説明

半導体発光素子

【課題】 ホールの供給を促して、発光効率を向上させた半導体発光素子を提供する。
【解決手段】 半導体発光素子10では、第1導電型の第1不純物濃度を有する井戸層と第1不純物濃度より高い第1導電型の第2不純物濃度を有する障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造の発光層13が、第1半導体層12上に部分的に設けられている。バンドギャップが略一様で単一の組成を有する第2導電型の第2半導体層15、16が発光層13上に設けられている。第1電極21、22は、第1半導体層13上に設けられている。第2電極23、24が、第2半導体層16上に設けられている。発光層13に平行な方向における第1電極22と第2電極24の間の第1の距離L1が、発光層13に垂直な方向における第1電極21、22と第2電極23、24の間の第2の距離L2より大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窒化物半導体発光素子には、井戸層と井戸層より高いN型不純物濃度を有する障壁層が交互に積層された量子井戸構造の発光層と、発光層とP型GaNクラッド層の間に設けられたP型AlGaNオーバフロー防止層を有するものがある。
【0003】
バンドギャップが広く高いN型不純物濃度を有する障壁層は、バンドギャップの狭い井戸層に電子を供給する。P型AlGaNオーバフロー防止層は、伝導帯側に障壁を形成して電子が発光層からオーバフローするのを防止する。これにより、井戸層内の電子濃度を増加させている。
【0004】
然しながら、P型AlGaNオーバフロー防止層は、バンドギャップが広いため価電子帯側にも低いながら障壁を形成するという問題がある。
【0005】
P側電極とN側電極が発光層に垂直な方向より発光層に平行な方向に大きく離間している(P側電極とN側電極が対向していない)場合、キャリアが発光層に垂直な方向に移動しようとする力は弱くなる。
【0006】
その結果、質量の重いホールはP型AlGaNオーバフロー防止層により形成される価電子帯側の障壁を乗り越えることが難しくなる。ホールが井戸層に十分に供給されなくなり、十分なホール濃度が得られない。
【0007】
従って、井戸層内の電子に対してホールが不足するので、電子がホールと十分発光再結合することができなくなり、高い発光効率が得られないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−40838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ホールの供給を促して、発光効率を向上させた半導体発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一つの実施形態によれば、半導体発光素子では、第1導電型の第1不純物濃度を有する井戸層と前記第1不純物濃度より高い第1導電型の第2不純物濃度を有する障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造の発光層が、第1導電型の第1半導体層上に部分的に設けられている。バンドギャップが略一様で単一の組成を有する第2導電型の第2半導体層が、前記発光層上に設けられている。第1電極が前記第1半導体層上に設けられている。第2電極が前記第2半導体層上に設けられている。前記発光層に平行な方向における前記第1電極と前記第2電極の間の第1の距離が、前記発光層に垂直な方向における前記第1電極と前記第2電極の間の第2の距離より大きい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1に係る半導体発光素子を示す図。
【図2】実施例1に係る半導体発光素子の要部を示す断面図。
【図3】実施例1に係る比較例の半導体発光素子を示す断面図。
【図4】実施例1に係る半導体発光素子のエネルギーバントを比較例と対比して説明する図。
【図5】実施例1に係る半導体発光素子のキャリアの流れを比較例と対比して説明する図
【図6】実施例1に係る半導体発光素子の特性を比較例と対比して示す図。
【図7】実施例1に係る半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図8】実施例1に係る別の半導体発光素子を示す図。
【図9】実施例2に係る半導体発光素子を示す図。
【図10】実施例2に係る半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【図11】実施例2に係る半導体発光素子の製造工程を順に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0013】
本実施例に係る半導体発光素子について、図1および図2を用いて説明する。図1は本実施例の半導体発光素子を示す図で、図1(a)はその平面図、図1(b)は図1(a)のA−A線に沿って切断し矢印方向に眺めた断面図、図2は要部を拡大して示す断面図である。本実施例の半導体発光素子は、窒化物半導体を用いた青色LED(Light Emitting Diode)である。
【0014】
図1に示すように、本実施例の半導体発光素子10では、半導体積層体11は第1導電型の第1半導体層であるN型GaNクラッド層12と、多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造の発光層13と、第2導電型の第2半導体層であるP型GaNクラッド層15およびP型GaNコンタクト層16とが順に積層された多層構造の窒化物半導体積層体である。
【0015】
半導体積層体11は、発光層13から放出される光に対して透明な基板17、例えばサファイア基板上に形成されている。
【0016】
半導体積層体11は、N型GaNクラッド層12の一部を露出するように、一端側が矩形状に切り欠かれた切り欠き部18と、切り欠き部18から他端側に向かう第1の方向(図の−X方向)に延在した湾入部19を有している。
【0017】
N型GaNクラッド層12上に第1電極である第1パッド電極21および第1細線電極22が設けられている。第1パッド電極21は、切り欠き部18に設けられている。第1細線電極22は、第1パッド電極21から湾入部19に沿って設けられている。
【0018】
第1パッド電極21および第1細線電極22は、例えばN型GaNにオーミックコンタクト可能なチタン(Ti)/白金(Pt)/金(Au)の積層膜である。
【0019】
P型GaNコンタクト層16上に第2電極である第2パッド電極23および第2細線電極24が設けられている。第2パッド電極23は、他端側に設けられている。第2細線電極24は、第2パッド電極23から第1細線電極22を囲うように設けられている。
【0020】
第2細線電極24は、第2パッド電極23から±Y方向に延在し、曲折して+X方向に延在する配線24aおよび配線24bを有している。
【0021】
第2パッド電極23および第2細線電極24は、例えばP型GaNにオーミックコンタクト可能な金(Au)またはアルミニウム(Al)膜である。
【0022】
第1細線電極22および第2細線電極24は、周辺部まで電流を拡げるために設けられている。発光層13に平行な方向における第1細線電極22と第2細線電極24の距離L1(第1の距離)は、発光層13に垂直な方向における第1細線電極22と第2細線電極24の距離L2(第2の距離)より十分大きく設定されている。
【0023】
距離L1は、半導体発光素子の製造工程におけるエッチングやマスク合わせの精度を考慮すると少なくとも数μm以上必要である。更に、電流を拡げるためには数十μm以上必要である。
【0024】
一方、距離L2は、P型GaNコンタクト層16から露出したN型GaNクラッド層12の上面までの厚さ(1μm以下)である。
【0025】
N型GaNクラッド層12は、例えば厚さが4μm、N型不純物濃度が1E19cm−3である。P型GaNクラッド層15は、例えば厚さが100nm、P型不純物濃度が1E20cm−3である。P型GaNコンタクト層16は、例えば厚さが5nm、P型不純物濃度が1E21cm−3である。
【0026】
図2は発光層13を示す断面図である。図2に示すように、発光層13は、例えばInGaN障壁層25とInGaN井戸層26とが交互に12対積層されている。最上面はInGaN障壁層25である。
【0027】
InGaN障壁層25は、例えばIn組成比が0.05、厚さが10nm、N型不純物濃度(第2不純物濃度)は2E18cm−3である。InGaN井戸層26は、例えばIn組成比が0.2、厚さが2.5nm、N型不純物濃度(第1不純物濃度)は1E16cm−3以下である。
【0028】
発光層13は、バンドギャップの広いInGaN障壁層25にN型不純物としてシリコン(Si)が高濃度にドープされ、バンドギャップの狭いInGaN井戸層26をアンドープとした、所謂変調ドープ(Modulation Doping)構造である。
【0029】
変調ドープとは、周知のように半導体素子内において場所により意図的に不純物のドーピング量に強弱をつけることである。バンドギャップの異なる半導体層の界面ではエネルギー準位の不連続が生じ、電子はバンドギャップの狭い層に溜まる。
【0030】
自由電子を供給させるためのN型不純物はバンドギャップの広い半導体層内にのみドーピングし、バンドギャップの狭い半導体層内には不純物をドーピングしなければ、バンドギャップの広い半導体層からバンドギャップの狭い半導体層内に自由電子が供給され、且つバンドギャップの狭い半導体層内で不純物による自由電子の散乱を避けることができる。
【0031】
第1パッド電極21と第2パッド電極23の間に電圧を印加することにより、発光層13に注入されたキャリアが発光再結合し、例えばピーク波長が約450nmの光が放出される。
【0032】
上述した半導体発光素子10は、発光層13を変調ドープ構造としてInGaN井戸層26内の電子濃度を増加させ、電子がInGaN井戸層26と平行な方向に移動しやすくするとともに、第2半導体層内のバンドギャップを一様にして、価電子帯側に無用な障壁が生じるのを防止するように構成されている。
【0033】
その結果、電子のオーバフローは起こりにくくなるとともに、質量の重いホールがInGaN井戸層26内に供給されやすくなる。
【0034】
従って、第1細線電極22と第2細線電極24がX−Y面内で大きく離間している場合でも、十分な電子濃度およびホール濃度が得られるので、キャリアが発光再結合しやすくすることが可能である。
【0035】
次に、本実施例の半導体発光素子10の動作について比較例と対比して説明する。図3は比較例の半導体発光素子を示す図である。ここで比較例とは、P型AlGaNオーバフロー防止層を有する半導体発光素子のことである。
【0036】
図3に示すように、比較例の半導体発光素子30では、半導体積層体31は発光層13とP型GaNクラッド層15の間に設けられたP型AlGaNオーバフロー防止層32を有している。P型AlGaNオーバフロー防止層32は、例えばAl組成比が0.15、厚さが5nm、P型不純物濃度が1E20cm−3である。
【0037】
図4は本実施例の半導体発光素子のエネルギーバンドを比較例の半導体発光素子のエネルギーバンドと対比して説明するための図で、図4(a)が本実施例の半導体発光素子のエネルギーバンドを示す図、図4(b)が比較例の半導体発光素子のエネルギーバンドを示す図である。
【0038】
図4(b)に示すように、比較例の半導体発光素子30では、P型AlGaNオーバフロー防止層32を有しているので、伝導帯に高い障壁33だけでなく、価電子帯に低いながらも余分な障壁34が生じている。
【0039】
周知のように、第1パッド電極21と第2パッド電極23の間に電圧を印加すると、熱平衡状態よりも電子と正孔の密度が増えるので非平衡状態となり、二つの擬フェルミレヘレル35、36が生じている。フェルミレベルは、電子の擬フェルミレベル35が伝導帯に近付き、正孔の擬フェルミレベル36が価電子帯に近付くように別れる。
【0040】
障壁34がある場合、第2細線電極24から離れた領域ではホールが障壁34を越えにくくなり、第2細線電極24の第1細線電極22側近傍でしか再結合が起こらなくなる。
【0041】
その場合、キャリアが第2細線電極24脇に集中するため、オージェ(非発光)再結合が起こりやすく、一方、発光再結合は起こりにくいため効率が低下する。
【0042】
一方、図4(a)に示すように、本実施例の半導体発光素子10では、障壁33、34は生じない。変調ドープ構造により、電子はInGaN井戸層26全域に拡がっている。
【0043】
第2半導体層側のバンドギャップが一様で障壁がないため、ホールは全域でInGaN井戸層26に入りやすくなり、InGaN井戸層26の全域で再結合するようになる。
【0044】
再結合がInGaN井戸層26の全域に広がるため、キャリア密度が低くなり、オージェ(非発光)再結合が少なくなり、発光効率が上昇する。
【0045】
なお、格子不整合がある場合はバンドギャップが一様でも界面にピエゾ効果に起因する応力による段差ができるため、第2半導体層は組成も同一であるほうがより好ましい。本実施例では、第2半導体層はP型GaNクラッド層15とP型GaNコンタクト層16からなり、この要件を満たしている。
【0046】
図5は本実施例の半導体発光素子のキャリアの流れを比較例の半導体発光素子のキャリアの流れと対比して説明するための図で、図5(a)が本実施例の半導体発光素子のキャリアの流れを示す図、図5(b)が比較例の半導体発光素子のキャリアの流れを示す図ある。
【0047】
図5(b)に示すように、比較例の半導体発光素子30では、第1電極から離れた領域ではホールがオーバフロー防止層32により生じる価電子帯側の障壁34を越えられなくなるため、第1電極近傍のみで再結合する。発光再結合領域37は第1電極近傍に留まっている。
【0048】
一方、図5(a)に示すように、本実施例の半導体発光素子10では、第1電極から離れた領域までホールが再結合する。発光再結合領域38は第1電極から第2電極近傍まで拡がっている。
【0049】
大電流で高出力化するためには、キャリアの分布を広げるとともに、キャリア密度を低くした方が良い(大電流で影響が大きくなるオージェ(非発光)再結合を抑制)。
【0050】
要約すると、本実施例の効果を得るには、以下の要件を満たすことが必要である。1)第1電極および第2電極が水平方向に十分離れていること、2)変調ドープ構造により、電子が主にInGaN井戸層26内をInGaN井戸層26に平行な方向に移動させて、電子がオーバフローしにくくすること、3)第2半導体層のバンドギャップが一様で、ホールがInGaN井戸層26に入りやすいこと。
【0051】
図6は本実施例の半導体発光素子の特性を比較例の半導体発光素子の特性と対比して示す図で、図6(a)は電流−光出力特性を示す図、図6(b)は電流−電圧特性を示す図である。
【0052】
図6において、比較例1は図3に示す半導体発光素子30で、変調ドープ構造の発光層13とP型AlGaNオーバフロー層32を有する半導体発光素子のことである。比較例2は非変調ドープ構造の発光層とP型AlGaNオーバフロー層32を有する半導体発光素子のことである。
【0053】
図6(a)に示すように、電流−光出力特性において、比較例1の半導体発光素子は比較例2の半導体発光素子より若干高い光出力を示すが、その差は僅かである。一方、本実施例の半導体発光素子10では、電流によらず比較例1、2の半導体発光素子より約1.3倍高い光出力が得られている。
【0054】
これは、変調ドープ構造の発光層13により電子がInGaN井戸層26に十分供給されていても、P型AlGaNオーバフロー層32により価電子帯に生じる障壁34によりホールのInGaN井戸層26への注入が抑えられているため、InGaN井戸層26内の電子濃度の多少にかかわらず発光再結合が増えないことを示している。
【0055】
一方、本実施例の半導体発光素子10では、変調ドープ構造の発光層13により電子はInGaN井戸層26に十分供給されているとともに、価電子帯に障壁34が生じないため、ホールもInGaN井戸層26へ十分供給され、発光再結合が増えたことを示している。
【0056】
図6(b)に示すように、電流−電圧特性において、本実施例の半導体発光素子10と比較例1の半導体発光素子30にはほとんど差が見られない。一方、比較例2の半導体発光素子では、本実施例および比較例1の半導体発光素子10、30より電圧が約1.1倍高い値を示した。
【0057】
これは、比較例2の半導体発光素子では、発光層が変調ドープ構造でないため、井戸層に電子が十分供給されず電流が増えないことを示している。
【0058】
一方、比較例1の半導体発光素子30では、変調ドープ構造の発光層13により井戸層に電子が十分供給されて、電子トラップによるショックレー・リード・ホール(SRH)再結合(非発光再結合)およびSRH再結合による電流が増えたため、光出力は増加しなくとも電圧は低下したことを示している。従って、電子およびホールの両方の供給を増やすことが重要であることがわかる。
【0059】
次に、半導体発光素子10の製造方法について説明する。図7は半導体発光素子10の製造工程を順に示す断面図である。
【0060】
図7(a)に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、エピタキシャル成長用の基板17(図示せず)にN型GaNクラッド層12、発光層13、P型GaNクラッド層15およびP型GaNコンタクト層16を順にエピタキシャル成長させて半導体積層体11を形成する。
【0061】
半導体積層体11の製造プロセスについては周知であるが、以下簡単に説明する。基板17としてC面サファイア基板を用い、前処理として、例えば有機洗浄、酸洗浄を施した後、MOCVD装置の反応室内に収納する。次に、例えば窒素(N)ガスと水素(H)ガスの常圧混合ガス雰囲気中で、高周波加熱により、基板17の温度を、例えば1100℃まで昇温する。これにより、基板17の表面が気相エッチングされ、表面に形成されている自然酸化膜が除去される。
【0062】
次に、NガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばアンモニア(NH)ガスと、トリメチルガリウム(TMG:Tri-Methyl Gallium)ガスを供給し、N型ドーパントとして、例えばシラン(SiH)ガスを供給し、厚さ4μmのN型GaN層12を形成する。
【0063】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガスおよびSiHガスの供給を停止し、基板17の温度を1100℃より低い温度、例えば800℃まで降温し、800℃で保持する。
【0064】
次に、Nガスをキャリアガスとし、プロセスガスとして、例えばNHガス、TMGガスおよびトリメチルインジウム(TMI:Tri-Methyl Indium)ガスを供給し、N型ドーパントとしてSiHガスを供給し、厚さ10nm、In組成比が0.05、N型不純物濃度が2E18cm−3のInGaN障壁層25を形成する。
【0065】
尚、InGaN障壁層25にN型不純物をInGaN井戸層26との界面直近までドープすると、InGaN井戸層26にN型不純物が染み出すため、界面近傍はN型不純物のドープ量を減らしたほうが良い。
【0066】
SiHガスの供給を停止し、TMIガスの供給を増やすことにより、厚さ2.5nm、In組成比が0.2のInGaN井戸層26を形成する。
【0067】
次に、SiHガスの供給を断続するとともに、TMIガスの供給を増減することにより、InGaN障壁層25とInGaN井戸層26の形成を、例えば12回繰返す。これにより、発光層13が得られる。
【0068】
次に、TMGガス、NHガスは供給し続けながらTMIガスの供給を停止し、アンドープで厚さ5nmのGaNキャップ層(図示せず)を形成する。
【0069】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガスの供給を停止し、Nガス雰囲気中で、基板17の温度を800℃より高い温度、例えば1030℃まで昇温し、1030℃で保持する。
【0070】
次に、NガスとHガスの混合ガスをキャリアガスとし、プロセスガスとしてNHガス、TMGガス、P型ドーパントとしてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)ガスを供給し、厚さが40nm、Mg濃度が1E20cm−3程度のP型GaNクラッド層15を形成する。
【0071】
次に、Cp2Mgガスの供給を増やして、厚さ10nm、Mg濃度が1E21cm−3程度のP型GaNコンタクト層16を形成する。
【0072】
次に、NHガスは供給し続けながらTMGガスの供給を停止し、キャリアガスのみ引き続き供給し、基板17を自然降温する。NHガスの供給は、基板17の温度が500℃に達するまで継続する。これにより、基板17上に半導体積層体11が形成され、P型GaNコンタクト層16が表面になる。
【0073】
次に、図7(b)に示すように、P型GaNコンタクト層16上に、切り欠き部18と湾入部19に対応する開口を有するレジスト膜41をフォトリソグラフィ法により形成する。
【0074】
次に、図7(c)に示すように、レジスト膜41をマスクとして、塩素系ガスを用いたRIE法により、P型GaNコンタクト層16からN型GaNクラッド層12の上部までを異方性エッチングし、N型GaNクラッド層12の一部を露出させる。これにより、切り欠き部18および湾入部19が得られる。
【0075】
次に、レジスト膜41を、例えばアッシャーを用いて除去した後、周知の方法により、N型GaN層12上であって、切り欠き部18に第1パッド電極21と、第1パッド電極21から湾入部19に沿った第1細線電極22を形成する。
【0076】
P型GaNコンタクト層16上であって、他端側に第2パッド電極23と、第2パッド電極23から±Y方向に延在し、曲折して+X方向に延在する第2細線電極24を形成する。これにより、図1に示す半導体発光素子10が得られる。
【0077】
以上説明したように、本実施例の半導体発光素子10では、発光層13を変調ドープ構造として、InGaN井戸層26内の電子濃度を増加させ、第2半導体層のバンドギャップを一様にして、価電子帯側に無用な障壁が生じるのを防止している。
【0078】
その結果、電子がInGaN井戸層26内を移動しやすくなり、キャリアが水平方向に流れやすくなり、電子のオーバフローは起こりにくくなる。質量の重いホールがInGaN井戸層26内に注入されやすくなる。
【0079】
電子およびホールとも注入効率が向上し、キャリアが発光再結合しやすくなる。従って、ホールの供給を促して、発光効率を向上させた半導体発光素子が得られる。
【0080】
半導体発光素子10に、透明導電膜および超格子バッファ層を設けることが可能である。図8は透明導電膜および超格子バッファ層が設けられた半導体発光素子を示す断面図である。
【0081】
図8に示すように、半導体発光素子50では、半導体積層体51はN型GaNコンタクト層12と発光層13の間に設けられた超格子バッファ層52を有している。P型GaNコンタクト層16上に、発光層13から放出される光に対して透光性を有する透明導電膜53が設けられている。
【0082】
超格子バッファ層52は、InGaN井戸層とInGaN障壁層が交互に30対積層されている。InGaN井戸層は、In組成が発光層13のInGaN井戸層26と異なっている。
【0083】
InGaN井戸層は、例えば厚さ1nm、N型不純物濃度(第3不純物濃度)が1E16cm−3以下である。InGaN障壁層は、例えば厚さ3nm、N型不純物濃度(第4不純物濃度)が2E18cm−3である。
【0084】
周知のように、超格子バッファ層52は、N型GaNクラッド層12から転位などの結晶欠陥が発光層13に伝播するのを抑制するので、発光層13の結晶性が向上する。その結果、発光効率が向上する利点がある。
【0085】
超格子バッファ層52は、発光層13と同じく変調ドープ構造なので、発光層13のInGaN井戸層26に電子を供給することができる利点がある。
【0086】
透明導電膜53は、例えば厚さ0.1乃至0.2μmのITO(Indium Tin Oxide)膜である。第2パッド電極23および第2細線電極24は、透明導電膜53上に設けられている。透明導電膜53により、半導体発光素子50の周辺まで電流を広げるのが容易になる。
【0087】
電流を広げるためにはITO膜を厚くした方が良い。一方、ITO膜はわずかであるが光を吸収してしまうため、光を取り出すためには薄い方が好ましい。以後、透明導電膜をITO膜とも記す。
【0088】
透明導電膜53は、半導体積層体11の側面に沿って流れる表面電流を抑制するために、P型GaNコンタクト層16のエッジより距離L3、例えば10μmだけ内側に形成されている。距離L3は、発光層13に注入される少数キャリアの拡散長(μmオーダ)の10倍以上が好ましい。
【0089】
P型GaNコンタクト層16は、例えば不純物濃度が1E21cm−3で、移動度を10cm/V・sとすると、抵抗率は約5E−4Ωcmである。P型GaNコンタクト層16の厚さが5nmのとき、P型GaNコンタクト層16のシート抵抗は、約1kΩ/□となる。
【0090】
透明導電膜53の抵抗率は、製法や条件により異なるが、2E−4Ωcmとすることは可能である。透明導電膜53のシート抵抗は、十分な透過率、例えば80%以上が得られる厚さである0.2μm以下でも、12Ω/□以下となる。
【実施例2】
【0091】
本実施例に係る半導体発光素子について図9を用いて説明する。図9は本実施例の半導体発光素子を示す図で、図9(a)はその平面図、図9(b)は基板に実装された半導体発光素子を図9(a)のB−B線に沿って切断し矢印方向に眺めた断面図である。
【0092】
本実施例において、上記実施例1と同一の構成部分には同一符号を付してその部分の説明は省略し、異なる部分について説明する。本実施例が実施例1と異なる点は、N型GaNクラッド層側から光を取り出すようにしたことにある。
【0093】
即ち、図9に示すように、本実施例の半導体発光素子60はフリップチップで、P型GaNコンタクト層16側が基板61にマウントされ、発光層13から放出された光がN型GaNクラッド層12側から取り出されるように構成されている。
【0094】
半導体積層体11は、外周部のN型GaNクラッド層12が全て露出するように、外周部が除去されている。半導体積層体11は凸型形状である。
【0095】
露出したN型GaNクラッド層12上には、一端側に第1パッド電極62が設けられ、第1パッド電極62からN型GaNクラッド層12の外周に沿ってP型GaNコンタクト層16を囲むように第1細線電極63が設けられている。第1パッド電極62は円形状であり、第1細線電極63は電流を広げるために額縁状である。
【0096】
P型GaNコンタクト層16上には、外縁部を除く全面に第2パッド電極64が設けられている。第2パッド電極64は矩形状である。
【0097】
発光層13に平行な方向における第1パッド電極62と第2パッド電極64の距離L4(第1の距離)は、発光層13に垂直な方向における第1パッド電極62と第2パッド電極64の距離L2(第2の距離)より十分大きく設定されている。
【0098】
基板61は絶縁基板で、例えばセラミックス基板ある。基板61上には、第1パッド電極62および第1細線電極63に対応する基板第1電極65が設けられ、第2パッド電極64と対応する基板第2電極66が設けられている。基板第1電極65および基板第2電極66は、例えば金錫(AuSn)合金である。
【0099】
第1パッド電極62および第1細線電極63と基板第1電極65が重ね合わされ、第2パッド電極64と基板第2電極66が重ね合わされ、半導体積層体11が基板61に接合されている。
【0100】
基板第1電極65と基板第2電極66の間に電圧を印加することにより、発光層13に注入されたキャリアが発光再結合し、例えばピーク波長が約450nmの青色光が放出される。
【0101】
発光層13からP型GaNコンタクト層16側に放出された光の一部は、第2パッド電極64で反射され、N型GaNクラッド層12側から取り出される。
【0102】
本実施例の半導体発光素子60においても、第1パッド電極62と第2パッド電極64は発光層13に平行な方向に十分離間しているので、図1に示す半導体発光素子10と同様に、発光効率が向上し光出力を増加させることが可能である。
【0103】
また、N型GaNクラッド層12から光を取り出しやすくするために、N型GaNクラッド層12の上に樹脂67が設けられている。樹脂67にYAG蛍光体を含有させることにより、高出力の白色光を得ることができる。
【0104】
次に、半導体発光素子60の製造方法について説明する。図10および図11は半導体発光素子60の製造工程を示す断面図である。
【0105】
図10(a)に示すように、図7(a)乃至図7(c)と同様にして、MOCVD法により基板17に半導体積層体11を形成し、レジスト膜をマスクとしてRIE法により半導積層体11の外周部を異方性エッチングし、N型GaNクラッド層12の外周部を全て露出させる。
【0106】
露出したN型GaNクラッド層12上に、第1パッド電極62および第1細線電極63を形成する。P型GaNコンタクト層16上に、第2パッド電極64を形成する。
【0107】
次に、図10(b)に示すように、例えばレーザリフトオフ法により、基板17と半導積層体11を分離する。レーザリフトオフ法とは、高出力のレーザ光を照射することにより物質内部を部分的に加熱分解し、分解した部分を境に分離する手法である。
【0108】
具体的には、基板17を通過しN型GaNクラッド層12で吸収されるレーザを照射し、N型GaNクラッド層12を解離させて、基板17とN型GaNクラッド層12を分離する。
【0109】
例えばNd−YAGレーザの第4高調波(266nm)を基板17側から照射する。この光に対してサファイアは透明なので、照射された光は基板17を透過してN型GaNクラッド層12で有効に吸収される。
【0110】
基板17との界面近傍のN型GaNクラッド層12には多くの結晶欠陥が存在するために、吸収された光はほとんど全てが熱に変換され、2GaN=2Ga+N(g)↑なる反応が生じ、GaNはGaとNガスに解離する。
【0111】
レーザは基板17との界面近傍のN型GaNクラッド層12に焦点を合わせることが適当である。レーザは、連続光(CW)でも、パルス光(PW)でもよいが、尖頭出力の高いパルス光であることが望ましい。
【0112】
尖頭出力の高いパルスレーザとしては、ピコ秒からフェムト秒オーダの超短パルス光が出力可能なQスイッチレーザ、モードロックレーザなどが適している。
【0113】
次に、図11に示すように、第1パッド電極62および第1細線電極63と基板第1電極65、第2パッド電極64と基板第2電極66をそれぞれ対向させて、半導体積層体11と基板61を重ね合わせる。
【0114】
基板61を加熱して金錫合金膜を溶融させ、半導体積層体11と基板61を接合する。AuSnは300℃程度に加熱されると溶融状態になるので、第1パッド電極62および第1細線電極63と基板第1電極65が融着し、第2パッド電極64と基板第2電極66が融着する。これにより、図9に示す基板61にマウントされた半導体発光素子60が得られる。
【0115】
以上説明したように、本実施例の半導体発光素子60では、P型GaNコンタクト層16側が基板61にマウントされ、発光層13から放出された光がN型GaNクラッド層12側から取り出される。
【0116】
この構造においても、第1パッド電極62と第2パッド電極64はN型GaNクラッド層12に平行な方向に十分離間しているので、図1に示す半導体発光素子10と同様に、発光効率が向上し光出力を増加させることができる。半導体発光素子60は、チップサイズが比較的大きい場合に適した構造である。
【0117】
金膜である第2パッド電極64を光反射膜として利用する場合について説明したが、光反射膜として金より光反射率の高い銀(Ag)を用いることにより、更に光出力を増加させることができる。
【0118】
その場合、第2パッド電極64を銀と金の積層膜とするとよい。初めに、例えばスパッタリング法により厚さ約300nmの銀膜を形成し、続いて厚さ約700nmの金膜を形成する。次に、熱処理を施す。これにより、P型GaNコンタクト層16と接触する銀膜が合金化し、金でオーバーコートされた2層の第2パッド電極64になる。
【0119】
金でオーバーコートすることにより、製造プロセス中での銀の変質(酸化、硫化)、マイグレーションなどによるトラブルが未然に防止される。また、銀は金よりも比抵抗が低く、熱伝導率も高いので、電気特性、熱特性などの向上が期待される。
【0120】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0121】
本発明は、以下の付記に記載されているような構成が考えられる。
(付記1) 前記第1半導体層はN型GaNクラッド層、前記第2半導体層はP型GaNクラッド層およびP型GaNコンタクト層である請求項1または請求項4に記載半導体発光素子。
【0122】
(付記2) 前記発光層は、Inx1Gay1Al(1−x1−y1)N井戸層(0<x1<1、0<y1≦1)と、Inx2Gay2Al(1−x2−y2)N障壁層(0≦x2<x1<1、0<y1<y2≦1)が交互に積層された多重量子井戸である請求項1または請求項4に記載の半導体発光素子。
【0123】
(付記3) 前記透明導電膜が、ITO膜、ZnO膜またはSnO膜である請求項3に記載の半導体発光素子。
【0124】
(付記4) 前記第3不純物濃度が1E16cm−3以下、前記第4不純物濃度が2E18cm−3以上である請求項6に記載の半導体発光素子。
【0125】
(付記5) 前記透明導電膜は前記第1半導体層のエッジより内側に設けられ、前記透明導電膜のエッジと前記第1半導体層のエッジの間の距離が、前記発光層に注入される少数キャリアの拡散長の10倍以上である請求項3に記載の半導体発光素子。
【符号の説明】
【0126】
10、30、50、60 半導体発光素子
11、31、51 半導体積層体
12 N型GaNクラッド層
13 発光層
15 P型GaNクラッド層
16 P型GaNコンタクト層
17、61 基板
18 切り欠き部
19 湾入部
21、62 第1パッド電極
22、63 第1細線電極
23、64 第2パッド電極
24 第2細線電極
25 InGaN障壁層
26 InGaN井戸層
32 P型AlGaNオーバフロー防止層
33、34 障壁
35、36 擬フェルミレベル
37、38 発光再結合領域
41 レジスト膜
52 超格子バッファ層
53 透明導電膜
65 基板第1電極
66 基板第2電極
67 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層上に部分的に設けられ、第1導電型の第1不純物濃度を有する井戸層と前記第1不純物濃度より高い第1導電型の第2不純物濃度を有する障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造の発光層と、
前記発光層上に設けられ、バンドギャップが略一様で単一の組成を有する第2導電型の第2半導体層と、
前記第1半導体層上に設けられた第1電極と、
前記第2半導体層上に設けられ、前記発光層に平行な方向における前記第1電極との第1の距離が前記発光層に垂直な方向における前記第1電極との第2の距離より大きい第2電極と、
を具備することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記発光層および前記第2半導体層には、前記第1半導体層の一部が露出するように、一端側に切り欠き部と、前記切り欠き部から他端側に向かう第1の方向に延在した湾入部が設けられ、
前記第1電極は、前記切り欠き部に設けられた第1パッド電極と、前記第1パッド電極から前記湾入部に沿って設けられ第1細線電極を有し、
前記第2電極は、前記他端側に設けられた第2パッド電極と、前記第2パッド電極から前記第1の方向に直交する第2の方向および前記第2の方向と反対の方向に延在し、曲折して前記第1の方向と反対の方向に延在する第2細線電極を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記第2半導体層上に設けられた透明導電膜を具備し、
前記第2電極は前記透明導電膜上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
中央部と前記中央部を囲む外周部を有する第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層の前記中央部に設けられ、第1導電型の第1不純物濃度を有する井戸層と前記第1不純物濃度より高い第1導電型の第2不純物濃度を有する障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造の発光層と、
前記発光層上に設けられ、バンドギャップが略一様で単一の組成を有する第2導電型の第2半導体層と、
前記第1半導体層上に前記外周部に沿って設けられた第1電極と、
前記第2半導体層を覆うように設けられた第2電極と、
を具備することを特徴とする半導体発光素子。
【請求項5】
前記第1不純物濃度が1E16cm−3以下、前記第2不純物濃度が2E18cm−3以上であることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記第1半導体層と前記発光層との間に、前記井戸層と組成が異なり、第1導電型の第3不純物濃度を有する井戸層と、前記第3不純物濃度より高い第1導電型の第4不純物濃度を有する障壁層が交互に積層された超格子バッファ層が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項4に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−102061(P2013−102061A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245023(P2011−245023)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】