説明

半導体発光装置及び照明装置

【課題】散乱材及び/または蛍光体を含む樹脂層を備えた半導体発光装置において、半導体発光装置の端部における発光部と非発光部の輝度差が急峻である正面輝度分布を示す半導体発光装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 半導体発光装置100は、発光部を有する半導体エピタキシャル層2と、半導体エピタキシャル層2を支持し、発光部からの光を透過しない素子基板1とを有する発光素子3と、半導体エピタキシャル層2の側面及び上面を覆うように素子基板1上に設けられた、発光部からの光を波長変換する蛍光体5を含む樹脂層4を備え、樹脂層4はその一断面において上方に向けて内側に傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体発光装置に関し、特に、散乱材及び/または蛍光体を含む樹脂層を備えた半導体発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、青色発光素子の高出力化,高輝度化に伴って、青色発光素子を光の一部を蛍光体で波長変換した白色発光装置が一般照明、街路灯、ヘッドランプ等のように照明器具の光源として使われ始めている。
【0003】
発光素子を利用した光源として、発光素子上に蛍光体を含む樹脂層を備えた半導体発光装置が知られている(特許文献1および特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−185048号公報
【特許文献2】特開2001−244507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般照明、街路灯、ヘッドランプ等のような照明器具では使用用途や配光特性、レンズ設計の種類によっては光源の正面輝度が、発光部と非発光部の輝度差が急峻であることが要求されている。
【0005】
しかし、特許文献1の半導体発光装置において、蛍光体を含む、一様な厚さの樹脂層が発光素子を覆っているため、樹脂層の側面から水平方向や水平方向より下方向に光が放射され半導体発光装置の端部の正面輝度が下がる。そのため、半導体発光装置の正面輝度分布がブロードな形状を示し、要求される光学的配光によっては光源として使用できない場合があった。
【0006】
また、特許文献2の半導体発光装置において、発光素子上に配置された蛍光体を含む樹脂層は、その断面が矩形であるので、樹脂層の側面から放射された光が半導体発光装置を搭載する基板で反射してしまう。その結果、基板の表面が光り、半導体発光装置の端部の正面輝度が急峻に立ち上がらず、要求される光学的配光によっては光源として使用できないものがあった。
【0007】
さらに、大電力密度、例えば2(W/mm)以上の高出力の半導体発光装置では、発光素子の熱だけでなく樹脂層に含まれる蛍光体からの発熱が問題となる。蛍光体の発熱により、発光素子からの光をさらに長波長の光に変換するときの蛍光体の変換効率が著しく低下してしまう。また、発熱により樹脂層を構成する透明樹脂の一部が揮発して透明樹脂の体積が減少したり、透明樹脂が黒化したりすることもあり、半導体発光装置の性能を著しく劣化させてしまうことがある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、散乱材及び/または蛍光体を含む樹脂層を備えた半導体発光装置において、半導体発光装置の端部における発光部と非発光部の輝度差が急峻である正面輝度分布を示す半導体発光装置を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、蛍光体を含む樹脂層を備えた半導体発光装置において、樹脂層に含まれる蛍光体からの発熱を効率的に放散させることができる半導体発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の半導体発光装置は、発光部を有する半導体エピタキシャル層と、該半導体エピタキシャル層を支持し、該発光部からの光を透過しない素子基板とを有する発光素子と、前記半導体エピタキシャル層の側面及び上面を覆うように前記素子基板上に設けられた、散乱材及び/または発光部からの光を波長変換する蛍光体を含む樹脂層を備え、該樹脂層はその一断面において上方に向けて内側に傾斜していることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、第1に発光部からの光を透過しない素子基板を有する発光素子を使用することで、発光部からの光が素子基板を介して発光素子を搭載する基板側に漏れず、基板からの反射光を防止できる。第2に樹脂層はその一断面において上方に向けて内側に傾斜しているので、樹脂層の側面から水平方向や水平方向より下方向に光が放射されて半導体発光装置の端部の正面輝度が下がることを防止することができる。
【0012】
その結果、半導体発光装置における発光部とその外部の非発光部の輝度差が急峻である正面輝度分布を持つ半導体発光装置を実現できる。
【0013】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、前記樹脂層は、その一断面において略弧を描いて傾斜するよう形成することができる。
【0014】
樹脂層の傾斜面が略円弧を描いているので、配光パターン内において極端な輝度の強弱の少ない半導体発光装置を実現できる。
【0015】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、前記樹脂層は、その一断面において、該樹脂層の傾斜開始点に引いた樹脂層の接線と前記素子基板の表面の成す角度が20°以上90°以下とすることができる。
【0016】
樹脂層の接線と前記素子基板の表面の成す角度が20°以上90°以下であれば確実に所望の正面輝度分布を得ることができる。
【0017】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、前記樹脂層は、散乱材及び/または蛍光体を含む樹脂を滴下硬化して形成することができる。
【0018】
蛍光体を含む樹脂を滴下硬化することで、略弧を描く傾斜を有する樹脂層が容易に実現できる。
【0019】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、前記樹脂層は散乱材及び蛍光体を含み、散乱材含有層と蛍光体含有層の積層体とすることができる。
【0020】
樹脂層が散乱材を含む散乱材含有層と蛍光体を含む蛍光体含有層の積層体であるので、各層の厚さ、含有率を調整することで所望の発光プロファイル、発光色を得ることができる。
【0021】
素子基板は、発光部からの光に対し不明な基板、発光部からの光を反射する基板、または、半導体基板上に反射層を積層したものを用いることができる。
【0022】
そのため、発光部からの光が素子基板を通過し、実装基板で反射されるのを防止することができる。
【0023】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、正面輝度分布が前記樹脂層の傾斜面が開始される端部においての輝度が最大値とすることができる。
【0024】
半導体発光装置の正面輝度分布が、樹脂層の傾斜面が開始される端部において最大値であることが好ましい。端部において最大とは、正面輝度分布において中央部と端部の輝度が同一であるものを含む。つまり、中央部の輝度が端部の輝度より高くなければよいことを意味する。
【0025】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、正面輝度分布が輝度の最大値と発光面以外の輝度値との比が少なくとも150:1とすることができる。
【0026】
正面輝度分布が輝度の最大値と発光面以外の輝度値との比が少なくとも150:1以上であるので、照明装置として利用したとき、特に車両用前照灯として利用したとき、十分に発光部と非発光部の境界線を明確にすることができる。
【0027】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、蛍光体を含み、該蛍光体は前記発光素子上に堆積されるものとすることができる。
【0028】
本発明によれば、急峻な正面輝度分布に加えて、蛍光体からの発熱を効率的に放散させることができる。樹脂層の蛍光体は発光素子の上に堆積しているので、蛍光体から発生する熱は、熱伝導率の低い透明樹脂を介することなく発光素子に伝えられ、発熱は効率的に放熱される。
【0029】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、前記蛍光体は沈降により前記発光素子上に堆積されるものとすることができる。
【0030】
樹脂層中の蛍光体は沈降により発光素子上に堆積されるので、蛍光体が均一に発光素子上に堆積される。蛍光体から発生する熱は、効率よく発光素子に伝えられる。
【0031】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、前記樹脂層は、前記素子上に堆積されている蛍光体より粒径の小なる蛍光体を含み、該粒径の小なる蛍光体が前記樹脂層中に分散しているものとすることができる。
【0032】
粒径の小なる蛍光体が樹脂層中に分散しているので、粒径の小なる蛍光体により半導体発光装置の発光時における色ムラを改善することができる。
【0033】
本発明の半導体発光装置は、前記発明において、前記樹脂層は、散乱材を有し、該散乱材が前記樹脂層中に分散しているものとすることができる。
【0034】
散乱材が樹脂層中に分散しているので、散乱材により半導体発光装置の発光時における色ムラを改善することができる。
【0035】
本発明の照明装置は、前記発明の半導体発光装置と、前記半導体発光装置からの出射光を所定方向へ照射する投影手段とを備えることができる。
【0036】
正面輝度分布における半導体発光装置の端部における発光部と非発光部の輝度差が急峻である半導体発光装置を光源としたので、明暗の境界の明確な配光パターンを得ることができる。
【0037】
本発明の照明装置は、前記発明において、前記半導体発光装置における配光パターン上側を照らす一方の長辺付近の輝度を最大とすることができる。
【0038】
照明装置において、車両用前照灯に使用した場合、配光パターンの水平線と、前記半導体発光装置の急峻な正面輝度分布の境界とが一致するので、ロービーム状態での水平線の明暗の境界を明確にすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、散乱材及び/または蛍光体を含む樹脂層を備えた半導体発光装置において、半導体発光装置の端部における発光部と非発光部の輝度差が急峻である半導体発光装置を得ることができる。
【0040】
さらに、本発明によれば、蛍光体を含む樹脂層を備えた半導体発光装置において、樹脂層に含まれる蛍光体からの発熱を効率的に放散させることができる半導体発光装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0042】
本発明の実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。図1は半導体発光装置100の斜視図を示している。半導体発光装置100は、素子基板1と、素子基板1上に形成された半導体エピタキシャル層2と、半導体エピタキシャル層2の側面と上面を覆うように素子基板1上に設けられ、半導体エピタキシャル層2からの光を波長変換する蛍光体5を含む樹脂層4を備えている。素子基板1と、素子基板1上に形成された発光部を有する半導体エピタキシャル層2とで発光素子3が構成されている。
【0043】
半導体エピタキシャル層2は、平面視において素子基板1より小さい面積を有しており、素子基板1内に収まるよう形成される。素子基板1上に設けられた樹脂層4が半導体エピタキシャル層2の上面だけでなく側面を覆うことができる。樹脂層4は素子基板1の上面に設けられており、素子基板1の側面を覆っていない。
【0044】
素子基板1は半導体エピタキシャル層2の発光部からの光を吸収する不透明基板又は上に反射膜を形成したものから構成されており、半導体エピタキシャル層2の発光部からの光を透過しない。
【0045】
樹脂層4は、透明樹脂6中に高耐熱の透明樹脂6と半導体エピタキシャル層2から出射された光(可視光や紫外光)の一部を異なる波長に波長変換する蛍光体5が分散されている。図1に示すように、素子基板1上に設けられた樹脂層4は円頂部を有する形状を有している。
【0046】
樹脂層4は、蛍光体5を含有する樹脂を発光素子3へ滴下後硬化して形成し、発光素子3上に盛り上がった形状を有する。樹脂層4は略半球形状の円頂部を有するドーム形状で、樹脂層4の表面は、発光素子3中央の上部に位置する頂部から長方形の素子基板1上面の各辺をつなぐ曲面を形成している。
【0047】
図2(a)は半導体発光装置100の図1のA−Aに沿う断面図を示している。樹脂層4は、その一断面において素子基板1側から上方に向けて内側に傾斜した略弧を描く傾斜面を有している。樹脂層4は半導体エピタキシャル層2の中心点の上方に樹脂層4の最頂部が位置する。半導体発光装置100は図2(a)に示すように実装基板7等に搭載され、半導体発光デバイスとして用いられる。
【0048】
図2(b)に、半導体発光装置100を実装基板7へ搭載した半導体発光デバイスの正面輝度分布を示す。半導体発光装置100は,、980μm□、高さ約0.1mmの素子基板1上に950μm□の半導体エピタキシャル層2を有する青色発光素子3上に、蛍光体を含有する樹脂を滴下し硬化した樹脂層4を備える。半導体発光装置を覆う外部雰囲気は空気である。樹脂層4は、最大厚さ0.3mmであり、図2(a)に示す断面図において、素子基板1と樹脂層4と外部雰囲気の接触点から引いた樹脂層4の接線と、素子基板1表面とは約68°の角度を成している。
【0049】
半導体発光デバイスの正面輝度分布において、発光部である半導体発光装置100と非発光部である半導体発光装置100の外部との境界における輝度の差が急峻となった。つまり、半導体発光装置100の端部における発光部と非発光部の輝度差が急峻となった。発光部と非発光部の輝度は、約190:1とすることができた。ここで、発光部となる半導体発光装置100の端部とは、半導体発光装置100を上部から見た場合の発光素子の外縁、素子基板の外縁、または樹脂層の外縁を意味する。
【0050】
次に本発明の半導体発光装置100の発光特性を、従来の半導体発光装置と比較して図3に基づいて説明する。図3(a)は、従来の半導体発光装置の一例を示している。半導体発光装置200は、サファイア等の透明素子基板210上に形成された半導体エピタキシャル層220で構成される発光素子230と、半導体エピタキシャル層220からの光を波長変換する蛍光体250を含む樹脂層240を備えている。樹脂層240は発光素子230の側面及び上面を覆っている。半導体発光装置200は実装基板270に搭載される。
【0051】
半導体発光装置200を駆動することで、半導体エピタキシャル層220から光が放射される。光の一部は樹脂層240を透過し、他の光は蛍光体250で波長変換された後に樹脂層240を透過する。図3(a)に示すように、半導体発光装置200においては、光が半導体エピタキシャル層220の上面及び側面から放射される。半導体エピタキシャル層220からの光は透明素子基板210を透過し、同様に一部は樹脂層240を透過し、他は蛍光体250で波長変換された後に樹脂層240を透過する。半導体発光装置200の側面から光が放射され、その光は半導体発光装置200の上方向だけでなく、水平方向や下方向に放射される。下方向に放射された光は実装基板270で反射され、上方向に導かれる。
【0052】
そのため、半導体発光装置200の正面輝度分布を測定したとき、半導体発光装置200の端部において、半導体発光装置200から光と実装基板270からの反射光が観測されることになる。正面輝度分布は半導体発光装置200の端部においてブロードな形状となる。
【0053】
図3(b)は、従来の半導体発光装置の他の例を示している。半導体発光装置300は、不透明素子基板310上に形成された半導体エピタキシャル層320で構成される発光素子330と、半導体エピタキシャル層320からの光を波長変換する蛍光体350を含む樹脂層340を備えている。半導体発光装置300においては、半導体エピタキシャル層320は、平面視において不透明素子基板310より小さい面積を有しており、素子基板310内に収められている。樹脂層340は半導体エピタキシャル層320の側面及び上面を覆っている。半導体発光装置300は実装基板370に搭載される。
【0054】
半導体発光装置300を駆動することで、半導体エピタキシャル層320から光が放射される。光の一部は樹脂層340を透過し、他の光は蛍光体350で波長変換された後に樹脂層340を透過する。半導体エピタキシャル層320からの光は上面及び側面方向に放射される。一方、半導体エピタキシャル層320からの光は不透明素子基板310を透過しないので、不透明素子基板310の側面から光は放射されない。
【0055】
しかし、図3(b)に示すように、半導体発光装置300においては、半導体エピタキシャル層320の側面から放射された光が、樹脂層340の側面から光が放射され、水平方向や下方向に放射されることになる。この場合においても、下方向に放射された光は実装基板370で反射され上方向に導かれる。
【0056】
そのため、半導体発光装置300の正面輝度分布を測定したとき、半導体発光装置300の端部において、半導体発光装置300から光と実装基板370からの反射光が観測されることになる。正面輝度分布は半導体発光装置300の端部においてブロードな形状となる。
【0057】
図3(c)は、本発明に係る半導体発光装置100の断面図を示している。なお、図1又は図2に示した半導体発光装置100の構成と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する場合がある。
【0058】
半導体発光装置100を駆動することで、半導体エピタキシャル層2から光が放射される。光の一部は樹脂層4を透過し、他の光は蛍光体5で波長変換された後に樹脂層4を透過する。半導体エピタキシャル層2からの光は上面及び側面方向に放射される。一方、半導体エピタキシャル層2からの光は不透明な素子基板1を透過しないので、素子基板1の側面から光は放射されない。
【0059】
図3(c)に示すように、本発明の半導体発光装置100においては、半導体エピタキシャル層2の側面から放射された光は樹脂層4を通過する際に上方向に導かれる。そのため水平方向より下に出る光が、図3(a)(b)に示す従来例と比較して非常に少なくなり、実装基板7での反射光が減少される。その結果、半導体発光装置100の端部における発光部と非発光部の輝度差が急峻である正面輝度分布を持つ半導体発光装置100を実現できる。
【0060】
図4は本発明に係る半導体発光装置100と比較例として従来の半導体発光装置300の正面輝度分布のシミュレーション結果を示している。半導体発光装置100は、シリコン基板とシリコン基板上に設けた反射層からなる素子基板1と、素子基板1上に形成された半導体エピタキシャル層2で構成される発光素子3を備えている。発光素子3上に蛍光体(不図示)を含んだ円頂部を有する樹脂層4が設けられている。半導体発光装置100において、素子基板1と樹脂層4と外部雰囲気の接触点から引いた樹脂層4の接線と素子基板1表面の成す樹脂層4側の角度(以下、本願において接触角と称呼する)を20°,45°,90°の範囲で変化させた。接触角の変化に伴い、樹脂層4の最頂部までの高さtも、0.09mm(20°)、0.21mm(45°)、0.50mm(90°)と変化した。
【0061】
一方、半導体発光装置300は、半導体発光装置100と同一のシリコン基板とシリコン基板上に設けた反射層からなる素子基板310と、半導体エピタキシャル層320で構成される発光素子330を備えている。樹脂層340は蛍光体(不図示)を含んでおり、一定の膜厚(0.2mm)で、シート状に形成されている。
【0062】
図4のグラフにおいてAは比較例の輝度を示し、B〜Dは実施例の輝度を示している。Aは半導体発光装置300の正面輝度分布である。Aはその中央部に輝度の最大値を有している。正面輝度分布において、輝度は最大値から半導体発光装置300の両端に向けて徐々に減少している。両端部を越えた時点で、輝度は概ね垂直に減少している。
【0063】
Bは樹脂層4の接触角20°、高さ0.09mmの本発明に係る半導体発光装置100の正面輝度分布である。Bでは、中央部において輝度が最小値を示し、輝度は中央部から半導体発光装置100の両端に向けて増加している。両端部を越えた時点で、輝度は概ね垂直に減少している。
【0064】
Cは樹脂層4の接触角45°、高さ0.21mmの本発明に係る半導体発光装置100の正面輝度分布である。Cでは、中央部において輝度が最小値を示し、輝度は中央部から半導体発光装置100の両端に向けて急激に増加している。両端部を越えた時点で、輝度は概ね垂直に減少している。
【0065】
Dは樹脂層4の接触角90°、高さ0.30mmの本発明に係る半導体発光装置100の正面輝度分布である。Dでは、中央部において輝度が最小値を示し、輝度は中央部から半導体発光装置100の両端に向けて徐々に増加している。両端部を越えた時点で、輝度は概ね垂直に減少している。
【0066】
図4の正面輝度分布のグラフから明らかなように、B〜Dの実施例では、正面輝度分布に関して、輝度は中央部で最小値を示し、端部で最大値を示している。その結果、比較例に比して、端部において急峻な正面輝度分布を示している。
【0067】
特に、接触角45°であるCは、B〜Dの実施例の中で端部において輝度の最大値を示した。また、Cは、端部と中央部の輝度差に関して、最も大きい輝度差を示した。BとDを比較すると、端部の輝度に関し、BがDより大きい値を示した。なお、端部と中央部の輝度差に関して、BとDに大きな差はなかった。
【0068】
照明装置に使用される半導体発光装置では、端部において輝度が最大値を示す正面輝度分布が求められる。半導体発光装置において中央部が輝度の最大値を示す場合、半発光部と非発光部とのその境界における輝度差が小さくなり、急峻な正面輝度分布を得ることができない。照明装置では、半導体発光装置の上方にレンズ等の光学装置が配置される。光学装置を用いることで、半導体発光装置の正面輝度分布を変更することでができる。
【0069】
しかしながら、端部において輝度が最大値を示さない半導体発光装置は、光学装置を配置しても端部の輝度を向上させることができない。
【0070】
一方で、本発明に係る半導体発光装置では、端部において輝度が最大値を示すので、光学装置により所望の正面輝度分布を得ることが可能となる。
【0071】
図5は本発明に係る半導体発光装置100と従来の半導体発光装置300のの正面輝度分布のシミュレーション結果を示している。半導体発光装置100と従来の半導体発光装置300の構成は、上述と同様の構成とした。但し、半導体発光装置100において、素子基板1と樹脂層4と外部雰囲気の接触点から引いた樹脂層4の接線と素子基板1表面の成す樹脂層4側の接触角を90°とし、樹脂層4の高さtを0.2mm、0.5mm、1.0mmと変化させた。
【0072】
図5のグラフにおいてAは比較例の輝度を示し、B〜Dは実施例の輝度を示している。Aは半導体発光装置300の正面輝度分布である。Aはその中央部に輝度の最大値を有している。正面輝度分布において、輝度は最大値から半導体発光装置300の両端に向けて徐々に減少している。両端部を越えた時点で、輝度は概ね垂直に減少している。
【0073】
Bは樹脂層4の高さ0.2mmの本発明に係る半導体発光装置100の正面輝度分布である。Bでは、中央部において輝度が最小値を示し、輝度は中央部から半導体発光装置100の両端に向けて増加している。両端部を越えた時点では、輝度は概ね垂直に減少している。
【0074】
Cは樹脂層4の高さ0.5mmの本発明に係る半導体発光装置100の正面輝度分布である。Cでは、中央部において輝度が最小値を示し、輝度は中央部から半導体発光装置100の両端に向けて急激に増加している。両端部を越えた時点では、輝度は概ね垂直に減少している。
【0075】
Dは樹脂層4の高さ1.0mmの本発明に係る半導体発光装置100の正面輝度分布である。Dでは、中央部において輝度が最小値を示し、輝度は中央部から半導体発光装置100の両端に向けて徐々に増加している。両端部を越えた時点では、輝度は概ね垂直に減少している。
【0076】
図5の正面輝度分布のグラフから明らかなように、B〜Dの実施例では、正面輝度分布に関して、輝度は中央部で最小値を示し、端部で最大値を示している。その結果、比較例に比して、端部において急峻な正面輝度分布を示している。
【0077】
特に、樹脂の高さが0.2mmであるBは、B〜Dの実施例の中で端部において輝度の最大値を示した。また、Bは、端部と中央部の輝度差に関して、最も大きい輝度差を示した。CとDを比較すると、端部の輝度に関し、CがDより若干大きい値を示した。端部と中央部の輝度差に関して、DがBより大きな値を示した。
【0078】
図6は本発明に係る半導体発光装置100の正面輝度分布のシミュレーション結果を示している。半導体発光装置100は、シリコンからなる素子基板1と、素子基板1上に形成された半導体エピタキシャル層2で構成される発光素子3を備えている。一定の膜厚(0.2mm)で、シート状の樹脂層4aが発光素子3上に形成されている。ドーム形状の樹脂層4bがシート状の樹脂層4a上に形成されている。シート状の樹脂層4aとドーム形状の樹脂層4bのいずれも蛍光体を含んでいる。
【0079】
半導体発光装置100において、シート状の樹脂層4aとドーム形状の樹脂層4bの接触点から引いた樹脂層4bの接線と素子基板1表面の成す樹脂層4b側の角度(接触角)を45°とした。
【0080】
図6のグラフに示すように、シート状の樹脂層4aとドーム形状の樹脂層4bを備える半導体発光装置100の正面輝度分布は、両端部において輝度の最大値を示し、中央部において輝度の最小値を示す。一方で、最大値と最小値の差は小さく、正面輝度分布は概ね平坦な形状となる。両端部を越えた時点で、輝度は概ね垂直に減少している。
【0081】
シート状の樹脂層4aが発光素子3上に形成される場合であっても、シート状の樹脂層4a上にドーム形状の樹脂層4bを設けることにより、正面輝度分布が改善される。つまり、傾斜を描く樹脂層の最上層は、樹脂層の一部にシート状の樹脂層を備えることを許容することを意味し、樹脂層に素子基板表面に垂直な側面を有する場合であっても、そのような側面が所定範囲の膜厚であれば許容されることを意味する。素子基板に垂直な側面を備える樹脂層4aとドーム形状の樹脂層4bの組み合わせにより、所望の正面輝度分布を容易に得ることができる。
【0082】
次に、本発明に係る半導体発光装置に適用可能な、発光素子と樹脂層の組み合わせについて図7に基づいて簡単に説明する。
【0083】
半導体発光装置100は、素子基板として、透明な半導体基板上に反射層を形成したものとしてもよい。また、反射層としては、金属でも、いわゆるDBRを用いても良い。透明な半導体基板上に反射層を備える場合、反射率は90%以上であることが望ましい。
【0084】
樹脂層4は、上方に向けて半導体発光装置100の内側へ傾斜するものであればよい。略弧を描いて傾斜するように樹脂層4を形成することにより、配光パターン内において、極端な輝度の強弱の少ない半導体発光装置100を得ることができる。また、断面に角を有するような樹脂層4を形成することにより、配光パターン内において、輝度の強弱の明確な半導体発光装置100を得ることができる。樹脂層4は、円頂部を有するドーム形状に限定されず、さらに、樹脂層全体にわたって傾斜していなくてもよく、例えば、樹脂層4の最頂部にほぼ平坦な部分を有する場合であってもよい。本願においては、このような形状を含めて、ドーム形状と称呼する。
【0085】
図7(a)に示す半導体発光装置100では、不透明な素子基板1と、素子基板1上に形成された半導体エピタキシャル層2で構成される発光素子3を備えている。樹脂層4は蛍光体5を含む蛍光体含有層と散乱材9を含む散乱材含有層で構成される。樹脂層4が散乱材含有層と蛍光体含有層の積層体であるので、各層の厚さ、含有率を調整することで所望の発光特性、発光色を得ることができる。
【0086】
図7(b)に示す半導体発光装置100では、不透明な素子基板1と、素子基板1上に形成された半導体エピタキシャル層2で構成される発光素子3を備えている。樹脂層4は透明樹脂6と散乱材9とで構成される。樹脂層4が円頂部を有する形状を有しているので、上述したように端部において急峻な立ち上がりを示す正面輝度分布が実現される。
【0087】
本実施の形態における半導体エピタキシャル層は、例えばGaN系化合物半導体で構成され、紫外から緑色の光を発光する。蛍光体として、例えば青色光に励起されて黄色光に波長変換するYAG系の蛍光体が好適に使用される。また、散乱材として酸化バリウムやチタン酸バリウムが好適に使用される。但し、これらに限定されない。
【0088】
図7に基づいて本発明に係る半導体発光装置に適用可能な、発光素子と樹脂層の組み合わせを説明した。しかし、この例に限定されることなく、発光素子と樹脂層を適宜組み合わせて本発明の半導体発光装置に使用することが可能である。
【0089】
本発明に係る半導体発光装置に好適に使用される、代表的な樹脂層の形状を図8に基づいて説明する。なお、図8では、素子基板、半導体エピタキシャル層および蛍光体等は省略し、樹脂層4と発光素子のみを図示している。
【0090】
図8(a)の半導体発光装置100は、発光素子3上に略半球の樹脂層4を備えている。樹脂層4は、散乱材または/および蛍光体を分散した樹脂をポッティングし、その後硬化することで得られる形状であって、上面が中心断面において弧を描く形状を有している。ポッティングする樹脂の粘度、チクソ性の制御により樹脂層4の形状を変化させることができる。例えば、曲率、素子基板の端部から樹脂層まで距離、樹脂層の接触角、樹脂層の高さ等を変化させることができる。
【0091】
樹脂層4の形状をドーム形状にすることにより、発光素子3の4辺全ての端部において急峻な正面輝度分布が得られる。
【0092】
樹脂をポッティングすることで樹脂層4を形成しているので、容易にドーム形状の樹脂層が実現できる。
【0093】
図8(b)の半導体発光装置100は、発光素子3上に略半円筒状の樹脂層4を備えている。樹脂層4は、散乱材または/および蛍光体を分散した樹脂を金型で所望の形状に貼り付けることで得られる形状である。図8(b)の半導体発光装置100では、A−A線に沿って切った断面は半円を描く形状を有している。この断面形状に関して、半導体発光装置100の両端部における発光部と非発光部の輝度差が急峻である正面輝度分布を持つ半導体発光装置100を実現できる。
【0094】
一方で、図示しないが、A−A線に垂直方向に沿って切った断面は略矩形の形状となる。この断面形状に関して、従来の半導体発光装置と同じように、正面輝度分布は中央部において最大値を示す。図8(b)の半導体発光装置100は発光素子3の対向する2辺の端部において急峻な正面輝度分布を有することになる。
【0095】
照明装置に要求される特性により、発光素子3の4辺全ての端部において急峻な正面輝度分布が必要とされない場合がある。
【0096】
図8(c)の半導体発光装置100は、発光素子3上に樹脂層4を備えている。樹脂層4は、散乱材または/および蛍光体を分散した樹脂を金型で所望の形状に貼り付けることで得られる形状である。図8(c)の半導体発光装置100では、B−B線に沿って切った断面は、一方の端から他方の端に向けて弧を描く形状を有している。樹脂層4は、他方の端において最頂部が位置するように、上方に向けて内側に略弧状で傾斜している。B−B線に沿って切った断面に関して、半導体発光装置100は一方の端においてのみ急峻な正面輝度分布を示す。
【0097】
次に、本発明に係る半導体発光装置に樹脂層に関し、放熱効果を考慮した場合の樹脂層中の散乱材及び蛍光体の好適な分布の状態について図9に基づいて説明する。既に説明した構成と同様の構成には同一符号を付して説明を省略し、必要に応じて構成を省略する場合がある。
【0098】
図9(a)の半導体発光装置100は、発光素子3と、蛍光体5及び散乱材9を含有する透明樹脂6からなり、樹脂層4を備えている。発光素子3は実装基板(不図示)上に実装される。本実施の形態における発光素子3及び樹脂層4は周囲を封止樹脂によって直接覆われていないので、樹脂層4の周囲は空気である。また、別の実施の形態では発光素子3及び樹脂層4が透明なキャップなどで覆われている場合がある。別の実施の形態では、発光素子3及び樹脂層4の周囲は窒素等のガスとなる。
【0099】
樹脂層4中で蛍光体5の全て、またはほとんどが発光素子3の上に堆積しているか、または直接発光素子3上に堆積していない蛍光体5は発光素子3上に堆積している蛍光体5か、それに接している蛍光体5とほぼ接するよう沈降している。つまり、樹脂層4中で殆どの蛍光体5が、直接又は間接的に発光素子3と熱的に結合されている。
【0100】
蛍光体5が発光素子3と熱的に結合されているので、蛍光体5の発熱は、熱伝導率の低い透明樹脂6(例えば、透明樹脂がシリコンである場合、熱伝導率は、0.2W/mK程度)を介することなく発光素子3側へ熱が伝えられる。
【0101】
蛍光体5が沈降してできる層の厚みは、蛍光体5の種類及び量を変更することで適宜変更できる。例えばYAG:Ceの場合、蛍光体5の層の厚みが50μm以下であれば、所望の白色が得られ、蛍光体5の熱を発光素子3側に伝えることができる。樹脂層4に散乱材9を含めることによって色むらを低減することが可能となる。
【0102】
図9(b)は、図9(a)と比較すると、樹脂層4は散乱材を含有していない。半導体発光装置100では図9(a)と同様に、樹脂層4中で蛍光体5の全て、またはほとんどが発光素子3の上に堆積しているか、または直接発光素子3上に堆積していない蛍光体5は発光素子3上に堆積している蛍光体5か、それに接している蛍光体5とほぼ接するよう沈降している。樹脂層4中で殆どの蛍光体5が、直接又は間接的に発光素子3と熱的に結合されている。図9(b)の半導体発光装置100は散乱材を備えていないが、蛍光体5の放熱を向上させるという意味において、散乱材は必須の構成要件ではない。
【0103】
図9(c)は、樹脂層4中に沈降している蛍光体5aよりも小さい粒径の蛍光体5bを含んだ半導体発光装置100を示している。小さい粒径の蛍光体5bは相対的に大きい蛍光体5aよりも沈降し難い。例えば、ディスペンサにて蛍光体5aと小さい粒径の蛍光体5bを含む樹脂を発光素子3上にポッティングし、熱硬化によって樹脂層4を形成するような場合、小さい粒径の蛍光体5bは樹脂層4中に容易に分散させることができる。
【0104】
小さい粒径の蛍光体5bは大きい粒径の蛍光体粒子5aよりも変換効率は悪い。しかし、小さい粒径の蛍光体5bによって色ムラを改善することが可能となる。さらに散乱材を含有させてもよい。
【0105】
一方、小さい蛍光体5bが多いと放熱の点で不利になるため、沈降している蛍光体粒子5aよりも少ない量にすることが好ましい。
【0106】
図9(a)〜(c)のいずれの半導体発光装置においても、樹脂層4が円頂部を有する形状を有しているので、蛍光体5の分布の状況に関係なく、端部において急峻な正面輝度分布を有する半導体発光装置を実現することができる。
【0107】
図10は、蛍光体が樹脂層中に沈降し、発光素子と熱的に結合する半導体発光装置の正面輝度分布を示している。 正面輝度分布は、図1,2に基づいて上記にした円頂部を有するドーム形状の樹脂層を有する半導体発光装置を4個一列に並べて測定して。同図10(a)は、樹脂層中に散乱材を含まない(0wt%)半導体発光装置の正面輝度分布である。同図(b)は、樹脂層中に散乱材を1wt%含んだ半導体発光装置の正面輝度分布である。同図(c)は、樹脂層中に散乱材を2wt%含んだ半導体発光装置の正面輝度分布である。同図(d)は、樹脂層中に散乱材を3wt%含んだ半導体発光装置の正面輝度分布である。いずれの場合においても、端部において急峻な正面輝度分布を有する半導体発光装置を実現することができる。
【0108】
散乱材の量を変化させることで、正面輝度分布における、端部と中央部の輝度差が制御される。照明装置に求められる光学特性に応じて、半導体発光装置の正面輝度分布を所望のパターンにすることができる。
【0109】
図11は樹脂層中の蛍光体5が分散している場合と沈降させた場合の樹脂表面MAX温度とTj計算値の結果を比較したグラフである。蛍光体層の表面温度をIRカメラにより測定した。
【0110】
Aは発光素子の上にのみ樹脂層が形成され、YAG蛍光体が樹脂層中に一様に分散した半導体発光装置であり、その測定結果を示している。Bは発光素子の上にのみ樹脂層が形成され、YAG蛍光体が樹脂層中に沈降している半導体発光装置であり、その測定結果を示している。
【0111】
図11のグラフのX軸は発光素子を駆動したときのTj計算値(℃)を示している。Tj計算値は発光素子の温度を示す。Tj計算値を求めるにあたり、Tj(℃)=Rth(℃/W)・If(A)・Vf(V)+Ta(℃)の式を用いた。ここでRthは半導体発光装置および放熱体(ヒートシンク)の熱抵抗である。IfおよびVfは発光素子を駆動する際の電流および電圧である。Taは雰囲気温度である。
【0112】
Y軸はIRカメラ測定による樹脂層表面の温度である。A及びBは、ほぼ2.5(W/mm)の電力密度で駆動されている。さらに雰囲気温度を変えることでTjが変化させされている。
【0113】
Bは発光素子温度のTjに対して、IRカメラで測定した樹脂層の表面温度がかなり高い値を示している。その差は50℃以上にもなる。例えばTjが120℃の時に蛍光体層表面温度が175℃程度になっている。これは蛍光体の量に対して透明樹脂の量が少なく、蛍光体によって発生した熱で樹脂層の透明樹脂が高い温度になっていることを示している。
【0114】
このとき、Aの光束は大きく低下していた。この結果は、発光素子上のみに樹脂層が配置されることにより単位体積に集中して熱が蓄積され、その熱の放熱が不十分であることを意味している。放熱が十分でないこのAを1000時間以上の長時間連続通電させたものは、透明樹脂の一部が揮発して透明樹脂の体積が減少したり、透明樹脂そのものを黒化させており、放熱性を考慮した場合、半導体発光装置の性能を著しく劣化させてしまうおそれがある。
【0115】
樹脂層の蛍光体を沈降させたBは発光素子のTjと蛍光体層表面温度の差はほとんどなく、その差は10℃以下である。これは樹脂層中の蛍光体のすべてまたはほとんどが発光素子の上に堆積しているか、また、直接発光素子上に堆積していない蛍光体は発光素子上に堆積している蛍光体かそれに接しているそれに接している蛍光体と接するよう沈降しているため、蛍光体の発熱は、ほとんど熱伝導率の低い透明樹脂を介することなく発光素子素子側へ熱を伝えることによって放熱を可能としている。
【0116】
図11の場合は雰囲気温度を変えてTjを変化させたが、発光素子の駆動電流を大きくすることによってTjを変えたときでも同様の効果を得ることができる。
【0117】
次に、上述の半導体発光装置を利用した車両用灯具について図12に基づいて説明する。図12(a)に示すように、本実施の形態の車両用灯具では、略半円筒の樹脂層4を発光素子3上に備える半導体発光装置100を一列に4個並べた半導体発光デバイスが光源として使用されている。本実施の形態の発光素子3は平面視で矩形であり、長辺が直線になるように並べられている。
【0118】
図12(b)は、半導体発光装置100を、回転放物面系のリフレクタが採用されているヘッドライト20に組み込んだ状態の一例を示している。複数の半導体発光装置100は、回転放物面系としたリフレクタ21の水平方向の中心線(ヘッドライト20の光軸)Hoと直交するように直線状に並べられている。リフレクタ21の上半部に光を照射する場合には、複数の半導体発光装置100は、回転放物面の焦点を含むその近傍(例えば、焦点よりも適宜に前方)に配置される。リフレクタ21が光をすることにより、図13に示すように、その発光部の形状により水平線H以下を照射するすれ違い配光に適する配光パターンが得られる。
【0119】
つまり、半導体発光装置を用いた半導体発光デバイスを車両用前照灯の光源とすることにより、その配光パターンにおいて明暗の境界の明確な水平線を形成することができ、光学設計を容易にすることができる。また、水平線を形成する端領域の照度を高くすることができるため、遠方視認性が向上する。図12(a)に示すように、車両用前照灯の光源となる半導体発光デバイスにおいて、複数の発光素子を配列する場合には、樹脂層4は、素子の配列の長手方向に直交する断面において、上方に向かって内側に傾斜する部分を有する。そして、図12(b)に示すように、車両用前照灯の照射方向に沿う断面において上方に向かって内側へ傾斜する部分を有する。
【0120】
尚、車両用前照灯の光源となる半導体発光デバイスは、図8(a)に示す、ドーム形状の樹脂層4を備えた半導体発光装置を用いても良く、また、図8(c)に示すように最頂部が端部にあるものでもよい。さらに、図12(c)に示すように複数の発光素子を配列したものの上に一体に形成された、断面が略半円筒の樹脂層4を取り付けたものなどを用いることも可能である。
【0121】
リフレクタ型のヘッドランプで説明したが、プロジェクタ型のヘッドランプでも同様の効果が得られる。
【0122】
また、車両用灯具に限らず、本発明の半導体発光装置を用いた半導体発光デバイスを光源とすれば、明暗の境界の明確な配光パターンを容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明に係る半導体発光装置の斜視図
【図2】(a)は図1のA−A線に沿う半導体発光装置の断面図、(b)は半導体発光装置を実装基板へ搭載した半導体発光デバイスの正面輝度分布
【図3】本発明に係る発光特性を説明するための概略図
【図4】樹脂層の形状と正面輝度分布の関係を示すグラフ
【図5】樹脂層の高さと正面輝度分布の関係を示すグラフ
【図6】シート状の樹脂層と略半球の樹脂層を持つ半導体発光装置の正面輝度分布
【図7】本発明に係る半導体発光装置の実施例を示す断面図
【図8】本発明に係る半導体発光装置の実施例を示す概略図
【図9】本発明に係る半導体発光装置の実施例を示す概略図
【図10】散乱材の量と正面輝度分布の関係を示すグラフ
【図11】樹脂の表面温度のTj計算値の関係を示すグラフ
【図12】(a)本発明に係る半導体発光装置を利用した半導体発光デバイスの例を示す概略図、(b)本発明の照明装置の実施例(車両用灯具)を示す概略図、(c)本発明に係る半導体発光装置を利用した別の半導体発光デバイスの例を示す概略図
【図13】車両用前照灯の配光パターンの一例
【符号の説明】
【0124】
1…素子基板、2…半導体エピタキシャル層、3…発光素子、4…樹脂層、5…蛍光体、6…透明樹脂、7…実装基板、8…反射層、9…散乱材、10…反射層、20…ヘッドライト、21…リフレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部を有する半導体エピタキシャル層と、該半導体エピタキシャル層を支持し、該発光部からの光を透過しない素子基板とを有する発光素子と、
前記半導体エピタキシャル層の側面及び上面を覆うように前記素子基板上に設けられた、散乱材及び/または発光部からの光を波長変換する蛍光体を含む樹脂層を備え、該樹脂層はその一断面において上方に向けて内側に傾斜していることを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】
前記樹脂層は、その一断面において略弧を描いて傾斜することを特徴とする請求項1記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記樹脂層は、その一断面において、該樹脂層の傾斜開始点に引いた樹脂層の接線と前記素子基板の表面の成す角度が20°以上90°以下であることを特徴とする請求項2記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記樹脂層は、散乱材及び/または蛍光体を含む樹脂を滴下硬化して形成されたことを特徴とする請求項2又は3記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記樹脂層は散乱材及び蛍光体を含み、散乱材含有層と蛍光体含有層の積層体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記樹脂層は、蛍光体を含み、該蛍光体は前記発光素子上に堆積されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1記載の半導体発光装置。
【請求項7】
前記蛍光体は沈降により前記発光素子上に堆積されていることを特徴とする請求項6記載の半導体発光装置。
【請求項8】
前記樹脂層は、前記素子上に堆積されている蛍光体より粒径の小なる蛍光体を含み、該粒径の小なる蛍光体が前記樹脂層中に分散していることを特徴とする請求項7記載の半導体発光装置。
【請求項9】
請求項1〜7いずれか1記載の半導体発光装置と、前記半導体発光装置からの出射光を所定方向へ照射する投影手段とを備えた照明装置。
【請求項10】
前記半導体発光装置における、配向パターン上側を照らす一方の長辺付近の輝度が最大であることを特徴とする請求項9記載の照明装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−135136(P2009−135136A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307675(P2007−307675)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】