説明

半導体電力変換装置の過電流保護装置

【課題】IGBTモジュールの電流を高精度に検出することができ、IGBTの過電流による破壊を確実に防止することができる半導体電力変換装置の過電流保護装置を提供する。
【解決手段】並列接続され主電流に応じたセンス電流が流れるセンスセルを有する複数の電力用半導体素子1、2を同期させてオンオフ駆動する半導体電力変換装置において、少なくとも2個の上記電力用半導体素子の上記センス電流の合算値に応じたセンス電圧を発生する電圧発生回路30と、上記センス電圧に応じて上記各電力用半導体素子の過電流保護動作を行う過電流保護回路40と、上記各電力用半導体素子を駆動するためのゲート駆動回路50とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の半導体素子が並列接続して構成される半導体電力変換装置の過電流保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated GateBipolar Transistor)に代表される電力用半導体素子を使用した半導体電力変換装置では、IGBTをスイッチング動作させ、その通電比率を制御することで、その電力フローを調整している。このような半導体電力変換装置に過電流が流れた場合、IGBTの温度が上昇し、IGBTが破壊に至る場合がある。IGBTの破壊を防止するために、IGBTに流れる電流を検出し、IGBTの破壊に至る前にIGBTの動作を停止するか、もしくは、IGBTの通電電流を制限するような過電流保護装置が多数提案されている。
【0003】
例えば、特許第3311498号公報(特許文献1)に開示されたものは、主電流に比例したセンス電流が流れる半導体素子と、上記センス電流が流れる第3抵抗素子とを設け、上記第3抵抗素子に生じるセンス電圧を基準電圧と比較すると共に、上記センス電圧が上記基準電圧を超えた時に、半導体素子をオフさせるようにしている。
【0004】
また、特許第3067448号公報(特許文献2)に開示されたものは、電流検出用の絶縁ゲート型スイッチング素子を流れる電流を検出する検出抵抗手段と、この検出抵抗手段における降下電圧により上記絶縁ゲート型スイッチング素子のゲート電圧を制御可能なゲート制御用素子とを有する半導体装置において、上記ゲート制御用素子の動作に基づく上記ゲート電圧の変化速度を緩和するゲート制御緩和手段を設け、ゲート電圧の変化速度を緩和して、上記絶縁ゲート型スイッチング素子の電流制限動作における主電流の急激な変動を防止することにより、上記ゲート制御用素子を通じて所定の電流制限値に対応したゲート電圧に制御するようにしている。
【0005】
更に、特開2006−238635号公報(特許文献3)に開示されたものは、一方の電力制御用半導体モジュールにおいて発生される保護アラーム信号を他方の電力制御用半導体モジュールに送信し、他方の電力制御用半導体モジュールにおいて受信された上記保護アラーム信号に基づいて、他方の電力制御用半導体モジュールの駆動制御動作を停止させることにより、両方の電力制御用半導体モジュールの駆動制御動作を確実に停止させ、電力用半導体装置の安全性を確保するようにしている。
【0006】
【特許文献1】特許第3311498号公報(第8頁、第1図)
【特許文献2】特許第3067448号公報(第7頁、第1図)
【特許文献3】特開2006−238635号公報(第15頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1においては、IGBTに過電流が流れた際に、IGBTのゲート電圧をゼロにし、IGBTをオフさせるための具体的な防止手段が開示されている。しかし、この防止手段はIGBTが1素子の場合であり、複数のIGBTが並列接続された場合については記載されていない。
【0008】
また、上述した特許文献2においては、IGBTに過電流が流れた際に、IGBTのゲート電圧を制限し、IGBTを通過するコレクタ電流を制限するための具体的な防止手段が開示されている。しかし、この防止手段もIGBTが1素子の場合であり、複数のIGBTが並列接続された場合については記載されていない。
【0009】
さらに、上述した特許文献3においては、一方のIPM(インテリジェント・パワー・モジュール)又はスイッチング素子の保護回路が動作して当該IPM又はスイッチング素子の動作を遮断したときに、他方のIPM又はスイッチング素子の動作を遮断する手段が開示されている。しかし、この手段は、IPMと同数のゲート駆動回路及び保護回路が必要となるため、高コストになるという問題点があった。また、IPM毎にゲート駆動回路を設けた場合には、ゲート駆動回路の応答バラツキのため、各スイッチング素子のスイッチングタイミングがずれ、スイッチング時の過渡電流の不均衡が発生するという問題点があった。
【0010】
この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、IGBTモジュールの電流を高精度に検出することができ、IGBTの過電流による破壊を確実に防止することができる半導体電力変換装置の過電流保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る半導体電力変換装置の過電流保護装置は、並列接続され主電流に応じたセンス電流が流れるセンスセルを有する複数の電力用半導体素子を同期させてオンオフ駆動する半導体電力変換装置において、少なくとも2個の上記電力用半導体素子の上記センス電流の合算値に応じたセンス電圧を発生する電圧発生回路と、上記センス電圧に応じて上記各電力用半導体素子の過電流保護動作を行う過電流保護回路と、上記各電力用半導体素子を駆動するためのゲート駆動回路とを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る半導体電力変換装置の過電流保護装置は上記のように構成されているため、IGBTモジュールの電流を高精度に検出することができ、IGBTの過電流による破壊を確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図にもとづいて説明する。図1は、実施の形態1による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。ここでは2個のIGBT素子1、2が並列接続されたIGBTモジュールを例示している。
【0014】
IGBT素子1、2は、それぞれ多数のIGBTセルを並列接続して構成したもので、IGBT素子を流れる電流を検出するために、一部のIGBTセルを電流検出用セル11、12とし、その端子をセル端子S1、S2としてIGBT素子のコレクタ端子から流入する電流の一部を分流して流出するようにしている。
電流検出用セル11、12はその他のIGBTセルとほぼ同じ特性となるため、電流検出用セル11にはIGBT素子1にほぼ比例したセンス電流が、電流検出用セル12にはIGBT素子2にほぼ比例したセンス電流が流れる特性を有している。
【0015】
IGBT素子1のコレクタC1とIGBT素子2のコレクタC2は、電流容量の大きな電気配線によって接続されており、コレクタ端子Cによって外部回路と接続されている。IGBT素子1のエミッタE1とIGBT素子2のエミッタE2も同様に、電流容量の大きな電気配線によって接続されており、エミッタ端子Eによって外部回路と接続されている。
【0016】
IGBT素子の制御端子としてのゲート端子G1、G2は、抵抗21と抵抗22を介して電気的に接続され、抵抗21と抵抗22の接続点から、抵抗20を介してゲート駆動回路50の出力端子に電気的に接続されている。制御エミッタ端子EE1とEE2は制御配線によって電気的に接続され、制御配線のほぼ中点で基準電位Vocに電気的に接続されている。IGBT素子1の電流検出用端子としてのセンス端子S1と、IGBT素子2の電流検出用端子としてのセンス端子S2間には抵抗31、32が接続されており、抵抗31と32の接続点と基準電位Voc間には、電圧発生手段としてのセンス抵抗30が接続されている。
【0017】
過電流保護回路40は、センス抵抗30に発生したセンス電圧と、予め定められた基準電圧Vocとを比較する過電流判定手段としてのコンパレータ41と、IGBT素子が過電流状態と判定された場合にIGBT素子1とIGBT素子2をオフさせる過電流保護手段としての論理回路42により構成されている。ゲート駆動回路50は、論理回路42から出力されるゲート駆動信号sig2によりNOT回路53を経てMOSFET51とMOSFET52をON/OFF制御することで、抵抗20と抵抗21を介してゲート端子G1にゲート電圧を印加すると共に、抵抗20と抵抗22を介してゲート端子G2にゲート電圧を印加するようにされている。
【0018】
次に、この実施の形態における過電流保護の基本動作について説明する。電流検出用セル11には、通常、IGBT素子1にほぼ比例したセンス電流Is1が抵抗31と抵抗30、制御エミッタ端子EE1を流れる。同様に、電流検出用セル12には、通常、IGBT素子2にほぼ比例したセンス電流Is2が抵抗32と抵抗30、制御エミッタ端子EE2を流れる。その結果、センス抵抗30の両端には、センス電流Is1とセンス電流Is2を通じて、IGBT素子1とIGBT素子2の電流合算値にほぼ比例したセンス電圧Vsが発生する。
【0019】
コンパレータ41は、センス抵抗30に発生するセンス電圧Vsと、予め定められた基準電圧Vocとを比較して、前者が後者を超えるときには過電流状態と判断し、Highを出力する。論理回路42は、図示しない上位CPUより入力されるゲート指令信号sig1とコンパレータ41の出力に応じて、ゲート駆動信号sig2を生成する。ゲート指令信号sig1がLowまたは、コンパレータ41の出力がhighとなると、ゲート駆動信号sig2はLowとなり、IGBT素子をオフ動作させる。
【0020】
このように、過電流保護回路40は、センス電流Is1とIs2を通じて、IGBT素子の電流Ic1とIc2の合算値に対応した電圧と所定の基準電圧Vocとを比較することによって過電流を検出するようにしているため、IGBTモジュールの電流を高精度に検出することが可能となり、IGBT素子の過電流破壊を確実に防止することが可能となる。
【0021】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2を図にもとづいて説明する。図2は、実施の形態2による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。図2において、図1と同一または相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0022】
図2において、33、34は特定の周波数帯でのみインピーダンスが大きくなるインピーダンス素子、例えばチップフェライトビーズで、IGBT素子1の電流検出用端子としてのセンス端子S1と、IGBT素子2の電流検出用端子としてのセンス端子S2間に接続されており、インピーダンス素子33と34の接続点と基準電位Voc間には、電圧発生手段としてのセンス抵抗30が接続されている。
【0023】
また、IGBT素子1とIGBT素子2を並列接続するための配線に、無視できないほどの配線インピーダンスが存在する。図2において、71〜76は各配線の配線インピーダンスを示すもので、71はコレクタC1とコレクタ端子C間の配線インピーダンスZc1、72はコレクタC2とコレクタ端子C間の配線インピーダンスZc2、73はエミッタE1とエミッタ端子E間の配線インピーダンスZe1、74はエミッタE2とエミッタ端子E間の配線インピーダンスZe2、75は制御エミッタEE1と基準電位Voc間の配線インピーダンスZee1、76は制御エミッタEE2と基準電位Voc間の配線インピーダンスZee2である。
【0024】
次に、並列接続配線の配線インピーダンスによって発生する問題点について説明する。配線インピーダンス75を流れる電流をIee1、配線インピーダンス76を流れる電流をIee2とすると、制御配線には、(式1)で表される電流が流れる。
Iee=(Ze1×Ie1−Ze2×Ie2)/(Zee1+Zee2)・・(式1)
【0025】
IGBT素子1のエミッタ電位Ve1、IGBT素子2のエミッタ電位Ve2は、(式2)(式3)となる。
Ve1=Zee1×Iee
=Zee1/(Zee1+Zee2)×(Ze1×Ie1−Ze2×Ie2)・・(式2)
Ve2=−Zee2×Iee
=−Zee2/(Zee1+Zee2)×(Ze1×Ie1−Ze2×Ie2)・・(式3)
【0026】
このように、IGBT素子を並列接続した場合、IGBT素子の電流アンバランスや、配線インピーダンスのアンバランスが存在すると、IGBT素子1のエミッタ電位Ve1と、IGBT素子2のエミッタ電位Ve2には電位差が発生することになる。
IGBT素子のゲート−エミッタ間はMOS(MetalOxide Silicon)構造となっているため、ゲート−エミッタ間には大きな浮遊容量が存在し、エミッタ電位が変動した場合、ゲート電位もエミッタ電位に連動して変動する。
【0027】
エミッタ電位が変動する前のゲート−エミッタ間電圧をVge0とすると、IGBT素子1のゲート電位Vg1、IGBT素子2のゲート電位Vg2は、(式4)(式5)となる。
Vg1=Vge0+Ve1+1/τ×∫(Vcc−Ve1)dt・・(式4)
Vg2=Vge0+Ve2+1/τ×∫(Vcc−Ve2)dt・・(式5)
ここで、τはIGBT素子のゲート−エミッタ間容量や、ゲート抵抗20、21、22によって決まるパラメータであり、これらの値が大きいほどτも大きくなる。このように、IGBT素子のエミッタ電位Ve1、Ve2が変動した場合、IGBT素子のゲート電位Vg1、Vg2はエミッタ電位に連動して変動し、τとエミッタ電位変動の周波数の比によって決まる時定数で、ゲート電位Vg1とVg2は等しくなる。
【0028】
一方、IGBT素子1のセンス電位Vs1、IGBT素子2のセンス電位Vs2は、IGBT素子1のセンス電流をIs1、IGBT素子2のセンス電流をIs2とすると、(式6)(式7)となる。
Vs1=Zs1×Is1+Zs0×(Is1+Is2)・・(式6)
Vs2=Zs2×Is2+Zs0×(Is1+Is2)・・(式7)
これは、IGBT素子のエミッタ電位Ve1、Ve2が変動しても、IGBT素子のセンス電位Vs1、Vs2はほとんど変動しないことを表している。
【0029】
IGBT素子1のエミッタ電位Ve1が高周波で変動した場合、IGBT素子1のゲート電位Vg1はエミッタ電位にほぼ連動して変動するが、IGBT素子1のセンス電位Vs1はほとんど変動しないため、ゲート−センス間電圧Vgs1は変動し、ゲート−エミッタ間電圧Vge1とゲート−センス間電圧Vgs1に電位差が発生する。
【0030】
同様に、IGBT素子2のゲート−エミッタ間電圧Vge2とゲート−センス間電圧Vgs2にも電位差が発生する。例えば、Iee>0となり、Ve1>0、Ve2<0となった場合、IGBT素子1のゲート−センス間電圧Vgs1は、IGBT素子1のゲート−エミッタ間電圧Vge1よりも大きくなるため、IGBT素子1の電流に対するセンス電流Is1の分流比は増加する。同様に、IGBT素子2のゲート−センス間電圧Vgs2は、IGBT素子2のゲート−エミッタ間電圧Vge2よりも小さくなるため、IGBT素子2の電流に対するセンス電流Is2の分流比は減少する。
【0031】
このように、IGBT素子に印加されるゲート−エミッタ間電圧Vgeとゲート−センス間電圧Vgsに差があると、電流検出用セルを流れるセンス電流とIGBT素子の電流との比例関係が崩れ、IGBT素子の電流を正確に検出できなくなる。
【0032】
図3に、IGBT素子1とIGBT素子2のエミッタ電位差Vee1−Vee2と、センス電流Is1、Is2、Is1+Is2の関係を示す。エミッタ電位差Vee1−Vee2に対し、センス電流Is1、Is2は2次関数的に変化するため、IGBT素子の電流合算値が同じであったとしても、エミッタ電位差Vee1−Vee2の絶対値が大きくなるほど、センス電流合算値Is1+Is2、すなわち、センス電圧Vsは増加する。
【0033】
このように、IGBT素子1とIGBT素子2の接続配線に無視できないほどの配線インピーダンスが存在する場合、IGBT素子1のエミッタ電位Ve1とIGBT素子2のエミッタ電位Ve2に差が発生し、センス電流とIGBT素子の電流との比例関係は崩れるため、正確な電流値を検出できなくなり、過電流保護回路が誤検知してしまう可能性があった。
【0034】
この実施の形態では、特定の周波数帯でのみ高インピーダンスとなるインピーダンス素子として、例えばチップフェライトビーズ33、34をIGBT素子1のセンス端子S1と、IGBT素子2のセンス端子S2間に接続することによって、上記問題点を解決している。
【0035】
図4に、センス−エミッタ間インピーダンスZseと、IGBT素子の電流に対するセンス電流の分流比(以下、センス分流比と称す)、センス電圧との関係を示す。センス−エミッタ間インピーダンスZseが比較的小さい領域(Zse<Zse0)では、センス分流比はほぼ一定となるため、センス電圧VsはZseにほぼ比例する。しかし、センス−エミッタ間インピーダンスZseが大きくなる領域(Rs>Rs0)ではセンス分流比は低下し、センス電圧VsはZseに応じて上昇するものの、飽和する傾向となる。
【0036】
このように、電流検出用セルのセンス電流は、センス−エミッタ間インピーダンスZseが小さい領域では定電流源として動作するが、センス−エミッタ間インピーダンスZseが大きくなるとセンス電流が低下するという特性を有している。
【0037】
この実施の形態では、特定の周波数帯でのみ高インピーダンスとなるインピーダンス素子33、34を、IGBT素子1の電流検出用端子としてのセンス端子S1と、IGBT素子2の電流検出用端子としてのセンス端子S2間に接続し、インピーダンス素子33と34の接続点にセンス抵抗30を接続している。高インピーダンスとなる周波数帯と、エミッタ電位変動が発生する周波数を一致させることで、特定の周波数帯でのセンス分流比を低下させ、エミッタ電位変動によって発生するセンス電流合算値の増加を相殺することが可能となる。
【0038】
このように、各々の電力用半導体素子のセンスセルと電圧発生回路の間に、特定の周波数帯でのみ高インピーダンスとなるインピーダンス素子を挿入することで、IGBT素子の電流アンバランスや、配線インピーダンスのアンバランスによって発生するエミッタ電位変動が生じた場合においても、IGBTモジュールの電流を高精度に検出することが可能となり、IGBT素子の過電流破壊を確実に防止することが可能となる。
【0039】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3を図にもとづいて説明する。図5は、実施の形態3による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。図5において、図2と同一または相当部分には同一符号を付して説明を省略する。図5において、36はIGBT素子1のセンス配線と制御エミッタ配線を、37はIGBT素子2のセンス配線と制御エミッタ配線をそれぞれ同一の磁性体に巻回して構成した例えばコモンモードチョークコイルである。
【0040】
このような構成にすることで、IGBT素子の制御エミッタ配線に電圧が発生した場合、コモンモードチョークコイル36、37を介して、センス配線にも同等の電圧が発生する。このため、IGBT素子1のセンス電位Vs1、IGBT素子2のセンス電位Vs2は、(式8)(式9)で表される。
Vs1=Zs1×Is1+Zs0×(Is1+Is2)+k×Ve1・・(式8)
Vs2=Zs2×Is2+Zs0×(Is1+Is2)+k×Ve2・・(式9)
【0041】
ここでkは、コモンモードチョークコイル36、37の巻線間の結合係数や、制御エミッタ配線の配線インピーダンスZee1、Zee2とコモンモードチョークコイルのディファレンシャルインピーダンスの比率によって決まる定数である。(式8)(式9)では、IGBT素子のエミッタ電位Ve1、Ve2が変動した場合、IGBT素子のセンス電位Vs1、Vs2も同じ極性に変動することを表している。
【0042】
このように、各々の電力用半導体素子のセンス配線と制御エミッタ配線を同一の磁性体に巻回することで、IGBT素子の電流アンバランスや、配線インピーダンスのアンバランスによって発生するエミッタ電位変動が生じた場合においても、IGBT素子に印加されるゲート−エミッタ間電圧Vgeとゲート−センス間電圧Vgsをほぼ一致させることができるので、電流検出用セルを流れるセンス電流とIGBT素子の電流との比例関係を保つことが可能となり、IGBT素子の過電流破壊を確実に防止することが可能となる。
【0043】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4を図にもとづいて説明する。図6は、実施の形態4による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。図6において、図5と同一または相当部分には同一符号を付して説明を省略する。図6において、38はIGBT素子1のセンス配線とIGBT素子2のセンス配線を、同一の磁性体に巻回したコモンモードチョークコイルである。コモンモードチョークコイル38は、IGBT素子1のセンス電流Is1とIGBT素子2のセンス電流Is2が同位相で流れる時は低インピーダンス、Is1とIs2が逆位相で流れる時は高インピーダンスとなるように構成されている。
【0044】
IGBT素子の電流アンバランスや、配線インピーダンスのアンバランスによって発生するエミッタ電位変動が生じた場合は、センス電流Is1とセンス電流Is2が逆位相で変動するため、センス−エミッタ間は高インピーダンスとなってセンス分流比は低下し、エミッタ電位変動によって発生するセンス電流合算値の増加を相殺することが可能となる。
【0045】
また、コモンモードチョークコイル38は、IGBT素子1のセンス電流Is1とIGBT素子2のセンス電流Is2が同位相で流れる時は低インピーダンスとなるため、センス分流比は低下することなく、IGBTモジュールの電流を高精度に検出することができる。
【0046】
このように、各々の電力用半導体素子のセンス配線を同一の磁性体に巻回することで、IGBT素子の電流アンバランスや、配線インピーダンスのアンバランスによって発生するエミッタ電位変動が生じた場合においても、IGBT素子に印加されるゲート−エミッタ間電圧Vgeとゲート−センス間電圧Vgsをほぼ一致させることができるので、電流検出用セルを流れるセンス電流とIGBT素子の電流の比例関係を保つことが可能となり、IGBT素子の過電流破壊を確実に防止することが可能となる。
【0047】
実施の形態5.
次に、この発明の実施の形態5を図にもとづいて説明する。図7は、実施の形態5による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。図7において、図1と同一または相当部分には同一符号を付して説明を省略する。図7において、60は過電流抑制回路で、センス抵抗30に発生するセンス電圧Vsに基づいて動作するトランジスタ61と、トランジスタ61のコレクタ電流を制限するための抵抗62とから構成され、抵抗62を抵抗20の一端に接続している。
【0048】
次に、この実施の形態の動作について説明する。実施の形態1と同様に、センス抵抗30にはIGBT素子1とIGBT素子2の電流合算値にほぼ比例したセンス電圧が発生する。センス電圧がトランジスタ61の動作閾値電圧以上となると、トランジスタ61がオンし、IGBT素子1とIGBT素子2のゲートに印加される電圧は、電源電圧Vccを抵抗20と抵抗62とで分圧した値となり、IGBT素子1とIGBT素子2のゲート電圧が低下し、IGBT素子1とIGBT素子2を流れるコレクタ電流を低減し、IGBT素子1とIGBT素子2をオフにすることが可能となる。
【0049】
このように、過電流抑制回路60は、センス電流Is1とセンス電流Is2を通じて、IGBT素子の電流Ic1とIc2の合算値に基づいてゲート電圧を抑制する結果、IGBTモジュールの電流を高精度に検出することが可能となり、IGBT素子の過電流破壊を確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の実施の形態1による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。
【図2】この発明の実施の形態2による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。
【図3】実施の形態2による半導体電力変換装置の特性を示すグラフである。
【図4】実施の形態2による半導体電力変換装置の特性を示すグラフである。
【図5】この発明の実施の形態3による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。
【図6】この発明の実施の形態4による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。
【図7】この発明の実施の形態5による半導体電力変換装置の過電流保護装置の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0051】
1、2 IGBT素子、 11、12 電流検出用セル、 20、21、22 ゲート抵抗、 31、32 抵抗、 33、34 チップフェライトビーズ、 36、37、38 コモンモードチョークコイル、 40 過電流保護回路、 41 コンパレータ、
42 論理回路、 50 ゲート駆動回路、 51、52 MOSFET、 53 NOT回路、 60 過電流抑制回路、 61 トランジスタ、 62 抵抗、 71〜76 配線インピーダンス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続され主電流に応じたセンス電流が流れるセンスセルを有する複数の電力用半導体素子を同期させてオンオフ駆動する半導体電力変換装置において、少なくとも2個の上記電力用半導体素子の上記センス電流の合算値に応じたセンス電圧を発生する電圧発生回路と、上記センス電圧に応じて上記各電力用半導体素子の過電流保護動作を行う過電流保護回路と、上記各電力用半導体素子を駆動するためのゲート駆動回路とを備えた半導体電力変換装置の過電流保護装置。
【請求項2】
上記各電力用半導体素子のセンスセルと上記電圧発生回路との間に、インピーダンス素子を挿入したことを特徴とする請求項1記載の半導体電力変換装置の過電流保護装置。
【請求項3】
上記インピーダンス素子は特定の周波数帯でのみ高インピーダンスとなる特性を有することを特徴とする請求項2記載の半導体電力変換装置の過電流保護装置。
【請求項4】
上記センスセルと電圧発生回路を電気的に接続するためのセンス配線と、上記各電力用半導体素子の基準電位と上記電圧発生回路の基準電位を電気的に接続するための基準電位配線を、同一の磁性体に巻回したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の半導体電力変換装置の過電流保護装置。
【請求項5】
上記センスセルと電圧発生回路を電気的に接続するためのセンス配線のうち、少なくとも2個のセンス配線を、同一の磁性体に巻回したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の半導体電力変換装置の過電流保護装置。
【請求項6】
上記センス電圧が予め定められた所定電圧より大きくなった時、上記各電力用半導体素子を非導通状態にすることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の半導体電力変換装置の過電流保護装置。
【請求項7】
上記センス電圧が予め定められた所定電圧より大きくなった時、上記各電力用半導体素子のゲート駆動回路の出力電圧を低下させることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の半導体電力変換装置の過電流保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−148031(P2009−148031A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320902(P2007−320902)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】