説明

半導体膜の形成方法及び半導体膜の用途

本発明は、基材表面に、半導体微粒子分散液を、スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径が30μm以下程度となるようにスプレー塗装し、次いで乾燥して半導体の多孔質膜を形成することを特徴とする半導体膜の形成方法、並びに該半導体膜の形成方法により得られた半導体膜の用途を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、半導体膜の形成方法及び形成された半導体膜の用途に関する。
【背景技術】
酸化チタンなどの半導体は、その光触媒作用に基づいて、抗菌性、親水性、耐汚染性、防曇性、ガス分解性、脱臭性、水処理性、エネルギー変換性等の活性を有しており、従来から種々の分野で利用されている。
特に、酸化チタン等の半導体のエネルギー変換活性を利用した、太陽電池等の光電変換材料は、地球環境に悪影響を与えないで、電気エネルギーを得る手段として注目されている。
酸化チタンなどの半導体を光触媒として利用する場合には、通常、基材上に半導体の多孔質膜を形成することが好ましい。
酸化チタンなどの半導体の多孔質膜を形成する方法としては、例えば、酸化チタン微粒子をグライム系溶剤に分散して得られる酸化チタン分散液を、ガラス、金属、セラミックスなどの基材にスプレーコーティング、ディップコーティング等の方法により塗布し、次いで200〜800℃の温度で焼成して酸化チタン多孔質膜を形成する方法が、特開平10−212120号公報に記載されている。
また、酸化チタン前駆体に過酸化水素又はアルミニウムアセチルアセトナートを添加した原料溶液を、例えば350℃又は500℃という高温に保持されたガラス等の基板に間歇噴霧することにより、酸化チタン前駆体を酸化チタンに熱分解して、基板上に多孔質酸化チタン膜を作成する方法が、特開2002−145615号公報に記載されている。
しかし、これらの公報に記載の方法は、いずれも、多孔質酸化チタン膜を形成する際に、200℃以上の高温加熱を必要とするため、200℃以上の温度で変形、変質を起こす熱可塑性プラスチック基材等には適用できないという欠点がある。
また、金属酸化物微粒子を高分子材料の溶媒溶液中に分散させた分散液を、導電層を設けた高分子フィルム等に塗布し、200℃以下の温度で乾燥する方法が、特開平11−204152号公報に記載されている。
特開平11−204152号公報に記載の方法によれば、加熱温度が比較的低温であることから熱可塑性プラスチック基材に酸化チタン膜を形成できる。しかしながら、この方法では、金属酸化物微粒子は、高分子材料溶液中に分散されているため、得られる酸化チタン膜の付着性は優れるものの、多孔質膜を得ることは困難であり、従って、光電変換効率等のエネルギー変換活性が低いという欠点がある。
【発明の開示】
本発明の目的は、高分子フィルム等の熱可塑性プラスチック基材を含む基材に対する付着性に優れ、しかもエネルギー変換活性等の光触媒活性に優れた半導体膜の形成方法及びそれにより形成された半導体膜の用途を提供することにある。
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した。その結果、基材上に半導体微粒子分散液をスプレー塗装して半導体膜を形成するに当たり、スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径を30μm以下とすることにより、半導体の多孔質膜を好適に形成でき、上記目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる新知見に基づき、更に種々検討を重ねた結果完成されたものである。
本発明は、以下の半導体膜の形成方法及びそれにより形成された半導体膜の用途に係るものである。
1.基材表面に、半導体微粒子分散液を、スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径が30μm以下程度となるようにスプレー塗装し、次いで乾燥して半導体の多孔質膜を形成することを特徴とする半導体膜の形成方法。
2.基材が、熱可塑性プラスチック基材である上記項1に記載の半導体膜の形成方法。
3.熱可塑性プラスチック基材が、高分子フィルムである上記項2に記載の半導体膜の形成方法。
4.導体微粒子分散液が、メタノール及び/又はエタノール中に、金属酸化物類、ペロブスカイト類、金属硫化物類及び金属カルコゲナイト類から選ばれる少なくとも一種の半導体の微粒子を、分散した分散液である上記項1に記載の半導体膜の形成方法。
5.半導体微粒子が、酸化チタン微粒子である上記項4に記載の半導体膜の形成方法。
6.酸化チタン微粒子が、アナターゼ型酸化チタン微粒子である上記項5に記載の半導体膜の形成方法。
7.半導体微粒子分散液の固形分含量が、1〜40重量%程度である上記項1に記載の半導体膜の形成方法。
8.半導体微粒子分散液の粘度が、0.001〜2Pa・sec程度である上記項1に記載の半導体膜の形成方法。
9.スプレー塗装機から吐出される噴霧粒子の平均粒子径が1μm〜25μm程度である上記項1に記載の半導体膜の形成方法。
10.乾燥を、200℃以下程度の加熱又は電磁波照射により行う上記項1に記載の半導体膜の形成方法。
11.電磁波照射が、マイクロ波照射である上記項10に記載の半導体膜の形成方法。
12.上記項1に記載の半導体膜の形成方法により、基材上に半導体多孔質膜が形成されてなる光触媒。
13.半導体多孔質膜が、酸化チタン多孔質膜である上記項12に記載の光触媒。
14.酸化チタン多孔質膜が、アナターゼ型酸化チタン多孔質膜である上記項13に記載の光触媒。
15.上記項1に記載の半導体膜の形成方法により、予め透明導電層を設けたガラス板又は透明高分子フィルムの該導電層上に、半導体多孔質膜が形成されてなる、色素増感太陽電池用の光電極。
16.半導体多孔質膜が、酸化チタン多孔質膜である上記項15に記載の光電極。
17.酸化チタン多孔質膜が、アナターゼ型酸化チタン多孔質膜である上記項16に記載の光電極。
半導体膜の形成方法
本発明の半導体膜の形成方法は、基材表面に、半導体微粒子分散液を、スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径が30μm以下程度となるようにスプレー塗装し、次いで乾燥して半導体の多孔質膜を形成するものである。
基材
本発明方法における基材としては、特に制限されず、従来から公知の種々の基材を使用することができる。具体的には、例えば、シート材、フィルム材、成型品等の熱可塑性プラスチック基材;ガラス、金属、コンクリート等の無機系基材等を挙げることができる。また、これらの基材上に、プライマー塗膜、導電層等が、予め設けられていてもよい。
無機系基材であるガラスとしては、低コストと強度の点で有利なソーダガラス、アルカリ溶出の影響のない無アルカリガラス等の材質のガラス板が好ましい。
また、熱可塑性プラスチック基材としては、特に高分子フィルムが好ましい。高分子フィルムの材質としては、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリエチレンナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリエステルスルフォン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂などが好ましい。高分子フィルムとしては、実用性の点からポリエチレンテレフタレートフィルムを使用することがより好ましい。
また、高分子フィルムとしては、屈曲性や透明性に優れるものが好適に使用できる。
高分子フィルムの形状は、例えば、長方形、正方形等の何れの形状であっても構わない。また、帯状の高分子フィルムを巻いたものであってもよい。形状が大きい場合や、帯状フィルムの場合には、半導体微粒子分散液を塗装、乾燥した後に必要な大きさに切断することも可能である。
また、高分子フィルムの大きさとしては、例えば、長方形又は正方形フィルムの場合、縦及び横が、それぞれ1cm〜10m程度、好ましくは5cm〜5m程度、より好ましくは10cm〜2m程度の範囲である。また、帯状フィルムの場合、幅が1cm〜10m程度、好ましくは5cm〜5m程度、より好ましくは10cm〜2m程度の範囲のものを、巻いた状態で使用する。従って、帯状フィルムの場合は、長さは限定されない。また、厚さは、通常、1μm〜10mm程度、特に5μm〜5mm程度の範囲であるのが好ましい。
半導体微粒子分散液
本発明方法で使用する半導体微粒子分散液は、半導体微粒子を溶媒に分散したものである。
半導体微粒子としては、従来から公知の半導体微粒子が特に制限なしに使用できる。半導体としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化カドミニウム、酸化インジウム、酸化鉛、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化銅、酸化水銀、酸化銀、酸化マンガン、酸化鉄、酸化バナジウム、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化ストロンチウム、酸化ガリウム、酸化けい素、酸化クロム等の金属酸化物類;SrTiO、CaTiO等のペロブスカイト類;硫化カドミウム、硫化亜鉛、硫化インジウム、硫化鉛、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化アンチモン、硫化ビスマス、硫化カドミニウム亜鉛、硫化銅等の金属硫化物類;CdSe、InSe、WSe、HgS、PbSe、CdTe等の金属カルコゲナイト類;GaAs、Si、Se、Cd、Zn、InP、AgBr、PbI、HgI、BiI等のその他の半導体を挙げることができる。また、これらの半導体から選ばれる少なくとも一種以上を含む複合体も使用することができる。
半導体微粒子としては、安価で、光触媒活性に優れる酸化チタン微粒子が好ましい。特に、光触媒活性が著しく優れる点から、アナターゼ型酸化チタン微粒子がより好ましい。
酸化チタン微粒子の市販品としては、例えば、「AMT−600」(商品名、テイカ(株)製、アナターゼ型、1次平均粒子径30nm)、「AMT−100」(商品名、テイカ(株)製、アナターゼ型、1次平均粒子径6nm)、「ST−01」(商品名、石原テクノ(株)製、アナターゼ型、1次平均粒子径7nm)、「ST−21」(商品名、石原テクノ(株)製、アナターゼ型、1次平均粒子径20nm)、「P−25」(商品名、日本エアロジル(株)製、ルチル・アナタース型、1次平均粒子径約30nm)等が挙げられる。
半導体微粒子の1次平均粒子径としては、例えば、1nm〜1,000nm程度、好ましくは5nm〜100nm程度の範囲であるのが適当である。色素増感太陽電池(グレッツェルセル)の場合、半導体微粒子の平均粒子径が1nmより小さいと、半導体層の平均細孔径が小さくなり、電解質溶液中の酸化還元物質の移動および増感色素の吸着が困難になって、光電変換後の電流値が低くなるので好ましくない。また、半導体微粒子の1次平均粒子径が1,000nmより大きくなると、半導体層の表面積が大きくないため、充分な増感色素の担持量を得ることができないので、光電変換後の電流値が高くならないため好ましくない。
半導体微粒子は、通常、分散機を使用して、溶媒中に十分に分散することが好ましい。分散機としては、例えば、ペイントシェーカー、ペブルミル、サンドミル等を使用することができる。分散機を使用して分散した後の平均粒子径は100nm以下程度であることが好ましい。
半導体微粒子を分散する溶媒としては、メタノール、エタノール又はこれらの混合溶媒を、好適に使用できる。また、溶媒として、特にエタノールを使用することにより、半導体微粒子とエタノールとの親和性が優れることにより、分散液の安定性が向上する。従って、エタノールを、単独で又は主溶媒として、使用することにより、スプレー塗装時に分散液に大きなせん断応力が掛かっても、ノズル先端で凝集してノズルがつまる恐れがないという利点が得られる。
また、メタノール及び/又はエタノールに、必要に応じて、水又は/及び有機溶媒を併用することができる。有機溶媒としては、例えば、キシレン、トルエンなどの芳香族系溶媒;n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ポリアルキレングリコールなどのアルコール系溶媒;ジエチレングリコール、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングルコールモノメチルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール誘導体(例えば、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテルなど)などのエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶媒などが使用できる。
また、半導体微粒子以外に、必要に応じて、公知の錯化剤(例えば、アセチルアセトンなど)、半導体微粒子前駆体などを配合することができる。
本発明で用いる半導体微粒子分散液は、スプレー塗装される分散液の固形分が1〜40重量%程度の範囲であるのが好ましい。また、分散液の固形分が、5〜30重量%程度の範囲であるのがより好ましい。
分散液の固形分が1重量%未満になると、必要とする塗装膜厚を確保することが困難となり、その結果として光電変換効率等のエネルギー変換活性に優れた半導体膜が得られ難い。また、スプレー塗装によって塗着した分散液の適正固形分(通常90重量%以上)が得られ難く、結果として付着性良好で多孔質の半導体薄膜を形成し難い。
一方、分散液の固形分が40重量%を越えるとスプレー塗装機から吐出される半導体微粒子分散液の噴霧粒子の平均粒子径が大きくなり、その結果として光電変換効率に優れた半導体膜が得られ難い。また、固形分が大きいと該噴霧粒子中の半導体微粒子の運動が制限され、噴霧粒子の飛散初期と塗着時との間で半導体微粒子の運動エネルギーが急激に減少することによって得られる半導体微粒子結合エネルギーが小さくなり、付着性および強靭性が良好な半導体薄膜を形成することが困難になる。
半導体微粒子分散液の粘度は、0.001〜2Pa・sec程度の範囲であるのが好ましい。また、0.001〜1Pa・sec程度の範囲であるのがより好ましい。
粘度が0.001Pa・sec未満になると、スプレーにより分散液に与えられるエネルギーが小さくなるため、半導体微粒子に与えられる初期エネルギーが低下し、良好な付着力を有した半導体薄膜が得られ難い。一方、2Pa・secを超えると、分散液の噴霧粒子の平均粒子径を30μm以下程度に微粒化することが困難になり、付着性が良好な半導体薄膜が得られ難い。
スプレー塗装及び塗膜の乾燥
本発明方法で使用されるスプレー塗装機としては、例えば、静電スプレー塗装機、非静電スプレー塗装機、回転スプレー塗装機、磁場スプレー塗装機、超音波微粒化塗装機などの公知の塗装機が挙げられる。これらの塗装機の中でも特に静電スプレー塗装機、超音波微粒化塗装機が好ましい。
また、上記塗装機に使用するノズルとしては、種々のものが使用できるが、特に、噴霧粒子の粒子径分布がシャープな点から、二流体スプレーノズル等が好ましい。
本発明方法においては、半導体微粒子分散液をスプレー塗装するに当たり、スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径が30μm程度以下となるようにすることが必要である。平均粒子径が30μmを超えるとスプレーノズルがつまり易くなったり、基材表面に塗着した分散液粒子同士が凝集して固まりとなって、良好な多孔質膜を得られ難くなり、その結果として基材に対する付着性や光電変換効率に優れた半導体膜が得られ難い。また、平均粒子径が大きいと、溶剤の揮発速度が遅くなり、塗着した分散液の適正固形分(通常90重量%以上)が得られ難くなり、又分散液の噴霧粒子中の半導体微粒子の運動エネルギーの急激な減少が生じないため、結果として付着性及び強靱性が良好な多孔質膜が得られ難い。
該分散液の噴霧粒子の平均粒子径は、1〜25μm程度であるのが好ましく、1〜20μm程度であるのがより好ましい。
本明細書において、スプレー塗装機から吐出される半導体微粒子分散液の噴霧粒子の平均粒子径は、「2600型パーティクルサイザー」(商品名、米国マルバーン社製)を使用して測定した値である。
半導体微粒子分散液の噴霧粒子の平均粒子径を、30μm以下程度に調節するためのスプレー塗装条件としては、例えば、ノズル種類、霧化エアー圧、パターン幅、吐出量、吐出圧、塗装スピード、ステージ数(塗り重ね回数)、ノズルと基材との距離等が挙げられる。これらの塗装条件は、使用する塗装機により最適条件が異なるので、使用する塗装機に応じて、上記特定の噴霧粒子の平均粒子径になるように、適宜塗装条件を選択して塗装すればよい。
上記塗装条件の一例を挙げると、次の通りである。霧化エアー圧:0.5〜5.0kgf/cm、好ましくは1.0〜3.0kgf/cm、吐出量:1〜500g/min、好ましくは10〜100g/min、ノズルと基材との距離:5〜100cm、好ましくは10〜50cm、塗装スピード:1〜200m/min、好ましくは10〜100m/min、ステージ数:1〜100回、好ましくは1〜10回。
本発明方法により、噴霧粒子の平均粒子径が30μm以下となるようにスプレー塗装することにより、ローラーなどの塗装方法と比較して、平均細孔径が大きくなって、比表面積の大きな半導体多孔質膜が形成できる。平均細孔径及び比表面積は、例えば、JIS R 1625に記載の方法により測定できる。
本発明方法においては、半導体微粒子分散液を、基材にスプレー塗装した後、ウェット塗膜を乾燥して、半導体多孔質膜を形成させる。
また、半導体微粒子分散液のウェット塗膜の乾燥は、常温放置、加熱、電磁波照射等により、行うことができる。
加熱乾燥は、電気炉、ガス加熱炉等により行うことができる。また、加熱乾燥する場合の加熱条件は、基材の種類に応じて適宜設定することができる。
例えば、ガラス板等の無機系基材の場合には、200℃以上の温度で加熱して乾燥及び焼結することが可能である。好ましくは300〜700℃程度の温度で焼結することができる。加熱時間は、温度によって変動するが、通常、10分〜3時間程度とするのが適当である。
また、高分子フィルム等の熱可塑性プラスチック基材の場合には、変形、変質を避けるため、通常、200℃以下程度の温度で加熱乾燥するのが適当である。好ましくは130〜180℃程度の温度で加熱乾燥することができる。加熱時間は、通常、10分〜3時間程度とするのが適当である。
電磁波照射により乾燥する場合、半導体微粒子にエネルギーを与えることが可能な電磁波であれば特に制限なしに用いることができ、例えば、紫外線、可視光線、赤外線、超音波、プラズマ放電、コロナ放電、マイクロ波等を挙げることができる。好ましい電磁波としては、紫外線、可視光線、赤外線及びマイクロ波が挙げられる。
紫外線、可視光線、赤外線(遠赤外線、近赤外線など)、超音波は、キセノンランプ、ハロゲンランプ、タングステンランプ、ネルンストランプ、グローバー燈、水銀灯、蛍光灯などの各種ランプ;LED;ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザー、Nd:YAGレーザー等の各種レーザー;シンクロトロン放射光;太陽光などにより得ることができる。また、マイクロ波は、マグネトロン装置等によって得ることができる。
また、電磁波照射により乾燥する場合、電磁波の照射を行うだけでなく、加熱を併用してもよい。また、半導体微粒子前駆体を半導体微粒子層に共存させてもよい。更には、乾燥時に不要な有機物等を除去するため、減圧下;空気、酸素、窒素、不活性ガス等の気流吹付け下;オゾン雰囲気、酸化雰囲気、還元雰囲気等の雰囲気下で行うこともできる。
マイクロ波照射による乾燥においては、誘電損失を利用して半導体微粒子に選択的にエネルギーを与えることにより、該微粒子の焼結が可能となるので、電気炉などによる加熱焼結に比較して、基材への伝熱ロスや基材の熱変質などが実質的になく、短時間に焼結が行えるといった利点がある。従って、マイクロ波照射による乾燥は、基材が熱可塑性プラスチック基材である場合に、好適に使用することができる。
マイクロ波照射による乾燥及び焼結においては、半導体微粒子分散液の組成(例えば、分散媒の種類、半導体微粒子の種類、性質、粒子径、形状、固形分など)により誘電率が異なるので、これらの組成に応じて、適した発信周波数、電波出力、照射時間などの条件を定めることができる。
マイクロ波照射による乾燥及び焼結の条件は、半導体微粒子分散液の種類に応じて適宜決定されるが、通常、次の条件とするのがよい。周波数は、300MHz〜300GHz程度、好ましくは600MHz〜200GHz程度、より好ましくは1GHz〜100GHz程度の範囲である。また、電波出力は、0.01KW〜10KW程度、好ましくは0.1KW〜5KW程度、より好ましくは0.2KW〜1.0KW程度の範囲である。また、照射時間は、1秒〜60分間程度、好ましくは2秒〜30分間程度、より好ましくは30秒〜20分間程度の範囲である。
マイクロ波装置としては、例えば、富士電波工業(株)製の電磁波加熱焼結装置(商品名「FMS−10−28」、発信周波数28GHz、電波出力1〜10KW)などが使用できる。
上記マイクロ波装置は、発信周波数28GHzで波長が10.7cmであって、家庭用電子レンジで使用されている発信周波数2.45GHzで波長が12cmに比して、波長が短いので、加熱によるバラツキが少なく均一な半導体微粒子膜が形成されること、出力を上げても端部等でスパークする恐れがないことといった利点があるので、特に大面積の高分子フィルム表面の半導体微粒子の焼結に有利に使用できる。
このマイクロ波を使用して、比較的低融点のポリエチレンテレフタレートフィルムなどの高分子フィルムに塗装した半導体微粒子を焼結する場合には、ポリエチレンテレフタレートが変形、変質しない温度、例えば、200℃以下、特に130〜180℃程度の温度になるように焼結することが好ましい。
また、マイクロ波を照射して焼結する際に、必要に応じて高分子フィルムの裏面(半導体膜を形成させる面の反対面)に、鉄、ステンレス、銅などの熱伝導性の良い金属板、ガラス板などの無機系放熱板を設置して、高分子フィルムにかかる熱を放熱させることができる。
また、高分子フィルムの表面に塗装された半導体微粒子膜の面積が大きい場合に、マイクロ波による半導体微粒子の焼結が不均一となりやすいので、例えば、下記方法により焼結を均一にすることができる。
(1)まず、マイクロ波を半導体微粒子膜の一部に照射し、次いで未照射部分の半導体微粒子膜にマイクロ波を照射する操作を、必要に応じて数回繰り返し、最終的に半導体微粒子膜全面に照射するようにして、照射による熱の放散を行う。
(2)高分子フィルムの表面に、半導体微粒子膜がストライプ状になるように部分塗装しておくことにより、不必要な発熱を防止する。
(3)マイクロ波が放射される方向に対して、例えば、半導体微粒子分散液が塗装された帯状の高分子フィルムの面が垂直方向になるように移動させる。
また、高分子フィルムに電極が設置されている場合には、電極をポリイミドなどの耐熱性に優れたフィルムでマスキングしておき、そしてマスキング以外の部分に半導体微粒子分散液を塗布して半導体微粒子膜を形成させ、次いで、マイクロ波を照射して焼結させる。
また、高分子フィルム基材の表面に塗装された半導体微粒子膜の上からマイクロ波を全面又は部分的に照射して焼結する際に、必要に応じて半導体微粒子膜の上部方向にマイクロ波を透過する基材、例えば、ガラス板、テトラフルオロエチレン板などを設置することにより、着火(スパーク)などを防止でき、又高分子フィルムを作業台に押し付けて密着させることによりマイクロ波焼結時に掛かる余分な熱を作業台に放熱させて、均一加熱を行うことができる。
上記乾燥工程により、基材上に半導体多孔質膜が形成される。基材上に形成される半導体多孔質膜の膜厚は、夫々の目的に応じて適宜選択して決めればよいが、通常、1〜100μm程度であり、特に2〜50μmが好ましい。
半導体膜の形成方法により形成された半導体膜の用途
本発明の半導体膜の形成方法により、基材上に形成された半導体多孔質膜は、付着性、強靱性等に優れており、半導体が酸化チタン等の光触媒活性を有するものである場合には、光触媒、色素増感太陽電池用光電極等として有用である。
光触媒
本発明方法により、基材上に酸化チタン等の半導体多孔質膜が形成されてなる光触媒は、抗菌性、親水性、耐汚染性、防曇性、ガス分解性、脱臭性、水処理性、エネルギー変換性等の活性に優れている。半導体多孔質膜としては、光触媒活性が優れる点から、酸化チタン多孔質膜が好ましく、アナターゼ型酸化チタン多孔質膜がより好ましい。
本発明の光触媒は、例えば、大気浄化、水質浄化、親水化処理、抗菌処理、消臭処理、防曇処理、排水処理、エネルギー変換等の分野で好適に利用できる。
色素増感太陽電池用光電極
前記本発明の光触媒は、エネルギー変換の分野で利用する場合において、特に色素増感太陽電池の光電極として、好適に使用できる。
即ち、本発明の半導体膜の形成方法により、予め透明導電層を設けたガラス板又は透明高分子フィルムの該導電層上に、半導体多孔質膜が形成されてなる、色素増感太陽電池用の光電極が提供される。この光電極は、ガラス板又は透明高分子フィルム、透明導電層及び半導体多孔質膜が、この順で積層された積層体である。
上記半導体多孔質膜としては、光電極としての性能の点から、酸化チタン多孔質膜が好ましく、アナターゼ型酸化チタン多孔質膜がより好ましい。
色素増感太陽電池は、ガラス板や高分子フィルムなどの透明基材の片面に透明導電層及び半導体層が積層された光電極と、この電極の半導体層と対面する対電極との間に配置された電解質層を有するものが一般的である。
また、該半導体層は、通常、半導体微粒子により形成され、その形成層は平均細孔径が大きい多孔質膜であり、そしてその粒子表面又はその細孔内に光増感色素が担持されたものが使用されている。
上記透明導電層は、ガラス板や高分子フィルムなどの透明基材上に、金、銀、アルミニウム、インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ等の何れかを蒸着することによって形成される。透明導電層の膜厚は、通常、0.01〜500μm程度、特に0.1〜100μm程度が好ましい。
また、半導体層としては、本発明方法で形成された半導体多孔質膜を使用することができる。半導体多孔質膜の膜厚は、1〜100μm、特に2〜50μmが好ましい。
光増感色素としては、種々の可視光領域および/または赤外光領域に吸収を持つ従来から公知のものを適宜選択して用いることができる。
光増感色素の具体例としては、例えば、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ペリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素等を挙げることができる。これらの内、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素は、高い量子収率を有し、光に対する耐久性が良いため、光電変換材料として好適である。
光増感色素に結合させる金属としては、銅、ニッケル、鉄、コバルト、バナジウム、スズ、けい素、チタン、ゲルマニウム、コバルト、亜鉛、ルテニウム、マグネシウム、アルミニウム、鉛、マンガン、インジウム、モリブデン、ジルコニウム、アンチモン、タングステン、白金、ビスマス、セレン、銀、カドミウム、白金などの金属が用いられる。これらの内、銅、チタン、亜鉛、アルミニウム、鉄、バナジウム、けい素等を用いた金属錯体色素は高い量子効率を有する。
半導体微粒子への光増感色素の担持量としては、10−8〜10−6mol/cm程度、特に0.1〜9.0×10−7mol/cm程度が好ましい。光増感色素の担持量が10−8mol/cm未満の場合、光電変換効率向上効果が不十分となる。一方、光増感色素の担持量が10−6m ol/cmを超える場合、光電変換効率向上効果が飽和し、不経済となるだけである。
上記電解質層で使用される電解質としては、酸化体と還元体からなる一対の酸化還元系構成物質が溶媒中に含まれていれば、特に限定されないが、酸化体と還元体が同一電荷を持つ酸化還元系構成物質が好ましい。酸化還元系構成物質とは、酸化還元反応において、可逆的に酸化体及び還元体の形で存在する一対の物質である。このような酸化還元系構成物質自体は当業者に公知である。
該酸化還元系構成物質としては、例えば、塩素化合物−塩素、ヨウ素化合物−ヨウ素、臭素化合物−臭素、タリウムイオン(III)−タリウムイオン(I)、水銀イオン(II)−水銀イオン(I)、ルテニウムイオン(III)−ルテニウムイオン(II)、銅イオン(II)−銅イオン(I)、鉄イオン(III)−鉄イオン(II)、バナジウムイオン(III)−バナジウムイオン(II)、マンガン酸イオン−過マンガン酸イオン、フェリシアン化物−フェロシアン化物、キノン−ヒドロキノン、フマル酸−コハク酸などが挙げられる。これら以外のその他の酸化還元系構成物質も使用できる。
上記酸化還元系構成物質としては、ヨウ素化合物−ヨウ素が好ましい。ヨウ素化合物としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化銅、ヨウ化銀ルビジウム等の金属ヨウ化物;テトラアルキルアンモニウムヨード、ピリジニウムヨード等のヨウ化4級アンモニウム塩化合物;ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム等のヨウ化ジイミダゾリウム化合物が好ましい。
電解質を溶解するために使用される溶媒は、酸化還元系構成物質を溶解しイオン伝導性に優れた化合物が好ましい。溶媒としては、水及び/又は有機溶媒を使用できるが、酸化還元系構成物質をより安定にするため、有機溶媒が好ましい。
有機溶媒の具体例としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;酢酸メチル、プロピオン酸メチル、ガンマ−ブチロラクトン等のエステル化合物;ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソシラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物;アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物;スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド等の非プロトン性極性化合物などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いることもできるし、また、2種類以上を混合して併用することもできる。中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物;3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物;アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物が特に好ましい。
電解質層としては、液体、固体又はゲル状の電解質のいずれも使用することができる。
ガラス板や高分子フィルムなどの透明基材の片面に透明導電層及び半導体層が積層された光電極層、電解質層、半導体層と対面する対電極層を有する色素増感太陽電池において、対電極層の外側に、更に接着剤層を設けることができる。
該接着剤層を設けることにより、太陽電池を種々の物体に自由に貼付けて使用することができる。
太陽電池を貼り付ける物体としては、例えば、車両、建築物、建造物、道路、道路標識、温室など太陽光線が当たるものを好ましく使用できる。
また、被着物体として、例えば、プラスチック板、金属板などの各種部材を用い、これと太陽電池の接着剤層面とを面接し、必要に応じて加熱しながら、圧力をかけて接合させることも可能である。そして接合された太陽電池を有する部材は、必要に応じて、成型加工、切断等をし、更に、必要に応じて切断部をシールし、モジュール化を行って使用することもできる。
この様に太陽電池を切断して使用する場合には、その電解質として固体又はゲル状の電解質が使用される。
かかる接着剤としては、公知の感圧性接着剤、感熱性接着剤、硬化性接着剤等を使用することができる。具体的には、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾール型エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アミノプラスト樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリシロキサン樹脂、ブチレン樹脂、イソブチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、合成ゴム、天然ゴムなどから選ばれた1又は2種以上の樹脂を含む熱硬化性又は熱可塑性の接着剤があげられる。
接着剤層の厚さは、通常1μm〜1mm、特に5μm〜500μmの範囲が好ましい。
本発明の半導体膜形成方法によれば、特に、基材上に、半導体微粒子分散液を噴霧粒子の平均粒子径が30μm以下程度となるようにスプレー塗装することにより、次の如く顕著な効果が発揮される。
(1)基材に塗着した際に半導体微粒子又はその小さな凝集体として半導体膜が形成されるので基材に対する付着性及び強靱性が優れた多孔質膜が形成できる。
このような多孔質膜が形成できる理由としては、半導体微粒子分散液の飛散初期と塗着時との間における半導体微粒子の運動エネルギーの急激な減少によって、半導体微粒子結合エネルギーが大きくなるためであると、推察される。
(2)半導体微粒子分散液で使用される溶媒として、エタノールを単独又は主として使用する場合には、半導体微粒子とエタノールとの親和性が優れるので該分散液が安定している。このために、スプレー塗装時に分散液に大きなせん断応力が掛かってもノズル先端で凝集しノズルがつまる恐れがない。
また、この場合、塗着した半導体微粒子分散液の粒子は親和性の高いエタノールにより、高分子フィルムのような柔軟な基材に塗装したときにも、ネッキングし易くなり、折り曲げても剥離することはない。
(3)スプレー塗装時に分散液に使用された溶媒の一部が揮発することにより、飛散中の半導体微粒子が安定化する。
(4)従来、ガラス板などの無機系基材に、半導体微粒子分散液を塗布し、200℃以上の温度で焼結して多孔質の半導体膜を形成していた。これに対して、本発明においては、200℃以下の低温で多孔質の半導体膜を形成できるので高分子フィルムなどの熱可塑性プラスチック基材に適用することができる。
(5)特に、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの高分子フィルム基材に塗装された半導体微粒子膜を、マイクロ波による焼結方法を採用することにより、大面積でも均一な半導体微粒子の焼結された多孔質膜が形成できる。
(6)本発明方法により、基材上に、酸化チタン等の光触媒活性を有する半導体多孔質膜を形成することにより、優れた性能の光触媒や色素増感太陽電池用光電極を、好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの例により、限定されるものではない。尚、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」を示す。
製造例1
「P−25」(商品名、日本エアロジル(株)製、ルチル・アナタース型酸化チタン(TiO)結晶、1次平均粒子径30nm)30部、エタノール120部を、ペイントシェイカーで6時間ガラスビーズを使用して分散させて、酸化チタン微粒子の分散液を得た。この分散液の粘度は、1Pa・secであった。
【実施例1】
(i)縦100cm、横30cm、厚さ1mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)に、製造例1で得た酸化チタン微粒子分散液を、二流体スプレーノズル(商品名「アトマックスノズル(型式AM25S)」、(株)アトマックス製)に、ポンプで圧送して、塗布する装置を用いて、表1に記載の塗装条件でスプレー塗装した。スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径は、19.7μmであった。
次いで、電気炉で150℃で30分間加熱乾燥して、厚さ8μmの酸化チタン多孔質膜を得た。
また、形成された酸化チタン多孔質膜の平均細孔径を、下記測定方法により測定した結果、14.9nmであり、細孔径が大きく、良好な多孔質膜が形成されていることが判った。
平均細孔径の測定方法:上記で得た、厚さ8μmの酸化チタン多孔質膜を形成したPETフィルムを、5×25mmの短冊型に切断したもの60枚を、「MICRO MERITICS ASAP 2010」(商品名、島津製作所(株)製、窒素吸着/脱着による細孔分布測定機)のガラスセルに挿入して、平均細孔径を測定した。
(ii)基材として、厚さ1μmのITO透明導電層が蒸着された導電性PETフィルムを用いた以外は、(i)の場合と同様にして、該導電層上に、厚さ8μmの酸化チタン多孔質膜を得た。
この多孔質膜が形成された基材を、Ru増感色素[Ru(2,2’−bipyridil−4,4’−dicarboxylate(TBA))(NCS)]が5×10−4M/Lの割合で含まれたエタノール溶液に、室温で一晩浸漬させて、光電極を得た。この光電極のRu増感色素吸着酸化チタン多孔質膜に、上記の導電性PETフィルムに白金がスパッタされたものを対極として重ねた。
次に、光電極上の該酸化チタン膜と対極の間に、電解質溶液(ヨウ素40mM、テトラプロピルアンモニウムヨード500mM、エチレンカーボネート80M、アセトニトリル20M)を注入して、色素増感太陽電池を作成した。
【実施例2】
(i)表1に記載の塗装条件を採用する以外は、実施例1の(i)と同様にして、スプレー塗装した。スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径は、24.3μmであった。
次いで、電気炉で150℃で30分間加熱乾燥して、厚さ9μmの酸化チタン多孔質膜を得た。
また、実施例1の(i)と同様にして、酸化チタン多孔質膜の平均細孔径を測定した結果、平均細孔径は14.5nmであり、細孔径が大きく、良好な多孔質膜が形成されていることが判った。
(ii)表1に記載の塗装条件を採用し、酸化チタン多孔質膜の厚さを9μmとする以外は、実施例1の(ii)と同様にして、色素増感太陽電池を作成した。
【実施例3】
(i)表1に記載の塗装条件を採用する以外は、実施例1の(i)と同様にして、スプレー塗装した。スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径は、19.5μmであった。
次いで、富士電波工業(株)製の電磁波加熱焼結装置(商品名「FMS−10−28」)を使用して、発信周波数28GHz、電波出力2KW、照射時間2分間の条件で、マイクロ波照射して、厚さ9μmの焼結された酸化チタン多孔質膜を得た。
また、実施例1の(i)と同様にして、酸化チタン多孔質膜の平均細孔径を測定した結果、平均細孔径は15.5nmであり、細孔径が大きく、良好な多孔質膜が形成されていることが判った。
(ii)表1に記載の塗装条件で塗装し、次いで上記と同様にマイクロ波照射して、厚さ9μmの酸化チタン多孔質膜を得た。以後、実施例1の(ii)と同様にして、色素増感太陽電池を作成した。
比較例1
縦100cm、横30cm、厚さ1mmのPETフィルムに、製造例1で得た酸化チタン微粒子分散液を、ナイフコーターを用いて、塗装した。
次いで、電気炉で150℃で30分間加熱乾燥して、厚さ8μmの酸化チタン多孔質膜を得た。
また、実施例1の(i)と同様にして、酸化チタン多孔質膜の平均細孔径を測定した結果、平均細孔径は9.5nmであり、細孔径が小さく、良好な多孔質膜は形成されていなかった。
比較例2
表1に記載の塗装条件を採用する以外は、実施例1の(i)と同様にして、スプレー塗装した。スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径は、41.4μmであった。
次いで、電気炉で150℃で30分間加熱乾燥して、厚さ10μmの酸化チタン多孔質膜を得た。
また、実施例1の(i)と同様にして、酸化チタン多孔質膜の平均細孔径を測定した結果、平均細孔径は10.5nmであり、細孔径が小さく、良好な多孔質膜は形成されていなかった。
実施例1〜3及び比較例2において、採用されたスプレー塗装条件を、表1に示す。

次に、実施例1の(i)、実施例2の(i)、実施例3の(i)及び比較例1〜2で得られた各酸化チタン多孔質膜について、付着性及び膜引掻き強度を調べた。また実施例1の(ii)、実施例2の(ii)及び実施例3の(ii)で得られた色素増感太陽電池について、光電変換効率を調べた。試験方法は、下記の通りである。
付着性:酸化チタン多孔質膜のPETフィルムに対する付着性を、折り曲げ試験により調べた。該多孔質膜が形成されたPETフィルムを強く折り曲げても叩いても膜が剥がれないものを、付着性良好とし、PETフィルムを軽く折り曲げただけで膜が剥がれるものを、付着性不良とした。
膜引掻き強度(gf):各実施例及び比較例において基材としてPETフィルムに換えてガラス板を使用した以外は、各実施例及び比較例と同様にして、酸化チタン多孔質膜を形成したものを試験用サンプルとして使用した。
膜引掻き強度は、「トライボギア タイプ18L」(商品名、新東科学(株)製、連続荷重式引っ掻き強度試験機)を用い、引掻き針(サファイア製、直径1.2mm)に垂直荷重0〜100gをかけ、移動速度600mm/minで移動距離100mmとした時の耐荷重(ガラス板が見えた時の荷重量)を測定した。数値が大きいほど膜強度が高く、特に10gf以上が良い。
光電変換効率(%);擬似太陽光(キセノンランプ)(AM1.5、単位100mW/cm)を照射して、測定した。
上記試験結果を、表2に示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、半導体微粒子分散液を、スプレー塗装機から吐出される該分散液の噴霧粒子の平均粒子径が30μm以下程度となるようにスプレー塗装し、次いで乾燥して半導体の多孔質膜を形成することを特徴とする半導体膜の形成方法。
【請求項2】
基材が、熱可塑性プラスチック基材である請求項1に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項3】
熱可塑性プラスチック基材が、高分子フィルムである請求項2に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項4】
半導体微粒子分散液が、メタノール及び/又はエタノール中に、金属酸化物類、ペロブスカイト類、金属硫化物類及び金属カルコゲナイト類から選ばれる少なくとも一種の半導体の微粒子を、分散した分散液である請求項1に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項5】
半導体微粒子が、酸化チタン微粒子である請求項4に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項6】
酸化チタン微粒子が、アナターゼ型酸化チタン微粒子である請求項5に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項7】
半導体微粒子分散液の固形分含量が、1〜40重量%程度である請求項1に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項8】
半導体微粒子分散液の粘度が、0.001〜2Pa・sec程度である請求項1に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項9】
スプレー塗装機から吐出される噴霧粒子の平均粒子径が1μm〜25μm程度である請求項1に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項10】
乾燥を、200℃以下程度の加熱又は電磁波照射により、行う請求項1に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項11】
乾燥を、マイクロ波照射により行う請求項10に記載の半導体膜の形成方法。
【請求項12】
請求項1に記載の半導体膜の形成方法により、基材上に半導体多孔質膜が形成されてなる光触媒。
【請求項13】
半導体多孔質膜が、酸化チタン多孔質膜である請求項12に記載の光触媒。
【請求項14】
酸化チタン多孔質膜が、アナターゼ型酸化チタン多孔質膜である請求項13に記載の光触媒。
【請求項15】
請求項1に記載の半導体膜の形成方法により、予め透明導電層を設けたガラス板又は透明高分子フィルムの該導電層上に、半導体多孔質膜が形成されてなる、色素増感太陽電池用の光電極。
【請求項16】
半導体多孔質膜が、酸化チタン多孔質膜である請求項15に記載の光電極。
【請求項17】
酸化チタン多孔質膜が、アナターゼ型酸化チタン多孔質膜である請求項16に記載の光電極。

【国際公開番号】WO2004/033756
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501027(P2005−501027)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013019
【国際出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】