説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】ソース・ドレイン領域とチャネル領域との境界付近における欠陥発生を抑制して、トランジスタ特性を向上させること。
【解決手段】シリコン基板1に形成された電界効果型トランジスタを有する半導体装置において、電界効果型トランジスタのチャネル部分を含む領域におけるシリコン基板1、実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面を底面とし、かつ、実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面を側面とする溝9が形成されており、溝9にシリコンとは異なる半導体材料10が埋め込まれている。半導体材料10は、シリコンよりもキャリアの移動度の高い半導体材料であり、エピタキシャル成長させたシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャネル部分にシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムを用いた電界効果型トランジスタを有する半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコン基板を用いた電界効果型トランジスタ(以下、「FET」という)において、チャネル部分にシリコンゲルマニウム(SiGe)またはゲルマニウム(Ge)を用いることによって電子あるいは正孔の移動度を増加させ、トランジスタの特性を向上させる技術が注目を集めている。電子あるいは正孔の移動度が増加すると、トランジスタをより高速で動作させ、駆動電流を増大させることができる。また、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムはシリコンよりもバンドギャップが小さいので、より低い電圧でFETを動作させることができ、半導体装置の低消費電力化を実現することができる。
【0003】
FETのチャネル部分をシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムとする半導体装置の製造方法としては、シリコン基板上にシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをエピタキシャル成長させた基板やチョクラルスキー法等によって作製したシリコンゲルマニウム基板またはゲルマニウム基板を用いて、通常のシリコン基板にFETを作製する場合と同様の工程と手順によって、FETを作製する方法が考えられる。しかしながら、(a)この方法では、例えば、シリコンゲルマニウムおよびゲルマニウム中ではn型不純物の活性化率が低いためにn型FETにおいてソース・ドレイン領域の抵抗を十分低くすることができず、駆動電流を増大させることができない、(b)ゲルマニウムの酸化物は不安定であるために、酸化を用いる工程をそのままシリコンゲルマニウムおよびゲルマニウムに適用することができない、(c)シリコンゲルマニウム基板およびゲルマニウム基板は非常に高価であり、またシリコンゲルマニウム基板およびゲルマニウム基板を処理するためにプロセス装置の改良も必要となってコストが増大する、といった問題点があった。
【0004】
上記問題点を解決する方法として、シリコン基板上に作製したダミーゲートを持つFETを利用して、チャネル部分のみにシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをエピタキシャル成長させる方法が有望であると考えられている。この方法では、チャネル部分のみがシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムであるので、シリコンゲルマニウム基板やゲルマニウム基板を用意する必要がなく、通常のシリコン基板を用いたFETのプロセスをそのまま用いることができる。ここで、ダミーゲートを用いてFETを製造する技術については、特許文献1および特許文献2に、その製造方法、およびシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをチャネルとするFETが開示されている。
【0005】
シリコン基板上に作製したダミーゲートを有するFETを利用して、チャネル部分のみにシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをエピタキシャル成長させる方法について、図8および図9を用いて説明する。
【0006】
まず、図8(a)に示すようなダミーゲートを有するFETを作製する。すなわち、シリコン基板101にシャロートレンチアイソレーション(STI)による素子分離領域102を形成し、チャネル上にダミーゲート絶縁膜107を介してダミーゲート電極108を形成し、チャネルの両外側にソース・ドレインのエクステンション領域104を形成し、エクステンション領域104上のダミーゲート電極108の両側にゲートサイドウォール105を形成し、ゲートサイドウォール105と素子分離領域102の間の領域にシリコン基板101上にソース・ドレイン領域103を形成し、素子分離領域102、ソース・ドレイン領域103、ゲートサイドウォール105、及びダミーゲート電極108上に層間絶縁膜106を形成する。この構造は、一般によく知られているシリコンのFETの製造プロセスによって作製することができる。
【0007】
次に、図8(b)に示すように、ダミーゲート電極108の表面を露出させる。これは、層間絶縁膜106に化学的機械研磨処理または全面エッチバック処理を施した後にフッ酸(HF)処理を行う等の方法によってできる。
【0008】
次に、図8(c)に示すように、ゲートサイドウォール105および層間絶縁膜106を実質的に残して、シリコン基板101が表れるまでダミーゲート電極(図8(a)の108)およびダミーゲート絶縁膜(図8(a)の107)を除去する。通常は、ダミーゲート電極は多結晶シリコン、ダミーゲート絶縁膜はシリコン酸化膜(SiO)であるので、例えば、フッ酸と硝酸(HNO)を含むエッチング液により多結晶シリコンを除去し、フッ酸によりシリコン酸化膜を除去することができる。これにより、FETのチャネル領域のシリコン基板101が表面に露出する。
【0009】
次に、図9(a)に示すように、露出したチャネル領域のシリコン基板101をエッチングして溝109を形成する。これは、ダミーゲート電極(図8(a)の108)を除去した場合と同様のエッチング液を用いるか、あるいはドライエッチングによって行う。なお、特許文献2では、この時、ショートチャネル効果を抑制してトランジスタ特性を向上させるために、溝にテーパを形成することが提案されている。
【0010】
次に、図9(b)に示すように、チャネル領域に形成した溝(図9(a)の109)に、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムを選択エピタキシャル成長させて、エクステンション領域104の上面付近までシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層110によって埋め戻す。
【0011】
次に、図9(c)に示すように、再度、エピタキシャル層110上にゲート絶縁膜111とゲート電極112を形成する。その後、層間絶縁膜形成と配線形成を行って、チャネル部分のみがシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムとなっているFETが完成する。
【0012】
【特許文献1】特開2000−77658号公報
【特許文献2】特開2002−100762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述のように、従来、シリコン基板上に作製したダミーゲートを持つFETを利用して、チャネル部分のみにシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをエピタキシャル成長させる方法が提案されてきた。しかしながら、チャネル部分に形成した溝にシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをエピタキシャル成長で形成する場合、シリコンとの界面において主として転位からなる欠陥が発生してしまい、FETの特性が劣化する、といった問題点があった。特に、溝の側面において欠陥が発生すると、ソース・ドレイン領域とチャネル領域との境界部分に欠陥が存在することになり、この欠陥におけるキャリアの再結合によって、チャネルを流れる電流が大幅に減少してしまう。
【0014】
また、溝にテーパ構造を形成した場合、側面のテーパ部分は表面のラフネスが大きな状態になり、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをエピタキシャル成長する際に、島状成長が起こったり、転位が発生しやすくなったりして、移動度の劣化やリーク電流の増大等のFETの特性劣化が起こりやすい、という問題点があった。また、側面のテーパ部分にたまたま結晶成長の速い面があると、溝の底面からの結晶成長と側面からの結晶成長とが同時に起こり、両者の成長面がちょうどFETのチャネル直下でぶつかることによって、この領域に多くの欠陥が発生して、やはりFETの特性劣化が起こりやすい。
【0015】
以上のように、従来の方法では、ダミーゲートを持つFETにおいてチャネル部分のみをシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムにしても、エピタキシャル層と溝との界面、特に側面のソース・ドレイン領域とチャネル領域との境界付近における欠陥発生によって、十分なトランジスタ特性が得られなかった。
【0016】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、チャネル部分のみをシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムにしたFETにおいて、ソース・ドレイン領域とチャネル領域との境界付近における欠陥発生を抑制して、特性を向上させた半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の視点においては、最上層がシリコンからなる基板上に形成された電界効果型トランジスタを有する半導体装置において、前記電界効果型トランジスタのチャネル部分を含む領域における前記基板に、実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面を底面とし、かつ、実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面を側面とする溝が形成されており、前記溝にシリコンとは異なる半導体材料が埋め込まれていることを特徴とする。
【0018】
本発明の前記半導体装置において、前記半導体材料は、シリコンよりもキャリアの移動度の高い半導体材料であることが好ましい。
【0019】
本発明の前記半導体装置において、前記半導体材料は、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムであることが好ましい。
【0020】
本発明の半導体装置において、前記シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムは、歪が緩和していることが好ましい。
【0021】
本発明の前記半導体装置において、前記シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムは、n型トランジスタでは歪が緩和しており、p型トランジスタでは歪がかかっていることが好ましい。
【0022】
本発明の半導体装置において、前記半導体材料は、シリコンゲルマニウム層とゲルマニウム層の積層構造となっていることが好ましく、また、この積層構造では、シリコンゲルマニウム層の上にゲルマニウム層が積層していることが好ましく、さらに、前記シリコンゲルマニウム層は、シリコンとゲルマニウムの組成比を層内で変化していることが好ましい。
【0023】
本発明の第2の視点においては、最上層がシリコンからなる基板上に形成された電界効果型トランジスタを有する半導体装置の製造方法であって、前記基板に素子分離領域を形成し、前記基板上にダミーゲート絶縁膜を介してダミーゲート電極を形成し、前記ダミーゲート電極の両側にゲートサイドウォールを形成し、前記素子分離領域と前記ゲートサイドウォールの間の領域の前記基板上にソース・ドレイン領域を形成し、少なくとも前記素子分離領域及び前記ソース・ドレイン領域上に層間絶縁膜を形成する工程と、(b)前記基板が表れるまで前記ダミーゲート電極と前記ダミーゲート絶縁膜をエッチング除去する工程と、(c)露出したチャネル領域の前記基板を異方性エッチングによって除去して、実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面を底面として、なおかつ実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面を側面とする溝を形成する工程と、(d)前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程と、(e)前記半導体材料上にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の前記半導体装置の製造方法において、前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程は、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムを選択エピタキシャル成長させることによって行うことが好ましい。
【0025】
本発明の前記半導体装置の製造方法において、前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程は、シリコンゲルマニウムおよびゲルマニウムを連続的にエピタキシャル成長させることによって行うことが好ましい。
【0026】
本発明の前記半導体装置の製造方法において、前記溝をシリコンとは異なる材料によって埋め戻す工程の途中あるいは、工程後に熱処理を行うことが好ましい。
【0027】
本発明の前記半導体装置の製造方法において、前記溝を形成する工程において、p型トランジスタとn型トランジスタとで溝の深さを変えることが好ましい。
【0028】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記溝をシリコンとは異なる材料によって埋め戻す工程は、p型トランジスタとn型トランジスタとで別々に行うことを特徴とする。
【0029】
本発明の半導体装置の製造方法において、前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程は、p型トランジスタとn型トランジスタとで別々に行うことが好ましい。
【0030】
なお、ソース・ドレイン領域とチャネル領域の境界とは、ソース・ドレイン領域とチャネル領域の境界、およびソース・ドレインのエクステンション領域とチャネル領域の境界、の両方をさすものとする。また、実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面、および実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面は、側面での結晶成長速度が底面よりも遅く、側面における欠陥発生が十分抑えられる範囲であれば、(100)面あるいは(111)面からずれていてもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明(請求項1、9)によれば、シリコン基板上に形成したダミーゲートを持つFETを利用して、実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面を底面とし、かつ、実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面を側面とする溝を形成し、溝にシリコンとは異なる半導体材料を埋め込むことによってチャネルを形成するため、(100)面と(111)面の結晶成長速度の違いを利用して溝の側面、すなわちチャネルとソース・ドレインとの境界での欠陥発生を抑制し、高速で、なおかつ欠陥による電流駆動能力の減少やリーク電流の増大を抑えたFETを実現することができる。つまり、溝を埋め込む際に、異なる材料間の格子定数の違いによる界面での欠陥は、主として溝の底面である(100)面で発生する。一方、チャネル領域とソース・ドレイン領域の境界は、溝の側面である(111)面になり、欠陥が発生しにくい。これは、主として(100)面上と(111)面上での結晶成長速度の差に起因する。これによって、チャネル領域とソース・ドレイン領域の境界付近での欠陥発生が抑制された構造となり、欠陥による電流駆動能力の減少やリーク電流の増大を抑えることができ、トランジスタの特性を向上させることができる。
【0032】
本発明(請求項2、3、10、11)によれば、FETのチャネル部分がシリコンよりもキャリアの移動度の高い半導体材料(シリコンゲルマニウムやゲルマニウム)であるので、FETの電流受動能力が増大し、またバンドギャップがシリコンよりも小さいために、高速化や欠陥発生の抑制だけでなく、トランジスタの低消費電力化を実現できる。さらには、シリコンゲルマニウムやゲルマニウムはシリコン上への選択エピタキシャル成長が容易であり、欠陥発生の制御が行いやすい。
【0033】
本発明(請求項4)によれば、歪が緩和していることによって、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムの移動度はバルクの場合と同じとなり、n型、p型の両方のFETで、シリコンよりも移動度を高くすることができる。
【0034】
本発明(請求項5)によれば、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをチャネルとするFETにおいて、n型のFETでは歪をかけると移動度が落ちてしまうが、p型のFETでは特にゲルマニウムの組成比が大きい場合に歪をかけることによって移動度が大きく増大し、歪がない場合に比べて、なおいっそうの高速化を実現できる。
【0035】
本発明(請求項6−8)によれば、チャネル部分を含む領域を、シリコンゲルマニウム層とゲルマニウム層の積層構造とすることによって、どちらか一方を歪緩和層として、チャネル部分にかかる歪の大きさをコントロールするとともに、上層の欠陥を低減することができる。特に、シリコンゲルマニウムを下に配置して歪緩和層とすることによって、上層のゲルマニウム層中の欠陥、すなわちチャネル部分の欠陥を低減することができ、欠陥による移動度低下やリーク電流を減らして、FETの特性を向上させることができる。また、シリコンゲルマニウム層のシリコンとゲルマニウムの組成比を層内で変化させることによって、より一層欠陥が入りにくくすることができる。
【0036】
本発明(請求項12)によれば、エピタキシャル成長した膜が臨界膜厚に達していなくても、界面に欠陥を発生させることができ、溝が浅くて臨界膜厚以上の厚さにエピタキシャル成長を行えない場合でも、歪を緩和させることができる。
【0037】
本発明(請求項13、14)によれば、このようなp型とn型とで異なる深さの溝を形成した後に、p型とn型それぞれ別々に溝を埋め戻す工程を行うことによって(例えば、p型ではシリコンゲルマニウムの臨界膜厚よりも溝を浅くして、n型ではシリコンゲルマニウムの臨界膜厚よりも溝を深くすることによって)、p型FETではチャネルに歪がかかっており、n型FETではチャネルに歪がかかっていない状態にすることができる。シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをチャネルとするFETでは、n型のFETでは、歪をかけると移動度が落ちてしまうが、p型のFETにおいては、特にゲルマニウムの組成比が大きい場合に、歪をかけることによって移動度が大きく増大し、歪がない場合に比べて、なおいっそうの高速化を実現できる。したがって、本発明の半導体装置の製造方法を用いれば、n型FETの性能を落とさずに、p型FETの移動度を大きく向上させた電界効果トランジスタを有する半導体装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
(実施形態1)
本発明の実施形態1に係る半導体装置について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る半導体装置の製造方法を模式的に示した工程部分断面図である。なお、図1は電界効果トランジスタのチャネル長方向に沿った断面を示したものである。
【0039】
まず、図1(a)に示すようなダミーゲートを有するFETを作製する。すなわち、最上層がシリコンからなるシリコン基板1にシャロートレンチアイソレーション(STI)による素子分離領域2を形成し、チャネル上にダミーゲート絶縁膜7を介してダミーゲート電極8を形成し、チャネルの両外側にソース・ドレインのエクステンション領域4を形成し、エクステンション領域4上のダミーゲート電極8の両側にゲートサイドウォール5を形成し、ゲートサイドウォール5と素子分離領域2の間の領域のシリコン基板1上にソース・ドレイン領域3を形成し、素子分離領域2、及びソース・ドレイン領域3上に層間絶縁膜6を形成する。この構造は、一般によく知られているSiのFETの製造プロセスによって作製することができる。図1(a)では、ダミーゲート電極8の表面を露出させている。これは、ダミーゲート電極8の上面よりも上に配された層間絶縁膜6に化学的機械研磨処理または全面エッチバック処理を施した後にフッ酸(HF)処理を行う等の方法によってできる。
【0040】
次に、図1(b)に示すように、ゲートサイドウォール5および層間絶縁膜6を実質的に残して、ダミーゲート電極(図1(a)の8)およびダミーゲート絶縁膜(図1(a)の7)を除去する。通常は、ダミーゲート電極は多結晶シリコン、ゲート絶縁膜はシリコン酸化膜であるので、例えば、フッ酸と硝酸(HNO)を含むエッチング液により多結晶シリコンを除去し、フッ酸によりシリコン酸化膜を除去することができる。これにより、FETのチャネル領域にシリコン基板1が表面に露出した状態となる。
【0041】
次に、図1(c)に示すように、露出したチャネル領域のシリコン基板1をエッチングして溝9を形成する。この時、異方性エッチングを用いることによって、溝9の底面が実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面であり、かつ、溝9の側面が実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面であるようにエッチングを行う。これは、例えば、エッチング液として、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いることによって実現できる。エッチング液は、TMAH以外でも、KOH、NaOH等の強アルカリ溶液を用いてもよい。
【0042】
次に、図1(d)に示すように、チャネル領域に形成した溝(図1(c)の9)に、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウム(シリコンとは異なる半導体材料)を選択エピタキシャル成長させて、溝をシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層10によって埋め戻す。シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムの選択エピタキシャル成長は、例えば、SiClとGeHを原料ガスとした化学気相成長法によって行うことができる。
【0043】
なお、溝を埋め戻す工程は、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムの選択エピタキシャル成長であることが望ましいが、シリコンゲルマニウムを選択エピタキシャル成長した後に、連続的にゲルマニウムを選択エピタキシャル成長させてもよい。このようにすると、シリコンゲルマニウム層をバッファー層とすることができ、シリコン上に直接ゲルマニウムを成長するよりも、表面荒れの少ないゲルマニウム層を形成でき、チャネル部分での欠陥の発生を抑えることができる。また、バッファー層となるシリコンゲルマニウム層中のシリコンとゲルマニウムの組成比を層内で変化させたり、最初にシリコン100%のバッファー層を成長させてもよい。
【0044】
また、チャネル領域に埋め戻される材料は、シリコンよりも電子あるいは正孔の移動度が高い材料であれば、シリコンゲルマニウムやゲルマニウム以外の半導体材料でもよい。これによって、エピタキシャル層10はシリコンよりも電子あるいは正孔の移動度が高いチャネルとなり、FETの電流受動能力が増大する。また、バンドギャップがシリコンよりも小さいためにFETの低電力化が可能である。さらに、シリコン基板1上への選択エピタキシャル成長が容易であり、欠陥発生の制御が行いやすい。
【0045】
ここで、溝を埋め込む際の結晶成長は、溝の底面が実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面であり、溝の側面が実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面であることから、底面の方が側面よりも成長速度が速くなる。また、結晶面方位による表面での拡散のしやすさの違いから、結晶成長の際に溝の側面である(111)面上に付着した原子は拡散によって(100)面である溝の底面に移動しやすい。このため、溝の側面での結晶成長は溝の底面での結晶成長に比べて、より遅く進行することになり、溝の側面での結晶成長があまり進まないうちに溝の底面からの結晶成長が進むために、溝の底面から結晶成長したエピタキシャル層10が溝の側面よりも先に臨界膜厚に達する。すると、溝の底面においてシリコン基板1とエピタキシャル層10との間に、格子定数の違いによる歪を緩和するためのミスフィット転位が発生する。ミスフィット転位が発生した後は、エピタキシャル層10は歪が緩和しているので、溝の側面上では格子定数の違いによる欠陥の発生は非常に起こりにくくなる。また、溝の底面から結晶成長したエピタキシャル層10が臨界膜厚に達していない時は、溝の側面上でも臨界膜厚になっていないので、この段階で溝が埋め戻された状態になっていれば、チャネルに歪のかかったFETとすることができる。溝を埋め戻した際に、溝の側面のうちのシリコン基板1表面に近い部分がFETのチャネルとソース・ドレインの境界となるので、チャネルとソース・ドレインの境界付近の欠陥を少なくすることができる。
【0046】
次に、図1(e)に示すように、再度、エピタキシャル層10上にゲート絶縁膜11とゲート電極12を形成する。ここで、ゲート絶縁膜11の材料としては、シリコンおよびゲルマニウムの酸化膜以外に、シリコンまたはゲルマニウムの窒化膜、ZrやHfの酸化膜やシリケート膜等を用いることができる。また、ゲート電極12としては、多結晶シリコンの他に、ニッケルシリサイド、窒化チタン、モリブデン等を用いることができる。
【0047】
その後、層間絶縁膜形成、配線形成を行って、チャネル部分のみがシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムとなっているFETが完成する。
【0048】
次に、本発明の実施形態1に係る半導体装置におけるエピタキシャル成長時の欠陥発生のメカニズムについて図面を用いて説明する。図2は、本発明の実施形態1に係る半導体装置におけるエピタキシャル成長時の欠陥発生のメカニズムを説明するための模式図である。図3は、本発明の実施形態1に係る半導体装置の構成を模式的に示した部分断面図である。なお、図2ではシリコン基板とエピタキシャル層以外の構成について省略している。
【0049】
図2(a)は、シリコン基板1の部分平面図であり、溝9の側面は(100)面であり、溝9の側面は(111)面、(−1−11)面、(−111)面、(1−11)面である。図2(b)は、図2(a)のX−X´間のシリコン基板1の部分断面図であり、溝9の底面が(100)面であり、溝9の側面が(111)面および(−1−11)面である。
【0050】
図2(c)は、溝9にシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層10aを、溝9の深さよりも小さな所定の膜厚だけエピタキシャル成長させた状態である。シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムのエピタキシャル成長では、(100)面上の成長速度は(111)面上の速度の5倍以上であり、また、図2(a)のような溝構造にエピタキシャル成長を行う場合には、側面の(111)面上に付着した原子が底面の(100)面上に向かって拡散していくので、実際には(100)面上の成長速度は(111)面上に比べて、より大きくなると考えられる。したがって、(111)面上でほとんど結晶成長が進まないうちに、(100)面上のシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムが臨界膜厚に達して、(100)面の界面付近にのみ主として転位からなる欠陥10bが発生する。
【0051】
一旦、転位が発生すると、歪が緩和するので、さらにエピタキシャル成長を続けると、図2(d)に示すように、歪が緩和したシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムのエピタキシャル層10cが形成され、最終的には、底面の(100)面付近にのみ欠陥10bが発生して、側面の(111)面にはほとんど欠陥が発生していない構造が得られる。なお、実施形態1においては、溝9の側面での結晶成長速度が底面よりも遅く、側面における欠陥発生が十分抑えられる範囲であれば、底面および側面の面方位は、(100)面あるいは(111)面からずれていてもよい。
【0052】
したがって、実施形態1においては、図1に示した製造方法によってチャネル部分のみがシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムとなっているFETを形成すると、図3に示すように、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層10で埋め込まれたチャネル部分を含む溝9の底面付近にのみ欠陥10bが発生して、チャネルとソース・ドレインの境界となる溝9の側面付近にはほとんど欠陥が発生していないFETが得られる。なお、図3では、シリコン基板1にSTIによる素子分離領域2が形成されており、図1に示した製造方法によって形成されたチャネル部分を含む領域の溝9にシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層10が埋め込まれており、溝9の底面付近に欠陥10bが発生しており、エピタキシャル層10上にゲート絶縁膜11を介してゲート電極12が形成されており、エピタキシャル層10の両外側にソース・ドレインのエクステンション領域4が形成されており、エクステンション領域4上のゲート電極12の両側にゲートサイドウォール5が形成されており、ゲートサイドウォール5と素子分離領域2の間の領域のシリコン基板1上にソース・ドレイン領域3が形成されており、素子分離領域2、及びソース・ドレイン領域3上に層間絶縁膜6が形成されている。
【0053】
なお、溝9の底面付近に欠陥10bを発生させるために、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムをある膜厚だけ成長させてから、成長温度よりも高い温度で熱処理を加えてもよい。この場合には、まだ溝9の側面にほとんどエピタキシャル膜が成長していない状態で熱処理を加えることによって、より確実に底面にだけ欠陥10bを発生させることができる。また、臨界膜厚以上にエピタキシャル成長させる必要がないので、形成する溝9を浅くすることができ、エッチングにかかる時間を短縮してコストを削減することができる。
【0054】
以上のように、実施形態1によれば、チャネル部分が歪の緩和したシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムとなっているので、n型FET、p型FETともに、シリコンよりも移動度を大きくすることができる。また、ソース・ドレイン領域とチャネル領域との境界付近の欠陥の発生を抑制することができるので、欠陥による電流駆動能力の減少やリーク電流の増大を抑えたFETを実現することができる。さらに、シリコンよりもバンドギャップが小さいシリコンゲルマニウムやゲルマニウムを用いることによって、低電力化も実現できる。以上のように、実施形態1においては、高速かつ低消費電力のFETを備えた半導体装置を製造することができる。
【0055】
(実施形態2)
本発明の実施形態2に係る半導体装置について図面を用いて説明する。図4は、本発明の実施形態2に係る半導体装置の構成を模式的に示した部分断面図である。
【0056】
実施形態2に係る半導体装置においては、シリコン基板1にSTIによる素子分離領域2が形成されており、チャネル部分を含む領域に(100)面を底面として、(111)面を側面とする溝19が形成されており、溝19にシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層20が埋め込まれており、エピタキシャル層20上にゲート絶縁膜11を介してゲート電極12が形成されており、エピタキシャル層20の両外側にソース・ドレインのエクステンション領域4が形成されており、エクステンション領域4上のゲート電極12の両側にゲートサイドウォール5が形成されており、ゲートサイドウォール5と素子分離領域2の間の領域のシリコン基板1上にソース・ドレイン領域3が形成されており、素子分離領域2、及びソース・ドレイン領域3上に層間絶縁膜6が形成されている。エピタキシャル層20は、臨界膜厚よりも薄く、溝19の底面には欠陥は発生していない。
【0057】
実施形態2に係る半導体装置の構造は、実施形態1と同様の方法によって形成することができる。この時、異方性エッチングを用いることによって、溝19の底面が実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面であり、かつ、溝19の側面が実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面であるようにエッチングを行うことは、実施形態1と同様である。ただし、実施形態2では、エピタキシャル層20を臨界膜厚よりも薄くするために、(100)面を底面として(111)面を側面とする溝の深さをエピタキシャル成長させるシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムの臨界膜厚よりも薄くしておく。具体的には、溝19を形成するエッチングの時間を短くする。例えば、シリコンゲルマニウムにおいて、シリコンとゲルマニウムが丁度50%ずつである場合、エピタキシャル成長の温度が550℃であるとすると、臨界膜厚は約10nmとなる。したがって、溝19の深さは10nmよりも小さいことが望ましい。また、同じくエピタキシャル成長温度が550℃である場合、ゲルマニウム100%では臨界膜厚は1〜2nmであり、溝の深さは1nm以下である。しかし、溝19の深さを正確に制御するためには、溝の深さはできるだけ深い方が望ましい。臨界膜厚は成長温度が低いほど大きくなるので、エピタキシャル層20の成長はできるだけ低温で行うことが望ましい。
【0058】
このようにして、臨界膜厚よりも薄いシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層20を成長させると、溝19の側面だけでなく底面の近傍にも欠陥が発生せず、エピタキシャル層20は歪がかかった状態となる。したがって、実施形態2では、チャネルのシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムに歪がかかったFETを形成することができ、p型のFETにおいて電子あるいは正孔の移動度を大幅に向上させることができる。
【0059】
(実施形態3)
本発明の実施形態3に係る半導体装置について図面を用いて説明する。図5は、本発明の実施形態3に係る半導体装置の構成を模式的に示した部分断面図である。
【0060】
実施形態3に係る半導体装置において、シリコン基板1にSTIによる素子分離領域2が形成されており、チャネル部分を含む領域に(100)面を底面として、(111)面を側面とする溝29が形成されており、溝29に下から順にシリコンゲルマニウム層30aとゲルマニウム層30cの積層体よりなるエピタキシャル層が埋め込まれており、ゲルマニウム層30c上にゲート絶縁膜11を介してゲート電極12が形成されており、シリコンゲルマニウム層30aの両外側にソース・ドレインのエクステンション領域4が形成されており、エクステンション領域4上のゲート電極12の両側にゲートサイドウォール5が形成されており、ゲートサイドウォール5と素子分離領域2の間の領域のシリコン基板1上にソース・ドレイン領域3が形成されており、素子分離領域2、及びソース・ドレイン領域3上に層間絶縁膜6が形成されている。ここでは、ゲルマニウム層30cがFETのチャネルとなる。シリコンゲルマニウム層30aとシリコン基板1の界面に欠陥30bが発生しており、シリコンゲルマニウム層30aとゲルマニウム層30cの界面に欠陥30dが発生しており、ゲルマニウム層30cは歪が緩和している。
【0061】
実施形態3に係る半導体装置の構造は、実施形態1と同様の方法によって形成することができる。溝29の形成工程に関し、異方性エッチングを用いることによって、溝29の底面が実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面であり、かつ、溝29の側面が実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面であるようにエッチングを行うことは、実施形態1、2と同様である。
【0062】
次に、(100)面を底面として(111)面を側面とする溝29を、エピタキシャル層によって埋め込む際に、シリコンゲルマニウム層30aを形成し、このシリコンゲルマニウム層30aとシリコン基板1との界面のうち、溝29の底面に当たる部分に欠陥30bを発生させてシリコンゲルマニウム層30a中の歪を緩和する。この歪の緩和は、実施形態1で説明したように、シリコンゲルマニウム層30aを臨界膜厚以上に成長させるだけでなく、臨界膜厚以下のシリコンゲルマニウム層30aに成長温度よりも高温の熱処理を加えることによっても起こすことができる。シリコンゲルマニウム層30aは、実施形態1で説明したように、溝29の側面に当たる部分では欠陥の発生が抑制される。
【0063】
次に、歪を緩和したシリコンゲルマニウム層30a上にゲルマニウム層30cをエピタキシャル成長させる。この時、ゲルマニウム層30cを臨界膜厚以上の厚さに成長させるか、あるいは途中で成長温度よりも高温の熱処理を加えることによって、ゲルマニウム層30c中の歪を緩和させる。その後、ゲルマニウム層30cをさらに厚く成長させる。
【0064】
その後、実施形態1と同様にゲート絶縁膜11とゲート電極12を形成して、図5に示すような構造を有するFETが形成される。
【0065】
実施形態3によれば、溝29を埋め込んでいるエピタキシャル層がシリコンゲルマニウム層30aとゲルマニウム層30cの2層構造になっているので、シリコン基板1上に直接ゲルマニウムを成長させるよりも、ゲルマニウムの結晶性がよくなる。特に、シリコン基板1上にゲルマニウムを直接成長させる場合には、欠陥が発生しやすく、表面の凹凸が激しくなりやすいが、シリコンゲルマニウム層30aの上に、ゲルマニウム層30cを成長させることによって欠陥を低減し、表面を平坦化させることができる。したがって、実施形態3においては、ゲルマニウム層30cをチャネルとするFETにおいて、チャネル部分のゲルマニウム層30cの結晶性と平坦性が向上し、欠陥や表面ラフネスによるキャリアの散乱が減少することによって、FETの移動度がより高くなり、電流駆動能力が向上する。
【0066】
なお、実施形態3ではシリコンゲルマニウム層30aとシリコン基板1の界面に欠陥30bを発生させているが、シリコンゲルマニウム層30aとゲルマニウム層30cの界面には欠陥を発生させないようにすることや、シリコンゲルマニウム層30aとシリコン基板1の界面にも欠陥を発生させないようにすることも可能である。欠陥を発生させないようにする場合には、チャネルのゲルマニウム層30cには歪がかかっていることになり、p型のFETの移動度を大きく向上させることが可能である。実施形態2で示したシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層(図4の20)だけを臨界膜厚以下に成長させる場合と比べて、実施形態3は、チャネルにかかる歪の大きさは小さくなるが、シリコンゲルマニウム層30aがバッファー層となって、ゲルマニウム層30cとの界面に欠陥が発生しにくくなり、ゲルマニウム層30cの臨界膜厚を厚くすることができる。
【0067】
さらに、実施形態3では、シリコンゲルマニウム層30aにおけるシリコンとゲルマニウムの比を層内で徐々に変化させることも可能である。例えば、化学気相成長法によるエピタキシャル成長の際にSiClとGeHの流量比を徐々に変化させて、シリコン基板1に近いほうから徐々にゲルマニウムの比が大きくなるようにすることができる。このようにして最終的にゲルマニウム100%となるまでシリコンゲルマニウム層30aを成長させてからゲルマニウム層30cを成長させると、結晶性の非常に良いゲルマニウム層30cを得ることができ、チャネル部分のゲルマニウム層30cの結晶性と平坦性が向上し、欠陥や表面ラフネスによるキャリアの散乱が減少することによって、FETの移動度がより高くなり、電流駆動能力が向上する。
【0068】
(実施形態4)
本発明の実施形態4に係る半導体装置について図面を用いて説明する。図6は、本発明の実施形態4に係る半導体装置の製造方法を模式的に示した工程部分断面図である。なお、図6ではFETのチャネル長方向に沿った断面をn型FETとp型FETについて分けて示している。
【0069】
まず、実施形態1と同様に、図1(a)に示すようなダミーゲートを有するFETを作製する。すなわち、最上層がシリコンからなるシリコン基板1にシャロートレンチアイソレーション(STI)による素子分離領域2を形成し、チャネル上にダミーゲート絶縁膜7を介してダミーゲート電極8を形成し、チャネルの両外側にソース・ドレインのエクステンション領域4を形成し、エクステンション領域4上のダミーゲート電極8の両側にゲートサイドウォール5を形成し、ゲートサイドウォール5と素子分離領域2の間の領域のシリコン基板1上にソース・ドレイン領域3を形成し、素子分離領域2、及びソース・ドレイン領域3上に層間絶縁膜6を形成する。
【0070】
次に、図6(a)に示すように、ダミーゲート絶縁膜(図1(a)の7)とダミーゲート電極(図1(a)の8)を除去し、チャネル領域にシリコン基板1が露出した状態にする。この構造は、実施形態1で説明したのと同様の方法によって形成することができる。
【0071】
次に、図6(b)に示すように、露出したチャネル領域のシリコン基板1をエッチングして溝39a、39bを形成する。この時、異方性エッチングを用いることによって、溝39a、39bの底面が実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面であり、なおかつ溝39a、39bの側面が実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面であるようにエッチングを行うことは、他の実施形態と同様である。なお、図6(b)では、n型FET領域(n−FET)とp型FET領域(p−FET)とで溝39a、39bの深さを変えている。これは、例えば、TMAH等のエッチング液でエッチングを行う際に、まずp型FETの領域をシリコン酸化膜等のエッチングされない材料でマスクしておいてn型FET領域だけに対してエッチングを行ない、次に、n型FET領域をシリコン酸化膜等のエッチングされない材料でマスクしておいてp型FET領域だけに対してエッチングを行うことによって、溝39a、39bの深さを変えることができる。
【0072】
次に、図6(c)に示すように、チャネル領域に形成した溝39a、39bに、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムを選択エピタキシャル成長させて、溝39a、39bをシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムよりなるエピタキシャル層40a、40bによって埋め戻す。シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムの選択エピタキシャル成長は、実施形態1と同様に、例えば、SiClとGeHを原料ガスとした化学気相成長法によって行うことができる。この時、n型FET領域とp型FET領域とで溝39a、39bの深さを変えているので、それぞれに対するエピタキシャル層40a、40bの厚さが異なる。そこで、エピタキシャル成長の際も、まずp型FETの領域をシリコン酸化膜等のシリコンゲルマニウムやゲルマニウムが表面に成長しない材料でマスクしておいてn型FET領域だけに対してエピタキシャル成長を行い、次に、n型FET領域をシリコン酸化膜等のシリコンゲルマニウムやゲルマニウムが表面に成長しない材料でマスクしておいてp型FET領域だけに対してエピタキシャル成長を行うことによって、異なる深さの溝39a、39bを埋め込むことができる。この時、n型FET領域ではシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムが臨界膜厚以上であり、p型FETではシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムが臨界膜厚以下であるように、あらかじめ溝39a、39bの深さを調整しておく。これによって、n型FET領域ではチャネルのシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムは歪が緩和しており、p型FET領域ではチャネルのシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムは歪がかかった状態にすることができる。また、n型FET領域では、エピタキシャル層40aが臨界膜厚以上なので、溝39aの底面にのみ欠陥40cが発生する。一方、p型FET領域では、エピタキシャル層40bが臨界膜厚以下なので、溝39bの底面に欠陥が発生しない。
【0073】
次に、図6(d)に示すように、エピタキシャル層40a、40b上にゲート絶縁膜11とゲート電極12を形成する。ゲート絶縁膜11およびゲート電極12の材料としては、実施形態1で示したものと同じ材料を用いることができる。
【0074】
その後、層間絶縁膜形成、配線形成を行って、チャネル部分のみがシリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムとなっており、n型FET領域ではチャネルの歪が緩和しており、p型FET領域ではチャネルに歪がかかっている半導体装置が完成する。
【0075】
なお、実施形態4では、実施形態3のように、溝を埋め込むエピタキシャル層がシリコンゲルマニウムとゲルマニウムの積層構造であったり、さらにシリコンゲルマニウム層のシリコンとゲルマニウムの比が層内で徐々に変わっていてもよい。このような構造の一例を図7に示す。図7は、本発明の実施形態4に係る半導体装置の変形例の構成を模式的に示した部分断面図であり、(a)はn型FET、(b)はp型FETについて示したものである。
【0076】
図7では、シリコン基板1にSTIによる素子分離領域2が形成されており、チャネル部分を含む領域に(100)面を底面として、(111)面を側面とする溝49a、49bが形成されており、溝49aに下から順にシリコンゲルマニウム層50aとゲルマニウム層50cの積層体よりなるエピタキシャル層が埋め込まれており、溝49bに下から順にシリコンゲルマニウム層50eとゲルマニウム層50gの積層体よりなるエピタキシャル層が埋め込まれており、ゲルマニウム層50c、50g上にゲート絶縁膜11を介してゲート電極12が形成されており、シリコンゲルマニウム層50a、50eの両外側にソース・ドレインのエクステンション領域4が形成されており、エクステンション領域4上のゲート電極12の両側にゲートサイドウォール5が形成されており、ゲートサイドウォール5と素子分離領域2の間の領域のシリコン基板1上にソース・ドレイン領域3が形成されており、素子分離領域2、及びソース・ドレイン領域3上に層間絶縁膜6が形成されている。ここでは、ゲルマニウム層50c、50gがFETのチャネルとなる。
【0077】
ここで、n型FET領域(図7(a)参照)では、シリコン基板1とシリコンゲルマニウム層50aの界面およびシリコンゲルマニウム層50aとゲルマニウム層50cの界面の両方に欠陥50b、50dが発生している。p型FET領域(図7(b)参照)では、シリコン基板1とシリコンゲルマニウム層50eの界面に欠陥50fが発生しているが、シリコンゲルマニウム層50eとゲルマニウム層50gの界面に欠陥が発生していない。このような構造は、n型FET領域とp型FET領域とで別々にエピタキシャル成長を行うことによって形成できる。
【0078】
図7のような構造とすることによって、n型FET領域ではチャネルの歪が緩和しており、p型FET領域ではチャネルに歪がかかっており、かつ、チャネル部分のゲルマニウム層50gの結晶性をよりよくすることができる。
【0079】
なお、実施形態4においては、形成される溝49a、49bの深さをn型FET領域とp型FET領域とで変化させたが、溝49a、49bの深さを同じにしておいて、n型FET領域のエピタキシャル成長を先に行って、成長温度を高くしたり、熱処理を加えたりすることによって歪を緩和させ、その後、p型FET領域のエピタキシャル成長を行うこともできる。
【0080】
実施形態4によれば、n型FET領域ではチャネルの歪が緩和しており、p型FET領域ではチャネルに歪がかかっているので、n型FET、p型FETともに移動度が大きく向上する。特に、p型FET領域における移動度向上の効果が大きく、トランジスタの高速化が実現できる。また、ソース・ドレイン領域とチャネル領域との境界付近の欠陥の発生を抑制することができ、欠陥による電流駆動能力の減少やリーク電流の増大を抑えたFETを実現することができる。また、エピタキシャル層が下から順にシリコンゲルマニウム層50aとゲルマニウム層50cの積層体よりなる場合、チャネル部分のゲルマニウム層50cの結晶性と平坦性が向上し、欠陥や表面ラフネスによるキャリアの散乱が減少することによって、FETの移動度がより高くなり、電流駆動能力が向上する。さらに、シリコンよりもバンドギャップが小さいシリコンゲルマニウムやゲルマニウムを用いることによって、低電力化も実現できる。以上のように、実施形態4によれば、高速かつ低消費電力のFETを備えた半導体装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態1に係る半導体装置の製造方法を模式的に示した工程部分断面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る半導体装置におけるエピタキシャル成長時の欠陥発生のメカニズムを説明するための模式図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る半導体装置の構成を模式的に示した部分断面図である。
【図4】本発明の実施形態2に係る半導体装置の構成を模式的に示した部分断面図である。
【図5】本発明の実施形態3に係る半導体装置の構成を模式的に示した部分断面図である。
【図6】本発明の実施形態4に係る半導体装置の製造方法を模式的に示した工程部分断面図である。
【図7】本発明の実施形態4に係る半導体装置の変形例の構成を模式的に示した部分断面図であり、(a)はn型FET、(b)はp型FETについて示したものである。
【図8】従来例に係る半導体装置の製造方法を模式的に示した第1の工程部分断面図である。
【図9】従来例に係る半導体装置の製造方法を模式的に示した第2の工程部分断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1、101 シリコン基板
2、102 素子分離領域
3、103 ソース・ドレイン領域
4、104 エクステンション領域
5、105 ゲートサイドウォール
6、106 層間絶縁膜
7、107 ダミーゲート絶縁膜
8、108 ダミーゲート電極
9、19、29、39a、39b、49a、49b、109 溝
10、10a、10c、110 エピタキシャル層(半導体材料)
20、40a、40b エピタキシャル層(半導体材料)
10b、30b、30d、40c、50b、50d、50f 欠陥
11、111 ゲート絶縁膜
12、112 ゲート電極
30a、50a、50e シリコンゲルマニウム層(半導体材料)
30c、50c、50g ゲルマニウム層(半導体材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最上層がシリコンからなる基板上に形成された電界効果型トランジスタを有する半導体装置において、
前記電界効果型トランジスタのチャネル部分を含む領域における前記基板に、実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面を底面とし、かつ、実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面を側面とする溝が形成されており、
前記溝にシリコンとは異なる半導体材料が埋め込まれていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記半導体材料は、シリコンよりもキャリアの移動度の高い半導体材料であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体材料は、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムであることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムは、歪が緩和していることを特徴とする請求項3記載の半導体装置。
【請求項5】
前記シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムは、n型トランジスタでは歪が緩和しており、p型トランジスタでは歪がかかっていることを特徴とする請求項3記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体材料は、シリコンゲルマニウム層とゲルマニウム層の積層構造となっていることを特徴とする請求項2記載の半導体装置。
【請求項7】
前記積層構造では、前記シリコンゲルマニウム層の上に前記ゲルマニウム層が積層していることを特徴とする請求項6記載の半導体装置。
【請求項8】
前記シリコンゲルマニウム層は、シリコンとゲルマニウムの組成比が層内で変化していることを特徴とする請求項6又は7記載の半導体装置。
【請求項9】
最上層がシリコンからなる基板上に形成された電界効果型トランジスタを有する半導体装置の製造方法であって、
(a)前記基板に素子分離領域を形成し、前記基板上にダミーゲート絶縁膜を介してダミーゲート電極を形成し、前記ダミーゲート電極の両側にゲートサイドウォールを形成し、前記素子分離領域と前記ゲートサイドウォールの間の領域の前記基板上にソース・ドレイン領域を形成し、少なくとも前記素子分離領域及び前記ソース・ドレイン領域上に層間絶縁膜を形成する工程と、
(b)前記基板が表れるまで前記ダミーゲート電極と前記ダミーゲート絶縁膜をエッチング除去する工程と、
(c)露出したチャネル領域の前記基板を異方性エッチングによって除去して、実質的に(100)面または(100)面と結晶学的に等価な面を底面として、なおかつ実質的に(111)面または(111)面と結晶学的に等価な面を側面とする溝を形成する工程と、
(d)前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程と、
(e)前記半導体材料上にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程は、シリコンゲルマニウムまたはゲルマニウムを選択エピタキシャル成長させることによって行うことを特徴とする請求項9記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程は、シリコンゲルマニウムおよびゲルマニウムを連続的にエピタキシャル成長させることによって行うことを特徴とする請求項9記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程の途中あるいは、工程後に熱処理を行うことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記溝を形成する工程において、p型トランジスタとn型トランジスタとで溝の深さを変えることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか一に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記溝をシリコンとは異なる半導体材料によって埋め戻す工程は、p型トランジスタとn型トランジスタとで別々に行うことを特徴とする請求項13記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−166396(P2008−166396A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352483(P2006−352483)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】