説明

半導体装置

【課題】窒化物半導体を用いたFETを樹脂封止パッケージに搭載した半導体装置の耐湿性を向上させること。
【解決手段】本発明は、窒化物半導体を用いたFETが形成されたチップ30と、前記チップがAgペースト22を用い搭載されたベース12と、前記チップ30を封止するガラス転移温度が190℃以上の樹脂20と、を具備する半導体装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、例えばチップが樹脂封止された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高温動作に優れた窒化物半導体を用いたFET(Field Effect Transistor)が開発されている。一方、半導体チップを搭載するパッケージとして、樹脂を用いチップを封止する樹脂封止パッケージが用いられている。樹脂封止パッケージは低コストであるため、多く用いられている。例えば、特許文献1には、化合物半導体からなるFETを樹脂封止した半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−237450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、窒化物半導体を用いたFETを樹脂封止パッケージに搭載した半導体装置においては、通常のFETを樹脂封止パッケージに搭載した場合に比べ耐湿性に劣る。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、窒化物半導体を用いたFETを樹脂封止パッケージに搭載した半導体装置の耐湿性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、窒化物半導体を用いたFETが形成されたチップと、前記チップがAgペーストを用い搭載されたベースと、前記チップを封止するガラス転移温度が190℃以上の樹脂と、を具備することを特徴とする半導体装置である。本発明によれば、窒化物半導体を用いたFETを樹脂封止パッケージに搭載した半導体装置の耐湿性を向上させることができる。
【0007】
上記構成において、前記半導体装置の動作チャネル温度は190℃以上である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記AgペーストはAgフィラーと有機バインダーの混合物である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記樹脂は熱硬化型エポキシ樹脂である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記ベースと前記樹脂を含むモールドパッケージを具備する構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記ガラス転移温度は、210℃以上である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記ガラス転移温度は、250℃以下である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、窒化物半導体を用いたFETを樹脂封止パッケージに搭載した半導体装置の耐湿性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例に用いるFETの断面図である。
【図2】図2(a)および(b)は、実施例に係る半導体装置のそれぞれ上面図および下面図である。
【図3】図3(a)および図3(b)は、実施例に係る半導体装置のそれぞれ透視図および断面図である。
【図4】図4(a)から図4(c)は、実施例に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
【図5】図5は、比較例および実施例の耐湿性試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照に本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0016】
まず、窒化物半導体を用いたFETについて説明する。図1は、実施例に用いるFETの断面図である。図1に示すように、基板40上に、バッファ層42、電子走行層44、電子供給層46およびキャップ層48が順次形成され窒化物半導体層50を形成している。基板40は、例えばSiC、サファイアまたはSiからなる基板である。バッファ層42は、例えば膜厚が300nmのAlN層である。電子走行層44は、例えば膜厚が1000nmのGaN層である。電子供給層46は、例えば膜厚が20nmのn型AlGaN層である。キャップ層48は、例えば膜厚が5nmのn型GaN層である。
【0017】
窒化物半導体層50上にゲート電極54、ソース電極52およびドレイン電極56が形成されている。ゲート電極54は、窒化物半導体層50の上面において、ソース電極52とドレイン電極56の間に配置されている。ソース電極52およびドレイン電極56は、例えば窒化物半導体層50側からTa層およびAl層から形成されている。ゲート電極54は、例えば窒化物半導体層50側からNi層およびAu層から形成されている。ゲート電極54を覆うように、窒化物半導体層50上に例えば窒化シリコン膜からなる絶縁膜58が形成されている。窒化物半導体層50は、上記各層に限られない。窒化物半導体層50としては、例えばGaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、AlInNもしくはAlInGaNまたはこれらの層の積層を用いることができる。
【0018】
図2(a)および(b)は、実施例に係る半導体装置のそれぞれ上面図および下面図である。図2(a)および図2(b)に示すように、半導体装置100はチップ30全体を樹脂で封止したモールドパッケージ(フルモールドパッケージ)の構造を有している。なお、半導体装置100の下面には、Cu等の金属からなるベース12と端子14とが露出している。その他の部分は例えば熱硬化型エポキシ系樹脂等の樹脂20で覆われている。
【0019】
図3(a)および図3(b)は、実施例に係る半導体装置のそれぞれ透視図および断面図である。図3(a)は、上面から樹脂20を透視して見た図、図3(b)は、図3(a)のA−A断面図である。ベース12と端子14とはリードフレーム10を形成している。図1で示したようなFETが形成されたチップ30およびキャパシタ32がAgペースト22を用いベース12に搭載されている。好ましい一例として、ベース12は、Cuを主成分とする金属材料を採用することができる。この金属材料には、Cuを主成分とし、他にSn、Cr、Znのいずれか1つ以上を含む材料を採用できる。キャパシタ32は、高誘電体を金属からなる上部電極および下部電極で挟んだMIM(Metal Insulator Metal)キャパシタチップである。FETはチップ30の上面に形成されている。チップ30に形成されたFETのドレインと端子14aとはボンディングワイヤ24aにより電気的に接続されている。チップ30に形成されたFETのゲートとキャパシタ32の上面電極とはボンディングワイヤ24cにより電気的に接続されている。キャパシタ32の上面電極と端子14bとはボンディングワイヤ24bにより電気的に接続されている。ボンディングワイヤ24a〜24cとしてはAuワイヤを用いている。
【0020】
図4(a)から図4(c)は、実施例に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。図4(a)に示すように、リードフレーム10は、ベース12と1または複数の端子14を備えている。ベース12上にAgペースト22を付着させる。図4(b)に示すように、Agペースト22上にそれぞれチップ30およびキャパシタ32を配置する。キュアすることにより、チップ30の下面(FETが形成された上面と反対側の面)をベース12に接合する。同様にキャパシタ32の下部電極をベース12に接合する。端子14aとチップ30内のFETのドレインとをボンディングワイヤ24aを用い電気的に接続する。チップ30内のFETのゲートとキャパシタ32の上部電極とをボンディングワイヤ24cを用い電気的に接続する。キャパシタ32の上部電極と端子14bとをボンディングワイヤ24bを用い電気的に接続する。
【0021】
チップ30およびキャパシタ32が搭載されたリードフレーム10を金型内に配置する。熱硬化型モールド樹脂に温度・圧力を印加し、金型内に樹脂を流し込む。樹脂を金型とともに降温する。これにより樹脂が固化し、樹脂20が形成される。その後、隣接するパッケージとリードフレーム10が接続する箇所を切断する。これにより、フルモールドパッケージが完成する。
【0022】
窒化物半導体を用いたFETにおいては、チャネル温度を190℃として動作させても特性が劣化しない。しかしながら、FETを樹脂封止してチャネル温度を190℃として用いると、高温動作後の耐湿性試験でFETの電極間がショートしてしまう。このため、低コストの樹脂封止パッケージを用いFETを高温動作することができない。
【0023】
本発明者らは、樹脂封止したFETでの耐湿性に樹脂のガラス転移温度が関係していることを突き止めた。以下に、発明者らが行なった実験について説明する。比較例および実施例として、ガラス転移温度がそれぞれ150℃および210℃の半導体装置を作製した。FETは、飽和電力が30Wであり、図1に示した構造を有している。各材料および膜厚は、図1の説明において例示したものである。図4(a)から図4(c)のように、比較例および実施例にかかる半導体装置を作製した。
【0024】
比較例および実施例について、まず、チャネル温度を190℃とし実用に見合うような時間に相当するDC(Direct Current)通電を行った。次に、温度が130℃、湿度が85%の環境下において、ドレインに50V、ゲートにピンチオフする電圧を印加し、耐湿性試験を行った。
【0025】
図5は、比較例および実施例の耐湿性試験の結果を示す図である。横軸はサンプルが故障した時間を対数表示で示している。なお、時間は任意座標である。縦軸はサンプルの累積故障率を示している。図5は、いわゆるワイブルプロットである。故障時間が長いほど耐湿性に優れることを示している。白丸および黒丸はそれぞれ比較例および実施例の測定結果を示している。直線は、近似直線である。図5に示すように、実施例は比較例に比べ故障時間が長い。すなわち、耐湿性に優れている。
【0026】
図5の結果から、耐湿性と樹脂のガラス転移温度とに関係があることがわかる。耐湿試験の前に通電を行なわないと図5のような差は生じない。このことから、ガラス転移温度が低い樹脂20で封止したFETにおいて、チャネル温度が高い状態で通電を行なうと、水分が樹脂20内に浸透しやすくなると考えられる。その結果、水分がチップ30に到達し、FETの電極間の電界により電極を構成する例えばAuがイオンマイグレーションを起こす。これにより、電極間において電気的短絡が生じるものと考えられる。
【0027】
実施例によれば、窒化物半導体を用いたFETが形成されたチップ30を封止する樹脂20としてガラス転移温度が190℃以上の樹脂を用いる。これにより、高温での通電後においても耐湿性を向上させることができる。ガラス転移温度は200℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましく、220℃以上がさらに好ましい。
【0028】
しかしながら、樹脂20のガラス転移温度が高い場合、モールド成型時において、樹脂20にボイドが発生する。これは、ガラス転移温度の高い樹脂は、ガラス転移温度の低い樹脂と比べて硬化しやすいためである。樹脂20にボイドが発生すると、耐湿性が低下してしまう。この問題への対処のため、樹脂のガラス転移温度は250度以下であることが好ましい。
【0029】
また、チップ30をベース12に接合するための材料の選定も重要である。一般によく利用されるAuSnの場合、AuSn中にボイドが生じ易い。これは、AuSnは常温ではペレット状(固体)であり、ベース12上にAuSnペレットを配置したときにAuSnペレットとベース12の間に介在した空気が、AuSnペレットの溶融後も排出しきれずに残留することによるものである。
【0030】
AuSn中にボイドが発生すると、AuSnの熱抵抗が高くなり、チップ30の熱を効率よくベース12へ排出することができない。この場合、ガラス転移温度が190℃以上の樹脂を用いたとしても、チップ30がさらに高温になることから、耐湿性の低下を招くおそれがある。
【0031】
この問題に対しては、チップ30をベース12に接合するための材料として、Agペースト22を利用する。Agペースト22は、Agフィラーとバインダー樹脂を混合したペースト状のものである。Agペーストは硬化することによってAgフィラー同士が接合した状態に変換される。これにより、Agを介した熱伝導経路が構成され、高い熱伝導性を得ることができる。また、Agペーストは常温でペースト状であり、ベース12との間に空気が介在することが少ない。これにより、ボイドの発生を回避することができる。
【0032】
半導体装置の動作チャネル温度は190℃以上であることが好ましい。このように、高温の動作チャネル温度であっても、ガラス転移温度が高温のため、耐湿性を向上させることができる。なお、動作チャネル温度は200℃以上が好ましく、動作チャネル温度は210℃以上がより好ましく、220℃以上がさらに好ましい。
【0033】
実施例として、半導体装置がフルモールドパッケージを備える例を説明したが、チップの発熱による樹脂の劣化が耐湿性劣化の原因であることから、樹脂がチップを封止するパッケージを備えていればよい。また、樹脂20として熱硬化型エポキシ樹脂を用いる例を説明したが、他の樹脂を用いてもよい。
【0034】
なお、実施例では、ベース12にチップ30とともにキャパシタ32が搭載される例を説明したが、ベース12にはFETが形成されたチップ30のみが搭載されていてもよい。さらに、チップ30以外に他の部材が搭載されていてもよい。さらに、チップ30にはFET以外の素子が形成されていてもよい。
【0035】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 リードフレーム
12 ベース
14 端子
20 樹脂
22 Agペースト
30 チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体を用いたFETが形成されたチップと、
前記チップがAgペーストを用い搭載されたベースと、
前記チップを封止するガラス転移温度が190℃以上の樹脂と、
を具備することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記半導体装置の動作チャネル温度は190℃以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記AgペーストはAgフィラーと有機バインダーの混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記樹脂は熱硬化型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ベースと前記樹脂を含むモールドパッケージを具備することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ガラス転移温度は、210℃以上であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項7】
前記ガラス転移温度は、250℃以下であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−93474(P2013−93474A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235421(P2011−235421)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000154325)住友電工デバイス・イノベーション株式会社 (291)
【Fターム(参考)】