説明

半導体装置

【課題】本明細書では、半導体装置が短絡状態で動作する場合における、半導体装置全体の短絡耐量を向上させることができる半導体装置を提供する。
【解決手段】本明細書が開示する半導体装置2は、素子領域60と、表面電極36と、熱伝導部材40と、保護膜38とを備える。素子領域60は、複数個のゲート電極22を備える。表面電極36は、素子領域60の表面に形成されている。熱伝導部材40は、表面電極36の中心部の表面側に形成され、素子領域60の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有している。保護膜38は、表面電極36の表面側であって、中心部の周囲を取り囲む周辺部に形成されている。素子領域60は、表面電極36の中心部の裏面側に形成されるエミッタ中心領域70では、表面電極36の周辺部の裏面側に形成されるエミッタ周辺領域72と比較して、オン状態となる時間が長い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、半導体素子の表面電極の表面の一部に高熱伝導体を接合した半導体モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−116702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の半導体モジュールが短絡状態(すなわち、半導体モジュールに負荷(インダクタンス等)が接続されていない状態)で動作する場合、半導体素子がオンすると、半導体素子には大きな電流が流れる。半導体素子のうち、高熱伝導体の裏面側の領域では、電流が流れることで発生する熱が高熱伝導体を介して拡散する。しかしながら、半導体素子のうち、高熱伝導体の裏面側以外の領域では、電流が流れることで発生する熱を、高熱伝導体を介して拡散させることが難しい。そのため、特許文献1の半導体モジュールが短絡状態で動作する場合、半導体素子のうち、高熱伝導体の裏面側以外の領域が高温となって半導体装置全体としての短絡耐量が低くなるおそれがある。
【0005】
本明細書では、半導体装置が短絡状態で動作する場合における、半導体装置全体の短絡耐量を向上させることができる半導体装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する半導体装置は、半導体素子領域と、表面電極と、熱伝導部材と、保護膜とを備える。半導体素子領域は、複数個の絶縁ゲートを備える。表面電極は、半導体素子領域の表面に形成されている。熱伝導部材は、表面電極の中心部の表面側に形成されている。保護膜は、表面電極の表面側であって、中心部の周囲を取り囲む周辺部に形成されている。熱伝導部材の熱伝導率は、保護膜の熱伝導率よりも高い。半導体素子領域は、表面電極の中心部の裏面側に形成される中心領域では、表面電極の周辺部の裏面側に形成される周辺領域と比較して、オン状態となる時間が長い。
【0007】
上記の半導体装置では、表面電極の中心部の表面側には熱伝導部材が設けられている。そのため、半導体装置が短絡状態で動作する場合であっても、半導体素子領域の中心領域で発生した熱は、熱伝導部材を介して拡散する。そのため、中心領域の短絡耐量を高くすることができる。一方、上記の半導体装置では、表面電極の周辺部の表面側には熱伝導部材が設けられていないが、半導体素子領域の周辺領域のオン時間は、中心領域のオン時間と比べて短い。そのため、半導体素子領域の周辺領域に電流が流れる時間を、中心領域に比べて短くすることができる。その結果、周辺領域を流れる電流の総電流量を抑えることができ、周辺領域の短絡耐量も、中心領域と同様に高くすることができる。従って、半導体装置が短絡状態で動作する場合における、半導体装置全体の短絡耐量を向上させることができる。
【0008】
複数個の絶縁ゲートは、中心領域に形成される複数個の第1の絶縁ゲートと、周辺領域に形成される複数個の第2の絶縁ゲートと、を含んでもよい。中心領域がオンする時の第1の絶縁ゲートの閾値電圧の平均が、周辺領域がオンする時の前記第2の絶縁ゲートの閾値電圧の平均よりも小さいことが好ましい。この構成によると、半導体装置をターンオンさせる場合に、半導体素子領域の周辺領域を中心領域よりも後でオン状態とすることができる。また、半導体装置をターンオフさせる場合には、半導体素子領域の周辺領域を中心領域よりも先にオフ状態とすることができる。そのため、周辺領域に電流が流れる時間を、中心領域に電流が流れる時間に比べて短くすることができる。その結果、周辺領域に印加されるエネルギー密度を、中心領域に印加されるエネルギー密度よりも低くすることができる。従って、半導体装置が短絡状態で動作する場合における、半導体装置全体の短絡耐量を向上させることができる。
【0009】
複数個の絶縁ゲートは、中心領域に形成される複数個の第1の絶縁ゲートと、周辺領域に形成される複数個の第2の絶縁ゲートと、を含んでもよい。第1の絶縁ゲートのゲート抵抗値の平均が、第2の絶縁ゲートのゲート抵抗値の平均よりも小さいことが好ましい。この構成によると、半導体装置をターンオンさせる場合に、半導体素子の周辺領域を中心領域よりも後でオン状態とすることができる。そのため、周辺領域に電流が流れる時間を、中心領域に電流が流れる時間に比べて短くすることができる。また、上記の構成によると、半導体素子領域の周辺領域における電流の立ち上がりを、中心領域の電流の立ち上がりよりも遅くすることもできる。その結果、周辺領域に印加されるエネルギー密度を、中心領域に印加されるエネルギー密度よりも低くすることができる。従って、半導体装置が短絡状態で動作する場合における、半導体装置全体の短絡耐量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施例の半導体装置を示す断面図。
【図2】第1実施例の半導体装置の動作を示すグラフ。
【図3】第2実施例の半導体装置の動作を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施例)
図1に示す第1実施例の半導体装置2は、半導体基板10と、表面電極36と、保護膜38と、熱伝導部材40と、裏面電極50とを備える。
【0012】
半導体基板10は、素子領域60と非素子領域62とを備えるSi基板である。半導体基板10の素子領域60の表面(図1中上面)には、複数のトレンチ19が形成されている。トレンチ19の壁面には、絶縁膜20が形成されている。本実施例では、絶縁膜20は、シリコン酸化膜である。トレンチ19内には、ゲート電極22が形成されている。素子領域60の表面に臨む領域には、n型のエミッタ領域24と、p型のボディコンタクト領域18aとが選択的に形成されている。エミッタ領域24は、絶縁膜20と接するように形成されている。ボディコンタクト領域18aは、エミッタ領域24に隣接して形成されている。p型のボディ領域18は、エミッタ領域24及びボディコンタクト領域18aの下側に形成されている。ボディ領域18は、エミッタ領域24の下側で絶縁膜20と接するように形成されている。ボディ領域18は、トレンチ19の下端より浅い位置まで形成されている。ボディ領域18のp型不純物濃度は、ボディコンタクト領域18aのp型不純物濃度よりも低い。
【0013】
一方、非素子領域62の表面に臨む領域には、p型の拡散層16が形成されている。拡散層16は、素子領域60のボディ領域18よりも深い位置にまで形成されている。
【0014】
ボディ領域18及び拡散層16の下側には、n型のドリフト層14が形成されている。ドリフト層14は、ボディ領域18によってエミッタ領域24から分離されている。ドリフト層14の下側であって、半導体基板10の裏面(図1中下面)に臨む領域には、p型のコレクタ層12が形成されている。コレクタ層12は、ドリフト層14によってボディ領域18から分離されている。素子領域60には、エミッタ領域24、ボディ領域18、ドリフト層14、コレクタ層12、及び、ゲート電極22によって、多数のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が形成されている。以下では、素子領域60に形成されているIGBTを、IGBT60と呼ぶ場合がある。
【0015】
半導体基板10の裏面上には、全面に亘って裏面電極50が形成されている。裏面電極50は、コレクタ層12とオーミック接続している。
【0016】
半導体基板10の表面のうち、各ゲート電極22の表面には、絶縁膜34が形成されている。また、半導体基板10の表面のうち、拡散層16の表面にも、絶縁膜32が形成されている。また、半導体基板10の表面上には、表面電極36が形成されている。表面電極36は、Alによって形成されている。表面電極36は、各絶縁膜34と、絶縁膜32の一部とを覆うように形成されている。表面電極36は、エミッタ領域24及びボディコンタクト領域18aとオーミック接触している。また、表面電極36は、絶縁膜34によってゲート電極22から絶縁されている。ゲート電極22は、半導体基板10に設けられた図示しない電極パッドに接続されている。また、表面電極36は、絶縁膜32によって、拡散層16から絶縁されている。
【0017】
表面電極36の中心部の表面には、熱伝導部材40が形成されている。熱伝導部材40は、半導体基板10(素子領域60)や保護膜38の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有している。熱伝導部材40の熱伝導率は、例えば、100W/m・K以上とすることが好ましい。本実施例では、熱伝導部材40としてCuが用いられている。熱伝導部材40は、表面電極36の中心部の表面に、ハンダ42を介して接合されている。詳細には、Al製の表面電極36の表面にNiめっきを施した上で、そのNiめっき膜上に、熱伝導部材40がハンダ42によって固定されている。
【0018】
表面電極36の中心部の周囲を取り囲む周辺部の表面には、保護膜38が形成されている。保護膜38は、絶縁膜32の表面のうち、表面電極36が形成されていない部分の表面にも形成されている。保護膜38は、絶縁性を有する樹脂によって形成されている。例えば、保護膜38にはポリイミドを用いることができる。
【0019】
本実施例では、素子領域60は、表面電極36の中心部の裏面側(即ち熱伝導部材40の裏面側)に形成されるエミッタ中心領域70と、表面電極36の周辺部の裏面側(即ち保護膜38の裏面側)に形成されるエミッタ周辺領域72とを備える。エミッタ中心領域70と、エミッタ周辺領域72とは、それぞれ、複数のゲート電極22を備えている。即ち、エミッタ中心領域70と、エミッタ周辺領域72とは、それぞれ、複数のIGBTを備えている。以下では、エミッタ中心領域70に備えられているゲート電極22を、中心ゲート22aと呼ぶ。また、エミッタ周辺領域72に備えられているゲート電極22を、周辺ゲート22bと呼ぶ。
【0020】
本実施例では、エミッタ中心領域70のIGBTがオンする時における各中心ゲート22aの閾値電圧の平均が、エミッタ周辺領域72のIGBTがオンする時における各周辺ゲート22bの閾値電圧の平均よりも小さい。具体的に言うと、本実施例では、ボディ領域18内のP型不純物の濃度を、エミッタ中心領域70内とエミッタ周辺領域72内とで異ならせることによって、ゲート電極22の閾値電圧を場所ごとに異ならせている。ボディ領域18のP型不純物濃度が高いほど、ゲート電極22の閾値電圧は高い。即ち、本実施例では、ボディ領域18は、エミッタ中心領域70におけるP型不純物の濃度が、エミッタ周辺領域72におけるP型不純物の濃度よりも低くなるように形成されている。
【0021】
なお、他の例では、トレンチ19ごとに絶縁膜20の厚さを変えることによって、ゲート電極22ごとに閾値電圧を変えることもできる。絶縁膜20の厚さが厚いほど、ゲート電極22の閾値電圧が高くなる。即ち、他の例では、エミッタ中心領域70に備えられているトレンチ19の絶縁膜20の厚さが、エミッタ周辺領域72に備えられているトレンチ19の絶縁膜20の厚さより薄くなるように、各絶縁膜20を形成してもよい。
【0022】
次に、本実施例の半導体装置2の動作について説明する。本実施例の半導体装置2は、表面電極36が図示しない外部装置(例えばモータ等)を介してグランド電位に接続され、裏面電極50が電源電位に接続されて使用される。半導体装置2に電圧が印加されると、IGBT60では、エミッタ側(表面電極36)が低電位となり、コレクタ側(裏面電極50)が高電位となる。この状態で、ゲート電極22にプラスの電位(ゲート−エミッタ間電圧)を印加すると、絶縁膜20と接している範囲のボディ領域18が、p型からn型に反転し、チャネルが形成される。チャネルが形成されると、電子が、表面電極36から、エミッタ領域24、ボディ領域18内のチャネル、ドリフト層14、コレクタ層12を経由して、裏面電極50に流れる。また、ホールが、裏面電極50から、コレクタ層12を通って、ドリフト層14に流入する。すると、ドリフト層14で伝導度変調現象が生じ、ドリフト層14の電気抵抗が大きく低下する。即ち、IGBT60がターンオンする。即ち、IGBT60にコレクタ電流が流れる。ゲート電極22への電位の印加を停止すると、チャネルが消失し、IGBT60がターンオフする。即ち、IGBT60に流れるコレクタ電流が減少し、消失する。
【0023】
本実施例の半導体装置2では、図2の上側のグラフに示すように、各ゲート電極22にプラスの電位(ゲート−エミッタ間電圧)を印加すると、ゲート−エミッタ間電圧は、時間の経過とともに高くなる。すると、図2の下側のグラフに示すように、まず、閾値電圧の平均が低い中心ゲート22aを備えるエミッタ中心領域70のIGBTがターンオンし、コレクタ電流が流れ始める。即ち、本実施例の半導体装置2では、中心ゲート22aの閾値電圧の平均が比較的低いため、中心ゲート22aに比較的低い電位が印加された場合であっても、エミッタ中心領域70のIGBTがターンオンする。図2では、各ゲート電極22にプラスの電位を印加してから、エミッタ中心領域70のIGBTがターンオンするまでの時間を、td(on)1で示す。
【0024】
その後、印加されるゲート−エミッタ間電圧がさらに高くなると、図2の下側のグラフに示すように、閾値電圧の平均が高い周辺ゲート22bを備えるエミッタ周辺領域72のIGBTがターンオンし、コレクタ電流が流れ始める。即ち、本実施例の半導体装置2では、周辺ゲート22bの閾値電圧の平均が比較的高いため、周辺ゲート22bに比較的高い電位が印加される場合に、エミッタ周辺領域72のIGBTがターンオンする。図2では、各ゲート電極22にプラスの電位を印加してから、エミッタ周辺領域72のIGBTがターンオンするまでの時間を、td(on)2で示す。図2に示すように、td(on)2はtd(on)1より長い。
【0025】
エミッタ中心領域70のIGBTと、エミッタ周辺領域72のIGBTとがターンオンすると、その後、ゲート−エミッタ間電圧が飽和状態になるとともに、各IGBTを流れるコレクタ電流が飽和状態になる。各IGBTを流れる飽和電流は、ゲート−エミッタ間電圧と閾値電圧の差の2乗に比例する。そのため、本実施例では、図2の下側のグラフに示すように、エミッタ周辺領域72のIGBTの飽和電流は、エミッタ中心領域70のIGBTの飽和電流よりも低い。
【0026】
その後、各ゲート電極22への電圧の印加(ゲート−エミッタ間電圧の印加)を停止すると、ゲート−エミッタ間電圧は、時間の経過とともに低くなる。すると、図2の下側のグラフに示すように、まず、閾値電圧の平均が高い周辺ゲート22bを備えるエミッタ周辺領域72のIGBTがターンオフし、コレクタ電流が減少し始める。即ち、本実施例の半導体装置2では、周辺ゲート22bの閾値電圧の平均が比較的高いため、ゲート−エミッタ間電圧が比較的高い場合であっても、エミッタ周辺領域72のIGBTがターンオフする。図2では、ゲート−エミッタ間電圧が低減を開始してから、エミッタ周辺領域72のIGBTがターンオフするまでの時間を、td(off)2で示す。
【0027】
その後、ゲート−エミッタ間電圧がさらに低くなると、図2の下側のグラフに示すように、閾値電圧の平均が低い中心ゲート22aを備えるエミッタ中心領域70のIGBTがターンオフし、コレクタ電流が減少し始める。即ち、閾値電圧の平均が低い中心ゲート22aでは、ゲート−エミッタ間電圧が比較的低くなる場合に、エミッタ中心領域70のIGBTがターンオフする。図2では、ゲート−エミッタ間電圧が低減を開始してから、エミッタ周辺領域72のIGBTがターンオフするまでの時間を、td(off)1で示す。図2に示すように、td(off)2はtd(off)1より短い。
【0028】
上記の通り、本実施例の半導体装置2では、エミッタ周辺領域72のIGBTは、エミッタ中心領域70のIGBTよりも後でターンオンし、エミッタ中心領域70のIGBTよりも先にターンオフする。即ち、エミッタ周辺領域72のIGBTのオン時間は、エミッタ中心領域70のIGBTのオン時間より短い。そのため、エミッタ周辺領域72に電流が流れる時間を、エミッタ中心領域70に電流が流れる時間より短くすることができる。また、エミッタ周辺領域72のIGBTの飽和電流は、エミッタ中心領域70のIGBTの飽和電流より低い。そのため、本実施例の半導体装置2では、エミッタ周辺領域72に印加されるエネルギー密度を、エミッタ中心領域70に印加されるエネルギー密度よりも低くすることができる。
【0029】
また、本実施例の半導体装置2では、表面電極36が接続されている外部装置が、その動作状態等によって短絡する場合がある。外部装置が短絡した状態(以下では短絡状態と呼ぶ)で、上記のように半導体装置2を動作させると、電源電圧のすべてがIGBT60に印加され、IGBT60に大電流が流れる。IGBT60に大電流が流れると、ボディ領域18の電位が上昇し、ボディ領域18とエミッタ領域24の間のPN接合に電圧が印加される。これによって、このPN接合が導通し、IGBT60がラッチアップして破壊に至る。このため、IGBT60に大電流が流れた場合には、短絡耐量として定められている時間以内に、ゲート電極22に印加する電圧を低下させてIGBT60をオフさせる必要がある。
【0030】
ここで、IGBT60の短絡耐量を向上するためには、IGBT60の温度上昇を抑えることが有効である。上記の通り、本実施例の半導体装置2では、表面電極36の中心部の表面には熱伝導部材40が設けられている。そのため、半導体装置2が短絡状態で動作する場合であっても、エミッタ中心領域70のIGBTで発生した熱は、熱伝導部材40を介して拡散する。そのため、エミッタ中心領域70の短絡耐量を高くすることができる。一方、本実施例の半導体装置2では、表面電極36の周辺部の表面には保護膜38が形成されており、熱伝導部材40が設けられていない。しかしながら、本実施例の半導体装置2を動作させる場合、エミッタ周辺領域72のIGBTのオン時間は、エミッタ中心領域70のIGBTのオン時間と比べて短くなる。また、エミッタ周辺領域72のIGBTの飽和電流は、エミッタ中心領域70のIGBTの飽和電流より低い。そのため、エミッタ周辺領域72に印加されるエネルギー密度を、エミッタ中心領域70に印加されるエネルギー密度よりも低くすることができる。その結果、エミッタ周辺領域72の温度上昇が抑制され、エミッタ周辺領域72の短絡耐量も、エミッタ中心領域70と同様に高くすることができる。従って、半導体装置2が短絡状態で動作する場合における、半導体装置2全体の短絡耐量を向上することができる。
【0031】
以上、本実施例の半導体装置2について詳しく説明した。本実施例では、素子領域60が「半導体素子領域」の一例である。ゲート電極22が「絶縁ゲート」の一例である。エミッタ中心領域70、エミッタ周辺領域72が、それぞれ、「中心領域」、「周辺領域」の一例である。中心ゲート22a、周辺ゲート22bが、それぞれ、「第1の絶縁ゲート」、「第2の絶縁ゲート」の一例である。
【0032】
(第2実施例)
第2実施例について、第1実施例とは異なる点を中心に説明する。第2実施例では、半導体装置2の基本的構成は第1実施例の半導体装置2(図1参照)と共通する。第2実施例の半導体装置2では、ゲート電極22の閾値電圧を場所に応じて異ならせることに代えて、ゲート電極22ごとにゲート抵抗値を異ならせている点において、第1実施例の半導体装置2とは異なる。
【0033】
即ち、第2実施例では、エミッタ中心領域70のIGBTがオンする時における、各中心ゲート22aのゲート抵抗値の平均が、エミッタ周辺領域72のIGBTがオンする時における、各周辺ゲート22bのゲート抵抗値の平均よりも小さくされている。具体的に言うと、第2実施例では、トレンチ19の幅を、エミッタ中心領域70内とエミッタ周辺領域72内とで異ならせることによって、ゲート電極22ごとにゲート抵抗値を異ならせている。トレンチ19の幅が狭いほど、ゲート抵抗値は高い。即ち、第2実施例では、エミッタ中心領域70内のトレンチ19の幅が、エミッタ周辺領域72におけるトレンチ19の幅よりも広くなるように形成されている。
【0034】
なお、他の例では、ゲート電極22に含まれる不純物(例えばリン)の濃度を異ならせることによって、ゲート電極22ごとにゲート抵抗値を異ならせることもできる。ゲート電極22に含まれる不純物の濃度が低いほど、ゲート抵抗値は高くなる。即ち、他の例では、周辺ゲート22bに含まれる不純物の濃度が、中心ゲート22aに含まれる不純物の濃度より低くなるように、各ゲート電極が形成される。
【0035】
次に、第2実施例の半導体装置2の動作について説明する。本実施例の半導体装置2でも、図3の上側のグラフに示すように、各ゲート電極22にプラスの電位(ゲート−エミッタ間電圧)を印加すると、ゲート−エミッタ間電圧は、時間の経過とともに高くなる。すると、図2の下側のグラフに示すように、まず、ゲート抵抗値の平均が低い中心ゲート22aを備えるエミッタ中心領域70のIGBTがターンオンし、コレクタ電流が流れ始める。即ち、本実施例の半導体装置2では、中心ゲート22aのゲート抵抗値の平均が比較的低いため、中心ゲート22aに比較的低い電位が印加された場合であっても、エミッタ中心領域70のIGBTがターンオンする。図3では、各ゲート電極22にプラスの電位を印加してから、エミッタ中心領域70のIGBTがターンオンするまでの時間を、td(on)1で示す。
【0036】
その後、印加されるゲート−エミッタ間電圧がさらに高くなると、図3の下側のグラフに示すように、ゲート抵抗値の平均が高い周辺ゲート22bを備えるエミッタ周辺領域72のIGBTがターンオンし、コレクタ電流が流れ始める。即ち、本実施例の半導体装置2では、周辺ゲート22bのゲート抵抗値の平均が比較的高いため、周辺ゲート22bに比較的高い電位が印加される場合に、エミッタ周辺領域72のIGBTがターンオンする。また、本実施例では、エミッタ周辺領域72のIGBTに流れるコレクタ電流の立ち上がり(di/dt)が、エミッタ中心領域70のIGBTに流れるコレクタ電流の立ち上がりに比べて遅くなる。図3では、各ゲート電極22にプラスの電位を印加してから、エミッタ周辺領域72のIGBTがターンオンするまでの時間を、td(on)2で示す。図3に示すように、td(on)2はtd(on)1より長い。
【0037】
エミッタ中心領域70のIGBTと、エミッタ周辺領域72のIGBTとがターンオンすると、その後、ゲート−エミッタ間電圧が飽和状態になるとともに、各IGBTを流れるコレクタ電流が飽和状態になる。本実施例では、各ゲート電極22の閾値電圧はいずれも同じである。そのため、本実施例では、図3の下側のグラフに示すように、エミッタ周辺領域72のIGBTの飽和電流と、エミッタ中心領域70のIGBTの飽和電流とは同じ値となる。
【0038】
その後、各ゲート電極22への電圧の印加(ゲート−エミッタ間電圧の印加)を停止すると、ゲート−エミッタ間電圧は、時間の経過とともに低くなる。すると、図3の下側のグラフに示すように、まず、ゲート抵抗値の平均が低いエミッタ中心領域70のIGBTがターンオフし、次いで、ゲート抵抗値の平均が高いエミッタ周辺領域72のIGBTが、ターンオフする。したがって、エミッタ中心領域70のIGBTでは、エミッタ周辺領域72のIGBTよりも、コレクタ電流が早く消失する。
【0039】
上記の通り、本実施例の半導体装置2では、エミッタ周辺領域72のIGBTは、エミッタ中心領域70のIGBTよりも後でターンオンする。そのため、エミッタ周辺領域72に電流が流れる時間を、エミッタ中心領域70に電流が流れる時間より短くすることができる。また、エミッタ周辺領域72のIGBTに流れるコレクタ電流の立ち上がり(di/dt)が、エミッタ中心領域70のIGBTに流れるコレクタ電流の立ち上がり(di/dt)に比べて遅い。これらによって、エミッタ周辺領域72に印加されるエネルギー密度を、エミッタ中心領域70に印加されるエネルギー密度よりも低くすることができる。
【0040】
上記の通り、本実施例の半導体装置2でも、第1実施例と同様に、表面電極36の中心部の表面には熱伝導部材40が設けられている。そのため、半導体装置2が短絡状態で動作する場合であっても、エミッタ中心領域70のIGBTで発生した熱は、熱伝導部材40を介して拡散する。そのため、エミッタ中心領域70の短絡耐量を高くすることができる。一方、本実施例の半導体装置2でも、表面電極36の周辺部の表面には熱伝導部材40が設けられていないが、上記の通り、エミッタ周辺領域72に印加されるエネルギー密度を、エミッタ中心領域70に印加されるエネルギー密度よりも低くすることができる。その結果、エミッタ周辺領域72の短絡耐量も、エミッタ中心領域70と同様に高くすることができる。従って、半導体装置2が短絡状態で動作する場合における、半導体装置2全体の短絡耐量を向上することができる。
【0041】
なお、上述の通り、本実施例の半導体装置2のターンオフ時には、エミッタ周辺領域72が、エミッタ中心領域70よりも、コレクタ電流が消失するのが遅い。そのため、エミッタ周辺領域72のほうが、エミッタ中心領域70に比べて一時的にエネルギー密度が高くなる。しかしながら、一般的に、短絡電流をオフする際における半導体装置2の外部ゲート抵抗は非常に大きい値に設定されているため、影響は非常に小さい。
【0042】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、以下の変形例を採用してもよい。
【0043】
(変形例1) 熱伝導部材40と表面電極36とは、例えばハンダ等の接合材を介して接合されていてもよい。同様に、保護膜38と表面電極36も、例えばハンダ等の接合材を介して接合されていてもよい。
【0044】
(変形例2) 第1実施例における、ゲート電極22の閾値電圧を場所ごとに変える方法、及び、第2実施例における、ゲート電極22のゲート抵抗値を場所ごとに変える方法は、上記したものに限られず、他の任意の方法を用いてもよい。
【0045】
(変形例3) 半導体基板10には、IGBTに限らず、MOSFET等、絶縁ゲート電極を備える他のパワー半導体素子が作り込まれていてもよい。また、半導体基板10は、Si材料製のものに限られず、SiC材料製のものやGaN材料製のものであってもよい。
【0046】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0047】
2:半導体装置
10:半導体基板
12:コレクタ層
14:ドリフト層
16:拡散層
18:ボディ領域
18a:ボディコンタクト領域
19:トレンチ
20:絶縁膜
22:ゲート電極
22a:中心ゲート
22b:周辺ゲート
24:エミッタ領域
32、34:絶縁膜
36:表面電極
38:保護膜
40:熱伝導部材
42:ハンダ
50:裏面電極
60:素子領域
62:非素子領域
70:エミッタ中心領域
72:エミッタ周辺領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
複数個の絶縁ゲートを備える半導体素子領域と、
前記半導体素子領域の表面に形成される表面電極と、
前記表面電極の中心部の表面側に形成されている熱伝導部材と、
前記表面電極の表面側であって、前記中心部の周囲を取り囲む周辺部に形成されている保護膜と、を備え、
前記熱伝導部材の熱伝導率は、前記保護膜の熱伝導率よりも高く、
前記半導体素子領域は、前記表面電極の中心部の裏面側に形成される中心領域では、前記表面電極の周辺部の裏面側に形成される周辺領域と比較して、オン状態となる時間が長い、
半導体装置。
【請求項2】
前記複数個の絶縁ゲートは、前記中心領域に形成される複数個の第1の絶縁ゲートと、前記周辺領域に形成される複数個の第2の絶縁ゲートと、を含み、
前記中心領域がオンする時の前記第1の絶縁ゲートの閾値電圧の平均が、前記周辺領域がオンする時の前記第2の絶縁ゲートの閾値電圧の平均よりも小さい、
請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記複数個の絶縁ゲートは、前記中心領域に形成される複数個の第1の絶縁ゲートと、前記周辺領域に形成される複数個の第2の絶縁ゲートと、を含み、
前記第1の絶縁ゲートのゲート抵抗値の平均が、前記第2の絶縁ゲートのゲート抵抗値の平均よりも小さい、
請求項1記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−115223(P2013−115223A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259782(P2011−259782)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】