説明

半導体装置

【課題】ガス抜き通路の存在を前提とし、伝熱性を高めることができる半導体装置を提供することを課題とする。
【解決手段】想像線で示す発熱性半導体素子14の真下に、接合層21が配置されている。同様に、想像線で示す発熱性半導体素子15の真下に、接合層22が配置され、発熱性半導体素子16の真下に、接合層23が配置され、発熱性半導体素子17の真下に、接合層24が配置されている。
【効果】発熱性半導体素子で発生した熱は、図面上から下へ最短距離を進むため、効果的に排熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱性半導体素子を含む半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁基板にIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やFWD(フリーホイールダイオード)などの高い発熱性を有する半導体素子(以下、発熱性半導体素子と記す。)を実装した半導体装置では、発熱性半導体素子の放熱対策が必要となり、絶縁基板の下面に放熱金属板を添え、この放熱金属板の下面にヒートシンクを添え、放熱金属板及びヒートシンクを介して放熱するようにしている。
【0003】
放熱金属板とヒートシンクとの間に隙間が発生すると、伝熱性が悪くなるため、接合部の構造が重要になる。近年、2つの金属板同士を、金属ナノ粒子で結合する接合構造が提案されている(例えば、特許文献1(図3)参照。)。
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図8は従来の接合方法を説明する図であり、下の金属板111に縞状に金属ナノ粒子112を塗布し、上の金属板113を重ね、トンネル114が消失しない程度の圧力で上の金属板113を押し下げながら加熱する。一定時間、圧力を増やし、温度を上げて接合を行う。
【0005】
なお、金属ナノ粒子は、超微粒子であるため、通常の焼結温度より低温(又は常温)で焼結反応が起こるという、特有の性質を有する。正規の焼結工程の前に、焼結反応が起こらないように、金属ナノ粒子を有機物で被覆するという対策が講じられる。
焼結工程では、加熱により先ず有機被膜をガス化して除去し、次に金属ナノ粒子を金属板に焼結接合させる。
【0006】
その後、ガスの抜けが悪いと、有機被膜の除去が不十分となり、焼結接合も不十分となる。
この点、特許文献1によれば、トンネル114を介してガスが逃がされるので、良好な接合が行われる。
【0007】
このような特許文献1の技術を応用して、製造した半導体装置の例を次図で説明する。
図9は従来の半導体装置の断面図であり、この半導体装置120では、絶縁基板121の上に回路板122が載せられ、この回路板122の上に発熱性半導体素子124が載せられ、絶縁基板121の下に放熱金属板125が添えられ、この放熱金属板125の下面に金属ナノ粒子からなる接合層126を介してヒートシンク127が添えられている。接合層126には、特許文献1の技術を応用したため、複数条のトンネル128、128が残っている。
【0008】
発熱体性半導体素子124で発生した熱は、矢印(1)の経路を通って、大気・冷媒等へ放散されることが望まれる。しかし、一部の熱は、矢印(2)のように、トンネル128で止められ、トンネル128を迂回する経路を通って、大気へ放散される。すなわち、トンネル128の存在により、伝熱性が低下するという問題がある。
【0009】
トンネル128を廃止すると、ガス抜けが不十分となり、上述した諸問題が起こるため、トンネル128は不可欠である。
そこで、トンネル128の存在を前提とし、伝熱性を高めることができる技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−330980公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、トンネル(ガス抜き通路)の存在を前提とし、伝熱性を高めることができる半導体装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、絶縁基板の上に回路板が載せられ、この回路板の上に発熱性半導体素子が載せられ、前記絶縁基板の下に放熱金属板が添えられ、この放熱金属板の下面に金属ナノ粒子からなる接合層を介してヒートシンクが添えられている半導体装置であって、
前記接合層は、上から見たときに、前記発熱性半導体素子の下の領域に、隙間無く配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明では、ヒートシンクは1個であり、発熱性半導体素子は複数個であり、これらの発熱性半導体素子は、平面視で隣り合う接合層間に隙間が確保できる程度に、離して配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明では、ヒートシンクは1個であり、発熱性半導体素子は複数個であり、これらの発熱性半導体素子は、平面視で左右隣りの接合層間に隙間が確保できる程度に、離して配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、発熱性半導体素子の下の領域に、金属ナノ粒子からなる接合層が、隙間無く配置されているため、発熱性半導体素子で発生した熱は、最短距離を進むことが期待され、伝熱性が高まる。
【0016】
請求項2に係る発明では、隣り合う接合層間(平面視で上下左右に隣り合う接合層間)に、ガス抜き作用を発揮する隙間が各々確保されている。ガス抜き性が高まり、良好な焼結接合が行われる。
【0017】
請求項3に係る発明では、左右隣りの接合層間だけに、ガス抜き作用を発揮する隙間が確保されている。ガス抜き性が高まり、良好な拡散接合が行われる。請求項2よりは、平面視で上下方向の発熱性半導体素子の間隔を狭めることができ、半導体装置の小型化が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る半導体装置の断面図である。
【図2】本発明に係る半導体装置の平面図である。
【図3】本発明に係る半導体装置の製造手順を説明する図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】最長辺Lと接合強さの相関図である。
【図6】図4の別実施例図である。
【図7】図4の更なる別実施例図である。
【図8】従来の接合方法を説明する図である。
【図9】従来の半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、請求項1は図4、図6及び図7で説明され、請求項2は図4及び図7で説明され、請求項3は図6で説明される。
【実施例1】
【0020】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、半導体装置10では、絶縁基板11の上に回路板12、13が載せられ、これらの回路板12、13の上に各々発熱性半導体素子14、16が載せられ、絶縁基板11の下に放熱金属板18が添えられ、この放熱金属板18の下面に金属ナノ粒子からなる接合層21、23を介してヒートシンク25が添えられている。
【0021】
この半導体装置10では、上から見ると図2に示すように、絶縁基板11の上に回路板12、13が載せられ、一方(図左)の回路板12に、横長矩形状の発熱性半導体素子14と正方形状の発熱性半導体素子15とが下上に離れて配置され、他方(図右)の回路板13に、正方形状の発熱性半導体素子16と横長矩形状の発熱性半導体素子17とが下上に離れて配置されている。19はボンディングワイヤである。
【0022】
横長矩形状の発熱性半導体素子14、17は、FWD(フリーホイールダイオード)であり、正方形状の発熱性半導体素子15、16は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)であり、何れも、作動中に発熱する。
【0023】
次に、金属ナノ粒子からなる接合層(図1、符号21、23)による接合方法を図面に基づいて説明する。
図3(a)に示す金属ナノ粒子ペースト31を準備する。この金属ナノ粒子ペースト31は、C、H、Oを含む有機被膜32で被覆された金属ナノ粒子33を、分散媒34に分散させてなる。金属ナノ粒子33の金属は銀が好ましい。また、分散媒34は、エチレングリコール、トルエン、テトラデカン、ブタンジオール、低級アルコールの一種又は複数種を含む。
【0024】
金属ナノ粒子33が主体であるため、分散媒34は少ないほどよく、質量%で、分散媒34は10%以下とする。残部が金属ナノ粒子33となる。なお、有機被膜32は、常温で金属ナノ粒子33同士が接合することを防止する機能を発揮する分離用膜であり、2〜20%程度含まれる。
【0025】
この金属ナノ粒子ペースト31を、図3(b)に示すように、下部被接合材であるヒートシンク25に適量を塗布する。そして、図3(c)に示すように、上部被接合材である放熱金属板18を載せ、合体物35を得る。
【0026】
次に、図3(d)において、合体物35をヒータ36の付いた第1加熱炉37に装入する。そして、この第1加熱炉37で、大気雰囲気中、60〜120℃の温度で、5〜120分間、第1加熱を実施する。この第1加熱工程により、分散媒((a)、符号34)が除去される。
【0027】
次に、合体物35を、図3(e)に示す第2加熱炉38に装入する。この第2加熱炉38にはヒータ36の他に、プレスパンチ39が設けられている。
そして、この第2加熱炉38では、プレスパンチ39で抑えながら、大気雰囲気中、150〜300℃の温度で、5〜120分間、第2加熱を実施する。この第2加熱工程により、有機被膜がガス化して除去され、加熱焼結がなされ、接合層が得られる。なお、発生ガス(有機ガス)は、隙間41を通るため、円滑に且つ短い時間で排出される。
【0028】
得られた接合層の平面形状を、図面に基づいて説明する。
図4(図1の4−4線断面図)に示すように、想像線で示す発熱性半導体素子14の領域の下、に、接合層21が配置されている。同様に、想像線で示す発熱性半導体素子15の領域の下に、接合層22が配置され、発熱性半導体素子16の領域の下に、接合層23が配置され、発熱性半導体素子17の領域の下に、接合層24が配置されている。
なお、接合層21〜24の最長辺の長さLは、5mm又はそれ以下とすることが望ましい。その理由は後述する。
【0029】
この結果、図1において、発熱性半導体素子14、16が発生した熱は、矢印(3)〜(6)のように、好ましい経路を通って放出される。
【0030】
この放熱について、従来の構造と比較実験(伝熱実験)を行った。
実験1は、図1に示す、本発明に係る半導体装置10で行った。実験2は、図9に示す、従来技術に係る半導体装置120で行った。
詳細な実験条件は省略するが、実験1での熱抵抗(℃/W)は0.296であり、実験2での熱抵抗(℃/W)は0.303であった。
熱抵抗が小さいほど、伝熱量(単位時間にある面を通る熱量。単位はW)が大きくなる。すなわち、熱抵抗の逆数が伝熱量に比例する。
【0031】
実験2における伝熱量を「1」とした場合に、実験2における伝熱量は、(0.303の逆数)÷(0.296の逆数)=0.296÷0.303=0.977の計算により、0.977となる。
すなわち、本発明(実験1)によれば、従来(実験2)よりも、伝熱性が2.3%改善できることが確かめられた。
【0032】
また、図4に示すL(接合部の最長辺の長さ)についても、強度実験を行った。この結果を次図で説明する。
図5に示すように、Lは3mm、5mm、10mmについて、接合強さを計測した。
結果、3mmと5mmでは48MPaの接合強さが得られ、10mmでは30MPaの接合強さが得られた。
【0033】
L=10mmでは、ガスの抜けがやや悪く、強度低下を招いたと考えられる。
ガス抜きを考えると、Lは小さいほどよいことなり、L=3mmが望まれる。
一方、本発明では、Lの大きさは、発熱性半導体素子の大きさに対応させる必要がある。
【実施例2】
【0034】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。
図4に示す接合層21と接合層22とを一体化し、接合層23と接合層24とを一体化することができる。この形態は、図6に示される通りである。図4と同一要素は符号を流用し、説明は省略する。
【0035】
図6は、図4よりも平面視で上下方向の発熱性半導体素子14と15(又は16と17)の間隔を狭めることができ、半導体装置の小型化が達成できる。
【実施例3】
【0036】
次に、本発明の実施例3を図面に基づいて説明する。
図4に示す接合層21〜24は平面視矩形としたが、平面視で円や楕円にすることもできる。この形態は、図7に示される通りである。図4と同一要素は符号を流用し、説明は省略する。したがって、接合層21〜24の形状は適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、発熱性半導体を含む半導体装置に好適である。
【符号の説明】
【0038】
10…半導体装置、11…絶縁基板、12、13…回路板、14〜17…発熱性半導体素子、18…放熱金属板、21〜24…接合層、25…ヒートシンク、41…隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板の上に回路板が載せられ、この回路板の上に発熱性半導体素子が載せられ、前記絶縁基板の下に放熱金属板が添えられ、この放熱金属板の下面に金属ナノ粒子からなる接合層を介してヒートシンクが添えられている半導体装置であって、
前記接合層は、上から見たときに、前記発熱性半導体素子の下の領域に、隙間無く配置されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記ヒートシンクは1個であり、前記発熱性半導体素子は複数個であり、これらの発熱性半導体素子は、平面視で隣り合う接合層間に隙間が確保できる程度に、離して配置されていることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ヒートシンクは1個であり、前記発熱性半導体素子は複数個であり、これらの発熱性半導体素子は、平面視で左右隣りの接合層間に隙間が確保できる程度に、離して配置されていることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−232369(P2010−232369A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77421(P2009−77421)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】