説明

半導体試験装置における電気長測定方法

【課題】ウェハを対象とした半導体試験装置において、簡易にプローブ先端を接地状態として電気長測定を行なえるようにする。
【解決手段】試験対象のウェハと接触するプローブを複数備えた半導体試験装置における、プローブを一端とする信号経路の電気長測定方法であって、電気伝導性領域を有するキャリブレーションウェハの電気伝導性領域を全プローブに接触させ、信号経路の他端から測定信号を入力し、電気伝導性領域との接触部で反射した信号波形を他端側で測定することにより電気長を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハ段階を対象とした半導体試験装置におけるピン間タイミング調整のための電気長測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、半導体試験装置と被測定デバイス(DUT)との間の接続の基本構成を示す図である。本図に示すように、半導体試験装置100は、測定制御部110とピンエレクトロニクス(PE)カード120とを備えている。PEカード120には、図示しないベースユニットに備えられたケーブル600が接続され、ケーブル600の他端は、DUT800と接触する複数のプローブを備えたプローブカード700が接続される。プローブカード700が備える複数のプローブは、DUT800の信号ピン(Sig)と接触するプローブと、接地ピン(GND)と接触するプローブとを含んでいる。
【0003】
PEカード120は、複数組のドライバ121とコンパレータ122とを備えている。ドライバ121は、測定制御部110の指示に基づいて信号波形を発生し、抵抗Rを介してケーブル600およびコンパレータ122に出力する。コンパレータ122は、入力信号と測定制御部110の指示に基づく基準電圧とを比較し、比較結果を測定制御部110に出力する。測定制御部110は、コンパレータ122からの比較結果に基づいてDUT800の良否を判定する。
【0004】
このように、半導体試験装置100は、ケーブル600をDUT800への出力信号とDUT800からの入力信号とで共有する方式を採用している。このような入出力共有型は、タイミング精度を高めるのには不利であるが、面積当りのピン数を増やすことができるため、ウェハ段階を対象とした前工程試験に採用されることが多い。
【0005】
半導体試験装置100では、試験信号をDUT800の各ピンに印加するタイミングのスキュー(ずれ)を小さくするために、あらかじめピンごとに電気長(信号の遅延時間)を測定しておき、得られた電気長に基づいて試験信号出力のタイミング調整を行なっている。
【0006】
図8(a)は、従来の電気長測定を説明するブロック図であり、説明のため1ピン分のみを示している。電気長測定は、TDR法(Time Domain Reflectometry method)を使用するものとする。本図に示すように、従来、電気長測定を行なう場合は、プローブカード700のプローブ先端をオープン状態にする。そして、ドライバ121から試験信号を出力し、経路R1を通ってコンパレータ122に直接届くまでの時間T1を計測する。次に、再度ドライバ121から試験信号を出力し、経路R2を通ってコンパレータ122に届くまでの時間T2を計測する。経路R2は、ケーブル600を経由して、プローブカード700のオープン端で反射し、またケーブル600を経由して戻ってくる経路である。
【0007】
時間T2と時間T1との差は、測定すべき電気長の2倍に相当するため、測定制御部110は、時間T2と時間T1とを測定することにより、測定対象の電気長を取得することができる。
【0008】
電気長の測定信号は、例えば、LowからHighに立ち上がる矩形波が用いられる。このとき、時間T1は、図9(a)に示すように、ドライバ121においてLowからHighに立ち上がった時刻t0から、コンパレータ122がHigh信号に対応した第1閾値以上の入力信号を検出する時刻t1までの時間とすることができる。なお、第1閾値は、測定信号電圧より低い値とし、例えば、測定信号電圧の25%程度とすることができる。
【0009】
プローブカード700の先端がオープン状態の場合、戻ってきた反射波が重畳され電圧が上昇するため、時間T2は、ドライバ121においてLowからHighに立ち上がった時刻t0から、コンパレータ122が第1閾値よりも高い第2閾値以上の入力信号を検出する時刻t2までの時間とすることができる。なお、第2閾値は、測定信号電圧より低い値とし、例えば、測定信号電圧の75%程度とすることができる。
【0010】
そして、時間T2から時間T1を引くことで時刻t1から時刻t2までの時間、すなわち電気長の2倍の時間を得ることができる。もちろん、時刻t1から時刻t2までの時間を直接測定して電気長の2倍の時間を算出するようにしてもよい。
【0011】
上述の従来例では、プローブカード700の先端をオープン状態としていたが、近年では、図8(b)に示すように、プローブカード700のプローブ先端を接地状態とすることも行なわれている。
【0012】
この場合、接地端からの反射波が戻ってくるとコンパレータ122の入力電圧は0Vになるため、図9(b)に示すように、時間T2は、ドライバ121においてLowからHighに立ち上がった時刻t0から、コンパレータ122が第2閾値以下の入力信号を検出する時刻t2までの時間とすることができる。この場合の第2閾値は、第1閾値と同程度の値とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−331264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
一般に、プローブ先端を接地状態として電気長を測定する方がタイミング精度を向上させることができる。近年の半導体デバイスの高速化、小型化、工数短縮化等に伴い、ウェハ段階を対象とした前工程用半導体試験装置においても、高いタイミング精度が求められるようになっており、プローブ先端を接地状態として電気長を測定する必要性が高まっている。
【0015】
プローブ先端は待機状態において開放されているため、電気長測定時にプローブ先端を接地状態とするためには治具を用いる必要がある。プローブ先端を接地状態とするための治具として、例えば、特許文献1に記載されているようなキャリブレーションウェハを用いることが考えられる。ここで、キャリブレーションウェハは、DUTのピン配列と同一配列のパッドを有し、パッドをショート配線で接地ポイントとショートさせるものである。
【0016】
しかしながら、DUTのピン配列と同一配列のパッドを有するキャリブレーションウェハを用いて電気長測定を行なうとすると、DUTの種類ごとにキャリブレーションウェハを設計・製造しなければならず、電気長測定のための負荷が増加し、コストの上昇を招来する。
【0017】
そこで、本発明は、ウェハを対象とした半導体試験装置において、簡易にプローブ先端を接地状態として電気長測定を行なえるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明の電気長測定方法は、試験対象のウェハと接触するプローブを複数備えた半導体試験装置における、プローブを一端とする信号経路の電気長測定方法であって、電気伝導性領域を有するキャリブレーションウェハの前記電気伝導性領域を全プローブに接触させ、測定対象の信号経路の他端から測定信号を入力し、前記電気伝導性領域との接触部で反射した信号波形を前記他端側で測定することにより電気長を算出することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の電気長測定方法は、試験対象のウェハと接触するプローブを複数備え、1つのプローブに対して複数の信号経路が接続されたプローブを含んだ半導体試験装置における、プローブを一端とする1つの信号経路の電気長測定方法であって、電気伝導性領域を有するキャリブレーションウェハの前記電気伝導性領域を全プローブに接触させ、測定対象の信号経路の他端から測定信号を入力し、前記電気伝導性領域との接触部で反射した信号波形を前記他端側で測定することにより電気長を算出することを特徴としてもよい。
【0020】
いずれの場合も、前記複数のプローブは接地用プローブを含むことができる。
【0021】
また、前記キャリブレーションウェハは、前記試験対象のウェハを載置するプローバ装置に載置可能な形状とすることができる。
【0022】
あるいは、前記キャリブレーションウェハは、表面に導体膜を形成したシリコンウェハで構成してもよいし、金属板で構成してもよいし、表面に導体膜を形成した樹脂で構成してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ウェハを対象とした半導体試験装置において、簡易にプローブ先端を接地状態として電気長測定を行なえるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態における電気長測定を説明する図である。
【図2】本実施形態のキャリブレーションウェハと試験対象のウェハとを示す図である。
【図3】本実施形態のキャリブレーションウェハを用いて電気長測定を行なう場合の手順を示すフローチャートである。
【図4】インターリーブ動作を説明する図である。
【図5】インターリーブ動作を行なう構成で、プローブ端を開放状態で電気長測定するときの問題を説明する図である。
【図6】インターリーブ動作を行なう構成で、本実施形態のキャリブレーションウェハを用いて電気長測定を行なう場合を説明する図である。
【図7】半導体試験装置と被測定デバイスとの間の接続の基本構成を示す図である。
【図8】電気長測定を説明する図である。
【図9】電気長測定の際のコンパレータの入力信号を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態における電気長測定を説明する図である。半導体試験装置100、ケーブル600、プローブカード700の構成は従来と同様とすることができる。すなわち、半導体試験装置100は、測定制御部110とピンエレクトロニクス(PE)カード120とを備えている。PEカード120には、図示しないベースユニットに備えられたケーブル600が接続され、ケーブル600の他端は、DUTと接触する複数のプローブを備えたプローブカード700が接続される。プローブカード700が備える複数のプローブは、DUTの信号ピン(Sig)と接触するプローブと、接地ピン(GND)と接触するプローブとを含んでいる。
【0026】
PEカード120は、複数組のドライバ121とコンパレータ122とを備えている。ドライバ121は、測定制御部110の指示に基づいて信号波形を発生し、抵抗Rを介してケーブル600およびコンパレータ122に出力する。コンパレータ122は、入力信号と測定制御部110の指示に基づく基準電圧とを比較し、比較結果を測定制御部110に出力する。測定制御部110は、コンパレータ122からの比較結果に基づいてDUTの良否を判定する。
【0027】
本実施形態では、プローブカード700のプローブ先端を接地状態で電気長を測定する際に、表面全体あるいは表面の大部分が電気伝導性を有するキャリブレーションウェハ200を用いて、全プローブ先端をキャリブレーションウェハ200の表面に接触させる。これにより、プローブの配列・配置状態にかかわらず、すべてのプローブ先端を接地状態とすることができる。
【0028】
図2に示すように、キャリブレーションウェハ200は、試験対象のウェハ820と略同一形状であって、例えば、表面全体に導体膜を形成したシリコンウェハで構成することができる。導体膜の材料は限定されず、Al、Ag、Au、Cu等種々の材料を用いることができる。また、基板もシリコンに限られず樹脂等を用いてもよい。さらには、金属円盤や表面全体が導体となっている誘電体基板を用いてキャリブレーションウェハ200を構成してもよい。
【0029】
半導体試験においては、ウェハを載置するために、図示しないプローバ装置が用いられるが、キャリブレーションウェハ200は、試験対象のウェハ820を載置するプローバ装置に載置可能な形状とすることが望ましい。これにより、ウェハ試験と同等の条件で電気長測定を行なうことができる。また、同一径であれば異なる種類のウェハを対象とした試験の電気長測定に使用することができる。
【0030】
本実施形態におけるキャリブレーションウェハ200は、ウェハ上に、パッドやトランジスタ、配線パターン等を形成する必要がないため、極めて安価に製造することが可能である。
【0031】
図3は、本実施形態のキャリブレーションウェハ200を用いて電気長測定を行なう場合の手順を示すフローチャートである。まず、キャリブレーションウェハ200の導電面にプローブカード700の全プローブ先端を接触させる(S101)。プローブには接地プローブが含まれているため、これにより、すべてのプローブ先端が接地状態となる。
【0032】
この状態で、測定制御部110は、ドライバ121から測定信号として矩形波を出力する(S102)。コンパレータ122の入力信号が第1閾値(図9(b)参照)以上になったのを検出すると(S103:Yes)、入力信号が第1閾値をクロスしたタイミングを記録する(S104)。タイミングは、例えば、測定信号を出力してからの時間とすることができる。
【0033】
次に、コンパレータ122の入力信号が第2閾値(図9(b)参照)以下になったのを検出すると(S105:Yes)、入力信号が第2閾値をクロスしたタイミングを記録する(S106)。タイミングは、例えば、測定信号を出力してからの時間とすることができる。そして、2つのクロスタイミングの差分から電気長を算出する(S107)。
【0034】
なお、本実施形態の電気長測定は、図4に示すように、複数の経路をプローブカード上で接続してインターリーブ動作させる場合にも効果的に適用することができる。本図に示す例では、ドライバ121aからの経路とドライバ121bからの経路とをプローブカード710で接続し、DUT710のクロック端子に接続している。
【0035】
この構成で、ドライバ121aとドライバ121bの位相をずらしてインターリーブ動作させと、DUT710には、ドライバ121aから出力される信号とドライバ121bから出力される信号との合成波形が入力されることになり、通常よりも高い周波数でDUT710の試験を行なうことができるようになる。
【0036】
近年、モバイル機器等の小型化要求等から、半導体デバイスは、実装面積削減のためSoP(システムオンチップ)化される傾向がある。この傾向により、単品の各デバイスは、パッケージングされないベアチップの状態で出荷される場合が増えている。この場合には、従来パッケージング後に後工程用半導体試験装置で行なっていた最終検査をウェハ状態で行なう必要がある。最終検査は、デバイスの最高速度で行なうため、ウェハ段階を対象とした半導体試験装置にも高速化が要求されており、この要求に応えるため、インターリーブ動作が行なわれるようになっている。
【0037】
図4に示したような構成とした場合に、図5に示すようにプローブ端をオープン状態で電気長を測定しようとすると、2つの経路を往復した経路R3の電気長が測定され、個々の経路の電気長を測定することができない。
【0038】
そこで、図6に示すように、プローブ端を、本実施形態のキャリブレーションウェハ200に接触して接地状態とし、接続された一方の経路のドライバ121aから矩形波を出力し、他方の経路のドライバ121bは0V出力とすることで、前者の経路の電気長を測定することができるようになる。
【0039】
このとき、両経路の接続点とプローブの配線遅延がドライバ121aの立ち上がり時間に比較して十分短くなるように構成する。プローブ端から接地ポイントへのインピーダンスは、経路のインピーダンスに比較して十分小さいため、コンパレータ122aで測定される立ち下がり波形は、プローブ端での固定端反射によるものと略見なすことができる。したがって、プローブカード710において接続された経路であっても、単一経路と同等の電気長測定が可能となる。
【符号の説明】
【0040】
100…半導体試験装置
110…測定制御部
120…PEカード
121…ドライバ
122…コンパレータ
200…キャリブレーションウェハ
600…ケーブル
700…プローブカード
710…プローブカード
800…DUT
820…ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象のウェハと接触するプローブを複数備えた半導体試験装置における、プローブを一端とする信号経路の電気長測定方法であって、
電気伝導性領域を有するキャリブレーションウェハの前記電気伝導性領域を全プローブに接触させ、
測定対象の信号経路の他端から測定信号を入力し、前記電気伝導性領域との接触部で反射した信号波形を前記他端側で測定することにより電気長を算出することを特徴とする電気長測定方法。
【請求項2】
試験対象のウェハと接触するプローブを複数備え、1つのプローブに対して複数の信号経路が接続されたプローブを含んだ半導体試験装置における、プローブを一端とする1つの信号経路の電気長測定方法であって、
電気伝導性領域を有するキャリブレーションウェハの前記電気伝導性領域を全プローブに接触させ、
測定対象の信号経路の他端から測定信号を入力し、前記電気伝導性領域との接触部で反射した信号波形を前記他端側で測定することにより電気長を算出することを特徴とする電気長測定方法。
【請求項3】
前記複数のプローブは接地用プローブを含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の電気長測定方法。
【請求項4】
前記キャリブレーションウェハは、前記試験対象のウェハを載置するプローバ装置に載置可能な形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気長測定方法。
【請求項5】
前記キャリブレーションウェハは、表面に導体膜を形成したシリコンウェハで構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気長測定方法。
【請求項6】
前記キャリブレーションウェハは、金属板で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気長測定方法。
【請求項7】
前記キャリブレーションウェハは、表面に導体膜を形成した樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気長測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−24729(P2013−24729A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159835(P2011−159835)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】