説明

半導体部品およびその製造方法

本発明は、有機半導体、特に有機電界効果トランジスタ、との静電的相互作用を制御するための層(10)を備える半導体部品に関するものである。上記半導体部品は、上記化合物が、a)基板と結合するために、少なくとも1つのアンカー基(1)を有する化合物を含み、b)当該化合物は、少なくとも1対の自由電子対および/または双極子モーメントを有する少なくとも1つの基(2)をすることを特徴とする。さらに、本発明は、そのような化合物を含む層を形成させるための方法に関するものであり、当該方法によれば、特に、論理関数を付加的に補正(レベルシフト)しなくてもよいOFETを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載の半導体部品、および、請求項12の前提部分に記載の、基板への層の形成方法に関するものである。
【0002】
有機半導体層をベースとする有機電界効果トランジスタ(OFET)は、低い製造コスト、柔軟なもしくは耐砕性のある基板、または、大きな放射面上のトランジスタおよび集積回路の製作を必要とする多数の電子アプリケーションにとっては興味深いものである。例えば、有機電界効果トランジスタは、アクティブマトリックススクリーンにおけるピクセル制御素子として、または、例えば能動的な商品および物品の標識および識別に使用されるような非常にコスト効率のよい集積回路の製造に適している。また、将来的には有機メモリー素子の制御回路にも適している。
【0003】
有機半導体層をベースとするトランジスタおよび集積回路(IC)は、現在では、p−MOS技術を用いる分野の考えうる最も広い範囲に影響を及ぼしている。なぜなら、基本的に、寿命の長いデバイスを製造するのに充分な安定性をもつのは有機p型半導体だけだからである。
【0004】
これまでに知られている大抵の有機半導体(例えば、ペンタセン、テトラセン、オリゴチオフェン、および、ポリチオフェン)は、その電荷キャリア移動度の観点からみた利用を考慮したものである。そして、それらは通常、トランジスタにおいては、やや正の閾値電圧を有している。すなわち、上記トランジスタは、ゲート電極の電位が0Vであるとき、完全にスイッチオフとはならない。その結果、単純なインバータ(2つのトランジスタ)は正しい論理関数を示さず、上記単純なインバータをベースとする環状発振器は発振しない。
【0005】
従来、この問題は、インバータおよびインバータに起因する回路を、集積された「レベルシフト」を用いて製造するといった方法で、回路構成の観点から解決されている。論理関数をこのように付加的に「補正」することにより、機能インバータに必要なトランジスタの数が2個から4個に2倍となる(H. Klauk, D. J. Gundlach, T. N. Jackson IEEE Electron Device Letters, 1999,20, 289-291)。
【0006】
また、レベルシフタのためのさらなる供給電圧が必要となる。
【0007】
さらに、適切なゲート誘電体(無機または有機)の選択により閾値電圧を設定することにより上記問題を解決する方法がある(H. Klauk, M. Halik, U. Zschieschang, G. Schmid, W. Radlik, W. Weber Journal of Applied Physics, 2002,92, 5259-5263を参照)。しかしながら、この方法では、負の領域における値(約−8V)は達成されたが、この値の変動は比較的大きい(+/−10V)ので、現時点ではIC用の信頼できる回路設計は無理であることが分かっている。また、SiOをペンタセントランジスタにおけるゲート誘電体として使用する場合のオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の単分子層は、バルクSiOをゲート誘電体として使用する場合と比較して、少しの電位で閾値電圧のシフトが起こることは記載されているが、最初に定義された閾値電圧を機械的に設定するような方法では、このような効果は得られない。
【0008】
第3の可能性は、回路の動態的作用にある。この場合、回路システムは、外部からパルス電圧を印加することにより起動される(W. Fix, A. Ullmann, J. Ficker,W. Clemens Applied Physics Letters, 2002,81, 1735-1737)。これは、単純なデモンストレーター回路では原理的に可能であるが、より複雑な論理回路では、非常に困難である。
【0009】
本発明の目的は、論理関数を付加的に補正(レベルシフト)しなくてもよいような方法で、OFETを補正することである。
【0010】
本目的は、請求項1の特徴を有する半導体部品により、本発明に基づいて達成される。
【0011】
本発明の半導体部品は、基板と結合するための少なくとも1つのアンカー基と、少なくとも1対の自由電子対および/または双極子モーメントを有する少なくとも1つの基と、を有する化合物を含む層を備えている。上記アンカー基は、固定された層の形成を可能とするために必要不可欠なものである。
【0012】
本発明の効果は、以下の事実に基づくものである。具体的には、まず、使用される化合物が、電荷キャリアシンク(トラップ)を閉鎖する。それと同時に、その分子の高次の分子特性(双極子モーメント)の結果として、巨視的な効果が現れる。当該巨視的な効果は、例えば有機半導体層を覆う特性のような電気機械的なで電気的な特性と形態とに好適な影響を及ぼすものである。
【0013】
このことにより、論理回路のトランジスタの数がほぼ半分になり、それに伴い、さらに、必要な相互接続部およびヴィアがより少なくなる。そして、結果的に、回路の所要面積がより小さくなるという効果を奏する。さらに、収率が高くなり、レベルシフタための第2の供給電圧も不要となる。この補正は、有機半導体の蒸着の前に、トランジスタのチャネル(ソース電極とドレイン電極との間の誘電体上の経路)に化学物質を導入/適用するといった方法で、化学的に行われる。なお、上記化学物質は、電圧が印加されると、有機半導体の電気的な特性に影響を及ぼすものである。
【0014】
ある好ましい形態では、少なくとも1つのアンカー基は、誘電性の層に共有結合可能である。少なくとも1つのアンカー基が、シリコン−ハロゲン基、シリコン−アルコキシ基、アミノ基、アミド基、または、反応性カルボン酸誘導体、特に塩化物もしくはオルトエステルであれば特に好ましい。
【0015】
他の好ましい形態では、双極子モーメントを生じさせるための基は、極性基、特にアミノ基、シアノ基、ニトロ基またはフェロセニル基を有している。さらに、自由電子対を有する基が、酸素、窒素、硫黄および/または燐を有していれば好ましい。
【0016】
上記化合物が、基板上に(特に、誘電性の層上に)、単分子層を形成する能力を有していれば、単純な方法で、層から半導体部品を構築することができる。
【0017】
上記化合物が、特に、本質的に、直鎖状構造をなすか、または、当該化合物の他の基よりも長い軸を有していれば、単分子層の形成は促進される。さらに、特に単分子層からいえば、アンカー基と、双極子モーメントを有する基もしくは自由電子対を有する基とが、それぞれ直鎖状の化合物の反対側の末端に配置されていれば好ましい。上記化合物の一部が、基板の表面、特に、誘電性の層に対して高い親和性を有し、そのとき、当該化合物の反対側の末端には、基板に対して不活性であって、充填密度の高い基が配置されていれば特に好ましい。
【0018】
上記化合物が下記構造式
【0019】
【化1】

【0020】
に示されるいずれか1つの構造を有していれば、とりわけ目標とする程度に、閾値電圧を抑制することができる。
【0021】
さらに、上記化合物が、ポリビニルピロリドン、ピリジリノン、または、これらのユニットを含む統計的共重合体もしくはブロック共重合体であれば好ましい。
【0022】
上記目的は、さらに、請求項12に記載の特徴を有する半導体部品の製造方法によって達成される。
【0023】
この製造方法では、基板、特に、誘電性の層を有する部品基板を、溶液に浸漬する、または、気相を上記基板に蒸着させる。なお、上記溶液または気相は、請求項1〜11に記載の少なくとも1つの化合物を含むものである。
【0024】
この場合、化学物質は、できる限り薄く、好ましくは、単分子層として、コスト効率よくなるように供される。上記化合物は、拡散過程を回避するために、チャネルにおいて出来る限り化学的に固定(誘電体と共有結合)されている。各用途において閾値電圧の最適な/設定可能な値を得るために、化学的な化合物の種類に応じて閾値電圧の値は調整できることがよい。
【0025】
溶液からの沈着では、溶液中の上記化合物の濃度が0.1〜1%であれば好ましい。
【0026】
請求項1〜11の少なくとも1項に記載の化合物を有する層を形成させた後、ソース層およびドレイン層と、有機半導体層とを形成させれば、半導体部品、特に、OFETを好都合な方法で製造することができる。
【0027】
本発明について、図面の図を参照しながら複数の実施形態を用いて、以下、より詳細に説明する。
【0028】
図1は、有機電界効果トランジスタの概略的な断面図である。図2は、本発明の化合物を含む層を有する層構造を概略的に示す図である。図3A〜Cは、本発明の化合物の実施形態の構造式を示す図である。図4Aは、選択された化合物の機能として、閾値電圧を測定した結果を示す図である。図4Bは、双極子モーメントと測定された閾値電圧との相関を示す図である。表1は、さまざまな物質を有するOFETの閾値電圧を示す図である。
【0029】
本発明の半導体部品の代表的な実施形態について説明する前に、図1および図2を参照しながら半導体部品としての有機電界効果トランジスタの構造について説明する。
【0030】
ここで、図1は、有機電界効果トランジスタ(OFET)の概略的な断面図である。
【0031】
有機電界効果トランジスタは、複数の層(フィルム)で構成される電子部品であり、複数の層は、個々の層の接続により集積回路が生成されるように、全てパターン化されている。この場合、図1は、このようなトランジスタの基本的な構造をボトムコンタクト構造で示す。
【0032】
ベースとなる基板20上に、ゲート電極21が配置される。ゲート電極21は、ゲート誘電体層22(誘電性の層)によって覆われる。このような誘電体の層厚は、5nm未満である(ボトムアップ)。
【0033】
ゲート誘電体層22上の一領域には、閾値電圧を設定するための層10が配置される。つまり、ゲート誘電体層22は、閾値電圧を設定するための層10のための下地を形成する。閾値電圧を設定するための層10は、上側で能動半導体層24(有機半導体層、ここでは、ペンタセン)に接続される。閾値電圧を設定するための層10の側部には、ソース層23aおよびドレイン層23bが配置される。さらに、ソース層23aおよびドレイン層23bは、その上に配置される能動半導体層24に接続される。能動半導体層24の上に、パッシベーション層25が配置される。
【0034】
図2には、図1のOFETの電荷キャリアチャネルの領域が拡大して示されている。菱形11は、閾値電圧を設定するための層10とその上に配置される能動半導体層24との間の静電的相互作用を表すことを意図するものである。
【0035】
図3A〜図3Cに、本発明の化合物の3つの実施形態を示す。3つの化合物、すなわち、KBM、APTS、およびAPPTSは、全て、シラン基として形成されたアンカー基1を有している。当該化合物は、このアンカー基1を介して、基板(例えば、図2のゲート誘電体層22など)と結合できる。上記3つの化合物は、本質的に直鎖状である特性を有しているので、単分子層を形成できる。単分子層の場合、上記化合物の縦軸は、それぞれ互いに平行であり、ゲート誘電体層22に対しては垂直であるように配置される。さらに、3つの化合物は、全て、アンカー基1とは反対側の化合物の末端に、極性基2を有している。
【0036】
図2に記載のこれら化合物の1つからなる単分子層10は、その上に配置される能動半導体層24(例えば、ペンタセン)と電気的に相互作用し、その過程で、半導体特性を変化させるように作用する。より具体的には、閾値電圧に対して目標とする程度に影響を与える、特に、閾値電圧を下げるように半導体特性を変化させる。
【0037】
このことについて、図4Aおよび図4B、並びに表1と関連付けてさらに説明する。
【0038】
例えば、図3に記載のような本発明の化合物を含むこのような単分子層10の利点は、(有機半導体層の蒸着前に)トランジスタ構造上に安価に形成できるということである。
【0039】
この目的を達成するための方法は、単純な浸漬法であってもよい。上記浸漬法では、希釈した溶液(約0.1〜1%の物質を含む溶媒)に基板を浸漬する。この場合、分子は、当該分子がもつアンカー基1を介して、ゲート誘電体層22に結合する。例えば、クロロシランまたはアルコキシシランは、OH基をもつ機能表面に選択的に結合し、Si−O結合を形成する。その後、余分な材料は、純粋な溶媒によって洗い落とされる。
【0040】
別の方法として、気相蒸着法を用いることも可能である。この場合、図3A〜3Cに記載の化合物は、高度にドープされ、熱によって酸化されたシリコンウエハー(100nmのSiO)上に、気相から単分子層としてそれぞれ供せられる。続いて、30nmの厚みのペンタセンの能動半導体層24(有機半導体)を蒸着させる。トランジスタ構造を完成するため、30nmの厚みの金の層を蒸着する(シャドウマスクを形成することによってパターン化を行う)ことによって、ソース層23aおよびドレイン層23bの接触面を明確にする。その後、トランジスタは、電気的に特徴付けられる。
【0041】
比較のため、対照として、このような単分子層を有さないOFETを同じ方法で製造し、測定した。OTSによる被覆も比較のために行った。
【0042】
測定した閾値電圧の結果を、表1および図4Aに示す。測定された閾値電圧と、各化合物の双極子モーメントとの相関を、図4Bに示す。この場合、閾値電圧は、化合物に応じて、目標とする程度に設定できることが明らかに示されている。この場合、閾値電圧は、分子特性(例えば、双極子モーメント)および層特性(例えば、自由表面エネルギー)と相関性を有している。対照のOFET(特別な層の無いもの)およびOTSと比較することによって、閾値電圧は、著しく低下することがはっきりと分かる。
【0043】
本発明の主要な利点は、ここに記載したような誘電体表面や電荷キャリアチャネルの簡単な化学的修飾方法によって、レベルシフトを用いたOFETにおける正の閾値電圧という問題に対してこれまで必要であった処理を完全に無用化することができ、その結果、1回路につき必要なトランジスタの50%を節約できる点である。
【0044】
本発明の実施形態は、上記の通り明記した好ましい代表的な実施形態に制限されない。むしろ、本質的に異なる構成の実施形態であっても、本発明の半導体素子および本発明の方法を用いる多く変形の実施形態が考えられる。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】有機電界効果トランジスタの概略的な断面図である。
【図2】本発明の化合物を含む層を有する層構造を概略的に示す図である。
【図3A】本発明の化合物の実施形態の構造式を示す図である。
【図3B】本発明の化合物の実施形態の構造式を示す図である。
【図3C】本発明の化合物の実施形態の構造式を示す図である。
【図4A】選択された化合物の機能として、閾値電圧を測定した結果を示す図である。
【図4B】双極子モーメントと、測定された閾値電圧との相関を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 アンカー基
2 極性基
10 閾値電圧を設定するための層(単分子層)
20 基板
21 ゲート電極
22 ゲート誘電体層(誘電性の層)
23a ソース層(ソース電極)
23b ドレイン層(ドレイン電極)
24 能動半導体層(有機半導体層)
25 パッシベーション層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電界効果トランジスタにおける有機半導体との静電的相互作用を制御するための層に化合物を含む、半導体部品であって、
上記化合物は、
a)基板と結合するための少なくとも1つのアンカー基と、
b)少なくとも1対の自由電子対および/または双極子モーメントを有する少なくとも1つの基と、
を有することを特徴とする半導体部品。
【請求項2】
上記の少なくとも1つのアンカー基が、誘電性の層と共有結合可能であることを特徴とする請求項1に記載の半導体部品。
【請求項3】
上記の少なくとも1つのアンカー基が、シリコン−ハロゲン基、シリコン−アルコキシ基、アミノ基、アミド基、または、反応性カルボン酸誘導体であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体部品。
【請求項4】
双極子モーメントを生じさせるための基が、極性基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体部品。
【請求項5】
少なくとも1対の自由電子対を有する基が、酸素、窒素、硫黄および/または燐を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体部品。
【請求項6】
上記化合物が、上記基板上に単分子層を形成する能力を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体部品。
【請求項7】
上記化合物が、本質的に直鎖状構造をなすか、または、化合物の他の基よりも長い軸を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体部品。
【請求項8】
上記アンカー基と、少なくとも1対の自由電子対または双極子モーメントを有する基とが、それぞれ直鎖状の化合物の反対側の末端に配置されていることを特徴とする請求項7に記載の半導体部品。
【請求項9】
上記化合物の一部は、上記基板の表面に対して高い親和性を有し、
上記化合物の反対側の末端に、上記基板に対して不活性であって、充填密度の高い基が配置されていることを特徴とする請求項7または8に記載の半導体部品。
【請求項10】
上記化合物は、下記構造式
【化1】

に示されるいずれか1つの構造を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の半導体部品。
【請求項11】
上記化合物は、ポリビニルピロリドン、ピリジリノン、または、これらのユニットを含む統計的共重合体もしくはブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の半導体部品。
【請求項12】
請求項1〜11の少なくとも1項に記載の半導体部品に層構造を製造する方法であって、
誘電性の層を有する基板を、請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物を少なくとも含む溶液に浸漬させる、または、
請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物を少なくとも含む気相を上記基板に蒸着させることを特徴とする方法。
【請求項13】
上記溶液中の上記化合物の濃度は、0.1〜1%であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の上記化合物を有する層を形成した後、ソース層およびドレイン層と、有機半導体層とを形成することを特徴とする請求項12または13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−507087(P2007−507087A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517962(P2006−517962)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【国際出願番号】PCT/DE2004/001515
【国際公開番号】WO2005/008803
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(501209070)インフィネオン テクノロジーズ アクチエンゲゼルシャフト (331)
【Fターム(参考)】