説明

半導体装置

【課題】熱膨張によるボンディングワイヤまたはその接続部の断線や損傷を生成する応力の緩和を低コストで実現することのできる半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体素子2と、半導体素子2の周囲に設けられた導体部材と、半導体素子2の一面と導体部材とを接続するボンディングワイヤ4と、半導体素子2、導体部材およびボンディングワイヤ4を封止するモールド樹脂5とを備えた半導体装置。ボンディングワイヤ4とモールド樹脂5とが、接着しておらず、滑りが可能であるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体素子とその周囲の導体部材をボンディングワイヤにより接続し、これらをモールド樹脂により封止してなる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にこの種の半導体装置は、図1に模式的に示されるように、基板1上に、半導体素子2と、半導体素子2の周囲に設けられたリードフレームなどの導体部材3と、半導体素子の一面と導体部材とを接続するボンディングワイヤ4と、半導体素子2、導体部材3およびボンディングワイヤ4を封止するモールド樹脂5とを備えて構成されている。
このような半導体装置においては、モールド樹脂5の内部に封止されているボンディングワイヤ4に対して、モールド樹脂5との熱膨張率の差によってモールド樹脂5から応力が加わり、ボンディングワイヤ4自体またはその接続部に断線や損傷が生ずるという問題がある。
【0003】
その対策として、従来は、例えば特許文献1に開示されているように、モールド樹脂内部にて半導体素子2およびボンディングワイヤ4の全体を保護樹脂で覆うことにより、モールド樹脂5からの応力を緩和することが提案されている。また、このようにモールド樹脂内部にて半導体素子2およびボンディングワイヤ4の全体を保護樹脂で覆う方法は、装置全体の形状が大きくなってしまう欠点があり、その欠点を解消する手段としては特許文献2に開示されているように、半導体素子とボンディングワイヤの接続部をモールド樹脂よりも柔らかい樹脂で被覆する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−289017号
【特許文献2】特開2006−210749号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らが線形FEM解析にて確認したところ、前記特許文献2に記載の方法では、ボンディングワイヤ4に発生する熱応力は必ずしも減少するとは限らず、例えば保護樹脂の熱膨張率がモールド樹脂と同程度に大きければ、温度上昇時にボンディングワイヤ4の接続部の近傍のワイヤに断線の原因となる引っ張り応力が発生することが判明した。図2は、半導体素子2の面が保護樹脂で被覆されておらず、直接モールド樹脂で覆われている場合における、温度が100℃上昇した時のボンディングワイヤ4に発生する引っ張り応力の第1主応力の分布を示している。ただし、半導体素子2の熱膨張率を2.8ppm/K、ボンディングワイヤ4の熱膨張率を14ppm/K、モールド樹脂5の熱膨張率を84ppm/Kとした。
【0005】
また図3は、柔らかい保護樹脂の熱膨張率がモールド樹脂5と同程度に大きい場合の温度上昇時の第1主応力の分布を示している。図2では、ボンディングワイヤ4と半導体素子2の接合部近くのネック部8に1200MPaの引っ張り応力が発生しており、図3では、ネック部8に1600MPa以上の引っ張り応力が発生していて、その領域は保護樹脂6で被覆された部分に分布している。
さらに、上記方法はモールド樹脂で封止するまでに至る工程が多く、製造コストも上昇すると言う問題があった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大型化を抑制しつつ、熱膨張によるボンディングワイヤまたはその接続部の断線や損傷を生成する応力の緩和を低コストで実現することのできる、上記構成の半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明による半導体装置は、半導体素子と、該半導体素子の周囲に設けられた導体部材と、該半導体素子の一面と該導体部材とを接続するボンディングワイヤと、該半導体素子、該導体部材および該ボンディングワイヤを封止するモールド樹脂とを備えた半導体装置において、該ボンディングワイヤと該モールド樹脂とが、接着しておらず、滑りが可能であるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、好ましくは、少なくともボンディングワイヤと半導体素子の一面との接合面付近であり且つ該半導体素子の面にほぼ垂直に立ち上がっている部分で、該ボンディングワイヤの表面と該モールド樹脂とが接着しておらず、滑りが可能であるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボンディングワイヤ接合部付近のネック部に応力が集中することがなく、ネック部に発生する応力は従来構造の場合の1/10以下と小さく、従って、ボンディングワイヤまたはその接続部の断線や損傷を生じることが無く、大量生産されるこの種半導体装置の検査合格率を飛躍的に増大せしめ得るという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図示した実施例に基づき説明するが、それに先立ち、まず、ボンディングワイヤ4とモールド樹脂5との熱膨張率の差によりボンディングワイヤ4に発生する応力によって、温度上昇時にボンディングワイヤ4自体またはその接続部に断線や損傷が生ずる機構について説明する。例えば、ボンディングワイヤ4に金を用い、モールド樹脂としてエポキシ樹脂を使用したとすると、熱膨張率の差は、数10ppmで、仮に温度が100℃上昇したとすると、単純に熱膨張率の差だけを考慮すると、歪みは数1000ppm以下であり、ボンディングワイヤ4の弾性率が10000MPa程度とすると、この程度の伸びではボンディングワイヤに発生する応力は数10MPa以下であるはずである。しかるに、線形FEM解析にて、ボンディングワイヤ4に発生する応力を計算すると、図2に示すのように、接合面付近のネック部8で1200MPa程度以上となり、塑性変形でその部分のワイヤが細り、さらには断線する可能性を示している。
【0011】
何故、前記の単純に熱膨張率の差だけを考慮した時に発生すると考えられる応力よりも遥かに大きな応力が、ボンディングワイヤのボンド点付近のネック部に発生するかについて、本発明者らは鋭意検討した結果、次の原因によることを究明した。即ち、熱膨張率の低い半導体素子2の一面と熱膨張率の大きいモールド樹脂5が接着していることにより、接着面付近のモールド樹脂5の該接着面に平行な方向の熱膨張が阻止されるため、モールド樹脂は体積膨張分だけ接着面に垂直な方向に伸びようとする。従って、半導体素子2の面にボンディングワイヤ4が接合されており、該ボンディングワイヤ4の表面とモールド樹脂5とが接着していると、ボンディングワイヤ4には、半導体素子2の面に垂直な方向に、単純な熱膨張率の差よりも遥かに大きな引っ張り応力が発生することになる。この引っ張り応力は、ボンディングワイヤ4の接合面付近の該ワイヤのネック部分8で最も大きくなる。
【0012】
以上の理由で発生する、ボンディングワイヤ4の接合部7のネック8付近に発生する大きな引っ張り応力を減少させるためには、ボンディングワイヤ4とモールド樹脂5とを接着させず、それらの間に滑りが生じ得るようにすることが最も効果があるとの着想を得るに至った。FEM解析により、ボンディングワイヤ4とモールド樹脂5との間に滑りが可能であるように構成した場合の、ボンディンブワイヤ4に発生する引っ張り応力を計算した。図4は、この引っ張り応力を示す第1主応力分布を示す。この図から明かなように、ボンディングワイヤ4の接合部7のネック8付近に応力が集中することはなく、ここに発生する応力は図1に示すの場合の1/10以下であった。
【0013】
また、図5は、ボンディングワイヤ4の全ての表面とモールド樹脂5との間に滑りを可能とするのではなく、半導体素子2との接合面付近であり且つボンディングワイヤ4が半導体素子2の面にほぼ垂直に立ち上がっている部分のボンディングワイヤ4とモールド樹脂5との接触面に滑りが可能のように構成した場合の、FEM解析による第1主応力の分布を示す。この図から明かなように、ボンディングワイヤ4の接合部7のネック8に発生する応力は、図4の場合と同様に小さいことが分かる。
【0014】
次に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
アルミナ基板上に配置されたシリコンチップと該シリコンチップを囲むリード面との間を、線径が100μmの純金に近い金線からなるボンディングワイヤを使用して、シリコンチップの1辺あたり10箇所、合計40箇所でワイヤボンディングを実施した。その後、各ボンディングワイヤ全体に、市販のフッ素系離型剤を塗布し、図1に示すような形態に、エポキシ樹脂でシリコンチップ及びリードとそれらをつなぐ40本のボンディングワイヤ全体をエポキシ樹脂で封止した。かくして作成した試験体を、室温から100℃までの間で10回加熱と冷却を繰り返した後、各ボンディングワイヤの形状観察を行い、ボンディングワイヤの細りや断線を調べた。この実験を10試験体にて実施し、ボンディングワイヤの損傷率を求めた結果、損傷率は0であった。
【0015】
(実施例2)
実施例1と同様に、アルミナ基板上に配置されたシリコンチップと該シリコンチップを囲むリード面との間を、線径が100μmの純金に近い金線からなるボンディングワイヤを使用して、シリコンチップの1辺あたり10箇所、合計40箇所のワイヤボンディングを実施した。その後、各ボンディングワイヤ全体でなく、シリコンチップとの接合部からシリコンチップ面から垂直に立ち上がっている部分だけに市販のフッ素系離型剤を塗布し、実施例1と同様の試験を行った。その結果損傷率は0であった。
【0016】
(実施例3)
アルミナ基板上に配置されたシリコンチップと該シリコンチップを囲むリード面との間を、予め市販のフッ素系離型剤を塗布した線径が25μmの純金に近い金線からなるボンディングワイヤを使用して、シリコンチップの1辺あたり100箇所、合計400箇所のワイヤボンディングを実施した。その後、実施例1と同様の試験を行った。その結果損傷率は0であった。
【0017】
(比較例1)
実施例1と同様の試験を、ボンディングワイヤに離型剤を塗布することなく実施し、ワイヤの損傷率を求めた結果、損傷率はおよそ50%であった。
【0018】
(比較例2)
実施例1と同様の試験体を、ボンディングワイヤに離型剤を塗布することなく、かつワイヤボンディングの後試験体を有機溶剤で洗浄してからエポキシ樹脂で封止して、作成した。実施例1と同様に熱衝撃を与えてワイヤの損傷率を求めた結果、損傷率はおよそ90%であった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が対象とする一般的な半導体装置の断面模式図である。
【図2】半導体素子上に接合したボンディングワイヤがモールド樹脂と接着している場合の線形FEM解析による100度温度上昇時の第1主応力の分布状態を示す図である。
【図3】半導体素子とボンディングワイヤの接続部をモールド樹脂よりも柔らかい樹脂で被覆保護した場合で、該保護樹脂の熱膨張率がモールド樹脂と同程度の場合の温度上昇時の第1主応力の分布状態を示す図である。
【図4】図2と同様のFEM解析による、ボンディングワイヤとモールド樹脂との滑りが可能である場合のボンディンブワイヤ部に発生する第1主応力の分布状態を示す図である。
【図5】図2と同様のFEM解析による、ボンディングワイヤの接合部付近の半導体素子との接合面からほぼ垂直に立ち上がっている部分で、ボンディングワイヤとモールド樹脂との滑りが可能である場合のボンディンブワイヤ部に発生する第1主応力の分布状態を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 アルミナ等の基板
2 半導体素子
3 導体部材
4 ボンディングワイヤ
5 モールド樹脂
6 保護樹脂
7 ボンディングワイヤ接合部
8 ボンディングワイヤネック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子と、該半導体素子の周囲に設けられた導体部材と、該半導体素子の一面と該導体部材とを接続するボンディングワイヤと、該半導体素子、該導体部材および該ボンディングワイヤを封止するモールド樹脂とを備えた半導体装置において、該ボンディングワイヤと該モールド樹脂とが、接着しておらず、滑りが可能であるように構成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
少なくともボンディングワイヤと半導体素子の一面との接合面付近であり且つ該半導体素子の面にほぼ垂直に立ち上がっている部分で、該ボンディングワイヤの表面と該モールド樹脂とが接着しておらず、滑りが可能であるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−295902(P2009−295902A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150272(P2008−150272)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】