説明

半導体装置

【課題】放熱板とモールド樹脂との間の剥離の発生を適切に防止することができる半導体装置を提供すること。
【解決手段】本発明による半導体装置1は、正面及び背面を有する半導体素子2と、半導体素子2の正面側に位置して半導体素子2の熱を放熱する正面側放熱板3と、半導体素子2の背面側に位置して熱を放熱する背面側放熱板4と、正面側放熱板3と半導体素子2との面方向の間隔を調節する調節部材6と、を含む半導体装置1であって、正面側放熱板3の正面と背面側放熱板4の背面を除いて半導体装置1を覆う封止材5を含み、調節部材6は封止材5よりも熱硬化収縮率が大きい樹脂層61を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば乗用車、トラック、バス等の車両や家庭用機器又は産業用機器に適用されて好適な半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やIPM(Intelligent Power Module)等のスイッチング素子つまり半導体素子が実装される半導体装置においては、半導体素子は発熱部品となり、効果的な冷却が要求される。
【0003】
このような発熱部品から発生する熱を正面側及び背面側においてヒートシンク等の放熱板により適宜冷却するための技術として、例えば特許文献1に記載されているような技術がある。正面側と背面側の一対の放熱板及び半導体素子は、組み合わされた後、樹脂によりモールドされてモジュールつまり、半導体装置とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−123233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した樹脂と放熱板、半導体素子との間においては、熱膨張係数の差が大きく、モールド時の硬化収縮に伴って放熱板とモールド樹脂との間に剥離が発生しやすい。従来技術ではこの剥離を防止することが、必ずしも適切に行うことはできていなかった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、放熱板とモールド樹脂との間の剥離の発生を適切に防止することができる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明による半導体装置は、
正面及び背面を有する半導体素子と、当該半導体素子の正面側に位置して前記半導体素子の熱を放熱する正面側放熱板と、前記半導体素子の背面側に位置して前記熱を放熱する背面側放熱板と、前記正面側放熱板と前記半導体素子との面方向の間隔を調節する調節部材と、を含む半導体装置であって、前記正面側放熱板の正面と前記背面側放熱板の背面を除いて前記半導体装置を覆う封止材を含み、前記調節部材は前記封止材よりも熱硬化収縮率が大きい樹脂層を含むことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記半導体装置において、前記調節部材は前記樹脂層を一対の金属部材にて面方向に挟持してなることとしてもよく、前記樹脂層は前記一対の金属部材のうち前記正面側に位置する金属部材よりも前記面方向から視た面積が大きいこととしてもよい。また、前記樹脂層は当該樹脂層の伝熱性を高める粒子を含有することとしてもよく、前記一対の金属部材のうち前記正面側に位置する金属部材から電極が引き出されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、正面側放熱板及び背面側放熱板の面方向に対して封止材が硬化時に収縮しても、半導体素子と調節部材の面方向の合計長さを、この収縮に合わせて樹脂層を収縮させることによって短くすることとすることができる。これによって、正面側放熱板及び背面側放熱板の面方向の離隔距離と封止材の面方向の寸法を硬化収縮の前後で一致させて、正面側放熱板の背面側と封止材の正面側との間、及び、背面側放熱板の正面側と封止材の背面側との間の界面に剥離が発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施例の半導体装置1の一実施形態を外観と断面にて示す模式図である。
【図2】本発明の実施例の半導体装置1の積層構造を従来構造との比較に基づいて斜め上方向から視て示す模式斜視図である。
【図3】本発明の実施例の半導体装置1の断面構造の前提となる従来構造について示す模式図である。
【図4】本発明の実施例の半導体装置1の断面構造の一実施形態の詳細を断面にて示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0012】
本実施例の半導体装置1は、図1(a)に示すように、正面側から視て、四角形状かつ平板状の半導体素子2を、正面側のヒートシンク3(正面側放熱板)の背面側、かつ、背面側のヒートシンク4(背面側放熱板)の正面側に左右方向に並列して含み、主にそれらの外周側を封止材5にてモールド樹脂成形されて、横長の直方体状に構成されるものである。なお、図1(a)中、上方に突出している柵形状部分はパワーリードを示し、下方に突出している幅細の柵形状部分は信号端子を示す。
【0013】
図1(b)は、図1(a)のAA‘断面である。本実施例の半導体装置1は、正面及び背面を有する半導体素子2と、半導体素子2の正面側に位置して半導体素子2の熱を放熱するヒートシンク3と、半導体素子2の背面側に位置して熱を放熱するヒートシンク4と、ヒートシンク3と半導体素子2との面方向の間隔を調節するブロック6(調節部材)と、を含む。封止材5は、正面側放熱板3の正面と背面側放熱板4の背面を除いて半導体装置1を覆い封止している。
【0014】
ブロック6は封止材5を構成する樹脂よりも熱硬化収縮率が大きい平板状の樹脂層61を含む。ここでは、封止材5を構成する樹脂の熱硬化収縮率にヒートシンク3の背面とヒートシンク4の正面との離隔距離を乗じた値と、樹脂層61の熱硬化収縮率に樹脂層61の厚みを乗じた値が同等となるように設定する。
【0015】
ブロック6は樹脂層61を一対の平板状の金属部材62、63にて面方向に挟持して構成されている。一対の金属部材62、63のうち背面側に位置する金属部材63から電極63aが引き出されることとしている。電極63aは上述したパワーリードを構成する。また、樹脂層61は樹脂層61自身の伝熱性を高める粒子である、例えばアルミナ等のセラミック粒子を適宜含有している。
【0016】
本実施例のヒートシンク3及びヒートシンク4は、銅、アルミニウムなど、熱伝導性及び電気伝導性の高い平板状の母材を、例えばプレス加工により例えば長方形状の形態に打ち抜いて構成される。また、金属部材62、63についても熱伝導性及び電気伝導性の高い平板状の母材を、例えばプレス加工により例えば正方形状の形態に打ち抜いて構成される。
【0017】
以下に半導体装置1の積層構造について図2を用いて示す。図2(a)に示すように、ヒートシンク4の正面側と半導体素子2の背面との間は、下側半田層7を介して電気的、熱的に接続されている。半導体素子2の正面側とブロック6の金属部材63の背面は上側半田層8を介して電気的、熱的に接続されている。金属部材62の正面とヒートシンク3の背面側は第三半田層9を介して熱的に接続される。
【0018】
下側半田層7、上側半田層8、第三半田層9は、それぞれフィレット状の半田を、ヒートシンク3と金属部材62との間、金属部材63と半導体素子2との間、半導体素子2とヒートシンク4との間に載置した状態で、上述した封止材5によるモールドに先立って、加熱することにより形成される。なお、図4に示すように、それぞれの接合面の濡れ性の大小関係から、下側半田層7は下側が長辺の台形状をなし、上側半田層8は下側が若干長辺をなす台形状をなし、第三半田層9は上側が長辺の台形状をなす。
【0019】
なお、本実施例のブロック6はこの加熱接合工程に先立って一体部品として接合されたものを用意しているが、樹脂層61と金属部材62、金属部材63の相互間の接合については、この半田の加熱接合工程において平行して行ってもよい。
【0020】
さらに図4に示すように、金属部材63からは端子63aが引き出され、ヒートシンク4からは端子4aが引き出されてパワーリードを構成する。図1(b)では図示を省略したが、図4で示すように、樹脂層61は一対の金属部材62、63のうち正面側に位置する金属部材62よりも面方向から視た面積が大きいこととしている。
【0021】
本実施例の半導体装置1によれば、調節部材を柱状の銅ブロック60単体とする従来構造である図2(b)図3と比較して、樹脂層61を含むことにより、以下のような作用効果を得ることができる。すなわちヒートシンク3、ヒートシンク4に対して面方向に離隔する方向に封止材5が硬化時に収縮しても、この収縮に合わせて樹脂層61も収縮することから、半導体素子2とブロック6の三つの半田層を含めた面方向の合計長さが短くなり、封止材5の硬化時の収縮代を樹脂層61の収縮により吸収して、ヒートシンク3、ヒートシンク4と封止材5との界面に剥離が発生することを防止することができる。
【0022】
また、樹脂層61の上述した面方向における熱硬化収縮率について封止材5を構成する樹脂よりも大きくしていることから、封止材5を構成する樹脂のヒートシンク3の背面とヒートシンク4の正面との間の離隔距離分の収縮量を、この離隔距離よりも短い厚みを有する薄い樹脂層61により吸収することができる。
【0023】
また、樹脂層61をなるべく薄くすることに加えて、樹脂層61が例えばセラミック等の熱伝導性を高める粒子を含有していることにより、半導体素子2からブロック6を介してヒートシンク3に至る熱伝導を半導体素子2の冷却に必要な分だけ確保して、ヒートシンク3による放熱性を確保した上で、封止材5の正面側とヒートシンク3の背面側との間、及び、封止材5の背面側とヒートシンク4の正面側との間にそれぞれ剥離が発生することを防止することができる。なお、図4中ヒートシンク3、4の左右方向の側面と、ヒートシンク3、4を連結するブロック6、半導体素子2、三つの半田層が一体となった柱状部分の側面については、封止材5を構成する樹脂の反対側の面が解放されているので剥離は発生しない。
【0024】
また、図2(b)及び図3に示す銅ブロック60を含む形態に比べると、ヒートシンク3の背面側に位置する第三半田層9を前述した加熱により形成する際に、銅ブロック60の正面から溢れた半田は、銅ブロック60の側面における濡れ性が高いことから、この側面を濡れ性に伴って伸展して半導体素子2まで到達してしまいショート等の電気的不具合を招くおそれがあったが、本実施例の半導体装置1においては、樹脂層61の側面は濡れ性が低いことから、この半田の半導体素子2側への移動を阻止することができる。これにより、電気的不具合を招くことを防止することができる。
【0025】
さらに、本実施例の半導体装置1においては、樹脂層61は一対の金属部材62、63のうち正面側に位置する金属部材62よりも面方向から視た面積が大きいこととしているので、樹脂層61が金属部材62よりも側面側にはみ出す部分が、半田の移動、伸展を阻止するダムの役目と沿面距離をより長くする役目の双方を果たすため、これによっても、より確実に半田の移動を防止することができる。
【0026】
また、図4に示した断面構造から明らかなように、本実施例の半導体装置1においては、金属部材63から端子63aを引き出すこととし、樹脂層61により、金属部材63と金属部材62とは電気的に絶縁して、ヒートシンク3には熱のみを伝えることとしているので、ヒートシンク3側には、ヒートシンク3を冷却する図示しない冷却器に対して絶縁部材Iを設ける必要がない。このため、図3に示す従来構造に比べて、樹脂シートである絶縁部材Iの個数を1/2とすることができる。
【0027】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0028】
例えば本実施例においては図4中において上側を正面側として、ブロック6を上側に設ける構成を示したが、ブロック6を下側にも上下方向に線対称に設けて、ブロック6にヒートシンク4と半導体素子2との間隔を調節する機能を具備させ、図4中ではヒートシンク4から端子4aを引き出す構成を、下側のブロック6の半導体素子2側に位置する金属部材63から引き出した端子63aに置換することもできる。この構成を採れば、ヒートシンク4側の絶縁部材Iも必要のないものとすることができる。また、ブロック6を下側のみに設ける構成を採用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、正面と背面の双方にヒートシンクを具備した両面タイプの半導体装置に関するものであり、一対のヒートシンクを連結する部分に、封止材を構成する樹脂よりも熱硬化性収縮率の高い樹脂層を挟み込むことによって、封止材を構成する樹脂が硬化時に収縮しても、その収縮代と同じ寸法だけ、樹脂層を圧縮させて、ヒートシンクを連結する部分の寸法も圧縮させることができる。このため、封止材がヒートシンクの厚み方向にヒートシンクから離隔する方向に熱硬化時に圧縮しても、ヒートシンクと封止材との間に剥離が発生することを防止することができる。
【0030】
このように本発明は、半導体装置の製品としての信頼性、耐久性を高めることができるため、種々の半導体関連装置に適用して有益なものである。もちろん、乗用車、トラック、バス等の様々な車両のインバータ等に適用される半導体モジュールに適用しても有益なものである。
【符号の説明】
【0031】
1 半導体装置
2 半導体素子
3 ヒートシンク(正面側放熱板)
4 ヒートシンク(背面側放熱板)
4a 端子
5 封止材
6 ブロック(調節部材)
61 樹脂層
62 金属部材(正面側)
63 金属部材(背面側)
63a 端子
60 銅ブロック
7 下側半田層
8 上側半田層
9 第三半田層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面及び背面を有する半導体素子と、当該半導体素子の正面側に位置して前記半導体素子の熱を放熱する正面側放熱板と、前記半導体素子の背面側に位置して前記熱を放熱する背面側放熱板と、前記正面側放熱板と前記半導体素子との面方向の間隔を調節する調節部材と、を含む半導体装置であって、前記正面側放熱板の正面と前記背面側放熱板の背面を除いて前記半導体装置を覆う封止材を含み、前記調節部材は前記封止材よりも熱硬化収縮率が大きい樹脂層を含むことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記調節部材は前記樹脂層を一対の金属部材にて面方向に挟持してなることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記樹脂層は前記一対の金属部材のうち前記正面側に位置する金属部材よりも前記面方向から視た面積が大きいことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記樹脂層は当該樹脂層の伝熱性を高める粒子を含有することを特徴とする請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記一対の金属部材のうち前記正面側に位置する金属部材から電極が引き出されることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−105928(P2013−105928A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249373(P2011−249373)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】