説明

半導体発光素子

【課題】半導体発光素子の光取り出し効率を向上させる。
【解決手段】接合層180,220を介して支持構造体20と接合される発光構造体10は、接合層180,220の上に配置され、金属材料からなる反射層を備える第1反射部と、第1反射部の上に配置される発光層142を備える半導体積層部10sと、第1導電型クラッド層の光取り出し面となる面側の一部に配置される電極と、を有し、半導体積層部10sは、電極と第1導電型クラッド層との間に、屈折率の異なる2以上の半導体層を積層した第2反射部を備え、第2反射部の側面には、金属材料からなる第3反射部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関し、特に、支持基板を有する支持構造体と発光層を有する発光構造体とが接合層を介して接合される半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED)等の半導体発光素子の製造工程においては、AlGaInP系やAlGaAs系等の高品質結晶を有機金属気相成長(MOVPE:Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)法で成長させる技術の発達によって、青色、緑色、橙色、黄
色、赤色等の高輝度LEDが製作できるようになってきた。このような高品質の結晶が成長可能となってから、半導体発光素子の内部効率は理論限界値に近づきつつある。しかし半導体発光素子からの光取り出し効率はまだ低く、光取り出し効率を向上させることが重要となっている。
【0003】
そこで、例えば発光層を含む複数のエピタキシャル層をGaAs基板等の成長基板上に積層する際、発光層の下層のGaAs基板側に、屈折率が互いに異なる2以上の半導体層を積層したDBR層(分布ブラッグ反射層:Distributed Bragg Reflector)を設ける技
術が知られている。これにより、GaAs基板側へ向かう光を光取り出し面側へと反射させ、GaAs基板での光の吸収を抑えて光取り出し効率の向上を図ることができる。
【0004】
一方で、例えば特許文献1には、上記DBR層よりも反射効率の高い金属材料からなる反射層を導入した半導体発光素子が開示されている。係る半導体発光素子は、GaAs基板上で成長させた複数のエピタキシャル層を、金属層を介した貼り合せによりSi等の支持基板に移し替えることで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−175462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1等のように、基板側に反射層を設ける構造では、発光層が発した光や反射層により反射された光の一部は表面電極により吸収されてしまう。このため、充分な光取り出し効率が得られない場合があった。
【0007】
本発明の目的は、光取り出し効率を向上させることが可能な半導体発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、支持基板を有する支持構造体と発光層を有する発光構造体とが接合層を介して接合され、前記発光構造体は、前記接合層の上に配置され、金属材料からなる反射層と前記発光層が発する光の波長に対して光学的に透明な材料からなる透明層とを備える第1反射部と、前記第1反射部の上に配置され、一部が光取り出し面となる面を有する第1導電型クラッド層と前記第1導電型とは異なる導電型の第2導電型クラッド層との間に挟まれる前記発光層を備える半導体積層部と、前記第1導電型クラッド層の光取り出し面となる面側の一部に配置される電極と、を有し、前記半導体積層部は、前記電極と前記第1導電型クラッド層との間に、屈折率の異なる2以上の半導体層を積層した第2反射部を備え、前記第2反射部の側面には、金属材料からなる第3反射部が設けら
れている半導体発光素子が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、前記第3反射部は、前記電極の上面と前記第2反射部の側面とを覆うパッド電極の一部である第1の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様によれば、前記電極は、前記半導体積層部の上面の一部に形成される表面電極であり、前記支持構造体は、前記支持基板の下面に形成される裏面電極を有し、前記発光構造体は、前記透明層の一部に形成され、前記表面電極と前記裏面電極とを電気的に接続する界面電極を有する第1又は2の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【0011】
本発明の第4の態様によれば、前記半導体積層部の積層方向に投じた前記表面電極の射影が、前記界面電極とは重なり合わない第3の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【0012】
本発明の第5の態様によれば、前記電極は、前記半導体積層部の上面の一部に形成される第1電極であり、前記発光構造体は、前記第1電極と同一面側に、前記半導体積層部とは非接触に形成された第2電極と、前記透明層の一部に形成され、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に接続する界面電極と、を有する第1又は2の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【0013】
本発明の第6の態様によれば、前記第2反射部は、前記発光層側から前記第2反射部へと0°より大きい所定入射角で斜めに入射する前記発光層が発する波長の光を反射するよう設計されている第1〜第5の態様のいずれかに記載の半導体発光素子が提供される。
【0014】
本発明の第7の態様によれば、前記第2反射部は、次式(1)より求められる厚さTの第1半導体層と、前記第1半導体層とは異なる屈折率を有し、次式(2)より求められる厚さTの第2半導体層と、を1つのペアとして積層される複数のペア層を有し、前記第1導電型クラッド層側の最下層の前記ペア層のうち、前記第2半導体層が前記第1導電型クラッド層と接する側に配置される第1〜第6の態様のいずれかに記載の半導体発光素子が提供される。
【0015】
【数1】

(ここで、式(1)及び式(2)中、λは前記発光層が発する光のピーク波長であり、θは前記第1導電型クラッド層から、前記第1導電型クラッド層に接する前記第2半導
体層へと入射する前記光の入射角(但し、0<θ)であり、ninは前記第1クラッド層の屈折率であり、nは前記第1半導体層の屈折率であり、nは前記第2半導体層の屈折率である。)
【0016】
本発明の第8の態様によれば、前記第2反射部は、複数の入射角θのそれぞれについて、前記式(1)よりそれぞれ求められる厚さTの前記第1半導体層と、前記式(2)よりそれぞれ求められる厚さTの前記第2半導体層と、を各ペアとして積層される前記ペア層を前記各入射角θにつき1ペア以上有する第7の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【0017】
本発明の第9の態様によれば、前記半導体積層部は、前記第1導電型クラッド層の光取り出し面となる面側の一部に配置される前記電極と前記電極側の最上層の前記ペア層との間に第1導電型コンタクト層を備え、最上層の前記ペア層のうち、前記第1導電型コンタクト層と接する側に配置される前記第1半導体層は、AlAsからなり、前記第1導電型コンタクト層と、最上層の前記ペア層の前記第2半導体層とは、GaAsからなる第7又は8の態様に記載の半導体発光素子が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光取り出し効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子を示す図であって、(a)は半導体発光素子の断面図であり、(b)は半導体発光素子が有するn型DBR層の積層構造を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子における光の反射について説明する図であって、(a)は表面電極から導入される電流の経路を例示する模式図であり、(b)は垂直に入射する光を反射するよう設計されたn型DBR層が光を反射する様子を示す模式図であり、(c)は斜めに入射する光を反射するよう設計されたn型DBR層が光を反射する様子を示す模式図であり、(d)は電極側部が光を反射する様子を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子の製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子の製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る半導体発光素子を示す断面図であって、(a)と(b)とに、それぞれ異なる構成を例示する。
【図6】図5(a)の半導体発光素子における光の反射について説明する図であって、(a)は第1電極から導入される電流の経路を例示する模式図であり、(b)はn型DBR層及び電極側部が光を反射する様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本発明の第1実施形態>
以下に、本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子及びその製造方法について説明する。
【0021】
(1)半導体発光素子の構造
本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子の構造について、図1を用いて以下に説明する。図1は、本実施形態に係る半導体発光素子1を示す図であって、(a)は半導体発光素子1の断面図であり、(b)は半導体発光素子1が有するn型DBR層130の積層構造を示す断面図である。
【0022】
図1に示すように、半導体発光素子1は、例えば支持基板200を有する支持構造体20と、発光層142を有する発光構造体10と、が支持構造体20側の接合層220及び発光構造体10側の接合層180を介して接合され、金属材料からなる反射層としての金属層163を有するMR(Metal Reflector)型の半導体発光素子として構成されている

【0023】
すなわち、半導体発光素子1は、表面電極310c側から、支持構造体20が支持基板200の下面に有する裏面電極320c側へと電流を導入すると、発光層142が所定波長の光を発するよう構成されている。金属層163は、例えば発光層142が支持基板200側へと発した光の一部を半導体発光素子1の光取り出し面141s側へと反射させて、半導体発光素子1の光取り出し効率を向上させる。
【0024】
しかしながら、上述したように、このようなMR型の半導体発光素子においては、支持基板側での光の吸収は抑えられるものの、依然、表面電極側での吸収がみられ、半導体発光素子の光取り出し効率の向上の妨げとなっていた。
【0025】
そこで、本実施形態では、以下に述べる構成により、表面電極側での光の吸収を抑制し、光取り出し効率の更なる向上を可能にする。
【0026】
[支持構造体]
支持構造体20は、例えばp型Si等の導電性を有する半導体材料からなる支持基板200を有する。支持基板200の接合層220側とは反対側の面、つまり、支持基板200の下面には、例えばTi及びAu等の金属材料からなる裏面電極320cが形成されている。裏面電極320cは、例えばダイボンディング用電極として構成され、支持基板200とオーミック接合している。
【0027】
支持構造体20は、裏面電極320c側とは反対側の支持基板200上に、支持基板200側から順に、例えばTi等の導電性材料からなるコンタクト電極210と、例えばAu等の導電性材料からなる接合層220と、を有している。
【0028】
支持構造体20側の接合層220は、例えば熱圧着法等により、発光構造体10側の接合層180と電気的・機械的に接合されている。発光構造体10側の接合層180は、例えばAu等の支持構造体20側の接合層220と同一の材料から構成される。接合層220,180はそれぞれ、例えば500nm以上2000nm以下の厚さを有している。
【0029】
[発光構造体]
(第1反射部)
発光構造体10は、接合層180上に、例えばPt等の導電性材料からなるバリア層170を有している。また、発光構造体10は、バリア層170を介して接合層180の上に配置され、金属材料からなる反射層としての金属層163と、発光層142が発する光の波長に対して光学的に透明な材料からなる透明層161とを備える第1反射部を有する。
【0030】
金属層163は、例えば発光層142が発する所定波長の光に対して所定以上の反射率を有するAu等の導電性材料からなり、発光層142から支持基板200側へと発した光や、後述のn型DBR層130により反射された光を、半導体発光素子1の光取り出し面141s側へと反射させる。反射率の高い金属層163により光を反射させることで、半導体発光素子1の光取り出し効率を向上させることができる。
【0031】
透明層161は、例えばSiO等の電気絶縁性を有する材料からなり、発光層142が発する所定波長の光に対して高い透過性を有する。これにより、透明層161における上記光の吸収損失を抑えることができる。透明層161の厚さは、透明層161での光の吸収が少なくなるよう設定されている。
【0032】
また、透明層161の一部には、表面電極310cと裏面電極320cとを電気的に接続する界面電極162が形成されている。界面電極162は、例えばAuZn合金等の金属材料からなり、後述するp型コンタクト層150とオーミック接合している。また、界面電極162は、下方(後述の半導体積層部10sの積層方向)に投じた表面電極310cの射影とは重なり合わないよう配置される。すなわち、界面電極162は、例えば表面電極310cの直下の位置を避け、ドット状に分散して配置される。
【0033】
(半導体積層部)
発光構造体10が有する半導体積層部10sは、後述するように、例えばGaAs基板等の成長基板上で成長させた複数のエピタキシャル層から構成され、半導体積層部10sが備える各層は、例えば後述の成長基板を構成するGaAsに格子整合する材料からなる。以下に、半導体積層部10sの詳細構造について説明する。
【0034】
(ダブルヘテロ構造)
半導体積層部10sは、透明層161上に、例えばp型GaP等の化合物半導体からなる第2導電型コンタクト層としてのp型コンタクト層150を備える。p型コンタクト層150は、所定のp型不純物を所定濃度含む。p型不純物としては、例えばMg,Zn,C等を用いることができる。
【0035】
また、半導体積層部10sは、p型コンタクト層150を介して第1反射部の上に配置され、一部が光取り出し面141sとなる面を有する第1導電型クラッド層としてのn型クラッド層141と、第1導電型とは異なる導電型の第2導電型クラッド層としてのp型クラッド層143と、の間に挟まれる発光層142を備える。すなわち、上記3層構造は、例えばAlGaInP系等のIII−V族化合物半導体のダブルヘテロ構造となっており
、発光層142は、外部から電流が供給されると、所定波長の光、例えばピーク波長が630nmの赤色光を発するよう構成されている。
【0036】
より具体的には、光取り出し面141sを有する上層のn型クラッド層141は、例えばn型AlGaInP等からなり、所定のn型不純物を所定濃度含む。n型不純物としては、例えばSi,Se,Te等を用いることができる。
【0037】
また、p型コンタクト層150上に設けられる下層のp型クラッド層143は、例えばp型AlGaInP等からなり、所定のp型不純物を所定濃度含む。p型不純物としては、例えばMg,Zn,C等を用いることができる。
【0038】
また、両クラッド層141,143の間に挟まれる発光層142は、例えばアンドープのAlGaInP系等からなる。すなわち、発光層142には不純物の添加は行われず、アンドープの化合物半導体から構成される。但し、半導体積層部10sが有する各層を製造する工程において、不純物が不可避的に混入する場合が有り得る。混入による発光層142中の不純物濃度は、例えば1013cm−3〜1016cm−3程度である。
【0039】
また、表面電極310cが形成される領域を除くn型クラッド層141の上面は、光取り出し面141sとなっている。光取り出し面141sは、例えば発光層142が発した光の一部を乱反射させるような凹凸部141rを有する。凹凸部141rは、例えばn型クラッド層141の表面を粗面化して得られた規則的、或いは不規則な凹凸形状を有する
。凹凸部141rにより、発光層142側から光取り出し面141sに到達した光が光取り出し面141sで全反射されることを低減でき、半導体発光素子1の光量が増加する。
【0040】
(第2反射部)
半導体積層部10sは、半導体積層部10sの上面の一部に形成される表面電極310cとn型クラッド層141との間に、屈折率の異なる2以上の半導体層を積層した第2反射部としてのn型DBR層(分布ブラッグ反射層:Distributed Bragg Reflector)13
0を備える。また、後述するように、n型DBR層130の側面には第3反射部としての電極側部310sが設けられている。
【0041】
n型DBR層130により、例えば発光層142が発した光の一部を金属層163側へと反射させることで、表面電極310c側、特に下面側での光の吸収を抑制し、半導体発光素子1の光取り出し効率を一層向上させることができる。n型DBR層130の詳細構造及び作用については後述する。
【0042】
また、半導体積層部10sは、表面電極310cとn型DBR層130との間に、例えばn型GaAs等の化合物半導体からなる第1導電型コンタクト層としてのn型コンタクト層120を更に備える。n型コンタクト層120は、例えばSi,Se,Te等の所定のn型不純物を所定濃度含む。
【0043】
(表面電極)
発光構造体10は、n型クラッド層141の光取り出し面141sとなる面側の一部、例えばn型クラッド層141の光取り出し面141s側の略中央部に配置される表面電極310cを有する。
【0044】
表面電極310cは、例えば矩形に形成された半導体発光素子1の略中央部に、例えば直径が100μm程度の円形形状に形成されている。また、例えば矩形の半導体発光素子1の対角線上に延びる十字の枝部等を有していてもよい。表面電極310cは、n型コンタクト層120側から順に、例えばAuGe層、Ni層、Au層が積層されてなり、後述のアロイ工程により合金化され、n型コンタクト層120とオーミック接合している。
【0045】
表面電極310c上には、表面電極310cの上面と、表面電極310c、n型コンタクト層120、及びn型DBR層130の各側面とを覆うパッド電極310pが設けられている。パッド電極310pは、例えばワイヤボンディング用パッド電極として構成され、表面電極310c側から順に、例えばTi層、Au層が積層されてなる。後述するように、表面電極310cはアロイ工程等を経ずに形成され、表面電極310cを構成する金属は、高い反射率を保っているほか、ワイヤボンディングが容易となる軟性を維持している。
【0046】
(第3反射部)
上記パッド電極310pの一部をなし、表面電極310c、n型コンタクト層120、及びn型DBR層130の各側面を覆う電極側部310sは、第3反射部として構成されている。第3反射部としての電極側部310sにより、例えば発光層142が発した光の一部を半導体発光素子1の外へと反射させることで、表面電極310c側、特に側面での光の吸収を抑制し、半導体発光素子1の光取り出し効率を一層向上させることができる。電極側部310sの詳細の作用については後述する。
【0047】
(2)反射部の詳細構造と作用
上述したように、本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子1は、第1反射部としての金属層163及び透明層161、第2反射部としてのn型DBR層130、並びに第3
反射部としての電極側部310sを備える。以下に、n型DBR層130の詳細構造および上記各反射部の作用について説明する。
【0048】
(第2反射部の詳細構造)
n型DBR層130は、図1(b)に示すように、例えばn型AlAsからなる所定厚さの第1半導体層131xと、第1半導体層131xとは異なる屈折率を有するn型AlGa1−NAsからなる所定厚さの第2半導体層132xと、を1つのペアとして積層される複数のペア層133xを有する。但し、第1半導体層131xは、図中、131a,131b・・・,131jで示される任意の第1半導体層である。第2半導体層132x及びペア層133xについても同様である。
【0049】
また、n型コンタクト層120側の最上層のペア層133aのうち、第1半導体層131aがn型コンタクト層120と接する層であり、n型クラッド層141側の最下層のペア層133jのうち、第2半導体層132jがn型クラッド層141と接する層である。第1半導体層131x、第2半導体層132x及びペア層133xをa〜jまでとしたのは一例であって、各層の積層数は様々に選択可能である。主に、各層の積層数、屈折率、厚さ等を適宜選択することで、上記2以上の半導体層間の光干渉により、特定波長及び入射角の光を高い反射率で反射させることができる。
【0050】
具体的には、第2半導体層132xを構成するn型AlGa1−NAsのAl組成比Nは、例えば0<N<1の範囲で選択することができる。第2半導体層132xのAl組成比Nを小さくしていくことで、第1半導体層131xとの屈折率差を大きくして反射率を高めることができる。
【0051】
また、所定角度で入射する発光層142が発する波長の光を反射させる第1半導体層131xの厚さT及び第2半導体層132xの厚さTは、次式(1),(2)によりそれぞれ算出することができる。
【0052】
【数2】

【0053】
ここで、式(1),(2)中、λは、発光層142が発する光のピーク波長である。また、θは、n型クラッド層141から、n型クラッド層141に接する第2半導体層132jへと入射する上記光の入射角である。ここで、入射角θは入射面の法線に対する角度である。また、ninは、n型クラッド層141の屈折率である。また、nは第1半導体層131xの屈折率であり、nは第2半導体層132xの屈折率である。
【0054】
従来の半導体発光素子が備えるDBR層をはじめとする半導体多層反射層は、垂直方向(入射角θ=0°)から入射する光に対して高い反射率が得られるよう設計されていた。しかしながら、例えば斜め方向から入射する光に対しては設計上の考慮がほとんどなされていないため、0°より大きい入射角で入射する光の光量が大きい場合などには反射量が少なく、半導体発光素子の光取り出し効率が低下してしまっていた。
【0055】
本実施形態では、入射角θを含む上記の式(1),(2)に基づき、第1半導体層131xの厚さT及び第2半導体層132xの厚さTを定めることとしたので、0°より大きい(垂直入射以外の)所定入射角で入射する光の光量が大きい場合であっても、所定の入射角θに対応するペア層133xを積層することができ、半導体発光素子1の光取り出し効率を向上させることができる。
【0056】
(第2反射部の作用)
次に、各反射部の作用、特に、異なる入射角θの光に対応してそれぞれ設計されたn型DBR層130の作用について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る半導体発光素子1における光の反射について説明する図であって、(a)は表面電極310cから導入される電流の経路を例示する模式図であり、(b)は垂直に入射する光を反射するよう設計されたn型DBR層130が光を反射する様子を示す模式図であり、(c)は斜めに入射する光を反射するよう設計されたn型DBR層130が光を反射する様子を示す模式図であり、(d)は電極側部310sが光を反射する様子を示す模式図である。
【0057】
図2(a)に示すように、表面電極310cから裏面電極320cに向けて電流を導入すると、図中に例示する電流E1,E2のように、電流は透明層161の一部に形成された界面電極162を介して流れ、その際、電流の通過位置で発光層142から放射状に光を発する。図2(b),(c)に示すように、上記光の一部は光取り出し面141sから半導体発光素子1の外部へと放射されるほか(L1)、表面電極310cの下面側(L2)や、金属層163側へ(図示せず)と向かう光も存在する。
【0058】
上述の特許文献1(特開2005−175462号公報)のように、表面電極側にDBR層等の反射層を有さない半導体発光素子では、表面電極の下面側へと向かった光は、n型コンタクト層、及びn型コンタクト層とオーミックコンタクトする表面電極で吸収されてしまい、半導体発光素子の光取り出し効率を低下させていた。
【0059】
しかしながら、本実施形態においては、n型コンタクト層120とn型クラッド層141との間に第2反射部としてのn型DBR層130を設けている。これにより、表面電極310cの下面側へと進行してきた光L2の少なくとも一部を第1反射部側へと反射させる。第1反射部へと到達した光は、第1反射部が備える金属層163により反射されて、光取り出し面141sから半導体発光素子1の外部へと放射される。これにより、表面電極310c等による光の吸収を抑制することができ、光取り出し効率を向上させることができる。
【0060】
また、上述のように、界面電極162は、例えば表面電極310cの直下を除く位置に形成されているため、発光層142では、主に表面電極310cの直下から外れた位置を電流が通過して発光が起きる。したがって、発光層142から表面電極310c側へと向かう光の多くは、n型DBR層130に斜めから入射することとなる。
【0061】
そこで、本実施形態では、図2(c)のように、上述の式(1),(2)を用いて斜めに入射する光を反射するようn型DBR層130を設計し、例えば従来のDBR層や、図2(b)の垂直に入射する光を反射するよう設計されたn型DBR層130よりも光L2
の反射量を高め、光取り出し効率をいっそう向上させることができる。ここで、図中、光の進路を示す矢印において、破線で描かれた部分は光量の低下を表す。
【0062】
このように、本実施形態では、上述の式(1),(2)により、所定の入射角θの光を反射するようn型DBR層130を設計することができるので、表面電極310cのサイズ、形状、位置、表面電極310cと界面電極162との位置関係、発光層142における発光強度分布等に応じて、種々の構成を有する半導体発光素子1それぞれにおいて入射量の大きい入射角θの光をより多く反射できるようにn型DBR層130を設けることができる。
【0063】
例えば、入射角θが0°の光を反射するn型DBR層130は、設計や取扱いが容易である点で優れている。また、例えば本実施形態に係る半導体発光素子1のように、表面電極310cの位置と、発光層142での発光強度が高い位置との水平方向における空間配置が異なる場合には、n型DBR層130は、0°より大きい所定入射角θで入射する光を反射するよう設計されていることが好ましい。
【0064】
(第3反射部の作用)
上述したように、本実施形態においては、表面電極310cの下方にn型DBR層130を設け、表面電極310cやn型コンタクト層120の下面での光L2の吸収を抑制している。
【0065】
しかしながら、表面電極310c側へと入射する光はこれだけではない。すなわち、例えば図2(d)に示すように、発光層142から放射状に発した光の一部は、n型コンタクト層120の側面、及びn型コンタクト層120とオーミックコンタクトする表面電極310cの側面、更にはこれらの下方に設けたn型DBR層130の側面にも入射する(L3)。
【0066】
本実施形態においては、上述のように、Au等の金属材料からなる第3反射部としての電極側部310sを、表面電極310c、n型コンタクト層120、n型DBR層130の各側面に設けている。これにより、n型DBR層130等の上記各層の側面での光の吸収を抑制することができる。
【0067】
このように、n型DBR層130を設けたことによって嵩高となった表面電極310c近傍の構造において、電極側部310sを設けて側面での光の吸収を抑制することは非常に有効である。よって、表面電極310c側での光の吸収を更に抑制し、半導体発光素子1の光取り出し効率を一層向上させることができる。
【0068】
また、電極側部310sを設けることで、n型DBR層130の露出した側面を保護することとなり、例えばAl等の酸化され易い材料を多く含むn型DBR層130の場合であっても、n型DBR層130の酸化による変質、及び反射率の低下を抑制する効果も期待できる。
【0069】
(3)半導体発光素子の変形例
上述のようなn型DBR層130においては、第1半導体層131xと第2半導体層132xとを屈折率差の大きい材料の組み合わせ(ペア)として反射率を高めたり、各半導体層に光吸収係数の小さい材料を用いて光吸収を抑えたりすることで、光の反射量を高めることができる。
【0070】
例えば、屈折率差が比較的大きく、赤色光の光吸収が少ない上述のn型のAlAs/AlGa1−NAs(0<N<1)のペアより更に屈折率差を大きくするには、例えばA
lAs/GaAsの組み合わせが考えられる。しかし、GaAsのようにエネルギーギャップの小さな材料は、大きい光吸収係数を有する。よって、n型DBR層中にGaAsを用いると、高屈折率差で得られる高反射率の効果は、光吸収による光量低下で相殺されてしまう。
【0071】
そこで、本発明者等は、n型DBR層130中、発光層142に近い下層側では入射する光の光量が大きく、表面電極310cに近い上層側では下層側での反射により到達する光の光量が落ちていることに着目した。そして、下層側では、入射光の光量をできるだけ落とさず上層に到達させるべく、吸収係数が小さい半導体材料を用い、上層側では、光量の弱まった光をできるだけ反射させるべく、屈折率差の大きい半導体材料を用いることに想到した。
【0072】
上記の点に鑑みて構成される本発明の第1実施形態の変形例に係る半導体発光素子について、図1(b)を参照しながら以下に説明する。
【0073】
本変形例に係るn型DBR層130においては、表面電極310c側のn型コンタクト層120と接する最上層のペア層133aの第1半導体層131aには、上述の実施形態と同様、n型AlAsを用いる。また、第2半導体層132aには、n型AlAsとの屈折率差が大きくなるよう、Al組成比NがN=0のn型AlGa1−NAs、すなわち、n型GaAsを用いる。また、最上層のペア層133aよりも下層側のペア層133b〜133jには、上述の実施形態と同様、第1半導体層131b〜131jにn型AlAsを用い、第2半導体層132b〜132jにn型AlGa1−NAsを用いて、光吸収係数が小さいn型のAlAs/AlGa1−NAs(0<N<1)の組み合わせとする。このとき、Al組成比Nは、比較的大きい値とすることが好ましい。
【0074】
また、このとき、n型DBR層130の反射率をさらに向上させるため、上述の式(1),(2)を用いて、各ペア層133xを複数の入射角θに対応する設計とすることができる。具体的には、最上層のペア層133aと、下層のペア層133b〜133jとを、任意に選定した互いに異なる入射角θにそれぞれ対応するよう設計することができる。さらに、下層のペア層133b〜133jを更に複数種類の入射角θにそれぞれ対応させてもよい。このとき、n型コンタクト層120側からn型クラッド層141側へと入射角θが大きくなるように設定することが好ましい。
【0075】
すなわち、反射率向上の観点からは、例えば複数の入射角θのそれぞれについて、上述の式(1)よりそれぞれ求められる厚さTの第1半導体層131xと、上述の式(2)よりそれぞれ求められる厚さTの第2半導体層132xと、を各ペアとして積層されるペア層133xを各入射角θにつき1ペア以上有するようn型DBR層130を構成することが好ましい。
【0076】
このように、第1半導体層131xおよび第2半導体層132xの厚さや材料を様々に変更して組み合わせ、複数種類のペア層133xを積層することで、n型DBR層130の反射率を一層高め、半導体発光素子1の光取り出し効率を向上させることができる。
【0077】
(4)半導体発光素子の製造方法
本発明の第1実施形態に係る半導体発光素子1は、GaAs基板等の成長基板上で成長させた複数のエピタキシャル層を、貼り合せによりSi等の支持基板200に移し替えることで形成される。以下に、本実施形態に係る半導体発光素子1の製造方法について、図3及び図4を用いて説明する。図3及び図4は、本実施形態に係る半導体発光素子1の製造工程を示す断面図である。
【0078】
(エピタキシャルウエハの製造)
まずは、図3(a)に示すように、例えばMOVPE法により、成長基板100上に複数のエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルウエハ1eを製造する。すなわち、例えばn型GaAs基板等の成長基板100上に、n型AlGaInP等からなるエッチングストップ層110、n型GaAs等からなるn型コンタクト層120、n型のAlAs/AlGa1−NAs等からなるn型DBR層130、n型AlGaInP等からなるn型クラッド層141、アンドープAlGaInP等からなる発光層142、p型AlGaInP等からなるp型クラッド層143、p型GaP等からなるp型コンタクト層150を、この順に成長させる。
【0079】
上記各層のMOVPE法による形成は、MOVPE装置内に成長基板100を搬入して設置し、成長圧力、成長温度を所定値に保った状態で、所定の原料ガスを所定流量供給して行う。原料ガスには、例えばGa源としてトリメチルガリウム(TMGa)やトリエチルガリウム(TEGa)等の有機金属ガスを使用する。また、例えばAl源にはトリメチルアルミニウム(TMAl)等の、In源にはトリメチルインジウム(TMIn)等の有機金属ガスをそれぞれ使用する。また、As源としてアルシン(AsH)等の、P源としてホスフィン(PH)等の水素化物ガスをそれぞれ使用する。このとき、TMGaやTMAl等のIII族原料ガスのモル数を分母とし、AsHやPH等のV族原料ガスの
モル数を分子とする比率(商)、すなわち、V/III比を、所定値とする。
【0080】
また、各層の導電型の決定に用いる導電型決定不純物の添加は、例えば所定の添加ガスを原料ガスに添加することにより行う。p型不純物のMg,Zn等を添加するには、例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)、ジメチルジンク(DMZn)、ジエチルジンク(DEZn)等を用いる。n型不純物のSi,Se,Te等を添加するには、例えばモノシラン(SiH)、セレン化水素(HSe)、ジエチルテルル(DETe)、ジメチルテルル(DMTe)等を用いる。
【0081】
以上により、例えばピーク波長が630nmの赤色光を発するダブルヘテロ構造と、第2反射部としてのn型DBR層130とを有する半導体積層部10sをその積層構造に含むエピタキシャルウエハ1eが得られる。
【0082】
本実施形態においては、半導体積層部10sの構造を含む上記複数のエピタキシャル層は、後に貼り合わせにより、Si等の支持基板200に移し替えられて、本実施形態に係る半導体発光素子1が製造される。したがって、上記のように、各エピタキシャル層を形成する際には、発光層142を含むダブルヘテロ構造よりも先にn型DBR層130を形成することとなる。したがって、n型AlAsやn型AlGa1−NAs等からなるn型DBR層130をはじめ、半導体積層部10sの主要構造には成長基板100を構成するGaAsに格子整合する格子整合系材料を一貫して用いることができる。
【0083】
また、上記のように、半導体発光素子1を、n型クラッド層141側を光取り出し面141sとする、所謂、nサイドアップの半導体発光素子とすることで、DBR層をn型とすることができる。よって、比較的早い段階で形成されるn型DBR層130の成長時における残留ドーパントによるメモリ効果や、n型DBR層130の成長後におけるドーパント拡散が、p型のDBR層の場合よりも抑えられる。
【0084】
(第1反射部の形成)
以上のように各層が形成されたエピタキシャルウエハ1eを、MOVPE装置から搬出した後、プラズマを用いた化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法等に
より、p型コンタクト層150上の全面に、例えばSiO等からなる透明層161を形成する。続いて、図3(b)に示すように、例えばフォトリソグラフィ法等を用いて所定
のレジストパターン161pを透明層161上に形成し、透明層161の一部を貫通させて開口部162hを設ける。
【0085】
次に、真空蒸着法やスパッタ法等を用いて、レジストパターン上及び透明層161の開口部162h内に、例えばAuZn合金等を蒸着する。更に、リフトオフ法によりレジストパターン161pを除去することで、図3(c)に示すように、開口部162h内にAuZn合金等からなる界面電極162を形成する。
【0086】
次に、真空蒸着法やスパッタ法等を用いて、図3(d)に示すように、例えばAu等からなる金属層163を蒸着する。
【0087】
以上により、反射層としての金属層163と一部に界面電極162が形成された透明層161とを備える第1反射部が形成される。
【0088】
続いて、図3(e)に示すように、真空蒸着法やスパッタ法等を用いて、例えばPt等からなるバリア層170と、Au等からなる接合層180とを、この順に蒸着する。以上により、発光構造体10の主要部が形成される。
【0089】
(貼り合わせウエハの製造)
一方、図3(f)に示すように、例えばp型Si等からなる支持基板200上に、真空蒸着法やスパッタ法等を用いて、Ti等からなるコンタクト電極210と、Au等からなる接合層220とを、この順に蒸着する。以上により、支持構造体20の主要部が形成される。
【0090】
次に、例えば熱圧着法等により、上記支持基板200と先の成長基板100とを貼り合わせる。すなわち、図3(f)に示すように、支持基板200上に形成された支持構造体20側の接合層220と、上述の成長基板100上に形成された発光構造体10側の接合層180とを向かい合わせて重ね、所定圧力を加えつつ、所定温度で所定時間保持して貼り合わせる。以上により、図3(g)に示すように、接合層220,180が電気的・機械的に接合された貼り合せウエハ1bが製造される。
【0091】
この後、図4(h),(i)に示すように、貼り合わせウエハ1bから成長基板100とエッチングストップ層110とを、例えば機械的研磨やエッチング液等、又はその組み合わせにより除去する。
【0092】
(表面電極の形成)
次に、図4(j)に示すように、n型コンタクト層120の上面の一部に、表面電極310cを形成する。すなわち、エッチングストップ層110が除去され、露出したn型コンタクト層120上に、例えばフォトリソグラフィ法を用いてレジストパターン(図示せず)を形成する。続いて、真空蒸着法やスパッタ法等により、例えばAuGe合金、Ni、Auをこの順に蒸着し、リフトオフ法によりレジストパターンを除去する。これにより、例えば円形の表面電極310cが素子ごとに形成される。更に、表面電極310cをマスクとして、n型コンタクト層120及びn型DBR層130をエッチングし、n型クラッド層141の上面の一部を露出させる。
【0093】
n型クラッド層141の一部が露出した面には、フォトリソグラフィ法等により周期的なドット状のレジストパターン(図示せず)を形成してエッチング液に浸漬し、その後レジストパターンを除去して、図4(k)に示す凹凸部141rを形成する。これにより、発光層142等からの光を乱反射させる凹凸部141rを有する光取り出し面141sが、n型クラッド層141の上面の一部に形成される。
【0094】
(裏面電極の形成)
次に、図4(l)に示すように、支持基板200の下面(裏面)に裏面電極320cを形成する。すなわち、真空蒸着法やスパッタ法等により、支持基板200の裏面の全面に、例えばTiとAuとをこの順に蒸着する。その後、表面電極310c及び裏面電極320cが形成された貼り合せウエハ1bをアロイ工程にて加熱し、表面電極310c、裏面電極320c、界面電極162を合金化させ、各電極が接する半導体層にオーミックコンタクトさせる。これにより、各電極と半導体層との接触抵抗が低減される。
【0095】
(第3反射部の形成)
続いて、例えばフォトリソグラフィ法及び真空蒸着法やスパッタ法等を用いたリフトオフ法により、表面電極310cの上面と、表面電極310c、n型コンタクト層120、及びn型DBR層130の各側面とを覆うように、例えばTiとAuとをこの順に蒸着して、第3反射部としての電極側部310sをn型DBR層130等の側面に備えるパッド電極310pを形成する。
【0096】
このように、本実施形態では、パッド電極310pの形成時に電極側部310sを形成する。別途、電極側部310sを形成する工程が必要とならないので、製造工程が煩雑化することがなく、製造コスト等の削減を図ることができる。
【0097】
また、本実施形態では、表面電極310c等を合金化するアロイ工程の後に、パッド電極310pを形成する。つまり、例えば300℃以上の、パッド電極310pを合金化させるような熱処理がパッド電極310pに加わることがない。よって、パッド電極310pが備える電極側部310sを構成する金属材料が高反射率のまま保たれ、n型DBR層130等の側面に入射する光をより確実に反射させる電極側部310sを形成することができる。また、パッド電極310pの軟性も維持されるので、ワイヤボンディングが容易となる。
【0098】
その後、複数形成した表面電極310cのそれぞれが中央部に位置するよう、例えば貼り合せウエハ1bをダイシングしてチップに切り出し、半導体発光素子1を複数個得る。以上により、本実施形態に係る半導体発光素子1が製造される。
【0099】
<本発明の第2実施形態>
図5(a)に示すように、本発明の第2実施形態に係る半導体発光素子2aは、半導体積層部10sの上面に形成される電極を第1電極310aとし、第1電極310aと同一面側に、半導体積層部10sとは非接触に形成された第2電極320aを有する。すなわち、半導体発光素子2aでは透明層161の一部が露出され、透明層161の露出部分に第2パッド電極320pが形成されている。第2パッド電極320pの近傍の金属層163が電極の役割を果たし、第2電極320aを構成している。
【0100】
また、図5(b)には、本発明の第2実施形態の他の例に係る半導体発光素子2bを示す。図5(b)に示すように、半導体発光素子2bにおいては、第1電極310bと同一面側に形成される第2電極320bは、露出したp型クラッド層143の一部に形成される。
【0101】
また、半導体発光素子2bでは、第1電極310bから半導体積層部10sを介して第2電極320bへと電流が流れるため、界面電極は省略された構成となっている。また、金属層163よりも下層のバリア層以下の構造も省略し、例えば発光構造体10と支持構造体20との双方に設けられた接合層230を互いに接合させて、半導体発光素子2bを得ることができる。
【0102】
半導体発光素子2a,2bにおいては、第1電極310a,310b及び第2電極320a,320bを素子の同一面に有するので、実装が容易である等の利点を有する。
【0103】
ここで、半導体発光素子2aを例にとって、係る構造におけるn型DBR層130、金属層163及び電極側部310sの光の反射について、図6を用いて説明する。
【0104】
半導体発光素子2aにおいても、半導体積層部10sの積層方向に投じた第1電極310aの射影が、界面電極162とは重なり合わないよう構成されている。また、第1電極310aに対して、第2電極320aは斜め下方に配置されている。したがって、図6(a)に示すように、発光層142の水平方向における電流の通過位置は、上述の実施形態に係る半導体発光素子1よりも偏っており、第1電極310aに斜めに入射する光の光量がさらに増す構造となっている。
【0105】
上記の場合であっても、本実施形態の構造での入射量が大きくなる入射角、すなわち、図6(b)に示すように、入射角θが0°ではない斜め入射の光L2を反射するn型DBR層130を設けることで、第1電極310aの下面での光の吸収を抑えることができる。
【0106】
また、第1電極310a等の側面に入射する光L3を反射する電極側部310sを備えることで、第1電極310a等の側面での光の吸収を抑えることができる。
【0107】
以上により、第1電極310a側での光の吸収を抑制し、光取り出し効率を向上させることができる。
【0108】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0109】
例えば、成長基板100を構成するGaAsと整合する半導体材料としては、AlAs〜GaAsまでのAlGa1−NAs(0≦N≦1)や、AlInP〜GaInPまでの(AlGa1−NIn1−XP(0≦N≦1)、或いはAlGaInAsP等がある。
【0110】
したがって、上述の実施形態においては、n型DBR層130やp型DBR層130dをAlAs/AlGa1−NAs(0≦N<1)で構成することとしたが、他にも上記GaAs格子整合系材料の中から選択される材料を用いることができる。例えば、AlInP/AlGa1−NAs(0≦N<1)の組み合わせ(ペア)においても、屈折率差が比較的大きく、赤色光の吸収の少ないDBR層が得られる。
【0111】
また、発光層についても、上述のAlGaInPの他に、上記GaAs格子整合系材料の中から、例えばGaAs、AlGaAs、AlGaInAsP等を用いることができる。
【0112】
また、上述の実施形態においては、GaAs基板を成長基板100とし、半導体積層構造10sを含む複数の半導体層をGaAs格子整合系材料により構成したが、InP基板を成長基板として、各半導体層をInP格子整合系材料により構成することも可能である。
【0113】
また、上述の実施形態においては、パッド電極310pの一部に第3反射部としての電
極側部310sを設けることとしたが、表面電極310cや第1電極310a,310bの電極材等にアロイ工程を要さないものを選択するなどして、これらの電極の一部に第3反射部を設けることとしてもよい。係る構成によっても、別途、第3反射部を形成する工程は必要なく、また、電極形成時のアロイ工程を省くことができるので、製造工程を簡略化し、コストの低減を図ることが可能である。
【0114】
また、上述の実施形態においては、金属層163はAuからなるとしたが、Al,Cu,Ag等や、Au,Al,Cu,Ag等の少なくとも1つを含む合金材料など、高い反射率を有する金属材料であれば用いることができる。
【0115】
また、上述の実施形態においては、半導体発光素子1等は金属層163を有するMR型であるとしたが、金属層163の替わりにDBR層を反射層として有する半導体発光素子、或いは基板側に反射層を有さない半導体発光素子等の表面電極側に第2反射部や第3反射部を設ける構成としてもよい。この場合、半導体発光素子は主にエピタキシャル層のみから構成することができ、支持基板への移し替え等の煩雑な工程を省くことができる。
【0116】
但し、支持基板への移し替えを伴わない上記構造では、発光層を含むダブルヘテロ構造や、係る構造で多用されるp型GaP電流拡散層等の上層に、表面電極側のDBR層を成長させることとなる。GaPは、GaAs基板を構成するGaAsとは格子定数が異なっており、p型GaP電流拡散層上にDBR層を成長させる場合、使用可能な半導体材料が制限されるので注意が必要である。なお、GaAsと格子整合するp型AlGaAs系等の半導体材料からなるDBR層を成長させた場合には、DBR層での電気抵抗が高くなってしまい、望ましくない。
【0117】
また、基板側の反射層がDBR層等であることにより、基板側からの反射率が低下してしまう。したがって、表面電極側や基板側のDBR層が垂直入射の光のみにしか対応していない場合、充分な光取り出し効率が得られない懸念がある。
【実施例】
【0118】
次に、本発明に係る実施例について比較例とともに説明する。
【0119】
上述の第1実施形態と同様の手法で、第1反射部、第2反射部、及び第3反射部を有する実施例1,2に係る半導体発光素子を製作した。成長基板および支持基板には、それぞれ直径3インチのn型GaAs基板およびp型Si基板を用いた。各素子は、300μm×300μmの略正方形の形状とした。実施例1に係る半導体発光素子は、第1実施形態に基づき、第2反射部としてn型のAlAs/Al0.5Ga0.5Asにより構成されるn型DBR層を有する。実施例2に係る半導体発光素子は、第1実施形態の変形例に基づき、第2反射部として最上層のペア層のみがn型のAlAs/GaAsにより構成されるn型DBR層を有する。また、複数の入射角θに対応する各ペア層を有する。
【0120】
また、本実施例においては、特に第3反射部の効果をみるため、表面電極の上面にのみ設けられ、第3反射部としての電極側部を有さないパッド電極を備える比較例1,2に係る半導体発光素子を製作した。比較例1が備えるn型DBR層は、上記実施例1のn型DBR層と同様の構成とした。比較例2が備えるn型DBR層は、上記実施例2のn型DBR層と同様の構成とした。
【0121】
実施例1,2及び比較例1,2に係る半導体発光素子の詳細構造を、表1〜表2に示す。各実施例および比較例におけるn型DBR層の構成を示す表2において、a〜jまでの10ペアのペア層のうち、ペア層aがn型コンタクト層側のペア層であり、ペア層jがn型クラッド層側のペア層である。入射角が0°〜40°に対応する各ペア層の第1,第2
半導体層の層厚は、上述の式(1),(2)より求めた。このとき、発光層142のピーク波長λ、n型クラッド層の屈折率nin、第1半導体層の屈折率n、第2半導体層の屈折率nには、それぞれ以下の数値を用いた。
λ=630nm
in=3.127((Al0.7Ga0.30.5In0.5P)
=3.111(AlAs)
=3.500(Al0.5Ga0.5As)
【0122】
【表1】

【表2】

【0123】
次に、実施例1,2及び比較例1,2に係る半導体発光素子を、TO−18ステム上にダイボンディング及びワイヤボンディングして実装し、ベアチップの状態で20mAの電流を通電して発光出力及び動作電圧の測定値を得た。係る測定値を、表3に示す。
【0124】
【表3】

【0125】
第3反射部としての電極側部を有する実施例1,2に係るいずれの半導体発光素子においても、それぞれに対応する比較例1,2に係る半導体発光素子よりも発光出力が大きくなっており、電極側部を設けることで、半導体発光素子の光取り出し効率が向上したことがわかる。
【0126】
また、実施例2の発光出力は実施例1よりも大きく、表面電極と発光層の発光強度が高い位置との水平方向における空間配置が異なる素子構造では、複数の入射角θの光を反射するよう設計されたn型DBR層を用いることが有効であることが確認された。また、最上層のペア層を屈折率差の大きな組み合わせ(ペア)とすることも有効であることが確認された。
【符号の説明】
【0127】
1,2a,2b 半導体発光素子
10 発光構造体
20 支持構造体
120 n型コンタクト層(第1導電型コンタクト層)
130 n型DBR層(第2反射部)
131x(131a〜131j) 第1半導体層
132x(132a〜132j) 第2半導体層
133x(133a〜133j) ペア層
141 n型クラッド層(第1導電型クラッド層)
141s 光取り出し面
142 発光層
143 p型クラッド層(第2導電型クラッド層)
150 p型コンタクト層
161 透明層
162 界面電極
163 金属層(反射層)
180,220 接合層
200 支持基板
310a,310b 第1電極(電極)
310c 表面電極(電極)
310s 電極側部(第3反射部)
320a,320b 第2電極
320c 裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板を有する支持構造体と発光層を有する発光構造体とが接合層を介して接合され、
前記発光構造体は、
前記接合層の上に配置され、金属材料からなる反射層と前記発光層が発する光の波長に対して光学的に透明な材料からなる透明層とを備える第1反射部と、
前記第1反射部の上に配置され、一部が光取り出し面となる面を有する第1導電型クラッド層と前記第1導電型とは異なる導電型の第2導電型クラッド層との間に挟まれる前記発光層を備える半導体積層部と、
前記第1導電型クラッド層の光取り出し面となる面側の一部に配置される電極と、を有し、
前記半導体積層部は、
前記電極と前記第1導電型クラッド層との間に、屈折率の異なる2以上の半導体層を積層した第2反射部を備え、
前記第2反射部の側面には、金属材料からなる第3反射部が設けられている
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
前記第3反射部は、
前記電極の上面と前記第2反射部の側面とを覆うパッド電極の一部である
ことを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【請求項3】
前記電極は、
前記半導体積層部の上面の一部に形成される表面電極であり、
前記支持構造体は、
前記支持基板の下面に形成される裏面電極を有し、
前記発光構造体は、
前記透明層の一部に形成され、前記表面電極と前記裏面電極とを電気的に接続する界面電極を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記半導体積層部の積層方向に投じた前記表面電極の射影が、前記界面電極とは重なり合わない
ことを特徴とする請求項3に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記電極は、
前記半導体積層部の上面の一部に形成される第1電極であり、
前記発光構造体は、
前記第1電極と同一面側に、前記半導体積層部とは非接触に形成された第2電極と、
前記透明層の一部に形成され、前記第1電極と前記第2電極とを電気的に接続する界面電極と、を有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記第2反射部は、
前記発光層側から前記第2反射部へと0°より大きい所定入射角で斜めに入射する前記発光層が発する波長の光を反射するよう設計されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の半導体発光素子。
【請求項7】
前記第2反射部は、
次式(1)より求められる厚さTの第1半導体層と、前記第1半導体層とは異なる屈
折率を有し、次式(2)より求められる厚さTの第2半導体層と、を1つのペアとして積層される複数のペア層を有し、
前記第1導電型クラッド層側の最下層の前記ペア層のうち、前記第2半導体層が前記第1導電型クラッド層と接する側に配置される
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の半導体発光素子。
【数1】

(ここで、式(1)及び式(2)中、λは前記発光層が発する光のピーク波長であり、θは前記第1導電型クラッド層から、前記第1導電型クラッド層に接する前記第2半導体層へと入射する前記光の入射角(但し、0<θ)であり、ninは前記第1クラッド層の屈折率であり、nは前記第1半導体層の屈折率であり、nは前記第2半導体層の屈折率である。)
【請求項8】
前記第2反射部は、
複数の入射角θのそれぞれについて、前記式(1)よりそれぞれ求められる厚さTの前記第1半導体層と、前記式(2)よりそれぞれ求められる厚さTの前記第2半導体層と、を各ペアとして積層される前記ペア層を前記各入射角θにつき1ペア以上有する
ことを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子。
【請求項9】
前記半導体積層部は、
前記第1導電型クラッド層の光取り出し面となる面側の一部に配置される前記電極と前記電極側の最上層の前記ペア層との間に第1導電型コンタクト層を備え、
最上層の前記ペア層のうち、前記第1導電型コンタクト層と接する側に配置される前記第1半導体層は、AlAsからなり、
前記第1導電型コンタクト層と、最上層の前記ペア層の前記第2半導体層とは、GaAsからなる
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−42043(P2013−42043A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179159(P2011−179159)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】