説明

半導体製造プロセス用SiC部材の製造方法

【課題】押出成形など、低コストの成形法に対して、同じく低コストでかつ環境負荷が少ない酸による洗浄法による半導体製造プロセス用SiC部材の製造方法を提供する。
【解決手段】水系押出成形において、成形体を乾燥後、不活性ガス雰囲気中で350〜450℃の温度で熱処理する脱脂工程と、酸で洗浄する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造の熱処理プロセスに用いられるSiC製処理治具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス用SiC製治具は、半導体製造時に治具から半導体製品への不純物元素による汚染を防ぐために、高い純度であることが要求されている。このため、冶具を製造する際には、高純度原料を用い、製造時に不純物の混入が無いように細心の注意を払って作業を行う。通常、冶具の製造プロセスとしては主に金属の混入を極力避ける方法を選択する。
【0003】
冶具の成形方法としては、鋳込み成形、押出成形、静水圧プレス成形、射出成形などが用いられる。このうち、鋳込み成形、静水圧プレス成形は、成形時に金属部品との接触がなく、成形体の金属による汚染は少ないという利点があるが、成形タクト、コストに課題があった。一方、押出成形は、原理的に成形タクトの向上やコスト削減に対応可能だが、原料であるセラミックスの混練物を押出金型を通過させる際に高い圧力をかけて成形体を得る方法であるため、混練物と金属製のスクリューなどの加圧部品との接触が避けにくい。また、SiCは極めて硬度の高い物質であるため、加圧部品との接触において無視できない量の金属の混入がある可能性がある。
【0004】
このような場合、一般には、成形体を焼成後、HCLガスを流して、焼成プロセスにより形成された焼成体中の不純物元素を分解・揮散させる方法により、半導体製造プロセス用SiC製治具(以下、製品ともいう)の高純度化をはかっている(たとえば特許文献1参照)。
【0005】
しかし、この方法の場合、焼成炉にHCLガスの導入設備並びに排ガスの処理設備などの環境対策設備が必要であり、かつ、2000℃を超える高温での処理のため、製品の高コスト化が懸念材料になっていた。また処理設備は処理ガスを再使用せずに連続的に排出するため、環境への負荷が高く、処理設備を嫌う傾向が高まっていた。特に押出成形法による場合、原理的に金属の汚染の程度は高い。このため、押出成型により形成された成形体を酸などの水溶液に浸漬して、金属または金属酸化物を溶出除去する方法が発案されている(たとえば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3543529号公報
【特許文献2】特許第2867623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2にはセラミックス材料の具体例や製造物中または製造プロセス中の純度に関する具体的な記載がない。また、特許文献2の仮焼工程をそのまま、具体的には600℃乃至800℃の条件を適用すると、温度が高すぎるため、Feなどの金属元素はSiCの内部に拡散し、洗浄工程によっても高純度化ができないため、製品を製造することができなかった。
【0008】
本発明は、このような課題を鑑み、押出成形など、低コストの成形方法に対して、同じく低コストでかつ環境負荷が少ない酸による洗浄法による、半導体製造プロセス用SiC部材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
SiCの粉体と、水溶性樹脂を主成分とする有機バインダーおよび表面処理剤と、水とを混練して混練物を得る混練工程と、
前記混練物を押出成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を乾燥する乾燥工程と、
乾燥工程後の前記成形体を不活性ガス雰囲気中で350〜450℃の温度で熱処理する脱脂工程と、
脱脂工程後の前記成形体を酸で洗浄する酸洗浄工程と、
を有することにより半導体製造プロセス用SiC部材を製造する、半導体製造プロセス用SiC部材の製造方法。
【0010】
前記酸は、塩酸と硝酸と水の混合酸、弗硝酸または塩酸であってもよい。
【0011】
前記製造方法は5〜20℃の温度で混練して混練物を得る混練工程と、前記混練物を5〜20℃の温度で押出成形して成形体を得る成形工程と、前記成形体を50℃以上の温度で乾燥する乾燥工程とを含んでもよい。
【0012】
前記酸は、50〜100℃の塩酸と硝酸と水の混合酸または50〜100℃の塩酸または常温の弗硝酸であってもよい。
【0013】
前記不活性ガスが窒素でもよい。
【0014】
前記SiCの粉体の平均粒子径が1〜10μmであり、SiCの粉体の割合は、混練材料の総量に対して66〜78wt%であってもよい。
【0015】
前記水溶性樹脂として、メチルセルロースと、分子量が250〜550のポリエチレングリコールとを含んでもよい。
【0016】
前記水溶性樹脂として、メチルセルロースと、ポリエチレングリコールとを含み、ポリエチレングリコールのメチルセルロースに対する質量比が0.67〜1.5であり、メチルセルロースと水とで15〜25wt%水溶液となっていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半導体製造プロセスに好適なきわめて高純度のSiC部材を、低コストかつ環境負荷が少ない方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明による、半導体製造プロセス用SiC部材の製造プロセスの工程図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明による、半導体製造プロセス用SiC部材の製造プロセスの工程を示したものである。本発明の実施の形態を、図1を参照して主要部分、すなわち酸洗浄工程までを中心に説明する。
【0020】
<混練工程>
まず混練する材料(以下、混練材料ともいう)として、SiCの粉体と、水溶性樹脂と、水とを用意する。このような、水を含む原料による押出成形(以下、水系押出成形ともいう)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂を含む樹脂系押出成形と比較すると、焼成工程においてガスや有害物質を発生しないため、環境対策設備の負荷を軽減できる。
【0021】
混練材料の総量に対するSiCの粉体の割合は、66〜78wt%が好ましい。更には68〜74.5wt%が更に好ましい。66wt%を下回ると、後に行われる酸洗浄工程で成形体の強度が不足し形状を保持しにくくなる。また、さらに後に行われる焼成工程後の成形体(以下、焼成体ともいう)の気孔率が高くなり機械的な強度が不足し、金属シリコン含浸工程においてSi(シリコン)の膨張により発生する応力に耐えることができず、Si含浸後にクラックが生じ不良となるおそれがある。74.5wt%を超えるとFeなどの磨耗量が増えて酸洗浄工程に長時間を要する。さらに78wt%を超えると混練後の混合体(以下、混練物ともいう)が硬くなりすぎ、押出成形が困難になる。
【0022】
SiCの平均粒子径は、押出成形に対応するために、100μm以下が好ましい。また金属汚染の主要因は押出工程での摩耗であることが多い。SiCは極めて硬度の高い物質だからである。この摩耗低減の観点から、SiCの平均粒子径は10μm以下がより好ましい。最も好ましくは1μm以上5μm以下である。5μm以下では、SiCの粒子間を埋めるSiが微細ネットワークを組むようになり、製品としても高強度にすることができる。また1μmより細かいと、金属Si含浸工程において冷却時のSiが膨張してクラックを発生するおそれがある。なお、平均粒子径の測定は、堀場製作所株式会社製のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(LA−950V2)で行った。
【0023】
水溶性樹脂として、混練時に有機バインダーとして機能するものと、SiCの粉体との混合時にSiC粒子の表面処理剤として機能するものとを両方含むことが好ましい。たとえばメチルセルロースと、ポリアルキレングリコールとを両方含むことが好ましい。メチルセルロースは混練時の有機バインダーとして、またポリアルキレングリコールはSiC粒子との混合時に表面処理剤として、それぞれ機能する。なお、ポリアルキレングリコールは一般には水溶性樹脂である。このように、水溶性樹脂としては、成形工程中において可塑性を付与すること、各工程において保形性を維持できることなど考慮して、乾燥工程中を含む広い温度範囲で成形体の変形を防止する「のり」として機能しうるように、材料や添加量を調整する。以下に説明する。
【0024】
有機バインダーとして機能する水溶性樹脂としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース塩などおよびそれらに水溶性フェノール樹脂を混合した樹脂などが適する。混練材料の総量に対する有機バインダーとして機能する水溶性樹脂の割合は、3.5〜7.5wt%が好ましい。更には4〜7wt%が更に好ましい。以下、メチルセルロースの場合を例に説明する。メチルセルロースは、一般に熱可逆のゲル化特性を有する。特にゲル化に伴って粘度上昇するタイプが好ましい。ゲル化温度はメチルセルロースの水溶液濃度にも依存する。たとえばSM−8000(商品名メトローズ、信越化学社製)の場合、メチルセルロースに水を加えて15〜25wt%(好ましくは17〜22wt%)の水溶液とすることにより、ゲル化温度を50℃以上にすることができ、かつ取扱いが容易となる。この場合、混練材料の総量に対する水の割合は、10〜40wt%が好ましい。これにより、乾燥工程での成形体の強度向上および変形防止の効果を得ることができる。なお、この他の有機バインダーとして機能する水溶性樹脂の場合も、同様に粘度特性やゲル化温度などを勘案しつつ、水溶液濃度を調整すればよい。また、有機バインダーとして複数の水溶性樹脂を含んでもよい。
【0025】
SiCの表面処理剤として機能する水溶性樹脂としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールが挙げられる。SiCの粉体は、まずポリアルキレングリコールと混合して、SiC粒子表面にポリアルキレングリコールがコーティング処理された粉体とし、続いて前記有機バインダーとして機能する水溶性樹脂と混合する。SiC粒子の表面を予めコーティング処理することにより、SiC粒子間隔を均一にし、かつSiC粉体表面を親水性とすることで有機バインダーへの分散性を向上させる効果がある。この効果や作業温度などを勘案して、添加量や分子量等を決定する。
【0026】
SiCの表面処理剤として機能する水溶性樹脂の投入量は、有機バインダーとして機能する水溶性樹脂に対する質量比で0.67〜1.5であることが好ましい。質量比0.67より小さい場合は柔軟性が不足し、質量比1.5より大きい場合は成形そのものがしにくくなるためである。さらには、質量比0.9〜1.1で投入すると、変形を抑制した精度の良い成形体を得ることができるので、最も好ましい。
【0027】
以下、ポリエチレングリコールの場合を例に説明する。ポリエチレングリコールは常温で液体であり、水に溶解して水溶液となる。ポリエチレングリコールの投入量は、有機バインダーとして機能するメチルセルロースに対する質量比で0.67〜1.5であることが好ましい。前記質量比とすることで、成形後の乾燥工程において、50℃以上でゲル化して水溶性を失ったメチルセルロースに代わって上記ポリエチレングリコール水溶液が成形体を覆い、柔軟性を付与し、乾燥中の割れや変形を抑制する効果があると考えられる。質量比0.67より小さい場合は柔軟性が不足し、質量比1.5を超えると水の取り合いになりメチルセルロース水溶液が不足するようになるため、成形しにくくなる。さらには、質量比0.9〜1.1で投入すると、変形を抑制した精度の良い成形体を得ることができるので、最も好ましい。なお、この他のSiC粒子の表面処理剤として機能するポリアルキレングリコールの場合にも、同様に作業温度や有機バインダーへの分散性を考慮して、組成を決定すればよい。
【0028】
5〜20℃の混練温度において成形可能な混練物を得るには、ポリエチレングリコールの分子量は205〜595であることが好ましい。さらに、ポリエチレングリコールの分子量は250〜550であることがより好ましい。分子量200以下のポリエチレングリコールとメチルセルロースとを、前記質量比で、5〜20℃の温度で混練すると、メチルセルロースとポリエチレングリコールとで水分の取り合いを起こし、成形工程以前の混練物として安定的に得るのが難しい。また、分子量600以上の分子量のポリエチレングリコールとメチルセルロースとを、前記質量比で、5〜20℃の温度で混練すると、ポリエチレングリコールは水溶性を発現することが難しく、均一に分散しにくくなるため、これを成形することが著しく困難となる。従って、ポリエチレングリコールの分子量を250〜550とすることで、5〜20℃の温度で混練しても水溶性で均一に分散して安定な混練物を作製でき、かつ成形温度5〜20℃にて成形して所定の押出成形体を得ることができる。
【0029】
この他の材料として、押出成形機での摩耗低減の観点から、潤滑剤を含んでもよい。潤滑剤は水溶性でなくてもよいが、少なくとも水に対する分散性が良好であることが好ましい。
【0030】
以上の材料を混練機でよく混練する。
【0031】
<成形工程>
押出成形機に、所定の押出金型を取り付けて、上記の混練物を投入して押出成形を行い、所望のサイズと形状を備える成形体を得る。成形温度はたとえば5〜20℃である。
【0032】
<乾燥工程>
成形体を樹脂製ラップによって露出のないように包み、たとえば50℃で3時間乾燥炉にいれ、その後ラップを外して同じ温度で乾燥させる。最初にラップをかけるのは、表面からの乾燥を防ぎながら成形体全体をメチルセルロースのゲル化温度以上にすることにより均質な組織を得て、割れや変形などの不具合をなくすためである。このように、乾燥条件としては、成形体全体をできるだけ均一にある程度の湿度を保ちながら乾燥する方法であればよい。この観点から、最初は高湿度低温とし、時間の経過とともに低湿度高温としていく方法もある。
【0033】
<脱脂工程>
乾燥後の成形体を不活性ガス雰囲気中で350〜450℃の温度で熱処理する。後述の通り、脱脂の条件が脱脂後の純度と脱脂工程後の成形体(以下、脱脂体ともいう)の強度に影響することを見いだした。
【0034】
まず、効果的な酸洗浄の前提条件として、酸洗浄工程の前に脱脂を実施することが好ましい。このようにすることで、乾燥工程後の段階では不純物であるFeなどの無機物の周囲を取り囲んでいる有機物を先に除去して、後の酸での洗浄が有効に働くようにする。このようにして、無機物、主としてFe濃度を下げることができる。
【0035】
脱脂の雰囲気については、不活性ガスが好ましい。不活性ガスとは窒素やアルゴンが例示される。最も簡便には、大気雰囲気下で脱脂することが脱脂設備上は好ましいと考えられる。しかし、大気脱脂では脱脂体の強度が低く、酸に浸漬したときに、溶解反応により粒子間の結合力が失われ、崩壊する可能性がある。酸素濃度は5%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。また、脱脂を真空中で実施すると、大気中に比べて成形体の強度が向上する。しかしながら、次の酸洗浄工程において、液体中でサンプルを動かしたり、水中から引き揚げたりするときにサンプルに力がかかり、破損することがある。このように、真空中の脱脂では、取り扱いを注意深く行えば酸洗浄をすることは可能であるが、工業的に生産することは難しい。
【0036】
発明者らの知見では、次の酸洗浄工程終了後において曲げ強度が1MPa以上あることが重要であり、真空中での脱脂ではこの条件を満たさない。ここで、曲げ強度とは、島津製作所製万能試験装置AGS−Jによる3点曲げ試験によるものである。
【0037】
これに対して不活性ガス中、特に窒素中で脱脂すると、脱脂体の強度を1MPa以上にすることができる。洗浄品の分析によって、窒素中の脱脂により脱脂体中に炭素分が残留し、これがバインダーの役目を果たすことにより強度が発現することを見いだした。なお、アルゴンガス中でも同様の効果が得られる。脱脂後の炭素の含有量は少なくとも1wt%以上であることが好ましい。以上のように、脱脂雰囲気は不活性ガスが好ましく、安価で容易に入手可能な窒素が最も好ましい。
【0038】
脱脂の温度条件としては、350〜450℃が好ましい。450℃よりも温度を高くすると、成形工程で付着した不純物である金属元素が、SiCの表層のSiO2の膜を通過してSiCの粒子の内部に拡散してしまい、もはや酸洗浄では溶解除去することが困難になる。焼成体のFe濃度は、5ppm以下であることが好ましい。そのためにはさらに、その直前の酸洗浄工程後の成形体(以下、洗浄体ともいう)のFe濃度が20ppm以下であることが好ましい。450℃より高温での脱脂では、酸洗浄工程を経ても成形体中のFe濃度が十分に下がらず、半導体製造プロセス用として好ましくない。
【0039】
熱処理温度を下げると、金属元素の拡散はしにくくなり、洗浄しやすくなるが、350℃より低温では、脱脂体の強度が不足し、酸洗浄工程において崩壊する。実際の炉の温度分布を考慮すると400〜450℃が確実な脱脂を行う上でより好ましい。
【0040】
熱処理時間については適宜調整しうるが、たとえば2〜5時間程度である。
【0041】
<酸洗浄工程>
脱脂体を酸で洗浄する。脱脂体には混練機、成形機の金属部品の磨耗により金属の不純物が混入する。混練機、成形機に使用される金属の種類により混入する元素が変わるが、主にFeやNi、Crなどである。これらの金属を除去するために、脱脂体を、塩酸:硝酸:水=1:1:2の濃度で作成した混合酸(以後、混合酸という)に浸漬することが好ましい。混合酸の温度は、50〜100℃が好ましい。酸洗浄効果がより効果的に発揮されるためである。混合酸の他に、常温の弗硝酸(HNO:HF:HO=1:1:10)によっても同等の効果をもたらす。また、除去すべき金属がFeに限られる場合は、50〜100℃の塩酸だけでも洗浄可能である。いずれの酸の場合にも、浸漬時間については、成形体の汚染状態や成形体の形状などにより調整すればよい。
【0042】
<焼成工程以降>
酸洗浄後の成形体、すなわち洗浄体を乾燥後、雰囲気焼成炉に入れ、真空中で焼成して焼成体を得る。
【0043】
続いて別の雰囲気炉に入れ、高純度のSi金属を焼成体と近接させ、Si含浸処理を行い、Si含浸SiCを得ることができる。これをさらに機械加工し、CVD工程を経ることによって、半導体製造プロセスに好適なきわめて高純度のSiC製処理冶具とすることができる。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
まず重量比で混練材料の総量の68wt%に相当する平均粒子径2.3μmのSiC粒子と、混練材料の総量の5.2wt%に相当するポリエチレングリコール(分子量400、日油株式会社製)をエタノール溶液中で超音波照射しながら分散撹拌した。続いてエバポレータでエタノールを蒸発させ、ポリエチレングリコールによってコーティングされたSiC粒子を得た。続いてそのSiC粒子に混練材料の総量の同じく5.2wt%(ポリエチレングリコールのメチルセルロースに対する質量比は1.0)に相当するメチルセルロース(型番SM−8000、商品名メトローズ、信越化学工業株式会社製)を20wt%水溶液になるように水で希釈した溶液と、潤滑剤としてユニルーブ(商品名50MB26、日油株式会社製)とオレイン酸(一級、純正化学社製)をそれぞれ混練材料の総量の0.7wt%、0.1wt%に相当する量を加え、10℃に温度制御された混練機により均一になるまで良く混練した。なお原料のSiCから分析用サンプル5gを採取した(サンプル1)。
【0045】
次に10℃で温度制御された押出成形機に所定の押出金型を取り付けて、混練物を投入して押出成形を行った。これにより、厚み5mm(ミリメートル)×幅50mm×300mmの成形体を得た。
【0046】
すぐに成形体にラップをかけ、50℃で3時間乾燥炉にいれ、その後ラップを外して同じ温度で165時間乾燥させた。
【0047】
続いて、成形体中の有機物を除去するために、窒素(流量5L/min)を炉内に流しながら425℃で3時間熱処理することによって、脱脂を行った。この脱脂体から分析用サンプルとして5g採取した(サンプル2)。続いて得られた脱脂体を、混合酸を温度80℃に加熱して、その中に6時間浸漬した。その後、サンプルを取り出した後に、純水中に30分間浸漬する作業を3回繰り返した。この洗浄体から分析用サンプルとして5g採取した(サンプル3)。
【0048】
この洗浄体を乾燥後、雰囲気焼成炉に入れ、1700℃の真空中で焼成し、焼成体を得た。再び分析用のサンプルを約5g採取した(サンプル4)。
【0049】
続いて別の雰囲気炉に入れ、高純度のSi金属を焼成体と近接させSi含浸処理を行い、Si含浸SiC体を得た。
【0050】
この操作で得られたサンプル1、サンプル2、サンプル3、サンプル4を、あらかじめ検量線を作成してある蛍光X線装置により、不純物である鉄(Fe)の分析を行った。その結果を表1に示す。この結果の通り、洗浄後のFe濃度は20ppm以下であり、かつ焼成後のFe濃度として重要である、Fe濃度5ppm以下となった。
【0051】
また、洗浄体から、幅11〜12mm、厚み8〜9mm、長さ50mmの試験片を5本切り出し、島津製作所製万能試験装置AGS−Jを用い、ヘッドスピード0.1mm/min、スパン40mmの条件で3点曲げ試験を行った。この結果、曲げ強度は平均で1.9MPaを示した。これは、洗浄後に必要な曲げ強度1MPa以上を満たしている。
【0052】
【表1】

【0053】
<実施例2>
450℃で脱脂する点以外は、実施例1と同様にして、洗浄体を得た。洗浄品の曲げ強度は2.0MPa、Fe濃度は4ppmだった。
【0054】
<実施例3>
400℃で脱脂する点以外は、実施例1と同様にして、洗浄体を得た。洗浄品の曲げ強度は1.6MPaだった。
【0055】
<実施例4>
375℃で脱脂する点以外は、実施例1と同様にして、洗浄体を得た。洗浄品の曲げ強度は1.6MPaだった。
【0056】
<実施例5>
350℃で脱脂する点以外は、実施例1と同様にして、洗浄体を得た。洗浄品の曲げ強度は1.6MPa、洗浄後のFe濃度は9ppmであった。この洗浄品を乾燥後、雰囲気焼成炉に入れ、1700℃の真空中で焼成し、焼成体を得た。焼成体のFe濃度は2ppmで、焼成後のFe濃度として必要である、Fe濃度5ppm以下となった。
【0057】
<実施例6>
425℃で脱脂し、常温の弗硝酸で洗浄する点以外は、実施例1と同様にして、洗浄体を得た。洗浄品の曲げ強度は2.0MPa、Fe濃度は10ppmであった。この洗浄品を乾燥後、雰囲気焼成炉に入れ、1700℃の真空中で焼成し、焼成体を得た。焼成体のFe濃度は3ppmで、焼成後のFe濃度として必要である、Fe濃度5ppm以下となった。
【0058】
<比較例1>
実施例1と同じ方法で混練、成形、乾燥した成形体を、325℃の窒素雰囲気中で脱脂し、混合酸で洗浄した。混合酸で洗浄後、容器から取り出す際に成形体が破損した。
【0059】
<比較例2>
500℃で脱脂する点以外は、実施例1と同様にして、洗浄体を得た。洗浄後のFe濃度は40ppmであった。この洗浄品を乾燥後、雰囲気焼成炉に入れ、1700℃の真空中で焼成し、焼成体を得た。焼成体のFe濃度は10ppmで、焼成後のFe濃度として必要である、5ppm以下にならなかった。
【0060】
<比較例3>
実施例1と同じ方法で混練、成形、乾燥した成形体を、450℃の大気中で脱脂し、混合酸で洗浄した。脱脂体は酸の溶液中で複数に割れた。
【0061】
<比較例4>
450℃の真空中で脱脂する点以外は、実施例1と同様にして、洗浄体を得た。洗浄後のFe濃度は10ppmであった。洗浄体の曲げ強度は0.5MPaで、洗浄後に必要な曲げ強度1MPaに満たなかった。
【0062】
以上の結果を表2にまとめた。なお、保形性は、強度に起因した特性であり、製造工程中で破損する場合(取扱上の事故やミスを除く)に×としたものである。
【0063】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本願の製造プロセス、特に酸洗浄プロセスは、半導体製造の熱処理プロセスに用いられるSiC製処理治具を、押出成形法で低コスト、かつ環境負荷が少ない方法で製造するのに適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCの粉体と、水溶性樹脂と、水とを混練して混練物を得る混練工程と、
前記混練物を押出成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を乾燥する乾燥工程と、
乾燥工程後の前記成形体を不活性ガス雰囲気中で350〜450℃の温度で熱処理する脱脂工程と、
脱脂工程後の前記成形体を酸で洗浄する酸洗浄工程と
を有する半導体製造プロセス用SiC部材の製造方法。
【請求項2】
前記酸は、塩酸と硝酸と水の混合酸、弗硝酸、または塩酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
SiCの粉体と、水溶性樹脂と、水とを5〜20℃の温度で混練して混練物を得る混練工程と、
前記混練物を5〜20℃の温度で押出成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を50℃以上の温度で乾燥する乾燥工程と、
乾燥工程後の前記成形体を不活性ガス雰囲気中で350〜450℃の温度で熱処理する脱脂工程と、
脱脂工程後の前記成形体を酸で洗浄する酸洗浄工程と
を有する半導体製造プロセス用SiC部材の製造方法。
【請求項4】
前記酸は、50〜100℃の塩酸と硝酸と水の混合酸または50〜100℃の塩酸または常温の弗硝酸である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
不活性ガスが窒素である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
SiCの粉体の平均粒子径が1〜10μmであり、SiCの粉体の割合は混練材料の総量に対して66〜78wt%含まれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
水溶性樹脂として、メチルセルロースと、分子量が250〜550のポリエチレングリコールとを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
水溶性樹脂として、メチルセルロースと、ポリエチレングリコールとを含み、ポリエチレングリコールのメチルセルロースに対する質量比が0.67〜1.5である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−126604(P2012−126604A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279471(P2010−279471)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】