説明

半導電性樹脂組成物、成形物品、及び、半導電性樹脂組成物の製造方法

【課題】機械的、光学及び電気特性に優れ、長期間高電圧を印加・放電しても、電気抵抗が著しく低下せず、安定した電気特性が発揮される半導電性樹脂組成物、及び該半導電性樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)100重量部と導電性フィラー5〜25重量部を含有し、ジフェニルスルホン含有量が400ppm以下の半導電性樹脂組成物及び成形物品、並びに、押出機のベント孔(及び、供給孔)から不活性ガスを圧入しながら押出成形するペレット製造工程、及び、PEEKを、有機溶剤により、常温〜溶剤の沸点の範囲で1〜72時間洗浄する溶剤洗浄工程、または、PEEKを、PEEKのガラス転移点以上融点未満で1〜72時間加熱処理する加熱浄化工程、または、前記ペレットを280〜410℃で押出成形する再ペレット操作を1〜20回行う再ペレット化工程を含む半導電性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」という。)と導電性フィラーとを含有する半導電性樹脂組成物、成形物品、及び、半導電性樹脂組成物の製造方法に関する。
【0002】
特に、本発明の半導電性樹脂組成物である成形物品は、高電界下においても長期にわたって安定した電気特性を示すため、電子写真方式や静電記録方式の画像形成装置における帯電ベルトまたは転写ベルトなどの電荷制御部材としての用途に好適である。
【背景技術】
【0003】
熱可塑性芳香族ポリケトンであるPEEKは、以下の式(1)
【0004】
【化1】

【0005】
で表わされる構造単位( 繰り返し単位) を有する重合体であり、耐熱性、耐摩耗性、強靱性、耐薬品性などに優れたスーパーエンジニアリング樹脂であり、電気・電子分野、航空宇宙分野、自動車産業、医療分野、一般工業分野等、幅広い用途に使用されている。
【0006】
PEEKは、例えば、特開昭54−90296号公報(特許文献1)に開示されるように、通常、ジフェニルスルホン中で、炭酸アルカリ金属、例えば、炭酸カリウム及び/または炭酸ナトリウムの存在下で、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンを反応させることにより製造されている。重合反応後は、アセトン、メタノール、及び、水などによる数回の洗浄を行って、ジフェニルスルホンと無機塩を除去している。
【0007】
一方、PEEKの優れた電気特性などに着目して、PEEKと導電性フィラーとを含有する樹脂組成物を、電子写真方式や静電記録方式の画像形成装置における帯電ベルトまたは転写ベルトなどの電荷制御部材に適用することが知られている。例えば、特開2010−78663号公報(特許文献2)には、複素せん断粘度が異なるPEEKと導電性フィラーを含むPEEK樹脂組成物により、内層と外層を形成してなる、耐屈曲性などの機械的強度に優れ、かつ、電子写真式画像形成装置における濃度検知に必要な表面光沢性に優れる中間転写ベルトを提供することが開示されている。特開2006−285129号公報(特許文献3)には、変性カーボンブラック等の疎水性の有機基を有する導電剤とPEEKとを含有する樹脂層を有する転写ベルトまたは現像ローラが開示され、PEEK含有樹脂層の表面抵抗率が、1.0×1011Ω/□〜1.0×1013Ω/□であり、転写時に剥離放電による白抜けなどの画像欠陥が発生せず安定した転写性能を発揮でき、濃度むらなどの画像不良やトナー飛散によるカブリが発生しないことが開示されているが、PEEKを使用する具体例の開示はない。
【0008】
特開2005−112942号公報(特許文献4)には、PEEKと導電性フィラーとから半導電性フィルムを得ることが開示されており、このフィルムの体積抵抗率が半導電性領域に属する10〜1014Ωcmであることや、引張強度が開示され、この半導電性フィルムのチューブで被覆したローラ、半導電性ベルトが開示されている。
【0009】
更に、特開平6−254941号公報(特許文献5)には、導電性フィラーを含むPEEKをチューブ状フィルムに押出し、次いで軸方向と直角方向に切断して得られるベルトが開示されており、ベルト各部の体積電気抵抗値が10〜1017Ωcmであることが開示されている。
【0010】
上記した画像形成装置における帯電ベルトまたは転写ベルトについては、長期間にわたり、高い電圧を繰返し印加・放電するが、その場合においても、電気特性を安定的に発揮する必要があった。
【0011】
しかしながら、PEEKと、導電フィラー、特にカーボンブラックのような一次粒子が凝集した高次構造を形成する導電フィラーとを含む半導電性の樹脂組成物を使用して、画像形成装置における帯電ベルトまたは転写ベルトとする場合には、長期間にわたり、高い電圧を印加・放電すると、電気抵抗が低下する現象が見られた。この電気抵抗の低下は、帯電ベルトまたは転写ベルトにおいては、解像度の低下に繋がる問題があった。また、一般の帯電防止のための部材用途でも、次第に帯電防止機能が低下する問題があった。
【0012】
PEEKとカーボンブラック等の導電性フィラーとを含む樹脂組成物を得るためには、通常、PEEKと導電性フィラーとを、押出機を使用して、混練し、押出して、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得ている。
【0013】
また、該樹脂組成物から、シート状成形物、チューブ状成形物、繊維状成形物、布帛、圧縮成形物、または射出成形物等の成形物品を得るためには、導電性フィラーを含有するペレット状のPEEK樹脂組成物を、押出成形機や射出成形機等の成形機に供給して、溶融成形し、フィルムまたはシートその他の成形物品を成形することが行われている。
【0014】
優れた半導電性や十分な機械強度を実現するためには、PEEKの中に、カーボンブラック等の導電性フィラーを均一に分散させる必要がある。導電性フィラーの分散が不均一または不十分であると、成形物品に、導電性フィラー等の微粒が残留し、機械的特性、光学特性または電気的特性に悪影響を及ぼす。特に、成形物品が薄いフィルム状のものであったり、半導電性の物品であったりするときは、所期の効果を得ることができない。なかでも画像形成装置における帯電ベルトまたは転写ベルトについては、長期間にわたる高い電圧の繰返し印加・放電により、電気抵抗の低下など電気特性が安定的に発揮されないことがあった。
【0015】
他方、導電性フィラーの分散を向上させるために、混練押出機、押出成形機または射出成形機など、スクリューを備えるシリンダー内において、成形温度や混練度を高めて溶融混練を伴う装置を用いて実施すると、せん断発熱によって樹脂温度が上昇し、410℃を超え、場合によっては430℃近くにも達することがある。この結果、PEEKの熱劣化(熱分解や酸化による架橋)が進行し、生成する熱劣化物または該熱劣化物と導電性フィラーや不純物などとの凝集物が原因となって、優れた機械的特性、光学特性、及び電気特性を得ることができなかった。
【0016】
本発明者らは、PEEKとカーボンブラック等の導電性フィラーとを含む半導電性樹脂組成物を得るために、PEEKの熱分解や酸化による架橋物の生成を防止して、カーボンブラック等の導電性フィラーのPEEK中への均一分散を図るべく検討を進めたところ、PEEK中に残存する重合溶媒であるジフェニルスルホンの影響が大きいことが判明した。ジフェニルスルホンは、沸点が378〜379℃であり、PEEKとカーボンブラック等の導電性フィラーとを含む樹脂組成物を得る成形加工温度で揮発するために、樹脂組成物の表層に条痕を生じたり、表層が平坦でなく波打ち状となったり、ガス抜けにより内層が緻密でなくなったり、更には、PEEKの熱劣化物と導電性フィラーや不純物などとの凝集を促進したりすることで、目的とする樹脂組成物が得られないと推察される。
【0017】
したがって、PEEK中に残存するジフェニルスルホンの含有量を低減するとともに、熱劣化を可能な限り防止したPEEKを用いて、カーボンブラック等の導電性フィラーの分散性を向上させれば、従来より格段に優れた樹脂組成物が得られるものとの考えに基づいて鋭意研究を進めた結果、本発明に到達した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開昭54−90296号公報
【特許文献2】特開2010−78663号公報
【特許文献3】特開2006−285129号公報
【特許文献4】特開2005−112942号公報
【特許文献5】特開平6−254941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、優れた機械的特性、光学特性、及び電気特性を備え、かつ、長期間にわたり、高い電圧を印加・放電しても、電気抵抗が著しく低下することがなく、安定した電気特性が発揮される半導電性樹脂組成物、及び、該半導電性樹脂組成物からなる成形物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、次の構成からなるPEEKを含有する半導電性樹脂組成物とすることによって、上記課題を解決することができることを見いだした。
【0021】
すなわち、本発明によれば、PEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有し、ジフェニルスルホンの含有量が400ppm以下である半導電性樹脂組成物が提供される。
【0022】
また、本発明によれば、実施態様として、以下1)〜7)の半導電性樹脂組成物が提供される。
【0023】
1)前記導電性フィラーが、カーボンブラックである前記の半導電性樹脂組成物。
2)前記カーボンブラックが、アセチレンブラック及びオイルファーネスブラックからなる群より選ばれる少なくとも1種である前記の半導電性樹脂組成物。
3)体積固有抵抗が、1.0×10〜1.0×1013Ωcmであり、かつ、表面抵抗が、1.0×10〜1.0×1014Ω/□である前記の半導電性樹脂組成物。
4)グロス値が50〜80である前記の半導電性樹脂組成物。
5)0.1mm以下のフィッシュアイが100個/600cm以下である前記の半導電性樹脂組成物。
6)成形物品である前記の半導電性樹脂組成物。
7)該成形物品が、シート状成形物、チューブ状成形物、繊維状成形物、布帛、圧縮成形物、または射出成形物である前記の半導電性樹脂組成物。
【0024】
また、本発明によれば、(i)PEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程、(ii)ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程、及び(iii)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程を含む半導電性樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0025】
更に、本発明によれば、(I)PEEKを、有機溶剤により、常温〜該溶剤の沸点の範囲の温度で、1〜72時間洗浄する、溶剤洗浄工程、(II)溶剤洗浄工程で得られたPEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程、及び(III)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程を含む半導電性樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0026】
この実施態様として、前記(II)のペレット製造工程に続いて、(II’)ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程を含む前記の半導電性樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0027】
更にまた、本発明によれば、(A)PEEKを、PEEKのガラス転移点以上融点未満の範囲の温度で、1〜72時間、加熱処理を行う加熱浄化工程、(B)加熱浄化工程で得られたPEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程、及び(C)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程を含む半導電性樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0028】
この実施態様として、前記(B)のペレット製造工程に続いて、(B’)ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程を含む前記の半導電性樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0029】
加えて、これらの実施態様として、前記ペレット製造工程において、更に押出機の供給孔から不活性ガスを圧入する前記の半導電性樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、PEEK100重量部と、カーボンブラック等、好ましくはアセチレンブラックまたはオイルファーネスブラック等の導電性フィラー5〜25重量部とを含有し、ジフェニルスルホンの含有量が400ppm以下である半導電性樹脂組成物、及び、該半導電性樹脂組成物からなる成形物品であることにより、優れた機械的特性、光学特性、及び電気特性を備え、かつ、長期間にわたり、高い電圧を印加・放電しても、電気抵抗が低下することが少なく、安定した電気特性が発揮されるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1.PEEK
本発明におけるPEEKは、以下の式(1)
【0032】
【化2】

【0033】
で表わされる構造単位( 繰り返し単位) を有する重合体であり、単独重合体であることが好ましい。また、PEEKとしては、上記式(1)で表される構造単位と下記式(2)
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、Q及びQ′は、互に同一または異なっていてもよく、−CO−または−SO−であり、nは、0または1である。)
で表わされる構造単位、及び/または下記式(3)
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、Aは、二価の低級脂肪族炭化水素基であり、Q及びQ′は、互に同一または異なっていてもよく、−CO−または−SO−であり、nは、0または1である。)
で表わされる構造単位を有する共重合体を使用することができる。共重合体中の式(2)及び式(3)で表わされる構造単位の割合は、通常50モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0038】
前記PEEKは、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。市販品として代表的なものには、ビクトレックス(Victrex)社製の商品名「ビクトレックスPEEK」シリーズが挙げられる。それらの中でも本発明で使用するのに特に好ましいグレードとして、「ビクトレックスPEEK 450G」が挙げられる。
【0039】
PEEKの製造方法は、特に限定されないが、例えば、先に挙げた特許文献1に記載されるように、ジフェニルスルホン中で、炭酸アルカリ金属、例えば、炭酸カリウム及び/または炭酸ナトリウムの存在下で、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンを反応させる方法などにより調製することができる。
【0040】
2.導電性フィラー
本発明で使用する導電性フィラーとしては、特に制限されず、例えば、導電性のカーボンブラック、黒鉛粉末、金属粉末、表面を導電処理した酸化金属ウィスカーなどが挙げられる。これらの中でも、体積固有抵抗及び/または表面抵抗の制御性や機械物性などの観点から、カーボンブラックが特に好ましい。
【0041】
本発明で好ましく使用するカーボンブラックは、特に制限はなく、例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラック及びオイルファーネスブラックが好ましく、特に、アセチレンブラック、及び、オイルファーネスブラックであるケッチェンブラックが好ましく、アセチレンブラックが最も好ましい。これらのカーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
カーボンブラックのDBP吸油量は、通常30〜700ml/100g、好ましくは80〜500ml/100g、より好ましくは100〜400ml/100gの範囲内である。カーボンブラックのDBP吸油量が低すぎると、半導電性樹脂組成物の体積固有抵抗及び/または表面抵抗を所望の半導電性領域に制御することが困難となり、高すぎると、PEEKへの分散が悪くなり易い。DBP吸油量が異なる2種以上のカーボンブラックを組み合わせて使用することもできる。
【0043】
DBP吸油量は、カーボンブラック100g当りに包含される油のml数であり、常法に従って、ジブチルフタレートアブソープトメータを用いて測定することができる。より具体的に、DBP吸油量は、JIS K6217に規定された方法に従って測定することができる。測定装置(Absorptometer)のチャンバー内にカーボンブラックを入れ、そのチャンバー内に、一定速度でDBP(n−ジブチルフタレート)を加える。DBPを吸収するに従い、カーボンブラックの粘度は上昇するが、その粘度がある程度に達した時までに吸収したDBPの量に基づいてDBP吸油量を算出する。粘度の検出は、トルクセンサーで行う。
【0044】
カーボンブラックの揮発分の含有量は、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。揮発分とは、950℃での加熱脱着ガスである。カーボンブラックの窒素比表面積は、通常50〜2000m/gである。
【0045】
導電性フィラーの配合割合は、PEEK100重量部に対して、5〜25重量部、好ましくは10〜24重量部、より好ましくは15〜23重量部である。導電性フィラーの配合割合が大きすぎると、半導電性樹脂組成物の体積固有抵抗または表面抵抗が低くなりすぎたり、機械特性が低下することがある。導電性フィラーの配合割合が小さ過ぎると、半導電性樹脂組成物の体積固有抵抗または表面抵抗を所望の半導電性領域に制御することが困難となる。DBP吸油量が大きく、揮発分の含有量が少ないカーボンブラック、より好ましくはアセチレンブラックまたはオイルファーネスブラックの場合、カーボンブラックの配合割合は、PEEK100重量部に対して、17〜22重量部程度であっても、良好な結果を得ることができる。
【0046】
本発明で使用する導電性フィラーの体積固有抵抗は、10Ωcm未満であることが好ましく、10Ωcm未満であることがより好ましい。導電性フィラーの体積固有抵抗が高すぎると、半導電性樹脂組成物の体積固有抵抗または表面抵抗を所望の半導電性領域に制御することが困難となる。導電性フィラーの体積固有抵抗の下限は、通常、金属粉末や金属繊維などの金属材料の体積抵抗率である。
【0047】
本発明で使用する導電性フィラーの粒径(d50)は、半導電性樹脂組成物から、シート状成形物またはチューブ状成形物を製造する場合は、該シート状成形物またはチューブ状成形物の厚みよりも充分に小さいことが望ましい。導電性フィラーの粒径は、好ましくは50μm未満、より好ましくは10μm未満、特に好ましくは1μm未満である。導電性フィラーの粒径が大きすぎると、シート状成形物またはチューブ状成形物の裏表で電気の短絡が生じ易く、しかも該シート状成形物またはチューブ状成形物の表面の平滑性を損ねることがある。
【0048】
3.その他の熱可塑性樹脂
本発明の半導電性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内において、その他の熱可塑性樹脂を配合することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な熱可塑性樹脂が好ましく、具体例としては、例えば、ポリフェニレンスルフィドなどのポリアリーレンスルフィド樹脂;ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/へキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、プロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂;ポリアセタール、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリアルキルアクリレート、ABS樹脂、ポリ塩化ビニルを挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
その他の熱可塑性樹脂は、PEEKが有する諸特性を損なわない範囲内で使用される。その他の熱可塑性樹脂の配合割合は、PEEK100重量部に対して、好ましくは30重量部以下、より好ましくは10重量部以下、特に好ましくは5重量部以下である。
【0050】
4.充填剤
本発明の半導電性樹脂組成物には、所望により各種充填剤を配合することができる。充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維などの無機繊維状物;ステンレス、アルミニウム、チタン、鋼、真鍮等の金属繊維状物;ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点の有機質繊維状物;等の繊維状充填剤が挙げられる。
【0051】
非繊維状の充填剤としては、例えば、マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、フェライト、クレー、ガラス粉、酸化亜鉛、炭酸ニッケル、酸化鉄、石英粉末、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等の粒状または粉末状充填剤を挙げることができる。
【0052】
これらの充填剤の中でも、非導電性の粒状または粉末状の充填剤が好ましい。これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。充填剤は、必要に応じて、集束剤または表面処理剤により処理してもよい。集束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物が挙げられる。これらの化合物は、充填剤に対して、予め表面処理または集束処理を施して用いるか、あるいは樹脂組成物の調製の際に同時に添加してもよい。
【0053】
これら充填剤の配合割合は、樹脂成分100重量部に対して、通常0〜100重量部、好ましくは0〜30重量部、より好ましくは0〜10重量部、特に好ましくは0〜5重量部の範囲内である。
【0054】
充填剤の粒径は、半導電性樹脂組成物がシート状成形物またはチューブ状成形物である場合は、該シート状成形物またはチューブ状成形物の厚みよりも充分に小さいことが望ましい。充填剤の粒径は、好ましくは50μm未満、より好ましくは10μm未満、特に好ましくは1μm未満である。充填剤の粒径が大きすぎると、シート状成形物またはチューブ状成形物の表面の平滑性を損ねることがある。
【0055】
5.その他の添加剤
本発明の半導電性樹脂組成物には、前記以外のその他の添加剤として、例えば、エチレングリシジルメタクリレートのような樹脂改良剤、ペンタエリスリトールテトラステアレートのような滑剤、熱硬化性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ボロンナイトライドのような核剤、赤燐粉末のような難燃剤、染料や顔料等の着色剤を適宜添加することができるが、これらのものに限定されない。
【0056】
6.半導電性樹脂組成物
本発明の半導電性樹脂組成物は、PEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有し、かつ、ジフェニルスルホンの含有量が400ppm以下である組成を備える限り、その形状を問わない。すなわち、粉末、粒子、またはペレットなどの通常、成形原料として用いられる形状のものでもよいし、これらを成形してなるシート状成形物(厚みが薄いフィルム状成形物を含む。以下、同じ。)、チューブ状成形物、繊維状成形物、布帛、圧縮成形物、または射出成形物などの成形物品の形態であってもよい。したがって、本発明の半導電性樹脂組成物は、成形物品である半導電性樹脂組成物を含むものである。
【0057】
本発明において、半導電性とは、JIS K7194に準拠して常温で測定したものであり、体積固有抵抗が、1.0×10〜1.0×1014Ωcmの範囲内であるか、または、表面抵抗が、1.0×10〜1.0×1016Ω/□の範囲内であることを意味する。体積固有抵抗は、好ましくは1.0×10〜1.0×1014Ωcm、より好ましくは1.0×10〜1.0×1013Ωcm、更に好ましくは1.0×10〜5.0×1012Ωcm、特に好ましくは1.0×10〜1.0×1012Ωcmの範囲内である。また、表面抵抗は、好ましくは1.0×10〜1.0×1015Ω/□、より好ましくは1.0×10〜1.0×1014Ω/□、更に好ましくは1.0×10〜5.0×1013Ω/□、特に好ましくは1.0×10〜1.0×1013Ω/□の範囲内である。
【0058】
体積固有抵抗と表面抵抗との最も好ましい組み合わせは、体積固有抵抗が、1.0×10〜1.0×1014Ωcmの範囲内、かつ、表面抵抗が、1.0×10〜1.0×1015Ω/□の範囲内である。
【0059】
7.電荷制御部材
本発明の半導電性樹脂組成物を、画像形成装置における帯電ベルトや転写ベルトなどの電荷制御部材として用いる場合、最も好ましい組み合わせは、体積固有抵抗が、1.0×10〜1.0×1013Ωcmの範囲内であり、かつ、表面抵抗が、1.0×10〜1.0×1014Ω/□の範囲内である。
【0060】
本発明の半導電性樹脂組成物を、画像形成装置における帯電ベルトや転写ベルトなどの電荷制御部材として用いる場合、長期間に亘って高い電圧を印加・放電しても、電気抵抗が低下して、半導電性が失われないことが望ましい。
【0061】
具体的には、本発明の半導電性樹脂組成物であるシート状成形物を、直径75mmの金属ロールに巻き付けてチューブ状成形物とし、該チューブ状成形物に、直径10mmの導電ゴムロールを接触させ、該導電ゴムロールと金属ロール間に1kVの電位差(電圧)を与えて、該チューブ状成形物を巻き付けた金属ロールを20rpmで24時間回転させる。
【0062】
24時間後のチューブ状成形物の体積固有抵抗及び表面抵抗が、いずれも、上記の範囲から逸脱していなければ、実用上問題がないと評価できる。
【0063】
すなわち、上記のように1kVの電圧を24時間かけた後のチューブ状成形物の体積固有抵抗が、1.0×10〜1.0×1013Ωcmの範囲内、かつ、表面抵抗が、1.0×10〜1.0×1014Ω/□の範囲内であれば、画像形成装置における帯電ベルトや転写ベルトなどの電荷制御部材として用いる場合、長期間に亘って高い電圧を印加・放電しても、電気抵抗が低下して、半導電性が失われることが少ない。
【0064】
8.ジフェニルスルホンの含有量
本発明の半導電性樹脂組成物は、ジフェニルスルホンの含有量が400ppm以下である。ジフェニルスルホンの含有量が400ppmを超えるものであると、1kVの電圧を24時間かけた後のチューブ状成形物の表面抵抗が、1.0×10Ω/□を下回り、電気抵抗が低下するので、画像形成装置における帯電ベルトや転写ベルトなどの電荷制御部材として用いる場合、長期間に亘って高い電圧を印加・放電すると、電気抵抗が低下して、半導電性が失われてしまう。本発明の半導電性樹脂組成物におけるジフェニルスルホンの含有量は、好ましくは350ppm以下、より好ましくは300ppm以下、更に好ましくは250ppm以下、特に好ましくは220ppm以下であり、場合によっては200ppm以下、100ppm以下、または50ppm以下とすることができ、最も好ましくは30ppm以下である。
【0065】
ジフェニルスルホンの含有量は、P&T−GC(加熱脱着サンプラー−ガスクロマトグラム)を用いて、半導電性樹脂組成物であるシート状成形物を試料として、試料量約20mgで測定する。加熱脱着サンプラーは、日本分析工業株式会社製JHS−100を用い、GCは、株式会社日立製作所製G−3000を用いる。カラムは、HP−5を使用する。
【0066】
ジフェニルスルホンの含有量は、後に詳述するように、PEEKの溶剤洗浄工程、加熱浄化工程、不活性ガス圧入下でのペレット状樹脂組成物の製造工程、及び/または再ペレット化工程を行うことで低減することができる。
【0067】
9.グロス値
本発明の半導電性樹脂組成物は、グロス値が50〜80の範囲であることが好ましい。グロス値は、より好ましくは52〜75、更に好ましくは53〜73、特に好ましくは55〜70の範囲である。
【0068】
本発明の半導電性樹脂組成物のグロスは、半導電性樹脂組成物であるシート状成形物を試料として、JIS Z8741に準拠して測定したものであり、本発明の半導電性樹脂組成物における、PEEKと導電性フィラーとが均一に混練分散しており、かつ、PEEKが適度な結晶化度を有していることを表している。
【0069】
すなわち、PEEKと導電性フィラーとが均一に混練分散していない場合や、PEEKの結晶化度が高すぎる場合は、グロスが50未満に低下して外観が白濁するとともに、シートや電荷制御部材が脆くなる。他方、PEEKの結晶化度が低すぎる場合は、グロスが80を超えることがあるが、シートや電荷制御部材の強度が不足し、十分な耐熱性、耐薬品性、屈曲耐久性、表面平滑性が得られない。また、PEEKと導電性フィラーとの混練が過度になると、透明度が増してグロスが80を超える場合があるが、PEEKの粘度低下や脆弱化が発現するために好ましくない。
【0070】
なお、本発明の半導電性樹脂組成物であるシート状成形物から形成した帯電ベルトや転写ベルトなどの電荷制御部材においては、該電荷制御部材が歪むと、ベルト上に形成されるトナー画像の歪みや色ずれの原因になるため、充分に高い弾性率が必要である。したがって、本発明の半導電性樹脂組成物であるシート状成形物は、任意方向での引張弾性率が、1.8GPa以上であることが好ましく、より好ましくは1.8〜4.0GPa、更に好ましくは2.0〜3.0GPa、特に好ましくは2.2〜2.8GPaの範囲内であるようにする。引張弾性率は、JIS K 7113に従って、幅10mm及び長さ100mmの試験片を用いて、引張試験機により、引張速度50mm/分及びチャック間距離50mmの条件で測定することができる。任意方向とは、通常、シートの押出方向(MD)及び押出方向に対して直角方向(TD)である。
【0071】
また、ベルト状の電荷制御部材を形成するための本発明の半導電性樹脂組成物であるシート状成形物は、JIS K 6252に従って測定したMD方向の引裂強度(M)と、TD方向の引裂強度(T)との比(M/T)が、2/3〜3/2であることが好ましく、より好ましくは3/4〜4/3、特に好ましくは5/6〜6/5の範囲内である。MDまたはTD方向の引裂強度が極端に弱いと、ベルトの縦裂きが生じたり、弱い方向から破断し易くなったりする。したがって、ベルト状の電荷制御部材を形成するための本発明の半導電性樹脂組成物であるシート状成形物は、成形方向による引裂強度の異方性が実質的にない。
【0072】
ベルト状の電荷制御部材を形成するための本発明の半導電性樹脂組成物であるシート状成形物は、示差走査熱量計(DSC)による熱分析により150〜200℃の範囲内に吸熱ピークが検出され、かつ、吸熱ピークが10J/g以上の結晶化吸熱ΔH(結晶化エンタルピー)を示すものであることが好ましい。すなわち、本発明の半導電性樹脂組成物であるシート状成形物から形成したベルト状の電荷制御部材は、PEEKの結晶化度が低いことが望ましい。PEEKの結晶化度が高くなりすぎると、半導電性樹脂組成物であるシート状成形物から形成したベルト状の電荷制御部材が脆くなる傾向がある。ベルト状の電荷制御部材を形成するための本発明の半導電性樹脂組成物であるシート状成形物の結晶化度は、DSCによる熱分析で検知されるシートの結晶化吸熱により判定することができる。
【0073】
10.フィッシュアイ
本発明の半導電性樹脂組成物は、0.1mm以下のフィッシュアイが100個/600cm以下であることが好ましい。
【0074】
PEEKを含有する樹脂組成物においては、PEEKを製造する際に使用されるアルカリ金属塩などの無機金属塩が、樹脂との親和性に乏しく、凝集物を形成したり、PEEKの酸化物や熱分解物等の非溶融物が析出したり、または析出した非溶融物と導電性フィラーとが凝集したり、更には、凝集や析出が、ジフェニルスルホンにより促進されたりして、フィッシュアイ(微小不透明部)を発生することがある。0.1mm以下のフィッシュアイが100個/600cmを超えると、フィッシュアイによって、半導電性樹脂組成物の外観が損ねられ、また、電気抵抗の低下や強度の不足がもたらされることがある。更に、半導電性樹脂組成物であるシート状成形物から形成したベルト状の電荷制御部材においては、長期間に亘って高い電圧を印加・放電すると、電気抵抗が低下して、半導電性が失われることがあり好ましくない。
【0075】
フィッシュアイの個数は、半導電性樹脂組成物であるシート状成形物から得た試料(20cm×30cm=面積600cm)について、フィッシュアイの個数を国立印刷局製造のきょう雑物測定図表における0.1mm以下の大きさと対比して目視で観察することにより測定する。0.1mm以下のフィッシュアイは、好ましくは70個/600cm以下、より好ましくは50個/600cm以下、更に好ましくは30個/600cm以下、特に好ましくは20個/600cm以下、最も好ましくは10個/600cm以下であるとよい。0.1mm以下のフィッシュアイの個数の下限は、通常1個/600cm以上であるが、0個/600cmであってもよい。
【0076】
フィッシュアイの個数を減少させるためには、PEEK中のジフェニルスルホン含有量を所定量以下にまで低減するとともに、PEEKが熱分解や酸化劣化しない条件下で混練度を高めて、導電性フィラーや無機金属塩などの分散性を向上することが重要である。混練温度を上げたり、混練時間を長くしたりする場合、PEEKなどの樹脂の架橋や熱分解、または無機金属塩の熱分解が生じて、半導電性樹脂組成物であるシート状成形物の物性や外観が損なわれるおそれがある。特に、PEEKと導電性フィラーとを押出機内で溶融混合させるときは、せん断発熱によって樹脂温度が上昇し、410℃を超え、場合によっては430℃近くにも達することがあるので、樹脂組成物の劣化が著しく、優れた機械的特性、光学特性、及び電気特性を得ることができないおそれがある。
【0077】
そこで、本発明においては、PEEKと導電性フィラーとを十分均一に溶融混練させて押出成形するペレット製造工程において、押出機のベント孔から、更には所望により供給孔からも、不活性ガスを圧入しながら、押出成形を行う。本発明においては、加えて、ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程を行うか、または、ペレット製造工程に先だって、PEEKを、有機溶剤により、常温〜該溶剤の沸点の範囲の温度で、1〜72時間洗浄する、溶剤洗浄工程を行うか、更にまたは、ペレット製造工程に先だって、PEEKを、PEEKのガラス転移点以上融点未満の範囲の温度で、1〜72時間、加熱処理を行う加熱浄化工程を行うことにより、フィッシュアイを減少させることができる。
【0078】
11.半導電性樹脂組成物の製造方法
本発明の半導電性樹脂組成物は、任意の方法と設備を用いて調製し、製造することができるが、特に、有効な半導電性樹脂組成物の製造方法としては、例えば、以下の方法がある。
【0079】
第1に挙げられる方法は、(i)PEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程;(ii)ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程;及び(iii)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程;を含む半導電性樹脂組成物の製造方法である。
【0080】
第2に挙げられる方法は、(I)PEEKを、有機溶剤により、常温〜該溶剤の沸点の範囲の温度で、1〜72時間洗浄する、溶剤洗浄工程;(II)溶剤洗浄工程で得られたPEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程;及び(III)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程;を含む半導電性樹脂組成物の製造方法である。
【0081】
第3に挙げられる方法は、(A)PEEKを、PEEKのガラス転移点以上融点未満の範囲の温度で、1〜72時間、加熱処理を行う加熱浄化工程;(B)加熱浄化工程で得られたPEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程;及び(C)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程;を含む半導電性樹脂組成物の製造方法である。
【0082】
これらに共通するペレット製造工程においては、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入することに加えて、更に、押出機の供給孔からも不活性ガスを圧入すると、機械的特性、光学特性及び電気特性等において一層優れた半導電性樹脂組成物を得ることができる。
【0083】
また、本発明では、特に限定はされないが、PEEKを溶融する場合、樹脂中の異物などを溶融状態で濾過する操作を、同時にまたは追加して行うことが好ましい。
【0084】
〔ペレット製造工程〕
本発明の半導電性樹脂組成物の製造方法の特徴は、PEEK100重量部と導電性フィラー5〜25重量部とを含有し、更に所望により、その他の熱可塑性樹脂、充填剤及びその他の添加剤を含有する半導電性樹脂組成物の原料を、供給部、圧縮部及び計量部を備える押出機の供給部の供給孔から供給し、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、圧縮部、計量部及びダイに至る間の該樹脂組成物の原料の温度を280〜410℃の範囲内、好ましくは290〜410℃、より好ましくは295〜405℃の範囲内に制御しながら、押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程を備えることにある。ペレット製造工程においては、ベント孔から不活性ガスを圧入することに加えて、更に、押出機の供給孔から不活性ガスを圧入してもよい。
【0085】
押出機としては、バレルまたはシリンダー内に1本のスクリューを備える単軸式、2本以上のスクリューを組み合わせた多軸式のいずれの押出機も使用することができる。供給部の供給孔から供給されたPEEKと導電性フィラー、及び、所望により含有するその他の成分は、スクリューの回転によってダイに向けて前進しながら、バレルまたはシリンダー、スクリュー及び原料の間の摩擦によってせん断発熱し、溶融混合される。その際、バレルまたはシリンダー内の温度が410℃を超えると、PEEKや、所望により含有するその他の樹脂成分等が熱分解または熱劣化するので、バレル外部からの冷却や温度調整、スクリューの回転速度の調整等を行って、原料の温度を制御する。他方、バレルまたはシリンダー内の温度が280℃を下回ると、PEEKが安定した溶融状態とならないため、導電性フィラーの分散状態が不均一となり、機械的特性、光学特性及び電気特性に優れた半導電性樹脂組成物を得ることができない。
【0086】
押出機の先端部に配置される押出ダイには、通常、複数のノズル孔が設けられており、ノズル温度は、通常、350〜405℃、好ましくは370〜400℃、より好ましくは380〜400℃に制御されている。ノズル孔から押し出されたストランド状の溶融物は、水槽などの冷却層内に導入されて冷却されて固化物となった後、長さ1.5〜20mm、好ましくは2〜15mm、より好ましくは2.5〜12mmにカットされ、PEEK及び導電性フィラーを含有するペレット状樹脂組成物が得られる。
【0087】
ベント孔、及び、所望により更に供給孔から圧入する不活性ガスとしては、窒素、アルゴンやヘリウムなどを使用することができるが、窒素が好ましい。不活性ガスの圧入流量は、PEEKの押出量にもよるが、通常10〜100l/分、好ましくは12〜80l/分、より好ましくは15〜60l/分、特に好ましくは18〜50l/分とする。不活性ガスの圧入により生じる不活性ガスの強制的な流れによって、PEEKや導電性フィラー等は空気中の酸素と接触することがなく、また、押出機内で発生した揮発成分、空気等の気体成分や水分は押出機から排出される。この結果、残存しているPEEKの重合溶媒であるジフェニルスルホンの含有量が減少し、かつ、PEEKの熱分解や酸化による架橋物の発生が少なく、カーボンブラック等の導電性フィラーとの凝集物の発生も僅かなものとなる。したがって、機械的特性、光学特性及び電気特性に優れた半導電性樹脂組成物を得ることができる。なお、ベント孔を真空引きすることは、押出機内に発生した揮発成分、気体成分や水分が押出機から排出されるのに伴い、半導電性樹脂組成物内に気泡を発生させるおそれがあるので、好ましくない。
【0088】
〔再ペレット化工程〕
本発明の半導電性樹脂組成物の製造方法においては、前記のペレット製造工程に加えて、ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程を備えることにより、フィッシュアイの個数を減少することができる。
【0089】
再ペレット化工程に用いる押出機は、ペレット製造工程に用いた押出機と同じ押出機を使用してもよいが、ペレット製造工程において、既に、PEEKと導電性フィラーがかなりの程度まで均一に混合しているので、ペレット製造工程に用いた押出機と比較すると混練能力が小さな押出機を使用することができる。
【0090】
再ペレット化工程に用いる押出機の先端部に配置される押出ダイに設けられたノズル孔から、ペレット製造工程と同様の条件で押し出されたストランド状の溶融物が、固化された後、所定長さにカットされて、PEEK及び導電性フィラーを含有するペレット状樹脂組成物が得られる。再ペレット化工程は、好ましくは4〜18回、より好ましくは7〜17回、特に好ましくは9〜16回繰り返すことができる。再ペレット化工程を実施しないと、PEEKと導電性フィラーとが、十分均一に混合していない結果、樹脂組成物のグロス値が低かったり、フィッシュアイが多かったりすることがある。再ペレット化工程を20回を超えて繰り返すと、樹脂組成物が受ける熱履歴が増加する結果、熱分解生成物が発生したり、フィッシュアイが増加したりすることがある。なお、再ペレット化工程においては、PEEKが繰り返し溶融することから、ジフェニルスルホンの含有量も減少するが、先のベント孔、及び、所望により更に供給孔から不活性ガスを圧入するペレット製造工程を行わない場合は、ジフェニルスルホンの含有量を十分減少させることが困難である。
【0091】
再ペレット化工程においては、ベント孔または供給孔からの不活性ガスの圧入を行ってもよい。不活性ガスの圧入を行う場合は、特に、1〜20回再ペレット操作を行う再ペレット化工程の冒頭の数回について、不活性ガスの圧入を行うことが好ましい。
【0092】
〔溶剤洗浄工程〕
また、本発明の半導電性樹脂組成物の製造方法としては、該ペレット製造工程に先だって、PEEKを、有機溶剤により、常温〜該溶剤の沸点の範囲の温度で、1〜72時間洗浄する、溶剤洗浄工程を備える方法も、ジフェニルスルホンの含有量を減少させるのに有効であり、これにより機械的特性、光学特性及び電気特性に優れた半導電性樹脂組成物を得ることができる。溶剤洗浄工程及びペレット製造工程に続いて、前記の再ペレット化工程を行ってもよい。
【0093】
溶剤洗浄工程に使用することができる有機溶剤としては、PEEKを製造する際に使用されるジフェニルスルホンをPEEKから十分除去することができる有機溶剤が好ましく、更に、アルカリ金属塩などの無機金属塩を除去できる点で、親水性の有機溶剤が好ましい。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の脂肪族低級アルコール類;などが挙げられる。好ましくは、アセトンまたはエタノールが用いられる。
【0094】
溶剤洗浄工程を行う方法は、特に限定されないが、洗浄用の有機溶剤を入れた洗浄槽中に、粉末状のPEEKを入れて攪拌する方法、ソックスレー抽出器などを使用して有機溶剤を循環させながら粉末状のPEEKと接触させる方法などがあり、洗浄工程を複数回繰り返してもよい。比較的少量の有機溶剤を使用して1回で洗浄を行うことができることから、ソックスレー抽出器を使用する方法が好ましい。
【0095】
溶剤洗浄工程を行う時間は、ジフェニルスルホンをPEEKから十分除去することができる限り、特に限定されないが、通常1時間〜3日間(72時間)、好ましくは5時間〜2日間(48時間)、より好ましくは7〜30時間、有機溶剤とPEEKとを接触させることができる。溶剤洗浄工程を行う際の有機溶剤の温度は、該有機溶剤の種類や有機溶剤の沸点(以下、単に「沸点」ということがある。)、有機溶剤とPEEKとの接触方法と接触時間などにより異なるが、常温〜沸点の範囲の温度であり、好ましくは常温〜沸点−3℃、より好ましくは常温〜沸点−5℃とすることができる。有機溶剤とPEEKとを所定時間接触させた後、ジフェニルスルホン及び洗浄用の有機溶剤を完全に除去するために、常温〜沸点+50℃、好ましくは常温〜沸点+20℃、より好ましくは常温〜沸点の温度範囲で、通常3時間〜3日間、好ましくは5時間〜2日間、より好ましくは10〜30時間、常圧または減圧下で乾燥処理する。
【0096】
〔加熱浄化工程〕
また、本発明の半導電性樹脂組成物の製造方法としては、該ペレット製造工程に先だって、PEEKを、PEEKのガラス転移点以上融点未満の温度で、1〜72時間加熱する、加熱浄化工程を備える方法も、ジフェニルスルホンの含有量を減少させるのに有効であり、これにより機械的特性、光学特性及び電気特性に優れた半導電性樹脂組成物を得ることができる。加熱浄化工程及びペレット製造工程に続いて、前記の再ペレット化工程を行ってもよい。
【0097】
加熱浄化工程で処理するPEEKは、PEEKのペレット、微細形状のPEEK、粉末状のPEEKなどでよいが、粉末状のPEEKであることが好ましく、(a)重合後、重合溶媒や副生塩などを除去して得た粉末状のPEEK、(b)重合後に重合溶媒や副生塩などを除去する工程を経た後、粉砕して得た粉末状のPEEK、(c)単軸または多軸の押出機にて溶融し、冷却・切断して得たペレット状のPEEKを、粉砕して得た粉末状のPEEKなどが挙げられる。
【0098】
加熱浄化工程は、空気中または不活性ガス雰囲気下で行うことができるが、PEEKの酸化を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気を形成するために使用する不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられるが、窒素が好ましい。
【0099】
加熱温度としては、PEEKのガラス転移点以上融点未満の範囲であり、好ましくは150℃以上300℃以下、より好ましくは155℃以上250℃以下の範囲の温度とする。加熱温度が、ガラス転移温度未満であると、PEEKを所望の水準まで浄化するために長時間を要する。一方、加熱温度が、融点以上であると、PEEKが溶融し、PEEK同士が融着したり、降温する際に、加熱処理装置の壁面に付着したりするので好ましくない。
【0100】
加熱浄化工程を実施する装置や方法は、PEEKを、加熱処理することができれば、特に限定はされないが、空気流または不活性ガスのガス流がある下で加熱処理を行うと効率的であり、不活性ガスのガス流がある下で加熱処理を行うと最も効率的である。例えば、乾燥機中にPEEKを置き、外部から不活性ガスを注入しながら加熱処理を行う方法、または、ロータリーキルンの中に不活性ガスとPEEKを連続的に供給し加熱する方法が例示される。加熱浄化工程は、常圧〜減圧下で行うことができる。PEEKを真空乾燥機内に置いて、不活性ガスで乾燥機内の置換を行った後、高減圧状態を維持しながら、微量の不活性ガスを供給し続ける方法を行うことができる。
【0101】
加熱浄化工程を行う時間は、ジフェニルスルホンをPEEKから十分除去することができる限り、特に限定されないが、通常1時間〜3日間(72時間)、空気中または不活性ガス雰囲気下で、加熱処理を行う。好ましくは5時間〜2日間(48時間)、より好ましくは7〜30時間、PEEKを、不活性ガス雰囲気下で、加熱処理を行うことができる。
【0102】
〔成形工程〕
本発明の半導電性樹脂組成物の製造方法は、前記のペレット製造工程、または再ペレット化工程によって得られたペレット状樹脂組成物を半導電性樹脂組成物とすることができるが、更に、所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程によって得られた成形物品を半導電性樹脂組成物とすることもできる。
【0103】
すなわち、先に述べたように、本発明の半導電性樹脂組成物は、PEEK100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有し、かつ、ジフェニルスルホンの含有量が400ppm以下である組成を備える限り、その形状を問わない。
【0104】
特に、本発明の半導電性樹脂組成物の諸特性は、ペレット状の樹脂組成物を、ダイを備えた径40mmの単軸押出機を使用して製造した、厚み80μmのシート状成形物から試料を切り出して行うことが好ましい。
【0105】
12.成形物品
ここで成形物品とは、ペレット状樹脂組成物を成形して得られた成形物品全般を意味し、シート状成形物(厚みが薄いフィルム状成形物を含む。)、チューブ状成形物(シート状成形物またはフィルム状成形物を管状基材に巻き付けて得られたチューブ状成形物、及び、インフレーション成形によって環状ダイを用いて押出成形して得られたチューブ状成形物を含む。)、繊維状成形物(モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバー、トウ等を含む。)、布帛(織物、編物、不織布等を含む。)、圧縮成形物(ブロック状の成形品、シート状の成形品、異形の成形品、異種部材を一体成形した複合成形品等を含む。)、または射出成形物(異種部材を一体成形した複合成形品等を含む。)などがある。更に、成形物品としては、シート状成形物(厚みが薄いフィルム状成形物を含む。)やチューブ状成形物等を2次成形して得られた真空成形品、圧空成形品、ブロー成形品等を含むものである。
【実施例】
【0106】
以下に実施例を示して本発明を更に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0107】
1)ジフェニルスルホンの含有量
ジフェニルスルホンの含有量は、P&T−GC(加熱脱着サンプラー−ガスクロマトグラム)を用いて、試料量を約20mgとして測定した。
【0108】
加熱脱着サンプラーは、日本分析工業株式会社製JHS−100を用い、GCは、株式会社日立製作所製G−3000を用いた。カラムは、HP−5を使用した。
【0109】
具体的な分析条件は以下のとおりとした。
分析条件
<P&T装置>
加熱温度とパージ時間 330℃−15分
2次トラップパージ He 50ml/min
2次トラップ −40℃(ガラスウール吸着)
オーブン温度 200℃
2次吸着管加熱温度と時間 255℃−10秒
<GC装置>
カラム HP−5 30m×0.32mm i.d,df=0.25μm
温度 60℃(5min)−300℃(10min)、8℃/min上昇
キャリヤーガス He 1.85ml/min
スプリット比 1/22.6
注入口温度 310℃
検出器温度 310℃
【0110】
2)シート状成形物の厚み
シート状成形物の厚みは、ダイヤルゲージ(株式会社小野測器製DG−925)により測定した。
【0111】
3)体積固有抵抗及び表面抵抗
シート状成形物の体積固有抵抗及び表面抵抗は、三菱化学株式会社製ロレスターGP MCP−T610を使用して、JIS K7194に準拠して常温で測定した。プローブはURSを用い、印加電圧は直流500Vで、10秒値を用いた。
【0112】
4)グロス値
シート状成形物のグロス値は、JIS Z8741に準拠して、株式会社堀場製作所製ハンディ光沢計(グロスチェッカ)IG−320を用いて測定した。
【0113】
5)フィッシュアイ
フィッシュアイの個数は、半導電性樹脂組成物であるシート状成形物から切り出した試料(20cm×30cm=面積600cm)について、フィッシュアイの個数を国立印刷局製造のきょう雑物測定図表における0.1mm以下の大きさと対比して目視で観察することにより測定した。
【0114】
6)高電圧の印加方法
シート状成形物を直径75mmの金属製サンプルロールに巻き付け、直径10mmの導電ゴムロールと回転接触させながら、直流1kVの電圧を24時間かけた。
【0115】
[実施例1]
ビクトレックス社製のPEEK(商品名450G)を凍結粉砕し、平均粒径約800μmのPEEK粉末を得た。
【0116】
得られたPEEK粉末100重量部に対し、カーボンブラックとして、アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製の商品名デンカブラック。平均粒径35nm、かさ密度0.04g/cm)19重量部を配合し、直径3.5mmのノズル孔を7個備えるダイを装着した45mm径の二軸押出機へ供給し、シリンダー温度を、押出機の供給部、圧縮部及び計量部にかけて300℃から400℃に調整し、ノズル温度を385℃と設定して押出して、溶融ストランドを作成し、冷却固化させた後に、長さ約3mmに切断して、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得た。その際、押出機のベント孔及び供給孔に、窒素ガスを、それぞれが35l/分の流量になるように調整して圧入した。
【0117】
次に、再ペレット化操作として、得られたペレット状のPEEK樹脂組成物を、押出ダイに直径3mmのノズル孔を2個備えた、40mm径の単軸押出機に供給し、シリンダー温度を押出機の供給部、圧縮部及び計量部にかけて300℃から400℃の温度に調整し、ノズル温度を385℃と設定して押出して、溶融ストランドを作成し、冷却固化させた後に、長さ約3mmに切断して、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得た。この再ペレット化操作を15回繰り返し、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得た。
【0118】
次いで、再ペレット化操作によって得られたペレット状のPEEK樹脂組成物を、Tダイを備えた40mm径の単軸押出機に供給し、シリンダー温度を同様に300℃から400℃に調整し、ノズル温度を395℃と設定して押出して、厚み80μmのシート状成形物であるPEEK樹脂組成物を得た。
【0119】
得られたシート状成形物は、体積固有抵抗8.0×10Ωcm、表面抵抗2.0×1012Ω/□であった。シート状成形物のグロス値は、57であり、0.1mm以下のフィッシュアイは、3個/600cmであった。
【0120】
また、ジフェニルスルホンの含有量を測定したところ、190ppmであった。
【0121】
更に、得られたシートを、直径75mmの金属製サンプルロールに巻き付けてチューブ状に成形し、1kVの電圧を24時間印加した後に、表面抵抗を測定したところ、1.5×1012Ω/□であった。
【0122】
[実施例2]
実施例1で示した再ペレット化操作を10回繰り返したこと、及び、押出機のベント孔のみに、窒素ガスを圧入したことを除いて、実施例1と同様の操作を行い、厚み80μmのシート状成形物を得た。
【0123】
得られたシート状成形物は、体積固有抵抗3.0×1010Ωcm、表面抵抗2.0×1012Ω/□であった。シート状成形物のグロス値は、55であり、0.1mm以下のフィッシュアイは、3個/600cmであった。
【0124】
また、ジフェニルスルホンの含有量を測定したところ、210ppmであった。
【0125】
更に、得られたシートを実施例1と同様にチューブ状に成形し、1kVの電圧を24時間印加した後に、表面抵抗を測定したところ、1.0×1012Ω/□であった。
【0126】
[比較例1]
ペレット製造工程において、窒素ガスを流さないことを除いて、実施例1と同様にして、PEEK粉末100重量部とアセチレンブラック19重量部を、前記の45mm径の二軸押出機へ供給して、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得た。次いで、実施例1と同様に、再ペレット化操作を15回繰り返し、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得た。
【0127】
得られたペレット状のPEEK樹脂組成物を、前記のTダイを備えた40mm径の単軸押出機へ供給し、シリンダー温度を同様に300℃から400℃に調整し、ノズル温度を395℃に設定して押出して、厚み80μmのシート状成形物を得た。
【0128】
得られたシート状成形物は、体積固有抵抗7.0×10Ωcm、表面抵抗1.0×1012Ω/□であった。シート状成形物のグロス値は、52であり、0.1mm以下のフィッシュアイは、10個/600cmであった。
【0129】
また、ジフェニルスルホンの含有量を測定したところ、415ppmであった。
【0130】
更に、得られたシートを実施例1と同様にチューブ状に成形し、1kVの電圧を24時間印加した後に、表面抵抗を測定したところ、9.4×10Ω/□であった。
【0131】
[実施例3]
実施例1で用いたPEEK粉末を、ソックスレー抽出器を使用してアセトンによる洗浄を、48℃で一昼夜(24時間)行った。洗浄済みのPEEK粉末を取り出し、一昼夜(24時間)自然乾燥したのち、真空乾燥機にてアセトンを除去し、PEEK粉末を調製した。
【0132】
実施例1と同様に、得られたPEEK粉末100重量部に対し、アセチレンブラック19重量部を配合して、前記の直径3.5mmのノズル孔を7個持つダイを装着した45mm径の二軸押出機へ供給し、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得た。押出機のベント孔及び供給孔に、窒素ガスを、それぞれが35l/分の流量になるように調整して圧入した。
【0133】
得られたペレット状のPEEK樹脂組成物を、前記のTダイを備えた40mm径の単軸押出機へ供給し、シリンダー温度を同様に300℃から400℃に調整し、ノズル温度を395℃に設定して押出して、厚み80μmのシート状成形物を得た。
【0134】
得られたシート状成形物は、体積固有抵抗5.0×1010Ωcm、表面抵抗2.0×1012Ω/□であった。シート状成形物のグロス値は、60であり、0.1mm以下のフィッシュアイは、1個/600cmであった。
【0135】
また、ジフェニルスルホンの含有量を測定したところ、20ppmであった。
【0136】
更に、得られたシートを実施例1と同様にチューブ状に成形し、1kVの電圧を24時間印加した後に、表面抵抗を測定したところ、2.0×1012Ω/□であった。
【0137】
[比較例2]
ペレット製造工程において、窒素ガスを流さないことを除いて、実施例1と同様にして、PEEK粉末100重量部とアセチレンブラック19重量部を配合して、前記の45mm径の二軸押出機へ供給し、ペレット状のPEEK樹脂組成を得た。
【0138】
得られたペレット状組成物を、前記のTダイを備えた40mm径の単軸押出機へ供給し、シリンダー温度を300℃から400℃に調整し、ノズル温度395℃で押出して、厚み80μmのシート状成形物を得た。
【0139】
得られたシート状成形物は、体積固有抵抗6.0×10Ωcm、表面抵抗1.0×1012Ω/□であった。シート状成形物のグロス値は、45であり、0.1mm以下のフィッシュアイは、108個/600cmであった。
【0140】
また、ジフェニルスルホンの含有量を測定したところ、1200ppmであった。
【0141】
更に、得られたシートを実施例1と同様にチューブ状に成形し、1kVの電圧を24時間印加した後に、表面抵抗を測定したところ、5.0×10Ω/□であった。
【0142】
[実施例4]
洗浄溶媒をエタノールとし、温度を70℃としたことを除いて、実施例3と同様の操作を行い、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得、更に、厚み80μmのシート状成形物を得た。
【0143】
得られたシート状成形物は、体積固有抵抗5.1×1010Ωcm、表面抵抗2.0×1012Ω/□であった。シート状成形物のグロス値は、62であり、0.1mm以下のフィッシュアイは、1個/600cmであった。
【0144】
また、ジフェニルスルホンの含有量を測定したところ、28ppmであった。
【0145】
更に、得られたシートを実施例1と同様にチューブ状に成形し、1kVの電圧を24時間印加した後に、表面抵抗を測定したところ、2.0×1012Ω/□であった。
【0146】
[実施例5]
実施例1で用いたPEEK粉末を、真空乾燥機内に置き、高減圧下で微量の窒素ガスを流しながら200℃にて8時間加熱処理を行った。
【0147】
実施例1と同様に、得られたPEEK粉末100重量部に対し、アセチレンブラック19重量部を配合して、前記の45mm径の二軸押出機へ供給し、ペレット状のPEEK樹脂組成物を得た。その際、押出機のベント孔に、窒素ガスを、35l/分の流量になるように調整して圧入した。
【0148】
得られたペレット状のPEEK樹脂組成物を、前記のTダイを備えた40mm径の単軸押出機へ供給し、シリンダー温度を同様に300℃から400℃に調整し、ノズル温度を395℃に設定して押出して、厚み80μmのシート状成形物を得た。
【0149】
得られたシート状成形物は、体積固有抵抗8.0×10Ωcm、表面抵抗3.0×1012Ω/□であった。シート状成形物のグロス値は、60であり、0.1mm以下のフィッシュアイは、1個/600cmであった。
【0150】
また、ジフェニルスルホンの含有量を測定したところ、18ppmであった。
【0151】
更に、得られたシートを実施例1と同様にチューブ状に成形し、1kVの電圧を24時間印加した後に、表面抵抗を測定したところ、3.0×1012Ω/□であった。
【0152】
実施例及び比較例の結果から、ペレット製造工程において、押出機のベント孔から不活性ガス(具体例では窒素ガス)を圧入するとともに、溶剤洗浄工程、加熱浄化工程、または再ペレット化工程を組み合わせることによって、ジフェニルスルホン含有量を400ppm以下に減少させることができ、機械的特性、光学特性及び電気特性に優れた半導電性樹脂組成物を得ることができることが分かる。
【0153】
[実施例6]
実施例1で用いたアセチレンブラック19重量部を、オイルファーネスブラックであるケッチェンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社製の商品名ケッチェンブラックEC300J)8重量部に代えたことを除いて、実施例1と同様にして操作を行い、厚み80mmのシート状成形物であるPEEK樹脂組成物を得た。
【0154】
得られたシート状成形物は、体積固有抵抗3.0×10Ωcm、表面抵抗2.0×1012Ω/□であった。シート状成形物のグロス値は、58であり、0.1mm以下のフィッシュアイは、4個/600cmであった。
【0155】
また、ジフェニルスルホンの含有量を測定したところ、205ppmであった。
【0156】
更に、得られたシートを実施例1と同様にチューブ状に成形し、1kVの電圧を24時間印加した後に、表面抵抗を測定したところ、1.3×1012Ω/□であった。
【0157】
[実施例7]
実施例4で得られたペレット状のPEEK樹脂組成物を、直径0.5mm×6ホールの紡糸ノズルを備えた単軸押出機へ供給したところ、半導電性であるモノフィラメントを安定的に成形することができた。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明で提供される半導電性樹脂組成物は、優れた機械的特性、光学特性及び電気特性に加えて、安定した電気特性が発揮されるので、電子写真方式や静電記録方式の画像形成装置における帯電ベルトまたは転写ベルトなどの電荷制御部材としての用途に好適に利用可能である。また、帯電防止性が必要とされる部材の用途に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルエーテルケトン100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有し、かつ、ジフェニルスルホンの含有量が400ppm以下であることを特徴とする半導電性樹脂組成物。
【請求項2】
前記導電性フィラーが、カーボンブラックである請求項1に記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックが、アセチレンブラック及びオイルファーネスブラックからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項4】
体積固有抵抗が、1.0×10〜1.0×1013Ωcmであり、かつ、表面抵抗が、1.0×10〜1.0×1014Ω/□である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項5】
グロス値が50〜80である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項6】
0.1mm以下のフィッシュアイが100個/600cm以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項7】
成形物品である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項8】
前記成形物品が、シート状成形物、チューブ状成形物、繊維状成形物、布帛、圧縮成形物、または射出成形物である請求項7に記載の半導電性樹脂組成物。
【請求項9】
以下の工程(i)〜(iii)を含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
(i)ポリエーテルエーテルケトン100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程;
(ii)ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程;及び
(iii)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程。
【請求項10】
以下の工程(I)〜(III)を含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
(I)ポリエーテルエーテルケトンを、有機溶剤により、常温〜該溶剤の沸点の範囲の温度で、1〜72時間洗浄する、溶剤洗浄工程;
(II)溶剤洗浄工程で得られたポリエーテルエーテルケトン100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程;及び
(III)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程。
【請求項11】
前記(II)のペレット製造工程に続いて、以下の(II’)の工程を含む請求項10に記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
(II’)ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程。
【請求項12】
以下の工程(A)〜(C)を含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
(A)ポリエーテルエーテルケトンを、ポリエーテルエーテルケトンのガラス転移点以上融点未満の範囲の温度で、1〜72時間、加熱処理を行う加熱浄化工程;
(B)加熱浄化工程で得られたポリエーテルエーテルケトン100重量部と、導電性フィラー5〜25重量部とを含有する樹脂組成物を、押出機のベント孔から不活性ガスを圧入しながら、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造するペレット製造工程;及び
(C)所望により、ペレット状樹脂組成物を成形物品とする成形工程。
【請求項13】
前記(B)のペレット製造工程に続いて、以下の(B’)の工程を含む請求項12に記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
(B’)ペレット製造工程で得られたペレット状樹脂組成物を、280〜410℃の温度で押出成形してペレット状樹脂組成物を製造する再ペレット操作を、1〜20回行う再ペレット化工程。
【請求項14】
前記ペレット製造工程において、更に押出機の供給孔から不活性ガスを圧入する請求項9乃至13のいずれか1項に記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−97193(P2012−97193A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246086(P2010−246086)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】