説明

半導体装置接合材

【課題】半導体装置の内部接合用の高温はんだ接合材と、基板実装に際して内部接合部が溶融しない半導体装置を提供する。
【解決手段】SnまたはSn系はんだ合金によって、網目構造を有する多孔質金属体の空孔部分を充填し、かつその表面を被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置における接合材に関し、特にパワーダイオードや内部に微細配線を有する半導体チップなどの、放熱が必要な半導体素子を基板に接合する接合材およびそのような接合材で半導体素子が接合された基板を備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の代表例として、Cu又は42アロイからなる基板であるフレーム上に半導体チップ(シリコンチップ)が載った半導体デバイスが挙げられる。シリコンチップとフレームの間はAu線でワイヤーボンデングされている。一方、フレームとシリコンチップの接合は、エポキシ系の接着剤を使用することもあるが、熱伝導性が高く放熱効果が高いはんだによる接合の方が一般的である。このような時の接合を半導体装置の内部接合とも言う。
【0003】
半導体デバイスは、電子機器に組み立てるときプリント基板に実装されるが、そのとき再度リフローはんだ付けの加熱を受ける。その際に、先に行った内部接合によるはんだ付け部がそのときのリフロー温度で融けないようにする必要がある。そのため、半導体デバイスの内部接合に使用するはんだは、プリント基板の実装に使用するはんだよりも溶融温度の高いはんだ合金を使用する。このような半導体デバイス自体でも半導体装置を構成するが、この半導体デバイスはさらに回路基板に接続されて、さらに大きな半導体装置を構成する。以下、このように半導体装置の内部接合のはんだ付けを行うはんだを「高温はんだ」という。
【0004】
従来の高温はんだは、溶融温度が300℃前後のPbベースのはんだ合金であった。
半導体装置の内部接合に用いられる高温はんだには、Pb−10Sn(固相線温度268℃、液相線温度302℃)、Pb−5Sn(固相線温度307℃、液相線温度313℃)、Pb−2Ag−8Sn(固相線温度275℃、液相線温度346℃)、Pb−5Ag(固相線温度304℃、液相線温度365℃)などがあり、主にPbが主成分となっている。これらの高温はんだは、いずれも固相線温度が260℃以上である。そのため、プリント基板の実装用はんだ付けに、例えば63Sn−37Pb共晶はんだを使用する場合、そのときのはんだ付け温度が少し高めの230℃になっても、Pb−10Snなどの高温はんだではんだ付けした半導体装置の内部接合のはんだ付け部は、プリント基板への実装はんだ付け時に溶融することがない。
【0005】
ところで、環境保護の観点から、最近では、はんだ付け技術全般において、Pb系はんだ合金に代えて、Pbフリーはんだ合金を用いることが求められている。
当然、従来の半導体装置の内部接合に使用されてきた前述のようなPb−Sn系高温はんだについても、Pbフリーはんだ合金の使用が求められている。
【0006】
しかしながら、Pbフリーはんだ合金はこれまで種々提案されてきたが、Sn主成分で固相線温度が260℃以上の高温はんだ合金はなかった。例えば、固相線温度(共晶温度)が221℃のSn−Ag系はんだ合金において、Agを増やしていっても液相線温度は上がるが、固相線温度は上がらない。固相線温度227℃のSn−Sb系はんだ合金では、固相線温度を高くするために、Sbを極端に増やした場合、液相線温度も極端に上がってしまう。そして、これらに他の元素を添加してもそのような特性を変えることはできない。
【0007】
したがって、従来より、Pbフリーはんだ合金では、半導体装置の内部接合用の高温はんだとして使用可能なものはないと考えられている。
この高温はんだ合金を使用しない接合技術として検討されたのは、Sn主成分の鉛フリーはんだと比較して溶融温度の高い金属間化合物で接合する方法である。
【0008】
特許文献1には、Sn又はSn主成分の鉛フリーはんだ粉末とCu粉末を混合したソルダペーストを用いる方法が開示されている。溶融接合時に、Sn−Cu金属間化合物を形成して接合を行う。
【0009】
特許文献2には、特許文献1記載の発明の一形態として、Sn又はSn主成分の鉛フリーはんだ粉末とCu粉末を圧延してはんだ箔としたはんだ材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−254194公報
【特許文献2】特開2002−301588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
すでに述べたように、半導体装置の内部接合に使用する接合材あるいはそれにより得られた内部接合部は、プリント基板の実装に使用するはんだ合金よりも溶融温度の高いことが求められるが、それを実現可能とする、Sn主成分で固相線温度が260℃以上の高温はんだ合金はまだ知られていない。
【0012】
引用文献1では、Sn又はSn主成分の鉛フリーはんだ粉末とCu粉末とを混合したソルダペーストが提案されているが、ソルダペーストのフラックスには必ず溶剤が含まれているので、ソルダペーストの形態で使用すると加熱時にフラックス中の溶剤が揮発してボイドが発生し易い傾向がある。このボイドは特に微細配線の半導体装置では信頼性を低下させる原因となってしまう。
【0013】
特許文献2の粉末圧延材では、溶剤の揮発により発生するボイドの問題は解決可能である。しかし、粉末は表面積が広く酸化し易いことから、SnやCuの粉末の製造時に粉末表面には既に酸化膜が形成されており、特許文献2のようにはんだの圧延作業を不活性雰囲気で行っても粉末表面の酸化物は除去できない。また、単に粉末を圧延すると、どうしても完全に隙間がはんだで埋まらずに空隙ができ易い。
【0014】
特許文献2では、フラックスを用いないで水素などの還元雰囲気ではんだ付けをしても、はんだの圧延前に発生した粉末表面の酸化物がはんだ箔内部に入り込んでいるために、水素などの還元雰囲気でははんだ箔内部の酸化物までは除去できないので、はんだのぬれ不良を起こしてボイドが発生しやすいという問題点がある。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、フラックスを用いない、かつ、ボイド発生がなく濡れ性の優れた半導体装置の内部接合用接合材を提供することである。
さらに本発明の課題は、基板に実装するときにも内部接合部が溶融しない半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、複合材が一般に高温特性に優れていることに着目して、複合材を用いて内部接合を行うという着想を得、さらに検討を重ね、複合材として網目状構造を有する多孔質金属薄板を採用し、これに、はんだ合金、特にPbフリーはんだ合金を含浸させた接合材が半導体装置の内部接合用に特に効果的であることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
したがって、本発明は、最も広義には、網目状構造を有する多孔質金属体中にSnまたはSn系の鉛フリーはんだを溶融充填させてから凝固させた半導体装置の高温はんだ接合材およびそれを用いて得られた半導体装置である。
【0018】
ここに、「網目状構造を有する多孔質金属体」は、「多孔質構造を有し、多孔質構造を構成する孔が網目状に連通していて、そのような連通孔の少なくとも一部が金属体表面に露出している多孔質金属体」を云う。一般には、薄板状となった多孔質金属体である。本発明において使用する多孔質金属体は導電性を示す。
【0019】
現在、多孔質金属は、従来のバルク状金属を多孔質化することで軽量化やフィルター効果を目的として作られ始めている。導電材料への応用も提案されている。電気は高周波になるほど、それだけ導体表面を通過するようになるので、バルク状の金属に比較して表面積の広い多孔質金属は、同一電流量では、単位面積当たりの電流量が少ないため、電気抵抗の低下や電力損出の防止効果が発揮され、それを目的として使用されている。本発明においてもそのような市販の多孔質金属体を出発材料として使用してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、新規な接合材でもって半導体装置の内部接合が可能となり、半導体装置の内部接合部においてもPbフリー化を実現できる。
さらに、本発明によれば、はんだ粉末を使用して金属間化合物を形成する接合材に比較して、ボイドの少ない信頼性の高い内部接合部を得ることができる。
【0021】
また、本発明によれば、表面積の多い多孔質金属体に予めSnまたはSn系の鉛フリーはんだを溶融させながら含浸させることで、多孔質金属体を構成する金属とSnとが、その境界部で密着性ガ高まり、導電性、伝熱性が大きく改善される。しかも、内部接合に際して加熱温度を低くしても、あるいは加熱時間を短くしても、はんだ合金中のSnと被接合部金属(Ni、Cuなど)との金属間化合物を所定の生成量で確保できるため、半導体装置の実装に際しての内部接合部の溶融温度の高温化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(a)および図1(b)は、それぞれ、本発明に係る接合材を用いる半導体装置の内部構造および接合材の模式的説明図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1の多孔質金属中にSnを溶融充填した接合材の断面顕微鏡組織図である。
【図3】図3は、比較例1のCuシートをSnではんだ付けした接合材の断面顕微鏡組織図である。
【図4】図4は、比較例7の空孔率の高い多孔質金属中にSnを溶融充填した接合材の断面顕微鏡組織図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1(a)は、本発明にかかる半導体装置の模式的説明図であり、本発明にかかる接合材1はシリコンチップ(ICチップ)2と絶縁基板3との間に介在させて両者を内部接合しており、さらに、この組立体が、絶縁基板3をCuベース基板4に内部接合させて半導体装置を構成している。
【0024】
ICチップ2と絶縁基板3との接合は、本発明にかかる接合材の良好な熱伝導性を利用するものである。一方、絶縁基板とCu−ベース基板4との接合は、電極あるいは接続端子の導通をとるとともに、放熱を図るためである。本発明にかかる接合材はいずれの目的にも用いることができる。
【0025】
なお、ICチップ2を絶縁基板3に内部接合しただけの上記組立体をもって半導体装置と呼ぶこともある。
このように内部接合された半導体装置は、さらにプリント配線基板などに実装されて、電源装置などの電子機器を構成する。
【0026】
図1(b)は、ICチップ2と絶縁基板3、または絶縁基板3とCuベース基板4を接合材1で接合したときの接合部の拡大模式図である。接合材1は多孔質金属体5と金属間化合物6で構成されており、加熱接合後の高温化状態を示している。接合前における多孔質金属体の内部は、SnまたはSn系はんだで充填されており、接合時の加熱により金属間化合物を生成しSnが消失し、融点の高温化が行われる。
【0027】
本発明の半導体装置は、シリコンチップで発生した熱を速やかにCuベース基板に放散させる構造であり、微細配線パターンの半導体やパワー半導体などの電気の導通と共に熱を発生し易い用途に用いられる。そのために、ICチップと絶縁基板、絶縁基板とCuベース基板との接合部分は、高温になり易く、接合に用いられるはんだも高温はんだが使用される。
【0028】
本発明は、高温はんだによる接合に代えて、Snの金属間化合物による接合を使用したもので、そのような接合部位は、網目状構造を有する多孔質金属体によってその周囲が包囲される構造となっている。
【0029】
すでに述べたように、本発明にかかる高温はんだ接合材は、網目構造の連通孔を備えた多孔質金属体にSnまたはSn系の鉛フリーはんだを溶融充填することによって製造される。
【0030】
本発明にかかる半導体装置は、内部接合を行うものであれば特に制限はないが、具体的にはパワー半導体装置が例示される。
本発明の接合機構:
本発明によれば、半導体装置を構成する半導体素子と基板との接合部に、Snの金属間化合物を形成させる。網目状構造を有する多孔質金属に溶融充填されたSnまたはSn系の鉛フリーはんだと多孔質金属体を構成する金属との反応、さらには、上記鉛フリーはんだとCuもしくはNiめっきとの反応によって接合部が形成される。これらの反応は、それぞれ、溶融はんだ合金を多孔質金属体に含浸させるとき、および内部接合を行うときに生じる。
【0031】
半導体素子や基板との接合面には、多孔質金属体の骨格を構成する例えばCu10Sn合金などの金属面と、多孔部分を充填する鉛フリーはんだ合金面とが共存する。これが接合部材の金属と接触状態で加熱されると、はんだにより相手接合面が濡れるとともに、Snとの反応によって、金属間化合物が生成される。
【0032】
本発明にかかる接合材では、多孔質金属体とその中に溶融充填されたSnまたはSn系の鉛フリーはんだ合金との間の境界部には非常に薄い金属間化合物層が形成され、表面酸化皮膜が実質上存在しないため、ボイドの少ない信頼性の高い内部接合部が得られると共に、接合時の加熱により金属間化合物生成反応が容易にとなり、Snとの金属間化合物生成が促進される結果、Snは単体としては実質上残存しない。
【0033】
ここに、Snの金属間化合物を使用した接合は、化合物形成反応が速やかに行われる必要がある。従来は、特許文献1および2のようにSn系はんだとCuとを粉末として用いて、SnおよびCuの表面積を増加させることによって、SnとCuとの金属間化合物形成反応を促進させるものであったが、とのときの反応性を高めるために微細な粉末を用いると、Sn及びCuの粉末が容易に酸化して、ボイドが増加してしまうという問題点があった。
【0034】
本発明は、そのような問題を改善する。本発明では、微細なSnとCuの粉末の代わりに、網目状構造を有する多孔質金属体とそこに充填するSnまたはSn系の鉛フリーはんだ合金から成る接合体を用いる。
【0035】
多孔質金属体:
本発明において使用する多孔質金属体は、市販のものを出発材料として利用すればよい。市販品を、必要により、所定厚さにまで圧延するとともに、空孔率を調整すればよい。
【0036】
多孔質金属体は、発泡ウレタンに導電性処理を施し、めっきを行ったあと、ウレタンを加熱除去する「めっき法」、発泡ウレタンを含む金属粉末スラリーを直接発泡させ、その後脱脂焼結を行う「スラリー発泡法」、及び金属粉末スラリーを発泡ウレタンに塗布し、焼結とともにウレタンを除去する「スラリー塗布法」などの方法で製造されている。
【0037】
本発明に使用する網目状構造を有する多孔質金属は、Snとの反応により金属間化合物を生成する金属であれば適用可能であり、例としては、Cu、Ag、Niおよび青銅などのCu合金が考えられる。表1に各種金属とSnとの反応により形成する金属間化合物を明記する。特にSnとの反応を容易に行う、CuおよびCu合金が好ましい。
【0038】
このような純銅及びCu含有量が90%以上のCu合金としては、無酸素銅、タフピッチ銅、りん脱酸銅などの銅材、CAC101,CAC102,CAC103などの銅鋳物やCuにSnやZnなどを添加した青銅など銅合金が例示される。網目状構造を有する多孔質金属に用いるCu合金のCu含有量が90%未満であると、多孔質金属に充填したSn又はSn系の鉛フリーはんだとの反応を阻害するので、好ましくない。網目状構造を有する多孔質金属に用いるCu合金のCu含有量は、好ましくは、純銅及びCu含有量が90%以上のCu合金が適している。
【0039】
【表1】

【0040】
含浸方法:
本発明の場合、多孔質体を構成する孔は、多孔質体表面と連通した穴構造を持っており、網目状構造を有することから、溶融はんだ浴にこの多孔質体を浸漬するだけで孔構造の内部にまではんだを含浸させることができる。真空雰囲気でこのような含浸処理を行えば、より効率的に内部にまで溶融はんだを含浸させることができる。
【0041】
フープ材のような長尺材の場合、溶融はんだ浴に、好ましくは不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気下で、連続的に浸漬させ、次いで引き上げることで、空孔内への溶融はんだを含浸できる。この場合、長尺材の走行速度を調整することで、多孔質金属体表面への溶融はんだの付着量、つまり接合材の厚さを調整できる。多孔質金属体の表面は全体が薄くはんだ合金で被覆される。もちろん、このときに溶融はんだ合金と多孔質金属体表面との界面には金属間化合物が生成される、両者の接合強度、つまり密着力は向上する。
【0042】
含浸させるはんだ合金としては、Pbフリーであれば、特に制限はないが、この種の用途には、Sn単体金属、Sn−Agはんだ合金、Sn−Ag−Cuはんだ合金が好ましい。
【0043】
本発明においてははんだ合金の量は、少なくとも多孔質金属体の空孔部を充填でき、表面、例えば板状多孔質金属体の場合、一方あるいは両方の表面を被覆するような量とする。多孔質金属体に対するはんだ合金の占める割合は好ましくは20〜30%である。
【0044】
多孔質金属体の板厚さおよび空孔率:
本発明にかかる接合材は、薄板状に構成されるが、使用に際しては、所定形状に切断されて、いわゆるはんだプリフォームと同様の態様で使用される。すなわち、本発明にかかる接合材は、接合面の間に介在させて組み立て、これをリフロー炉げ加熱することではんだ接合が行われる。そのため、好ましくは、本発明に係る接合材は、上記多孔質金属体の板厚さが0.1mm以上、0.2mm以下である。本発明に使用する網目状構造を有する多孔質金属体の空孔率、つまりはんだ合金の充填率は、20〜30%のものが好ましい。
【0045】
本発明で、CuまたはCu合金の網目状構造を有する多孔質金属体に、SnまたはSn系の鉛フリーはんだを含浸すると、空孔率が20〜30%(面積割合で示す)のときはSnがCuSn並びにCuSnの形成により消失し、接合部の溶融点の高温化が行われる。空孔率が30%を越えると低融点相のSnが残存し、高温化が実現しない。高温化を行ううえでは、Sn単一相の消失が必須であること、ボイドなどの接合性を向上するためにも空孔率20〜30%のものが好ましい。
【0046】
すでに述べたように、本発明で使用する多孔質金属体は市販品を用いればよいが、市販品の多くは厚さが、1〜0.5mm程度であるため、また空孔率も60%程度であるため、本発明において溶融はんだを含浸させるまえに、所望板厚さおよび空孔率に調整することが好ましい。そのような調整は圧延により行えばよい。
【0047】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0048】
実施例1〜6、比較例1〜4
福田金属製リン青銅粉末(商品名P−201)を880℃の還元雰囲気において焼結させ、多孔質金属体(板長さ:1m、幅:15mm、厚さ:0.1mm、空孔率:25%)を用意し、これを各種はんだ浴に250〜260℃で浸漬し、鉛フリーはんだを含浸させた。溶融はんだの含浸にフラックスは使用せず、はんだ浴に超音波を当てることにより多孔質金属体の酸化皮膜を除去し、ボイド発生を防止した。使用した多孔質体の孔構造は、連続孔が網目上に連通しており、板表面に開口部を備えていた。
【0049】
接合材の厚さは、多孔質金属体をはんだ浴から取り出す速度により制御を行い、はんだ合金層および多孔質金属体も合計の厚さが0.15〜0.2mmになるように調整した。はんだ合金層の厚さは、0.05〜0.1mmであった。
【0050】
得られた接合材を、3mm×3mmの大きさにプレスで打ち抜き、これを使って、Cu板上にこの接合材を介してシリコンチップを載せて組み立てた。得られた組み立て体をリフロー条件を模した条件に保持した後、冷却して、接合部断面を顕微鏡観察するとともに、接合強度を測定した。
【0051】
Cu板上に接合したのは、絶縁体にはシリコンチップとのはんだ接合を容易にするためにCuめっきが行われているからである。Cu板で絶縁板を模したのである。
図2は、実施例1で使用した接合材の断面顕微鏡組織図(倍率:500倍)である。
多孔質金属体5が、溶融充填されたはんだ合金7によって包囲されているのがわかる。両者のCuSn金属間化合物およびCuSn金属間化合物の存在が確認された。しかし、はんだ合金、特に表面部分のはんだ合金はSn単体で存在していることが確認された。
【0052】
図3は、比較例1で使用した多孔質形状を有しない(空孔率0%)接合材の断面顕微鏡組織図(倍率:500倍)である。バルク状金属(Cu)体8とはんだ(Sn)層7とがきれいに積層されているのがわかる。
【0053】
図4は、比較例4で使用した空孔率35%以上の接合材の断面顕微鏡組織図(倍率:500倍)である。多孔質体金属体9の空孔率が大きいため、その分、ハンダ(Sn)の充填量が多くなり、最終的に接合部を構成したときに、はんだ成分であるSnが単体で存在するため、溶融温度の低下は避けられない。
【0054】
【表2】

【0055】
表2記載の空孔率は、多孔質金属体の断面画像から空孔部を検出し測定した。したがって、「空孔率」は面積率で表す。検出に使用した画像解析ソフトはSoft imaging system製scandiumを用いた。画像上、金属部と空孔部はコントラストが異なるため、画像解析により識別可能であり、空孔部のみを検出する事で測定を行った。
【0056】
(実施例7)
実施例1で製造した接合材から5mm角の接合材を打ち抜き、これを高温炉で10mm角のCu板もしくはNiめっきCu板に接合することで、Sn−Cuの金属間化合物を形成させて、接合部を再現した。
【0057】
接合には、米倉製作所製の高温観察装置IrF−TPを用い、加熱温度350℃、15分の条件で加熱した。
このようにして得られた接合部の金属間化合物の生成量を測定した。測定方法は、日本電子製走査型電子顕微鏡JSM−7000Fを用い、接合部断面から化合物存在領域を検出、検出した面積を計測し、生成した化合物量とした。結果を表2に示す。
【0058】
同様に、上記接合部のボイド率を測定した。測定方法は、東芝製X線透過装置TOSMICRONを用い、ボイド部を検出、接合部全体の面積に対するボイドの比率として表示した。
【0059】
結果を表2に示す。
実施例1で製造した本発明の接合部材の接合強度及び溶融温度を測定した。
接合強度の測定法は、JIS Z3198−5に準じた。但し、30mm角Cu板の上に本発明の接合材(3mm角の大きさ)を載せ、さらにそのうえに測定片としての3mm角、厚さ1mmのCuチップを載せて、これを加熱接合した。
【0060】
計測は、レスカ製継手強度試験機STR−1000を用い、せん断速度は6mm/min、試験温度は室温ならびに250℃で行った。
溶融温度の測定方法は、JIS Z3198−1に準じた。熱分析の条件は、セイコーインスツルメンツ製示差熱分析装置DSC6200を用い、昇温速度5℃/min、180―280℃間における接合加熱後の溶融点を確認した。接合部試料は強度試験に使用したものと同じものを使用した。
結果を表2に示す。
【0061】
(実施例8)
実施例1で製造した接合材(表2の実施例1参照)を用いて、図1に示すように、絶縁板にシリコンチップを接合し、さらにこれをCu基板に接合して半導体装置を構成した。次いで、この半導体装置をプリント基板にリフロ−温度240℃で実装した。
【0062】
実装時に半導体装置の内部接合部が溶融することはなかった。
【符号の説明】
【0063】
1. 接合材
2. ICチップ
3. 絶縁基板
4. ベース基板
5. 多孔質金属体
6. 金属間化合物
7. Pbフリーはんだ
8. バルク状金属体(空孔率0%)
9. 多孔質金属体(空孔率35%以上)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目構造を有する多孔質金属体と、該多孔質金属体の空孔部分に充填され、かつ該多孔質金属体表面を被覆したSnまたはSn系はんだ合金とから構成され、前記多孔質金属体が導電性を示す、高温はんだ接合材。
【請求項2】
前記多孔質金属体が、Snとの反応により金属間化合物を生成するCu、Ni、Ag、およびCu含有量が90質量%以上のCu合金からなる群から選んだ少なくとい1種から構成される請求項1記載の高温はんだ接合材。
【請求項3】
前記多孔質金属体に対してはんだ合金の占める割合が、体積%で、20%以上30%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の高温はんだ接合材。
【請求項4】
前記多孔質金属体の厚さが0.1mm以上0.2mm以下であり、半導体装置の内部接合に用いる、請求項1ないし3のいずれかに記載の高温はんだ接合材。
【請求項5】
空多孔質金属体として、空孔率が、面積率で、20%以上、30%以下である多孔質金属体を用いた、請求項1ないし4のいずれかに記載の高温はんだ接合材。
【請求項6】
多孔質金属体を、SnまたはSn系はんだ合金溶融浴中に浸漬して、該多孔質金属体を構成する内部から表面に連通した孔構造内に溶融SnまたはSn系はんだを充填し、かつ該多孔質幸金属板表面を被覆させること、前記多孔金属体をSnまたはSn系はんだ合金溶融浴から取り出すこと、そして、前記多孔質金属体に充填されまたそれを被覆する溶融SnまたはSn系はんだ合金を凝固させることからなる、請求項1記載の高温はんだ接合材の製造方法。
【請求項7】
少なくとも、半導体素子と絶縁基板とを接合するはんだ接合部を備えた半導体装置であって、該はんだ接合部が、請求項1ないし5のいずれかに記載の高温はんだ接合材を用いて接合されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
前記接合部において、Sn単体が消失した、請求項7記載の半導体装置。
【請求項9】
前記接合部が260℃において溶融しない、請求項7または8記載の半導体装置。
【請求項10】
請求1ないし5のいずれかに記載の高温はんだ接合材を用いて、少なくとも、半導体素子と絶縁基板とを接合する半導体装置の接合方法であって、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、および減圧雰囲気から選ばれたいずれかの雰囲気下で、300℃以上350℃以下において5分以上加熱させ、フラックスレスで接合を行う、半導体装置の内部接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−35291(P2012−35291A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176456(P2010−176456)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000199197)千住金属工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】