SiO2 などの、半導体層とは異なる誘電体を形成しなければならず、半導体層とは別のCVD装置などに移して形成しなければならないと共に、その絶縁体は単結晶でなく、半導体層を積層する場合の結晶の連続性が得られない。この例は、このような問題を解決し、青色系の発光をするGaN系やZnO系化合物半導体などと格子定数などの物理的性質が近い半導体結晶層による絶縁層を電流狭窄層とし、ウェットエッチングが可能で活性層の近くに電流狭窄層を作り込んでいる。
【0268】
本発明者らは、とくに青色系の半導体レーザにおいても、ウェットエッチングをすることができる材料により、電流狭窄層を活性層の近くに作り込み、電流の無駄をなくして閾値が低く発振効率が高い半導体レーザを得るため、鋭意検討を重ねた結果、ZnO系化合物半導体は、IA族やVB族のp型ドーパントをドーピングしても、p型にはならず半絶縁化する性質があり、この半絶縁化したZnO系化合物半導体を電流狭窄層として使用することにより、p型クラッド層内にn型で電流狭窄層を形成するより、遥かに電流ブロックの効果が大きいこと、ウェットエッチングをすることができ、しかもGaN系化合物半導体とも格子定数などの物理的性質が近いため、発光層形成部と連続して積層することができ、活性層に近い場所に設けることができることなどの理由により、高特性の半導体レーザが得られることを見出した。
【0269】
この例による半導体レーザは、図34にその一例の断面説明図が示されるように、たとえばサファイア基板1上に、第1導電形(n型)半導体からなる第1クラッド層4、第1クラッド層上に活性層15、活性層15上に第2導電形(p型)半導体からなる第2クラッド層6(6a、6b)が設けられ、第2クラッド層6の内部またはその近傍に電流狭窄層17が設けられるている。そして、電流狭窄層17がIA族またはVB族の元素がドーピングされたZnO系化合物半導体からなっている。
【0270】
図34に示される例では、第2クラッド層6が、p型下部クラッド層6aと、p型上部クラッド層6bとからなっており、その間に電流狭窄層17が設けられている。p型クラッド層6(6a、6b)は、Mgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなり、電流狭窄層17は、IA族またはVB族の元素がドーピングされたMgz Zn1-z O(0≦z<1、y≦z、たとえばz=0.2)が0.2〜0.6μm程度の厚さで形成されている。Mgz Zn1-z Oに限定はされず、ZnO系化合物半導体であればよいが、Mgが混晶されることにより、バンドギャップエネルギーが大きくなると共に、屈折率が小さくなるため、活性層で発光する光を吸収しなくて、活性層に近付けて設けることができると共に、実屈折率導波構造にすることができるため好ましい。この電流狭窄層17は、成長後にたとえばウェットエッチングにより電流注入領域とする部分が除去されてストライプ溝18が形成されている。この例のように、電流狭窄層17がp型クラッド層6と同種の材料である場合には、図示されていないが、その境界にBeZnOのようなエッチングストップ層が設けられることにより、電流注入領域とするエッチングを容易に、かつ、確実にエッチングすることができる。
【0271】
また、このZnO系化合物半導体からなる電流狭窄層17は、p型ドーパントがドーピングされている。これは、ZnO系化合物半導体は、そのまま成長すると、酸素欠陥が生じやすくn型になりやすいが、p型ドーパントがドーピングされることにより、半絶縁化し、前述のようにn型で形成するより電流阻止の効果が大きくなることを見出したことに基づいている。p型ドーパントをドーピングすると半絶縁化する理由は、ZnO系化合物のイオン度が大きいという性質に起因し、たとえばドーピングされたN同士がクーロン斥力により強く反発し、ホールがNの位置に局在してしまい全体に広がらないで、酸素欠陥などにより生じるn型を相殺するに止まるためと考えられる。そのため、通常のZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際にp型ドーパントを導入することにより、半絶縁性のi形ZnO系化合物半導体が得られ、n型層に形成するより、遥かに電流ブロック効果の大きい電流狭窄層17が得られる。なお、p型ドーパントとしては、たとえばLi、Na、KなどのIA族の元素、またはN、P、As、SbなどのVB族元素が扱いやすいため好ましい。
【0272】
発光層形成部11の各半導体層は、p型クラッド層が第1層6aと第2層6bに分割されて、その間に電流狭窄層17が挿入されていることを除き、前述の各例と同様の組成で形成されており、同じ部分に同じ符号を付してその説明を省略する。また、基板1や緩衝層2も前述の各例と同様に種々の材料を使用することができ、電極や他の半導体層なども前述の例と同様である。
【0273】
製法も、前述の例と同様にMBE法などにより行うことができる。なお、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、プラズマ励起N2 と、Alの同時ドーピングにより形成した。このp型ドーパントであるプラズマ励起N2 とn型ドーパントであるAlとを同時ドーピングすることにより、n型ドーパントが緩衝剤の役割をして、p型層が得られる。そして、電流狭窄層を成長するときは、プラズマ励起N2 のみにしてドーピングすることによりp型にはならずに半絶縁化し、前述のように半絶縁の電流狭窄層17が得られる。なお、p型ドーパントとしては、プラズマ励起N2 には限定されず、Li、Na、KなどのIA族の元素やP、As、Sbなどの他のV族元素でも同様にn型ドーパントとドーピングすればp型層となり、p型ドーパントのみをドーピングすれば絶縁層として得られる。
【0274】
この例によれば、半導体レーザの電流狭窄層17に、半絶縁性のZnO系化合物半導体が用いられている。このZnO系化合物半導体は、前述のように、p型ドーパントをドーピングしてもp型にはならずに半絶縁化する性質を有している。そのため、緩衝剤としてのp型ドーパントとn型ドーパントとを同時に導入することによりp型クラッド層を形成しながら、ドーパントの緩衝剤であるn型ドーパントを止めるだけで、絶縁性の電流狭窄層を簡単に成長することができる。そのため、特別のCVD装置などを使用しないで、同じ半導体層の成長装置で連続して絶縁層を積層することができる。しかも、ZnO系化合物半導体は、硫酸系のエッチング液などの酸性またはアルカリ性のエッチング液によりエッチングをすることができるため、活性層の近くに精度よく電流狭窄層を作り込むことができる。その結果、電流ブロック効果が大きく、閾値電流の低い高出力の半導体レーザが得られる。しかも、電流狭窄層にMgを混晶させたバンドギャップエネルギーが大きく屈折率の小さい材料を用いることができ、活性層の近くに設けても、光の吸収による損失が小さく、実屈折率導波構造の半導体レーザを得ることができる。
【0275】
前述の例は、半導体積層部をすべてZnO系化合物半導体により構成した例であったが、GaN系化合物半導体などの他の化合物半導体を用いる場合でも同様にZnO系化合物半導体による半絶縁性の電流狭窄層を設けることができる。図35は、GaN系化合物半導体により青色系の半導体レーザを構成する場合の例を示す説明図である。
【0276】
この場合、基板1は前述と同様にサファイア基板が用いられ、緩衝層2としてGaN層が、n型コンタクト層3としてn型GaN層が、n型クラッド層4としてAla Ga1-a N(0≦a≦0.3、たとえばa=0.15)が0.1〜1μm程度、n型およびp型光ガ
イド層14、16がそれぞれn型およびp型のGaNで0.01〜0.1μm程度、活性層15がIn0.06Ga0.94NとIn0.1 Ga0.9 Nからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ60Åおよび30Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成されている。p型クラッド層6もn型クラッド層4と同じ組成で、たとえばZnドープにより形成され、p型下部クラッド層6aが0.05〜0.5μm程度、図34の例と同様の半絶縁(i形)Mgz Zn1-z Oからなる電流狭窄層17が0.2〜0.6μm程度の厚さに形成され、そのストライプ溝内および上面にp型上部クラッド層6bが0.5〜2μm程度に形成されている。そして、p型GaNからなるp型コンタクト層8が0.5〜2μm程度に形成され、前述と同様にn側電極9およびp側電極10が設けられ、チップ化することにより図35に示される構造のLDチップが形成されている。
【0277】
この場合も、電流狭窄層として、ZnO系化合物半導体が用いられることにより、ウェットエッチングをすることができ、しかもGaN系化合物半導体がエッチング液に対して非常に安定であるため、エッチングストップ層も必要なく活性層に近いところに電流狭窄層を形成することができる。さらに、ZnO系化合物半導体は、GaN系化合物半導体と格子定数などの物理的性質が非常に似ており、そのまま続けて成長することができる。その結果、従来GaN系化合物半導体を用いた半導体レーザでは、電流狭窄層を活性層の近くに作り込むことができなかったのが、ZnO系化合物半導体により作り込むことができるようになった。しかも、前述のように、絶縁体で作り込むことができ、n型で作り込むより、一層電流ブロック機能を大きくすることができる。
【0278】
図35に示されるSAS型構造のLDチップを製造するには、サファイアからなる基板1をアセトン、エタノールなどの有機溶剤により洗浄し、純粋でリンス処理した後、リン酸+硫酸の混合液(混合比1:3)を80℃として酸処理し、再び純粋によりリンスする。これらの前処理をしたサファイア基板1をMOCVD(有機金属化学気相成長)装置内に入れ、H2 雰囲気中で基板温度TS を1050℃程度に上昇させ、サーマルクリーニングを10分程度する。その後、基板温度TS を600℃程度まで下げて、反応ガスのトリメチルガリウム(TMG)とアンモニアガス(NH3 )とをキャリアガスのH2 と共に導入してGaNからなる緩衝層2を0.01〜0.2μm程度成膜し、基板温度を800℃程度に上げて順次必要な反応ガスに変更して前述の組成で厚さの各半導体層を成長する。なお、電流狭窄層17を成長する際には、反応ガスをZnのジメチル亜鉛(DMZn)と、OのプラズマO2と、MgのシクロペンタジエニルマグネシウムCp2 Mgとして、ドーパントとしてNのプラズマN2 を導入し反応させることにより得られる。この成長後にストライプ溝などの電流注入領域をエッチング除去することは前述の例と同様である。なお、この場合はGaN系化合物がエッチング液に対して安定であるため、エッチングストップ層は不要となる。また、電極9、10の形成およびウェハからのチップ化についても前述の例と同様に行うことにより、図35に示される構造のLDチップが得られる。なお、この例では、すべての半導体層をMOCVD法により成長する例であったが、電流狭窄層のみをMBE法により成長してもよく、また、全部の半導体層をMBE法により成長することもできる。
【0279】
なお、GaN系半導体層の例は一例であって、たとえばAlGaNに代えてGaNなどでもよく、GaN系化合物半導体またはZnO系化合物半導体の範囲内で、適当なバンドギャップエネルギーになるような混晶比の材料を選択して使用することができる。また、AlGaAs系などの他の半導体層にも電流拡散層として絶縁化されたZnO系化合物半導体を用いることもできる。
【0280】
この例によれば、半導体レーザの電流狭窄層にIAまたはVB族の元素をドーピングしたZnO系化合物半導体を用いているため、同じ半導体層をエピタキシャル成長する成長装置で連続して絶縁性の電流狭窄層を活性層の近くに積層することができる。しかも、ウェットのエッチングにより電流注入部を形成することができるため、半導体層にダメージを与えることがない。また、バンドギャップエネルギーの大きい材料により形成できるため、活性層の近くに電流狭窄層を作り込むことができる。その結果、電流の無駄がなくなり、低い閾値電流で高特性の半導体レーザが得られる。
【0281】
図36〜39は、前述の電流狭窄層にMgZnOを用いたときの最適なエッチングストップ層を設ける例である。すなわち、ZnO系化合物半導体は酸性またはアルカリ性のエッチング液により容易にエッチングされ、電流狭窄層を活性層の近くに作り込むことができる。しかし、電流注入領域は、図39(c)に示されるように電流狭窄層67のエッチングされた幅Wにより定まり、充分にサイドエッチングを行うことによりその幅を一定にすることができるが、図39(a)に示されるように、エッチングは等方的にエッチングされて、MgZnOからなるクラッド層もエッチングされるため、サイドエッチングによりその幅を確定することはできない。幅を確定させるためには、図39(b)〜(c)に示されるように、クラッド層66でエッチングをストップさせ、サイドエッチングにより、その幅Wを定めるのが理想的である。なお、図39において、68はレジスト膜である。
【0282】
このように、ZnO系化合物半導体を用いて、青色系の半導体レーザを構成する場合、ZnO系化合物半導体は酸性またはアルカリ性のエッチング液によりエッチングをすることができるため、電流狭窄層を活性層の近くに作り込みやすい。しかし、クラッド層もエッチングされてしまうため、サイドエッチングを行うことができず、電流注入領域とする、たとえばストライプ溝の幅が一定とならない。そのため、電流狭窄層の下側に電流狭窄層よりエッチングレートの小さい層が必要となるが、クラッド層はバンドギャップエネルギーを大きくする必要があり、ZnO系化合物半導体では、電流狭窄層と同様にZnOまたはMgZnO系化合物しか考えられない。そのため、電流狭窄層とエッチングレートに差があると共に、活性層で発光する光を吸収しないように充分にバンドギャップエネルギーの大きい材料である必要があるが、ZnO系化合物半導体で適切なエッチングストップ層が見つけ出されていない。そのため、MgZnO系化合物半導体を電流狭窄層として用いた半導体レーザにおいて、電流狭窄層に精度のよい電流注入部を形成することができる適切な構造のエッチングストップ層が要求される。
【0283】
本発明者らは、ZnO系化合物半導体を用いた半導体レーザを構成するに当り、クラッド層に影響を与えることなく電流狭窄層のみを精度よくエッチングすることができるように、電流狭窄層の下側に設けるのに適したエッチングストップ層を見つけるため、鋭意検討を重ねた結果、ZnOやMgZnO系はアルカリ性エッチング液に溶解するのに対して、CdZnO系化合物は同じアルカリ性のエッチング液に対してエッチングレートが小さく、その厚さをたとえば0.1μm以下程度に薄くすることにより、特性に影響を与えず、かつ、充分にエッチングストップ層として寄与し得ること、また、BeをZnOに混晶させたBeZnO系化合物は酸性のエッチング液にも、アルカリ性のエッチング液にも非常に安定で、同様に薄く設けてもエッチングストップ層として充分に寄与することを見出した。
【0284】
このエッチングストップ層を設けた半導体レーザは、図36にその一例の断面説明図が示されるように、たとえばサファイア基板1上に、第1導電形(n型)半導体からなる第1クラッド層4、第1クラッド層上に活性層15、活性層15上に第2導電形(p型)半導体からなる第2クラッド層6(6a、6b)が設けられ、第2クラッド層6の内部またはその近傍にMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる電流狭窄層17が設けられるている。そして、電流狭窄層17の基板1側にCds Zn1-s O(0<s<1)またはBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層27が設けられていることに特徴がある。
【0285】
図36に示される例では、第2クラッド層6が、p型下部クラッド層6aと、p型上部クラッド層6bとからなっており、その間にCds Zn1-s O(0<s<1)からなるエッチングストップ層27が数百Åの厚さで、およびNまたはLiがドーピングされた半絶縁性のMgz Zn1-z O(0≦z<1、y≦z、たとえばz=0.2)からなる電流狭窄層17が0.2〜0.6μm程度の厚さでそれぞれ設けられている。電流狭窄層17は、Mgz Zn1-z Oに限定はされず、ZnO系化合物半導体であればよいが、Mgが混晶されることにより、バンドギャップエネルギーが大きくなると共に、屈折率が小さくなるため、活性層で発光する光を吸収しなくて、活性層に近付けて設けることができると共に、実屈折率導波構造にすることができるため好ましい。この電流狭窄層17は、成長後にたとえばウェットエッチングにより電流注入領域とする部分が除去されてストライプ溝18が形成されている。本発明では、このエッチングの際にp型下部クラッド層6aをオーバーエッチングしないようにエッチングストップ層27が設けられている。このエッチングストップ層27について詳細に説明をする。
【0286】
本発明者らは、前述のように、ZnO系化合物半導体を用いて電流狭窄層17にMgz Zn1-z Oを用いたときの、電流注入領域とするたとえばストライプ溝18をエッチングにより形成する場合に、その幅が一定に形成され、しかもp型下部クラッド層6aへのオーバーエッチングを防止する構造にするため、鋭意検討を重ねた。まず、ストライプ幅のような電流注入部の幅が所望の一定の幅になるように形成するには、前述の図39(a)に示されるように、電流狭窄層67の下面までエッチングされた状態(コーナー部は、完全にはエッチングされていない)から、さらにそれまでのエッチング時間の10〜40%程度の時間サイドエッチングをすることにより(前述の図39(c)参照)、ほぼ一定の幅の電流注入領域を形成することができることを見出した。たとえばz=0のZnOからなる厚さが0.7μm程度の電流狭窄層17を、8%のNaOH溶液により上面からエッチングし始めて、図39(a)に示されるようにその底面までエッチングされる(コーナー部の残りはある状態)までの時間が5分程度であると、さらに30秒から2分間程度エッチングを続けると所望のストライプ幅のストライプ溝18(図36参照)を形成することができる。したがって、この電流狭窄層17のサイドエッチングをする時間、p型下部クラッド層6aに達しない厚さのエッチングストップ層27が設けられればよいことになる。
【0287】
一方、エッチングストップ層27があまり厚すぎると、図37(a)の右図に示されるように活性層15での電流注入領域の幅Tが広がってしまい、無効電流が大きくなって都合が悪い。また、クラッド層と材料の組成が異なるため、バンドギャップエネルギーが異なり、図37(b)に各層のバンドギャップエネルギーの関係(伝導帯側)が示されるように、エッチングストップ層27のバンドギャップエネルギーが大きくても小さくても、バンドギャップ障壁Bや井戸Qが形成されてキャリアの導通の障害となる。そのため、これらが問題にならない程度に薄くする必要があり、0.1μm程度以下、さらに好ましくは数百Å程度以下にする必要がある。換言すると、前述の例では、30秒から2分間程度のエッチングに対して、エッチングされる厚さが0.1μm以下、さらに好ましくは数百Å程度以下、すなわち100〜1000Å/分程度以下のエッチングレートになるようなCdの混晶比sの材料を選択することにより、特性に悪影響を及ぼさず、かつ、クラッド層をオーバーエッチングすることなくストライプ幅のエッチングを正確に形成することができる。
【0288】
たとえば前述の8重量%のNaOH溶液により、前述のZnOからなるエッチングストップ層27と、Cdの混晶比sを0.1と0.2にしたときのCds Zn1-s Oのエッチング時間に対するエッチング量を調べた結果、図38(a)に示されるように、s=0.1でZnOの1/3程度のエッチングレートになり、s=0.2になるとさらに1/3程度(ZnOに対して1/9〜1/10程度)と小さくなる。したがって、0.1≦sであれば充分にエッチングストップ層として使用することができ、sが小さくなるとバンドギャップエネルギーが大きくなって厚くすることができるため、sが0.1より小さいCds Zn1-s Oを用いても、電流狭窄層17との関係でエッチングストップ層の役割を充分に果たすことが判明した。なお、エッチングレートの差および成膜の容易さなどの点から、sの範囲は、好ましくは0<s≦0.5、さらに好ましくは、0.1≦s≦0.3である。
【0289】
本発明者らがさらに鋭意検討を重ねた結果、Cds Zn1-s OはH2 SO4 などの酸性のエッチング液にはZnOと同程度の割合でエッチングされてエッチングストップ層としては用いられないが、BeOは、酸性にもアルカリ性にも安定で、ZnOにBeを混晶したBet Zn1-t Oをエッチングストップ層として用いることにより、エッチング液にアルカリ性のものを用いても、また酸性のものを用いても充分にエッチングストップ層として用いることができることを見出した。エッチング液として6重量%のH2 SO4 を用い、前述と同様のZnOとBet Zn1-t Oのt=0.1と0.2のときのエッチング時間に対するエッチング量の関係を図38(b)に示す。図38(b)から明らかなように、ZnOに対しては前述のNaOHに対するエッチング量とほぼ同程度で、Bet Zn1-t Oに対しては、Cds Zn1-s OのCdの混晶比と同じ混晶比ではエッチング量が若干多く、Beの混晶比を若干多くすることにより、殆どCds Zn1-s Oと同じエッチング量になることが判明した。すなわち、この場合も電流狭窄層の組成、エッチングストップ層の厚さにも影響するが、ZnO系化合物半導体の電流狭窄層のエッチングストップ層としてBet Zn1-t Oを用いることができる。なお、エッチングレートの差および成膜の容易さなどの点から、tの範囲は、好ましくは0<t≦0.5、さらに好ましくは、0.1≦t≦0.3である。なお、8重量%のNaOH溶液に対しても同様の結果が得られた。
【0290】
前述のZnO系化合物半導体からなる電流狭窄層17は、Mgz Zn1-z Oにp型ドーパントがドーピングされている。これは、前述のように、ZnO系化合物半導体は、そのまま成長すると、酸素欠陥が生じやすくn型になりやすいが、p型ドーパントがドーピングされることにより、半絶縁化し、n型で形成するより電流阻止の効果が大きくなることに基づいている。p型ドーパントをドーピングすると半絶縁化する理由は、ZnO系化合物のイオン度が大きいという性質に起因し、たとえばドーピングされたN同士がクーロン斥力により強く反発し、ホールがNの位置に局在してしまい全体に広がらないで、酸素欠陥などにより生じるn型を相殺するに止まるためと考えられる。そのため、通常のZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際にp型ドーパントを導入することにより、半絶縁性のi形ZnO系化合物半導体が得られ、n型層に形成するより、遥かに電流ブロック効果の大きい電流狭窄層17が得られる。なお、p型ドーパントとしては、たとえばLi、Na、KなどのIA族の元素、またはN、P、As、SbなどのVB族元素が扱いやすいため好ましい。
【0291】
発光層形成部11の各半導体層は、p型クラッド層が第1層6aと第2層6bに分割されて、その間に電流狭窄層17が挿入されていることを除き、前述の各例と同様の組成で形成されており、同じ部分に同じ符号を付してその説明を省略する。また、基板1や緩衝層2も前述の各例と同様に種々の材料を使用することができ、電極や他の半導体層などや製法も前述の例と同様である。なお、半絶縁のMgz Zn1-z Oを成長した後に、一旦MBE装置からウェハを取り出し、表面にレジスト膜などを形成し、写真食刻技術によりパターニングをし、所望の電流注入領域の形状に開口部を設け、そのレジスト膜をマスクとして、たとえばNaOHのエッチング液によりエッチングをすることにより、前述のマスクの開口部分により露出する電流狭窄層17がエッチングされて、たとえばストライプ溝18が形成される。
【0292】
この例によれば、半導体レーザの電流狭窄層17の下側に、MgZnO系とエッチングレートの小さいCds Zn1-s O(0<s<1)またはBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層が設けられているため、Cds Zn1-s Oの場合は、アルカリ性のエッチング液により、Bet Zn1-t Oの場合は酸性またはアルカリ性のエッチング液により、クラッド層へ影響を及ぼすことなく、また発振効率などの電気的特性に影響を及ぼすことなく、電流狭窄層に電流注入領域を正確に形成することができる。その結果、ZnO系化合物半導体を用いて高特性の半導体レーザが得られる。
【0293】
この例によれば、エッチングストップ層が設けられることにより、充分にサイドエッチングを行うことができるため、電流狭窄層に設けるストライプ溝などの電流注入領域の幅を、再現性よく高精度に形成することができる。その結果、ZnO系化合物半導体を用いた青色系の高性能の半導体レーザが得られる。
【0294】
図40〜43は、発光層形成部を製造工程が簡単で、かつ、高歩留りで得られるMIS構造に形成した例である。すなわち、前述のように、ZnO系化合物半導体を用いて発光素子を実現しようとすると、そのp型層を得るのが難しく、そのキャリア濃度を高濃度に制御するのが難しいと共に、歩留りも低下して、発光特性が低下したり、非常に高価なものになりやすい。
【0295】
一方、ZnO系化合物半導体は、そのエキシトン(励起子;電子と正孔がクーロン力により束縛されてペアを作ったもの)の結合エネルギー(束縛エネルギー)が60meVと非常に大きく、室温の熱エネルギー26meVより大きいため、室温においてもエキシトンは安定に存在し得る。このエキシトンは、一旦形成されると容易に光子を生成する。すなわち効率よく発光する。そのため、自由電子と自由正孔とが直接再結合して発光する直接再結合発光より遥かに効率よく発光することが知られている(たとえば赤崎勇による「青色発光デバイスの魅力」50〜60頁(工業調査会発行、1997年5月)参照)。
【0296】
本発明者らは、前述のエキシトンによる高効率の発光を利用できるZnO系化合物半導体を用いた発光素子を得るため鋭意検討を重ねた結果、ZnO系化合物は、その結晶構造から通常の方法でp型ドーパントをドーピングすれば確実に絶縁化し、その厚さを適当に選定することにより、p型化するための特別の工程を経ることなく、製造工程が簡単でありながら、前述のエキシトンによる発光により高効率の発光が得られ、MIS(金属層−絶縁層−半導体層)構造でも充分に小さい電流で高出力の発光をし得ることを見出した。
【0297】
すなわち、ZnOは、そのイオン度が大きいため、Zn+ 、O- に近くなり、図43に示されるように、O(白丸)がZn(黒丸)の真上の位置でクーロン引力が働いて安定し、結晶構造も六方晶系となっている(たとえば先端デバイス材料ハンドブック(電子情報通信学会編、オーム社発行、1993年)、第2章デバイス材料の基礎、29〜30頁参照)。このような結晶構造になっているため、たとえばIA族のLiが黒丸の位置に入ったとき、原子間距離が近いため、Li同士がクーロン斥力で強く反発し、ホールがLiの位置に局在してしまい、結晶の全体に広がらない。そのため、p型ドーパントを入れても、ドーパントとして機能しないことにあると考えられる。一方、ZnOは、結晶成長の際に酸素(O)欠陥が発生しやすく、ドーパントを入れなくてもn型になりやすい。そのため、p型ドーパントをドーピングしても、酸素欠陥によるn型を相殺するだけで、p型ドーパントを多く入れ過ぎてもp型ドーパントとしては機能せず、絶縁層となる。このメカニズムは、GaNがp型ドーパントのMgなどが有機金属化合物の炭化水素気の水素と化合してドーパントとして機能せず、p型化しにくいのとは異なり、水素雰囲気であるか否かの製造法や、その後のアニール処理などの製造工程に拘らず確実に絶縁化しやすく、しかも高効率の発光を得ることができる。
【0298】
いわゆるMIS型構造による酸化物化合物半導体LEDは、図40にその一例の断面説明図が示されるように、たとえばサファイア基板1上に、n型のZnO系化合物半導体からなるn型層3と、半絶縁性のZnO系化合物半導体からなるi層25と、そのi層25の表面に設けられるたとえばITOからなる導電層8とからなっている。
【0299】
n型層3は1〜3μm程度の厚さに設けられ、たとえばAlなどをドーパントとして導入しながらZnOを成長することにより、容易にn型のZnO層が得られる。また、i層25は0.05〜0.3μm程度の厚さに設けられ、Liなどのp型ドーパントをドーピングしながらZnOを成長することにより得られる。これは、ドーピングしないでZnOを成長すると、前述のように酸素(O)欠陥となってn型になりやすいため、p型ドーパントを導入することにより、n型層が相殺されて絶縁層(i層)になる。p型ドーパントをドーピングし過ぎても、前述のように、ZnOのイオン度の強さにより、Zn+ とO- との引力による結晶構造の特殊性によりp型ドーパントとして機能しにくく、絶縁層を維持する。そのため、ドーピング量を余り気にすることなくi層25を得ることができる。
【0300】
n型ドーパントとしては、前述のAlの他、III B族の元素が結晶化の安定化の点から好ましい。しかし、前述のように、ZnO系化合物半導体のノンドーピングでn型化しやすい性質により、ノンドープでも1×1018〜1×1019cm-3程度のn型層が得られ、n型ドーパントを使用しなくてもよい。また、p型ドーパントとしては、IA族、IB族、またはVB族のいずれかの元素を用いることができる。
【0301】
導電層8としては、電流を供給できるように金属などの導電体が好ましいが、表面から光を取り出す場合、光を透過する材料が好ましく、たとえばITO(酸化インジウムスズ)、酸化インジウム、酸化スズなどの透明導電材料が用いられる。
【0302】
このLEDの製法について具体例で説明をする。まず、サファイアからなる基板1をアセトン、エタノールなどの有機溶剤により洗浄し、純粋でリンス処理した後、リン酸+硫酸の混合液(混合比1:3)を80℃として酸処理し、再び純粋によりリンスする。これらの前処理をしたサファイア基板1をMBE装置内に入れる。ついで、H2 +Heの混合プラズマガスを20mTorrの条件でサファイア基板1に照射し、その後基板温度TS を900℃程度に上昇させ、サーマルクリーニングを10分程度する。
【0303】
以上の前処理を終了した後、基板温度TS を400〜600℃程度まで下げる。この間、O2 プラズマを5×10-8〜1×10-4Torrの分圧になるように基板1に照射しておく。このO2 プラズマを照射しておくことにより、基板1のOの蒸発を防止することができる。
【0304】
つぎに、O2 プラズマを照射したまま、ZnとAlのセルのシャッターを開き、AlドープのZnOからなるn型層3を1〜3μm程度成長する。続いてAlのセルを閉じ、Liセルを開いてi層25を0.05〜0.3μm程度、さらに好ましくは0.08〜0.1μm程度成長する。i層25は、余り厚いとその抵抗により動作時の通電によるジュール熱が大きくなり、薄すぎるとn型層3とi側電極10とが短絡するので、この程度の厚さが好ましい。
【0305】
つぎに、MBE装置からウェハを取り出して、n側電極を設けるため、n型層3が一部露出するように、ホトレジストなどのマスクを設けて、i層25の一部をエッチングする。このエッチングは、RIE(反応性イオンエッチング)などのドライエッチングまたは硫酸を用いたウェットエッチングにより行うことができる。そして、i層25の表面にスパッタリングなどによりITO膜8を0.05〜0.2μm程度の厚さ設け、その表面にリフトオフ法によりNi/Auを真空蒸着してi側電極10を0.05〜0.2μm程度の厚さに、また、エッチングにより露出したn型層3の表面に同様に真空蒸着によりTi/Auを0.1〜0.2μm程度設けてn側電極9を形成する。
【0306】
このように製造したLEDの発光特性を調べた結果をGaNのMIS構造で製造したLEDと対比して図42に示す。図42で、横軸は電流(mA)で、縦軸は輝度(ミリcd)を示し、破線FがGaNの例で、実線Gが図40に示される構造のZnO系化合物半導体によるMIS構造のLEDである。図42から明らかなように、同じ電流値に対して、ZnO系化合物半導体を用いたLEDは、非常に大きな輝度が得られ、GaN系のp型層とn型層とにより活性層を挟持したダブルヘテロ接合構造のLEDの同じ条件での輝度と比較すると、10%程度の輝度が得られ、充分に実用的である。
【0307】
図41は、ZnO系化合物半導体を用いたMIS構造LEDの他の例を示す図である。この例は、基板1としてSiCを用いた例で、前述の例と同様に基板1を有機溶剤により洗浄して前処理を行う。このSiC基板1をMBE装置内に入れ、前述の例と同様に、H2 +Heの混合プラズマガス下で、900℃程度のサーマルクリーニングを10分程度行う。SiC基板1では、表面酸化を起すと後のZnOが成長しにくいため、サーマルクリーニング後、400〜600℃程度に下げるまでの間、Znフラックスを照射する。
【0308】
その後、前述の例と同様に、O2 プラズマのセル、およびAlのセルのシャッターを開け、n型ZnOからなるn型層3を1〜3μm程度成長し、さらにi層25を前述と同様に0.05〜0.3μm程度設ける。そして、その表面にスパッタリングなどによりITO膜8を0.05〜0.2μm程度の厚さ設け、SiC基板1の裏面全面に真空蒸着によりTi/Alをそれぞれ0.1μm/0.2μm程度設けてn側電極9を形成する。そして、ITO膜8の表面にリフトオフ法によりNi/Auをそれぞれ0.05μm/0.2μm程度真空蒸着してi側電極10を形成してチップ化することにより、図41に示されるLEDチップが得られる。
【0309】
この各例では、n型層3およびi層25としてZnOを用いたが、CdやMgなどのIIA族やIIB族の他の元素を混晶したものでもその発光波長を変化させることができ、同様のMIS型のLEDが得られる。すなわち、たとえばCdを混晶させることによりそのバンドギャップエネルギーが小さくなり、長波長の光を発光し、Mgを混晶させることにより、そのバンドギャップエネルギーが大きくなり、短波長の光を発光する。
【0310】
また、この各例では、p型ドーパントをドーピングすることによりi層を形成したが、p型ドーパントをドーピングすることによりp型化しても、pn接合部で発光するため、とくに問題はなく、要はZnO系化合物半導体にp型ドーパントがドーピングされた層が形成されておればよい。
【0311】
この例によれば、とくにエキシトンを生成しやすいZnO系化合物半導体を用いて、いわゆるMIS型構造のLEDを形成しているため、キャリア濃度を制御するための特別の工程を必要とすることなく、半導体層を成長したままの簡単な製造工程で高輝度の青色系のLEDが得られる。その結果、現在非常に強く要望されている青色系のLEDを非常に安価、にかつ、大量に供給することができる。
【0312】
さらに、n型層についてもノンドーピングで形成することもでき、キャリア濃度の制御が簡単であると共に、ドーパントを使用しなくても製造することができ、一層コストダウンに寄与する。
【0313】
図44〜45は、さらに他の実施形態を示す断面説明図で、p型半導体層をGaN系化合物で形成し、n型層をZnO系化合物で形成した例である。すなわち、前述のように、ZnO系化合物ではキャリア濃度の大きいp型層を得にくい。一方、GaN系化合物半導体は、非常に化学的に安定であるため、高温で成長する必要があると共にウェットエッチングをすることができない。そのため、LDにおける電流注入領域を画定するための電流狭窄層を活性層の近くに埋め込んで形成することができない。さらに、GaN系化合物半導体に適する基板としてサファイア基板が用いられており、基板の裏面から一方の電極を取り出すことができないため、一方の電極を接続するために、積層したGaN系化合物半導体層をドライエッチングによりエッチングをして、下層の異なる導電形の半導体層を露出させなければならない。
【0314】
また、ZnO系化合物半導体は、前述のように、そのエキシトン(励起子;電子と正孔がクーロン力により束縛されてペアを作ったもの)の結合エネルギー(束縛エネルギー)が60meVと非常に大きく、室温の熱エネルギー26meVより大きいため、室温においてもエキシトンは安定に存在し得る。このエキシトンは、一旦形成されると容易に光子を生成する。すなわち効率よく発光する。そのため、自由電子と自由正孔とが直接再結合して発光する直接再結合発光より遥かに効率よく発光することが知られている(たとえば赤崎勇による「青色発光デバイスの魅力」50〜60頁(工業調査会発行、1997年5月)参照)。
【0315】
さらに、GaN系化合物半導体とZnO系化合物半導体とは、表4に示されるように、バンドギャップエネルギーEg、a軸およびc軸の格子定数が非常によく似た物理的性質を有している。そのため、GaN系化合物半導体とZnO系化合物半導体とを複合したものである。
【0316】
【表4】
この例による半導体発光素子は、図44にその一例の断面説明図が示されるように、たとえばサファイア基板1上に、n型層4およびp型層6を少なくとも有する化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部11とを具備している。そして、n型層4がZnO系化合物半導体からなり、p型層6がGaN系化合物半導体からなっている。
【0317】
発光層形成部11は、図44に示される例では、Cdx Zn1-x O(0≦x<1、たとえばx=0.08)からなる活性層5をMgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなるn型クラッド層4とp型のAla Ga1-a N(0≦a≦0.3、たとえばa=0.15)からなるp型クラッド層6dとで挟持するダブルヘテロ接合構造であるが、n型層とp型層とが直接接合するヘテロ接合構造でもよい。図44に示される例では、p型層6は、p型GaN第1層6cが0.1〜0.3μm程度、好ましくは0.1μm程度と、p型のAla Ga1-a Nからなるクラッド層6dが0.1〜1μm程度、好ましくは0.5μm程度と、p型GaN第2層6eが0.1〜0.3μm程度、好ましくは0.1μm程度とからなっている。活性層5側にあるp型GaN第2層6eは、後述するp側電極10を形成しやすくするための層で、この第2層6eは薄く、キャリア閉込め効果としては、Ala Ga1-a N層6dが寄与する。また、p型GaN第1層6cは、低温緩衝層2上に直接AlGaN層を成長すると結晶性が悪くなるため介在させるもので、InGaNでもよい。
【0318】
活性層5は、キャリアの再結合により発光させる層で、そのバンドギャップエネルギーにより発光する光の波長が定まり、発光させる光の波長に応じたバンドギャップエネルギーの材料が使用され、たとえば単一活性層で0.1μm程度の厚さに形成されている。このCdx Zn1-x Oは、そのxの値が大きくなるほどバンドギャップエネルギーが小さくなる。たとえば400nm程度の波長の光を発光させるためには、xは0.08程度が好ましい。なお、活性層5は、非発光再結合中心の形成を避けるため、ノンドープであることが好ましい。
【0319】
n型層(n型クラッド層)4は、p型層6(p型クラッド層6d)と共に、活性層5よりバンドギャップエネルギーが大きく、キャリアを活性層5内に有効に閉じ込める効果を有するように形成される。この例では、このn型(クラッド)層4がZnO系化合物、具体的にはMgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなり、たとえば2μm程度の厚さに設けられ、p型クラッド層6dには、Ala Ga1-a N(たとえばa=0.15)が用いられている。
【0320】
図44に示される例では、p型層6(p型GaN第2層6e)と活性層5との間にn型ZnOからなる緩衝層28が100〜1000Å程度、好ましくは100〜300Å程度の薄い層で設けられている。これは、p型層6がGaN系化合物半導体で、活性層5がZnO系化合物半導体であり、一般に、異種材料の接合では界面準位が発生して、発光層に悪影響を及ぼすことが知られている。そのため、直接活性層が異種接合にならないように緩衝層を設けることにより、発光層への悪影響を防止するためである。したがって、ZnOでなくても、活性層5と同種のZnO系化合物半導体で、活性層5よりバンドギャップエネルギーの大きい材料であればよい。
【0321】
基板1としては、たとえばサファイア基板が用いられ、その上にGaNからなる低温で成膜する低温緩衝層2が0.01〜0.2μm程度設けられている。基板1は、サファイアに限らず、ZnO、GaN、SiCなどの基板を用いることができる。基板1が絶縁性の場合には、図44に示されるように、一方の電極を設けるために、積層された半導体層の一部をエッチングして露出する表面側と反対導電形の半導体層に設けることになるが、本発明では、n型層4にZnO系化合物半導体層を用いているため、ウェットエッチングによりエッチングすることができるため、絶縁性基板を用いても容易に電極を形成することができる。
【0322】
また、低温緩衝層2は、成長するGaN系化合物半導体と基板1との間の格子定数などの差に基づく不整合を緩和するための層で、低温で設けることにより、その上に成長するGaN系化合物半導体を結晶性よく成長するためのものである。この低温緩衝層2は、GaNに限らず、AlN、AlGaN、ZnOなどを低温で設けてもよい。基板1が導電性基板の場合で、その裏面から電極を取り出す場合は、その基板1と同じ導電形で緩衝層2を形成する必要があるが、基板1が絶縁性である場合には、緩衝層2もAlNのように絶縁性でもよく、またいずれの導電形でも構わない。
【0323】
n型層4の表面には、たとえばITOからなる透明電極8が形成され、その上にたとえばAuからなるn側電極9が、積層されたn型層4、活性層5、および緩衝層28の一部がウェットエッチングにより除去されて露出するp型層(GaN第2層6e)に、たとえばTi/Niの積層構造からなるp側電極10が、それぞれ真空蒸着とパターニングまたはリフトオフ法などにより形成され、チップ化することにより、図44に示されるようなLEDチップが得られる。
【0324】
このLEDの製法について具体例で説明をする。まず、サファイアからなる基板1をアセトン、エタノールなどの有機溶剤により洗浄し、純水でリンス処理した後、リン酸+硫酸の混合液(混合比1:3)を80℃として酸処理し、再び純水によりリンスする。これらの前処理をしたサファイア基板1をMOCVD(有機金属化学気相成長)装置内に入れ、H2 雰囲気中で基板温度TS を1050℃程度に上昇させ、サーマルクリーニングを10分程度する。
【0325】
以上の前処理を終了した後、基板温度TS を600℃程度まで下げて、反応ガスのトリメチルガリウム(TMG)とアンモニアガス(NH3 )とをキャリアガスのH2 と共に導入してp型GaNからなる緩衝層2を0.01〜0.2μm程度成膜する。ついで、p型ドーパントガスのシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2 Mg)を導入し、基板温度を1000℃程度に上昇してMgドープのp型GaN第1層6cを0.1〜0.3μm程度、さらに反応ガスのトリメチルアルミニウム(TMA)を導入してp型Ala Ga1-a N(たとえばa=0.15)層6dを0.1〜1μm程度、さらに反応ガスのTMAを止めてp型GaN第2層6eを0.1〜0.3μm程度成長して、p型層6を形成する。その後、一旦成長を終了し、600〜800℃程度のN2 雰囲気下でアニール処理を行い、p型ドーパントの活性化を行ってp型化する。
【0326】
つぎに、p型層6が成長した基板1をMBE装置に入れて、700℃程度に基板温度を上昇させてサーマルクリーニングを行う。ついで、基板温度を300〜600℃程度に下げ、ソース源からZnおよびプラズマ酸素をn型ドーパントのAlと共に照射してn型ZnOを100〜1000Å程度成長し緩衝層28を形成し、基板温度を200〜400℃程度に上げてCdのソース源を開けてCdx Zn1-x O(たとえばx=0.08)からなる活性層5を0.1μm程度成長し、さらに基板温度を300〜600℃程度にすると共に、Cdのセルの代りにMgのセルを開け、Mgy Zn1-y O(たとえばy=0.15)からなるn型クラッド層4を0.5μm程度成長する。
【0327】
その後、H2 SO4 系溶液により、積層したZnO系化合物半導体層の一部をエッチングし、p型GaN第2層6eを露出させる。このエッチングの際、p型GaN第2層6eは、全然エッチングされないため、ZnO系化合物半導体層のみを選択的にエッチングすることができる。その後、n型層4の表面に蒸着などによりITO電極8を0.05〜0.2μm程度設け、さらにその表面にAuをリフトオフ法などによりパターン蒸着してn側電極9を形成し、さらに前述のエッチングにより露出するp型GaN第2層6eの表面に同様にNi/Tiをパターン蒸着してp側電極10を形成し、チップ化することにより、図44に示されるLEDチップが得られる。
【0328】
この例によれば、p型層にGaN系化合物半導体を用い、活性層およびn型層としてZnO系化合物半導体を用いているため、p型層を得にくいZnO系化合物半導体に代ってGaN系化合物半導体によりp型層を形成することができ、pnジャンクション型電流注入タイプで、エキシトンを利用した高効率の発光を得ることができる。また、絶縁基板上に半導体層を積層してその積層体の一部をエッチングにより露出した半導体層に一方の電極を設ける場合でも、ZnO系化合物半導体をエッチングすることにより、非常にエッチングが容易になる。
【0329】
また、p型GaN系化合物半導体層と活性層との間に、活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいn型ZnO系化合物半導体層を挟むことにより、緩衝層となって活性層を直接異種材料による接合にしなくてすむため、異種材料の接合による界面準位の発光層への影響を回避することができる。この場合、介在させる緩衝層は、非常に薄いため、n型であってもp型GaN系化合物半導体からのホールは緩衝層を通過して活性層に注入され、pnジャンクションを形成する。
【0330】
この例は、p型GaN系化合物半導体をMOCVD装置により成長し、ZnO系化合物半導体をMBE装置により成長したが、ZnO系化合物半導体も引き続き同様にMOCVD装置により成長することができる。この場合、Znの有機金属化合物としては、ジメチル亜鉛(DMZn)を、Cdの反応ガスとして、ジメチルカドミウム(DMCd)を、Mgの反応ガスとしてCp2 Mgを、n型ドーパントガスとしてTMAを、酸素の反応ガスとしては、プラズマ酸素をそれぞれ使用することができる。また、最初のGaN系化合物半導体からMBE装置により成長することもできる。この場合、Gaおよびプラズマチッ素をソース源とする。
【0331】
さらに、この例は、LEDの例であったが、LDでも同様にp型層にGaN系化合物半導体を用い、活性層およびn型層にZnO系化合物半導体を用いて構成することにより、発光効率が高いと共に、容易なウェットエッチングにより、電流注入領域を狭窄することができる。この場合、発光層形成部11若干異なり、たとえば活性層15はノンドープのCd0.03Zn0.97O/Cd0.2 Zn0.8 Oからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ50Åおよび40Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成することが好ましい。また、活性層15が薄く充分に光を活性層15内に閉じ込められない場合には、たとえばZnOからなる光ガイド層が活性層の両側に設けられる。また、ITOからなる透明電極は不要で、直接p側電極10をストライプ状にパターニングして形成したり、半導体層の上部をメサ型形状にエッチングしたり、電流狭窄層を埋め込むことにより、電流注入領域を画定する構造に形成される。本発明では、半導体積層部の上部をZnO系化合物半導体層にすることにより、容易にウェットエッチングによりエッチングをすることができるため、活性層への影響を与えることなくメサ型形状に形成することができるし、また電流狭窄層をZnO系化合物半導体により形成して活性層の近くに作り込むことができる。メサ型形状にすることによりLDチップを形成する例を図45に示す。
【0332】
図45に示されるメサ型構造のLDチップを製造するには、前述と同様に基板1上に低温緩衝層2、p型GaN第1層6c、AlGaN系化合物からなるクラッド層6d、光ガイド層の役割をするp型GaN第2層6eからなるp型層6を順次成長し、前述と同様にアニール処理をする。ついで、MBE装置でn型ZnOからなる緩衝層28、前述の多重量子井戸構造の活性層15を成長し、その上にp型ZnOからなる0.05μm程度のn型光ガイド層16、n型Mgy Zn1-y O(たとえばy=0.15)からなるn型クラッド層4を0.5μm程度それぞれ成長する。そして、n型ZnOからなるコンタクト層3を0.3〜0.5μm程度成長する。その後、MBE装置から基板1を取り出して、表面にレジストマスクを設け、H2 SO4 系溶液により、積層したZnO系化合物半導体層の一部をエッチングし、p型GaN第2層6eを露出させる。このエッチングは、電流注入領域を画定(狭窄)するためのエッチングで、活性層15に形成する電流注入領域の幅に合せて活性層15までエッチングをするが、前述のように、p型層6(GaN第2層6e)の表面で、選択的にエッチングは停止する。そして、前述の例と同様にn側電極9およびp側電極10を設け、チップ化することにより、図45に示される構造のLDチップが得られる。なお、チップ化に当って、光出射面をドライエッチングにより形成した方が、より一層鏡面の端面が得られる。なお、基板がサファイアでなく、GaNやSiCなどであれば、劈開することもできる。
【0333】
なお、このLDの製造においても、全部の半導体層をMOCVD装置やMBE装置のみで成長することもできる。また、各半導体層の例は一例であって、たとえばAlGaNに代えてGaNなどでもよく、GaN系化合物半導体またはZnO系化合物半導体の範囲内で、適当なバンドギャップエネルギーになるような混晶比の材料を選択して使用することができる。さらに、p型層もMBE装置で成長する場合、成長時にp型ドーパントがHと化合しないため、p型層の成長後にアニール処理を行わなくても、成長したそのままの状態でp型化することができる。さらに、n型ZnO系化合物半導体層を成長する場合、GaやAlなどのn型ドーパントをドーピングしなくてもn型層が得られるが、n型ドーパントを導入した方が、キャリア濃度を制御しやすいため好ましい。
【0334】
この例によれば、GaN系化合物半導体とZnO系化合物半導体とを用いた異種接合により半導体発光素子を形成しているため、ZnO系化合物半導体の高い発光効率およびウェットエッチングの容易さを利用しながら、GaN系化合物半導体によりp型層を得ることができ、pnジャンクション型電流注入発光をさせることができる。その結果、高効率の発光をすることができると共に、電極形成のためのエッチングや、LDの電流注入領域を画定するための半導体層のエッチングを容易に行うことができ、製造工程が簡単でコストダウンを行うことができると共に、発光特性の優れた青色系の半導体発光素子が得られる。とくに青色系のLDを低い閾値で、かつ、大きな出力で容易に得ることができる。
【0335】
なお、前述の各例に示される図では、基板1が実際には他の層と比較して数十倍以上の厚さがあるが、省略して薄く書かれている。他の半導体層の厚さも説明用で部分的に誇張して書かれたりして、厳密な厚さを表してはいない。
【産業上の利用可能性】
【0336】
本発明によれば、青色系のLEDやLDを、取り扱いが容易なZnO系化合物半導体を用いて実現することができる。その結果、フルカラーディスプレーや、信号灯などの光源や、室温で連続発振する次世代の高精細DVD用のレーザ光源などとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0337】
【図1】本発明の半導体発光素子による一実施形態の斜視説明図である。
【図2】本発明による他の実施形態の斜視説明図である。
【図3】本発明によるさらに他の実施形態の斜視説明図である。
【図4】本発明によるさらに他の実施形態の斜視説明図である。
【図5】本発明によるさらに他の実施形態の斜視説明図である。
【図6】本発明によるさらに他の実施形態の斜視説明図である。
【図7】図6の活性層近傍の拡大断面構造説明図、およびその各層のバンドギャップの関係を示す図である。
【図8】Cdx Zn1-x OおよびMgz Zn1-z Oのxおよびzをそれぞれ変化させたときの格子定数の変化を示す図である。
【図9】本発明によるさらに他の実施形態であるLEDチップの断面説明図である。
【図10】本発明によるさらに他の実施形態であるLDチップの断面説明図である。
【図11】Cd、Zn、Mgの温度に対する蒸気圧を示す曲線である。
【図12】本発明によるさらに他の実施形態の断面説明図である。
【図13】ZnO系化合物半導体層の成長時の問題を説明する図である。
【図14】本発明によるさらに他の実施形態であるLEDチップの斜視説明図である。
【図15】図2の構造に反射膜を設けたLDの発光特性を従来構造のLDと対比して示した図である。
【図16】本発明によるさらに他の実施形態であるLEDチップの断面説明図である。
【図17】図16の例のn側電極の電圧−電流特性を示す図である。
【図18】本発明によるさらに他の実施形態であるLEDチップの断面説明図である。
【図19】図18の例のn側電極の電圧−電流特性を示す図である。
【図20】n型ZnOにAl/Ti/Niの電極を設けたときの電圧−電流特性である。
【図21】p型ZnOを成長する一例のMBE装置の概略説明図である。
【図22】本発明のp型成長法により成長したp型ZnOのNのドープ量に対するキャリア濃度の変化を示す図である。
【図23】ZnOのp型化をしにく理由の説明図である。
【図24】普通の方法でp型化のためNをドーピングしたときのドーピング量に対するキャリア濃度の変化を示す図である。
【図25】基板上にp型ZnSeを成長する場合の工程断面説明図である。
【図26】本発明のMOCVD法によりp型半導体層を成長する場合の導入ガスのタイムチャートを示す図である。
【図27】図25の方法によりドーピングする場合のドーパントガスの流量に対するキャリア濃度の関係を示す図である。
【図28】本発明による結晶成長装置の一例の概略説明図である。
【図29】図28の成長装置におけるプラズマ発生源50の拡大説明図である。
【図30】図28の装置を用いて成長した半導体層のX線ロッキングカーブを従来の方法により成長したものと比較して示した図である。
【図31】図29の変形例の説明図である。
【図32】本発明によるさらに他の実施形態の断面説明図である。
【図33】結晶状態をX線回折で調べたときのX線ロッキングカーブの説明図である。
【図34】本発明による半導体レーザの一例の断面説明図である。
【図35】本発明による半導体レーザの一例の断面説明図である。
【図36】本発明による半導体レーザの一例の断面説明図である。
【図37】エッチングストップ層の厚さや材料による半導体レーザへの影響を説明する図である。
【図38】エッチングストップ層として用いるCds Zn1-s OおよびBet Zn1-t Oのエッチング時間に対するエッチング量の関係を示す図である。
【図39】ストライプ溝をエッチングにより形成する際のエッチングの進行を説明する図である。
【図40】本発明によるMIS型LEDチップの断面説明図である。
【図41】本発明によるMIS型LEDチップの他の例の断面説明図である。
【図42】図40の構造によるLEDの発光特性を、GaN系のMIS構造によるLEDの発光特性と比較して示す図である。
【図43】ZnOの原子構造を説明する図である。
【図44】ZnO系化合物とGaN系化合物の複合半導体を用いた本発明による半導体発光素子のLEDチップの断面説明図である。
【図45】ZnO系化合物とGaN系化合物の複合半導体を用いた本発明による半導体発光素子のLDチップの断面説明図である。
【図46】高精細DVDに必要とされる青色LDの波長範囲の説明図である。
【図47】従来における青色系半導体発光素子の一例の断面説明図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は紫外から黄色程度の青色系の短波長で発光する発光ダイオードやレーザダイオードなどの化合物半導体発光素子およびその製法に関する。さらに詳しくは、ZnO系化合物半導体をメインとして、結晶性に優れ、取扱が容易な半導体発光素子およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルカラーディスプレーや、信号灯などの光源に用いられる青色系の発光ダイオード(以下、LEDという)や、室温で連続発振する次世代の高精細DVD光源用などに用いる青色系のレーザダイオード(以下、LDという)は、最近サファイア基板上にGaN系化合物半導体を積層することにより得られるようになり脚光を浴びている。従来のこの種の青色系(紫外線から黄色近傍の色を意味する、以下同じ)の半導体発光素子は、たとえば図47にLDの一例の構造図が示されるように、サファイア基板71上にIII 族チッ化物化合物半導体(GaN系化合物半導体)が有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition 以下、MOCVDという)により順次積層されるもので、GaN緩衝層72、n型GaN層73、In0.1 Ga0.9 Nからなるn型応力緩和層74、Al0.12Ga0.88Nからなるn型クラッド層75、GaNからなるn型光ガイド層76、InGaN系化合物半導体の多重量子井戸構造からなる活性層77、p型GaNからなるp型光ガイド層78、p型Al0.2 Ga0.8 Nからなるp型第1クラッド層79、Al0.12Ga0.88Nからなるp型第2クラッド層80、p型GaNからなるコンタクト層81が順次積層され、積層された半導体層の一部が図47に示されるようにドライエッチングなどによりエッチングされてn型GaN層73を露出させ、その表面にn側電極83、前述のコンタクト層81上にp側電極82がそれぞれ形成されることにより構成されている。
【0003】
また、1997年に徳島で開かれた第2回ICNS(International Conference on Nitride Semiconductors)において、基板に6H−SiCを用いてGaN系化合物半導体を積層する構造の半導体発光素子が発表されているが、基板が変っているだけでチッ化ガリウム系(GaN系)化合物半導体の積層構造については、前述の構造と同様である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような青色系の波長の短い半導体発光素子用のIII 族チッ化物化合物半導体は、熱的、化学的に非常に安定であり、信頼性が高く、長寿命化という点においては、非常に優れた性質を有している。しかし、安定であるがゆえに、良好な結晶性を有する半導体層を得るためには、たとえば特許公報第2713094号に示されるように、1000℃程度の非常に高温で成長をしなければならない。一方、活性層のようにInを含有する半導体層は、元素InとGaNとが混晶しにくく、かつ、Inの蒸気圧が高いため、十分なInを入れようとすると700℃程度またはそれ以下の温度でしか結晶を積むことができない。そのため、結晶性の優れた半導体層に必要な高温にできないため、結晶性のよい半導体層を得ることができず、発光効率が低下したり、寿命特性が低下するという問題がある。
【0005】
また、AlGaN/InGaN/GaN系により構成される半導体レーザは、重要な物性としての欠点を有している。すなわち、InGaN/GaN系は格子不整合系であり、InGaN活性層には常にストレスによる内部電界(ピエゾ電界)が発生している。とくにInGaN材料はピエゾ電界が強く発生する材料固有の物性を有している。この内部電界が大きいと、電子とホールが空間的に分離されてしまうことにより、再結合確率が小さくなり、半導体レーザの閾値が上昇する。そのため、InGaN活性層にSiなどをドーピングしてクーロンポテンシャル遮蔽効果を発生させ、内部電界を小さくすることにより、閾値の低減を実現している。一方、不純物をドーピングすると、非発光再結合中心の発生を避けることができず、発光以外の過程にキャリアが消費され、逆に閾値の上昇、発光中の素子の温度上昇を招き、素子の寿命向上、とくに高出力化時の寿命向上の妨げになるため、半導体レーザでは活性層へのドーピングを避けなければならない。そのため、ドーピングにより閾値を下げることはできない。
【0006】
このように、従来の青色系半導体発光素子の活性層に用いられるInGaN系材料は、格子不整合に伴うストレスにより、閾値が上昇しやすいという問題がある。一方、GaNに対して、Inを混晶させると格子定数が小さくなり、Alを混晶させると格子定数が大きくなるため、AlGaNからなるクラッド層によりInGaNからなる活性層を挟持する構造の青色の半導体発光素子ではこのストレスを解消することができない。
【0007】
さらに、Inを含有しないIII 族チッ化物化合物半導体層も、その成長装置の大半は、真空装置であり、1000℃近辺の温度を保って結晶成長を続けることは装置の負担が重いと共に、リークなどの故障が多発しやすく、装置を安定に稼働させることが非常に困難であるという問題がある。
【0008】
また、III 族チッ化物化合物半導体は安定であるため、化学薬品によるウェットエッチングが非常に困難で、とくにレーザ素子を構成するときに必要な、内部電流狭窄層の作り込みが不可能であると共に、メサ型形状にするためのエッチングも、たとえばリアクティブイオンエッチング(RIE)などの物理的エッチングをしなければならず、半導体レーザの構造に形成することが非常にプロセス的に困難であるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明者らは、酸化物化合物半導体を用いて青色系の半導体発光素子を得ることを試みた。酸化物化合物半導体の1つのZnOは、たとえばPhys.Stat.Sol.202巻(1997年)、669〜672頁に示されるように、レーザMBE法などを用いれば、600℃程度以下の温度でエピタキシャル成長をすることができ、アルカリ溶液に可溶のため、ウェットエッチングが可能であることが知られている。しかし、このZnOは、バンドギャップが3.2eVで、この材料をそのまま活性層に用いても紫外領域の370nm付近での発光にしかならない。たとえば高精細DVDの光源として用いるためには、光ディスク基板の透過率とディスクへの記録密度の両方を満たす必要があり、たとえば機能材料第17巻(1997年)、第8号、18〜25頁に示されているように、その光源の波長領域は400〜430nmの範囲に入ることが要求されている。すなわち、図46に示されるように、波長が短くなると光ディスク基板の透過率が極端に低下し、透過率が75%以上は必要であることから光の波長は400nm以上であることが要求される。また、波長が長くなると記録密度が低下し、高精細なDVDではディスク片面で15GB以上が要求され、この記録密度の要請からは430nm以下であることが要求される。
【0010】
一方、ZnO材料のワイドバンドギャップ化は、たとえばアプライド フィジックス レター(Appl.Phys.Lett. )第72巻(1998年)、第19号、2466〜2468頁、またはマテリアル ソサイアティ フォーラム(Mat.Sci.Forum )264〜268巻、1463〜1466頁、1998年などに示されているように、ZnOとMgOとを混晶化させることにより得られているが、ZnOのナローバンドギャップ化についてはその具体的な方法が知られていない。
【0011】
本発明はこのよな状況に鑑みなされたもので、ZnO材料のナローバンドギャップ化を図ると共に、活性層をクラッド層により挟持する青色系の発光ダイオードやレーザダイオードなどの半導体発光素子の活性層の材料に結晶欠陥の少ない結晶性の優れた酸化物半導体を用いて発光特性を向上させることができる半導体発光素子を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の他の目的は、高精細DVD光源にも用いられるような青色系の半導体レーザを提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、積層された半導体層を、ウェットエッチングをすることができる酸化物半導体により構成し、メサ型形状や内部電流狭窄層(電流制限層)の形成を容易にすることができる半導体レーザなどの発光素子を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、基板に導電性材料を用い、上下両面から電極を取り出すことができる半導体発光素子を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、ZnO化合物半導体のナローバンドギャップ化を図ると共に、ZnO系化合物半導体を用いた半導体発光素子を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、活性層にInGaN系化合物半導体を用いないで青色系の発光をすると共に、活性層に、格子不整合に伴うストレスが加わらない構造の半導体発光素子を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、ZnO系酸化物半導体を用いて発光素子を形成した場合に、各層を結晶性よく成長したり、積層構造、電極構造などを改良することにより、酸化物半導体層の結晶性や導電性などを向上させると共に、外部への光の取出し効率(外部微分量子効率)を向上させ、その発光特性を向上させることにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、ZnO系酸化物半導体のウェットエッチング性を利用して、電流狭窄層を効果的に内部に埋め込んだ高特性の半導体レーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1記載の発明による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられ、電流注入により発光する活性層を該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなるn型およびp型のクラッド層とにより挟持する発光層形成部とを有する半導体発光素子であって、前記活性層がCdおよびZnの少なくとも一方を含むZnO系酸化物化合物半導体からなっている。具体的には、前記活性層はたとえばCdx Zn1-x O(0≦x<1)により形成される。
【0020】
なお、ただ単に発光層形成部という場合は、活性層をn型およびp型のクラッド層により挟持されるダブルヘテロ接合構造の他に、pn接合構造、MIS(メタル−絶縁層−半導体層)構造などの発光し得る構造になるように半導体層が積層される部分を含む意味で使用する。
【0021】
この構造にすることにより、所望の波長の光を発光させるバンドギャップの活性層が結晶性のよい半導体層として得られ、高い発光効率の半導体発光素子が得られる。
【0022】
前記クラッド層はZnO系酸化物化合物半導体またはIII 族チッ化物化合物半導体により形成され得る。
【0023】
ここにZnO系化合物半導体とは、Znを含む酸化物、具体例としてはZnOの他IIA族とZnまたはIIB族とZnまたはIIA族およびIIB族とZnのそれぞれの酸化物であることを意味する。また、III 族チッ化物化合物半導体とは、III 族元素のGaとV族元素のNとの化合物またはIII 族元素のGaの一部または全部がAl、Inなどの他のIII 族元素と置換したものおよび/またはV族元素のNの一部がP、Asなどの他のV族元素と置換した化合物からなる半導体を意味し、チッ化ガリウム系(GaN系)化合物半導体ともいう。
【0024】
請求項5記載の発明による半導体発光素子は、電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面から挟持するクラッド層とを有する半導体発光素子であって、前記クラッド層がZnまたはMgとZnを含むZnO系酸化物化合物半導体からなっている。具体的には、前記クラッド層が、たとえばMgy Zn1-y O(0≦y<1)により形成される。
【0025】
前記クラッド層および活性層が積層される基板が、GaN、SiCを表面に形成したSi、単結晶SiC、サファイアの群から選ばれる1種であることが、格子整合の点から好ましい。
【0026】
前記活性層が、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造であれば、発光効率が向上し、高出力の半導体レーザが得られるため好ましい。
【0027】
電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面から挟持するn型およびp型のクラッド層とを有し、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)からなり、前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなり、内部電流狭窄層が作り込まれることにより、電流注入領域を厳密に規定できる半導体レーザが得られる。
【0028】
請求項10記載の発明によるZnO化合物半導体のナローバンドギャップ化方法は、CdOとZnOとを固溶化して、一般式がCdx Zn1-x O(0≦x<1)で表される混晶とすることにより、ZnOのバンドギャップを小さくするものである。
【0029】
請求項1記載の発明において、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)のバルク層またはCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、前記活性層のn型クラッド層側およびp型クラッド層側の少なくとも一方側に、前記活性層よりバンドキャップが大きく、かつ、前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する組成の材料の格子定数とほぼ等しくなるような組成の材料からなるストレス緩和層が前記活性層と接して設けられている。この構造にすることにより、活性層と直接接触し、ダブルヘテロ接合を構成するバンドギャップの大きい半導体層を活性層とほぼ同じ格子定数の層で構成することができるため、活性層へのストレスは殆どかからず、クラッド層などからの格子不整合に伴うストレスはストレス緩和層により吸収される。
【0030】
ここに「バルク層」とは、xが一定の1層で活性層が構成される層を意味し、「Cdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造」とは、xがある値のウェル層と、xの異なる値のバリア層とが1組または複数組み交互に積層される構造を意味する。また、「前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する」とは、ストレス緩和層が設けられる側の活性層の該ストレス緩和層と接触する部分を意味し、n側およびp側の両側にストレス緩和層が設けられる場合には、それぞれの両側の接触する部分を意味する。さらに、「格子定数がほぼ等しい」とは、格子不整合に伴うストレスによる内部電界が殆ど発生しない程度に小さくなる関係を意味する。
【0031】
前記ストレス緩和層がMgw Zn1-w O(0≦w<1)からなり、前記クラッド層がMgおよびZnを含む酸化物化合物半導体からなることにより、ウェットエッチングをすることができる材料により青色系の半導体発光素子を実現できる。
【0032】
請求項13記載の発明による半導体レーザは、電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面側から挟持するn型およびp型のクラッド層とを有し、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、前記活性層のn型クラッド層側およびp型クラッド層側の少なくとも一方側に、Mgw Zn1-w O(0≦w<1)からなり、前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する組成の格子定数とほぼ等しくなるような組成からなるストレス緩和層が前記活性層と接して設けられている。
【0033】
前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなり、前記ストレス緩和層と前記n型またはp型クラッド層との間に光ガイド層が設けられる構造でもよい。
【0034】
請求項4記載の発明において、前記活性層と上部クラッド層との間の少なくとも前記活性層側に低温ZnO層が設けられてもよい。この構造にすることにより、活性層の上に低温のZnO層が成膜されているため、その上にZnOやMgZnOなどが高温で成長されても、活性層の蒸気圧の高いCdは、低温ZnO層によりその蒸発が抑制される。一方、低温ZnO層が設けられる際は、活性層の成長温度と同程度の低温で成長されるため、Cdの蒸発は抑制される。その結果、活性層のCdを蒸発させることなく各半導体層を成長することができ、青色系の中でも波長の長い発光をさせることができると共に、活性層の結晶性が向上して発光特性を向上させることができる。なお、この低温のZnO層は、低温で成長されるため結晶性が劣るが、すでに活性層は積まれているため、活性層の結晶性には影響がないと共に、非常に薄くてもCdの蒸発を防止することができ、たとえば100〜1000Å程度に薄く設けられているため、その影響は小さい。しかも、その後の高温でのZnOの成長時の温度で結晶性が修復され、発光特性への影響を殆んどなくすることができる。
【0035】
請求項17記載によるZnO系化合物半導体発光素子の製法は、Cdを含むZnO系化合物半導体からなる活性層をZnO系化合物半導体からなるクラッド層により挟持するZnO系化合物半導体発光素子の製法であって、Cdを含むZnO系化合物半導体からなる活性層を成長した後、該活性層の成長温度と同程度の低温でZnOからなるCdの蒸発防止層を成長し、ついでZnO系化合物半導体層を高温で成長することを特徴とする。
【0036】
請求項18記載による半導体発光素子は、サファイア基板と、該サファイア基板上に設けられるAl2 O3 膜からなるバッファ層と、該バッファ層上に設けられるZnO系化合物半導体からなり、少なくともn型層とp型層とを含み発光層を形成する発光層形成部とを有している。
【0037】
この構造にすることにより、サファイア基板の表面の鏡面にAl2 O3 膜が設けられているので、ZnO系化合物半導体を成長する際に、その表面全面に結晶を成長させる初期の結晶核が生成される。すなわち、サファイア基板の鏡面では、研磨されている関係から初期の結晶核が形成されない部分が生じ、結晶核のない部分では横方向からの成長もないため、前述のように部分的に縦方向の成長が進みにくい結晶粒界が生じることがある。しかし、Al2 O3 膜を予め成膜することにより、サファイア基板とAl2 O3 膜とは、同質の材料であるためしっかりと成膜し、その表面は分子が堆積した状態であるため、ZnO系化合物半導体を成長させる際に、その表面の全面に満遍なく初期の結晶核が生成され、その初期の結晶核をシードとしてZnO系化合物の結晶が成長する。その結果、結晶粒界が生成することなく、均質なZnO系化合物半導体の結晶層を成長することができる。
【0038】
前記発光層形成部が、Cdx Zn1-x O(0≦x<1)からなる活性層をMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなるn型とp型のクラッド層で挟持したダブルヘテロ接合構造を有することにより、青色系の波長に適したバンドギャップエネルギーの活性層をそれよりバンドギャップエネルギーの大きい材料により挟持されるZnO系化合物半導体を用いたダブルヘテロ接合構造を有する高輝度のLEDやLDが得られる。前記活性層がxの異なる値の層が交互に積層されて多重量子井戸構造とされて半導体レーザが形成されることにより、より一層高出力のLDとなる。
【0039】
請求項20記載の半導体発光素子の製法は、サファイア基板上に低温でAl2 O3 膜を堆積し、ついで該サファイア基板を結晶成長し得る温度に上昇してからZnO系化合物半導体からなり、第1導電形層および第2導電形層を含み発光層を形成する発光層形成部を成長することを特徴とする。
【0040】
このように、まず低温でAl2 O3 膜を成膜し、その後結晶成長の高温にすることにより、Al2 O3 膜を成膜する低温では結晶成長をしないため、サファイア基板の表面状態に拘らず全面に均一に成膜され、その後のZnO系化合物半導体を成長するため温度を結晶成長の温度に上昇させることにより、Al2 O3 膜の少なくとも表面側が結晶化し、表面に満遍なく初期の結晶核を生成させやすいため好ましい。
【0041】
請求項21記載による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられ、酸化物化合物半導体層からなり発光層形成部を含む半導体積層部とを有し、前記基板の表面に前記半導体積層部の半導体層を成長する温度より低温でZnを含む酸化物薄膜が緩衝層として設けられ、前記半導体積層部との間に介在されている。
【0042】
この構造にすることにより、基板上に低温でZnを含む酸化物半導体層が設けられるため、基板の状態に拘らず、満遍なく成膜される。その結果、その上にZnOなどの酸化物化合物半導体を成長する際に高温になると、表面に均一に初期の結晶核が生成され、その結晶核をシードとして均質な結晶層が成長する。そのため、基板の拘束を緩和でき、換言すれば基板をある程度任意に選択しながら酸化物化合物半導体層をエピタキシャル成長することができる。しかもその上に成長させるZnO系などの同質の半導体層を成長するため、緩衝層とホモ接合となり、良好な結晶の半導体層を成長しやすい。
【0043】
前記緩衝層が、100〜300℃の間で、MBE(分子線エピタキシー)法、MOCVD(有機金属化学気相成長)法、またはプラズマCVD法により、20〜200nmの厚さに形成されることにより、緩衝層を成膜した後、同じ装置でそのまま酸化物化合物半導体層を成長することができるため、非常に清浄な状態で成長させることができ、一層結晶欠陥の少ない酸化物化合物半導体層を成長することができて好ましい。
【0044】
請求項23記載の半導体発光素子の製法は、基板上に、スパッタ法、真空蒸着法、またはレーザアブレーション法によりZnを含む酸化物薄膜を非晶質または多結晶で成膜し、ついで、前記基板を半導体層のエピタキシャル成長装置に入れて成長温度に基板温度を上昇させ、その後酸化物化合物半導体層を積層して発光層形成部を形成することを特徴とする。
【0045】
この方法によれば、普通の半導体層を成長するのとは、全く別のスパッタ法などによる、薄膜結晶成長とは異なる方式により成膜するため、緻密な膜を成膜することができ、その結晶成長ではない緻密性により、基板の性質がその上に積層される半導体層への影響を阻止することができるため、より一層基板の結晶構造に関係なくどのような基板にも成膜することができる。この場合も前述の場合と同様に、酸化膜化合物半導体層の成長装置で昇温することにより、緩衝層の表面に初期の結晶核が満遍なく生成し、その初期の結晶核をシードとして酸化物化合物半導体層を全面に均一に成長することができる。しかも、たとえばZnOなどはその成長温度も500℃程度と比較的低温であり、GaN系化合物半導体のように1000℃程度以上の高温で成長させる必要がなく、高温に耐え得る基板を選定する必要もなくなる。その結果、基板を自由に選択することができる。
【0046】
請求項24記載の発明による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられる化合物半導体層からなりn型層とp型層とを有し発光層を形成する発光層形成部を含む半導体積層部とからなり、前記半導体積層部における最下層のエピタキシャル成長層の熱膨張係数より大きく、かつ、前記基板の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する材料からなる緩衝層が前記基板と前記半導体積層部との間に設けられている。
【0047】
ここに最下層のエピタキシャル成長層とは、半導体積層部を成長する際の最初にエピタキシャル成長する半導体層を意味する。
【0048】
この構造にすることにより、半導体積層部を成長した後の成長炉の温度を下げる際に、基板の収縮度と、半導体積層部の最下層におけるエピタキシャル成長層の収縮度との、中間の収縮度を有する緩衝層が介在しているため、収縮度の差に基づくクラックが入りにくい。降温の際にクラックが入らなければ、そのクラックに基づきさらにクラックが入るという現象がなくなり、全体としてクラックなどの結晶欠陥の少ない半導体成長層を得ることができる。
【0049】
前記基板がサファイア基板からなり、前記最下層のエピタキシャル成長層がZnO系化合物半導体からなり、前記緩衝層がウルツアイト構造の化合物半導体であれば、ZnO系化合物半導体がウルツアイト構造であるため、緩衝層上にZnO系化合物半導体層を結晶構造よく成長しやすい。
【0050】
前記緩衝層がAlp Ga1-p N(0≦p≦1)であれば、Alp Ga1-p Nは、サファイア基板とZnO系化合物半導体との中間に熱膨張係数があり、結晶構造もZnOと同じウルツアイト構造であるため、とくに好ましい。前記半導体積層部の発光層形成部が、Cdx Zn1-x O(0≦x<1)からなる活性層をMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなるn型とp型のクラッド層で挟持したダブルヘテロ接合構造を有することにより、青色系の波長に適したバンドギャップエネルギーの活性層をそれよりバンドギャップエネルギーの大きい材料により挟持されるZnO系化合物半導体を用いたダブルヘテロ接合構造を有する高輝度のLEDやLDが得られる。また、前記活性層がxの異なる値の層が交互に積層されて多重量子井戸構造とされて半導体レーザが形成されることにより、より一層高出力のLDとなる。
【0051】
請求項27記載によるZnO系化合物半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられ、少なくともn型層を有するZnO系化合物半導体の積層により発光層を形成する発光層形成部を有するZnO系化合物半導体素子であって、前記ZnO系化合物半導体のn型層に接触して設けられるn側電極は、該n型層に接する部分がAlを含まないTiまたはCrにより形成されている。
【0052】
この構造にすることにより、電極材料とn型ZnO系化合物半導体層との間の良好なオーミック接触が得られることが確認され、接触抵抗が小さく、順方向特性の優れたLEDやLDの半導体発光素子が得られる。
【0053】
前記Alを含まないTiまたはCrの層上に、TiとAlが含まれた層が設けられていることにより、ワイヤボンディングなどの他のリードとの接続が非常に良好になるため好ましい。
【0054】
前記TiとAlが含まれた層が設けられた後にアニール処理により該TiとAlとが合金化されると、さらに一層オーミックコンタクト特性が向上する。
【0055】
請求項30記載の発明によるp型ZnO系化合物半導体の成長方法は、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際に、VIIB族の元素を緩衝剤として導入しながらIA族の元素をp型ドーパントとして導入し、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長することを特徴とする。
【0056】
この方法を用いることにより、前述の六方晶系構造に基づきクーロン引力が働くZnとOとの間にVIIB族の元素がクーロン引力を遮蔽するように働き、IA族の元素がZnと置換されp型を呈するようになる。また、クーロンポテンシャルの遮蔽効果によりホールがp型ドーパントの位置に局在しないようになる。このことにより、ホールはお互いの波動関数を重ね合すことが可能となり、結晶全体に広がるようになって、p型が実現する。
【0057】
前記IA族の元素として、Li、Na、KおよびRbの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられ、前記VIIB族の元素として、F、Cl、BrおよびIの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられる。また、前記導入されるIA族の元素のモル数が、前記VIIB族の元素のモル数より大きければ、余分な緩衝剤を相殺することができる。
【0058】
請求項33記載の発明によるp型ZnO系化合物半導体を成長する方法は、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際に、IIIB族の元素を緩衝剤として導入しながらVB族の元素をp型ドーパントとして導入し、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長するものである。
【0059】
この方法によっても、前述の場合と同様に、IIIB族の元素がクーロン引力を遮蔽するように働き、VB族の元素がZnと置換されてp型を呈するようになる。
【0060】
前記VB族の元素として、N、P、AsおよびSbの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられ、前記IIIB族の元素として、B、Al、Ga、InおよびTlの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられる。また、前記導入されるVB族の元素のモル数が、前記IIIB族の元素のモル数より大きいことが、余分な緩衝剤を相殺することができるため好ましい。
【0061】
請求項36記載の発明による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられるZnO系化合物半導体層からなりn型層とp型層とにより発光層を形成する発光層形成部とを有する半導体発光素子であって、前記p型層にn型ドーパントとなり得る元素が緩衝剤として含まれている。
【0062】
請求項37記載の発明による半導体発光素子の製法は、ZnO系酸化物化合物半導体からなる活性層をZnO系酸化物化合物半導体からなるn型層およびp型層により挟持する発光層形成部をMOCVD法によりエピタキシャル成長する半導体発光素子の製法であって、前記p型層の成長を、該半導体層の薄膜を成長する工程、およびp型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、の交互の繰返しにより行うことを特徴とする。
【0063】
この方法を用いることにより、ドーパントガスが分解して半導体層内に入り込むときに、材料ガスの未反応などによる活性な水素原子が周囲にないため、水素と化合することなく半導体層に入り込む。その結果、半導体層に入り込んだドーパントが充分に機能し、キャリア濃度の高いp型半導体層が得られる。
【0064】
請求項38記載の発明による化合物半導体の気相成長方法は、p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する方法であって、化合物半導体層を成長する反応ガスを成長装置内に導入して該半導体層の薄膜を成長する工程、および該工程の後に前記半導体層を成長する反応ガスをパージし、その後p型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、を交互に繰り返すことによりp型半導体層を成長することを特徴とする。こうすることにより、反応ガスから分解して発生しやすい水素原子を完全に追い出すことができるため一層好ましい。
【0065】
前記半導体層を成長する反応ガスとして、H2 SeやH2 Sのように材料と直接水素が化合する構造ではない有機金属材料のみを使用することが、反応ガスから水素原子が離脱しやすいため、少々反応ガスが残存していてもその影響がなくなるため好ましい。
【0066】
前記反応ガスをパージするのに、チッ素または0族の希ガスを前記成長装置内に導入することにより反応ガスを完全に追い出すことができ、その影響をなくすることができるため好ましい。なお、キャリアガスとして使用する水素ガスは、水素分子となっているため、半導体の成長温度程度では分解しにくく殆ど影響がないが、キャリアガスも不活性ガスを用いればなお一層好ましい。
【0067】
p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する場合に、p型ドーパントガスとして、該ドーパントの元素が水素原子と直接結合しない構造の材料を用いることにより、ドーパントガスからの水素原子の発生も防止することができ、より一層確実にドーパントと水素との化合を防止することができるため好ましい。なお、このp型ドーパントガスの使用は、前述の成長とドーピングの繰返し工程を行う方法と関係なく効果がある。
【0068】
請求項42記載の発明によるZnO系化合物半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられるZnO系化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部を有するZnO系化合物半導体素子であって、前記ZnO系化合物半導体層にC元素が含まれている。すなわち、Znの材料として、有機金属化合物を用いているため、有機金属の炭素と水素との結合は弱くて切れやすく、水素は抜けやすいが、ZnとCとは結合エネルギーが大きく結合した状態のものも存在した状態でOと化合する。その結果、ZnとCとが結合した状態のものが存在し、結晶成長中のZnの蒸発を防止することができる。
【0069】
前記C元素はZnO系化合物半導体層を成長する際のZn材料として用いられる有機金属材料のCが存在し得る。
【0070】
請求項44記載の発明によるZnO系化合物半導体発光素子の製法は、基板上にZnO系化合物半導体層を積層して発光層を形成するZnO系化合物半導体発光素子を製造する場合に、前記ZnO系化合物のZn材料としてZnの有機金属化合物を前記基板の表面に照射しながら該基板表面で反応させて前記ZnO系化合物半導体を前記基板上にエピタキシャル成長することを特徴とする。
【0071】
ここに「基板の表面に照射しながら該基板表面で反応させて」とは、MOCVD(有機金属化学気相成長)法のようにチャンバー内の全体で反応させるのではなく、MBE(分子線エピタキシー)法などのように基板上または基板の表面で相互の材料が初めて出会って反応する状態を意味する。
【0072】
請求項45記載の発明による半導体レーザは、基板と、該基板上に設けられる第1導電形半導体からなる第1クラッド層と、該第1クラッド層上に設けられる活性層と、該活性層上に設けられる第2導電形半導体からなる第2クラッド層と、該第2クラッド層の内部またはその近傍に設けられる電流狭窄層とを有し、前記電流狭窄層がIA族またはVB族の元素がドーピングされたZnO系化合物半導体からなっている。
【0073】
前記第1クラッド層、活性層、および第2クラッド層が、たとえばZnO系またはGaN系化合物半導体(III 族チッ化物化合物半導体)により形成されることにより、電流注入領域を効率よく狭窄し、発振効率の向上したた青色系の半導体レーザが得られる。
【0074】
この構造にすることにより、ZnO系またはGaN系の化合物半導体を用いた青色系の半導体レーザにおいて、同様の半導体層の結晶成長により、絶縁化した電流狭窄層を連続的に半導体層の成長により形成することができ、活性層の近くに作り込むことができる。しかも、ZnO系化合物半導体により電流狭窄層が形成されているため、ウェットエッチングにより電流注入部が簡単に形成される。そのため、正確に電流を必要な領域のみに注入することができると共に、半導体層へのダメージが小さく、再度その上に半導体層をエピタキシャル成長する場合も結晶性のよい半導体層を成長することができ、閾値が下がり発振効率の優れた高特性の半導体レーザが得られる。
【0075】
前記電流狭窄層が、Mgz Zn1-z O(0≦z<1)からなることにより、屈折率が小さくなり、活性層に近付けて配置されても活性層で発光する光を吸収しないため、活性層へ近付けて設けることができると共に、実屈折率導波型の半導体レーザが得られる。
【0076】
請求項48記載の発明による半導体レーザは、基板と、該基板上に設けられる第1導電形半導体からなる第1クラッド層と、該第1クラッド層上に設けられる活性層と、該活性層上に設けられる第2導電形半導体からなる第2クラッド層と、該第2クラッド層の内部またはその近傍に設けられるMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる電流狭窄層とを有し、前記電流狭窄層の前記基板側にCds Zn1-s O(0<s<1)またはBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層が設けられている。
【0077】
この構造にすることにより、Cds Zn1-s Oは酸性のエッチング液にはエッチングレートが大きいが、アルカリ性のエッチング液にはエッチングレートが小さいため、アルカリ性のエッチング液によりエッチングすることにより、選択性よくMgz Zn1-z Oからなる電流狭窄層をエッチングすることができる。また、Cds Zn1-s Oはsの値が小さくなるに連れてバンドギャップエネルギーが大きくなり、活性層のCdZnOのバンドギャップエネルギーより大きいバンドギャップエネルギーのCdZnOを用いることにより、光の吸収をなくすることができる。さらに、Bet Zn1-t Oは酸性およびアルカリ性のいずれのエッチング液にもエッチングレートが小さいため、いずれのエッチング液を用いても、選択性よく電流狭窄層をエッチングすることができる。
【0078】
請求項49または50記載の発明による半導体レーザの製法は、基板上にZnO系化合物半導体からなる第1導電形クラッド層、活性層および第2導電形下部クラッド層を成長し、該第2導電形下部クラッド層上にCds Zn1-s O(0<s<1)からなるエッチングストップ層およびMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる絶縁性または第1導電形の電流狭窄層を成長し、アルカリ溶液により前記電流狭窄層をエッチングして電流注入領域を形成し、さらにZnO系化合物半導体からなる第2導電形の上部クラッド層を成長することを特徴とする。エッチングストップ層として、Bet Zn1-t O(0<t<1)を用いて、同様に電流狭窄層を成長し、酸性またはアルカリ性のエッチング液により前記電流狭窄層をエッチングしてもよい。
【0079】
請求項51記載のMIS型酸化物化合物半導体LEDは、n型のZnO系化合物半導体からなるn型層と、IA族、IB族、およびVB族の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素がZnO系化合物半導体層にドープされたドープ層と、該ドープ層の表面に設けられる導電層とから構成され得る。この場合もドープ層は殆ど絶縁層として前述のMIS構造と同様の動作をする。
【0080】
前記n型層にIII B族の元素がドープされることにより、ドープ後の結晶が安定する効果がある(たとえばIV族のカーボンなどは結晶を不安定にする)。
【0081】
請求項53記載の発明による半導体発光素子は、基板と、該基板上に設けられ、n型層およびp型層を少なくとも有し化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部とを具備し、前記n型層がZnO系化合物半導体からなり、前記p型層がGaN系化合物半導体からなっている。
【0082】
この構造にすることにより、p型を作りにくいZnO系化合物半導体の代りに、p型GaN系化合物半導体を用いることができ、また、発光層部分にZnO系化合物半導体を用いることにより、エキシトンによる発光を利用してpnジャンクション型の高効率の電流注入発光をさせることができる。さらに、たとえばZnO系化合物半導体からなるn型層を上部に形成することにより、ZnO系化合物半導体の下側がGaN系化合物半導体あるため、ZnO系化合物半導体のみをウェットエッチングによりエッチングすることができる。
【0083】
前記n型層とp型層との間にCdx Zn1-x O(0≦x≦0.5)からなる活性層が設けられることにより、発光特性に優れるZnO系化合物半導体層を発光層とすることができて、発光効率が向上する。
【0084】
前記活性層と前記p型層との間に該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きい材料からなるn型のZnO系化合物半導体層が設けられることにより、直接発光層とならないZnO系化合物半導体層を緩衝層として、GaN系化合物半導体層上に発光層となるZnO系化合物半導体という異種の半導体層を接合することに伴う界面準位の影響を抑制することができる。
【0085】
具体的には、絶縁基板と、該絶縁基板上に設けられるGaN系化合物半導体からなるp型層および該p型層の上に設けられるZnO系化合物半導体からなるn型層とにより形成される発光層形成部と、該n型層上に設けられるn側電極と、前記ZnO系化合物半導体層の一部がエッチングにより除去されて露出するp型層上に設けられるp側電極とにより構成される。
【0086】
前記発光層形成部がGaN系化合物半導体からなるp型層、該p型層よりバンドギャップエネルギーが小さいZnO系化合物半導体からなる活性層、および該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいZnO系化合物半導体からなるn型層を有する半導体レーザ構造であり、前記活性層へ電流を注入する領域を除いて前記積層されたZnO系化合物半導体層がエッチング除去されていることにより、電流注入領域を確実に画定することができ、無駄な電流がなくなって高効率の発振をすることができる。
【0087】
前記p型層と前記活性層との間に、該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいn型のZnO系化合物半導体からなる緩衝層が設けられることにより、活性層の結晶性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0088】
つぎに、図面を参照しながら本発明の半導体発光素子について説明をする。
【0089】
本発明の半導体発光素子は、図1にその一実施形態であるLEDチップの斜視図が示されるように、電流注入により発光する活性層5が、その活性層5よりバンドギャップが大きい材料からなるn型クラッド層4およびp型クラッド層6により挟持される構造で、前記活性層5がCdおよびZnの少なくとも一方を含む酸化物化合物半導体からなっている。
【0090】
活性層5は、キャリアの再結合により発光させる層で、そのバンドギャップにより発光する光の波長が定まり、発光させる光の波長に応じたバンドギャップの材料が使用され、たとえば単一活性層で0.3μm程度の厚さに形成されている。本発明では、この活性層5が、たとえばCdx Zn1-x O(0≦x<1、たとえばx=0.2)のように、CdおよびZnの少なくとも一方を含む酸化物化合物半導体からなっていることに特徴がある。
【0091】
すなわち、前述のように、活性層をそれよりバンドギャップの大きいクラッド層により挟持して発光させる従来の青色系の半導体発光素子としては、チッ化ガリウム系化合物半導体が用いられ、その活性層としてInGaN系(Inの混晶比が所望のバンドギャップになるように変化させ得ることを意味する)化合物半導体が使用されてきたが、前述のように、InGaN系化合物半導体はその結晶性がよくないと共に、Inの混晶比を一定以上に大きくすることができず、ある程度以上の長波長の発光をさせることができない。そのため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ZnOとCdOとを固溶化して、一般式がCdx Zn1-x O(0≦x<1)で表される混晶とすることにより、ZnOが本来有しているバンドギャップよりもバンドギャップを小さくすることができ、ナローバンドギャップ化を達成することができることを見出した。
【0092】
このCdx Zn1-x Oは、そのxの値が大きくなるほどバンドギャップが小さくなる。前述した400〜430nm程度の波長の光を発光させるためには、0.02〜0.4程度が好ましく、さらに好ましくは0.06〜0.3程度である。しかし、紫外線領域で発光させる場合には、x=0でもクラッド層にバンドギャップエネルギーがそれより大きい材料(Mgの混晶比の大きいMgZnO)を使用することにより発光させることができる。なお、活性層5は、非発光再結合中心の形成を避けるため、ノンドープであることが好ましいが、CdとZnのみの固溶体ではなく、他の元素をさらに固溶させることもできる。なお、このような固溶体を得るには、たとえば後述するようにMOCVD法によりCdとZnとOの反応ガスをキャリアガスと共に導入してその流量を調整することにより、所望の混晶比の固溶体を得ることができる。
【0093】
活性層5と共に発光層形成部11を構成するn型およびp型クラッド層4、6は、図1に示される例では、Mgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)が用いられている。クラッド層4、6は、活性層5よりバンドギャップが大きく、キャリアを活性層5内に有効に閉じ込める効果を有すればよく、他のIII 族元素チッ化物(チッ化ガリウム系化合物半導体)などでもよい。しかし、Mgy Zn1-y Oを用いることにより、チッ化ガリウム系化合物半導体とは異なり、ウェットエッチングが可能であり、後述するLDなどの場合には、メサ型形状にしたり、内部電流狭窄層を作り込みやすいため好ましい。このn型クラッド層4は、たとえば2μm程度の厚さに、p型クラッド層6は、たとえば0.5μm程度の厚さに設けられる。
【0094】
基板1は、たとえばサファイア基板が用いられるが、クラッド層などにチッ化ガリウム系化合物半導体が用いられる場合を含めて、GaN基板、SiCを表面に形成したシリコン基板、単結晶のSiC基板などを用いることができる。基板1の表面には、化合物半導体の格子不整合を緩和するための緩衝層2が、たとえばZnOにより0.1μm程度形成される。この緩衝層2は、基板1がサファイアのような絶縁性基板であればノンドープでも、他の導電形でもよい。しかし、基板1が導電性の基板で、基板1の裏面から一方の電極を取り出す場合には、その基板と同一の導電形で形成される。そして、その上にZnOからなるn型コンタクト層3が1〜2μm程度の厚さ形成されている。p型クラッド層6上には、ZnOからなるp型コンタクト層7が0.3μm程度設けられ、その表面にたとえばITOなどからなる透明電極8が形成されると共に、積層された半導体層3〜7の一部がエッチングにより除去されて露出するn型コンタクト層3にn側電極パッド9がTiおよびAuなどの真空蒸着とパターニングまたはリフトオフ法により、また、透明電極8上の一部にNi/Al/Auなどからなるp側電極10がたとえばリフトオフ法などにより形成されている。
【0095】
このLEDを製造するには、たとえばMOCVD装置内に基板1をセッティングし、基板温度を300〜600℃程度にして、反応ガス、必要なドーパントガスをキャリアガスのH2 と共に導入し、気相反応させることにより、半導体層を成長させることができ、反応ガスを順次変化させたり、その流量を変化させることにより所望の混晶比の半導体層を積層することができる。なお、反応ガスとしては、Znとしてジエチル亜鉛(Zn(C2 H5 )2 )、Oとしてテトラヒドロフラン(C4 H8 O)、Mgとしてシクロペンタジエチルマグネシウム(Cp2 Mg)、Cdとしてジエチルカドミウム(Cd(C2 H5 )2 )がそれぞれ用いられ、ドーパントガスとしては、Clのn型ドーパントガスとしてエチルクロライド(C2 H5 Cl)、p型ドーパントガスとしてプラズマN2 などを供給する。そして、反応時間を制御することにより、前述のような各半導体層の厚さを制御することができる。
【0096】
そして、積層した半導体層の一部をRIE法などによりエッチングしてn型コンタクト層3を露出させる。その後、基板1の裏面を研磨し、100μm程度の厚さとし、露出したn型コンタクト層3の表面に、たとえばリフトオフ法などによりTi/Auなどを真空蒸着などにより成膜してn側電極パッド9を形成し、p型コンタクト層7の表面に真空蒸着などによりITOを成膜して透明電極8を形成すると共に、さらにたとえばリフトオフ法によりNi/Al/Auを真空蒸着してp側電極10を形成する。その後ウェハからチップ化することにより、図1に示されるLEDチップが得られる。
【0097】
図2は、本発明による半導体発光素子の他の実施形態である電極ストライプ型のLDチップの斜視説明図である。このLDチップも基本的には図1のLEDチップと同様の構造になっているが、LDにするため、発光層形成部11において、活性層15とクラッド層との間に光ガイド層14、16が設けられていることと、活性層15が多重量子井戸構造で形成されていることが主な相違である。すなわち、活性層15の屈折率がクラッド層4、6より大きい材料により形成されることにより、活性層15に光を閉じ込めることができるが、活性層15が薄く充分に光を閉じ込めることができないときは、活性層15から光が漏れるため、光導波路の一部を構成するように、クラッド層4、6と活性層15との間の屈折率を有する光ガイド層14、16が設けられる。しかし、活性層で充分に光を閉じ込められれば光ガイド層14、16を設ける必要はない。
【0098】
詳述すると、サファイア基板1上にZnOからなるバッファ層2が0.1μm程度設けられ、その上にZnOからなるn型コンタクト層3が1μm程度の厚さ設けられている。そして、その上にMgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなるn型クラッド層4が2μm程度の厚さに設けられ、ついでn型ZnOからなり光導波路の一部をなすn型光ガイド層14が0.05μm程度設けられている。活性層15は、たとえばノンドープのCd0.06Zn0.94O/Cd0.3 Zn0.7 Oからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ50Åおよび40Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成されている。その活性層15の上に、ZnOからなり光導波路の一部をなすp型光ガイド層16が0.05μm程度、Mgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなるp型クラッド層6が2μm程度の厚さに設けられ、さらにZnOからなるp型コンタクト層7が1μm程度の厚さに設けられている。そして、LEDチップの場合と同様に、積層された半導体層の一部がエッチングにより除去されて露出したn型コンタクト層3にTi/Auなどからなるn側電極9が設けられ、p型コンタクト層7の表面にp側電極10がたとえばNi/Al/Auなどにより形成されている。半導体レーザの場合、光は上面から放射されないで、活性層15の端面から放射されるため、上面に透明電極は不要で、電流通路を形成するために、たとえば10μm程度の幅のストライプ状に形成したp側電極10が直接p型コンタクト層7上に形成されている。
【0099】
このようなLDチップを形成する場合でも、積層される半導体層が酸化物半導体層であるため、活性層の結晶性が良好になると共に、そのエッチングが容易で、ウェットエッチングをすることができ、基板がサファイアなどで劈開しにくい場合でも、活性層の端面である光の放射面を平坦な面で形成しやすく、良好な共振器を形成しやすい。
【0100】
図3は、本発明による半導体発光素子の他の実施形態であるLDチップの斜視説明図である。この例は、p側電極10のみのストライプではなく、p型クラッド層6の一部までをメサ型にエッチングしたメサストライプ型の構造としたもので、このメサ型エッチングは、n型コンタクト層3を露出させるためのエッチングと同時にマスクを形成し直すだけで形成される。他の半導体層の積層構造は、図2に示される構造と同じで製造方法も同様である。
【0101】
図4は、本発明による半導体発光素子のさらに他の実施形態であるLDチップの同様の説明図である。この例は、p型クラッド層6側にn型電流制限層(内部電流狭窄層)17が設けられたSAS型構造の例である。この構造のLDチップを製造するには、前述と同様に基板1上にバッファ層2、n型コンタクト層3、n型光ガイド層14、活性層15、p型光ガイド層16、p型クラッド層6を順次積層した後に、たとえばn型Mg0.2 Zn0.8 Oからなる電流制限層17を0.4μm程度成長させる。そして、一旦結晶成長装置からウェハを取り出し、表面にレジスト膜を設けてストライプ状にパターニングをし、NaOHなどのアルカリ溶液により電流制限層17をストライプ状にエッチングして、ストライプ溝18を形成する。その後、再度MOCVD装置にウェハを戻し、p型ZnOからなるp型コンタクト層7を前述の例と同様に成長する。その後は、前述の各例と同様にn側電極9およびp側電極10を形成し、チップ化することにより図4に示される構造のLDチップが得られる。なお、p型クラッド層6を2段構造とし、その間に電流制限層17を作り込むこともできる。
【0102】
従来のチッ化ガリウム系化合物半導体を用いた青色系の積層構造では、前述のように化学薬品に対して安定であるため、この例のように積層した半導体層をエッチングしてストライプ溝を形成することができなかったため、活性層の近くまで電流経路を充分に集中させることができなかったが、本発明によれば、このようなストライプ溝を形成した電流制限層(内部電流狭窄層)17を半導体層の中に作り込むことができる。
【0103】
図5は、本発明による半導体発光素子のさらに他の実施形態であるLDチップの同様の説明図である。この例は、基板1にサファイアではなく、導電性の基板を用いた例で、その結果n側電極9が基板1の裏面に設けられている。この例では基板としてシリコン(Si)基板1が用いられ、Si基板1の表面に立方晶のSiC層2が形成され、その表面に直接または図示しない緩衝層を介して前述の各半導体層が積層されている。このSiC層2の形成は、たとえばSi基板1をアセチレン(C2 H2 )と水素の雰囲気中で、1020℃程度で60分程度保持することによる炭化処理により100Å程度の図示しないSiC膜を形成した後に同一炉内でSiの原料ガスであるジクロルシラン(SiH2 Cl2 )と、炭素の原料ガスであるC2 H2 を導入して熱CVD法によりたとえば2μm程度成長することにより形成する。その後の各半導体層の積層は、前述の各例と同様に行う。この例によれば、半導体層のエッチングは行われない構造であるが、各半導体層の積層がチッ化ガリウム系化合物半導体のように高温で成長させなくても、600℃程度以下の低温で成長させることができ、成長装置の負担が非常に軽く、装置の保守が容易であると共に、半導体層の成長も簡単に行うことができる。さらに、活性層の結晶性も優れているため、発光効率の高いLDおよびLEDが得られる。
【0104】
図5に示される例では、簡単化のため、電極ストライプ型の構造にしたが、電流制限層の埋込み型など、前述の各例の構造にすることもでき、このような導電性の基板を用いることにより、p側およびn側の両電極をチップの上下両面から取り出すことができ、チップのボンディングなどに非常に取り扱いやすい素子となる。このような導電性の基板としては、他にSiCの結晶基板や、GaN基板などでも、前述と同様に酸化物半導体を積層することができる。
【0105】
前述の各例では、LDの活性層として、多重量子井戸構造の例を示したが、その例に限られず、単一量子井戸構造またはバルク構造で形成することもできる。さらに、活性層で充分に光導波路を形成することができれば、光ガイド層を別途設ける必要がないこともいうまでもない。このことは、以下の各例においても同様である。
【0106】
本発明によれば、ZnOをナローバンドギャップ化する方法が得られたため、バンドギャップが紫外線(紫外線領域ではZnOを活性層に使用できる)から高精細なDVDの光源に必要とされる400〜430nmの波長の光を発光させるバンドギャップをZnO系の酸化物半導体を用いて得ることができ、短波長の半導体発光素子に有利に用いることができる。
【0107】
また、以上の例における半導体発光素子によれば、活性層をクラッド層で挟持する構造で、青色系の色を発光させる場合に、活性層にCdとZnを含む酸化物化合物半導体が用いられているため、InGaN系化合物半導体のように結晶性の低下を招くことなく、400〜430nm近傍の光を発光しながら非常に結晶性のよい活性層が得られる。その結果、発光効率も向上し、高輝度の青色系の半導体発光素子が得られる。
【0108】
さらに、クラッド層にZnまたはMgとZnを含む酸化物化合物半導体が用いられることにより、活性層より大きいバンドギャップのクラッド層となり、発光素子を構成することができると共に、チッ化ガリウム系化合物半導体では行いにくいウェットエッチングをすることができること、600℃程度以下の低温で半導体層を成長することができること、など取扱が非常に容易となり、青色系の半導体発光素子を容易に得ることができる。半導体レーザでは、電流注入領域を画定する必要があるが、電流制限層の埋込みやメサエッチングなどを容易に行うことができるため、とくにメリットが大きい。
【0109】
さらに、前述の酸化物半導体層は、Si基板上に設けたSiCやSiC基板などの上に成長することができるため、電極をチップの上下両面から取り出す垂直型のチップとすることができる。その結果、ワイヤボンディングなども一方の電極のみを行えばよく、非常に取扱性が向上する。
【0110】
本発明によれば、従来のチッ化ガリウム系化合物半導体とは異なるZnO系の酸化物半導体層を用いて青色系の発光をさせることができ、結晶性のよい半導体層により高い発光効率の半導体発光素子が得られる。
【0111】
さらに、ZnO系の酸化物半導体を用いることにより、チッ化ガリウム系化合物半導体に比べて非常に低い温度で半導体層を積層することができるため、成長装置の負担を軽くすることができると共に、ウェットエッチングをすることができて取扱いやすく安定した半導体層を積層することができる。
【0112】
図6は、さらに他の実施形態であるLDチップの斜視図が示されている。この例では活性層15がCdx Zn1-x O(0≦x<1)のバルク層またはCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、その活性層15のn型クラッド層4側およびp型クラッド層6側に、たとえばMgw Zn1-w O(0≦w<1)からなり、かつ、その接触部分における活性層の材料の格子定数とほぼ等しくなるような組成の材料からなるストレス緩和層24、26が活性層15と接して設けられている。
【0113】
活性層15は、前述のように、キャリアの再結合により発光させる層で、そのバンドギャップにより発光する光の波長が定まり、発光させる光の波長に応じたバンドギャップの材料が使用され、この例では、ZnOをCdによりナローバンドギャップ化したCdx Zn1-x O(0≦x<1)が用いられ、たとえばノンドープのCd0.06Zn0.94O/Cd0.3 Zn0.7 Oからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ50Åおよび40Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成されている。この構造は、たとえば図7にその一例の活性層15近傍の拡大断面図、およびそのバンドギャップの変化状態を示す図が示されるように、Cd0.3 Zn0.7 Oからなるウェル層15aとCd0.06Zn0.94Oからなるバリア層15bとが交互に積層され、最後の層がウェル層15aで終っている。この例では、この活性層15の両面側に、Cd0.3 Zn0.7 Oとほぼ同じ格子定数を有するMg0.35Zn0.65Oからなるストレス緩和層24、26が設けられている。
【0114】
n型およびp型のストレス緩和層24、26は、活性層15の一番外側の組成とほぼ同じ格子定数を有し、かつ、活性層よりバンドギャップの大きい材料であるMgwZn1-wO(0≦w<1)またはIII 族チッ化物化合物半導体からなっており、それぞれ0.02μm程度の厚さで設けられている。すなわち、前述のように、ZnOにCdまたはMgが混晶されると、図8に示されるように、格子定数が共にZnOより大きくなり、CdZnO系およびMgZnO系共に同じ傾向になる。そのため、発光させる波長により活性層のCdxZn1-xOにおけるxの値が定まり、その格子定数に合うMgwZn1-wOのwの値が定まり、ストレス緩和層24、26の組成が定まる。しかし、III 族チッ化物化合物半導体で格子定数がほぼ等しい組成のものを使用することもできる。
【0115】
このストレス緩和層24、26は、活性層15と格子定数の異なるクラッド層などからのストレスが、活性層15に及ばないようにするためのもので、そのストレスを吸収できる厚さあればよく、0.005〜0.1μm程度、さらに好ましくは0.01〜0.05μm程度の厚さに設けられる。あまり厚くなるとクラッド層中にストレス発生の問題が生じ、薄すぎるとストレスを充分に吸収できず、活性層15にストレスが加わることになる。
【0116】
前述の例では、活性層15が多重量子井戸構造からなり、その最外層がウェル層からなる例であったが、活性層がバリア層で終る場合もある。この場合は、そのバリア層の格子定数に合せた組成でストレス緩和層24、26が形成される。なお、バリア層がそのまま光ガイド層となる場合は、ウェル層の格子定数に合せられる。また、活性層が同じ組成の1層で形成されるバルク層からなる場合は、その活性層15の組成に応じた格子定数に合うようにストレス緩和層24、26が形成される。さらに、図6に示される例では、活性層15の両面にn型およびp型のストレス緩和層24、26が設けられていたが、両側に設けられなくても、いずれか一方だけに設けられてもその効果が大きい。
【0117】
他の基板、クラッド層、光ガイド層およびその製法などは前述の図2に示される例と同じで、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0118】
このストレス緩和層が設けられることにより、ZnOにCdを混晶させて、ナローバンドギャップ化し、青色系の発光をさせながら、その活性層の格子定数と合せてバンドギャップを大きくした半導体層がZnOにMgを混晶させることにより得られ、活性層と格子定数が同じでバンドギャップの大きい半導体層(ストレス緩和層)を直接活性層に接して積層することができる。そのため、クラッド層などの格子不整合に伴うストレスはストレス緩和層により吸収され、活性層には直接格子不整合に伴うストレスがかからず、ピエゾ電界が発生しない。その結果、閾値を低減させることができ、不純物をドーピングしなくても低い閾値で動作させることができる。不純物をドーピングしないで発光素子を形成することができれば、非発光再結合中心の発生を避けることができる。これによって、素子の発熱を抑制することができ、半導体レーザにおいて一番問題となる寿命の向上、とくに高出力時の寿命向上に絶大な効果を発揮する。
【0119】
前述の例では、LDの例であったが、LEDでも活性層をクラッド層により挟持する高出力LEDの場合、同様にストレス緩和層を介在させることにより、閾値を下げることができ、低電圧駆動で高出力のLEDが得られる。
【0120】
ストレス緩和層を設ける発明によれば、活性層をクラッド層により挟持するダブルヘテロ接合構造の半導体発光素子において、格子不整合に伴うストレスが活性層に加わらないため、活性層にドーピングをしなくても閾値を下げることができる。その結果、とくに高出力の半導体レーザを構成する場合でも、発熱を抑えて高寿命化を達成することができ、青色系の化合物半導体発光素子の信頼性を非常に向上させることができる。
【0121】
図9は、さらに他の実施形態であるLEDチップの断面図が示されている。この例では活性層を成長した後に、高温でZnOまたはMgを含むクラッド層などを成長しようとすると、その温度上昇によりZnOなどの半導体層が成長する前に活性層のCdが蒸発して抜けてしまうという問題を解決するものである。
【0122】
すなわち、図11にCd、Zn、Mgの蒸気圧曲線が示されるように、これらの金属の同一温度における蒸気圧は、Cd>Zn>Mgの関係がある。これは、同一の蒸気圧を得るための温度がMg>Zn>Cdであることを意味する。たとえば通常のMBE法により成長する場合、材料である金属の蒸気圧が10-3〜10-4Torr程度になるようにその蒸発温度が調整されるのが一般的である。その場合、Cd、Zn、Mgの蒸発温度は、それぞれ200〜250℃、250〜300℃、400〜450℃程度になるように調整される。この場合、蒸発原子が基板に到達した後のマイグレーション(基板表面上で接している異種原子同士が互いの結晶欠陥を埋めるように移動する動き)の効果を考えると、基板の温度も蒸発温度に比例して調整するのが一般的である。すなわち、MBE法などにより、たとえばCdx Zn1-x Oからなる活性層を成長し、ついでZnOまたはMgy Zn1-y Oの光ガイド層やクラッド層を成長しようとすると、その成長温度を、活性層を成長する温度より高くしなければならない。
【0123】
そのため、バンドギャップエネルギーが下がらず発光波長を長くすることができず、活性層の成長の際にCdの混晶比を多くして成長しようとすると、後の工程でCdの蒸発量が多くなるだけで、発光波長を長くできないと共に、かえってCdの抜けた後が格子欠陥となり、発光特性も低下する。図9に示される例は、Cdの蒸発を抑制して、青色から緑色の発光をすることができると共に、結晶性が向上し、発光特性の優れたZnO系化合物半導体発光素子およびその製法を得るものである。
【0124】
本発明者らは、Cdx Zn1-x Oを活性層とするZnO系化合物半導体発光素子において、バンドギャップエネルギーのナロー化を達成し、青色から緑色の発光をさせるため、鋭意検討を重ねた結果、混晶化したCdx Zn1-x Oからなる活性層を、つぎのZnOやMgZnOなどの成長時にCdが蒸発しないように、活性層の表面に活性層の成長温度と同程度の低温でZnOからなる蒸発防止層を設けておくことにより、Cdの混晶比を充分に大きくすることができ、Cdが30%(x=0.3)程度で波長が410nm程度の青色の発光をさせることができると共に、Cdの蒸発防止により活性層の結晶性も向上し、優れた発光特性のZnO系化合物半導体発光素子が得られることを見出した。
【0125】
この例によるZnO系化合物半導体発光素子は、図9にLEDチップの断面説明図が示されるように、Cdx Zn1-x O(0≦x<1)からなる活性層5がZnO系化合物半導体からなる下部クラッド層4および上部クラッド層6により挟持される発光層形成部11が形成されている。そして、活性層5と上部クラッド層6との間の少なくとも活性層5側に低温ZnO層(Cdの蒸発防止層)20が設けられていることに特徴がある。
【0126】
低温ZnO層20は、Cdを含む活性層5が成長された後、そのまま温度を上昇させないで、Cdのソース源を閉じてZnOを成長することにより得られるものである。すなわち、Cdの蒸気圧は高いため、Cdを含む活性層5を成長する場合、前述のように200〜250℃程度の低温で成長し、その上に成長するクラッド層6としてのMgy Zn1-y OはMgの蒸気圧が低いため、通常400〜450℃程度の高温で成長する。しかし、前述のように、本発明者らは活性層5を成長した後に、つぎの半導体層を成長するため基板の温度を上昇させると、活性層5のCdが蒸発して結晶欠陥が生じると共にCdの混晶比が低下するということを見出した。このCdの蒸発を防止するため、低温ZnO層20が設けられている。
【0127】
低温ZnO層20は、このようにCdの蒸発を防止するためのものであるため、活性層5の表面を覆う程度に設けられておればよく、その厚さは100〜1000Å程度設けられておれば、Cdの蒸発を充分に防止することができることが、本発明者らにより確認された。また、成長温度は、できるだけ低い方がCdの蒸発を防止することができるため好ましいが、余り低くなるとZnOの成長自身が進まないため、かえってCdの蒸発が生じやすく、200〜300℃程度、さらに好ましくは、活性層5の成長温度程度が一番効果的であった。
【0128】
発光層形成部11は、図9に示される例では、Cdx Zn1-x O(0≦x<1、たとえばx=0.3)からなる活性層5をMgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなる下部(n型)と上部(p型)のクラッド層4、6で挟持する構造であるが、この例では、前述のように活性層5の上部表面に低温ZnO層(蒸発防止層)20が設けられている。この低温ZnO層20も活性層5よりバンドギャップエネルギーは大きく、キャリア閉込め効果もある。しかし、この低温ZnO層20は、前述のように100〜1000Åと非常に薄く、殆ど影響を受けることなく上部クラッド層6がキャリア閉込め効果を有している。
【0129】
活性層5は、キャリアの再結合により発光させる層で、そのバンドギャップエネルギーにより発光する光の波長が定まり、発光させる光の波長に応じたバンドギャップエネルギーの材料が使用され、たとえば単一活性層で0.1μm程度の厚さに形成されている。このCdx Zn1-x Oは、そのxの値が大きくなるほどバンドギャップエネルギーが小さくなる。たとえば430nm程度の波長の光を発光させるためには、0.32程度が好ましく、従来はこのようなCdの混晶比の大きいCdx Zn1-x Oを得られなかったが、本発明によりCdの蒸発を防止することができ、Cdの混晶比が32%程度のものを得ることができた。なお、活性層5は、非発光再結合中心の形成を避けるため、ノンドープであることが好ましい。
【0130】
基板1としては、この例ではn型のZnO基板が用いられているが、この例に限定されるものではなく、サファイア、GaN、GaP、SiCなど前述の種々の基板を用いることができ、他のn型およびp型クラッド層4、6なども、前述の例と同様で、同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0131】
前述のように、この例ではCdx Zn1-x O活性層上に、低温ZnO層が設けられているため、つぎのMgy Zn1-y Oからなるクラッド層を400℃程度以上の高温で成長しても、活性層のCdの蒸発は阻止される。また、低温ZnO層を成長する間も、その温度が活性層の成長時と同程度の低温であるため、それ程Cdは蒸発しない。そのため、活性層を成長する際に混晶したCdをほぼそのまま維持することができる。その結果、活性層からのCdの蒸発による結晶欠陥や、Cdの蒸発による混晶比の低下などは生ぜず、所望のバンドギャップエネルギーを有し、結晶性の優れた活性層が得られ、青色から緑がかった半導体発光素子が優れた発光効率で得られる。
【0132】
つぎに、このLEDの製法について説明をする。たとえばMBE(分子線エピタキシー)装置内にZnOなどからなる基板1をセッティングし、基板1の温度を300〜350℃程度にし、プラズマ酸素の照射条件下において、Znのソース源(セル)のシャッターを開け、Znを照射すると共に、n型ドーパントのAlのシャッターも開けてn型のZnOからなるn型コンタクト層3を0.5μm程度成長させる。ついで、さらにMgのソース源(セル)のシャッターも開け、基板1の温度を400〜450℃程度にしてMg0.15Zn0.85Oからなるn型の下部クラッド層4を1μm程度成長する。
【0133】
つぎに、活性層5を成長するため、基板温度を200〜250℃程度に下げると共に、Mgのセル、およびドーパントのAlのセルを閉め、Cdのソースメタルであるセルのシャッターを開いてCdを照射し、Cd0.32Zn0.68Oを0.1μm程度成長する。ついで、Cdのセルのシャッターを閉め、同じ温度でZnOからなる蒸発防止層20を0.05μm程度成長する。
【0134】
さらに、基板温度を400〜450℃程度にして、同様にp型クラッド層6を1μm程度、p型コンタクト層7を0.5μm程度成長することにより半導体積層部12を成長する。なお、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、Alの同時ドーピングにより形成した。
【0135】
その後、MBE装置よりエピタキシャル成長がされたウェハを取り出し、スパッタ装置に入れて透明性導電膜ITOを0.2μm程度の厚さに設け透明電極8とする。その後、前述の例と同様に、基板1の裏面を研磨し、100μm程度の厚さとし、基板1の裏面にTi/Alなどからなるn側電極9を全面に、透明電極8上にNi/Alなどからなるp側電極10をたとえばリフトオフ法により、それぞれ真空蒸着などにより0.2μm程度づつ形成する。その後ウェハからチップ化することにより、図9に示されるLEDチップが得られる。
【0136】
このような方法でZnO系化合物半導体層を成長すると、蒸気圧の大きいCdの蒸発を防止することができ、活性層のバンドギャップエネルギーを充分に下げて長い波長の発光をさせることができると共に、活性層の結晶性を向上させることができて、青色から緑がかった色で発光特性の優れたZnO系化合物半導体発光素子が得られる。
【0137】
前述の例は、LEDの例であったが、LDであっても同様である。この場合、発光層形成部11が若干異なり、たとえば活性層15はノンドープのCd0.03Zn0.97O/Cd0.2 Zn0.8 Oからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ50Åおよび40Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成することが好ましい。また、活性層15が薄く充分に光を活性層15内に閉じ込められない場合には、たとえばZnOからなる光ガイド層14、16が活性層15の両側に設けられる。しかし、この場合も活性層15と光ガイド層14、16との間に低温ZnO層からなるCdの蒸発防止層20が設けられる。また、ITOからなる透明電極は不要で、直接p側電極10をストライプ状にパターニングして形成したり、半導体層の上部をメサ型形状にエッチングしたり、電流狭窄層を埋め込むことにより、電流注入領域を画定する構造に形成される。電流狭窄層を形成する構造の例を図10に示す。
【0138】
図10に示されるSAS型構造のLDチップを製造するには、前述と同様に基板1上にn型コンタクト層3、n型クラッド層4、n型ZnOからなる0.05μm程度のn型光ガイド層14を順次前述の高温で成長する。ついで、前述の多重量子井戸構造の活性層15を200〜250℃程度で成長し、続いて同温度で低温ZnO層である蒸発防止層20を0.05μm程度成長する。その上に前述の高温でp型ZnOからなる0.05μm程度のp型光ガイド層16、p型クラッド層6を順次積層した後に、たとえばn型Mg0.2 Zn0.8 Oからなる電流狭窄層17を0.4μm程度成長させる。そして、一旦結晶成長装置からウェハを取り出し、表面にレジスト膜を設けてストライプ状にパターニングをし、NaOHなどのアルカリ溶液により電流狭窄層17をストライプ状にエッチングして、ストライプ溝18を形成する。その後、再度MBE装置にウェハを戻し、p型ZnOからなるp型コンタクト層7を前述の例と同様に成長する。その後は、前述の各例と同様にp側電極10およびn側電極9を形成し、チップ化することにより図10に示される構造のLDチップが得られる。なお、両クラッド層4、6、光ガイド層14、16および活性層15により発光層形成部11が構成されている。
【0139】
この例によれば、とくに青色系の半導体発光素子に用いられるZnO系化合物半導体層のバンドギャップエネルギーを小さくするCdの蒸発を抑えて充分に混晶比を上げると共に、結晶性の優れたCdZnO系の活性層を成長することができるため、青色から緑色の発光をするZnO系化合物半導体発光素子が高い発光効率で得られる。その結果、とくに現在要望されている青色系のLEDやLDなどの半導体発光素子を、新たな材料でその発光効率などの発光特性を向上することができる。
【0140】
図12に示される例は、ZnO系酸化物半導体層を結晶性よく成長し、発光特性を向上させるための例を示す。すなわち、ZnO系化合物半導体は、GaN系化合物半導体と異なり、縦方向の成長はスムーズに行われるが、横方向の成長は殆ど成長しない。すなわち、c軸方向の成長は早いが、これに比べてa軸方向の成長は遅い。そのため、図13(a)に結晶成長の状態が模式的に示されるように、基板63上に最初の結晶成長を始める核が存在するところは、ドンドン成長して結晶層64が形成され、結晶性が非常に良好な層Aが形成されるが、基板63の表面に核が存在しないところBでは、成長が遅れ、結晶粒界が形成されて結晶性が非常に悪くなる。この状態をX線回折により調べると、図13(b)に示されるように、基板63の回転角ωに対して、結晶粒界の存在する部分Bは裾の広がったスペクトラムになる。このように、ZnO系化合物半導体は、格子整合のみならず結晶粒界が生じやすいという点で、GaN系化合物半導体にもまして、良好な結晶性を得にくい。
【0141】
本発明者らは、ZnO系化合物半導体を結晶性よく成長させるため、鋭意検討を重ねた結果、前述のように結晶粒界の生じる部分は、基板上に初期核が存在せず、基板表面での結晶成長が遅れ、横からの成長もなくその上の結晶成長がスムーズに進まないことに原因があることを見出した。そして、さらに検討を重ねた結果、サファイア基板上にAl2 O3 膜を介在させることにより、その上に成長するZnO系化合物半導体が結晶性よく成長することを見出した。
【0142】
この例による半導体発光素子は、図12にLEDチップの断面説明図が示されるように、サファイア基板1上にAl2 O3 膜からなるバッファ層2が設けられている。そして、そのバッファ層2上にZnO系化合物半導体からなり、少なくともn型層(n型クラッド層4)とp型層(p型クラッド層6)とを含み発光層(活性層5)を形成する発光層形成部11が設けられている。
【0143】
緩衝層2は、Al2 O3 膜をスパッタ装置、真空蒸着、またはMBEの方法により500〜2000Å程度、好ましくは1000Å程度の厚さに形成されている。MBE装置で行うことが、つぎのZnO系化合物半導体層を結晶成長させる装置と連続して同じ成長装置で成長を行うことができるため、とくに好ましい。このAl2 O3 膜の成膜は、後述するように、100〜200℃程度の低温で成膜し、その後に、たとえばMBE装置により800℃程度の高温で20〜40分程度のアニール処理を行うことにより結晶化をすることが、サファイア基板1の表面状態に拘らず、均一なAl2 O3 膜を成膜することができ、初期の結晶核を生成しやすいため好ましい。この緩衝層2は、基板1がサファイアのような絶縁性基板であればノンドープでも、他の導電形でもよい。
【0144】
発光層形成部11や電極などの構成は前述の各例のLEDチップと同様で、図示されていないが、前述のように表面にITOなどからなる透明電極が設けられてもよい。前述の例と同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。
【0145】
このLEDを製造するには、たとえばスパッタ装置内にサファイア基板1をセッティングし、基板温度を100〜200℃程度にして、スパッタさせることにより、1000Å程度Al2 O3 膜を成膜する。MBE装置を用いてAlセルからAlを飛ばしながら、プラズマ励起酸素ガスを導入することによりAl2 O3 膜を成膜してもよい。その後、たとえばMBE装置内にサファイア基板1を入れて、800℃程度に基板温度を上昇させて、20〜40分程度アニール処理をする。その後、引き続きMBE装置により、前述と同様に各半導体層を積層し、電極形成などを行うことにより、図12に示されるLEDチップが得られる。
【0146】
前述の例は、LEDの例であったが、LDであっても同様で、サファイア基板上にAl2 O3 膜からなる緩衝層を設けることにより、前述の各構造のLDチップが得られる。
【0147】
サファイア基板を用いてAl2 O3 膜からなる緩衝層を成膜してから、ZnO系化合物半導体を成長することにより、機械研磨されたサファイア基板の表面と異なり、Al2 O3 膜の表面全面に初期の結晶核が満遍なく形成され、その上に成長する半導体層は、初期の結晶核をシードとして成長するため、結晶粒界が形成されることなく、全面に均一なZnO系化合物半導体層が成長する。その結果、結晶性の非常に優れたZnO系化合物半導体層を成長させることができ、発光特性の優れたLEDやLDが得られる。
【0148】
なお、Al2 O3 膜の成膜を単結晶にならない低温で成膜し、その後に結晶生長の温度に上昇させる(アニール処理する)ことにより、Al2 O3 膜が単結晶化することが、最初から高温でAl2 O3 膜の単結晶層を成長するよりも、優れた結晶層を成長することができる。すなわち、低温で成膜すると、単結晶ではなくアモルファスの状態で成膜するため、サファイア基板の表面が機械研磨および化学エッチングにより完全な結晶面になっていなくても、成膜しやすい。その後アモルファスのAl2 O3 膜の少なくとも表面側は、高温処理により単結晶化するため、表面の全面に初期核が形成され、全面に均一な結晶層が成長しやすい。しかし、単結晶のAl2 O3 膜を緩衝層として成長しても、サファイア基板と同じ結晶構造であるため、ZnOなどの異なる半導体層を直接成長させるより遥かに結晶欠陥のない緩衝層が得られる。
【0149】
この例によれば、とくに横方向の成長をしにくいZnO系化合物半導体層をサファイア基板上に成長する場合に、Al2 O3 膜を緩衝層として成膜し、成長初期の結晶核を形成しているため、結晶核が緩衝層の全面に満遍なく形成され、結晶性の優れたZnO系の化合物半導体層を成長することができる。その結果、結晶性の優れた半導体層が得られ、発光効率などの発光特性の優れたLEDやLDなどの半導体発光素子が得られる。
【0150】
本発明者らは、結晶性のよい酸化物半導体層を成長するため、さらに鋭意検討を重ねた。前述のように、従来の青色系の半導体発光素子は、いずれも基板としてサファイア基板が用いられ、LDを製造する場合の劈開性を考えると非常に取り扱いにくい。現実に一番実用化されているGaN系化合物半導体においても、劈開性を有する6H−SiCやELOG(Epitaxially Lateral Over Growth )を用いたGaN基板を作る研究が盛んに行われている。そのため、ZnO系の化合物半導体などの酸化物化合物半導体を結晶性の良い半導体層として成長すると共に、基板の特性に左右されないで、酸化物化合物半導体層をエピタキシャル成長することができることが望まれる。
【0151】
本発明者らは、鋭意検討の結果、前述のように結晶中に粒界が生じる部分は、基板上に初期の結晶核が存在せず、基板表面での結晶成長が遅れ、a軸方向へのラテラル成長もなくその上の結晶成長がスムーズに進まないことに原因があることを見出した。そして、さらに検討を重ねた結果、基板上にZnを含む酸化物を100〜300℃程度の低温で非晶質または多結晶の状態で成膜し、その後基板温度をエピタキシャル成長温度に上昇させると、ZnO系酸化物膜の表面に満遍なく結晶核が生成し、基板の拘束をある程度緩和しその結晶核をシードとして結晶性の優れたZnO系酸化物化合物半導体層をエピタキシャル成長することができることを見出した。
【0152】
すなわち構造的には図1に示される構造と同じであるが、基板1上にZnO系などの酸化物化合物半導体層からなり発光層形成部11を含む半導体積層部12が設けられ、基板1の表面に半導体積層部12の半導体層を成長する温度より低温でZnを含む酸化物薄膜が緩衝層2として設けられ、半導体積層部12との間に介在されている。
【0153】
図1に示される例は、サファイア基板1上にZnO系化合物半導体が積層された青色系のLEDチップの例である。しかし、この例では基板1としては、サファイア基板に限定されることなく、GaN、GaP、SiCなどを使用することができる。
【0154】
緩衝層2は、たとえばZnOなどのZnを含む酸化物が用いられる。その上に成長される半導体積層部の最初のエピタキシャル成長される半導体層と同じ組成の酸化物半導体層であることが、ホモ接合となり、良好な格子整合が得られるため好ましい。この緩衝層2は、半導体積層部12を成長する装置で低温で成膜され、たとえばサファイア基板1を、MBE装置に入れて、基板温度を300℃程度にして0.05μm程度の厚さ成膜することにより形成される。この成長温度では、緩衝層2は単結晶にはならない。しかし、引き続きつぎのZnOを成長する際に、酸素プラズマの照射を行いながら、650℃程度まで昇温することにより、その表面にZnO系酸化物の各結晶に対応して微小な結晶核が満遍なく生成され、その上に成長するZnO層は、その結晶核をシードとして成長を始めるため、緩衝層2上に満遍なく成長を始める。すなわち、低温で設けられたZnを含む酸化膜の緩衝層2が設けられることにより、基板の結晶構造に余り拘束されないで、緩衝層の表面に形成される結晶核をシードとして結晶欠陥の少ない酸化物化合物半導体結晶層を成長することができる。
【0155】
緩衝層2は、このように初期核が基板表面に満遍なく生成されるように設けられることが必要である。そのためには、100〜300℃程度の低温でMBE法、MOCVD法、またはプラズマCVD法により、20〜200nm、さらに好ましくは50〜100nm程度の厚さに成膜されることが必要である。厚すぎると緩衝層の結晶化が起りにくいため表面に初期核が生成しにくく、薄すぎると初期核が満遍なく生成されないからである。MBE法で成膜する場合は、ZnとOプラズマをソース源として、MOCVD法で成膜する場合は、ジメチル亜鉛(DMZn)とテトラヒドロフランを反応ガスとして、プラズマCVD法で成膜する場合は、DMZnとOプラズマとを反応ガスとしてそれぞれ使用することによりZnOの緩衝層を成膜することができる。
【0156】
その他の発光層形成部11や、電極などの他の構造は前述の各例における種々の構成を採用することができる。
【0157】
このLEDを製造するには、たとえばMBE装置内にサファイア基板1をセッティングし、300℃程度にし、Znおよび酸素を照射し、非晶質のZnO層2を0.05μm程度成膜する。ついで、酸素照射を続けながら、基板温度が650℃程度になるように昇温する。この昇温により、緩衝層2の表面は結晶化し、満遍なく結晶核が生成する。基板温度が650℃に達したところで、Znのソース源(セル)のシャッターを開け、再度Znを照射すると共に、n型ドーパントのAlのシャッターも開けてn型のZnOからなるn型コンタクト層3を1.5μm程度成長させる。ついで、発光層形成部11などの半導体積層部12の各半導体層の構成元素、たとえばZn、Mg、Cdなどをセルから飛ばしながら、それぞれ前述の組成で前述の厚さになるように順次成長させる。なお、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、緩衝剤としてのAlの同時ドーピングにより形成した。
【0158】
その後、MBE装置よりエピタキシャル成長がされたウェハを取り出し、前述と同様に各電極9、10を形成した。
【0159】
低温ZnO系化合物の緩衝層を設ける本発明によれば、基板上にZnを含む酸化物化合物を低温で非晶質または多結晶の構造で成膜して、その上に650℃程度の高温で酸化物化合物半導体層を成長しているため、基板の表面に満遍なく成膜した緩衝層の表面に、酸化物半導体層の成長のための昇温により、その酸化物半導体層の小さい単結晶の部分である結晶核が満遍なく生成される。そして、その上に酸化物半導体層を成長するため、結晶核をシードとして結晶成長を始め、緩衝層と成長する半導体層とが同種の材料であるためホモエピタキシーとなり、基板の拘束が緩和され、ある程度基板を自由に選択しながら結晶欠陥の少ない結晶層が成長する。とくに、成長する半導体層が、ZnO系のような酸化物化合物半導体では、前述のように、a軸方向への成長が遅く、初期の結晶成長の核が存在しないところでは、結晶が進まず、結晶中に粒界が発生しやすいが、本発明では表面に満遍なく初期の結晶核が生成するため、非常に結晶性の良好な半導体層が得られる。
【0160】
前述の例は、緩衝層2として、化合物半導体層を成長する成長装置で、低温で非晶質または多結晶になるように形成したが、たとえばスパッタリング、真空蒸着、レーザアブレーションなどのエピタキシャル成長とは異なる装置による成膜法で非晶質または多結晶層の緩衝層を形成すれば、その膜質が非常に緻密となり、より一層基板の結晶構造には全然制約されない。すなわち、緩衝層が緻密であるため、基板の結晶構造の性質が緩衝層により遮断される。そのため、その後に成長する半導体層の成長温度などに耐え得る材料であれば、自由に選定することができる。この場合、真空蒸着による方法では、酸素(O)欠損を生じやすいので、雰囲気中に酸素(O)を含ませたスパッタレーザアブレーションが好ましい。この方法で緩衝層2を形成し、電流狭窄層を有する構造(図4の構造と同じ)の半導体レーザを製造する例について、図4を参照しながら説明をする。
【0161】
図4に示されるSAS型構造のLDチップを製造するには、まず、たとえばGaPからなる基板1をECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ装置に入れ、ZnOまたはZnをターゲットとして、(Ar+O2 )プラズマの雰囲気でZnOを20〜200nm程度成膜する。その後、基板1をMBE装置内に入れ、酸素照射条件下で650℃程度まで昇温し、前述の例と同様に、各半導体層の構成元素、たとえばZn、Mg、Cdなどをセルから飛ばしながら、つぎの各層を順次成長させる。その後は、前述の例と同様に行うことにより、図4に示される構造のLDチップが得られる。
【0162】
この方法によれば、スパッタリングなどにより緩衝層を成膜することができるため、通常のMOCVD法などと異なり、非常に緻密な膜を成膜することができる。しかも非晶質または多結晶で形成されるため、全面に欠損などが生じることなく成膜することができる。その結果、酸化物化合物半導体層を成長する際の高温により表面に初期の結晶核が満遍なく生成し、その結晶核をシードとして良好な結晶層が得られる。そのため、緩衝層の緻密さに基づき、基板の結晶構造に影響を受けることなく半導体層を成長することができ、基板の材料に制約されないで、前述の例のようにGaP基板、GaAs基板、Si基板など劈開しやすい材料や取り扱いやすい材料を用いながら、非常に良好な結晶構造の酸化物半導体層を成長することができる。その結果、結晶性の非常に優れたZnO系化合物半導体層を成長させることができ、劈開性のある発光特性の優れたLEDやLDが得られる。
【0163】
このZnを含む緩衝層を低温で形成する発明によれば、基板の結晶構造に余り拘束されることなく酸化物化合物半導体層を非常に結晶性よく成長することができる。そのため、青色系のLEDやLDを製造するのに高価で取り扱いにくいサファイア基板などを使用しなくても、非常に高特性で、安価に青色系の半導体発光素子を得ることができる。
【0164】
さらに、基板に劈開性の優れたものを選定することにより、とくにLDなどに効果が大きい共に、製造工程が簡略化され、安価に製造することができる。
【0165】
本発明者らは、さらに基板上に積層する発光層を形成する化合物半導体からなる半導体積層部の結晶性をよくするため、鋭意検討を重ねた。すなわち、前述のZnO系化合物は横方向の成長が遅いという点もさることながら、GaN系化合物半導体や、ZnO系化合物半導体などのウルツアイト構造の半導体は、これらの半導体層と結晶構造が一致する基板が存在せず、サファイア基板などの格子定数の異なる基板上に半導体層を成長することにより形成されている。しかし、たとえばZnOとサファイアとの格子不整合度は18.3%ある。そのため、格子不整合によるクラックなどが半導体成長層に入りやすく、結晶構造の不具合に基づく発光効率の低下や、閾値電圧が上昇しやすい。そのため、基板との格子不整合の生じやすい半導体層をできるだけ格子欠陥が生じないで良好な半導体層を成長することが要求される。
【0166】
本発明者らは、ZnO系化合物半導体やGaN系化合物半導体を結晶性よく成長させるため、鋭意検討を重ねた結果、半導体層の結晶にクラックが入る原因が、高温で半導体層をエピタキシャル成長した後の、降温する際に結晶粒界の部分にクラックが入り、そのクラックを起因としてさらにクラックが進むことにあることを見出した。そして、さらに鋭意検討を重ねた結果、降温の際におけるクラックの発生は、基板と積層する化合物半導体層との熱膨張率の差に基づき、降温時の収縮スピードの差に起因していることを見出した。そして、基板と成長する半導体層の間に熱膨張係数の中間の材料を緩衝層として介在させることにより、クラックなどの結晶欠陥を大幅に縮減することができることを見出した。
【0167】
この例においても、構造的には図1に示される構造と同じで、基板1上に化合物半導体層からなりn型層(n型クラッド層4)とp型層(p型クラッド層6)とを有し、発光層(活性層5)を形成する発光層形成部11を含む半導体積層部12が設けられている。そして、半導体積層部12における最下層のエピタキシャル成長層(n型コンタクト層3)の熱膨張係数より大きく、かつ、基板1の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する材料からなる緩衝層2が基板1と半導体積層部12との間に設けられている。なお、発光層を形成する構造には、活性層をn型とp型のクラッド層により挟持する構造に限らず、pn接合など他の構造も含む。
【0168】
図1に示される例は、サファイア基板1上にZnO系化合物半導体が積層された青色系のLEDチップの例である。基板としては、サファイア基板に限定されることなく、GaAs(熱膨張係数;6.63×10-6/K)などを使用することができる。ただし、GaAsを基板として用いる場合、GaN(熱膨張係数;7.7×10-6/K)とAlN(熱膨張係数;5.3×10-6/K)の中間にあるため、緩衝層としてはGaAsの熱膨張係数より小さくなるAlGaNからAlNを使用することになる。また、GaAsは立方晶構造になる。
【0169】
緩衝層2は、たとえばGaN層を0.1μm程度成膜する。この緩衝層2は、たとえば600℃程度の低温で、アモルファス層または多結晶層として形成される。この緩衝層2は、前述のように、基板1と、つぎに成長する最初のエピタキシャル成長層とが有する熱膨張係数の、中間の熱膨張係数を有する材料で、かつ、最初のエピタキシャル成長層と同じ結晶構造を有する材料を用いることにより、その上に成長される半導体積層部にクラックなどの入らない良好な結晶構造が得られることを本発明者らは見出した。すなわち、サファイアの熱膨張係数(a軸方向、以下同じ)は、7.5×10-6/Kであり、最初のエピタキシャル成長層3が図1に示される例では、ZnOで、その熱膨張係数が2.9×10-6/Kであるため、GaNの熱膨張係数5.59×10-6/Kはその中間の値になり、しかもGaNもZnOと同様にウルツアイト構造であるため、上記条件を満足している。AlNも同様にウルツアイト構造であり、熱膨張係数は5.3×10-6/Kであり、同様に条件を満たし、GaNとAlNとの混晶のAlp Ga1-p N(0≦p≦1)でも良いことはいうまでもない。この緩衝層2は、基板1がサファイアのような絶縁性基板であればノンドープでも、他の導電形でもよい。緩衝層2としては、この他にSiC(熱膨張係数;4.9×10-6/K)などを使用することができる。
【0170】
その他の発光層形成部11や、電極などの他の構造は前述の各例における種々の構成を採用することができる。また、この例は、LEDであるが、LDでも同様に前述の各構成例に形成することができる。なお、この例においても、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、緩衝剤としてのAlの同時ドーピングにより形成した。
【0171】
この緩衝層2を形成するには、たとえばMOCVD(有機金属化学気相成長)装置内にサファイア基板1をセッティングし、1050℃程度で20分間程度H2 雰囲気下で表面の熱処理を行う。ついで、基板温度を600℃程度にして、MOCVD法によりGaN層を0.1μm程度成長し、緩衝層2を成膜する。その後、基板1を取り出してMBE(分子線エピタキシー)装置に入れ、基板1の温度を600℃程度にし、酸素照射条件下において、成長させる半導体層の構成元素、たとえばZn、Mg、Cdなどをセルから飛ばしながら、半導体積層部12を構成する各半導体層を、それぞれ前述の組成で前述のように順次成長させる。その後の工程も前述の各例と同様である。
【0172】
この中間の熱膨張係数を有する緩衝層を設ける発明によれば、サファイア基板上にサファイアと半導体積層部の最初のエピタキシャル成長層であるZnOとが有する熱膨張係数の、中間の熱膨張係数を有する層が緩衝層として設けられているため、半導体層をエピタキシャル成長した後にウェハを取り出すために冷却しても、温度降下による収縮が基板と積層半導体層との間で極端に変化するのではなく、緩衝層がその間の収縮度で、両者間の急激な変化を吸収する。その結果、冷却時の温度変化により結晶間にクラックが入りにくく、一旦クラックが入ると、そのクラックが起因となってさらにクラックが成長するが、その起因となるクラックが発生しないため、非常に良好な結晶構造が得られる。その結果、結晶性の非常に優れたZnO系化合物半導体層を成長させることができ、発光特性の優れたLEDやLDが得られる。
【0173】
なお、前述の例では、サファイア基板にZnO系化合物半導体からなる半導体積層部を形成する例であったが、他の材料系でも基板の熱膨張係数と半導体積層部における最初のエピタキシャル層とが有する熱膨張係数の、中間の熱膨張係数を有する材料からなる緩衝層を成膜してから、半導体積層部をエピタキシャル成長することにより、同様に結晶性の優れた半導体層を成長することができ、発光特性の優れた半導体発光素子が得られる。
【0174】
この例によれば、青色系の半導体発光素子に用いられるZnO系化合物半導体層などの格子不整合に伴う結晶欠陥の生じやすい化合物半導体層を結晶欠陥の少ない半導体結晶層として得ることができるため、とくに現在要望されている青色系のLEDやLDなどの半導体発光素子の発光効率の向上や閾値電圧の低下などの発光特性を向上することができる。
【0175】
図14に示される例は、緩衝層としても利用できると共に、基板が光吸収性材料からなる場合でも、外部に有効に光を取り出すことができる構造の半導体発光素子を得る例である。すなわち、発光層で発光した光は上下左右あらゆる方向にほぼ均等に放射されるが、通常はLEDチップの表面側の一方向からのみに放射される光が利用されるように、リードの先端や、基板上にLEDチップをボンディングして発光素子が形成されている。
【0176】
また、基板にGaAsが用いられる赤色LEDチップなどでは、基板のGaAsが発光する赤色を吸収する材料になるため、基板側に放射される光は殆ど吸収されて表面側に発光した光の半分程度しか取り出せない。さらに、基板にサファイア基板などの透明な材料が用いられるGaN系化合物半導体が用いられる青色系のLEDチップでは、基板による吸収はないものの、基板の裏面をボンディング剤などにより接着するため、その接着剤などにより吸収されたり、乱反射して裏面側に放射された光を充分に利用することができない。そのため、サファイア基板などの裏面側に反射膜を設ける構造のものも、たとえば特開平2−39578号公報に開示されている。
【0177】
このように、たとえばLEDチップの表面側の一方向からのみ取り出すLEDでは、LEDチップの基板側に進む光を充分に利用することができず、外部微分量子効率を向上させることができない。また、前述のようにサファイア基板などの透明基板の裏面に反射膜を設ける構造にしても、基板の厚さがあるため、基板のサイドから放射される光は有効に利用されない。
【0178】
さらに、LDは、活性層を活性層より屈折率の小さい材料で挟持することにより活性層に光を閉じ込めて発振させる構造になっているが、その閉込め効果が充分でない場合には光を完全に閉じ込めることができず、発振効率が低下する。図14に示される例は、このような無駄を少なくして、発光した光をできるだけ有効に外部に取り出すことができ、外部微分量子効率を向上させることができる構造である。
【0179】
すなわち、本発明者らは、たとえばZnO系などの酸化物化合物半導体を結晶性よく成長させるため、鋭意検討を重ねた結果、前述のように、ZnO系酸化物を100〜300℃程度の低温で非晶質または多結晶の状態で成膜し、その後基板温度をエピタキシャル成長温度に上昇させると、ZnO系酸化物膜の表面に満遍なく結晶核が生成し、基板の結晶構造に拘らずその結晶核をシードとして結晶性の優れたZnO系酸化物化合物半導体層を成長することができることを見出した。この知見に基づきZnO系酸化物の緩衝層を成膜する前に誘電体膜を成膜して反射膜を形成してからZnO系酸化物の低温緩衝層を成膜することにより、発光層を形成する半導体積層部の基板側に反射膜を有し、外部に取り出す光の効率を向上した半導体発光素子が得られることを見出した。
【0180】
図14において、基板1と、屈折率の異なる誘電体膜13a、13bもしくは半導体膜がλ/(4n)(nは誘電体膜もしくは半導体膜の屈折率、λは発光波長)の厚さで、かつ、屈折率の小さい層と屈折率の大きい層とがこの順番で交互に基板1上に偶数層(屈折率が小さい層と大きい層とが組になって)積層されることにより、基板1の表面側からの光を反射させる反射膜13が形成され、その反射膜13上に発光層(活性層5)を形成するように半導体層3〜7が積層される半導体積層部12とを有している。
【0181】
基板1は、図14に示される例では、シリコン基板が用いられているが、Siに限らず、GaAs、GaP、サファイアなど種々の基板を用いることができる。反射膜13は、屈折率の異なる誘電体膜または半導体膜が屈折率の小さい膜が下側になるような積層構造によりに形成されており、図14に示される例では、たとえばマグネトロンスパッタ法により、屈折率の小さいSiO2 膜13aと、屈折率の大きいTiO2 膜13bとが交互に積層されて5ペア積層されている。それぞれの膜厚は、発光波長をλ、誘電体膜もしくは半導体膜の屈折率をnとしてλ/(4n)になるように、すなわち450nmの波長の光を発光させる場合、SiO2 膜13aの屈折率は1.4であるため0.28μm、TiO2 膜13bの屈折率は2.6であるため0.04μmの厚さにそれぞれ形成されている。この積層構造は、たとえば1ペアでも75%程度の反射率が得られ、目的によっては充分に満足する反射率が得られる。この組の積層数を増やすほど反射率を高くすることができ、目的に応じて積層数を調整したり、誘電体膜を変更することにより、所望の反射率に形成することができる。前述の例では85〜95%の反射率が得られた。なお、誘電体膜または半導体膜の他の例としては、誘電率の小さい膜として、Al2 O3 、Si3 N4 、AlNなどを、誘電率の大きい層としてa(アモルファス)-Siなどを使用することができる。
【0182】
反射膜の成膜方法としては、前述の例のように、マグネトロンスパッタ法を用いる場合、SiO2 およびTiO2 をターゲットとして、またはSiおよびTiをターゲットとして(Ar+O2 )プラズマの雰囲気で、SiO2 膜13aとTiO2 膜13bとをそれぞれ順次積層して5組設けることにより、反射膜13を形成することができる。引き続き、同じ装置内で、ZnOまたはZnをターゲットとして、(Ar+O2 )プラズマの雰囲気でZnOを20〜200nm程度成膜することにより緩衝層2を形成することができる。しかし、その例に限らず、ECRスパッタ法、蒸着法、レーザアブレーション法などを使用することができる。
【0183】
緩衝層2は、前述のように、たとえばZnOなどのZnを含む酸化物が用いられる。その上に成長される半導体積層部の最初のエピタキシャル成長される半導体層と同じ組成の酸化物半導体層であることが、ホモ接合となり、良好な格子整合が得られるため好ましい。この緩衝層2は、低温で非晶質または多結晶の構造になるように成膜される。そうすることにより、前述のように後の成長温度に上昇したときに表面に結晶核が生成し、その結晶核をシードとして半導体層を成長するためのものである。その後の半導体積層部12の成長や電極なども前述の例と同様に種々の構造で形成することができる。前述の例と同じ部分には同じ符号を付してその説明を省略する。なお、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、緩衝剤としてのAlの同時ドーピングにより形成した。
【0184】
この反射膜13を設ける構造と従来の反射膜を設けない構造のLEDを同一のウェハ内に形成し、2種類のロットで両者の輝度を比較して調べた結果、表1に示されるように遥かに向上した。また、外部微分量子効率の変化を調べた結果、従来の構造では、2.8%であったものが、本発明の構造では4.6%と向上した。
【0185】
【表1】
この例によれば、基板上に誘電体膜の積層構造による反射膜が設けられているため、LEDチップの発光層で発光して四方に放射される光のうち、LEDチップの表面側である光の取出し面と反対側のチップの基板側に進む光も反射膜により反射されて取出し面側から取り出される。その結果、同じ発光効率でも、必要な光として一表面側に取り出される光の割合である外部微分量子効率が非常に向上し、輝度の大きなLEDが得られる。一方、基板上に反射膜とする誘電体膜が成膜されているため、基板に結晶基板が用いられてもその結晶と格子整合して半導体層を結晶成長させることができない。しかし、ZnO系酸化物化合物からなる低温の緩衝層が形成されることにより、結晶成長の温度に上昇することにより、その表面に結晶核が満遍なく生成し、その結晶核をシードとしてZnO系酸化物化合物半導体層がエピタキシャル成長するため、基板の結晶構造に余り拘束されないで発光層を形成する半導体層を成長することができる。
【0186】
この例では、緩衝層上にZnO系化合物半導体層を成長する例であったが、ZnO系化合物半導体に限られず、緩衝層のZnO系化合物と結晶構造が整合する化合物半導体層であれば、ZnO系化合物からなる緩衝層上に他の半導体層を成長することができる。また、LEDでなくてもLDであっても同様に、前述の各例の構造に形成できる。
【0187】
図2の構造のLDチップに、前述の反射膜13を形成して製造した結果、この反射膜を設けた構造のLDと、反射膜がなく他は同じ条件で製造した従来構造のLDの電流と出力の関係を調べた結果、図15にその特性がC、従来構造の特性がDでそれぞれ示されるように、閾値電流が72mAから67mAに改善され、発振効率ηが21%から28%に向上した。
【0188】
この構造にすることにより、反射膜13が活性層5で発光する発光波長に対して高い反射率になっているため、活性層5から染み出た光が反射膜13によって反射し、活性層5へ再び戻る。つまり、光が活性層から染み出しにくくなり、光の閉込め効率が向上する。その結果、閾値電流の低減、量子効率の向上を達成することができ、非常に低電力で高出力のLDが得られる。
【0189】
この例によれば、発光層のすぐ近傍の基板側に反射膜が設けられているため、発光して基板側に進む光も無駄なく有効に利用することができ、LEDの微分量子効率が非常に向上し、同じ入力に対して非常に大きな輝度の発光素子を得ることができる。また、LDにおいても、漏れる光が遮断され、閾値電流を非常に低下させることができると共に、その発振効率を向上させることができ、非常に高効率の半導体発光素子を得ることができる。
【0190】
図16〜20は、さらに他の実施形態を説明する図で、ZnO系化合物半導体層のn型層とn側電極とのオーミックコンタクトを改良し、動作電圧を下げる例である。すなわち、ZnOもGaNと同程度のバンドギャップエネルギーを有するためZnO系化合物半導体を用いてもGaNと同様の電極材料で形成できると考えられている。そして、n型のGaN系化合物半導体では、一般にAl-Ti合金が良好なオーミック接触が得られると考えられ、Al/TiまたはAl/Ti/Niの積層体またはこれらの合金が用いられている。
【0191】
しかし、n型ZnOにAl/Ti/Niの積層によりn側電極を形成して電圧−電流特性を測定すると、図20(a)に示されるようにリニアの関係が得られなかった。この積層状態で450℃程度のアニール処理を10分程度行ったものの同様の特性図は、図20(b)に示されるように若干改善されるが、完全なリニアにはならなかった。なお、図20において横軸は電圧で一目盛りが2V、縦軸は電流で一目盛りが10mAである。このように、ZnO系化合物半導体を用いた場合、バンドギャップエネルギーがほぼ同じであるGaN系化合物半導体を類推して同様の材料を電極材料として用いようとしても、完全なオーミックコンタクトが得られない。
【0192】
本発明者らは、n型のZnO系化合物半導体とオーミックコンタクトが得られ、低い動作電圧で動作する半導体発光素子を得るため、鋭意検討を重ねた結果、n型ZnO系化合物半導体とAlを接触しないように、TiまたはCrを第1層としてZnO系化合物半導体と接するように設けることにより、n側電極とn型ZnO系化合物半導体との間で、オーミックコンタクトが得られ、低い動作電圧で高出力の発光をする半導体発光素子が得られることを見出した。
【0193】
この例によるZnO系化合物半導体発光素子は、図16にそのLEDチップの断面説明図が示されるように、基板1上に、少なくともn型層4、3を有するZnO系化合物半導体の積層により発光層を形成する発光層形成部11が形成されている。そして、ZnO系化合物半導体のn型層3に接触して設けられるn側電極9は、n型層3に接する部分がAlを含まないTiまたはCrによる第1層9aにより形成されていることに特徴がある。
【0194】
n側電極9は、積層された半導体層3〜7の一部がエッチングにより除去されて露出するn型コンタクト層3に真空蒸着とパターニングまたはリフトオフ法などにより形成されている。この例では第1層9aと第2層9bとからなっており、第1層9aは、前述のようにAlを含まないような層、たとえばTiにより0.05μm程度の厚さ設けられており、その上に連続してTi1-r Alr (0<r≦0.99)からなる第2層9bが設けられている。
【0195】
n側電極9の第1層9aは、第2層9bを設けた後のアニール処理により、第2層9bのAlがZnOからなるn型層3に拡散しないように設けられているもので、そのアニール処理の温度と時間にもよるが、通常の450℃程度で10分程度のアニール処理に対しては、前述の程度の厚さ設けられればAlの拡散を防止することができる。Ti膜は、たとえば電子ビーム銃による照射のような真空蒸着またはスパッタリング法などにより成膜することができる。この第1層9aは厚すぎても問題はないが、Alよりも遥かに高価であるため、コスト面から余り厚いのは好ましくない。この第1層9aに、Alが含まれていると、前述のようにZnO系化合物半導体層に拡散しオーミック特性が極端に低下することを本発明者らは見出した。そして、Alを含まないTi層または後述するCr層をZnO系化合物半導体層上に成膜することによりAlの拡散を防止することができ、良好なオーミックコンタクトが得られた。
【0196】
n側電極9の第2層9bは、外部リードとの接続のための、ワイヤボンディングや、リードなどとのハンダ付けなどを容易にするため、その接続の容易さおよびコスト面からAlが一般に用いられているが、本発明者らの検討の結果、第2層9bをAlだけで構成すると、第1層9aと第2層9bとの間で接触抵抗が上昇することを見出し、Ti1-r Alr と、Tiが1%以上含まれることにより、良好なオーミックコンタクトが得られた。このTiの含まれる割合は、多すぎても特性的には問題ないが、コストが上昇するため、1%以上10%以下が好ましい。このTi1-r Alr を得るためには、たとえばエレクトロンビーム銃のような蒸着装置で、TiとAlを同時に照射する(混合比に応じてその照射量を制御する)ことにより、合金として成膜される。この状態でもオーミック接触特性は向上するが、AlとTiを同時に照射するだけでは完全な合金化には至らないため、さらに400〜1200℃程度、好ましくは400〜800℃程度、さらに好ましくは450℃程度で10分程度のアニール処理を行うことにより、非常に良好なオーミックコンタクトが得られた。アニール処理の温度が1200℃を超えるとZnO自体が熱分解を始めるため好ましくなく、400℃より低いとアニール処理の効果が現れない。図16に示されるLEDでのn側電極の電圧電流特性を図17に横軸を電圧(V)、縦軸を電流(mA)として示す。図17から明らかなように、電圧−電流特性は完全なリニアの関係が得られた。
【0197】
発光層形成部11、基板1、p側電極10などは、図1に示される例と同じで、これらの構造についても、LD構造を含め前述の各例の構造を採用することができる。同じ部分に同じ符号を付してその説明を省略する。また、製造方法も前述の各例と同様である。なお、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、後述するプラズマ励起N2 と、緩衝剤としてのAlの同時ドーピングにより形成した。
【0198】
この例では、n側電極9の第2層9bをTi-Alの合金で形成したが、第1層のTiまたはCrとなじめばよく、Ti/Auの積層構造を設けたり、他の材料で構成することもできる。しかし、コスト的に99%程度がAlの前述の合金が一番安価で、かつ、電気的接触もよく好ましい。
【0199】
図18に示される例は、MIS構造のLEDの例で、この例ではn型ZnOからなるn型コンタクト層3に接するn側電極9の第1層9aをCrにより形成した例である。すなわち、積層された半導体積層部の一部がエッチングされて露出したn型コンタクト層3の表面に前述と同様に真空蒸着によりCrが0.05μm程度成膜され、その上にTi1-r Alr からなる第2層9bが0.15μm程度設けられている。なお、この例では第2層9bのTiの割合rを5%(0.05)で行った。
【0200】
発光層形成部11は、n型ZnO系化合物半導体からなるn型層3と、半絶縁性のZnO系化合物半導体からなるi層25と導電層であるITO膜8とからなっている。その上に設けられるi側電極10は前述のp側電極と同じで、リフトオフ法によるNi/Auの真空蒸着により形成されている。
【0201】
この構造のn側電極9の電圧電流特性が図19に示されている。この構造にしても、前述の例と同様に電圧と電流の関係はリニアの関係が得られ、完全なオーミックコンタクトが得られている。
【0202】
この例によれば、ZnO系化合物半導体のn型層に設ける電極材料にAlを含まないで、TiまたはCrの第1層を設け、その上にTi-Auの合金からなる第2層が設けられることにより、非常にオーミックコンタクト特性が改善され、直列抵抗が下がり、低い動作電圧で動作させることができる。
【0203】
n側電極をこのように構成することにより、とくに青色系の半導体発光素子に用いられるn型ZnO系化合物半導体層とオーミックコンタクト特性の優れたn側電極が得られるため、ZnO系化合物半導体を用いても低電圧で駆動することができる半導体発光素子が得られる。その結果、とくに現在要望されている青色系のLEDやLDなどの半導体発光素子を、新たな材料でその発光効率などの発光特性を向上することができる。
【0204】
図21〜24は、ZnO系化合物半導体のp型層のキャリア濃度が高くなるようにp型層を成長する例の説明図である。すなわち、ZnO系化合物半導体のp型化については、GaN系化合物と同様にチッ素をドーパントとして研究されているが、抵抗の小さいp型層を得ることができず、低電圧で駆動できる半導体発光素子が得られていない。すなわち、ZnOにチッ素をドーピングする場合、Oを置換してアクセプタとなるはずであるが、現実はチッ素が1019cm-3という高い値でドーピングされても、絶縁化するばかりでp型にはならない。その理由はつぎのように考えられている。
【0205】
ZnSe化合物半導体は、図23(a)にその結晶構造の説明図が示されるように、Zn(黒点丸)とSe(白丸)のイオン度が小さいため、ZnとSeの結合電子は、結合の中央部で存在確率が大きくなり、SeがZnの真上の位置ではなく、捩れた形で安定し、立方晶系となる。しかし、ZnOは、イオン度が大きいため、Zn+ 、O- に近くなり、相互間でクーロン引力が働き、図23(b)に示されるように、O(白丸)がZn(黒点丸)の真上の位置でクーロン引力が働いて安定し、結晶構造も六方晶系となっている(たとえば先端デバイス材料ハンドブック(電子情報通信学会編、オーム社発行、1993年)、第2章デバイス材料の基礎、29〜30頁参照)。このような結晶構造になっているため、たとえばp型ドーパントが黒点丸の位置に入ったとき、図23(a)に示される構造であれば、捩れの関係により、ドーパント間の原子間距離が遠いため、ドーパントが入りやすいが、図23(b)に示される構造では、原子間距離が近いため、クーロン引力が強く、ホールがNの位置に局在してしまい、結晶の全体に広がらない。そのため、p型ドーパントを入れても、ドーパントとして機能しないことにあると考えられる。このような機構は、イオン性の強い結晶であるZnO系化合物半導体では、Nに限らず起こる。
【0206】
実際にMBE装置によりZnOを成長しながら、チッ素フラックスを増加させることにより、プラズマ励起チッ素のチッ素分圧を大きくしてドーピングしたときのキャリア濃度を調べた結果を図24に示す。図24に示されるように、チッ素分圧が大きくなるにしたがって、n型のキャリア濃度が下がり、絶縁化するのみで、ホールの測定はできなかった。なお、成長した半導体層をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy )測定により調べた結果、Nは分圧に相当した量だけ半導体層に入っていることが確かめられた。
【0207】
前述のように、同じII−VI族化合物半導体でも、ZnO系化合物半導体はZnSeと異なり、その結晶構造に基づく原子間引力に起因してp型化が非常に難しく、ドーパントを入れてもキャリアとして機能せず、p型層とすることができないという問題がある。そのため、GaNなどに比べて扱いやすいZnO系化合物半導体を用いた半導体発光素子を得にくい。
【0208】
この例によるp型ZnO系化合物半導体の成長方法は、図21に本発明の成長法に用いる結晶成長装置の一例によるMBE装置の概略図が示されるように、たとえばZnのソース源41と励起酸素のプラズマ源43とをサファイアなどからなる基板38に向けて照射してZnOをエピタキシャル成長する際に、IIIB族の元素であるAlを緩衝剤としてAlのソース源42から照射しながらVB族の元素であるチッ素をp型ドーパントとして励起チッ素のプラズマ源44から照射し、ZnOをエピタキシャル成長することを特徴とする。
【0209】
図21に示される装置で、メインチャンバー31は、通常のMBE装置のチャンバーで、超高真空を維持できる円筒状の容器であり、図示しない排気装置に接続されている。そして、その内部に半導体層を成長させる基板38を保持する基板ホルダー34が設けられ、ヒータ35により基板38を加熱できるようになっている。そして、基板ホルダー34に保持される基板38と対向するように成長する化合物半導体を構成する元素の材料(ソース源)や、酸素などの気体の供給源とするプラズマ源からなるセル群41〜44がそれぞれ設けられている。メインチャンバー31には、基板38の出し入れをするロードロック室36および予備室37が設けられている。ソース源41、42は従来と同様の材料を供給するルツボなどからなり、ルツボの周囲に図示しないヒータが設けられることにより材料源を蒸発できるようにすると共に、その正面に図示しないシャッターが設けられ、その開閉により所望の材料が基板38側に供給されるようになっている。また、プラズマ源43、44は、たとえばマイクロ波によりプラズマを発生させるECR(Electron Cyclotron Resonance)が構成され、プラズマ励起された酸素やチッ素が照射されるようになっている。
【0210】
この装置で、サファイアからなる基板38を基板ホルダー34に保持して、基板38上にZnのソース源41と励起酸素のプラズマ源43を用いてZnO層39(図21(b)参照)を成長する。このとき、同時にp型ドーパントとしてのプラズマ励起チッ素源44からプラズマ励起チッ素を照射すると共に、p型ドーパントがZnOの酸素と置換しやすいように、またp型ドーパントが置換した後にホールがドーパントの周囲に局在しないで自由に動けるようにZnとOまたはドーパントのNとの間のクーロン引力を遮蔽する緩衝剤としてのAlのソース源42からAlを照射する。この成長した状態が図21(b)に示されている。
【0211】
この方法で、チッ素のフラックスを種々変化させたときのキャリア濃度を調べた結果を図22に示す。なお、チッ素のフラックスを増加させるとき、Alの蒸発量は一定の分圧5×10-7Torrとして行った。図22から明らかなように、この方法によれば、チッ素の分圧が3×10-6Torrでp型化し、5×10-5Torrの分圧で1017cm-3近くのキャリア濃度のp型が得られた。
【0212】
このようにp型ZnOが得られる理由は、六方晶系構造に基づきクーロン引力が働くZnとOとの間にAlがクーロン引力を遮蔽するように働き、NがOと置換し、クーロンポテンシャルの遮蔽効果によりホールがp型ドーパントであるNの位置に局在しないようになる。このことにより、ホールはお互いの波動関数を重ね合すことが可能となり、結晶全体に広がるようになるためと考えられる。
【0213】
前述の例では、p型ドーパントとして、Nを用いたが、Nの代りにP、As、SbなどのVB族の元素を使用することができる。また、緩衝剤としてAlを用いたが、Alの代りにB、Ga、In、TlなどのIIIB族の元素を用いても同様にp型化することができる。
【0214】
さらに、本発明者らはp型ドーパントとして、NaおよびKを用い、同様に緩衝剤として、Clを導入しながらZnOの成長を行ったところ、2×1017cm-3のキャリア濃度のp型ZnOが得られた。なお、このときのNaおよびKの分圧はそれぞれ3×10-5Torrで、Clの分圧は4×10-6Torrであった。p型ドーパントとしては、この他にLi、RbなどのIA族の元素を同様に使用することができ、緩衝剤としてはClの代りにF、BrやIなどのVIIB族の元素を使用することができる。このようなIA族の元素をp型ドーパントとして使用すると、固体ソースとして供給でき、Nのようにプラズマ源を不要とするメリットがある。
【0215】
図1に示される構造のZnO系化合物半導体を用いた青色系(紫外から黄色の波長領域)のLEDチップのp型層をこの方法で行い、他の部分は前述の例と同様に行った結果、駆動電圧の低いLEDが得られた。LEDに限らず、LDでも同様に製造でき、前述の各構造例のp型層に適用できる。
【0216】
このp型成長法によれば、p型半導体層の直列抵抗を下げることができるため、駆動電圧を低くすることができると共に、発光効率の高いLEDが得られる。また、LDにしても、閾値を下げることができ、発光特性の向上した半導体発光素子を得ることができる。
【0217】
この例によれば、ZnO系化合物半導体のp型化を達成できるため、化学処理ができるなどの取り扱いやすい材料により青色系の波長の短いLEDやLDなどの半導体発光素子を得ることができる。
【0218】
図25〜27は、ZnO系化合物半導体のp型層のキャリア濃度が高くなるようにp型層を成長する他の例の説明図である。すなわち、半導体層の気相成長方法としては、MOCVD法が、MBE法に比べて大面積に成長できて均一性に優れること、メンテナンス後の立上りが早いこと、などの理由により、CD用、DVD用、通信用などの大量生産を必要とする半導体発光素子の製造に用いられている。しかし、前述のような化合物半導体をMOCVD法によりエピタキシャル成長しようとすると、p型半導体層を高いキャリア濃度で成長することができない。キャリア濃度を高くできないと、直列抵抗が大きくなり、駆動電圧が上昇すると共に、発光効率の低下、抵抗による発熱、などの問題があり、信頼性の点からもp型層のキャリア濃度を高くすることが課題となっている。
【0219】
前述のGaN系化合物半導体であるGaN/AlGaN系の材料では、p型層のキャリア濃度を上昇させることができない理由の一つとして、原料ガスに含まれる水素がp型ドーパントと化合して半導体層に入り込み、ドーパントとして充分に機能しないからと考えられている。そのため、半導体層の成長後にアニール処理を行いドーパントと化合した水素を追い出してドーパントが機能するような製造方法が採られている。
【0220】
しかし、ZnSe/ZnMgSSe系やZnO系などのII−VI族化合物半導体では、GaN系のような熱的安定性がないため、水素離脱に必要な700℃以上のアニール処理を行うと、結晶構造が破壊するという問題があり、後から水素を離脱させることもできない。一方、MBE法では、リアクタチャンバーが高真空であるため、水素の影響を殆ど受けることなくp型半導体層を得ることができるが、前述のようにMBE法は大量生産には適さないという問題がある。
【0221】
この例によるp型化合物半導体の気相成長方法は、p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する場合に、図25(a)、(c)に示されるように、化合物半導体層を成長する反応ガスを成長装置内に導入して該半導体層の薄膜を成長する工程、および図25(b)、(d)に示されるようにp型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、を交互に繰り返すことによりp型半導体層を成長することを特徴とする。具体例として、GaAs基板上にp型ZnSeを成長する例について説明をする。
【0222】
まず、MOCVD装置内に基板61をセッティングし、キャリアガスのH2 を流量が1500〜2500ml/min程度で流しながら装置内の温度を上昇させる。そして、基板の温度が300〜500℃程度になったら、GaAsの緩衝層を成長させる。その後、温度を250〜450℃に下げて、図26のタイムテーブルに示されるように、II族元素Znの反応ガスとして、ジメチル亜鉛(DMZn)を流量2〜10μmol/minで、またVI族の元素の反応ガスとして、ジターシャルブチルセレン(DTBSe)を流量30〜120μmol/minでそれぞれ約4秒間導入し、反応させてZnSeの第1の結晶層62aを成長させる(図25(a)参照)。4秒間で成長する第1の結晶層62aの厚さは5〜20nm程度である。その後、図26のBに示されるように、反応ガスを止めてキャリアガスのH2 のみを流し続けて5秒間放置し、反応ガスをパージする。この間キャリアガスのH2 はそのまま流し続ける。
【0223】
それから図26のCに示されるように、p型ドーパントとしてのトリジメチルラミノアンチモンSb[N(CH3 )2 ]3 を流量5〜100/μmol/minで導入し、約3秒間流し続けてドーパントのSbを第1の結晶層62aにドーピングする(図25(b)参照)。このときのドーピングによるキャリア濃度は、図27にその流量とキャリア濃度の関係が示されるように、流量が多いほどキャリア濃度が高くなる。その結果、ドーパントガスの流量を調整することによりp型のキャリア濃度を調整することができる。この間キャリアガスはずっと同じ流量で流しっ放しとする。
【0224】
つぎに、ドーパントガスを止めて5秒ほど経過したら、図26のDに示されるように、再度反応ガスのDMZnとDTBSeを前述と同様の流量で成長装置内に流し、図25(c)に示されるように、第2の結晶層62bを5〜20nm程度成長する。反応ガスを4秒程度流して第2の結晶層62bを成長したら反応ガスを停止させ、前述と同様に5秒ほど反応ガスをパージする。その後、ドーパントガスSb[N(CH3 )2 ]3 を約5秒導入して、図25(d)に示されるように、同様に第2の結晶層52b内にp型ドーパントSbをドーピングする。
【0225】
この結晶層の成長と、p型ドーパントのドーピングとを繰り返すことにより、p型ZnSeを所望の厚さだけ成長する。その結果、p型の半導体層を成長することができる。
【0226】
この方法によれば、p型ドーパントを反応ガスと同時に導入していないため、反応ガスが分解して遊離し浮遊する水素原子が少なく、ドーパントの原子と水素原子とが化合しにくく、ドーパントの原子のままで半導体層内にドーピングされる。その結果、半導体層の成長後に、水素原子を追い出すためのアニール処理を行わなくても、半導体層内にドーピングされた元素はドーパントとして充分に機能する。その結果、電気伝導が良くなり、直列抵抗が小さくなる。
【0227】
この例によるp型層の成長法は、このようにドーパントが水素原子と化合しない状態で半導体層内にドーピングすることに特徴がある。そのため、前述のようにドーパントガスを導入するときは反応ガスを止めて反応ガスが存在しない状態でドーパントガスを導入するが、反応ガスを止めただけでは、短い時間では完全に反応ガスを排除できない場合も存在する。このような場合、反応ガスを止めると同時に不活性ガスを導入することにより積極的に反応ガスを排斥することができ、短時間で反応ガスをパージすることができる。不活性ガスとしては、チッ素ガスを用いるのが安価で便利であるが、Arなどの0族の希ガスを用いてもよい。できるだけ分子量の大きいガスを導入することにより、反応ガスをより確実に排斥することができる。
【0228】
不活性ガスを導入してパージする場合、キャリアガスも同時に不活性ガスとすることもできる。そうすればより確実に反応装置内から完全に水素原子をパージすることができるため好ましい。しかし、キャリアガスとしての水素はH2 の分子であるため、ドーパントの元素とは化合しにくく、そのままにしておいてもそれ程問題は生じない。
【0229】
反応装置内に遊離する水素原子は、たとえば反応ガスの元素と直接化合している場合に分離して発生しやすい。そのため、反応ガスは、水素原子と直接化合しない構造の有機金属材料を用いることが好ましい。すなわち、有機金族化合物は、水素原子は炭化水素基としての結合が安定であり、反応ガスが分解して金属元素が分離しても、他の元素は炭化水素基として存在し、水素原子単独では遊離しにくい。そのため、炭化水素基が遊離しても、ドーパントの元素とは直接化合しにくく、水素原子を取り込む可能性が少ない。このような反応ガスを用いれば、反応ガスのパージが完全に行われていなくても充分にキャリア濃度の高いp型半導体層が得られる。一方、水素原子と直接化合するH2 Sなどは、分離するとただちにH+ となり、ドーパントの元素と化合しやすい。このような水素原子と直接化合していないII族やVI族の元素の反応ガスとしては、ジエチルサルファイド(DES)、ジメチルサルファイド(DMS)、ジエチルダイサルファイド(DES2 )、ジメチルダイサルファイド(DMS2 )、ジイソプロピルサルファイド((i-C3 H7 )2 S)などを使用することができる。なお、Seの場合でも、上述のSをSeに置換したものを使用することができる。
【0230】
また、同様の観点から、p型ドーパントガスとしても、水素と直接結合していない材料を用いることが好ましい。化合物半導体のp型材料としては、Vb族の元素が用いられ、Vb族の元素と水素が直接結合する構造でない材料としては、前述のSb[N(CH3 )2 ]3 の他に、トリジメチルラミノフォスファイドP[(CH3 )2 N]3 、トリジメチルラミノアルシンAs[(CH3 )2 N]3 、ジエチルラミノ−ジエチルアルシン(C2 H5 )2 As[N(C2 H5 )2 ]、ビスジエチルラミノフォスファインクロライド[(CH3 )2 N]2 PCl、プラズマN2 などを用いることができる。
【0231】
前述の例では、II−VI族化合物半導体のp型化であったが、II−VI族化合物では、高温に耐えられなくて水素を追い出すためのアニール処理を行えないためとくに効果が大きい。しかし、GaN系化合物半導体などの他の水素原子と化合してp型化しにくい化合物半導体においても、アニール処理をすることなく、しかもアニール処理をする以上にキャリア濃度が大きいp型半導体層が得られる。
【0232】
この成長方法の発明により、GaN系やII−VI族の化合物半導体を用いて、発光ダイオードやレーザダイオードなどの半導体発光素子を製造する場合、通常と同様の工程で各半導体層を積層し、p型半導体層を成長するときに、前述の方法を用いることにより、p型半導体層のキャリア濃度を大きくすることができるため、動作電圧(閾値電圧)を下げることができると共に、発光効率が向上する。
【0233】
この成長法によれば、MOCVD法により成長すると、ドーパントが水素原子と化合して充分にp型ドーパントとして機能しにくい化合物半導体でも、充分に活性化したp型半導体層を得ることができる。その結果、キャリア濃度が大きく直列抵抗の小さいp型半導体層をMOCVD法により大量に得ることができ、青色などの波長の短い半導体発光素子を高い発光効率で、しかも低い動作電圧で発光させることができる。
【0234】
図28〜31は、酸化物化合物半導体の他の結晶成長法を説明する図である。すなわち、ZnOの成長方法としては、MOCVD法、MBE法、LA(Laser Ablation;レーザアブレーション)法などが用いられ得る。しかし、MOCVD法は、太陽電池用の透明導電膜としては用いられているが、表面状態が非常に悪いため、発光素子材料の成膜としては好ましくない。また、LA法は、焼結体ターゲットを高出力のパルスレーザ(He−Kdレーザなど)の断続的照射によってターゲット材料を昇華(アブレーション)させ、基板上に成膜する方法で、酸化物超伝導体には用いられているが、発光素子を形成するためのZnOをこの方法で成膜しようとすると、ZnOパウダー焼結のターゲットを使用するため、材料の純度が悪いこと、クラッド層、活性層などの発光素子に必要な各層の組成に応じた多種類のターゲットを用意する必要があること、アブレーション中に金属成分が析出してくるため組成制御を行いにくいこと、などから発光素子用の成長には好ましくない。
【0235】
さらに、MBE法は、ガス源を材料ソースとして用いる場合、原子状に分解して供給する必要がある。そのため、プラズマソースを付加する必要があるが、酸素をプラズマにより酸素原子の形に分解すると、プラズマ励起のエネルギーが高いため、O2 イオン、Oイオンなどのイオンや、大量の電子線などの荷電粒子が発生する。これらの荷電粒子が基板に照射されると、基板の表面が帯電して結晶の成長を妨げたり、成膜したZnOをエッチングするという悪影響を及ぼし、結晶欠陥の生成の原因となり、結晶性の良好な半導体層を得ることができない。したがって、ZnO系などの酸化物化合物半導体により半導体発光素子を製造しようとすると、いずれの方法を用いてもZnO系化合物半導体を結晶性よく成長することができないという問題がある。図28〜31は、このような問題を解決してZnO系化合物などの酸化物化合物半導体を成長するものである。
【0236】
この例による酸化物化合物半導体の結晶成長装置は、図28にZnOを成長する成長装置の一実施形態の概略説明図が示されるように、メインチャンバー31内に基板ホルダー34が設けられており、その基板ホルダー34に保持される基板38に向けて化合物半導体を構成する元素を照射し得るように設けられるセル群40およびプラズマを照射するプラズマ源50が設けられている。そして、少なくともプラズマ源50のプラズマを照射する開口部55(図29参照)の近傍に電界および/または磁界を印加する電磁界印加装置が設けられている。
【0237】
メインチャンバー31は、前述の図21の構造と同じである、通常のMBE装置のチャンバーで、超高真空を維持できる円筒状の容器で、図示しない排気装置に接続されている。そして、その内部に半導体層を成長させる基板38を保持する基板ホルダー34が設けられ、ヒータ35により基板38を加熱できるようになっている。そして、基板ホルダー34に保持される基板38と対向するように成長する化合物半導体を構成する元素の材料(ソース源)を入れたセル群40および酸素などの気体の供給源とするプラズマ源50がそれぞれ設けられている。メインチャンバー31には、基板38の出し入れをするロードロック室36および予備室37が設けられている。
【0238】
セル群40は従来と同様の材料を供給するルツボなどからなるソース源で、ルツボの周囲に図示しないヒータが設けられることにより材料源を蒸発できるようにすると共に、その正面に図示しないシャッターが設けられ、その開閉により所望の材料が基板38側に供給されるようになっている。
【0239】
プラズマ源50は、図29にその酸素プラズマ源の一例であるECR(Electron Cyclotron Resonance)の拡大図が示されるように、マイクロ波を伝送し得る直方体型の管の前方が、マイクロ波を透過する石英窓52などにより仕切られて、酸素導入管53により管51の先端部に酸素が導入されるようになっている。そして、酸素が導入される管51の先端部の側壁に磁場発生用の磁石54が対向して設けられ、荷電粒子は磁場のまわりで回転運動をし、それをマイクロ波が増幅することにより、酸素プラズマを発生させるように構成されている。管51の先端部の先には小さい開口部55が設けられ、発生した酸素プラズマがこの開口部55から放出されるようになっている。チッ素の供給をするプラズマ源なども同様の構成になっている。
【0240】
このプラズマ源50の構成は従来のプラズマ源と同様の構成になっているが、本発明では、図29に示されるように、プラズマ酸素の放出する開口部55の出口側に、一対の平行平板電極56aおよび56bが設けられ、その電極56a、56bにたとえば0.5V程度の電圧が印加され、荷電粒子Aがあると、その荷電粒子を偏向させて基板38に到着しないように反らせるか、電極56により捕獲するように構成されていることに特徴がある。この平行平板電極56の長さLおよび間隔dが定まると、印加電圧はつぎのように決定される。
【0241】
図29に示されるように、電極56の先端と基板38の表面との距離をM、基板38の直径をD、電極56に印加された電圧により荷電粒子Aが曲げられる角度をθとする。
【0242】
荷電粒子Aが、基板38内に到達しないようにするためには、開口部55が基板38の直径に比べて非常に小さいとして、
M・tanθ>D/2 (1)
平行平板電極56中での荷電粒子Aが受ける力は、荷電粒子Aの荷電量をq(クーロン)、印加電圧をV(ボルト)とすると、q・V/d(ニュートン)であるから、平行平板電極56の出口で垂直方向の速度ξv および水平方向の速度ξh との間には、荷電粒子Aの質量をmとすると、つぎの関係が成り立つ。
【0243】
ξv =q・V・L/(m・ξh ・d) (2)
tanθ=ξv /ξh =q・V・L/(m・ξh2 ・d) (3)
式(3)を式(1)に代入することにより、
V>D・m・ξh2 ・d/(2q・M・L) (4)
荷電粒子Aの速度分布がボルツマン分布をしているとすると、平均速度ξave は、ボルツマン定数をk、絶対温度をTとすると、
ξave =(2k・T)1/2 /(π・m) (5)
ξh が、ほぼξave に等しいとすると、
V>D・d・k・T/(π・q・M・L)
一般にグロー放電などでは、荷電粒子のエネルギーは数eVのオーダーといわれているため、この場合もほぼ同様とすると、プラズマ温度は約1万Kになる。仮にイオン種がOとして、M=20cm、L=1cm、D=5cm、q=1.6×1019クーロンと仮定すると、式(4)から、
V>0.206(ボルト)
となる。
【0244】
このようにして、おおよその印加電圧を求めることができる。真に適当な値は、平行平板電極に流れ込むイオンによる電流値を測定することによって決定することができる。しかし、過度に大きい電圧を印加すると、電極56間で放電を起こす可能性があるため、装置にもよるが、おおよそ900〜1000V/cm以上は好ましくない。
【0245】
図30に電圧を印加したときと印加しないときのX線ロッキングカーブの測定結果を示す。図30から明らかなように、本発明の電圧を印加する方法Pによれば、従来の方法Qのものに比べて、半値幅が0.21゜から0.13゜と狭くなり、結晶性が向上していることが分る。
【0246】
また、ノンドープのZnOのホール測定を行った結果を表2に示す。表2から明らかなように、電圧を印加しないで従来の成長を行ったときは、1018cm-3後半程度のキャリア濃度であったものが、本発明の電圧を印加することにより、1017cm-3台に減っている。すなわち、ZnOのノンドープのキャリア濃度はO欠損によるといわれており、本発明の方法により、Oの欠損が減り、結晶性が向上したことを示している。
【0247】
【表2】
図31にこの成長方法の他の構造例が示されている。この例は、プラズマ酸素が放出される開口部の近傍に一対の磁石57が設けられ、前述の電圧の印加に代えて磁界を印加する構成にされている。荷電粒子Aに磁界が印加されると、その磁界により進行方向に対して垂直方向のローレンツ力を受け、磁界を中心に回転する方向に曲げられる。この曲げによって、荷電粒子の進行方向は偏向し、基板に荷電粒子が直接当たるのを防止することができる。この方法によっても、X線ロッキングカーブおよびノンドープのキャリア濃度を測定した結果、両方とも前述と同様の改善が見られ、結晶性の向上が図られていることが確認された。
【0248】
このように、本発明の酸化物化合物半導体の成長方法は、その構成元素およびプラズマ状態の酸素を導入する場合に、以上のような装置を使用し、プラズマ中で発生する荷電粒子を電界または磁界の印加により除去または偏向させることにより、前記基板上に直接前記荷電粒子が照射されないようにしながら酸化物化合物半導体を結晶成長させるものである。そうすることにより、前述のように、荷電粒子が発生しても、その荷電粒子は半導体結晶を成長する基板のない部分に曲げられて除去される。その結果、基板には荷電していないラジカル酸素のみが達し、その酸素はラジカルであるため反応しやすく、基板上で他の元素と化合し基板上に酸化物として成長する。そして、荷電粒子が基板上に直接入り込まないため、基板表面に成長する半導体層の表面が帯電したり、荷電粒子による欠陥が生じたりしないため、非常に結晶性の優れた半導体結晶を成長することができる。
【0249】
この例によれば、従来結晶性の優れた半導体層を得にくいZnOなどの酸化物化合物半導体の結晶成長を非常に結晶性よく成長することができる。その結果、ZnOなどの酸化物化合物半導体を使用した青色系の波長の短い半導体発光素子を新しい材料により実現することができ、一層青色系の半導体発光素子の開発に寄与する。
【0250】
図32〜33は、結晶性のよいZnO系化合物半導体層を成長する他の例の説明図である。本来、この化合物半導体の結晶成長は、2種類以上の原子または分子がある温度領域にて物理的もしくは化学的に反応することにより進行する。このとき、基板表面上で接している異種原子同士が互いの結晶欠陥を埋めるように移動する動き(マイグレーション)が必要となる。この動きがないと結晶は本来最も成長しやすい方向に早く成長してしまうため、結晶欠陥が保持されたまま結晶成長が進行する。このような結晶欠陥を有する半導体層で発光素子を構成すると、発光効率が低下したり、素子の信頼性が低下する要因になる。
【0251】
マイグレーションというのは、化合物が溶融しているでもなく、固化しているでもないという状態で促進されるため、マイグレーションに適した温度と結晶の成長温度には密接な関係がある。たとえば従来の半導体発光素子として用いられている化合物半導体の溶融温度と一般に行われている成長温度との関係を表3にまとめる。
【0252】
【表3】
表3からも明らかなように、従来の化合物半導体の成長は、経験的にエピタキシャル成長温度/溶融温度との関係は3/4〜4/5程度が標準とされている。ZnOの融点は、1980℃程度以上といわれており、ZnOをエピタキシャル成長するには、理想的には1500℃程度で行うことが必要となり、少しでも高い温度で成長をすることが望ましい。
【0253】
しかし、前述のように、ZnO系化合物半導体をMBE装置でエピタキシャル成長しようとすると、Zn原子の蒸気圧が高いため、結晶成長温度を上げることができない。そのため、300〜350℃程度で成長することになり、前述のマイグレーションが生じなくて、縦方向のみに結晶成長が進み、結晶中に粒界が生じやすい。この例は、この点を改良するものである。
【0254】
本発明者らは、ZnO系化合物半導体を結晶性よく成長させるため、鋭意検討を重ねた結果、Znと炭化水素との結合エネルギーが大きいため、結晶成長の温度を高くしてもZnの蒸発を防止することができることを見出し、600〜700℃程度の高温で成長して結晶性の優れたZnO系化合物半導体層が得られることを見出した。
【0255】
この例によるZnO系化合物半導体発光素子は、図32にその一例であるLEDチップの断面説明図が示されるように、基板1上にZnO系化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部11が形成されている。そして、このZnO系化合物半導体層にC元素が含まれていることに特徴がある。
【0256】
発光層形成部11の各半導体層は、前述の各例と同様の組成で形成されており、同じ部分に同じ符号を付してその説明を省略する。しかし、この例では、これらの半導体層が、その成長時にZnの有機金属化合物が用いられているため、ZnとCとの結合が強く、半導体層にもCが残存する一方、高温での半導体層のエピタキシャル成長中にもCとZnとの結合によりZnの蒸発を防止することができ、高温で結晶性の良好な半導体層を成長することができる。また、図32に示される例では、基板1としては、たとえばn型のZnO基板が用いられているが、ZnOに限らず、サファイア、GaN、GaP、SiCなどの基板を用いることができる。他の構造も前述の各例と同様であるが、n型およびp型コンタクト層3、7も前述のZnO系化合物半導体層と同様に、その成長時にZnの有機金属化合物が用いられているため、ZnとCとの結合が強く、半導体層にもCが残存する一方、高温での半導体層のエピタキシャル成長中にもZnの蒸発を防止することができ、高温で結晶性の良好な半導体層を成長することができる。
【0257】
このように、この例ではZnO系化合物半導体層が、Znの材料として、Znの有機金属化合物を用いて成長されていることに特徴がある。すなわち、従来MBE装置でZnO化合物半導体を成長する場合、ソースメタルとしてのZnを1×10-6〜5×10-8Torr程度の蒸気圧(分圧)になるように基板上に照射させながら、プラズマ酸素を1×10-6〜1×10-5Torr程度の分圧になるように基板に供給することにより、基板上に成長させている。しかし、Znの蒸気圧が高いため、基板の成長温度を余り上昇させると、蒸気圧が高くなり過ぎて両者の比率がアンバランスになり、ZnOが成長しない。そのため、従来はZnOの成長を300〜350℃程度の低温で成長しなければならなかった。ところが、本発明では、Znの材料として、たとえばジメチル亜鉛などの有機金属化合物を用いているため、亜鉛と炭化水素気との分離温度は450℃程度以上と高くなり、高い温度で成長をすることができる。しかも、有機金属化合物が分解しても、炭化水素の炭素と水素とは分離しやすいため水素は分離するが、ZnとCとの結合は分離しにくく、結合したままOと化合してZnO化合物半導体を成長する。その結果、Cを含有するZnOが成長し、CとZnとの結合に基づき高温での成長に対してもZnの蒸発を防止することができる。
【0258】
つぎに、このLEDの製法について説明をする。たとえばMBE装置内にZnOなどからなる基板1をセッティングし、基板1の温度を600〜700℃程度にし、プラズマ酸素の照射条件下において、ジメチル亜鉛(Zn(CH3 )2 )を蒸気圧が1×10-6〜5×10-8Torr程度になるようにセルから照射する。そうすると、温度によりジメチル亜鉛が分解してHが分離し、Zn(CH2 )2 2+となり、O2-と化合する。そして、さらにHが分離することにより、またはさらにCが分離することにより、Cを含有するZnOを成長する。なお、成長厚さは成長時間を制御することにより所望の厚さに成長することができる。また、n型ドーパントとしては、トリメチルアルミニウム(TMA)を蒸気圧が1×10-9Torr程度になるように照射することによりドーピングすることができる。
【0259】
ついで、n型クラッド層4を成長させるため、さらにMgのソース源として、シクロペンタジメチルマグネシウムCp2 Mgのセルのシャッターを開きMgの有機金属化合物を照射する。このCp2 Mgの蒸気圧を制御することにより、MgとZnとの混晶比を制御することができ、たとえば蒸気圧を5×10-6〜5×10-8Torr程度にすることにより、Mg0.15Zn0.85Oを成長することができる。
【0260】
つぎに、活性層5を成長するため、Cp2 MgのセルおよびドーパントであるTMAのセルを閉め、Cdのソース源としてのジメチルカドミウム(DMCd)のセルのシャッターを開いてDMCdを照射し、同様に成長を続ける。さらに、同様にp型クラッド層6、p型コンタクト層7を成長することにより半導体積層部12を成長する。なお、p型にする場合は、プラズマ励起N2 と、TMAの同時ドーピングにより形成した。
【0261】
その後、MBE装置よりエピタキシャル成長がされたウェハを取り出し、スパッタ装置に入れて透明性導電膜ITOを0.15μm程度の厚さに設け、透明電極8を形成する。その後、基板1の裏面を研磨し、100μm程度の厚さとし、基板1の裏面にTi/Auなどからなるn側電極9を全面に、透明電極8上にNi/Alなどからなるp側電極10をたとえばリフトオフ法により、それぞれ真空蒸着などにより形成する。その後ウェハからチップ化することにより、図32に示されるLEDチップが得られる。
【0262】
このような方法でZnOを成長すると、ノンドーピングで成長したときの不純物濃度(ZnOでは結晶成長の際にO欠陥が生じやすく、結晶性が悪いとノンドーピングでもn型になる)が従来の方法で成長すると5×1018cm-3であったものが、8×1016cm-3とO欠陥の程度が減少した。また、成長した半導体結晶の状態をX線回折により、図33に示されるような基板の回転角ωに対するロッキングカーブで調べた結果、FWHM(Full Width at Half Maximum;半値全角、図33参照)が従来の低温での成長では0.015゜あったものが、前記方法により高温で成長したものでは、0.003゜と非常に小さくなり、結晶性が向上したことが分る。
【0263】
前述の例では、Zn以外の材料も全て有機金属化合物材料を用いたが、蒸気圧の低いMgなどは従来と同様のメタルソースを用いて行ってもよい。また、前述の例では、Znの有機金属化合物として、ジメチル亜鉛を用いたが、それ以外にも、ジエチル亜鉛などを用いることができる。また、発光層形成部11が、活性層を活性層よりバンドギャップエネルギーの大きい材料からなるクラッド層により挟持したダブルヘテロ接合構造であったが、pn接合やMIS構造(メタル−絶縁層−半導体層)などにより構成することもできる。さらに、前述の例は、LEDの例であったが、LDで、前述の各構造例のLDを製造することができる。
【0264】
この例によれば、融点の低いZnを、有機金属化合物を原材料として用いているため、成長温度を600℃以上に高くしても、蒸発することなく結晶性の良好なZnO系化合物半導体を成長することができる。その結果、結晶性の非常に優れたZnO系化合物半導体層を成長させることができ、信頼性が向上すると共に、発光特性の優れたLEDやLDが得られる。
【0265】
その結果、とくに青色系の半導体発光素子に用いられるZnO系化合物半導体層などの結晶性を改良することができるため、とくに現在要望されている青色系のLEDやLDなどの半導体発光素子を、新たな材料でその発光効率などの発光特性を向上することができる。
【0266】
図34〜35は、半導体レーザを形成する場合に、ZnO系化合物のウェットエッチングが可能な点を利用し、さらに電流狭窄を確実に行いうる構造例である。すなわち、従来のGaN系化合物半導体は物理的なドライエッチングによってしかエッチングをすることができず、電流狭窄層を活性層の近くに作り込むことができない。また、ドライエッチングによりエッチングをすると、半導体層に与えるダメージが大きいと共に、コンタミネーションの付着などにより、半導体層の再成長を結晶性よく行うことができず、活性層の近くに埋め込む内部電流狭窄層を形成することができない。
【0267】
さらに、電流狭窄層をその周囲のクラッド層と異なる導電形で形成するより、絶縁体で形成した方が、電流を阻止する効果が大きく効果的であることが一般に知られている。しかし、絶縁体で電流狭窄層を形成するためには、SiO2 などの、半導体層とは異なる誘電体を形成しなければならず、半導体層とは別のCVD装置などに移して形成しなければならないと共に、その絶縁体は単結晶でなく、半導体層を積層する場合の結晶の連続性が得られない。この例は、このような問題を解決し、青色系の発光をするGaN系やZnO系化合物半導体などと格子定数などの物理的性質が近い半導体結晶層による絶縁層を電流狭窄層とし、ウェットエッチングが可能で活性層の近くに電流狭窄層を作り込んでいる。
【0268】
本発明者らは、とくに青色系の半導体レーザにおいても、ウェットエッチングをすることができる材料により、電流狭窄層を活性層の近くに作り込み、電流の無駄をなくして閾値が低く発振効率が高い半導体レーザを得るため、鋭意検討を重ねた結果、ZnO系化合物半導体は、IA族やVB族のp型ドーパントをドーピングしても、p型にはならず半絶縁化する性質があり、この半絶縁化したZnO系化合物半導体を電流狭窄層として使用することにより、p型クラッド層内にn型で電流狭窄層を形成するより、遥かに電流ブロックの効果が大きいこと、ウェットエッチングをすることができ、しかもGaN系化合物半導体とも格子定数などの物理的性質が近いため、発光層形成部と連続して積層することができ、活性層に近い場所に設けることができることなどの理由により、高特性の半導体レーザが得られることを見出した。
【0269】
この例による半導体レーザは、図34にその一例の断面説明図が示されるように、たとえばサファイア基板1上に、第1導電形(n型)半導体からなる第1クラッド層4、第1クラッド層上に活性層15、活性層15上に第2導電形(p型)半導体からなる第2クラッド層6(6a、6b)が設けられ、第2クラッド層6の内部またはその近傍に電流狭窄層17が設けられるている。そして、電流狭窄層17がIA族またはVB族の元素がドーピングされたZnO系化合物半導体からなっている。
【0270】
図34に示される例では、第2クラッド層6が、p型下部クラッド層6aと、p型上部クラッド層6bとからなっており、その間に電流狭窄層17が設けられている。p型クラッド層6(6a、6b)は、Mgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなり、電流狭窄層17は、IA族またはVB族の元素がドーピングされたMgz Zn1-z O(0≦z<1、y≦z、たとえばz=0.2)が0.2〜0.6μm程度の厚さで形成されている。Mgz Zn1-z Oに限定はされず、ZnO系化合物半導体であればよいが、Mgが混晶されることにより、バンドギャップエネルギーが大きくなると共に、屈折率が小さくなるため、活性層で発光する光を吸収しなくて、活性層に近付けて設けることができると共に、実屈折率導波構造にすることができるため好ましい。この電流狭窄層17は、成長後にたとえばウェットエッチングにより電流注入領域とする部分が除去されてストライプ溝18が形成されている。この例のように、電流狭窄層17がp型クラッド層6と同種の材料である場合には、図示されていないが、その境界にBeZnOのようなエッチングストップ層が設けられることにより、電流注入領域とするエッチングを容易に、かつ、確実にエッチングすることができる。
【0271】
また、このZnO系化合物半導体からなる電流狭窄層17は、p型ドーパントがドーピングされている。これは、ZnO系化合物半導体は、そのまま成長すると、酸素欠陥が生じやすくn型になりやすいが、p型ドーパントがドーピングされることにより、半絶縁化し、前述のようにn型で形成するより電流阻止の効果が大きくなることを見出したことに基づいている。p型ドーパントをドーピングすると半絶縁化する理由は、ZnO系化合物のイオン度が大きいという性質に起因し、たとえばドーピングされたN同士がクーロン斥力により強く反発し、ホールがNの位置に局在してしまい全体に広がらないで、酸素欠陥などにより生じるn型を相殺するに止まるためと考えられる。そのため、通常のZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際にp型ドーパントを導入することにより、半絶縁性のi形ZnO系化合物半導体が得られ、n型層に形成するより、遥かに電流ブロック効果の大きい電流狭窄層17が得られる。なお、p型ドーパントとしては、たとえばLi、Na、KなどのIA族の元素、またはN、P、As、SbなどのVB族元素が扱いやすいため好ましい。
【0272】
発光層形成部11の各半導体層は、p型クラッド層が第1層6aと第2層6bに分割されて、その間に電流狭窄層17が挿入されていることを除き、前述の各例と同様の組成で形成されており、同じ部分に同じ符号を付してその説明を省略する。また、基板1や緩衝層2も前述の各例と同様に種々の材料を使用することができ、電極や他の半導体層なども前述の例と同様である。
【0273】
製法も、前述の例と同様にMBE法などにより行うことができる。なお、n型半導体層にする場合、Alを飛ばすことによりドーピングし、p型にする場合は、プラズマ励起N2 と、Alの同時ドーピングにより形成した。このp型ドーパントであるプラズマ励起N2 とn型ドーパントであるAlとを同時ドーピングすることにより、n型ドーパントが緩衝剤の役割をして、p型層が得られる。そして、電流狭窄層を成長するときは、プラズマ励起N2 のみにしてドーピングすることによりp型にはならずに半絶縁化し、前述のように半絶縁の電流狭窄層17が得られる。なお、p型ドーパントとしては、プラズマ励起N2 には限定されず、Li、Na、KなどのIA族の元素やP、As、Sbなどの他のV族元素でも同様にn型ドーパントとドーピングすればp型層となり、p型ドーパントのみをドーピングすれば絶縁層として得られる。
【0274】
この例によれば、半導体レーザの電流狭窄層17に、半絶縁性のZnO系化合物半導体が用いられている。このZnO系化合物半導体は、前述のように、p型ドーパントをドーピングしてもp型にはならずに半絶縁化する性質を有している。そのため、緩衝剤としてのp型ドーパントとn型ドーパントとを同時に導入することによりp型クラッド層を形成しながら、ドーパントの緩衝剤であるn型ドーパントを止めるだけで、絶縁性の電流狭窄層を簡単に成長することができる。そのため、特別のCVD装置などを使用しないで、同じ半導体層の成長装置で連続して絶縁層を積層することができる。しかも、ZnO系化合物半導体は、硫酸系のエッチング液などの酸性またはアルカリ性のエッチング液によりエッチングをすることができるため、活性層の近くに精度よく電流狭窄層を作り込むことができる。その結果、電流ブロック効果が大きく、閾値電流の低い高出力の半導体レーザが得られる。しかも、電流狭窄層にMgを混晶させたバンドギャップエネルギーが大きく屈折率の小さい材料を用いることができ、活性層の近くに設けても、光の吸収による損失が小さく、実屈折率導波構造の半導体レーザを得ることができる。
【0275】
前述の例は、半導体積層部をすべてZnO系化合物半導体により構成した例であったが、GaN系化合物半導体などの他の化合物半導体を用いる場合でも同様にZnO系化合物半導体による半絶縁性の電流狭窄層を設けることができる。図35は、GaN系化合物半導体により青色系の半導体レーザを構成する場合の例を示す説明図である。
【0276】
この場合、基板1は前述と同様にサファイア基板が用いられ、緩衝層2としてGaN層が、n型コンタクト層3としてn型GaN層が、n型クラッド層4としてAla Ga1-a N(0≦a≦0.3、たとえばa=0.15)が0.1〜1μm程度、n型およびp型光ガ
イド層14、16がそれぞれn型およびp型のGaNで0.01〜0.1μm程度、活性層15がIn0.06Ga0.94NとIn0.1 Ga0.9 Nからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ60Åおよび30Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成されている。p型クラッド層6もn型クラッド層4と同じ組成で、たとえばZnドープにより形成され、p型下部クラッド層6aが0.05〜0.5μm程度、図34の例と同様の半絶縁(i形)Mgz Zn1-z Oからなる電流狭窄層17が0.2〜0.6μm程度の厚さに形成され、そのストライプ溝内および上面にp型上部クラッド層6bが0.5〜2μm程度に形成されている。そして、p型GaNからなるp型コンタクト層8が0.5〜2μm程度に形成され、前述と同様にn側電極9およびp側電極10が設けられ、チップ化することにより図35に示される構造のLDチップが形成されている。
【0277】
この場合も、電流狭窄層として、ZnO系化合物半導体が用いられることにより、ウェットエッチングをすることができ、しかもGaN系化合物半導体がエッチング液に対して非常に安定であるため、エッチングストップ層も必要なく活性層に近いところに電流狭窄層を形成することができる。さらに、ZnO系化合物半導体は、GaN系化合物半導体と格子定数などの物理的性質が非常に似ており、そのまま続けて成長することができる。その結果、従来GaN系化合物半導体を用いた半導体レーザでは、電流狭窄層を活性層の近くに作り込むことができなかったのが、ZnO系化合物半導体により作り込むことができるようになった。しかも、前述のように、絶縁体で作り込むことができ、n型で作り込むより、一層電流ブロック機能を大きくすることができる。
【0278】
図35に示されるSAS型構造のLDチップを製造するには、サファイアからなる基板1をアセトン、エタノールなどの有機溶剤により洗浄し、純粋でリンス処理した後、リン酸+硫酸の混合液(混合比1:3)を80℃として酸処理し、再び純粋によりリンスする。これらの前処理をしたサファイア基板1をMOCVD(有機金属化学気相成長)装置内に入れ、H2 雰囲気中で基板温度TS を1050℃程度に上昇させ、サーマルクリーニングを10分程度する。その後、基板温度TS を600℃程度まで下げて、反応ガスのトリメチルガリウム(TMG)とアンモニアガス(NH3 )とをキャリアガスのH2 と共に導入してGaNからなる緩衝層2を0.01〜0.2μm程度成膜し、基板温度を800℃程度に上げて順次必要な反応ガスに変更して前述の組成で厚さの各半導体層を成長する。なお、電流狭窄層17を成長する際には、反応ガスをZnのジメチル亜鉛(DMZn)と、OのプラズマO2と、MgのシクロペンタジエニルマグネシウムCp2 Mgとして、ドーパントとしてNのプラズマN2 を導入し反応させることにより得られる。この成長後にストライプ溝などの電流注入領域をエッチング除去することは前述の例と同様である。なお、この場合はGaN系化合物がエッチング液に対して安定であるため、エッチングストップ層は不要となる。また、電極9、10の形成およびウェハからのチップ化についても前述の例と同様に行うことにより、図35に示される構造のLDチップが得られる。なお、この例では、すべての半導体層をMOCVD法により成長する例であったが、電流狭窄層のみをMBE法により成長してもよく、また、全部の半導体層をMBE法により成長することもできる。
【0279】
なお、GaN系半導体層の例は一例であって、たとえばAlGaNに代えてGaNなどでもよく、GaN系化合物半導体またはZnO系化合物半導体の範囲内で、適当なバンドギャップエネルギーになるような混晶比の材料を選択して使用することができる。また、AlGaAs系などの他の半導体層にも電流拡散層として絶縁化されたZnO系化合物半導体を用いることもできる。
【0280】
この例によれば、半導体レーザの電流狭窄層にIAまたはVB族の元素をドーピングしたZnO系化合物半導体を用いているため、同じ半導体層をエピタキシャル成長する成長装置で連続して絶縁性の電流狭窄層を活性層の近くに積層することができる。しかも、ウェットのエッチングにより電流注入部を形成することができるため、半導体層にダメージを与えることがない。また、バンドギャップエネルギーの大きい材料により形成できるため、活性層の近くに電流狭窄層を作り込むことができる。その結果、電流の無駄がなくなり、低い閾値電流で高特性の半導体レーザが得られる。
【0281】
図36〜39は、前述の電流狭窄層にMgZnOを用いたときの最適なエッチングストップ層を設ける例である。すなわち、ZnO系化合物半導体は酸性またはアルカリ性のエッチング液により容易にエッチングされ、電流狭窄層を活性層の近くに作り込むことができる。しかし、電流注入領域は、図39(c)に示されるように電流狭窄層67のエッチングされた幅Wにより定まり、充分にサイドエッチングを行うことによりその幅を一定にすることができるが、図39(a)に示されるように、エッチングは等方的にエッチングされて、MgZnOからなるクラッド層もエッチングされるため、サイドエッチングによりその幅を確定することはできない。幅を確定させるためには、図39(b)〜(c)に示されるように、クラッド層66でエッチングをストップさせ、サイドエッチングにより、その幅Wを定めるのが理想的である。なお、図39において、68はレジスト膜である。
【0282】
このように、ZnO系化合物半導体を用いて、青色系の半導体レーザを構成する場合、ZnO系化合物半導体は酸性またはアルカリ性のエッチング液によりエッチングをすることができるため、電流狭窄層を活性層の近くに作り込みやすい。しかし、クラッド層もエッチングされてしまうため、サイドエッチングを行うことができず、電流注入領域とする、たとえばストライプ溝の幅が一定とならない。そのため、電流狭窄層の下側に電流狭窄層よりエッチングレートの小さい層が必要となるが、クラッド層はバンドギャップエネルギーを大きくする必要があり、ZnO系化合物半導体では、電流狭窄層と同様にZnOまたはMgZnO系化合物しか考えられない。そのため、電流狭窄層とエッチングレートに差があると共に、活性層で発光する光を吸収しないように充分にバンドギャップエネルギーの大きい材料である必要があるが、ZnO系化合物半導体で適切なエッチングストップ層が見つけ出されていない。そのため、MgZnO系化合物半導体を電流狭窄層として用いた半導体レーザにおいて、電流狭窄層に精度のよい電流注入部を形成することができる適切な構造のエッチングストップ層が要求される。
【0283】
本発明者らは、ZnO系化合物半導体を用いた半導体レーザを構成するに当り、クラッド層に影響を与えることなく電流狭窄層のみを精度よくエッチングすることができるように、電流狭窄層の下側に設けるのに適したエッチングストップ層を見つけるため、鋭意検討を重ねた結果、ZnOやMgZnO系はアルカリ性エッチング液に溶解するのに対して、CdZnO系化合物は同じアルカリ性のエッチング液に対してエッチングレートが小さく、その厚さをたとえば0.1μm以下程度に薄くすることにより、特性に影響を与えず、かつ、充分にエッチングストップ層として寄与し得ること、また、BeをZnOに混晶させたBeZnO系化合物は酸性のエッチング液にも、アルカリ性のエッチング液にも非常に安定で、同様に薄く設けてもエッチングストップ層として充分に寄与することを見出した。
【0284】
このエッチングストップ層を設けた半導体レーザは、図36にその一例の断面説明図が示されるように、たとえばサファイア基板1上に、第1導電形(n型)半導体からなる第1クラッド層4、第1クラッド層上に活性層15、活性層15上に第2導電形(p型)半導体からなる第2クラッド層6(6a、6b)が設けられ、第2クラッド層6の内部またはその近傍にMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる電流狭窄層17が設けられるている。そして、電流狭窄層17の基板1側にCds Zn1-s O(0<s<1)またはBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層27が設けられていることに特徴がある。
【0285】
図36に示される例では、第2クラッド層6が、p型下部クラッド層6aと、p型上部クラッド層6bとからなっており、その間にCds Zn1-s O(0<s<1)からなるエッチングストップ層27が数百Åの厚さで、およびNまたはLiがドーピングされた半絶縁性のMgz Zn1-z O(0≦z<1、y≦z、たとえばz=0.2)からなる電流狭窄層17が0.2〜0.6μm程度の厚さでそれぞれ設けられている。電流狭窄層17は、Mgz Zn1-z Oに限定はされず、ZnO系化合物半導体であればよいが、Mgが混晶されることにより、バンドギャップエネルギーが大きくなると共に、屈折率が小さくなるため、活性層で発光する光を吸収しなくて、活性層に近付けて設けることができると共に、実屈折率導波構造にすることができるため好ましい。この電流狭窄層17は、成長後にたとえばウェットエッチングにより電流注入領域とする部分が除去されてストライプ溝18が形成されている。本発明では、このエッチングの際にp型下部クラッド層6aをオーバーエッチングしないようにエッチングストップ層27が設けられている。このエッチングストップ層27について詳細に説明をする。
【0286】
本発明者らは、前述のように、ZnO系化合物半導体を用いて電流狭窄層17にMgz Zn1-z Oを用いたときの、電流注入領域とするたとえばストライプ溝18をエッチングにより形成する場合に、その幅が一定に形成され、しかもp型下部クラッド層6aへのオーバーエッチングを防止する構造にするため、鋭意検討を重ねた。まず、ストライプ幅のような電流注入部の幅が所望の一定の幅になるように形成するには、前述の図39(a)に示されるように、電流狭窄層67の下面までエッチングされた状態(コーナー部は、完全にはエッチングされていない)から、さらにそれまでのエッチング時間の10〜40%程度の時間サイドエッチングをすることにより(前述の図39(c)参照)、ほぼ一定の幅の電流注入領域を形成することができることを見出した。たとえばz=0のZnOからなる厚さが0.7μm程度の電流狭窄層17を、8%のNaOH溶液により上面からエッチングし始めて、図39(a)に示されるようにその底面までエッチングされる(コーナー部の残りはある状態)までの時間が5分程度であると、さらに30秒から2分間程度エッチングを続けると所望のストライプ幅のストライプ溝18(図36参照)を形成することができる。したがって、この電流狭窄層17のサイドエッチングをする時間、p型下部クラッド層6aに達しない厚さのエッチングストップ層27が設けられればよいことになる。
【0287】
一方、エッチングストップ層27があまり厚すぎると、図37(a)の右図に示されるように活性層15での電流注入領域の幅Tが広がってしまい、無効電流が大きくなって都合が悪い。また、クラッド層と材料の組成が異なるため、バンドギャップエネルギーが異なり、図37(b)に各層のバンドギャップエネルギーの関係(伝導帯側)が示されるように、エッチングストップ層27のバンドギャップエネルギーが大きくても小さくても、バンドギャップ障壁Bや井戸Qが形成されてキャリアの導通の障害となる。そのため、これらが問題にならない程度に薄くする必要があり、0.1μm程度以下、さらに好ましくは数百Å程度以下にする必要がある。換言すると、前述の例では、30秒から2分間程度のエッチングに対して、エッチングされる厚さが0.1μm以下、さらに好ましくは数百Å程度以下、すなわち100〜1000Å/分程度以下のエッチングレートになるようなCdの混晶比sの材料を選択することにより、特性に悪影響を及ぼさず、かつ、クラッド層をオーバーエッチングすることなくストライプ幅のエッチングを正確に形成することができる。
【0288】
たとえば前述の8重量%のNaOH溶液により、前述のZnOからなるエッチングストップ層27と、Cdの混晶比sを0.1と0.2にしたときのCds Zn1-s Oのエッチング時間に対するエッチング量を調べた結果、図38(a)に示されるように、s=0.1でZnOの1/3程度のエッチングレートになり、s=0.2になるとさらに1/3程度(ZnOに対して1/9〜1/10程度)と小さくなる。したがって、0.1≦sであれば充分にエッチングストップ層として使用することができ、sが小さくなるとバンドギャップエネルギーが大きくなって厚くすることができるため、sが0.1より小さいCds Zn1-s Oを用いても、電流狭窄層17との関係でエッチングストップ層の役割を充分に果たすことが判明した。なお、エッチングレートの差および成膜の容易さなどの点から、sの範囲は、好ましくは0<s≦0.5、さらに好ましくは、0.1≦s≦0.3である。
【0289】
本発明者らがさらに鋭意検討を重ねた結果、Cds Zn1-s OはH2 SO4 などの酸性のエッチング液にはZnOと同程度の割合でエッチングされてエッチングストップ層としては用いられないが、BeOは、酸性にもアルカリ性にも安定で、ZnOにBeを混晶したBet Zn1-t Oをエッチングストップ層として用いることにより、エッチング液にアルカリ性のものを用いても、また酸性のものを用いても充分にエッチングストップ層として用いることができることを見出した。エッチング液として6重量%のH2 SO4 を用い、前述と同様のZnOとBet Zn1-t Oのt=0.1と0.2のときのエッチング時間に対するエッチング量の関係を図38(b)に示す。図38(b)から明らかなように、ZnOに対しては前述のNaOHに対するエッチング量とほぼ同程度で、Bet Zn1-t Oに対しては、Cds Zn1-s OのCdの混晶比と同じ混晶比ではエッチング量が若干多く、Beの混晶比を若干多くすることにより、殆どCds Zn1-s Oと同じエッチング量になることが判明した。すなわち、この場合も電流狭窄層の組成、エッチングストップ層の厚さにも影響するが、ZnO系化合物半導体の電流狭窄層のエッチングストップ層としてBet Zn1-t Oを用いることができる。なお、エッチングレートの差および成膜の容易さなどの点から、tの範囲は、好ましくは0<t≦0.5、さらに好ましくは、0.1≦t≦0.3である。なお、8重量%のNaOH溶液に対しても同様の結果が得られた。
【0290】
前述のZnO系化合物半導体からなる電流狭窄層17は、Mgz Zn1-z Oにp型ドーパントがドーピングされている。これは、前述のように、ZnO系化合物半導体は、そのまま成長すると、酸素欠陥が生じやすくn型になりやすいが、p型ドーパントがドーピングされることにより、半絶縁化し、n型で形成するより電流阻止の効果が大きくなることに基づいている。p型ドーパントをドーピングすると半絶縁化する理由は、ZnO系化合物のイオン度が大きいという性質に起因し、たとえばドーピングされたN同士がクーロン斥力により強く反発し、ホールがNの位置に局在してしまい全体に広がらないで、酸素欠陥などにより生じるn型を相殺するに止まるためと考えられる。そのため、通常のZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際にp型ドーパントを導入することにより、半絶縁性のi形ZnO系化合物半導体が得られ、n型層に形成するより、遥かに電流ブロック効果の大きい電流狭窄層17が得られる。なお、p型ドーパントとしては、たとえばLi、Na、KなどのIA族の元素、またはN、P、As、SbなどのVB族元素が扱いやすいため好ましい。
【0291】
発光層形成部11の各半導体層は、p型クラッド層が第1層6aと第2層6bに分割されて、その間に電流狭窄層17が挿入されていることを除き、前述の各例と同様の組成で形成されており、同じ部分に同じ符号を付してその説明を省略する。また、基板1や緩衝層2も前述の各例と同様に種々の材料を使用することができ、電極や他の半導体層などや製法も前述の例と同様である。なお、半絶縁のMgz Zn1-z Oを成長した後に、一旦MBE装置からウェハを取り出し、表面にレジスト膜などを形成し、写真食刻技術によりパターニングをし、所望の電流注入領域の形状に開口部を設け、そのレジスト膜をマスクとして、たとえばNaOHのエッチング液によりエッチングをすることにより、前述のマスクの開口部分により露出する電流狭窄層17がエッチングされて、たとえばストライプ溝18が形成される。
【0292】
この例によれば、半導体レーザの電流狭窄層17の下側に、MgZnO系とエッチングレートの小さいCds Zn1-s O(0<s<1)またはBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層が設けられているため、Cds Zn1-s Oの場合は、アルカリ性のエッチング液により、Bet Zn1-t Oの場合は酸性またはアルカリ性のエッチング液により、クラッド層へ影響を及ぼすことなく、また発振効率などの電気的特性に影響を及ぼすことなく、電流狭窄層に電流注入領域を正確に形成することができる。その結果、ZnO系化合物半導体を用いて高特性の半導体レーザが得られる。
【0293】
この例によれば、エッチングストップ層が設けられることにより、充分にサイドエッチングを行うことができるため、電流狭窄層に設けるストライプ溝などの電流注入領域の幅を、再現性よく高精度に形成することができる。その結果、ZnO系化合物半導体を用いた青色系の高性能の半導体レーザが得られる。
【0294】
図40〜43は、発光層形成部を製造工程が簡単で、かつ、高歩留りで得られるMIS構造に形成した例である。すなわち、前述のように、ZnO系化合物半導体を用いて発光素子を実現しようとすると、そのp型層を得るのが難しく、そのキャリア濃度を高濃度に制御するのが難しいと共に、歩留りも低下して、発光特性が低下したり、非常に高価なものになりやすい。
【0295】
一方、ZnO系化合物半導体は、そのエキシトン(励起子;電子と正孔がクーロン力により束縛されてペアを作ったもの)の結合エネルギー(束縛エネルギー)が60meVと非常に大きく、室温の熱エネルギー26meVより大きいため、室温においてもエキシトンは安定に存在し得る。このエキシトンは、一旦形成されると容易に光子を生成する。すなわち効率よく発光する。そのため、自由電子と自由正孔とが直接再結合して発光する直接再結合発光より遥かに効率よく発光することが知られている(たとえば赤崎勇による「青色発光デバイスの魅力」50〜60頁(工業調査会発行、1997年5月)参照)。
【0296】
本発明者らは、前述のエキシトンによる高効率の発光を利用できるZnO系化合物半導体を用いた発光素子を得るため鋭意検討を重ねた結果、ZnO系化合物は、その結晶構造から通常の方法でp型ドーパントをドーピングすれば確実に絶縁化し、その厚さを適当に選定することにより、p型化するための特別の工程を経ることなく、製造工程が簡単でありながら、前述のエキシトンによる発光により高効率の発光が得られ、MIS(金属層−絶縁層−半導体層)構造でも充分に小さい電流で高出力の発光をし得ることを見出した。
【0297】
すなわち、ZnOは、そのイオン度が大きいため、Zn+ 、O- に近くなり、図43に示されるように、O(白丸)がZn(黒丸)の真上の位置でクーロン引力が働いて安定し、結晶構造も六方晶系となっている(たとえば先端デバイス材料ハンドブック(電子情報通信学会編、オーム社発行、1993年)、第2章デバイス材料の基礎、29〜30頁参照)。このような結晶構造になっているため、たとえばIA族のLiが黒丸の位置に入ったとき、原子間距離が近いため、Li同士がクーロン斥力で強く反発し、ホールがLiの位置に局在してしまい、結晶の全体に広がらない。そのため、p型ドーパントを入れても、ドーパントとして機能しないことにあると考えられる。一方、ZnOは、結晶成長の際に酸素(O)欠陥が発生しやすく、ドーパントを入れなくてもn型になりやすい。そのため、p型ドーパントをドーピングしても、酸素欠陥によるn型を相殺するだけで、p型ドーパントを多く入れ過ぎてもp型ドーパントとしては機能せず、絶縁層となる。このメカニズムは、GaNがp型ドーパントのMgなどが有機金属化合物の炭化水素気の水素と化合してドーパントとして機能せず、p型化しにくいのとは異なり、水素雰囲気であるか否かの製造法や、その後のアニール処理などの製造工程に拘らず確実に絶縁化しやすく、しかも高効率の発光を得ることができる。
【0298】
いわゆるMIS型構造による酸化物化合物半導体LEDは、図40にその一例の断面説明図が示されるように、たとえばサファイア基板1上に、n型のZnO系化合物半導体からなるn型層3と、半絶縁性のZnO系化合物半導体からなるi層25と、そのi層25の表面に設けられるたとえばITOからなる導電層8とからなっている。
【0299】
n型層3は1〜3μm程度の厚さに設けられ、たとえばAlなどをドーパントとして導入しながらZnOを成長することにより、容易にn型のZnO層が得られる。また、i層25は0.05〜0.3μm程度の厚さに設けられ、Liなどのp型ドーパントをドーピングしながらZnOを成長することにより得られる。これは、ドーピングしないでZnOを成長すると、前述のように酸素(O)欠陥となってn型になりやすいため、p型ドーパントを導入することにより、n型層が相殺されて絶縁層(i層)になる。p型ドーパントをドーピングし過ぎても、前述のように、ZnOのイオン度の強さにより、Zn+ とO- との引力による結晶構造の特殊性によりp型ドーパントとして機能しにくく、絶縁層を維持する。そのため、ドーピング量を余り気にすることなくi層25を得ることができる。
【0300】
n型ドーパントとしては、前述のAlの他、III B族の元素が結晶化の安定化の点から好ましい。しかし、前述のように、ZnO系化合物半導体のノンドーピングでn型化しやすい性質により、ノンドープでも1×1018〜1×1019cm-3程度のn型層が得られ、n型ドーパントを使用しなくてもよい。また、p型ドーパントとしては、IA族、IB族、またはVB族のいずれかの元素を用いることができる。
【0301】
導電層8としては、電流を供給できるように金属などの導電体が好ましいが、表面から光を取り出す場合、光を透過する材料が好ましく、たとえばITO(酸化インジウムスズ)、酸化インジウム、酸化スズなどの透明導電材料が用いられる。
【0302】
このLEDの製法について具体例で説明をする。まず、サファイアからなる基板1をアセトン、エタノールなどの有機溶剤により洗浄し、純粋でリンス処理した後、リン酸+硫酸の混合液(混合比1:3)を80℃として酸処理し、再び純粋によりリンスする。これらの前処理をしたサファイア基板1をMBE装置内に入れる。ついで、H2 +Heの混合プラズマガスを20mTorrの条件でサファイア基板1に照射し、その後基板温度TS を900℃程度に上昇させ、サーマルクリーニングを10分程度する。
【0303】
以上の前処理を終了した後、基板温度TS を400〜600℃程度まで下げる。この間、O2 プラズマを5×10-8〜1×10-4Torrの分圧になるように基板1に照射しておく。このO2 プラズマを照射しておくことにより、基板1のOの蒸発を防止することができる。
【0304】
つぎに、O2 プラズマを照射したまま、ZnとAlのセルのシャッターを開き、AlドープのZnOからなるn型層3を1〜3μm程度成長する。続いてAlのセルを閉じ、Liセルを開いてi層25を0.05〜0.3μm程度、さらに好ましくは0.08〜0.1μm程度成長する。i層25は、余り厚いとその抵抗により動作時の通電によるジュール熱が大きくなり、薄すぎるとn型層3とi側電極10とが短絡するので、この程度の厚さが好ましい。
【0305】
つぎに、MBE装置からウェハを取り出して、n側電極を設けるため、n型層3が一部露出するように、ホトレジストなどのマスクを設けて、i層25の一部をエッチングする。このエッチングは、RIE(反応性イオンエッチング)などのドライエッチングまたは硫酸を用いたウェットエッチングにより行うことができる。そして、i層25の表面にスパッタリングなどによりITO膜8を0.05〜0.2μm程度の厚さ設け、その表面にリフトオフ法によりNi/Auを真空蒸着してi側電極10を0.05〜0.2μm程度の厚さに、また、エッチングにより露出したn型層3の表面に同様に真空蒸着によりTi/Auを0.1〜0.2μm程度設けてn側電極9を形成する。
【0306】
このように製造したLEDの発光特性を調べた結果をGaNのMIS構造で製造したLEDと対比して図42に示す。図42で、横軸は電流(mA)で、縦軸は輝度(ミリcd)を示し、破線FがGaNの例で、実線Gが図40に示される構造のZnO系化合物半導体によるMIS構造のLEDである。図42から明らかなように、同じ電流値に対して、ZnO系化合物半導体を用いたLEDは、非常に大きな輝度が得られ、GaN系のp型層とn型層とにより活性層を挟持したダブルヘテロ接合構造のLEDの同じ条件での輝度と比較すると、10%程度の輝度が得られ、充分に実用的である。
【0307】
図41は、ZnO系化合物半導体を用いたMIS構造LEDの他の例を示す図である。この例は、基板1としてSiCを用いた例で、前述の例と同様に基板1を有機溶剤により洗浄して前処理を行う。このSiC基板1をMBE装置内に入れ、前述の例と同様に、H2 +Heの混合プラズマガス下で、900℃程度のサーマルクリーニングを10分程度行う。SiC基板1では、表面酸化を起すと後のZnOが成長しにくいため、サーマルクリーニング後、400〜600℃程度に下げるまでの間、Znフラックスを照射する。
【0308】
その後、前述の例と同様に、O2 プラズマのセル、およびAlのセルのシャッターを開け、n型ZnOからなるn型層3を1〜3μm程度成長し、さらにi層25を前述と同様に0.05〜0.3μm程度設ける。そして、その表面にスパッタリングなどによりITO膜8を0.05〜0.2μm程度の厚さ設け、SiC基板1の裏面全面に真空蒸着によりTi/Alをそれぞれ0.1μm/0.2μm程度設けてn側電極9を形成する。そして、ITO膜8の表面にリフトオフ法によりNi/Auをそれぞれ0.05μm/0.2μm程度真空蒸着してi側電極10を形成してチップ化することにより、図41に示されるLEDチップが得られる。
【0309】
この各例では、n型層3およびi層25としてZnOを用いたが、CdやMgなどのIIA族やIIB族の他の元素を混晶したものでもその発光波長を変化させることができ、同様のMIS型のLEDが得られる。すなわち、たとえばCdを混晶させることによりそのバンドギャップエネルギーが小さくなり、長波長の光を発光し、Mgを混晶させることにより、そのバンドギャップエネルギーが大きくなり、短波長の光を発光する。
【0310】
また、この各例では、p型ドーパントをドーピングすることによりi層を形成したが、p型ドーパントをドーピングすることによりp型化しても、pn接合部で発光するため、とくに問題はなく、要はZnO系化合物半導体にp型ドーパントがドーピングされた層が形成されておればよい。
【0311】
この例によれば、とくにエキシトンを生成しやすいZnO系化合物半導体を用いて、いわゆるMIS型構造のLEDを形成しているため、キャリア濃度を制御するための特別の工程を必要とすることなく、半導体層を成長したままの簡単な製造工程で高輝度の青色系のLEDが得られる。その結果、現在非常に強く要望されている青色系のLEDを非常に安価、にかつ、大量に供給することができる。
【0312】
さらに、n型層についてもノンドーピングで形成することもでき、キャリア濃度の制御が簡単であると共に、ドーパントを使用しなくても製造することができ、一層コストダウンに寄与する。
【0313】
図44〜45は、さらに他の実施形態を示す断面説明図で、p型半導体層をGaN系化合物で形成し、n型層をZnO系化合物で形成した例である。すなわち、前述のように、ZnO系化合物ではキャリア濃度の大きいp型層を得にくい。一方、GaN系化合物半導体は、非常に化学的に安定であるため、高温で成長する必要があると共にウェットエッチングをすることができない。そのため、LDにおける電流注入領域を画定するための電流狭窄層を活性層の近くに埋め込んで形成することができない。さらに、GaN系化合物半導体に適する基板としてサファイア基板が用いられており、基板の裏面から一方の電極を取り出すことができないため、一方の電極を接続するために、積層したGaN系化合物半導体層をドライエッチングによりエッチングをして、下層の異なる導電形の半導体層を露出させなければならない。
【0314】
また、ZnO系化合物半導体は、前述のように、そのエキシトン(励起子;電子と正孔がクーロン力により束縛されてペアを作ったもの)の結合エネルギー(束縛エネルギー)が60meVと非常に大きく、室温の熱エネルギー26meVより大きいため、室温においてもエキシトンは安定に存在し得る。このエキシトンは、一旦形成されると容易に光子を生成する。すなわち効率よく発光する。そのため、自由電子と自由正孔とが直接再結合して発光する直接再結合発光より遥かに効率よく発光することが知られている(たとえば赤崎勇による「青色発光デバイスの魅力」50〜60頁(工業調査会発行、1997年5月)参照)。
【0315】
さらに、GaN系化合物半導体とZnO系化合物半導体とは、表4に示されるように、バンドギャップエネルギーEg、a軸およびc軸の格子定数が非常によく似た物理的性質を有している。そのため、GaN系化合物半導体とZnO系化合物半導体とを複合したものである。
【0316】
【表4】
この例による半導体発光素子は、図44にその一例の断面説明図が示されるように、たとえばサファイア基板1上に、n型層4およびp型層6を少なくとも有する化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部11とを具備している。そして、n型層4がZnO系化合物半導体からなり、p型層6がGaN系化合物半導体からなっている。
【0317】
発光層形成部11は、図44に示される例では、Cdx Zn1-x O(0≦x<1、たとえばx=0.08)からなる活性層5をMgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなるn型クラッド層4とp型のAla Ga1-a N(0≦a≦0.3、たとえばa=0.15)からなるp型クラッド層6dとで挟持するダブルヘテロ接合構造であるが、n型層とp型層とが直接接合するヘテロ接合構造でもよい。図44に示される例では、p型層6は、p型GaN第1層6cが0.1〜0.3μm程度、好ましくは0.1μm程度と、p型のAla Ga1-a Nからなるクラッド層6dが0.1〜1μm程度、好ましくは0.5μm程度と、p型GaN第2層6eが0.1〜0.3μm程度、好ましくは0.1μm程度とからなっている。活性層5側にあるp型GaN第2層6eは、後述するp側電極10を形成しやすくするための層で、この第2層6eは薄く、キャリア閉込め効果としては、Ala Ga1-a N層6dが寄与する。また、p型GaN第1層6cは、低温緩衝層2上に直接AlGaN層を成長すると結晶性が悪くなるため介在させるもので、InGaNでもよい。
【0318】
活性層5は、キャリアの再結合により発光させる層で、そのバンドギャップエネルギーにより発光する光の波長が定まり、発光させる光の波長に応じたバンドギャップエネルギーの材料が使用され、たとえば単一活性層で0.1μm程度の厚さに形成されている。このCdx Zn1-x Oは、そのxの値が大きくなるほどバンドギャップエネルギーが小さくなる。たとえば400nm程度の波長の光を発光させるためには、xは0.08程度が好ましい。なお、活性層5は、非発光再結合中心の形成を避けるため、ノンドープであることが好ましい。
【0319】
n型層(n型クラッド層)4は、p型層6(p型クラッド層6d)と共に、活性層5よりバンドギャップエネルギーが大きく、キャリアを活性層5内に有効に閉じ込める効果を有するように形成される。この例では、このn型(クラッド)層4がZnO系化合物、具体的にはMgy Zn1-y O(0≦y<1、たとえばy=0.15)からなり、たとえば2μm程度の厚さに設けられ、p型クラッド層6dには、Ala Ga1-a N(たとえばa=0.15)が用いられている。
【0320】
図44に示される例では、p型層6(p型GaN第2層6e)と活性層5との間にn型ZnOからなる緩衝層28が100〜1000Å程度、好ましくは100〜300Å程度の薄い層で設けられている。これは、p型層6がGaN系化合物半導体で、活性層5がZnO系化合物半導体であり、一般に、異種材料の接合では界面準位が発生して、発光層に悪影響を及ぼすことが知られている。そのため、直接活性層が異種接合にならないように緩衝層を設けることにより、発光層への悪影響を防止するためである。したがって、ZnOでなくても、活性層5と同種のZnO系化合物半導体で、活性層5よりバンドギャップエネルギーの大きい材料であればよい。
【0321】
基板1としては、たとえばサファイア基板が用いられ、その上にGaNからなる低温で成膜する低温緩衝層2が0.01〜0.2μm程度設けられている。基板1は、サファイアに限らず、ZnO、GaN、SiCなどの基板を用いることができる。基板1が絶縁性の場合には、図44に示されるように、一方の電極を設けるために、積層された半導体層の一部をエッチングして露出する表面側と反対導電形の半導体層に設けることになるが、本発明では、n型層4にZnO系化合物半導体層を用いているため、ウェットエッチングによりエッチングすることができるため、絶縁性基板を用いても容易に電極を形成することができる。
【0322】
また、低温緩衝層2は、成長するGaN系化合物半導体と基板1との間の格子定数などの差に基づく不整合を緩和するための層で、低温で設けることにより、その上に成長するGaN系化合物半導体を結晶性よく成長するためのものである。この低温緩衝層2は、GaNに限らず、AlN、AlGaN、ZnOなどを低温で設けてもよい。基板1が導電性基板の場合で、その裏面から電極を取り出す場合は、その基板1と同じ導電形で緩衝層2を形成する必要があるが、基板1が絶縁性である場合には、緩衝層2もAlNのように絶縁性でもよく、またいずれの導電形でも構わない。
【0323】
n型層4の表面には、たとえばITOからなる透明電極8が形成され、その上にたとえばAuからなるn側電極9が、積層されたn型層4、活性層5、および緩衝層28の一部がウェットエッチングにより除去されて露出するp型層(GaN第2層6e)に、たとえばTi/Niの積層構造からなるp側電極10が、それぞれ真空蒸着とパターニングまたはリフトオフ法などにより形成され、チップ化することにより、図44に示されるようなLEDチップが得られる。
【0324】
このLEDの製法について具体例で説明をする。まず、サファイアからなる基板1をアセトン、エタノールなどの有機溶剤により洗浄し、純水でリンス処理した後、リン酸+硫酸の混合液(混合比1:3)を80℃として酸処理し、再び純水によりリンスする。これらの前処理をしたサファイア基板1をMOCVD(有機金属化学気相成長)装置内に入れ、H2 雰囲気中で基板温度TS を1050℃程度に上昇させ、サーマルクリーニングを10分程度する。
【0325】
以上の前処理を終了した後、基板温度TS を600℃程度まで下げて、反応ガスのトリメチルガリウム(TMG)とアンモニアガス(NH3 )とをキャリアガスのH2 と共に導入してp型GaNからなる緩衝層2を0.01〜0.2μm程度成膜する。ついで、p型ドーパントガスのシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2 Mg)を導入し、基板温度を1000℃程度に上昇してMgドープのp型GaN第1層6cを0.1〜0.3μm程度、さらに反応ガスのトリメチルアルミニウム(TMA)を導入してp型Ala Ga1-a N(たとえばa=0.15)層6dを0.1〜1μm程度、さらに反応ガスのTMAを止めてp型GaN第2層6eを0.1〜0.3μm程度成長して、p型層6を形成する。その後、一旦成長を終了し、600〜800℃程度のN2 雰囲気下でアニール処理を行い、p型ドーパントの活性化を行ってp型化する。
【0326】
つぎに、p型層6が成長した基板1をMBE装置に入れて、700℃程度に基板温度を上昇させてサーマルクリーニングを行う。ついで、基板温度を300〜600℃程度に下げ、ソース源からZnおよびプラズマ酸素をn型ドーパントのAlと共に照射してn型ZnOを100〜1000Å程度成長し緩衝層28を形成し、基板温度を200〜400℃程度に上げてCdのソース源を開けてCdx Zn1-x O(たとえばx=0.08)からなる活性層5を0.1μm程度成長し、さらに基板温度を300〜600℃程度にすると共に、Cdのセルの代りにMgのセルを開け、Mgy Zn1-y O(たとえばy=0.15)からなるn型クラッド層4を0.5μm程度成長する。
【0327】
その後、H2 SO4 系溶液により、積層したZnO系化合物半導体層の一部をエッチングし、p型GaN第2層6eを露出させる。このエッチングの際、p型GaN第2層6eは、全然エッチングされないため、ZnO系化合物半導体層のみを選択的にエッチングすることができる。その後、n型層4の表面に蒸着などによりITO電極8を0.05〜0.2μm程度設け、さらにその表面にAuをリフトオフ法などによりパターン蒸着してn側電極9を形成し、さらに前述のエッチングにより露出するp型GaN第2層6eの表面に同様にNi/Tiをパターン蒸着してp側電極10を形成し、チップ化することにより、図44に示されるLEDチップが得られる。
【0328】
この例によれば、p型層にGaN系化合物半導体を用い、活性層およびn型層としてZnO系化合物半導体を用いているため、p型層を得にくいZnO系化合物半導体に代ってGaN系化合物半導体によりp型層を形成することができ、pnジャンクション型電流注入タイプで、エキシトンを利用した高効率の発光を得ることができる。また、絶縁基板上に半導体層を積層してその積層体の一部をエッチングにより露出した半導体層に一方の電極を設ける場合でも、ZnO系化合物半導体をエッチングすることにより、非常にエッチングが容易になる。
【0329】
また、p型GaN系化合物半導体層と活性層との間に、活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいn型ZnO系化合物半導体層を挟むことにより、緩衝層となって活性層を直接異種材料による接合にしなくてすむため、異種材料の接合による界面準位の発光層への影響を回避することができる。この場合、介在させる緩衝層は、非常に薄いため、n型であってもp型GaN系化合物半導体からのホールは緩衝層を通過して活性層に注入され、pnジャンクションを形成する。
【0330】
この例は、p型GaN系化合物半導体をMOCVD装置により成長し、ZnO系化合物半導体をMBE装置により成長したが、ZnO系化合物半導体も引き続き同様にMOCVD装置により成長することができる。この場合、Znの有機金属化合物としては、ジメチル亜鉛(DMZn)を、Cdの反応ガスとして、ジメチルカドミウム(DMCd)を、Mgの反応ガスとしてCp2 Mgを、n型ドーパントガスとしてTMAを、酸素の反応ガスとしては、プラズマ酸素をそれぞれ使用することができる。また、最初のGaN系化合物半導体からMBE装置により成長することもできる。この場合、Gaおよびプラズマチッ素をソース源とする。
【0331】
さらに、この例は、LEDの例であったが、LDでも同様にp型層にGaN系化合物半導体を用い、活性層およびn型層にZnO系化合物半導体を用いて構成することにより、発光効率が高いと共に、容易なウェットエッチングにより、電流注入領域を狭窄することができる。この場合、発光層形成部11若干異なり、たとえば活性層15はノンドープのCd0.03Zn0.97O/Cd0.2 Zn0.8 Oからなるバリア層とウェル層とをそれぞれ50Åおよび40Åづつ交互に2〜5層づつ積層した多重量子井戸構造により形成することが好ましい。また、活性層15が薄く充分に光を活性層15内に閉じ込められない場合には、たとえばZnOからなる光ガイド層が活性層の両側に設けられる。また、ITOからなる透明電極は不要で、直接p側電極10をストライプ状にパターニングして形成したり、半導体層の上部をメサ型形状にエッチングしたり、電流狭窄層を埋め込むことにより、電流注入領域を画定する構造に形成される。本発明では、半導体積層部の上部をZnO系化合物半導体層にすることにより、容易にウェットエッチングによりエッチングをすることができるため、活性層への影響を与えることなくメサ型形状に形成することができるし、また電流狭窄層をZnO系化合物半導体により形成して活性層の近くに作り込むことができる。メサ型形状にすることによりLDチップを形成する例を図45に示す。
【0332】
図45に示されるメサ型構造のLDチップを製造するには、前述と同様に基板1上に低温緩衝層2、p型GaN第1層6c、AlGaN系化合物からなるクラッド層6d、光ガイド層の役割をするp型GaN第2層6eからなるp型層6を順次成長し、前述と同様にアニール処理をする。ついで、MBE装置でn型ZnOからなる緩衝層28、前述の多重量子井戸構造の活性層15を成長し、その上にp型ZnOからなる0.05μm程度のn型光ガイド層16、n型Mgy Zn1-y O(たとえばy=0.15)からなるn型クラッド層4を0.5μm程度それぞれ成長する。そして、n型ZnOからなるコンタクト層3を0.3〜0.5μm程度成長する。その後、MBE装置から基板1を取り出して、表面にレジストマスクを設け、H2 SO4 系溶液により、積層したZnO系化合物半導体層の一部をエッチングし、p型GaN第2層6eを露出させる。このエッチングは、電流注入領域を画定(狭窄)するためのエッチングで、活性層15に形成する電流注入領域の幅に合せて活性層15までエッチングをするが、前述のように、p型層6(GaN第2層6e)の表面で、選択的にエッチングは停止する。そして、前述の例と同様にn側電極9およびp側電極10を設け、チップ化することにより、図45に示される構造のLDチップが得られる。なお、チップ化に当って、光出射面をドライエッチングにより形成した方が、より一層鏡面の端面が得られる。なお、基板がサファイアでなく、GaNやSiCなどであれば、劈開することもできる。
【0333】
なお、このLDの製造においても、全部の半導体層をMOCVD装置やMBE装置のみで成長することもできる。また、各半導体層の例は一例であって、たとえばAlGaNに代えてGaNなどでもよく、GaN系化合物半導体またはZnO系化合物半導体の範囲内で、適当なバンドギャップエネルギーになるような混晶比の材料を選択して使用することができる。さらに、p型層もMBE装置で成長する場合、成長時にp型ドーパントがHと化合しないため、p型層の成長後にアニール処理を行わなくても、成長したそのままの状態でp型化することができる。さらに、n型ZnO系化合物半導体層を成長する場合、GaやAlなどのn型ドーパントをドーピングしなくてもn型層が得られるが、n型ドーパントを導入した方が、キャリア濃度を制御しやすいため好ましい。
【0334】
この例によれば、GaN系化合物半導体とZnO系化合物半導体とを用いた異種接合により半導体発光素子を形成しているため、ZnO系化合物半導体の高い発光効率およびウェットエッチングの容易さを利用しながら、GaN系化合物半導体によりp型層を得ることができ、pnジャンクション型電流注入発光をさせることができる。その結果、高効率の発光をすることができると共に、電極形成のためのエッチングや、LDの電流注入領域を画定するための半導体層のエッチングを容易に行うことができ、製造工程が簡単でコストダウンを行うことができると共に、発光特性の優れた青色系の半導体発光素子が得られる。とくに青色系のLDを低い閾値で、かつ、大きな出力で容易に得ることができる。
【0335】
なお、前述の各例に示される図では、基板1が実際には他の層と比較して数十倍以上の厚さがあるが、省略して薄く書かれている。他の半導体層の厚さも説明用で部分的に誇張して書かれたりして、厳密な厚さを表してはいない。
【産業上の利用可能性】
【0336】
本発明によれば、青色系のLEDやLDを、取り扱いが容易なZnO系化合物半導体を用いて実現することができる。その結果、フルカラーディスプレーや、信号灯などの光源や、室温で連続発振する次世代の高精細DVD用のレーザ光源などとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0337】
【図1】本発明の半導体発光素子による一実施形態の斜視説明図である。
【図2】本発明による他の実施形態の斜視説明図である。
【図3】本発明によるさらに他の実施形態の斜視説明図である。
【図4】本発明によるさらに他の実施形態の斜視説明図である。
【図5】本発明によるさらに他の実施形態の斜視説明図である。
【図6】本発明によるさらに他の実施形態の斜視説明図である。
【図7】図6の活性層近傍の拡大断面構造説明図、およびその各層のバンドギャップの関係を示す図である。
【図8】Cdx Zn1-x OおよびMgz Zn1-z Oのxおよびzをそれぞれ変化させたときの格子定数の変化を示す図である。
【図9】本発明によるさらに他の実施形態であるLEDチップの断面説明図である。
【図10】本発明によるさらに他の実施形態であるLDチップの断面説明図である。
【図11】Cd、Zn、Mgの温度に対する蒸気圧を示す曲線である。
【図12】本発明によるさらに他の実施形態の断面説明図である。
【図13】ZnO系化合物半導体層の成長時の問題を説明する図である。
【図14】本発明によるさらに他の実施形態であるLEDチップの斜視説明図である。
【図15】図2の構造に反射膜を設けたLDの発光特性を従来構造のLDと対比して示した図である。
【図16】本発明によるさらに他の実施形態であるLEDチップの断面説明図である。
【図17】図16の例のn側電極の電圧−電流特性を示す図である。
【図18】本発明によるさらに他の実施形態であるLEDチップの断面説明図である。
【図19】図18の例のn側電極の電圧−電流特性を示す図である。
【図20】n型ZnOにAl/Ti/Niの電極を設けたときの電圧−電流特性である。
【図21】p型ZnOを成長する一例のMBE装置の概略説明図である。
【図22】本発明のp型成長法により成長したp型ZnOのNのドープ量に対するキャリア濃度の変化を示す図である。
【図23】ZnOのp型化をしにく理由の説明図である。
【図24】普通の方法でp型化のためNをドーピングしたときのドーピング量に対するキャリア濃度の変化を示す図である。
【図25】基板上にp型ZnSeを成長する場合の工程断面説明図である。
【図26】本発明のMOCVD法によりp型半導体層を成長する場合の導入ガスのタイムチャートを示す図である。
【図27】図25の方法によりドーピングする場合のドーパントガスの流量に対するキャリア濃度の関係を示す図である。
【図28】本発明による結晶成長装置の一例の概略説明図である。
【図29】図28の成長装置におけるプラズマ発生源50の拡大説明図である。
【図30】図28の装置を用いて成長した半導体層のX線ロッキングカーブを従来の方法により成長したものと比較して示した図である。
【図31】図29の変形例の説明図である。
【図32】本発明によるさらに他の実施形態の断面説明図である。
【図33】結晶状態をX線回折で調べたときのX線ロッキングカーブの説明図である。
【図34】本発明による半導体レーザの一例の断面説明図である。
【図35】本発明による半導体レーザの一例の断面説明図である。
【図36】本発明による半導体レーザの一例の断面説明図である。
【図37】エッチングストップ層の厚さや材料による半導体レーザへの影響を説明する図である。
【図38】エッチングストップ層として用いるCds Zn1-s OおよびBet Zn1-t Oのエッチング時間に対するエッチング量の関係を示す図である。
【図39】ストライプ溝をエッチングにより形成する際のエッチングの進行を説明する図である。
【図40】本発明によるMIS型LEDチップの断面説明図である。
【図41】本発明によるMIS型LEDチップの他の例の断面説明図である。
【図42】図40の構造によるLEDの発光特性を、GaN系のMIS構造によるLEDの発光特性と比較して示す図である。
【図43】ZnOの原子構造を説明する図である。
【図44】ZnO系化合物とGaN系化合物の複合半導体を用いた本発明による半導体発光素子のLEDチップの断面説明図である。
【図45】ZnO系化合物とGaN系化合物の複合半導体を用いた本発明による半導体発光素子のLDチップの断面説明図である。
【図46】高精細DVDに必要とされる青色LDの波長範囲の説明図である。
【図47】従来における青色系半導体発光素子の一例の断面説明図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられ、電流注入により発光する活性層を該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなるn型およびp型のクラッド層とにより挟持する発光層形成部とを有する半導体発光素子であって、前記活性層がCdおよびZnの少なくとも一方を含むZnO系酸化物化合物半導体からなる半導体発光素子。
【請求項2】
前記クラッド層がZnO系酸化物化合物半導体からなる請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記クラッド層がIII 族チッ化物化合物半導体である請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)である請求項1、2または3記載の半導体発光素子。
【請求項5】
電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面から挟持するクラッド層とを有する半導体発光素子であって、前記クラッド層がZnまたはMgとZnを含むZnO系酸化物化合物半導体からなる半導体発光素子。
【請求項6】
前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)である請求項5記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記クラッド層および活性層が積層される基板が、GaN、SiCを表面に形成したSi、単結晶SiC、サファイアの群から選ばれる1種である請求項1、2、3、4、5または6記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記活性層が、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造である請求項1、2、3、4、5、6または7記載の半導体発光素子。
【請求項9】
電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面から挟持するn型およびp型のクラッド層とを有し、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)からなり、前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなり、内部電流狭窄層が作り込まれてなる半導体レーザ。
【請求項10】
CdOとZnOとを固溶化して、一般式がCdx Zn1-x O(0≦x<1)で表される混晶とすることにより、ZnOのバンドギャップを小さくするZnO化合物半導体のナローバンドギャップ化方法。
【請求項11】
前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)のバルク層またはCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、前記活性層のn型クラッド層側およびp型クラッド層側の少なくとも一方側に、前記活性層よりバンドギャップが大きく、かつ、前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する組成の材料の格子定数とほぼ等しくなるような組成の材料からなるストレス緩和層が前記活性層と接して設けられてなる請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記ストレス緩和層がMgw Zn1-w O(0≦w<1)からなり、前記クラッド層がMgおよびZnを含む酸化物化合物半導体からなる請求項11記載の半導体発光素子。
【請求項13】
電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面側から挟持するn型およびp型のクラッド層とを有し、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、前記活性層のn型クラッド層側およびp型クラッド層側の少なくとも一方側に、Mgw Zn1-w O(0≦w<1)で、かつ、前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する組成の格子定数とほぼ等しくなるような組成からなるストレス緩和層が前記活性層と接して設けられてなる半導体レーザ。
【請求項14】
前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなり、前記ストレス緩和層と前記n型またはp型クラッド層との間に光ガイド層が設けられてなる請求項13記載の半導体レーザ。
【請求項15】
前記活性層と上部クラッド層との間の少なくとも前記活性層側に低温ZnO層が設けられてなる請求項4記載の半導体発光素子。
【請求項16】
前記低温ZnO層が、100〜1000Åの厚さに設けられてなる請求項15記載の半導体発光素子。
【請求項17】
Cdを含むZnO系化合物半導体からなる活性層をZnO系化合物半導体からなるクラッド層により挟持するZnO系化合物半導体発光素子の製法であって、Cdを含むZnO系化合物半導体からなる活性層を成長した後、該活性層の成長温度と同程度の低温でZnOからなるCdの蒸発防止層を成長し、ついでZnO系化合物半導体層を高温で成長することを特徴とするZnO系化合物半導体発光素子の製法。
【請求項18】
サファイア基板と、該サファイア基板上に設けられるAl2 O3 膜からなるバッファ層と、該バッファ層上に設けられるZnO系化合物半導体からなり、少なくともn型層とp型層とを含み発光層を形成する発光層形成部とを有する半導体発光素子。
【請求項19】
前記発光層形成部が、Cdx Zn1-x O(0≦x<1)からなる活性層をMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなるn型とp型のクラッド層で挟持したダブルヘテロ接合構造を有する請求項18記載の半導体発光素子。
【請求項20】
サファイア基板上に低温でAl2 O3 膜を堆積し、ついで該サファイア基板を結晶成長し得る温度に上昇してからZnO系化合物半導体からなり、第1導電形層および第2導電形層を含み発光層を形成する発光層形成部を成長することを特徴とする半導体発光素子の製法。
【請求項21】
基板と、該基板上に設けられ、酸化物化合物半導体層からなり発光層形成部を含む半導体積層部とを有し、前記基板の表面に前記半導体積層部の半導体層を成長する温度より低温でZnを含む酸化物薄膜が緩衝層として設けられ、前記半導体積層部との間に介在されてなる半導体発光素子。
【請求項22】
前記緩衝層が、100〜300℃の間で、MBE法、MOCVD法、またはプラズマCVD法により、20〜200nmの厚さに形成されてなる請求項21記載の半導体発光素子。
【請求項23】
基板上に、スパッタ法、真空蒸着法、またはレーザアブレーション法によりZnを含む酸化物薄膜を非晶質または多結晶で成膜し、ついで、前記基板を半導体層のエピタキシャル成長装置に入れて成長温度に基板温度を上昇させ、その後酸化物化合物半導体層を積層して発光層形成部を形成することを特徴とする半導体発光素子の製法。
【請求項24】
基板と、該基板上に設けられる化合物半導体層からなりn型層とp型層とを有し発光層を形成する発光層形成部を含む半導体積層部とからなり、前記半導体積層部の最下層におけるエピタキシャル成長層の熱膨張係数より大きく、かつ、前記基板の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する材料からなる緩衝層が前記基板と前記半導体積層部との間に設けられてなる半導体発光素子。
【請求項25】
前記基板がサファイア基板からなり、前記最下層のエピタキシャル成長層がZnO系化合物半導体からなり、前記緩衝層がウルツアイト構造の化合物半導体である請求項24記載の半導体発光素子。
【請求項26】
前記緩衝層がAlp Ga1-p N(0≦p≦1)である請求項25記載の半導体発光素子。
【請求項27】
基板と、該基板上に設けられ、少なくともn型層を有するZnO系化合物半導体の積層により発光層を形成する発光層形成部を有するZnO系化合物半導体素子であって、前記ZnO系化合物半導体のn型層に接触して設けられるn側電極は、該n型層に接する部分がAlを含まないTiまたはCrにより形成されてなるZnO系化合物半導体発光素子。
【請求項28】
前記Alを含まないTiまたはCrの層上に、TiとAlが含まれた層が設けられてなる請求項27記載の半導体発光素子。
【請求項29】
前記TiとAlが含まれた層が設けられた後にアニール処理により該TiとAlとが合金化されてなる請求項28記載の半導体発光素子。
【請求項30】
ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際に、VIIB族の元素を緩衝剤として導入しながらIA族の元素をp型ドーパントとして導入し、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長するp型ZnO系化合物半導体の成長方法。
【請求項31】
前記IA族の元素として、Li、Na、KおよびRbの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられ、前記VIIB族の元素として、F、Cl、BrおよびIの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられる請求項30載の成長方法。
【請求項32】
前記導入されるIA族の元素のモル数が、前記VIIB族の元素のモル数より大きい請求項30または31記載の成長方法。
【請求項33】
ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際に、IIIB族の元素を緩衝剤として導入しながらVB族の元素をp型ドーパントとして導入し、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長するp型ZnO系化合物半導体の成長方法。
【請求項34】
前記VB族の元素として、N、P、AsおよびSbの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられ、前記IIIB族の元素として、B、Al、Ga、InおよびTlの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられる請求項33記載の成長方法。
【請求項35】
前記導入されるVB族の元素のモル数が、前記IIIB族の元素のモル数より大きい請求項33または34記載の成長方法。
【請求項36】
基板と、該基板上に設けられるZnO系化合物半導体層からなりn型層とp型層とにより発光層を形成する発光層形成部とを有する半導体発光素子であって、前記p型層にn型ドーパントとなり得る元素が緩衝剤として含まれてなる半導体発光素子。
【請求項37】
ZnO系酸化物化合物半導体からなる活性層をZnO系酸化物化合物半導体からなるn型層およびp型層により挟持する発光層形成部をMOCVD法によりエピタキシャル成長する半導体発光素子の製法であって、前記p型層の成長を、該半導体層の薄膜を成長する工程、およびp型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、の交互の繰返しにより行う半導体発光素子の製法。
【請求項38】
p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する方法であって、化合物半導体層を成長する反応ガスを成長装置内に導入して該半導体層の薄膜を成長する工程、および該工程の後に前記半導体層を成長する反応ガスをパージし、その後p型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、を交互に繰り返すことによりp型半導体層を成長するp型化合物半導体の気相成長方法。
【請求項39】
前記半導体層を成長する反応ガスとして、有機金属材料のみを使用する請求項38記載の成長方法。
【請求項40】
前記反応ガスをパージするのに、チッ素または0族の希ガスを前記成長装置内に導入することにより行う請求項38記載の成長方法。
【請求項41】
p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する方法であって、p型ドーパントガスとして、該ドーパントの元素が水素原子と直接結合しない構造の材料を用いる化合物半導体の気相成長方法。
【請求項42】
基板と、該基板上に設けられるZnO系化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部を有するZnO系化合物半導体素子であって、前記ZnO系化合物半導体層にC元素が含まれてなるZnO系化合物半導体発光素子。
【請求項43】
前記C元素がZnO系化合物半導体層を成長する際のZn材料として用いられる有機金属化合物のCである請求項42記載の半導体発光素子。
【請求項44】
基板上にZnO系化合物半導体層を積層して発光層を形成するZnO系化合物半導体発光素子の製法であって、前記ZnO系化合物のZn材料としてZnの有機金属化合物を前記基板の表面に照射しながら該基板表面で反応させて前記ZnO系化合物半導体を前記基板上にエピタキシャル成長することを特徴とするZnO系化合物半導体発光素子の製法。
【請求項45】
基板と、該基板上に設けられる第1導電形半導体からなる第1クラッド層と、該第1クラッド層上に設けられる活性層と、該活性層上に設けられる第2導電形半導体からなる第2クラッド層と、該第2クラッド層の内部またはその近傍に設けられる電流狭窄層とを有し、前記電流狭窄層がIA族またはVB族の元素がドーピングされたZnO系化合物半導体からなる半導体レーザ。
【請求項46】
前記第1クラッド層、活性層、および第2クラッド層がZnO系またはGaN系化合物半導体からなる請求項45記載の半導体レーザ。
【請求項47】
前記電流狭窄層が、Mgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる請求項45または46記載の半導体レーザ。
【請求項48】
基板と、該基板上に設けられる第1導電形半導体からなる第1クラッド層と、該第1クラッド層上に設けられる活性層と、該活性層上に設けられる第2導電形半導体からなる第2クラッド層と、該第2クラッド層の内部またはその近傍に設けられるMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる電流狭窄層とを有し、前記電流狭窄層の前記基板側にCds Zn1-s O(0<s<1)またはBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層が設けられてなる半導体レーザ。
【請求項49】
基板上にZnO系化合物半導体からなる第1導電形クラッド層、活性層および第2導電形下部クラッド層を成長し、該第2導電形下部クラッド層上にCds Zn1-s O(0<s<1)からなるエッチングストップ層およびMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる絶縁性または第1導電形の電流狭窄層を成長し、アルカリ溶液により前記電流狭窄層をエッチングして電流注入領域を形成し、さらにZnO系化合物半導体からなる第2導電形の上部クラッド層を成長する半導体レーザの製法。
【請求項50】
基板上にZnO系化合物半導体からなる第1導電形クラッド層、活性層および第2導電形下部クラッド層を成長し、該第2導電形下部クラッド層上にBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層およびMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる絶縁性または第1導電形の電流狭窄層を成長し、酸性またはアルカリ性のエッチング液により前記電流狭窄層をエッチングして電流注入領域を形成し、さらにZnO系化合物半導体からなる第2導電形の上部クラッド層を成長する半導体レーザの製法。
【請求項51】
n型のZnO系化合物半導体からなるn型層と、IA族、IB族、およびVB族の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素がZnO系化合物半導体層にドープされたドープ層と、該ドープ層の表面に設けられる導電層とからなる酸化物化合物半導体発光ダイオード。
【請求項52】
前記n型層にIII B族の元素がドープされた請求項51記載の半導体発光ダイオード。
【請求項53】
基板と、該基板上に設けられ、n型層およびp型層を少なくとも有する化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部とを具備し、前記n型層がZnO系化合物半導体からなり、前記p型層がGaN系化合物半導体からなる半導体発光素子。
【請求項54】
前記n型層とp型層との間にCdx Zn1-x O(0≦x≦0.5)からなる活性層が設けられてなる請求項53記載の半導体発光素子。
【請求項55】
前記活性層と前記p型層との間に該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きい材料からなるn型のZnO系化合物半導体層が設けられてなる請求項54記載の半導体発光素子。
【請求項56】
絶縁基板と、該絶縁基板上に設けられるGaN系化合物半導体からなるp型層および該p型層の上に設けられるZnO系化合物半導体からなるn型層とにより形成される発光層形成部と、該n型層上に設けられるn側電極と、前記ZnO系化合物半導体層の一部がエッチングにより除去されて露出する前記p型層上に設けられるp側電極とからなる半導体発光素子。
【請求項57】
前記発光層形成部がGaN系化合物半導体からなるp型層、該p型層よりバンドギャップエネルギーが小さいZnO系化合物半導体からなる活性層、および該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいZnO系化合物半導体からなるn型層を有する半導体レーザ構造であり、前記活性層へ電流を注入する領域を除いて前記積層されたZnO系化合物半導体層がエッチング除去されてなる請求項56記載の半導体発光素子。
【請求項58】
前記p型層と前記活性層との間に、該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいn型のZnO系化合物半導体からなる緩衝層が設けられてなる請求項57記載の半導体発光素子。
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられ、電流注入により発光する活性層を該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなるn型およびp型のクラッド層とにより挟持する発光層形成部とを有する半導体発光素子であって、前記活性層がCdおよびZnの少なくとも一方を含むZnO系酸化物化合物半導体からなる半導体発光素子。
【請求項2】
前記クラッド層がZnO系酸化物化合物半導体からなる請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記クラッド層がIII 族チッ化物化合物半導体である請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)である請求項1、2または3記載の半導体発光素子。
【請求項5】
電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面から挟持するクラッド層とを有する半導体発光素子であって、前記クラッド層がZnまたはMgとZnを含むZnO系酸化物化合物半導体からなる半導体発光素子。
【請求項6】
前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)である請求項5記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記クラッド層および活性層が積層される基板が、GaN、SiCを表面に形成したSi、単結晶SiC、サファイアの群から選ばれる1種である請求項1、2、3、4、5または6記載の半導体発光素子。
【請求項8】
前記活性層が、単一量子井戸構造または多重量子井戸構造である請求項1、2、3、4、5、6または7記載の半導体発光素子。
【請求項9】
電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面から挟持するn型およびp型のクラッド層とを有し、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)からなり、前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなり、内部電流狭窄層が作り込まれてなる半導体レーザ。
【請求項10】
CdOとZnOとを固溶化して、一般式がCdx Zn1-x O(0≦x<1)で表される混晶とすることにより、ZnOのバンドギャップを小さくするZnO化合物半導体のナローバンドギャップ化方法。
【請求項11】
前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)のバルク層またはCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、前記活性層のn型クラッド層側およびp型クラッド層側の少なくとも一方側に、前記活性層よりバンドギャップが大きく、かつ、前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する組成の材料の格子定数とほぼ等しくなるような組成の材料からなるストレス緩和層が前記活性層と接して設けられてなる請求項1記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記ストレス緩和層がMgw Zn1-w O(0≦w<1)からなり、前記クラッド層がMgおよびZnを含む酸化物化合物半導体からなる請求項11記載の半導体発光素子。
【請求項13】
電流注入により発光する活性層と、該活性層よりバンドギャップが大きい材料からなり前記活性層を両面側から挟持するn型およびp型のクラッド層とを有し、前記活性層がCdx Zn1-x O(0≦x<1)の組成変調により構成した量子井戸構造からなり、前記活性層のn型クラッド層側およびp型クラッド層側の少なくとも一方側に、Mgw Zn1-w O(0≦w<1)で、かつ、前記少なくとも一方側の活性層の最も外側に位置する組成の格子定数とほぼ等しくなるような組成からなるストレス緩和層が前記活性層と接して設けられてなる半導体レーザ。
【請求項14】
前記クラッド層がMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなり、前記ストレス緩和層と前記n型またはp型クラッド層との間に光ガイド層が設けられてなる請求項13記載の半導体レーザ。
【請求項15】
前記活性層と上部クラッド層との間の少なくとも前記活性層側に低温ZnO層が設けられてなる請求項4記載の半導体発光素子。
【請求項16】
前記低温ZnO層が、100〜1000Åの厚さに設けられてなる請求項15記載の半導体発光素子。
【請求項17】
Cdを含むZnO系化合物半導体からなる活性層をZnO系化合物半導体からなるクラッド層により挟持するZnO系化合物半導体発光素子の製法であって、Cdを含むZnO系化合物半導体からなる活性層を成長した後、該活性層の成長温度と同程度の低温でZnOからなるCdの蒸発防止層を成長し、ついでZnO系化合物半導体層を高温で成長することを特徴とするZnO系化合物半導体発光素子の製法。
【請求項18】
サファイア基板と、該サファイア基板上に設けられるAl2 O3 膜からなるバッファ層と、該バッファ層上に設けられるZnO系化合物半導体からなり、少なくともn型層とp型層とを含み発光層を形成する発光層形成部とを有する半導体発光素子。
【請求項19】
前記発光層形成部が、Cdx Zn1-x O(0≦x<1)からなる活性層をMgy Zn1-y O(0≦y<1)からなるn型とp型のクラッド層で挟持したダブルヘテロ接合構造を有する請求項18記載の半導体発光素子。
【請求項20】
サファイア基板上に低温でAl2 O3 膜を堆積し、ついで該サファイア基板を結晶成長し得る温度に上昇してからZnO系化合物半導体からなり、第1導電形層および第2導電形層を含み発光層を形成する発光層形成部を成長することを特徴とする半導体発光素子の製法。
【請求項21】
基板と、該基板上に設けられ、酸化物化合物半導体層からなり発光層形成部を含む半導体積層部とを有し、前記基板の表面に前記半導体積層部の半導体層を成長する温度より低温でZnを含む酸化物薄膜が緩衝層として設けられ、前記半導体積層部との間に介在されてなる半導体発光素子。
【請求項22】
前記緩衝層が、100〜300℃の間で、MBE法、MOCVD法、またはプラズマCVD法により、20〜200nmの厚さに形成されてなる請求項21記載の半導体発光素子。
【請求項23】
基板上に、スパッタ法、真空蒸着法、またはレーザアブレーション法によりZnを含む酸化物薄膜を非晶質または多結晶で成膜し、ついで、前記基板を半導体層のエピタキシャル成長装置に入れて成長温度に基板温度を上昇させ、その後酸化物化合物半導体層を積層して発光層形成部を形成することを特徴とする半導体発光素子の製法。
【請求項24】
基板と、該基板上に設けられる化合物半導体層からなりn型層とp型層とを有し発光層を形成する発光層形成部を含む半導体積層部とからなり、前記半導体積層部の最下層におけるエピタキシャル成長層の熱膨張係数より大きく、かつ、前記基板の熱膨張係数より小さい熱膨張係数を有する材料からなる緩衝層が前記基板と前記半導体積層部との間に設けられてなる半導体発光素子。
【請求項25】
前記基板がサファイア基板からなり、前記最下層のエピタキシャル成長層がZnO系化合物半導体からなり、前記緩衝層がウルツアイト構造の化合物半導体である請求項24記載の半導体発光素子。
【請求項26】
前記緩衝層がAlp Ga1-p N(0≦p≦1)である請求項25記載の半導体発光素子。
【請求項27】
基板と、該基板上に設けられ、少なくともn型層を有するZnO系化合物半導体の積層により発光層を形成する発光層形成部を有するZnO系化合物半導体素子であって、前記ZnO系化合物半導体のn型層に接触して設けられるn側電極は、該n型層に接する部分がAlを含まないTiまたはCrにより形成されてなるZnO系化合物半導体発光素子。
【請求項28】
前記Alを含まないTiまたはCrの層上に、TiとAlが含まれた層が設けられてなる請求項27記載の半導体発光素子。
【請求項29】
前記TiとAlが含まれた層が設けられた後にアニール処理により該TiとAlとが合金化されてなる請求項28記載の半導体発光素子。
【請求項30】
ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際に、VIIB族の元素を緩衝剤として導入しながらIA族の元素をp型ドーパントとして導入し、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長するp型ZnO系化合物半導体の成長方法。
【請求項31】
前記IA族の元素として、Li、Na、KおよびRbの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられ、前記VIIB族の元素として、F、Cl、BrおよびIの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられる請求項30載の成長方法。
【請求項32】
前記導入されるIA族の元素のモル数が、前記VIIB族の元素のモル数より大きい請求項30または31記載の成長方法。
【請求項33】
ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長する際に、IIIB族の元素を緩衝剤として導入しながらVB族の元素をp型ドーパントとして導入し、ZnO系化合物半導体をエピタキシャル成長するp型ZnO系化合物半導体の成長方法。
【請求項34】
前記VB族の元素として、N、P、AsおよびSbの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられ、前記IIIB族の元素として、B、Al、Ga、InおよびTlの群れからなる少なくとも1種の元素が用いられる請求項33記載の成長方法。
【請求項35】
前記導入されるVB族の元素のモル数が、前記IIIB族の元素のモル数より大きい請求項33または34記載の成長方法。
【請求項36】
基板と、該基板上に設けられるZnO系化合物半導体層からなりn型層とp型層とにより発光層を形成する発光層形成部とを有する半導体発光素子であって、前記p型層にn型ドーパントとなり得る元素が緩衝剤として含まれてなる半導体発光素子。
【請求項37】
ZnO系酸化物化合物半導体からなる活性層をZnO系酸化物化合物半導体からなるn型層およびp型層により挟持する発光層形成部をMOCVD法によりエピタキシャル成長する半導体発光素子の製法であって、前記p型層の成長を、該半導体層の薄膜を成長する工程、およびp型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、の交互の繰返しにより行う半導体発光素子の製法。
【請求項38】
p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する方法であって、化合物半導体層を成長する反応ガスを成長装置内に導入して該半導体層の薄膜を成長する工程、および該工程の後に前記半導体層を成長する反応ガスをパージし、その後p型ドーパントガスを導入してドーピングを行う工程、を交互に繰り返すことによりp型半導体層を成長するp型化合物半導体の気相成長方法。
【請求項39】
前記半導体層を成長する反応ガスとして、有機金属材料のみを使用する請求項38記載の成長方法。
【請求項40】
前記反応ガスをパージするのに、チッ素または0族の希ガスを前記成長装置内に導入することにより行う請求項38記載の成長方法。
【請求項41】
p型化合物半導体層をMOCVD法によりエピタキシャル成長する方法であって、p型ドーパントガスとして、該ドーパントの元素が水素原子と直接結合しない構造の材料を用いる化合物半導体の気相成長方法。
【請求項42】
基板と、該基板上に設けられるZnO系化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部を有するZnO系化合物半導体素子であって、前記ZnO系化合物半導体層にC元素が含まれてなるZnO系化合物半導体発光素子。
【請求項43】
前記C元素がZnO系化合物半導体層を成長する際のZn材料として用いられる有機金属化合物のCである請求項42記載の半導体発光素子。
【請求項44】
基板上にZnO系化合物半導体層を積層して発光層を形成するZnO系化合物半導体発光素子の製法であって、前記ZnO系化合物のZn材料としてZnの有機金属化合物を前記基板の表面に照射しながら該基板表面で反応させて前記ZnO系化合物半導体を前記基板上にエピタキシャル成長することを特徴とするZnO系化合物半導体発光素子の製法。
【請求項45】
基板と、該基板上に設けられる第1導電形半導体からなる第1クラッド層と、該第1クラッド層上に設けられる活性層と、該活性層上に設けられる第2導電形半導体からなる第2クラッド層と、該第2クラッド層の内部またはその近傍に設けられる電流狭窄層とを有し、前記電流狭窄層がIA族またはVB族の元素がドーピングされたZnO系化合物半導体からなる半導体レーザ。
【請求項46】
前記第1クラッド層、活性層、および第2クラッド層がZnO系またはGaN系化合物半導体からなる請求項45記載の半導体レーザ。
【請求項47】
前記電流狭窄層が、Mgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる請求項45または46記載の半導体レーザ。
【請求項48】
基板と、該基板上に設けられる第1導電形半導体からなる第1クラッド層と、該第1クラッド層上に設けられる活性層と、該活性層上に設けられる第2導電形半導体からなる第2クラッド層と、該第2クラッド層の内部またはその近傍に設けられるMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる電流狭窄層とを有し、前記電流狭窄層の前記基板側にCds Zn1-s O(0<s<1)またはBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層が設けられてなる半導体レーザ。
【請求項49】
基板上にZnO系化合物半導体からなる第1導電形クラッド層、活性層および第2導電形下部クラッド層を成長し、該第2導電形下部クラッド層上にCds Zn1-s O(0<s<1)からなるエッチングストップ層およびMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる絶縁性または第1導電形の電流狭窄層を成長し、アルカリ溶液により前記電流狭窄層をエッチングして電流注入領域を形成し、さらにZnO系化合物半導体からなる第2導電形の上部クラッド層を成長する半導体レーザの製法。
【請求項50】
基板上にZnO系化合物半導体からなる第1導電形クラッド層、活性層および第2導電形下部クラッド層を成長し、該第2導電形下部クラッド層上にBet Zn1-t O(0<t<1)からなるエッチングストップ層およびMgz Zn1-z O(0≦z<1)からなる絶縁性または第1導電形の電流狭窄層を成長し、酸性またはアルカリ性のエッチング液により前記電流狭窄層をエッチングして電流注入領域を形成し、さらにZnO系化合物半導体からなる第2導電形の上部クラッド層を成長する半導体レーザの製法。
【請求項51】
n型のZnO系化合物半導体からなるn型層と、IA族、IB族、およびVB族の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素がZnO系化合物半導体層にドープされたドープ層と、該ドープ層の表面に設けられる導電層とからなる酸化物化合物半導体発光ダイオード。
【請求項52】
前記n型層にIII B族の元素がドープされた請求項51記載の半導体発光ダイオード。
【請求項53】
基板と、該基板上に設けられ、n型層およびp型層を少なくとも有する化合物半導体層の積層により発光層を形成する発光層形成部とを具備し、前記n型層がZnO系化合物半導体からなり、前記p型層がGaN系化合物半導体からなる半導体発光素子。
【請求項54】
前記n型層とp型層との間にCdx Zn1-x O(0≦x≦0.5)からなる活性層が設けられてなる請求項53記載の半導体発光素子。
【請求項55】
前記活性層と前記p型層との間に該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きい材料からなるn型のZnO系化合物半導体層が設けられてなる請求項54記載の半導体発光素子。
【請求項56】
絶縁基板と、該絶縁基板上に設けられるGaN系化合物半導体からなるp型層および該p型層の上に設けられるZnO系化合物半導体からなるn型層とにより形成される発光層形成部と、該n型層上に設けられるn側電極と、前記ZnO系化合物半導体層の一部がエッチングにより除去されて露出する前記p型層上に設けられるp側電極とからなる半導体発光素子。
【請求項57】
前記発光層形成部がGaN系化合物半導体からなるp型層、該p型層よりバンドギャップエネルギーが小さいZnO系化合物半導体からなる活性層、および該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいZnO系化合物半導体からなるn型層を有する半導体レーザ構造であり、前記活性層へ電流を注入する領域を除いて前記積層されたZnO系化合物半導体層がエッチング除去されてなる請求項56記載の半導体発光素子。
【請求項58】
前記p型層と前記活性層との間に、該活性層よりバンドギャップエネルギーの大きいn型のZnO系化合物半導体からなる緩衝層が設けられてなる請求項57記載の半導体発光素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
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【図28】
【図29】
【図30】
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【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
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【図44】
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【図47】
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【図29】
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【図46】
【図47】
【公開番号】特開2009−33184(P2009−33184A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223715(P2008−223715)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【分割の表示】特願2000−570846(P2000−570846)の分割
【原出願日】平成11年9月9日(1999.9.9)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【分割の表示】特願2000−570846(P2000−570846)の分割
【原出願日】平成11年9月9日(1999.9.9)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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