説明

半導電性フィルム、その製造方法及び電荷制御部材

【課題】ポリフェニレンスルフィドと導電性フィラーを含有する樹脂組成物から形成され、厚みと体積抵抗率のバラツキが小さく、力学的特性に優れ、かつ力学的特性の異方性が少ない半導電性フィルムを提供する。
【解決手段】ポリフェニレンスルフィドと導電性フィラーを含有する樹脂組成物から形成され、厚みが20〜250μmで、厚みの最大値が最小値の1.0〜1.3倍、体積抵抗率が1.0×102〜1.0×1014Ωcmで、体積抵抗率の最大値が最小値の1〜30倍、かつ示差走査熱量計による熱分析により100〜150℃の範囲内に10J/g以上の結晶化吸熱(ΔH)を有するピークが検知される半導電性フィルム、及びリップクリアランスと冷却ロール温度を制御する該半導電性フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略記)及び導電性フィラーを含有する樹脂組成物を押出成形した半導電性フィルムとその製造方法に関する。また、本発明は、該半導電性フィルムを用いて形成した電荷制御部材に関する。本発明の半導電性フィルムは、電子写真方式や静電記録方式の画像形成装置において、帯電ローラ(半導電性フィルム被覆ローラ)、帯電ベルト、転写ベルトなどの各種電荷制御部材としての用途に好適である。
【背景技術】
【0002】
半導電性領域の体積抵抗率を持つ合成樹脂フィルムは、電荷制御部材(Charge Controlling Members)の原料として、様々な技術分野で使用されている。電荷制御部材が用いられる代表的な技術分野としては、電子写真方式(静電記録方式を含む)を利用した電子写真複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリなどの画像形成装置が挙げられる。
【0003】
電子写真複写機では、一般に、(1)感光体表面を均一かつ一様に帯電させる帯電工程、(2)帯電した感光体表面をパターン状に露光して静電潜像を形成する露光工程、(3)感光体表面の静電潜像に現像剤(トナー)を付着させて可視像(トナー像)を形成する現像工程、(4)感光体表面のトナー像を転写材(例えば、転写紙、OHPシート)上に転写する転写工程、(5)転写材上のトナー像を融着させる定着工程、(6)感光体表面の残留トナーを清掃するクリーニング工程、及び(7)感光体表面の残留電荷を消滅させる除電工程を含む一連の工程によって、画像が形成されている。
【0004】
電子写真方式の画像形成装置においては、前記各工程での機能を担うために、ベルト、ローラ、ドラム、ブレードなどの各種形状を有する多数の部材が配置されている。このような部材としては、例えば、帯電部材(例えば、帯電ベルト、帯電ローラ)、感光体ドラム(例えば、感光体層とそれを支持するためのベルト状またはローラ状支持体)、現像部材(例えば、現像ローラ、現像ベルト)、現像剤層厚規制部材(例えば、トナー層厚規制ブレード)、転写部材(例えば、転写ベルト、中間転写ベルト、転写ローラ)、クリーニング部材(例えば、クリーニングブレード)、除電部材(例えば、除電ブレード、除電ベルト、除電ローラ)、転写材搬送部材が挙げられる。
【0005】
ベルト部材は、通常、エンドレスベルト(シームレスベルト)またはチューブの形状を有している。ローラ部材は、例えば、ローラ基体上に樹脂またはゴムの被覆層を設けた被覆ローラである。被覆層は、樹脂フィルムを用いて形成されることがある。
【0006】
前記各工程では、静電気または電荷を厳密に制御する必要があるため、各工程で使用される部材の多くは、適度の導電性を有することが求められている。例えば、帯電ベルトを用いた帯電方式では、電圧を印加した帯電ベルトを感光体表面に接触させることにより、帯電ベルトから感光体表面に直接電荷を与えて帯電させている。
【0007】
非磁性一成分現像剤を用いた現像方式では、感光体(感光ドラム)に対向して現像ローラを配置し、現像ローラとトナー供給ローラとの間の摩擦力により、トナーを現像ローラ表面に帯電状態で付着させ、これをトナー層厚規制ブレードで均一な厚みにならした後、感光体表面の静電潜像に対して電気吸引力により移行させている。エンドレスベルトを用いた転写方式では、エンドレスベルトにより転写材を搬送するとともに、該ベルトにトナーとは逆極性の電荷を付与して転写電界を形成し、クーロン力で感光体表面のトナー像を転写材上に転写している。
【0008】
このような各種部材の多くは、それぞれの機能を発揮するために、部材全体または少なくとも表面層が適度の導電性を有すること、より具体的には、半導電性領域に属する102〜1014Ωcm、好ましくは103〜1014Ωcmの範囲内の体積抵抗率を有することが求められている。これらの部材は、半導電性であることにより、電荷制御機能を発揮することができるため、電荷制御部材であるということができる。近年、このような電荷制御部材として、適度の導電性を付与した合成樹脂材料により形成された部材が汎用されるに至っている。
【0009】
インクジェット方式のプリンターにおいても、紙搬送部材(例えば、ベルト)の電荷を制御することによって、紙の吸着、搬送、分離、付着物のクリーニングなどの各工程が実施されており、紙搬送部材として電荷制御部材が用いられている。合成樹脂製の壁紙やOA機器外装材においても、塵埃吸着防止のため、半導電性を有することが望まれている。
【0010】
合成樹脂材料により形成された電荷制御部材には、半導電性領域の体積抵抗率を有することに加えて、該部材の場所による体積抵抗率のバラツキが小さいことが好ましく、実質的に均一であることがより好ましい。例えば、体積抵抗率のバラツキが大きい帯電ベルトを用いると、感光体表面を均一に帯電させることができない。体積抵抗率のバラツキが大きい転写ベルトを用いると、感光体表面のトナー像を正確に転写材上に転写することができない。その結果、高品質の画像を得ることができなくなる。
【0011】
同様に、電荷制御部材には、厚みが均一であって、場所による厚みのバラツキが小さいことが要求されている。例えば、厚みのバラツキが大きい転写ベルトを用いると、感光体表面のトナー像を正確に転写材上に転写することができない。
【0012】
合成樹脂材料により形成された電荷制御部材には、高度の耐久性を有することが求められている。例えば、電荷制御部材がエンドレスベルトである場合には、2本以上のロールを用いて長期間にわたって駆動される。電荷制御部材が被覆ローラである場合には、高速回転させられる。そのため、電荷制御部材には、このような過酷な稼動条件に耐えるだけの十分な耐久性が必要とされる。
【0013】
機械的特性としては、特に引張弾性率と引張破断伸びが共に優れていることが望ましい。例えば、ベルトの引張弾性率が低すぎると、ベルトに歪みが生じて、それ自体の耐久性が損なわれるだけではなく、中間転写ベルトの場合には、ベルト上に転写されたトナー像の歪みや色ずれの原因となる。電荷制御部材の引張破断伸びが低すぎると、柔軟性が不足して、割れが発生し易くなる。
【0014】
電荷制御部材は、高温雰囲気下で使用されることが多く、しかも電子写真複写機に装着されている電荷制御部材は、100Vから数kVまたはそれ以上の高電圧が印加される場合があるため、スパークや加熱による引火の危険に曝されている。このため、合成樹脂材料により形成された電荷制御部材には、耐熱性と難燃性に優れていることが求められている。
【0015】
フッ素樹脂に導電性カーボンブラックを分散させた樹脂組成物から形成されたフィルムは、半導電性領域の体積抵抗率を示し、耐熱性と難燃性に優れている。しかし、該フィルムは、場所による体積抵抗率のバラツキが大きく、しかも使用後の焼却処分が難しい。
【0016】
熱可塑性ポリエステル樹脂に導電性カーボンブラックを分散させた樹脂組成物から形成されたフィルムは、場所による体積抵抗率のバラツキが大きいことに加えて、70℃でのクリープが大きいという問題がある。該フィルムから形成されたベルトは、クリープが大きすぎるため、駆動ローラの型がついて変形し易く、また、ベルトの歪みで画像不良を発生し易い。電荷制御部材や該部材を装備した画像形成装置などの機器を車や船舶で輸送する場合、車内や船内温度は70℃程度の高温になることが多い。そのため、電荷制御部材には、70℃程度の高温でのクリープが小さいことが求められる。
【0017】
電子写真方式の複写機などの画像形成装置の内部は、稼動中、比較的高温状態になる。合成樹脂材料により形成された電荷制御部材は、そのような高温条件下で変形したり、他の部材に溶着したりしないだけの耐熱性を有することが必要である。特に、転写ベルトなどのベルト部材は、静止時も2本以上の駆動ロールによって張力が掛けられているため、高温での伸びなどの永久変形が小さなこと、換言すれば、高温でのクリープが極力小さいことが必要である。電荷制御部材に要求される耐熱温度は、用途や電荷制御部材を装着した機器の設計によって異なってくるが、例えば、転写ベルトの場合50〜70℃程度である。
【0018】
ポリイミド樹脂は、耐熱性などの諸特性に優れており、ポリイミド樹脂に導電性カーボンブラックを分散させた樹脂組成物からなるフィルムやベルトが知られている。しかし、ポリイミド樹脂の多くは、溶融押出成形が困難であるため、ポリイミド前駆体を含有するワニスを用いた湿式成形法によりフィルムやベルトなどの成形物を成形する必要があり、多大な製造コストを必要とする。ワニス中での導電性カーボンブラックの不均一分散により、成形物の場所による体積抵抗率のバラツキも大きい。
【0019】
適度な柔軟性と弾性率を備え、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐疲労性、耐摩耗性、摺動性、及びクリープ特性に優れた樹脂材料として、PPSが好適である。そのため、従来より、PPSを用いた各種の半導電性成形物が提案されている。
【0020】
従来、PPSまたはポリスルホンからなる硫黄系熱可塑性樹脂に、導電性カーボンブラックの如き導電性フィラーを配合した樹脂組成物を、環状ダイ付き押出機に供給し、環状ダイ下方に溶融チューブ状態で押し出し、得られたチューブを輪切りにしてシームレスベルトにする方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0021】
特許文献1に開示されている方法によれば、難燃性に優れた半導電性のシームレスベルトを得ることができる。しかしながら、従来の環状ダイを用いた製膜法の条件を採用すると、厚みが均一なシームレスベルトを得ることが困難である。また、環状ダイを用いた製膜法により得られたシームレスベルトは、製膜時の樹脂の流れ方向(押出方向;MD)に裂け易いという欠点を有している。
【0022】
また、特許文献1に開示されている方法により得られたシームレスベルトは、張架している数本のローラを通過する際に受ける繰り返し屈曲に対する耐性(屈曲耐久性)が十分ではなく、使用時に割れが発生し易いことが指摘されている。そこで、これらの問題点を解決するために、PPSに、エポキシ基含有オレフィン共重合体とビニル系(共)重合体とからなるグラフト共重合体、導電性フィラー及び滑材を含有させた樹脂組成物からなる中間転写ベルトが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0023】
特許文献2には、PPS、導電性カーボンブラック、グラフト共重合体及び滑材を溶融混練して樹脂混合物とし、該樹脂混合物を単軸押出機に供給し、スリット状でシームレスベルト形状の吐出口を有する環状ダイスからシームレスベルト状に押し出し、吐出先に設けた冷却筒に外挿させて冷却固化することにより、シームレス円筒状の中間転写ベルトを得たことが記載されている(実施例)。特許文献2に開示されている方法によれば、前記グラフト共重合体を配合することにより、PPSの脆化を防ぎ、屈曲耐久性が改良されたシームレスベルトを得ることができる。
【0024】
しかし、特許文献2で採用されている環状ダイを用いる方法では、前記したとおり、厚みの均一なシームレスベルト(フィルム)を得ることが困難である。また、特許文献2に記載の樹脂混合物から得られるフィルムは、表面粗度が大きくなり易いという欠点があった。しかも、この樹脂混合物は、押出成形の際、押出機内での樹脂混合物の僅かな滞留でも、グラフト共重合体に含まれる反応性のエポキシ基がゲルを発生させるため、ロングラン性に劣る。さらに、得られたフィルムは、引張弾性率が低くなったり、難燃性が悪くなったりする傾向があった。
【0025】
PPSフィルムの製膜法として、環状ダイを用いる方法の他に、(1)非晶性のPPSフィルム(未延伸フィルム)を一軸または二軸延伸する方法、(2)Tダイ法により非晶性または結晶性のPPSフィルムを得る方法がある。しかし、これらの方法は、導電性フィラーを含有するPPS樹脂組成物の製膜法として必ずしも適していないことが判明した。
【0026】
導電性フィラーを含有するPPS樹脂組成物を用いて形成した非晶性の未延伸フィルムを延伸すると、延伸によって樹脂とフィラーが配向するために、得られた延伸フィルムは、未延伸フィルムと比較して極端に体積抵抗率が高くなる。また、配向状態の僅かな違いによって体積抵抗率が大きく変化するため、電気的特性が均一なフィルムを得ることが極めて困難である。さらに、延伸による体積抵抗率の上昇分を加味して、未延伸フィルム中の導電性フィラーの配合割合を高めると、延伸時にフィルムが破断し易くなる。
【0027】
Tダイ法は、一般に、樹脂材料を押出機の先端に装着したTダイからフィルム状に溶融押出し、次いで、溶融状態のフィルムを冷却ロールに密着させて冷却固化してフィルムを製造する方法である。
【0028】
PPSを含有する樹脂材料は、一般に、Tダイ法によりフィルムに成形することができる。例えば、PPSに炭酸カルシウムの如き無機フィラーを配合した樹脂混合物をペレット化し、このペレットを一軸押出機に供給し、310℃で溶融させた後、リップ幅1200mm、リップ間隔(リップクリアランス)1.5mmのTダイからフィルム状に押出し、次いで、押出された溶融フィルムに静電気を印加させて、表面温度25℃のキャスティングドラム(冷却ロール)に密着冷却固化させて、PPSフィルムを製造する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0029】
また、ガラスフレークの如き扁平度が5〜120の無機フィラーを含有するPPS樹脂組成物のペレットを、単軸押出機に供給し、320℃の温度で溶融し、幅20mm、間隔(リップクリアランス)1.0mmの直線状のリップを有するTダイから押出し、表面温度を20℃に保った金属ドラム(冷却ロール)上に静電印加キャストして冷却固化してフィルムを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0030】
特許文献3及び4に開示されている製膜法によれば、PPS樹脂組成物から均一な厚みのフィルムを成形することができる。しかし、特許文献3及び4に開示されているTダイ法による製膜法は、導電性フィラーを含有するPPS樹脂組成物の製膜法にそのまま適用することができないことが判明した。
【0031】
Tダイ法によれば、Tダイから溶融押出した直後の溶融状態のフィルムを20〜25℃の低温に保持した冷却ロールに密着させて冷却固化させながら引き取ることにより、厚みの均一なフィルムを得ることができる。溶融状態のフィルムを冷却ロールに密着させるには、該フィルムの近傍に1〜3kVに印加した導線を張ることにより、該フィルムを静電気力で冷却ロールに密着させる方法(ピニング法または静電印加法)が一般に採用されている。
【0032】
しかし、導電性フィラーを含有するPPS樹脂組成物から成形された溶融状態のフィルムは、帯電し難いため、ピニング法により静電印加して冷却ロールに密着させることができない。また、該フィルムに強く静電印加すると、導線から該フィルムに放電する。ピニング法を用いることなく、溶融状態のフィルムを引取ロールに密着させる別の方法として、冷却ロールの温度を130〜200℃の高温にする方法がある。しかし、PPS樹脂を含有する樹脂組成物からなる溶融状態のフィルムを130〜200℃の高温の冷却ロールと接触させて冷却固化させると、PPSの結晶化が進み過ぎて、得られたフィルムが脆くなる。
【0033】
Tダイ法により厚みが薄いPPSフィルムを製造する場合の別な問題点としては、樹脂を均一な厚さに制御することが困難で、かつフィルムが縦方向(MD)に裂け易くなる傾向がある点である。導電性フィラーを含有するPPS樹脂組成物を用いた場合には、厚みのバラツキや力学的特性(機械的性質)の異方性に加えて、体積抵抗率のバラツキが大きくなるという問題がある。
【0034】
【特許文献1】特開平11−149222号公報
【特許文献2】特開2004−94095号公報
【特許文献3】特開2003−213013号公報
【特許文献4】特開07−041674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明の課題は、ポリフェニレンスルフィドと導電性フィラーとを含有する樹脂組成物から形成された半導電性フィルムであって、厚みのバラツキと体積抵抗率のバラツキが小さい半導電性フィルムを提供することにある。
【0036】
また、本発明の課題は、ポリフェニレンスルフィドと導電性フィラーとを含有する樹脂組成物から形成された半導電性フィルムであって、前記特性に加えて、引裂強さ、引張破断伸び、屈曲耐久性、引張弾性率などの力学的特性に優れ、かつこれら力学的特性の異方性が少なく、しかも耐熱性と難燃性に優れた半導電性フィルムを提供することにある。
【0037】
さらに、本発明の課題は、前記の如き優れた諸特性を有する半導電性フィルムから形成されたベルト、チューブ、ブレードなどの電荷制御部材を提供することにある。
【0038】
本発明の他の目的は、前記の如き優れた諸特性を有する半導電性フィルムを、導電性フィラーを含有するPPS樹脂組成物を用いて、Tダイ法により製造する方法を提供することにある。
【0039】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行う過程で、導電性フィラーを含有するPPS樹脂組成物をTダイ法により製膜すると、厚みや体積抵抗率のバラツキが大きくなり、力学的特性の異方性が現れやすくなる原因として、Tダイのリップからフィルムに溶融押出する際に生じるネックインが大きいことにあることを突き止めた。そこで、本発明者らは、Tダイのリップクリアランスを、従来技術で採用されていた1.0mmや1.5mmよりも、十分に小さくする方法に想到した。Tダイのリップクリアランスを従来技術よりも十分に小さくすることにより、Tダイからの溶融押出時における溶融状態のフィルムのネックインを緩和することができる。
【0040】
しかし、Tダイのリップクリアランスを小さくするだけでは、冷却ロールを用いた冷却固化に伴う問題点を解決することができない。すなわち、前記したとおり、導電性フィラーを含有するPPS樹脂組成物を用いて成形した溶融状態のフィルムは、半導電性のためピニング法による静電印加ができないことから、冷却ロールの温度を20〜25℃のような低温にすると、冷却ロールに密着させることが極めて困難である。冷却ロールの温度を130〜200℃という高温にすると、溶融状態のフィルムを冷却ロールに密着させることができるものの、冷却固化時にPPSの結晶化が進行し過ぎて、冷却固化後に得られたフィルムが脆くなる。そこで、本発明者らは、冷却ロールの温度を60〜120℃に制御することにより、溶融状態のフィルムの冷却ロールへの密着性と力学的特性を満足させ得ることを見出した。
【0041】
本発明の方法により得られた半導電性フィルムは、厚みと体積抵抗率のバラツキが小さく、さらに、引裂強さ、引張破断伸び、屈曲耐久性、引張弾性率などの力学的特性に優れ、かつこれら力学的特性の異方性が少ない。本発明の半導電性フィルムは、PPS自体が有する耐熱性と難燃性が損なわれることがなく、これらの特性にも優れている。
【0042】
ダイのリップクリアランスと冷却固化温度を調節する方法は、環状ダイを用いて製膜する方法にも適用することができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0043】
本発明によれば、ポリフェニレンスルフィド(A)、及び該ポリフェニレンスルフィド100重量部に対して5〜40重量部の導電性フィラー(B)を含有する樹脂組成物から形成された半導電性フィルムであって、
(a)厚みの平均値が20〜250μmの範囲内で、かつ厚みの最大値が最小値の1.0〜1.3倍の範囲内であり、
(b)体積抵抗率の平均値が1.0×102〜1.0×1014Ωcmの範囲内で、かつ体積抵抗率の最大値が最小値の1〜30倍の範囲内であり、並びに
(c)示差走査熱量計による熱分析により、100〜150℃の範囲内に10J/g以上の結晶化吸熱(ΔH)を有するピークが検知される、
との特性(a)乃至(c)を有することを特徴とする半導電性フィルムが提供される。
【0044】
また、本発明によれば、前記半導電性フィルムを用いて形成された電荷制御部材が提供される。
【0045】
さらに、本発明によれば、ポリフェニレンスルフィド(A)、及び該ポリフェニレンスルフィド100重量部に対して5〜40重量部の導電性フィラー(B)を含有する樹脂組成物を押出機に供給し、押出機に装着したダイからフィルム状に溶融押出し、次いで、溶融状態のフィルムを冷却固化する半導電性フィルムの製造方法において、
(1)押出機に供給した樹脂組成物を、樹脂温度280〜350℃で、0.1〜0.8mmのリップクリアランスに調節したTダイからフィルム状に溶融押出する工程1、並びに
(2)溶融状態のフィルムを60〜120℃の温度に制御した冷却ロールと接触させて冷却固化する工程2
からなる連続的な工程1及び2を含むことを特徴とする半導電性フィルムの製造方法が提供される。
【0046】
さらにまた、本発明によれば、ポリフェニレンスルフィド(A)、及び該ポリフェニレンスルフィド100重量部に対して5〜40重量部の導電性フィラー(B)を含有する樹脂組成物を押出機に供給し、押出機に装着したダイからフィルム状に溶融押出し、次いで、溶融状態のフィルムを冷却固化する半導電性フィルムの製造方法において、
(I)押出機に供給した樹脂組成物を、樹脂温度280〜350℃で、0.1〜0.8mmのリップクリアランスに調節した環状ダイからチューブ状に溶融押出する工程I;
(II)溶融状態のチューブを60〜120℃の温度に制御した冷却マンドレルに通して冷却固化する工程II;
からなる連続的な工程I及びIIを含むことを特徴とするチューブ状の半導電性フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0047】
本発明の方法により得られた半導電性フィルムは、厚みと体積抵抗率のバラツキが小さく、さらに、引裂強さ、引張破断伸び、屈曲耐久性、引張弾性率などの力学的特性に優れ、かつこれら力学的特性の異方性が少ない。本発明の半導電性フィルムは、PPS自体が有する耐熱性と難燃性が損なわれることがなく、これらの特性にも優れている。本発明の半導電性フィルムは、例えば、電子写真方式の画像形成装置に配置されている各種樹脂部材として好適な特性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
1.ポリフェニレンスルフィド(PPS)
本発明で使用するPPSは、フェニレン単位(−Ph−)と硫黄原子(S)とが交互に並んだ構造(−Ph−S−)の繰り返し単位を有する熱可塑性樹脂である。フェニレン単位は、置換基を有していてもよい。フェニレン単位としては、p−フェニレン単位、m−フェニレン単位、及びo−フェニレン単位があり、それらの単位が混合して存在してもよい。
【0049】
フェニレン単位は、p−フェニレン単位を含むことが好ましい。p−フェニレン単位の含有量は、全フェニレン単位に対して50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。その他のフェニレン単位は、m−フェニレン単位またはo−フェニレン単位またはこれらの混合物である。
【0050】
本発明で使用するPPSは、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位が好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上であれば、共重合可能なスルフィド結合を有する他の繰り返し単位が含まれていてもよい。本発明のPPSが共重合体である場合、共重合の仕方は、ランダムでもブロックでもよい。本発明で使用するPPSは、無置換のp−フェニレン単位を含むポリ−p−フェニレンスルフィドであることが最も好ましい。PPSは、架橋構造を有していてもよいが、好ましくは架橋構造を持たない線状PPSである。
【0051】
本発明で使用するPPSの溶融粘度(温度310℃、剪断速度1200/secで測定)は、好ましくは80〜1000Pa・s、より好ましくは100〜600Pa・s、特に好ましくは150〜300Pa・sである。PPSの溶融粘度が低すぎると、フィルムに押出加工するのが困難になる。PPSの溶融粘度が高すぎると、得られたフィルムの力学的特性に異方性が発生したり、体積抵抗率にバラツキが生じたりし易くなる。
【0052】
2.導電性フィラー
本発明で使用する導電性フィラーは、特に制限されず、例えば、導電性カーボンブラック、黒鉛粉末、金属粉末、表面を導電処理した酸化金属ウィスカーが挙げられる。これらの中でも、体積抵抗率の制御性や力学的特性の観点から、導電性カーボンブラックが特に好ましい。
【0053】
本発明で使用する導電性カーボンブラックは、導電性を有するものであれば特に制限されないが、アセチレンブラックやオイルファーネスブラックに代表される導電性グレードのカーボンブラックが好ましい。導電性カーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
導電性カーボンブラックの導電性は、一般に、比表面積とストラクチャーに比例し、揮発分に反比例する。導電性カーボンブラックの比表面積は、液体窒素吸着法(BET吸着等温式)による窒素比表面積(m2/g)として測定することができる。カーボンブラックのストラクチャーは、粒子の連鎖を意味し、DBP吸油量によってその程度が表わされる。カーボンブラックの製造中に化学吸着した酸素化合物がカーボンブラックの表面に形成され、この揮発分が絶縁体として機能し、カーボンブラックの導電性を低下させる。導電性カーボンブラックの導電性の程度は、下記式(1)
(比表面積×DBP吸油量)1/2/(1+揮発分) (1)
により算出される導電性指標によって表わすことができる。
【0055】
DBP吸油量は、導電性カーボンブラック100g当りに包含される油のml数であり、常法に従って、ジブチルフタレートアブソープトメータを用いて測定することができる。より具体的に、DBP吸油量は、ASTM D2414に規定された方法に従って測定することができる。測定装置(Absorptometer)のチャンバー内に導電性カーボンブラックを入れ、該チャンバー内に、一定速度でDBP(n−ジブチルフタレート)を加える。DBPを吸収するに従い、導電性カーボンブラックの粘度は上昇するが、その粘度がある程度に達した時までに吸収したDBPの量に基づいてDBP吸油量を算出する。粘度の検出は、トルクセンサーで行う。
【0056】
本発明で使用する導電性カーボンブラックのDBP吸油量は、通常30〜700ml/100g、好ましくは80〜500ml/100g、より好ましくは100〜400ml/100gである。DBP吸油量が低すぎる導電性カーボンブラックを用いると、半導電性フィルムの体積抵抗率を所望の半導電性領域内に制御することが困難となる。DBP吸油量が高すぎる導電性カーボンブラックは、PPSへの分散が悪くなり易い。DBP吸油量が異なる2種以上の導電性カーボンブラックを組み合わせて使用することもできる。
【0057】
導電性カーボンブラックの窒素比表面積は、好ましくは50〜2000m2/g、より好ましくは60〜1500m2/gである。導電性カーボンブラックの揮発分の含有量は、通常2.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以下、特に好ましくは1.0重量%以下である。揮発分とは、950℃での加熱脱着ガス量(重量%)である。本発明で使用する導電性カーボンブラックの導電性指標は、好ましくは50〜500、より好ましくは60〜400、特に好ましくは65〜350である。
【0058】
本発明で使用する導電性カーボンブラックなどの導電性フィラーの体積抵抗率は、好ましくは102Ωcm未満、より好ましくは10Ωcm以下、特に好ましくは10-1Ωcm以下である。導電性フィラーの体積抵抗率が高すぎると、半導電性フィルムの体積抵抗率を半導電性領域内に制御することが困難となる。導電性フィラーの体積抵抗率の下限は、通常、金属粉末や金属繊維などの金属材料の体積抵抗率である。
【0059】
本発明で使用する導電性フィラーの平均粒径(レーザー回折/散乱法)は、半導電性フィルムの厚みよりも十分に小さいことが望ましい。導電性フィラーの粒径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは1μm以下である。導電性フィラーの粒径が大きすぎると、半導電性フィルムの裏表で電気の短絡が生じ易く、しかも該フィルムの表面の平滑性を損ね易い。導電性カーボンブラックの一次粒子の粒径(d50;電子顕微鏡測定)は、通常10〜100nm、好ましくは15〜50nmである。導電性カーボンブラックは、一般に、一次粒子が凝集体(アグリゲート)を形成している。アセチレンブラックのように、黒鉛化率が高く、油分が少ない導電性カーボンブラックゐ使用すると、半導電性フィルムの難燃性の低下を最小限にすることができる。
【0060】
導電性フィラーの配合割合は、PPS100重量部に対して、5〜40重量部である。導電性フィラーの配合割合は、使用する導電性フィラーの種類によって異なるが、好ましくは6〜30重量部、より好ましくは7〜20重量部、特に好ましくは8〜15重量部である。導電性フィラーの配合割合が大きすぎると、半導電性フィルムの体積抵抗率が低くなりすぎたり、力学的特性が低下することがある。導電性フィラーの配合割合が小さすぎると、半導電性フィルムの体積抵抗率を所望の半導電性領域内に制御することが困難となる。
【0061】
3.その他の熱可塑性樹脂
本発明の目的・効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を少量併用することが可能である。他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な耐熱性の熱可塑性樹脂が好ましく、その具体例としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂を挙げることができる。他の熱可塑性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
その他の熱可塑性樹脂の配合割合は、PPS100重量部に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは5重量部以下、特に好ましくは1重量部以下である。
【0063】
4.その他の充填剤
本発明の目的・効果を損なわない範囲で、導電性フィラー以外の各種充填剤を添加することができる。他の充填剤としては、一般に、合成樹脂に添加される公知の添加剤、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウムウィスカーなどの繊維状無機充填剤;ガラスビーズ、タルク、マイカ、酸化チタン、炭酸リチウム、炭酸カルシウムなどの粒状または板状の無機充填剤;が挙げられる。他の充填剤は、それぞれ単独で,あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
本発明の半導電性フィルムは、必要に応じて、他の充填剤を、樹脂成分100重量部に対して、通常0〜100重量部、好ましくは0〜30重量部、より好ましくは0〜10重量部、特に好ましくは0〜2重量部の範囲で配合することができる。充填剤の配合率が高すぎると、半導電性フィルムが脆くなる。
【0065】
5.その他の添加剤
本発明で使用するPPS樹脂組成物には、前記以外のその他の添加剤として、例えば、2−ヒドロキシ−4−オクトシキベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤;ヒンダードフェノール等の酸化防止剤;熱安定剤等の安定剤;ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸、ポリエチレンワックス、グリセロールトリステアレート等の潤滑剤;ボロンナイトライドのような結晶化促進剤;帯電防止剤;抗菌剤;赤燐粉末のような難燃材;染料、顔料等の着色剤;を配合することができる。半導電性フィルムの耐久性の観点からは、これら添加剤の配合量は少ない方が好ましく、配合しないことがより好ましい。
【0066】
6.半導電性フィルム
本発明の半導電性フィルムは、厚みと体積抵抗率のバラツキが小さく、力学的特性に優れ、かつ力学的特性の異方性が小さい。本発明の半導電性フィルムが力学的特性に優れていることは、引裂強さ、引張破断伸び、屈曲耐久性及び引張弾性率が高い値を示すことから明らかである。本発明の半導電性フィルムは、示差走査熱量計による熱分析により、100〜150℃の範囲内に10J/g以上の結晶化吸熱(ΔH)を有するピークが検知されることから、PPSの結晶化度が低く、引張破断伸びや屈曲耐久性に優れている。
【0067】
本発明の半導電性フィルムは、力学的特性の異方性が小さく、均質性に優れている。力学的特性の異方性が小さいことは、任意方向で測定した引裂強さ、引張破断伸び、屈曲耐久性及び引張弾性率の値が互いに近似しており、多くの場合、実質的に同じであることから明らかである。
【0068】
Tダイ法等の押出成形法によりフィルムを成形すると、一般に、縦方向(MD;「押出方向」または「長手方向」ともいう)とそれと直交する横方向(TD;「押出方向に対して直角方向」)とで、それぞれの力学的物性が異なるフィルムが得られる。例えば、Tダイ法でフィルムを成形すると、得られたフィルムの縦方向(MD)の引裂強さが横方向(TD)の引裂強さよりも小さくなる。他方、引張特性(引張破断伸び、引張弾性率)や屈曲耐久性は、横方向(TD)が縦方向(MD)よりも小さくなる。
【0069】
フィルムの力学的異方性が大きいと、ある方向に引き裂け易くなったり、方向により耐久性に差異が生じたりすることに加えて、フィルム全面での均質性や機能の均一性が要求される用途への適用が困難になる。本発明の半導電性フィルムは、任意方向での力学的異方性が小さなものであるが、「任意方向」とは、縦方向(MD)と横方向(TD)とで代表させることができる。
【0070】
(a)平均厚みと厚みのバラツキ
本発明の半導電性フィルムの平均厚みは、20〜250μm、好ましくは25〜150μm、より好ましくは30〜100μm、特に好ましくは40〜80μmである。半導電性フィルムの厚みが薄すぎると、フィルム全面の厚みの均一性を高めることが難しくなり、厚すぎるとフィルムの柔軟性が低下する。
【0071】
本発明の半導電性フィルムを用いて形成した電荷制御部材が均一な電荷制御機能を発揮するには、フィルムの厚みのバラツキができるだけ小さいことが好ましい。本発明の半導電性フィルムは、面内での厚みの最大値が最小値の1〜1.3倍、好ましくは1〜1.2倍、より好ましくは1〜1.1倍の範囲内にある。半導電性フィルムの厚みの平均値及びバラツキの測定法は、後記の実施例に示されているとおりである。
【0072】
(b)体積抵抗率とそのバラツキ
本発明の半導電性フィルムの体積抵抗率の平均値は、1.0×102〜1.0×1014Ωcm、好ましくは1.0×103〜1.0×1014Ωcm、より好ましくは1.0×104〜1.0×1013Ωcmの範囲内である。本発明の半導電性フィルムを用いて形成した電荷制御部材を、例えば、現像剤担持体の被覆チューブ、感光ベルトまたはロール被覆チューブ、除電ベルトまたはロール被覆チューブもしくはブレードとして使用する場合には、その体積抵抗率(平均値)は、好ましくは1.0×103〜1.0×109Ωcm、より好ましくは1.0×103〜1.0×106Ωcmの範囲内である。ロール被覆チューブとは、被覆ロールを形成するために使用する半導電性フィルムからなるチューブである。このチューブは、ロール基体上に被覆して使用する。
【0073】
本発明の半導電性フィルムを用いて形成した電荷制御部材を紙搬送ベルトとして使用する場合には、その体積抵抗率の平均値は、好ましくは1.0×106〜1.0×1014Ωcm、より好ましくは1.0×108〜1.0×1012Ωcmの範囲内である。本発明の半導電性フィルムを用いて形成した電荷制御部材を転写ベルトまたはロール被覆チューブ、帯電ベルトまたはロール被覆チューブもしくはブレードとして使用する場合には、その体積抵抗率の平均値は、好ましくは1.0×105〜1.0×1013Ωcm、より好ましくは1.0×107〜1.0×1011Ωcmの範囲内である。
【0074】
本発明の半導電性フィルムを用いて形成した電荷制御部材が均一な電荷制御機能を発揮するには、半導電性フィルムの体積抵抗率の場所によるバラツキが小さなことが望ましい。具体的には、本発明の半導電性フィルムは、その体積抵抗率の最大値が最小値の1〜30倍、好ましくは1〜20倍、より好ましくは1〜10倍の範囲内である。半導電性フィルムの体積抵抗率の平均値及びバラツキの測定法は、後記の実施例に示されているとおりである。
【0075】
(c)結晶化吸熱(ΔH)
本発明の半導電性フィルムは、示差走査熱量計(DSC)による熱分析により100〜150℃の範囲内に吸熱ピークが検出されるものであって、かつ、吸熱ピークが10J/g以上の結晶化吸熱(ΔH)(「結晶化エンタルピー」)を示すものである。結晶化吸熱(ΔH)が10J/g以上であることは、半導電性フィルムにおけるPPSの結晶化の程度が低いことを示している。
【0076】
本発明の半導電性フィルムは、PPSの結晶化度が低いことが望ましい。PPSの結晶化度が高くなりすぎると、半導電性フィルムの引張弾性率が高くなる一方で、フィルムが脆くなる傾向を示す。半導電性フィルムの結晶化度は、DSCによる熱分析で検知されるフィルムの結晶化吸熱により判定することができる。本発明の半導電性フィルムは、DSCによる熱分析で100〜150℃の範囲内に、10J/g以上、好ましくは15J/g以上、より好ましくは20J/g以上の結晶化吸熱(ΔH)を有するピークが検知されるものである。この結晶化吸熱(ΔH)の上限値は、通常40J/g、多くの場合35J/gである。
【0077】
(d)引裂強さとその異方性
本発明の半導電性フィルムは、JIS K 6252に従って、トラウザ形試験片を用いて測定した任意方向での引裂強さが0.25N/mm以上、好ましくは0.26N/mm以上、特に好ましくは0.27N/mm以上である。半導電性フィルムの任意方向での引裂強さが小さすぎると、該半導電性フィルムを用いて形成した部材が引き裂け易くなる。引裂強さの上限値は、通常0.80N/mm、多くの場合0.60N/mmである。
【0078】
本発明の半導電性フィルムは、引裂強さに優れることに加えて、フィルム成形時の押出方向(MD)の引裂強さ(TMD)と押出方向に対して直角方向(TD)の引裂強さ(TTD)との比(TMD/TTD)が2/3〜3/2(0.67〜1.50)、好ましくは3/4〜4/3(0.75〜1.33)、より好ましくは4/5〜5/4(0.80〜1.25)の範囲内にあり、引裂強さの異方性が極めて小さい。
【0079】
本発明の半導電性フィルムを用いて形成したベルトを転写ベルトとして使用する場合、特定方向の引裂強さが弱すぎると、ベルトの縦裂きが生じたり、弱い方向から破断し易くなる。
【0080】
(e)引張破断伸びとその異方性
本発明の半導電性フィルムは、JIS K 7113に従って、幅10mm及び長さ100mmの試験片を用いて、引張試験機により、引張速度50mm/分及びチャック間距離50mmの条件で測定した任意方向での引張破断伸びが2%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。引張破断伸びの上限値は、通常30%、多くの場合25%である。
【0081】
半導電性フィルムの任意方向での引張破断伸びが小さすぎると、耐久性が低下する。半導電性フィルムの引張破断伸びが小さすぎると、半導電性フィルムを用いて形成したベルトや被覆ローラなどの電荷制御部材の柔軟性が不足して、異物の巻き込み等による割れが発生し易くなる。
【0082】
本発明の半導電性フィルムは、フィルム成形時の押出方向(MD)の引張破断伸び(EMD)と押出方向に対して直角方向(TD)の引張破断伸び(ETD)との比(EMD/ETD)が2/3〜3/2(0.67〜1.50)、好ましくは3/4〜4/3(0.75〜1.33)、より好ましくは4/5〜5/4(0.80〜1.25)の範囲内にあり、引張破断伸びの異方性が極めて小さいものである。したがって、本発明の半導電性フィルムは、その全面が均一に引張破断伸びに優れている。
【0083】
(f)屈曲耐久性
本発明の半導電性フィルムは、JIS P 8115に規定されているMIT型試験機による耐折強さ試験法に従って、幅15mmの短冊形試験片を使用し、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175c/s、及び厚み100μm当たりの荷重9.8Nの条件で測定した任意方向での切断するまでの往復折り曲げ回数が5000回以上、好ましくは6000回以上、より好ましくは7000回以上である。この往復折り曲げ回数は、10000回以上とすることが可能である。本発明の半導電性フィルムは、切断するまでの往復折り曲げ回数で示される屈曲耐久性についても、その方向による異方性が小さなものである。
【0084】
本発明の半導電性フィルムを用いて転写ベルトを形成することができる。画像形成装置に配置される転写ベルトは、一般に、駆動ローラの幅よりも長い幅を有しており、駆動ローラからはみ出た部分には蛇行防止リブが接着される。このため、転写ベルトが回転する際に、ローラのエッジ部分や蛇行防止リブの継ぎ目部分で転写ベルトが折曲運動をする。したがって、転写ベルトは、屈曲耐久性が強いことが望まれる。半導電性フィルムの耐折強さ試験における往復折り曲げ回数が少なすぎると、十分な屈曲耐久性を有するベルトを形成することができない。
【0085】
(g)引張弾性率とその異方性
本発明の半導電性フィルムは、JIS K 7113に従って、幅10mm及び長さ100mmの試験片を用いて、引張試験機により、引張速度50mm/分及びチャック間距離50mmの条件で測定した任意方向での引張弾性率が2.4GPa以上、好ましくは2.5GPa以上であり、引張弾性率に優れている。引張弾性率の上限値は、通常3.5GPa、多くの場合3.0GPaである。
【0086】
本発明の半導電性フィルムを用いて形成したベルトを転写ベルトとして使用する場合、該ベルトが歪むと、ベルト上に形成されるトナー画像の歪みや色ずれの原因になるため、十分に高い引張弾性率を有することが望ましい。他方、引張弾性率が大きすぎると、柔軟性が低下するおそれが生じる。
【0087】
本発明の半導電性フィルムは、フィルム成形時の押出方向(MD)の引張弾性率(MMD)と押出方向に対して直角方向(TD)の引張弾性率(MTD)との比(MMD/MTD)が2/3〜3/2(0.67〜1.50)、好ましくは3/4〜4/3(0.75〜1.33)、より好ましくは4/5〜5/4(0.80〜1.25)の範囲内にあり、引張弾性率の異方性が小さなものである。そのため、本発明の半導電性フィルムを用いて形成された部材は、その全面が均一に引張弾性率に優れいる。
【0088】
(h)その他の特性
本発明の半導電性フィルムは、難燃性に優れており、UL94VTM燃焼性試験で好ましくはVTM−2以上、より好ましくはVTM−1以上、特に好ましくはVTM−0の高度の難燃性を示す。また、本発明の半導電性フィルムは、PPSが本来有する高い耐熱性を有している。
【0089】
7.半導電性フィルムの製造方法
本発明の半導電性フィルムは、PPS(A)、及び該PPS100重量部に対して5〜40重量部の導電性フィラー(B)を含有する樹脂組成物を押出機に供給し、押出機に装着したダイからフィルム状に溶融押出し、次いで、溶融状態のフィルムを冷却固化する半導電性フィルムの製造方法により製造される。
【0090】
より具体的に、その製造工程は、(1)押出機に供給した樹脂組成物を、樹脂温度280〜350℃で、0.1〜0.8mmのリップクリアランスに調節したTダイからフィルム状に溶融押出する工程1、並びに(2)溶融状態のフィルムを60〜120℃の温度に制御した冷却ロールと接触させて冷却固化する工程2からなる連続的な工程1及び2を含んでいる。
【0091】
本発明の半導電性フィルムの製造に使用される樹脂組成物の調製は、一般に当該技術分野で用いられている設備と方法により実施することができる。例えば、各原料成分をヘンシェルミキサー、タンブラー等の混合機により予備混合し、そして、単軸または2軸の押出機を使用して混練し、押出して成型用ペレットとすることができる。必要成分の一部をマスターバッチとしてから残りの成分と混合する方法や、各成分の分散性を高めるために、使用する原料の一部を粉砕し、粒径を揃えて混合し、溶融押出する方法を採用すること可能である。
【0092】
本発明の半導電性フィルムの製造方法では、PPS100重量部に対して5〜40重量部の導電性フィラーを含有する樹脂組成物(例えば、ペレット)を押出機に供給し、該樹脂組成物の温度(樹脂温度)を280〜350℃、好ましくは285〜330℃、より好ましくは290〜310℃の範囲内に制御しながら、Tダイからフィルム状に溶融押出する。この樹脂温度は、押出機の先端に装着したTダイの温度で代表させることができる。
【0093】
樹脂温度が低すぎると、樹脂組成物を十分均一に溶融し、かつ円滑に溶融押出することが困難になる。樹脂温度が高すぎると、フィルムの厚みのバラツキ(厚みムラ)が大きくなる。
【0094】
本発明では、Tダイのリップクリアランスを0.1〜0.8mm、好ましくは0.2〜0.7mm、より好ましくは0.3〜0.6mmの範囲内に調節する。多くの場合、リップクリアランスを0.4〜0.5mmの範囲内に調節することによって、最良の結果を得ることができる。
【0095】
Tダイ法により製膜する場合、Tダイのリップからドローダウンした溶融状態の樹脂組成物を引き取ってフィルム状に成形するが、その際、引き取り速度を制御して所望のフィルム厚みに調整する。リップクリアランスを小さくすることにより、溶融状態のフィルムの厚み方向の変形が小さくなり、厚みと体積抵抗率のバラツキが小さく、力学的特性の異方性が小さな半導電性フィルムを得ることができる。リップクリアランスが小さすぎると、溶融樹脂組成物の押出量が減少したり、樹脂圧力が高くなりすぎたりする。リップクリアランスを、当該技術分野における通常の設定条件である1.0mmまたは1.5mm、あるいはそれ以上に大きくすると、Tダイのリップにおける溶融フィルムのネックイン現象が大きくなり、フィルムの厚みのバラツキが大きくなったり、体積抵抗率のバラツキが大きくなったりする。
【0096】
Tダイから溶融押出したフィルムは、溶融状態のままで、60〜120℃の温度に制御した冷却ロールと接触させて冷却固化する。該フィルムは、導電性フィラーを含有しているため、ピニング法により静電印加を行って低温(例えば、20〜25℃)の冷却ロールに密着させることが極めて困難である。ピニング法を適用しない場合には、エアーナイフを用いても、溶融状態にあるフィルムを低温の冷却ロールに密着させることが困難であり、その結果、厚みムラが大きく、表面の平滑性に劣るフィルムしか得ることができない。
【0097】
他方、冷却ロールの温度を130〜200℃と高くすると、ピニング法を適用しなくても、溶融状態のフィルムを冷却ロールに密着させることができるが、PPSの結晶化が進行しすぎてフィルムが脆くなる。PPSの結晶化の程度は、結晶化吸熱(ΔH)を測定することにより判定することができる。
【0098】
本発明では、冷却ロール温度を60〜120℃、好ましくは70〜110℃、より好ましくは80〜100℃の範囲内に制御する。冷却ロール温度が上記範囲より低すぎると、フィルムの厚みムラが大きくなり、体積抵抗率の場所によるバラツキも大きくなる。冷却ロール温度が高すぎると、フィルムの厚みムラが大きくなる上、PPSの結晶化が進みすぎて、引張破断伸びが小さくなり、屈曲耐久性が劣悪となる。
【0099】
本発明では、連続溶融押出成形法を適用することができる。連続押出成形法としては、単軸または2軸スクリュー押出機とTダイとを用い、溶融状態の樹脂組成物をTダイのリップから直下に溶融押出し、冷却ロール上にエアーナイフなどにより密着させつつ冷却固化する方法が好ましい。
【0100】
本発明の半導電性フィルムは、環状ダイを用いる製膜法により製造することもできる。本発明の半導電性フィルムを環状ダイを用いて製膜する場合、前記樹脂組成物の温度(樹脂温度)を280〜350℃、好ましくは285〜330℃、より好ましくは290〜310℃の範囲内に制御しながら、環状ダイのリップから直下にチューブ状に溶融押出し、溶融状態のチューブを内部冷却マンドレル方式によって内径を制御しながら引き取る方法を採用することができる。チューブの大きさは、必要に応じて適宜選択することができる。
【0101】
環状ダイのリップクリアランスは、0.1〜0.8mm、好ましくは0.2〜0.7mm、より好ましくは0.3〜0.6mmの範囲内に調節する。多くの場合、環状ダイのリップクリアランスを0.4〜0.5mmの範囲内に調節することによって、最良の結果を得ることができる。
【0102】
溶融状態のチューブ状フィルムを冷却させる際に通過させる冷却マンドレルの温度は、60〜120℃、好ましくは70〜110℃、より好ましくは80〜100℃の範囲内に制御する。冷却温度が低すぎると、冷却が不均一になり易く、平面性の良好な半導電性フィルムを得ることが困難になる。冷却温度が高すぎると、樹脂の結晶化が進み、半導電性フィルムが脆くなり易い。
【0103】
環状ダイにより製膜する方法は、シームレスでベルトを成形できる利点があるが、溶融状態のチューブを冷却マンドレルに密着させて冷却しなければならないため、溶融状態のチューブをネックインさせて引き取る必要がある。このことから、Tダイ法によって製膜したフィルムと比較して、力学的特性(機械的物性)の異方性が大きくなり易い。さらに、溶融状態のチューブを固定した冷却マンドレルの表面を滑らせて引き取る必要があるため、Tダイ法によって製膜されたフィルムと比較すると、厚みムラが大きくなり易い傾向がある。
【0104】
8.電荷制御部材
本発明の半導電性フィルムは、100℃以上での高温剛性、難燃性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、力学的特性に優れており、これらの諸特性が要求される広範な分野で利用することができる。
【0105】
本発明の半導電性フィルムは、チューブ状に成形することができる。チューブ状の半導電性フィルムは、シームレスベルトとして、転写ベルトなどの電荷制御部材として用いることができる。また、ローラ基体上にチューブを被覆することにより、半導電性の被覆ローラを作製することができる。
【0106】
半導電性フィルムは、二次加工することにより、各種の電荷制御部材に形成することができる。その一つの方法は、半導電性フィルムの加熱シームによるエンドレスベルトやチューブの成形である。本発明の半導電性フィルムを加熱シームで接着してベルト状に成形する場合は、シートの加熱個所(再溶融個所)は、一部分でもシート全体でもよい。
【0107】
本発明の半導電性フィルムは、他の素材から形成されたベルト基体(例えば、ポリイミドフィルム製ベルト)上に被覆することにより、積層ベルトに形成することができる。本発明の半導電性フィルムは、他の導電性シートや半導電性シートあるいは絶縁シートなどと2層以上に積層してもよい。積層するには、各層の界面を接着剤で張り合わせても、共押出により多層フィルムまたはシートとして成形してもよい。本発明の半導電性フィルムは、ローラ基体(例えば、芯金)上に被覆することにより、被覆ローラを形成することができる。本発明の半導電性フィルムまたは該フィルムを用いて形成した電荷制御部材の表面は、用途に応じて、他の樹脂をコーティングしたり、金属蒸着したり、艶消し加工したりすることができる。
【実施例】
【0108】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。本発明における物性や特性の測定方法は、次のとおりである。
【0109】
(1)厚み
成形物の厚みは、ダイヤルゲージ厚み計(小野測器社製、商品名:DG−911)を用いて測定した。
【0110】
(2)体積抵抗率
本発明において、体積抵抗率が108Ωcm以上の試料は、リング状プローブ(商品名:URSプローブ、三菱化学社製、内側の電極の外径5.9mm、外側の電極の内径11.0mm、外側電極の外径17.8mm)と測定ステージ(商品名:レジテーブルUFL、三菱化学社製)との間に試料を挟み、約3kg重の圧力で押さえつけつつ、プローブの内側の電極と測定ステージとの間に100Vの電圧を印加して、抵抗率測定装置(商品名:ハイレスタUP、三菱化学社製)により体積抵抗率を求めた。
【0111】
本発明において、体積抵抗率が108Ωcm未満の試料は、印加電圧を10Vにして、体積抵抗率が108Ωcm以上の試料と同様の方法で体積抵抗率を求めた。リング電極法による体積抵抗率測定法は、JIS K 6911に規定されている。
【0112】
(3)平均値及びバラツキの算出
上記の厚み及び体積抵抗率の測定において、これらの値を測定すべき試料の表面積1m2当り任意に選んだ20点の測定点について測定し、その最大値、最小値、及び平均値(算術平均)を求めた。バラツキは、最大値/最小値を算出することにより求めた。なお、半導電性フィルムを用いて形成した電荷制御部材の如き成形物については、任意に選んだ20個の成形物について1個に付き1点(計20点)測定し、その最大値、最小値、平均値(算術平均)を求める方法を採用することができる。
【0113】
(4)引張弾性率及び引張破断伸び
JIS K 7113に従って、幅10mm及び長さ100mmの短冊型試験片を用い、引張試験機(TENSILON RTM100型、オリエンテック社製)により、引張速度50mm/分及びチャック間距離50mmの条件で測定した。測定個数n=5を測定し、算術平均を算出した。
【0114】
(5)引裂強さ
JIS K 6252に従って、トラウザ形試験片を用い、100mm/分のつかみ具移動速度で評価した。測定個数n=5を測定し、算術平均を算出した。
【0115】
(6)耐折強さ試験
JIS P 8115に規定されているMIT形試験機による耐折強さ試験法に従って、幅15mmの短冊型試験片を使用し、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175c/s(cycle per second)、及び厚み100μm当たりの荷重9.8Nの条件で切断するまでの往復折り曲げ回数を測定した。
【0116】
MIT形試験機(クロスの耐折強さを測定する試験機)では、耐折回数(fold number)、すなわち、紙及び板紙の試験片が切断するまでの往復折り曲げ回数を測定し、それによって、耐折強さ(holding endurance)を評価しているが、本発明では、この測定法を採用する。
【0117】
厚み100μm当たりの荷重9.8Nは、フィルム厚みが変化すると比例して変化し、例えば、フィルム厚み50μmの場合、荷重4.9Nとなる。測定個数n=5を測定し、算術平均を算出した。
【0118】
(7)示差走査熱量(DSC)測定
示差走査熱量測定装置(製品名:DSC30、Mettler社製)とデータプロセッサ(製品名:TC10A、Mettler社製)とを用い、フィルムを下記条件によりDSC法によって測定した。試料は、75℃で10時間コンディショニングした後測定した。ファーストランにより、結晶融解ピーク温度と結晶化吸熱ΔHの値を求めた。測定条件は、試料重量10mg、測定開始温度30℃、測定終了温度400℃、昇温速度10℃/分であった。
【0119】
(8)溶融粘度
JIS K 7199に従って、試験温度310℃、剪断速度1200/secの条件でPPSの溶融粘度を測定した。
【0120】
[実施例1]
PPS(呉羽化学社製、商品名「フォートロンKPS W312P」、溶融粘度180Pa・s)100重量部、及び導電性カーボンブラック(電気化学工業社製、商品名「デンカブラック」、窒素比表面積=69m2/g、DBP吸油量=160ml/100g、揮発分0.25%、pH=9、導電性指標=84)9重量部をヘンシェルミキサーにて均一にドライブレンドし、次いで、ブレンド物を45mmφ二軸混練押出機(池貝鉄鋼社製PCM−46)に供給し、溶融押出してペレットに成形した。
【0121】
このペレットを単軸スクリュー押出機に供給して、ダイ温度(樹脂温度)295℃でリップクリアランス0.5mmのTダイからフィルム状に溶融押出し、次いで、溶融状態のフィルムを85℃に温度調節した冷却ロールと接触させて、厚み約50μm、幅約300mmのフィルムを製造した。このフィルムの押出方向(MD;長手方向)の両端をスリットして、中央部の幅200mmを製品(半導電性フィルム)とした。結果を表1及び2に示す。
【0122】
[実施例2〜4及び比較例1〜5]
原料の組成及び製膜条件を表1に示すように変えたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み約50〜58μm、幅約300mmのフィルムを製造した。実施例4では、PPSとして、「フォートロンKPS W312P」に代えて、「フォートロンKPS W300P」(呉羽化学社製、溶融粘度400Pa・s)を用いた。
【0123】
比較例2〜5で得られたフィルムは、押出方向(MD)に大きな厚みムラが発生した。比較例3では、厚みムラが酷すぎるため、諸特性を評価しなかった。
【0124】
【表1】

【0125】
(脚注)
(1)PPS(A1): 呉羽化学社製、商品名「フォートロンKPS W312P」、溶融粘度180Pa・s、
(2)PPS(A2):呉羽化学社製、商品名「フォートロンKPS W300P」、溶融粘度400Pa・s、
(3)導電性カーボンブラック:電気化学工業社製、商品名「デンカブラック」、窒素比表面積=69m2/g、DBP吸油量=160ml/100g、揮発分0.25%、pH=9、導電性指標=84。
【0126】
【表2】

【0127】
表1及び表2の結果から明らかなように、本発明の製造方法により得られた半導電性フィルムは、厚みムラが極めて小さく、体積抵抗率の場所によるバラツキも小さなものであり、さらに、引裂強さ、引張破断伸び、屈曲耐久性(切断するまでの往復折り曲げ回数)、引張弾性率などの力学的特性に優れ、しかも力学的特性の異方性が極めて小さなものである。
【0128】
これに対して、導電性カーボンブラックを配合しなかった場合(比較例1)には、フィルムを半導電性領域の体積抵抗率にすることができない。Tダイのリップクリアランスを1.5mmとした場合(比較例2)には、半導電性フィルムの厚みムラが大きく、体積抵抗率のバラツキも大きく、力学的特性の異方性も大きくなる。樹脂温度を高くしすぎると(比較例3)、フィルムの厚みムラが極めて大きくなる。
【0129】
冷却ロール温度を本発明で規定する範囲より高くすると(比較例4)、導電性フィルムの厚みムラが大きくなることに加えて、結晶化吸熱(ΔH)が小さくなることで示されているように、PPSの結晶化が進行しすぎる。その結果、比較例4の半導電性フィルムは、引張破断伸びが低くなり、屈曲耐久性が劣悪となる。一方、冷却ロール温度を本発明で規定する範囲より低くすると(比較例5)、導電性フィルムの厚みムラが大きくなり、体積抵抗率のバラツキも大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の半導電性フィルムは、電子写真方式の画像形成装置において用いられる帯電ベルトや転写ベルトなどの電荷制御部材として利用することができる。また、本発明の半導電性フィルムは、帯電防止性や塵埃吸着防止性を活かして、壁紙、OA機器の外装材などの用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド(A)、及び該ポリフェニレンスルフィド100重量部に対して5〜40重量部の導電性フィラー(B)を含有する樹脂組成物から形成された半導電性フィルムであって、
(a)厚みの平均値が20〜250μmの範囲内で、かつ厚みの最大値が最小値の1.0〜1.3倍の範囲内であり、
(b)体積抵抗率の平均値が1.0×102〜1.0×1014Ωcmの範囲内で、かつ体積抵抗率の最大値が最小値の1〜30倍の範囲内であり、並びに
(c)示差走査熱量計による熱分析により、100〜150℃の範囲内に10J/g以上の結晶化吸熱(ΔH)を有するピークが検知される、
との特性(a)乃至(c)を有することを特徴とする半導電性フィルム。
【請求項2】
(d)JIS K 6252に従って、トラウザ形試験片を用いて測定した任意方向での引裂強さが0.25N/mm以上で、かつフィルム成形時の押出方向(MD)の引裂強さ(TMD)と押出方向に対して直角方向(TD)の引裂強さ(TTD)との比(TMD/TTD)が2/3〜3/2の範囲内である、
との特性(d)を更に有する請求項1記載の半導電性フィルム。
【請求項3】
(e)JIS K 7113に従って、幅10mm及び長さ100mmの試験片を用いて、引張試験機により、引張速度50mm/分及びチャック間距離50mmの条件で測定した任意方向での引張破断伸びが2%以上で、かつフィルム成形時の押出方向(MD)の引張破断伸び(EMD)と押出方向に対して直角方向(TD)の引張破断伸び(ETD)との比(EMD/ETD)が2/3〜3/2の範囲内である、
との特性(e)を更に有する請求項1または2記載の半導電性フィルム。
【請求項4】
(f)JIS P 8115に規定されているMIT型試験機による耐折強さ試験法に従って、幅15mmの短冊形試験片を使用し、左右の折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175c/s、及び厚み100μm当たりの荷重9.8Nの条件で測定した任意方向での切断するまでの往復折り曲げ回数が5000回以上である、
との特性(f)を更に有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導電性フィルム。
【請求項5】
(g)JIS K 7113に従って、幅10mm及び長さ100mmの試験片を用いて、引張試験機により、引張速度50mm/分及びチャック間距離50mmの条件で測定した任意方向での引張弾性率が2.4GPa以上で、かつフィルム成形時の押出方向(MD)の引張弾性率(MMD)と押出方向に対して直角方向(TD)の引張弾性率(MTD)との比(MMD/MTD)が2/3〜3/2の範囲内である、
との特性(g)を更に有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導電性フィルム。
【請求項6】
導電性フィラー(B)が、導電性カーボンブラックである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導電性フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半導電性フィルムを用いて形成された電荷制御部材。
【請求項8】
画像形成装置に用いられる半導電性部材である請求項7記載の電荷制御部材。
【請求項9】
半導電性部材が、ローラ基体上に半導電性フィルムから形成されたチューブが被覆された構造の半導電性被覆ローラである請求項8記載の電荷制御部材。
【請求項10】
半導電性部材が、半導電性フィルムから形成された半導電性ベルトである請求項8記載の電荷制御部材。
【請求項11】
ポリフェニレンスルフィド(A)、及び該ポリフェニレンスルフィド100重量部に対して5〜40重量部の導電性フィラー(B)を含有する樹脂組成物を押出機に供給し、押出機に装着したダイからフィルム状に溶融押出し、次いで、溶融状態のフィルムを冷却固化する半導電性フィルムの製造方法において、
(1)押出機に供給した樹脂組成物を、樹脂温度280〜350℃で、0.1〜0.8mmのリップクリアランスに調節したTダイからフィルム状に溶融押出する工程1、並びに
(2)溶融状態のフィルムを60〜120℃の温度に制御した冷却ロールと接触させて冷却固化する工程2
からなる連続的な工程1及び2を含むことを特徴とする半導電性フィルムの製造方法。
【請求項12】
工程2の後に、前記の特性(a)乃至(c)を有する半導電性フィルムを得る請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
工程2の後に、前記の特性(a)乃至(c)に加えて、前記の特性(d)乃至(g)から選ばれる少なくとも1つの特性を更に有する半導電性フィルムを得る請求項11記載の製造方法。
【請求項14】
ポリフェニレンスルフィド(A)、及び該ポリフェニレンスルフィド100重量部に対して5〜40重量部の導電性フィラー(B)を含有する樹脂組成物を押出機に供給し、押出機に装着したダイからフィルム状に溶融押出し、次いで、溶融状態のフィルムを冷却固化する半導電性フィルムの製造方法において、
(I)押出機に供給した樹脂組成物を、樹脂温度280〜350℃で、0.1〜0.8mmのリップクリアランスに調節した環状ダイからチューブ状に溶融押出する工程I;
(II)溶融状態のチューブを60〜120℃の温度に制御した冷却マンドレルに通して冷却固化する工程II;
からなる連続的な工程I及びIIを含むことを特徴とするチューブ状の半導電性フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−69046(P2006−69046A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255484(P2004−255484)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】