説明

半導電性加硫ゴム用組成物、その加硫ゴム材料、および加硫ゴム部材

【課題】未加硫物の混練時の粘度上昇が抑制され、優れた耐圧縮永久歪性、耐磨耗性を示し、周囲の環境変動に対しても体積抵抗率の変動が小さい半導電性加硫ゴム用組成物および、その組成物を加硫してなる加硫ゴム材料や部材を得る。
【解決手段】下記(A)〜(E)成分を含有することを特徴とする加硫用ゴム組成物。
下記(A)〜(E)成分を含有することを特徴とする半導電性加硫ゴム用組成物。
(A)エピクロルヒドリン系ゴム 100重量部
(B)一般式(I)で表されるハロゲノアルコキシシラン 0.1重量部〜8.0重量部
(R1−O)3−Si−R2−X (I)
(式中、3個のRは互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5の炭化水素基、Rは炭素数1〜9の炭化水素基、Xはハロゲン原子)
(C)珪酸を有する無機充填剤 5重量部〜40重量部未満
(D)酸化亜鉛 0.5〜20重量部
(E)チオウレア類および/または硫黄からなる加硫剤 0.2重量部〜10重量部

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コピー機、プリンター等に使用される電子写真用プロセスの現像、帯電、転写などの半導電性ローラーまたはベルトに用いられる加硫ゴム用組成物、および該組成物を加硫してなる加硫ゴム材料、および該加硫ゴム材料を使用する加硫ゴム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コピー機、プリンター等に使用される電子写真用プロセスの現像、帯電、転写において、コロナ放電に代表される非接触帯電方式、非接触転写方式から、ゴムローラーを用いた接触帯電法式、接触転写方式の採用が拡大されつつある。
【0003】
前記ゴムローラーに使用されるゴム材料としては、体積抵抗率が10〜1012Ωcm程度の半導電領域の体積抵抗率を有し、高温高湿度下と低温低湿度下との体積抵抗率の変動幅が小さいこと、すなわち、周囲の環境条件の変化によっても安定した体積抵抗率を示すことが要求されている。
【0004】
更に、前記ゴムローラーは画像形成時に感光体等と接触するため、ゴムとしての十分な弾性を有し、かつ、耐圧縮永久歪性、耐磨耗性に優れたゴム材料が必要とされる。
【0005】
また、前記ゴムローラーの製造過程において、未加硫ゴムの加工性や保存安定性、加硫物を研磨する際の研磨粉の付着低減も要求されている。
【0006】
ゴムに半導電領域の体積抵抗率を発現させる方法として、カーボンブラックのような電子伝導性粒子を添加する方法があげられる。しかしながら、カーボンブラックにより導電性を発現させる場合は、わずかな添加量の差異やカーボンブラックの分散不良等により体積抵抗率が大きく変化してしまう問題がある。また、印加電圧により体積抵抗率の変動が大きいという問題も含んでいる。
【0007】
一方、エピクロルヒドリンゴムのようなイオン伝導性を有したゴムを用いることにより、前述したカーボンブラックのような電子伝導系の問題点は改善される。しかしながら、イオン伝導系の特性を活かすためには、導電機構に影響のない充填剤を用いる必要がある。導電機構に影響のない充填剤は、一般的にゴム組成物への補強効果が弱いため、加硫物の磨耗性が悪化してしまう問題点がある。
【0008】
磨耗性の改善のために、エピクロルヒドリンゴムにシリカなどの補強性に優れた充填剤を添加する方法がある。しかしながら、シリカの添加部数の増大とともに未加硫ゴムの粘度が上昇し、加工性の悪化を招くだけでなく、圧縮永久歪性の悪化や、高温高湿度環境下と低温低湿度環境下との体積抵抗率の変動幅が大きくなってしまう問題がある。
【0009】
特開2000-302921では、エピクロルヒドリンゴムを主体とするゴム100重量部に対して、40重量部以上100重量部以下の末端水酸基がマスクされたシリカを配合する方法が開示されている。該公報の目的は、ゴム部材の剛性を上げることにより、画像乱れ防止と蛇行抑制とを両立できる導電性ベルトを提供することである。しかしながら、開示された内容は、剛性特性を上げることによる改善であり、本発明におけるゴム組成物およびゴム部材としては剛直すぎて適用され難く、環境変動による体積抵抗率の変動幅の縮小や圧縮永久歪、磨耗性の改善についての示唆もなされていない。
【0010】
特開平9-59434では、電気抵抗が104〜1012Ωであるポリマーに、シランカップリング剤またはシリル化剤を添加することにより、印加電圧および環境の変化に対して電気抵抗が安定した導電性ゴム組成物を提供する方法が開示されている。しかしながら、本発明に用いられるハロゲノアルコキシシランは、開示されたシランカップリング剤の一般式から誘導されるものとは全く異なる化合物である。また、該公報では、高温高湿度環境下での電気抵抗が低下することを抑制することにより、電気抵抗の環境変動を小さくする方法が記載されている。しかしながら、本発明では、中温中湿度環境下と低温低湿度環境下の体積抵抗率を下げる(とりわけ低温低湿度環境下での体積抵抗率の上昇を抑制する)ことにより体積抵抗率の変動幅を小さくしており、体積抵抗率の変動幅を小さくする方法が根本的に異なる。更に、該公報には、圧縮永久歪率や磨耗性、研磨粉の付着等の諸物性の改善については何ら記載がなく、開示された内容から同様の効果が得られるとの示唆もなされていない。
【0011】
特開昭61-266458では、エピクロルヒドリン系ゴムに、含水珪酸、シランカップリング剤、特定の加硫剤として含複素環ポリチオール類またはその誘導体を添加することにより、耐酸敗ガソリン性に優れたゴム組成物を提供する方法が開示されている。しかしながら、該公報における特定の加硫剤をエピクロルヒドリン系ゴムに用いる時には、受酸剤として酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を併用しなければならないことは当業者において公知の事実である。酸化マグネシウム、水酸化カルシウムは吸湿性の高い化合物であるため、エピクロルヒドリン系ゴムに添加すると未加硫物の保存安定性が悪化し粘度上昇が起こる、また、環境変動による体積抵抗率の変動が大きくなるという問題がある。また、本発明に用いられる酸化亜鉛を該公報における特定の加硫剤の受酸剤として用いても、加硫速度が大幅に遅くなるため、実用上使用されることはない。更に、該公報には、磨耗性、研磨粉の付着等の諸物性の改善については何ら記載がなく、開示された内容から同様の効果が得られるとの示唆もなされていない。
【0012】
【特許文献1】特開平2000−302921号公報
【特許文献2】特開平9−59434号公報
【特許文献3】特開昭61−266458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、エピクロルヒドリン系ゴムの未加硫物の粘度上昇が抑制され、優れた耐圧縮永久歪性、耐磨耗性を示し、周囲の環境変動に対しても体積抵抗率の変動が小さい半導電性加硫ゴム用組成物およびその半導電性加硫ゴム用組成物を加硫してなる半導電性ゴム材料からなるローラーやゴムベルトを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は種々研究の結果、
(A)エピクロルヒドリン系ゴム 100重量部
(B)一般式(I)で表されるハロゲノアルコキシシラン 0.1重量部〜8.0重量部
(R1−O)3−Si−R2−X (I)
(式中、3個のRは互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5の炭化水素基、Rは炭素数1〜9の炭化水素基、Xはハロゲン原子)
(C)珪酸を有する無機充填剤 5重量部〜40重量部未満
(D)酸化亜鉛 0.5〜20重量部
(E)チオウレア類および/または硫黄からなる加硫剤 0.2重量部〜10重量部を含有する組成物を用いることにより、上述の目的を達成することを見出し本発明を完成したものである。
【0015】
以下、本発明の構成につき詳細に説明する。
本発明に用いられるエピクロルヒドリン系ゴム(A)としては、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル四元共重合体が挙げられる。中でも、エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体が好適である。エピクロルヒドリン系ゴムは、ゴム自身が半導電性を有したポリマー材料であるため、コピー機、プリンター等に使用される電子写真用プロセスの帯電、現像、転写などのローラやベルトに好適である。
【0016】
本発明の対象となるエピクロルヒドリン系ゴム(A)の成分組成は通常、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド共重合体では、エピクロルヒドリン成分が5mol%〜70mol%、エチレンオキサイド成分が30mol%〜95mol%であり、好ましくはエピクロルヒドリン成分が10mol%〜60mol%、エチレンオキサイド成分が40mol%〜90mol%であり、またエピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体では、エピクロルヒドリン成分が5mol%〜75mol%、エチレンオキサイド成分が20mol%〜90mol%、アリルグリシジルエーテル成分が1mol%〜10mol%であり、好ましくはエピクロルヒドリン成分が10mol%〜65mol%、エチレンオキサイド成分が30mol%〜85mol%、アリルグリシジルエーテル成分が2mol%〜8mol%である。成分組成中のエチレンオキサイド成分の含有量が増加するほど、半導電性の向上、すなわち体積抵抗率の低下がみられる。
【0017】
上記、エピクロルヒドリン系ゴムの製造方法としては公知の重合法を採用できる。特に本出願人の米国特許第3,773,694号明細書に記載の有機錫−リン酸エステル縮合物を重合触媒とする方法は、重合物が高収率で得られるので好ましい。即ち、上記触媒の存在下で脂肪族又は芳香族炭化水素を溶媒として重合温度10〜70℃で5〜15時間重合させることにより、重合収率90%以上で製品を得ることができる。これ等のエピクロルヒドリン系ゴムの分子量範囲は100℃におけるムーニー粘度表示で30〜200のものが好ましく用いられる。
【0018】
本発明に用いられる一般式(I)で表されるハロゲノアルコキシシラン(B)としては、
(R1−O)3−Si−R2−X (I)
(式中、3個のRは互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5の炭化水素基、Rは炭素数1〜9の炭化水素基、Xはハロゲン原子)
3個のRは互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5の直鎖状ないしは分枝上の炭化水素基であれば特に限定されないが、特に―CH2基、―CH2―CH2基またはこれらの組み合わせが好ましい。Rは炭素数1〜9の直鎖状ないしは分枝上の炭化水素基であれば特に限定されないが、特に―CH2―基、―CH2CH2―基、―CH2CH2CH2―基、―CH2CH2−Ph−CH2―基(Phはフェニレン基)などが好ましい。Xはハロゲン原子であり、塩素、臭素、ヨウ素などが例示される。具体的な例示をすれば、クロロプロピルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリエトキシシラン、クロロプロピルジメトキモノエトキシシシラン、クロロプロピルジエトキモノメトキシシシランなどが好適である。
【0019】
本発明に用いられるハロゲノアルコキシシラン(B)の配合割合は、エピクロルヒドリン系ゴム(A)100重量部に対して、0.1重量部〜8.0重量部、好ましくは0.2重量部〜5.0重量部、更に好ましくは0.3重量部〜3.0重量部が用いられる。この範囲未満の配合量では、本発明における耐圧縮永久歪性、耐摩耗性の効果が不十分となり、未加硫物の粘度上昇も起こりやすくなる。また、低温低湿度環境下での体積抵抗率の上昇を抑制する効果が小さくなる。一方、この範囲を超えると、未反応の(B)成分が析出する可能性があり、感光体を汚染する問題がある。
【0020】
本発明に用いられる珪酸を有する無機充填剤(C)としては、湿式法シリカ、乾式法シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム等が挙げられ、これらの群から1種または2種以上の組み合わせで用いて良いが、特に湿式法シリカ、乾式法シリカが好ましい。
【0021】
本発明に用いられる珪酸を有する無機充填剤(C)の配合割合は、エピクロルヒドリン系ゴム(A)100重量部に対して、5重量部〜40重量部未満が用いられ、好ましくは、7重量部〜30重量部が用いられる。この範囲未満の配合量では本発明における耐圧縮永久歪性、耐摩耗性の効果が不十分となり、一方この範囲を超えると得られた加硫物が剛直になりすぎて実用的なゴム物性が得られないからである。
【0022】
本発明の半導電性加硫ゴム用組成物において用いられる酸化亜鉛(D)は、エピクロルヒドリン系ゴムの受酸剤として作用するものである。酸化亜鉛をエピクロルヒドリン系ゴムに添加した場合は未加硫物の保存安定性が悪化し粘度上昇が起こる、あるいは環境変動による体積抵抗率の変動が大きくなるという問題が起こりにくい。
【0023】
酸化亜鉛(D)の量は、エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対して0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。この範囲未満の配合量では加硫が不十分となり、一方この範囲を超えると加硫物が剛直になりすぎて実用的なゴム物性が得られなくなる。
【0024】
また、本発明における効果を大きく逸脱しない範囲内で、エピクロルヒドリン系ゴムの公知の受酸剤を本発明で用いられる酸化亜鉛(D)との組み合わせで用いても良い。
【0025】
公知の受酸剤としては、周期表第(II)族金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、亜リン酸塩、周期表第(IV)族金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜リン酸塩、塩基性亜硫酸塩等、および下記一般式(II)で示される合成ハイドロタルサイト、および一般式(III)で示されるLi-Al系包接化合物が挙げられる。
MgZny AlZ (OH)2(x+y)+3Z-2 CO3・wH2O (II)
(xとyは0〜10の実数、ただしx+y=1〜10、zは1〜5の実数、wは0〜10の実数を表す)
〔Al2 Li(OH)6n X・mH2O (III)
(式中Xは、無機または有機のアニオンであり、nはアニオンXの価数であり、mは3以下の数)
【0026】
受酸剤の具体的な例としては、マグネシア、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、生石灰、消石灰、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、酸化錫、塩基性亜リン酸錫をあげることができる。
【0027】
本発明におけるチオウレア類および/または硫黄からなる加硫剤(E)において、チオウレア類としてはエチレンチオウレア、1,3−ジエチルチオウレア等があげれれる。チオウレア類および/または硫黄からなる加硫剤は、通常、エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対して0.2〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部が用いられる。この範囲未満の配合量では架橋が不十分となり、一方この範囲を超えると得られた加硫物が剛直になりすぎて実用的なゴム物性が得られないからである。
【0028】
また、本発明における効果を大きく逸脱しない範囲内で、エピクロルヒドリン系ゴムの公知の加硫剤を本発明で用いられるチオウレア類および/または硫黄からなる加硫剤(E)との組み合わせで用いても良い。
【0029】
エピクロルヒドン系ゴムの塩素原子の反応性を利用する公知の加硫剤、例えば、ポリアミン類(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が例示される)、チアジアゾール類(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール等が例示される)、メルカプトトリアジン類(2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジン等が例示される)、ピラジン類(ピラジン-2,3-ジチオカーボネート等が例示される)、キノキサリン類(6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート等が例示される)等や、側鎖二重合結合の反応性を利用する公知の加硫剤、例えば、有機過酸化物(tert−ブチルヒドロパーオキサイド等が例示される)、モルホリンポリスルフィド類(モルホリンジスルフィド等が例示される)、チオラムポリスルフィド類(テトラメチルチウラムジスルフィド等が例示される)等が挙げられる。これらの加硫剤は単独であるいは2種以上併用して用いられる。
【0030】
また、加硫剤と共に公知の促進剤(加硫促進剤)および遅延剤を本発明による加硫ゴム用組成物に添加することもできる。加硫促進剤の例としては、1級、2級、3級アミン、該アミンの有機酸塩もしくはその付加物、アルデヒドアンモニア系促進剤、アルデヒドアミン系促進剤、グアニジン系促進剤、チアゾール系促進剤、スルフェンアミド系促進剤、チウラム系促進剤、ジチオカルバミン酸系促進剤、1、8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7及びその弱酸塩、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5、6−ジブチルアミノ1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7及びその弱酸塩、第4級アンモニウム化合物等を挙げることができる。また、遅延剤としては、N−シクロヘキサンチオフタルイミド等を挙げることができる。
【0031】
1級、2級、3級アミンとしては、特に炭素数5〜20の脂肪族または環式脂肪酸の第1、第2もしくは第3アミンが好ましく、このようなアミンの代表例は、n−ヘキシルアミン、オクチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ヘキサメチレンジアミンなどである。
【0032】
上記アミンと塩を形成する有機酸としては、カルボン酸、カルバミン酸、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジチオリン酸等が例示される。また上記アミンと付加物を形成する物質としては、アルコール類、オキシム類等が例示される。アミンの有機酸塩もしくは付加物の具体例としては、n−ブチルアミン・酢酸塩、ヘキサメチレンジアミン・カルバミン酸塩、2−メルカプトベンゾチアゾールのジシクロヘキシルアミン塩等が挙げられる。
【0033】
アルデヒドアンモニア系促進剤の例としては、ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒドとアンモニアの反応生成物等が挙げられる。アルデヒドアミン系促進剤の例としては、アミンと少なくとも1種の炭素数1〜7のアルデヒドとの縮合生成物であり、このようなアミンの例としては、アニリン、ブチルアミン等が挙げられる。これらのなかで、アニリンと少なくとも1種の炭素数1〜7のアルデヒドとの縮合生成物が好ましい。具体例としては、アニリンとブチルアルデヒドの縮合物、アニリンとヘプタアルデヒドの縮合物、アニリンとアセトアルデヒドおよびブチルアルデヒドの縮合物などがある。
【0034】
グアニジン系促進剤の例としては、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジン等が挙げられる。
【0035】
チアゾール系促進剤の例としては、2―メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド、2―メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩等が挙げられる。
【0036】
スルフェンアミド系加硫促進剤の具体例としては、N−エチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジ−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、などが挙げられる。
【0037】
チウラム系加硫促進剤の具体例としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等が挙げられる。
【0038】
ジチオカルバミン酸系促進剤の例としては、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルカルバミン酸銅等が挙げられる。
【0039】
上記、加硫促進剤および遅延剤は、無機充填剤、オイル、ポリマー等に予備分散させた形で使用しても良い。これらの加硫促進剤および遅延剤は単独で用いてもよいし、2種類以上の組み合わせで用いてもよい。加硫促進剤または遅延剤の量は、エピクロルヒドン系ゴム100重量部に対してそれぞれ0〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0040】
また、本発明の半導電性加硫ゴム用組成物は、当該技術分野で通常使用される他の添加剤、例えば滑剤、老化防止剤、充填剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、顔料、発泡剤等を任意に配合できる。
【0041】
更に本発明の特性が失われない範囲で、当該技術分野で通常行われているゴム、樹脂等とのブレンドを行うことも可能である。本発明に用いられるゴムを例示すれば、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等が挙げられ、また樹脂を例示すれば、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂、PS(ポリスチレン)樹脂、PUR(ポリウレタン)樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂、EVA(エチレン/酢酸ビニル)樹脂、AS(スチレン/アクリロニトリル)樹脂、PE(ポリエチレン)樹脂等が挙げられる。
【0042】
更に、本発明の半導電性加硫ゴム用組成物において、導電付与剤として、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩などの金属塩、カチオン種が一般式(IV)で表され、
【化1】

(式中、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基あるいは主鎖がポリオキシエチレン鎖もしくはポリオキシプロピレン鎖で、末端にアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、水酸基を有する基である。)
アニオン種が過塩素酸イオンのような無機酸イオン、または、塩化物イオンのようなハロゲンイオンなどを有した第四級アンモニウム塩などを任意に添加してよい。
【0043】
これら導電付与剤となる塩において、カチオン種としては、例えば、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Baや遷移金属であるFe、Ni、Cu、Zn及びAg金属の陽イオンや、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、トリメチル2−(2−メトキシプロキシ)エチルアンモニウム、ジメチルドデシル2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアンモニウム、ジメチルオクタデシル2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアンモニウム等の第四級アンモニウムイオン、テトラメチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム等のホスホニウムイオンが挙げられる。また、アニオン種としては、例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、酢酸イオン、硫酸イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6−、PF6−、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン等が挙げられ、これら任意の組み合わせから選ばれた化合物が導電付与剤として挙げられる。
【0044】
導電付与剤の量は、エピクロルヒドリン系ゴム100重量部に対して0〜10重量部、例えば0〜5重量部である。
【0045】
本発明の組成物の配合方法としては、従来ポリマー加工の分野において利用されている任意の手段、例えばミキシングロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー類等を利用することができる。また、本発明に用いられるハロゲノアルコキシシラン(B)と珪酸を有する無機充填剤(C)とは、あらかじめ両者を混ぜ合わせ添加する方法や別々に添加する方法があるが、特に限定されない。
【0046】
本発明の組成物は、通常100〜250℃に加熱することで加硫物とすることができる。加硫時間は温度によって異なるが、0.5〜300分の間で行われるのが普通である。加硫成型の方法としては、金型による圧縮成型、射出成型、スチーム缶、エアーバス、赤外線、あるいはマイクロウェーブによる加熱等任意の方法を用いることができる。
【0047】
本発明における磨耗性の改善とは、JIS K 6264に記載のアクロン磨耗試験機を用いた試験において、磨耗容量(cm3/1000回転)の絶対値が小さく、磨耗粉の付着が少ないことを言う。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、エピクロルヒドリン系ゴムの未加硫物の粘度上昇が抑制され、優れた耐圧縮永久歪性、耐磨耗性を示し、周囲の環境変動に対しても体積抵抗率の変動が小さい半導電性加硫ゴム用組成物およびその半導電性加硫ゴム用組成物を加硫してなる半導電性加硫物が得られる。従って、その加硫物は、コピー機、プリンター等の電子写真プロセスに使用される半導電性ゴムローラー、ゴムベルト等に広く応用可能である。特に帯電、現像または転写用のローラーに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
実施例1〜3、比較例1〜3
表1に示す各材料をニーダーおよびオープンロールで混練し、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用い、JIS K6300に定めるムーニースコーチ試験を行った。また同じく得られた未加硫ゴムシートを170℃で15分プレス加硫し、2mm厚の加硫物を得た。得られた加硫物を用い、引張試験の評価を行った。各評価試験は順にJIS K 6251に記載の方法に準じて行った。
【0051】
圧縮永久歪試験は次のように行った。得られた上記未加硫ゴムシートを試験片作製用金型を用いて170℃で20分プレス加硫し、直径約29mm、高さ約12.5mmの円柱状試験片加硫物を得た。得られた加硫物を用い、JIS K 6262記載の方法に準じて試験を行った。
【0052】
体積抵抗率の測定は次のように行った。加硫ゴムシート(厚さ2mm)および絶縁抵抗計(三菱油化(株)製 ハイレスタHP)を低温低湿度環境(10℃×15%RH)、中温中湿度環境(23℃×50%RH)、高温高湿度環境(35℃×85%RH)の環境条件下に設定した恒温恒湿槽中に入れ、24時間以上放置した後、10V印可し、1分後の値を読みとった。また、体積抵抗率の環境依存性は、低温低湿度環境(A)での体積抵抗率を高温高湿度環境(B)での体積抵抗率で除した値で定義する。
【0053】
磨耗性試験はアクロン磨耗試験機を用いて次のように行った。得られた上記未加硫ゴムシートを試験片作製用金型を用いて170℃で20分プレス加硫し、直径約63.5mm、厚さ約12.7mm、中心孔約12.7mmのリング状試験片加硫物を得た。得られた加硫物を用い、JIS K 6264に記載のA-2法に準じて試験を行った。なお、試験片と磨耗輪との傾角は15°、磨耗輪に掛けた荷重は4.5kg、試験片の回転速度は100回/分とし、試験後の磨耗粉の付着の有無を目視にて行った。
【0054】
各試験方法より得られた実施例および比較例の試験結果を表2に示す。各表中、Vmは最低粘度、tはJIS K6300のムーニースコーチ試験に定めるムーニースコーチ時間、M100、はJIS K6251の引張試験試験に定める100%伸び時の引張応力、TbはJIS K6251の引張試験試験に定める引張強さ、EbはJIS K6251の引張試験試験に定める伸び、HsはJIS K6253の硬さ試験に定める硬さをそれぞれ意味する。
【0055】
各環境下での体積抵抗率を第1図〜第3図に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
各実施例と比較例との比較により明らかなように、実施例1〜3では、未加硫物の粘度上昇が抑制され、圧縮永久歪率性の改善された半導電性加硫物が得られることがわかる。磨耗性に関しても実施例1〜3は研磨時に磨耗粉付着が起こらない。また、図1〜図3から明らかなように、実施例1〜3では、中温中湿度環境下および低温低湿度環境下での体積抵抗率が低く、とりわけ低温低湿度環境下での体積抵抗率の上昇が抑制され、その結果、環境変動による体積抵抗率の変動幅も小さい。一方比較例1〜3では上述の特性のすべてをバランスよく満たしているものはない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、未加硫物の粘度上昇が抑制され、優れた耐圧縮永久歪性、耐磨耗性を示し、周囲の環境変動に対しても体積抵抗率の変動が小さい半導電性加硫ゴム用組成物およびその半導電性加硫ゴム用組成物を加硫してなる半導電性加硫ゴム材料が得られる。その加硫物は半導電性加硫ゴム材料として、コピー機、プリンター等の半導電性ゴムローラーや半導電性ゴムベルト等に広く応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1、比較例1について、各環境下での体積抵抗率の変化を示す。
【図2】実施例2、比較例2について、各環境下での体積抵抗率の変化を示す。
【図3】実施例3、比較例3について、各環境下での体積抵抗率の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)成分を含有することを特徴とする半導電性加硫ゴム用組成物。
(A)エピクロルヒドリン系ゴム 100重量部
(B)一般式(I)で表されるハロゲノアルコキシシラン 0.1重量部〜8.0重量部
(R1−O)3−Si−R2−X (I)
(式中、3個のRは互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜5の炭化水素基、Rは炭素数1〜9の炭化水素基、Xはハロゲン原子)
(C)珪酸を有する無機充填剤 5重量部〜40重量部未満
(D)酸化亜鉛 0.5〜20重量部
(E)チオウレア類および/または硫黄からなる加硫剤 0.2重量部〜10重量部
【請求項2】
珪酸を有する無機充填剤(C)が、湿式法シリカまたは乾式法シリカよりなる群から選ばれる少なくとも1種の無機充填剤であることを特徴とする請求項1に記載の半導電性加硫ゴム用組成物。
【請求項3】
請求項1および2に記載の半導電性加硫ゴム用組成物を加硫してなる半導電性ローラーまたはベルト用ゴム材料。
【請求項4】
10℃/15%RH環境下での体積抵抗率を35℃/85%RH環境下での体積抵抗率で除した値が100.0以下であることを特徴とする請求項3に記載の半導電性ローラーまたはベルト用ゴム材料。
【請求項5】
請求項3および4に記載の半導電性ローラーまたはベルト用ゴム材料をJIS K 6264に記載のアクロン磨耗試験機で磨耗した時の磨耗容積が2.0(cm3/1000回転)以下であり、かつ、その磨耗粉が試験片に付着しないことを特徴とする半導電性加硫ゴム材料。
【請求項6】
請求項3〜5に記載の半導電性ローラーまたはベルト用ゴム材料を使用することを特徴とするコピー機、プリンター等の電子写真用プロセスに使用される半導電性ゴムローラーまたはゴムベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−99788(P2007−99788A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287375(P2005−287375)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】