説明

半導体素子の評価方法及び評価装置

【課題】 本発明の課題は、ナノ電子線回折パタンにおける各スポットの座標を適切に定義し、格子面距離を精度良く算出することを目的とする。
【解決手段】 上記課題は、回折スポット及び透過スポットを含む複数のスポットを表す電子線またはX線回折パタンを二階調化して二階調化データを生成するステップと、前記二階調化データを用いて、前記スポットの領域に相当する定義円を作成するステップと、前記スポットと前記定義円の各画素における差の二乗和が最小になるように前記定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて該スポットへフィッティングさせることによって、該スポットの近似円を取得するステップと、前記近似円の中心座標で前記スポットの座標を定義することによって、スポット間の距離を算出し格子面距離を取得するステップとをコンピュータが実行する半導体素子の評価方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の評価方法及び評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの微細化に伴い、スケーリングに頼らず素子の性能を向上する技術が必要とされている。例えば、電界効果トランジスタのチャネル部のキャリア進行方向に圧縮や引っ張り応力を印加することで正孔や電子の移動を早くする仕組みがそのひとつの手段である。このような意図的に加えられた応力が実際どの程度であるのか定量的に評価することは非常に重要である。また、応力分布とデバイス構造の関係を実験的に評価しておくことはデバイス製造プロセスを最適化していく上で非常に重要である。また、歪を意図的に印加しないにしても、異種接合(ヘテロ)界面には材料間の熱膨張係数の違いなどに起因してイントリシックな歪が加わっていることが多く、プロセス不良の原因になることも少なくない。
【0003】
このように、歪が印加されているデバイスをナノメータオーダの分解能で計測できる手段は、透過型電子顕微鏡(TEM)をベースにしたナノ電子線回折(Nano-beam Diffraction:NBD)と収束電子線回折(Convergent-Beam Electron Diffraction:CBED)のみである。特に、NBDはCBEDに比べて若干歪に対する感度が悪いが,より微小な領域の歪解析を比較的簡単に行うことができ(制限視野電子線回折と同様の手順で解析が可能)、CBEDに比べて散乱断面積が大きいため薄い試料に適用でき(厚さ方向の分解能が高い)、デバイスに垂直にプローブを入射できるので横方向の分解能が高いなどの特徴を有しており、微細素子を製造している現場で格子歪を評価するのに適している。NBDもCBEDも格子面距離の変位量から歪量を推測するものである。
【0004】
NBDや制限視野電子線回折では,格子面間隔dが回折スポットと透過スポット(Direct spot)間の距離Rの逆数に比例する(d∝1/R)ことを利用している。(d=Lλ/Rの近似式を用いる。Lはカメラ長、λは電子の波長)つまり回折スポットと透過スポットの間の距離Rを正確に測ることが格子面距離を正確に計測することにつながり、歪量の定量精度に直接影響を与える。NBDを用いて歪量を求める際には、歪んでいない領域で求めた1/Rと歪計測箇所で求めた1/Rから以下の式で歪量Rdisを求めるのが一般的である。
【0005】
【数1】

【0006】
制限視野電子線回折では、試料に平行な電子線を照射して電子線回折パタン画像を得ているもので、測定される各回折斑点はガウス分布をしている。ただし、試料の表面及び裏面のFIB(Focused Ion Beam)ダメージで非晶質化されている領域の影響で、ガウス分布の裾部がだれた形になっている。このため電子線回折パタン画像のプロファイルを抽出し、回折スポットをガウス分布であると仮定してフィッティングすることで回折スポット間の距離を、任意性無く正しく計測することが行われている。
【0007】
一方、NBDでは、CBEDに比べ、平行なビームを用いるが、試料に収束して照射することに起因し数mrad程度の収束角を持つことは避けられず、回折パタンは制限視野電子線回折パタンに比べて広がり,ディスク状になるとともにディスクの中に試料構造を反映した構造を持っている。このように回折スポット内に構造を持ってしまうとその強度プロファイルから回折スポット間距離を定義する際に、任意性が出るばかりか、誤差も大きい。またディスク状の回折パタンであるため極大値を一点に定めるのが困難である。
【0008】
このような問題に対して、NBDで得られる回折パタン間の距離を、コンデンサレンズの形状が反映されるように中間レンズを調整し、コンデンサレンズの影と明るい部分(回折スポットディスク)の境で急峻に輝度が変化する箇所の距離を測定することによって、回折パタン間の距離を求めること等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−250943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術によって、コンデンサレンズ絞りの影が明瞭に回折パタンに現れるように中間レンズを調整することができるようになった。しかしながら、中間レンズを調整して回折スポットに影が反映するようにする必要がある。従って、現場のオペレータが簡単に調整できないほか、回折スポットが通常の何倍にも大きくなり、回折スポットとコンデンサレンズ絞りの影の境界で急峻に輝度が変化する点をオペレータによるマニュアルで定義する際の任意性をなくすることができない。また、NBDの技術革新により、収束しても平行なビームが得られるようになると、このような技術の適用ができなくなる等の問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の技術は、回折スポット及び透過スポットを含む複数のスポットを表す電子線またはX線回折パタンを二階調化して二階調化データを生成するステップと、前記二階調化データを用いて、前記スポットの領域に相当する定義円を作成するステップと、前記スポットと前記定義円の各画素における差の二乗和が最小になるように前記定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて該スポットへフィッティングさせることによって、該スポットの近似円を取得するステップと、前記近似円の中心座標で前記スポットの座標を定義することによって、スポット間の距離を算出し格子面距離を取得するステップとをコンピュータが実行することを特徴とする半導体素子の評価方法のように構成される。
【0012】
また、上記課題を解決するための手段として、コンピュータによって実現される半導体素子の評価装置、コンピュータに上記半導体素子の評価方法を実行させるためのプログラム、及び、そのプログラムを記録した記録媒体とすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
開示の技術では、ナノ電子線回折パタンにおける各スポットの座標を適切に定義できるため、格子面距離の算出を精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】情報処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図2】NBDパタンに基づくスポットのプロファイルの例を示す図である。
【図3】本実施例に係る情報処理装置の機能構成例を示す図である。
【図4】スポット座標の定義処理の第一例を説明するためのフローチャート図である。
【図5】スポット座標の定義処理の例を説明するための図である。
【図6】スポット座標の定義処理の第二例を説明するためのフローチャート図である。
【図7】スポット座標の定義処理の第三例を説明するためのフローチャート図である。
【図8】回折スポットの選択例を示す図である。
【図9】本実施例の適用の有無による精度の違いを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。半導体素子に印加された歪量を計測するNBDの測定装置のオペレータによる任意性を排除してNBD回折パタンの座標を定義する方法として、NBDで得られた電子線回折パタン画像(生データ)を二階調(二値)化して、二階調化された輝点部の平均座標を求める技術がある。輝点部の平均座標が電子線透過スポット(以下、単に透過スポット)の座標及び電子線回折スポット(以下、単に回折スポット)の座標になり、任意性を排除してスポット間の距離、すなわち格子面距離を規定できる反面、回折スポットや透過スポットに構造が現われ、非対称なパタンが得られたときは平均座標では正しくスポット座標を定義することが困難となる。
【0016】
透過及び回折スポット(両者を総称して、単にスポットと言う)は本来ガウス(正規)分布をしており、発明者は、二階調化すると円とみなせることに着目し、本実施例では、スポットを円で近似し、近似した円の中心をスポットの座標にするものである。本実施例によって、NBDの測定装置のオペレータによる任意性を排除すると共に、高い精度でスポット座標を定義することが可能となる。
【0017】
本実施例に係る情報処理装置は、図1に示すようなハードウェア構成を有する。図1は、情報処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図1において、情報処理装置100は、コンピュータによって制御される端末であって、CPU(Central Processing Unit)11と、メモリユニット12と、表示ユニット13と、出力ユニット14と、入力ユニット15と、通信ユニット16と、記憶装置17と、ドライバ18と、I/F(インターフェース)20とを有し、システムバスBに接続される。
【0018】
CPU11は、メモリユニット12に格納されたプログラムに従って情報処理装置100を制御する。メモリユニット12には、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read-Only Memory)等が用いられ、CPU11にて実行されるプログラム、CPU11での処理に必要なデータ、CPU11での処理にて得られたデータ等を格納する。また、メモリユニット12の一部の領域が、CPU11での処理に利用されるワークエリアとして割り付けられている。
【0019】
表示ユニット13は、CPU11の制御のもとに必要な各種情報を表示する。出力ユニット14は、プリンタ等を有し、ユーザからの指示に応じて各種情報を出力するために用いられる。入力ユニット15は、マウス、キーボード等を有し、ユーザが情報処理装置100が処理を行なうための必要な各種情報を入力するために用いられる。通信ユニット16は、例えばインターネット、LAN(Local Area Network)等に接続し、外部装置との間の通信制御をするための装置である。記憶装置17には、例えば、ハードディスクユニットが用いられ、各種処理を実行するプログラム等のデータを格納する。
【0020】
情報処理装置100によって行われる処理を実現するプログラムは、例えば、CD−ROM(Compact Disc Read-Only Memory)等の記憶媒体19によって情報処理装置100に提供される。即ち、プログラムが保存された記憶媒体19がドライバ18にセットされると、ドライバ18が記憶媒体19からプログラムを読み出し、その読み出されたプログラムがシステムバスBを介して記憶装置17にインストールされる。そして、プログラムが起動されると、記憶装置17にインストールされたプログラムに従ってCPU11がその処理を開始する。尚、プログラムを格納する媒体としてCD−ROMに限定するものではなく、コンピュータが読み取り可能な媒体であればよい。コンピュータ読取可能な記憶媒体として、CD−ROMの他に、DVDディスク、USBメモリ等の可搬型記録媒体、フラッシュメモリ等の半導体メモリであっても良い。
【0021】
I/F20は、NBD測定装置21と接続するためのインターフェースであり、NBD測定装置21による測定結果を含む回折データを取り込む。取り込んだ回折データは、記憶装置17に格納される。回折データの取り込みは、I/F20を介したデータ転送に限定されず、記憶媒体を介して記憶装置17に格納されてもよい。
【0022】
本実施例に係るNBDパタンのスポット座標を定義する方法について図2で説明する。図2は、NBDパタンに基づくスポットのプロファイルの例を示す図である。図2では、実際に得られたNBDの回折パタン2と、回折パタン2から抽出した強度プロファイル3及び4の例を示している。回折パタン2はNBD測定装置21で測定された回折データによって示される。
【0023】
本実施例に係る二階調化処理は、回折パタン2における透過スポット(Direct)及び回折スポットの輝度の強度を示す強度ファイル3、4等を用いて、非晶質化層の存在等によりだれてガウス分布から外れる強度3c未満の分布の裾部を0とし、強度3c以上を1として二階調化を行う。強度プロファイル3、4は、後述される回折データに含まれる。なお、上記ガウス分布は二次元ガウス分布であってもよい。
【0024】
そして、本実施例に係るフィッティング処理は、二階調化した透過スポットと同じ面積の定義円を生成し、透過スポットと定義円と各画素における差の二乗和が最も小さくなるように定義円を所定値で僅かに拡大又は縮小することによってフィッティングして、近似円を取得する。取得した近似円の中心座標を透過スポットの座標として定義する。
【0025】
同様に、各回折スポットについても強度ファイル3、4等を用いて座標を定義することが可能となる。
【0026】
NBDパタンのスポット座標を定義するための機能構成について説明する。図3は、本実施例に係る情報処理装置の機能構成例を示す図である。図3において、実施例に係る情報処理装置100は、二階調化処理部31と、定義円作成処理部32と、フィッティング処理部33と、距離算出処理部34とを有する。CPU11が対応するプログラムを実行することによって、二階調化処理部31と、定義円作成処理部32と、フィッティング処理部33と、距離算出処理部34として機能する。また、情報処理装置100は、メモリユニット12又は記憶装置17の記憶領域40に回折データ41、二階調化データ42、結果データ43、距離データ44などのデータを有する。
【0027】
二階調化処理部31は、回折パタン2を表す画像データである回折データ41を二階調化する。二階調化処理部31は、各スポットの輝度の強度を参照して、回折データ41を二階調化する。輝度の強度を表すガウス分布において、ガウス分布から外れる強度未満を0とし、強度以上を1で表した二階調化データ42を記憶領域40に記憶する。
【0028】
定義円作成処理部32は、二階調化処理部31によって生成された二階調化データ42を用いて、透過スポットの面積となる円形の定義円を作成する。また、選択された回折スポットについても同様に定義円が作成される。
【0029】
フィッティング処理部33は、定義円作成処理部32によって作成された定義円を所定値で僅かに拡大又は縮小することによって、透過スポットへのフィッティングを行い、近似円を取得する。フィッティング処理部33は、近似円の半径又は直径を示すサイズと、近似円の中心を示す座標とを含む結果データ43を記憶領域40に記憶する。
【0030】
距離算出処理部34は、結果データ43を用いて、透過スポットと各回折スポット間の距離を算出し、距離データ44を記憶領域40に記憶する。そして、二階調化データ42、結果データ43、距離データ44に基づいて生成されたNBDパタンが、情報処理装置100の表示ユニット13に表示される。
【0031】
図4は、スポット座標の定義処理の第一例を説明するためのフローチャート図である。図4において、情報処理装置100は、NBDの回折データ41を読み込み(ステップS11)、二階調化処理部31によって回折データ41の二階調化を行う(ステップS12)。二階調化処理部31は、各スポットの輝度の強度を現すガウス分布の所定強度未満を0とし、所定強度以上を1とした二階調化データ42を記憶領域40に記憶する。
【0032】
そして、情報処理装置100は、二階調化データ42のうち透過スポットを処理中スポットに設定し、定義円作成処理部32によって、処理中スポットを構成する画素からその平均座標と面積とを求め、平均座標を中心とする同面積の円を作成し定義円として設定する(ステップS14)。
【0033】
次に、情報処理装置100は、フィッティング処理部33によって、定義円の処理中スポットへのフィッティングを行って処理中スポットの近似円を取得する(ステップS15)。ステップS15では、以下に説明するステップS151からS158までの処理が行われる。
【0034】
フィッティング処理部33は、処理中スポットと定義円との各画素における差の二乗和が最小になるように定義円の中心座標を移動する(ステップS151)。そして、フィッティング処理部33は、定義円をわずかに大きくし(ステップS152)、処理中スポットと定義円との各画素における差の二乗和が最小になるように定義円の中心座標を移動する(ステップS153)。
【0035】
フィッティング処理部33は、ステップS151での先の差の二乗和とステップS152での差の二乗和とを比較し、先の差の二乗和よりも小さいか否かを判断する(ステップS154)。先の差の二乗和よりも小さい場合、フィッティング処理部33は、ステップS152での差の二乗和を先の差の二乗和に設定して、ステップS152へ戻り、定義円をわずかに大きくし、処理中スポットと定義円との各画素における差の二乗和が最小になるように定義円の中心座標を移動する(ステップS152及びS153)。フィッティング処理部33は、再度、先の差の二乗和と今回の差の二乗和とを比較し(ステップS154)、今回の差の二乗和が先の差の二乗和よりも小さい場合、今回の差の二乗和を先の差の二乗和に設定して、ステップS152へ戻り、今回の差の二乗和が先の二乗和以上となるまで上述同様の処理を繰り返す。
【0036】
ステップS154での判断において、今回の二乗和が先の差の二乗和以上となった場合、フィッティング処理部33は、今回の差の二乗和を先の差の二乗和に設定した後、定義円をわずかに小さくし(ステップS155)、処理中スポットと定義円との各画素における差の二乗和が最小になるように定義円の中心座標を移動する(ステップS156)。
【0037】
そして、フィッティング処理部33は、先の差の二乗和と今回の差の二乗和とを比較して、今回の差の二乗和が先の差の二乗和よりも小さいか否かを判断する(ステップS157)。先の差の二乗和よりも小さい場合、フィッティング処理部33は、今回の差の二乗和を先の差の二乗和に設定した後、ステップS155へ戻り、今回の差の二乗和が先の差の二乗和以上となるまで上述同様の処理を繰り返す。
【0038】
ステップS157にて、今回の差の二乗和が先の差の二乗和以上であると判断した場合、フィッティング処理部33は、定義円のサイズと中心座標とを記憶領域40内の結果データ43に記録する(ステップS158)。定義円のサイズは、半径又は直径である。
【0039】
次に、情報処理装置100は、ユーザによって選択された未処理の回折スポットが有るか否かを判断する(ステップS16)。未処理の回折スポットが有る場合、回折スポットを処理中スポットに設定し(ステップS16−2)、ステップS14へと戻り、全ての回折スポットについて処理が終了するまで、上述同様の処理を繰り返す。
【0040】
ステップS16にて、全ての回折スポットについて処理が終了したと判断した場合、情報処理装置100は、距離算出処理部34によって、透過スポットから各回折スポットまでの距離を算出して格子面間隔を求め、その結果を含む距離データ44を記憶領域40に記憶する(ステップS17)。
【0041】
そして、情報処理装置100は、記憶領域40に格納されている二階調化データ42、結果データ43、距離データ44を参照して、表示ユニット13に結果を表示して(ステップ18)、この処理を終了する。
【0042】
上述したステップS15での処理において、フィッティング処理部33は、所定長間隔で定義円の半径を長く又は短くしながら、最適な定義円の中心座標を定める。
【0043】
図5は、スポット座標の定義処理の例を説明するための図である。図5(A)は、NBD測定装置21から取得した回折データ41の例を示している。図5(B)は、二階調化処理部31によって回折データ41が二階調化された二階調化データ42の例を示している。図5(C)は、二階調化データ42を用いて、定義円作成処理部32によって作成された透過スポット5と同面積の定義円6の例を示している。
【0044】
ユーザが、表示ユニット13に表示された二階調化データ42上からマウス等の操作により定義円6を作成するようにしても良い。ユーザ作成した定義円6から円のサイズ(半径又は直径)と面積とを取得する。
【0045】
次に、ユーザによって選択された回折スポットと透過スポットを介して対称に位置する回折スポットを同時に解析し、選択された回折スポットと透過スポットの距離X1と、対称に位置する回折スポットと透過スポットの距離X2との差を最小とする制限条件付きのフィッティングを行う場合について説明する。
【0046】
図6は、スポット座標の定義処理の第二例を説明するためのフローチャート図である。図6中、図4に示すステップと同様の処理を行うステップには同一符号を付し、その説明を省略する。図6において、透過スポットに関し、ステップS11からS16までは図4で説明した同様の処理が行われる。ステップS15にて、透過スポットのサイズ0及び中心座標0が結果データ43に記録される。
【0047】
ステップS16にて、未処理の選択された回折スポットが有ると判断した場合、情報処理装置100は、ユーザによって選択された回折スポットを第一処理中スポットに設定し、第一処理中スポットと透過スポットを介して対称に位置する回折スポットを第二処理中スポットに設定する(ステップS16−4)。
【0048】
そして、情報処理装置100は、定義円作成処理部32によって、第一処理中スポットを構成する画素から、また、第二処理中スポットを構成する画素から定義円を夫々作成する(ステップS19)。
【0049】
情報処理装置100は、第一処理中スポットと透過スポットの距離X1と第二処理中スポットと透過スポットの距離X2の差を最小とする制限条件付きで、フィッティング処理部33によって、各定義円の対応する処理中スポットへのフィッティングを行って処理中スポットの近似円を取得し(ステップS20)、ステップS16へ戻り、未処理の選択された回折スポットが無くなるまで同様の処理を繰り返す。ステップS20での処理において、フィッティング処理部33は、距離算出処理部34によって距離X1と距離X2とを計算しつつ、制限条件付きで各定義円の対応する処理中スポットへのフィッティングを行う。
【0050】
ステップS20での処理によって、結果データ43には、ユーザによって選択された回折スポットのサイズ1及び中心座標1と、対称に位置する回折スポットのサイズ2及び中心座標2とが追加され記録される。また、差を最小とする距離X1と距離X2とが距離データ44に記録される。
【0051】
一方、ステップS16にて、未処理の選択された回折スポットが無いと判断した場合、情報処理装置100は、記憶領域40に格納されている二階調化データ42、結果データ43、距離データ44を参照して、表示ユニット13に結果を表示して(ステップ18)、この処理を終了する。
【0052】
次に、ユーザによって選択された回折スポットと透過スポットを介して対称に位置する回折スポットについてフィッティングを行い、選択された回折スポットと透過スポットを介して対称に位置する回折スポット間の距離D1(=距離X1+距離X2)を計算する場合について説明する。
【0053】
図7は、スポット座標の定義処理の第三例を説明するためのフローチャート図である。図7中、図4及び図6に示すステップと同様の処理を行うステップには同一符号を付し、その説明を省略する。図7において、透過スポットに関し、ステップS11からS16までは図4で説明した同様の処理が行われる。ステップS15にて、透過スポットのサイズ0及び中心座標0が結果データ43に記録される。
【0054】
ステップS16にて、未処理の選択された回折スポットが有ると判断した場合、情報処理装置100は、ユーザによって選択された回折スポットを第一処理中スポットに設定し、第一処理中スポットと透過スポットを介して対称に位置する回折スポットを第二処理中スポットに設定する(ステップS16−4)。
【0055】
そして、情報処理装置100は、定義円作成処理部32によって、第一処理中スポットを構成する画素から、また、第二処理中スポットを構成する画素から定義円を夫々作成する(ステップS19)。図6のスポット座標の定義処理の第二例と異なり、制限条件を与えることなく、各定義円のフィッティングを行う。
【0056】
情報処理装置100は、フィッティング処理部33によって、各定義円の対応する処理中スポットへのフィッティングを行って処理中スポットの近似円を取得し(ステップS20−4)、ステップS16へ戻り、未処理の選択された回折スポットが無くなるまで同様の処理を繰り返す。
【0057】
ステップS20−4での処理によって、結果データ43には、ユーザによって選択された回折スポットのサイズ1及び中心座標1と、対称に位置する回折スポットのサイズ2及び中心座標2とが追加され記録されるが、図6のスポット座標の定義処理の第二例と異なり、距離データ44は記録されない。
【0058】
一方、ステップS16にて、未処理の選択された回折スポットが無いと判断した場合、情報処理装置100は、距離算出処理部34によって、透過スポットを介して互いに対称な回折スポット間の距離の半分を算出する(ステップS17−4)。ユーザによって選択された回折スポットから透過スポットを介して対称に位置する回折スポットまでの距離D1の1/2である値が、距離データ44に記録される。ユーザが回折スポットを2箇所選択した場合、2つめの回折スポットから透過スポットを介して対称に位置する回折スポットまでの距離D2の1/2である値が、距離データ44に記録される。
【0059】
そして、情報処理装置100は、記憶領域40に格納されている二階調化データ42、結果データ43、距離データ44を参照して、表示ユニット13に結果を表示して(ステップ18)、この処理を終了する。
【0060】
図8は、回折スポットの選択例を示す図である。表示ユニット13に表示される図8に示す回折パタン8において、図6の第二例及び図7の第三例でのスポット座標の定義処理のいずれにおいても、情報処理装置100は、ユーザが選択した{002}面の回折スポットに対して、透過スポット8aを介して対称に位置する回折スポット8bを特定する。更にユーザが{022}面の回折スポットを選択している場合、情報処理装置100は、{022}面の回折スポットに対して、透過スポット8aを介して対称に位置する回折スポット8cを特定する。
【0061】
図6のスポット座標の定義処理の第二例では、ユーザが選択した{002}面の回折スポットと透過スポット8a間の距離X1と、透過スポット8aと特定した回折スポット8b間の距離X2とが、各スポットの中心座標に基づいて算出される。選択された{022}面の回折スポットに対しても同様に、{022}面の回折スポットと透過スポット8a間の距離X1'と、透過スポット8aと特定した回折スポット8c間の距離X2'とが、各スポットの中心座標に基づいて算出される。
【0062】
図7のスポット座標の定義処理の第三例では、ユーザが選択した{002}面の回折スポットと特定した回折スポット8b間の距離D1が、各スポットの中心座標に基づいて算出される。同様に、{022}面の回折スポットと特定した回折スポット8c間の距離D2が、各スポットの中心座標に基づいて算出される。各距離D1、D2の半分がスポット間の距離として、表示ユニット13に表示される。
【0063】
また、ユーザが各回折スポットを選択する場合の図4のスポット座標の定義処理の第一例では、各回折スポットと透過スポット8a間の距離X1、X1'、X2、X2'が、各スポットの中心座標に基づいて個々に算出される。
【0064】
等価な面間隔であるため、本来、距離X1=X2、及び距離X1'=X2'である。従って、各面に相当する距離は、
【0065】
【数2】

で示されるほど精度が高いと言える。
【0066】
図9は、本実施例の適用の有無による精度の違いを説明するための図である。図9(A)では、回折データを二階調化したデータを用いて、スポットの端から端を計測した結果表示例を示している。図9(B)では、回折データを二階調化したデータに対して、本実施例に係るスポットの中心座標を求めるため定義円を用いてフィッティングする等の処理を施した場合の結果表示例を示している。
【0067】
図9(A)の結果表示例では、本実施例に係るスポットの中心座標を求めるため定義円を用いてフィッティングする等の処理が行われない。従って、上述したように、各面に対して同距離になるべき各スポット間距離が、
回折スポット91と透過スポット90間の距離=3.78cm
回折スポット92と透過スポット90間の距離=3.72cm
となり、上記数2を適用した距離の精度は「0.016」となる。また、
回折スポット93と透過スポット90間の距離=5.57cm
回折スポット94と透過スポット90間の距離=5.20cm
となり、上記数2を適用した距離の精度は「0.096」となる。
【0068】
一方、図9(B)の結果表示例では、本実施例が適用されることにより、各スポットにてフィッティングされた近似円が示され、各定義円の中心座標を用いてスポット間の距離が算出される。
【0069】
回折スポット91と透過スポット90間の距離=3.76cm
回折スポット91と透過スポット90間の距離=3.78cm
となり、上記数2を適用した距離の精度は「0.005」となる。また、
回折スポット93と透過スポット90間の距離=5.39cm
回折スポット94と透過スポット90間の距離=5.39cm
となり、上記数2を適用した距離の精度は「0.000」となる。よって、各面に対して各スポット間距離が同距離で示される。
【0070】
このように、本実施例を適用した場合には、ナノ電子線回折パタンにおける各スポットの座標を適切に定義できるため、距離の算出を精度良く行うことができる。
【0071】
従って、半導体素子基板にはドーピング或いは異種結合(ヘテロ)の応力による歪が生じるが、どの程度の歪が生じているのかの評価を適切に行うことができる。格子面間隔を反映する回折スポットと透過スポットのパタン自身にも歪が生じるが、本実施例の適用により、これらのスポット間の距離をより正確に測定することが可能となる。
【0072】
また、NBDの技術革新により、収束しても平行なX線のビームに対しても適用可能であり、制限視野電子線回折への適用も可能である。
【0073】
本発明は、具体的に開示された実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。また電子線回折スポットに限定されるものではなくX線回折パタン等にも適用可能である。
【0074】
以上の実施例を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
回折スポット及び透過スポットを含む複数のスポットを表す電子線またはX線回折パタンを二階調化して二階調化データを生成するステップと、
前記二階調化データを用いて、前記スポットの領域に相当する定義円を作成するステップと、
前記スポットと前記定義円の各画素における差の二乗和が最小になるように前記定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて該スポットへフィッティングさせることによって、該スポットの近似円を取得するステップと、
前記近似円の中心座標で前記スポットの座標を定義することによって、スポット間の距離を算出し格子面距離を取得するステップと
をコンピュータが実行することを特徴とする半導体素子の評価方法。
(付記2)
前記二階調化データは、各スポットの輝度の強度を現すガウス分布から外れる強度未満を0で示し、該強度以上を1で示すことを特徴とする付記1記載の半導体素子の評価方法。
(付記3)
前記ガウス分布は二次元ガウス分布であることを特徴とする付記2記載の半導体素子の評価方法。
(付記4)
前記スポットの領域に相当する定義円は、該スポットの画素の平均座標を用いて作成されることを特徴とする付記1又は2記載の半導体素子の評価方法。
(付記5)
ユーザによって選択された回折スポットと前記透過スポットを介して対称に位置する回折スポットを特定する手順と、
前記スポットへフィッティングさせる際には、前記選択された回折スポットと前記透過スポット間の第一距離と、前記対称な回折スポットと前記透過スポット間の第二距離との差を最小とする制限条件に従って、各スポットに対応する定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて、各スポットへフィッティングさせることを特徴とする付記1乃至3のいずれか一項記載の半導体素子の評価方法。
(付記6)
ユーザによって選択された回折スポットと前記透過スポットを介して対称に位置する回折スポットを特定する手順と、
前記スポット間の距離を算出する際、前記選択された回折スポットと前記対称な回折スポット間の距離を半分にして前記格子面距離を取得することを特徴とする付記1乃至3のいずれか一項記載の半導体素子の評価方法。
(付記7)
前記定義円はユーザによって設定されることを特徴とする付記1乃至5のいずれか一項記載の半導体素子の評価方法。
(付記8)
回折スポット及び透過スポットを含む複数のスポットを表す電子線またはX線回折パタンを二階調化して二階調化データを生成する生成手段と、
前記二階調化データを用いて、前記スポットの領域に相当する定義円を作成する作成手段と、
前記スポットと前記定義円の各画素における差の二乗和が最小になるように前記定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて該スポットへフィッティングさせることによって、該スポットの近似円を取得する近似円取得手段と、
前記近似円の中心座標で前記スポットの座標を定義することによって、スポット間の距離を算出し格子面距離を取得する距離取得手段と
を有することを特徴とする半導体素子の評価装置。
(付記9)
回折スポット及び透過スポットを含む複数のスポットを表す電子線またはX線回折パタンを二階調化して二階調化データを生成するステップと、
前記二階調化データを用いて、前記スポットの領域に相当する定義円を作成するステップと、
前記スポットと前記定義円の各画素における差の二乗和が最小になるように前記定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて該スポットへフィッティングさせることによって、該スポットの近似円を取得するステップと、
前記近似円の中心座標で前記スポットの座標を定義することによって、スポット間の距離を算出し格子面距離を取得するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータ実行可能な半導体素子の評価プログラム。
(付記10)
回折スポット及び透過スポットを含む複数のスポットを表す電子線またはX線回折パタンを二階調化して二階調化データを生成するステップと、
前記二階調化データを用いて、前記スポットの領域に相当する定義円を作成するステップと、
前記スポットと前記定義円の各画素における差の二乗和が最小になるように前記定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて該スポットへフィッティングさせることによって、該スポットの近似円を取得するステップと、
前記近似円の中心座標で前記スポットの座標を定義することによって、スポット間の距離を算出し格子面距離を取得するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする半導体素子の評価プログラムを記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体。
【符号の説明】
【0075】
2 回折パタン
3、4 強度ファイル
5 透過スポット
6 定義円
11 CPU
12 メモリユニット
13 表示ユニット
14 出力ユニット
15 入力ユニット
16 通信ユニット
17 記憶装置
18 ドライバ
19 記憶媒体
20 I/F
21 NBD測定装置
31 二階調化処理部
32 定義円作成処理部
33 フィッティング処理部
34 距離算出処理部
40 記憶領域
41 回折データ
42 二階調化データ
43 結果データ
44 距離データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折スポット及び透過スポットを含む複数のスポットを表す電子線またはX線回折パタンを二階調化して二階調化データを生成するステップと、
前記二階調化データを用いて、前記スポットの領域に相当する定義円を作成するステップと、
前記スポットと前記定義円の各画素における差の二乗和が最小になるように前記定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて該スポットへフィッティングさせることによって、該スポットの近似円を取得するステップと、
前記近似円の中心座標で前記スポットの座標を定義することによって、スポット間の距離を算出し格子面距離を取得するステップと
をコンピュータが実行することを特徴とする半導体素子の評価方法。
【請求項2】
前記二階調化データは、各スポットの輝度の強度を現すガウス分布から外れる強度未満を0で示し、該強度以上を1で示すことを特徴とする請求項1記載の半導体素子の評価方法。
【請求項3】
前記ガウス分布は二次元ガウス分布であることを特徴とする請求項2記載の半導体素子の評価方法。
【請求項4】
前記スポットの領域に相当する定義円は、該スポットの画素の平均座標を用いて作成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の半導体素子の評価方法。
【請求項5】
ユーザによって選択された回折スポットと前記透過スポットを介して対称に位置する回折スポットを特定する手順と、
前記スポットへフィッティングさせる際には、前記選択された回折スポットと前記透過スポット間の第一距離と、前記対称な回折スポットと前記透過スポット間の第二距離との差を最小とする制限条件に従って、各スポットに対応する定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて、各スポットへフィッティングさせることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の半導体素子の評価方法。
【請求項6】
回折スポット及び透過スポットを含む複数のスポットを表す電子線またはX線回折パタンを二階調化して二階調化データを生成する生成手段と、
前記二階調化データを用いて、前記スポットの領域に相当する定義円を作成する作成手段と、
前記スポットと前記定義円の各画素における差の二乗和が最小になるように前記定義円のサイズ又は座標の少なくとも1つを変化させて該スポットへフィッティングさせることによって、該スポットの近似円を取得する近似円取得手段と、
前記近似円の中心座標で前記スポットの座標を定義することによって、スポット間の距離を算出し格子面距離を取得する距離取得手段と
を有することを特徴とする半導体素子の評価装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−103015(P2012−103015A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249186(P2010−249186)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】