説明

半導体ICの装填方法

【課題】 基板への装填に際してリードフレームの曲げ加工が必須の半導体ICにおいて、基板に対する接合強度を高める。
【解決手段】 半導体ICのリードフレームにスズ皮膜をメッキで形成し、リードフレームを曲げ加工し、当該スズ皮膜を介してICを回路基板に装着するICの装填方法において、リードフレームにアニール処理を施さず、且つ、スズ皮膜に代えて、スズと、ビスマス、銀、インジウムよりなる成長抑制金属とのスズ合金皮膜をリードフレームにメッキ形成するICの装填方法である。アニールの省略でCu3Sn層の形成を回避して曲げ加工時のクラックの発生を防止し、また、所定の添加金属の作用でアニールなしでも室温放置でメッキ皮膜への銅の拡散によるボイドを発生させず、接合強度を高く保持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体ICを回路基板に装填する方法に関して、ICのリードフレームにスズメッキ皮膜を形成し、リードフレームを曲げ加工して基板に装填する際に、IC基板に対する接合の信頼性を向上できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ICを回路基板に実装する際には、生産効率を向上し、特に基板実装後の接合強度を確保するため、ICリードフレームにスズメッキを施している。
この場合、ICリードフレームは銅又は銅合金製であるため、スズと銅は室温下でも相互に拡散し合うが、銅からスズへの拡散速度の方が非常に速く、金属間化合物(IMC(Intermetallic Compound);Cu6Sn5)が成長して銅側の原子が減少するため、例えば、特許文献1、或は非特許文献1に示すように、カーケンダルボイド(或はカーケンドールボイド;Kirkendall Voids)と呼ばれるボイド(空洞)が発生してしまう。ちなみに、図4はこの非特許文献1に掲載されたカーケンダルボイドの電子顕微鏡写真である(但し、便宜上、非特許文献1では短時間にボイドを発生させるために加熱している)。
その結果、ICを回路基板に実装した後の接合強度が低下し、最悪の場合にはICが基板から剥離する恐れもある。また、スズ皮膜が薄い場合には、拡散した銅がスズ皮膜の表面まで分布することがあり、はんだ濡れ性の劣化を招く原因にもなる。
【0003】
このため、コネクタ部品やチップセラミック積層部品では、ニッケルメッキをバリア層に用いて銅の拡散を防止している。
しかしながら、一般にニッケル皮膜は柔軟性がないうえ、実装に際してリードフレームを曲げ加工する必要がある半導体ICでは、この曲げ加工時にニッケル皮膜が割れてしまうため、IC皮膜にはニッケルを適用できないという問題がある。
【0004】
そこで、従来、半導体ICでは、ニッケル皮膜の形成に代えて、リードフレームをアニール処理することで、高温でしか形成せず、且つ緻密なIMC層であるCu3Snを形成し、これをバリア層として機能させて銅原子のスズ層への拡散を防止している。
尚、このCu3Sn層の形成は、前記Cu6Sn5層の成長を抑制するとともに、アニール処理が残留応力を緩和することで、ホイスカー発生を防止する機能も果している(例えば、特許文献2の段落2〜3には、スズ皮膜のアニールによるホイスカーの防止が記載されている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−97888号公報
【特許文献2】特開平5−247683号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】深町一彦、川内進 「リン青銅スズめっき材の熱はく離について」 表面技術 Vol.42,No.10(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本出願人は新たに、アニール処理で形成させた上記Cu3Sn層について、ICリードフレームの曲げ加工前には異常がないものが(図3参照)、リードフレームを曲げ加工すると、Cu3Sn層内にクラックが発生してしまうことを突き止めた(後述の比較例2に対応する図2参照)。
そして、リードフレームの外層スズメッキの内部深くに、つまり、リードフレームのスズ皮膜と銅素地との界面のIMC層内にクラックが発生すると、前述した室温での銅の拡散でカーケンダルボイドが発生した場合と同様に、ICを回路基板に実装した後の接合の信頼性にやはり問題が生じ、最悪の場合にはICが基板から剥離する恐れも出て来る。
【0008】
本発明は、基板への装填に際してリードフレームの曲げ加工が必要な半導体ICにおいて、基板への接合強度を確実に高めることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記Cu3Sn層を形成するためのアニールを回避して、ICと基板との接合強度を高く保持できる方法を鋭意研究した結果、スズ皮膜にビスマス、銀などの特定の金属を添加して、スズメッキ皮膜の特性を原子レベルで変化させることで(つまり、所定のスズ合金を形成することで)、アニールなしの条件下でも長時間の室温放置でメッキ皮膜への銅の拡散によるボイドを発生させず、また、アニールの省略で熱拡散によるCu3Sn層が形成されないため、ICリードフレームを曲げ加工してもクラックが発生せず、基板への接合強度を高く保持できることを見い出して、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明1は、半導体ICの銅又は銅合金製のリードフレームにスズ皮膜をメッキで形成し、リードフレームを曲げ加工するとともに、当該スズ皮膜を介してICを回路基板に装着する半導体ICの装填方法において、
上記リードフレームにアニール処理を施さないことにより、スズ皮膜とリードフレームとの界面でのCu3Sn層からなる金属間化合物の形成を回避し、且つ、
上記スズ皮膜に代えて、スズと、ビスマス、銀、インジウムよりなる群から選ばれた成長抑制金属とのスズ合金皮膜をリードフレームにメッキ形成して、
スズ合金皮膜とリードフレームとの界面で銅の拡散による金属間化合物が室温で成長することを抑制可能にしたことを特徴とする半導体ICの装填方法である。
【0011】
本発明2は、上記本発明1において、スズ合金中のビスマスの含有率が0.25〜5重量%、同じく銀の含有率が0.25〜5重量%、インジウムの含有率が0.25〜60重量%であることを特徴とする半導体ICの装填方法である。
【発明の効果】
【0012】
一般に、半導体ICのリードフレームにスズ皮膜をメッキすると、室温での銅拡散によりカーケンダルボイドが発生し、接合強度を低下させるため、従来では、リードフレームをアニール処理して、スズ皮膜と銅素地との界面にCu3Sn層からなるIMC層を形成してバリア層としていた。
しかしながら、半導体ICの実装に際してリードフレームを曲げ加工すると、このIMC層にクラックが発生するという新たな知見を得たことにより、本発明では、アニール処理を回避して、メッキ皮膜と銅素地との界面にIMC(Cu3Sn)層を形成しないため、曲げ加工でCu3Sn層にクラックが発生することを根本的に解消できる。
しかも、リードフレームにはスズ皮膜に替えて、ビスマス、銀などの所定の成長抑制金属を添加したスズ合金皮膜をメッキするため、室温での銅の拡散によるIMC(Cu6Sn5)の成長速度を弛緩させ、従来のようなカーケンダルボイドが発生することも解消できる。
このため、半導体ICを基板に装填する際の接合の信頼性を高められるうえ、メッキ皮膜が薄い場合でも、銅がスズ皮膜表面にまで拡散することもないため、ハンダ濡れ性は損なわれず、この点でも接合の信頼性を向上できる。
また、従来行っていたアニールを回避するため、生産コストを引き下げ、ICの装填を迅速化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、半導体ICのリードフレームにスズ皮膜をメッキで形成し、リードフレームを曲げ加工し、回路基板に装着する半導体ICの装填方法において、上記リードフレームのアニール処理を回避し、且つ、上記スズ皮膜に代えて、スズと、ビスマス、銀などの所定の成長抑制金属とのスズ合金皮膜をリードフレームにメッキ形成する半導体ICの装填方法である。
但し、本発明の半導体ICは、半導体LSIなどの集積度の高い半導体部品も包含する概念である。
【0014】
本発明では、スズ皮膜に代えて、スズと、ビスマス、銀、インジウムよりなる群から選ばれた所定の成長抑制金属とのスズ合金皮膜を半導体ICのリードフレーム上にメッキ形成する。
メッキ皮膜は電気メッキ、無電解メッキのいずれで形成しても良い。
例えば、電気メッキでは、可溶性第一スズ塩と、ビスマス、銀、インジウムよりなる群から選ばれた成長抑制金属の可溶性塩の少なくとも一種とを含有する電気メッキ浴を用いる。
可溶性第一スズ塩は、メッキ浴中でSn2+を生じる任意の化合物をいい、硫酸第一スズ、酸化第一スズ、塩化第一スズ、ホウフッ化第一スズ、スルファミン酸第一スズ、亜スズ酸塩などの無機系の可溶性塩、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸などの有機スルホン酸第一スズ塩、酢酸、ピロピオン酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸などの脂肪族カルボン酸第一スズ、スルホコハク酸第一スズなどの有機系の可溶性塩などが挙げられる。
当該可溶性第一スズ塩の含有量は1〜200g/L、好ましくは5〜100g/Lである。
【0015】
上記成長抑制金属の可溶性塩としては、メッキ浴中でBi3+、Ag+、In3+の各種金属イオンを生じる任意の化合物をいい、例えば、可溶性ビスマス塩であれば、酸化ビスマス、塩化ビスマス、臭化ビスマス、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、メタンスルホン酸ビスマスなどのように、ビスマスの酸化物、ハロゲン化物、或は、無機酸又は有機酸のビスマス塩などが挙げられる。可溶性銀であれば、酸化銀、硝酸銀、硫酸銀、炭酸銀、スルホコハク酸銀、クエン酸銀、酒石酸銀、シュウ酸銀、メタンスルホン酸銀、ホウフッ化銀などが挙げられる。可溶性インジウム塩も上記ビスマス塩などと同様に選択できる。
当該成長抑制金属の可溶性塩の含有量は金属ビスマスとして0.1〜40g/L、好ましくは0.5〜20g/L、金属銀として0.05〜20g/L、好ましくは0.1〜10g/L、金属インジウムとして1〜40g/L、好ましくは2〜20g/Lである。
【0016】
メッキ皮膜を形成する電気メッキ浴では、上記皮膜供給源としての可溶性金属塩以外に、無機酸、有機酸のベース酸、或は、必要に応じてビスマス、銀、インジウムの各種イオンを浴中で安定化する安定剤、界面活性剤、光沢剤、半光沢剤、酸化防止剤、pH調整剤、緩衝剤などの各種添加剤を含有することはいうまでもない。
無電解メッキで用いるメッキ浴では、基本的に電気メッキで用いた各種の可溶性金属塩を使用できる。この外に、チオ尿素或はその誘導体、EDTA、エチレンジアミン等の錯化剤、次亜リン酸又はその塩、アミンボラン類、水素化ホウ素化合物、ビドラジン誘導体等の還元剤などを含有することができる。
【0017】
本発明のリードフレームに形成するスズ合金は、スズと、ビスマス、銀、インジウムよりなる群から選ばれた成長抑制金属とのスズ合金であり、スズ−ビスマス合金、スズ−銀合金、スズ−インジウム合金の2成分系のスズ合金が基本であるが、スズ−銀−インジウム合金、スズ−ビスマス−インジウム合金などの3成分以上の多成分系のスズ合金も含まれる。
本発明2に示すように、スズ合金がスズ−ビスマス合金の場合、ビスマスの含有率は0.25〜5重量%が適しており、好ましくは0.5〜4重量%である。同じくスズ−銀合金の場合、銀の含有率は0.25〜5重量%が適しており、好ましくは1〜4重量%である。スズ−インジウム合金の場合、インジウムの含有率は0.25〜60重量%が適しており、好ましくは5〜50重量%である。
上記成長抑制金属の含有率が適正範囲より少ないと銅拡散の抑制効果が低減し、ボイドが発生する恐れがあり、適正範囲より多いとハンダ濡れ性に影響を与え、また、増量しても効果に余り差がなくコストの無駄である。
また、リードフレームに形成するスズ合金皮膜の膜厚は特に制限なく任意に選択できるが、1〜20μmが適しており、5〜15μmが好ましい。
【0018】
以上の通り、本発明では、リードフレームにアニール処理を施さないため、従来のアニール処理で生成するべきIMC層(Cu3Sn)の形成を回避でき、従って、曲げ加工でCu3Sn層にクラックが発生することを根本的に解消できる。
しかも、従来では、室温下でも銅がメッキ皮膜に速やかに拡散してカーケンダルボイドが発生していたのが、本発明では、リードフレームに所定のスズ合金メッキ皮膜を形成するため、アニール処理を施さないにも拘わらず、この成長抑制金属の添加作用で、従来のような銅拡散によるIMC(Cu6Sn5)の成長速度を弛緩させ、カーケンダルボイドの発生を回避することができる。
この結果、室温放置による当該ボイドの発生と、アニール後の曲げ加工によるIMC層でのクラックの発生との両方を防止でき、半導体ICを回路基板に実装した際の接合の信頼性を高く保持できる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の半導体ICの装填方法に関して、アニール処理を施すことなくICのリードフレームを曲げ加工する実施例、当該実施例でのリードフレームの曲げ加工部の断面の微視観察試験例を順次述べる。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0020】
《アニール回避方式によるICリードフレームの実施例》
実施例1はリードフレームにスズ−ビスマス合金メッキ皮膜を形成し、アニールを回避して曲げ加工した例、同じく実施例2はスズ−銀合金メッキ皮膜の形成例、実施例3はスズ−インジウム合金メッキ皮膜の形成例である。
一方、比較例1はスズメッキ皮膜を形成し、アニールを回避し、曲げ加工した例である。比較例2はスズメッキ皮膜を形成し、アニール処理を施して曲げ加工した例である。比較例3〜5は共に比較例2を基本としたもので、比較例3はスズ皮膜に代えてスズ−ビスマス合金メッキ皮膜を形成した例、比較例4はスズ皮膜に代えてスズ−銀合金メッキ皮膜を形成した例、比較例5はスズ皮膜に代えてスズ−インジウム合金メッキ皮膜を形成した例である。
【0021】
(1)実施例1
リード加工前の半導体ICは入手困難であるため、銅合金の一種であるCDA194材でリードフレームと同様な形状を有する試験片を製作し、下記(a)の組成のスズ−ビスマス合金メッキ浴を用いて下記(b)の条件で電気メッキを行い、下記(c)の組成及び膜厚のスズ−ビスマス合金メッキ皮膜を形成し、アニール処理を回避して、図6に示す通り、一般にJベンドと呼ばれる曲げ成形を模して、角度180度で曲げ加工した。
(a)スズ−ビスマス合金メッキ浴
石原薬品製のUTB PF-TIN15(可溶性第一スズ塩) :533g/L
石原薬品製のUTB PF-BI15(可溶性ビスマス塩) :26.7g/L
石原薬品製のUTB PF-ACID(有機スルホン酸) :125g/L
石原薬品製のUTB PF-05SH-A(半光沢剤) :30ml/L
石原薬品製のUTB PF-05SH-B(半光沢剤) :10ml/L
尚、上記可溶性第一スズ塩は15%溶液となっている。
(b)電気メッキの条件
浴温 :50℃
電流密度:10A/dm2
(c)スズ−ビスマス合金皮膜
膜厚 :10μm
析出組成:Sn/Bi=98/2
【0022】
(2)実施例2
実施例1の半導体ICのリードフレームに、下記(a)の組成のスズ−銀合金メッキ浴を用いて下記(b)の条件で電気メッキを行い、下記(c)の組成及び膜厚のスズ−銀合金メッキ皮膜を形成し、アニール処理を回避して、実施例1と同様の角度で曲げ加工した。
(a)スズ−銀合金メッキ浴
石原薬品製のUTB PF-TIN15(可溶性第一スズ塩) :433g/L
石原薬品製のUTB PF-AG(可溶性銀塩) :7g/L
石原薬品製のUTB PF-ACID(有機スルホン酸) :75g/L
石原薬品製のUTB MTS-554A(半光沢剤) :60ml/L
石原薬品製のUTB MTS-554B(半光沢剤) :50ml/L
(b)電気メッキの条件
浴温 :35℃
電流密度:10A/dm2
(c)スズ−銀合金皮膜
膜厚 :10μm
析出組成:Sn/Ag=96.5/3.5
【0023】
(3)実施例3
実施例1の半導体ICのリードフレームに、下記(a)の組成のスズ−インジウム合金メッキ浴を用いて下記(b)の条件で電気メッキを行い、下記(c)の組成及び膜厚のスズ−インジウム合金メッキ皮膜を形成し、アニール処理を回避して、実施例1と同様の角度で曲げ加工した。
(a)スズ−インジウム合金メッキ浴
メタンスルホン酸スズ :10g/L
スルファミン酸インジウム :10g/L
(2R,3S,4R,5R)−2,3,4,5,6
−ペンタヒドロキシヘキサン酸ナトリウム :80g/L
スルファミン酸ナトリウム :80g/L
アミド硫酸 :26g/L
硫酸アンモニウム :46g/L
トリエタノールアミン :2.3g/L
アンモニア水でpH3に調整
(b)電気メッキの条件
浴温 :25℃
電流密度:2A/dm2
(c)スズ−インジウム合金皮膜
膜厚 :10μm
析出組成:Sn/In=90/10
【0024】
(4)比較例1
実施例1の半導体ICのリードフレームに、下記(a)の組成のスズメッキ浴を用いて下記(b)の条件で電気メッキを行い、下記(c)の膜厚のスズメッキ皮膜を形成し、アニール処理を施さないで、実施例1と同様の角度で曲げ加工した。
(a)スズメッキ浴
メタンスルホン酸第一スズ :50g/L
メタンスルホン酸 :100g/L
ポリオキシエチレンβ-ナフトールエーテル(EO10モル) :10g/L
カテコール :1g/L
(b)電気メッキの条件
浴温 :40℃
電流密度:10A/dm2
(c)スズ皮膜
膜厚 :10μm
【0025】
(5)比較例2
比較例1の半導体ICのリードフレームに、下記(a)の組成のスズメッキ浴を用いて下記(b)の条件で電気メッキを行い、下記(c)の膜厚のスズメッキ皮膜を形成し、150℃、1時間の条件でアニール処理を施した後、実施例1と同様の角度で曲げ加工した。
(a)スズメッキ浴
下記に示す組成で建浴した。
メタンスルホン酸第一スズ :50g/L
メタンスルホン酸 :100g/L
ポリオキシエチレンβ-ナフトールエーテル(EO10モル) :10g/L
カテコール :1g/L
(b)電気メッキの条件
浴温 :40℃
電流密度:10A/dm2
(c)スズ皮膜
膜厚 :10μm
【0026】
(6)比較例3
実施例1の半導体ICのリードフレームに、前記実施例1と同様の条件で電気メッキを行ってスズ−ビスマス合金メッキ皮膜を形成し、比較例2と同条件でアニール処理を施した後、実施例1と同様の角度で曲げ加工した。
【0027】
(7)比較例4
実施例1の半導体ICのリードフレームに、前記実施例2と同様の条件で電気メッキを行ってスズ−銀合金メッキ皮膜を形成し、比較例2と同条件でアニール処理を施した後、実施例1と同様の角度で曲げ加工した。
【0028】
(8)比較例5
実施例1の半導体ICのリードフレームに、前記実施例3と同様の条件で電気メッキを行ってスズ−インジウム合金メッキ皮膜を形成し、比較例2と同条件でアニール処理を施した後、実施例1と同様の角度で曲げ加工した。
【0029】
《リードフレームの曲げ加工部の微視観察試験例》
そこで、上記実施例1〜3並びに比較例1〜5で得られた半導体ICのリードフレームについて、曲げ加工部におけるクラックの発生の有無を微視観察するとともに、曲げ加工したリードフレームをメッキ後、1000時間に亘り室温放置した後、ボイドの発生の有無を微視観察した。
【0030】
下表はその観察結果である。
ボイドの有無 クラックの有無
実施例1 なし なし
実施例2 なし なし
実施例3 なし なし
比較例1 あり なし
比較例2 なし あり
比較例3 なし あり
比較例4 なし あり
比較例5 なし あり
【0031】
上表によると、スズ皮膜を形成した比較例1では、リードフレームにアニール処理を施さないため、冒述の非特許文献1に掲載された電顕写真(図4参照)に示す通り、室温放置でカーケンダルボイドが発生したが、その反面、アニールの省略によりCu3Sn層の形成を回避できたため、クラックの発生は認められなかった。
同じくスズ皮膜を形成した比較例2では、アニール処理を施したため、室温放置でボイドは発生しなかったが、銅拡散により生成したCu3Sn層にクラックの発生が認められた(図2のIMC層に沿って走る空洞列を参照)。
【0032】
これに対して、スズ−ビスマス合金皮膜を形成してアニール処理を回避した実施例1では、長時間の室温放置でもボイドは発生せず、また、アニールの省略によりCu3Sn層の形成を回避できたため、クラックの発生も認められなかった(図1のIMC層には空洞列は見られず)。尚、図1に示すように、当該実施例1のメッキ皮膜と銅素地の界面では、IMC層は非常に薄くしか生成していないことが分かる。
但し、同じくスズ−ビスマス合金皮膜を形成した比較例3では、アニール処理を施したので、室温放置でボイドは発生しなかったが、銅拡散により生成したCu3Sn層にクラックの発生が認められた(図5のIMC層には空洞が多く見られた)。これにより、スズ皮膜に代えてスズ−ビスマス合金皮膜を形成した場合でも、アニール処理をした後に曲げ加工すると、クラックの発生が確認できたことから、曲げ加工が前提のICリードフレームでは、スズ−ビスマス合金を形成し、且つ、アニール処理を施さないことが、クラック並びにボイドの発生を阻止する必要条件であることが判断できた。
また、スズ−銀合金皮膜を形成した実施例2、スズ−インジウム合金皮膜を形成した実施例3においても、実施例1と同様に、室温放置でのボイドの発生はなく、また、アニールの回避により曲げ加工によるクラックの発生も認められなかった。但し、アニール処理をして曲げ加工した比較例4〜5では、比較例3と同様に、曲げ加工部にクラックが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1(スズ−ビスマス合金皮膜/アニールなし)の曲げ加工部の電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【図2】比較例2(スズ皮膜/アニールあり)の曲げ加工部の電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【図3】比較例2の曲げ加工前の電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【図4】非特許文献1に掲載された電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例3(スズ−ビスマス合金皮膜/アニールあり)の曲げ加工部の電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【図6】ICリードフレームを曲げ加工する際の曲げ角度を示す拡大写真(倍率60倍)である。
【図7】ICリードフレームの曲げ加工部を示す拡大写真(倍率2.3倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ICの銅又は銅合金製のリードフレームにスズ皮膜をメッキで形成し、リードフレームを曲げ加工するとともに、当該スズ皮膜を介してICを回路基板に装着する半導体ICの装填方法において、
上記リードフレームにアニール処理を施さないことにより、スズ皮膜とリードフレームとの界面でのCu3Sn層からなる金属間化合物の形成を回避し、且つ、
上記スズ皮膜に代えて、スズと、ビスマス、銀、インジウムよりなる群から選ばれた成長抑制金属とのスズ合金皮膜をリードフレームにメッキ形成して、
スズ合金皮膜とリードフレームとの界面で銅の拡散による金属間化合物が室温で成長することを抑制可能にしたことを特徴とする半導体ICの装填方法。
【請求項2】
スズ合金中のビスマスの含有率が0.25〜5重量%、同じく銀の含有率が0.25〜5重量%、インジウムの含有率が0.25〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載の半導体ICの装填方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−245217(P2010−245217A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90911(P2009−90911)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(509097356)
【Fターム(参考)】