説明

半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法

【課題】 導体パターンの銅食われや錫めっき層における純錫部の厚さ異常を生じる虞がなく、かつ工程数の増大や製造工程の煩雑化等を招くことなしに高温硬化型のソルダレジストのような絶縁性被膜を採用することができる半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 この半導体装置用テープキャリア9は、絶縁性フィルム基板3と、その絶縁性フィルム基板3の表面上に形成された、純銅または銅系材料からなる少なくとも配線部と外部接続用端子部とを有する導体パターン6と、その導体パターン6における配線部および外部接続用端子部の表面に形成された単層の錫めっき層7と、導体パターン6における配線部の表面に形成された錫めっき層7の表面上、および絶縁性フィルム基板3における導体パターン6で覆われていない部分の表面上の、所定部分を覆うように形成された、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる絶縁性被膜8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばCOF(Chip On Film)方式の半導体装置用実装パッケージ等に好適な半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の半導体装置用テープキャリアの製造方法では、図4に示したように、まず、接着層付基板101を用意し(図4(a))、その接着層102および絶縁性フィルム基板103を貫通するデバイスホール104を穿ち設ける(図4(b))。
続いて、ポリイミドフィルムのような薄手の絶縁性フィルム基板103の表面上に接着剤層102を介して銅箔105を張り合わせ(図4(c))、その後、いわゆるフォトエッチング処理によって銅箔105をパターニングすることで、配線パターンの部分(これを配線部とも呼ぶ)および外部接続端子部などを有する導体パターン106を形成する(図4(d))。
続いて、導体パターン106における配線部を覆うことでその電気的絶縁性および機械的強度を補強するためのソルダレジスト108を形成する(図4(e))。そして、導体パターン106における、いわゆるインナーリード部と呼ばれるような外部接続端子部の表面には、金や錫などの機能めっき層107を、例えば無電解錫めっき法などによって被着形成する(図4(f))。
【0003】
このようにして製造された半導体装置用テープキャリア100は、さらに、図5(a)、図5(b)に示したように、導体パターン106の外部接続端子部(インナーリード部)が、例えば金バンプ123を介してICチップ121のアルミパッド電極122に接続され、その後、封止樹脂材124を充填するなどしてパッケージングされて、半導体装置120となる(図5(c))。
例えば液晶ドライバ用のCOF方式の半導体装置用テープキャリアでは一般に、導体パターンの表面に被着形成する機能めっき層として、無電解錫めっきによる錫めっき層が採用される場合が多い。錫めっき層の厚さは、多くの場合、0.3μm以上0.8μm以下の範囲内の厚さとすることが好ましいものとされている。ICチップ121との接合は、ICチップ121上の各アルミパッド電極122にそれぞれ金バンプ123を介して導体パターン106におけるインナーリード部の表面の錫めっき層107を400℃程度で熱圧着させることによって行われる。このとき、熱によって錫めっき層107の表面付近の錫が溶解し、その錫と金バンプ123の金とが共晶合金化することで、両者の接合が行われる。この接合方式はギャングボンディングと呼ばれるもので、全端子を一括で接合することができるため、液晶ドライバ用の半導体装置のように接続端子数が多い場合に、特に有利である。
【0004】
半導体装置用テープキャリア100のようなテープ状製品の製造工程は、一般に、リールツーリール(一つのリールから繰り出されて他の一つのリールへと巻き取られる)方式で処理される工程を含んでいる場合が多い。例えば、いわゆる錫めっき仕様の半導体装置用テープキャリア100の場合、図6(a)およびその一部抽出拡大図である図6(b)に示したように、錫めっき層107やソルダレジスト108の塗工後は、耐熱性のエンボス131と一緒に先端がリール胴132に固定されて、そのリール胴132の回転によってリール130に巻き取られる。そして、このリール130に巻きとられた状態で熱風循環のべ一ク炉(図示省略)に投入され、所定時間の熱処理が施される。この熱処理を行なう理由は、無電解錫めっき後については錫のウィスカの発生を抑制するためであり、ソルダレジスト塗工後についてはそのソルダレジストを硬化させるためである。
【0005】
錫めっき層107は、無電解錫めっき等により導体パターン106の表面に被着形成された後の熱履歴によって、図7(a)およびその一部抽出拡大図である図7(b)に示したように、導体パターン106との接触界面付近で、その導体パターン106からの銅との拡散混合に因って銅と錫との合金部109が形成されるため、その合金部109と、斯様な合金化には至らずに純粋な錫のままに保たれている純錫部110とに分かれている。この錫めっき層107と金バンプ123との良好な接合を得るためには、錫めっき層107における純錫部110の厚さを適正範囲内にしなければならない。純錫部110の厚さが薄過ぎる場合には、接合時の錫の溶解量が不足して、金バンプ123との共晶合金の形成が困難になる。他方、純錫部110の厚さが厚過ぎる場合には、接合時の錫の溶解量が多過ぎて、隣り合った導体パターン106のインナーリード部同士の間で短絡不良等が生じる虞が高くなる。
この純錫部110の適正な厚さは、例えば上記のような液晶ドライバ用のテープキャリアなどの場合には、0.15μm以上0.30μm以下の範囲内の厚さとすることが望ましいものとされている。
ソルダレジスト108は、導体パターン106における接合に関与しない配線部の表面上や、導体パターン106が形成されておらずに露出した状態となっている接着層付基板101の表面上を覆うように設けられる。ソルダレジスト108は、熱硬化タイプと感光性タイプに分類されるが、いずれの場合にも化学的に硬化させることが必要であり、150℃程度の高温で60〜90分程度の加熱を行なうのが一般的である。
【0006】
従来、錫めっき層107はソルダレジスト108の塗工後に被着形成されるという工程順が一般的であった。これは後めっき法と呼ばれている。後めっき法が採用される理由は、錫めっき後にソルダレジストを塗工すると(これは先めっき法と呼ばれる)、前述のソルダレジストの加熱条件(150℃で60〜90分)では、錫めっき層107と導体パターン106との接触界面付近における銅の熱拡散量が大きくなって、甚だしくは錫めっき層107における錫の殆どが銅と合金化する場合もあり、純錫部110の厚さが適正範囲を大幅に逸脱して薄くなってしまうためである。
ところが、後めっき法の場合、「銅食われ」と呼ばれる異常が発生する場合がある。すなわち、図8に示したように、銅食われ部111では無電解錫めっきの過剰な置換反応が起きている。銅食われは、特にソルダレジスト108の塗布領域の端部付近に発生しやすい。銅食われが生じると、その銅食われ部111付近の導体パターン106の機械強度や柔軟性が低下する。特に最近では導体パターン106の狭ピッチ化やいわゆるファイン化に伴って、個々の導体パターン106の線幅や厚さのさらなる微細化が進んでいるので、甚だしくは銅食われ部111における導体パターン106の厚さの殆ど全てが錫に置換されて、その部分で折損してしまうことさえある(以上、特許文献1参照)。
【0007】
ところで、錫めっきに起因した錫のウィスカを抑止するために、ソルダレジスト塗工の前と後とにそれぞれ錫めっきを施すという、2回錫めっき方式が、特許文献2にて提案されている。すなわち、図9に示したように、まず、接着層付基板101を用意し(図9(a))、接着層102および絶縁性フィルム基板103を貫通するデバイスホール104を穿ち設ける(図9(b))。
続いて、絶縁性フィルム基板103の表面上に接着層102を介して銅箔105を張り合わせ(図9(c))、その後、いわゆるフォトエッチング処理によって銅箔105をパターニングすることで、配線部および外部接続端子部等を有する導体パターン106を形成する(図9(d))。
続いて、第1回目の錫めっきでは、導体パターン106の表面ほぼ全面に、第1錫めっき層112を被着形成する(図9(e))。
その後、導体パターン106における配線部を覆うことでその電気的絶縁性および機械的強度を補強するためのソルダレジスト108を形成する(図9(f))。
そして、第2回目の錫めっきとして、導体パターン106における、いわゆるインナー
リード部と呼ばれるような外部接続端子部の表面に、第2錫めっき層113を被着形成する(図9(g))。
【0008】
この提案によれば、1回目の錫めっきで形成される第1錫めっき層112によって、導体パターン106の表面ほぼ全体が被覆されるため、ソルダレジスト108塗工後に行われる2回目の錫めっきの際には、ソルダレジスト108の塗布エリアの端部に銅の露出がない。これにより、ウィスカの発生を回避することが可能となるという効果に加えて、銅食われの防止にも有効であることが知られている。
しかし、この2回錫めっき方式では、錫めっきを2回行わなければならないので、工程数の増大や工程の煩雑化等の問題があり、また延いては製造コストの上昇を招くという問題がある。また、第1錫めっき層112と第2錫めっき層113とを合計した錫めっき層107全体の厚さが厚くなり過ぎる虞があるという問題や、そのような錫めっき層107全体が厚くなり過ぎることを回避するためには、個々の錫めっきの厚さ制御を厳密に行わねばならず、工程管理の煩雑化や製造歩留まりの低下を招いてしまうといった問題もある。
【0009】
そこで最近では、120℃程度の低温での硬化が可能なソルダレジストが開発されるようになり、錫めっき後にソルダレジスト塗工およびその熱処理を行なう先めっき法でも、純錫部を適正な厚みに維持することが可能になった(特許文献3参照)。
しかし、斯様な低温硬化タイプのソルダレジストは、未だ種類が少なく、また各種要求特性への適合性や価格面などを考慮すると、より一般的に使用されている確かな実績のある高温硬化型のソルダレジスト(加熱条件:150℃で60〜90分程度)を採用する方
が得策であることも事実である。
【0010】
【特許文献1】特開2001−144145号公報
【特許文献2】特開平5−33187号公報
【特許文献3】特開2006−169351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、従来の技術では、錫めっき層の形成時に銅食われが発生するという問題があった。そして斯様な銅食われの発生を防止するための有効な方策である2回錫めっき方式では、工程数の増大、製造コストの高額化という問題や、錫めっき層の合計厚さが厚くなり過ぎる虞があるという問題があった。
また、導体パターンの表面保護等のために設けられるソルダレジストのようないわゆる絶縁性被膜は、140℃以上の温度で硬化する高温硬化型であることが望ましいが、そのような高温硬化型の絶縁性被膜を用いると、その硬化のための加熱工程で錫めっき層も同様の高温に加熱されることなどに起因して、錫めっき層の錫と導体パターンの銅との合金化が進み、その錫めっき層における純錫部の厚さが適正範囲を逸脱して異常に薄くなってしまうという問題があった。
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、導体パターンの銅食われや錫めっき層における純錫部の厚さ異常を生じる虞がなく、かつ工程数の増大や製造工程の煩雑化等を招くことなしに高温硬化型のソルダレジストのような絶縁性被膜を採用することができる半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の半導体装置用テープキャリアは、絶縁性フィルム基板と、前記絶縁性フィルム基板の表面上に形成された、純銅または銅系材料からなる、少なくとも配線部と外部接続用端子部とを有する導体パターンと、前記導体パターンにおける前記配線部と前記外部接
続用端子部との表面に形成された単層の錫めっき層と、前記導体パターンにおける配線部の表面に形成された錫めっき層の表面上および前記絶縁性フィルム基板における前記導体パターンで覆われていない部分の表面上の、所定部分を覆うように形成された、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる絶縁性被膜とを備えたことを特徴としている。
本発明の半導体装置用テープキャリアの製造方法は、絶縁性フィルム基板の表面に純銅または銅系材料からなる導体パターンを形成する工程と、前記導体パターンの表面に、錫めっき層を被着形成する工程と、前記無電解錫めっきを行った後、前記錫めっき層における、純錫部の厚さと前記導体パターンとの接触界面付近に生じる銅と錫との合金部の厚さとを含めた合計厚さが0.3μm以上0.8μm以下の範囲内に収まると共に前記純錫部の厚さが0.20μm以上0.30μm以下の範囲内に収まるように、前記錫めっき層に加熱処理を施す工程と、前記導体パターンの表面に形成された錫めっき層の表面上および当該導体パターンで覆われていない前記絶縁性フィルム基板の表面上における所定部分を覆うように、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる絶縁性被膜を塗布する工程と、前記錫めっき層における純錫部の厚さが0.15μm以上0.30μm以下の範囲内に収まるように、熱線照射による輻射熱を用いた加熱処理を前記絶縁性被膜に施して、当該絶縁性被膜を硬化させる工程とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、導体パターンにおける配線部と外部接続用端子部とを含むその表面全面に、1回の先めっきで単層の錫めっき層を形成し、その錫めっき層の表面上および絶縁性フィルム基板の表面上における、所定部分を覆うように、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる絶縁性被膜を形成し、その絶縁性被膜に対して遠赤外線のような熱線照射の輻射熱を用いた加熱硬化処理を施すようにしたので、いわゆる高温硬化型のソルダレジストのような絶縁性被膜を採用してなる半導体装置用テープキャリアにおいて従来問題となっていた導体パターンの銅食われや錫めっき層における純錫部の厚さ異常などを生じることなく、かつ工程数の増大や製造工程の煩雑化等を招くことなしに、適正な純錫部の厚さを確保した錫めっき層を備えた半導体装置用テープキャリアを実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアの製造工程における主要な流れを示す図、図2は、図1に示した製造工程における、特に錫めっき層のウィスカ防止のための加熱処理工程および絶縁性被膜の硬化のための加熱処理工程で用いられる加熱装置およびそれによる加熱処理の様子を抽出して模式的に示す図、図3は、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアに半導体素子としてICチップを実装した状態を示す図である。
【0015】
この半導体装置用テープキャリアの製造方法では、まず、TABテープ基材1を用意する(図1(a))。このTABテープ基材1としては、表面全面に接着剤層2が設けられた薄手のポリイミドフィルムのような絶縁性フィルム基板3を用いることができる。このTABテープ基材1の所定位置に、接着剤層2および絶縁性フィルム基板3を貫通するデバイスホール4を穿ち設ける(図1(b))。
続いて、絶縁性フィルム基板3の表面上に、接着剤層2を介して銅箔5を張り合わせる(図1(c))。そして、いわゆるフォトエッチング法により銅箔5をパターニングすることで、デバイスホール4の領域内に迫り出したフライングリード構造のインナーリード部である外部接続端子部と配線パターン本体である配線部とを有する導体パターン6を形成する(図1(d))。
【0016】
続いて、導体パターン6の露出している表面全面、つまり導体パターン6における配線部の表面にも外部接続端子部の表面にも、無電解めっき法によって錫めっき層7を被着形成する(図1(e))。
その後、図2に示したように、この半導体装置用テープキャリア9をインラインで熱処理炉11に投入し、遠赤外線16のような熱線の照射による輻射熱を主体としてそれと熱風15の吹き付けとを併用した加熱処理を、錫めっき層7に施すことにより、錫めっき層7のウィスカ発生防止を行う。この工程では、錫めっき層7のウィスカ発生を防止することができ、かつ錫めっき層7における導体パターン6との接触界面付近に生じる銅と錫との合金部を含めた合計厚さが0.3μm以上0.8μm以下の範囲内に収まると共に純錫部の厚さが0.20μm以上0.30μm以下の範囲内に収まるように、加熱温度および処理時間等のプロセス条件を設定して、加熱処理を行う。
【0017】
続いて、導体パターン6における配線部の表面に形成された錫めっき層7の表面上を覆うと共に、絶縁性フィルム基板3の表面上(より具体的にはその表面の接着剤層2の表面上)における導体パターン6で覆われていない所定部分を覆うように、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる、ソルダレジストまたはカバーレイのような絶縁性被膜8を塗布する(図1(f))。この絶縁性被膜8は、導体パターン6における配線部を覆うことでその電気的絶縁性および機械的強度を補強するためのものであることは勿論である。
その後、図2に示したように、この半導体装置用テープキャリア9をインラインで熱処理炉11に投入し、遠赤外線16のような熱線の照射による輻射熱を主体として、それと熱風15の吹き付けを併用した加熱処理を、絶縁性被膜8に施すことにより、その絶縁性被膜8の加熱硬化を行う。この工程では、絶縁性被膜8を確実に硬化させることができ、かつ錫めっき層7における純錫部の厚さが0.15μm以上0.30μm以下の範囲内に収まるように、加熱温度および処理時間等のプロセス条件を設定する。
【0018】
このようにして、図3に示したような構造を備えた、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリア9の主要部が製造される。すなわち、この半導体装置用テープキャリア9は、絶縁性フィルム基板3と、その絶縁性フィルム基板3の表面上に形成された、純銅または銅系材料からなる少なくとも配線部と外部接続用端子部とを有する導体パターン6と、その導体パターン6における配線部および外部接続用端子部の表面に形成された単層の錫めっき層7と、導体パターン6における配線部の表面に形成された錫めっき層7の表面上、および絶縁性フィルム基板3における導体パターン6で覆われていない部分の表面上の、所定部分を覆うように形成された、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる絶縁性被膜8とを備えている。そして特に、錫めっき層7は、導体パターン6との接触界面付近に生じる銅と錫との合金部を含めた合計厚さが0.3μm以上0.8μm以下、かつ純錫部の厚さが0.15μm以上0.30μm以下となっている。
【0019】
この半導体装置用テープキャリア9は、さらに、図3に示したように、ICチップ21の接続パッド22に、例えば金バンプ23を介して接続される。そして封止樹脂材(図示省略)を充填するなどして、例えば液晶ドライバのような半導体装置におけるいわゆる実装パッケージの主要部が完成する。
【0020】
ここで、錫めっき層7を被着形成する工程〜その錫めっき層7に加熱処理を施す工程は、インラインで連続的に行うようにすることが好ましい。これは、上記のように遠赤外線16のような熱線を錫めっき層7の表面に直接照射することでその輻射熱を用いて加熱を行うという加熱処理プロセスは、図2に示したようなインライン方式の製造プロセスおよび製造設備に対するプロセス整合性が、極めて良好だからである。しかも、従来の製造方法の場合のようなリールに一旦巻き取った状態で高温加熱雰囲気中にバッチ式に曝すことによって加熱処理を施すといった方法よりも、処理効率が大幅に向上するというメリット
も得られるからである。
また、絶縁性被膜8を塗布する工程〜その絶縁性被膜8に加熱処理を施す工程は、インラインで連続的に行うようにすることが好ましい。これについても、上記のように遠赤外線16などの熱線を絶縁性被膜8の表面に直接照射することでその輻射熱を用いて加熱を行うという加熱処理プロセスは、図2に示したようなインライン方式の製造プロセスおよび製造設備に対するプロセス整合性が、極めて良好であることによる。しかも、従来の製造方法の場合のようなリールに一旦巻き取った状態で高温加熱雰囲気中に曝すことによって加熱処理を施すといったバッチ方式の場合よりも、処理効率が大幅に向上するというメリットも得られるからである。
【0021】
また、上記のように錫めっき層7を被着形成する工程、その錫めっき層7に加熱処理を施す工程、絶縁性被膜8を塗布する工程、その絶縁性被膜8に加熱処理を施す工程を、インラインで連続的に行うようにするのであれば、さらにその前後の各工程についても連続して行うようにして、少なくとも導体パターン6を形成する工程から絶縁性被膜8を硬化させる工程が完了するまでを、リールからリールへのインライン方式で途切れることなく連続的に行うようにすることが好ましい。
あるいはさらに、図1(a)に示したようなTABテープ基材1の投入から、図1(b)〜図1(f)を経て、図2に示したような絶縁性被膜8の加熱硬化処理工程が完了するまで、もしくはさらに図3に示したようなICチップ21を実装完了するまでの、全工程を、リールからリールへのインライン方式で途切れることなく連続的に行うようにしてもよい。
【0022】
また、錫めっき層7に加熱処理を施す工程における錫めっき層7の実温の方が、絶縁性被膜8に加熱処理を施す工程における錫めっき層7の実温よりも高くなるようにすることも有効である。これは、後述の実施例でさらに詳細に説明するが、このようにすることにより、錫めっき層7における条件変動に起因した純錫部の厚さのばらつきが小さくなって、そのプロセス管理および製品の品質管理を、より容易なものとすることが可能となるからである。
【0023】
次に、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法における作用について説明する。
従来の半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法における、錫めっき層7にウィスカ防止のための加熱処理を施す工程および絶縁性被膜8に加熱硬化処理を施す工程では、図6に示したように、製造途中の半導体装置用テープキャリア100を一旦リール130に巻き取り、その状態でバッチ式に高温加熱雰囲気中に投入し、その高温加熱雰囲気から半導体装置用テープキャリア100へと、熱伝導を主体として与えられる熱エネルギの供給によって、150℃以上のような所定の高温での加熱処理を、製造途中の半導体装置用テープキャリア100に施すようにしていた。
ところが、このような高温加熱雰囲気からの熱伝導を主体とする間接的な熱エネルギの供給による加熱処理方法では、特に先めっきで錫めっき層7を形成した場合、その錫めっき層7の上に高温硬化型の絶縁性被膜8を塗布した後、その絶縁性被膜8を硬化させるために高温加熱処理を施さなければならないが、その高温加熱処理を施した後に、錫めっき層7における純錫部の厚さを適正な厚さである0.15μm以上0.30μm以下(但しこのとき錫めっき層7全体の厚さが0.3μm以上0.8μm以下という前提条件で)の範囲内に保つことは極めて困難であり、ほとんどの場合、実質的に不可能であった。
また、先めっきではなく、図4および図8に示したような、絶縁性被膜108を形成した後に錫めっき層107を形成するという、いわゆる後めっきの場合には、絶縁性被膜108の高温加熱処理による硬化は錫めっき層107の形成前に行われているのであるから、上記のような錫めっき層107の純錫部が導体パターン106からの銅の拡散に起因して薄くなってしまうといった問題は生じないが、特に絶縁性被膜108の端部と錫めっき
層107の端部との境界線付近に銅食われ111が発生する場合が多いという問題があった。
【0024】
しかし、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法では、錫めっき層7を先めっきで絶縁性被膜8よりも先に形成しておき、その錫めっき層7の上に絶縁性被膜8を塗布した後、遠赤外線16のような熱線の照射による輻射熱を主体とした熱エネルギの直接的な供給によって、高温硬化型の絶縁性被膜8を加熱硬化させるようにしているので、錫めっき層7と導体パターン6との接触界面付近が高温に熱せられてその付近の導体パターン6の銅が錫めっき層7の厚さ方向に熱拡散するという従来の不都合な現象の発生を回避して、錫めっき層7における純錫部の厚さを適正な厚さである0.15μm以上0.30μm以下に保ちつつ、絶縁性被膜8を確実に加熱硬化させることが可能となる。また、先めっきで錫めっき層7を形成しているのであるから、銅食われ111が発生する虞もない。
【0025】
また、熱線を絶縁性被膜8の表面に照射することによる輻射熱を主体とした熱エネルギの直接的な供給によって、その高温硬化型の絶縁性被膜8を硬化させるという加熱処理プロセスは、インライン方式の製造プロセスおよび製造設備に対するプロセス整合性が極めて良好なものであることから、そのような加熱処理プロセスを用いた絶縁性被膜8の加熱硬化処理工程を含めて全体的な製造工程をインラインで連続して行うようにすることが可能となるので、従来の製造方法のようなリール130に一旦巻き取った状態で高温加熱雰囲気中にバッチ式に曝すことによって加熱処理を施す場合よりも、処理効率が大幅に向上するという利点もある。
【0026】
このように、本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法によれば、導体パターン6における配線部と外部接続用端子部とを含むその表面全面に、1回の先めっきのみで単層の錫めっき層7を形成し、その錫めっき層7の表面上および絶縁性フィルム基板3の表面上における、所定部分を覆うように、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる絶縁性被膜8を形成し、その絶縁性被膜8に対して遠赤外線16のような熱線照射の輻射熱を用いた加熱硬化処理を施すようにしたので、いわゆる高温硬化型のソルダレジストのような絶縁性被膜8を採用してなる半導体装置用テープキャリアにおいて従来問題となっていた導体パターン6の銅食われや錫めっき層7における純錫部の厚さが異常に薄くなるといった問題を生じることなく、かつ工程数の増大や製造工程の煩雑化等を招くことなしに、適正な純錫部の厚さ(0.15μm以上0.30μm以下)を確保した錫めっき層7を備えてなる半導体装置用テープキャリアを実現することが可能となる。
【0027】
なお、本実施の形態では、絶縁性被膜8や錫めっき層7に対して輻射熱による加熱処理を施すための熱線として、遠赤外線16を用いる場合について説明したが、利用可能な熱線としては、遠赤外線のみには限定されないことは勿論である。この他にも、例えば遠赤外線よりも波長の短い赤外線やその他種々の熱線(もしくはエネルギビーム)等を用いることなども可能である。この熱線の波長、エネルギ密度、照射時間等の具体的な数値的態様については、特に加熱処理の対象となる絶縁性被膜8の具体的な材質の相違や塗布厚あるいは塗布面積等の各種仕様によってもその最適値が異なったものとなることが想定される。従って、例えば事前に実験的に確認しておくなどして、適宜に選択・設定することが望ましい。但し、どのような波長・種類・仕様の熱線を用いる場合でも、絶縁性被膜8の加熱硬化処理後には、錫めっき層7における導体パターン6との接触界面付近に生じる銅と錫との合金部を含めた合計厚さが0.3μm以上0.8μm以下となると共に純錫部の厚さが0.15μm以上0.30μm以下となり、かつ絶縁性被膜8が確実に硬化した状態となるように設定することが必要である。
【0028】
また、本実施の形態では、絶縁性被膜8が高温硬化型のソルダレジストである場合について説明したが、絶縁性被膜8としては、この他にも、例えば高温硬化型樹脂からなるオーバーレイとすることなども可能である。あるいは、本実施の形態で説明した製造方法を応用して、絶縁性被膜8を紫外線硬化型のオーバーレイやソルダレジストとし、その絶縁性被膜8を硬化させる工程では、本実施の形態で用いた遠赤外線16のような熱線の代りに紫外線を照射させるようにすることなども可能である。
また、本実施の形態では、絶縁性フィルム基板3を用いたTABテープキャリア構造の場合について説明したが、その他にも、例えば薄手のガラスエポキシ基板を絶縁性基板として用いた半導体装置用実装パッケージに用いられる配線板などにも、上記の実施の形態で説明したような構造および製造方法を応用することが可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0029】
錫めっき層7のウィスカ防止のために施す加熱処理における各種プロセス条件および絶縁性被膜8の硬化のために施す加熱処理における各種プロセス条件の検討ならびにその効果を確認するための実験を、複数種類のサンプルについて行った。
【0030】
上記の実施の形態で説明したような製造方法に則して、TABテープ基材1を用意し、その表面に銅箔5を張り合わせた後、フォトエッチング処理を施して、導体パターン6を形成した。続いて、導体パターン6の表面全面に、無電解錫めっきによって錫めっき層7を形成した。その錫めっき層7の形成工程の直後に連続してインラインでウィスカ抑制のための加熱処理を行なった。
続いて、絶縁性被膜8として高温硬化型のソルダレジスト(味の素ファインテクノ製AE−70−M11)を印刷法によって塗布し、それに連続してインラインで、図2に示したようなIRヒータ12および熱風ダクト13を備えた熱処理炉11にこの半導体装置用テープキャリア9を投入し、複数種類のサンプルについて加熱処理条件を種々変更して、絶縁性被膜8を硬化させるための加熱処理を行なった。
このようにして作製された半導体装置用テープキャリア9の各サンプルについて、その錫めっき層7におけるウィスカの発生状況および純錫部の厚さ、および絶縁性被膜8の硬化状態について評価した。
【0031】
より具体的には、まず、錫めっき層7のウィスカ防止のための加熱処理の条件設定と、ウィスカの発生状況および純錫部の厚さとの関係について評価した。
導体パターン6の表面に無電解錫めっきを施して、膜厚約0.4μmの錫めっき層7を形成した後、熱処理炉11で加熱処理を施した状態の半導体装置用テープキャリア9の各サンプルについて、168時間を経過した後の錫めっき層7における、ウィスカ発生数および純錫部の厚さをそれぞれ評価した。
このときの各サンプルの加熱処理条件は、錫めっき層7の表面の実温を135℃、150℃、165℃、180℃とし、処理時間を0分間(処理せず)、1分間、3分間、5分間、10分間、20分間、30分間とした。
ウィスカ発生数のカウント方法については、金属顕微鏡(倍率400倍)を用いて目視にて観察し、この倍率で確認可能な大きさ(約1.5μm以上の長さ)のものをカウントするものとした。確認対象の面積は、各サンプルについて任意抽出法によって選択した約1cmの範囲とした。
錫めっき層7における純錫部の厚さの測定は、電解式膜厚計(コクール)を用いて行った。
この錫めっき層7に対する加熱処理の実験の結果を、表1に示す。なお、表1では、上段にウィスカ発生数(単位:個数)を、下段に純錫部の厚さ(単位:μm)を示してある。
【0032】
【表1】




【0033】
表1に示した結果から、熱処理温度および時間が大きくなるほど、ウィスカを確実に抑制することが可能となるという傾向が確認された。さらに具体的には、概ね、加熱温度150℃以上でかつ処理時間3分間以上の組み合わせの条件設定であれば、ウィスカを確実に抑制できることが分かった。他方、このような条件設定での加熱処理によれば、純錫部の厚さは概ね約0.05μm以上減少することが、表1の結果から確認された。
【0034】
次に、上記の実験結果を踏まえて、錫めっき層7に対するウィスカ防止のための加熱処理条件を、(1)165℃で7分間、(2)135℃で18分間の2種類とした。また、それとの比較のために、従来のバッチ式の加熱処理により、リール巻き状態で、(3)120℃で60分間の加熱処理を行う場合についても実験した。
そのいずれについても、ウィスカ防止のための加熱処理を施した後の錫めっき層7における純錫部の厚さは、約0.25μmとした。
そして、絶縁性被膜8としてソルダレジスト(味の素ファインテクノ製AE−70−M11)をスクリーン印刷法で所定位置に塗布した後、図2に示したような遠赤外線加熱が可能な熱処理炉11を用いて、絶縁性被膜8の硬化のための加熱処理を施した。熱処理炉11内の雰囲気温度は135℃で固定とし、IRヒータ12の表面温度を300℃とした。このときの絶縁性被膜8の表面における実温は約150℃であった。
絶縁性被膜8の硬化状態は、アセトンラビング法によって評価した。具体的には、アセトンを塗布した綿棒で絶縁性被膜8の表面を5回擦り、その絶縁性被膜8のソルダレジスト特有の緑色が付着するか否かを目視により観察するもので、このとき緑色の付着が全くなければ、確実に硬化していると判断するものとした。また、錫めっき層7における純錫部の厚さの適正範囲は、0.15μm0.30μmとした。この純錫部の厚さの測定は、電解式膜厚計(コクール)を用いて行った。
【0035】
この実験における各加熱処理条件ごとでの絶縁性被膜8の硬化状態および純錫部の厚さの評価結果を、表2に示す。表2では、絶縁性被膜8(SR;Solder Resist)の硬化状
態の判定結果を上段に、純錫部の厚さ(μm)およびその評価結果を下段に、それぞれ示してある。なお、この表2における横の欄の「時間(min;分)」とは、絶縁性被膜8の硬化のための加熱処理を施した時間であることは勿論である。
【0036】
【表2】




【0037】
表2に示した結果から、遠赤外線16の照射による輻射熱を利用することで、絶縁性被膜8の硬化反応が極めて効率的に促進され、その結果、上記の実験で絶縁性被膜8として用いたソルダレジストAE−70−M11の推奨条件(150℃で60〜90分間)と比較して、極めて短時間(10分間程度)で確実に硬化可能となることが確認された。なお、絶縁性被膜8の硬化反応は、錫めっき層7に対するウィスカ防止のための加熱処理条件(1)、(2)、(3)には概ね無関係であることが確認された。
他方、錫めっき層7における純錫部の厚さは、ウィスカ防止のための加熱処理条件によって異なる結果となることが確認された。すなわち、表2に示したように、条件(1)の165℃・7分間インライン方式でウィスカ防止処理を行った後に、絶縁性被膜8の加熱硬化処理を行った場合には、絶縁性被膜8の加熱硬化処理後における錫めっき層7の純錫部の厚さの減少量が、他の条件(2)、(3)の場合と比較して最も小さく、熱処理時間をより広い範囲で選択可能となることが確認された。これは換言すれば、条件変動による結果のばらつきが小さくなり、よって製造プロセスおよび製品の品質の管理が容易になるということを意味している。他方、それとは対照的に、条件(2)および(3)の場合には、錫めっき層7における純錫部の厚さの減少量が大きく、その結果、絶縁性被膜8の確実な硬化と錫めっき層7の純錫部の厚さの適正範囲内への制御とを両立させることが困難なものとなることが想定された。
【0038】
このような差異が生じた原因は、錫めっき層7のウィスカ防止のための加熱処理を施し
た際に、錫めっき層7と導体パターン6との接触界面付近における銅と錫との合金部の生成状態が、加熱処理条件(1)、(2)、(3)に対応して異なるものとなったことによると考えられる。すなわち、条件(1)の場合の165℃のように、より高い温度で短時間のうちに加熱処理が施された場合には、導体パターン6と錫めっき層7との接触界面付近に明確な銅リッチの合金部(CuSn層)が生成されやすい。そうすると、その後、それよりも低い温度で絶縁性被膜8の硬化のための加熱処理を行った場合には、もうそれ以上に銅の熱拡散に起因した錫めっき層7の合金化反応が進むことは抑制されることになるためであると考えられる。
このような実験結果から、錫めっき層7のウィスカ防止のための加熱処理を、165℃のような140℃以上の高温で行うことにより、錫めっき層7の純錫部の厚さを適正範囲内で減少させつつも確実なウィスカ防止処理を実現し、その後、絶縁性被膜8の硬化のための加熱処理工程では、その絶縁性被膜8の硬化温度を考慮の上、錫めっき層7のウィスカ防止のための加熱処理の場合よりも低い温度で加熱処理を施すようにすることが、さらに有効であるという結論が得られた。
また、遠赤外線16のような熱線の照射による輻射熱を用いて絶縁性被膜8の高温加熱硬化を行うことにより、絶縁性被膜8が短時間で硬化可能となり、かつ錫めっき層7の純錫部の厚さを適正範囲内に確実に保つことが可能となるという結論が得られた。
【0039】
なお、上記のような本実施例に係る実験によって得られた具体的なデータの数値それ自体については、一例であって、熱処理炉11の長さやラインの進行速度による時間的な制約や、使用する熱処理炉11におけるIRヒータ12の性能などにも影響を受けて変化することが想定される。また、絶縁性被膜8として用いられるソルダレジストやカバーレイ等の種類によっても、その硬化に要求される加熱条件が種々異なることが普通であるから、加熱処理時間などの具体的な数値については、その都度、例えば事前に実験等によって最適値を見出しておくようにすることが望ましい。
【0040】
以上のようにして確認された加熱条件等を踏まえて、実際の製品に近い構造および仕様で評価用のサンプルを作製した。
TABテープ基材1としては、接着剤層2(巴川製Xタイプ(厚さ12μm))付きのポリイミドフィルム(宇部興産製ユーピレックスS(厚さ50μm))からなる絶縁性フィルム基板3を使用した。プレス金型を用いたパンチ処理によってデバイスホール4を設けた後、銅箔5(三井金属製VLP箔)をラミネートし、それをフォトエッチング処理によってパターニングして、導体パターン6を形成した。
【0041】
続いて、無電解錫めっきにより、導体パターン6の表面上に、錫めっき層7を形成し、ウィスカ防止のための加熱処理を施した後、絶縁性被膜8として、高温硬化型のソルダレジスト(味の素ファインテクノ製AE−70−M11)を塗布し、硬化のための加熱処理を施して、本実施例に係る半導体装置用テープキャリア9を得た。
錫めっき層7は、無電解錫めっきによって形成した直後の(従って加熱処理が施されていない状態における)厚さが電解式膜厚計(コクール)による測定で0.40μmとなるように、無電解錫めっきへの浸漬時間等のめっき条件を調整することで形成した。
【0042】
上記の錫めっき層7のウィスカ防止のための加熱処理および絶縁性被膜8の硬化のための加熱処理としては、それぞれインラインの熱処理炉11で遠赤外線16の照射を主体とする加熱処理を施した場合と、それとの比較のために、リール130にエンボス131と共に巻き取った状態で主に熱伝導によりバッチ式に加熱処理を施した場合との、両方を試すこととした。錫めっき層7の加熱処理条件については、上記の実験で確認済みの、ウィスカの発生を確実に防止することができる設定とした。
錫めっき層7のウィスカ防止のための加熱処理工程では、IRヒータ12を使用せず、熱風ダクト13からの熱風15のみを利用して、熱処理炉11におけるチャンバ14内の
高温雰囲気からの熱伝導のみによる長時間の加熱とし、絶縁性被膜8の硬化のための加熱処理工程では、熱風15に加えて、IRヒータ12からの遠赤外線16の照射による輻射熱を用いた短時間の加熱とした。
【0043】
このようにして作製された、本実施例に係る半導体装置用テープキャリアおよび従来例(比較例)に係る半導体装置用テープキャリアは、表3に示したような品質を有するものとなった。その品質の具体的な評価項目としては、銅食われ発生の有無、完成した錫めっき層7の純錫部の厚さ(適正範囲を0.15μm以上0.30μm以下と設定)、高温硬化型のソルダレジストである絶縁性被膜8の硬化状態、の3点である。なお、表3において、(1)は加熱方式(インライン/バッチ)、(2)は処理時間(分)、(3)は加熱処理の雰囲気温度(℃)、(4)はIRヒータ12の表面温度(℃)を、それぞれ示している。
【0044】
【表3】

【0045】
表3から明らかなように、本発明の実施例に係る半導体装置用テープキャリアは、全て
の評価項目を満足するものとなった。
他方、それとは対照的に、錫めっき層7の加熱処理をバッチ式で120℃の温度で60分間に亘って行った従来例1の場合には、絶縁性被膜8の加熱処理を実施例と同様の条件設定のインラインで行ったにも関わらず、錫めっき層7の純錫部の厚さが適正範囲を下回る0.12μmとなった。
また、従来例2の場合には、後めっき構造としたため、錫めっき層7の純錫部の厚さは適正範囲内に収まったが、銅食われが発生した。
また、従来例3の場合には、先めっきであり、かつ従来のバッチ式の加熱方法および従来の加熱処理条件による処理としたため、錫めっき層7における純錫部の厚さが0.03μmと極めて薄くなり、適正範囲から著しく逸脱した結果となった。
また、従来例4の場合には、先めっき構造とすると共に絶縁性被膜8の硬化のための加熱処理をバッチ式でおこなうものとし、かつ錫めっき層7における純錫部の厚さを適正範囲内に収まるようにすることを最優先して、絶縁性被膜8の硬化のための加熱処理の時間を20分間と短時間に設定した結果、絶縁性被膜8を完全に硬化させることはできなかった。また、錫めっき層7における純錫部の厚さを適正範囲内に収まるようにすることを最優先したにも関わらず、加熱処理等を経て完成した状態における錫めっき層7の純錫部の厚さは0.18μmであり、本実施例の場合に得られた0.22μmよりも少なかった。
【0046】
以上のような実験結果から、本発明の実施例に係る半導体装置用テープキャリアおよびその製造方法によれば、高温硬化型のソルダレジストのような絶縁性被膜8を採用してなる半導体装置用テープキャリアにおいて従来問題となっていた導体パターン6の銅食われや錫めっき層7における純錫部の厚さ異常などを生じる虞なく、かつ工程数の増大や製造工程の煩雑化等を招くことなしに、0.15μm以上0.30μm以下という適正な純錫部の厚さを確保した錫めっき層7を備えてなる半導体装置用テープキャリアを、その実現が困難ないし不可能であった従来のバッチ式による加熱処理の場合とは対照的に、確実に実現することが可能となることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアの製造工程における主要な流れを示す図である。
【図2】図1に示した製造工程における、特に錫めっき層のウィスカ防止のための加熱処理工程および絶縁性被膜の高温硬化のための加熱処理工程で用いられる加熱装置およびそれによる加熱処理の様子を、抽出して模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る半導体装置用テープキャリアにICチップを実装した状態を示す図である。
【図4】従来の一般的な後めっきによる錫めっき層を有する半導体装置用テープキャリアの製造工程の主要な流れを示す図である。
【図5】従来の半導体装置用テープキャリアにICチップを実装する工程を示す図である。
【図6】従来の一つのリールから繰り出された半導体装置用テープキャリアが他の一つのリールへと巻き取られて行く状態の一例を模式的に示す図である。
【図7】従来の半導体装置用テープキャリアにおける錫めっき層と導体パターンとの接触界面付近で銅と錫との合金部が形成された状態を示す図である。
【図8】従来の半導体装置用テープキャリアにおける導体パターンに銅食われが発生した状態の一例を示す図である。
【図9】従来提案されている2回めっきによる錫めっき層を有する半導体装置用テープキャリアの主要な製造工程の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 TABテープ基材
2 接着剤層
3 絶縁性フィルム基板
4 デバイスホール
5 銅箔
6 導体パターン
7 錫めっき層
8 絶縁性被膜
9 半導体装置用テープキャリア
11 熱処理炉
12 IRヒータ
13 熱風ダクト
14 チャンバ
15 熱風
16 遠赤外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルム基板と、
前記絶縁性フィルム基板の表面上に形成された、純銅または銅系材料からなる、少なくとも配線部と外部接続用端子部とを有する導体パターンと、
前記導体パターンにおける前記配線部および前記外部接続用端子部の表面に形成された単層の錫めっき層と、
前記導体パターンにおける前記配線部の表面に形成された錫めっき層の表面および前記絶縁性フィルム基板における前記導体パターンで覆われていない部分の表面上の、所定部分を覆うように形成された、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる絶縁性被膜と
を備えたこと特徴とする半導体装置用テープキャリア。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置用テープキャリアにおいて、
前記錫めっき層は、純錫部の厚さと前記導体パターンとの接触界面付近に生じる銅と錫との合金部の厚さとを含めた全体の厚さが0.3μm以上0.8μm以下であり、かつ前記純錫部の厚さが0.15μm以上0.30μm以下である
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリア。
【請求項3】
請求項1または2記載の半導体装置用テープキャリアにおいて、
前記絶縁性被膜は、熱硬化性樹脂または感光性樹脂からなる、ソルダレジストもしくはカバーレイである
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリア。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1つの項に記載の半導体装置用テープキャリアにおいて、
前記絶縁性フィルム基板が、デバイスホールを形成してなるものであり、
前記導体パターンが、前記デバイスホールの領域内に迫り出すように形成されたフライングリード構造のインナーリード部を前記外部接続用端子として有するものである
ことを特徴とする半導体装用テープキャリア。
【請求項5】
絶縁性フィルム基板の表面に純銅または銅系材料からなる導体パターンを形成する工程と、
前記導体パターンの表面に、錫めっき層を被着形成する工程と、
前記無電解錫めっきを行った後、前記錫めっき層における、前記導体パターンとの接触界面付近に生じる銅と錫との合金部を含めた合計厚さが0.3μm以上0.8μm以下の範囲内に収まると共に、純錫部の厚さが0.20μm以上0.30μm以下の範囲内に収まるように、前記錫めっき層に加熱処理を施す工程と、
前記導体パターンの表面に形成された錫めっき層の表面および当該導体パターンで覆われていない前記絶縁性フィルム基板の表面上における所定部分を覆うように、硬化温度が140℃以上の熱硬化型樹脂からなる絶縁性被膜を塗布する工程と、
前記錫めっき層における純錫部の厚さが0.15μm以上0.30μm以下の範囲内に収まるように、熱線の照射による輻射熱を用いた加熱処理を前記絶縁性被膜に施して、当該絶縁性被膜を硬化させる工程と
を含むことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、
前記熱線として、遠赤外線を用いる
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、
前記錫めっき層に加熱処理を施す工程における当該錫めっき層の実温が、前記絶縁性被膜に加熱処理を施す工程における前記錫めっき層の実温よりも高くなるようにする
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のうちいずれか1つの項に記載の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、
少なくとも前記錫めっき層を被着形成する工程から当該錫めっき層に加熱処理を施す工程までを、インラインで連続的に行う
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項9】
請求項5ないし8のうちいずれか1つの項に記載の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、
少なくとも前記絶縁性被膜を塗布する工程から当該絶縁性被膜に加熱処理を施す工程までを、インラインで連続的に行う
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項10】
請求項5ないし9のうちいずれか1つの項に記載の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、
少なくとも前記導体パターンを形成する工程から前記絶縁性被膜を硬化させる工程までを、リールからリールへのインラインで連続的に行う
ことを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。
【請求項11】
請求項5ないし10のうちいずれか1つの項に記載の半導体装置用テープキャリアの製造方法において、
前記錫めっき層を、無電解錫めっきによって、前記導体パターンの表面に被着形成することを特徴とする半導体装置用テープキャリアの製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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