説明

半導電性ベルト

【課題】
ポリイミドフィルムの強度や難伸長性等の優れた機械特性を活かしつつ、表面抵抗率等の電気特性の環境安定性に優れて外部環境により変動しにくく電子写真記録装置の中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして用いた場合にトナー像の変形や転写ムラなく良好な画像を記録シートに転写でき、かつ搬送の記録シートを良好に分離できる性能を長期に持続する半導電性ベルトの開発。
【解決手段】
25℃、60%RHにおける体積抵抗率が109〜1016Ωcmであると共に表面抵抗率が1010〜1017Ωであり、かつ30℃、85%RHと10℃、15%RHにおける表面抵抗率の常用対数に基づく変動幅が1.0以下の単層のポリイミドフィルムからなる半導電性ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気特性の環境安定性や耐久性に優れて電子写真記録装置における像の中間転写ベルトやその像の記録シートの転写搬送ベルトなどに好適な半導電性ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザープリンタ、ビデオプリンタやファクシミリ、それらの複合機の如き電子写真方式で像を形成記録する装置等では、装置寿命の向上などを目的に感光体ドラム等の像担持体にトナー等の記録剤を介し形成した像を記録シート上に直接定着させる方式を回避して、像担持体上の像を中間転写ベルトに一旦転写しそれを記録シート上に定着させる方式が検討されており、また前記の像を記録シートへ転写しつつ、そのシートの搬送も兼ねさせる転写方式も検討されている。
【0003】
従来、前記の中間転写ベルトなどに用いうる半導電性ベルトとしては、ポリイミドフィルムに導電フィラーを配合して体積抵抗率を1〜1013Ωcmとしたものが知られていた(特開平5−77252号公報)。これはポリイミドフィルムを用いることにより、それまでのフッ化ビニリデンやエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリカーボネート等からなるフィルムを用いた半導電性ベルト(特開平5−200904号公報、特開平5−345368号公報、特開平6−95521号公報)による問題、すなわち強度や耐摩擦・摩耗性等の機械特性に不足してベルト端等にクラックが発生したり、駆動時の負荷で変形して転写画像が変形するなどの問題を克服したものである。
【0004】
しかしながら、上記従来のポリイミドフィルムからなる半導電性ベルトにあっては、電気特性の環境安定性や耐久性に乏しく実用上満足できない問題点があった。すなわち表面抵抗率等の電気特性が温度や湿度等の外部環境で大きく変動したり、長期の使用で電気特性が大きく変動したりして、例えば上記した中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして用いた場合に、記録シートに転写現像したトナー像に転写ムラを生じたり、転写しつつ搬送した記録シートをベルトより分離する際に分離不良を生じるなどの問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリイミドフィルムの上記した強度等の優れた機械特性を活かしつつ、表面抵抗率等の電気特性の環境安定性に優れて外部環境により変動しにくく、電子写真記録装置の中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして用いた場合にも、トナー像の変形や転写ムラなく良好な画像を記録シートに転写でき、かつ搬送の記録シートを良好に分離できる性能を長期に持続する半導電性ベルトの開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が109〜1016Ωcmであると共に表面抵抗率が1010〜1017Ωであり、かつ30℃、85%RHと10℃、15%RHにおける表面抵抗率の常用対数に基づく変動幅が1.0以下の単層のポリイミドフィルムからなる半導電性ベルトを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリイミドフィルムの強度や難伸長性等の優れた機械特性を活かしつつ、表面抵抗率等の電気特性の環境安定性に優れて外部環境により電気特性が変動しにくい半導電性ベルトを得ることができ、電子写真記録装置の中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして用いた場合にトナー等による記録像の変形や転写ムラなく良好な画像を記録シートに転写でき、かつ搬送の記録シートを良好に分離する性能を長期に持続するベルトを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明による半導電性ベルトは、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が109〜1016Ωcmであると共に表面抵抗率が1010〜1017Ωであり、かつ30℃、85%RHと10℃、15%RHにおける表面抵抗率の常用対数に基づく変動幅が1.0以下のポリイミドフィルムからなる。
【0009】
ポリイミドフィルムの形成は、例えばテトラカルボン酸二無水物やその誘導体とジアミンを溶媒中で重合反応させてなるポリアミド酸の溶液を適宜な方式で展開し、その展開層を乾燥製膜してフィルム状に成形し、その成形物を加熱処理してポリアミド酸をイミドに転化する方法などにより行うことができる。
【0010】
前記においてポリアミド酸を形成するテトラカルボン酸二無水物等やジアミンとしては適宜なものを用いることができる。ちなみにそのテトラカルボン酸二無水物の例としては、下記の一般式で表されるものなどがあげられる。
(ただし、Rは四価の、芳香族基、脂肪族基、環状脂肪族基、それらの複合基、又は置換基を有するそれらの基である)。
【化1】

【0011】
前記したテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)や3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)や2,3,3',4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物や1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物があげられる。
【0012】
また、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物や2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物やペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物やエチレンテトラカルボン酸二無水物なども前記テトラカルボン酸二無水物の具体例としてあげられる。
【0013】
一方、ジアミンの例としては、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)や3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタンや3,3'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジクロロベンジジンや4,4'−アミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルホンや1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミンやp−フェニレンジアミン(PDA)、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニルやベンジジンがあげられる。
【0014】
また、3,3'−ジメチルベンジジンや3,3'−ジメトキシベンジジン、4,4'−ジアミノフェニルスルホンや4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルプロパンや2,4−ビス(β-アミノ−t-ブチル)トルエン、ビス(p−β-アミノ−t-ブチルフェニル)エーテルやビス(p−β-メチル−δ-アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼンや1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミンやp−キシリレンジアミンも前記ジアミンの例としてあげられる。
【0015】
さらに、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタンやヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミンやオクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミンやデカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレンジアミンや3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカンや1,2−ビス−(3−アミノプロポキシ)エタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミンや3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミンや2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミンも前記ジアミンの例としてあげられる。
【0016】
加えて、3−メチルヘプタメチレンジアミンや5−メチルノナメチレンジアミン、2,17−ジアミノエイコサデカンや1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカンや1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンやピペラジン、H2N(CH23O(CH22O(CH2)NH2、H2N(CH23S(CH23NH2、H2N(CH23N(CH3)(CH23NH2なども前記ジアミンの例としてあげられる。
【0017】
上記したテトラカルボン酸二無水物等とジアミンを重合反応させる際の溶媒としても適宜なものを用いうるが、溶解性などの点より極性溶媒が好ましく用いうる。ちなみにその極性溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミドやN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミドやN,N−ジエチルアセトアミドの如きN,N−ジアルキルアミド類、、N,N−ジメチルメトキシアセトアミドやジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミドやN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピリジンやジメチルスルホン、テトラメチレンスルホンやジメチルテトラメチレンスルホンなどがあげられる。
【0018】
就中、蒸発や置換や拡散等による適宜な措置でポリアミド酸溶液から容易に除去できる極性溶媒が好ましく用いうる。また溶媒には、例えばクレゾールやフェノールやキシレノールの如きフェノール類、ベンゾニトリルやジオキサン、ヘキサンやベンゼン、トルエンなどの水以外のものを必要に応じて併用することもできる。なお水の使用は、生成したポリアミド酸が加水分解して低分子量化し、ポリイミドの強度低下を招きやすいので好ましくない。
【0019】
ポリアミド酸の調製に際しては、テトラカルボン酸二無水物やその誘導体、ジアミン及び極性溶媒やその他の溶媒は、1種又は2種以上を用いうる。テトラカルボン酸二無水物等とジアミンの使用割合は、略等モルが一般的であるがこれに限定されない。反応開始時のモノマー濃度は、反応条件等により適宜に決定しうるが一般には約5〜30重量%とされ、反応温度は80℃以下、就中5〜50℃が適当である。
【0020】
反応の進行により、溶液の粘度が上昇する。本発明にては0.5以上の対数粘度ηとなるまで反応を進行させたポリアミド酸溶液が、得られるベルトの耐熱性の向上などの点より好ましい。かかる重合状態のポリアミド酸の溶液を得るのに要する反応時間は、前記の反応条件に基づく場合、通例0.5〜10時間である。なお前記の対数粘度ηは、毛細管粘度計にてポリアミド酸溶液の落下時間t1と溶媒の落下時間t0を測定し、その値を用いて下式により算出することができる。 η=In(t1/t0)/C(ただし、Cは溶液におけるポリアミド酸の濃度(g/dl)である。)
【0021】
半導電性ベルトの形成に用いるポリイミドフィルムは、基準状態、すなわち25℃、60%RHにおける体積抵抗率が109〜1016Ωcmであると共に表面抵抗率が1010〜1017Ωであり、かつ30℃、85%RHと10℃、15%RHにおける表面抵抗率の常用対数に基づく変動幅が1.0以下のものである。これにより電子写真記録装置の中間転写ベルトや転写搬送ベルトに要求される電気特性を満足させつつ、電気特性の環境安定性に優れる半導電性ベルトを得ることができる。
【0022】
前記基準状態の体積抵抗率が109Ωcm未満又は表面抵抗率が1010Ω未満では、像担持体と中間転写ベルト等の間に過大な電流を生じて中間転写ベルト等に転写した記録剤が像担持体に逆戻りし、正確な像の形成が困難となる。他方、基準状態の体積抵抗率が1016Ωcmを超えると又は表面抵抗率が1017Ωを超えると、像担持体上に形成した記録剤による像を中間転写ベルト等に転写する際に中間転写ベルト等が著しく帯電して像担持体と離れる際に放電現象を発生し、その剥離放電で中間転写ベルト等に転写した記録剤が飛散して、やはり正確な像の形成が困難となり、転写搬送ベルトの場合には、ベルトの表面又は/及び裏面を介した放電が円滑に進行せず、搬送する記録シートの分離不良が生じやすくなる。
【0023】
前記の良好な記録剤の転写による正確な像の形成性などの点より中間転写のみを目的とする場合の好ましい半導電性ベルト(中間転写ベルト)は、基準状態の体積抵抗率が109〜1012Ωcmのポリイミドフィルムからなるものである。また像の記録シートへの転写とその記録シートの搬送を兼ねる半導電性ベルト(転写搬送ベルト)の場合には、正確な像の形成性と記録シートの分離性などの点より、基準状態の体積抵抗率が1013〜1016Ωcmのポリイミドフィルムからなるものが好ましい。
【0024】
前記した体積抵抗率や表面抵抗率の達成には、必要に応じて導電フィラーを配合したポリイミドフィルムとすることができる。その導電フィラーとしては、例えばケッチェンブラックやアセチレンブラックの如きカーボンブラック、アルミニウムやニッケルの如き金属、酸化錫の如き酸化金属化合物やチタン酸カリウム等の導電性ないし半導電性の粉末、あるいはポリアニリンやポリアセチレンの如き導電ポリマーなどの適宜なものの1種又は2種以上を用いることができ、その種類について特に限定はない。
【0025】
用いる導電フィラーの平均粒径については、特に限定はなく、偏在による電気特性のバラツキを抑制する点などよりは粒径の小さいものが好ましく用いうる。かかる点より一般には、一次粒子に基づいて5μm以下、就中3μm以下、特に5mμ〜0.02μmの平均粒径のものが好ましく用いうる。
【0026】
導電フィラーの使用量は、前記した電気特性の達成性などの点より、その種類や粒径や分散性などに応じて適宜に決定しうる。一般には、ポリイミドフィルムにおける強度等の機械特性の低下防止などの点より、ポリイミド(固形分)100重量部あたり、25重量部以下、就中1〜20重量部、特に3〜15重量部の使用量が好ましい。
【0027】
なおポリイミドフィルムにおける前記した強度等の機械特性の維持などの点より導電フィラーの使用量は、少ないほど好ましく、その少ない使用量で前記した電気特性を達成する点よりはケッチェンブラック等のカーボンブラックなどが好ましく用いうる。この場合には、ポリイミド(固形分)100重量部あたり5重量部未満、就中1〜4重量部の使用量にても前記した電気特性の達成が可能である。
【0028】
ポリイミドフィルム中への導電フィラーの配合は、例えば上記したポリアミド酸を調製する際にその溶液にプラネタリーミキサやビーズミルや三本ロール等の適宜な混合機にて導電フィラーを混合分散させて配合し、それを重合処理に供する方式、あるいは予め調製したポリアミド酸の溶液に適宜な混合機にて導電フィラーを混合分散又は溶解させて配合し、それをフィルムの成形に供する方式などの適宜な方式にて行うことができる。
【0029】
なお前記のポリアミド酸を調製するための溶液に導電フィラーを配合する場合には、均一分散による電気特性のバラツキ防止などの点より、先ず溶媒にボールミルや超音波等の適宜な方式で導電フィラーを分散させた後、その分散液にテトラカルボン酸二無水物やその誘導体とジアミンを溶解させて重合処理に供する方式が好ましく適用することができる。
【0030】
本発明による半導電性ベルトの形成に好ましく用いうる、導電フィラーを含有することもあるポリイミドフィルムは、吸湿膨潤係数が2.0/105cm/cm/%RH以下のものである。これにより電気特性の環境安定性、就中30℃、85%RHと10℃、15%RHにおける表面抵抗率の常用対数に基づく変動幅が1.0以下であることの電気特性を有利に達成することができる。
【0031】
すなわち本発明者らの知見では、吸湿による膨潤係数が大きくなるほど環境変動による電気抵抗の変化割合が大きくなる傾向があり、これは吸湿による膨張と乾燥による収縮に基づく導電フィラー間の距離の変化が電気抵抗の変化に影響した結果として理解でき、環境変動による電気抵抗の変化に対しては、吸湿率よりも吸湿膨潤係数が大きく影響するものと考えられる。
【0032】
従って環境変動による電気抵抗変化の抑制には、吸湿膨潤係数の小さいポリイミドが有利に用いうる。またかかる点より、本発明者らは上記したBPDAをモノマー成分とするポリイミドが吸湿膨潤係数の小さいポリイミドを提供することも見出した。
【0033】
上記した吸湿膨潤係数が2.0/105cm/cm/%RH以下のポリイミドは、BPDAからなる成分を全酸成分の50モル%以上含有する組成とすることにより得ることができる。かかる組成は、例えばポリアミド酸溶液を調製する際にテトラカルボン酸二無水物としてBPDAを50モル%以上用いる共重合体方式や、BPDAをモノマー成分とするポリアミド酸と他のテトラカルボン酸二無水物をモノマー成分とするポリアミド酸をBPDA成分が全テトラカルボン酸二無水物成分の50モル%以上となる割合で混合する方式などの適宜な方式にて得ることができる。
【0034】
吸湿膨潤係数の低下の点よりは、BPDA成分の含有量が多いほど好ましく、就中BPDAからなる酸成分を55モル%以上、特に60〜100モル%含有する組成のポリイミドにてフィルムを形成することが好ましい。なお前記において吸湿率と吸湿膨潤係数との関係は、ポリマーの種類によって変化し、その一方より他方を類推しうる相関関係を想定することは困難である。
【0035】
上記したようにポリイミドフィルムは、ポリアミド酸の溶液を適宜に展開してフィルムに成形することにより得ることができる。フィルム厚は、半導電性ベルトの使用目的などに応じて適宜に決定しうる。一般には強度や柔軟性等の機械特性などの点より、5〜500μm、就中10〜300μm、特に20〜200μmの厚さとされる。
【0036】
半導電性ベルトの形成は、上記した電気特性を示すポリイミドフィルムを目的とするベルト形に成形することにより行うことができる。その場合、同種又は異種の層からなる2層又は3層以上の重畳層よりなるポリイミドフィルムを用いることもできる。また目的とするベルトがリング形である場合には、フィルム端の接着剤等を介した接着方式などの適宜な接続方式にて形成することもできるし、シームレスなリングベルトとすることもできる。リング形のシームレスベルトは、重畳による厚さ変化がなく任意な部分を回転の開始位置とすることができて、回転開始位置の制御機構を省略できる利点などを有している。
【0037】
なお前記したシームレスベルトの形成は、例えばポリアミド酸の溶液を金型の内周面や外周面に浸漬方式や遠心方式や塗布方式等にてコートする方式や、注形型に充填する方式などの適宜な方式でリング状に展開し、その展開層を乾燥製膜してベルト形に成形し、その成形物を加熱処理してポリアミド酸をイミドに転化して型より回収する方法などの従来に準じた適宜な方法により行うことができる(特開昭61−95361号公報、特開昭64−22514号公報、特開平3−180309号公報等)。シームレスベルトの形成に際しては、型の離型処理や脱泡処理などの適宜な処理を施すことができる。
【0038】
本発明による半導電性ベルトは、従来に準じた各種の用途に用いうる。就中、機械特性や電気特性に優れることより電子写真記録装置における像の中間転写用のベルトや転写を兼ねた記録シートの転写搬送用のベルトなどとして好ましく用いうる。その場合、記録シートとしては紙系シートやプラスチックシートなどの適宜な印刷用のシートを用いることができ、また記録シートに像を形成する記録剤としても静電気を介し付着処理できる適宜なものを用いうる。
【実施例】
【0039】
例1
NMP1674部(重量部、以下同じ)に乾燥したカーボンブラック(バルカンXC、キャボット社製、ファーネスブラック)16.1部(ポリイミドに対して4重量%に相当)をボールミルにて室温で6時間混合して得た均一分散液にBPDA294.2部とPDA108.2部を溶解させ窒素雰囲気中、室温で4時間撹拌して重合反応させてポリアミド酸溶液を得た。
【0040】
次に前記のポリアミド酸溶液を内径330mm、長さ500mmのドラム金型の内周面にディスペンサを介して厚さ400μmに塗布し、1500rpmで10分間回転させて均一厚の展開層とした後、250rpmで回転させながらドラム金型の外側より60℃の熱風を30分間吹き付け、ついで150℃で60分間加熱した後、2℃/分の速度で300℃に昇温しその温度で30分間加熱して溶媒の除去、脱水閉環水の除去、及びイミド転化を行い、それを室温に冷却して金型より剥離し厚さ73〜78μmのシームレスの半導電性ベルトを得た。
【0041】
例2
BPDA176.5部/PMDA87.2部(モル比6/4)とDDE200.0部を溶解した20重量%NMP溶液を窒素雰囲気中、室温で4時間撹拌して重合反応させ粘度2000ポイズのポリアミド酸溶液を得、そのポリアミド酸溶液とバルカンXC9.3部(ポリイミドに対して2重量%に相当)を三本ロールで混練してその均一分散液を用いたほかは例1に準じて厚さ74〜79μmのシームレスの半導電性ベルトを得た。
【0042】
例3
バルカンXCの使用量をポリイミドに対し3.5重量%相当量としたほかは例1に準じて厚さ76〜80μmのシームレスの半導電性ベルトを得た。
【0043】
例4
バルカンXCに代えて、アセチレンブラック(電気化学工業社製)とケッチェンブラック(ケッチェンブラックEC、ライオン社製)をそれぞれポリイミドに対し3重量%(合計6重量%)相当量を用いたほかは例1に準じて厚さ76〜80μmのシームレスの半導電性ベルトを得た。
【0044】
例5
BPDA/PMDAの使用割合を4/6モルとしたほかは例2に準じて厚さ74〜80μmのシームレスの半導電性ベルトを得た。
【0045】
例6
バルカンXCの使用量をポリイミドに対し6重量%相当量としたほかは例1に準じて厚さ74〜80μmのシームレスの半導電性ベルトを得た。
【0046】
例7
バルカンXCの使用量をポリイミドに対し2.5重量%相当量としたほかは例1に準じて厚さ74〜80μmのシームレスの半導電性ベルトを得た。
【0047】
評価試験
上記の例で得た半導電性ベルトについて下記の特性を調べた。
体積抵抗率
ハイレスタIP MCP−HT260(三菱油化社製、プローブ:HR−100)にて印加電圧100V、1分値の測定条件による25℃、60%RHでの体積抵抗率を調べた。
【0048】
表面抵抗率と変動幅(△log)
ハイレスタIP MCP−HT260にて印加電圧250V、1分値の測定条件による、10℃、15%RH、25℃、60%RH(基準状態)、及び30℃、85%RHにおける表面抵抗率を調べ、30℃、85%RH(a)と10℃、15%RH(b)における表面抵抗率の常用対数に基づく変動幅(△log:a−b)を求めた。なお基準としたa,bの値は、平均値である。
【0049】
吸湿膨潤係数、吸湿率
120℃で1時間乾燥処理したものにつき25℃、100%RH、24時間の条件で吸湿させて吸湿前(L0,W0)と吸湿後(L,W)の寸法変化(L−L0=△L)及び重量変化(W−W0=△W)を求めて下式より算出した。
吸湿膨潤係数=△L/100L0
吸 湿 率 =△W/W0×100
【0050】
引張強度、伸び
ダンベル3号の打ち抜き試験片(幅5mm)について引張強度(速度100mm/分)、及びその破断時の伸びを調べた。
【0051】
画像転写性、紙分離性
上記の例で得た半導電性ベルトを市販の複写機に、中間転写ベルト(ベルト方式A)又は転写搬送ベルト(ベルト方式B)として組み込み、普通紙からなる記録シートの1万枚の印刷テストを行った。なおテストは、5000枚を印刷した途中で環境条件を10℃、15%RH(低温低湿)から30℃、85%RH(高温多湿)に変更する方式で行った。また評価は、1万枚のテスト中で全て良好な転写による鮮明で正確な画像が得られた場合、及び紙の分離不良を生じなかった場合を良好、転写不良や不鮮明な画像、不正確な画像が得られた場合、及び紙の分離不良を生じた場合を不良とした。
【0052】
前記の結果を次表に示した。
【表1】

【0053】
表より、ポリイミドフィルムの優れた強度や難伸長性(難変形性)を維持しつつ、面内における体積抵抗率と表面抵抗率のバラツキが少ないと共に、表面抵抗率が外部環境により変動しにくく、電子写真記録装置の中間転写ベルトや転写搬送ベルトとして用いた場合に、トナー像の変形や転写ムラなく良好な画像を記録シートに転写でき、かつ搬送の記録シートを良好に分離できる性能を長期に持続することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃、60%RHにおける体積抵抗率が109〜1016Ωcmであると共に表面抵抗率が1010〜1017Ωであり、かつ30℃、85%RHと10℃、15%RHにおける表面抵抗率の常用対数に基づく変動幅が1.0以下の単層のポリイミドフィルムからなる半導電性ベルト。
【請求項2】
請求項1において、吸湿膨潤係数が2.0/105cm/cm/%RH以下のポリイミドフィルムからなる半導電性ベルト。
【請求項3】
請求項1又は2において、ポリイミドフィルムが3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる成分を全酸成分の50モル%以上含有する組成のポリイミドよりなる半導電性ベルト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、25℃、60%RHで測定した体積抵抗率の面内におけるバラツキが、前記体積抵抗率の範囲を(A1〜A2)×10n1Ωcm(ただし、A1,A2,n1はいずれも整数)と表示したときのA2からA1を差し引いた値により表示して5以下である半導電性ベルト。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、25℃、60%RHで測定した表面抵抗率の面内におけるバラツキが、前記表面抵抗率の範囲を(B1〜B2)×10n2Ωcm(ただし、B1,B2,n2はいずれも整数)と表示したときのB2からB1を差し引いた値により表示して4以下である半導電性ベルト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が109〜1012Ωcmである半導電性ベルト。
【請求項7】
請求項6において、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が面内において(5〜9)×1010Ωcmの範囲にあると共に表面抵抗率が面内において(5〜8)×1011Ωの範囲にある半導電性ベルト。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項において、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が1013〜1016Ωcmである半導電性ベルト。
【請求項9】
請求項8において、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が面内において(1〜5)×1013Ωcmの範囲にあると共に表面抵抗率が面内において(1〜4)×1014Ωの範囲にある半導電性ベルト。
【請求項10】
請求項8において、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が面内において(1〜6)×1013Ωcmの範囲にあると共に表面抵抗率が面内において(1〜5)×1014Ωの範囲にある半導電性ベルト。
【請求項11】
請求項8において、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が面内において(5〜9)×1015Ωcmの範囲にあると共に表面抵抗率が面内において(4〜8)×1016Ωの範囲にある半導電性ベルト。
【請求項12】
請求項8において、25℃、60%RHにおける体積抵抗率が面内において(5〜9)×1012Ωcmの範囲にあると共に表面抵抗率が面内において(5〜8)×1013Ωの範囲にある半導電性ベルト。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項において、ポリイミドフィルムの膜厚が73〜80μmである半導電性ベルト。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項において、ポリイミドフィルムが導電フィラーを含む半導電性ベルト。
【請求項15】
請求項6又は7に記載のポリイミドフィルムからなる電子写真記録装置用の中間転写ベルト。
【請求項16】
請求項8〜12のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムからなる電子写真記録装置用の転写搬送ベルト。
【請求項17】
溶媒に導電フィラーを分散させて分散液を調製し、前記分散液にテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体とジアミンとを溶解させ重合処理してポリアミド酸溶液を調製し、前記ポリアミド酸溶液をベルト形に成形し、前記ベルト形のポリアミド酸をイミド転化して単層のポリイミドフィルムからなる半導電性ベルトを得る、半導電性ベルトの製造方法。
【請求項18】
請求項17において、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる成分を全酸成分の50モル%以上とする半導電性ベルトの製造方法。
【請求項19】
請求項17又は18において、導電フィラーを、ポリイミドフィルムの25℃、60%RHにおける体積抵抗率が109〜1016Ωcmであると共に表面抵抗率が1010〜1017Ωとなるように分散させる半導電性ベルトの製造方法。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれか1項において、ベルト形がシームレスベルト形である半導電性ベルトの製造方法。

【公開番号】特開2007−299009(P2007−299009A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185231(P2007−185231)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【分割の表示】特願平10−376392の分割
【原出願日】平成10年12月21日(1998.12.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】