説明

半導電性フッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂塗料及びフッ素樹脂被覆成形体

【課題】半導電性領域の表面抵抗率を有し、表面抵抗率の場所によるバラツキが小さく、表面粗さが小さな半導電性フッ素樹脂フィルム、該フッ素樹脂フィルムを形成できるフッ素樹脂塗料、及び基材上に該フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂層が配置された被覆成形体を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂と導電剤とを含有するフッ素樹脂組成物から形成された半導電性フッ素樹脂フィルムであって、該導電剤がイオン液体及び導電性高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電剤であり、かつ、温度20℃及び印加電圧100Vで測定した表面抵抗率の平均値が1×10〜1×1016Ω/□にある半導電性フッ素樹脂フィルム、フッ素樹脂と該導電剤と水性媒体とを含有するフッ素樹脂塗料、及び基材上に該フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂層が配置された被覆成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導電性領域の表面抵抗率を有するフッ素樹脂フィルムと、該フッ素樹脂フィルムを形成することができるフッ素樹脂塗料に関する。さらに、本発明は、基体上に、直接または他の層を介して、該フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂層が形成されたフッ素樹脂被覆成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の技術分野において、表面抵抗率が半導電性領域にある電荷制御部材(Charge Controlling Members)に対する強い要求がある。
【0003】
例えば、電子写真方式(静電記録方式を含む)の複写機、ファクシミリ、レーザービームプリンタなどの画像形成装置において、帯電、露光、現像、転写、定着、及び除電の各工程を経て画像が形成されている。これらの各工程では、電荷制御のために、少なくとも表面層が半導電性領域の表面抵抗率または体積抵抗率を有する樹脂材料から形成された各種電荷制御部材が用いられている。
【0004】
より具体的に、定着工程では、例えば、ポリイミド樹脂から形成されたシームレスベルト(「管状物」または「チューブ」ともいう)の最外層にフッ素樹脂層を設けた構造の定着ベルトが用いられている。この定着ベルトにおいて、フッ素樹脂層は、トナーに対する離型層としての機能を有するものである。定着ベルトの内側に配置したヒーターと加圧ローラとを対向させ、互いに逆方向に回転する定着ベルトと加圧ローラとの間に転写材(例えば、転写紙)を通過させると、該ヒーターが薄い定着ベルトを介して転写材上のトナー像を効率的に加熱定着させることができる。
【0005】
前記構造の定着ベルトを高速で回転させると、定着ベルト表面に静電気が発生したり、定着ベルトの表面に転写材上の静電気が移動したりすることによって、転写材上のトナー像が飛散することがある。フッ素樹脂層の表面に帯電する静電気の極性や放電に仕方によっては、静電オフセットが発生しやすくなることも知られている。静電オフセットが発生すると、転写材上に鮮明な画像を形成することができないか、あるいはスジ状の痕跡が生じる。
【0006】
定着ベルトの離型性を保持しつつ静電気による悪影響を抑制するために、特開平7−178741号公報(特許文献1)には、ポリイミドを主成分とするシームレス管状物の外表面に、導電性プライマー層を介して、フッ素樹脂の焼成層を設けたポリイミド複合管状物が提案されている。該フッ素樹脂層には、導電性カーボンブラックを0.1〜3重量%の割合で含有させることにより、帯電防止を図っている。
【0007】
しかし、フッ素樹脂に導電性カーボンブラックなどの導電性フィラーを含有させる方法は、導電性フィラーを均一分散させることが難しい上、フッ素樹脂中に分散させた導電性フィラーが再凝集しやすいため、所望の半導電性領域の表面抵抗率を有するフッ素樹脂層を安定的に形成することが極めて困難である。特に、導電性カーボンブラックは、比表面積とアグリゲートと呼ばれる粒子の連鎖によって物理的特性が特徴づけられ、それらが電導度に影響を与えるため、その含有量の僅かの違いによっても、フッ素樹脂層の表面抵抗率が大きく変動しやすい。上記傾向は、表面抵抗率が1.0×10Ω/□から1.0×1016Ω/□、さらには1.0×1010Ω/□から1.0×1015Ω/□という比較的高い領域において著しい。
【0008】
上記問題に加えて、フッ素樹脂中での導電性フィラーの分散状態が均一でないと、フッ素樹脂層の表面抵抗率の場所によるバラツキが大きくなるという問題がある。フッ素樹脂層の表面抵抗率の場所によるバラツキが大きいと、定着ベルトの静電オフセット抑制機能に場所によるバラツキが生じて均質な画像の形成が困難になる。
【0009】
フッ素樹脂中に有機帯電防止剤または固体のイオン電解質を含有させて、フッ素樹脂層の表面抵抗率を制御したり、帯電防止性を付与したりする方法が知られている。しかし、フッ素樹脂に有機帯電防止剤を含有させる方法は、有機帯電防止剤がブリードアウトしたり、温度や湿度などの環境の変化によって表面抵抗率や帯電防止性が大きく変動しやすいという問題がある。フッ素樹脂に常温で固体のイオン電解質を含有させる方法は、該イオン電解質が凝集したり、吸湿性を示したり、環境変化によってフッ素樹脂層の表面抵抗率が変化したりしやすい。
【0010】
特開2001−125404号公報(特許文献2)には、ポリイミド樹脂基材上に、プライマー層を介してフッ素樹脂層を設けたポリイミド管状物において、該フッ素樹脂に無機半導電性物質を単独で、あるいは該無機半導電性物質と良導電性物質とを組み合わせて含有させることにより、表面抵抗率を1.0×10Ω/□から1.0×1014Ω/□の範囲内に制御したポリイミド管状物が提案されている。特許文献2には、該ポリイミド管状物は、耐摩耗性に優れ、表面粗さも小さく、安定した表面抵抗率を示すものであり、熱定着用管状物として用いられる旨が記載されている。
【0011】
特許文献2には、無機半導電性物質として、酸化チタン、酸化鉄、水酸化アルミニウム、タルク、チタン酸バリウム、酸化アンチモン、シリカ、炭酸カルシウムなどが例示されており、良導電性物質として、カーボンブラック、金属粉、グラファイトなどが例示されている。
【0012】
しかし、特許文献2に示されているカーボンブラックなどの良導電性物質は、前述のとおり、安定した表面抵抗率などの電気特性を示すフッ素樹脂層を形成することが困難である。すなわち、導電性カーボンブラックを含有するフッ素樹脂層は、該導電性カーボンブラックの含有割合が小さくても、所望の表面抵抗率に安定的に制御することが困難であることに加えて、場所による表面抵抗率のバラツキが大きい。
【0013】
無機半導電性物質の含有割合を増大させると、導電性カーボンブラックに起因するフッ素樹脂層の表面抵抗率の場所によるバラツキを抑制することができるものの、フッ素樹脂層の表面粗さが大きくなる傾向を示す。フッ素樹脂層の表面粗さが大きくなると、異物が付着したり、トナー像の均一な定着が困難になったりして、高品質の画像を形成することが難しくなる。
【0014】
画像形成装置の定着ベルト以外にも、フッ素樹脂層を最外層に有する定着ローラなどの各種電荷制御部材において、前記と同様の問題がある。さらに、電子部品実装基板を収容するための基板用カセットなど、半導電性領域の表面抵抗率を有するフッ素樹脂層を最外層に設けた各種電荷制御部材に対する要求がある。
【0015】
【特許文献1】特開平7−178741号公報
【特許文献1】特開2001−125404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、半導電性領域の表面抵抗率を有し、表面抵抗率の場所によるバラツキが小さく、しかも表面粗さが極めて小さな半導電性フッ素樹脂フィルムを提供することにある。
【0017】
本発明の他の課題は、半導電性領域の表面抵抗率を有し、表面抵抗率の場所によるバラツキが小さく、しかも表面粗さが極めて小さなフッ素樹脂フィルムを形成することができるフッ素樹脂塗料を提供することにある。
【0018】
本発明のさらなる他の課題は、基材上に、最上層として、該フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂層が配置された構造を有するフッ素樹脂被覆成形体を提供することにある。
【0019】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、フッ素樹脂水性ディスパージョンに、イオン液体及び導電性高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電剤を含有させたフッ素樹脂塗料に想到した。イオン液体として水混和性のものを用いると、フッ素樹脂水性ディスパージョンと均一に混合することができる。導電性高分子の水分散液を用いることによっても、フッ素樹脂水性ディスパージョンと均一に混合することができる。そのため、フッ素樹脂中に導電性カーボンブラックなどの導電性フィラーを均一分散させるのに用いられているビーズミルや超音波攪拌機などの大がかりな装置の必要がない。
【0020】
本発明のフッ素樹脂塗料の塗布によって形成した塗膜(フッ素樹脂フィルム)は、イオン液体及び/または導電性高分子の種類を選択し、その含有割合を調整することによって、所望の半導電性領域に精密に制御することができる。該フッ素樹脂フィルムの表面粗さ(中心線平均粗さRa)は、1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下、多くの場合0.1μmにまで小さくすることができる。しかも、該フッ素樹脂フィルムは、場所による表面抵抗率のバラツキが極めて小さい。
【0021】
基材上に、最上層として、該フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂層を配置することにより、前記の如き電気的特性や表面特性を有する被覆ローラや被覆ベルトなどのフッ素樹脂被覆成形体を得ることができる。該フッ素樹脂塗料は、帯電防止塗料としても使用することができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、フッ素樹脂と導電剤とを含有するフッ素樹脂組成物から形成された半導電性フッ素樹脂フィルムであって、該導電剤が、イオン液体及び導電性高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電剤であり、かつ、該半導電性フッ素樹脂フィルムの温度20℃及び印加電圧100Vで測定した表面抵抗率の平均値が、1×10Ω/□から1×1016Ω/□までの範囲内にあることを特徴とする半導電性フッ素樹脂フィルムが提供される。
【0023】
また、本発明によれば、フッ素樹脂と導電剤と水性媒体とを含有するフッ素樹脂塗料であって、該導電剤が、イオン液体及び導電性高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電剤であり、かつ、該フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂フィルムの温度20℃び印加電圧100Vで測定した表面抵抗率の平均値が、1×10Ω/□から1×1016Ω/□までの範囲内にあることを特徴とするフッ素樹脂塗料が提供される。
【0024】
さらに、本発明によれば、基材上に、最上層として、該フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂層が配置された構造を有するフッ素樹脂被覆成形体が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、半導電性領域の表面抵抗率を有し、表面抵抗率の場所によるバラツキが小さく、しかも表面粗さが極めて小さな半導電性フッ素樹脂フィルムが提供される。また、本発明によれば、半導電性領域の表面抵抗率を有し、表面抵抗率の場所によるバラツキが小さく、しかも表面粗さが極めて小さなフッ素樹脂フィルムを形成することができるフッ素樹脂塗料が提供される。
【0026】
基材上に、直接または他の層を介して、本発明のフッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂層を配置することにより、前記の如き電気的特性と表面特性を有するフッ素樹脂被覆成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。
【0028】
これらのフッ素樹脂の中でも、非粘着性に優れ、トナーが固着し難いフッ素樹脂層(フッ素樹脂被膜)が得られやすい点で、PTFE、PFA及びFEPが好ましく、溶融流動性や耐熱性が良好で、表面性に優れたフッ素樹脂層が得られやすい点で、PFAがより好ましい。これらのフッ素樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
フッ素樹脂の形態としては、フッ素樹脂ディスパージョン及び粉体が挙げられるが、イオン液体及び導電性高分子の水分散液との均一混合性に優れる点で、フッ素樹脂水性ディスパージョン(水性コロイド分散液)が好ましい。フッ素樹脂水性ディスパージョンは、常法に従って、モノマーまたはモノマー混合物を懸濁重合または乳化重合する方法により調製することができる。
【0030】
イオン液体(Ionic Liquid)とは、室温でも液体で存在する有機塩であり、融点が低い塩であることから、常温溶融塩(Ambient temperature molten salt)または室温溶融塩(Room temperature molten salt)とも呼ばれている。
【0031】
イオン液体は、支持電解質を加えなくても電流を流すことができ、3〜6V程度の広い電位窓を示す。イオン液体は、通常、25℃で10−5〜10−2S/cmの範囲内のイオン伝導率を示す。イオン液体は、一般に、−30℃から+300℃の範囲内の温度域でも液体状態を維持する。イオン液体は、一般に、250〜300℃の高温で安定であり、その種類によっては400℃でも物性変化が少なく、耐熱性が高い。イオン液体は、実質的に不揮発性かつ不燃性であり、イオンにしては低い粘度を有している。
【0032】
イオン液体を形成する陽イオンとしては、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンなどの芳香族系陽イオン;トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオンなどの脂肪族系陽イオン;ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどの脂環族アミン系陽イオン;アルキルホスホニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
陰イオンとしては、塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、トリフルオロメタンスルホネート(CFSO)、ヒドロフッ化物アニオン〔F(HN)〕、NO、CHCO、(CFSO、CFCOなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
イミダゾリウム系イオン液体としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−ラクテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(L)−ラクテート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウムクロリドなどの1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム系イオン液体;1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロミド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートなどの1−アルキル−2,3−ジメチルイミダゾリウム系イオン液体;1−メチル−3−アリルイミダゾリジウムブロミド、1−メチル−3−アリルイミダゾリジウムクロリド、1−メチル−3−アリルイミダゾリジウムテトラフルオロボレート、1−メチル−3−アリルイミダゾリジウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−3−アリルイミダゾリジウムトリフルオロメタンスルホネート、1−エチル−3−アリルイミダゾリジウムブロミド、1−エチル−3−アリルイミダゾリジウムクロリド、1−プロピル−3−アリルイミダゾリジウムブロミド、1−ペンチル−3−アリルイミダゾリジウムブロミド、1−オクチル−3−アリルイミダゾリジウムブロミド、1−アリル−3−アリルイミダゾリジウムブロミドなどの1−アルキル−3−アリルイミダゾリウム系イオン液体;などが挙げられる。
【0035】
ピリジニウム系イオン液体としては、1−エチルピリジニウムブロミド、1−エチルピリジニウムクロリド、1−ブチルピリジニウムブロミド、1−ブチルピリジニウムクロリド、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート、1−ヘキシルピリジニウムブロミド、1−ヘキシルピリジニウムクロリド、1−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシルピリジニウムトリフルオロメタンスルホネートなどの1−アルキルピリジニウム系イオン液体が挙げられる。
【0036】
脂肪族系イオン液体としては、例えば、N,N−ジエチル−N−メチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムテトラフルオロボレート、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、トリエチルスルホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチルヘキシルアンモニウムクロリド、トリメチルプロピルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
【0037】
脂環族系イオン液体(脂肪族アミン系イオン液体)としては、例えば、M−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。
【0038】
アルキルホスホニウム系イオン液体としては、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムクロリドなどが挙げられる。その他のイオン液体としては、例えば、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのピロリジニウム系イオン液体;1−アルキル−2,3,5−トリメチルピラゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのピラゾリウム系イオン液体;などが挙げられる。
【0039】
イオン液体は、水混和性でも水不混和性であってもよい。これらのイオン液体の中でも、水混和性を有するイオン液体が好ましい。水混和性を有するイオン液体は、水性媒体中に微細に分散しやすいため、フッ素樹脂水性ディスパージョン中に均一に分散させるのが容易である。
【0040】
導電性高分子は、接触させた正負電極から電荷が注入されたときに、ほとんど抵抗なくその電荷が電極間を運ばれて電流値を示す機能を持つ高分子である。この機能を発揮するには、電荷を運ぶキャリヤーの存在とキャリヤーが動くことのできる導電経路とが必要である。一般に、π共役系高分子は、π共役部分が導電経路としての役割を持つ。π共役系高分子中にキャリヤーを注入する方法としては、電子受容体または電子供与体として適当な化学種を添加し、電荷移動によって正孔または電子を注入する化学ドーピング法が汎用されている。ドーピング法には、化学ドーピング法の他、電解ドーピング法、光ドーピング法、イオン注入法などがある。
【0041】
導電性高分子としては、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(アルキル置換アセチレン)、液晶を置換基とするポリアセチレン、ポリジアセチレンなどのポリアセチレン系導電性高分子;ポリピロール、ポリ(3−カルボン酸−ピロール)、溶剤可溶性ポリピロール(SSPY)などのポリピロール系導電性高分子;ポリチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−チオフェン−β−エタンスルホン酸)、ポリイソチアナフテン、ポリイソナフトチオフェン、ポリジチエノチオフェンなどのポリチオフェン系導電性高分子;ポリ(2,5−チエニレンビニレン)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ(1,4−ナフタレンビニレン)などの混合型共役系導電性高分子;ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリテルロフェンなどの環内にO、Se、Teなどのヘテロ原子を有するヘテロ環式共役系導電性高分子;ポリ(p−フェニレン)、ポリ(m−フェニレン)、ポリナフタレン、ポリアントラセン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリフルオレンなどの芳香族共役系導電性高分子;ポリチアジル、ポリアニリン、ポリ(ビニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンスルフィド)、ポリ(m−フェニレンスルフィド)、ポリ(p−フェニレンオキシド)、ポリ(p−フェニレンセレニド)などの含ヘテロ原子共役系導電性高分子;ポリイン(アセチレン型)、ポリイン(クムレン型)などのポリイン系導電性高分子;ポリアセン、ポリアセノアセン、ポリフェナントレン、ポリペリレン、ポリシアノアセチレン、ポリシアノジエンなどの縮合芳香族系導電性高分子;ポリインドール;ポリ(1,6−ヘプタジイン);ポリペリナフタレン;などが挙げられる。
【0042】
導電性高分子の中には、ポリ(3−チオフェン−β−エタンスルホン酸)、ポリイソチアナフテンなどのセルフドープにより導電性を発現するものもあるが、多くの場合、ドーパントを用いている。
【0043】
化学ドーピング法では、I、Br、IClなどのハロゲン;AsF、SbF、FeCl、AlCl、ZrCl、PF、SOなどのルイス酸;HSO、CFSOH、ClSOH、HClO、ポリスチレンスルホン酸などのプロトン酸;テトラシアノキノジメタン、クロラニル、DDQなどの有機化合物;などが電子受容体として用いられている。化学ドーピング法では、Li、Na、Kなどのアルカリ金属が電子供与体として用いられている。
【0044】
電解ドーピング法では、ClO、BF、PF、Rなどがドーパントとして用いられている。光ドーピング法では、R−(Ph)−I、R−(Ph)(X=PF、SbF、AsF)などがドーパントとして用いられている。イオン注入法では、I、Br、Cl、As、Pb、Fe、Na、Kr、Arなどがドーパントとして用いられている。
【0045】
導電性高分子の導電率(直流導電率)は、通常10−9S/cmから10S/cm、好ましくは10−5S/cmから10S/cm、より好ましくは10−3S/cmから10S/cmの範囲内である。導電性高分子とドーパントの種類を選択して組み合わせることにより、導電率を制御することができる。導電率は、例えば、導電性高分子の薄膜を形成し、該薄膜について、三菱化学(株)製ロレスタIP TCP−T250を用いて測定することができる。
【0046】
導電性高分子は、有機溶剤溶液若しくは有機溶媒分散液であっても、水溶液若しくは水分散液であってもよいが、フッ素樹脂水性ディスパージョンとの均一分散性の観点からは、水溶液または水分散液を形成し得るものが好ましい。
【0047】
導電性高分子の中でも、水溶液または水分散液を形成し得る点で、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3−チオフェン−β−エタンスルホン酸)、ポリイソチアナフテンンなどのポリチオフェン系導電性高分子;ポリアニリンなどが好ましい。
【0048】
本発明のフッ素樹脂塗料は、フッ素樹脂と導電剤と水性媒体とを含有するフッ素樹脂塗料である。水性媒体に加えて、有機溶剤が存在していてもよい。導電剤としては、イオン液体及び導電性高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電剤を使用する。
【0049】
フッ素樹脂塗料の製造方法は特に限定されないが、フッ素樹脂水性ディスパージョンとイオン液体とを混合する方法;フッ素樹脂水性ディスパージョンと導電性高分子の水分散液とを混合する方法;などが好ましい。これらの混合方法を採用すると、良好な分散状態を得ることができるため、導電性フィラーの混合において汎用されているビーズミルや超音波攪拌機などの大がかりな装置を使用する必要がない。
【0050】
フッ素樹脂(固形分)とイオン液体または導電性高分子との混合比率は、フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂フィルムの温度20℃び印加電圧100Vで測定した表面抵抗率の平均値が1×10Ω/□から1×1016Ω/□、好ましくは1.0×1010Ω/□から1.0×1015Ω/□、より好ましくは1.0×1011Ω/□から1.0×1014Ω/□までの範囲内となるように設定する。
【0051】
表面抵抗率の単位は、一般にΩで表わされているが、Ω/□で表わすことがある。表面抵抗率は、試験片の表面に沿って流れる電流と平行方向の電位傾度を、表面の単位幅当たりの電流で除した数値である。この数値は、各辺1cmの正方形の相対する辺を電極とする2つの電極間の表面抵抗に等しい。そこで、従来より、表面抵抗率の単位をΩ/□で表わすことがあり、本発明でも表面抵抗率の単位をΩ/□で表わす。
【0052】
フッ素樹脂フィルムの表面抵抗率を前記の半導電性領域に制御することによって、帯電防止機能を発揮させるとともに、最外層にフッ素樹脂フィルム層(フッ素樹脂層)を配置した定着ローラまたはベルトの静電オフセットを効率よく防止することができる。
【0053】
フッ素樹脂に対するイオン液体または導電性高分子の混合比率は、イオン液体または導電性高分子の導電率によって異なる。導電剤がイオン液体の場合、フッ素樹脂の固形分100質量部に対して、イオン液体を通常0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部の割合で混合する。イオン液体の混合比率が小さすぎると、所望の半導電性領域の表面抵抗率を達成することが困難となる。イオン液体の混合比率が大きすぎると、フッ素樹脂フィルム(フッ素樹脂塗膜)の表面抵抗率が低下しすぎたり、フィルム物性や離型性、表面性などが損なわれることがある。
【0054】
導電剤が導電性高分子の場合、フッ素樹脂の固形分100質量部に対して、導電性高分子を通常0.01〜2質量部、好ましくは0.05〜1.8質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部の割合で混合する。導電性高分子の混合比率が小さすぎると、所望の半導電性領域の表面抵抗率を達成することが困難となる。導電性高分子の混合比率が大きすぎると、フッ素樹脂フィルム(フッ素樹脂塗膜)の表面抵抗率が低下しすぎたり、フィルム物性や離型性、表面性などが損なわれることがある。
【0055】
フッ素樹脂塗料の固形分(フッ素樹脂とイオン液体及び/または導電性高分子との合計量)濃度は、通常3〜70質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜45質量%である。この固形分濃度が小さすぎると、所望の膜厚の塗膜を得るのが困難となるか、繰り返し塗布する必要があるため塗布操作が煩雑となる。この固形分濃度が大きすぎると、各成分の均一分散性が低下したり、沈殿が生じることがある。
【0056】
フッ素樹脂塗料を塗布して得られる塗膜(フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層)の表面粗さRa(中心線平均粗さ)は、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.3μm以下である。この表面粗さRaは、多くの場合0.1μm程度にまで小さくすることができる。最外層として表面粗さRaが大きすぎるフッ素樹脂層を有する定着ローラまたはベルトを用いると、画像品質が低下する傾向にあることに加えて、該フッ素樹脂層の表面に異物が付着して、その部分のトナー像が未定着状態となることがある。
【0057】
フッ素樹脂塗料を塗布して得られる塗膜(フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層)の表面抵抗率は、場所によるバラツキが小さいという特徴を有している。フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層の表面抵抗率の測定は、測定用試料の表面積1m当たり任意に選んだ20点の測定点で行い、その平均値を表面抵抗率の平均値とする。20点の測定値の最小値(MIN)に対する最大値(MAX)の比(MAX/MIN)を算出し、場所によるバラツキを示す指標とする。本発明のフッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層は、表面抵抗率の最小値に対する最大値の比が好ましくは10以下であり、表面抵抗率のバラツキが極めて小さいものである。
【0058】
本発明のフッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層の表面粗さRaが極めて小さく、かつ、表面抵抗率の場所によるバラツキが極めて小さい理由は、導電剤として使用するイオン液体または導電性高分子の分散状態が非常に良好であり、導電性カーボンブラックのように凝集物を形成することがなく、酸化チタンなどの半導電性物質のように粒径が大きな粒子として存在することがないためであると推定することができる。イオン液体は、フッ素樹脂中に溶融状態で均一に分散する。導電性高分子は、製膜性があるため、フッ素樹脂中に均一に分散して、フッ素樹脂とともに均一な厚みの塗膜を形成することができる。
【0059】
本発明のフッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂と導電剤とを含有するフッ素樹脂組成物から形成された半導電性フッ素樹脂フィルムである。該導電剤は、イオン液体及び導電性高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電剤である。フッ素樹脂フィルムは、フッ素樹脂とイオン液体及び/または導電性高分子と混練し、得られた混練物をフィルム状に押出加工、プレス加工などを行う方法によっても製造することができる。しかし、フッ素樹脂中へのイオン液体や高分子導電剤の均一分散性、フッ素樹脂フィルムの表面性、フッ素樹脂層の被覆加工性などの観点から、フッ素樹脂フィルムは、前記のフッ素樹脂水性ディスパージョン中にイオン液体及び/または導電性高分子が均一に分散したフッ素樹脂塗料を塗布する方法により形成することが好ましい。
【0060】
フッ素樹脂フィルム(フッ素樹脂層を含む)及びフッ素樹脂塗料には、所望により、界面活性剤、無機フィラー、滑剤、熱伝導性フィラー、着色剤などの各種添加剤を含有させることができる。帯電防止性、表面性、離型性などの観点からは、本発明のフッ素樹脂フィルムやフッ素樹脂塗料には、フィラーなどの固体粒子を含有させないことが好ましい。
【0061】
本発明のフッ素樹脂塗料は、例えば、帯電防止塗料として利用することができる。本発明のフッ素樹脂塗料は、基材上に、最上層としてフッ素樹脂層が配置された構造を有するフッ素樹脂被覆成形体の当該フッ素樹脂層の形成に用いることができる。基材としては、特に限定されず、帯電防止性、離型性、半導電性、表面平坦性などが要求される各種成形体が挙げられる。成形体の形状は、ローラ、ベルト、フィルム、シート、パイプ、その他の立体など任意である。基材の材質も、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、金属などが挙げられ、特に限定されない。フッ素樹脂層は、基材上に直接若しくは他の層を介して形成することができる。
【0062】
フッ素樹脂被覆成形体としては、ローラ状若しくはベルト状の基材上に、最上層として該フッ素樹脂層が配置された構造を有する被覆ローラまたはベルトであることが好ましい。該被覆ローラまたはベルトは、電子写真方式の画像形成装置における定着ローラ若しくはベルトとして好適である。
【0063】
本発明のフッ素樹脂塗料は、電子部品実装基板を収容するための基板用カセットなど、半導電性領域の表面抵抗率を有するフッ素樹脂層を最外層に設けた各種電荷制御部材の当該フッ素樹脂層を形成するために用いることができる。基板用カセットの基材としては、熱可塑性樹脂製の他、金属製であってもよい。金属製基材のように導電性が高すぎると、基板に蓄積した静電気が該基材との接触によって急激に放電するおそれがある。本発明のフッ素樹脂塗料は、帯電防止塗料として、合成樹脂基材(成形体を含む)など帯電性を有する基材上に塗布して用いることができる。
【0064】
フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層(フッ素樹脂被覆層)は、基材若しくは支持体上にフッ素樹脂塗料を塗布し、乾燥後、焼成することによって形成することができる。焼成温度及び焼成時間は、フッ素樹脂技術分野の技術常識に基づき、フッ素樹脂の種類に応じて適宜設定することができる。PTFE、PFA、FEPなどのフッ素樹脂の場合には、フッ素樹脂塗料を塗布後、80〜200℃で10〜60分間程度乾燥し、次いで、350〜450℃で10〜60分間加熱して焼成する方法が一般的であるが、これらの条件に限定されない。フッ素樹脂フィルムは、支持体から剥離して得ることができるが、基材上にフッ素樹脂層をして形成した状態で使用することもできる。
【0065】
フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層の厚みは、通常1〜250μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜50μmである。フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層の厚みが薄すぎると、機械物性や耐摩耗性が低下する。フッ素樹脂フィルムまたはフッ素樹脂層の厚みが厚すぎると、用途によっては過大な厚みとなったり、フッ素樹脂塗料の塗布操作が煩雑となったり、熱伝導性が低下したりする。
【0066】
本発明のフッ素樹脂被覆成形体としては、電子写真方式の画像形成装置における定着ローラ若しくはベルトが好ましい。定着ローラは、金属製ローラ基材上にフッ素樹脂層を被覆形成したもの、金属製ローラ基材上にゴム層を介してフッ素樹脂層を配置したものなどが挙げられる。金属製ローラ基材上にフッ素樹脂層を形成するには、金属製ローラ基材の表面に直接フッ素樹脂塗料を塗布・乾燥し、焼成する方法を採用することができる。
【0067】
金属製ローラ基材上にゴム層を介してフッ素樹脂層を配置するには、円筒状金型の内面にフッ素樹脂塗料を塗布・乾燥し、焼成して、フッ素樹脂層を形成した後、該円筒状金型の軸心に金属製ローラを配置し、フッ素樹脂層と金属製ローラ基材との間隙にゴム材料を注入し、加硫する方法を採用することが、ゴム層の熱劣化を防ぐ上で好ましい。ゴム層は、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどの耐熱性ゴムによって形成することが好ましい。この方法は、定着ベルト基材上にゴム層を介してフッ素樹脂層を配置する場合にも適用することができる。
【0068】
定着ベルトは、ポリイミドなどの耐熱性樹脂からなるベルト基材上に、直接またはプライマー層(接着剤層)を介して、フッ素樹脂塗料を塗布・乾燥し、焼成する方法によりフッ素樹脂層を形成することができる。定着ベルトは、耐熱性樹脂からなるベルト基材上に直接またはゴム層を介してフッ素樹脂層を設けたものであってもよい。
【0069】
定着ベルトの基材を構成する耐熱性樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられる。これらの中でもポリイミドが好ましく、熱硬化型ポリイミドがより好ましい。定着ベルトの基材として、ステンレスなどの金属製基材を用いることもできる。金属製基材上に直接またはゴム層を介してフッ素樹脂層を形成する。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例における各種物性及び特性の測定法は、次のとおりである。
【0071】
(1)表面抵抗率:
フッ素樹脂フィルム(フッ素樹脂層)の表面抵抗率は、微小電流計(アドバンテスト社製R8340)を用いて、温度20℃、相対湿度40%、及び印加電圧100Vの条件で測定した。
【0072】
表面抵抗率の測定は、測定用試料の表面積1m当たり任意に選んだ20点の測定点で行い、その平均値を表面抵抗率の平均値とした。20点の測定値の最小値(MIN)に対する最大値(MAX)の比(MAX/MIN)を算出し、場所によるバラツキを示す指標とした。
【0073】
(2)表面粗さRa:
フッ素樹脂フィルム(フッ素樹脂層)の表面粗さRaは、10cm四方の試料を切り取り、JIS B 0601に従って、表面粗さ計を用いて測定した。
【0074】
(3)耐オフセット性:
各実施例及び比較例で作製した定着ベルトを、市販の電子写真複写機(印字速度12枚/分)の定着部に配置し、5,000枚連続印字して、オフセット発生の有無を目視で確認した。
【0075】
[実施例1]
宇部興産株式会社製の熱硬化型ポリイミドワニス(U−ワニス−S)360gに、他の熱硬化型ポリイミドワニス(U−ワニス−A)40gを加え、30分間混合した。このワニスを円柱状金型上にディッピング法により付着させた。100〜200℃の段階的加熱により溶媒を除去した。被膜を焼成した後、円柱状金型を除去することにより、外径24mm、厚み50μm、長さ24cmの熱硬化型ポリイミドチューブを得た。#1000の研磨紙を用いて、該熱硬化型ポリイミドチューブの外周面を粗面化し、外周面の表面粗さRaが1.0μmの熱硬化型ポリイミドチューブを調製した。この粗面化した熱硬化型ポリイミドチューブ内にSUS製の円柱状芯材を挿入した。
【0076】
他方、PFA水性ディスパージョン(ダイキン社製AD2−CR)に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の水分散液〔バイエル社製BAYTRON(登録商標) P;ドーパント=p−トルエンスルホン酸;導電率=1〜80S/cm〕を、PFA固形分100質量部に対してポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が0.5質量部となる割合で混合して、フッ素樹脂塗料(固形分濃度=約35質量%)を調製した。
【0077】
このフッ素樹脂塗料の中に、前記の円筒状芯材を挿入した熱硬化型ポリイミドチューブを浸漬し、100℃で20分間乾燥後、380℃で30分間焼成処理して、フッ素樹脂被覆層(厚み10μm)を形成した。円筒状芯材を抜き取って、定着ベルトを得た。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、PFA固形分100質量部に対するポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の割合を0.5質量部から1.0質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして定着ベルトを作製した。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例3]
実施例1において、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)に代えてポリアニリンの水分散液〔日産化学工業株式会社製ORMECON(登録商標) D1033W;ドーパント=DBSAなど;導電率=180S/cm〕を、PFA固形分100質量部に対してポリアニリンが0.4質量部となる割合で混合して、フッ素樹脂塗料(固形分濃度=約35質量%)を調製した。このフッ素樹脂塗料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例4]
実施例3において、PFA固形分100質量部に対するポリアニリンの割合を0.4質量部から0.8質量部に変更したこと以外は実施例3と同様にして定着ベルトを作製した。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例5]
実施例1において、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)に代えてイオン液体〔光栄化学社製IL−A1;脂肪族アミン系イオン液体;導電率=5.3×10−4S/cm〕を、PFA固形分100質量部に対してイオン液体が6.0質量部となる割合で混合して、フッ素樹脂塗料(固形分濃度=約40質量%)を調製した。このフッ素樹脂塗料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。結果を表1に示す。
【0082】
[比較例1]
実施例1において、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)に代えて、導電性カーボンブラック〔ライオン社製ライオンペーストW−310A;ケッチェンブラックの分散液〕と微粒子酸化チタン〔テイカ社製JR−600A;平均粒径0.25μm;表面処理品〕とを、PFA固形分100質量部に対して導電性カーボンブラックが0.4質量部、微粒子酸化チタンが14質量部となる割合で混合して、フッ素樹脂塗料(固形分濃度=約50質量%)を調製した。このフッ素樹脂塗料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルトを作製した。結果を表1に示す。
【0083】
[比較例2]
比較例1において、PFA固形分100質量部に対する微粒子酸化チタンの割合を14質量部から4質量部に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、定着ベルトを作製した。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
(脚注)
(1)PEDOT:ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、バイエル社製BAYTRON(登録商標) P、
(2)ポリアニリン:日産化学工業株式会社製ORMECON(登録商標) D1033W
(3)イオン液体:脂肪族アミン系イオン液体、光栄化学社製IL−A1、
(4)カーボンブラック:導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック)、ライオン社製ライオンペーストW−310A、
(5)酸化チタン:微粒子酸化チタン、テイカ社製JR−600A。
【0086】
<考察>
実施例1〜4に示されているように、フッ素樹脂水性ディスパージョンに導電性高分子を極めて小量の割合で含有させたフッ素樹脂塗料を用いることにより、表面粗さRaが小さく、表面抵抗率のバラツキが小さなフッ素樹脂層(フッ素樹脂フィルム)を形成することができる。実施例5に示されているように、イオン液体を用いた場合も、同様に、均一分散性に優れ、表面粗さRaが小さく、表面抵抗率のバラツキが小さなフッ素樹脂層(フッ素樹脂フィルム)を形成することができる。
【0087】
これに対して、導電性カーボンブラックと半導電性物質(微粒子酸化チタン)を併用した場合には、表面抵抗率のバラツキを小さくすると、表面粗さRaが大きくなり(比較例1)、表面粗さRaを小さくすると、表面抵抗率のバラツキが大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のフッ素樹脂フィルム及びフッ素樹脂塗料は、半導電性領域の表面抵抗率が要求される技術分野で利用することができる。具体的には、定着ローラやベルトなどの電子写真方式の画像形成装置における電荷制御部材、基板用カセットなどが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂と導電剤とを含有するフッ素樹脂組成物から形成された半導電性フッ素樹脂フィルムであって、
該導電剤が、イオン液体及び導電性高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電剤であり、かつ、
該半導電性フッ素樹脂フィルムの温度20℃及び印加電圧100Vで測定した表面抵抗率の平均値が、1×10Ω/□から1×1016Ω/□までの範囲内にある
ことを特徴とする半導電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項2】
該半導電性フィルムの表面粗さRaが、1.0μm以下である請求項1記載の半導電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項3】
該半導電性フッ素樹脂フィルムの表面抵抗率の最小値に対する最大値の比が、10以下である請求項1または2記載の半導電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項4】
該フッ素樹脂組成物が、該フッ素樹脂100質量部に対して、該イオン液体を0.01〜20質量部の割合で含有するものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項5】
該フッ素樹脂組成物が、該フッ素樹脂100質量部に対して、該導電性高分子を0.01〜2質量部の割合で含有するものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導電性フッ素樹脂フィルム。
【請求項6】
フッ素樹脂と導電剤と水性媒体とを含有するフッ素樹脂塗料であって、
該導電剤が、イオン液体及び導電性高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電剤であり、かつ、
該フッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂フィルムの温度20℃び印加電圧100Vで測定した表面抵抗率の平均値が、1×10Ω/□から1×1016Ω/□までの範囲内にある
ことを特徴とするフッ素樹脂塗料。
【請求項7】
基材上に、最上層として、請求項6記載のフッ素樹脂塗料の塗膜からなるフッ素樹脂層が配置された構造を有するフッ素樹脂被覆成形体。
【請求項8】
ローラ状若しくはベルト状基材上に、最上層として、該フッ素樹脂層が配置された構造を有する被覆ローラまたはベルトである請求項7記載のフッ素樹脂被覆成形体。
【請求項9】
該被覆ローラまたはベルトが、電子写真方式の画像形成装置における定着ローラ若しくはベルトである請求項8記載のフッ素樹脂被覆成形体。

【公開番号】特開2010−32812(P2010−32812A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195496(P2008−195496)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】