説明

半導電性ベルト及びその製造方法

【課題】 ポリアミドイミドを用いた半導電性ベルトにおいて、機械的強度を低下させることなく製品毎の表面抵抗値及び体積抵抗値のばらつきが少ない生産性の高い半導電性ベルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 対数粘度が0.4〜1.2dl/gのポリアミドイミドと導電性カーボンブラックとを含む溶液の動粘度が1000〜10000mPa・sである材料によって成形して半導電性ベルトとし、この半導電性ベルトを遠心成形法により成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真式複写機やレーザープリンタ等の転写ベルト、搬送ベルト、感光ベルト等に用いられるエンドレスの半導電性ベルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料からなる半導電性ベルトとしては、主にポリイミド系の材料から構成されたものがあり、これは十分な機械的強度、難燃性を備えるものであって、電子写真式複写機やレーザープリンタ等の転写ベルト、搬送ベルト、感光ベルト等の用途として好適に使用されてきた(例えば、特許文献1又は特許文献2を参照のこと)。
【特許文献1】特開2002−351172号公報
【特許文献2】特開2003−131463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これに対して、ポリアミドイミド系の材料を用いた半導電性ベルトは、そのポリアミドイミドの調整方法の違いが、得られる半導電性ベルトの諸特性に大きな影響を与えるものであった。特に、所定の電気特性の半導電性ベルトを得たい場合に、僅かな調整方法の違いがそのポリアミドイミド自体の性質により、製品毎の表面抵抗値及び体積抵抗値にばらつきが生じ易いことから歩留まりが悪く、結果として製品の生産性が著しく低下することとなっていた。
【0004】
この問題の解決策として、導電性ポリマー等の導電性付与剤を添加する方法もあるが、この方法によると添加量が過剰になるために半導電性ベルトの機械的強度が低下するという問題があり、実用的ではなかった。
【0005】
そこで、この発明は、上記の従来の技術における問題点を解決すべく、ポリアミドイミドを用いた半導電性ベルトにおいて、機械的強度を低下させることなく製品毎の表面抵抗値及び体積抵抗値のばらつきが少ない生産性の高い半導電性ベルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のような課題を実現するため、請求項1に係る半導電性ベルトは、対数粘度が0.4〜1.2dl/gのポリアミドイミドと導電性カーボンブラックとを含む溶液の動粘度が1000〜10000mPa・sである材料によって成形されていることを特徴する。
【0007】
請求項2に係る半導電性ベルトは、請求項1の構成に加えて、表面抵抗率が1×10〜1×1014Ω/□からなり、かつ体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmであることを特徴としている。
【0008】
請求項3に係る半導電性ベルトは、請求項1又は2の構成に加えて、前記導電性カーボンブラックの含有量が1〜50質量%の範囲であることを特徴としている。
【0009】
請求項4に係る半導電性ベルトの製造方法は、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の半導電性ベルトを遠心成形法により成形することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
この発明は以上のような構成を有するため、請求項1に記載の発明によれば、対数粘度が0.4〜1.2dl/gのポリアミドイミドと導電性カーボンブラックとを含む溶液の動粘度が1000〜10000mPa・sである材料によって成形されているので、機械的強度を低下させることなく製品毎の表面抵抗率及び体積抵抗率のばらつきが少なくなり、結果として生産性の高い半導電性ベルトを提供することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、表面抵抗率が1×10〜1×1014Ω/□からなり、かつ体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmであるので、ベルトに対するトナーの付着性能がより安定することから、請求項1の効果に加えて、この発明に係る半導電性ベルトを使用した電子写真式複写機やレーザープリンタ等の印刷品位がより良好なものとなる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、導電性カーボンブラックの含有量が1〜50質量%の範囲であるので、目的とする表面抵抗値及び体積抵抗値が確実に得られることになるから、請求項1又は2の効果に加えて、より製品毎の表面抵抗値及び体積抵抗値のばらつきが少なくなり、結果としてより生産性の高い半導電性ベルトを提供することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の半導電性ベルトを遠心成形法により成形するので、溶液状の材料を円筒状の金型の内側に注入して円筒状の金型を回転することにより遠心力の作用により溶液状の材料が円筒状の金型の内壁に均一な厚みの樹脂層が形成され、この樹脂層を加熱して硬化させることで、厚さ精度、抵抗値精度、表面性に優れたエンドレスの半導電性ベルトが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明において、ポリアミドイミド(PAI)の構造とその合成法については公知のものが使用できる。PAIはアミド基と1又は2個のイミド基が有機基を介して結合した繰返し単位を有する高分子であり、有機基が脂肪族と芳香族のものに分類される。芳香族ポリアミドイミドの場合、イミド基、アミド基が結合する有機基がフェニル、若しくはビフェニル構造であり、エーテル、カルボニル、メチレン、スルホニルの各基を間に介したビフェニル構造である。具体的には原料に有機ジアミンとして、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルフォン、2,2′−ビス(4′−(4″−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、3,3′ジメチル−4,4′−ジアミノジフェニル等を用い、有機酸無水物としてトリメリット酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、プロピレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸無水物等が使用される。実際の合成法は、酸成分とイソシアネート(アミン)とからのイソシアネート法、或いは酸クロリド法等の方法があり、アミド系溶剤等の極性溶剤中で合成される。しかしながら、この発明では、PAIの構造と合成法はこれに限定されるものではなく、必要に応じて、他の公知の構造と合成法を採用することができる。
【0015】
なお、PAIの対数粘度については、以上のような合成法にて得られたPAI溶液を充分に洗浄、乾燥し、PAIの固形樹脂を得て、以下の方法により対数粘度を算出した。
【0016】
まず、最初にPAI固形樹脂0.5gを100ccのN−メチル−2−ポリピロリドン(NMP)に溶解し、この溶液をウベローデ毛細管粘度計に入れ、25℃の恒温槽で調温した。次に、ウベローデ粘度管の毛細管部分の標線間を通過する時間を測定した(t)。同様にして、NMP単独溶液の時間を測定した(t0)。なお、測定誤差は0.1秒以内になるまで測定し、良好なデータの平均秒数を求め、下式より対数粘度(ηinh)を算出した。ここで、Cは溶液濃度(g/dL)である。
【0017】
(数1)
ηinh=ln(t/t0)/C
【0018】
導電性フィラーとしては、半導電性ベルトに求められる抵抗値が高い領域にあることから、カーボンフィラーが使用される。このカーボンフィラーとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、又はランプブラック等のカーボンブラックが使用される。この発明の実施形態においては、カーボンブラックの分散状態が必要な特性を得るために重要な役割を果たす。カーボンブラックは通常の状態では、一次粒子としてほとんど存在せず、一次粒子が凝集した二次粒子、さらにこれが凝集した三次粒子となっている。この凝集体が電気の導通経路を形成し、総合的には少ない添加量で高い導電性が得られる反面、微小領域においては導通部と絶縁部の割合のばらつきが大きくなり、結果として抵抗値が大きくばらつくこととなる。また、ロールに沿う程度の変形で抵抗値の変化が大きくなり、悪影響を及ぼす恐れが少なくない。また、特開2003−131463号公報には、二次凝集の最大粒子径及び粒度分布の標準偏差が、ある範囲内のカーボンブラックが使用されたポリイミド系の半導電性ベルトが提案されている。しかし、ポリアミドイミドではこのような先例はない。
【0019】
そこで、この発明では、ポリアミドイミドを使用することにより、加工性が良好になると共に高い引張り強度が得られることに着眼した。
【0020】
なお、電子写真式複写機やレーザープリンタ等の転写ベルト、搬送ベルト、感光ベルト等に用いられる半導電性ベルトに要求される抵抗値としては、紙やOHP用シートの搬送に関してはその表面抵抗が絶縁領域にあることがよく、トナーの転写、除電には体積抵抗が半導電領域であることがよいとされている。そして、後述する実施例と比較例とによる実験から、ポリアミドイミドを使用した半導電性ベルトの場合には、ベルト外表面の表面抵抗率が1×10〜1×1014Ω/□の範囲であり、かつベルトの体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmの範囲であれば上記特性を達成できることが確認できている。
【0021】
この発明の半導電性ベルトには、上記の材料の他に、難燃助剤、着色剤、反応促進剤、反応制御剤、補強剤、酸化防止剤、老化防止剤等の適宜の添加剤を、その性能の許容する範囲内で添加することができる。これらの添加剤は、従来公知の添加剤を用いることができる。また、使用可能な溶剤として、特に制限はないが、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、ホルムアミド、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、アセトアミド、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、テトラメチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、グリコール類、DMSO(ジメチルスルホキシド)等を挙げることができる。
【0022】
なお、動粘度は、ポリアミドイミド、導電性カーボンブラック及びその両者を含む溶液の動粘度を測定している。
【0023】
この発明に係る半導電性ベルトは、上記の材料を均一に混合し、常法に従って成形した状態で加熱して重合硬化することにより得られる。半導電性ベルトを成形する方法としては、押出し成形、遠心成形、注型法等の方法が適用可能であるが、厚さ精度、抵抗値精度、表面性に優れることから、遠心成形法を採用することが好ましい。
【0024】
遠心成形法とは、上記原材料からなる成形用の材料を流動状として円筒状の金型の内側に注入し、金型を回転させることにより、遠心力の作用で金型の内壁に流動状材料の樹脂層を形成し、この樹脂層を乾燥又は加熱硬化して、樹脂層を金型の内側に形成させ、硬化した樹脂層を取り出す方法である。
【0025】
金型は金属性がよく、内側は半導電性ベルト表面の面粗度を細かくするために鏡面加工を施し、半導電性ベルトの剥離が簡単なようにフッ素樹脂やシリコーン樹脂等で処理したものが好ましい。金型の外周面は、遠心成形時の横ブレ等を防ぐための溝、突条等の加工を施してもよい。また、半導電性ベルトを製作する際の加熱方式としてランプヒーターを使用する場合は、エネルギーの吸収効率を高めるために金型につや消し黒の耐熱塗装を施すことが好ましい。金型の寸法は、樹脂材料の硬化収縮、熱収縮の大きさを予め求めておき、所望の寸法から算出した値とする。
【0026】
第1図及び第2図には、この発明に使用される遠心成形装置を示す模式図を示す。遠心成形装置は回転する4つのローラ1上に置かれた金型2と金型2内へ成形材料を供給する材料供給装置3とからなっている。金型2の両端部には流動状態の材料の漏れ及び金型の回転中の横ブレを防止するリング状プレート4が設けられている。成形用の樹脂溶液は、材料供給装置3により所定の組成となるように調整された後、金型2の中にノズル5を介して必要量だけ注入される。成形用の樹脂溶液の注入量は、固化後の成形用の樹脂溶液の比重、金型の内面寸法、製品の厚さから算出し、所定量を注入すればよい。この発明に係る半導電性ベルトには、機械的強度と可撓性が求められるので、厚さは概略0.03〜1.0mm程度に調整される。
【0027】
金型2内の樹脂層を均一な厚みにするには樹脂溶液に十分な遠心力を付与するに必要な回転数で金型2を回転させながら、成形を行う。成形用の樹脂溶液を注入したら、金型2を適当なヒーターなどにより加熱し、成形用の樹脂溶液を乾燥又は硬化させる。このとき、加熱のタイミング、温度、時間は成形用の樹脂溶液の乾燥、硬化条件により適宜選択すればよく、金型2の回転を停止しても金型2内の材料が流動しない状態とした後に、別工程として加熱処理を行うことも可能である。
【0028】
乾燥、硬化が完了したら、金型2ごと冷却すれば、金型2と半導電性ベルトの熱膨張の差によって、半導電性ベルトは自然に金型2から剥離する。この金型2から剥離した半導電性ベルトを所定寸法に切断して、製品としての半導電性ベルトが得られる。
【0029】
上記の切断工程を省略するために、成形用金型内面に、成形用の溶液の流動を規制するための堰を設けることも可能である。また、得られた半導電性ベルトに、蛇行規制用のガイド部材を設けたり、位置検出部を設けたりしてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、この発明を実施例について説明するが、この発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0031】
トリメリット酸−無水物と4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートとの等量をN−メチル−2−ポリピロリドン(NMP)中、反応時間を変えてポリアミドイミド(PAI)を重合した。得られた各溶液を洗浄、乾燥し、PAIの粉末を得て、これらの対数粘度を測定したところ、0.4、0.8、1.2及び1.3であった。
【0032】
この対数粘度の異なるPAIを用い、表1と表2に記載した配合量の各実施例(実施例1〜4)及び比較例(比較例1〜4)について、各10個(試料数n=10)ずつ成形し、実施例と比較例の半導電性ベルトを得た。なお、成形用の樹脂溶液の動粘度は、25℃における動粘度をJIS K2283に準拠し測定し、その結果を表中にまとめて示した。
【0033】
実施例1〜4及び比較例1〜4の各10個の半導電性ベルトにつき、JIS K6911に準拠した方法で体積抵抗率及び表面抵抗率を測定した。測定装置として「ハイレスタUP」(商品名、ダイヤインスツルメンツ社製)を用い、プローブは「UR−100」を使用し、測定電圧500V、測定時間は10秒とした。試料は23℃、50%RHの環境に48時間放置後、この環境で各5点測定を行い、その平均値を表1と表2に示した。
【0034】
その結果、実施例1〜4にあっては、表面抵抗率が1×10〜1×1014Ω/□の範囲であり、かつベルトの体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmの範囲であることがわかる。これに対して、比較例1〜3では、表面抵抗率が1×10Ω/□未満のものと1×1014Ω/□を越えるのものが含まれており、かつベルトの体積抵抗率が1×10Ω・cm未満のものと1×1014Ω・cmを越えるのものが含まれている。そして、この際の実施例1〜4の表面抵抗率と体積抵抗率との測定値のばらつき(最大値と最小値との差)はそれぞれ0.2桁以内であるが、比較例1〜4の表面抵抗率と体積抵抗率との測定値のばらつきはそれぞれ0.5桁以上であった。
【0035】
印刷品位を確認するための画像試験としては、実施例1〜4及び比較例1〜4の半導電性ベルトを画像装置に装着し、A4サイズの用紙を1000枚複写して、全数の画像の状態を観察した。画像を目視により観察し、印刷後の用紙に白抜けした部分が一枚も認められなければ○、印刷後に一枚以上の白抜けしたものが認められたものについては×とした。
【0036】
画像試験の結果、実施例1〜4のとおり、対数粘度が0.4〜1.2dl/gのポリアミドイミドと導電性カーボンブラックとを含む溶液であって、その動粘度が1000〜10000mPa・sである材料によって成形された半導電性ベルトでは、製品毎の表面抵抗値及び体積抵抗値のばらつきが0.2桁以内と少なく、これらの半導電性ベルトを使用した画像装置の印刷品位が良好なものであることが確認できた。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明に使用される遠心成形装置を示す模式図の正面図である。
【図2】この発明に使用される遠心成形装置を示す模式図の側面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 ローラ
2 金型
3 材料供給装置
4 リング状プレート
5 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対数粘度が0.4〜1.2dl/gのポリアミドイミドと導電性カーボンブラックとを含む溶液の動粘度が1000〜10000mPa・sである材料によって成形されていることを特徴とする半導電性ベルト。
【請求項2】
表面抵抗率が、1×10〜1×1014Ω/□からなり、かつ体積抵抗率が1×10〜1×1014Ω・cmであることを特徴とする請求項1に記載の半導電性ベルト。
【請求項3】
前記導電性カーボンブラックの含有量が1〜50質量%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導電性ベルト。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の半導電性ベルトを遠心成形法により成形することを特徴とする半導電性ベルトの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−44078(P2006−44078A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228757(P2004−228757)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】