説明

半導電性樹脂組成物及び電力ケーブル

【課題】耐熱性に優れ、高温でも絶縁層から容易にかつ良好に外部半導電層を剥離可能な電力ケーブル及びこのような外部半導電層となる半導電性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル共重合体80〜90質量%と、アクリロニトリルを15〜30質量%含有するニトリルブタジエンゴム10〜20質量%とを配合してなり、アクリロニトリル含有量が3質量%以上であるベース樹脂に対して、カーボンブラックを配合してなる半導電性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導電性樹脂組成物及び電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブルは導体の外側に内部半導電層を被覆し、その外側に絶縁層を被覆し、この絶縁層の外側に外部半導電層を被覆して構成されている。これら半導電層を構成する樹脂組成物のベース樹脂には、エチレン単独重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数3〜12)共重合体、エチレン−α,β−不飽和カルボン酸(あるいはそのエステル誘導体)共重合体、エチレンカルボン酸ビニルエステル共重合体等を単独で、あるいは2種以上混合したものが一般的に用いられる。
【0003】
2本の電力ケーブルを端末で接続する場合には、端末において、外部半導電層、絶縁層、内部半導電層を順に剥いで内部の導体を露出させる。次に、内部の導体を接続した後、露出している導体を絶縁体で被覆する。この端末処理作業を容易にかつ良好に行うため、絶縁層から外部半導体層を容易に剥ぎ取りやすくする必要がある。
【0004】
外部半導体層を絶縁層から容易にかつ良好に剥ぎ取りやすくするために、半導電層を構成する樹脂組成物のベース樹脂に種々の化合物を配合することが提案されている。例えば、塩素化ポリエチレン(特許文献1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体にスチレン系モノマーをグラフト処理して得られたスチレン変成エチレン−酢酸ビニル共重合体(特許文献2)、ニトリルブタジエンゴム(特許文献3)等が提案されている。また、水素添加したニトリルブタジエンゴムを配合することで耐熱性を上げる提案がなされている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−67109号公報
【特許文献2】特開平9−111089号公報
【特許文献3】特開昭56−67108号公報
【特許文献4】特開平4−79105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、屋外に敷設される電力ケーブルは直射日光を浴びて温度が上昇する。夏場では外部半導電層の表面で50℃に達することもある。端末処理作業を容易にかつ良好に行うためには、このような高温環境においても絶縁層から外部半導電層を容易にかつ良好に剥ぎ取りやすくする必要がある。
【0007】
塩素化ポリエチレンやスチレン変性エチレン−酢酸ビニル共重合体、水素添加したニトリルブタジエンゴムは高価であるという問題がある。
ニトリルブタジエンゴムには絶縁層から外部半導電層を剥離するのを容易にする効果が認められる。しかし、特許文献3にあるようにニトリルブタジエンゴムを多く配合した場合には耐熱性が低下する。また、アクリロニトリル含有量が高いニトリルブタジエンゴムを配合した樹脂組成物を外部半導電層に用いると、高温では逆に粘着性が増して絶縁層からの剥ぎ取りが容易ではなくなるという問題がある。
【0008】
本発明の課題は、耐熱性に優れ、高温でも絶縁層から容易にかつ良好に外部半導電層を剥離可能な電力ケーブル及びこのような外部半導電層となる半導電性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、半導電性樹脂組成物であって、エチレン−酢酸ビニル共重合体80〜90質量%と、アクリロニトリルを15〜30質量%含有するニトリルブタジエンゴム10〜20質量%とを配合してなり、アクリロニトリル含有量が3質量%以上であるベース樹脂に対して、カーボンブラックを配合してなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、電力ケーブルであって、請求項1に記載の半導電性樹脂組成物からなる半導電層を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱性に優れ、高温でも絶縁層から良好に外部半導電層を剥離可能な電力ケーブル及びこのような外部半導電層となる半導電性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る半導電樹脂組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体とニトリルブタジエンゴムとを混合したベース樹脂に、導電性を付与するカーボンブラックや、その他の配合物を適宜混合してなる。
【0013】
エチレン−酢酸ビニル共重合体には、酢酸ビニルモノマー含有量が10〜40質量%、好ましくは15〜25質量%のものを用いることが望ましい。酢酸ビニルモノマー含有量が10質量%未満であると外部半導電層が絶縁層と接着し剥ぎ取り性が低下する。一方、40質量%を超えて配合すると樹脂組成物の軟化温度が低下するため、機械特性が弱く絶縁層との粘着性が増し剥ぎ取り性が低下する。
【0014】
ニトリルブタジエンゴムは、ベース樹脂中に10〜20質量%、好ましくは10〜15質量%配合される。ベース樹脂中の配合量が10質量%未満では、相対的にエチレン−酢酸ビニル共重合体の量が多くなり、外部半導電層の機械特性が低下し、外部半導電層を剥ぎ取る際に破断しやすくなる。一方、20質量%を超えて配合した場合には、外部半導電層の耐熱性が低下し、高温の熱履歴後に外部半導電層を剥ぎ取る際に破断しやすくなる。
【0015】
ベース樹脂のアクリロニトリル含有量は3質量%以上とする。ベース樹脂中のアクリロニトリル含有量が3質量%未満では、高温において十分な剥離性が得られず、良好に剥ぎ取ることができない。
【0016】
このため前記ニトリルブタジエンゴムには、当該ゴムの質量に対してアクリロニトリル含有量が15質量%以上であるものを用いる。ニトリルブタジエンゴム中のアクリロニトリル含有量が15質量%未満であると、ベース樹脂中にニトリルブタジエンゴムを最大の20質量%含有させても、ベース樹脂のアクリロニトリル含有量が3質量%未満となるからである。
【0017】
一方、ニトリルブタジエンゴム中のアクリロニトリル含有量が30質量%を超えると、高温環境(50℃)において、外部半導電層を絶縁層から剥ぎ取る際に破断しやすくなる。
【0018】
カーボンブラックとしては、公知のカーボンブラックであればよく、特に制限はない。例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等を例示することができ、これらを1種あるいは2種以上混合して使用してもよい。
【0019】
カーボンブラックの配合量はベース樹脂100質量部に対して30〜100質量部、好ましくは40〜80質量部である。カーボンブラックの配合量が30質量部未満だと半導電層として必要な導電性を付与することができない。一方、カーボンブラックの配合量が100質量部を超えると押出特性や半導電層の機械的特性が不充分となる。
【0020】
その他の配合物として、半導電樹脂組成物には、架橋剤や、老化防止剤などその他の添加物を配合することができる。老化防止剤としては、一般に使用される老化防止剤を適宜選択して配合することができ、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系の老化防止剤を配合することが好ましい。また、4,4−チオビス(3−メチルー6−tert−ブチルフェノール)は、押出時の樹脂組成物の架橋反応抑制効果がある点で老化防止剤として配合することが好ましい。
【実施例1】
【0021】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(半導電樹脂組成物の製造)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、アクリロニトリル含有量が異なるニトリルブタジエンゴム(NBR1〜4)とからなるベース樹脂に、カーボンブラックやその他の配合物を混合して半導電性樹脂組成物とした。
【0022】
EVAには三井・デュポンポリケミカル株式会社製のエバフレックス150を用いた。
ニトリルブタジエンゴムは、アクリロニトリル含有量が15質量%のもの(NBR1)、28質量%のもの(NBR2)、33質量%のもの(NBR3)、12質量%のもの(NBR4)を用いた。
【0023】
カーボンブラックとして、ベース樹脂100質量部に対し、70質量部のアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業社製)を用いた。
その他の配合物には、老化防止剤として4,4−チオビス(3−メチルー6−tert−ブチルフェノール)(ノクラック300R、大内新興化学社製)をベース樹脂100質量部に対し1.5質量部、架橋剤としてトリゴノックスT(化薬アクゾ株式会社製)をベース樹脂100質量部に対し0.5質量部、ステアリン酸カルシウムをベース樹脂100質量部に対し2.0質量部用いた。
【0024】
実施例1〜4、比較例1〜4の半導電樹脂組成物のベース樹脂中のEVA及びNBR1〜4配合率(質量%)、ベース樹脂中のアクリロニトリル含有量(質量%)、ベース樹脂100質量部に対するカーボンブラックその他の配合物の配合量(質量部)を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の実施例1〜4、比較例1〜4の半導電樹脂組成物をバンバリーミキサー、ニーダー、押出機等の通常用いられる混合装置により混練し、造粒工程を経てコンパウンドとして供給した。
【0027】
(電力ケーブルの製造)
導体の外周に内部半導電層、内部半導電層の外側に絶縁層、絶縁層の外側に外部半導電層を3層同時に押出被覆した。引き続き、加熱架橋ゾーンに導いて圧力10kg/cm、温度260℃の窒素ガス中で加圧加熱を行い、架橋反応を完了させることにより電力ケーブルを製造した。導体の断面積は100mm、内部半導電層の厚さは1.0mm、絶縁層の厚さは3.0mm、外部半導電層の厚さは1.0mmとした。
【0028】
(半導電性樹脂組成物及び電力ケーブルの評価)
(1)剥離試験
製造した電力ケーブルの外部半導電層について剥離試験を行った。カッターナイフを用いて、各外部半導電層に長さ方向に切れ目を入れた。切れ目の幅は0.5インチ(約1.27cm)、深さは絶縁層に達しない程度(1.0mm以下)とした。試験は25℃の常温剥離試験と、50℃の高温剥離試験の両方を実施した。
(2)高温処理後の常温剥離試験
製造した電力ケーブルを145℃の恒温槽内に96時間保管した後、外部半導電層について常温剥離試験を行った。
(3)評価方法
外部半導電層を容易に剥離できたものは○、剥離が困難で絶縁層表面に外部半導電層の一部が残留したものや、剥離の途中で外部半導電層が破断したものは×とした。評価結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例1〜4では、ベース樹脂の組成を、エチレン−酢酸ビニル共重合体80〜90質量%、ニトリルブタジエンゴム10〜20質量%とし、ニトリルブタジエンゴム中のアクリロニトリル含有量を15〜30質量%とした。また、ベース樹脂中のアクリロニトリル含有量が3質量%以上である。このような実施例1〜4のものは、常温剥離試験、高温剥離試験、高温処理後の常温剥離試験のいずれにおいても、外部半導電層を容易にかつ良好に剥離することができた。
【0031】
これに対し、比較例1では、アクリロニトリル含有量が15〜30質量%の範囲にあるニトリルブタジエンゴムを配合したが、配合量が20質量%を超えていた。このため、高温処理後の常温剥離試験において、外部半導電層が劣化して硬くなり、外部半導電層が絶縁層から剥離される前に破断した。
【0032】
比較例2では、ニトリルブタジエンゴムの配合量は10〜20質量%の範囲内であったが、ベース樹脂中のアクリロニトリル含有量が3質量%未満であった。このため、高温剥離試験において、絶縁層の表面に外部半導電層の一部が残留した。
【0033】
比較例3では、アクリロニトリル含有量が15〜30質量%の範囲にあるニトリルブタジエンゴムを配合したが、ニトリルブタジエンゴムの配合量が10質量%未満であった。このため、高温剥離試験において、外部半導電層が絶縁層から剥離される前に破断した。
【0034】
比較例4では、ニトリルブタジエンゴムの配合量は10〜20質量%の範囲内であったが、配合するニトリルブタジエンゴム中のアクリロニトリル含有量が30質量%を超えていた。このため、高温剥離試験において、絶縁層の表面に外部半導電層の一部が残留した。
【0035】
比較例5では、アクリロニトリル含有量が15質量%未満のニトリルブタジエンゴムを用いて、ベース樹脂中のアクリロニトリル含有量を3質量%以上とするために、20質量%を超えるニトリルブタジエンゴムを配合した。そのため、外部半導電層の耐熱性が劣り、高温処理後の常温剥離試験において、外部半導電層が劣化して固くなり、絶縁層から剥離する前に破断した。
【0036】
以上示したように、ベース樹脂の組成を、エチレン−酢酸ビニル共重合体80〜90質量%、アクリロニトリルを15〜30質量%含有するニトリルブタジエンゴム10〜20質量%とし、ベース樹脂中のアクリロニトリル含有量を3質量%以上とすることで、耐熱性に優れ、高温でも容易にかつ良好に剥離可能な外部半導電層とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体80〜90質量%と、アクリロニトリルを15〜30質量%含有するニトリルブタジエンゴム10〜20質量%とを配合してなり、アクリロニトリル含有量が3質量%以上であるベース樹脂に対して、カーボンブラックを配合してなることを特徴とする半導電性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の半導電性樹脂組成物からなる半導電層を備えることを特徴とする電力ケーブル。

【公開番号】特開2011−18503(P2011−18503A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161426(P2009−161426)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】